JPWO2003076672A1 - 耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材とその製造方法に関する。
背景技術
従来、高強度高導電性の要求される線製品には銅にベリリウムを添加したベリリウム銅合金を加工したものがもっぱら用いられている。一方、線材分野には析出型合金を用いた例は少ない。
しかしベリリウム銅合金を用いたものに代表される従来の線材は次のような問題点がある。
▲1▼ベリリウム銅はリン青銅などに比べて高価である。
▲2▼有害物質であるベリリウムを使用するとき製造作業者の衛生、安全上の問題が生じる恐れがある。
▲3▼ベリリウム銅合金の代替製品としてリン青銅があるものの導電率・強度ともに低い。
▲4▼低ベリリウム銅(ベリリウム含有量1.0mass%以下)は強度が低い。
▲5▼高ベリリウム銅(ベリリウム含有量1.5mass%以上)は導電率が低く、強度は高いが最近の商品寿命を考えると過剰品質の傾向がある。
発明の開示
本発明は、Niを1.0〜4.5mass%、Siを0.2〜1.1mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金線材であって、導電率が20%IACS以上60%IACS以下、引張強度が700MPa以上1300MPa以下である、耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材である。
また、本発明は、Niを1.0〜4.5mass%、Siを0.2〜1.1mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Znを0.2〜1.5mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金線材であって、導電率が20%IACS以上60%IACS以下、引張強度が700MPa以上1300MPa以下である、耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材である。
また、本発明は、前記いずれか1つの銅合金が、さらに0.005〜0.3mass%Ag、0.01〜0.5mass%Mn、0.01〜0.2mass%Mg、0.005〜0.2mass%Fe、0.005〜0.2mass%Cr、0.05〜2mass%Co、0.005〜0.1mass%Pの1種または2種以上を総量で0.005〜2mass%含有し、導電率が20%IACS以上60%IACS以下、引張強度が700MPa以上1300MPa以下である、耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材である。
また、本発明は、Niを1.0〜4.5mass%、Siを0.2〜1.1mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、そして時効処理及び伸線加工から選ばれる少なくとも1つを施すことを含んでなり、それにより導電率が20%IACS以上60%IACS以下かつ引張強度が700MPa以上1300MPa以下の銅合金線材を得る、耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法である。
また、本発明は、Niを1.0〜4.5mass%、Siを0.2〜1.1mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Znを0.2〜1.5mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、そして時効処理及び伸線加工から選ばれる少なくとも1つを施すことを含んでなり、それにより導電率が20%IACS以上60%IACS以下かつ引張強度が700MPa以上1300MPa以下の銅合金線材を得る、耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法である。
また、本発明は、前記いずれか1つの銅合金であって、さらに0.005〜0.3mass%Ag、0.01〜0.5mass%Mn、0.01〜0.2mass%Mg、0.005〜0.2mass%Fe、0.005〜0.2mass%Cr、0.05〜2mass%Co、0.005〜0.1mass%Pの1種または2種以上を総量で0.005〜2mass%含有する銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、そして時効処理及び伸線加工から選ばれる少なくとも1つを施すことを含んでなり、それにより導電率が20%IACS以上60%IACS以下かつ引張強度が700MPa以上1300MPa以下の銅合金線材を得る、耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法である。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、下記の記載からより明らかになるであろう。
発明を実施するための最良の形態
本発明によれば、以下の手段が提供される。
(1)Niを1.0〜4.5mass%、Siを0.2〜1.1mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金線材であって、導電率が20%IACS以上60%IACS以下、引張強度が700MPa以上1300MPa以下であることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材。
(2)Niを1.0〜4.5mass%、Siを0.2〜1.1mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Znを0.2〜1.5mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金線材であって、導電率が20%IACS以上60%IACS以下、引張強度が700MPa以上1300MPa以下であることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材。
