JP2004154987A - 液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】下電極60が圧力発生室12の長手方向端部近傍でパターニングされて、各圧力発生室12に対向する領域に圧電素子300の実質的に駆動部である圧電体能動部320が形成されると共に圧電素子の個別電極である上電極80から端子部120まで引き出される引き出し配線110を有し、圧電体能動部320を覆うことなく設けられた絶縁膜130によって各引き出し配線110の一部を連続的に覆い、且つ圧電素子300の共通電極である下電極60から端子部120まで延設されるバイパス配線140の少なくとも一部が絶縁膜130上に形成する。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、被噴射液を吐出する液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置に関し、特に、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室に供給されたインクを圧電素子によって加圧することにより、ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド及びその製造方法並びにインクジェット式記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
そして、たわみ振動モードのアクチュエータを使用したものとしては、例えば、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが知られている。
【0004】
また、たわみ振動モードのアクチュエータに使用される圧電素子は、例えば、共通電極である下電極と、下電極上に形成されたPZT膜(圧電体層)と、PZT膜上に形成された個別電極である上電極とで構成される。さらに、上電極上には層間絶縁膜が形成されて下電極と上電極との絶縁が図られ、この層間絶縁膜に開口されたコンタクトホールを介して上電極に電気的に接続される配線が設けられた構造となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】
特開平10−211701号公報(第9−10頁、第13−20図)
【特許文献2】
特開2002−11877号公報(第4−5頁、第1−9図)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来のインクジェット式記録ヘッドでは、下電極が複数の圧電素子に共通して設けられているため、多数の圧電素子を同時に駆動して多数のインク滴を一度に吐出させると、電圧降下が発生して圧電素子の変位量が不安定となり、インク吐出特性が低下するという問題がある。また、薄膜で形成された圧電素子の電極はその膜厚が薄いため抵抗値が比較的高く、このような問題が特に生じやすい。また、このような問題は、下電極の厚さを厚くすることによって解決することはできるが、下電極は、実質的に振動板の一部を構成するため、圧電素子の駆動による振動板の変位量が低下してしまうという問題がある。また、共通電極の面積を広げることによってもこのような問題を解決することはできるが、ヘッドが大型化してしまうという問題がある。
【0007】
さらに、このような問題を解決するために、複数の下部電極膜(下電極)をいくつかのグループに分類して各グループに対応して各コモン端子を設けることで、電圧降下を抑えてアクチュエータ(圧電素子)の特性の均一化を図ったものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
このような構造では、確かに電圧降下の発生を抑えることはできるが、端子数が大幅に増加して配線構造が複雑になるため、製造工程が煩雑化してしまうという問題や、圧電素子を高密度に配列した場合には採用するのが難しいという問題がある。
【0009】
なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドの製造方法だけではなく、勿論、インク以外を吐出する他の液体噴射ヘッドの製造方法においても、同様に存在する。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑み、インク吐出特性を良好に保持できると共に安定したインク吐出特性を得ることができ、且つ圧電素子を高密度に配列することができる液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置を提供することを課題とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側の領域に振動板を介して設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドにおいて、前記下電極が前記圧力発生室の長手方向端部近傍でパターニングされて、各圧力発生室に対向する領域に前記圧電素子の実質的に駆動部である圧電体能動部が形成されると共に前記圧電素子の個別電極である前記上電極から端子部まで引き出される引き出し配線を有し、前記圧電体能動部を覆うことなく設けられた絶縁膜によって各引き出し配線の一部が連続的に覆われ、且つ前記圧電素子の共通電極である前記下電極から前記端子部まで延設されるバイパス配線の少なくとも一部が前記絶縁膜上に延設されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0012】
かかる第1の態様では、バイパス配線によって下電極の抵抗値が実質的に低下するため、圧電素子を駆動する際の電圧降下が防止され、インク吐出特性が常に良好に保持される。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記引き出し配線は、一端が前記上電極に接続されるリード電極と、該リード電極と前記端子部との間を連結する連結配線とで構成され、前記絶縁膜が前記連結配線上に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0014】
