JP5916964B2 - 銅合金板材、コネクタ、および銅合金板材の製造方法 - Google Patents

銅合金板材、コネクタ、および銅合金板材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、銅合金板材、それを用いたコネクタ、およびその銅合金板材の製造方法に関し、特に、曲げ加工性と耐摩耗性に優れて、車載部品用や電気・電子機器用のリードフレーム、コネクタ、端子材、リレー、スイッチ、ソケットなどに適用される銅合金板材、それを用いたコネクタ、および前記銅合金板材の製造方法に関する。
車載部品用や電気・電子機器用のリードフレーム、コネクタ、端子材、リレー、スイッチ、ソケットなどの用途に使用される銅合金板材に要求される特性項目には、導電率、耐力(降伏応力)、引張強度、曲げ加工性、耐応力緩和特性、疲労特性がある。近年、電気・電子機器の小型化、軽量化、高機能化、高密度実装化や、使用環境の高温化に伴って、この要求特性が高まっている。特に、車載部品用や電気・電子機器用部品に用いられる銅や銅合金の板材には、薄肉化の要求が高まっているため、要求される強度レベルはより高いものとなっている。
また、車載部品や電気・電子部品を構成するコネクタ、リードフレーム、リレー、スイッチなどの部品に使用される材料には、車載部品や電気・電子機器の組み立て時や作動時に付与される応力に耐えうる高い強度が要求される。これに加えて、車載部用や電気・電子部品は一般に曲げ加工により成形されることから、優れた曲げ加工性が求められる。
銅合金板材の強化法として材料中に微細な第二相を析出させる析出強化がある。この強化方法は強度が高くなることに加えて、導電率を同時に向上させるメリットがあるため、多くの合金系で行われている。しかし、昨今の電子機器や自動車に使用される部品の小型化に伴って、使用される銅合金は、より高強度な材料をより小さい半径で曲げ加工が施される様になっており、曲げ加工性に優れた銅合金板材が強く要求されている。さらに、曲げ加工を行った際に、材料の表面近傍における凹凸が大きくなり、加工条件を厳しくしていくと、凹の箇所を起点にクラックが発生してしまう。板厚方向へのクラックの発達により、局所的に断面積が小さくなり、電気接点として使用した際に電気抵抗値が上昇し、材料が発熱してしまう。また、この凹凸によって接点部の摩耗が進行してしまう。そのため、前記各要求特性を満足することと併せて、耐摩耗性を向上させることが求められていた。
これらの車載部品や電気・電子機器用の銅合金板材において、その要求特性を、表層部分の金属組織(粗さなど)、集合組織を制御することで達成しようとする提案がいくつかなされている。例えば、特許文献1では、Cu−Ni−Si系合金の板材表面の最大谷深さRvを制御することで、板材の疲労寿命を改善させている。また、特許文献2では、Cu−Ni−Si系合金の板厚方向にて、表面から板厚の1/6tの深さまでのせん断帯の本数とそれ以外の部分のせん断帯の本数の比を制御することで曲げ加工性や曲げ部の外観を改善している。特許文献3では、Cu−Ni−Si系合金のCube方位を有する結晶粒の面積率と個数(分散密度)を制御することで、曲げ加工性を改善している。
特許文献1に記載された発明においては、板材表面の圧縮残留応力を20〜200MPaとし、表面の最大谷深さRzを1.0μm以下にすることで、疲労試験での材料の凹部を少なくし、高強度銅合金板材の疲労特性を軽減している。しかし、特許文献1では、曲げ加工性と耐摩耗性との改良については着目されておらず、記載されていない。さらに、特許文献1では、板材表面のうねりモチーフ制御に関しては着目されておらず、これと曲げ加工性や耐摩耗性との関係については何ら示唆すらされていない。
特許文献2に記載された発明においては、板厚方向で表面から板厚の1/6tの深さまでの表層とそれ以外の内部におけるせん断帯の本数の比を制御し、板材表層のせん断帯の本数を、板厚内部のせん断帯の本数以下とすることで、曲げ加工性を改善し、かつ、曲げ加工時の表層近傍の不均一変形を軽減してGW曲げ表面の肌荒れを改善している。しかし、特許文献2では、耐摩耗性の改良については着目されておらず、記載されていない。さらに、板材表面のうねりモチーフ制御に関しては着目されておらず、これと曲げ加工性や耐摩耗性との関係については何ら示唆すらされていない。
特許文献3に記載された発明においては、Cube方位結晶粒のサイズと個数を制御することで、曲げ加工性を改善している。しかし、特許文献3では、耐摩耗性の改良については着目されておらず、記載されていない。さらに、板材表面のうねりモチーフ制御に関しては着目されておらず、これと曲げ加工性や耐摩耗性との関係については何ら示唆すらされていない。さらに、Cube方位結晶粒の板厚方向の分布と曲げ加工性や耐摩耗性との関係については何ら示唆すらされていない。
特開2005−48262公報 特開2011−214087公報 WO2012/150702A1公報
コルソン系合金(Cu−Ni−Si系合金)の板材を加工し、端子の接点部などとして使用する際は、コルソン系合金の曲げ加工部の外観は、りん青銅の曲げ表面よりも劣り、表面の凹凸が大きいという特徴がある。これは、板材の曲げ試験を行った際に、板厚表層近傍は引張応力が加わり、塑性変形が生じているためである。この表層近傍の変形は、金属組織内で不均一に変形していることに起因する。そして、この不均一変形によって、凹凸が発生し、電気接点部材として使用した際に、この凹凸によって接点部の摩耗が進行してしまう。また、板材表面に対して通常の粗化(例えば、特許文献1に記載のバフ研磨など)を行うと、板材表面の凹凸において、凸の最高点と凹の最深部の横方向(加工方向または板幅方向)の長さが短くなるとともに、凸の最高点と凹の最深部の縦方向(板厚方向)の深さが浅くなり、接点部として使用した際の摩耗が進行しやすくなる。