(3)前記(1)項又は(2)項に記載の銅合金が、さらに0.005〜0.3mass%Ag、0.01〜0.5mass%Mn、0.01〜0.2mass%Mg、0.005〜0.2mass%Fe、0.005〜0.2mass%Cr、0.05〜2mass%Co、0.005〜0.1mass%Pの1種または2種以上を総量で0.005〜2mass%含有し、導電率が20%IACS以上60%IACS以下、引張強度が700MPa以上1300MPa以下であることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材。
(4)Niを1.0〜4.5mass%、Siを0.2〜1.1mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、そして時効処理及び伸線加工から選ばれる少なくとも1つを施すことを含んでなり、それにより導電率が20%IACS以上60%IACS以下かつ引張強度が700MPa以上1300MPa以下の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
(5)Niを1.0〜4.5mass%、Siを0.2〜1.1mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Znを0.2〜1.5mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、そして時効処理及び伸線加工から選ばれる少なくとも1つを施すことを含んでなり、それにより導電率が20%IACS以上60%IACS以下かつ引張強度が700MPa以上1300MPa以下の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
(6)前記(1)項又は(2)項に記載の銅合金であって、さらに0.005〜0.3mass%Ag、0.01〜0.5mass%Mn、0.01〜0.2mass%Mg、0.005〜0.2mass%Fe、0.005〜0.2mass%Cr、0.05〜2mass%Co、0.005〜0.1mass%Pの1種または2種以上を総量で0.005〜2mass%含有する銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、そして時効処理及び伸線加工から選ばれる少なくとも1つを施すことを含んでなり、それにより導電率が20%IACS以上60%IACS以下かつ引張強度が700MPa以上1300MPa以下の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
(7)前記(1)〜(3)項のいずれかに記載の銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、加工度0以上4以下で伸線加工し、400℃以上550℃以下で1.5時間以上の時効処理し、そして加工度3以上の伸線加工を施すことを含んでなり、それによって引張強度が1000MPa以上(通常1300MPa以下)でかつ導電率が20%IACS以上(通常60%IACS以下)の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
(8)前記(1)〜(3)項のいずれかに記載の銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、加工度0以上4以下で伸線加工し、400℃以上550℃以下で1.5時間以上の時効処理し、加工度3以上の伸線加工を行い、そして350℃以上500℃以下で1.5時間以上の焼鈍処理を施すことを含んでなり、それによって導電率が40%IACS以上(通常60%IACS以下)かつ引張強度が700MPa以上(通常1300MPa以下)の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
(9)前記(1)〜(3)項のいずれかに記載の銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、そして加工度7以上の伸線加工を施すことを含んでなり、それによって引張強度が1000MPa以上(通常1300MPa以下)でかつ導電率が20%IACS以上(通常60%IACS以下)の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
(10)前記(1)〜(3)項のいずれかに記載の銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、加工度7以上の伸線加工を施し、そして200℃以上400℃以下の引張強度が低下しない程度の温度で1.5時間以上の焼鈍処理を施すことを含んでなり、それによって引張強度が1000MPa以上(通常1300MPa以下)でかつ導電率が20%IACS以上(通常60%IACS以下)の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
(11)前記(1)〜(3)項のいずれかに記載の銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、加工度3以上の伸線加工し、400℃以上600℃以下で1.5時間以上の時効処理を施し、そして加工度0以上3未満で伸線加工をすることを含んでなり、それによって導電率が40%IACS以上(通常60%IACS以下)でかつ引張強度が700MPa以上(通常1300MPa以下)の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
(12)前記(1)〜(3)項のいずれかに記載の銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、加工度0.7以上4以下で伸線加工し、400℃以上600℃以下で1.5時間以上の時効処理を施し、そして加工度6未満の伸線加工を施すことを含んでなり、それによって引張強度が900MPa以上1100MPa以下かつ導電率が30%IACS以上45%IACS以下の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
