JPWO2016175013A1 - 圧電デバイス、圧電トランスおよび圧電デバイスの製造方法 - Google Patents

圧電デバイス、圧電トランスおよび圧電デバイスの製造方法 Download PDF

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Abstract

圧電デバイス(101)は、基材(1)と、基材(1)によって支持された上部層(2)とを備える。上部層(2)は、上部層(2)のうち基材(1)に重ならない部分(51)である振動部(3)を含む。振動部(3)は、厚み方向に互いに離隔して配置された下部電極(31)、中間電極(32)および上部電極(33)を含む。上部層(2)は、下部電極(31)および中間電極(32)によって少なくとも一部が挟み込まれるように配置された第1圧電体層(4)と、第1圧電体層(4)に重なるように配置されつつ中間電極(32)および上部電極(33)によって少なくとも一部が挟み込まれるように配置された第2圧電体層(5)とを含む。第1圧電体層(4)および第2圧電体層(5)は、上部層(2)のうち振動部(3)に延在しつつ上部層(2)が基材(1)に重なる部分(52)に達するまで延在している。第1圧電体層(4)と第2圧電体層(5)とでは厚み方向の比誘電率が互いに異なる。

Description

本発明は、圧電デバイス、圧電トランスおよび圧電デバイスの製造方法に関するものである。
超音波トランスデューサー装置と称するものの一例が、特開2014−195495号公報(特許文献1)に記載されている。特許文献1に記載された装置は、基体を備え、この基体は基板および可撓膜を備える(特許文献1の段落0028)。基板の表面に可撓膜が形成される。基板には個々の素子ごとに開口が形成される。開口の輪郭に対応して可撓膜の一部は振動膜を形成する(特許文献1の段落0029)。振動膜の表面に下電極、第1圧電体膜、中間電極、第2圧電体膜、上電極が順番に積層される(特許文献1の段落0030)。
特開2014−195495号公報
特許文献1に記載された装置において、超音波を送信する際、すなわち、振動膜を駆動する際には、非圧電部材と圧電部材とを積層した梁、すなわち、略ユニモルフ梁の屈曲振動とみなすことができ、梁全体が屈曲振動をする。
特許文献1に記載された装置において振動膜を駆動する際には、下電極と中間電極との間に電圧が印加され(同段落0038)、これらの間にある第1圧電体膜が電圧印加によって伸縮する一方、第2圧電体膜は電圧印加されず伸縮しない。すなわち、第2圧電体膜は圧電部材でありながら非圧電部材と同等に振る舞うことになる。伸縮する部材である第1圧電体膜に対して、伸縮しない部材としては、可撓膜、各電極、第2圧電体が存在するので、振動膜の中で、伸縮しない部材の比率が大きくなる。また、振動膜全体として厚くなりすぎる。その結果、屈曲運動をしにくくなる。
伸縮する部材である第1圧電体膜が、伸縮しない部材である可撓膜と第2圧電体膜とに挟まれた形となる。第1圧電体膜が伸びる場合を例にとると、第1圧電体膜が伸びて可撓膜は伸びないので、振動膜は上に凸に変形しようとする。しかし、第1圧電体膜が伸びても第2圧電体膜は伸びないので振動膜は下に凸に変形しようとする。特許文献1に記載された装置の構造では、このような相反する変形が同時に起ころうとするので、変形しようとする力が打ち消し合い、結果的に振動膜の屈曲運動は阻害される。
阻害されることによって屈曲運動が小さくなると、超音波トランスデューサー装置としての音圧不足を招いてしまう。また、圧電トランスとして使用する場合には、効率が悪くなる。
そこで、本発明は、効率が良く、信頼性が高い圧電デバイス、圧電トランスおよび圧電デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明に基づく圧電デバイスは、基材と、上記基材によって支持された上部層とを備え、上記上部層は、上記上部層のうち上記基材に重ならない部分である振動部を含み、上記振動部は、厚み方向に互いに離隔して配置された下部電極、中間電極および上部電極を含み、上記上部層は、上記下部電極および上記中間電極によって少なくとも一部が挟み込まれるように配置された第1圧電体層と、上記第1圧電体層に重なるように配置されつつ上記中間電極および上記上部電極によって少なくとも一部が挟み込まれるように配置された第2圧電体層とを含み、上記第1圧電体層および上記第2圧電体層は、上記上部層のうち上記振動部に延在しつつ上記上部層が上記基材に重なる部分に達するまで延在している。上記第1圧電体層と上記第2圧電体層とでは厚み方向の比誘電率が互いに異なる。
本発明によれば、効率が良く、信頼性の高い圧電デバイスとすることができる。
本発明に基づく実施の形態1における圧電デバイスの斜視図である。 図1におけるII−II線に関する矢視断面図である。 2層構造の第1のモデルの断面図である。 第1のモデルを曲げた状態の説明図である。 2層構造の第2のモデルの断面図である。 第2のモデルを曲げた状態の説明図である。 表1に示した実施例1〜8で得られた出力電圧比および共振周波数を示すグラフである。 本発明に基づく実施の形態1における圧電デバイスの変形例の斜視図である。 図8におけるIX−IX線に関する矢視断面図である。 本発明に基づく実施の形態2における圧電デバイスの製造方法の第1の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態2における圧電デバイスの製造方法の第2の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態2における圧電デバイスの製造方法の第3の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態2における圧電デバイスの製造方法の第4の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態2における圧電デバイスの製造方法の第5の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態2における圧電デバイスの製造方法の第6の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態2における圧電デバイスの製造方法の第7の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態2における圧電デバイスの製造方法の第8の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態2における圧電デバイスの製造方法の第9の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態3における圧電デバイスの断面図である。 本発明に基づく実施の形態4における圧電デバイスの製造方法の第1の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態4における圧電デバイスの製造方法の第2の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態4における圧電デバイスの製造方法の第3の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態4における圧電デバイスの製造方法の第4の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態4における圧電デバイスの製造方法の第5の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態4における圧電デバイスの製造方法の第6の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態4における圧電デバイスの製造方法の第7の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態4における圧電デバイスの製造方法の第8の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態4における圧電デバイスの製造方法の第9の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態4における圧電デバイスの製造方法の第10の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態4における圧電デバイスの製造方法の第11の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態5における圧電デバイスの断面図である。 