かかる第2の態様では、絶縁膜が引き出し配線を構成する連結配線上に設けられているため、引き出し配線やバイパス配線等の製造が容易となる。
【0015】
本発明の第3の態様は、第2の態様において、前記連結配線が、前記下電極と同一の膜からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0016】
かかる第3の態様では、下電極と連結配線とを同一工程で形成することができ、製造工程が簡略化される。
【0017】
本発明の第4の態様は、第2又は3の態様において、前記バイパス配線が、前記リード電極と同一の膜からなることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0018】
かかる第4の態様では、バイパス配線とリード電極とを同一工程で形成することができ、製造工程が簡略化される。
【0019】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様において、前記流路形成基板の前記圧電素子側に当該圧電素子を封止する空間である圧電素子保持部を有する封止基板が接合され、前記絶縁膜の少なくとも一部が、前記圧電素子と共に前記圧電素子保持部内に密封されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0020】
かかる第5の態様では、絶縁膜が圧電素子保持部内に封止されているため、絶縁膜として吸湿性を有する材料を用いることで、圧電素子保持部内を常に乾燥状態に保持することができ、水分に起因する圧電素子の破壊が防止される。
【0021】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様において、前記絶縁膜が有機材料で形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0022】
かかる第6の態様では、絶縁膜を比較的容易に形成することができる。また、絶縁膜が圧電素子保持部内に密封されている場合には、この絶縁膜によって圧電素子保持部内の水分が吸収され、圧電素子の水分に起因する破壊が防止される。
【0023】
本発明の第7の態様は、第6の態様において、前記有機材料が、ポリイミドであることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0024】
かかる第7の態様では、所定の材料を用いることで、絶縁膜をより容易に形成することができる。また、絶縁膜が圧電素子保持部内に密封されている場合には、この絶縁膜によって圧電素子保持部内の水分が確実に吸収され、圧電素子の水分に起因する破壊が防止される。
【0025】
本発明の第8の態様は、第1〜7の何れかの態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
【0026】
かかる第8の態様では、吐出特性を向上し信頼性を高めた液体噴射装置を実現することができる。
【0027】
本発明の第9の態様は、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側の領域に振動板を介して設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法において、下電極形成膜を成膜及びパターニングして前記圧力発生室に対応する領域に前記下電極を形成すると共に、前記上電極から引き出される引き出し配線の一部を構成する連結配線を前記圧力発生室の長手方向外側に圧力発生室毎に独立して形成する工程と、圧電体形成膜及び上電極形成膜を成膜及びパターニングして前記下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子を形成する工程と、前記圧電素子の実質的な駆動部である圧電体能動部を覆うことなく前記連結配線上の両端部近傍を除く領域を連続的に覆うように絶縁膜を形成する工程と、前記上電極と前記連結配線とを接続すると共に前記連結配線と端子部とを接続するリード電極と、少なくとも一部が前記絶縁膜上に延設されて前記下電極と前記端子部とを接続するバイパス配線とを同一膜で形成する工程とを有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0028】
かかる第9の態様では、製造工程を煩雑化することなく各層を形成することができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、図1の概略平面図及びそのA−A’断面図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その両面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの弾性膜50、及び後述する圧力発生室を形成する際にマスクとして用いられるマスク膜55が設けられている。この流路形成基板10には、その他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が幅方向に並設され、その長手方向外側には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成され、この連通部13は各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
【0030】
ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板のエッチングレートの違いを利用して行われる。例えば、本実施形態では、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)面と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われる。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。ここで、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。また各圧力発生室12の一端に連通する各インク供給路14の断面積は、圧力発生室12のそれより小さく形成されており、圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0031】
