JP2012229467A - 電子材料用Cu−Ni−Si系銅合金 - Google Patents
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Abstract
【課題】ばね限界値を向上させたCu−Ni−Si系銅合金を提供する。
【解決手段】Ni:1.0〜4.0質量%、Si:0.2〜1.0質量%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる電子材料用銅合金であって、1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度が1.0×1012〜1.0×1015個/mm3である銅合金。
【選択図】なし
【解決手段】Ni:1.0〜4.0質量%、Si:0.2〜1.0質量%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる電子材料用銅合金であって、1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度が1.0×1012〜1.0×1015個/mm3である銅合金。
【選択図】なし
Description
本発明は析出硬化型銅合金に関し、とりわけ各種電子部品に用いるのに好適なCu−Ni−Si系銅合金に関する。
コネクタ、スイッチ、リレー、ピン、端子、リードフレーム等の各種電子部品に使用される電子材料用銅合金には、基本特性として高強度及び高導電性(又は熱伝導性)を両立させることが要求される。近年、電子部品の高集積化及び小型化・薄肉化が急速に進み、これに対応して電子機器部品に使用される銅合金に対する要求レベルはますます高度化している。
高強度及び高導電性の観点から、電子材料用銅合金として従来のりん青銅、黄銅等に代表される固溶強化型銅合金に替わり、析出硬化型の銅合金の使用量が増加している。析出硬化型銅合金では、溶体化処理された過飽和固溶体を時効処理することにより、微細な析出物が均一に分散して、合金の強度が高くなると同時に、銅中の固溶元素量が減少し電気伝導性が向上する。このため、強度、ばね性などの機械的性質に優れ、しかも電気伝導性、熱伝導性が良好な材料が得られる。
析出硬化型銅合金のうち、コルソン系合金と一般に呼ばれるCu−Ni−Si系銅合金は比較的高い導電性、強度、及び曲げ加工性を兼備する代表的な銅合金であり、業界において現在活発に開発が行われている合金の一つである。この銅合金では、銅マトリックス中に微細なNi−Si系金属間化合物粒子を析出させることによって強度と導電率の向上が図られる。
特表2005−532477号公報(特許文献1)には、Cu−Ni−Si−Co系合金の製造工程における各焼鈍を段階的焼鈍プロセスとすることができ、典型的には、段階的焼鈍において、第一工程は、第二工程よりも高い温度であり、段階的焼鈍は、一定温度での焼鈍に比べて、強度と導電性のより良好な組合せをもたらしうることが記載されている。
特開2006−283059号公報(特許文献2)には、耐力が700N/mm2以上、導電率が35%IACS以上、かつ曲げ加工性にも優れたコルソン(Cu−Ni−Si系)銅合金板を得ることを目的として、銅合金鋳塊に対し、必要に応じて熱間圧延し急冷した後、冷間圧延を行い、連続焼鈍を行って溶体化再結晶組織を得た後、加工率20%以下の冷間圧延及び400〜600℃×1〜8時間の時効処理を行い、続いて加工率1〜20%の最終冷間圧延後、400〜550℃×30秒以下の短時間焼鈍を行う高強度銅合金板の製造方法が記載されている。
また、コルソン(Cu−Ni−Si系)銅合金板については強度、導電性、及びばね限界値を向上させるため種々の取り組みが行われている(特許文献3〜特許文献6)。
このように、従来、強度、導電性及びばね限界値を改善するための努力が払われてきたが、未だ改善の余地は残されている。そこで、本発明は強度、導電性及びばね限界値のバランスを向上させたCu−Ni−Si系銅合金を提供することを課題の一つとする。
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねたところ、1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度を所定の範囲に制御することが有効であることを見出した。更に、1〜5nmの粒径の第二相粒子の析出物の個数密度と5nmを越え20nm以下の粒径の第二相粒子の個数密度との比を制御することで、強度とばね限界値のバランスに優れるという効果が得られることを見出した。
上記の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、Ni:1.0〜4.0質量%、Si:0.2〜1.0質量%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる電子材料用銅合金であって、1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度が1.0×1012〜1.0×1015個/mm3である銅合金である。