(13)前記(1)〜(3)項のいずれかに記載の銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、加工度0以上4以下で伸線加工し、400℃以上600℃以下で1.5時間以上の時効処理を行い、そして(1)加工度が0を超えて4以下の伸線加工の後に(2)300℃以上550℃以下の範囲で1回目の時効処理温度よりも低い温度で1.5時間以上焼鈍処理を行い、ここで(1)と(2)を2回以上繰り返し、そして加工度が0以上4以下の伸線加工を行うことを含んでなり、それによって引張強度が900MPa以上1100MPa以下かつ導電率が30%IACS以上45%IACS以下の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
(14)前記(1)〜(3)項のいずれかに記載の銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、400℃以上600℃以下で1.5時間以上の時効処理を行うことを含んでなり、それによって引張強度が700MPa以上1100MPa以下かつ導電率が20%IACS以上50%IACS以下の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
以下に本発明をさらに説明する。
まず、本発明の、電子電気機器部品に用いられる高強度高導電性銅合金線材に含有される各成分について説明する。
CuにNiとSiを添加すると、Ni−Si化合物(Ni2Si相)がCuマトリックス中に析出して強度および導電性が向上することが知られている。
Ni含有量が1.0mass%未満であると析出量が少ないため目標とする強度が得られない。逆にNi含有量が4.5mass%を超えて添加されると鋳造時や熱処理(例えば、溶体化処理、時効処理、焼鈍処理)時に強度上昇に寄与しない析出が生じ、添加量に見合う強度を得ることができないばかりか、伸線加工性、曲げ加工性にも悪影響を与えることになる。
Si含有量は析出するNiとSiの化合物が主にNi2Si相であると考えられるため、添加Ni量を決定すると最適なSi添加量が決まる。Si含有量が0.2mass%未満であるとNi含有量が少ないときと同様に十分な強度を得ることができない。逆にSi含有量が1.1mass%を超えるときもNi含有量が多いときと同様の問題が生じる。
本発明では、Ni含有量を、好ましくは1.7〜4.5mass%、より好ましくは2.0〜4.0mass%、Si含有量を、好ましくは0.4〜1.1mass%、より好ましくは0.45〜1.0mass%となるように調整することが好ましい。
Sn、Znは本発明を構成する重要な添加元素である。これらの元素は相互に関係しあって良好な特性バランスを実現している。
Snは耐応力緩和特性を改善するとともに伸線加工性を改善する。Snが0.05mass%未満であると改善効果は現れず、逆に1.5mass%を超えて添加されると導電性が低下する。
Znは曲げ加工性を改善することができる。また、ZnはSnメッキや半田メッキの耐熱剥離性、耐マイグレーション特性も改善し、0.2mass%以上添加することが好ましい。逆に導電性を考慮し、1.5mass%を超えて添加することは好ましくない。
本発明では、Sn含有量は、好ましくは0.05〜1.0mass%、より好ましくは0.1〜0.5mass%、Zn含有量は、好ましくは0.2〜1.0mass%、より好ましくは0.4〜0.6mass%である。
Sは熱間加工性を悪化させる元素であり、その含有量を0.005mass%未満に規制する。特にS含有量を0〜0.002mass%未満に規制する事が好ましい。
次に、Ag、Mn、Mg、Fe、Cr、Co、Pを含有する場合の含有量の範囲を限定した理由を説明する。Ag、Mn、Mg、Fe、Cr、Co、Pは、加工性を改善するという点で類似の機能を有しているものであり、含有させる場合には、Ag、Mn、Mg、Fe、Cr、Co、Pの中から選ばれる1種または2種以上を合計量として0.005〜2mass%、好ましくは0.03〜1.5mass%含有させるものである。
Agは耐熱性および強度を向上させると同時に、結晶粒の粗大化を阻止して曲げ加工性を改善する。Ag量が0.005mass%未満ではその効果が充分に得られず、0.3mass%を超えて添加しても特性上に悪影響はないもののコスト高になる。これらの観点から、Agを含有する場合の含有量は0.005mass%〜0.3mass%、好ましくは0.01〜0.2mass%とする。
Mnは、強度を上昇させると同時に熱間加工性を改善する効果があり、0.01mass%未満であるとその効果が小さく、0.5mass%を超えて含有しても、添加量に見合った効果が得られないばかりでなく、導電性を劣化させる。よってMnを含有する場合の含有量は0.01〜0.5mass%、好ましくは0.1〜0.35mass%とする。
Mgは耐応力緩和特性を改善するが、曲げ加工性には悪影響を及ぼす。耐応力緩和特性の観点からは、0.01mass%以上で含有量は多いほどよい。逆に曲げ加工性の観点からは、含有量が0.2mass%を超えると良好な曲げ加工性を得ることは困難である。このような観点から、Mgを含有する場合の含有量は0.01〜0.2mass%、好ましくは0.05〜0.15mass%とする。
Fe、CrはSiと結合し、Fe−Si化合物、Cr−Si化合物を形成し、強度を上昇させる。また、Niとの化合物を形成せずに銅マトリックス中に残存するSiをトラップし、導電性を改善する効果がある。Fe−Si化合物、Cr−Si化合物は析出硬化能が低いため、多くの化合物を生成させることは得策ではない。また、0.2mass%を超えて含有すると曲げ加工性が劣化してくる。これらの観点から、Fe、Crを含有する場合の添加量は、それぞれ0.005〜0.2mass%、好ましくはそれぞれ0.03〜0.15mass%とする。
