しかしながら、上述した近接露光法におけるマスクパターンの補正は、開口部を透過する光の干渉が強調される部分の光を打ち消す方法である。このため、パターン形状を整える程度の効果はあるものの、解像性が根本的に向上することはない。
本開示は、上記の問題に鑑み、近接露光法において、投影転写露光法に匹敵する大幅な解像度の向上を図るフォトマスク及びそのパターンデータ作成方法並びにフォトマスクを用いたパターン形成方法及び加工方法を実現できるようにすることを目的とする。
上記の目的を達成するため、本開示は、フォトマスクを、近接露光法において干渉による光を打ち消すのでなく、干渉によって光強度が大きくなる現象を所望のパターンの輪郭部(外枠部)に発生するようにマスクパターンを生成する構成とする。
本開示の一態様に係るフォトマスクは、透光性基板と、透光性基板に設けられ、露光光を遮る遮光部と、遮光部における所望のパターンと対応する領域に設けられ、該遮光部の開口部からなる主パターン部と、遮光部における所望のパターンと対応する位置の周辺部で且つ所望のパターンの輪郭部を構成する辺に沿って設けられ、主パターン部を透過する光と位相が揃った同位相の光を透過する開口部からなる複数の同位相補助パターンを含む補助パターン部とを備え、複数の同位相補助パターンは、所望のパターンの輪郭部を構成する辺から√(2×n×G×λ)の位置に設けられ、補助パターン部を透過した露光光は、被露光体に、所望のパターンの輪郭部を構成する辺における光強度が強調された投影像を結ぶ(但し、Gはフォトマスクと被露光体との間のギャップ長を表し、λは露光光の波長を表し、nは自然数を表す。)。
一態様に係るフォトマスクによると、主パターン部を透過する光と位相が揃った同位相の光を透過する開口部からなる複数の同位相補助パターンを含む補助パターン部を備えている。これにより、各同位相補助パターンを透過した光が所望のパターンの輪郭部でその位相が一致し、互いにその強度を強め合うことにより、該所望のパターンの輪郭部が非常に高いコントラストで形成された像を結像できる。その結果、近接露光法であっても、投影転写露光法に匹敵する大幅な解像度の向上を図ることができる。
一態様に係るフォトマスクにおいて、所望のパターンは、該所望のパターンの輪郭部を構成する辺によって構成される凸部を有し、複数の同位相補助パターンの寸法は、凸部の近傍で開口幅が小さくなるか、又はその端部が終端していてもよい。
このようにすると、所望のパターンの凸部において、歪みがない良好な加工形状を実現することができる。
一態様に係るフォトマスクにおいて、複数の同位相補助パターンは、遮光部を介し且つ主パターン部と隣接して設けられた第1の同位相補助パターンを有し、第1の同位相補助パターンは、主パターン部から√(2×G×λ)以内の位置に設けられていてもよい。
このようにすると、主パターン部を透過する光と最も強く干渉する第1の同位相補助パターンを確実に設けることができる。
一態様に係るフォトマスクが第1の同位相補助パターンを有する場合に、第1の同位相補助パターンの幅は、露光光の波長よりも大きくてもよい。
このようにすると、補助パターン部を透過する光の強度を十分に高くすることができるので、高いコントラストをより確実に得ることができる。
一態様に係るフォトマスクが第1の同位相補助パターンを有する場合に、一態様に係るフォトマスクにおいて、主パターン部は、所望のパターンの(√(2×G×λ))/8以上の寸法を拡大した領域を含む開口部であってもよい。
このようにすると、主パターン部を透過した光を、所望のパターンの輪郭部における干渉に十分に寄与させることができる。
一態様に係るフォトマスクが第1の同位相補助パターンを有する場合に、遮光部における主パターン部と第1の同位相補助パターンとの間の幅は、露光光の波長よりも大きくてもよい。
このようにすると、所望のパターンの輪郭部における干渉に悪影響を与える光がマスクを透過することを抑制できるので、より高いコントラストを確実に得ることができる。
一態様に係るフォトマスクが第1の同位相補助パターンを有する場合に、補助パターン部は、第1の同位相補助パターンを介し且つ主パターン部と隣接して設けられた第2の同位相補助パターンを有し、第2の同位相補助パターンは、主パターン部から√(4×G×λ)以内の位置に設けられていてもよい。
このようにすると、第1及び第2の各同位相補助パターンを透過した光同士が、所望のパターンの輪郭部で確実に干渉するので、コントラストを向上することができる。
この場合に、第1の同位相補助パターンと第2の同位相補助パターンとの間には、遮光部が設けられていてもよい。
このようにすると、同位相補助パターン同士の間の干渉に悪影響を与える光がマスクを透過することを抑制できるので、より高いコントラストを確実に得ることができる。
また、この場合に、第2の同位相補助パターンの幅は、第1の同位相補助パターンの幅よりも小さくてもよい。
このようにすると、所望のパターンの輪郭部をより忠実に実現した像を結像することができる。
一態様に係るフォトマスクにおいて、主パターン部と第1の同位相補助パターンとの間には、主パターン部と異なる位相で露光光を透過する位相シフタにより構成された異位相補助パターンが設けられていてもよい。
このようにすると、所望のパターンの輪郭部における光の干渉をより正確に制御できるので、所望のパターンにより忠実な形状の像を形成することができる。
一態様に係るフォトマスクにおいて、互いに隣接する同位相補助パターン同士の間には、主パターンと異なる位相で露光光を透過する異位相補助パターンが設けられていてもよい。
このようにすると、所望のパターンの輪郭部における光の干渉をより正確に制御できるので、所望のパターンにより忠実な形状の像を形成することができる。
一態様に係るフォトマスクに異位相補助パターンが設けられている場合に、該異位相補助パターンは、露光光を主パターンと反対の位相で透過してもよい。
このようにすると、補助パターン部を所望のパターンの外周部に局在することなくほぼ均一に設けることができるので、補助パターン同士の間隔及び補助パターンの幅をより大きくすることができる。
この場合に、異位相補助パターンと主パターンとの位相差は、180°±45°以内であってもよい。
このようにすると、互いに位相が異なる開口部を透過した光の干渉効果を向上することができる。
また、この場合に、異位相補助パターンの幅は、露光光の波長よりも大きくてもよい。
このようにすると、位相が反対の光を十分に透過させることができるので、干渉効果を向上することができる。
また、この場合に、同位相補助パターンと異位相補助パターンとの間には、遮光部が設けられていてもよい。
このようにすると、主パターンと同じ位相の補助パターンを透過する光と、反対位相の補助パターンを透過する光の干渉に悪影響を及ぼす光が透過することを抑制できる。
この場合に、遮光部の幅は、露光光の波長よりも大きくてもよい。
このようにすると、干渉に悪影響を及ぼす光が透過することを確実に抑制することができる。
一態様に係るフォトマスクにおいて、所望のパターンは、該所望のパターンの輪郭部を構成する辺によって形成される凸部を有し、辺に並行して設けられた複数の同位相補助パターンは、凸部の近傍で本数が減少していてもよい。
このようにすると、所望のパターンの凸部において、歪みがない良好な加工形状を実現することができる。
一態様に係るフォトマスクにおいて、所望のパターンは、線幅が√(λ×G)以下の寸法となる細線部を有し、複数の同位相補助パターンは、細線部を構成する辺に沿って設けられていてもよい。
このようにすると、従来の近接露光法では解像することができない線幅を形成することができる。
この場合に、所望のパターンは、細線部と結合し且つ線幅が√(λ×G)よりも大きい太線部を有し、複数の同位相補助パターンは、太線部を構成する辺に沿って設けられていてもよい。
このようにすると、従来の近接露光法では解像することができない線幅を含む任意の形状を持つパターンの形成が可能となる。
一態様に係るフォトマスクのパターンデータ作成方法は、所望のパターンに基づいて、マスクパターンを設定する工程と、露光光の波長及び開口数を用いて、投影転写露光におけるレンズと被露光体との間の伝播面における振幅強度分布と位相分布とを計算する工程と、位相分布から所望のパターンの周辺部において所定の位相となる位置を抽出して、補助パターンの配置位置を設定する工程と、所定の位相となる位置における振幅強度分布に応じて、補助パターンのパターン幅を設定する工程と、配置位置とパターン幅とが設定され、所定の位相を有する補助パターンをマスクデータとして出力する工程とを備えている。
一態様に係るフォトマスクのパターンデータ作成方法によると、任意のパターン形状に対して、所望のパターンの輪郭部を強調した像を形成できるフォトマスクのパターンデータの作成が可能となる。
一態様に係るフォトマスクを用いたパターン形成方法は、レジスト膜が形成された基板を準備する工程と、レジスト膜に、フォトマスクを介して露光光を照射する工程と、露光光を照射されたレジスト膜を現像してレジストパターンを形成する工程とを備えている。
一態様に係るフォトマスクを用いたパターン形成方法によると、フォトマスクを透過する光を集光することができるので、微細パターンの形成が可能となる。
一態様に係るフォトマスクを用いた加工方法は、フェムト秒レーザ光を、フォトマスクを介して加工材料に照射する工程を備えている。
一態様に係るフォトマスクを用いた加工方法によると、フォトマスクを透過する光に、フェムト秒レーザ光を用いることにより、加工材料を所望の形状に加工することができる。
本発明に係るフォトマスク及びそのパターンデータ作成方法、並びにそのマスクを用いたパターン形成方法及び加工方法によると、近接露光法において、投影転写露光法に匹敵する大幅な解像度の向上を図ることができる。その結果、近接露光のような簡易な露光法においても投影転写露光でしか形成できなかった微細な寸法を形成することができる。
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係るフォトマスクについて図面を参照しながら説明する。
図1Aは本実施形態に係る所望のパターンの平面構成を表している。図1Bは所望のパターンを実現するフォトマスクのレイアウトを表しており、図1Cは図1BのIc−Ic線における断面図である。ここで、所望のパターン1とは、設計パターンと同義である。
図1B及び図1Cに示すように、本実施形態に係るフォトマスク12は、露光光を透過する透光性基板10と、該透光性基板10の露光光を受ける面(表面)と反対側の面(裏面)の上に設けられた遮光膜からなる遮光部11とによって構成される。
