JP3832586B2 - 液体噴射ヘッドの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、被噴射液を吐出する液体噴射ヘッドの製造方法に関し、特に、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を介して圧電素子を設けて圧電素子の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0004】
これに対して、後者のインクジェット式記録ヘッドとして、圧電素子を振動板上に接着剤を介して接着したインクジェット式記録ヘッドが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
特許文献1には、従来例として、圧電素子と振動板とを接着剤を介して接着すると、圧電素子と接着剤との界面結合が不十分であるため、圧電素子の繰り返し変形によって圧電素子が振動板から剥離し易いという問題を解決するため、圧電素子が振動板から剥離し難くするために、圧電素子と振動板との接着に用いる接着剤の量を増やすと共に、接着剤を圧電素子の側面に大きくせり上げるようにした構成が開示されている。
【0006】
そして、接着剤を圧電素子の側面に大きくせり上げるという従来の構成では、絶縁性接着剤を用いると導電性が悪くなり圧電素子に対する印加電圧を高める必要が生じて圧電素子の耐久性を阻害し、また、導電性の接着剤を用いると、導電性の接着剤は接着強度が弱く圧電素子の接着には不適当であるという問題があり、特許文献1では、この問題を解決するために振動板上にカップリング剤の薄膜を形成し、このカップリング剤と圧電素子との隙間ないしは周囲に絶縁性接着剤を注入して接着するようにしている。
【0007】
また、特許文献2には、圧力発生室が形成された流路形成基板に高剛性の金属板からなる補強板が接合又は接着され、この補強板上に圧電素子の一方の電極(下電極)が補強板に電気的に導通するように接着剤を介して接着する構成が開示されている。そして、開示された発明は、圧電素子の一方の電極が補強板に直接接触するように接合するために、圧電素子の側面と補強板との境界で画成された角部に接着剤を設けて両者を接着するものである。
【0008】
さらに、特許文献3には、流路形成基板上に振動板がエポキシ系接着剤を介して接合され、この振動板上に圧電素子がエポキシ系接着剤を介して接合され、圧電素子上にFPCが導電性接着剤で接合されている構成が開示されている。この圧電素子とFPCとを接合する際に用いた導電性接着剤が圧電素子の側面にはみ出して圧電素子の両電極が短絡しない様に、圧電素子及び振動板の側面を、流路形成基板と振動板との接着及び、振動板と圧電素子との接着に用いられたエポキシ系接着剤をはみ出させて、その表面張力により覆うものである。
【0009】
また、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付ける方法もあるが、圧電素子を振動板上に接着するという構成では、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0010】
一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0011】
これによれば圧電素子を振動板に貼付ける作業が不要となって、リソグラフィ法という精密で、かつ簡便な手法で圧電素子を高密度に作り付けることができるばかりでなく、圧電素子の厚みを薄くできて高速駆動が可能になるという利点がある。
【0012】
また、一般的に、圧力発生室が形成される流路形成基板の圧電素子側の面には、この圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板が接合されており、この圧電素子保持部を不活性ガス等で密封することによって圧電素子の外部環境に起因する破壊が防止されている。
【0013】
【特許文献1】
特開平5−42674号公報(第2〜3頁、第2図)
【特許文献2】
特開平9−234864号公報(第2〜4頁、第1及び第8図)
【特許文献3】
特開平6−106724号公報(第2〜3頁、第3及び第5図)
【特許文献4】
特開平5−286131号公報(段落[0013]、第3図)
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、小型化及び高密度化したインクジェット式記録ヘッドではヘッド面積を広く確保できないため、封止基板に設けられた圧電素子保持部と外部とを連通して圧電素子保持部内に不活性ガス等を充填及び密封するための封止孔が微少となってしまい、完全に密封するのがとても困難であるという問題がある。
【0015】
また、高密度化したインクジェット式記録ヘッドでは、圧電素子の厚みを薄くするために上電極と下電極との間隔が狭くなり、圧電素子端面の電極露出部分の沿面放電が発生し、圧電素子の耐電圧が低下するという問題もある。
【0016】
さらに、圧電素子を高密度配設し、ノズル開口の高密度化を図るため、振動板を流路形成基板上に接着剤を用いずに、成膜により形成して薄膜とする構成もあるが、圧電素子の側面と振動板との境界で画成された角部において、振動板にクラックが発生し易く、圧力発生室内のインクが圧電素子側にクラックを介して流出し、圧電素子が破壊されてしまうという問題がある。
【0017】
なお、このような課題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけではなく、勿論、インク以外を吐出する他の液体噴射ヘッドにおいても、同様に存在する。
【0018】
本発明は、このような事情に鑑み、振動板の破壊を防止すると共に、圧電素子の外部環境に起因する破壊を容易に且つ確実に防止し、製造工程を簡略化すると共に圧電素子の耐電圧を向上することができる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを課題とする。
