JPWO2012066693A1 - ボールねじ - Google Patents

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Abstract

この発明の課題は、溝状のボール戻し経路(ボール循環溝)を有するボールねじの耐久性、ボール循環性能、および加工性能を更に向上させることである。ボールねじは、螺旋溝(201a)を外周面に有するねじ軸(201)と、螺旋溝(201a)に対向する螺旋溝(202a)を内周面に有するナット(202)と、両螺旋溝(201a,202a)により形成される螺旋状の軌道内に転動自在に装填された複数のボール(203)と、ボール(203)を軌道の終点から始点へ戻し循環させるボール循環溝(241)と、を備えている。そして、ボール循環溝(241)の両側面(241b,241b)と各側面(241b)に連続し軸方向に延びる面(242)とで形成される角部(241c)が、丸く形成されている。

Description

本発明は、溝状のボール戻し経路(ボール循環溝)を有するボールねじに関する。
ボールねじは、螺旋状のねじ溝(以降においては螺旋溝と記すこともある)を外周面に有するねじ軸と、ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路(以降においては軌道と記すこともある)内に転動自在に装填された複数のボールと、前記ボールをボール転走路の終点から始点に戻し循環させるボール戻し経路(以降においてはボール循環溝又はボール循環路と記すこともある)と、を備えている。そして、ボールを介してねじ軸に螺合されているナットとねじ軸とを相対回転運動させると、ボールの転動を介してねじ軸とナットとが軸方向に相対移動するようになっている。
このようなボールねじは、一般的な産業用機械の位置決め装置等だけでなく、自動車、二輪車、船舶等の乗り物に搭載される電動アクチュエータにも使用されている。
ボール戻し経路を用いたボールの循環方式には循環チューブ方式やコマ方式などがあり、コマ方式の場合は、ボール戻し経路をなす凹部(溝状のボール戻し経路)が形成されたコマをナットの貫通穴に嵌めている。これに対して、溝状のボール戻し経路(「ボール循環溝」と称されることが多い)がナットの内周面に直接形成されていれば、組み付けの手間やコストが低減できるとともに、ボール循環の信頼性向上も期待できる。
特許文献1には、ボール循環溝がナットの内周面に直接形成されているボールねじの製造方法として、循環溝(ボール循環溝)をナット素材の内周面に塑性加工で直接形成した後、雌ねじ溝(ボール転動溝)を切削加工することが記載されている。
特許文献2には、ナットの軸方向一端部に、ナットと一体に同軸の円環状のボール循環部を設け、このボール循環部にボール循環溝を設けることが記載されている。
特許文献3には、循環溝(ボール循環溝)のボール進行方向に直交する、溝底と一対の側面を有する断面形状を、溝底から離れる方向に向けて側面が広がる形状とすることが記載されている。これにより、循環溝とボールとの隙間を小さく設定して、ボールの蛇行および循環溝とねじ軸との間の段差を抑えることができるため、異音や振動を抑制し、円滑な動作を確保できると記載されている。
特許文献4には、ボール循環溝をねじ軸に設け、ボール循環溝の全体を径方向で穏やかに波打つ形状にするとともに、ねじ軸のねじ溝との連結部分を極端に鋭いエッジのたたない形状にすることが記載されている。これにより、ねじ軸のねじ溝とボール循環溝との間でボールが円滑に出入りできるようにしている。
日本国特許公開公報 2008−281063A 日本国特許公開公報 2004−108538A 日本国特許公開公報 2008−267523A 日本国特許公開公報 2003−166616A 日本国特許公開公報 2007−146874A 日本国特許公開公報 2008−281064A 日本国特許公開公報 2000−297854A 日本国特許公開公報 2003−183735A 日本国特許公開公報 2006−90437A 日本国特許公開公報 2007−92968A 日本国特許公開公報 2010−138951A 日本国特許公開公報 1999−210859A 日本国特許公開公報 2005−299754A 日本国特許公開公報 2004−3631A
特許文献1〜4に記載された方法では、溝状のボール戻し経路(ボール循環溝)を有するボールねじの耐久性、ボール循環性能、および加工性能を向上させるという点で更なる改善の余地がある。
この発明の課題は、溝状のボール戻し経路(ボール循環溝)を有するボールねじの耐久性、ボール循環性能、および加工性能を更に向上させることである。
前記課題を解決するため、本発明の各態様は、次のような構成からなる。すなわち、本発明の第1の態様に係るボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ボールを前記ボール転走路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環溝と、を備え、前記ボール循環溝の両側面と前記各側面に連続し軸方向に延びる面とで形成される角部の少なくとも一部分が、丸く形成されていることを特徴とする。
また、本発明の第2の態様に係るボールねじは、第1の態様に係るボールねじにおいて、前記ナットは、前記ナットの内周面の一部を凹化させて、凹溝からなる前記ボール循環溝を形成した上、前記ナットの内周面に、前記ボール循環溝の端部と接続するように前記ねじ溝を形成することにより形成されたものであることを特徴とする。
さらに、本発明の第3の態様に係るボールねじは、第2の態様に係るボールにおいて、潤滑剤を保持可能な潤滑剤溜まりを備えており、該潤滑剤溜まりは、前記凹溝の内面の一部を凹化させてなる凹部からなることを特徴とする。
さらに、本発明の第4の態様に係るボールねじは、第3の態様に係るボールにおいて、前記ボール循環溝は、前記ボール転走路との接続部分である両端部と、前記両端部の間の中間部とからなり、前記ボール循環溝の長手方向に直交する平面で切断した前記潤滑剤溜まりの断面の面積は、前記端部に隣接する部分よりも前記中間部に隣接する部分の方が大きいことを特徴とする。
さらに、本発明の第5の態様に係るボールねじは、第3の態様に係るボールにおいて、前記ボール循環溝は湾曲しており、前記ボール循環溝の湾曲の径方向外方側に配された潤滑剤溜まりよりも、前記ボール循環溝の湾曲の径方向内方側に配された潤滑剤溜まりの方が、前記ボール循環溝の長手方向に直交する平面で切断した断面の面積が大きいことを特徴とする。
さらに、本発明の第6の態様に係るボールねじは、第3の態様に係るボールにおいて、前記ボール循環溝を構成する凹溝及び前記潤滑剤溜まりを構成する凹部は、同時に形成されたものであることを特徴とする。
さらに、本発明の第7の態様に係るボールねじは、第2の態様に係るボールにおいて、前記ボール循環溝の表面の算術平均粗さRa2 が0μm超1.6μm以下であることを特徴とする。
さらに、本発明の第8の態様に係るボールねじは、第7の態様に係るボールにおいて、円筒状のナット素材に内挿され、その軸方向に沿って移動するカムドライバと、前記ナット素材とカムドライバとの間に配置され、前記ボール循環溝に対応する凸部が形成され、前記カムドライバの移動により前記凸部が前記ナットの径方向に移動するカムスライダと、を有し、前記凸部の表面の算術平均粗さRa1 が0.01μm以上0.2μm以下である、カム機構の金型を用いたプレス法により、前記凸部で前記ナット素材の内周面を押すことで、前記ナット素材の内周面に前記ボール循環溝を形成したことを特徴とする。
さらに、本発明の第9の態様に係るボールねじは、第2の態様に係るボールにおいて、前記ボール循環溝は、前記ナットの内周面の一部を凹化させてなる凹溝で構成されているとともに、前記ナットのねじ溝の表面硬さがHRC58以上62以下、前記ボール循環溝のうち前記ボール転走路との接続部分である両端部の表面硬さがHRC58以上62以下、前記ボール循環溝のうち前記両端部の間の中間部の表面硬さがHV550以下であることを特徴とする。
さらに、本発明の第10の態様に係るボールねじは、第2の態様に係るボールにおいて、前記ボール循環溝のうち前記両端部のみと前記ナットのねじ溝とに高周波焼入れが施されていることを特徴とする。
さらに、本発明の第11の態様に係るボールねじは、第2の態様に係るボールにおいて、前記ナットは、前記ボール循環溝と前記ボール転走路との境界部分にブラシ加工及びブラスト加工の少なくとも一方を施してバリを除去することにより形成されたものであることを特徴とする。
さらに、本発明の第12の態様に係るボールねじは、第2の態様に係るボールにおいて、下記の3つの条件A,B,Cを満足することを特徴とする。
条件A:前記ボール循環溝は、前記ナットの内周面の一部を凹化させて形成した凹溝で構成されている。
条件B:前記ボール循環溝は、前記ボール転走路との接続部分である両端部と、前記両端部の間に配された中間部と、前記端部と前記中間部とを接続する湾曲部と、からなり、略S字状をなしている。
条件C:前記凹溝の縁部のうち前記湾曲部の縁部は湾曲しており、その湾曲の径方向外方側の縁部は、曲率半径の異なる複数の円弧が滑らかに連続した形状に形成されている。
さらに、本発明の第13の態様に係るボールねじは、第2の態様に係るボールにおいて、前記ボール循環溝は、前記ボール転走路との接続部分である両端部と、前記両端部の間に配された中間部と、を備えており、前記端部の溝幅よりも前記中間部の溝幅の方が狭いことを特徴とする。
さらに、本発明の第14の態様に係るボールねじは、第2の態様に係るボールにおいて、下記の3つの条件D,E,Fを満足することを特徴とする。
条件D:前記ボール循環溝は、前記ナットの内周面の一部を凹化させて形成した凹溝で構成されている。
条件E:前記ボール循環溝は、前記ボール転走路との接続部分である両端部と、前記両端部の間に配され互いに逆方向に湾曲する2つの湾曲部と、からなり、略S字状をなしている。
条件F:前記凹溝の縁部のうち前記両湾曲部の縁部は湾曲しており、その湾曲の径方向外方側の縁部は、曲率半径の異なる複数の円弧が滑らかに連続した形状に形成されている。
さらに、本発明の第15の態様に係るボールねじは、第2の態様に係るボールにおいて、下記の3つの条件G,H,Iを満足することを特徴とする。
条件G:前記ボール循環溝は、前記ナットの内周面の一部を凹化させて形成した凹溝で構成されている。
条件H:前記ボール循環溝は、前記ボール転走路との接続部分である両端部と、前記両端部の間に配され互いに逆方向に湾曲する2つの湾曲部と、からなり、略S字状をなしている。
条件I:前記凹溝の縁部のうち前記両湾曲部の縁部は湾曲しており、その湾曲の径方向外方側及び径方向内方側の縁部は、単一の円弧形状に形成されている。
さらに、本発明の第16の態様に係るボールねじは、第2の態様に係るボールにおいて、前記ボール循環溝は、前記ナットの内周面の一部を凹化させて形成した凹溝で構成されており、前記ボール循環溝の長手方向の少なくとも一部分は、前記長手方向に直交する平面で切断した場合の断面形状が略V字状をなしていることを特徴とする。
さらに、本発明の第17の態様に係るボールねじは、第16の態様に係るボールにおいて、前記ボール循環溝は、前記ボール転走路との接続部分である両端部と、前記両端部の間の中間部とからなり、前記中間部及び前記端部の少なくとも一方は、前記ボール循環溝の長手方向に直交する平面で切断した場合の断面形状が略V字状をなしていることを特徴とする。
さらに、本発明の第18の態様に係るボールねじは、第16の態様に係るボールにおいて、前記ボール循環溝を構成する凹溝の底部に潤滑剤溜まりを設けたことを特徴とする。
本発明のボールねじは、耐久性、ボール循環性能、および加工性能が良好である。
本発明のボールねじの第1実施形態の第1例を示す側面図である。 図1のボールねじを構成するコマを示す斜視図である。 図1のA−A断面図である。 本発明のボールねじの第1実施形態の第2例を示す側面図である。 図4のA−A断面図である。 図5のナットを製造する方法の一例で使用する、金型の構成部品を示す斜視図である。 ボール循環溝の機能を説明する図である。 図7のA部とB部におけるボールの挙動を説明する図である。 本発明に係るボールねじの第2実施形態を説明する断面図である。 ナットの要部断面図である。 ボール循環路の拡大断面図である。 ナットの凹溝を図10のA矢視方向から見た拡大図である。 ボール循環路の端部の断面形状を示す凹溝の断面図である。 ボール循環路の中間部の断面形状を示す凹溝の断面図である。 ボール転走路の断面形状を示すねじ溝の断面図である。 ボールねじの製造方法を説明する工程図である。 ボール循環路とボール転走路との境界部分を説明するナットの断面図である。 バリが除去された境界部分を示すナットの拡大断面図である。 ブラシ加工によるバリ除去工程を説明する図である。 ブラスト加工によるバリ除去工程を説明する図である。 従来のコマ式ボールねじにおいてナットとコマの境界部分に生じた段差を示す拡大断面図である。 第4実施形態に係るボールねじ用ナットの製造方法の一例を説明する図である。 第4実施形態に係るボールねじ用ナットの製造方法の例で使用する金型を構成するカムスライダ及びカムドライバの嵌め合い状態を示す平面図(a)と、カムスライダを示す斜視図(b)と、カムドライバを示す斜視図(c)である。 第4実施形態に係るボールねじ用ナットの製造方法の一例を説明する図であり、(a)は、ナット素材の切削加工の状態を示す斜視図であり、(b)は、(a)に示すナット素材と切削工具を矢印VA方向に見た図である。 第4実施形態に係るボールねじ用ナットの製造方法の一例を説明する図であり、(a)は、ナット素材の切削加工後における軸線方向断面図であり、(b)は、ナット素材の切削加工後における斜視図である。 従来のボールねじ用ナットの製造方法を説明する図である。 第5実施形態のボールねじの製造方法において、ナットの内周面に高周波焼入れを施す方法を説明する断面図である。 有効硬化層の形成状態を示すボール循環路の断面図である。 第6実施形態の第1例のボールねじのナットの凹溝を、図10のA矢視方向から見た拡大図である。 第6実施形態の第2例のボールねじの凹溝を図10のA矢視方向から見た拡大図である。 第6実施形態の第3例のボールねじの凹溝を図10のA矢視方向から見た拡大図である。 従来のボールねじの凹溝を図10のA矢視方向から見た拡大図である。 第7実施形態の第1例のボールねじのナットの凹溝及び凹部を図10のA矢視方向から見た拡大図である。 図33の凹溝のB−B断面図である。 第7実施形態の第2例のボールねじの凹溝及び凹部を図10のA矢視方向から見た拡大図である。 図35の凹溝及び凹部のC−C断面図である。 図35の凹溝及び凹部のD−D断面図である。 第7実施形態の第3例のボールねじの凹溝及び凹部を図10のA矢視方向から見た拡大図である。 電動パワーステアリング装置のステアリングギヤの一部断面図である。
本発明に係るボールねじの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1〜3に示すように、第1実施形態の第1例のボールねじは、ねじ軸201と、ナット202と、ボール203と、コマ204を備えている。ねじ軸201の外周面に螺旋溝201aが形成されている。ナット202の内周面に螺旋溝202aが形成されている。ナット202の径方向に貫通する貫通穴202bにコマ204が嵌めてある。ボール203は、ナット202の螺旋溝202aとねじ軸201の螺旋溝201aで形成される軌道の間に配置されている。
図2および3に示すように、コマ204に、ボール203を軌道の終点から始点に戻すボール循環溝241が形成されている。コマ204に形成されたボール循環溝241は、図3に示すように、溝底241aと、溝底241aに連続する1対の側面241bを有する。ボール循環溝241の両側面241bと各側面241bに連続する軸方向に延びる面242との角部241cが、丸く形成されている。
図4および5に示す第1実施形態の第2例のボールねじでは、ボール循環溝241がナット202の内周面202dに直接形成されており、ナット202に図1に示すような貫通穴202bは形成されていないし、コマ204も有さない。
図5に示すように、ナット202の内周面202dに形成されたボール循環溝241は、溝底241aと、溝底241aに連続する1対の側面241bを有する。ボール循環溝241の両側面241bと各側面241bに連続する軸方向に延びる面(ナット202の内周面)202dとの角部241cが、丸く形成されている。
第1例および第2例のボールねじによれば、ボール循環溝241の角部241cが丸く形成されているため、丸く形成されていないものと比較して、ボール203が循環する際にボール203の表面に傷や打痕が発生しにくく、ボール循環溝241の角部241cの欠け等が生じにくい。よって、耐久性が向上する。
