JP4258605B2 - 液体噴射ヘッド及び液体噴射装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、被噴射液を吐出する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関し、特に、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室に供給されたインクを圧電素子によって加圧することにより、ノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0004】
一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
これによれば圧電素子を振動板に貼付ける作業が不要となって、リソグラフィ法という精密で、かつ簡便な手法で圧電素子を高密度に作り付けることができるばかりでなく、圧電素子の厚みを薄くできて高速駆動が可能になるという利点がある。
【0006】
【特許文献1】
特開平5−286131号公報(第3欄、第1図)
【特許文献2】
特開2002−11877号公報(第4−5頁、第1−9図)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このように圧電素子を高密度に配列したインクジェット式記録ヘッドでは、各圧電素子の一方の電極(共通電極)が複数の圧電素子に共通して設けられているため、多数の圧電素子を同時に駆動して多数のインク滴を一度に吐出させると、電圧降下が発生して圧電素子の変位量が不安定となり、インク吐出特性が低下するという問題がある。また、外部配線が接続される端子部から遠い位置に設けられた圧電素子ほど印加される電圧が低くなり易い。このため、一列に並設された圧電素子であっても接続部からの距離によって液滴の吐出特性にばらつきが生じてしまうという問題がある。
【0008】
このような問題は、圧電素子の共通電極の厚さを厚くすることによって解決することはできるが、一般的に共通電極は振動板の一部を構成しているため、圧電素子の駆動による振動板の変位量が低下してしまうという問題が発生してしまう。また、共通電極の面積を広げることによってもこのような問題を解決することはできるが、ヘッドが大型化してしまうという問題がある。また、薄膜で形成された圧電素子の電極はその膜厚が薄いため抵抗値が比較的高く、このような問題が特に生じやすい。
【0009】
また、このような問題を解決するために、複数の下部電極膜(下電極)をいくつかのグループに分類して各グループに対応して各コモン端子を設けることで、電圧降下を抑えてアクチュエータ(圧電素子)の特性の均一化を図ったものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
このような構造では、電圧降下の発生を抑えることはできるが、端子数が大幅に増加して配線構造が複雑になるため、製造工程が煩雑化してしまうという問題や、圧電素子を高密度に配列した場合には採用するのが難しいという問題がある。なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドの製造方法だけではなく、勿論、インク以外を吐出する他の液体噴射ヘッドの製造方法においても、同様に存在する。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑み、液滴の吐出特性を良好に保持できると共に安定した吐出特性を得ることができ、且つ圧電素子を高密度に配列することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドにおいて、
複数の並設された圧電素子に共通する共通電極の並設方向両端部以外から前記圧力発生室に対向する領域の外側まで引き出される複数の共通リード電極と、ボンディングワイヤからなり複数の前記共通リード電極同士を接続する接続配線とを含む抵抗低減部とを有し、且つ前記流路形成基板の前記圧電素子側に接合され当該圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板をさらに有すると共に該封止基板の一部に前記共通リード電極の表面が露出される露出部を有し、前記接続配線が前記露出部に設けられ、前記封止基板上に導電材料からなる補助配線層を有すると共に、該補助配線層が前記圧力発生室の列の外側に対応する領域の共通電極及び前記共通リード電極と前記露出部を介して延設された前記接続配線によって電気的に接続されて前記抵抗低減部の一部を構成するようにして、前記圧電素子に電圧を印加した際の前記共通電極の抵抗を低減することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0013】
かかる第1の態様では、抵抗低減部によって圧電素子に電圧を印加した際の共通電極の抵抗値が実質的に低下するため、複数の圧電素子を同時に駆動する際に電圧降下が発生するのを防止できる。したがって、液滴の吐出特性が安定し且つ液滴の吐出特性にばらつきが生じることはない。また、ボンディングワイヤからなる接続配線で各共通リード電極を接続することによりヘッドが大型化することもなく、また圧電素子を比較的容易に高密度に配列することができる。また、補助配線層を設けることにより、共通電極の抵抗値がさらに低下するため、複数の圧電素子を駆動した際の電圧降下をより確実に防止できる。
【0018】