【0041】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、液滴を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室が画成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられた振動板上に接着剤を介さずに成膜及びリソグラフィ法により形成された薄膜である下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合された接合基板とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法において、前記流路形成基板上及び前記圧電素子から引き出された引き出し配線上に接着剤を介して前記接合基板を当接し、当該接着剤をその表面張力によって前記引き出し配線の側面に伝わらせて前記圧電素子の側面の少なくとも前記圧電体層が露出しないように当該接着剤で覆うと共に前記流路形成基板と前記接合基板とを接合することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0042】
かかる第1の態様では、接合基板の接合に用いられた接着剤によって圧電体層の側面を露出しないように覆うことにより、製造工程を簡略化すると共に確実に圧電素子を覆って圧電素子の沿面放電及び外部環境に起因する破壊を防止することができる。また、圧電素子の側面と振動板との境界により画成された角部に対応する振動板にクラックが生じるのを防止すると共に、クラックが生じても接着層によりクラックを封止するため、圧力発生室からの液体により圧電素子が破壊されるのを確実に防止できる。
【0043】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記接着剤が熱硬化性の接着剤であることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0044】
かかる第2の態様では、熱硬化性の接着剤で覆うことによって、圧電体層の側面を容易に且つ確実に覆った接着層を形成することができる。
【0045】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記接着剤を加熱して硬化させることにより、当該接着剤を前記引き出し配線の側面に伝わらせて前記圧電体層を覆うことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0046】
かかる第3の態様では、接着剤を加熱することで、接着剤の粘度を一時的に低下させて圧電体層の側面に容易に伝わらせて確実に覆うことができる。
【0047】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記接着剤のガス透過率が、1×10−3Pa・m3/sec以下であることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0048】
かかる第4の態様では、所定のガス透過率の接着剤を用いた接着層を形成することで確実に外部環境に起因する破壊を防止することができる。
【0049】
本発明の液体噴射ヘッドの製造方法は、接着剤を用いずに、成膜及びリソグラフィ法により設けられた圧電素子を有し、且つその側面を絶縁性接着剤からなる接着層で覆うことにより、圧電素子の外部環境に起因する破壊を容易に且つ確実に防止することができると共に、圧電素子の耐電圧を向上することができる。また、圧電素子の側面を覆う接着層として、流路形成基板と接合基板とを接合する際に用いた接着剤を使用することで製造工程を簡略化することができる。さらに、薄膜の振動板及び薄膜の圧電素子を用いて圧電素子を高密度に配設しても、接着層によって振動板にクラック等の破壊が発生するのを防止すると共に、クラックが発生しても接着層によって圧力発生室内の液体が圧電素子側に流れ出るのを確実に防止して、圧電素子の液体に起因する破壊を防止することができるという特有の効果を有するものである。
【0050】
一方、特許文献1〜3には、振動板上(補強板上)に圧電素子を接着剤を介して接着し、この接着剤を圧電素子の側面に設ける構成が開示されているが、これらの圧電素子の側面に設けられた接着剤は、圧電素子を振動板上又は補強板上に接合する際に用いた接着剤が側面まではみ出したものであり、また、圧電素子と振動板との接合強度の向上、圧電素子の電極を直接補強板に接触させるため、又はFPCと圧電素子とを確実に絶縁するために設けるものであり、本発明の接着剤とは目的が相違し、構成上において明らかに相違する。また、これらの先行技術からは、圧電素子の外部環境に起因する破壊を防止するために圧電素子を封止するため、又は圧電素子の沿面放電を防止するために接着剤を圧電素子の側面に設けるという構成は示唆されない。
【0051】
このように、圧電素子を振動板上に接着剤を介さずに形成して高密度配設した構造は開示されず、また、振動板上に成膜及びリソグラフィ法により形成した圧電素子の側面を接着剤で覆う構成も開示されていない。このような構成及び効果は、上述した従来技術の構成を組み合わせても容易に発明することができるものではない。
【0052】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2(a)はインクジェット式記録ヘッドの上面図、図2(b)は流路形成基板の上面図であり、図3(a)はインクジェット式記録ヘッドの圧電素子の長手方向の断面図、図3(b)は図3(a)のA−A′断面図である。
