JP2004202849A - 液体噴射ヘッドの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられる下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法において、圧力発生室を形成する工程後に、実使用時よりも高電圧且つ高周波数の駆動信号を圧電素子に所定パルス数印加し、圧電体層に実使用時よりも高い電界強度を発生させて圧電素子を駆動するエージング工程を設けることにより、実使用時の圧電素子及び振動板の変位量の変動を抑える。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体を吐出する液体噴射ヘッドの製造方法に関し、特に、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室に供給されたインクを圧電素子によって加圧することにより、ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0004】
これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0005】
一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開平5−286131号公報(第3図、[0013])
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このようなインクジェット式記録ヘッドでは、圧電素子及び振動板の変位量が変動し、インク吐出量、インク吐出速度等のインク吐出特性が安定しないという問題がある。特に、初期段階では、圧電素子及び振動板の変位量が、著しく低下してしまうという問題がある。なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけでなく、勿論、インク以外の液体を噴射する他の液体噴射ヘッドにおいても、同様に存在する。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、圧電素子及び振動板の変位量の変動が抑えられ安定したインク吐出特性が得られる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられる下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法において、前記圧力発生室を形成する工程後に、実使用時よりも高電圧且つ高周波数の駆動信号を前記圧電素子に所定パルス数印加し、前記圧電体層に実使用時よりも高い電界強度を発生させて当該圧電素子を駆動するエージング工程を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの駆動方法にある。
【0010】
かかる第1の態様では、エージング工程により、振動板の応力が解放されると共に圧電体層が分極される。これにより、実使用時に圧電素子及び振動板の変位量の変動が小さく抑えられ、常に安定した吐出特性が得られる。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記エージング工程が、前記圧電素子の良否を判定・選別するスクリーニング工程の一部を兼ねていることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0012】
かかる第2の態様では、不良部分が存在する圧電素子には、エージング工程を実行することにより破壊が生じるため、エージング工程と共にスクリーニング工程を行うことにより、ヘッドを完全に組み立てる前に圧電素子の良否を判定・選別できる。したがって、製造効率が向上すると共に歩留まりが著しく向上する。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記圧電体層に発生する電界強度が300kV/cm以上であることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0014】
かかる第3の態様では、圧電体層が比較的短時間で確実に分極される。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記駆動信号の周波数が、50kHz以上であることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0016】
かかる第4の態様では、圧電体層が比較的短時間で分極されると共に、振動板の内部応力も比較的短時間で解放される。
【0017】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様において、前記駆動信号の波形が、単一周波数の波形であることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0018】
かかる第5の態様では、圧電素子を比較的短時間で所定パルス数だけ駆動することができる。また、比較的単純な駆動回路で圧電素子を容易に駆動させることができる。
【0019】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様において、前記駆動信号の電圧が、常に同一符号であることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0020】
かかる第6の態様では、圧電体層が分極反転することがないため、圧電体層の分極状態が確実に維持される。
【0021】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様において、前記駆動信号のパルス数が、0.1億パルス以上であることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0022】
かかる第7の態様では、振動板の応力が確実に解放され且つ圧電体層も確実に分極される。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、図1の概略平面図及びそのA−A’断面図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その両面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの弾性膜50及び保護膜55が設けられている。この流路形成基板10には、その他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が幅方向に並設され、その長手方向外側には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成され、この連通部13は各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
【0024】
ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板のエッチングレートの違いを利用して行われる。例えば、本実施形態では、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)面と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われる。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0025】
本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。ここで、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。また各圧力発生室12の一端に連通する各インク供給路14の断面積は、圧力発生室12のそれより小さく形成されており、圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
【0026】