本発明の第2の態様は、前記接続配線が前記共通リード電極の並設方向とは略直交する方向に延設されていることを特徴とする第1の態様の液体噴射ヘッドにある。
【0019】
かかる第2の態様では、比較的狭い領域で各共通リード電極を確実に接続でき、ヘッドを確実に小型化できる。
【0028】
本発明の第3の態様は、前記共通リード電極が前記共通電極と同一の層からなることを特徴とする第1又は2の態様の液体噴射ヘッドにある。
【0029】
かかる第3の態様では、共通電極を形成する際に共通リード電極を同時に形成でき、製造工程が簡略化される。
【0030】
本発明の第4の態様は、前記共通リード電極が前記圧電素子の個別電極から引き出される個別リード電極と同一の層からなることを特徴とする第1〜3の何れかの態様の液体噴射ヘッドにある。
【0031】
かかる第4の態様では、共通電極の抵抗値をより効果的に低下させることができる。また、個別リード電極を形成する際に共通リード電極を同時に形成できるため、製造工程が簡略化される。
【0032】
本発明の第5の態様は、前記共通リード電極が、前記圧電素子の個別電極から引き出される個別リード電極の延設方向と同一方向に延設されていることを特徴とする第1〜4の何れかの態様の液体噴射ヘッドにある。
【0033】
かかる第5の態様では、ヘッドを大型化することなく複数の共通リード電極を容易に延設することができる。
【0034】
本発明の第6の態様は、前記共通リード電極が、前記圧電素子の個別電極から引き出される個別リード電極の延設方向とは反対方向に延設されていることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の液体噴射ヘッドにある。
【0035】
かかる第6の態様では、共通リード電極及び接続配線を形成するための比較的広いスペースを確保することができ、これら共通リード電極及び接続配線を比較的容易に形成できる。
【0036】
本発明の第7の態様は、前記共通リード電極が、略一定の間隔で少なくとも3本以上設けられていることを特徴とする第1〜6の何れかの態様の液体噴射ヘッドにある。
【0037】
かかる第7の態様では、多数の圧電素子を同時に駆動して電圧降下が生じた場合でも、各圧電素子に印加される電圧のばらつきが抑えられる。
【0038】
本発明の第8の態様は、前記流路形成基板に複数の隔壁によって形成される前記圧力発生室の列が2列設けられ、前記共通リード電極が前記圧力発生室の列間に対応する領域に延設されていることを特徴とする第1〜7の何れかの態様の液体噴射ヘッドにある。
【0039】
かかる第8の態様では、2列の各圧力発生室に対応する領域の共通電極から効率的に共通リード電極を延設することができるため、ヘッドをより確実に小型化することができる。
【0040】
本発明の第9の態様は、前記圧力発生室がシリコン単結晶基板に異方性エッチングにより形成され、前記圧電素子の各層が成膜及びリソグラフィ法により形成されたものであることを特徴とする第1〜8の何れかの態様の液体噴射ヘッドにある。
【0041】
かかる第9の態様では、高密度のノズル開口を有する液体噴射ヘッドを大量且つ比較的容易に製造することができる。
【0042】
本発明の第10の態様は、第1〜9の何れかの態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
【0043】
かかる第10の態様では、液滴の吐出特性を安定させ、信頼性を向上した液体噴射装置を実現できる。
【0044】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及び断面図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなる。この流路形成基板10の一方の面は開口面となり、他方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの弾性膜50が形成されている。一方、流路形成基板10の開口面には、シリコン単結晶基板を異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11により区画された圧力発生室12が幅方向に2列並設され、その長手方向外側には、後述する封止基板30に設けられるリザーバ部33に連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成され、各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
【0045】
ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板のエッチングレートの違いを利用して行われる。例えば、本実施形態では、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)面と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われる。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0046】
本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。ここで、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。また各圧力発生室12の一端に連通する各インク供給路14は、圧力発生室12より浅く形成されており、圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。すなわち、インク供給路14は、シリコン単結晶基板を厚さ方向に途中までエッチング(ハーフエッチング)することにより形成されている。なお、ハーフエッチングは、エッチング時間の調整により行われる。