また、ボール循環溝241を進行するボール203が、ねじ軸1の外周面(ランド部)201bを超える際にもスムーズに移動できるため、ボール循環性能が向上する。さらに、ボール循環溝241の角部241cが丸く形成されていることにより、角部241cにバリがほとんど発生しない。よって、バリ取りの後工程が省略できるため、加工性能が向上する。
図5に示すような、角部241cが丸いボール循環溝241が直接形成されたナット202は、例えば、ナット用素材から作製された円筒状ブランクの内周面に、図6(a)に示すような金型205を用いた塑性加工でボール循環溝を形成した後に、このボール循環溝の両端を接続するようにボール転動溝を切削加工で形成することにより、製造することができる。図6(a)に示す金型205は、基部の面251に、ボール循環溝241に対応させた突起252,253が形成されている。第1の突起252はボール循環溝241の溝底241aおよび側面241bを形成し、第2の突起253が角部241cの丸みを形成する。
角部241cが丸いボール循環溝241をナット202に直接形成する他の方法としては、従来の方法で角部が尖ったボール循環溝241をナット202に直接形成した後、ショットブラスト等のメディア投射法で尖った角部を丸める方法や、図6(b)に示すように、第2の突起253の無い金型205を用いて塑性流動を利用して角部を丸める方法が挙げられる。
ボール循環溝241は、図7に示すように、ナット202の螺旋溝202aと接続されている。ボール循環溝241のボール導入側(A部)では、図8の右図に示すように、螺旋溝202aからボール循環溝241に入ったボール203は、ボール循環溝241の側面241bに当たって矢印方向の力を受ける。この力が付与されたボール203は、ボール循環溝241の中央部(B部)で、図8の左図に示すように、ねじ軸201の外周面(ランド部)201bを乗り越えて隣の螺旋溝202aに移動する。よって、角部241cの丸みの度合いは、ボール203がスムーズにねじ軸201のランド部201bを乗り越えられる力が付与される範囲に設定する必要がある。
また、特許文献2のように、ナットの軸方向一端部に、ナットと一体に同軸の円環状のボール循環部を設け、このボール循環部にボール循環溝を設けた上で、このボール循環溝の両側面と各側面に連続する軸方向に延びる面との角部を丸く形成してもよい。これにより、ボールねじの耐久性、ボール循環性能、および加工性能を更に向上できる。
また、特許文献3のように、循環溝(ボール循環溝)のボール進行方向に直交する、溝底と一対の側面を有する断面形状を、溝底から離れる方向に向けて側面が広がる形状とした上で、このボール循環溝の両側面と各側面に連続する軸方向に延びる面との角部を丸く形成してもよい。これにより、ボールねじの耐久性、ボール循環性能、および加工性能を更に向上できる。
また、ナット用素材から作製された円筒状ブランクの内周面に、金型を用いた塑性加工でボール循環溝を形成する際に、前記内周面のボール循環溝の周囲にフランジを突出させたボールねじ(日本国特許願 2009年第226241号明細書)において、このボール循環溝(フランジ形成部分はフランジ)の両側面と各側面に連続する軸方向に延びる面との角部を丸く形成してもよい。これにより、ボールねじの耐久性、ボール循環性能、および加工性能を更に向上できる。
また、ボール循環溝がナットではなく、ねじ軸に形成されている場合にも、このボール循環溝の両側面と各側面に連続する軸方向に延びる面との角部を丸く形成することによって、同様の効果を得ることができる。
〔第2実施形態〕
第2実施形態は、ボールねじに関する。
ボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路内に転動自在に装填された複数のボールと、からなる。そして、ボールを介してねじ軸に螺合されているナットとねじ軸とを相対回転運動させると、ボールの転動を介してねじ軸とナットとが軸方向に相対移動するようになっている。
このようなボールねじには、ボール転走路の始点と終点とを連通させて無端状のボール通路を形成するボール循環路が備えられている。すなわち、ボールは、ボール転走路内を移動しつつねじ軸の回りを回ってボール転走路の終点に至ると、ボール循環路の一方の端部から掬い上げられてボール循環路内を通り、ボール循環路の他方の端部からボール転走路の始点に戻される。このように、ボール転走路内を転動するボールがボール循環路により無限に循環されるようになっているので、ねじ軸とナットとは継続的に相対移動することができる。
このようなボールねじにおけるボール循環路の形状としては、例えば特許文献3に開示されているように、ボール循環路の長手方向に直交する平面で切断した場合の断面形状が略U字状のものが知られている。
しかしながら、特許文献1の方法(後述する図26に示す方法)のように、金型を用いた鍛造によりナットの内周面の一部を凹化させて凹溝を形成し、この凹溝でボール循環路を構成する場合には、断面形状が略U字状のボール循環路は、鍛造に大きなエネルギーを要する傾向があった。すなわち、金型が有する凸部をナット用素材の内周面に接触させ、強く押圧することにより塑性加工して凹溝を形成するが、断面形状が略U字状のボール循環路を形成する場合は、鍛造時に金型の凸部の先端部とナット用素材との当接角度が大きいので、鍛造に大きなエネルギーを要する傾向があった。よって、ボール循環路の形成に要するエネルギーが小さくなるよう、さらなる改良が望まれていた。
そこで、第2実施形態は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、製造時に必要なエネルギーが小さいボールねじを提供することを課題とする。
前記課題を解決するため、第2実施形態は次のような構成からなる。すなわち、第2実施形態のボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ボールを前記ボール転走路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路と、を備えるボールねじにおいて、前記ボール循環路は、前記ナットの内周面の一部を凹化させて形成した凹溝で構成されており、前記ボール循環路の長手方向の少なくとも一部分は、前記長手方向に直交する平面で切断した場合の断面形状が略V字状をなしていることを特徴とする。
このような第2実施形態のボールねじにおいては、前記ボール循環路は、前記ボール転走路との接続部分である両端部と、前記両端部の間の中間部とからなり、前記中間部及び前記端部の少なくとも一方は、前記ボール循環路の長手方向に直交する平面で切断した場合の断面形状が略V字状をなしていることが好ましい。また、前記ボール循環路を構成する凹溝の底部に潤滑剤溜まりを設けることが好ましい。
第2実施形態のボールねじは、ボール循環路の長手方向の少なくとも一部分は、前記長手方向に直交する平面で切断した場合の断面形状が略V字状をなしているので、製造時に必要なエネルギーが小さい。
第2実施形態に係るボールねじを、図面を参照しながら詳細に説明する。
[第1例]
図9は、第2実施形態の第1例のボールねじの構造を説明する断面図(軸方向に沿う平面で切断した断面図)である。
図9に示すように、ボールねじ1は、螺旋状のねじ溝3aを外周面に有するねじ軸3と、ねじ軸3のねじ溝3aに対向する螺旋状のねじ溝5aを内周面に有するナット5と、両ねじ溝3a,5aにより形成される螺旋状のボール転走路7内に転動自在に装填された複数のボール9と、ボール9をボール転走路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11と、を備えている。
すなわち、ボール9は、ボール転走路7内を移動しつつねじ軸3の回りを回ってボール転走路7の終点に至り、そこでボール循環路11の一方の端部から掬い上げられてボール循環路11内を通り、ボール循環路11の他方の端部からボール転走路7の始点に戻されるようになっている。
なお、ねじ溝3a,5aの断面形状(長手方向に直交する平面で切断した場合の断面の形状)は、円弧状(単一円弧状)でもよいしゴシックアーク状でもよい。また、ねじ軸3,ナット5,及びボール9の材質は特に限定されるものではなく、一般的な材料を使用可能である。例えば、金属(鋼等),焼結合金,セラミック,樹脂があげられる。
このようなボールねじ1は、ボール9を介してねじ軸3に螺合されているナット5とねじ軸3とを相対回転運動させると、ボール9の転動を介してねじ軸3とナット5とが軸方向に相対移動するようになっている。そして、ボール転走路7とボール循環路11により無端状のボール通路が形成されており、ボール転走路7内を転動するボール9が無端状のボール通路内を無限に循環するようになっているため、ねじ軸3とナット5とは継続的に相対移動することができる。
ここで、ボール循環路11について、図10,11の断面図(軸方向に直交する平面で切断した断面図)を参照しながら詳細に説明する。ボール循環路11は、ナット5の内周面に一体的に形成されている。詳述すると、ナット5の円柱面状の内周面の一部を塑性加工(例えば、金型を用いて鍛造を行う後述の方法)により凹化させて形成した凹溝22を、ボール循環路11としている。よって、チューブ式,コマ式等のボール循環形式の場合とは異なり、ボール循環路を構成する別部材は取り付けられていない。そして、別部材が用いられていないので、別部材が用いられた場合に境界部分に生じる、エッジ部を有する段差が生じるおそれはない。
図11に示すように、ボール転走路7の終点に転動してきたボール9は、ボール循環路11の一方の端部から掬い上げられてナット5の内部(径方向外方側)に沈み込む。そして、ボール循環路11内を通ってねじ軸3のランド部3b(ねじ溝3aのねじ山)を乗り越えて、ボール循環路11の他方の端部からボール転走路7の始点に戻される。
また、図12に示すように、ボール循環路11(凹溝22)は、ボール転走路7(ねじ溝5a)との接続部分である両端部11a,11aが直線状となっており、両端部11a,11aの間に位置する中間部11bが曲線状となっている。この中間部11bの両端と両端部11a,11aとが滑らかに接続されていて、図10のA矢視方向から見たボール循環路11(凹溝22)の全体形状は略S字状をなしている。ただし、ボール循環路11の全体形状は、図12に示すような略S字状に限定されるものではない。
この直線状の端部11aによりボール9の導入部が形成されており、ボール転走路7からボール循環路11に入ってきたボール9は、導入部を通って中間部11bの湾曲部分に突き当たることにより案内されて、進行方向を変える。よって、この導入部は、ボール9が激しく衝突する部分である。なお、ボール循環路11とボール転走路7とは、滑らかに接続されている。すなわち、ボール9と凹溝22の内面との接点の軌跡と、ボール9とねじ溝5aの内面との接点の軌跡とが、滑らかに連続するように接続されている。その結果、ボール9が滑らかに循環する。
さらに、ボール循環路11の形状について、図12〜15を参照しながら詳細に説明する。図13は、ボール循環路11の端部11aの断面形状を示す凹溝22の断面図であり、図14は、ボール循環路11の中間部11bの断面形状を示す凹溝22の断面図である。また、図15は、ボール転走路7の断面形状を示すねじ溝5aの断面図である。いずれの断面図も、ボール循環路11又はボール転走路7の長手方向に直交する平面で切断した場合の断面図である。
第1例のボールねじ1においては、ナット5の略周方向に延びるボール循環路11の断面形状(ボール循環路11の長手方向に直交する平面で切断した場合の断面形状)が、前記長手方向全体でV字状をなしている。例として、ボール循環路11の端部11aの断面形状を、図13に示す。図13から分かるように、端部11aの断面形状は、2直線が交差してなるV字状である。
断面形状がV字状のボール循環路11を形成する場合は、断面形状が円弧状や略U字状のボール循環路を形成する場合と比べて、鍛造時に金型の凸部の先端部(V字状凸部の先端)とナット用素材との当接角度が小さいので、冷間鍛造が容易となり、また、鍛造に要するエネルギーが大幅に小さくなる。よって、ボールねじ1の製造に際して必要なエネルギーが小さい。このような効果をより高く得るためには、V字部分のなす角度(交差する前記2直線がなす角度)は90°以上であることが好ましい。
ただし、凹溝22の底部からナット5の内周面まで前記2直線が延びた断面V字状である必要はなく、前記2直線が途中から屈曲した断面五角形状でもよい。すなわち、断面形状が全体としてV字状でなくてもよく、凹溝22のうち底部近傍部分のみが断面V字状であってもよい。例として、ボール循環路11の中間部11bの断面形状を、図14に示す。図14のような断面形状であれば、図13のようなV字状の場合と比べて凹溝22の幅が小さくなるので、鍛造における除肉量を削減することができる。よって、鍛造に要するエネルギーがより小さくなる。なお、図14の凹溝22は、底部近傍部分が断面V字状で、開口部近傍部分は断面矩形状であるが、開口部近傍部分は断面台形状でもよい。
また、ボール循環路11の断面形状がV字状であるため、図13,14から分かるように、ボール9は凹溝22の内面と2点で接触し支持される。その結果、ボール循環路11内でのボール9の挙動が安定する。
さらに、ボール循環路11の断面形状がV字状であるため、ボール循環路11を構成する凹溝22の底部に、凹溝22の内面とボール9とに囲まれた空間が形成される。この空間には、潤滑油,グリース等の潤滑剤を保持可能なので、該空間は潤滑剤溜まりとして機能する。
潤滑剤溜まりに保持されている潤滑剤は、ボールねじ1の使用中にボール9に適宜供給されるので、潤滑剤はボール循環路11内でボール9の表面に付着し、ボール9とともにボール転走路7に至り、ねじ溝3a,5a及びボール9の表面の潤滑に供される。そのため、ボールねじ1は潤滑性に優れ長寿命となる。また、潤滑剤溜まり内に保持された潤滑剤によってボールねじ1が潤滑されるため、ボールねじ1の内部に潤滑剤を補給するメンテナンス作業の頻度を少なくすることができる。
このような第1例のボールねじ1の用途は特に限定されるものではないが、自動車部品,位置決め装置等に好適に使用可能である。
次に、第1例のボールねじ1の製造方法の一例を、図16,17を参照しながら説明する。まず、円柱状の鋼製素材20を冷間鍛造等の塑性加工により加工し、ナット5と略同一形状(略円筒形状)のブランク21を得た(粗成形工程)。このとき、塑性加工により、ブランク21の外周面にはフランジ13も形成される。
次に、ブランク21の円柱面状の内周面の一部を冷間鍛造等の塑性加工により凹化させて、ボール転走路7の終点と始点を連通するボール循環路11をなす略S字状の凹溝22を形成した(ボール循環路形成工程)。
凹溝22を形成する方法の具体例としては、以下のようなものがあげられる。すなわち、凹溝22に対応する形状の凸部を有する金型(図示せず)をブランク21内に挿入し、ブランク21の内周面に金型の凸部を接触させ、ブランク21の内周面に向かって金型を強く押圧することにより塑性加工して、凹溝22を形成することができる。
例えば、後述する図22に示すように、カムドライバと、凹溝22に対応する形状の凸部を有するカムスライダと、を有するカム機構の金型を用いて、凹溝22を形成してもよい。詳述すると、ブランク21内にカムドライバとカムスライダを挿入し、そのときカムスライダは、ブランク21とカムドライバとの間に配置するとともに、凸部をブランク21の内周面に向けて配置する。ブランク21内に配されたカムスライダとカムドライバは、ブランク21の略軸方向(ブランク21の軸方向から若干傾斜した方向)に延びる傾斜面で相互に接触しており、両傾斜面が金型のカム機構を構成している。
ここで、カムドライバをブランク21の軸方向に沿って移動させると、両傾斜面で構成されるカム機構(くさびの作用)によりカムスライダがブランク21の径方向外方に移動する。すなわち、カムドライバの傾斜面からカムスライダの傾斜面に力が伝達され、カムドライバの軸方向の力がカムスライダを径方向外方へ動かす力に変換される。その結果、カムスライダの凸部がブランク21の内周面を強く押圧することとなるので、塑性加工によりブランク21の内周面に凹溝22が形成される。なお、特許文献1の方法(図26に示す方法)で塑性加工を行ってもよい。
次に、ナット5の内周面に、慣用の切削加工(例えば、後述する図24に示す方法)により、ボール循環路11(凹溝22)の最端部と接続するようにねじ溝5aを形成した(ねじ溝形成工程)。このとき、凹溝22(ボール循環路11)の最端部は球面状をなしているので、ねじ溝5aとの境界部分30の段差にコマ式ボールねじの場合のようなエッジ部は発生せず、滑らかな段差となる。その結果、境界部分30をボール9が通過しても、異音や作動トルク変動が生じにくく、また寿命低下も生じにくい。