本発明に係る銅合金は一実施形態において、1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度の、5nmを越え20nm以下の粒径の第二相粒子の個数密度に対する比が0.5以上100以下である。
本発明に係る銅合金は更に別の一実施形態において、Siの質量濃度に対するNiの質量濃度の比Ni/Siが3.5≦Ni/Si≦5.5を満たす。
本発明に係る銅合金は更に別の一実施形態において、更にCr、Mg、P、As、Sb、Be、B、Mn、Sn、Ti、Zr、Al、Fe、Zn及びAgの群から選ばれる少なくとも1種を総計で最大2.0質量%含有する。
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る銅合金からなる伸銅品である。
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る銅合金を備えた電子部品である。
本発明によって、強度、導電性、ばね限界値が共に優れた電子材料用のCu−Ni−Si系銅合金が提供される。
Ni及びSiの添加量
Ni及びSiは、適当な熱処理を施すことにより金属間化合物を形成し、導電率を劣化させずに高強度化が図れる。
Ni及びSiの添加量がそれぞれNi:1.0質量%未満、Si:0.2質量%未満では所望の強度が得られず、逆に、Ni:4.0質量%超、Si:1.0質量%超では高強度化は図れるが導電率が著しく低下し、更には熱間加工性が劣化する。よってNi及びSiの添加量はNi:1.0〜4.0質量%、Si:0.2〜1.0質量%とした。Ni及びSiの添加量は好ましくは、Ni:1.5〜3.0質量%、Si:0.3〜0.8質量%である。
Ni及びSiは、適当な熱処理を施すことにより金属間化合物を形成し、導電率を劣化させずに高強度化が図れる。
Ni及びSiの添加量がそれぞれNi:1.0質量%未満、Si:0.2質量%未満では所望の強度が得られず、逆に、Ni:4.0質量%超、Si:1.0質量%超では高強度化は図れるが導電率が著しく低下し、更には熱間加工性が劣化する。よってNi及びSiの添加量はNi:1.0〜4.0質量%、Si:0.2〜1.0質量%とした。Ni及びSiの添加量は好ましくは、Ni:1.5〜3.0質量%、Si:0.3〜0.8質量%である。
また、Siの質量濃度に対してNiの質量濃度の比Ni/Siが低すぎる、すなわち、Niに対してSiの比率が高過ぎると、固溶Siにより導電率が低下したり、焼鈍工程において材料表層にSiO2の酸化皮膜を形成して半田付け性が劣化したりする。一方、Siに対するNiの割合が高すぎると、シリサイド形成に必要なSiが不足して高い強度が得られにくい。
そのため、合金組成中のNi/Si比は3.5≦Ni/Si≦5.5の範囲に制御することが好ましく、4.0≦Ni/Si≦5.0の範囲に制御することがより好ましい。
そのため、合金組成中のNi/Si比は3.5≦Ni/Si≦5.5の範囲に制御することが好ましく、4.0≦Ni/Si≦5.0の範囲に制御することがより好ましい。
Crの添加量
Crは溶解鋳造時の冷却過程において結晶粒界に優先析出するため粒界を強化でき、熱間加工時の割れが発生しにくくなり、歩留低下を抑制できる。すなわち、溶解鋳造時に粒界析出したCrは溶体化処理などで再固溶するが、続く時効析出時にCrを主成分としたbcc構造の析出粒子またはSiとの化合物を生成する。通常のCu−Ni−Si系合金では添加したSi量のうち、時効析出に寄与しなかったSiは母相に固溶したまま導電率の上昇を抑制するが、珪化物形成元素であるCrを添加して、珪化物をさらに析出させることにより、固溶Si量を低減でき、強度を損なわずに導電率を上昇できる。しかしながら、Cr濃度が0.5質量%、とりわけ2.0質量%を超えると粗大な第二相粒子を形成しやすくなるため、製品特性を損なう。従って、本発明に係るCu−Ni−Si系合金には、Crを最大で2.0質量%添加することができる。但し、0.03質量%未満ではその効果が小さいので、好ましくは0.03〜0.5質量%、より好ましくは0.09〜0.3質量%添加するのがよい。