【0047】
なお、このような圧力発生室12等が形成される流路形成基板10の厚さは、圧力発生室12を配設する密度に合わせて最適な厚さを選択することが好ましい。例えば、1インチ当たり180個(180dpi)程度に圧力発生室12を配置する場合には、流路形成基板10の厚さは、180〜280μm程度、より望ましくは、220μm程度とするのが好適である。また、例えば、360dpi程度と比較的高密度に圧力発生室12を配置する場合には、流路形成基板10の厚さは、100μm以下とするのが好ましい。これは、隣接する圧力発生室12間の隔壁の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
【0048】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.1〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックス、又は不錆鋼などからなる。ノズルプレート20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、シリコン単結晶基板を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。また、ノズルプレート20は、流路形成基板10と熱膨張係数が略同一の材料で形成するようにしてもよい。この場合には、流路形成基板10とノズルプレート20との熱による変形が略同一となるため、熱硬化性の接着剤等を用いて容易に接合することができる。ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口21の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口21は数十μmの直径で精度よく形成する必要がある。
【0049】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。
【0050】
ここで、圧電素子300の個別電極である上電極膜80には、圧電素子300の長手方向端部近傍から圧力発生室12の外側の領域まで引き出される個別リード電極90がそれぞれ接続されている。この個別リード電極90は、例えば、金(Au)等からなり、本実施形態では、圧電素子300の長手方向端部近傍から圧力発生室12の列間に対応する領域まで延設されている。また、圧電素子300の共通電極である下電極膜60は、本実施形態では、圧力発生室12の長手方向両端部近傍に対向する領域でそれぞれパターニングされ且つ圧力発生室12の並設方向に沿って圧力発生室12の列の外側の領域まで延設されている。そして、各圧力発生室12の列に対応する領域の下電極膜60は、圧力発生室12の列の外側の領域で連続している。
【0051】
また、各圧力発生室12の列に対向する領域の下電極膜60には、圧力発生室12の並設方向端部を除く部分から圧力発生室12の外側の領域まで引き出される複数の共通リード電極91が接続されている。本実施形態では、これらの共通リード電極91は、圧力発生室12の列間に対応する領域に延設され、且つ各圧力発生室12の列に対向する領域の下電極膜60間に亘って連続的に設けられている。なお、この共通リード電極91は、勿論、各圧力発生室12の列に対応する領域の下電極膜60毎に独立して設けられていてもよい。
【0052】
これらの共通リード電極91は、少なくとも1本以上設けられていればよいが、一定の間隔、例えば、n本の個別リード電極90に対して1本の割合で、少なくとも3本以上設けられていることが好ましい。また、共通リード電極91は、少なくとも下電極膜60よりも抵抗値の低い材料を用いることが好ましく、下電極膜60と同一の材料で形成するようにしてもよいが、本実施形態では、個別リード電極90と同一の層で形成している。
【0053】
また、このような共通リード電極91は、ボンディングワイヤからなる接続配線110によって圧力発生室12の列の外側に対応する領域の下電極膜60と電気的に接続されている。本実施形態では、この接続配線110は、後述する封止基板30に設けられた貫通部32内に設けられ、且つ共通リード電極91の延設方向とは略直交する方向に延設されている。そして、少なくとも何れか1本の共通リード電極91と下電極膜60とがこの接続配線110によって電気的に接続されると共に隣接する各共通リード電極91同士が接続配線110によって電気的に接続されることにより、各共通リード電極91と下電極膜60とが電気的に接続されている。勿論、接続配線110は、各共通リード電極91と下電極膜60との間にそれぞれ設けられていてもよい。なお、圧力発生室12の列の外側に対応する領域の下電極膜60上には、少なくとも下電極膜60よりも抵抗値の低い材料、本実施形態では、個別リード電極90と同一の層からなる積層電極層92がさらに設けられている。
【0054】