本発明に基づく実施の形態6における圧電デバイスの製造方法の第1の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態6における圧電デバイスの製造方法の第2の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態6における圧電デバイスの製造方法の第3の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態6における圧電デバイスの製造方法の第4の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態6における圧電デバイスの製造方法の第5の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態6における圧電デバイスの製造方法の第6の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態6における圧電デバイスの製造方法の第7の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態6における圧電デバイスの製造方法の第8の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態6における圧電デバイスの製造方法の第9の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態6における圧電デバイスの製造方法の第10の工程の説明図である。 本発明に基づく実施の形態7における圧電デバイスアレイの断面図である。 本発明に基づく実施の形態7における圧電デバイスアレイの平面図である。 本発明に基づく実施の形態8における圧電デバイスアレイの製造方法の第1の段階の断面図である。 本発明に基づく実施の形態8における圧電デバイスアレイの製造方法の第1の段階の平面図である。 本発明に基づく実施の形態8における圧電デバイスアレイの製造方法の第2の段階の断面図である。 本発明に基づく実施の形態8における圧電デバイスアレイの製造方法の第2の段階の平面図である。 本発明に基づく実施の形態8における圧電デバイスアレイの製造方法の第3の段階の断面図である。 本発明に基づく実施の形態8における圧電デバイスアレイの製造方法の第3の段階の平面図である。 本発明に基づく実施の形態8における圧電デバイスアレイの製造方法の第4の段階の断面図である。 機械的品質係数Qmが200である場合の出力電圧のグラフである。 機械的品質係数Qmが2200である場合の出力電圧のグラフである。 圧電デバイスの各層の厚みに関する説明図である。 保護膜の厚みと振動部の厚みとの比率を変化させたときの送受信効率への影響を示すグラフである。 PZT厚み/AlN厚みを変化させたときの昇圧比および電力伝送効率への影響を示すグラフである。 表6に示された各水準におけるPZT厚み/AlN厚みと電力伝送効率との関係を示すグラフである。 圧電デバイスの斜視図である。 図57におけるLVIII−LVIII線に関する矢視断面図である。 振動部の振動形状を模式的に示す図である。 振動漏れの説明図である。 各素子から生じる振動漏れがそれぞれ隣りに配置される素子の振動にとって妨げとなる様子の説明図である。 圧電デバイスアレイの斜視図である。 図62におけるLXIII−LXIII線に関する矢視断面図である。 各素子から生じる振動漏れがそれぞれ隣りに配置される素子の振動を強め合う様子の説明図である。
以下の実施の形態で、上または下に言及する場合は、絶対的な上または下の概念を意味するものではなく、説明の便宜のために、あくまで図示した姿勢における相対的な上または下を言及するものである。各実施の形態で説明する装置は、図示したとおりの姿勢で扱われるとは限らず、異なった向きにして扱われることもありうる。
以下の実施の形態で参照する図面においては、説明の便宜のために寸法を誇張している部分がある。したがって、図面に表れる寸法の比率は必ずしも現実のとおりではない。
(実施の形態1)
図2を参照して、本発明に基づく実施の形態1における圧電デバイスについて説明する。本実施の形態における圧電デバイス101の斜視図を図1に示す。図1におけるII−II線に関する矢視断面図を図2に示す。図2では、説明の便宜のため、厚み方向の寸法を誇張して表示している。
本実施の形態における圧電デバイスは、基材1と、基材1によって支持された上部層2とを備える。上部層2は、上部層2のうち基材1に重ならない部分51である振動部3を含む。上部層2は、厚み方向に互いに離隔して配置された下部電極31、中間電極32および上部電極33を含む。上部層2は、下部電極31および中間電極32によって少なくとも一部が挟み込まれるように配置された第1圧電体層4と、第1圧電体層4に重なるように配置されつつ中間電極32および上部電極33によって少なくとも一部が挟み込まれるように配置された第2圧電体層5とを含む。第1圧電体層4および第2圧電体層5は、上部層2のうち振動部3に延在しつつ上部層2が基材1に重なる部分52に達するまで延在している。第1圧電体層4と第2圧電体層5とでは厚み方向の比誘電率が互いに異なる。「厚み方向の比誘電率」について詳しくは後述する。図2に示すように、上部層2は、下部電極31の下面を覆う保護膜6を含んでいてもよい。
基材1には開口部9が設けられている。上部層2は、基材1に重ならない部分51と、重なる部分52とを含む。上部層2は、貫通孔7,8を有する。上部電極33は、上部層2の上面に配置されている。貫通孔7は第2圧電体層5を貫通しており、貫通孔7の下端には中間電極32が露出している。貫通孔8は第1圧電体層4および第2圧電体層5を貫通しており、貫通孔8の下端には下部電極31が露出している。実際には、貫通孔7,8の深さ方向の寸法は面方向の寸法に比べてきわめて小さいので、図1では、貫通孔7,8の存在による段差は図示省略している。貫通孔7,8の深さがきわめて小さいことにより、図1では、あたかも上部層2の上面と同じ高さに中間電極32および下部電極31が露出しているかのように見えている。上部層2のうち振動部3でない部分の上面には、パッド電極40が配置されている。パッド電極40は、上部層2の上面に配置された配線を介して上部電極33と電気的に接続されている。
本実施の形態では、2つの圧電体層を備え、それぞれを厚み方向に挟み込むように電極が形成されており、振動部においては、2つの圧電体層はそれぞれベンディングモードで駆動することができる。このような構造の振動板は一般的にバイモルフ振動板と呼ばれる。
下部電極31と中間電極32との間に電圧を印加することにより、第1圧電体層4を駆動することができる。中間電極32と上部電極33との間に電圧を印加することにより、第2圧電体層5を駆動することができる。両者を同時に駆動することも可能である。
本実施の形態では、下部電極31の下面を覆うように保護膜6が設けられているので、下部電極31の破損の確率を低減することができ、圧電デバイスの信頼性を上げることができる。
本実施の形態では、図2に示すように、第1圧電体層4および第2圧電体層5は、上部層2のうち振動部3に延在しつつ上部層2が基材1に重なる部分52に達するまで延在しているので、第1圧電体層4および第2圧電体層5の強度を以て振動部3の姿勢を維持することができる。部分51の下方には開口部9が位置する。基材1が直接支持するのは部分52のみであって部分51にとっては下側から支持するものは何もない状態となっているが、第1圧電体層4および第2圧電体層5が部分52に達するまで延在しているので、部分51が自重によって極端に垂れ下がることは防止される。したがって、効率が良く、信頼性が高い圧電デバイスとすることができる。
なお、第1圧電体層4は、AlN系、ZnO系およびGaN系からなる群から選択されるいずれかの圧電体を主材料とすることが好ましい。第2圧電体層5は、PZT系、KNN系、BT系およびBiアルカリチタン系からなる群から選択されるいずれかの圧電体を主材料とすることが好ましい。ここで、PZT系とは、Pb(Zr,Ti)O系である。KNN系とは、(K,Na)NbOなどである。BT系とは、BaTiOなどである。Biアルカリチタン系とは、(Bi,Na)TiO−BaTiOなどである。
この場合、第1圧電体層4はセンシング性能に優れ、第2圧電体層5は駆動性能に優れているので、効率が良い振動体とすることができる。
(圧電体層の厚みについてのシミュレーション)
本実施の形態の一例として、PZT層とAlN層とをそれぞれ主材料とした2つの層が積層された構造の外径500μmの振動膜を想定し、有限要素法を用いて計算した。AlN層が第1圧電体層4に相当し、PZT層が第2圧電体層5に相当する。PZT層とAlN層との厚みの合計が2.0μmとなるようにし、その厚みの内訳を少しずつ変えたものをそれぞれ準備した。これらを実施例1〜8とする。
比較例として、PZT層およびAlN層の2層構造に加えてさらに別の可撓膜であるSiO膜を備えた合計3層構造の同じ外径の振動膜を準備した。SiO膜は厚み1.0μmであるものとした。PZT層はAlN層とSiO膜との間に配置されているものとした。PZT層とAlN層との合計が2.0μmとなるようにし、その厚みの内訳を少しずつ変えたものをそれぞれ準備した。これらを比較例1〜6とする。
なお、実施例1〜8および比較例1〜6においては、PZT層およびAlN層は、いずれも厚み方向に分極しているものとした。下部電極はMoからなり、中間電極はPtからなり、上部電極はAuからなるものとし、これらの電極の厚みはそれぞれ100nmであるものとした。中間電極は全面に張られた電極とした。下部電極および上部電極はそれぞれ直径300μmの円形として形成されているものとした。