CoはNiと同様にSiと化合物を形成し、強度を向上させる。CoはNiに比べて高価であるため、本発明ではCu−Ni−Si系合金を利用しているが、コスト的に許されるのであれば、Cu−Co−Si系やCu−Ni−Co−Si系を選択してもよい。Cu−Co−Si系は時効析出させた場合に、Cu−Ni−Si系より強度、導電性ともにわずかによくなる。したがって、熱・電気の伝導性を重視する部材には有効である。また、Co−Si化合物は析出硬化能が僅かに高いため、耐応力緩和特性も若干改善される傾向にある。これらの観点から、Coを含有する場合の添加量は、0.05〜2mass%、好ましくは0.08〜1.5mass%とする。
Pは強度を上昇させると同時に導電性を改善する効果を有する。多量の含有は粒界析出を助長して曲げ加工性を低下させる。よって、Pを添加する場合の好ましい含有範囲は0.005〜0.1mass%、さらに好ましくは0.01〜0.05mass%である。
これらを2種以上同時に添加する場合には、求められる特性に応じて適宜決定すればよいが、耐熱性、Snメッキ耐熱剥離性、半田メッキ耐熱剥離性、導電性の観点から総量で0.005〜2.0mass%とした。
本発明では、強度や導電性などの基本的な特性を低下させない程度に、例えば総量として通常0.01〜0.5mass%、好ましくは0.01〜0.3mass%の含有率で、B、Ti、Zr、V、Al、Pb、Biなどを添加することができる。例えばBは結晶粒の粗大化を抑制し、強度上昇に寄与する効果があり、導電率を低下させない程度に0.005〜0.1mass%添加することは有効である。Ti、Zr、V、Al、Pb、Biは、個々の元素の含有量として、通常0.005〜0.15mass%、好ましくは0.005〜0.1mass%の範囲で含有される。例えば、PbやBiの含有量が多すぎると、得られる銅合金線材は曲げ加工性に劣るものとなる場合がある。
本発明に用いられる銅合金において、以上の各成分以外の残部は、Cu及び不可避的不純物である。
本発明の線材に用いられる銅合金として、好ましい成分範囲の例としては、以下の種々の組成範囲が挙げられる。
すなわち、銅合金組成の第一の例として、Niを1.0〜3.0mass%、Siを0.2〜0.7mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であり、より好ましくは、Niを1.8〜3.0mass%、Siを0.4〜0.7mass%、Snを0.1〜0.35mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であり、さらに好ましくは、Niを2.2〜2.4mass%、Siを0.52〜0.57mass%、Snを0.12〜0.26mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金である。
銅合金組成の第二の例として、Niを1.0〜3.0mass%、Siを0.2〜0.7mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Znを0.2〜1.5mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であり、より好ましくは、Niを1.8〜3.0mass%、Siを0.4〜0.7mass%、Snを0.1〜0.35mass%、Znを0.3〜0.8mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であり、さらに好ましくは、Niを2.2〜2.4mass%、Siを0.52〜0.57mass%、Snを0.12〜0.26mass%、Znを0.45〜0.55mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金である。
銅合金組成の第三の例として、Niを1.0〜3.0mass%、Siを0.2〜0.7mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Znを0.2〜1.5mass%、Mgを0.01〜0.2mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であり、より好ましくは、Niを1.8〜3.0mass%、Siを0.4〜0.7mass%、Snを0.1〜0.35mass%、Znを0.3〜0.8mass%、Mgを0.05〜0.17mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であり、さらに好ましくは、Niを2.2〜2.4mass%、Siを0.52〜0.57mass%、Snを0.12〜0.26mass%、Znを0.45〜0.55mass%、Mgを0.08〜0.16mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金である。
銅合金組成の第四の例として、Niを3.0〜4.5mass%、Siを0.7〜1.1mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であり、より好ましくは、Niを3.5〜4.0mass%、Siを0.8〜1.0mass%、Snを0.1〜0.35mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であり、さらに好ましくは、Niを3.6〜3.9mass%、Siを0.85〜0.95mass%、Snを0.12〜0.26mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金である。
銅合金組成の第五の例として、Niを3.0〜4.5mass%、Siを0.7〜1.1mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Znを0.2〜1.5mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であり、より好ましくは、Niを3.5〜4.0mass%、Siを0.8〜1.0mass%、Snを0.1〜0.35mass%、Znを0.3〜0.8mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であり、さらに好ましくは、Niを3.6〜3.9mass%、Siを0.85〜0.95mass%、Snを0.12〜0.26mass%、Znを0.45〜0.55mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金である。