最後に、所望の条件で焼入れ,焼戻し等の熱処理を施して、ナット5が得られた。この熱処理の例としては、浸炭処理,浸炭窒化処理,高周波熱処理等があげられる。熱処理が浸炭処理又は浸炭窒化処理である場合は、ナット5の材質は、炭素の含有量が0.10〜0.25質量%のクロム鋼又はクロムモリブデン鋼(例えばSCM420)であることが好ましく、熱処理が高周波焼入れである場合は、炭素の含有量が0.4〜0.6質量%の炭素鋼(例えばS53C,SAE4150)であることが好ましい。
このようにして製造されたナット5と、慣用の方法により製造されたねじ軸3及びボール9とを組み合わせて、ボールねじ1を製造した。
なお、前述の粗成形工程及びボール循環路形成工程を塑性加工で行ったので、このボールねじ1の製造方法は、材料歩留まりが高いことに加えて、高精度のボールねじを安価に製造することができる。また、塑性加工により製造するため、鋼製素材20が有するメタルフロー(鍛流線)がほとんど切断されず、また、加工硬化するので、高強度のナット5が得られる。
塑性加工の種類は特に限定されるものではないが、鍛造が好ましく、特に冷間鍛造が好ましい。熱間鍛造を採用することも可能であるが、冷間鍛造は熱間鍛造に比べて高精度な仕上げが可能であるので、後加工を施さなくても十分に高精度なナット5を得ることができる。よって、ボールねじ1を安価に製造することができる。粗成形工程及びボール循環路形成工程における塑性加工を冷間鍛造とすることが好ましいが、いずれか1つの工程における塑性加工を冷間鍛造としてもよい。
[第2例]
第2実施形態の第2例のボールねじの構成及び作用効果は、第1例とほぼ同様であるので、異なる部分のみ説明し、同様の部分の説明は省略する。
第1例のボールねじ1においては、ボール循環路11の断面形状は、長手方向全体でV字状をなしているが、ボール循環路11の一部分(ボール循環路11の長手方向の一部分)の断面形状がV字状であってもよい。第2例のボールねじ1においては、中間部11bのみが断面V字状となっており、両端部11a,11aの断面形状は、円弧状(単一円弧状)又はゴシックアーク状となっている。鍛造時の除肉量が最も多い中間部11bが断面V字状となっているので、鍛造に要するエネルギーが大幅に小さくなる。
[第3例]
第2実施形態の第3例のボールねじの構成及び作用効果は、第1例とほぼ同様であるので、異なる部分のみ説明し、同様の部分の説明は省略する。
第3例のボールねじ1においては、第2例の場合とは逆に、両端部11a,11aが断面V字状となっており、中間部11bの断面形状は円弧状(単一円弧状)又はゴシックアーク状となっている。
ボール9の導入部である端部11aは、ボール9が負荷領域から無負荷領域へ移動する部分であり、ボール9の挙動が最も不安定な部分である。このような部分の断面形状がV字状であり、ボール9が凹溝22の内面と2点で接触し支持されているため、ボール9の挙動が安定する。
また、ボール9が滑りによって移動する中間部11bの断面形状を、ボール9が凹溝22の内面と1点で接触する円弧状又は略U字状とすれば、ボール9の摩耗損失を低減することができる。
なお、上記第1例〜第3例は第2実施形態の一例を示したものであって、第2実施形態は上記第1例〜第3例に限定されるものではない。例えば、第1例〜第3例のボールねじ1においては、凹溝22を鍛造により形成した例を示したが、鍛造以外の方法によって、ブランク21の円柱面状の内周面の一部を凹化させて凹溝22を形成してもよい。例えば、切削加工,研削加工,放電加工等の除去加工によって凹化させてもよい。あるいは、鋳造によって、内周面に凹溝22を有するブランク21を製造し、この凹溝22をボール循環路11としてもよい。これらの方法により凹溝22を形成した場合には、ボールねじ1の製造に際して必要なエネルギーが小さいという効果は奏されないが、ボール循環路11内でのボール9の挙動が安定するという効果は奏される。
また、第1例〜第3例のボールねじ1においては、ボール9をボール転走路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11をナット5に形成したナット循環方式のボールねじを例示したが、第2実施形態は、ボール循環路11に相当するものをねじ軸に形成したねじ軸循環方式のボールねじにも適用可能である。
〔第3実施形態〕
第3実施形態は、ボールねじの製造方法に関する。
ボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路内に転動自在に装填された複数のボールと、からなる。そして、ボールを介してねじ軸に螺合されているナットとねじ軸とを相対回転運動させると、ボールの転動を介してねじ軸とナットとが軸方向に相対移動するようになっている。
このようなボールねじには、ボール転走路の始点と終点とを連通させて無端状のボール通路を形成するボール循環路が備えられている。すなわち、ボールは、ボール転走路内を移動しつつねじ軸の回りを回ってボール転走路の終点に至ると、ボール循環路の一方の端部から掬い上げられてボール循環路内を通り、ボール循環路の他方の端部からボール転走路の始点に戻される。このように、ボール転走路内を転動するボールがボール循環路により無限に循環されるようになっているので、ねじ軸とナットとは継続的に相対移動することができる。
ボール循環路を用いたボール循環形式としては、チューブ式,コマ式等が一般的である。コマ式ボールねじにおいては、ボール循環路を構成する循環溝101が設けられたコマ102が、ナット103に形成されたコマ穴104に挿入されて固定されている。このようなコマ式ボールねじのナット103は、円筒状の素材に切削によって穴開け加工や内外周面の加工を行うことにより製造されるため、材料歩留まりが悪かった。また、ナット103とコマ102が別部材であるため、ナット103とコマ102の寸法のバラツキにより、その境界部分に、エッジ部を有する段差105が生じるおそれがあった(コマ102及びコマ穴104の周辺部と段差周辺部を拡大して示した図21を参照。なお、符号100はボール転走路である)。
ナットとコマの境界部分に、エッジ部を有する段差が形成されていると、該境界部分をボールが通過した際に異音や作動トルク変動が生じるおそれがあり、ひいては寿命低下が生じて、そのメンテナンスのためにコストが高騰するという問題点があった。そして、この段差を滑らかにするために、砥石,エンドミル等を用いた機械加工を施すと、コマとコマ穴との間に砥粒,切粉等が残留するおそれがあった。
これらの問題を解決する先行技術としては、例えば特許文献6がある。特許文献6においては、コマをナットに取り付ける前に、ナットのねじ溝におけるコマ穴に隣接する部位に、ショットピーニング加工を施している。また、コマの循環溝にもショットピーニング加工を施している。しかしながら、ショットピーニング加工は高コストであるため、加工コストが嵩んでしまうという問題点があった。
そのため、特許文献7においては、ナットを焼結合金で構成することにより、ボール循環路を構成する戻り溝をナットの内周面に一体的に形成している。すなわち、ナットとボール循環路が別部材ではなく一体的に形成されているため、前述のようなエッジ部を有する段差が形成されることがない。
しかしながら、特許文献7に記載のボールねじのナットは、焼結合金によって構成されているので、密度が低いという問題点があった。また、気孔の発生等によって、ナットの強度がボールねじのナットとして十分ではない場合があった。
そこで、第3実施形態は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、異音や作動トルク変動が生じにくく長寿命で安価なボールねじの製造方法を提供することを課題とする。
前記課題を解決するため、第3実施形態は次のような構成からなる。すなわち、第3実施形態のボールねじの製造方法は、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ボールを前記ボール転走路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路と、を備えるボールねじを製造する方法において、前記ナットの内周面の一部を凹化させて、凹溝からなる前記ボール循環路を形成するボール循環路形成工程と、前記ナットの内周面に、前記ボール循環路の端部と接続するように前記ねじ溝を形成するねじ溝形成工程と、前記ボール循環路と前記ボール転走路との境界部分にブラシ加工及びブラスト加工の少なくとも一方を施してバリを除去するバリ除去工程と、を備えることを特徴とする。
このような第3実施形態のボールねじの製造方法においては、前記ボール循環路形成工程において、前記ナットの内周面の一部を鍛造により凹化させて、凹溝からなる前記ボール循環路を形成してもよい。
この第3実施形態のボールねじの製造方法は、ボール循環路とボール転走路との境界部分に生じるバリを除去するバリ除去工程を備えているので、境界部分をボールが通過する際に異音や作動トルク変動が生じにくく長寿命なボールねじを安価に製造することができる。
第3実施形態のボールねじの製造方法の例を、図面を参照しながら詳細に説明する。図9は、第3実施形態のボールねじの一例の断面図(軸方向に沿う平面で切断した断面図)である。
図9に示すように、ボールねじ1は、螺旋状のねじ溝3aを外周面に有するねじ軸3と、ねじ軸3のねじ溝3aに対向する螺旋状のねじ溝5aを内周面に有するナット5と、両ねじ溝3a,5aにより形成される螺旋状のボール転走路7内に転動自在に装填された複数のボール9と、ボール9をボール転走路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11と、を備えている。
すなわち、ボール9は、ボール転走路7内を移動しつつねじ軸3の回りを回ってボール転走路7の終点に至り、そこでボール循環路11の一方の端部から掬い上げられてボール循環路11内を通り、ボール循環路11の他方の端部からボール転走路7の始点に戻されるようになっている。
なお、ねじ溝3a,5aの断面形状は、円弧状でもよいしゴシックアーク状でもよい。また、ねじ軸3,ナット5,及びボール9の材質は特に限定されるものではなく、一般的な材料を使用可能であり、例えば金属(鋼等),セラミック,樹脂があげられる。例えば、ナット5を焼結合金で構成すると、密度が低いという問題点や、気孔の発生等によってナット5の強度がボールねじのナットとして不十分となるという問題点が生じるおそれがあるが、ナット5を鋼等の金属で構成すれば、ボールねじのナットとして十分な強度を付与できる。
このようなボールねじ1は、ボール9を介してねじ軸3に螺合されているナット5とねじ軸3とを相対回転運動させると、ボール9の転動を介してねじ軸3とナット5とが軸方向に相対移動するようになっている。そして、ボール転走路7とボール循環路11により無端状のボール通路が形成されており、ボール転走路7内を転動するボール9が無端状のボール通路内を無限に循環するようになっているため、ねじ軸3とナット5とは継続的に相対移動することができる。
ここで、ボール循環路11について、図10,11の断面図(軸方向に直交する平面で切断した断面図)を参照しながら詳細に説明する。ボール循環路11は、ナット5の内周面に一体的に形成されている。詳述すると、ナット5の円柱面状の内周面の一部を塑性加工又は切削加工により凹化させて形成した凹溝22を、ボール循環路11としている。よって、チューブ式,コマ式等のボール循環形式の場合とは異なり、ボール循環路を構成する別部材は取り付けられていない。そして、別部材が用いられていないので、別部材が用いられた場合に境界部分に生じる、エッジ部を有する段差が生じるおそれはない。
図11に示すように、ボール転走路7の終点に転動してきたボール9は、ボール循環路11の一方の端部から掬い上げられてナット5の内部(径方向外方側)に沈み込む。そして、ボール循環路11内を通ってねじ軸3のランド部3b(ねじ溝3aのねじ山)を乗り越えて、ボール循環路11の他方の端部からボール転走路7の始点に戻される。なお、ボール循環路11の断面形状は、円弧状でもよいしゴシックアーク状でもよい。
このような第3実施形態の本例のボールねじ1の用途は特に限定されるものではないが、自動車部品,位置決め装置等に好適に使用可能である。
次に、第3実施形態のボールねじ1の製造方法の一例を、図16〜20を参照しながら説明する。まず、円柱状の鋼製素材20を冷間鍛造等の塑性加工により加工し、ナット5と略同一形状(略円筒形状)のブランク21を得た(粗成形工程)。このとき、塑性加工により、ブランク21の外周面にはフランジ13も形成される。
次に、ブランク21の円柱面状の内周面の一部を冷間鍛造等の塑性加工(又は切削加工でもよい)により凹化させて、ボール転走路7の終点と始点を連通するボール循環路11をなす凹溝22を形成した(ボール循環路形成工程)。凹溝22を形成する方法の具体例としては、以下のようなものがあげられる。すなわち、凹溝22に対応する形状の凸部を有する金型(図示せず)をブランク21内に挿入し、ブランク21の内周面に金型の凸部を接触させ、ブランク21の内周面に向かって金型を強く押圧することにより塑性加工して、凹溝22を形成することができる。
例えば、後述する図22に示すように、カムドライバと、凹溝22に対応する形状の凸部を有するカムスライダと、を有するカム機構の金型を用いて、凹溝22を形成してもよい。詳述すると、ブランク21内にカムドライバとカムスライダを挿入し、そのときカムスライダは、ブランク21とカムドライバとの間に配置するとともに、その凸部をブランク21の内周面に向けて配置する。ブランク21内に配されたカムスライダとカムドライバは、ブランク21の略軸方向(ブランク21の軸方向から若干傾斜した方向)に延びる傾斜面で相互に接触しており、両傾斜面が金型のカム機構を構成している。
ここで、カムドライバをブランク21の軸方向に沿って移動させると、両傾斜面で構成されるカム機構(くさびの作用)によりカムスライダがブランク21の径方向外方に移動する。すなわち、カムドライバの傾斜面からカムスライダの傾斜面に力が伝達され、カムドライバの軸方向の力がカムスライダを径方向外方へ動かす力に変換される。その結果、カムスライダの凸部がブランク21の内周面を強く押圧することとなるので、塑性加工によりブランク21の内周面に凹溝22が形成される。なお、図22に示す方法の代わりに、特許文献1の方法(図26に示す方法)を用いてもよい。
次に、ナット5の内周面に、慣用の切削加工(例えば、後述する図24に示す方法)により、ボール循環路11(凹溝22)の端部と接続するようにねじ溝5aを形成した(ねじ溝形成工程)。このとき、凹溝22(ボール循環路11)の端部は球面状をなしているので、ねじ溝5aとの境界部分30の段差にコマ式ボールねじの場合のようなエッジ部は発生せず、滑らかな段差27となる(凹溝22の周辺部及び段差周辺部を拡大して示した図18を参照)。
ただし、凹溝22(ボール循環路11)とねじ溝5a(ボール転走路7)との境界部分30(図17を参照)に、切削加工により微小なバリが生じるおそれがある。バリが存在すると、境界部分30をボール9が通過した際に異音や作動トルク変動が生じるおそれがあり、ひいては寿命低下が生じるおそれがある。そこで、バリを除去するために、ブラシ加工(図19を参照。符号51はブラシである。)及びブラスト加工(図20を参照。符号52はブラストノズルである。)の少なくとも一方を境界部分30に施した(バリ除去工程)。
境界部分30にバリが存在しないので、ボール循環路11とボール転走路7が滑らかに接続されている。その結果、境界部分30をボール9が通過しても、異音や作動トルク変動を生じることがなく、また寿命低下も生じにくい。また、ブラシ加工やブラスト加工を施すと、表面の圧縮残留応力により疲労強度が向上する。さらに、ブラシ加工やブラスト加工は、ショットピーニング加工に比べて低コストであるため、ボールねじ1を安価に製造することができる。さらに、ブラシ加工やブラスト加工によって、境界部分30にバリが存在せず、しかも、面だらし形状となるため、これらの効果により、ボール9をより円滑に循環させることができる。なお、面だらし形状とは、曲面状の面取り形状である。
さらに、従来のコマ式ボールねじにおいては、ブラシ加工やブラスト加工を施すと、後述する砥粒,メディア,切粉等がコマとコマ穴との間に残留するおそれがあった。しかしながら、第3実施形態のボールねじ1においては、ナット5とボール循環路11とが一体になっているので、上記のような砥粒,メディア,切粉等の残留という不都合が生じるおそれはない。