【0053】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの薄膜からなる弾性膜50が形成されている。この流路形成基板10には、その他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁によって区画された圧力発生室12が形成されている。また、各列の圧力発生室12の長手方向外側には、後述する接合基板であるリザーバ形成基板30に設けられるリザーバ部31と連通孔51を介して連通し、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成する連通部13が形成されている。また、この連通部13は、インク供給路14を介して各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれ連通されている。
【0054】
ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板のエッチングレートの違いを利用して行われる。例えば、本実施形態では、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)面と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われる。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0055】
本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。ここで、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。また各圧力発生室12の一端に連通する各インク供給路14は、圧力発生室12より浅く形成されており、圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。すなわち、インク供給路14は、シリコン単結晶基板を厚さ方向に途中までエッチング(ハーフエッチング)することにより形成されている。なお、ハーフエッチングは、エッチング時間の調整により行われる。
【0056】
このような流路形成基板10の厚さは、圧力発生室12を配列密度に合わせて最適な厚さを選択すればよく、圧力発生室12の配列密度が、例えば、1インチ当たり180個(180dpi)程度であれば、流路形成基板10の厚さは、220μm程度であればよいが、例えば、200dpi以上と比較的高密度に配列する場合には、流路形成基板10の厚さは100μm以下と比較的薄くするのが好ましい。これは、隣接する圧力発生室12間の隔壁の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
【0057】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.05〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックス、又は不錆鋼などからなる。ノズルプレート20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、シリコン単結晶基板を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。また、ノズルプレート20は、流路形成基板10と熱膨張係数が略同一の材料で形成するようにしてもよい。この場合には、流路形成基板10とノズルプレート20との熱による変形が略同一となるため、熱硬化性の接着剤等を用いて容易に接合することができる。
【0058】
ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口21の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口21は数十μmの直径で精度よく形成する必要がある。
【0059】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約0.5〜5μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。なお、上述した例では、圧電素子300の下電極膜60と弾性膜50とが振動板として作用する。
【0060】
また、流路形成基板10の端部近傍には、圧電素子300を駆動するための外部配線110が設けられており、この外部配線110と圧電素子300とは、圧電素子300から外部配線110まで引き出された引き出し配線を介して電気的に接続されている。本実施形態では、引き出し配線として、上電極膜80の長手方向一端部近傍から流路形成基板10の一端部近傍まで延設した、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を設けた。
【0061】
また、圧電素子300の側面には、少なくとも圧電体層70の表面が露出しないように覆う接着層121が設けられている。本実施形態では、接着層121を上電極80の側面も覆うように設けた。詳しくは、接着層121は、本実施形態では、圧電体層70及び上電極膜80の側面と下電極膜80及び弾性膜50との境界で画成された角部、及びリード電極90の側面と弾性膜50の側面との境界で画成された角部に亘って設けられている。
【0062】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、下電極膜60上、弾性膜50上及びリード電極90上には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有するリザーバ形成基板30が接着剤によって形成された接合層122を介して接合されている。このリザーバ部31は、本実施形態では、リザーバ形成基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。
【0063】
また、リザーバ形成基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。このようなリザーバ形成基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0064】