銅合金組成の第六の例として、Niを3.0〜4.5mass%、Siを0.7〜1.1mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Znを0.2〜1.5mass%、Mgを0.01〜0.2mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であり、より好ましくは、Niを3.5〜4.0mass%、Siを0.8〜1.0mass%、Snを0.1〜0.35mass%、Znを0.3〜0.8mass%、Mgを0.05〜0.17mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であり、さらに好ましくは、Niを3.6〜3.9mass%、Siを0.85〜0.95mass%、Snを0.12〜0.26mass%、Znを0.45〜0.55mass%、Mgを0.08〜0.16mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金である。
本発明に用いられる銅合金線材の製造方法は、特に制限するものではないが、前記銅合金を荒引き加工して線材とした後、次のような各工程を経る方法が挙げられる。
溶体化処理 → 時効処理
溶体化処理 → 時効処理 → 伸線加工
溶体化処理 → 伸線加工
溶体化処理 → 伸線加工 → 時効処理
溶体化処理 → 伸線加工 → 時効処理 → 伸線加工
また、上記各工程で製造した線材に対して、導電率改善などを目的として、焼鈍処理を行ってもよい。
ここで、まず銅合金を荒引きして線材とする処理は、ビレット鋳造し、熱間押出プレスにより押出素線を作り、伸線加工などにより荒引きして行われる。本発明において、荒引きして線材としたものが、目的の線材の最終径に合致していれば、改めて、後段で伸線加工を行う必要がないことは言うまでもない。
溶体化処理は荒引き線材を、好ましくは700〜950℃で10分以上、より好ましくは800℃以上950℃以下で10分以上180分以下、さらに好ましくは850〜950℃で10分以上120分以下保持して行うことができる。時効処理は、好ましくは350〜600℃で1.5時間以上10時間以下、より好ましくは400℃以上600℃以下で2時間以上8時間以下、さらに好ましくは450〜600℃で2時間以上6時間以下保持することにより行われる。時効処理は金属間化合物の析出を進め、導電率と強度を向上する。伸線加工とは、荒引きした線材を所定の目的の太さの線材に延伸加工することをいう。この場合の伸線加工は、好ましくは、常温で加工度(η)をη=0〜10の範囲で行う。ここで、加工度とは、加工前の線材の加工方向に対して垂直方向に切断した断面の断面積をS0、伸線加工後の断面積をSとしたとき、η=ln(S0/S)で得られる値のことである。なお、加工度(η)0とは、その段階での伸線加工を行わないことを意味する。
本発明の線材の製造においては、板状材(条材)の加工プロセスはそのまま適用することができない。板状材の製造においては、圧延によって加工されるが、加工度で3程度までの加工しかおこなわれないのに対して、線材の製造においては、伸線加工により加工度が3以上の加工も容易に実施できることが必要である。このように、線材は板状材(条材)に比べて一般に高加工度で加工するので、強度の上昇分が大きい。また、低加工度での線材製造の場合においても、板状材製造の場合と比較して、時効処理時の温度と特性(強度、導電率など)との関係が異なってくる。
本発明の線材の製造においては、銅合金の組成や熱処理の工程によっては溶体化処理後には伸線加工を施さない場合もあるが、通常、伸線加工する。伸線加工を施すことにより、得られる線材の強度が上昇し、耐応力緩和特性は低下する方向に変化する。そこで、本発明は、これらの線材特有の問題に対処し、所望の強度と耐応力緩和特性を達成する。
本発明の線材は、伸線加工性に優れる。ここで、伸線加工性とは、所定の線材を再度伸線加工に付す際の加工性であって、伸線加工時の断線が少ないこと、伸線ダイスの摩耗が少ないことなどをいう。伸線加工性の評価方法には、例えば、断線回数については、一定の長さ(または一定質量)の材料を伸線加工したときに発生する断線回数を計測する方法がある。また、伸線ダイスの摩耗については、一定長さ(または一定質量)の材料を伸線加工したときの、伸線開始時と伸線終了時の伸線上がりの材料の線径を測定して、伸線ダイスの摩耗量を評価する方法などがある。
次に、本発明の電子電気機器部品に用いられる高強度高導電性銅合金線材を製造する好ましい方法について説明する。
本発明者らは、溶体化処理、時効処理、伸線加工の組み合わせを種々変更した実験を行った。その結果、前述の強度上昇および導電率上昇に寄与するCu−Ni−Si化合物の析出挙動は、線材加工中の加工度などによって、その挙動が影響を受けることがわかった。
本発明における銅合金線材の製造においては、例えば、溶体化処理後に時効するか、または溶体化処理後に伸線加工をおこなって、時効したのち、仕上げの伸線加工をおこない、目的の線径に仕上げる。
なかでもより高強度の線材を得る方法について説明する。
<前記(7)、(8)項記載の方法の説明>
中間伸線加工での加工硬化および時効処理時の析出硬化の両方による強度上昇を考えた場合、中間伸線加工の加工度を4を超えて行うと、時効処理による強度上昇分は小さく、さらに中間伸線加工の加工度が高すぎると、時効処理を行うと逆に軟化してしまう。よってここでの中間伸線加工の加工度を0以上4以下、好ましくは0.5以上3以下と規定する。また、最後の仕上げ伸線の加工度が3未満では、1000MPa以上のより高強度の線材は得にくい。よって、仕上げ伸線加工での加工度は3以上、好ましくは4以上10以下とした。