透光性基板10は、例えば、ガラス又は石英等からなり、遮光部11は、クロム(Cr)等の遮光性を有する材料により形成することができる。以降、フォトマスク12の裏面上で遮光性材料により覆われた部分を遮光部11と呼び、遮光性材料によって覆われていない部分を開口部と呼ぶ。また、以下において、特に断らない限り、透光性基板をガラス又は石英と称して説明する場合もある。但し、透光性基板10は、ガラス又は石英に限られず、また、遮光部11もCr膜に限られない。
遮光部11には、所望の転写パターンと対応する位置に、所望のパターン1とほぼ同一の外形状を有する開口部からなる主パターン部11Aが設けられている。また、所望のパターン1と対応する主パターン部11Aの輪郭部(又は輪郭線)において直線となる辺の周辺領域には、その辺に沿ってほぼライン状の複数の開口部からなる補助パターン部11Bが設けられている。本実施形態においては、補助パターン部11Bは、例えば、主パターン部11Aと隣接する側から順次配置された、第1補助パターン11a、第2補助パターン11b及び第3補助パターン11cにより構成されている。各補助パターン11a〜11cは、フォトマスク12を用いて露光した際に、該フォトマスク12から所定の距離だけ離れた被露光体(図示せず)に投影される像において、所望のパターン1の輪郭部に光が集光する像を形成するように下記の構成を有している。
すなわち、第1補助パターン11a、第2補助パターン部11b及び第3補助パターン11cの順に、主パターン部11Aから離れるに従って、各補助パターン11a〜11cの幅寸法が小さくなるように構成されている。また、互いに隣接する補助パターン同士の延伸方向の中心線の間隔は、主パターン部11Aから離れた位置の補助パターンほど、小さい。具体的には、第2補助パターン11bと第3補助パターン11cとの延伸方向の中心線の間隔は、第1補助パターン11aと第2補助パターン11bとの延伸方向の中心線の間隔よりも小さい。また、主パターン部11Aを構成する開口部内における内部干渉によって光強度が大きくなる領域、すなわち露光光が集光する凸コーナ部11dには、補助パターン部11Bは設けられていない。また、各補助パターン11a〜11cは、各凸コーナ部11dに近づくに連れて、その本数が減少してもよい。すなわち、各補助パターン11a〜11cの両端部が消失してもよい。さらに言い換えると、主パターン部11Aにおける各辺を延長した延長線と第2補助パターン11bにおける延伸方向の端部までの距離は、該延長線と第1補助パターン11aにおける延伸方向の端部までの距離よりも長くなっていてもよい。
本実施形態においては、補助パターン部11Bには、主パターン部11Aの輪郭部を構成する各辺に沿って3本の補助パターン11a〜11cを設けた例を示しているが、補助パターン部11Bを構成する補助パターンは、2本でも4本以上でもよい。また、ここでは、主パターン部の各辺、及び各補助パターン11a〜11cの各辺は、共に直線状としているが、直線上に限られない。例えば、ほぼ直線状であって、側部に凹凸形状があってもよい。すなわち、近接露光法においては、解像限界といわれる4μmの2分の1以下の周期で現れる凹凸形状は、個々の幅寸法の値は重要でなく、その凹凸形状を平均化して考えればよい。凸コーナ部11dも、外形形状(輪郭部)としての凸状のコーナ部であり、より正確に定義するなら、少なくとも解像限界の2倍の値よりも小さい曲率半径を持つコーナ部を凸コーナ部11dとして定義することができる。例えば、これは、近接露光法における解像限界が4μmであれば、本実施形態に係る凸コーナ部11dは8μm以下の曲率半径を持つという定義である。但し、正確には近接露光法における解像限界は、露光波長λ及びギャップ長Gに依存する。ここで、ギャップ長Gとは、フォトマスク12と被露光体との間隔をいう。なお、4μmという値は、近接露光法においては実用的とされる、例えば、露光波長λ=365nm、及びギャップ長G=30μmを想定した値であり、解像度は、ほぼ√(λ×G)により見積もることができる。
図1B及び図1Cに示すフォトマスク12を用いて、近接露光法により、良好なパターンを得られる原理について、以下に説明する。
まず、図2A〜図2Dを参照しながら、ライン(線)状のパターンの開口部13を有するフォトマスクを通して露光した際に発生する現象について説明する。図2Aは、フォトマスク上の開口部13を表しており、該開口部13の幅(以下、開口幅)をWとする。図2Bは、このフォトマスクをギャップ長Gとして50μmだけ離れた被露光体(図示せず)に露光した際に、該被露光体の上に形成される光強度分布を表している。ここで、図2Bに示す光強度は、露光波長λが365nmであり、図2AのII−II線と対応する位置における光強度分布である。図2Cは、0μmから50μmまでの開口幅Wに対して、光強度分布から転写されるパターンの線幅を計算したグラフである。図2Cからは、開口幅Wが6μmよりも大きい場合は、転写されるパターンの線幅が開口幅Wとほぼ1対1の比例関係で変化することが分かる。しかしながら、開口幅Wが6μmよりも小さくなると、転写されるパターンの線幅が、開口幅Wが小さくなっても変化しない。開口幅Wがさらに小さくなると、転写されるパターンの線幅が急激に小さくなって、転写されなくなることが分かる。これにより、上記の方法では、6μm以下のパターン寸法を形成することが極めて困難であることが分かる。一方、図2Dは、開口幅がWであるフォトマスクの中心位置における光強度の値、具体的には、図2Bの光強度分布で示される位置が0μmでの光強度を、0μmから50μmの開口幅Wに対してプロットしたグラフである。
図2Dからは、開口幅Wが6μm以下の領域においては、開口幅Wと共に光強度が増大するが、その後、開口幅Wが6μm以上の領域になると、開口幅Wと共に光強度が減少することが分かる。また、開口幅Wが十分に大きくなると、光強度は1に収束することが分かる。ここで、光強度は被露光体の全面を露光した場合、すなわち、非常に大きな領域を露光した場合に光強度が1となるように規格化している。特に断らない限り、光強度は、この規格化を適用しているとして説明する。
以下、図3A〜図3Eに、開口幅Wが0μmから15μmまでの状況を詳細に調べた結果を示す。開口幅Wが0μmから15μmまでの場合の光強度分布のプロファイルを詳細に調べると、図3A〜図3Eに示すような、各分布プロファイルが特徴的に異なる状況が現れることが分かる。
図4A及び図4Bは、図3A〜図3Eに示す各分布プロファイルが現れる開口部幅Wの領域をそれぞれ領域1から領域5とし、各領域1〜5を図2C及び図2Dのグラフにそれぞれ記入して、対応する各領域1〜5を拡大して表している。
図3Aに示す領域1は、フォトマスクの開口部13の中心位置にピークを持つプロファイルである。但し、領域1では、図4Aから分かるように、光強度のピークが低すぎて、転写パターンを形成できない状態である。
図3Bに示す領域2は、光強度が開口部13の中心位置にピークを持つプロファイルであり、光強度が十分に大きくなって、転写パターンの形成が可能である。但し、領域2では、図4Bから分かるように、光強度のピークは開口幅Wの増大に伴ってその値が増加するものの、図4Aからはプロファイルが広がらないことが分かる。すなわち、領域2は、転写パターンの線幅が開口幅Wと共に広がらない状態である。このとき、光強度のピークは1.0を超える非常に大きい強度が実現される場合がある。
図3Cに示す領域3は、領域2と同様に、開口部13の中心位置にピークを持つプロファイルであり、光強度が十分に大きい状態である。但し、領域3は、図4Bから分かるように、光強度のピークは領域2とは逆に、開口幅Wの増大に伴ってその値が減少する状態である。光強度のピーク値は減少するものの、領域3は、図4Aに示すように、プロファイルの幅が広がるため、転写パターンの線幅が開口幅Wと共に広がる状態である。
図3Dに示す領域4は、開口部13の中心位置にピークを持たないプロファイルであり、パターン幅の輪郭部に光強度のピークが存在する。但し、領域4は、図4Bから分かるように、光強度は全体として十分に高い値を得られているので、図4Aに示すように、転写パターンの線幅が開口幅Wと共に広がる状態である。
図3Eに示す領域5は、再び、開口部13の中心位置にピークを持つプロファイルであり、且つ、パターン幅の輪郭部に光強度のピークが存在する。領域5は、図4Aから分かるように、転写パターンの線幅は開口幅Wと共に広がる状態である。
領域4及び領域5は、光強度分布のプロファイルのピークが2つ以上現れる状態で、その数が偶数の場合と奇数の場合との違いである。このようなプロファイルは、フォトマスクの開口幅Wが大きくなるに連れて交互に現れる。領域4及び領域5に共通することは、最も高い光強度プロファイルのピークが、開口部13の輪郭部に最も強いピークを持つことである。しかし、その光強度は、領域2で現れる最も高い光強度のピーク値には及ばない強度である。
以上、フォトマスクの開口幅Wに応じて、光強度分布のプロファイルがどのように変化するかについて説明した。また、これらの状況から、領域1及び領域2の状態は、パターン形成には好ましくない状態であることが分かる。以下、これらの状況がどのような原理に基づいて発生するかを説明する。
図5は、開口幅Wの開口部13を透過する光の様子を模式的に表している。コヒーレント光には、その位相差が360×n°(但し、nは整数である。)となる光同士が干渉して、その光強度が大きくなる現象が発生する。言い換えると、光路差が露光波長λの整数倍となるような光が干渉し合う状況において、光強度が大きくなる。
図5に示すように、開口幅Wの開口部13を透過した光が、ギャップ長Gだけ離れた被露光体14に照射されるときの最大光路差は、√(W2+G2)−Gで表される。この最大光路差が露光波長λを越えないと、干渉による光強度が最大値を越えないことになる。ここで、露光波長λを365nmとし、ギャップ長Gを50μmとすると、最大光路差がλとなる開口幅Wは約6μmとなる。
これにより、図2D及び図4Bにおいて、開口部13の中心位置の光強度が、開口幅Wが6μmの近傍で最も強くなる理由は、開口部13を透過する光同士の光路差がλとなる割合が最も高くなるからである。さらに、開口幅Wの値が大きくなることにより、開口部13の中心位置の光強度が低下するのは、開口幅Wが大きくなるに従って光強度を打ち消し合う、主パターン部11Aを透過する光と反対の位相を持つ光、すなわち、光路差がλ×(n+0.5)となる光の割合が増え始めるからである。ここで、nは整数である。以下、開口部13の開口幅Wが増大するに従って光強度が増減する現象は、光路差がλ×nとなる光同士の光の割合と、光路差がλ×(n+0.5)となる光同士の割合との増減に応じて発生することが分かる。ここで、√(W2+G2)−G=λをG≫λとして解くと、W≒√(2×G×λ)となる。