実施例1〜8および比較例1〜6の各々について、振動膜の共振周波数を求めた。さらに、実施例1〜8および比較例1〜6の各々に一定の応力を作用させたときのPZT層およびAlN層の各々に発生する電位を求めた。これらの結果を表1および表2に示す。
表1および表2の計算例では、PZTおよびAlNの材料定数については、それぞれ表4に示す値を用いた。
実施例4では、PZT層の厚みが1.00μm、AlN層の厚みが1.00μmとなっているが、この実施例4において発生した電位を基準として1.0000とし、他の実施例および比較例における発生電圧は、この基準となる電位の大きさを基に、相対的に表現した。
(シミュレーション結果)
表1と表2とを比較して明らかなように、振動膜が主にPZT層とAlN層との2層のみで形成されている実施例1〜8では、比較例1〜6に比べて共振周波数を低くすることができている。
実施例1〜8では比較例1〜6に比べて振動膜全体としての厚みを薄くすることができる。厚みが薄いということは、同じ圧力を受けた場合においても振動しやすい構造といえる。したがって、実施例1〜8の方が比較例1〜6に比べて発生電圧が大きくなる。
振動膜全体を薄くする方法として、PZT層またはAlN層を薄くすることも考えられるが、一般的に、圧電体薄膜を薄くしすぎると、圧電特性の低下を招くことが問題となっている。したがって、ここで実施例1〜8として行なったように、圧電薄膜の厚みを維持しながら振動膜全体の厚みを薄くするという方法は、非常に有用である。
(PZT/AlN層の厚み比率と応力中立面について)
表1に明らかなように、PZT層およびAlN層の2層構造で合計厚みが一定であっても、PZT層の厚みとAlN層の厚みとの比率が異なると、発生電圧が変化する。これは、2種類の圧電体を主材料とした振動膜に特有の問題である。
図3に示すような第1圧電体層4と第2圧電体層5との2層構造において曲げたときの状態を図4に示す。応力中立面20は、第1圧電体層4の途中を通っている。図4に示したように、応力中立面20がいずれかの圧電体側に偏って存在すると、効率良く振動させることができなくなってしまう。
図5に示すような第1圧電体層4と第2圧電体層5との2層構造において曲げたときの状態を図6に示す。図6に示したように、応力中立面20が第1圧電体層4としてのPZT層と第2圧電体層5としてのAlN層との界面付近になるように厚みを決定することが好ましい。PZT層に対してAlN層はヤング率が高いので、PZT層の厚みがAlN層の厚みより大きくなるように設定しておくことが好ましい。このようなことから、第1圧電体層4および第2圧電体層5のうち厚み方向の比誘電率が低い方の圧電体層は、厚み方向の比誘電率が高い方の圧電体層より薄くてもよい。
表1に示した実施例1〜8の結果について、グラフ化したものを図7に示す。このグラフからは、PZT層の厚みが1.0μmよりも厚い場合に電圧のピークが存在していることがわかる。図7の右側の縦軸は、共振周波数を表し、単位はkHzである。
圧電デバイスは、第1圧電体層4と第2圧電体層5との間に応力中立面20を有することが好ましい。この場合も、第1圧電体層4および第2圧電体層5のうち厚み方向の比誘電率が低い方の圧電体層は、厚み方向の比誘電率が高い方の圧電体層より薄くてもよい。図6に示すように、応力中立面20は、中間電極32に位置してもよい。「厚み方向の比誘電率」について詳しくは後述する。
圧電デバイスは、第1圧電体層4と第2圧電体層5との間に、第1圧電体層4とも第2圧電体層5とも異なる材料を主材料とする中間層を備え、応力中立面20は、この中間層に位置していてもよい。
たとえば圧電デバイスは、第1圧電体層4と中間電極32の間に、第1圧電体層4とも第2圧電体層5とも異なる材料を主材料とする中間層を備えてもよい。この場合の中間層の材料は、絶縁材料であるSiN、SiO2、Al23などのいずれかであってもよい。応力中立面20は、この中間層に位置していてもよい。
本実施の形態における圧電デバイスは、中間電極32と第2圧電体層5との間に、第1圧電体層4とも第2圧電体層5とも異なる材料を主材料とする中間層を備えてもよい。この場合の中間層の材料は、ペロブスカイト構造を有する酸化物であるLaNiO3であってもよく、絶縁材料であるSiN、SiO2、Al23などのいずれかであってもよい。
中間層が厚すぎる場合には、中間層の存在により振動膜の振動が小さくなってしまうので、中間層の厚みは100nm以下であることが好ましい。
(AlN層/PZT層の積層順について)
積層順については、製造面での効果、設計面での効果が存在する。それぞれについて述べる。
1.製造面での効果
2層構造の層は基材1としてのSi層に近い側から、AlN層、PZT層の順に積層する。これを逆にすると高い温度で成膜するPZT層は粒子径が大きくなりがちで、PZT層の表面は一般的に粗くなる。このようなPZT層の上に重ねてAlN層を積層すると、AlN層の表面は粗くなってしまう。したがって、圧電性能が劣化する。したがって、基材1としてのSi層に対して、先にAlN層を形成し、次にPZT層を形成することが好ましい。
2.設計面での効果
次に、設計面について述べる。実施例Aとして、Siからなる基材の上に、基材に近い側からAlN層、PZT層の順に積層し、振動膜はAlN層、PZT層を主材料とした圧電デバイスを準備した。振動膜は外径20μmとし、PZT層、AlN層の厚みはいずれも1.0μmとした。
これに対する比較例Bとして、Siからなる基材の上に、基材に近い側からPZT層、AlN層の順に積層し、振動膜はAlN層およびPZT層を主材料とした圧電デバイスを準備した。振動膜は外径20μmとし、PZT層、AlN層の厚みはいずれも1.0μmとした。
実施例A、比較例Bのそれぞれに対して、共振周波数と、PZT層に一定の電圧を印加した場合の振動膜の振幅量と、振動子としての電気機械結合係数とを求めた。結果を表3に示す。なお、振幅量については、比較例Bの値を1.000として相対的に表現している。
表3から明らかなように、AlN層の上にPZT層が存在する実施例Aの圧電デバイスの場合、PZT層の上にAlN層が存在する比較例Bに比べて、共振周波数はほとんど変わらないにも関わらず、振幅は約1.5倍になっており、電気機械結合係数も高い。すなわち、PZT層とAlN層とを積層する順序によって圧電デバイスとしての特性が大きく異なってくる。
この違いが生じる原理としては以下のように考えられる。まず、実施例A、比較例B共に圧電デバイスとしては、屈曲振動による振動モードを利用している。このような振動モードでは、理論的には振動膜の根元の部分が振動しない節となる。しかしながら、実際は、圧電体膜が振動膜以外の部分にも延在しているので、振動が振動膜以外の部分に漏れた振動モードとなっている。そのような場合、仮に振動膜以外の部分であっても駆動している圧電膜を固定すると、振動阻害が起こり、振幅の減衰を招いてしまう。
比較例Bの場合、PZT層つまり駆動している圧電体膜が、AlN層とSiからなる基材とに挟まれた構造となっている。その結果、振動阻害が起こり、振幅の減衰を引き起こし、電気機械結合係数も低下する。一方で、実施例Aの場合には、駆動している圧電体膜は片面をAlN層で拘束されているのみとなる。したがって、振動阻害を最小限に抑えることができ、電気機械結合係数の低下も防ぐことができる。
以上のように、圧電体層の積層の順序としては、基材の上に、まず第1圧電体層4としてAlN層を形成し、その後でAlN層の上を覆うように第2圧電体層5としてPZT層を形成するようにした場合の方が、逆の順で積層する場合に比べて性能が優れているといえる。言い換えれば、第2圧電体層5の厚み方向の比誘電率は、第1圧電体層4の厚み方向の比誘電率よりも高いことが好ましい。
(変形例)
図8および図9を参照して、本発明に基づく実施の形態1における圧電デバイスの変形例について説明する。この変形例としての圧電デバイス101eの斜視図を図8に示す。図8におけるIX−IX線に関する矢視断面図を図9に示す。
圧電デバイス101では振動部3の外周の全てが上部層2のうち振動部3以外の部分とつながっていたが、圧電デバイス101eにおいては、振動部3の外周のうちの一部がスリット14となっている。上部層2のうち振動部3となっている部分は、上部層2のうち振動部3以外の部分とは接続部13を介して接続されている。この例では、接続部13は2ヶ所に設けられている。2ヶ所の接続部13は互いに対向する位置にある。上部電極33とパッド電極40とを電気的に接続する配線は、2つの接続部13のうち少なくとも1つを通過している。その他の構成は、圧電デバイス101について説明したものと同様である。本発明に基づく圧電デバイスは、圧電デバイス101eのような構成のものであってもよい。
(実施の形態2)
図10〜図18を参照して、本発明に基づく実施の形態2における圧電デバイスの製造方法について説明する。この製造方法は、実施の形態1で説明した圧電デバイスを得るために用いることができる製造方法である。