この後、焼鈍処理をすることで、導電率、曲げ加工性、耐応力緩和特性を改善することができる。焼鈍処理は、350℃以上500℃以下で1.5時間以上、好ましくは400℃以上500℃以下で2時間以上8時間以下行うことが好ましい。
<前記(9)、(10)項記載の方法の説明>
また、溶体化処理の後、時効処理をすることなく伸線加工を行うことによっても強度が上昇するが、加工度7未満では、十分な強度が得られない。よって、この場合の伸線加工の加工度は7以上、好ましくは8.5以上10以下とした。
この後、引張強度が低下しない程度に焼鈍処理をすることで、導電率、曲げ加工性、耐応力緩和特性を改善することができる。焼鈍処理は、200℃以上400℃以下で1.5時間以上、好ましくは250℃以上350℃以下で2時間以上8時間以下行うことが好ましい。
次に、より高導電性の線材を得る方法について説明する。
<前記(11)項記載の方法の説明>
溶体化処理後に中間伸線加工をおこなったのち、時効処理をおこなう場合、中間伸線加工の加工度が高いほど、時効処理後の導電率の上昇率が高くなる。一方、時効処理後に仕上げ伸線加工を行う場合、仕上げ伸線加工の加工度が高くなるほど導電率の低下は大きくなる。そこで、より導電率の高い線材を得るには、中間伸線加工の加工度は大きく、仕上げ伸線加工の加工度はなるべく小さくするか、仕上げの伸線加工を行わないのがよい。よって、溶体化後の(中間伸線加工での)加工度を3以上、好ましく4以上10以下とし、時効処理後の(仕上げ伸線加工での)加工度を0以上3未満、好ましくは0.5以上2以下とする。また、上記時効処理は400℃以上600℃以下で1.5時間以上、好ましくは450℃以上550℃以下で2時間以上8時間以下行うことが好ましい。
次に、強度と導電性のバランスのよい線材を得る方法について説明する。
<前記(12)項記載の方法の説明>
強度と導電性のバランスのよい線材を得るには、中間伸線加工度と仕上伸線加工度の微妙なバランスが必要となってくる。中間伸線加工度が0.7未満では、次工程の時効処理で十分な導電率の向上が得られず、時効処理後の仕上げ伸線加工によって、導電率が下がってしまう。中間伸線加工度が4を超えると、時効処理時に導電率は大きく改善されるが、強度は時効硬化が現れないばかりか、軟化してしまう。この場合、時効処理後の仕上げ伸線工程で軟化によって低下した強度を補うために高い加工度で伸線加工をおこなうと、導電率が低くなってしまう。よって、溶体化処理と時効処理の間の中間伸線加工の加工度を0.7以上4以下、好ましくは1以上3以下とする。次に仕上げ伸線加工の加工度を6未満、好ましくは0.5以上5以下と規定したのは、加工度が6以上とすると、伸線加工によって、導電率が30%IACS未満に下がってしまうためである。また、上記時効処理は400℃以上600℃以下で1.5時間以上、さらに好ましくは450℃以上550℃以下で2時間以上8時間以下行うことが好ましい。
<前記(13)項記載の方法の説明>
また、他の方法として、溶体化処理後に伸線加工と時効処理および焼鈍処理を繰り返すことによって、強度と導電率を繰り返し上昇させながら、目的の線径に仕上げる方法もある。この場合、各熱処理間の伸線加工の加工度を0を超えて4以下、好ましくは0.5以上3以下と規定したのは、加工度が4を超えると、導電率が低下しすぎてしまい、次の時効処理もしくは焼鈍処理において、十分な導電率が得られなくなるためである。また、1回目の時効処理に対して、次段階で行う焼鈍処理およびさらにその次でおこなう焼鈍処理の温度を低くしていくのは、1回目の時効温度よりも高い温度で次段階で焼鈍処理を行うと、その前段階で生じた析出物が再度固溶してしまい、前段階の時効処理の効果が打ち消されてしまうためである。溶体化処理の後に行われる熱処理において、1回目の熱処理である時効処理は400℃以上600℃以下で1.5時間以上、さらに好ましくは450℃以上550℃以下で2時間以上8時間以下行うことが好ましく、2回目以降の熱処理である焼鈍処理は、300℃以上550℃以下(さらに好ましくは300℃以上500℃以下)であってかつ1回目の時効温度よりも低い温度で1.5時間以上(さらに好ましくは2時間以上8時間以下)行うことが好ましい。
この方法において、伸線加工と焼鈍加工を2回以上繰り返すとは、例えば、
溶体化処理→伸線加工→時効処理→(伸線加工→焼鈍処理)n→仕上げ伸線加工(nは2以上の整数である)
のように、少なくとも2回の焼鈍処理を施すことをいう。また、前記仕上げ伸線加工を省略して、焼鈍処理を最終の処理としてもよい。
<前記(14)項記載の方法の説明>
また、他の方法として、荒引きによって溶体化処理前に目的の線径に仕上げておき、溶体化処理と時効処理を行う方法もある。上記時効処理は400℃以上600℃以下で1.5時間以上、好ましくは450℃以上550℃以下で2時間以上8時間以下行うことが好ましい。
本発明の電子電気機器部品用銅合金線材にメッキを施すことも好ましい。メッキは、その方法に特に制限はなく、通常行われる方法により施される。
本発明の銅合金線材の線径は特に制限はなく用途により適宜に設定できるが、好ましくは10μm以上、さらに好ましくは50μm〜5mmである。
本発明の銅合金線材は、強度、導電性、耐応力緩和特性に優れる。
さらに、本発明の銅合金線材は、曲げ加工性、真直性、真円度、例えば金メッキ性などのメッキ性に優れる。また、本発明の銅合金線材に対して、追加の伸線加工を行う場合において伸線加工性に優れている。
しかも本発明の銅合金線材はベリリウムを全く必要としないので、ベリリウム銅合金より製造される線材の欠点を克服し、低コストで、製造安全性が高いという優れた利点を有する。
本発明方法によれば、このような優れた特性、物性を有する銅合金線材を低コストで安全に製造できる。
実施例
次に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
高周波溶解炉にて、表1に記す組成の合金を溶解してビレットを鋳造した。次にこれらビレットを熱間押出ししたのち、更に冷間(伸線)加工により直径15mmの荒引き素線を作った。これらを溶体化処理(900℃90分)を行い、加工度η=0.7の伸線加工を行ったのち、直径0.5mmの線材とした。これを不活性ガス雰囲気中で500℃で2時間の時効処理を施したのち、加工度η=2.3の伸線加工を行って、直径0.15mmの線材を製造した。このようにして得られた線材について各種特性評価を行った。