上記のような従来技術の問題点に鑑み、本発明は、板材表面の微視的な凹凸の尺度であるうねりモチーフ平均長さ(AW)とうねりモチーフ平均深さ(W)を適正に制御することによって、曲げ加工性と耐摩耗性に優れ、電気・電子機器用のリードフレーム、コネクタ、端子材等、自動車車載用などのコネクタや端子材、リレー、スイッチ、ソケットなどに適した銅合金板材、それを用いたコネクタ、および前記銅合金板材の製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、電気・電子部品、自動車車載用部品などの用途に適した銅合金について研究を行い、Cu−Ni−Si系銅合金において、良好な曲げ加工性と耐摩耗性を奏するための曲げ表面性状について調査を進めたところ、うねりモチーフで規定される特定の表面性状の制御を行うことで、板材表面の凹凸について、凸の最高点と凹の最深部の横方向の長さが拡大するとともに、凸の最高点と凹の最深部の縦方向(板厚方向)の深さが深くなり、その結果、曲げ加工後の表面が均一変形となることによって局所的な摩耗の進行を防止し、曲げ加工性と耐摩耗性が大きく向上することがわかり、従来以上の優れた曲げ加工性と優れた耐摩耗性が得られることがわかった。また、上記の表面性状の制御に加えて、Cube方位を有する結晶粒の特定深さまでの板材表層部での集積割合にも曲げ加工性および耐摩耗性との相関があることを発見し、前記うねりモチーフで規定される特定の表面性状を制御することに加えて、板厚方向で特定深さまでの板材表層部においてCube方位を有する結晶粒の存在割合を特定の範囲に制御することで、前記改良効果がさらに良化することを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
すなわち、本発明によれば、下記に記載の手段が提供される:
(1)Niを1.00〜6.00質量%、Siを0.10〜2.00質量%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる銅合金板材であって、
板材表面のうねりモチーフ平均長さAWが5.00〜9.80μm、うねりモチーフ平均深さWが0.50〜1.10μmおよび前記銅合金板材の表面粗さRaが0.06〜0.20μmであることを特徴とする銅合金板材。
(2)Niを1.00〜6.00質量%、Siを0.10〜2.00質量%含有し、並びにBを0.100質量%以下、Mgを0.180質量%以下、Pを0.050質量%以下、Crを0.500質量%以下、Mnを0.160質量%以下、Feを0.050質量%以下、Coを0.050質量%以下、Znを0.510質量%以下、Zrを0.100質量%以下、Agを0.050質量%以下およびSnを0.500質量%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0.00〜3.000質量%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる銅合金板材であって、
板材表面のうねりモチーフ平均長さAWが5.00〜9.80μm、うねりモチーフ平均深さWが0.50〜1.10μmおよび前記銅合金板材の表面粗さRaが0.06〜0.20μmであることを特徴とする銅合金板材。
(3)前記銅合金板材の表面から板厚の1/8の位置に至るまでの表層部において、前記銅合金板材の圧延面に対してCube方位を有する結晶粒が5.0%以上の面積率を有する、(1)または(2)項に記載の銅合金板材
(4)前記銅合金板材の圧延垂直方向に荷重100gで30往復の摺動試験をした後の動摩擦係数が0.5以下である、(1)〜()のいずれか1項に記載の銅合金板材。
)前記銅合金板材の180°U曲げ試験において曲げの軸が圧延平行方向と圧延垂直方向のいずれの場合にもクラックなく曲げ加工が可能である、(1)〜()のいずれか1項に記載の銅合金板材。
)(1)〜()のいずれか1項に記載の銅合金板材からなるコネクタ。
(1)〜(5)のいずれか1項に記載の銅合金板材を製造する方法であり、前記銅合金板材を与える合金成分組成からなる銅合金素材を溶解・鋳造[工程1]した後、均質化熱処理[工程2]、熱間圧延[工程3]、水冷[工程4]、冷間圧延1[工程6]、冷間圧延2[工程7]、ローラレベラ[工程8]、中間溶体化熱処理[工程9]、時効析出熱処理[工程10]、冷間圧延3[工程12]、及び最終焼鈍[工程13]、の各工程をこの順に施す銅合金板材の製造方法であって、
前記冷間圧延1[工程6]は、合計加工率50〜90%で加工を行い、
前記冷間圧延2[工程7]は、圧延時の張力を50〜400MPaとし、圧延機のロール粗度Raを0.5μm以上とし、合計加工率30%以上で加工を行い、
前記ローラレベラ[工程8]は、ベンダ数を9個以上とし、押込み量としてのインターメッシュが0.2%以上となる加工を行うことを特徴とする銅合金板材の製造方法
(8)前記水冷[工程4]と前記冷間圧延1[工程6]との間に、面削[工程5]を施す、(7)項に記載の銅合金板材の製造方法。
)前記時効析出熱処理[工程10]と前記冷間圧延3[工程12]との間に、酸洗・研磨[工程11]を施す、(7)または(8)項に記載の銅合金板材の製造方法。
以下、図1を参照して、説明する。
ここで、板材表面の「うねりモチーフ平均長さAW」とは、板材表面の凹凸について、1つのモチーフの凸(山)の最高点(山頂)(H)からそのモチーフの凹(谷)の最深部(谷底)を経てそのモチーフのもう1つの凸(山)の最高点(山頂)(Hj+1)までの横方向の長さをうねりモチーフの長さ(AR)とし、このうねりモチーフ長さの評価長さでの算術平均値をいう。また、「うねりモチーフの平均深さW」とは、前記1つのモチーフの凸の最高点(H)からそのモチーフの凹の最深部を経てそのモチーフのもう1つの凸の最高点(Hj+1)までの間における縦方向(板厚方向)の最高点(つまりどちらかの山頂)から最低点(つまり谷底)までの距離(深さ)をうねりモチーフの深さ(W =Hj+1)とし、このうねりモチーフ深さについての評価長さでの算術平均値をいう。これらのうねりモチーフ平均長さAWとうねりモチーフの平均深さWとは、JISで規格化された表面性状の定義(JIS B 0631: 2000)に従ったモチーフパラメータである。