また、このようにリザーバ形成基板30と流路形成基板10との接合に用いられる接着剤としては、導電性の接着剤を用いると並設されたリード電極90同士や、リード電極90と下電極膜60とが短絡してしまうため、リード電極90同士及びリード電極90と下電極膜60とが電気的に絶縁されるように絶縁性の接着剤を用いる必要がある。このような絶縁性の接着剤としては、例えば、エポキシ系接着剤等の熱硬化性の接着剤を挙げることができる。
【0065】
このように、例えば、熱硬化性の接着剤を用いたリザーバ形成基板30と流路形成基板10との接合では、流路形成基板10とリザーバ形成基板30とを接着剤を塗布した状態で当接させて接着剤を加熱すると、接着剤は粘度が低下し、その表面張力によって流路形成基板10上のリード電極90の側面と弾性膜50との境界で画成された角部を伝って圧電素子300の側面を覆う。このように接着剤を加熱することで、圧電素子300の側面に接着層121を形成すると共に流路形成基板10とリザーバ形成基板30とを接合層122を介して接合することができる。
【0066】
このように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法によれば、流路形成基板10とリザーバ形成基板30との接合に用いられる接着剤によって形成された接着層121により、圧電素子300の側面の少なくとも圧電体層70が露出しないように覆うことにより、圧電素子300の特に圧電体層70の端面の沿面放電を防止して圧電素子300の耐電圧を向上すると共に圧電素子300の外部環境に起因する破壊を容易且つ確実に防止し、且つ製造工程を簡略化することができる。
【0067】
また、本実施形態では、圧電素子300を高密度配設すると共に、ノズル開口21を高密度とするため、弾性膜50及び下電極膜60からなる振動板を薄膜で構成すると共に、圧電素子300を接着剤を介しての接着ではなく成膜により形成しているので、圧電素子300の変形によって圧電素子300の側面と下電極膜60とで画成される領域の振動板にクラックが発生し易い。このようなクラックが発生しやすい圧電素子300の側面に対向する振動板上に接着層121を設けることによって振動板の剛性を向上してクラックの発生を防止することができると共に、振動板にクラックが生じても、接着層121によりクラックを封止して、圧力発生室12のインクがクラックを介して圧電素子300側に流れ出るのを防止することができ、圧電素子300のインクによる破壊を確実に防止することができる。
【0068】
さらに、接着層121を形成する接着剤は、接着層121によって圧電素子300の外部環境に起因する破壊を確実に防止するために、ガス透過率が1×10−3Pa・m3/sec以下の接着剤を用いるのが好ましい。また、接着層121は、接着剤の表面張力によって圧電素子300の側面を覆って形成されるため、接着層121の表面の傾斜角度は同一となる。
【0069】
これにより、各圧電素子300をパターニングにより形成した際に、各圧電素子300の並設方向の側面に角度のばらつきが発生したとしても、接着層121によって全ての圧電素子300の外形が実質的に同一となり、各圧力発生室12から吐出されるインクの吐出量及び吐出速度等のインク吐出特性を安定させることができる。
【0070】
なお、本実施形態では、リザーバ形成基板30の圧電素子保持部32は、圧電体層80の側面を接着層121で覆って圧電素子300の外部環境に起因する破壊を防止するため、圧電素子保持部32を封止して密封する必要はないが、圧電素子保持部32を密封することで圧電素子300の外部環境に起因する破壊をさらに確実に防止することができる。
【0071】
また、このようなリザーバ形成基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0072】
また、このリザーバ100の長手方向略中央部外側のコンプライアンス基板40上には、リザーバ100にインクを供給するためのインク導入口44が形成されている。さらに、リザーバ形成基板30には、インク導入口44とリザーバ100の側壁とを連通するインク導入路36が設けられている。このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口44からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0073】
以上説明した本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、特に限定されないが、その一例を図4〜図6を参照して説明する。図4〜図6は、圧力発生室12の長手方向の一部を示す断面図である。まず、図4(a)に示すように、流路形成基板10となるシリコン単結晶基板のウェハを約1100℃の拡散炉で熱酸化して二酸化シリコンからなる弾性膜50を形成する。
【0074】
次に、図4(b)に示すように、スパッタリング法で下電極膜60を弾性膜50の全面に形成後、下電極膜60をパターニングして全体パターンを形成する。この下電極膜60の材料としては、白金(Pt)等が好適である。これは、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体層70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜60の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、殊に、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由から白金が好適である。
【0075】