Crは溶解鋳造時の冷却過程において結晶粒界に優先析出するため粒界を強化でき、熱間加工時の割れが発生しにくくなり、歩留低下を抑制できる。すなわち、溶解鋳造時に粒界析出したCrは溶体化処理などで再固溶するが、続く時効析出時にCrを主成分としたbcc構造の析出粒子またはSiとの化合物を生成する。通常のCu−Ni−Si系合金では添加したSi量のうち、時効析出に寄与しなかったSiは母相に固溶したまま導電率の上昇を抑制するが、珪化物形成元素であるCrを添加して、珪化物をさらに析出させることにより、固溶Si量を低減でき、強度を損なわずに導電率を上昇できる。しかしながら、Cr濃度が0.5質量%、とりわけ2.0質量%を超えると粗大な第二相粒子を形成しやすくなるため、製品特性を損なう。従って、本発明に係るCu−Ni−Si系合金には、Crを最大で2.0質量%添加することができる。但し、0.03質量%未満ではその効果が小さいので、好ましくは0.03〜0.5質量%、より好ましくは0.09〜0.3質量%添加するのがよい。
Mg、Mn、Ag及びPの添加量
Mg、Mn、Ag及びPは、微量の添加で、導電率を損なわずに強度、応力緩和特性等の製品特性を改善する。添加の効果は主に母相への固溶により発揮されるが、第二相粒子に含有されることで一層の効果を発揮させることもできる。しかしながら、Mg、Mn、Ag及びPの濃度の総計が0.5質量%、とりわけ2.0質量%を超えると特性改善効果が飽和するうえ、製造性を損なう。従って、本発明に係るCu−Ni−Si系合金には、Mg、Mn、Ag及びPから選択される1種又は2種以上を総計で最大2.0質量%、好ましくは最大1.5質量%添加することができる。但し、0.01質量%未満ではその効果が小さいので、好ましくは総計で0.01〜1.0質量%、より好ましくは総計で0.04〜0.5質量%添加するのがよい。
Mg、Mn、Ag及びPは、微量の添加で、導電率を損なわずに強度、応力緩和特性等の製品特性を改善する。添加の効果は主に母相への固溶により発揮されるが、第二相粒子に含有されることで一層の効果を発揮させることもできる。しかしながら、Mg、Mn、Ag及びPの濃度の総計が0.5質量%、とりわけ2.0質量%を超えると特性改善効果が飽和するうえ、製造性を損なう。従って、本発明に係るCu−Ni−Si系合金には、Mg、Mn、Ag及びPから選択される1種又は2種以上を総計で最大2.0質量%、好ましくは最大1.5質量%添加することができる。但し、0.01質量%未満ではその効果が小さいので、好ましくは総計で0.01〜1.0質量%、より好ましくは総計で0.04〜0.5質量%添加するのがよい。
Sn及びZnの添加量
Sn及びZnにおいても、微量の添加で、導電率を損なわずに強度、応力緩和特性、めっき性等の製品特性を改善する。添加の効果は主に母相への固溶により発揮される。しかしながら、Sn及びZnの総計が2.0質量%を超えると特性改善効果が飽和するうえ、製造性を損なう。従って、本発明に係るCu−Ni−Si系合金には、Sn及びZnから選択される1種又は2種を総計で最大2.0質量%添加することができる。但し、0.05質量%未満ではその効果が小さいので、好ましくは総計で0.05〜2.0質量%、より好ましくは総計で0.5〜1.0質量%添加するのがよい。
Sn及びZnにおいても、微量の添加で、導電率を損なわずに強度、応力緩和特性、めっき性等の製品特性を改善する。添加の効果は主に母相への固溶により発揮される。しかしながら、Sn及びZnの総計が2.0質量%を超えると特性改善効果が飽和するうえ、製造性を損なう。従って、本発明に係るCu−Ni−Si系合金には、Sn及びZnから選択される1種又は2種を総計で最大2.0質量%添加することができる。但し、0.05質量%未満ではその効果が小さいので、好ましくは総計で0.05〜2.0質量%、より好ましくは総計で0.5〜1.0質量%添加するのがよい。
As、Sb、Be、B、Ti、Zr、Al及びFeの添加量
As、Sb、Be、B、Ti、Zr、Al及びFeにおいても、要求される製品特性に応じて、添加量を調整することで、導電率、強度、応力緩和特性、めっき性等の製品特性を改善する。添加の効果は主に母相への固溶により発揮されるが、第二相粒子に含有され、若しくは新たな組成の第二相粒子を形成することで一層の効果を発揮させることもできる。しかしながら、これらの元素の総計が2.0質量%を超えると特性改善効果が飽和するうえ、製造性を損なう。従って、本発明に係るCu−Ni−Si系合金には、As、Sb、Be、B、Ti、Zr、Al及びFeから選択される1種又は2種以上を総計で最大2.0質量%添加することができる。但し、0.001質量%未満ではその効果が小さいので、好ましくは総計で0.001〜2.0質量%、より好ましくは総計で0.05〜1.0質量%添加するのがよい。
As、Sb、Be、B、Ti、Zr、Al及びFeにおいても、要求される製品特性に応じて、添加量を調整することで、導電率、強度、応力緩和特性、めっき性等の製品特性を改善する。添加の効果は主に母相への固溶により発揮されるが、第二相粒子に含有され、若しくは新たな組成の第二相粒子を形成することで一層の効果を発揮させることもできる。しかしながら、これらの元素の総計が2.0質量%を超えると特性改善効果が飽和するうえ、製造性を損なう。従って、本発明に係るCu−Ni−Si系合金には、As、Sb、Be、B、Ti、Zr、Al及びFeから選択される1種又は2種以上を総計で最大2.0質量%添加することができる。但し、0.001質量%未満ではその効果が小さいので、好ましくは総計で0.001〜2.0質量%、より好ましくは総計で0.05〜1.0質量%添加するのがよい。