本発明の銅合金板材は、板材表面のうねりモチーフ平均長さAWとうねりモチーフ平均深さWを制御することによって、好ましくはこれに加えて板厚方向で特定深さまでの板材表層部のCube方位を有する結晶粒の面積率も制御することによって、曲げ加工性、耐摩耗性に優れ、電気・電子機器用のリードフレーム、コネクタ、端子材等、自動車車載用などのコネクタや端子材、リレー、スイッチ、ソケットなどに特に適した性質を有する。また、本発明の製造方法は、上記銅合金板材を安価に安定して製造する方法として好適である。
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
粗さモチーフ(A)と、うねりモチーフ(B)を示し、うねりモチーフ平均長さAWとうねりモチーフ平均深さWを説明する図である。 本発明の製造方法の1つの具体例において、ローラレベラ[工程8]におけるベンダ(図中では9個)と、押込み量(インターメッシュ)を説明するための模式図である。 比較例4で、クラックが生じた場合の板材表層部の金属組織を示す電子顕微鏡写真(倍率500倍)である。
本発明の銅合金板材の好ましい実施の態様について、詳細に説明する。なお、本発明における「板材」には、「条材」も含むものとする。
[合金組成]
まず、本発明の板材を構成する銅合金の組成を説明する。
(必須添加元素)
本発明の板材を構成する銅合金への必須添加元素NiとSiの含有量とその作用について示す。
(Ni)
Niは、後述するSiとともに含有されて、時効析出熱処理で析出したNiSi相を形成して、銅合金板材の強度の向上に寄与する元素である。Niの含有量は1.00〜6.00質量%であり、好ましくは1.20〜5.50質量%、さらに好ましくは1.50〜5.00質量%である。Niの含有量を前記範囲とすることによって、前記NiSi相を適正に形成させ、銅合金板材の機械的強度(引張強さや0.2%耐力)を高めることができる。また、導電率も高い。また、熱間圧延加工性も良好である。
(Si)
Siは、前記Niとともに含有されて、時効析出熱処理で析出したNiSi相を形成して、銅合金板材の強度の向上に寄与する。Siの含有量は0.1〜2.0質量%であり、好ましくは0.20〜1.80質量%、さらに好ましくは0.50〜1.50質量%である。Siの含有量は化学量論比でNi/Si=4.2とするのが最も導電率と強度のバランスがよい。そのためSiの含有量は、Ni/Siが2.50〜7.50の範囲となるようにするのが好ましく、より好ましくは3.00〜6.50である。Siの含有量を前記範囲とすることによって、銅合金板材の引張強さを高くすることができる。この場合、過剰なSiが銅のマトリックス中に固溶して、銅合金板材の導電率を低下させることがない。また、鋳造時の鋳造性や、熱間および冷間での圧延加工性も良好であり、鋳造割れや圧延割れが生じることもない。
(副添加元素)
次に本発明の板材を構成する銅合金における副添加元素の種類とその添加効果について説明する。本発明では副添加元素を含有させなくともよいが、含有させる場合は、好ましい副添加元素としては、B、Mg、P、Cr、Mn、Fe、Co、Zn、Zr、AgおよびSnが挙げられる。これらの元素は総量で3.000質量%以下であると導電率を低下させる弊害を生じないため好ましい。添加効果を充分に活用し、かつ導電率を低下させないためには、総量で、0.005〜3.000質量%であることが好ましく、0.010〜2.800質量%がさらに好ましく、0.030〜2.500質量%であることが特に好ましい。なおこれらの副添加元素は、総量で0.005質量%未満の場合、不可避不純物として扱う。以下に、各元素の添加効果を示す。
(Mg、Sn、Zn)
Mg、Sn、Znは、添加することで耐応力緩和特性を向上する。それぞれを添加した場合よりも併せて添加した場合に相乗効果によって更に耐応力緩和特性が向上する。また、半田脆化が著しく改善する効果がある。Mg、Sn、Znそれぞれの含有量は、好ましくは0.050〜0.750質量%、さらに好ましくは0.100〜0.750質量%である。
(Mn、Ag、B、P)
Mn、Ag、B、Pは添加すると熱間加工性を向上させるとともに、強度を向上する。Mn、Ag、B、Pそれぞれの含有量は、好ましくは0.050〜0.160質量%、さらに好ましくは0.050〜0.150質量%である。
(Cr、Zr、Fe、Co)
Cr、Zr、Fe、Coは、化合物や単体で微細に析出し、析出硬化に寄与する。また、化合物として50〜500nmの大きさで析出し、粒成長を抑制することによって結晶粒径を微細にする効果があり、曲げ加工性を良好にする。Cr、Zr、Fe、Coそれぞれの含有量は、好ましくは0.050〜0.500質量%、さらに好ましくは0.100〜0.450質量%である。
[うねりモチーフ]
本発明の銅合金板材は、その板材表面において、うねりモチーフ平均長さAWが5.00μm以上であり、かつ、うねりモチーフ平均深さWが0.50μm以上である。図1を参照して、上記で説明したように、うねりモチーフ平均長さAWは好ましくは5.50μm以上である。うねりモチーフ平均深さWは好ましくは0.55μm以上である。さらに好ましくは、うねりモチーフ平均長さAWが6.00μm以上であり、かつ、うねりモチーフ平均深さWが0.60μm以上である。これらの上限値は特に制限されるものではないが、通常、うねりモチーフ平均長さAWは10.00μm以下であり、うねりモチーフ平均深さWは1.10μm以下である。銅合金板材の表面において、うねりモチーフ平均長さAWを5.00μm以上に制御し、かつ、うねりモチーフ平均深さWを0.50μm以上に制御することで、曲げ加工性、耐摩耗性に優れた、電気・電子機器や自動車積載用部品などの用途に好適な銅合金を得ることができる。このようにうねりモチーフ平均長さAWとうねりモチーフ平均深さWの両方を適正に制御することによって、曲げ加工後の表面が均一変形できる表面性状となり、摩耗の開始点となる極微小な凹凸を除くことができ、局所的な摩耗の進行を防止して、耐摩耗性が向上すると考えられる。