本実施の形態における圧電デバイスの製造方法は、主表面を有する基材を用意する工程と、前記主表面を部分的に覆うように、下部電極を形成する工程と、前記下部電極を覆うように、第1圧電体層を形成する工程と、前記第1圧電体層を部分的に覆うように、中間電極を形成する工程と、前記中間電極を覆うように、第2圧電体層を形成する工程と、前記第2圧電体層を部分的に覆うように、上部電極を形成する工程と、前記基材を部分的に除去することにより、前記下部電極、前記第1圧電体層、前記中間電極、前記第2圧電体層および前記上部電極の積層部分である上部層の一部として、前記基材に重ならない部分である振動部を形成する工程を含み、前記上部層においては、前記第1圧電体層および前記第2圧電体層が、前記振動部のうち前記振動部に延在しつつ前記上部層が前記基材に重なる部分に達するまで延在している。この製造方法に含まれる各工程について、以下に詳しく説明する。
まず、基材1としてのSi基板の上面に保護膜6となるAlN層を厚み100nm程度スパッタにより成膜する。こうして、図10に示すように、基材1の上面に保護膜6が形成されたものが得られる。保護膜6としてのAlN層は(001)方向に配向している。保護膜6の上面にモリブデンからなる下部電極31となる膜を、厚み100nmスパッタにより成膜し、パターニングする。こうして、図11に示す構造が得られる。その後、第1圧電体層4となるAlN層を厚み1μm程度成膜する。第1圧電体層4としてのAlN層は(001)方向に配向している。こうして、図12に示す構造が得られる。
中間電極32となるPt/Tiの積層膜を厚み100nm/10nm程度スパッタにより成膜する。「Pt/Tiの積層膜」とは、Ti膜を先に成膜し、このTi膜の上にPt膜を成膜して2層構造にしたものを意味する。この場合、Ti膜を厚み10nmだけ成膜し、その後でPt膜を厚み100nmだけ成膜する。第1圧電体層4としてのAlN層が(001)方向に配向しているので、AlN層の上にTi膜を介して形成されるPt膜も(111)方向に結晶性良く配向することができる。こうして、図13に示す構造が得られる。
第2圧電体層5としてPZT層を厚み1.1μm程度成膜する。PZTはゾルゲルもしくはスパッタにより成膜される。どちらのプロセスも高温700℃程度が必要になるが、保護膜6および第1圧電体層4として用いられているAlNは高い温度でも安定であり、また、膨張係数もSiに比較的近いので、問題はない。PZT層を形成する際の下地膜として作用するPt膜の結晶性が良いので、PZT層の結晶性も良くなる。こうして、図14に示す構造が得られる。
上部電極33として、Alなどの膜を厚み100nm程度成膜する。こうして、図15に示す構造が得られる。この時点で、基材1の上側に上部層2が出来上がっている。
図16に示すように、第2圧電体層5にエッチングを施すことにより貫通孔7を形成する。こうすることによって、貫通孔7の底に中間電極32が露出する。このとき、のちに形成される貫通孔8に相当する領域においても同時に第2圧電体層5に貫通孔を形成する。
図17に示すように、第1圧電体層4にエッチングを施すことにより貫通孔を形成する。これにより、第2圧電体層5および第1圧電体層4を一括して貫通する貫通孔8が形成される。貫通孔8の底に下部電極31が露出する。
貫通孔7,8をそれぞれ通じて、中間電極32および下部電極31の電気的な取出しを行なうことができる。
図18に示すように、基材1の裏面からDRIE(Deep Reactive Ion Etching)を行なうことにより、基材1に開口部9を形成する。こうすることによって、上部層2の一部として、基材1に重ならない部分である振動部3が得られる。
本実施の形態では、結晶性が良好で、平坦な構造で、特性が良好な圧電デバイスを得ることができる。
(実施の形態3)
図19を参照して、本発明に基づく実施の形態3における圧電デバイスについて説明する。本実施の形態における圧電デバイス102の断面を図19に示す。本実施の形態における圧電デバイス102の基本的な構成は、実施の形態1で説明した圧電デバイス101と同様であるが、以下の点で異なる。
本実施の形態では、中間電極は、下部電極31に近い側に配置された第1中間電極32aと、上部電極33に近い側に配置された第2中間電極32bとを含む。第1中間電極32aと第2中間電極32bとの間には、中間保護膜10が配置されている。
本実施の形態においても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。本実施の形態では、グランド電極を2つに分けることができるので、圧電デバイスを圧電トランスとして使用する場合には、絶縁型トランスとして使用することができる。
本実施の形態においては、応力中立面20は、中間電極32a、中間電極32b、あるいは中間保護膜10のいずれかに位置するか、あるいはこれらのうち複数にまたがるように存在することが好ましい。
(実施の形態4)
図20〜図30を参照して、本発明に基づく実施の形態4における圧電デバイスの製造方法について説明する。この製造方法は、実施の形態3で説明した圧電デバイスを得るためのものである。
まず、基材1としてのSi基板の上面に保護膜6となるAlN層を厚み100nm程度スパッタにより成膜する。こうして、図20に示すように、基材1の上面に保護膜6が形成されたものが得られる。保護膜6としてのAlN層は(001)方向に配向している。保護膜6の上面にモリブデンからなる下部電極31となる膜を、厚み100nmスパッタにより成膜し、パターニングする。こうして、図21に示す構造が得られる。その後、第1圧電体層4となるAlN層を厚み1μm程度成膜する。第1圧電体層4としてのAlN層は(001)方向に配向している。こうして、図22に示す構造が得られる。
中間電極32aとしてモリブデン膜を厚み100nm程度成膜し、パターニングする。こうして、図23に示す構造が得られる。中間保護膜10としてのAlN層を厚み100nm程度成膜する。こうして、図24に示す構造が得られる。このAlN層は(001)方向に配向している。その後、中間電極32bとしてのPt/Tiの積層膜を100nm/10nm程度スパッタにより成膜する。こうして、図25に示す構造が得られる。中間保護膜10としてのAlN層が(001)方向に配向しているので、中間電極32bの一部となるPt膜も(111)方向に結晶性良く配向することができる。
第2圧電体層5としてPZT層を厚み1.1μm程度成膜する。PZTはゾルゲルもしくはスパッタにより成膜される。どちらのプロセスも高温700℃程度が必要になるが、保護膜6および第1圧電体層4として用いられているAlNは高い温度でも安定であり、また、膨張係数もSiに比較的近いので、問題はない。PZT層を形成する際の下地膜として作用するPt膜の結晶性が良いので、PZT層の結晶性も良くなる。こうして、図26に示す構造が得られる。なお、中間電極32aとしてのモリブデン膜は、中間保護膜10としてのAlNで保護しておかないと、700℃という高温で昇華してしまうので、中間保護膜10は必須である。
上部電極33として、Alなどの膜を厚み100nm程度成膜する。こうして、図27に示す構造が得られる。この時点で、基材1の上側に上部層2が出来上がっている。
図28に示すように、第2圧電体層5にエッチングを施すことにより貫通孔7bを形成する。こうすることによって、貫通孔7bの底に中間電極32bが露出する。このとき、のちに形成される貫通孔7a,8に相当する領域においても同時に第2圧電体層5に貫通孔を形成する。
図29に示すように、中間保護膜10にエッチングを施すことにより貫通孔7aを形成する。こうすることによって、貫通孔7aの底に中間電極32aが露出する。このとき、のちに形成される貫通孔8に相当する領域においても同時に中間保護膜10に貫通孔を形成する。中間保護膜10と第1圧電体層4とは、いずれもAlNで形成されているので、中間保護膜10に貫通孔を形成する際に、引き続き第1圧電体層4に貫通孔を形成することができる。こうして、図29に示すように貫通孔8が形成される。貫通孔8の底に下部電極31が露出する。
貫通孔7b,7a,8をそれぞれ通じて、中間電極32b、中間電極32aおよび下部電極31の電気的な取出しを行なうことができる。
図30に示すように、基材1の裏面からDRIE(Deep Reactive Ion Etching)を行なうことにより、基材1に開口部9を形成する。こうすることによって、上部層2の一部として、基材1に重ならない部分である振動部3が得られる。
(実施の形態5)
図31を参照して、本発明に基づく実施の形態5における圧電デバイスについて説明する。本実施の形態における圧電デバイス103の断面を図31に示す。本実施の形態における圧電デバイス103の基本的な構成は、実施の形態1で説明した圧電デバイス101と同様であるが、以下の点で異なる。
第1圧電体層4と第2圧電体層5との間には中間保護膜10が介在している。中間電極32は、第2圧電体層5の上面を部分的に覆うように形成されている。中間電極32はモリブデンによって形成されている。中間保護膜10は、中間電極32を覆っている。中間保護膜10はAlNによって形成されている。中間保護膜10としてのAlN層は(001)配向している。
本実施の形態においても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。本実施の形態では、中間保護膜10としてのAlN層は(001)配向しているので、第2圧電体層5としてのPZT層を形成する際にシード層として機能しうる。したがって、良好なPZT層が形成できる。またPZT層の絶縁特性を改善できる。