このような流路形成基板10の厚さは、圧力発生室12の配列密度に合わせて最適な厚さを選択すればよく、圧力発生室12の配列密度が、例えば、1インチ当たり180個(180dpi)程度であれば、流路形成基板10の厚さは、220μm程度であればよいが、例えば、200dpi以上と比較的高密度に配列する場合には、流路形成基板10の厚さは100μm以下と比較的薄くするのが好ましい。これは、隣接する圧力発生室12間の隔壁11の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
【0027】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.1〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックス、又は不錆鋼などからなる。ノズルプレート20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、シリコン単結晶基板を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。また、ノズルプレート20は、流路形成基板10と熱膨張係数が略同一の材料で形成するようにしてもよい。この場合には、流路形成基板10とノズルプレート20との熱による変形が略同一となるため、熱硬化性の接着剤等を用いて容易に接合することができる。ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口21の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口21は数十μmの直径で精度よく形成する必要がある。
【0028】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約0.5〜5μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、圧力発生室12毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。なお、上述した例では、弾性膜50及び下電極膜60が振動板として作用する。また、圧電素子300の個別電極である各上電極膜80には、例えば、金(Au)等からなり一端がインク供給路14に対向する領域まで延設されるリード電極90が接続されている。
【0029】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、その空間を密封可能な圧電素子保持部31が設けられた封止基板30が接合され、圧電素子300はこの圧電素子保持部31内に封止されている。また、この封止基板30には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部32が、各圧力発生室12の列毎に設けられている。これらのリザーバ部32は、本実施形態では、封止基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、弾性膜50に設けられた貫通部を介して流路形成基板10の連通部13と連通され、各圧力発生室12の列毎の共通のインク室となるリザーバ100をそれぞれ構成している。また、封止基板30の圧電素子保持部31とリザーバ部32との間の領域には、封止基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90は、その端部近傍が貫通孔33内で露出されている。このような封止基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0030】
なお、封止基板30のリザーバ部32に対応する領域には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0031】
以上説明した本実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、図示しないインク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動ICからの駆動信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に駆動電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70を変位させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0032】
図3及び図4は圧力発生室12の長手方向の断面図であり、以下、これら図3及び図4を参照して、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。まず、図3(a)に示すように、流路形成基板10となるシリコン単結晶基板のウェハを約1100℃の拡散炉で熱酸化し、各面に弾性膜50及び保護膜55を形成する。次に、図3(b)に示すように、例えば、白金等からなる下電極膜60を弾性膜50の全面に形成後、所定形状にパターニングする。次に、図3(c)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、アルミニウム、金、ニッケル、白金等の多くの金属、あるいは導電性酸化物等からなる上電極膜80とを順次積層し、これらを同時にパターニングして圧電素子300を形成する。次いで、図3(d)に示すように、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を流路形成基板10の全面に亘って形成すると共に、各圧電素子300毎にパターニングする。以上が膜形成プロセスである。
【0033】
次に、図4(a)に示すように予め圧電素子保持部31、リザーバ部32等が形成された封止基板30を流路形成基板10上に接着剤によって接着する。次いで、前述したアルカリ溶液によるシリコン単結晶基板(流路形成基板10)の異方性エッチングを行い、圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14を形成する。具体的には、図4(b)に示すように、流路形成基板10の封止基板30との接合面とは反対側の面に形成されている保護膜55を所定形状にパターニングし、この保護膜55を介して流路形成基板10を異方性エッチングすることにより、圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14を形成する。なお、このように異方性エッチングを行う際には、封止基板30の表面を封止した状態で行う。
【0034】
このように圧力発生室12を形成後、本発明では、実使用時よりも高電圧且つ高周波数の駆動信号を圧電素子300に所定パルス数印加し、圧電体層70に実使用時よりも高い電界強度を発生させて圧電素子300を駆動するエージング工程を実行するようにした。これにより、実使用時の圧電素子300及び振動板の変位量の変動が著しく小さく抑えられ、常に安定したインク吐出特性を得ることができる。詳しくは、エージング工程を実行することにより、圧電素子300を構成する圧電体層70が分極されると共に、且つ振動板の内部応力、特に、振動板を構成する下電極膜60の内部応力が緩和されることにより、実使用時の圧電素子300及び振動板の変位量の変動が著しく小さく抑えられる。
【0035】
ここで、エージング工程で圧電体層70に発生させる電界強度は、実使用時よりも高い電界強度であれば、特に限定されないが、300kV/cm以上であることが好ましい。比較的短時間で圧電体層70を分極することができるからである。例えば、本実施形態では、圧電素子300に印加する駆動信号の最高電圧を50Vに設定することにより、圧電体層70に455kV/cmの電界強度を発生させている。また、駆動信号の周波数も実使用時よりも高い周波数であれば特に限定されないが、50kHz〜200kHz程度であることが好ましい。周波数が低すぎるとエージング工程に時間がかかりすぎ、高すぎると圧電素子300が破壊される虞があるからである。
【0036】