[表面粗さ]
本発明の銅合金板材は、その板材表面において、表面粗さRaが0.20μm以下であることが好ましい。表面粗さRaはさらに好ましくは0.08〜0.18μmである。銅合金板材の表面において、表面粗さRaを0.20μm以下に制御することで、曲げ加工性と耐摩耗性を向上させることができる。ここで、表面粗さRaとは、JIS B 0631: 2000で規定された算術平均粗さである。
[板厚方向表層部のCube方位を有する結晶粒の面積率]
本発明の銅合金板材は、EBSD測定における結晶方位解析において、銅合金板材の表面から板厚の1/8の位置に至るまでの表層部のCube方位{0 0 1}<1 0 0>を有する結晶粒が板材の圧延面の5.0%以上の面積率を有することが好ましい。この板材表層部のCube方位を有する結晶粒の面積率は、さらに好ましくは8.0%以上である。板材表層部のCube方位を有する結晶粒の面積率の上限値は特に制限されるものではないが、通常、30.0%以下である。本発明においては、板厚をtとして、板材表面(0t)から板厚方向に1/8tの位置までの深さ領域を板材の表層部という。本書においては、この表層部を便宜的に「表層部(0t〜1/8t)」とも表す。また、「Cube方位{0 0 1}<1 0 0>を有する結晶粒」を「Cube方位結晶粒」とも略記する。
Cube方位結晶粒の板材の表面近傍での分布を、表層部(0t〜1/8t)で5.0%以上に制御することで、耐摩耗性の向上と併せて、曲げ加工性を改善することができる。これは、表層部(0t〜1/8t)でのCube方位結晶粒の面積率を5.0%以上に制御することで、曲げ加工にて発生するせん断帯の発生を抑制することができるためと考えられる。
銅合金板材の曲げ加工性を改善するために、本発明者らは曲げ加工部に発生するクラック(図3参照)の発生原因について調査した。その結果、塑性変形が局所的に発達して剪断変形帯を形成し、局所的な加工硬化によってマイクロボイドの生成と連結が起こり、成形限界に達することが原因であることを確認した。その対策として、曲げ変形において加工硬化が起きにくい結晶方位の割合を高めることが有効であることを知見した。即ち、板厚方向表層部におけるCube方位結晶粒の面積率が5%以上の場合に、良好な曲げ加工性を示すことがわかった。Cube方位結晶粒の面積率が上記下限値以上の場合は、上述した作用効果が十分に発揮される。
本書においてクラックとは、材料表面の傷であって、結晶粒1個分以上、結晶粒同士の界面が離間したものをいう。
銅合金板材を特にコネクタなどとして用いる場合、曲げ加工の方向は、板材面内における圧延平行方向と圧延垂直方向のいずれの方向でも加工される場合がある。そこで、コネクタ材などとして用いる銅合金板材について、板材面内における圧延平行方向(RDまたはLD)と圧延垂直方向(TD)の強度、曲げ加工性の異方性を低減することにより、いずれの方向でも加工の際の金型設計、コネクタのバネ力が安定するというメリットが得られる。この点で、Cube方位以外の結晶方位を有する結晶粒は、板材面内における圧延平行方向と圧延垂直方向で異なる結晶面を有している。一方、本発明に従って表層部(0t〜1/8t)で優先成長させるCube方位結晶粒は、RD、TDのいずれも(100)面を向いているため、曲げ加工性の異方性は小さくなる。
また、Cube方位結晶粒は、表面性状を制御した際にミクロな凹部の底、つまり、うねりモチーフ深さの谷に位置し、曲げ加工による表層部の板材法線方向(ND)、板材幅方向(圧延垂直方向、TD)、板材加工方向(圧延平行方向、RD)の各方向への変形を担い、曲げ加工性を向上させる。
材料の曲げ加工時にクラックが発生する原因を明らかにするために、本発明者らは、曲げ変形した後の断面の金属組織を電子顕微鏡及び電子後方散乱回折測定(以下、EBSDともいう)によって詳細に調査した。その結果、基体材料(板材)の曲げ加工において、結晶粒は均一に変形しているのではなく、特定の結晶方位の領域のみに変形が集中する、不均一な変形が進行することが観察された。そして、その不均一変形により、曲げ加工した後の基体材料表面(曲げの外側)には、数μmの深さのシワや、クラックが発生することがわかった。さらに、90°曲げ加工では歪みは板材の最表面に付与されるのに対し、180°曲げにおいては薄板材の最表面のみならず、板材最表面から板厚方向に1/8の位置までの領域で大きく歪んでおり、最表面から発達する局所変形領域に対し、最表面の結晶粒のみならず板厚方向に1/8の位置の深さまでの結晶粒が関与していることがわかった。そして、その局所変形帯はCube方位結晶粒にはあまり観察されず、Cube方位結晶粒は不均一変形を抑制する効果があることがわかった。その結果、板表面に発生する凹凸が低減され、クラックが抑制されることがわかった。一方、Brass方位などのCube方位以外の方位成分を有する結晶粒は、曲げ変形後に局所変形が伴っていることが多く、曲げ性には悪影響を及ぼすことがわかった。
[板厚方向の集合組織分布評価]
銅合金中のCube方位結晶粒の面積率について、板厚方向での分布を調査するため、研磨量を変更して測定を行った。板厚方向から表層部(0t〜1/8t)の組織を観察するためには、試験片の裏面をマスキングし、表面だけ電解研磨を行う。この際、試験片表面が鏡面仕上げになっている点、研磨量が最小限である点に注意しながら研磨を行う。実際には、ここでの電解研磨による研磨量の微調整により、0t〜1/8tの組織を把握することが出来るようになり、EBSD解析にて詳細な解析が可能となることがわかった。準備した試験片の測定は、EBSDによる方位解析にて300μm×300μmの範囲を0.1μmステップでスキャンし、Cube方位結晶粒の面積率を測定した。