このように本実施形態では、共通リード電極91を一定の間隔で複数本設けると共に各共通リード電極91をボンディングワイヤからなる接続配線110によって電気的に接続するようにしたので、常に安定したインク吐出特性が得られる。すなわち、共通リード91と接続配線110とからなる抵抗低減部を設け、圧電素子300に電圧を印加した際の下電極膜60の抵抗値を実質的に低下させるようにしたので、多数の圧電素子300を同時に駆動しても、電圧降下が発生するのを防止でき、安定したインク吐出特性が得られる。特に、本実施形態では、下電極膜60上に積層電極層92を設けるようにしたので、下電極膜60の抵抗値をより確実に低下させることができる。
【0055】
また、各共通リード電極91のそれぞれを電気的に接続するようにしたので、電圧降下が生じた場合でも、各圧電素子300に印加される電圧のばらつきが抑えられる。したがって、各圧電素子300の変位量のばらつきが抑えられ、各ノズル開口21から吐出されるインクの吐出特性が均一化される。さらに、各共通リード電極91をボンディングワイヤからなる接続配線110によって電気的に接続するようにしたので、比較的狭い領域であっても各共通リード電極91を確実に接続することができる。したがって、ヘッドを大型化することなく、また圧電素子300を高密度に配列することができ、且つ良好なインク吐出特性を得ることができる。
【0056】
なお、流路形成基板10の圧電素子300側には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態でその空間を密封する圧電素子保持部31を有する封止基板30が接合されている。この圧電素子保持部31は、本実施形態では、各圧電素子300に対向する領域、すなわち、各圧力発生室12の列に対向する領域のそれぞれに設けられた圧電素子300の列をそれぞれ封止している。また、圧電素子保持部31の間、すなわち、封止基板の中央部に対応する領域には、この封止基板30を厚さ方向に貫通する貫通部32が設けられている。そして、下電極膜60から引き出された共通リード電極91の一部がこの貫通部32内に露出され、各共通リード電極91はこの貫通部32内に延設された接続配線110を介して電気的に接続されている。
【0057】
上述したように、本実施形態では、ボンディングワイヤからなる接続配線110によって各共通リード電極91を電気的に接続するようにしているため、封止基板30の貫通部32の開口面積を比較的小さくしても接続配線110を容易に形成することができる。なお、上電極膜80から引き出された各個別リード電極90の端部近傍も、共通リード電極91と同様にこの貫通部32内に露出されており、図示しないが、この貫通部32を介して延設される駆動配線を介して圧電素子300を駆動するための駆動IC等に接続される。
【0058】
また、この封止基板30には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部33が設けられている。リザーバ部33は、本実施形態では、封止基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、弾性膜50を貫通して設けられた貫通孔51を介して流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。この封止基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0059】
また、封止基板30には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部33の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。また、このリザーバ100の長手方向略中央部外側のコンプライアンス基板40上には、リザーバ100にインクを供給するためのインク導入口44が形成されている。さらに、封止基板30には、インク導入口44とリザーバ100の側壁とを連通するインク導入路34が設けられている。
【0060】
なお、このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、図示しない外部インク供給手段からインク導入口44及びインク導入路34を介してインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動回路からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0061】
(実施形態2)
図3は、実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの平面図である。
本実施形態は、封止基板30上に補助配線層120を設け、この補助配線層120を介して各共通リード電極91を電気的に接続するようにした例である。すなわち、本実施形態は、共通リード電極91、接続配線110A及び補助配線層120からなる抵抗低減部を設けた例であり、図3に示すように、封止基板30上の各圧力発生室12の列に対応する領域には、導電材料からなる補助配線層120がそれぞれ設けられている。また、これらの補助配線層120と各共通リード電極91とがボンディングワイヤからなる接続配線110Aによって電気的に接続されている以外、実施形態1と同様である。
【0062】
このような構成では、接続配線110A及び補助配線層120を介して各共通リード電極91が電気的に接続され、実施形態1と同様に下電極膜60の抵抗値が実質的に低下する。特に、本実施形態では、補助配線層120によって下電極膜60の抵抗値がさらに小さく抑えられる。したがって、電圧降下の発生をより確実に防止することができ、常に良好なインク吐出特性を得ることができる。
【0063】
(実施形態3)