本実施の形態では、モリブデンによって形成された中間電極32を備えている。高価なPt膜を使う必要がなく、Ptに比べて抵抗率の低いモリブデンの膜を使用することができている。これによって、特性が向上する。本実施の形態においては、応力中立面20は、中間電極32または中間保護膜10に位置することが好ましい。
(実施の形態6)
図32〜図41を参照して、本発明に基づく実施の形態6における圧電デバイスの製造方法について説明する。この製造方法は、実施の形態5で説明した圧電デバイスを得るためのものである。
まず、基材1としてのSi基板の上面に保護膜6となるAlN層を厚み100nm程度スパッタにより成膜する。こうして、図32に示すように、基材1の上面に保護膜6が形成されたものが得られる。保護膜6としてのAlN層は(001)方向に配向している。保護膜6の上面にモリブデンからなる下部電極31となる膜を、厚み100nmスパッタにより成膜し、パターニングする。こうして、図33に示す構造が得られる。その後、第1圧電体層4となるAlN層を厚み1μm程度成膜する。第1圧電体層4としてのAlN層は(001)方向に配向している。こうして、図34に示す構造が得られる。
中間電極32としてモリブデン膜を厚み100nm程度成膜し、パターニングする。こうして、図35に示す構造が得られる。中間保護膜10としてのAlN層を厚み100nm程度成膜する。こうして、図36に示す構造が得られる。このAlN層は(001)方向に配向している。
これらのAlN層やモリブデン膜は、通常、スパッタリング法で400℃未満の温度で成膜するものである。
上述のすべてのAlN層は(001)配向とよばれる向きに配向している。中間保護膜10も(001)配向している。中間保護膜10は、第2圧電体層5としてのPZT層のシード層として機能する。このシード層上にPZT層を形成する際には成膜条件をコントロールすることでPZT層は(001)や(111)の方向に配向しやすい。PZT層はスパッタ法あるいはゾルゲル法で成膜されるのが通常である。こうして、第2圧電体層5が形成されることにより、図37に示す構造が得られる。
第2圧電体層5の上面に上部電極33が成膜され、パターニングされる。こうして、図38に示す構造が得られる。
図39、図40および図41に示すように、ウェットエッチングやドライエッチングなどが適宜行なわれ、中間電極32および下部電極31が貫通孔7,8の底に露出する。
(実施の形態7)
図42を参照して、本発明に基づく実施の形態7における圧電デバイスアレイについて説明する。本実施の形態における圧電デバイスアレイ201の断面を図42に示す。圧電デバイスアレイ201の平面図を図43に示す。
本実施の形態における圧電デバイスアレイ201は、これまでに説明したいずれかの圧電デバイスを複数個配列したものである。
図42には複数の開口部9が示されているが、この1個の開口部9が図2などに示していた開口部9に相当する。1個の開口部9の範囲内で基材1に重ならずに存在する部分が振動部3に相当する。図43に示すように、圧電デバイスアレイ201においては、5×5の25個の振動部3が配列されている。ただし、この配列の個数、配列パターンはあくまで一例であって、この通りとは限らない。
本実施の形態では、アレイ型としているので、圧電素子としての性能が向上する。超音波素子として利用した場合には音圧が向上する。圧電トランスとして使用した場合には、電力容量を大きくすることができる。特にメンブレン径が小さく高周波の圧電素子を密集して配置させることが望まれる場合には、このようにアレイ化することが有効である。
(実施の形態8)
高周波の圧電素子の場合、振動子の直径が小さいので、これまでに説明してきた製造方法では、Siからなる基材1の上側と下側のアライメント精度を保つことが極めて困難で、電極の位置ずれなどが発生しやすく、素子間のばらつきが大きくなる傾向があった。したがって、効率の良い圧電素子、設計通りの圧電素子を作製することが極めて困難であった。
本実施の形態で示したように、圧電デバイスアレイとして製造すれば、この問題を克服することができる。
図44〜図50を参照して、本発明に基づく実施の形態8における圧電デバイスアレイの製造方法について説明する。この製造方法は、実施の形態7で説明した圧電デバイスアレイを得るためのものである。
まず、製造方法の第1の段階について説明する。断面図を図44に示し、平面図を図45に示す。まず、シリコン(Si)基板である基材1の上面に開口部9に相当する穴を形成する。開口部9は、必要な共振周波数が実現できるようなサイズ(たとえば直径20μm〜100μm程度)で設計されている。その後、基材1の上面に蓋基板11を重ねる。蓋基板11は基材1とは別に用意されたシリコン基板である。このようにして開口部9を有しながら開口部9の出口が蓋基板11でふさがれた基板は、一般的にキャビティSOI(Silicon on Insulator)と呼ばれることもある。本実施の形態では、蓋基板11の厚みは10μm〜50μmとする。開口部9の深さは50〜100μm程度である。
製造方法の第2の段階について説明する。断面図を図46に示し、平面図を図47に示す。図11〜図17を参照して説明したのと同様の方法で、保護膜6、第1圧電体層4、中間保護膜10、第2圧電体層5、および上部電極33を含む上部層2を形成する。貫通孔7b,7a,8が形成され、これらの底に、中間電極32b,32aおよび下部電極31がそれぞれ露出する。なお、下部電極31、中間電極32および上部電極33に関しては、複数の圧電素子にまたがるように形成してもよいが、複数の圧電素子をそれぞれ独立して駆動またはセンシングすることができるように電圧印加または検出をするために、1つまたは複数の圧電素子ごとに他の圧電素子と電気的に絶縁されるように形成してもよい。
製造方法の第3の段階について説明する。断面図を図48に示し、平面図を図49に示す。基材1の裏面からDRIE(Deep Reactive Ion Etching)を行なうことにより、大開口部19を形成する。これにより、元々基材1内に形成されていた開口部9が下側に対して開放される。大開口部19の中に複数の開口部9が配列された状態となる。
製造方法の第4の段階について説明する。断面図を図50に示す。裏面からDRIEを行なうことにより、開口部9を通じて露出していた蓋基板11を除去する。こうして、開口部9の上端には、蓋基板11ではなく保護膜6が露出することとなる。こうして、図42に示した構造、すなわち圧電デバイスアレイ201が得られる。各開口部9の領域では、上部層2は振動部となる。
このような製造方法を採用することにより、アライメント精度の良い、設計通りの素子を形成することができる。
このように圧電デバイスをアレイ化することによって、特性が向上する。たとえば圧電トランスデューサーであれば、音圧を高めることができる。また、各圧電素子を独立して制御できれば、ビームフォーミング、フォーカシングを行なうことができる。本実施の形態で説明したような圧電デバイスアレイを圧電トランスとして用いる場合であれば、変換電力を向上させることができる。
本実施の形態で説明したような製造方法によって、圧電デバイスアレイを作製することによって、周波数を上げながらも、小型化とアレイ化とが両立でき、デバイスの良好な特性が維持できる。
(超音波トランスデューサ―)
圧電体およびMEMS技術を応用した超音波トランスデューサー(pMUT:Piezoelectric Micromachined Ultrasound Transducer)について説明する。pMUTのデバイス特性の一つとして送受信感度があり、これを高めることがしばしば要求される。送受信感度を高めるためには、送信機能における感度および受信機能における感度との積を高める必要がある。そのためには具体的には以下のようなことが求められる。
(要求1) 送信の際、圧電体へ印加する電圧に対して振動部をより大きく振動させることで、発生する超音波の音圧を高める。このためには、圧電d定数の高い材料を用いればよい。
(要求2) 受信の際、受ける超音波の音圧に対して振動部がより大きく振動することで、生じる電荷を多くする。このためには、振動部を薄くすることによって単位応力当たりの振動がより大きくなるようにすればよい。
(要求3) 受信の際、圧電体に生じた電荷をより良いS/Nで検知する。このためには、圧電d定数を誘電率で除した値(圧電g定数)がより高い材料を用いればよい。
一般的に、圧電d定数が高い材料は厚み方向の比誘電率も高い傾向があるので、1種類の材料のみで要求1,2を同時に満たすことができるような圧電体材料は存在しない。このような観点から、送信用pMUTの圧電体材料には圧電d定数が高い、すなわち、厚み方向の比誘電率が高い材料を用い、受信用pMUTの圧電体材料には厚み方向の比誘電率が低い材料を用いるということが考えられる。
そこで、2種類の異なる圧電体材料を積層して振動部を形成することとし、これら2種類のうち一方を厚み方向の比誘電率が大きい材料とし、もう一方を厚み方向の比誘電率が小さい材料とすれば、要求1,2を同時に実現することができる。