上記したCr、Mg、Mn、Ag、P、Sn、Zn、As、Sb、Be、B、Ti、Zr、Al及びFeの添加量が合計で2.0質量%を超えると製造性を損ないやすいので、好ましくはこれらの合計は2.0質量%以下とし、より好ましくは1.5質量%以下とする。
第二相粒子の分布条件
本発明において、第二相粒子とは主にシリサイドを指すが、これに限られるものではなく、溶解鋳造の凝固過程に生ずる晶出物及びその後の冷却過程で生ずる析出物、熱間圧延後の冷却過程で生ずる析出物、溶体化処理後の冷却過程で生ずる析出物、及び時効処理過程で生ずる析出物のことを言う。
本発明において、第二相粒子とは主にシリサイドを指すが、これに限られるものではなく、溶解鋳造の凝固過程に生ずる晶出物及びその後の冷却過程で生ずる析出物、熱間圧延後の冷却過程で生ずる析出物、溶体化処理後の冷却過程で生ずる析出物、及び時効処理過程で生ずる析出物のことを言う。
(1)第一の分布条件
本発明に係るCu−Ni−Si系合金では、1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度を制御することを特徴としている。このようなナノメートルオーダーの超微細な第二相粒子を制御することで、強度とばね限界値の向上を図ることができる。更に、1〜5nmの粒径の第二相粒子の析出物の個数密度と5nmを越え20nm以下の粒径の第二相粒子の個数密度との比を制御することが好ましい。これにより、いっそう強度とばね限界値のバランスに優れるという効果が得られる。
本発明に係るCu−Ni−Si系合金では、1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度を制御することを特徴としている。このようなナノメートルオーダーの超微細な第二相粒子を制御することで、強度とばね限界値の向上を図ることができる。更に、1〜5nmの粒径の第二相粒子の析出物の個数密度と5nmを越え20nm以下の粒径の第二相粒子の個数密度との比を制御することが好ましい。これにより、いっそう強度とばね限界値のバランスに優れるという効果が得られる。
具体的には、1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度(個数密度A)を1.0×1012〜1.0×1015個/mm3、好ましくは1.0×1012〜5.0×1014個/nm3、より好ましくは1.0×1012〜1.0×1014個/nm3に制御する。また、望ましい実施形態においては、1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度(個数密度A)の、5nmを越え20nm以下の粒径の第二相粒子の個数密度(個数密度B)に対する比(個数密度A/個数密度B)を0.5以上、好ましくは2.5以上、より好ましくは5.0以上、典型的には0.5〜100に制御する。
本発明においては、第二相粒子の粒径は、(長径+短径)/2と定義する。長径は、粒子を取り囲む最小円の直径とする。短径は粒子に包含される最大円の直径とする。
1〜5nmの粒径の第二相粒子、及び5nmを越え20nm以下の粒径の第二相粒子は、供試材を0.02〜0.2μm程度の厚みに薄膜研磨した後、TEM等によって超高倍率(例えば1,000,000倍)に設定することで観察可能であり、個数密度や粒径の測定が可能である。観察面は供試材の圧延面、断面の指定はない。
製造方法
コルソン系銅合金の一般的な製造プロセスでは、まず大気溶解炉を用い、電気銅、Ni、Si等の原料を溶解し、所望の組成の溶湯を得る。そして、この溶湯をインゴットに鋳造する。その後、熱間圧延を行い、冷間圧延と熱処理を繰り返して、所望の厚み及び特性を有する条や箔に仕上げる。熱処理には溶体化処理と時効処理がある。溶体化処理では、約700〜約900℃の高温で加熱して、第二相粒子をCu母地中に固溶させ、同時にCu母地を再結晶させる。溶体化処理を、熱間圧延で兼ねることもある。時効処理では、約350〜約550℃の温度範囲で1時間以上加熱し、溶体化処理で固溶させた第二相粒子をナノメートルオーダーの微細粒子として析出させる。この時効処理で強度と導電率が上昇する。より高い強度を得るために、時効前及び/又は時効後に冷間圧延を行なうことがある。また、時効後に冷間圧延を行なう場合には、冷間圧延後に歪取焼鈍(低温焼鈍)を行なうことがある。
上記各工程の合間には適宜、表面の酸化スケール除去のための研削、研磨、ショットブラスト酸洗等が適宜行なわれる。