以上により、開口幅Wに応じて発生する光強度のピークの最大値は、同位相の光が互いに干渉する割合に対して、反対位相が互いに干渉する割合が最も低い状態となるW=√(2×G×λ)の近傍となる開口幅Wで発生する。開口幅Wが√(2×G×λ)よりも大きくなっても、反対位相が互いに干渉する割合が増えるため、光強度のピークは大きくはならない。
図4Bに示した領域2と領域3との境界の状態が、上述した光の干渉強度が大きくなる領域である。パターンレイアウトによって、光の干渉強度が大きくなる領域が現れることにより、転写パターンに歪みが生じると考えられる。ここで、図6A及び図6Bを参照しながら、形状が単純な正方形状のマスクパターンにおける転写パターンが歪む原因について説明する。
図6Aはマスクレイアウトであって、一辺が24μmの正方形状の開口部15を持つフォトマスクを表している。図6Bは、該フォトマスクを用いて、露光波長λを365nmとし、ギャップ長Gを50μmとして露光を行ったときの被露光体上での光強度分布を表している。ここで、光強度分布は、開口部15に対して、凸コーナ部15dで最大強度となる。このとき、各辺に沿って比較的に高い光強度が存在するものの、各凸コーナ部15dには及ばない程度の光強度である。図6Aにおける凸コーナ部15dの拡大図は、該凸コーナ部15dにおいて光強度が最大となる理由を説明する図である。凸コーナ部15dにおいては、開口部15の二辺が交わるため、凸コーナ部15dの頂点から離れるに従って、2方向から光が干渉し合う距離が増大することとなる。このため、凸コーナ部15dの頂点から離れるに従って、開口幅Wが増大するのと同じ現象が発生する。図4Bで説明した開口幅Wの寸法に応じて現れる領域1から領域3に相当する箇所は、図6Aの拡大図においては、凸コーナ部15dの近傍に現れる。図6Aの拡大図の凸コーナ部15dでは、符号r2で表した領域2と符号r3で表した領域3との境界に相当する箇所において光強度が最大となる。これは、図6Bに示した光強度分布からも明らかである。なお、図6Bに付した符号r3a及びr1aは、それぞれ、図6Aに付した凸コーナ部15dの拡大図における符号r3a及びr1aと対応する。
また、凸コーナ部11dから離れた各辺の近傍は、図4Bにおける領域4又は領域5の状態となるため、開口部15の輪郭部に現れる程度の強さの光強度は発生するものの、凸コーナ部15dの光強度には及ばない。
上述したように、強すぎて不都合となる光強度は、限定された領域、すなわち領域2と領域3との境界部のみで発生する。このため、従来は、この強すぎる光強度を打ち消す補助パターンを付加することによりパターン歪みを解消して、解像度を向上させるという方法が行われてきている。
これに対し、本発明者は、領域2と領域3との境界部に発生する強い光強度を打ち消すのでなく、このような強い光強度が発生していない領域に、この強い光強度と同等の光強度を生成できる補助パターンを付加することによりパターン歪みを解消して、解像度を向上する方法を見いだした。
以下、図7を参照しながら、本発明者が見いだした補助パターンを用いて、マスクパターンの輪郭部における光強度を強くする方法の原理について説明する。図2A〜図6Bを用いて説明したように、フォトマスク12の複数の開口部を通過する光同士の干渉において最大の光強度が実現されるという現象は、極めて限定された状態でしか発生しない。これは、ほとんどの場合、露光光における同一の位相同士が干渉する状態と、反対の位相同士が干渉する状態とが同時に発生するからである。
図7に、同一の位相同士の光の干渉と、反対の位相同士の光の干渉とが同時に発生するという状況を解消可能な本実施形態に係るフォトマスク12と、それを透過した露光光が伝播する様子とを模式的に表している。
図7に示すように、本実施形態に係るフォトマスク12には、主パターン部11Aとなる開口部と、該開口部の輪郭部を透過した光と同位相で干渉する光が透過する補助パターン11a〜11cとなる開口部とが設けられている。具体的には、主パターン部11Aの輪郭部の周辺の領域には、複数の開口部となる補助パターン11a〜11cが設けられており、主パターン部11Aに近い位置から第1補助パターン11a、第2補助パターン11b及び第3補助パターン11cとする。このとき、第1補助パターン11aは、主パターン部11Aの輪郭部の近傍を透過する光と第1補助パターン11aを透過する光との光路差がほぼ露光波長λと等しくなる位置に設ける。また、第2補助パターン11bは、主パターン部11Aの輪郭部の近傍を透過する光と第2補助パターン11bを透過する光との光路差がほぼ露光波長λの2倍に等しくなる位置に設ける。また、第3補助パターン11cは、主パターン部11Aの輪郭部の近傍を透過する光と第3補助パターン11cを透過する光との光路差がほぼ露光波長λの3倍に等しくなる位置に設ける。これにより、主パターン部11Aの輪郭部における光強度を内部干渉で得られる最大値以上に強くすることができる。
図7を用いて、より具体的に説明すると、主パターン部11Aの輪郭部の近傍における所定の位置からD1の距離に第1補助パターン11aとなる開口部を設ける。このとき、第1補助パターン11aは、その開口部を透過した光が、主パターン部11Aの輪郭部の近傍における所定の位置において主パターン部11Aを透過した光と干渉により強め合うように、該所定の位置から√(D1 2+G2)−G=λだけ離れた位置に設けられている。ここで、主パターン部11Aの輪郭部の近傍における所定の位置とは、主パターン部11Aの開口部の端部ではなく、該開口部の内側の近傍で、且つ、主パターン部11Aを透過した光同士が干渉して光を強め合う位置であってよい。この値は、主パターン部11Aの輪郭部から√(2×G×λ)以内の位置となる。また、√(D1 2+G2)−G=λより、G≫λとすると、D1は近似的に、D1=√(2×G×λ)と表される。
従って、上記の条件により、第1補助パターン11aは、少なくとも主パターン部11Aの輪郭部から、√(2×G×λ)以内の位置に設けられていてもよい。ここで、主パターン部11Aの輪郭部から、√(2×G×λ)以内の位置に設けられているということは、第1補助パターン11aの開口部の中心位置がこの領域に存在するということである。第1補助パターン11aの平面形状がライン状であるなら、その延伸方向の中心線がこの領域に存在するということである。また、第1補助パターン11aを透過した光が所望のパターン1の輪郭部で十分に干渉するには、該第1補助パターン11aの開口寸法は、露光波長λよりも大きければよく、また、露光波長λの2倍以上であってもよい。
同様に、第2補助パターン11bは、少なくとも主パターン部11Aの輪郭部から、√(2×G×2×λ)以内の位置に設けられていてもよい。また、第3補助パターン11cは、少なくとも主パターン部11Aの輪郭部から、√(2×G×3×λ)以内の位置に設けられていてもよい。また、これらを一般的に表現するなら、主パターン部11Aの輪郭部を構成する辺からみて該主パターン部11Aから離れる方向のn番目に設けられる第n補助パターンは、輪郭部の端部から√(2×G×n×λ)以内の位置に設けられていてもよい。ここで、nは正の整数である。また、主パターン部11Aから各補助パターン11a〜11cのそれぞれの位置を計算する際には、G≫λの条件で近似計算を行っている。
各補助パターン11a〜11cの位置を具体的な数値で表すと、露光波長λ=365nm、被露光体とのギャップ長G=50μmとすると、D1≒6.1μm、D2≒8.6μm、及びD3≒10.5μmとなる。
図8A及び図8Bに、これらの数値に基づいて作成したマスクパターンにおけるシミュレーション結果を示す。図8Aはマスクパターンを表す。所望のパターンは、図6Aにおいて通常のフォトマスクの開口部15として扱った、一辺が24μmの正方形状とする。マスク設計の考え方として、主パターン部11Aとなる開口部で発生する内部干渉を利用するため、光を集光する位置は、該開口部の内側の近傍に設ける。すなわち、所望のパターンが24μm四方であるため、この位置に光が集光するように、開口部は、各エッジを2μmだけ拡大して、28μm四方として設ける。補助パターン部11Bを構成する第1補助パターン11a、第2補助パターン11b及び第3補助パターン11cは、開口部の内側の2μm位置に光を集光するため、主パターン部11Aとなる開口部から、それぞれ、D1≒4.1μm、D2≒6.6μm、及びD3≒8.5μmとなる位置にその中心線が来るように設ける。すなわち、主パターン部11Aとなる開口部を拡大した2μm分を換算した位置に設ける。また、第1補助パターン11a、第2補助パターン11b及び第3補助パターン11cの各線幅は、それぞれ1.0μm、0.7μm及び0.5μmとしている。図8Bに、図8Aに示すマスクパターンを用いて、露光波長λ=365nmで、ギャップ長G=50μmの位置の被露光体14に形成される光強度分布を計算した結果を示す。この結果が示すように、図6Bに示した通常のフォトマスクにおける光強度分布と比べて、所望のパターンの輪郭部に光が集光していることが分かる。従って、所望のパターンの輪郭部が高いコントラストで形成されると共に、該輪郭部が所望の形状に近い、歪みが少ない像として形成されていることが分かる。
上記の所望のパターンを得るために、図8Aのマスクパターンの補助パターン部11Bには、いくつかの特徴的な構成を設けている。図6Bに示した補助パターン部11Bを設けない通常のフォトマスクでは、その開口部の凸コーナ部において光強度が大きくなりすぎて、パターンに歪みが生じていた。従って、所望のパターンの輪郭部の周辺の領域に設ける補助パターン部11Bは、該領域以外に光を集光して所望の形状を得る構成とすることが好ましい。本実施形態においては、第1補助パターン11aから第3補助パターン11cを凸コーナ部の近傍には設けないことにより、凸コーナ部以外の領域に光を集光するようにしている。すなわち、主パターン部11A又は所望のパターンの凸コーナ部を構成する辺に対して、ほぼ平行に配置されたライン状の各補助パターン11a〜11cは、それらと対向する主パターン部11Aの辺よりも短い構成とする。言い換えれば、凸コーナ部の近傍には、補助パターン部11Bを設けない構成としている。この構成により、本実施形態に係るフォトマスクでは、主パターン部11Aの輪郭部を構成する各辺の近傍には光を集光し、内部干渉により既に光強度が大きくなっている凸コーナ部には、光を集光しない構成を得ることができる。
図8Aに示すマスクパターンにおいては、すべての補助パターン11a〜11cが凸コーナ部の近傍の領域に設けられていない構成が示されているが、必ずしもすべての補助パターン11a〜11cを凸コーナ部の近傍の領域から排除しなくてもよい。すなわち、補助パターン部11Bによる凸コーナ部に光を集光する状態を、他の領域よりも弱くする構成を設ければよい。例えば、凸コーナ部に近づくに連れて、補助パターン11a〜11cの本数を減らせばよい。具体的には、図8Aの例では、第2補助パターン11bの延伸方向の長さを第1補助パターン11aよりも短くし、さらに、第3補助パターン11cにおいても第2補助パターン11bよりも短くする。この構成により、凸コーナ部に光を集光する状態を他の領域よりも弱くすることができる。また、光が集光する効果を弱くするには、各補助パターン11a〜11cの開口幅を凸コーナ部に近づくに連れて小さくすればよい。各補助パターン11a〜11cのそれぞれの幅が小さくなれば、補助パターン部11Bを通過して干渉に寄与する光が少なくなるので、凸コーナ部に光を集光する作用を減らすことができる。