このような流路形成基板10の厚さは、圧力発生室12を配列密度に合わせて最適な厚さを選択すればよく、圧力発生室12の配列密度が、例えば、1インチ当たり180個(180dpi)程度であれば、流路形成基板10の厚さは、220μm程度であればよいが、例えば、200dpi以上と比較的高密度に配列する場合には、流路形成基板10の厚さは100μm以下と比較的薄くするのが好ましい。これは、隣接する圧力発生室12間の隔壁11の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
【0032】
また、流路形成基板10の開口面側のマスク膜55上には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.1〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10−6/℃]であるガラスセラミックス、又は不錆鋼などからなる。ノズルプレート20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、シリコン単結晶基板を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。また、ノズルプレート20は、流路形成基板10と熱膨張係数が略同一の材料で形成するようにしてもよい。この場合には、流路形成基板10とノズルプレート20との熱による変形が略同一となるため、熱硬化性の接着剤等を用いて容易に接合することができる。ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口21の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口21は数十μmの直径で精度よく形成する必要がある。
【0033】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約0.5〜5μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。なお、上述した例では、弾性膜50及び下電極膜60が振動板として作用する。
【0034】
ここで、圧電素子300の共通電極である下電極膜60は、本実施形態では、パターニングにより圧力発生室12の長手方向両端部外側の領域は除去され、圧力発生室12に対応する領域のみに形成されている。すなわち、下電極膜60は、圧力発生室12の長さよりも狭い幅で、圧力発生室12の並設方向に沿って延設されている。
【0035】
一方、圧電素子300の個別電極である各上電極膜80には、下電極膜60に対向する領域、すなわち圧電体能動部320に対向する領域から流路形成基板10の端部近傍に設けられる端子部120まで引き出される引き出し配線110が接続されている。なお、端子部120とは、駆動IC等に繋がる駆動配線(図示なし)が接続される部分であり、本実施形態では、引き出し配線110の端部近傍が端子部120となっている。具体的には、引き出し配線110は、上電極膜80から圧力発生室12の外側まで延設される第1のリード電極111と、端子部120を構成する第2のリード電極112と、これら第1のリード電極111と第2のリード電極112(端子部120)とを連結する連結配線113とで形成されている。ここで、連結配線113は、下電極膜60と同一の膜、例えば、白金(Pt)からなり、第1及び第2のリード電極111,112は、比較的導電性の高い材料、例えば、金(Au)からなる。なお、本実施形態では、圧電素子300の引き出し配線110とは反対側の端部には、第1及び第2のリード電極111、112と同一の膜からなる保護膜114を設け、圧電素子300の駆動による端部近傍の破壊を防止している。勿論、この保護膜114は設けなくてもよい。
【0036】
また、引き出し配線110の一部は絶縁膜130によって覆われ、絶縁膜130上には、下電極膜60と端子部120とを接続するバイパス配線140が設けられている。絶縁膜130は、引き出し配線110の一部を覆って設けられるが、圧電体能動部320に対向する領域は覆うことなく形成される。本実施形態では、各引き出し配線110の連結配線113、詳細には、連結配線113の両端部近傍の第1及び第2のリード電極が接続される領域を除く部分が絶縁膜130によって連続的に覆われている。この絶縁膜130は、詳しくは後述するが、有機材料で形成することが好ましく、本実施形態では、絶縁膜130は、ポリイミドで形成されている。
【0037】
また、バイパス配線140は、絶縁膜130上に絶縁膜130の幅よりも若干狭い幅で形成され、その端部近傍が端子部120となっている。さらに、バイパス配線140は、引き出し配線110に沿って隔壁11に対向する領域まで延設される接続部141を有し、この接続部141で下電極膜60と接続されている。この接続部141は、少なくとも1カ所に設けられていればよいが、複数箇所に設けられていることが好ましく、例えば、本実施形態では、3本の圧電素子300毎に接続部141を設けるようにした(図1参照)。なお、接続部141の間隔は、特に限定されず、例えば、各圧電素子300の間にそれぞれ接続部141を設けるようにしてもよい。また、このようなバイパス配線140は、下電極膜60よりも導電性の高い材料で形成することが好ましく、本実施形態では、第1及び第2のリード電極111,112と同一の膜で形成されている。
【0038】
このように、圧電素子300の個別電極である上電極膜80から引き出される引き出し配線110上に絶縁膜130を介して圧電素子300の共通電極である下電極60に接続されるバイパス配線140を設けることにより、振動板の変位特性を低下させることなく、下電極膜60の抵抗値を実質的に低下させることができる。したがって、多数の圧電素子を同時に駆動しても電圧降下が発生することがなく、常に良好で且つ安定したインク吐出特性を得ることができる。また、特に、バイパス配線140を下電極膜60の材料よりも導電性の高い材料を用いることにより、下電極膜60の抵抗値を比較的容易に低下させることができ、且つヘッドの小型化を図ることもできる。
【0039】