図4は、実施形態3に係るインクジェット式記録ヘッドの配線構造を示す図である。本実施形態は、共通リード電極91Aを個別リード電極90の延設方向とは反対方向に延設するようにした例であり、図4に示すように、本実施形態では、共通リード電極91Aが下電極膜60の圧電素子300の個別リード電極90とは反対の端部側から弾性膜50上まで延設されている。また、封止基板30の圧電素子保持部31とリザーバ部33との間には、第2の貫通部35が設けられ、共通リード電極91Aの端部近傍が露出されている。そして、ボンディングワイヤからなる接続配線110Bが、第2の貫通部35内で共通リード電極91Aの延設方向とは略直交する方向に延設され、この接続配線110Bによって各共通リード電極91Aと圧力発生室12の列の外側の領域の下電極膜60とがそれぞれ電気的に接続されている以外は、実施形態1と同様である。このような構成としても、勿論、下電極膜60の抵抗値を実質的に低下させることができ、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
【0064】
(実施形態4)
図5は、実施形態4に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図6は、その平面図であり、図7は、図6のB−B’断面図及びC−C’断面図である。本実施形態では、封止基板30上に圧電素子300を駆動するための駆動ICを実装し、この駆動IC上に設けた導通部と接続配線とで抵抗低減部を構成するようにした例である。詳細には、図5〜図7に示すように、封止基板30の貫通部32の両側には、圧電素子300を列毎に駆動する2つの駆動IC130がそれぞれ固定され、各駆動IC130の端子131と、個別リード電極90の貫通部32内に露出した端部近傍とが、例えば、ボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる駆動配線140によって電気的に接続されている。さらに、各駆動IC130の上面には、金属等の導電材料からなる導電層150が圧電素子300の並設方向に亘って設けられている。そして、この導電層150と共通リード電極91の貫通部32内に露出した部分とが、ボンディングワイヤからなる接続配線110Cによって電気的に接続され、各共通リード電極91と接続配線110Cと導電層150とで抵抗低減部が構成されている以外、実施形態1と同様である。
【0065】
このように、共通電極である下電極膜60から所定の間隔で複数本の共通リード電極91を延設し、複数本の共通リード電極91を駆動IC130の上面に設けられた導電層150を介して電気的に導通することで、下電極膜60の抵抗値を実質的に低下させることができる。したがって、多数の圧電素子300を同時に駆動した際に、電圧降下の発生を防止することができる。特に、並設された圧電素子300の両端部側の圧電素子300と、中央部の圧電素子300とで電圧のばらつきが抑えられ、常に安定したインク吐出特性が得られる。さらに、共通リード電極91同士を流路形成基板10上ではなく、空きスペースである駆動IC130上の導電層150で導通させるため、流路形成基板10の面積を大きくすることなく、ヘッドの小型化を図ることができる。
【0066】
(実施形態5)
図8は、実施形態5に係るインクジェット式記録ヘッドの平面図である。図8に示すように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、導電層150Aが、各駆動IC130上に圧電素子300の並設方向に亘って複数の島状に形成されており、各導電層150Aは、ボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる連結配線155を介して互いに導通している。また、各導電層150Aと共通リード電極91とは接続配線110Cを介して接続され、下電極膜60は共通リード電極91及び導電層150Aを介して電気的に導通している。さらに、本実施形態では、圧電素子300の列の外側の領域の封止基板30上にも導電層151が設けられており、これらの導電層151及び駆動IC130上の導電層150Aが連結配線155によって電気的に接続されている以外、実施形態4と同様である。このような構成としても、上述した実施形態と同様に、下電極膜60の抵抗値が実質的に低下し、多数の圧電素子300を同時に駆動した際に電圧降下の発生を防止でき、安定したインク吐出特性を得ることができる。
【0067】
(他の実施形態)
以上、本発明を各実施形態に基づいて説明したが、本発明の構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述の各実施形態では、圧力発生室12の列の外側の下電極膜60上に積層電極層92を設けるようにしたが、共通リード電極91及び接続配線110によって下電極膜60の抵抗値を十分に低下させることができれば、勿論、この積層電極層92は設けなくてもよい。
【0068】
また、例えば、上述の各実施形態では、圧力発生室12の列を2列並設した構造のインクジェット式記録ヘッドを例示して説明したが、勿論、本発明は、圧力発生室の列を1列有するインクジェット式記録ヘッドに適用できることは言うまでもない。また、例えば、上述の各実施形態では、成膜及びリソグラフィプロセスを応用して製造される薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のインクジェット式記録ヘッドにも本発明を採用することができる。