[EBSD法]
本発明における上記結晶方位の解析には、EBSD法を用いる。EBSD法とは、Electron BackScatter Diffractionの略で、走査電子顕微鏡(SEM)内で試料に電子線を照射したときに生じる反射電子菊池線回折を利用した結晶方位解析技術のことである。結晶粒を200個以上含む、300μm×300μmの試料面積に対し、0.1μmステップでスキャンし、各結晶粒の結晶方位を解析する。測定面積およびスキャンステップは試料の結晶粒の大きさから300×300μmと0.1μmとする。各方位の面積率は、Cube方位{0 0 1}<1 0 0>の理想方位から±10°以内の範囲にその結晶粒の法線を有する結晶粒の面積を求め、得られた面積の全測定面積に対する割合として求めることができる。EBSDによる方位解析において得られる情報は、電子線が試料に侵入する数10nmの深さまでの方位情報を含んでいるが、測定している広さに対して充分に小さいため、本明細書中では面積率として記載した。また、方位分布は板厚方向に変化しているため、EBSDによる方位解析は板厚方向に何点かを任意にとって平均を取ることが好ましい。
[Cube方位以外の方位]
また、上記範囲のCube方位の他に、板厚方向表層部には、S方位{3 2 1}<3 4 6>、Copper方位{1 2 1}<1 −1 1>、Brass方位{1
1 0}<1 −1 2>、Goss方位{1 1 0}<0 0 1>、R1方位{2 3 6}<3 8 5>、RDW方位{1 0 2}<0 −1 0>などを有する結晶粒も存在する。本発明においては、観測面(板材の圧延面)に対して、板厚方向表層部におけるCube方位結晶粒の面積率が上記の範囲にあれば、これらのCube方位以外の方位を有する結晶粒を含んでいることは許容される。
[銅合金板材の製造方法]
次に、本発明の銅合金板材の製造方法と好ましい製造条件について説明する。
まず、従来の析出型銅合金の製造方法を説明する。従来の析出型銅合金の製造方法は、銅合金素材を溶解・鋳造[工程1]して鋳塊を得て、これを均質化熱処理[工程2]し、熱間圧延[工程3]、水冷[工程4]、面削[工程5]、冷間圧延[工程6’]をこの順に行い薄板化し、700〜1000℃の温度範囲で中間溶体化熱処理[工程9]を行って溶質原子を再固溶させた後に、時効析出熱処理[工程10]と仕上げ冷間圧延[工程12]によって必要な強度を満足させるものである。また、仕上げ冷間圧延[工程12]後に歪取りのための最終焼鈍[工程13]を行うこともある。さらに、時効析出熱処理[工程10]と仕上げ冷間圧延[工程12]の間に、酸化膜除去工程(酸洗・研磨[工程11])が入ることもある。この一連の工程の中で、材料の集合組織は、中間溶体化熱処理中に起きる再結晶によっておおよそが決定し、仕上げ冷間圧延中に起きる方位の回転により、最終的に決定される。また、板材表面の凹凸(表面粗さ)は、酸化膜除去の工程と仕上げ冷間圧延にて決定される。
これに対して、本発明においては、従来採用されていなかった製造工程を経て、うねりモチーフを制御した銅合金板材を製造する。
具体的には、溶解・鋳造[工程1]、均質化熱処理[工程2]、熱間圧延[工程3]後に、水冷[工程4]、面削[工程5](面削は任意に行う)するところまでは同一であるが、この後、中間溶体化熱処理[工程9]の前に行う加工工程が異なる。すなわち、本発明においては、前記水冷[工程4]、面削[工程5](面削は任意に行う)の後で、冷間圧延1[工程6]により合計圧延率50〜90%で圧延し、次の冷間圧延2[工程7]により圧延時の張力を50〜400MPa、圧延機のロール粗度Raを0.5μm以上として、合計圧延率30%以上で圧延し、さらに、ベンダ数を9個以上とし、押込み量(インターメッシュ)が0.2%以上となるようにローラレベラ[工程8]を施すことによって、板材表層部に適度なひずみを加える。この加工工程を経ることによって、中間溶体化熱処理[工程9]の再結晶集合組織において表層部(0t〜1/8t)でのCube方位結晶粒の面積率が増加する。また、中間溶体化熱処理[工程9]後には、時効析出熱処理[工程10]、酸洗・研磨[工程11](酸洗・研磨は任意に行う)、冷間圧延3[工程12](仕上げ冷間圧延)、及び、最終焼鈍[工程13](調質焼鈍、歪取り焼鈍)を施す。なお、冷間圧延1[工程6]と冷間圧延2[工程7]は連続して行うことができる。また、冷間圧延1[工程6]と冷間圧延2[工程7]は、それぞれを複数の圧延パスで行ってもよく、その場合、全圧延パスでの圧延率の合計が前記合計圧延率となるようにする。
ここで、圧下率(または圧延率、加工率)とは圧延加工を行った時の厚さの変化率であり、圧延前の板厚をt、圧延後の板厚をtとした時、圧下率(%)は下記の式で表される。
圧下率R(%) R={1−(t/t)}×100
以下に、各工程の好ましい条件をより詳細に説明する。
まず、少なくともNiを1.0〜6.0質量%およびSiを0.1〜2.0質量%含有し、他の副添加元素については必要により適宜含有するように元素を配合し、残部がCuと不可避不純物から成る銅合金素材を高周波溶解炉などにより溶解し、これを0.1〜100℃/秒の冷却速度で鋳造[工程1]して鋳塊を得る。この鋳塊を800〜1020℃で3分〜10時間の均質化熱処理[工程2]後、熱間加工[工程3]を行った後に水焼入れ(水冷[工程4]に相当)を行い、必要により酸化スケール除去のために面削[工程5]を行う。
その後に、合計加工率50〜90%の冷間圧延1[工程6]を施し、次に、圧延時の張力を50〜400MPa、圧延機のロール粗度Raを0.5μm以上とし、合計加工率50%以上の冷間圧延2[工程7]を行う。さらに、ローラレベラ[工程8]にて、ベンダ数を9個以上として、押込み量(インターメッシュ)が0.2%以上となるよう加工を加える。