また、流路形成基板10上には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、その空間を密封可能な圧電素子保持部31を有する封止基板30が接合され、圧電素子300はこの圧電素子保持部31内に封止されている。また、本実施形態では、引き出し配線110の接続配線113上に設けられた絶縁膜130もこの圧電素子保持部31内に封止されている。そして、この絶縁膜130は、有機材料、本実施形態では、ポリイミドによって形成されている。このため、絶縁膜130が圧電素子保持部31内の水分(湿気)を吸収し、圧電素子保持部31内は常に乾燥状態に保持されるため、圧電素子300の水分に起因する破壊を防止することができる。さらに、このような絶縁膜130は、圧電体能動部320を覆うことなく形成されるため、絶縁膜130が水分を吸収したとしてもそれによって圧電体能動部320が破壊されることもない。
【0040】
また、封止基板30には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、封止基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、弾性膜50に設けられた連通孔を介して流路形成基板10の連通部13と連通され、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。このような封止基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0041】
さらに、このような封止基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0042】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動ICからの駆動信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に駆動電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0043】
図3及び図4は圧力発生室12の長手方向の断面図であり、以下、これら図3及び図4を参照して、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。まず、図3(a)に示すように、流路形成基板10となるシリコン単結晶基板のウェハを約1100℃の拡散炉で熱酸化して弾性膜50及びマスク膜55を構成する二酸化シリコン膜51を全面に形成する。次いで、図3(b)に示すように、例えば、白金等からなる下電極膜60となる下電極形成膜65を弾性膜50となる二酸化シリコン膜51上に形成後、下電極形成膜65をパターニングすることにより、圧力発生室12に対応する領域に下電極膜60を形成すると共に、各圧力発生室12の長手方向外側に引き出し配線110を構成する連結配線113を形成する。このように、下電極膜60と同一膜(下電極形成膜65)で連結配線113を形成すれば、製造工程を煩雑化することなく連結配線113を容易に形成することができる。
次いで、図3(c)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体形成膜75と、例えば、アルミニウム、金、ニッケル、白金等の多くの金属、あるいは導電性酸化物等からなる上電極形成膜85とを順次積層し、これらを同時にパターニングして下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80からなる圧電素子300を形成する。
【0044】
次に、図3(d)に示すように、例えば、ポリイミド等の有機材料からなる絶縁膜形成層135を流路形成基板10の全面に形成後、パターニングすることにより、連結配線113に対応する領域に絶縁膜130を形成する。次いで、図4(a)に示すように、引き出し配線110を構成する第1及び第2のリード電極111,112、保護膜114、バイパス配線140を同時に形成する。すなわち、例えば、金(Au)等からなる金属膜115を流路形成基板10の全面に亘って形成すると共に、この金属膜115をパターニングすることにより、各圧電素子300毎に第1及び第2のリード電極111,112を形成すると共に、絶縁膜130に対向する領域に延設されるバイパス配線140を形成する。さらに、圧電素子300の第1のリード電極111とは反対側の端部に保護膜114を形成する。このように、第1及び第2のリード電極111,112と同一膜(金属膜115)でバイパス配線140を形成することにより、製造工程を煩雑化することなくバイパス配線140を容易に形成することができる。
【0045】
以上が膜形成プロセスである。このようにして膜形成を行った後、前述したアルカリ溶液によるシリコン単結晶基板(流路形成基板10)の異方性エッチングを行い、圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14を形成する。具体的には、まず、図4(b)に示すように、流路形成基板10の圧電素子300側に、予め圧電素子保持部31、リザーバ部32等が形成された封止基板30を接合する。次に、図4(c)に示すように、流路形成基板10の封止基板30との接合面とは反対側の面に形成されている二酸化シリコン膜51を所定形状にパターニングしてマスク膜55とし、このマスク膜55を介して、前述したアルカリ溶液による異方性エッチングを行うことにより、流路形成基板10に圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14等を形成する。なお、このように異方性エッチングを行う際には、封止基板30の表面を封止した状態で行う。
【0046】