引張強さは、JISZ2241に準じ、導電率はJISH0505に準じて測定した。
繰り返し曲げ性は、230gの荷重がかかるように試験線の端部に吊り下げて、90°曲げを繰り返し行い、破断するまでの曲げ回数で表した。曲げ回数は左右への1往復を1回と数え、各条件5本を測定したときの平均値とした。破断するまでの平均曲げ回数で5回以上の場合を合格とする。
曲げ加工性は、内側曲げ半径が0mmの180°密着曲げを行った。評価の指標は、
A.しわもなく良好
B.小さなしわが観察される
C.大きなしわが観察されるが、クラックには至っていない
D.微細なクラックが観察される
E.明瞭にクラックが観察される
の5段階で評価し、評価A、B及びCを実用上問題の無いレベル、DとEは問題のあるレベルと判断した。
耐応力緩和特性の評価は、日本電子材料工業会標準規格(EMAS−3003)の片持ちブロック式を採用し、表面最大応力が耐力の80%となるように負荷応力を設定し、150℃恒温槽に1000時間保持して応力緩和率(SRR)を求めた。
結果を表2に示す。
表2から明らかなように、本発明例No.1〜37は引張強度、導電率、繰り返し曲げ性、曲げ加工性、耐応力緩和特性のいずれも優れた特性を示していることがわかる。
一方、Ni量が少ない比較例No.38およびSi量が少ない比較例No.40は、目的とする強度が得られない。逆に本発明例No.2〜4に比べて、Ni量が多すぎる比較例No.39は強度の点では差はないが、曲げ加工性が劣化する。また、本発明例No.2〜4に比べて、Si量が多すぎる比較例No.41は強度の点では差はないが、曲げ加工性が劣化する。
Snの添加量が少なすぎる比較例No.42は、本発明例No.7と比べて、耐応力緩和特性が大きく劣化している。逆にSnの添加量が多すぎる比較例No.43は、本発明例No.8と比較して、耐応力緩和特性には大差ないが、目的とする導電率が得られない。
Sの添加量が本発明の規定量を超えている比較例No.44は、熱間押出し時に割れが生じ、その後の工程への流動を中止した。
Znの添加量が本発明の規定量を超えている比較例No.45は、導電性が劣化している。
Mnの添加量が本発明の規定量を超えている比較例No.46は、Mn添加量の少ない本発明例No.25、26に比べて強度上昇の効果は見られるが、導電性が劣化している。
Mgの添加量が本発明の規定量を超えている比較例No.47は、曲げ加工性に劣り、本発明例No.29に比べて耐応力緩和特性は向上するが、目的とする導電性が劣化している。
Feの添加量が本発明の規定量を超えている比較例No.48は、本発明例No.31に比べて導電性はわずかに向上するが、添加量に見合うだけの向上ではない。また、曲げ加工性が大幅に劣化する。
Crの添加量が本発明の規定量を超えている比較例No.49は、本発明例No.33に比べて導電性はわずかに向上するが、添加量に見合うだけの向上ではない。また、曲げ加工性が大幅に劣化する。
Pの添加量が本発明の規定量を超えている比較例No.50では、本発明例No.35に比べて強度と導電性はほとんどかわらないが、曲げ加工性が大幅に劣化している。
次に、表1の合金の中から、合金No.29、30の組成の合金を溶解してビレットを鋳造した。次にこれらビレットを熱間押出ししたのち、更に冷間(伸線)加工により直径15mmの荒引き素線を作った。これらを、表3に示す工程A〜Lのいずれかを適用し、直径0.15mmの線材を作製した。また、同様に合金No.29、30の組成の合金を溶解してビレットを鋳造し、これらビレットを熱間押出ししたのち、表3に示す工程M、N、O、Pのいずれかを適用し、直径0.15mmの線材を作製した。このようにして得られた線材について、前述の各種特性を評価した。結果を表4に示す。
表4から明らかなように、本発明例の試料は、評価したいずれの特性についても優れるということがわかる。
これに対して、比較例No.73は引張強度が劣っている。比較例No.74は導電率と耐応力緩和特性が劣っている。比較例No.75は引張強度が劣っている。比較例No.76は導電率が劣っている。
また、比較例No.77は引張強度と導電率が劣っている。比較例No.78は導電率と曲げ加工性と耐応力緩和特性が劣っている。比較例No.79は引張強度が劣っている。比較例No.80は導電率と耐応力緩和特性が劣っている。
産業上の利用可能性
本発明の耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材は、電子電気機器部品用の高強度高導電性銅合金線材として、特に、ICソケットピンやコネクタピン等のピン、バッテリー端子等の端子、フラットケーブル導体や機器配線ケーブル等の導体、コイルバネ等のバネ材などに好適なものである。
本発明の方法は、前記耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法として好適なものである。
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
Claims (14)
- Niを1.0〜4.5mass%、Siを0.2〜1.1mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金線材であって、導電率が20%IACS以上60%IACS以下、引張強度が700MPa以上1300MPa以下であることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材。
- Niを1.0〜4.5mass%、Siを0.2〜1.1mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Znを0.2〜1.5mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金線材であって、導電率が20%IACS以上60%IACS以下、引張強度が700MPa以上1300MPa以下であることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材。