この冷間圧延1[工程6]においては、板材表面における凹凸を制御しつつ、併せて、板材全体に再結晶に必要な加工ひずみを加える。一方、冷間圧延2[工程7]においては、特に圧延ロールの粗度を調整することによって、表層部に優先して圧縮ひずみを加える。次のローラレベラ[工程8]においては、表層に優先して圧縮ひずみを与えて、溶体化熱処理時にCube方位を発達させるとともに、さらに、ローラレベラで加工中にうねりモチーフ平均長さとうねりモチーフ平均深さを制御する。また、ローラレベラ[工程8]においては、圧延集合組織が形成されることにより、ひずみ誘起粒界移動にて、後の中間溶体化熱処理[工程9]にてCube方位が粒成長する駆動エネルギーが与えられる。
この後、中間溶体化熱処理[工程9]にて600〜1000℃で5秒〜1時間の熱処理を行い、時効析出熱処理[工程10]で300〜700℃で5分〜10時間の熱処理を行い、次いで、必要により酸洗・研磨工程[工程11]にて酸化膜の除去を行う。この酸洗は、特に制限されるものではないが、希酸で浸漬時間が通常5〜100秒間、好ましくは、10〜30秒間洗浄して行う。希酸としては、例えば濃度20%以下の希硫酸、希塩酸又は希硝酸(例えば、硫酸+過酸化水素)などを挙げることができ、これらの希酸は濃度10%以下で使用することが好ましい。研磨は、板材表面に残存した酸化膜を除去するために、必要に応じてバフ研磨を施す。次に、加工率が3〜25%の仕上げ冷間圧延[工程12]、100〜600℃で5秒〜10時間の調質焼鈍[工程13]を行って、本発明の銅合金板材を得る。
ここで、途中のまたは最終の板材製品の表面粗度は圧延ロール粗度でも影響を受ける。圧延ロールの粗度が材料に転写され、大きいロールほど圧延材の粗度は大きい傾向がある。しかし、ロールの粗度を小さくしてしまうと、先進率がマイナスになり、スリップした状態での圧延加工になってしまうために、表面欠陥が発生する場合があり、または、板逃げ等の圧延作業性に悪影響を及ぼす現象が起こる場合もある。なお、最終の圧延で制御できる粗度にも限界があり、同じロール粗度の圧延ロールで圧延された場合、最終圧延前に提供される材料粗度が小さい程、または圧下量(加工率)が大きい程、最終圧延製品の粗度は小さくなる。
本発明の好ましい1つの実施形態においては、熱間圧延[工程3]では、再熱温度から700℃までの温度域で、鋳造組織や偏析を破壊し均一な組織にするための加工と、動的再結晶による結晶粒の微細化のための加工を行う。その後、水冷[工程4]、必要により面削[工程5]する。次いで、冷間圧延1[工程6]にて加工率50〜90%、好ましくは70〜90%、さらに好ましくは80〜90%で所定の板厚まで圧延した後、冷間圧延2[工程7]にて張力を50〜400MPa、好ましくは100〜400MPa、さらに好ましくは200〜400MPa、ロール粗度Raを0.5μm以上、好ましくは0.55μm以上1.5μm以下とし、板材表面の凹凸を制御と、板材全体にひずみを与える。さらに、ローラレベラ[工程8]にて、ベンダ数を9個以上、好ましくは10個以上20個以下として、板材の押込み量(インターメッシュ)が0.2%以上、好ましくは0.2〜2.0%、さらに好ましくは0.5〜1.5%となるよう加工を加える。これにより、中間溶体化熱処理[工程9]での再結晶集合組織において、表層部(0t〜1/8t)でのCube方位結晶粒が増加する。ここで、冷間圧延1[工程6]の合計加工率が低すぎると、板材全体の加工ひずみが不十分であり、中間溶体化熱処理[工程9]での再結晶が不十分となる。冷間圧延2[工程7]では、合計加工率と、圧延中の板材に対する張力、圧延ロールの粗度を調整することで、表層部(0t〜1/8t)のせん断ひずみを抑制し、圧縮ひずみを導入する。これが、再結晶溶体化熱処理[工程9]でのCube方位の成長にとって重要な加工となる。さらに、ローラレベラ[工程8]にて、板材表層部への圧縮ひずみを蓄積させることで、Cube方位成長に必要な圧延集合組織を形成させるとともに、ローラレベラのベンダ数と押込み量(インターメッシュ)を制御することで、板材表面におけるうねりモチーフ平均長さAWとうねりモチーフ平均深さWを制御することができる。中間溶体化熱処理[工程9]後には、時効析出熱処理[工程10]、必要により酸洗・研磨[工程11]を行う。その後、冷間圧延3[工程12]、最終焼鈍[工程13]を施す。
ここで、押込み量(インターメッシュ)を、図2を参照して説明する。ローラレベラ1は、複数のベンダ2(図では上ロール4個と下ロール5個の合計9個)からなり、製造途中でローラレベラ処理が施される銅合金板材3を圧延方向(RD)でベンダ間を通板する。押込み量(インターメッシュ)とは、ローラレベラの上ロールと下ロール間の間隔の傾斜である。ローラレベラは、入り側で押込み量が最大になり(図中のH)、出側にかけて押込み量が小さくなっていく。つまりローラレベラの上ロールと下ロールの間隔は、出側にかけて広くなっていく。この入り側の最大押込み量と、上ロールの入り側−出側間距離(図中のL)とからなる傾きを、押込み量(インターメッシュ)とする。Hを入り側最大押込み量とし、Lを上ロールの入り側−出側間距離とすると、押込み量(インターメッシュ)hは、下記の式で表される。
押込み量(インターメッシュ)h(%) h=(H/L)×100
[板材の厚さ]
本発明の銅合金板材の厚さには、特に制限はないが、好ましくは0.04〜0.50mm、さらに好ましくは0.05〜0.45mmである。
[銅合金板材の特性]
本発明の銅合金板材は、例えばコネクタ用銅合金板材に要求される特性を満足することができる。本発明の銅合金板材は下記の特性を有することが好ましい。
・板材の動摩擦係数は0.5以下であることが好ましい。下限値には特に制限はないが、通常0.1以上とする。
・0.2%耐力が700MPa以上であることが好ましい。更に好ましくは750MPa以上である。上限値には特に制限はないが、通常1200MPa以下とする。