次に、図4(c)に示すように、圧電体層70を成膜する。この圧電体層70は、結晶が配向していることが好ましい。例えば、本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて形成することにより、結晶が配向している圧電体層70とした。圧電体層70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛系の材料がインクジェット式記録ヘッドに使用する場合には好適である。なお、この圧電体層70の成膜方法は、特に限定されず、例えば、スパッタリング法で形成してもよい。さらに、ゾル−ゲル法又はスパッタリング法等によりチタン酸ジルコン酸鉛の前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法を用いてもよい。
【0076】
何れにしても、このように成膜された圧電体層70は、バルクの圧電体とは異なり結晶が優先配向しており、且つ本実施形態では、圧電体層70は、結晶が柱状に形成されている。なお、優先配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面がほぼ一定の方向に向いている状態をいう。また、結晶が柱状の薄膜とは、略円柱体の結晶が中心軸を厚さ方向に略一致させた状態で面方向に亘って集合して薄膜を形成している状態をいう。勿論、優先配向した粒状の結晶で形成された薄膜であってもよい。なお、このように薄膜工程で製造された圧電体層の厚さは、一般的に0.2〜5μmである。次に、図4(d)に示すように、上電極膜80を成膜する。上電極膜80は、導電性の高い材料であればよく、アルミニウム、金、ニッケル、白金等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用できる。本実施形態では、白金をスパッタリングにより成膜している。
【0077】
次に、図5(a)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80のみをエッチングして圧電素子300のパターニングを行う。次に、図5(b)に示すように、リード電極90を形成する。具体的には、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を流路形成基板10の全面に亘って形成すると共に、各圧電素子300毎にパターニングする。以上が膜形成プロセスである。このようにして膜形成を行った後、前述したアルカリ溶液によるシリコン単結晶基板の異方性エッチングを行い、図5(c)に示すように、圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14等を形成する。
【0078】
次に、流路形成基板10とリザーバ形成基板30とを接合層122によって接合すると共に、圧電体層70及び上電極膜80の側面に接着層121を形成する。詳しくは、まず、図6(a)に示すように、予め圧電素子保持部32及びリザーバ部31等が形成されたリザーバ形成基板30の底面に接着剤120を塗布して、流路形成基板10上に接着剤120を介して当接させる。
【0079】
次いで、図6(b)に示すように、接着剤120を加熱することによって圧電素子300の側面に接着層121を形成すると共に流路形成基板10とリザーバ形成基板30とを接合層122を介して接合する。詳しくは、接着剤120を硬化するために加熱すると、接着剤120の硬化する温度に達する前に接着剤120の粘度が低下し、接着剤120の表面張力によって流路形成基板10上の弾性膜50とリード電極90とによって画成された角部に接着剤120が流出し、流れ出た接着剤120で圧電体層70及び上電極膜80の側面と下電極膜60及び弾性膜50との境界で画成された角部が覆われる。この後、接着剤120が硬化し、流路形成基板10とリザーバ形成基板30とを接合する接合層122と、圧電素子300の外部環境に起因する破壊を防止する接着層121とが同一の接着剤120で同時に形成される。これにより、製造工程を簡略化すると共に製造コストを低減することができる。
【0080】
また、流路形成基板10とリザーバ形成基板30とを接合する接着剤120を用いて圧電素子300の外部環境に起因する破壊を防止すると共に圧電素子300の耐電圧を向上させる接着層121を形成するようにしたため、圧電素子保持部32を密封する密封工程が不要となり、製造工程を簡略化することができる。なお、その後は、図6(c)に示すように、流路形成基板10のリザーバ形成基板30とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、リザーバ形成基板30上にコンプライアンス基板40を接合することにより、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドが形成される。
【0081】
また、実際には、上述した一連の膜形成及び異方性エッチングによって一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割する。そして、分割した流路形成基板10に、リザーバ形成基板30及びコンプライアンス基板40を順次接着して一体化し、インクジェット式記録ヘッドとする。
【0082】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態1を説明したが、勿論、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1では、圧電素子300と外部配線110とを電気的に接続する引き出し配線を上電極膜80の長手方向一端部近傍から流路形成基板10の一端部近傍まで延設したリード電極90とし、リザーバ形成基板30を並設されたリード電極90上に接合するようにしたが、外部配線110と圧電素子300とを電気的に接続する引き出し配線は特にこれに限定されず、例えば、圧電素子の圧電体層及び上電極膜を流路形成基板の端部近傍まで延設して、延設した圧電素子の一部を引き出し配線としてもよい。ここで、このような例を図7に示す。なお、図7は、インクジェット式記録ヘッドの他の例を示す圧力発生室の長手方向の断面図である。
【0083】