- 請求項1又は2に記載の銅合金が、さらに0.005〜0.3mass%Ag、0.01〜0.5mass%Mn、0.01〜0.2mass%Mg、0.005〜0.2mass%Fe、0.005〜0.2mass%Cr、0.05〜2mass%Co、0.005〜0.1mass%Pの1種または2種以上を総量で0.005〜2mass%含有し、導電率が20%IACS以上60%IACS以下、引張強度が700MPa以上1300MPa以下であることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材。
- Niを1.0〜4.5mass%、Siを0.2〜1.1mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、そして時効処理及び伸線加工から選ばれる少なくとも1つを施すことを含んでなり、それにより導電率が20%IACS以上60%IACS以下かつ引張強度が700MPa以上1300MPa以下の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
- Niを1.0〜4.5mass%、Siを0.2〜1.1mass%、Snを0.05〜1.5mass%、Znを0.2〜1.5mass%、Sを0.005mass%未満(零を含む)含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、そして時効処理及び伸線加工から選ばれる少なくとも1つを施すことを含んでなり、それにより導電率が20%IACS以上60%IACS以下かつ引張強度が700MPa以上1300MPa以下の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
- 請求項1又は2に記載の銅合金であって、さらに0.005〜0.3mass%Ag、0.01〜0.5mass%Mn、0.01〜0.2mass%Mg、0.005〜0.2mass%Fe、0.005〜0.2mass%Cr、0.05〜2mass%Co、0.005〜0.1mass%Pの1種または2種以上を総量で0.005〜2mass%含有する銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、そして時効処理及び伸線加工から選ばれる少なくとも1つを施すことを含んでなり、それにより導電率が20%IACS以上60%IACS以下かつ引張強度が700MPa以上1300MPa以下の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、加工度0以上4以下で伸線加工し、400℃以上550℃以下で1.5時間以上の時効処理し、そして加工度3以上の伸線加工を施すことを含んでなり、それによって引張強度が1000MPa以上でかつ導電率が20%IACS以上の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、加工度0以上4以下で伸線加工し、400℃以上550℃以下で1.5時間以上の時効処理し、加工度3以上の伸線加工を行い、そして350℃以上500℃以下で1.5時間以上の焼鈍処理を施すことを含んでなり、それによって導電率が40%IACS以上かつ引張強度が700MPa以上の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、そして加工度7以上の伸線加工を施すことを含んでなり、それによって引張強度が1000MPa以上でかつ導電率が20%IACS以上の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、加工度7以上の伸線加工を施し、そして200℃以上400℃以下で1.5時間以上の焼鈍処理を施すことを含んでなり、それによって引張強度が1000MPa以上でかつ導電率が20%IACS以上の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、加工度3以上の伸線加工し、400℃以上600℃以下で1.5時間以上の時効処理を施し、そして加工度0以上3未満で伸線加工をすることを含んでなり、それによって導電率が40%IACS以上でかつ引張強度が700MPa以上の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、加工度0.7以上4以下で伸線加工し、400℃以上600℃以下で1.5時間以上の時効処理を施し、そして加工度6未満の伸線加工を施すことを含んでなり、それによって引張強度が900MPa以上1100MPa以下かつ導電率が30%IACS以上45%IACS以下の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、加工度0以上4以下で伸線加工し、400℃以上600℃以下で1.5時間以上の時効処理を行い、そして(1)加工度が0を超えて4以下の伸線加工の後に(2)300℃以上550℃以下の範囲で1回目の時効処理温度よりも低い温度で1.5時間以上焼鈍処理を行い、ここで(1)と(2)を2回以上繰り返し、そして加工度が0以上4以下の伸線加工を行うことを含んでなり、それによって引張強度が900MPa以上1100MPa以下かつ導電率が30%IACS以上45%IACS以下の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金を荒引きして線材としたのち、溶体化処理を施し、400℃以上600℃以下で1.5時間以上の時効処理を行うことを含んでなり、それによって引張強度が700MPa以上1100MPa以下かつ導電率が20%IACS以上50%IACS以下の銅合金線材を得ることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた高強度高導電性銅合金線材の製造方法。
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