また、その後は、流路形成基板10の封止基板30とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、封止基板30にコンプライアンス基板40を接合して各チップサイズに分割することにより、図1に示すような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0047】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、バイパス配線140を第1及び第2のリード電極111,112と同一の膜で形成するようにしたが、勿論、バイパス配線140は、第1及び第2のリード電極111,112とは、別途形成するようにしてもよい。なお、バイパス配線140は、何れにしても下電極膜60よりも導電性の高い材料を用いることが望ましい。これにより、バイパス配線140の膜厚をあまり厚くすることなく下電極膜60の抵抗値を実質的に低下させることができる。また、バイパス配線140を第1及び第2のリード電極111,112とは別途形成する場合、上電極膜80から端子部120まで連続的する引き出し配線を形成後、絶縁膜130及びバイパス配線140を設けるようにしてもよい。さらに、上述の実施形態では、連結配線113を下電極膜60と同一の材料で形成するようにしたが、連結配線113は、下電極膜60とは別途設けるようにしてもよい。
【0048】
なお、このようなインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図5は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図5に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上に搬送されるようになっている。
【0049】
また、液体噴射ヘッドとしてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置を一例として説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】一実施形態に係る記録装置の概略図である。
【符号の説明】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 封止基板、 31 圧電素子保持部、 32 リザーバ部、 40 コンプライアンス基板、50 弾性膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 100 リザーバ、110 引き出し配線、 111 第1のリード電極、 112 第2のリード電極、 113 連結配線、 120 端子部、 130 絶縁膜、 140 バイパス配線、 141 接続部、 300 圧電素子
Claims (9)
- 液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側の領域に振動板を介して設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドにおいて、
前記下電極が前記圧力発生室の長手方向端部近傍でパターニングされて、各圧力発生室に対向する領域に前記圧電素子の実質的に駆動部である圧電体能動部が形成されると共に前記圧電素子の個別電極である前記上電極から端子部まで引き出される引き出し配線を有し、前記圧電体能動部を覆うことなく設けられた絶縁膜によって各引き出し配線の一部が連続的に覆われ、且つ前記圧電素子の共通電極である前記下電極から前記端子部まで延設されるバイパス配線の少なくとも一部が前記絶縁膜上に延設されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。 - 請求項1において、前記引き出し配線は、一端が前記上電極に接続されるリード電極と、該リード電極と前記端子部との間を連結する連結配線とで構成され、前記絶縁膜が前記連結配線上に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項2において、前記連結配線が、前記下電極と同一の膜からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項2又は3において、前記バイパス配線が、前記リード電極と同一の膜からなることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項1〜4の何れかにおいて、前記流路形成基板の前記圧電素子側に当該圧電素子を封止する空間である圧電素子保持部を有する封止基板が接合され、前記絶縁膜の少なくとも一部が、前記圧電素子と共に前記圧電素子保持部内に密封されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項1〜5の何れかにおいて、前記絶縁膜が有機材料で形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項6において、前記有機材料が、ポリイミドであることを特徴とする液体噴射ヘッド。
- 請求項1〜7の何れかの液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
- 液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側の領域に振動板を介して設けられた下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法において、
下電極形成膜を成膜及びパターニングして前記圧力発生室に対応する領域に前記下電極を形成すると共に、前記上電極から引き出される引き出し配線の一部を構成する連結配線を前記圧力発生室の長手方向外側に圧力発生室毎に独立して形成する工程と、圧電体形成膜及び上電極形成膜を成膜及びパターニングして前記下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子を形成する工程と、前記圧電素子の実質的な駆動部である圧電体能動部を覆うことなく前記連結配線上の両端部近傍を除く領域を連続的に覆うように絶縁膜を形成する工程と、前記上電極と前記連結配線とを接続すると共に前記連結配線と端子部とを接続するリード電極と、少なくとも一部が前記絶縁膜上に延設されて前記下電極と前記端子部とを接続するバイパス配線とを同一膜で形成する工程とを有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
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