コルソン系銅合金の一般的な製造プロセスでは、まず大気溶解炉を用い、電気銅、Ni、Si等の原料を溶解し、所望の組成の溶湯を得る。そして、この溶湯をインゴットに鋳造する。その後、熱間圧延を行い、冷間圧延と熱処理を繰り返して、所望の厚み及び特性を有する条や箔に仕上げる。熱処理には溶体化処理と時効処理がある。溶体化処理では、約700〜約900℃の高温で加熱して、第二相粒子をCu母地中に固溶させ、同時にCu母地を再結晶させる。溶体化処理を、熱間圧延で兼ねることもある。時効処理では、約350〜約550℃の温度範囲で1時間以上加熱し、溶体化処理で固溶させた第二相粒子をナノメートルオーダーの微細粒子として析出させる。この時効処理で強度と導電率が上昇する。より高い強度を得るために、時効前及び/又は時効後に冷間圧延を行なうことがある。また、時効後に冷間圧延を行なう場合には、冷間圧延後に歪取焼鈍(低温焼鈍)を行なうことがある。
上記各工程の合間には適宜、表面の酸化スケール除去のための研削、研磨、ショットブラスト酸洗等が適宜行なわれる。
本発明に係る銅合金においても上記の製造プロセスを経るが、最終的に得られる銅合金の特性が本発明で規定するような範囲となるためには、熱間圧延、溶体化処理および時効処理条件を厳密に制御して行なうことが重要である。
まず、鋳造時の凝固過程では粗大な晶出物が、その冷却過程では粗大な析出物が不可避的に生成するため、その後の工程においてこれらの第二相粒子を母相中に固溶する必要がある。900℃〜1000℃で1時間以上保持後に熱間圧延を行い、熱間圧延を終了後は、速やかに冷却することが望ましい。
溶体化処理では、溶解鋳造時の晶出粒子や、熱延後の析出粒子を固溶させ、溶体化処理以降の時効硬化能を高めることが目的である。このとき、第二相粒子の個数密度を制御するには、溶体化処理時の保持温度と時間、および保持後の冷却速度が重要となる。保持時間が一定の場合には、保持温度を高くすると、溶解鋳造時の晶出粒子や、熱延後の析出粒子を固溶させることが可能となり、面積率を低減することが可能となる。
溶体化処理後の冷却速度は速いほど冷却中の析出を抑制できる。冷却速度が遅すぎる場合には、冷却中に第二相粒子が粗大化して、第二相粒子中のNi、Si含有量が増加するため、溶体化処理で十分な固溶を行えず、時効硬化能が低減する。よって、溶体化処理後の冷却は急冷却とするのが好ましい。具体的には、700℃〜900℃で溶体化処理後、平均冷却速度を毎秒10℃以上100℃以下として400℃まで冷却するのが効果的である。ここでの、“平均冷却速度”は溶体化温度から400℃までの冷却時間を計測し、“(溶体化温度−400)(℃)/冷却時間(秒)”によって算出した値(℃/秒)をいう。
本発明に係るCu−Ni−Si系合金を製造する上では、溶体化処理後に軽度の時効処理を2段階に分けて行ない、2回の時効処理の間に冷間圧延を行うことが有効である。これにより、析出物の粗大化が抑制され、良好な第二相粒子の分布状態を得ることができる。
本発明者は溶体化処理直後の第1の時効処理を次の特定条件で3段時効すると、ばね限界値が顕著に向上することを見出した。多段時効を行うことで強度及び導電性のバランスが向上するとした文献はあったものの、多段時効の段数、温度、時間、冷却速度を厳密に制御することでばね限界値までが顕著に向上するとは驚きであった。本発明者の実験によれば、1段時効や2段時効ではこのような効果を得ることはできなかった。
理論によって本発明が制限されることを意図しないが、3段時効を採用することによってばね限界値が顕著に向上した理由は次の通りと考えられる。1回目の時効処理を3段時効にすることで、一段目及び二段目で析出した第2相粒子の成長及び三段目で析出した第2相粒子が、転位をピン止めするためと考えられる。
3段時効では、まず、材料温度を400〜500℃として1〜12時間加熱する一段目を行う。一段目では第二相粒子の核生成及び成長による強度・導電率を高めるのが目的である。
一段目における材料温度が400℃未満であったり、加熱時間が1時間未満であったりすると、第二相粒子の体積分率が小さく、所望の強度、導電率が得られにくい。一方、材料温度が500℃超になるまで加熱した場合や、加熱時間が12時間を超えた場合には、第二相粒子の体積分率は大きくなるが、粗大化してしまい強度が低下する傾向が強くなる。
一段目の終了後、冷却速度を0.1〜8℃/分として、二段目の時効温度に移行する。このような冷却速度に設定したのは一段目で析出した第二相粒子を過剰に成長させないための理由による。ここでの冷却速度は、(一段目時効温度−二段目時効温度)(℃)/(一段目時効温度から二段目時効温度に到達するまでの冷却時間(分))で測定される。
次いで、材料温度を350〜450℃として1〜12時間加熱する二段目を行う。二段目では一段目で析出した第二相粒子を強度に寄与する範囲で成長させることにより導電率を高めるためと、二段目で新たに第二相粒子を析出させる(一段目で析出した第二相粒子より小さい)ことで強度、導電率を高めるためが目的である。