特に、一般的なMEMS技術で上記構造を作製する場合、得られる圧電体がAlN系、ZnO系およびGaN系からなる群に属する場合は、厚み方向の比誘電率は5〜20程度である。得られる圧電体がPZT系、KNN系、BT系およびBiアルカリチタン系からなる群に属する場合は、厚み方向の比誘電率は500〜2000程度である。圧電d定数のうちd31は、前者の群では−1〜−15pm/V程度、後者の群では−50〜−200pm/V程度であり、d33は、d31の約2倍の値である。したがって、受信用pMUTの圧電体材料には前者の群に属する材料を、送信用pMUTの圧電体材料には後者の群に属する材料を用いることが望ましい。これらを組み合わせることによって上述のような構造が実現可能となる。
要求1,2を共に良好に満たすためには、たとえば、第1圧電体層の厚み方向の比誘電率と、前記第2圧電体層の厚み方向の比誘電率とを比較したとき、いずれか一方が他方に比べて50倍以上となることが好ましい。前者の群に属する圧電体材料と、後者の群に属する圧電体材料とを用いて積層構造とすれば、このような条件を満たすことができる。
以上より、圧電デバイスにおいて、前記第1圧電体層および前記第2圧電体層のうち厚み方向の比誘電率が低い方の圧電体層は、AlN系、ZnO系およびGaN系からなる群から選択されるいずれかの圧電体を主材料とし、前記第1圧電体層および前記第2圧電体層のうち厚み方向の比誘電率が高い方の圧電体層は、PZT系、KNN系、BT系およびBiアルカリチタン系からなる群から選択されるいずれかの圧電体を主材料とすることが好ましい。
(実施の形態9)
本発明に基づく実施の形態9における圧電トランスは、上述のいずれかの実施の形態で説明した圧電デバイスまたは圧電デバイスアレイを備える。
本発明に基づく圧電デバイスまたは圧電デバイスアレイを、圧電トランスとして使用する場合について説明する。このような技術の適用例としてエネルギーハーベスティングの分野がある。無線のセンサネットワークには、無線センサ素子を駆動させるのに必要な電力を自然界から発電し供給するようなシステムが考案されている。このようなシステムにおいて発電の役割を担うものとしては、熱エネルギーを電力に変換する熱電素子や、光エネルギーを電力に変換する光発電素子などがある。しかしながらそれらから発生する電圧は数10mVから数100mV程度であり、そのままではICを駆動することができない。それらのシステムでは通常、巻き線の昇圧トランスが使用される。このような箇所に圧電トランスが使用できれば巻き線のトランスに比べてより高効率かつ小型な素子で電圧変換することが可能になる。
本発明に基づく圧電デバイスまたは圧電デバイスアレイを備える圧電トランスの使用方法について述べる。まず、PZT層に、自然界で発電されたDC電圧(たとえば100mV程度)が共振周波数でチョッピングされて入力される。その際、PZT層は電気機械結合係数が大きく、誘電率も高いので、大きなエネルギーを蓄えることができる。この振動部がベンディングモードで共振駆動されると、このPZT層に対向して存在するAlN層は大きくひずみ、結果としてエネルギーが機械電気変換されAlN層から電気エネルギーとして取り出される。仮に効率が100%だとするとPZT層に蓄えられた電気エネルギーおよび振動部の振動エネルギーがすべてAlN層において電気エネルギーとして変換されて取り出される。その際、AlN層の誘電率はPZT層に比べて小さいので、AlN側ではより高い電圧として取り出すことが可能になる。
ここで、「PZT層」は、PZT系、KNN系、BT系およびBiアルカリチタン系からなる群に属する材料で形成し、「AlN層」は、AlN系、ZnO系およびGaN系からなる群に属する材料で形成すれば、これら2つの層の間の誘電率の差を大きくすることができる。
図51および図52に有限要素法による第1の計算例を示す。第1の計算例では、振動部の外径が500μmで、PZT層が上側、AlN層が下側であるものとし、PZT層とAlN層との厚みがそれぞれ1μmであるものとした。なお、PZT層およびAlN層は、いずれも厚み方向に分極しているものとした。下部電極はMoからなり、中間電極はPtからなり、上部電極はAuからなるものとし、これらの電極の厚みはそれぞれ100nmであるものとした。中間電極は全面に張られた電極とし、下部電極および上部電極は直径300μmの円形で形成されているものとした。下部電極と中間電極との間は、負荷を接続せず開放しているものとした。このような圧電素子の上部電極に1Vを入力し、中間電極をグランド電極とし、AlN層の側に設けられた電極すなわち下部電極の電位を計算した。計算は振動部の全ての材料(AlN膜、PZT膜、電極)のQm(機械的品質係数)を200とした場合と、2200とした場合との2通りについて計算した。第1の計算例では、PZTおよびAlNの材料定数のうちQm以外については、それぞれ表4に示す値を用いた。
Qm=200の場合の計算結果を図51に示す。Qm=2200の場合の計算結果を図52に示す。これらのグラフからは、Qm=200の場合には約20V、Qm=2200の場合には約200Vの電圧がAlN層の側からそれぞれ取り出せることがわかる。昇圧比としては20および200がそれぞれ達成できており、圧電トランスとして機能していることがわかる。
有限要素法による第2の計算例を示す。第2の計算例では、図1および図2に示した圧電デバイス101のような構造であって、振動部が外径270μmの円形であり、PZT層が上側であり、AlN層が下側であるものとし、PZT層およびAlN層の厚みを変えながら、圧電トランスとしての性能を有限要素法によって算出した。なお、PZT層およびAlN層は、いずれも膜厚方向に分極しているものとした。下部電極はMoからなり、中間電極はPtからなり、上部電極はAuからなるものとして、各電極の厚みはそれぞれ100nmであるものとした。中間電極、下部電極および上部電極はそれぞれ直径160μmの円形で形成されているものとした。
各電極が厚すぎる場合には、振動部の振動が小さくなってしまったり、残留応力が強くなって他の膜への悪影響を及ぼしたりするので、各電極の厚みは300nm以下であることが好ましい。空気抵抗による振動阻害および発熱の影響は無視した。
第2の計算例では、PZTおよびAlNの材料定数については、それぞれ表4に示す値を用いた。
第2の計算例では、水準A−6〜A−1,A−0,A+1〜A+6の合計13通りについて計算を行なった。その結果を表5に示す。
水準A−6〜A+6では、PZT層とAlN層との厚みの比が0.18〜2.00の間となるように膜厚比を設定し、いずれの水準においても、振動部に同じ圧力を印加した際に同じだけ変位するようにその全体膜厚を決定している。
上述のような前提で、上部電極に入力電圧として1Vの電圧を加えた際の下部電極に出力される電圧、およびその際の出力電力および入力電力を導出した。さらに、「昇圧比」として出力電圧/入力電圧を導出した。「電力伝送効率」として出力電力/入力電力を導出した。なお、各水準において、下部電極と中間電極の間には、インピーダンス整合するように負荷を接続している。
なお、PZT層とAlN層との厚みの合計が約2μmとなっているが、同じ比率で厚みを2倍、3倍としても同様の傾向が成り立つことは確認済である。ここでは入力電圧を1Vとしているが、さらに低い電圧、たとえば1mVとしても同様の傾向が成り立つ。
表5に示した計算結果に基づいて、PZT厚み/AlN厚みを横軸にとり、昇圧比を左の縦軸にとり、電力伝送効率を右の縦軸にとって、これらの関係をグラフ化したものを図55に示す。
図55から明らかなように、PZT厚み/AlN厚みによって昇圧比は変化する。特に、PZT厚みとAlN厚みとを等しくした場合、すなわち、PZT厚み/AlN厚み=1.0の場合に比べて、PZT厚み/AlN厚み<1.0の領域において昇圧比が向上していることがわかる。したがって、PZT厚み/AlN厚み<1.0とすることが好ましい。この構成では、第1圧電体層4および第2圧電体層5のうち厚み方向の比誘電率が高い方の圧電体層が、前記厚み方向の比誘電率が低い方の圧電体層よりも薄いということになる。
PZT厚み/AlN厚み<0.55では、PZT厚み/AlN厚み=1.0の場合に比べて昇圧比が逆に減少してしまう。これには、図4に示したように、AlN層内部に応力中立面20が存在し、異なる方向の面内応力が分布することが主な要因となっている。通常、AlN層には面内応力に応じた大きさおよび符号の電荷が発生し、その結果、電圧を出力することができるが、上述のように面内応力が打ち消し合う方向であれば、発生した電荷も同様に打ち消し合ってしまう。したがって、PZT厚み/AlN厚み≧0.55とすることが好ましい。厚み方向の比誘電率が高い方の圧電体層の厚みをaとし、厚み方向の比誘電率が低い方の圧電体層の厚みをbとすると、a/bが0.55以上であることが好ましい。
さらに、図55から明らかなように、PZT厚み/AlN厚みによって電力伝送効率は変化する。特に、PZT厚みとAlN厚みとを等しくした場合、すなわち、PZT厚み/AlN厚み=1.0の場合に比べて、PZT厚み/AlN厚み>1.0の領域において電力伝送効率が向上していることがわかる。したがって、PZT厚み/AlN厚み>1.0とすることが好ましい。PZT厚み/AlN厚みの値を大きくしていくということは、PZT厚みを厚くして、AlN厚みを薄くしていくことに相当する。この構成では、第1圧電体層4および第2圧電体層5のうち厚み方向の比誘電率が低い方の圧電体層は、厚み方向の比誘電率が高い方の圧電体層より薄いということになる。