【0069】
また、これら各実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図9は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図9に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上に搬送されるようになっている。
【0070】
また、液体噴射ヘッドとしてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置を一例として説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】 実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】 実施形態2に係る記録ヘッドの平面図である。
【図4】 実施形態3に係る記録ヘッドの平面図である。
【図5】 実施形態4に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図6】 実施形態4に係る記録ヘッドの平面図である。
【図7】 実施形態4に係る記録ヘッドの断面図である。
【図8】 実施形態5に係る記録ヘッドの平面図である。
【図9】 一実施形態に係る記録装置の概略図である。
【符号の説明】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 20 ノズルプレート、 21ノズル開口、 30 封止基板、 32 貫通部、 40 コンプライアンス基板、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 90 個別リード電極、 91 共通リード電極、 92 積層電極層、 100 リザーバ、 110 接続配線、 120 補助配線層、 130 駆動IC、 140 駆動配線、 150 導電層、 300 圧電素子
Claims (10)
- ノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドにおいて、
複数の並設された圧電素子に共通する共通電極の並設方向両端部以外から前記圧力発生室に対向する領域の外側まで引き出される複数の共通リード電極と、ボンディングワイヤからなり複数の前記共通リード電極同士を接続する接続配線とを含む抵抗低減部とを有し、且つ前記流路形成基板の前記圧電素子側に接合され当該圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板をさらに有すると共に該封止基板の一部に前記共通リード電極の表面が露出される露出部を有し、前記接続配線が前記露出部に設けられ、前記封止基板上に導電材料からなる補助配線層を有すると共に、該補助配線層が前記圧力発生室の列の外側に対応する領域の共通電極及び前記共通リード電極と前記露出部を介して延設された前記接続配線によって電気的に接続されて前記抵抗低減部の一部を構成するようにして、前記圧電素子に電圧を印加した際の前記共通電極の抵抗を低減することを特徴とする液体噴射ヘッド。 - 前記接続配線が前記共通リード電極の並設方向とは略直交する方向に延設されていることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
- 前記共通リード電極が前記共通電極と同一の層からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッド。
- 前記共通リード電極が前記圧電素子の個別電極から引き出される個別リード電極と同一の層からなることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の液体噴射ヘッド。
- 前記共通リード電極が、前記圧電素子の個別電極から引き出される個別リード電極の延設方向と同一方向に延設されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の液体噴射ヘッド。
- 前記共通リード電極が、前記圧電素子の個別電極から引き出される個別リード電極の延設方向とは反対方向に延設されていることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の液体噴射ヘッド。
- 前記共通リード電極が、略一定の間隔で少なくとも3本以上設けられていることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の液体噴射ヘッド。
- 前記流路形成基板に複数の隔壁によって形成される前記圧力発生室の列が2列設けられ、前記共通リード電極が前記圧力発生室の列間に対応する領域に延設されていることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の液体噴射ヘッド。
- 前記圧力発生室がシリコン単結晶基板に異方性エッチングにより形成され、前記圧電素子の各層が成膜及びリソグラフィ法により形成されたものであることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の液体噴射ヘッド。
- 請求項1〜9の何れかに記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
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