ブラシ加工においては、スチール,ステンレス,ポリアミド樹脂(ナイロン)等からなるブラシを用いることができる。このブラシは、砥粒を備えるブラシでもよい。砥粒の種類は特に限定されるものではないが、アルミナ,炭化ケイ素,ダイヤモンド等が好ましい。また、ブラスト加工は、ブラストノズルからメディアを境界部分30に吹き付ける処理である。メディアの種類は特に限定されるものではないが、スチール,ガラス,アルミナや、ポリアミド樹脂(ナイロン)等のプラスチックが好ましい。また、メディアを吹き付ける時間は特に限定されるものではないが、2秒以上5秒以下が好ましく、3秒前後がより好ましい。さらに、バリ除去工程を終えた境界部分30の表面粗さは、1.6μmRa以下であることが好ましい。
最後に、所望の条件で焼入れ,焼戻し等の熱処理を施して、ナット5が得られた。この熱処理の例としては、浸炭処理,浸炭窒化処理,高周波熱処理等があげられる。なお、このような熱処理は、バリ除去工程の前に行ってもよい。熱処理後にブラシ加工やブラスト加工を施すと、表面の圧縮残留応力により疲労強度が向上するという効果が、より高まる。また、熱処理が浸炭処理又は浸炭窒化処理である場合は、ナット5の材質はSCM420であることが好ましく、熱処理が高周波焼入れである場合は、S53C又はSAE4150であることが好ましい。
このようにして製造されたナット5と、慣用の方法により製造されたねじ軸3及びボール9とを組み合わせて、ボールねじ1を製造した。
前述の粗成形工程及びボール循環路形成工程を塑性加工で行ったので、このボールねじ1の製造方法は、材料歩留まりが高いことに加えて、高精度のボールねじを安価に製造することができる。また、塑性加工により製造するため、鋼製素材20が有するメタルフロー(鍛流線)がほとんど切断されず、また、加工硬化するので、高強度のナット5が得られる。
塑性加工の種類は特に限定されるものではないが、鍛造が好ましく、特に冷間鍛造が好ましい。熱間鍛造を採用することも可能であるが、冷間鍛造は熱間鍛造に比べて高精度な仕上げが可能であるので、後加工を施さなくても十分に高精度なナット5を得ることができる。よって、ボールねじ1を安価に製造することができる。粗成形工程及びボール循環路形成工程における塑性加工を冷間鍛造とすることが好ましいが、いずれか1つの工程における塑性加工を冷間鍛造としてもよい。また、塑性加工に切削加工等を組み合わせてもよい。
なお、本例は第3実施形態の一例を示したものであって、第3実施形態は本例に限定されるものではない。例えば、本例のボールねじにおいては、ボール9をボール転走路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11をナット5に形成したナット循環方式のボールねじを例示したが、第3実施形態は、ボール循環路11に相当するものをねじ軸に形成したねじ軸循環方式のボールねじにも適用可能である。
〔第4実施形態〕
第4実施形態は、ボールねじを構成するナットの製造方法、並びにその製造方法に用いられる金型及びその製造方法によって製造されるボールねじ用ナットに関する。
ボールねじは、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、前記ボールを軌道の終点から始点に戻すボール戻し経路とを備え、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動する装置である。
このようなボールねじは、一般的な産業用機械の位置決め装置等だけでなく、自動車、二輪車、船舶等の乗り物に搭載される電動アクチュエータにも使用されている。
ボールねじのボール戻し経路には循環チューブ方式やコマ方式などがあり、コマ方式の場合は、ボール戻し経路をなす凹部が形成されたコマをナットの貫通穴に嵌めている。これに対して、下記の特許文献1には、ボール戻し経路をなす凹部(循環溝)を、ナット素材の内周面に塑性加工で直接形成することが記載されている。その形成方法について図26を用いて説明する。
まず、図26(a)に示すように、循環溝の形状に対応するS字状の凸部537,538を有する円筒状の加工ヘッド530を備えた金型を用意する。そして、ナット素材510を、その軸方向を水平方向に向けて台200の上に置き、ナット素材510の内部に加工ヘッド530を入れて、凸部537,538を上に向け、基端部530aと先端部530bを固定する。次に、この状態で、金型の上部材520にプレス圧を掛けて下降させ、凸部537,538をナット素材510の内周面511に押し当てることで、ナット素材510の内周面511を塑性変形させる(図26(b)参照)。
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、循環路の表面粗さが粗いと、以下(1)〜(5)の経緯で循環路に圧痕や、表面剥離が発生するおそれがある。
(1)ボールとの接触により循環路内に鉄粉等の摩耗粉が発生する。
(2)循環路内で発生した摩耗粉がボールに付着して転走路に侵入する。
(3)転走路に侵入した摩耗粉がボールねじ溝とボールとの間で圧迫されることによってボールねじ溝やボールに圧痕が発生する。
(4)発生した圧痕に応力が集中して割れ等が生じ、最終的には表面剥離に至る。
(5)循環路内で発生した摩耗粉がグリース等の潤滑剤中に混入することで、ボールねじ溝表面に形成される潤滑油膜が部分的に破壊され、潤滑性能が低下して温度上昇や早期摩耗を引き起こすことが懸念される。
このような問題を解決するためには、循環路の表面に対して研削や、ブラスト加工等を施すことにより粗さを適正値にすることが挙げられるが、工程が増えることから、加工コストが上がるという問題があった。
また、従来のコマ式ボールねじの場合、コマは焼結により形成されるため、同様に加工コストの問題があった。
そこで、第4実施形態は上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、工程を増やさずに圧痕発生、表面剥離を防止することができるボールねじ用ナットの製造方法、並びにその製造方法に用いられる金型及びその製造方法によって製造されるボールねじ用ナットを提供することにある。
上記課題を解決するための第4実施形態の一態様に係る金型は、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、前記ナットの内周面に複数の凹部として形成された、前記ボールを軌道の終点から始点に戻す複数のボール戻し経路とを備え、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動するボールねじの前記ナットを製造するために用いられる金型であって、円筒状のナット素材に内挿され、その軸方向に沿って移動するカムドライバと、前記ナット素材とカムドライバとの間に配置され、前記複数の凹部に対応する複数の凸部が形成され、前記カムドライバの移動により前記複数の凸部が前記ナットの径方向に移動するカムスライダとを有し、少なくとも前記複数の凸部の表面の算術平均粗さRa1 が、0.01μm以上、0.2μm以下であることを特徴としている。
前記一態様に係る金型によれば、前記カムスライダの凸部の表面の算術平均粗さRa1 を、0.01μm以上、0.2μm以下としたので、このカムスライダを用いた鍛造加工によって前記ナット素材の内周面に形成される凹部の表面粗さを、圧痕発生、表面剥離を防止することができる程度に小さくすることができる。
上記課題を解決するための第4実施形態の一態様に係るボールねじ用ナットの製造方法は、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、前記ナットの内周面に複数の凹部として形成された、前記ボールを軌道の終点から始点に戻す複数のボール戻し経路とを備え、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動するボールねじの前記ナットの製造方法であって、前記一態様に係るカム機構の金型を用いて、前記複数の凹部を前記ナット素材の内周面に鍛造加工で同時に形成することを特徴としている。
前記一態様に係るボールねじ用ナットの製造方法によれば、円筒状のナット素材に内挿され、その軸方向に沿って移動するカムドライバと、前記ナット素材とカムドライバとの間に配置され、前記複数の凹部に対応する複数の凸部が形成され、前記カムドライバの移動により前記複数の凸部が前記ナットの径方向に移動するカムスライダと、を有し、前記凸部の表面の算術平均粗さRa1 が、0.01μm以上、0.2μm以下である前記金型を用いて、カム機構をなす斜面でカムドライバの前記軸方向への運動が前記径方向へ方向を変えてカムスライダに伝達され、カムスライダに形成された複数の凸部がナット素材の内周面を鍛造加工することで、前記ナット素材の内周面に前記複数の凹部が形成される。ここで、前記金型の少なくとも前記複数の凸部の表面の算術平均粗さRa1 が、0.01μm以上、0.2μm以下であるので、この凸部によって鍛造加工で形成された前記凹部の表面の算術平均粗さRa2 は、0μm超、1.6μm以下となる。
その結果、前記ナット素材の内周面に形成される凹部の表面粗さRa2 を、圧痕発生、表面剥離を防止することができる程度に小さくしたボールねじのナットの製造方法を提供することができる。
上記課題を解決するための第4実施形態の一態様に係るボールねじ用ナットは、内周面に螺旋溝が形成されたナットと、外周面に螺旋溝が形成されたねじ軸と、ナットの螺旋溝とねじ軸の螺旋溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、前記ナットの内周面に複数の凹部として形成された、前記ボールを軌道の終点から始点に戻す複数のボール戻し経路とを備え、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動するボールねじの前記ナットであって、前記凹部の表面の算術平均粗さRa2 が、0μm超、1.6μm以下であることを特徴としている。
前記一態様に係るボールねじ用ナットによれば、前記ナット素材の内周面に形成される凹部の表面粗さRa2 を、圧痕発生、表面剥離を防止することができる程度に小さくしたボールねじのナットを提供することができる。
第4実施形態によれば、工程を増やさずに圧痕発生、表面剥離を防止することができるボールねじ用ナットの製造方法、並びにその製造方法に用いられる金型及びその製造方法によって製造されるボールねじ用ナットを提供することができる。
以下、第4実施形態に係るボールねじの製造方法、並びにその製造方法に用いられる金型及びその製造方法によって製造されるボールねじ用ナットの一例について図面を参照して説明する。図22は、第4実施形態に係るボールねじ用ナットの製造方法の一例を説明する図である。また、図23は、第4実施形態に係るボールねじ用ナットの製造方法の一例で使用する金型を構成するカムスライダ及びカムドライバの嵌め合い状態を示す平面図(a)と、カムスライダを示す斜視図(b)と、カムドライバを示す斜視図(c)である。
<金型>
図22に示すように、第4実施形態の本例に使用する金型450は、ナット素材410を保持する凹部421を有する素材ホルダ420と、ナット素材410の内部に配置するカムスライダ430及びカムドライバ440とを備えている。
<カムスライダ>
カムスライダ430は、図23(a)及び(b)に示すように、外周面431と軸方向に平行な平面432を有する略半円柱状部材であって、外周面431をなす円の径は、ナット素材410の内周面411をなす円411aの径より僅かに小さい。カムスライダ430の平面432には、径方向の中央部に、軸方向に延びる斜面433が形成されている。この斜面433は、軸方向一端(上端)の凹部434の底面ライン434aと、平面432の下端をなすライン432dを結ぶ平面に相当する。また、ボール戻し経路をなすS字状凹部415に対応するS字状凸部435が、カムスライダ430の外周面431に形成されている。
ここで、カムスライダ430は、少なくとも凸部435の表面435aが、例えば、バフ研磨などによって鏡面仕上げされている。この鏡面仕上げによって、表面435aの算術平均粗さRa1 は、0.01μm以上、0.2μm以下とされる。
<カムドライバ>
カムドライバ440は、図23(c)に示すように、長尺な板状部材であって、一方の側面441がカムスライダ430の斜面433と同じ傾斜の斜面になっている。他方の側面442は、ナット素材410の内周面411をなす円411aに沿った円周面となっている。カムドライバ440の軸方向寸法は、カムスライダ430の軸方向寸法より長い。また、カムドライバ440の厚さは、カムスライダ430の凹部434の開口幅(斜面433の両側面間の寸法)に相当する厚さより僅かに薄い。
カムスライダ430の斜面431とカムドライバ440の傾斜した側面441が、金型450のカム機構を構成する。
<ボールねじ用ナットの製造方法>
第4実施形態に係るボールねじ用ナットの製造方法は、ナット素材410の内周面411に循環溝を形成する循環溝形成工程と、形成された循環溝の位置に基づいて内周面411に転動溝を形成する転動溝形成工程とを含む。
[ナット素材の材料]
ここで、ナット素材410の材料としては、以下に説明する転動溝形成工程及び循環溝形成工程後の熱処理が浸炭処理の場合はSCM420が好ましく、高周波焼入れの場合はS53C、又はSAE4150であることが好ましい。
[循環溝形成工程]
金型450を用い、以下の方法で、ナット素材410の内周面411にボール戻し経路(循環溝)をなすS字状凹部415を形成する。
まず、素材ホルダ420の凹部421にナット素材410を配置し、ナット素材410の内部に、カムスライダ430を、凹部434側を上にし、S字状凸部435をナット素材410の内周面411に向けて挿入する。次に、カムスライダ430とナット素材410の間にカムドライバ440を挿入する。その際に、カムスライダ430の凹部434にカムドライバ440の側面441側の部分を嵌めて、カムスライダ430の斜面433とカムドライバ440の傾斜した側面441を接触させる。図22(a)はこの状態を示す。
次に、ナット素材410の内周面411にボール戻し経路をなすS字状凹部415を鍛造加工によって形成する。具体的には、プレス圧を掛けてカムドライバ440を上から押すと、カムドライバ440の傾斜した側面441からカムスライダ430の斜面433に力が伝達される。これに伴い、カムドライバ440の下向きの力がカムスライダ430を径方向外側へ動かす力に変換されて、カムスライダ430に形成されたS字状凸部435が、ナット素材410の内周面411を押して塑性加工される。図22(b)はこの状態を示す。
これにより、ナット素材410の内周面411にボール戻し経路をなすS字状凹部415が形成される。
よって、第4実施形態の本例の方法によれば、軸方向寸法が長く内径が小さいナットを製造する場合でも、カムドライバ440に破損を生じさせずにS字状凹部415を形成することができる。
なお、ナット素材410の内周面411に二つのS字状凹部を形成する場合は、上述の方法で一つのS字状凹部415を形成した後、カムドライバ440を抜いてから、カムスライダ430を動かして凸部435の位置を変え、再度カムドライバ440を挿入して上述の方法を行う。三つ以上のS字状凹部415を形成する場合はこれを繰り返す。
<転動溝形成工程>
次に、循環溝415が形成されたナット素材410の内周面411に、転動溝416を形成する。図24は、第4実施形態に係るボールねじ用ナットの製造方法の一例を説明する図であり、(a)は、ナット素材の切削加工の状態を示す斜視図であり、(b)は、(a)に示すナット素材と切削工具を矢印VA方向に見た図である。また、図25は、第4実施形態に係るボールねじ用ナットの製造方法の一例を説明する図であり、(a)は、ナット素材の切削加工後における軸線方向断面図であり、(b)は、ナット素材の切削加工後における斜視図である。
ここでは、図24に示すような切削工具Tを用いて切削加工を行う。切削工具Tは、回転軸Taの外周に、刃物Tbを形成している。刃物Tbの切削面(周方向に対向する面)は、転動溝416の形状に一致する。回転軸Taは、その軸線O回りに回転(図24(b)のA)するが、それとは独立して偏心軸Q回りに公転(図24(b)のB)する。なお、このように切削工具Tを自転及び公転させる機構としては、例えば遊星歯車機構(図示せず)の遊星歯車に回転軸Taを連結した構成が考えられるが、それに限られない。
この切削加工を行う場合、ナット素材410の端面近辺では自転する刃物の公転軌道を、自転する刃物Tbがナット素材410の内周面411に接触しないよう公転軌道中心よりに逃がすことが必要となる。さらに図25に示すように、切削工具Tの回転軸Taを所定の軸線方向位置で半径方向外方にシフトさせ、転動溝416のピッチで軸線方向に送り出しながら公転させつつ、より速い速度で自転させることで、360度未満の螺旋状の転動溝416を、ナット素材410の内周面に切削形成することができる。