以上の説明では、主パターン部11Aに設けられた凸コーナ部に対する説明として行ったが、実質的には、凸コーナ部を有する所望のパターン(設計パターン)を形成するのが目的であり、上記の構成は所望のパターンに凸コーナ部を設ける場合に有効な構成である。なお、凸コーナ部とは、輪郭部が直線状である場合は、各頂点を構成する辺の内角が180°未満の頂点と考えればよい。もし、凸部が曲線からなる場合は、その曲率半径の寸法が√(λ×G)の値の半分以下の凸部とする。
以上、所望のパターンの輪郭部に光を集光する補助パターン11a〜11cを設けることにより、良好なパターンを得るための概念(技術思想)について説明してきたが、以下では、本概念を投影転写露光法における原理を組み合わせて実現する方法について、図9A及び図9Bを参照しながら説明する。
図9Aは投影転写露光法の仕組み(原理)を模式的に表している。フォトマスク20のガラス面(表面)から入射した光は、該フォトマスク20の開口部20aを透過する際に回折によって広がることは近接露光法と同等である。ここで、フォトマスク20と被露光体24との間には、レンズ22が設けられているため、回折によって広がった光は、該レンズ22から所定の距離だけ離れた投影面で結像する。すなわち、結像面にはフォトマスク20の開口部20aを透過した光の強度分布がレンズ22によって再構成される。但し、回折角が大きくてレンズ22を透過できないほど回折した光及びエバネッセント(evanescent)波はこの結像に寄与しないため、解像度は、露光波長程度となる。しかしながら、被露光体24をこの結像面に設ければ、回折による劣化を大幅に低減することができるので、極めて高い解像度を得られることになる。特に、ギャップ長Gに応じて解像性が劣化し、該ギャップ長Gが50μm程度では、波長λの10倍程度の寸法をも解像し得ない近接露光法と比較すれば、波長程度の解像性を有する投影転写露光法における解像性は非常に高い。従って、投影転写露光法は、所望のパターンを十分に実現できる方法として扱うことができる。
ここで、レンズ22と被露光体24上の結像面との間で、且つ被露光体24から所定のギャップ長Gだけレンズ22側に離れた伝播面23を透過する光を考える。光は波であり、振幅強度分布と位相分布とを有している。伝播面23において、同一の振幅強度分布と位相分布とを持つ光は、その伝播面23に到達するまで、いかなる経路を透過してきたかに拘わらず、同一の結像面に同一の強度分布の像を形成するはずである。本発明者はこの原理に基づいて、図9Bに示すように、フォトマスク20Aを透過する光に、伝播面23と同一の強度分布及び同一の位相分布を直接に与えることにより、マスク面23Aから所定のギャップ長Gだけ離れた位置に、投影転写露光法の場合と実質的に同一の像を形成できることを解明した。
図9Bは上記の近接露光法における概念を模式的に表している。フォトマスク20Aの内部に、図9Aに示したフォトマスク20と同一の開口部20a及びレンズ22が実際に存在するわけではないが、マスク面23Aの開口部を大きく広げ、広げた開口部を光が透過する際に、図9Aの伝播面23上における光の振幅強度分布と位相分布とを再現する透過率と位相シフト機能とを有する位相シフタを、フォトマスク20Aの開口部20bに設けることを考案した。図9Bに示すような位相シフタを設けると、図9Aの投影転写露光法によって被露光体24に転写される投影像と実質的に同一の像を、近接露光法によっても、被露光体24の上に形成することができる。
図10A〜図10Dを参照しながら、上記の伝播面23における光の振幅強度分布及び位相分布について説明する。図10Aは投影転写露光用のフォトマスク20の平面構成を示し、一辺の幅が24μmの正方形状の開口パターンを有している。以下、フォトマスク20を用いて露光を行った場合を例として説明する。ここで、露光波長λは365nmとしている。図10Bは、投影転写露光法によって実現される転写像のシミュレーション結果の光強度分布を表している。このように、投影転写露光法によれば、露光波長λ程度の寸法までの解像度を得られるので、フォトマスク20におけるマスクパターンと極めて近い形状を持つ転写像が十分なコントラストを持って得られることが分かる。
図10C及び図10Dは、図9Aにおけるレンズ22と被露光体24との間で且つ該被露光体24から50μmだけ離れた伝播面23での光の振幅強度分布と位相分布とをそれぞれ表している。
ここで、位相分布は360°で循環するため、0°と360°とは同一の位相面として考えてよい。従って、図10Dの位相分布から、開口部の内側近傍と対応する位置では、位相分布はほぼ0°と360°との近傍の位相となっていることが分かる。すなわち、光の位相面はマスク面に対して平行で、該位相面の進行方向はフォトマスク20にほぼ垂直な方向に進んでいることが分かる。開口部の輪郭部の周辺と対応する位置の位相は、開口部から離れるに連れて位相が変化し、光が被露光体24に到達した時点で、所望のパターン形状に収束している。これにより、開口部周辺の位相面は開口部の内側に向かって進行する方向に傾いていることが分かる。言い換えれば、投影転写露光法の原理により、結像面、すなわち最も高いコントラストを有する像が形成される面においては、結像面に到達するすべての光の位相が同一の値となることを意味している。この位相分布から、所望のパターンの外周部において、該外周部のどの位置にどのような位相を持つ光を透過させれば、所望のパターンを透過した光と干渉して、その光強度を高めることが可能となるかを読み取ることができる。
一方、図10Cに示すように、振幅強度分布は、フォトマスク20の開口部の内側の近傍に位置する領域から振幅強度分布が弱くなり、該開口部の外周部と対応する位置に広がった分布を有している。これを上記の位相分布と組み合わせて考えると、伝播面23においては、開口部の周辺における光が該開口部の輪郭部付近に集光して、転写像を形成していると判断できる。
従って、所望のパターンと対応する領域に主パターンとなる開口部を設け、且つ、主パターンとなる開口部を透過した光が該所望のパターンの輪郭部における干渉によってその光強度を大きくできるという複数の補助パターンを設けようとした場合には、振幅強度分布によって、主パターンとなる開口部の周辺に広がった領域に複数の補助パターンを設ければよく、設けた各補助パターンを透過する光の位相は、位相分布によって設定すればよいことが分かる。
図11A及び図11Bに、図10C及び図10Dに示した振幅強度分布及び位相分布をそれぞれ再掲して、より詳細に説明する。ここで、図11A及び図11Bのそれぞれの分布図に対して、位相が0°、すなわち形状が単純な単純開口部となる補助パターンを配置する好ましい領域の一例を追記している。具体的には、図11Aに示す振幅強度分布において、補助パターンを設ける好ましい領域は、所望のパターンの周辺部で且つ振幅強度が所定の強度以上となる領域である。一方、図11Bに示す位相分布においては、補助パターンを設ける好ましい領域は、該補助パターンを単純開口部とするならば、位相が0°の領域である。ところで、仮に、補助パターンを180°の反対位相の位相シフタからなるパターンとするなら、180°の位相領域が補助パターンとして好ましい領域となる。これは180°に限らず、いずれの位相からなる位相シフタを用いる場合でも成り立つ。すなわち、図11Bに示す位相分布から、それぞれの位相からなる位相シフタとして適当な位相領域を選べばよいことが分かる。
以上のことから、これら振幅強度分布及び位相分布によって、所望のパターンの輪郭部を強調する転写像を形成するために好ましい補助パターンの条件を解読することができる。以下、その詳細について説明する。
まず、図11Bに示す位相分布に着目すると、パターン領域と対応する位置において、位相がほぼ0°となる領域は、所望のパターン領域よりも2μm程度大きい領域であることが分かる。これから、主パターン部を所望のパターンよりも2μm程度拡大することが好ましいことが分かる。これが、図8Aに記載したマスクパターンの主パターン部を所望のパターンに対して拡大した理由である。ここで、主パターン部を構成する輪郭部における辺の拡大量は√(2×G×λ)の2分の1を超えることは好ましくなく、少なくとも√(2×G×λ)の3分の2以下に抑えるのがよい。なぜなら、位相分布は、所望のパターンの輪郭部においてその位相が一致する分布となることが好ましいため、主パターン部の辺を√(2×G×λ)の2分の1以上に拡大すると、所望のパターンの輪郭部において反対位相となる光が主パターン部を通過するようになるからである。逆に、所望のパターンの輪郭部において、同一位相の光が十分に干渉するように光の量を増やすには、主パターン部における拡大量は大きい方が好ましい。例えば、その拡大量は、√(2×G×λ)の8分の1で以上あってもよく、また、√(2×G×λ)の4分の1程度以上であってもよい。
次に、所望のパターンの輪郭部の位相分布について、所望のパターンの内側とほぼ同一の位相で且つその位相差が0°となり、所望のパターンから最も近い位置は、該所望のパターンからほぼ√(2×G×λ)だけ離れた位置である。これを一般的に表わすと、位相差が0°となり、所望のパターンから離れる方向にn番目に現れるのは、該所望のパターンからほぼ√(2×G×n×λ)だけ離れた位置である。これは、所望のパターンの輪郭部における光路差が露光波長の整数倍に一致する条件から求められる。従って、単純開口、すなわち、主パターン部と同一の位相となる位相差が0°の開口部となる補助パターンは、その所望のパターンの位置から√(2×G×n×λ)だけ離れた位置に設けられてもよい。ここで、nは、正の整数である。
上述したように、主パターン部は、所望のパターンの輪郭部を拡大した新たな輪郭部を有する平面形状であってもよい。補助パターンを設ける位置を、主パターン部の輪郭部からの位置で表現するなら、主パターン部から周辺部に離れる方向のn番目に設けられる補助パターンは、主パターン部の輪郭部から√(2×G×n×λ)以内の位置に設けられてもよい。ここで、√(2×G×n×λ)以内の位置に設けられるという意味は、補助パターンのすべてが主パターン部の輪郭部から√(2×G×n×λ)以内の位置に含まれるという意味ではなく、例えばその補助パターンがライン状であれば、該補助パターンの延伸方向の中心線がこの領域に含まれるという意味である。また、補助パターンが孤立した島状であれば、その中心部がこの領域に含まれるという意味である。