また、駆動信号の波形は、例えば、sin波、矩形波等の周波数が単一の波形であることが好ましい。このような単純波形であれば、比較的短時間で圧電素子300を所定回数駆動させることができ、エージング時間を短縮できるからである。また、圧電素子300の負担及び圧電素子300を駆動する駆動回路の負担も抑えられる。さらに、駆動信号のパルス数は、圧電素子300に発生させる電界強度、駆動信号の周波数等によって適宜決定する必要があるが、少なくとも0.1億パルス以上であることが好ましい。これにより、振動板の内部応力が確実に緩和され、且つ圧電体層70も確実に分極される。
【0037】
そして、このような条件の駆動信号を圧電素子300に印加してエージング工程を実行することにより、圧電体層70が確実に分極されると共に振動板の内部応力が確実に緩和されるため、実使用時の圧電素子300及び振動板の変位量の変動が著しく小さく抑えられる。また、圧電素子300に大きな負荷を与えることなく、且つ比較的短時間でエージング工程を実行することができる。
【0038】
ここで、エージング工程を実行したインクジェット式記録ヘッド及びエージング工程を実行していないインクジェット式記録ヘッドとで、圧電素子300の駆動回数とインク吐出量(Iw)との変動について調べた結果を図5のグラフに示す。また、駆動回数とインク吐出量(Iw)の変動比との関係を図6のグラフに示す。これら図5及び図6に示すように、エージング工程を実行していないインクジェット式記録ヘッドでは、インク吐出量の初期値は7.9ng程度と比較的高いが、10億回程度のインク吐出で7.4ng程度まで急激に減少した。また、インク吐出量の変動比でみると、10億回程度で7%程度も変動(減少)し、最大では9%程度も変動した。これに対し、エージング工程を実行した本発明に係るインクジェット式記録ヘッドでは、インク吐出量の初期値は7.5ng程度とエージング工程を実行していないものよりも若干少ないが、10億回程度のインク吐出を実行しても7.45ng程度のインク吐出量が得られた。そして、インク吐出量の変動比でみても、80億回程度のインク吐出を実行して最大で4%程度の変動であった。なお、エージング工程を実行することによるインク吐出量の初期値の低下は、実使用においては全く問題ない程度である。
【0039】
この結果からも明らかなように、エージング工程を実行することにより、圧電素子300及び振動板の変位量の変動を著しく小さく抑えられる。そして、本発明の製造方法によれば、常に安定したインク吐出特性が得られるインクジェット式記録ヘッドを実現することができる。
【0040】
なお、エージング工程を実行した後は、流路形成基板10の封止基板30とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、封止基板30上にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板10、封止基板30等の各基板をチップサイズに分割することにより、図1に示すような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0041】
また、本実施形態では、圧電素子300を駆動して変位量の変動を抑えるためにエージング工程を実行するようにしたが、このエージング工程は、圧電素子の良否を判定・選別するスクリーニング工程の一部を兼ねるようにしてもよい。すなわち、エージング工程を実行後、例えば、圧電体層70の静電容量を測定することにより、圧電素子300の良否を判定・選別するようにしてもよい。
【0042】
ここで、圧電素子300は、製造過程で異物が付着すると、電圧を印加することにより容易に破壊されてしまう。また、上述したように、圧電素子300は封止基板30の圧電素子保持部31によって密封されて大気中の水分等に起因する破壊が防止されているが、流路形成基板10と封止基板30との接着が不完全であると、製造過程で圧電素子保持部31内に水分が侵入してしまい、異物の場合と同様に圧電素子は容易に破壊されてしまう。したがって、上記のような不良が発生している場合には、エージング工程を実行することによっても圧電素子300は破壊されてしまう。
【0043】
このため、エージング工程を含むスクリーニング工程を、圧力発生室12を形成後ヘッドを完全に組み立てる前、例えば、本実施形態では、流路形成基板10とノズルプレート20とを接合する前に実行するようにしてもよい。このようなスクリーニング工程を実行することにより、ヘッドを完全に組み立てる前に圧電素子300の良否を判定・選別し、良品のみをヘッドとして組み立てることができるため、歩留まりが著しく向上すると共に、無駄な部品の使用を防止してコストを大幅に削減することができる。
【0044】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、成膜及びリソグラフィプロセスを応用して製造される薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のインクジェット式記録ヘッドにも本発明を採用することができる。
【0045】
なお、上述の実施形態では、液体噴射ヘッドの製造方法の一例として、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態1に係るヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係るヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係るヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図4】実施形態1に係るヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】駆動回数とインク吐出量との関係を示すグラフである。
【図6】駆動回数とインク吐出量の変動比の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 封止基板、 31 圧電素子保持部、 32 リザーバ部、 40 コンプライアンス基板、50 弾性膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 100 リザーバ、 300 圧電素子
Claims (7)
- 液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられる下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記圧力発生室を形成する工程後に、実使用時よりも高電圧且つ高周波数の駆動信号を前記圧電素子に所定パルス数印加し、前記圧電体層に実使用時よりも高い電界強度を発生させて当該圧電素子を駆動するエージング工程を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの駆動方法。 - 請求項1において、前記エージング工程が、前記圧電素子の良否を判定・選別するスクリーニング工程の一部を兼ねていることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項1又は2において、前記圧電体層に発生する電界強度が300kV/cm以上であることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項1〜3の何れかにおいて、前記駆動信号の周波数が、50kHz以上であることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項1〜4の何れかにおいて、前記駆動信号の波形が、単一周波数の波形であることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項1〜5の何れかにおいて、前記駆動信号の電圧が、常に同一符号であることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項1〜6の何れかにおいて、前記駆動信号のパルス数が、0.1億パルス以上であることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
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