・曲げ加工性がR/t=1.0となる180°U曲げ試験において、曲げの軸が圧延平行方向(BW曲げ)と圧延垂直方向(GW曲げ)のいずれの場合にも、曲げ加工後の表面にクラックが発生しないことが好ましい。
・導電率が25%IACS以上であることが好ましい。上限値には特に制限はないが、通常60%IACS以下とする。
なお、各特性の詳細な測定条件は特に断らない限り実施例に記載のとおりとする。
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
(実施例1〜17、比較例1〜18)
実施例1〜17については表1−1に示す組成となるように、比較例1〜18については表1−2に示す組成となるように、それぞれNi、Si、及び必要な副添加元素を含有し、残部がCuと不可避不純物からなる銅合金素材を高周波溶解炉により溶解し、これを0.1〜100℃/秒の冷却速度で鋳造[工程1]して鋳塊を得た。
実施例1〜17については、表2−1に示した製造条件で板材を製造した。すなわち、前記得られた鋳塊を800〜1020℃で3分〜10時間の均質化熱処理[工程2]後、1020〜700℃で熱間加工[工程3]を行った。その後、水焼入れ(水冷[工程4]に相当)し、酸化スケール除去のために面削[工程5]を行った。その後、合計加工率50〜90%の冷間圧延1[工程6]、次に、合計加工率30%以上で、ロール粗度Raが0.5μm以上、張力を50〜400MPaにて加工する冷間圧延2[工程7]を行った。その後、ローラレベラ[工程8]にて、ベンダ数9個以上で、板材の押込み量(インターメッシュ)が0.2%以上となるよう、加工を加えた。その後、600〜1000℃で5秒〜1時間の中間溶体化処理[工程9]を実施した。その後、300〜700℃で5分〜1時間の時効析出熱処理[工程10]を行い、次に、酸洗・研磨[工程11]を行った。この酸洗は、希酸として濃度0.1〜5.0%の硫酸+過酸化水素を用いて、浸漬時間を5〜100秒間として板材を洗浄した。研磨は、板材表面に残存した酸化膜を除去するためにバフ研磨を施した。その後、3〜25%の圧延率で仕上げ冷間圧延[工程12]、次に、100〜600℃で5秒〜10時間の調質焼鈍[工程13]を行って、銅合金板材の供試材とした。ここで、供試材の最終板厚は0.1mmとした。また、各熱処理や圧延の後に、材料表面の酸化や粗度の状態に応じて酸洗浄や表面研磨を、形状に応じてテンションレベラによる矯正を行った。各実施例での製造条件を表2−1に、得られた供試材の特性を表2−2に、それぞれ示す。
一方、各比較例については、前記の製造条件を表2−3に示したように変更した以外は各実施例と同様にして、供試材を製造した。各比較例の特性を表2−4に示す。
これらの供試材について下記の特性調査を行った。
a.うねりモチーフ平均長さ[AW]とうねりモチーフ平均深さ[W]
板材表面のうねりモチーフ平均長さとうねりモチーフ平均深さは、JIS B 0631: 2000で規定する方法に従って測定した表面粗度測定結果より算出した。
b.表面粗さ
表面粗さRaは、小坂研究所株式会社製表面粗さ計(商品名:サーフコーダSE3500)、触針先端半径2μm、測定力0.75N以下の条件を用いて測定した。表面粗さRaは、0.2μm以下である場合を良好と判断し、0.2μmを超える場合を不良と判断した。
c.表層部(0t〜1/8t)でのCube方位結晶粒の面積率
EBSD法により、測定面積300μm×300μm、スキャンステップ0.1μmの条件で結晶方位の測定を行った。解析では、300μm×300μmのEBSD測定結果を、25ブロックに分割し、各ブロックの表層部(0t〜1/8t)でのCube方位を有する結晶粒の面積率を以下のとおり確認した。電子線は走査電子顕微鏡のWフィラメントからの熱電子を発生源とした。
さらに、EBSD測定前の研磨では、表層部(0t〜1/8t)の組織観察を行うため、電解研磨にて目的部組織を露出させた。この研磨して露出させた部分として、0t、1/10t、1/8tの3か所についてEBSDにて観察した。全3か所において、Cube方位結晶粒の測定視野に対する占有率(すなわち面積率)をそれぞれ求めた。そしてこの3か所の面積率の平均値を求め、これを表中に「表層部でのCube方位結晶粒の面積率(%)」として示した。この値が5.0%以上である場合を良好、5.0%未満である場合を不良と判断した。
d.180°U曲げ試験における曲げ加工性
圧延方向に垂直に幅0.25mm、長さ1.50mmとなるようにプレスによる打ち抜きでBW供試材、圧延方向に平行に幅0.25mm、長さ1.50mmとなるようにプレスによる打ち抜きでGW供試材を切り出した。これに曲げの軸が圧延方向に直角になるようにW曲げしたものをGW(Good Way)、圧延方向に平行になるようにW曲げしたものをBW(Bad Way)とし、90°W曲げ加工後、圧縮試験機にて180°U曲げ加工を行った。曲げ加工された表面を100倍の走査電子顕微鏡で観察し、クラックの有無を調査した。GW曲げとBW曲げのいずれにおいてもクラックが発生しなかった場合を良好と判断して表中に「A」と示し、GW曲げとBW曲げの少なくともいずれかにおいてクラックが発生した場合を不良と判断して表中に「B」と示した。
e.耐摩耗性(動摩擦係数の測定)
耐摩耗性の尺度として、動摩擦係数を測定し、評価した。日本伸銅協会のJCBA T311;2001(銅および銅合金板の動摩擦係数測定方法)に準拠し、板材の圧延垂直方向に、プローブの荷重100g、摺動距離10mm、30往復にて摺動試験を行った。30往復後の動摩擦係数を測定した。板材の動摩擦係数が0.5以下である場合を良好、0.5を超える場合を不良と判断する。
f.0.2%耐力[YS]
たわみ係数測定において、各試験片の弾性限界までの押し込み量(変位)から0.2%耐力(MPa)を算出し、強度の尺度とした。E:たわみ係数、t:板厚、L:固定端と荷重点の距離、f:変位(押込み深さ)とすると、0.2%耐力は次の式で表される。
0.2%耐力(MPa) YS={(3E/2)×t×(f/L)×1000}/L