このとき、循環溝415に軸線方向位置及び位相を合わせることで、図25に示すように、各循環溝415が転動溝416の両端に接続するように形成できる。図24に示す切削工具Tでは、2本の転動溝416を形成するために、同じナット素材410について2回切削加工することになるが、回転軸Ta上に刃物Tbを2つ形成すれば、一度の切削加工で形成できる。
<ボールねじ用ナット>
カムスライダ430に形成されたS字状凸部435の表面435aの算術平均粗さRa1 が0.01μm以上、0.2μm以下であるので、このカムスライダ430を有する金型450を用いて形成された循環溝416の算術平均粗さRa2 は、0μm超、1.6μm以下とされる。なお、この循環溝416の算術平均粗さRa2 は、少なくとも循環溝416においてボール(転動体)と接触する領域の粗さである。
したがって、このようにして循環溝416が内周面に形成されたボールねじ用ナットは、圧痕発生、表面剥離を防止することができる程度に小さくしたボールねじのナットの製造方法、並びにその製造方法に用いられる金型及びその製造方法によって製造されるボールねじ用ナットを提供することができる。
また、加工ヘッド530の凸部537,538の表面の算術平均粗さRa1 を0.01〜0.2μmとすれば、図26に示す方法を用いても、上記と同様の粗さを有する循環溝416を形成することができる。なお、循環溝416以外の部分の加工方法については、特に限定されるものではなく、適宜変更が可能である。
以上、第4実施形態に係るボールねじ用ナットの製造方法、並びにその製造方法に用いられる金型及びその製造方法によって製造されるボールねじ用ナットの一例について説明したが、第4実施形態は上記の例に限定されるものではなく、第4実施形態の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。例えば、第4実施形態に係るボールねじ用ナットの製造方法、並びにその製造方法に用いられる金型及びその製造方法によって製造されるボールねじ用ナットは、ねじ軸循環を採用したボールねじ用ナットにも適用できる。
〔第5実施形態〕
第5実施形態は、ボールねじ及びその製造方法に関する。
ボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路内に転動自在に装填された複数のボールと、からなる。そして、ボールを介してねじ軸に螺合されているナットとねじ軸とを相対回転運動させると、ボールの転動を介してねじ軸とナットとが軸方向に相対移動するようになっている。
このようなボールねじには、ボール転走路の始点と終点とを連通させて無端状のボール通路を形成するボール循環路が備えられている。すなわち、ボールは、ボール転走路内を移動しつつねじ軸の回りを回ってボール転走路の終点に至ると、ボール循環路の一方の端部から掬い上げられてボール循環路内を通り、ボール循環路の他方の端部からボール転走路の始点に戻される。このように、ボール転走路内を転動するボールがボール循環路により無限に循環されるようになっているので、ねじ軸とナットとは継続的に相対移動することができる。
ボール循環路を用いたボール循環形式としては、チューブ式,コマ式等が一般的である。チューブ式ボールねじにおいては、ボール循環路を構成するチューブが、ナットに形成された穴に挿入されて固定されている。また、コマ式ボールねじにおいては、ボール循環路を構成する循環溝が設けられたコマが、ナットに形成されたコマ穴に挿入されて固定されている。
一方、ナットの強度向上を目的として、高周波焼入れを施すことによりナットの表面を硬化する技術が知られている(例えば特許文献8を参照)。しかしながら、チューブ式,コマ式のボールねじにおいては、チューブやコマを固定するために、ナットの内外周面を貫通する穴が設けられているため、高周波焼入れを周方向に一様に施すことは容易ではなかった。
これに対して、特許文献10に開示のボールねじは、チューブやコマは用いられることなく、ナットの内周面にボール循環路が塑性加工により直接形成されているので、高周波焼入れをナットの周方向に一様に施すことが可能となっている。
しかしながら、周方向に一様な高周波焼入れがナットに施されると、ボール転走路と同様の熱処理がボール循環路に対して施されることとなる。特許文献10に開示のボールねじにおいては、ボール転走路よりもボール循環路の方が深い溝であるため、ナットのうちボール循環路が形成されている部分は薄肉となっている。この部分にボール転走路と同様の熱処理を施して、同程度の硬さに硬化させてしまうと、この部分の靱性が低下してナットの耐久性が低下するおそれがあった。そのため、この部分の肉厚を薄くすることには限度が生じるので、ナットの外径を小さくすることが困難であった。
そこで、第5実施形態は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、ナットの耐久性が優れていることに加えて、ナットの小型化が可能なボールねじ及びその製造方法を提供することを課題とする。
前記課題を解決するため、第5実施形態は次のような構成からなる。すなわち、第5実施形のボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ボールを前記ボール転走路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路と、を備えるボールねじにおいて、前記ボール循環路は、前記ナットの内周面の一部を凹化させてなる凹溝で構成されているとともに、前記ナットのねじ溝の表面硬さがHRC58以上62以下、前記ボール循環路のうち前記ボール転走路との接続部分である両端部の表面硬さがHRC58以上62以下、前記ボール循環路のうち前記両端部の間の中間部の表面硬さがHV550以下であることを特徴とする。
このような第5実施形態のボールねじにおいては、前記ボール循環路を構成する凹溝は、鍛造により形成されたものであることが好ましい。
また、第5実施形態のボールねじの製造方法は、上記のようなボールねじを製造するに際して、前記ボール循環路を構成する凹溝を鍛造により形成し、前記ナットのねじ溝を切削加工により形成した後に、前記ボール循環路のうち前記両端部のみと前記ナットのねじ溝とに高周波焼入れを施すことを特徴とする。
第5実施形態のボールねじは、ナットの薄肉部分が硬化されておらず靱性が優れているので、ナットの耐久性が優れていることに加えて、ナットの小型化が可能である。
また、第5実施形態のボールねじの製造方法は、ナットの薄肉部分が硬化されないように高周波焼入れを施すので、ナットの耐久性が優れていることに加えて、ナットが小型であるボールねじを製造することができる。
第5実施形態に係るボールねじ及びその製造方法の一例を、図面を参照しながら詳細に説明する。図9は、第5実施形態の一例であるボールねじの断面図(軸方向に沿う平面で切断した断面図)である。
図9に示すように、ボールねじ1は、螺旋状のねじ溝3aを外周面に有するねじ軸3と、ねじ軸3のねじ溝3aに対向する螺旋状のねじ溝5aを内周面に有するナット5と、両ねじ溝3a,5aにより形成される螺旋状のボール転走路7内に転動自在に装填された複数のボール9と、ボール9をボール転走路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11と、を備えている。
すなわち、ボール9は、ボール転走路7内を移動しつつねじ軸3の回りを回ってボール転走路7の終点に至り、そこでボール循環路11の一方の端部から掬い上げられてボール循環路11内を通り、ボール循環路11の他方の端部からボール転走路7の始点に戻されるようになっている。
なお、ねじ溝3a,5aの断面形状は、円弧状(単一円弧状)でもよいしゴシックアーク状でもよい。また、ナット5の材質は鋼等の金属材料である。具体的には、S53CやSAE4150が好ましい。さらに、ねじ軸3及びボール9の材質は特に限定されるものではなく、一般的な材料を使用可能である。例えば、金属(鋼等),セラミック,樹脂があげられる。具体的には、ねじ軸3については、S53C,SAE4150に加えてSCM415,SCM420等の浸炭鋼が好ましく、ボール9については、SUJ2等の軸受鋼やセラミックが好ましい。
このようなボールねじ1は、ボール9を介してねじ軸3に螺合されているナット5とねじ軸3とを相対回転運動させると、ボール9の転動を介してねじ軸3とナット5とが軸方向に相対移動するようになっている。そして、ボール転走路7とボール循環路11により無端状のボール通路が形成されており、ボール転走路7内を転動するボール9が無端状のボール通路内を無限に循環するようになっているため、ねじ軸3とナット5とは継続的に相対移動することができる。
ここで、ボール循環路11について、図10,11の断面図(軸方向に直交する平面で切断した断面図)を参照しながら詳細に説明する。ボール循環路11は、ナット5の内周面に一体的に形成されている。詳述すると、ナット5の円柱面状の内周面の一部を塑性加工又は除去加工(例えば切削加工,放電加工)により凹化させて形成した凹溝22を、ボール循環路11としている。よって、チューブ式,コマ式等のボール循環形式の場合とは異なり、ボール循環路を構成する別部材は取り付けられていない。
図11に示すように、ボール転走路7の終点に転動してきたボール9は、ボール循環路11の一方の端部から掬い上げられてナット5の内部(径方向外方側)に沈み込む。そして、ボール循環路11内を通ってねじ軸3のランド部3b(ねじ溝3aのねじ山)を乗り越えて、ボール循環路11の他方の端部からボール転走路7の始点に戻される。なお、ボール循環路11の断面形状は、円弧状(単一円弧状)でもよいしゴシックアーク状でもよい。
このような第5実施形態の本例のボールねじ1の用途は特に限定されるものではないが、自動車部品,位置決め装置等に好適に使用可能である。
次に、第5実施形態のボールねじ1の製造方法の一例を、図16,17を参照しながら説明する。まず、円柱状の鋼製素材20を冷間鍛造等の塑性加工により加工し、ナット5と略同一形状(略円筒形状)のブランク21を得た(粗成形工程)。このとき、塑性加工により、ブランク21の外周面にはフランジ13も形成される。
次に、ブランク21の円柱面状の内周面の一部を冷間鍛造等の塑性加工(又は切削加工でもよい)により凹化させて、ボール転走路7の終点と始点を連通するボール循環路11をなす凹溝22を形成した(ボール循環路形成工程)。このとき、凹溝22とともに、油溜まりを構成する凹部を塑性加工(又は切削加工でもよい)により形成してもよい。凹溝22を形成する方法の具体例としては、以下のようなものがあげられる。すなわち、凹溝22に対応する形状の凸部を有する金型(図示せず)をブランク21内に挿入し、ブランク21の内周面に金型の凸部を接触させ、ブランク21の内周面に向かって金型を強く押圧することにより塑性加工して、凹溝22を形成することができる。
例えば、図22に示すように、カムドライバと、凹溝22に対応する形状の凸部を有するカムスライダと、を有するカム機構の金型を用いて、凹溝22を形成してもよい。詳述すると、ブランク21内にカムドライバとカムスライダを挿入し、そのときカムスライダは、ブランク21とカムドライバとの間に配置するとともに、その凸部をブランク21の内周面に向けて配置する。ブランク21内に配されたカムスライダとカムドライバは、ブランク21の略軸方向(ブランク21の軸方向から若干傾斜した方向)に延びる傾斜面で相互に接触しており、両傾斜面が金型のカム機構を構成している。
ここで、カムドライバをブランク21の軸方向に沿って移動させると、両傾斜面で構成されるカム機構(くさびの作用)によりカムスライダがブランク21の径方向外方に移動する。すなわち、カムドライバの傾斜面からカムスライダの傾斜面に力が伝達され、カムドライバの軸方向の力がカムスライダを径方向外方へ動かす力に変換される。その結果、カムスライダの凸部がブランク21の内周面を強く押圧することとなるので、塑性加工によりブランク21の内周面に凹溝22が形成される。なお、図22に示す方法の代わりに、図26に示す方法を用いてもよい。
次に、ナット5の内周面に、慣用の切削加工(例えば図24に示す方法)により、ボール循環路11(凹溝22)の端部と接続するようにねじ溝5aを形成した(ねじ溝形成工程)。このとき、凹溝22(ボール循環路11)の端部は球面状をなしているので、ねじ溝5aとの境界部分30の段差にコマ式ボールねじの場合のようなエッジ部は発生せず、滑らかな段差となる。その結果、境界部分30をボール9が通過しても、異音や作動トルク変動が生じにくく、また寿命低下も生じにくい。
最後に、ナット5の内周面に対して高周波焼入れを施して、ナット5が得られた。なお、焼入れ時の急冷に使用する冷却液の種類は特に限定されるものではないが、水又は油が好ましい。
ここで、高周波焼入れの内容について、ナット5を軸方向に沿う平面で切断した断面図である図27を参照しながら詳細に説明する。第5実施形態の本例においては、ナット5の内周面のうち一部分のみに高周波焼入れを施して、表面に焼入れ層を形成し、他の部分については高周波焼入れを施さず硬化させない。すなわち、ねじ溝5aに対しては高周波焼入れを施して、表面硬さをHRC58以上62以下とする。また、ボール循環路11(凹溝22)のうちボール転走路7との接続部分である両端部に対しては高周波焼入れを施して、その表面硬さをHRC58以上62以下とする。一方、ボール循環路11(凹溝22)のうち前記両端部の間の中間部に対しては高周波焼入れを施さず、その表面硬さをHV550以下とする。
上記のように焼入れを施すために、ナット5の内周面に対して高周波焼入れ用のコイル32を図27に示すように配置する。すなわち、ねじ溝5aに対しては、ねじ溝5a全体に沿うようにコイル32を配する。また、ボール循環路11(凹溝22)に対しては、両端部のみに沿うようにコイル32を配する。このようにコイル32を配して高周波焼入れを施せば、ねじ溝5a全体とボール循環路11(凹溝22)の両端部のみに焼入れが施され、ボール循環路11(凹溝22)の中間部には焼入れが施されない。
その結果、ボール循環路11に形成されたHV550超過の有効硬化層の形成状態は、図28に示すようになる。図28は、ボール循環路11の長手方向に直交する平面で切断したボール循環路11(凹溝22)の断面図である。図28のA,B,B’,及びCは、図27に示した切断位置の符号に対応している。例えば、図28のAは、図27のA線で切断したボール循環路11(凹溝22)の断面図である。
ボール循環路11の中間部は、図28のA,B,及びB’に示すように、凹溝22の表面全体には有効硬化層(図28では斜線部として示してある)は形成されていない。中間部のうちの中央部分であるAについては、凹溝22の両縁部にのみ若干の有効硬化層が形成されているが、ボール9が接触する溝底部分には有効硬化層は形成されていない。中間部のうちの端部であるB及びB’については、ボール9の循環時にボール9の進行方向が変化し突き当たる部分(一方の縁部)にのみ有効硬化層が形成されている。一方、ボール循環路11の両端部は、図28のCに示すように、ねじ溝5aと同様に、凹溝22の表面全体に有効硬化層が形成されている。
また、ねじ溝5aに形成された焼入れ層の深さは、ボール9との接点において、ねじ溝5aの曲率中心から前記接点に向かう方向に1.0mm以上2.0mm以下であることが好ましい。また、有効硬化層深さは0.4mm以上であることが好ましい。
ねじ溝5aは、ボール9を介して負荷を受ける負荷圏であるが、高周波焼入れにより表面に焼入れ層が形成されているため、大きな負荷に耐えることができる。また、ボール循環路11の両端部は、ボール転走路7との接続部分であり、ボール転走路7から導入されてきたボール9が突き当たり衝撃を受ける部分であるが、高周波焼入れにより表面に焼入れ層が形成されているため、前記衝撃に耐えることができる。また、摩耗も生じにくい。そのため、ボール循環路11の耐久性が優れている。
一方、ボール循環路11の中間部は、ボール9が滑るのみで負荷は小さい無負荷圏であるため、焼入れ層が形成されている必要はない。むしろ、硬化されておらず靱性が優れているため、割れ等の損傷が生じにくい。また、ねじ溝5aよりも凹溝22の方が深い溝であるため、ナット5のうちボール循環路11が形成されている部分は、その他の部分よりも薄肉となるが、この薄肉部分の靱性が優れているため、ナットの外径を小さくしても(すなわち、ボール循環路11が形成されている部分をより薄肉化しても)割れ等の損傷が生じにくい。
このように、上記のように焼入れを施せば、ナット5全体の耐久性を向上させつつ、ナット5の小型化を図ることが可能となる。
このようにして製造されたナット5と、慣用の方法により製造されたねじ軸3及びボール9とを組み合わせて、ボールねじ1を製造した。
前述の粗成形工程及びボール循環路形成工程を塑性加工で行ったので、このボールねじ1の製造方法は、材料歩留まりが高いことに加えて、高精度のボールねじを安価に製造することができる。また、塑性加工により製造するため、鋼製素材20が有するメタルフロー(鍛流線)がほとんど切断されず、また、加工硬化するので、高強度のナット5が得られる。