また、補助パターンの配置方法として、例えば3本の補助パターンを配置する場合は、所望のパターンの輪郭部から、それぞれ、√(2×G×1×λ)、√(2×G×2×λ)、及び√(2×G×3×λ)の位置に設けるのが最も効率的である。なお、例えば、√(2×G×1×λ)、√(2×G×3×λ)、及び√(2×G×4×λ)のように、それぞれが適切な位置に設けられている場合には、3本の補助パターンのすべての位置が、√(2×G×n×λ)で表される位置に、必ずしも1ずつ昇順に並んでいなくてもよい。なぜなら、複数の補助パターンは互いに影響し合うのではなく、該複数の補助パターンのすべてが所望のパターンの輪郭部の光強度を強調し且つ重ね合わせられるように影響する。このため、補助パターンの配置数は、多ければ多い程良いが、その一部が抜けていても、その分の効果が単純に減少するだけであるからである。但し、補助パターン同士の間の領域には、所望のパターンの輪郭部において、主パターン部の光を干渉により打ち消す反対位相の光が混ざらないように、補助パターン部と主パターン部との間、及び補助パターン同士の間の領域には遮光部を設けてもよい。先に述べたように、補助パターンの幅寸法が露光波長よりも大きくてもよいのと同様に、不都合な位相の光を十分に取り除くには、遮光部の幅は露光波長よりも大きければよく、露光波長の2倍以上であってもよい。
また、第1補助パターンの位置と第2補助パターンの位置との間隔は、(√(2×G×2×λ)−√(2×G×λ))程度である。この間隔が少なくとも補助パターンの幅と遮光部の幅との和となることにより、補助パターン同士の間に2本の補助パターンを設ける場合には、この幅寸法は、露光波長λの2倍以上であってもよく、さらには、4倍以上であってもよい。例えば、本実施形態においては、露光波長λが365nmの場合に、ギャップ長Gは少なくとも4.3μmよりも大きい露光に用いてもよく、さらには、ギャップ長Gは17.2μm以上であってもよい。
次に、図11Aに示す振幅強度分布に着目すると、該振幅強度分布は、所望のパターンの各辺に垂直な方向に広がり、各辺から離れるに従って強度が減少していることが分かる。このため、振幅強度分布は、各辺から見て台形状の領域に広がっていることが分かる。また、図中に示すように、各凸コーナ部の外側の方向には、振幅強度分布が広がっていないことも分かる。補助パターンは、この振幅強度分布を再現するのが好ましいことにより、該振幅強度分布において光強度が大きい領域は、その開口幅を大きくして、より多くの光を透過させてもよい。逆に、振幅強度分布において光強度が小さい領域は、開口幅を小さくするか、又は開口部を設けなくてもよい。従って、補助パターンは、所望のパターンの各辺に対してほぼ平行な形状に設け、所望のパターンから遠い位置に設けられる補助パターンは、所望のパターンの近い位置に設けられる補助パターンよりも、その開口幅を小さくしてもよい。
ここまで、補助パターンは、その平面形状として、ライン状のパターンを想定して説明したが、孤立した島状のパターンであれば、所望のパターンから遠い位置に設けられるパターンは、所望のパターンの近い位置に設けられるパターンよりも、その開口面積を小さくしてもよい。また、所望のパターンの各辺に対してほぼ平行な位置に設けられる補助パターンをライン状とするならば、所望のパターンから遠い位置に設けられるパターンは、所望のパターンの近い位置に設けられるパターンよりも、その長さが短くてもよい。また、所望のパターンの各辺に対してほぼ平行な位置に複数の補助パターンが設けられる場合は、ほぼ平行に設けられた複数の補助パターンは、各凸コーナ部の近傍に近づくに連れてその本数が少なくなるように、すなわち、途中でパターンが消滅するように形成してもよい。これは、各凸コーナ部の頂点の延長線上においては、振幅強度分布が弱くなっていることを反映した構成であり、補助パターン部を除去する、又は本数を少なくするという構成以外にも、各補助パターンの開口幅を、凸コーナ部の近傍で小さくすることによっても、同様の効果を得ることができる。
以上、補助パターンとして、その好ましい構成について説明してきたが、ここでは、図11A及び図11Bに示した振幅強度分布及び位相分布から、実際にマスクパターンを直接に計算し作成した結果を示す。マスクパターンの作成方法として、開口部として位相分布が0°の近傍となる領域を抽出した。補助パターンは、光の伝播面の振幅強度分布の強さに比例して、その開口幅が大きくなるように計算した。ここで、0°の近傍の位相分布とは、反対位相の光を含めない上で好ましいという意味であり、0°に極めて近い値の位相分布であるという意味ではない。このアルゴリズムによって計算したマスク図を図12Aに示す。図12Aに示すように、主パターン部及び補助パターン部は、上記で説明した構成が実現されていることが分かる。このマスク図を露光したときのシミュレーション結果を図12Bに示す。ここでの露光条件は、露光波長λ=365nm及びギャップ長G=50μmである。光源のコリメーション角は1.5°としている。被露光体に転写される光強度分布は、所望のパターンの輪郭部で強くなった、高いコントラストを持つ輪郭像が形成されている。また、その形状も、所望のパターンの形状に対して歪みが少なく良好であることが分かる。
以上の結果から、本実施形態によれば、近接露光法において、所望のパターンに対して歪みの少ない良好な形状を得られることを示した。さらに、本開示は、従来の近接露光法では形成できない微細寸法も含め、単純なパターン形状のみではなく、異なる寸法の線幅で一続きとなった任意のパターン形状においても有効である。
以下、その変形例について、図13A〜図13Cを用いて説明する。
図13Aは、所望のパターンであって、幅が2μmのライン状のパターンと長辺が30μmで短辺が13μmの長方形状のパターンとが接続された、線幅が大きく異なる一続きのパターンである。ここでは、露光波長λが365nmで、ギャップ長Gが50μmの近接露光法では形成が極めて困難である、幅が2μmのライン状パターンを有している。図11A及び図11B同様に、所望のパターンを投影転写露光法により露光する際に発生する伝播面での振幅強度分布と位相分布とに基づいて計算したマスク図を第1変形例として図13Bに示す。
図13Bに示す第1変形例に係るフォトマスクは、主パターン部及び補助パターン部において、本開示に示す構成を満たす構成を持つ。図13Cは、本フォトマスクを用いて露光したときのシミュレーション結果を表している。露光条件は、露光波長λ=365nm及びギャップ長G=50μmである。光源のコリメーション角は1.5°としている。この結果から、被露光体に転写される光の強度分布は、所望のパターンの輪郭部で強くなった、高いコントラストの輪郭像が形成されている。また、その形状も所望の形状に対して歪みが少なく良好であるだけなく、通常では形成が極めて困難であるとされる、幅が2μmのパターンが、とりわけ他のパターンよりも高いコントラストで形成されていることが分かる。これは、近接露光法では解像限界とされる√(λ×G)よりも小さい、幅が2μmのパターンに設けた補助パターンの開口幅を、解像性としては問題がない幅が30μmのパターンに設けた補助パターンの開口幅よりも大きくしており、各補助パターンを透過した光からの干渉による光強度が大きくなるような構成を採っているからである。
図13Dに、参考例として、所望のパターンをそのままマスク形状とした場合のシミュレーション結果を示す。幅が2μmのパターンが解像限界以下であることは、図13Dからも明らかである。
以上、本実施形態により、近接露光法においては、従来の解像限界とされている√(λ×G)よりも小さいパターン寸法を含んだ所望のパターン形状に対して、良好なパターンを形成することができる。
このように、本実施形態に係るフォトマスク12を構成する補助パターン部は、所望のパターンが従来の近接露光法における解像限界以上の寸法か、それ以下の寸法かに拘わらず設けられていてもよい。特に、√(λ×G)で定義される寸法以下の領域に設けられていてもよい。なお、開口寸法が√(λ×G)以上のパターンにおいて、その形状による歪みを許容するなら、√(λ×G)以下の開口寸法の近傍にのみ設けてもよい。
例えば、図14にその一例を第2変形例として示す。
図14に示すように、第2変形例においては、露光波長λで且つギャップ長Gを用いて露光を行う際に、所望のパターンが、√(λ×G)で定義される寸法以下の領域と、それよりもパターン幅が大きい領域とを有している。このとき、所望のパターンの寸法が√(λ×G)以下の領域Rの周辺部に対して、本実施形態に係る構成を持つ補助パターン部11Bを設ければよい。
具体的には、第2変形例は、領域Rに2本の補助パターン11a、11bを設けている。補助パターン11a、11bは、従来の通常マスクでは極めて形成が困難である、√(λ×G)で定義される開口幅を持つパターンの周辺部に設けられている。ここでは、主パターン部11A及び補助パターン部11Bにおける構成は、本開示の構成を有している。
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について図15A、図15B、図16A及び図16Bを参照しながら説明する。
図15Aは本実施形態に係る所望のパターンの平面構成を表している。図15Bは所望のパターン1を実現するフォトマスクのレイアウトを表している。図16A及び図16Bは、図15BのXVIab−XVIab線における断面図である。
図15A〜図16Bにおいて、図1A〜図1Cに示す構成部材と同一の構成部材には同一の符号を付している。
図15Bにおいて、第2の実施形態に係るフォトマスク12Aが、第1の実施形態に係るフォトマスク12と異なるのは、補助パターン部11Bを構成する第1補助パターン11eと、第3補助パターン11gが、主パターン部11Aと異なる位相(異位相)となる光を透過する位相シフタによって構成されている点である。本実施形態においては、主パターン部11Aを透過する光の位相と異なる位相は、主パターン部11Aを透過する光の位相と反対の位相であってもよい。なお、第1の実施形態と同様に、第2補助パターン11fは、主パターン部11Aと同一の位相(同位相)の光を透過する開口部によって構成されている。