二段目における材料温度が350℃未満であったり、加熱時間が1時間未満であったりすると一段目で析出した第二相粒子が成長できないため、導電率を高めにくく、また二段目で新たに第二相粒子を析出させることができないため、強度、導電率を高めることができない。一方、材料温度が450℃超になるまで加熱した場合や、加熱時間が12時間を超えた場合一段目で析出した第二相粒子が成長しすぎて粗大化していまい、強度が低下してしまう。
一段目と二段目の温度差は、小さすぎると一段目で析出した第二相粒子が粗大化して強度低下を招く一方で、大きすぎると一段目で析出した第二相粒子がほとんど成長せず導電率を高めることができない。また、二段目で第二相粒子が析出しにくくなるので、強度及び導電率を高めることができない。そのため、一段目と二段目の温度差は20〜60℃とすべきである。
二段目の終了後は、先と同様の理由から、冷却速度を0.1〜8℃/分として、三段目の時効温度に移行する。ここでの冷却速度は、(二段目時効温度−三段目時効温度)(℃)/(二段目時効温度から三段目時効温度に到達するまでの冷却時間(分))で測定される。
次いで、材料温度を260〜340℃として4〜30時間加熱する三段目を行う。三段目では一段目と二段目で析出した第二相粒子を少し成長させるためと、新たに第二相粒子を生成させることが目的である。
三段目における材料温度が260℃未満であったり、加熱時間が4時間未満であったりすると、一段目と二段目で析出した第二相粒子を成長させることができず、また、新たに第二相粒子を生成させることができないため、所望の強度、導電率及びばね限界値が得られにくい。一方、材料温度が340℃超になるまで加熱した場合や、加熱時間が30時間を超えた場合には一段目と二段目で析出した第二相粒子が成長しすぎて粗大化してしまうため、所望の強度及びばね限界値が得られにくい。
二段目と三段目の温度差は、小さすぎると一段目、二段目で析出した第二相粒子が粗大化して強度及びばね限界値の低下を招く一方で、大きすぎると一段目、二段目で析出した第二相粒子がほとんど成長せず導電率を高めることができない。また、三段目で第二相粒子が析出しにくくなるので、強度、ばね限界値及び導電率をた高めることができない。そのため、二段目と三段目の温度差は、20〜180℃とすべきである。
一つの段における時効処理では、第2相粒子の分布が変化してしまうことから、温度は一定とするのが原則であるが、設定温度に対して±5℃程度の変動があっても差し支えない。そこで、各ステップは温度の振れ幅が10℃以内で行う。
第1の時効処理後には冷間圧延を行う。この冷間圧延では第1の時効処理での不十分な時効硬化を加工硬化により補うことができる。このときの加工度は所望の強度レベルに到達するために10〜80%、好ましくは20〜60%である。ただし、ばね限界値が低下する。
冷間圧延後は、ばね限界値を高めるために調質焼鈍を実施する又はばね限界値と導電率を高めるために第2の時効処理を実施する。調質焼鈍を行う場合は200℃〜500℃の温度範囲で1秒〜1000秒の条件とする。第2の時効処理を行う場合は、第2の時効温度を高く設定すると、ばね限界値と導電率は上昇するが、温度条件が高すぎた場合には、すでに析出している第二相粒子が粗大化して、過時効状態となり、強度が低下する。よって第2の時効処理では、導電率とばね限界値の回復を図るために通常行われている条件よりも低い温度で長時間保持することに留意する。第2の時効処理の条件の一例を挙げると、100℃以上400℃未満の温度範囲で1〜48時間である。
第2の時効処理直後は不活性ガス雰囲気中で時効処理を行った場合であっても表面が僅かに酸化しており、半田濡れ性が悪い。そこで、半田濡れ性が要求される場合には、酸洗及び/又は研磨を行うことができる。酸洗の方法としては、公知の任意の手段を使用すればよいが、例えば、混酸(硫酸と過酸化水素水と水を混合した酸)に浸漬する方法が挙げられる。研磨の方法としても、公知の任意の手段を使用すればよいが、例えば、バフ研磨による方法が挙げられる。
本発明のCu−Ni−Si系銅合金は種々の伸銅品、例えば板、条、管、棒及び線に加工することができ、更に、本発明によるCu−Ni−Si系銅合金は、リードフレーム、コネクタ、ピン、端子、リレー、スイッチ、二次電池用箔材等の電子部品等に使用することができる。
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