塑性加工の種類は特に限定されるものではないが、鍛造が好ましく、特に冷間鍛造が好ましい。熱間鍛造を採用することも可能であるが、冷間鍛造は熱間鍛造に比べて高精度な仕上げが可能であるので、後加工を施さなくても十分に高精度なナット5を得ることができる。よって、ボールねじ1を安価に製造することができる。粗成形工程及びボール循環路形成工程における塑性加工を冷間鍛造とすることが好ましいが、いずれか1つの工程における塑性加工を冷間鍛造としてもよい。
なお、本例は第5実施形態の一例を示したものであって、第5実施形態は本例に限定されるものではない。例えば、本例のボールねじ1においては、ボール9をボール転走路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11をナット5に形成したナット循環方式のボールねじを例示したが、第5実施形態は、ボール循環路11に相当するものをねじ軸に形成したねじ軸循環方式のボールねじにも適用可能である。
〔第6実施形態〕
第6実施形態は、ボールねじに関する。
ボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路内に転動自在に装填された複数のボールと、からなる。そして、ボールを介してねじ軸に螺合されているナットとねじ軸とを相対回転運動させると、ボールの転動を介してねじ軸とナットとが軸方向に相対移動するようになっている。
このようなボールねじには、ボール転走路の始点と終点とを連通させて無端状のボール通路を形成するボール循環路が備えられている。すなわち、ボールは、ボール転走路内を移動しつつねじ軸の回りを回ってボール転走路の終点に至ると、ボール循環路の一方の端部から掬い上げられてボール循環路内を通り、ボール循環路の他方の端部からボール転走路の始点に戻される。このように、ボール転走路内を転動するボールがボール循環路により無限に循環されるようになっているので、ねじ軸とナットとは継続的に相対移動することができる。
上記の無端状のボール通路は、ボール転走路とボール循環路とからなっているので、ボール循環路の周方向長さが長いと、その分だけボール転走路の長さが短くなることになる。ボール転走路の長さが短いと、ボールねじの負荷容量が小さくなるので、ボールねじの寿命に悪影響が及ぶおそれがあった。そのため、ボール循環路の周方向長さを短くすることが望まれていた。なお、第6実施形態における「ボール循環路の周方向長さ」とは、ボール循環路の両端の間の周方向距離を意味し、周方向とはナットの周方向を意味する。
そこで、第6実施形態は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、負荷容量が大きく長寿命なボールねじを提供することを課題とする。
前記課題を解決するため、第6実施形態は次のような構成からなる。すなわち、第6実施形態の一態様に係るボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ボールを前記ボール転走路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路と、を備えるボールねじにおいて、下記の3つの条件A,B,Cを満足することを特徴とする。
条件A:前記ボール循環路は、前記ナットの内周面の一部を凹化させて形成した凹溝で構成されている。
条件B:前記ボール循環路は、前記ボール転走路との接続部分である両端部と、前記両端部の間に配された中間部と、前記端部と前記中間部とを接続する湾曲部と、からなり、略S字状をなしている。
条件C:前記凹溝の縁部のうち前記湾曲部の縁部は湾曲しており、その湾曲の径方向外方側の縁部は、曲率半径の異なる複数の円弧が滑らかに連続した形状に形成されている。
このような第6実施形態の一態様に係るボールねじにおいては、前記端部の溝幅よりも前記中間部の溝幅の方が狭いことが好ましい。
また、第6実施形態の別の態様に係るボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ボールを前記ボール転走路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路と、を備えるボールねじにおいて、下記の3つの条件D,E,Fを満足することを特徴とする。
条件D:前記ボール循環路は、前記ナットの内周面の一部を凹化させて形成した凹溝で構成されている。
条件E:前記ボール循環路は、前記ボール転走路との接続部分である両端部と、前記両端部の間に配され互いに逆方向に湾曲する2つの湾曲部と、からなり、略S字状をなしている。
条件F:前記凹溝の縁部のうち前記両湾曲部の縁部は湾曲しており、その湾曲の径方向外方側の縁部は、曲率半径の異なる複数の円弧が滑らかに連続した形状に形成されている。
さらに、第6実施形態のさらに別の態様に係るボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ボールを前記ボール転走路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路と、を備えるボールねじにおいて、下記の3つの条件G,H,Iを満足することを特徴とする。
条件G:前記ボール循環路は、前記ナットの内周面の一部を凹化させて形成した凹溝で構成されている。
条件H:前記ボール循環路は、前記ボール転走路との接続部分である両端部と、前記両端部の間に配され互いに逆方向に湾曲する2つの湾曲部と、からなり、略S字状をなしている。
条件I:前記凹溝の縁部のうち前記両湾曲部の縁部は湾曲しており、その湾曲の径方向外方側及び径方向内方側の縁部は、単一の円弧形状に形成されている。
これらの各態様に係るボールねじにおいては、前記ボール循環路を構成する凹溝は鍛造により形成されたものであることが好ましい。
第6実施形態のボールねじは、ボール循環路の周方向長さが短く、その分だけボール転走路の長さが長くなっているので、負荷容量が大きく長寿命である。
第6実施形態に係るボールねじの例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
[第1例]
図9は、第6実施形態の第1例のボールねじの構造を説明する断面図(軸方向に沿う平面で切断した断面図)である。
図9に示すように、ボールねじ1は、螺旋状のねじ溝3aを外周面に有するねじ軸3と、ねじ軸3のねじ溝3aに対向する螺旋状のねじ溝5aを内周面に有するナット5と、両ねじ溝3a,5aにより形成される螺旋状のボール転走路7内に転動自在に装填された複数のボール9と、ボール9をボール転走路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11と、を備えている。
すなわち、ボール9は、ボール転走路7内を移動しつつねじ軸3の回りを回ってボール転走路7の終点に至り、そこでボール循環路11の一方の端部から掬い上げられてボール循環路11内を通り、ボール循環路11の他方の端部からボール転走路7の始点に戻されるようになっている。
なお、ねじ溝3a,5aの断面形状(長手方向に直交する平面で切断した断面の形状)は、円弧状(単一円弧状)でもよいしゴシックアーク状でもよい。また、ねじ軸3,ナット5,及びボール9の材質は特に限定されるものではなく、一般的な材料を使用可能である。例えば、金属(鋼等),焼結合金,セラミック,樹脂があげられる。
このようなボールねじ1は、ボール9を介してねじ軸3に螺合されているナット5とねじ軸3とを相対回転運動させると、ボール9の転動を介してねじ軸3とナット5とが軸方向に相対移動するようになっている。そして、ボール転走路7とボール循環路11により無端状のボール通路が形成されており、ボール転走路7内を転動するボール9が無端状のボール通路内を無限に循環するようになっているため、ねじ軸3とナット5とは継続的に相対移動することができる。
ここで、ボール循環路11について、図10,11の断面図(軸方向に直交する平面で切断した断面図)を参照しながら詳細に説明する。ボール循環路11は、ナット5の内周面に一体的に形成されている。詳述すると、ナット5の円柱面状の内周面の一部を塑性加工又は切削加工により凹化させて形成した凹溝22を、ボール循環路11としている。よって、チューブ式,コマ式等のボール循環形式の場合とは異なり、ボール循環路を構成する別部材は取り付けられていない。そして、別部材が用いられていないので、別部材が用いられた場合に境界部分に生じる、エッジ部を有する段差が生じるおそれはない。
図11に示すように、ボール転走路7の終点に転動してきたボール9は、ボール循環路11の一方の端部から掬い上げられてナット5の内部(径方向外方側)に沈み込む。そして、ボール循環路11内を通ってねじ軸3のランド部3b(ねじ溝3aのねじ山)を乗り越えて、ボール循環路11の他方の端部からボール転走路7の始点に戻される。なお、ボール循環路11の断面形状(長手方向に直交する平面で切断した断面の形状)は、円弧状(単一円弧状)でもよいしゴシックアーク状でもよい。
また、図29に示すように、ボール循環路11(凹溝22)は、ボール転走路7(ねじ溝5a)との接続部分である両端部11a,11aが直線状となっており、この直線状の端部11aによりボール9の導入部が形成されている。そして、該両端部11a,11aの間には、直線状に延びる中間部11bが配されており、この中間部11bの両端と直線状の両端部11a,11aとがそれぞれ湾曲部11c,11cにより滑らかに接続されていて、ボール循環路11(凹溝22)の全体形状は略S字状をなしている。
凹溝22の外周をなす縁部のうち、中間部11bの縁部と両端部11a,11aの縁部は直線状をなしており、湾曲部11c,11cの縁部は湾曲している(曲線状をなしている)。そして、その湾曲の径方向内方側の縁部は、単一の円弧形状(曲率半径はR1)に形成されており、径方向外方側の縁部は、曲率半径の異なる2つの円弧(曲率半径はR2,R3)が滑らかに連続した形状に形成されている。さらに、2つの円弧のうち中間部11b側の円弧の曲率半径R3よりも、端部11a側の円弧の曲率半径R2の方が大きく設定されている。
このような構成により、ボール循環路11(凹溝22)の周方向長さLは、従来のボールねじのボール循環路の周方向長さよりも短くなる。なお、ボール循環路の周方向長さとは、ボール循環路の両端の間の周方向距離を意味し、周方向とはナットの周方向を意味する。
ここで、従来のボールねじのボール循環路について、図32を参照しながら説明する。なお、図29,30,31には、従来のボールねじのボール循環路の外周をなす縁部が2点鎖線で示されている。また、図32の符号304は、ボール転走路を示す。
図32のボール循環路(凹溝)の構成は、図29のボール循環路11(凹溝22)とほぼ同様であるが、湾曲部の径方向外方側の縁部の形状のみ異なっている。すなわち、従来のボールねじのボール循環路においては、その湾曲部301の径方向外方側の縁部は、径方向内方側の縁部と同様に、単一の円弧形状に形成されている。曲率半径は、径方向内方側がR1’で、径方向外方側がR2’である。
このような構成上の差異により、直線状の中間部302及び両端部303,303の長さが同一ならば、第1例のボールねじ1のボール循環路11(凹溝22)の周方向長さは、従来のボールねじのボール循環路の周方向長さよりも短くなるので、ボール転走路7とボール循環路11により形成される無端状のボール通路のうち、ボール転走路7を長く形成することができる。その結果、第1例のボールねじ1の負荷容量は、従来のボールねじと比べて大きくなるため、長寿命である。また、ボール循環路11(凹溝22)を形成するための溝の加工量を少なくすることができる。
さらに、ボール循環形式がコマ式のボールねじの場合は、コマに形成されたボール循環路の形状を好適化しても、コマやナットのコマ孔の加工誤差や、ボールねじの振動によるコマの位置ズレなどにより、その効果が十分に奏されない場合があった。しかしながら、第1例のボールねじ1は、ボール循環路11がナット5に一体的に形成されているので、ボール循環路11の形状の好適化による前記効果が十分に奏される。
このとき、ボール循環路11の端部11aの溝幅taよりも、中間部11bの溝幅tbの方を狭くすることが好ましい。このような構成であれば、ボール転走路7からボール循環路11へのボール9の導入が円滑に行われるとともに、ボール循環路11の中間部11bにおけるボール9の進行が滑らかとなる(ボール9の蛇行を抑制できる)。すなわち、ボールねじ1におけるボール9の循環性が向上する。
このような第1例のボールねじ1の用途は特に限定されるものではないが、自動車部品,位置決め装置等に好適に使用可能である。
なお、図29のボール循環路11においては、径方向外方側の縁部を構成する円弧の数は2つであったが、2つに限定されるものではなく、3つ以上でも差し支えない。また、図29のボール循環路11においては、湾曲部11cの径方向内方側の縁部を構成する円弧の曲率中心と、径方向外方側の縁部を構成する2つの円弧の曲率中心とが異なっているが、同一の曲率中心としてもよい。
次に、第1例のボールねじ1の製造方法の一例を、図16,17を参照しながら説明する。まず、円柱状の鋼製素材20を冷間鍛造等の塑性加工により加工し、ナット5と略同一形状(略円筒形状)のブランク21を得た(粗成形工程)。このとき、塑性加工により、ブランク21の外周面にはフランジ13も形成される。
次に、ブランク21の円柱面状の内周面の一部を冷間鍛造等の塑性加工(又は切削加工でもよい)により凹化させて、ボール転走路7の終点と始点を連通するボール循環路11をなす略S字状の凹溝22を形成した(ボール循環路形成工程)。
ボール循環路11(凹溝22)の形状は前述のように複雑であるが(特に湾曲部11cの縁部の形状)、前述のボール循環路形成工程を塑性加工で行ったので、切削加工に比べて容易に且つ安価に加工することができる。また、ボール循環路11(凹溝22)の溝幅が前述のように部位により異なると、切削加工により形成することは困難となるが、塑性加工であれば、型さえ作製すれば容易に形成することができる。よって、第6実施形態の第1例のボールねじ1は、生産性が高い。
凹溝22を形成する方法の具体例としては、以下のようなものがあげられる。すなわち、凹溝22に対応する形状の凸部を有する金型(図示せず)をブランク21内に挿入し、ブランク21の内周面に金型の凸部を接触させ、ブランク21の内周面に向かって金型を強く押圧することにより塑性加工して、凹溝22を形成することができる。
例えば、図22に示すように、カムドライバと、凹溝22に対応する形状の凸部を有するカムスライダと、を有するカム機構の金型を用いて、凹溝22を形成してもよい。詳述すると、ブランク21内にカムドライバとカムスライダを挿入し、そのときカムスライダは、ブランク21とカムドライバとの間に配置するとともに、凸部をブランク21の内周面に向けて配置する。ブランク21内に配されたカムスライダとカムドライバは、ブランク21の略軸方向(ブランク21の軸方向から若干傾斜した方向)に延びる傾斜面で相互に接触しており、両傾斜面が金型のカム機構を構成している。
ここで、カムドライバをブランク21の軸方向に沿って移動させると、両傾斜面で構成されるカム機構(くさびの作用)によりカムスライダがブランク21の径方向外方に移動する。すなわち、カムドライバの傾斜面からカムスライダの傾斜面に力が伝達され、カムドライバの軸方向の力がカムスライダを径方向外方へ動かす力に変換される。その結果、カムスライダの凸部がブランク21の内周面を強く押圧することとなるので、塑性加工によりブランク21の内周面に凹溝22が形成される。なお、図22に示す方法の代わりに、図26に示す方法を用いてもよい。
次に、ナット5の内周面に、慣用の切削加工(例えば図24に示す方法)により、ボール循環路11(凹溝22)の最端部と接続するようにねじ溝5aを形成した(ねじ溝形成工程)。このとき、凹溝22(ボール循環路11)の最端部は球面状をなしているので、ねじ溝5aとの境界部分30の段差にコマ式ボールねじの場合のようなエッジ部は発生せず、滑らかな段差となる。その結果、境界部分30をボール9が通過しても、異音や作動トルク変動が生じにくく、また寿命低下も生じにくい。
最後に、所望の条件で焼入れ,焼戻し等の熱処理を施して、ナット5が得られた。この熱処理の例としては、浸炭処理,浸炭窒化処理,高周波熱処理等があげられる。熱処理が浸炭処理又は浸炭窒化処理である場合は、ナット5の材質は、炭素の含有量が0.10〜0.25質量%のクロム鋼又はクロムモリブデン鋼(例えばSCM420)であることが好ましく、熱処理が高周波焼入れである場合は、炭素の含有量が0.4〜0.6質量%の炭素鋼(例えばS53C,SAE4150)であることが好ましい。