補助パターン部11Bを構成する第1補助パターン11e、第2補助パターン11f及び第3補助パターン11gの順に、主パターン部11Aから遠ざかるに従って、各補助パターン11e〜11gの幅寸法が小さくなるように構成されている。また、互いに隣接する補助パターンにおいては、それぞれの延伸方向の中心線の間隔が主パターン部11Aから離れるに従って狭くなっていてもよい。具体的には、第2補助パターン11fと第3補助パターン11gとの延伸方向の中心線同士の間隔は、第1補助パターン11eと第2補助パターン11fとの延伸方向の中心線同士の間隔よりも小さくてもよい。また、主パターン部11Aの開口部内での内部干渉によって光強度が大きくなる領域、すなわち露光光が集光する凸コーナ部11dには、補助パターン部11Bが設けられていない。また、第1の実施形態と同様に、各凸コーナ部11dに近づくに連れて、各補助パターン11e〜11gの本数が減少してもよく、すなわち、各補助パターン11e〜11gの両端部が消失してもよい。さらに言い換えると、主パターン部11Aにおける各辺を延長した延長線と第2補助パターン11fにおける延伸方向の端部までの距離は、該延長線と第1補助パターン11eにおける延伸方向の端部までの距離よりも長くなってもよい。但し、補助パターン部11Bは、主パターン部11Aから離れる方向に、該主パターン部11Aを透過する光と同位相の光を透過する補助パターン(例えば、第2補助パターン11f)と、主パターン部11Aを透過する光と反対の位相の光を透過する補助パターン(例えば、第1補助パターン11e又は第3補助パターン11g)とが隣り合っていることが好ましい。
ここで、補助パターン部11Bとして、主パターン部11Aの輪郭部を構成する各辺に沿って3本の補助パターン11e〜11gを設ける例を示したが、補助パターン部11Bを構成する補助パターンは、2本でもまた4本以上でもよい。例えば、4本の補助パターンを設けた場合は、主パターン部11Aの周辺部において反対の位相を透過する位相シフタ、例えば、第3補助パターン11gのさらに外側の領域に、主パターン部11Aを透過する光と同位相の光を透過する補助パターンを設けてもよい。なお、第1の実施形態と同様に、主パターン部11Aの各辺及び補助パターン11e〜11gの各辺を直線状に描いているが、これに限られない。すなわち、各辺は、ほぼ直性状であって、近接露光法において解像限界以下となる小さい凹凸形状を有していてもよい。
図16Aは、本実施形態に係るフォトマスク12Aの断面構成の一例を示している。本実施形態においては、補助パターン部11Bを構成する第1補助パターン11e及び第3補助パターン11gが位相シフト膜からなる位相シフタを構成している。各位相シフト膜は、該位相シフト膜を透過する光の位相をそれぞれほぼ180°反転する。光の位相が180°反転する、すなわち光の位相が180°だけシフトするとは、180°±360×n°(但し、nは整数である。)で表される値と同値である。以下、特に断らない限り、位相の値を議論する場合は、360°分の差があっても、同値で扱えるとする。
また、図16Bは、本実施形態に係るフォトマスク12Aの一変形例を示している。図16Bに示すように、位相シフタは、位相シフト膜に代えて、透光性基板10を彫りこんだ彫り込み部によって構成されている。すなわち、位相シフタは、透光性基板10を構成する石英又はガラスの屈折率と、彫り込み部に充填される空気の屈折率との差によって構成される。
図17に示す本実施形態に係るフォトマスク12Aを用いて、近接露光法により良好なパターンを得られる原理について説明する。図17は、図7と同様に、主パターン部11Aを透過する光と、各補助パターン11e〜11gを透過する光とが、所望のパターンの輪郭部において干渉により強め合うような状態を満たす条件を考える。
まず、上述した第1の実施形態に係る各補助パターン11a〜11cにおいては、主パターン部11Aと同位相であり、該各補助パターン11a〜11cを透過する光と、主パターン部11Aを透過する光との光路差は、露光波長λに対してn×λ(但し、nは整数である。)であることが条件であった。
これに対し、補助パターン11e〜11gのいずれかを透過する光の位相が、主パターン部11Aを透過する光の反対の位相であれば、これらの光が干渉で強めあう条件は、光路差が(n+0.5)×λ(nは整数)となる。従って、本実施形態においては、第1補助パターン11eと第3補助パターン11gとが、主パターン部11Aと反対の位相の光が透過し、且つ、第2補助パターン11fが、主パターン部11Aと同位相の光が透過するとすれば、各補助パターン11e〜11gが設けられる位置を表す、それぞれの距離D1、D2及びD3は、下記の条件を満たす必要がある。
√(D1 2+G2)−G=0.5×λ
√(D2 2+G2)−G=1×λ
√(D3 2+G2)−G=1.5×λ
これらの条件により、主パターン部11Aと反対の位相の光を透過する第1補助パターン11eは、少なくとも主パターン部11Aの輪郭部から、√(1×G×λ)以内の位置に設けられていてもよい。ここで、主パターン部11Aの輪郭部から、√(1×G×λ)以内の位置に設けられているということは、第1補助パターン11eの開口部の中心位置がこの領域に存在するということである。第1補助パターン11eの開口形状がライン状であるなら、その延伸方向の中心線がこの領域に存在するということである。
同様に、主パターン部11Aと同位相の光を透過する第2補助パターン11fは、少なくとも主パターン部11Aの輪郭部から、√(1×G×2×λ)以内の位置に設けられていてもよい。また、主パターン部11Aと反対の位相を透過する第3補助パターン11gは、少なくとも主パターン部11Aの輪郭部から、√(1×G×3×λ)以内の位置に設けられていてもよい。ここで、主パターン部11Aから各補助パターン11e〜11gの位置を計算する際には、G≫λの条件で近似計算を行っている。
上記の各補助パターン11e〜11gの位置を具体的な数値で表すと、露光波長λ=365nm、被露光体14とのギャップ長G=50μmとすると、D1≒4.3μm、D2≒6.1μm、及びD3≒7.4μmとなる。
本実施形態においては、補助パターン部11Bを構成する複数の補助パターン11e〜11gの一部に、主パターン部11Aを透過する光と反対の位相の光を透過する位相シフタを設けている。但し、各補助パターン11e〜11gの構成要件に対する原理は、図9A〜図10Dにより説明した内容と同一であり、すなわち、同位相の補助パターン11a〜11cの場合と同一である。
ここに、図11Aに示した振幅強度分布と図11Bに示した位相分布とを、それぞれ図18Aと図18Bとして再掲する。図18Aに示す振幅強度分布及び図18Bに示す位相分布は、それぞれ図11A及び図11Bに示した分布図と同一である。両者が異なる点は、図18Bに示す位相分布に対する考察である。すなわち、補助パターン11e、11gを、主パターン部11Aを透過する光と反対の位相を持つ光にシフトする位相シフタとすることから、位相分布として180°付近の領域に配置される。例えば、図18Bに示すように、位相が180°の開口部の好ましい配置領域は、図11Bに示される、位相が0°の開口部の好ましい配置領域よりも主パターン部に近い領域に配置される。
他の考え方をすれば、第1の実施形態において、各補助パターン11a〜11cを構成する際に、反対の位相を持つ光が各補助パターン11a〜11cを透過し、所望のパターンの輪郭部での干渉に悪影響を及ぼさないように遮光部を設けた領域に、反対の位相の光が透過する位相シフタを設ける構成にしていると考えてよい。
本実施形態に係る各補助パターン11e〜11gは、主パターン部11Aと同一の位相を透過する補助パターン(例えば、第2補助パターン11f)が、主パターン部11Aの輪郭部から外側に向かって√(2×G×n×λ)以内の位置に設けられ、且つ、該同位相の補助パターンと主パターン部11Aとの間に、主パターン部11Aを透過する光の位相と異なる位相を持つ光を透過する補助パターン(例えば、第1補助パターン11e及び第3補助パターン11g)を設ける構成である。
主パターン部11Aと異なる位相を持つ光を透過する補助パターン11e、11gの配置位置は、図18Bに示した位相分布から抽出することができる。補助パターン11e、11gにおける配置位置は、原理的には、透過光の任意の位相に対して適用可能である。但し、上記の主パターン部11Aと該主パターン部11Aと同位相の光を透過する第2補助パターン11fとの間に、位相シフタとなる補助パターンを1つだけ設けるとするならば、反対の位相を生成する補助パターンが好ましい。なぜなら、主パターン部11Aの周辺部に設けられる複数の補助パターンが局在することなく、該補助パターンを均一に配置できるからである。また、光の位相が反対となる領域に収まるという観点からは、反対の位相の範囲は、主パターン部11Aを透過する光との位相差として、180°±90°以内であってもよい。また、主パターン部11Aを透過する光との位相差として、180°±45°以内であれば、主パターン部11Aを透過する光と同位相の光を透過する第2補助パターン11fとの間に、遮光部によって分離される領域を確実に設けることができる。
また、第1の実施形態と同様に、主パターン部11Aと同位相の光を透過する補助パターン(例えば、第2補助パターン11f)が、主パターン部11Aの輪郭部から外側に向かって√(2×G×n×λ)以内の位置に設けられるという意味は、該補助パターンのすべてがこの領域に含まれるという意味ではなく、該補助パターンがライン状であれば、その延伸方向の中心線がその領域に含まれるという意味である。
従って、本実施形態は、複数の補助パターンの間に主パターン部とは異なる位相の光を透過する補助パターンを設けた構成である。特に、補助パターンの配置数を少なくするために、主パターン部を透過する光と反対の位相の光を透過する補助パターンを、一の位相に限定して設けている。仮に、主パターン部と同位相の光を透過する補助パターンとの間に、2つの異位相の補助パターンを設ける場合には、位相のずれが120°と240°との2つの補助パターンを設けてもよい。これを一般的に表現するならば、主パターン部と同位相の光を透過する補助パターン同士の間にn個の異位相の補助パターンを設け、それぞれの位相を、360°/(n+1)×m(但し、n、mは共に自然数であり、且つ、m=1,2,3,・・・,nである。)で表される構成としてもよい。但し、これは完全な状態の場合であり、360°/(n+1)×mで表される位相シフタは、所望のパターンの輪郭部における光強度が強調される適切な位置に設けられていれば、主パターン部と同位相の光を透過する補助パターン同士の間、又は主パターン部と同位相の補助パターンとの間に、n個の異位相の補助パターンのすべてを設ける必要はない。
これは、第1の実施形態において、主パターン部と同位相の光を透過する複数の補助パターンを設ける際に、該複数の補助パターンを設けることが好ましい位置のすべてに、これら複数の補助パターンのすべてを設ける必要がないのと同様である。なお、360°/(n+1)×mで表される位相シフタが所望のパターンの輪郭部の光強度が強調される適切な位置に設けられるという意味は、主パターンに最も近い位置の補助パターンであるなら、主パターン部の輪郭部から√(2×G×λ×m/(n+1))以内の位置に設けられるという意味である。