表1に記載の各添加元素を含有し、残部が銅及び不純物からなる銅合金を、高周波溶解炉で1300℃で溶製し、厚さ30mmのインゴットに鋳造した。次いで、このインゴットを1000℃で3時間加熱後、次いで、表面のスケール除去のため厚さ9mmまで面削を施した後、冷間圧延により厚さ0.115mmの板とした。次に700℃以上900℃以下で溶体化処理を120秒行い、その後冷却した。このときの400℃までの平均冷却速度は毎秒10℃とした。なお、溶体化温度は添加元素の濃度が高い場合は高めに設定した。次いで、不活性雰囲気中、表1に記載の各条件で第一の時効処理を施した。各段における材料温度は表1に記載された設定温度±3℃以内に維持した。その後、0.08mmまで冷間圧延し、最後に、実施例に記載の各条件で調質焼鈍を実施するか、又は第二の時効処理を順に実施して、各試験片を製造した。調質焼鈍後又は第二の時効処理後は、混酸による酸洗及びバフによる研磨処理を行った。
このようにして得られた各試験片につき、第二相粒子の個数密度、合金特性を以下のようにして測定した。
粒径1nm以上20nm以下の第二相粒子を観察するときは各試験片を0.02〜0.2μm程度の厚みに薄膜研磨した後、透過型顕微鏡(TEM:HITACHI−H−9000)で1,000,000倍の写真(視野:150nm×150nm)を任意に5視野観察(入射方位は任意の方位)して、その写真上で第二相粒子のそれぞれの粒径を測定した。第二相粒子の粒径は、(長径+短径)/2と定義する。長径は、粒子を取り囲む最小円の直径とする。短径は粒子に包含される最大円の直径とする。粒径の測定後、各粒径範囲の個数を単位体積あたりに換算し、各粒径範囲の個数密度(個/mm3)を求めた。
表2中、個数密度Aは1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度を、個数密度Bは5nmを越え20nm以下の粒径の第二相粒子の個数密度をそれぞれ指す。
表2中、個数密度Aは1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度を、個数密度Bは5nmを越え20nm以下の粒径の第二相粒子の個数密度をそれぞれ指す。
強度についてはJIS Z2241に準拠して圧延平行方向の引っ張り試験を行って0.2%耐力(YS:MPa)を測定した。
導電率(EC;%IACS)についてはダブルブリッジによる体積抵抗率測定により求めた。
ばね限界値(Kb)は、JIS H3130に準拠して、繰り返し式たわみ試験を実施し、永久歪が残留する曲げモーメントから表面最大応力を測定した。
曲げ加工性については、Badway(曲げ軸が圧延方向と同一方向)のW曲げ試験として、W字型の金型を用いて試料板厚と曲げ半径の比が1となる条件で90°曲げ加工を行った。続いて、曲げ加工部表面を光学顕微鏡で観察し、クラックが観察されない場合を実用上問題ないと判断して○(良好)とし、クラックが認められた場合を×(不良)とした。
結果を表2に示す。実施例No.1〜48は、1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度が1.0×1012〜1.0×1015個/mm3であり、強度、導電性及びばね限界値のバランスに優れていることが分かる。また、実施例No.No.48以外は、1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度の、5nmを越え20nm以下の粒径の第二相粒子の個数密度に対する比が0.5以上であり、更に強度とばね限界値のバランスに優れることが分かる。
比較例No.8、比較例No.19〜35は第一の時効を二段時効で行った例である。
比較例No.7は第一の時効を一段時効で行った例である。
比較例No.2、9は3段目の時効時間が短かった例である。
比較例No.4は3段目の時効温度が低く、2段目と3段目の温度差が大きかった例である。
比較例No.13は3段目の時効温度が高く、2段目と3段目の温度差が小さかった例である。
比較例No.12は3段目の時効時間が長かった例である。
比較例No.1は1段目の時効温度が低かった例である。
比較例No.3は1段目と2段目の温度差が大きかった例である。
比較例No.5は1段目の時効時間が短かった例である。
比較例No.6は2段目の時効時間が短かった例である。
比較例No.10は2段目の時効時間が長かった例である。
比較例No.11は1段目の時効時間が長かった例である。
比較例No.14は2段目の温度が高く、1段目との温度差も小さかった例である。
比較例No.15は1段目及び2段目の温度が高かった例である。
比較例No.16は2段目から3段目の冷却が遅かった例である。
比較例No.17は1段目から2段目の冷却が遅かった例である。
比較例No.18はNi濃度及びSi濃度が低かった例である。
比較例No.23は第一の時効を二段時効で行った上、Ni濃度が高かった例である。