圧電体を薄膜として用いる際は、一般的に0.5〜4.0μmの膜厚が適切であり、それ以外の範囲では圧電特性が劣化したり、膜質が低下するという傾向がある。したがって、PZT厚み/AlN厚みの値としては4.0μm/0.5μm=8が上限であり、これ以上の値になるような組合せとしても十分な性能を得ることができない。したがって、PZT厚み/AlN厚み≦8.0とすることが好ましい。
(中間電極2層構造)
AlN層の内部に第1中間電極を設け、PZT層とAlN層の境界に第2中間電極を設けた構造(以下「中間電極2層構造」ともいう。)を利用すると、より良い電力伝送効率が得られる。中間電極2層構造については、実施の形態3でも説明したが、ここでは、より詳しく計算した結果結果について説明する。
中間電極2層構造においては、入力側、すなわちPZT層へは上部電極と第2中間電極との間に電圧を印加し、出力側、すなわちAlN層からは下部電極と第1中間電極との間から電圧を取り出すことになる。第1中間電極と第2中間電極との間にもAlN層が存在するが、この層は圧電体としては機能しない。この構成がもたらす効果について、以下のように検証した。
まず、PZT層の厚みおよびAlN層の厚みは表5の水準A−5、A−3、A−0と同じとし、AlN層の内部に第1中間電極、PZT層とAlN層との境界に第2中間電極を設けた。なお、PZT層およびAlN層は、いずれも厚み方向に分極しているものとした。下部電極はMoからなり、第1中間電極はMoからなり、第2中間電極はPtからなり、上部電極はAuからなるものとして、これらの電極の厚みはそれぞれ100nmであるものとした。第1中間電極、第2中間電極、下部電極および上部電極の外形はそれぞれ直径160μmの円形とした。
ここで、AlN層全体の厚みを一定に保ちつつ、第1中間電極が存在する膜厚方向の位置を変えながら、中間電極が1層のみである場合の計算と同様にして計算した。結果を表6に示す。表6の計算例では、PZTおよびAlNの材料定数については、それぞれ表4に示す値を用いた。
ここで得られた電力伝送効率について、中間電極が1層のみである場合の結果と合わせて図56に示す。図56より、AlN層内に応力中立面が存在する場合においても中間電極2層構造にすれば高い電力伝送効率を得られることがわかる。
以上より、少なくともPZT厚み/AlN厚み≦1.09の関係が満たされる範囲においては、中間電極2層構造を採用することが好ましい。
(圧電トランスの適用例)
本発明に基づく圧電トランスの適用例としては、上述のようなエネルギーハーベスティングの分野以外にも、高電圧が必要な静電MEMSアクチュエータやハプティクス用の圧電セラミックスの駆動用のトランスなども考えられる。さらに、マイクロプラズマ源のプラズマ発生用装置の電圧源、キセノンフラッシュの電圧源としての応用も可能である。
本実施の形態における圧電トランスは、巻き線のトランスに比べて小型であり、低背化が可能であり、高効率である。本実施の形態によれば、昇圧比が大きく、変換電力の大きな圧電トランスを実現することができる。
本実施の形態における圧電トランスは、巻き線のトランスとは異なり、磁気ノイズも発生しない。
(アレイ化)
圧電デバイスアレイを備える圧電トランスでは、容量を増大させることができるので、インピーダンスを低くすることができる。以下では、1個の振動部を備える部分を「圧電トランス素子」と呼ぶこととする。以下では、圧電トランス素子のことを略して単に「素子」ともいう。
圧電デバイスアレイを設計するに当たっては、たとえば、図1に示したような円形状の振動部を備える圧電トランス素子をアレイ化してもよいし、図57に示したような正方形状の振動部を備える圧電トランス素子をアレイ化してもよい。図57におけるLVIII−LVIII線に関する矢視断面図を図58に示す。図57および図58では、上部電極33を示しているが、中間電極、下部電極、第1圧電体層、第2圧電体層および保護膜は図示省略し、上部層2としてまとめて簡略化して表示している。図57および図58では、中間電極および下部電極をそれぞれ露出させる貫通孔も図示省略している。
なお、これらの圧電トランス素子は、1つの振動部につき振動の腹が1つである基本振動モードを用いて駆動する。この場合の振動部の振動形状については、図59に示す。図59では、説明の簡潔化のために基材1および振動部3のみを示し、他の構造は省略している。このことは、振動形状に関する以下の図においても同様である。
1素子当たりのサイズを小さくしても1素子当たりのインピーダンスは変わらないので、1素子のサイズを出来る限り小さくして、アレイ数を増やせば単位面積当たりのインピーダンスを大きく低減することができる。
(圧電デバイスアレイにおける振動漏れ問題への対処)
振動部の屈曲振動を利用した振動モードでは、駆動時に図60に示すように、振動部3の外側すなわち基材1の方へ振動漏れが生じてしまうという問題がある。図60では、理論上の振動のあるべき姿を曲線60で示している。振動部3においては、この振動に従ってある程度変形可能であるので、振動として存在しうるが、基材1においては、ほとんど変形できないので、振動エネルギーは基材1を通じて漏れてしまう。このようなエネルギーのロスを、以下では「振動漏れ」と呼ぶこととする。
このように漏れた振動エネルギーは周辺の圧電トランス素子の振動にとって妨げとなりうる。たとえば図43に示したようなアレイ構造で圧電トランスを駆動した場合、図61に示すようになる。図61では、互いに隣接する2つの振動部として振動部3a,3bに注目している。振動部3aに生じた振動は、曲線61に示す振動を周辺にも伝播させようとする。振動部3bに生じた振動は、曲線62に示す振動を周辺にも伝播させようとする。曲線61と曲線62とは互いに逆位相であるので、互いに妨げとなる。このような理由で、各素子から生じる振動漏れがそれぞれ隣りに配置される素子の振動にとって妨げとなりえ、圧電デバイスアレイとして十分に機能を発揮することができない場合がありうる。
以上のような背景から、圧電デバイスアレイを実現しようとするときには、次の(1)〜(3)に示すようにすることが好ましい。
(1) 図62に示すように、互いに隣り合う素子の電極には、互いに逆位相かつ同じ周波数の交流電圧が印加されるように配線を施す。上部層2の上面に2つのパッド電極45,46が設けられており、上部電極33がパッド電極45に接続された振動部3と、上部電極33がパッド電極46に接続された振動部3とが、交互に並んでいる。圧電デバイスアレイを駆動する際には、パッド電極45,46にはそれぞれ異なる電位を印加する。たとえばパッド電極45に+、パッド電極46に−の電位を与える。あるいは、互いに隣り合う素子同士で、印加する交流電圧の位相を同じにする場合には、互いに隣り合う素子同士では分極状態を反転させておく。図62におけるLXIII−LXIII線に関する矢視断面図を図63に示す。
(2) 上述のように構成された圧電デバイスアレイを用いて、互いに隣り合う素子は互いに逆位相となるように駆動する。
(3) なお、素子間に存在する支持部の幅は、素子構造の強度を損なわない範囲で出来る限り狭くし、素子間ピッチを短くすることが好ましい。
このようにすることで、振動漏れによって各素子間で互いに振動を弱め合うことを防ぐことができる。むしろ逆に、図64に示すように、互いに振動を強め合うようにすることができる。このような構成および駆動方法を採用することにより、各素子を独立させて駆動するのではなく、アレイ全体をあたかも1つの振動体であるかのように駆動することができる。そのため、デバイスとしての電気機械変換効率が良くなる。
なお、このような駆動方法は、超音波トランスデューサー用途では通常利用できない。なぜなら、超音波トランスデューサーは、たとえ複数の素子をアレイ状に配置しているとしても同時に同じ向きに音圧を発生させることが主たる機能として求められるからである。互いに逆位相で駆動されている振動部が混在していると、発生する音圧を弱め合うことになってしまうので、逆効果となる。したがって、上述のように互いに隣り合う素子は互いに逆位相となるように駆動するという方法は圧電トランス用途に特有のものといえる。
(保護膜の厚み)
圧電デバイス101,101e,102,103はそれぞれ振動部3の下面に保護膜6を備えていた。保護膜6の好ましい厚みについて述べる。圧電デバイスにおいて、保護膜6の厚みは、振動部3の厚みの8%以下であることが好ましい。
以下、圧電デバイス101を例にとって説明する。圧電デバイス101は、既に説明したとおり、上から順に、Ptからなる上部電極33、PZTからなる第2圧電体層5、Ptからなる中間電極32、AlNからなる第1圧電体層4、Ptからなる下部電極31、AlNからなる保護膜6が積層した構造である。PZT層およびAlN層は、いずれも厚み方向に分極しているものとした。この構造において、上部電極33、中間電極32、下部電極31の厚みをそれぞれ100nmとした。図53に示すように、第2圧電体層5の厚みをtPZTとし、第1圧電体層4の厚みをtAlNとし、保護膜の厚みをtbarとした。この圧電デバイス101における振動部3の径は500μmとし、上部電極33と下部電極31とは、それぞれ振動部3の面積の6割をカバーするように径を設定した。