板材の0.2%耐力が700MPa以上である場合を良好、700MPa未満の場合を不良と判断する。
g.導電率[EC]
20℃(±0.5℃)に保たれた恒温槽中で四端子法により比抵抗を計測して導電率を算出した。なお、端子間距離は100mmとした。板材の導電率が25%IACS以上である場合を良好、25%IACS未満の場合を不良と判断する。
表2−2に示した結果から明らかなとおり、本発明で規定する合金組成(表1−1)で、本発明で規定する製造方法(表2−1)にて得た各実施例の銅合金板材は、所定のうねりモチーフ平均長さAWと所定のうねりモチーフ平均深さWを満たし、高強度で高導電率を有するとともに、曲げ加工性と耐摩耗性(動摩擦係数)が良好であった。さらに、板材の表面粗度Ra、表層部(0t〜1/8t)でのCube結晶粒の面積率も好ましい値を示した。従って、本発明の銅合金板材は、電気・電子機器用のリードフレーム、コネクタ、端子材等、自動車車載端子などのコネクタや端子材、リレー、スイッチなどに適した銅合金板材である。
これに対して、表2−4に示した結果から明らかなとおり、各比較例の試料では、いずれかの特性が劣った結果となった。
比較例12〜18は、合金組成が本発明の規定の範囲外であったために、強度(0.2%耐力)か導電率の一方が劣っていた。比較例1〜11は、少なくとも1つの製造条件が本発明の規定の範囲外であったために、所定のうねりモチーフ平均長さAWと所定のうねりモチーフ平均深さWをどちらも満たしておらず、曲げ加工性と耐摩耗性の一方または両方が劣っていた。また、表2−4には示さないが、Cube結晶粒が方位集積しない場合でも本発明の前記効果が見込まれる。
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
本願は、2014年3月25日に日本国で特許出願された特願2014−062760に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
1 ローラレベラ
2 ベンダ
3 銅合金板材(製造途中のもの)
H 入り側最大押込み量
L 上ロールの入り側−出側間距離
RD 板材の圧延平行方向

Claims (9)

  1. Niを1.00〜6.00質量%、Siを0.10〜2.00質量%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる銅合金板材であって、
    板材表面のうねりモチーフ平均長さAWが5.00〜9.80μm、うねりモチーフ平均深さWが0.50〜1.10μmおよび前記銅合金板材の表面粗さRaが0.06〜0.20μmであることを特徴とする銅合金板材。
  2. Niを1.00〜6.00質量%、Siを0.10〜2.00質量%含有し、並びにBを0.100質量%以下、Mgを0.180質量%以下、Pを0.050質量%以下、Crを0.500質量%以下、Mnを0.160質量%以下、Feを0.050質量%以下、Coを0.050質量%以下、Znを0.510質量%以下、Zrを0.100質量%以下、Agを0.050質量%以下およびSnを0.500質量%以下からなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0.00〜3.000質量%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる銅合金板材であって、
    板材表面のうねりモチーフ平均長さAWが5.00〜9.80μm、うねりモチーフ平均深さWが0.50〜1.10μmおよび前記銅合金板材の表面粗さRaが0.06〜0.20μmであることを特徴とする銅合金板材。
  3. 前記銅合金板材の表面から板厚の1/8の位置に至るまでの表層部において、前記銅合金板材の圧延面に対してCube方位を有する結晶粒が5.0%以上の面積率を有する、請求項1または2に記載の銅合金板材。
  4. 前記銅合金板材の圧延垂直方向に荷重100gで30往復の摺動試験をした後の動摩擦係数が0.5以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の銅合金板材。
  5. 前記銅合金板材の180°U曲げ試験において曲げの軸が圧延平行方向と圧延垂直方向のいずれの場合にもクラックなく曲げ加工が可能である、請求項1〜のいずれか1項に記載の銅合金板材。
  6. 請求項1〜のいずれか1項に記載の銅合金板材からなるコネクタ。
  7. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の銅合金板材を製造する方法であり、前記銅合金板材を与える合金成分組成からなる銅合金素材を溶解・鋳造[工程1]した後、均質化熱処理[工程2]、熱間圧延[工程3]、水冷[工程4]、冷間圧延1[工程6]、冷間圧延2[工程7]、ローラレベラ[工程8]、中間溶体化熱処理[工程9]、時効析出熱処理[工程10]、冷間圧延3[工程12]、及び最終焼鈍[工程13]、の各工程をこの順に施す銅合金板材の製造方法であって、
    前記冷間圧延1[工程6]は、合計加工率50〜90%で加工を行い、
    前記冷間圧延2[工程7]は、圧延時の張力を50〜400MPaとし、圧延機のロール粗度Raを0.5μm以上とし、合計加工率30%以上で加工を行い、
    前記ローラレベラ[工程8]は、ベンダ数を9個以上とし、押込み量としてのインターメッシュが0.2%以上となる加工を行うことを特徴とする銅合金板材の製造方法。
  8. 前記水冷[工程4]と前記冷間圧延1[工程6]との間に、面削[工程5]を施す、請求項に記載の銅合金板材の製造方法。
  9. 前記時効析出熱処理[工程10]と前記冷間圧延3[工程12]との間に、酸洗・研磨[工程11]を施す、請求項7または8に記載の銅合金板材の製造方法。
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