比較例No.2〜22、比較例No.24〜35は何れも1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度が1.0×1012個/mm3未満であり、且つ、1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度の、5nmを越え20nm以下の粒径の第二相粒子の個数密度に対する比が0.5未満であり、実施例に比べて強度、導電性及びばね限界値のバランスに劣っていることが分かる。比較例No.1、23は何れも1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度が1.0×1015個/mm3を超え、且つ、1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度の、5nmを越え20nm以下の粒径の第二相粒子の個数密度に対する比が100を越えており、実施例に比べて強度、導電性及びばね限界値のバランスに劣っていることが分かる。
比較例No.8、比較例No.19〜35は第一の時効を二段時効で行った例である。
比較例No.7は第一の時効を一段時効で行った例である。
比較例No.2、9は3段目の時効時間が短かった例である。
比較例No.4は3段目の時効温度が低く、2段目と3段目の温度差が大きかった例である。
比較例No.13は3段目の時効温度が高く、2段目と3段目の温度差が小さかった例である。
比較例No.12は3段目の時効時間が長かった例である。
比較例No.1は1段目の時効温度が低かった例である。
比較例No.3は1段目と2段目の温度差が大きかった例である。
比較例No.5は1段目の時効時間が短かった例である。
比較例No.6は2段目の時効時間が短かった例である。
比較例No.10は2段目の時効時間が長かった例である。
比較例No.11は1段目の時効時間が長かった例である。
比較例No.14は2段目の温度が高く、1段目との温度差も小さかった例である。
比較例No.15は1段目及び2段目の温度が高かった例である。
比較例No.16は2段目から3段目の冷却が遅かった例である。
比較例No.17は1段目から2段目の冷却が遅かった例である。
比較例No.18はNi濃度及びSi濃度が低かった例である。
比較例No.23は第一の時効を二段時効で行った上、Ni濃度が高かった例である。
比較例No.2〜22、比較例No.24〜35は何れも1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度が1.0×1012個/mm3未満であり、且つ、1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度の、5nmを越え20nm以下の粒径の第二相粒子の個数密度に対する比が0.5未満であり、実施例に比べて強度、導電性及びばね限界値のバランスに劣っていることが分かる。比較例No.1、23は何れも1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度が1.0×1015個/mm3を超え、且つ、1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度の、5nmを越え20nm以下の粒径の第二相粒子の個数密度に対する比が100を越えており、実施例に比べて強度、導電性及びばね限界値のバランスに劣っていることが分かる。
Claims (6)
- Ni:1.0〜4.0質量%、Si:0.2〜1.0質量%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる電子材料用銅合金であって、1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度が1.0×1012〜1.0×1015個/mm3である銅合金。
- 1〜5nmの粒径の第二相粒子の個数密度の、5nmを越え20nm以下の粒径の第二相粒子の個数密度に対する比が0.5以上100以下である請求項1に記載の銅合金。
- Siの質量濃度に対するNiの質量濃度の比Ni/Siが3.5≦Ni/Si≦5.5を満たす請求項1〜2何れか一項記載の銅合金。
- 更にCr、Mg、P、As、Sb、Be、B、Mn、Sn、Ti、Zr、Al、Fe、Zn及びAgの群から選ばれる少なくとも1種を総計で最大2.0質量%含有する請求項1〜3何れか一項記載の銅合金。
- 請求項1〜4何れか一項記載の銅合金からなる伸銅品。
- 請求項1〜4何れか一項記載の銅合金を備えた電子部品。
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JP2018141231A (ja) * | 2017-02-25 | 2018-09-13 | ヴィーラント ウェルケ アクチーエン ゲゼルシャフトWieland−Werke Aktiengesellschaft | 銅合金からなる摺動部材 |
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