このようにして製造されたナット5と、慣用の方法により製造されたねじ軸3及びボール9とを組み合わせて、ボールねじ1を製造した。
なお、前述の粗成形工程及びボール循環路形成工程を塑性加工で行ったので、このボールねじ1の製造方法は、材料歩留まりが高いことに加えて、高精度のボールねじを安価に製造することができる。また、塑性加工により製造するため、鋼製素材20が有するメタルフロー(鍛流線)がほとんど切断されず、また、加工硬化するので、高強度のナット5が得られる。
塑性加工の種類は特に限定されるものではないが、鍛造が好ましく、特に冷間鍛造が好ましい。熱間鍛造を採用することも可能であるが、冷間鍛造は熱間鍛造に比べて高精度な仕上げが可能であるので、後加工を施さなくても十分に高精度なナット5を得ることができる。よって、ボールねじ1を安価に製造することができる。粗成形工程及びボール循環路形成工程における塑性加工を冷間鍛造とすることが好ましいが、いずれか1つの工程における塑性加工を冷間鍛造としてもよい。
[第2例]
図30は、第6実施形態の第2例のボールねじの構造を説明する図であり、ナットの内周面の凹溝を示す図である。なお、第2例のボールねじの構成及び作用効果は、第1例とほぼ同様であるので、異なる部分のみ説明し、同様の部分の説明は省略する。また、これ以降の各図においては、図29と同一又は相当する部分には、図29と同一の符号を付してある。
第2例のボールねじ1においては、ボール循環路11(凹溝22)は、ボール転走路7(ねじ溝5a)との接続部分である両端部11a,11aが直線状となっており、この直線状の端部11aによりボール9の導入部が形成されている。そして、該両端部11a,11aは、互いに逆方向に湾曲する2つの湾曲部11c,11cにより滑らかに接続されていて、ボール循環路11(凹溝22)の全体形状は略S字状をなしている。すなわち、第1例と比べると、直線状の中間部を備えていない点が異なっている。
凹溝22の外周をなす縁部のうち、両端部11a,11aの縁部は直線状をなしており、湾曲部11c,11cの縁部は湾曲している(曲線状をなしている)。そして、その湾曲の径方向内方側の縁部及び径方向外方側の縁部は、曲率半径の異なる2つの円弧が滑らかに連続した形状にそれぞれ形成されている。径方向内方側の縁部を構成する円弧の曲率半径はR1,R2であり、径方向外方側の縁部を構成する円弧の曲率半径はR3,R4である。
さらに、湾曲部11cの径方向外方側の縁部を構成する2つの円弧は、端部11a側の円弧と別の湾曲部11c側の円弧であるが、両者のうち別の湾曲部11c側の円弧の曲率半径R4よりも、端部11a側の円弧の曲率半径R3の方が大きく設定されている。ただし、径方向内方側の縁部は、第1例と同様に単一の円弧形状に形成されていてもよい。
このような構成により、ボール循環路11(凹溝22)の周方向長さLは、第1例の場合よりも短くなる。また、ボール循環路11内を進行するボール9の進行方向の変化も、第1例の場合よりも緩やかになる。
[第3例]
図31は、第6実施形態の第3例のボールねじの構造を説明する図であり、ナットの内周面の凹溝を示す図である。なお、第3例のボールねじの構成及び作用効果は、第1例,第2例とほぼ同様であるので、異なる部分のみ説明し、同様の部分の説明は省略する。
第3例のボールねじ1においては、ボール循環路11(凹溝22)は、ボール転走路7(ねじ溝5a)との接続部分である両端部11a,11aが直線状となっており、この直線状の端部11aによりボール9の導入部が形成されている。そして、該両端部11a,11aは、互いに逆方向に湾曲する2つの湾曲部11c,11cにより滑らかに接続されていて、ボール循環路11(凹溝22)の全体形状は略S字状をなしている。すなわち、第1例と比べると、直線状の中間部を備えていない点が異なっている。
凹溝22の外周をなす縁部のうち、両端部11a,11aの縁部は直線状をなしており、湾曲部11c,11cの縁部は湾曲している(曲線状をなしている)。そして、その湾曲の径方向内方側の縁部及び径方向外方側の縁部は、それぞれ単一の円弧形状に形成されている。径方向内方側の縁部を構成する円弧の曲率半径はR1であり、径方向外方側の縁部を構成する円弧の曲率半径はR2である。
このような構成により、ボール循環路11(凹溝22)の周方向長さLは、第1例の場合よりも短くなる。また、ボール循環路11内を進行するボール9の進行方向の変化も、第1例の場合よりも緩やかになる。
なお、上記第1例〜第3例は第6実施形態の一例を示したものであって、第6実施形態は上記第1例〜第3例に限定されるものではない。例えば、第1例〜第3例のボールねじ1においては、ボール9をボール転走路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11をナット5に形成したナット循環方式のボールねじを例示したが、第6実施形態は、ボール循環路11に相当するものをねじ軸に形成したねじ軸循環方式のボールねじにも適用可能である。
〔第7実施形態〕
第7実施形態は、ボールねじに関する。
ボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路内に転動自在に装填された複数のボールと、からなる。そして、ボールを介してねじ軸に螺合されているナットとねじ軸とを相対回転運動させると、ボールの転動を介してねじ軸とナットとが軸方向に相対移動するようになっている。
このようなボールねじには、ボール転走路の始点と終点とを連通させて無端状のボール通路を形成するボール循環路が備えられている。すなわち、ボールは、ボール転走路内を移動しつつねじ軸の回りを回ってボール転走路の終点に至ると、ボール循環路の一方の端部から掬い上げられてボール循環路内を通り、ボール循環路の他方の端部からボール転走路の始点に戻される。このように、ボール転走路内を転動するボールがボール循環路により無限に循環されるようになっているので、ねじ軸とナットとは継続的に相対移動することができる。
ボールねじの潤滑性を向上させる方法として、潤滑油,グリース等の潤滑剤を保持する油溜まりを設ける技術が知られている。例えば、特許文献14には、射出成形法により製造された樹脂製ナットのボール転走路に油溜まりが設けられたボールねじが開示されている。すなわち、ナットのねじ溝の表面に、油溜まりを構成する凹部が形成されており、この油溜まりに潤滑剤が充填されるようになっている。
しかしながら、多くの場合ナットは金属製であるため、ボール転走路に油溜まりを設けるためには、ねじ溝を形成した後に、その溝面に切削加工等により凹部を形成する必要がある。そのため、ボールねじを製造する際の加工コストが上昇するという問題点があった。また、ねじ溝に凹部を設けると、ボールねじの負荷容量や寿命の低下を招くおそれがあった。
そこで、第7実施形態は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、負荷容量及び寿命の低下並びに製造コストの上昇を伴うことなく潤滑性を向上させたボールねじを提供することを課題とする。
前記課題を解決するため、第7実施形態は次のような構成からなる。すなわち、第7実施形態のボールねじは、螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ボールを前記ボール転走路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路と、を備え、前記ボール循環路が、前記ナットの内周面の一部を凹化させてなる凹溝で構成されているボールねじにおいて、潤滑剤を保持可能な潤滑剤溜まりを備えており、該潤滑剤溜まりは、前記凹溝の内面の一部を凹化させてなる凹部からなることを特徴とする。
このような第7実施形態のボールねじにおいては、前記ボール循環路は、前記ボール転走路との接続部分である両端部と、前記両端部の間の中間部とからなり、前記ボール循環路の長手方向に直交する平面で切断した前記潤滑剤溜まりの断面の面積は、前記端部に隣接する部分よりも前記中間部に隣接する部分の方が大きいことが好ましい。
また、前記ボール循環路は湾曲しており、前記ボール循環路の湾曲の径方向外方側に配された潤滑剤溜まりよりも、前記ボール循環路の湾曲の径方向内方側に配された潤滑剤溜まりの方が、前記ボール循環路の長手方向に直交する平面で切断した断面の面積が大きいことが好ましい。
さらに、前記ボール循環路を構成する凹溝及び前記潤滑剤溜まりを構成する凹部は、鍛造により同時に形成されたものであることが好ましい。
第7実施形態のボールねじは、ナットのボール循環路に潤滑剤溜まりを備えることにより、負荷容量及び寿命の低下並びに製造コストの上昇を伴うことなく、優れた潤滑性を実現している。
第7実施形態に係るボールねじ及びその製造方法の一例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
[第1例]
図9は、第7実施形態の第1例のボールねじの構造を説明する断面図(軸方向に沿う平面で切断した断面図)である。
図9に示すように、ボールねじ1は、螺旋状のねじ溝3aを外周面に有するねじ軸3と、ねじ軸3のねじ溝3aに対向する螺旋状のねじ溝5aを内周面に有するナット5と、両ねじ溝3a,5aにより形成される螺旋状のボール転走路7内に転動自在に装填された複数のボール9と、ボール9をボール転走路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11と、を備えている。
すなわち、ボール9は、ボール転走路7内を移動しつつねじ軸3の回りを回ってボール転走路7の終点に至り、そこでボール循環路11の一方の端部から掬い上げられてボール循環路11内を通り、ボール循環路11の他方の端部からボール転走路7の始点に戻されるようになっている。
なお、ねじ溝3a,5aの断面形状は、円弧状(単一円弧状)でもよいしゴシックアーク状でもよい。また、ねじ軸3,ナット5,及びボール9の材質は特に限定されるものではなく、一般的な材料を使用可能である。例えば、金属(鋼等),焼結合金,セラミック,樹脂があげられる。
このようなボールねじ1は、ボール9を介してねじ軸3に螺合されているナット5とねじ軸3とを相対回転運動させると、ボール9の転動を介してねじ軸3とナット5とが軸方向に相対移動するようになっている。そして、ボール転走路7とボール循環路11により無端状のボール通路が形成されており、ボール転走路7内を転動するボール9が無端状のボール通路内を無限に循環するようになっているため、ねじ軸3とナット5とは継続的に相対移動することができる。
ここで、ボール循環路11について、図10,11の断面図(軸方向に直交する平面で切断した断面図)を参照しつつ詳細に説明する。ボール循環路11は、例えばナット5の内周面に一体的に形成されている。詳述すると、ナット5の円柱面状の内周面の一部を塑性加工又は切削加工により凹化させて形成した凹溝22を、ボール循環路11としている。よって、チューブ式,コマ式等のボール循環形式の場合とは異なり、ボール循環路を構成する別部材は取り付けられていない。そして、別部材が用いられていないので、別部材が用いられた場合に境界部分に生じる、エッジ部を有する段差が生じるおそれはない。
図11に示すように、ボール転走路7の終点に転動してきたボール9は、ボール循環路11の一方の端部から掬い上げられてナット5の内部(径方向外方側)に沈み込む。そして、ボール循環路11内を通ってねじ軸3のランド部3b(ねじ溝3aのねじ山)を乗り越えて、ボール循環路11の他方の端部からボール転走路7の始点に戻される。なお、ボール循環路11の断面形状は、円弧状(単一円弧状)でもよいしゴシックアーク状でもよい。
また、図33に示すように、ボール循環路11を構成する凹溝22は、ボール転走路7(ねじ溝5a)との接続部分である両端部が直線状となっており、該両端部の間に位置する中間部24が略S字状に湾曲した曲線状となっている。さらに、直線状の端部には、ボール9の導入部25が形成されているとともに、直線状の端部の最端部は円弧状をなしている。なお、凹溝22の全体形状は、図33に示すような略S字状に限定されるものではない。
さらに、ナット5は、潤滑剤を保持可能な潤滑剤溜まりを備えている。この潤滑剤溜まりは、凹溝22の内面の一部を凹化させてなる凹部31からなる(図34を参照)。グリース,潤滑油等の潤滑剤が潤滑剤溜まり内に保持され、ボールねじ1の使用中にボール循環路11に適宜供給される。そして、潤滑剤はボール循環路11内においてボール9の表面に付着し、ボール9とともにボール転走路7に至り、ねじ溝3a,5a及びボール9の表面の潤滑に供されるため、ボールねじ1は潤滑性に優れている。また、潤滑剤溜まり内に保持された潤滑剤によってボールねじ1が潤滑されるため、ボールねじ1の内部に潤滑剤を補給するメンテナンス作業の頻度を少なくすることができる。
凹部31を形成する部位は、凹溝22の内面であるならば特に限定されるものではないが、例えば図33に示すように、略S字状の中間部24の湾曲部分及び円弧状の最端部の共通接線と、凹溝22の縁部とで囲まれる部位(図33における略弓形状の斜線部)に形成するとよい。そして、図34に示すように、凹部31のナット内周面側は、開放されていてもよい。言い換えれば、ナット5の内周面を凹化させて、凹溝22に連続する凹部31を形成してもよい。
また、凹部31は、凹溝22に滑らかに接続している。すなわち、図34の断面図から分かるように、ナット5の内周面から凹部31を経由して凹溝22に至るまで、その表面は、曲率が徐々に変化しつつ滑らかに連続している。そのため、凹部31内の潤滑剤は、凹溝22内へ容易に供給される。
さらに、凹部31の深さ(ナット5の径方向の長さ)は、凹部31の長手方向の中央において最も深くなっているが、いずれの部分においても、その深さは凹溝22の曲率半径(中間部24の溝幅tの1/2)よりも小さくなっている。
さらに、ボール転走路7からボール循環路11に入ってきたボール9は、導入部25を通って中間部24の湾曲部分に突き当たることにより案内されて、進行方向を変える。図33,34から分かるように、ボール循環路11の導入部25や湾曲部分のうち、湾曲の径方向外方側(すなわちボール9が突き当たる部分)には凹部31が形成されていないので、ボール循環路11の循環性(ボール9の案内性能)が低下することはない。
なお、ボール循環路11の湾曲の径方向外方側に凹部31を設けてもよいが、湾曲の径方向内方側に設けた凹部31よりも小さいことが、上記と同様の観点から好ましい。詳述すると、ボール循環路11(凹溝22)の長手方向に直交する平面で潤滑剤溜まり(凹部31)を切断したと仮定すると、その断面の面積は、ボール循環路11の湾曲の径方向内方側に設けた凹部31よりも、湾曲の径方向外方側に設けた凹部31の方が小さいことが好ましい。
このような構成から、第1例のボールねじ1は、優れた潤滑性を有している。また、ボール転走路7ではなくボール循環路11に潤滑剤溜まりが形成されているので、ボールねじ1の負荷容量や寿命の低下が生じることがない。このような第1例のボールねじ1の用途は特に限定されるものではないが、自動車部品,位置決め装置等に好適に使用可能である。
次に、第1例のボールねじ1の製造方法の一例を、図16,17を参照しながら説明する。まず、円柱状の鋼製素材20を冷間鍛造等の塑性加工により加工し、ナット5と略同一形状(略円筒形状)のブランク21を得た(粗成形工程)。このとき、塑性加工により、ブランク21の外周面にはフランジ13も形成される。
次に、ブランク21の円柱面状の内周面の一部を冷間鍛造等の塑性加工(又は切削加工でもよい)により凹化させて、ボール転走路7の終点と始点を連通するボール循環路11をなす略S字状の凹溝22を形成した(ボール循環路形成工程)。さらに、油溜まりを構成する凹部31を塑性加工(又は切削加工でもよい)により形成した。
凹溝22及び凹部31を形成する方法の具体例としては、以下のようなものがあげられる。すなわち、凹溝22に対応する形状の凸部、及び、凹部31に対応する形状の別の凸部を有する金型(図示せず)をブランク21内に挿入し、ブランク21の内周面に金型の両凸部を接触させ、ブランク21の内周面に向かって金型を強く押圧することにより塑性加工して、凹溝22及び凹部31を形成することができる。凹溝22と凹部31は別々に形成してもよいが、上記のように1つの工程で同時に形成すれば、ボールねじ1の製造コストを低く抑えることができる。
例えば、図22に示すように、カムドライバと、凹溝22に対応する形状の凸部、及び、凹部31に対応する形状の別の凸部を有するカムスライダと、を有するカム機構の金型を用いて、凹溝22及び凹部31を形成してもよい。詳述すると、ブランク21内にカムドライバとカムスライダを挿入し、そのときカムスライダは、ブランク21とカムドライバとの間に配置するとともに、両凸部をブランク21の内周面に向けて配置する。ブランク21内に配されたカムスライダとカムドライバは、ブランク21の略軸方向(ブランク21の軸方向から若干傾斜した方向)に延びる傾斜面で相互に接触しており、両傾斜面が金型のカム機構を構成している。