図7に示すように、流路形成基板10上の弾性膜50上には、圧電体層70A及び上電極膜80Aが流路形成基板10の端部近傍まで延設されて圧電素子300Aを構成している。このように延設された上電極膜80Aには、外部配線110が直接電気的に接続されており、さらに、リザーバ形成基板30は、圧電素子300Aの圧力発生室12に相対向する領域の圧電体能動部と外部配線110に接続された延設された端部との間の並設された上電極膜80A上に接合されている。すなわち、圧電素子300の流路形成基板10の端部近傍まで延設された圧電体層70A及び上電極膜80Aが圧電素子300の引き出し配線となっている。
【0084】
また、圧電素子300の側面には、少なくとも圧電体層70Aが露出しないように覆う接着層121が形成されている。この接着層121は、流路形成基板10とリザーバ形成基板30との接合時に、接着剤が流路形成基板10とリザーバ形成基板30との間に狭持された、延設された圧電素子300の側面を伝わらせて形成することができる。このような構成のインクジェット式記録ヘッドの製造方法としても、上述した実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0085】
さらに、上述した実施形態1では、流路形成基板10上に接合される接合基板としてリザーバ形成基板30を例示したが、流路形成基板上の圧電素子の引き出し配線上に接着剤を介して接合される接合基板であれば特にこれに限定されない。また、例えば、上述の実施形態1では、成膜及びリソグラフィプロセスを応用して製造される薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のインクジェット式記録ヘッドにも本発明を採用することができる。さらに、上述した実施形態1では、流路形成基板10とリザーバ形成基板30とを接合する際に、圧電素子保持部32を同時に密封するようにしたが、後から行ってもよい。このような構成にすることにより、より確実な密封が可能となる。
【0086】
また、これら各実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図8は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図8に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0087】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送されるようになっている。
【0088】
また、上述の実施形態1では、液体噴射ヘッドとして、印刷媒体に所定の画像や文字を印刷するインクジェット式記録ヘッドを一例として説明したが、勿論、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等、他の液体噴射ヘッドの製造方法にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】 実施形態1に係る記録ヘッド及び流路形成基板の上面図である。
【図3】 実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図4】 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】 他の実施形態に係る記録ヘッドの断面図である。
【図8】 一実施形態に係るインクジェット式記録装置の概略斜視図である。
【符号の説明】
10 流路形成基板、12 圧力発生室、20 ノズルプレート、21 ノズル開口、30 リザーバ形成基板、31 リザーバ部、32 圧電素子保持部、40 コンプライアンス基板、60 下電極膜、70、70A 圧電体層、80、80A 上電極膜、90 リード電極、100 リザーバ、110 外部配線、120 接着剤、121 接着層、122 接合層、300、300A 圧電素子
Claims (4)
- 液滴を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室が画成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられた振動板上に接着剤を介さずに成膜及びリソグラフィ法により形成された薄膜である下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子と、前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合された接合基板とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記流路形成基板上及び前記圧電素子から引き出された引き出し配線上に接着剤を介して前記接合基板を当接し、当該接着剤をその表面張力によって前記引き出し配線の側面に伝わらせて前記圧電素子の側面の少なくとも前記圧電体層が露出しないように当該接着剤で覆うと共に前記流路形成基板と前記接合基板とを接合することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。 - 前記接着剤が熱硬化性の接着剤であることを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
- 前記接着剤を加熱して硬化させることにより、当該接着剤を前記引き出し配線の側面に伝わらせて前記圧電体層を覆うことを特徴とする請求項1又は2記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
- 前記接着剤のガス透過率が、1×10−3Pa・m3/sec以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
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