言い換えると、主パターン部を透過する光の反対の位相の光を透過する補助パターンに対して、さらに具体的に表現するならば、主パターン部の最も近くに配置される反対位相の補助パターンは、√(2×G×λ×0.5)の位置に設けられ、その外側に2番目に設けられる反対位相の補助パターンは、√(2×G×λ×1.5)の位置に設けられてもよい。従って、主パターン部の周辺部にn番目に設けられる反対位相の補助パターンは、√(2×G×λ×(n−0.5))の位置となる。
ここで、反対位相の光を透過する補助パターンに対しても、第1の実施形態で説明した主パターン部を透過する光と同位相の光を透過する補助パターンと同様の構成を採ることは、その原理に鑑み、同一である。本実施形態に係る異位相の補助パターンが第1の実施形態に係る補助パターンと異なる点は、主パターン部の輪郭部から配置位置までの距離だけである。
また、第1の実施形態と同様に、補助パターン同士の間には遮光部を設けている。これにより、所望のパターンの輪郭部において、光の干渉により光強度を強調する際に不都合な光が補助パターンを透過しなくなる。また、第1の実施形態と同様に、少なくとも主パターン部の近くに設けられる補助パターンは、その開口幅が露光波長よりも大きくてもよく、露光波長の2倍以上であってもよい。このようにすると、光の干渉効果を十分に発揮することができる。また、第1補助パターンと第2補助パターンとの間隔、すなわち、第1補助パターンと第2補助パターンとの間に設けられる遮光部の幅寸法は、露光波長よりも大きくてもよい。
具体的には、第1補助パターンと第2補助パターンとの間隔は、(√(2×G×λ)−√(G×λ))程度となる。この間隔は、露光波長の2倍以上であってもよく、4倍以上であってもよい。例えば、本実施形態においては、露光波長λが365nmの場合、そのギャップ長Gとして、少なくとも8.6μmよりも大きい露光に用いてもよく、34.4μm以上の露光に用いてもよい。
以下に、図18A及び図18Bに示す振幅強度分布及び位相分布から、実際にマスクパターンを直接に計算し作成した結果を示す。マスクパターンの作成方法として、開口部として位相分布が0°の近傍となる領域と位相分布が180°の近傍となる領域とをそれぞれ抽出した。補助パターンは、光の伝播面の振幅強度分布の強さに比例して、その開口幅が大きくなるように計算した。ここで、0°の近傍の位相分布及び180°の近傍の位相分布とは、これらの光の干渉に悪影響を及ぼさない程度の幅を持っていてもよく、具体的には、それぞれに±45°以内の幅を持っていてもよいという意味であり、0°及び180°のそれぞれに極めて近い値の位相分布であるという意味ではない。
このアルゴリズムによって計算したマスク図を図19Aに示す。主パターン部及び補助パターン部において、第1の実施形態及び本実施形態で説明した好ましい構成が実現されていることが分かる。このマスク図を露光したときのシミュレーション結果を図19Bに示す。ここでの露光条件は、露光波長λ=365nm及びギャップ長G=50μmである。光源のコリメーション角は1.5°としている。被露光体に転写される光強度分布は、所望のパターンの輪郭部で強くなった、高いコントラストの輪郭像が形成されている。また、その形状も、所望のパターンの形状に対して歪みが少なく良好であることが分かる。さらに、図12Bに示す第1の実施形態に係るシミュレーション結果と比べて、所望のパターンの輪郭部がより強調されて明瞭になっていることも分かる。これは、主パターン部と同位相の光を透過する補助パターンが第1の実施形態に係る構成を維持しており、さらに、同位相の補助パターン同士の間に、反対位相の光を透過して所望のパターンの輪郭部を強調する構成を持つ異位相の補助パターンを追加しているため、より正確に所望のパターンの輪郭部の強調が実現されているからである。
(第2の実施形態の一変形例)
以下、第2の実施形態の一変形例として、従来の近接露光法では形成できなかった微細寸法も含め、単純なパターン形状のみではなく、異なる寸法の線幅で一続きとなった任意のパターン形状について説明する。
図20A及び図20Bは、第1の実施形態の第1変形例である図13Aに示した所望のパターンに対して、本実施形態を適用した結果を表している。図20Aは、所望のパターンを投影転写露光した際に発生する伝播面での振幅強度分布と位相分布とに基づいて計算したフォトマスクを示している。本フォトマスクは、主パターン部及び補助パターン部において、本開示における構成を満たしている。
図20Bに、本フォトマスクを用いて露光したときのシミュレーション結果を示す。露光条件は、露光波長λ=365nm及びギャップ長G=50μmである。光源のコリメーション角は1.5°としている。図20Bに示す結果から、第1の実施形態と同様に、従来は形成が極めて困難であった√(λ×G)よりも小さい、幅が2μmのパターンが、非常に高いコントラストで形成されていることが分かる。さらに、図19Bに示した結果と同様に、所望のパターンの輪郭部が、より明瞭に強調されていることが分かる。
なお、第1の実施形態と同様に、本実施形態に係る補助パターンにおいても、所望のパターンが、従来の近接露光法による解像限界以上の寸法か、それ以下の寸法かに拘わらず設けられていてもよい。特に、√(λ×G)で定義される寸法以下の領域に設けられていてもよい。
以上説明したように、上記の第1の実施形態及びその変形例並びに第2の実施形態及びその変形例によると、近接露光法によりフォトマスクを透過した光を所望のパターンの輪郭部において光強度が強調された転写像を形成することができる。すなわち、近接露光法における解像性を大幅に向上できると共に、所望のパターン形状に対して歪みの少ないパターンを形成することができる。
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態に係るパターンデータ作成方法について図21を参照しながら説明する。
図21は、本実施形態に係るパターンデータ作成方法、具体的には、近接露光法で用いるフォトマスクにおいて開口パターンとなる図形データを作成する方法の処理フローを示している。また、図22〜図26Bは、本実施形態に係るパターンデータ作成方法の各工程における具体的なデータの一例を示している。
図22は、マスクパターンによって形成される所望のパターンを示している。すなわち、図22は、本開示に係るフォトマスクを用いた露光時に、光を照射することによって、レジスト膜が感光する領域に転写されるパターン30を表している。
なお、本実施形態において、パターン形成について説明する場合、特に断らない限り、ネガ型レジストプロセスを使用することを前提として説明する。すなわち、現像後において、光が照射された領域に所望のパターンがレジストパターンとして残存することを想定している。逆に、ポジ型レジストプロセスを使用する場合は、光が照射された領域のレジストが除去されたパターンが形成される以外は、ネガ型レジストプロセスと同様である。
まず、図21に示すステップS1において、所望のパターンを入力する。すなわち、図22に示す所望のパターン30を、例えば、コンピュータを含むパターンデータ作成装置に入力する。
次に、図21に示すステップS2において、露光波長λとギャップ長Gとを設定する。すなわち、近接露光用のフォトマスクを作製する上で、該フォトマスクの露光に使用する光源の波長λとギャップ長Gとを設定する。
次に、図21に示すステップS3において、投影転写露光法における光強度計算を行う。すなわち、所望のパターンのデータ(マスクデータ)として、投影転写露光法により露光した場合の転写像を計算する。このとき、所望のパターンは、そのままの状態でパターンデータとすることが本来であるが、最終的な露光条件に応じて、拡大及び縮小等のバイアスを施したり、パターンデータを単純化するために、コーナ部の形状を丸めたりする等の調整を行ってもよい。また、投影転写露光法を用いる計算であるため、投影レンズの半径に相当する開口数NA(numerical aperture)を設定する。
次に、図21に示すステップS4において、投影転写露光法による光強度計算から所定の伝播面での光の振幅強度分布と位相分布とを計算する。すなわち、ステップS4の投影転写露光計算において、ベストフォーカス、すなわち理想的なレンズであれば、転写像のコントラストが最も高くなる位置に対して、ステップS2で設定したギャップ長G分だけレンズ側にずらした位置での、仮想的な面における転写像を算出する。すなわち、第1の実施形態で投影転写露光の仕組みについて説明した、図9Aの伝播面23における転写像を算出する。ここで算出する転写像は、エネルギー分布を表す光強度でなく、伝播面における光の振幅強度と位相分布とである。
図23A及び図23Bに、それぞれ、マスク図形として図23Aを用い、露光波長λ=365nm、開口数NA=0.3及びギャップ長G=50μmを用いて計算した伝播面における位相分布と振幅強度分布とを示す。
次に、図21に示すステップS5において、補助パターン部を透過する光の位相を設定する。すなわち、近接露光用マスクとして補助パターン部に設定する位相の種類と、それぞれの位相の値とを決定する。ここで、主パターン部を透過する光と補助パターン部を透過する光とをすべて同位相とするならば、使用する光の位相は1つとなる。位相には複数の値を使用することができるが、ここでは、主パターン部を透過する光の位相が0°となるように設定しているので、補助パターン部を透過する光の位相も0°とする。なお、補助パターン部は、図1A〜図1Cで説明したように、1つ以上の補助パターンを併せた総称である。
次に、図21に示すステップS6において、ステップS4で算出した位相分布から、補助パターンの位置を設定する。すなわち、ステップS4で得た位相分布から、各補助パターンを設ける位置を抽出する。具体的には、図23Aに示す位相分布から、所望のパターンの輪郭部と対応する位置で位相が0°となる位置を抽出する。
次に、図21に示すステップS7において、ステップS4で算出した振幅強度分布に応じて、補助パターンの領域を設定する。すなわち、ステップS6において抽出された各補助パターンの位置に設けるべき開口部の開口寸法を設定する。開口寸法を設定するには、図23Bに示す振幅強度を用いる。例えば、光の位相が0°となる位置の振幅強度が大きければ、開口幅が大きい補助パターンを設ける。逆に、振幅強度が小さければ、開口幅が小さい補助パターンを設ける。振幅強度が所定以下となる程度に小さければ、補助パターンを設ける必要はない。この操作を理解しやすくするため、図24A及び図24Bには、位相分布と振幅強度分布とのそれぞれに、所望のパターンと対応するパターンを記入している。