ここで、カムドライバをブランク21の軸方向に沿って移動させると、両傾斜面で構成されるカム機構(くさびの作用)によりカムスライダがブランク21の径方向外方に移動する。すなわち、カムドライバの傾斜面からカムスライダの傾斜面に力が伝達され、カムドライバの軸方向の力がカムスライダを径方向外方へ動かす力に変換される。その結果、カムスライダの両凸部がブランク21の内周面を強く押圧することとなるので、塑性加工によりブランク21の内周面に凹溝22及び凹部31が形成される。なお、図22に示す方法の代わりに、図26に示す方法を用いてもよい。
次に、ナット5の内周面に、慣用の切削加工(例えば図24に示す方法)により、ボール循環路11(凹溝22)の最端部と接続するようにねじ溝5aを形成した(ねじ溝形成工程)。このとき、凹溝22(ボール循環路11)の最端部は球面状をなしているので、ねじ溝5aとの境界部分30の段差にコマ式ボールねじの場合のようなエッジ部は発生せず、滑らかな段差となる。その結果、境界部分30をボール9が通過しても、異音や作動トルク変動が生じにくく、また寿命低下も生じにくい。
最後に、所望の条件で焼入れ,焼戻し等の熱処理を施して、ナット5が得られた。この熱処理の例としては、浸炭処理,浸炭窒化処理,高周波熱処理等があげられる。熱処理が浸炭処理又は浸炭窒化処理である場合は、ナット5の材質はSCM420であることが好ましく、熱処理が高周波焼入れである場合は、S53C又はSAE4150であることが好ましい。
このようにして製造されたナット5と、慣用の方法により製造されたねじ軸3及びボール9とを組み合わせて、ボールねじ1を製造した。
なお、前述の粗成形工程及びボール循環路形成工程を塑性加工で行ったので、このボールねじ1の製造方法は、材料歩留まりが高いことに加えて、高精度のボールねじを安価に製造することができる。また、塑性加工により製造するため、鋼製素材20が有するメタルフロー(鍛流線)がほとんど切断されず、また、加工硬化するので、高強度のナット5が得られる。
塑性加工の種類は特に限定されるものではないが、鍛造が好ましく、特に冷間鍛造が好ましい。熱間鍛造を採用することも可能であるが、冷間鍛造は熱間鍛造に比べて高精度な仕上げが可能であるので、後加工を施さなくても十分に高精度なナット5を得ることができる。よって、ボールねじ1を安価に製造することができる。粗成形工程及びボール循環路形成工程における塑性加工を冷間鍛造とすることが好ましいが、いずれか1つの工程における塑性加工を冷間鍛造としてもよい。
[第2例]
図35〜37は、第7実施形態の第2例のボールねじの構造を説明する図である。図35は、ナットの内周面の凹溝及び凹部を示す図であり、図36,37は、図35の凹溝及び凹部の断面図である。なお、第2例のボールねじの構成及び作用効果は、第1例とほぼ同様であるので、異なる部分のみ説明し、同様の部分の説明は省略する。また、これ以降の各図においては、図9〜11及び図33,34と同一又は相当する部分には、図9〜11及び図33,34と同一の符号を付してある。
第2例のボールねじにおいては、凹部31を形成する部位は、図35に示すように、凹溝22の縁部のうち、導入部25と中間部24に沿う部分に形成されている(図35における斜線部)。そして、図36,37に示すように、凹部31は、導入部25に沿う部分よりも中間部24に沿う部分の方が大きく形成されている。詳述すると、ボール循環路11(凹溝22)の長手方向に直交する平面で潤滑剤溜まり(凹部31)を切断したと仮定すると、その断面の面積は、導入部25に沿う部分は小さく、中間部24に沿う部分はそれよりも大きい。そして、導入部25に沿う部分の断面積が最も小さく、凹部31の長手方向の中央に近づくに従って断面積が徐々に大きくなり、凹部31の長手方向の中央において最も断面積が大きくなっている。
また、凹部31の深さ(ナット5の径方向の長さ)は、凹部31の長手方向の中央において最も深くなっているが、いずれの部分においても、その深さは凹溝22の曲率半径(中間部24の溝幅tの1/2)よりも小さくなっている。
さらに、ボール転走路7からボール循環路11に入ってきたボール9は、導入部25を通って中間部24の湾曲部分に突き当たることにより案内されて、進行方向を変える。導入部25にもボール9が突き当たるので、図37から分かるように、湾曲の径方向内方側(図37においては右側)よりも径方向外方側(図37においては左側)の方が、前記断面積が小さい凹部31が形成されている。よって、ボール循環路11の循環性(ボール9の案内性能)はほとんど低下しない。
[第3例]
図38は、第7実施形態の第3例のボールねじの構造を説明する図であり、ナットの内周面の凹溝及び凹部を示す図である。なお、第3例のボールねじの構成及び作用効果は、第1例,第2例とほぼ同様であるので、異なる部分のみ説明し、同様の部分の説明は省略する。
第3例のボールねじにおいては、図38に示すように、凹部31が凹溝22の縁部全体に沿うように形成されている(図38における斜線部)。なお、ボール循環路11(凹溝22)の長手方向に直交する平面で潤滑剤溜まり(凹部31)を切断したと仮定した場合の断面の面積は、潤滑剤溜まり(凹部31)のどの部分についてもほぼ同一であり、凹溝22の縁部全体に沿って凹部31が一様に形成されている。凹溝22の最端部(円弧状の部分)にまで潤滑剤溜まりが形成されているので、より多くの潤滑剤を潤滑剤溜まりに保持することが可能となる。よって、ボールねじ1の潤滑性がより優れている。
なお、上記第1例〜第3例は第7実施形態の一例を示したものであって、第7実施形態は上記第1例〜第3例に限定されるものではない。例えば、第1例〜第3例のボールねじ1においては、ボール9をボール転走路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11をナット5に形成したナット循環方式のボールねじを例示したが、第7実施形態は、ボール循環路11に相当するものをねじ軸に形成したねじ軸循環方式のボールねじにも適用可能である。
また、潤滑剤溜まりを構成する凹部31の断面形状は、図34,36,37に示すような円弧状に限定されるものではなく、曲率半径の異なる複数の円弧が滑らかに連続した形状でもよいし、楕円状でもよいし、あるいは略三角形状でもよい。略三角形状の場合は、凹溝22と凹部31とは滑らかに接続されている。さらに、凹溝22と凹部31とは、断面形状円弧状の凸部で滑らかに接続されていてもよい。さらに、潤滑剤溜まりは、第1実施形態のような断面形状円弧状の凸部でもよい。
なお、前記各実施形態の各例において示したボールねじは、他の実施形態において示したボールねじに対して適用することができる。
また、前記各実施形態におけるボール循環溝は、前述した図22,26に示す鍛造に限らず、他の塑性加工や、切削加工,放電加工等の除去加工により形成してもよい。
さらに、ナットの熱処理について詳細な条件等が記載されていない場合は、他の実施形態に記載された熱処理条件をはじめ、一般的な熱処理条件を問題なく適用することができる。
また、第1〜第7実施形態において示したボールねじは、電動パワーステアリング装置(特にラック式電動パワーステアリング装置)に好適に使用することができる。図39は、電動パワーステアリング装置のステアリングギヤの一部断面図である。
図39において、ステアリングギヤケースを構成するラック&ピニオンハウジング621内には、ラック&ピニオン機構を構成するラックシャフト623や図示しないピニオンが内装され、ピニオンはロアシャフト622に連結されている。ラックシャフト623は、ピニオンに噛合するラック625が図の左方に形成されていると共に、両端部には、タイロッド615を揺動自在に支持する球面継手627が固定されている。ボールねじのねじ軸は、このラックシャフト623に使用されている。
ラック&ピニオンハウジング621の図示右方端部には、ボールねじハウジング633が取付けられている。ボールねじハウジング633には、その下部に電動モータ635の前端がボルトで固定されると共に、電動モータ635のシャフトに固定されたドライブギヤ637と、そのドライブギヤ637に噛合するドリブンギヤ639とが収納されている。また、ボールねじハウジング633には、複列アンギュラ玉軸受を介して、ボールナット645が回転自在に保持されている。
ボールナット645はドリブンギヤ639の内径内に収納されている。そして、ドリブンギヤ639の軸心内径側と、ボールナット645の外径側との間には、スプライン嵌合部661が設けてある。これにより、ドリブンギヤ639とボールナット645とは、自由に相対摺動することができる。
ラックシャフト623の図示右方には、雄ボールねじ溝(ねじ部)651が形成される。一方、ボールナット645には、雌ボールねじ溝653が形成され、雄ボールねじ溝651と雌ボールねじ溝653との間には、循環ボールを構成する多数個の鋼球655が介装されている。また、ボールナット645には、鋼球655を循環させるための図示しない循環溝が装着されている。
この電動パワーステアリング装置では、運転者によってステアリングホイールが操舵されると、その操舵力がロアシャフト622からピニオンに伝達され、それに噛合するラック625に伴ってラックシャフト623が図の左右の何れかの方向に移動し、左右のタイロッドを介して転舵輪が転舵する。同時に、図示しない操舵トルクセンサの出力に基づき、電動モータ635が正逆何れかの方向に所定の回転トルクをもって回転し、その回転トルクがドライブギヤ637、ドリブンギヤ639を介してボールナット645に伝達される。そして、このボールナット456を回転することにより、雌ボールねじ溝653に係合した鋼球655を介してラックシャフト623の雄ボールねじ溝651にスラスト力が作用し、これにより操舵アシストトルクが発現する。
201 ねじ軸
201a 螺旋溝
201b ねじ軸の外周面(ランド部)
202 ナット
202a 螺旋溝
202b 貫通穴
202d ナットの内周面(ボール循環溝の側面に連続する、軸方向に延びる面) 203 ボール
204 コマ
241 ボール循環溝
241a 溝底
241b 側面
241c 角部
242 ボール循環溝の側面に連続する軸方向に延びる面
205 金型
251 基部の面
252,253 ボール循環溝に対応させた突起

Claims (18)

  1. 螺旋状のねじ溝を外周面に有するねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路に転動自在に装填された複数のボールと、前記ボールを前記ボール転走路の終点から始点へ戻し循環させるボール循環溝と、を備え、前記ボール循環溝の両側面と前記各側面に連続し軸方向に延びる面とで形成される角部の少なくとも一部分が、丸く形成されていることを特徴とするボールねじ。
  2. 前記ナットは、前記ナットの内周面の一部を凹化させて、凹溝からなる前記ボール循環溝を形成した上、前記ナットの内周面に、前記ボール循環溝の端部と接続するように前記ねじ溝を形成することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
  3. 潤滑剤を保持可能な潤滑剤溜まりを備えており、該潤滑剤溜まりは、前記凹溝の内面の一部を凹化させてなる凹部からなることを特徴とする請求項2に記載のボールねじ。
  4. 前記ボール循環溝は、前記ボール転走路との接続部分である両端部と、前記両端部の間の中間部とからなり、前記ボール循環溝の長手方向に直交する平面で切断した前記潤滑剤溜まりの断面の面積は、前記端部に隣接する部分よりも前記中間部に隣接する部分の方が大きいことを特徴とする請求項3に記載のボールねじ。
  5. 前記ボール循環溝は湾曲しており、前記ボール循環溝の湾曲の径方向外方側に配された潤滑剤溜まりよりも、前記ボール循環溝の湾曲の径方向内方側に配された潤滑剤溜まりの方が、前記ボール循環溝の長手方向に直交する平面で切断した断面の面積が大きいことを特徴とする請求項3に記載のボールねじ。
  6. 前記ボール循環溝を構成する凹溝及び前記潤滑剤溜まりを構成する凹部は、同時に形成されたものであることを特徴とする請求項3に記載のボールねじ。
  7. 前記ボール循環溝の表面の算術平均粗さRa2 が0μm超1.6μm以下であることを特徴とする請求項2に記載のボールねじ。
  8. 円筒状のナット素材に内挿され、その軸方向に沿って移動するカムドライバと、
    前記ナット素材とカムドライバとの間に配置され、前記ボール循環溝に対応する凸部が形成され、前記カムドライバの移動により前記凸部が前記ナットの径方向に移動するカムスライダと、を有し、
    前記凸部の表面の算術平均粗さRa1 が0.01μm以上0.2μm以下である、カム機構の金型を用いたプレス法により、前記凸部で前記ナット素材の内周面を押すことで、前記ナット素材の内周面に前記ボール循環溝を形成したことを特徴とする請求項7に記載のボールねじ。
  9. 前記ボール循環溝は、前記ナットの内周面の一部を凹化させてなる凹溝で構成されているとともに、前記ナットのねじ溝の表面硬さがHRC58以上62以下、前記ボール循環溝のうち前記ボール転走路との接続部分である両端部の表面硬さがHRC58以上62以下、前記ボール循環溝のうち前記両端部の間の中間部の表面硬さがHV550以下であることを特徴とする請求項2に記載のボールねじ。
  10. 前記ボール循環溝のうち前記両端部のみと前記ナットのねじ溝とに高周波焼入れが施されていることを特徴とする請求項2に記載のボールねじ。
  11. 前記ナットは、前記ボール循環溝と前記ボール転走路との境界部分にブラシ加工及びブラスト加工の少なくとも一方を施してバリを除去することにより形成されたものであることを特徴とする請求項2に記載のボールねじ。
  12. 下記の3つの条件A,B,Cを満足することを特徴とする請求項2に記載のボールねじ。
    条件A:前記ボール循環溝は、前記ナットの内周面の一部を凹化させて形成した凹溝で構成されている。
    条件B:前記ボール循環溝は、前記ボール転走路との接続部分である両端部と、前記両端部の間に配された中間部と、前記端部と前記中間部とを接続する湾曲部と、からなり、略S字状をなしている。
    条件C:前記凹溝の縁部のうち前記湾曲部の縁部は湾曲しており、その湾曲の径方向外方側の縁部は、曲率半径の異なる複数の円弧が滑らかに連続した形状に形成されている。
  13. 前記ボール循環溝は、前記ボール転走路との接続部分である両端部と、前記両端部の間に配された中間部と、を備えており、前記端部の溝幅よりも前記中間部の溝幅の方が狭いことを特徴とする請求項2に記載のボールねじ。
  14. 下記の3つの条件D,E,Fを満足することを特徴とする請求項2に記載のボールねじ。
    条件D:前記ボール循環溝は、前記ナットの内周面の一部を凹化させて形成した凹溝で構成されている。
    条件E:前記ボール循環溝は、前記ボール転走路との接続部分である両端部と、前記両端部の間に配され互いに逆方向に湾曲する2つの湾曲部と、からなり、略S字状をなしている。
    条件F:前記凹溝の縁部のうち前記両湾曲部の縁部は湾曲しており、その湾曲の径方向外方側の縁部は、曲率半径の異なる複数の円弧が滑らかに連続した形状に形成されている。
  15. 下記の3つの条件G,H,Iを満足することを特徴とする請求項2に記載のボールねじ。
    条件G:前記ボール循環溝は、前記ナットの内周面の一部を凹化させて形成した凹溝で構成されている。
    条件H:前記ボール循環溝は、前記ボール転走路との接続部分である両端部と、前記両端部の間に配され互いに逆方向に湾曲する2つの湾曲部と、からなり、略S字状をなしている。
    条件I:前記凹溝の縁部のうち前記両湾曲部の縁部は湾曲しており、その湾曲の径方向外方側及び径方向内方側の縁部は、単一の円弧形状に形成されている。
  16. 前記ボール循環溝は、前記ナットの内周面の一部を凹化させて形成した凹溝で構成されており、前記ボール循環溝の長手方向の少なくとも一部分は、前記長手方向に直交する平面で切断した場合の断面形状が略V字状をなしていることを特徴とする請求項2に記載のボールねじ。
  17. 前記ボール循環溝は、前記ボール転走路との接続部分である両端部と、前記両端部の間の中間部とからなり、前記中間部及び前記端部の少なくとも一方は、前記ボール循環溝の長手方向に直交する平面で切断した場合の断面形状が略V字状をなしていることを特徴とする請求項16に記載のボールねじ。
  18. 前記ボール循環溝を構成する凹溝の底部に潤滑剤溜まりを設けたことを特徴とする請求項16に記載のボールねじ。
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