(tPZT,tAlN)=(1.1μm,0.9μm),(2.2μm,1.8μm)の2通りの組合せに対して、tbarを0nm,20nm,40nm,…,980nmと変化させた。それぞれの組合せにおいて、PZT圧電体によって駆動し、AlN圧電体によって検出することとした場合の送受信の効率について計算した。その結果を図54に示す。この計算例では、PZTおよびAlNの材料定数については、それぞれ表4に示す値を用いた。
グラフの横軸の「保護膜膜厚/振動膜総厚」とは、tbar/(100nm+tPZT+100nm+tAlN+100nm+tbar)×100の値である。「振動膜総厚」とは、言い換えれば振動部3の厚みである。
グラフの縦軸は、tbar=0nmにおける変位量を100として相対値で表記している。
図54に示されるように、AlNからなる保護膜6の厚みが振動膜総厚の8%を超えたあたりから送受信効率が半分に落ちる。このことから、保護膜6の厚みは、振動部3の厚みの8%以下であることが好ましいといえる。
仮に振動部3の厚みの8%より大きい保護膜6が存在する場合、送受効率が50%以下となる。すると、送受信効率を100%の場合と同等に保つためには、PZT層側に入力する電圧を2倍にする必要がある。
一般的に、携帯電話などウェアラブルデバイスへの搭載を前提とすると、電源電圧は3.3Vが使われる場合が多い。もしこの電圧を2倍にしようとすると、チャージポンプ回路やスイッチングレギュレータなどの昇圧回路が必要となる。これらを使うことは、電源効率低下やスイッチングノイズの混入、また、占有面積の増加、コストアップをもたらすので好ましくない。さらに、PZT層は一般的には抗電界が3V/μm程度である。tPZT=1.1μmの場合にはAC6.6Vppの入力では、PZT層に対して抗電界付近あるいはこれを超えて電圧をかけることになる。こうなると、PZT層の動作が不安定になる上、信頼性の観点でも好ましくない。
したがって、保護膜膜厚は振動部の厚みの8%以下として、効率が50%以下にならないような厚みとすることが好ましい。
ここでは、圧電デバイスの構造における好ましい保護膜の厚みについて述べたが、圧電デバイスの製造方法においても同様のことがいえる。上記各実施の形態で説明した圧電デバイスの製造方法において、基材1の主表面が保護膜6によって覆われており、保護膜6の厚みは、振動部3の厚みの8%以下であることが好ましい。
上記各実施の形態で説明した圧電デバイスの製造方法において、第1圧電体層4は、AlN系、ZnO系、GaN系からなる群から選択されるいずれかの圧電体を主材料とし、第2圧電体層5は、PZT系、KNN系、BT系、Biアルカリチタン系からなる群から選択されるいずれかの圧電体を主材料とすることが好ましい。
なお、上記実施の形態のうち複数を適宜組み合わせて採用してもよい。
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
1 基材、2 上部層、3,3a,3b 振動部、4 第1圧電体層、5 第2圧電体層、6 保護膜、7,7a,7b,8 (圧電体層にあけられた)貫通孔、9 (基材にあけられた)開口部、10 中間保護膜、11 蓋基板、13 接続部、14 スリット、19 大開口部、20 応力中立面、31 下部電極、32 中間電極、32a 第1中間電極、32b 第2中間電極、33 上部電極、40,41,42,43,44 パッド電極、51 (基材に重ならない)部分、52 (基材に重なる)部分、60,61,62 曲線、101,101e,102,103 圧電デバイス、201 圧電デバイスアレイ。

Claims (21)

  1. 基材と、
    前記基材によって支持された上部層とを備え、
    前記上部層は、前記上部層のうち前記基材に重ならない部分である振動部を含み、
    前記振動部は、厚み方向に互いに離隔して配置された下部電極、中間電極および上部電極を含み、
    前記上部層は、前記下部電極および前記中間電極によって少なくとも一部が挟み込まれるように配置された第1圧電体層と、前記第1圧電体層に重なるように配置されつつ前記中間電極および前記上部電極によって少なくとも一部が挟み込まれるように配置された第2圧電体層とを含み、
    前記第1圧電体層および前記第2圧電体層は、前記上部層のうち前記振動部に延在しつつ前記上部層が前記基材に重なる部分に達するまで延在し、
    前記第1圧電体層と前記第2圧電体層とでは厚み方向の比誘電率が互いに異なる、圧電デバイス。
  2. 前記第1圧電体層の厚み方向の比誘電率と、前記第2圧電体層の厚み方向の比誘電率とを比較すると、いずれか一方が他方に比べて50倍以上である、請求項1に記載の圧電デバイス。
  3. 前記第1圧電体層および前記第2圧電体層のうち厚み方向の比誘電率が低い方の圧電体層は、AlN系、ZnO系およびGaN系からなる群から選択されるいずれかの圧電体を主材料とし、
    前記第1圧電体層および前記第2圧電体層のうち厚み方向の比誘電率が高い方の圧電体層は、PZT系、KNN系、BT系およびBiアルカリチタン系からなる群から選択されるいずれかの圧電体を主材料とする、請求項1または2に記載の圧電デバイス。
  4. 前記第2圧電体層の厚み方向の比誘電率は、前記第1圧電体層の厚み方向の比誘電率よりも高い、請求項3に記載の圧電デバイス。
  5. 前記第1圧電体層と前記第2圧電体層との間に応力中立面を有する、請求項1から3のいずれかに記載の圧電デバイス。
  6. 前記応力中立面は、前記中間電極に位置している、請求項5に記載の圧電デバイス。
  7. 前記第1圧電体層および前記第2圧電体層のうち厚み方向の比誘電率が低い方の圧電体層は、厚み方向の比誘電率が高い方の圧電体層より薄い、請求項5に記載の圧電デバイス。
  8. 前記第1圧電体層と前記第2圧電体層との間に、前記第1圧電体層とも前記第2圧電体層とも異なる材料を主材料とする中間層を備え、前記応力中立面は、前記中間層に位置している、請求項5に記載の圧電デバイス。
  9. 前記中間電極は、前記下部電極に近い側に配置された第1中間電極と、前記上部電極に近い側に配置された第2中間電極とを含み、
    前記応力中立面は、前記第1中間電極もしくは前記第2中間電極に位置しているか、または前記第1中間電極と前記第2中間電極との間に位置している、請求項5に記載の圧電デバイス。
  10. 前記第1圧電体層および前記第2圧電体層のうち前記厚み方向の比誘電率が高い方の圧電体層が、前記厚み方向の比誘電率が低い方の圧電体層よりも薄い、請求項3に記載の圧電デバイス。
  11. 前記厚み方向の比誘電率が高い方の圧電体層の厚みをaとし、前記厚み方向の比誘電率が低い方の圧電体層の厚みをbとすると、a/bが0.55以上である、請求項10に記載の圧電デバイス。
  12. 前記第1圧電体層および前記第2圧電体層のうち厚み方向の比誘電率が低い方の圧電体層が、前記厚み方向の比誘電率が高い方の圧電体層より薄い、請求項3に記載の圧電デバイス。
  13. 前記中間電極は、前記下部電極に近い側に配置された第1中間電極と、前記上部電極に近い側に配置された第2中間電極とを含む、請求項1から3のいずれかに記載の圧電デバイス。
  14. 前記下部電極の下面を覆う保護膜を備える、請求項1から3のいずれかに記載の圧電デバイス。
  15. 前記保護膜の厚みは、前記振動部の厚みの8%以下である、請求項14に記載の圧電デバイス。
  16. 前記第1中間電極と前記第2中間電極との間には、中間保護膜が配置されている、請求項9または13に記載の圧電デバイス。
  17. 請求項1から4のいずれかに記載の圧電デバイスを複数個配列した、圧電デバイスアレイ。
  18. 請求項1から4のいずれかに記載の圧電デバイスまたは請求項17に記載の圧電デバイスアレイを備える、圧電トランス。
  19. 主表面を有する基材を用意する工程と、
    前記主表面を部分的に覆うように、下部電極を形成する工程と、
    前記下部電極を覆うように、第1圧電体層を形成する工程と、
    前記第1圧電体層を部分的に覆うように、中間電極を形成する工程と、
    前記中間電極を覆うように、第2圧電体層を形成する工程と、
    前記第2圧電体層を部分的に覆うように、上部電極を形成する工程と、
    前記基材を部分的に除去することにより、前記下部電極、前記第1圧電体層、前記中間電極、前記第2圧電体層および前記上部電極の積層部分である上部層の一部として、前記基材に重ならない部分である振動部を形成する工程を含み、
    前記上部層においては、前記第1圧電体層および前記第2圧電体層が、前記振動部のうち前記振動部に延在しつつ前記上部層が前記基材に重なる部分に達するまで延在している、圧電デバイスの製造方法。
  20. 前記主表面が保護膜によって覆われており、前記保護膜の厚みは、前記振動部の厚みの8%以下である、請求項19に記載の圧電デバイスの製造方法。
  21. 前記第1圧電体層は、AlN系、ZnO系、GaN系からなる群から選択されるいずれかの圧電体を主材料とし、前記第2圧電体層は、PZT系、KNN系、BT系、Biアルカリチタン系からなる群から選択されるいずれかの圧電体を主材料とする、請求項19または20に記載の圧電デバイスの製造方法。
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