次に、図21に示すステップS8において、主パターン部と補助パターン部とよりなるマスクパターンを決定する。すなわち、ステップS6及びステップS7において設定された補助パターン部を主パターン部と共にマスクパターンとして決定する。主パターン部は所望のパターンをそのまま拡大した単純拡大図形としてもよい。但し、所望のパターンにより忠実なパターン形状を実現するマスクの図形データを計算するには、補助パターン部と同一のアルゴリズムで求めてもよい。補助パターン部と異なるのは、所望のパターンの外周部における位相が0°の位置に対応するか、所望のパターンにおける位相が0°の位置に対応するかの違いである。実際に、上記のアルゴリズムを用いて算出した主パターン部と補助パターン部とを含むマスク図形を図25Aに示す。
次に、図21に示すステップS9において、ステップS1からステップS8までに作成された主パターン部と補助パターン部とをマスクデータとして出力し、所望のフォトマスクを作製する。
以上説明した、ステップS1からステップS9を経て作製されたフォトマスクは、主パターン部を透過した光と補助パターン部を透過した光とが所望のパターンの輪郭部において干渉することにより強調し合うため、高いコントラストで所望のパターンを形成することができる。但し、本実施形態に係るパターンデータ作成方法によるパターンの解像性は、投影転写露光法と実質的に同等であるため、上記のステップ3で用いた仮想的なレンズの開口数NAによって決定される。すなわち、本実施形態により得られるパターンの解像性は、投影転写露光法における解像性を表すλ/NAで決定される。所望のパターンの幅が2×λ/NA程度以下の場合は、その解像性からパターンの両側の輪郭部が区別できるだけの幅がないことから、実質的には、パターンの中心が強調されたような転写像が形成される。図25Aに示すフォトマスクを、露光波長λ=365nm、ギャップ長G=50μm及びコリメーション角を1.5°として近接露光法により露光したときの、被露光体における転写像の光強度分布のシミュレーション結果を図25Bに示す。
従って、本実施形態によれば、従来の通常マスクを用いた近接露光法では形成が困難であった、√(λ×G)以下の寸法を形成でき、且つ、所望のパターンに対して歪みが少ない良好なパターンを形成できるパターンデータの作成、及びそれを用いたフォトマスクの作製が可能となる。
以上、本実施形態は、主パターン部と補助パターン部とをすべて同位相とする例で説明したが、補助パターン部に2つ以上の異なる位相を設定することもできる。
(第3の実施形態の一変形例)
以下、第3の実施形態の一変形例として、パターンデータ作成方法において、補助パターンに2つの位相を設定する例について説明する。但し、補助パターンには、3つ以上の任意の数の位相を設定することが可能である。
ここでは、図22に示した所望のパターン30に対して、補助パターン部に2つ以上の光の位相を設定する具体例を説明する。本変形例においては、第3の実施形態と異なるのは、ステップS5以降の結果であり、ステップS1からステップS4までの結果は同一である。従って、ステップS5以降を説明する。
図21に示すステップS5において、補助パターン部を透過する光の位相を設定する。
本変形例においては、主パターン部に設定する0°の位相に加えて、他の1つの位相を設定し、その位相を180°とする。原理的及び操作的には、いかなる位相も設定できるが、主パターン部を透過する光の位相は0°とすることが好ましい。従って、補助パターン部に設定する位相は360°を均等に分割するのがよい。これは、フォトマスク上における補助パターン同士の間隔が大きくなること、及び光の干渉効果が高くなることが想定されるためである。
次に、図21に示すステップS6において、ステップS4で算出した位相分布から、補助パターンの位置を設定する。ここでは、図23Bに示す位相分布において所望のパターンの輪郭部と対応する位置で、位相が0°となる位置及び位相が180°となる位置をそれぞれ抽出する。
次に、図21に示すステップS7において、ステップS4で算出した振幅強度分布に応じて、補助パターンの領域を設定する。本変形例においては、補助パターンの設定位置として、位相が180°の補助パターンが加わっているだけであり、開口領域の設定処理は、位相が0°の補助パターンの処理と同様である。
次に、図21に示すステップS8において、主パターン部と補助パターン部とよりなるマスクパターンを決定する。本変形例においては、主パターン部を透過する光の位相が0°であり、補助パターン部を透過する光の位相が0°と180°との2種類のデータで構成されているだけである。処理内容は、位相が0°の補助パターンと同様である。本変形例に係るアルゴリズムを用いて算出した主パターン部と補助パターン部とを含むマスク図形を図26Aに示す。
次に、図21に示すステップS9において、ステップS1からステップS8までに作成された主パターン部と補助パターン部とをマスクデータとして出力し、所望のフォトマスクを作製する。
図26Aに示すフォトマスクを、露光波長λ=365nm、ギャップ長G=50μm及びコリメーション角を1.5°として、近接露光法により露光したときの、被露光体における転写像の光強度分布のシミュレーション結果を図26Bに示す。ここで、第3の実施形態に係る図25Bと、本変形例に係る図26Bとを比べると、本変形例においては、補助パターンを透過する光の位相として2つの位相を使用することにより、所望のパターン形状に対して、より明瞭な転写像が形成されることが分かる。
さらに、本変形例によれば、原理的には投影転写露光法と同等の解像性を実現でき、実質的に投影転写露光法が再現されるため、近接露光法によっても、投影転写露光法に匹敵する焦点深度を実現できるマスクパターンが形成可能となる。
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態は、第1の実施形態に係るフォトマスク若しくは第2の実施形態に係るフォトマスク、又は第3の実施形態に係るパターンデータ作成方法により作製したフォトマスクを用いたパターン形成方法を説明する。
図27A〜図27Dは本実施形態に係るパターン形成方法における各工程の一例を模式的に表している。
まず、図27Aに示すように、基板40の上に、金属膜又は絶縁膜等の被加工膜41を形成する。
次に、図27Bに示すように、被加工膜41の上に、例えば、ネガ型のレジスト膜42を成膜する。
次に、図27Cに示すように、ここでは、例えば、図16Aに示した第2の実施形態に係るフォトマスク12Aと同等のフォトマスク45に露光光を照射し、該フォトマスク45を透過した透過光によってレジスト膜42を露光する。フォトマスク45の主パターン部の輪郭部には、該フォトマスク45を透過する光が集光する、すなわち、干渉により光強度を強め合う位相シフタ46が設けられている。より詳細には、図27Cに示す露光工程においては、まず、露光光源を用いてレジスト膜42に対して露光を行なう。このとき、フォトマスク45を透過した光は基板40の上方で集光され、後工程の現像工程において、レジスト膜42が凝固するに足る露光エネルギーが照射される。
次に、図27Dに示すように、露光されたレジスト膜42に対して現像を行なって潜像部分42aを残し、該潜像部分42aから微細なパターン42bを形成する。
以上説明したように、第3の実施形態に係るパターン形成方法によると、フォトマスク45の開口部に設けた位相シフタ46によって、該フォトマスク45を透過する光が集光されるため、微細なパターン形成が可能となる。
また、本実施形態においては、ネガ型のレジストプロセスを用いたが、これに代えて、ポジ型のレジストプロセスを用いても、同様の効果を得ることができる。
(第5の実施形態)
以下、第5の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態は、第1の実施形態に係るフォトマスク若しくは第2の実施形態に係るフォトマスク、又は第3の実施形態に係るパターンデータ作成方法により作製したフォトマスクを用いたフェムト秒(femtosecond)レーザ加工方法を説明する。
フェムト秒レーザ加工は、通常、レーザ光をレンズで集光し、レーザアブレーション(laser ablation)による切断等の加工を行う。切断等の加工以外にも、ガラス材料等の透明試料を選択的に変質させる加工を行うことにより、光導波路、3次元メモリ装置、フォトニクス結晶又はマイクロチャネル等を作製する。
図28は本実施形態に係るフェムト秒レーザによる加工方法を模式的に表している。
まず、10−13秒オーダのパルス幅を有するフェムト秒レーザ光源50から出射されるフェムト秒レーザ光を、本実施形態に係るフォトマスク45の上から照射する。ここでは、フォトマスク45の一例として、例えば、図16Bに示した第2の実施形態に係るフォトマスク12Aと同等のフォトマスクを用いている。該フォトマスク45には、所定の距離だけ離れた位置に所望のパターンが結像するようにパターンが描かれている。具体的には、フォトマスク45のパターンは、位相シフタ47により透明試料51の内部の所望の位置にレーザ光が集光するように描かれている。従って、透明試料51は、フォトマスク45におけるフェムト秒レーザ光源50と反対側の面(裏面)と対向する位置で、該フォトマスク45のパターンの結像位置51aが透明試料51の内部の所定の位置に来るように保持されている。ここで、所望のパターンは、例えば、透明試料51の内部に作製されるマイクロチャネル51bである。
本実施形態においては、フォトマスク45に描かれたパターンは、透明試料51の内部の一領域に結像する例である。これに代えて、透明試料51の内部の複数の領域に結像する複数のパターンをフォトマスク45に描くことにより、透明試料51の内部に立体的なマイクロチャネル51bを、該透明試料51を移動させることなく一括に形成することができる。なお、このように、一括に形成することができる複数のパターンを持つフォトマスク45の場合であっても、該透明試料51を適当に移動することにより、さらに複雑な立体形状を効率的に形成することができる。
このように、本実施形態においては、本開示に係るフォトマスクが、該フォトマスクと対向し且つ所定のギャップ長だけ離れた領域に単にパターンを結像するだけでなく、干渉によって実質的に光を集光し、光強度を高める作用を持つことを利用することにより、フェムト秒レーザ加工が可能となる。さらに、所望のパターンを有するフォトマスクを用いることにより、レンズが不要な上に、所望の加工を一括に行うことができる。
以上、各実施形態に係るフォトマスク及びそのパターンデータ作成方法、並びにフォトマスクを用いたパターン形成方法及び加工方法によると、近接露光のような簡易な露光法においても、従来のマスクで形成可能な限界寸法よりも小さいパターンを形成することができる。このため、低コストでの微細加工が可能となる。また、微細加工が可能となった近接露光法及び等倍の投影露光法を大面積の加工又は透明試料の加工にも容易に適用することができる。