JPH08333378A - レシチン改質体含有油脂組成物 - Google Patents

レシチン改質体含有油脂組成物

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JPH08333378A
JPH08333378A JP7140632A JP14063295A JPH08333378A JP H08333378 A JPH08333378 A JP H08333378A JP 7140632 A JP7140632 A JP 7140632A JP 14063295 A JP14063295 A JP 14063295A JP H08333378 A JPH08333378 A JP H08333378A
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oil
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acid ester
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健人 向原
Ryoji Sono
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Koushiyoku Kou
行植 高
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TSUJI SEIYU KK
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 レシチン改質体を含有せしめて、高い離型性
等の優れた特性を付与せしめると共に、かかるレシチン
改質体の沈殿や、油脂とレシチン改質体の分離が惹起さ
れることのない油脂組成物を提供する。 【構成】 油脂に、レシチンのリゾ化処理物、又はレシ
チンを分画処理して得られる、ホスファチジルコリン、
ホスファチジルエタノールアミン、或いはホスファチジ
ン酸等のレシチン構成リン脂質の濃度を高めた分画物若
しくはそのリゾ化処理物からなるレシチン改質体の0.
01重量%〜15重量%を添加、含有せしめ、更に、分
散剤として、HLBが3以下であるショ糖不飽和脂肪酸
エステルを含有せしめる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【技術分野】本発明は、油脂に、レシチン改質体を含有
せしめてなるレシチン改質体含有油脂組成物に係り、特
に、製菓・製パン用油脂、天板油、離型油等の食品の分
野、一般工業分野、化粧品分野、又は医薬品分野等にお
いて、好適に用いられ得るだけではなく、その保存中
に、沈殿を生じたり、分離したりすることがなく、長期
に亘って清澄な状態を保持し得るレシチン改質体含有油
脂組成物に関するものである。
【0002】
【背景技術】レシチンは、従来から、天然由来の界面活
性剤として、乳化作用を有するだけではなく、その他
に、抗酸化作用、離型作用、分散作用、蛋白質や澱粉と
の結合作用等の多岐に亘る優れた作用を兼ね備えている
ところから、食品工業の幅広い分野において使用されて
来ている。また、レシチンは、これら食品工業の分野に
限らず、一般工業分野においても、潤滑油や磁気記録媒
体の表面処理剤等として用いられ、更には、それが皮膚
のエモリエント効果付与作用や種々の薬理作用を有して
いるところから、化粧品、健康食品、或いは医薬品等の
分野においても使用されており、近年、注目を集めてい
る。なお、ここでは、レシチンは、複数種類のグリセロ
リン脂質を含んでなる混合物のことを意味するものとし
て用いることとする。
【0003】ところで、かかるレシチンは、その使用に
際して、通常、適当な油脂に溶解乃至は分散せしめられ
たレシチン含有油脂組成物として、用いられるのである
が、レシチンが高い吸湿性を有するものであるところか
ら、上記油脂組成物中に含有せしめられたレシチンも、
水分を吸着し、更には水分と結合することとなる。そし
て、水分と結合したレシチンは、油脂に不溶性となると
ころから、油脂組成物中において濁りや沈殿を惹起し
て、問題となる。即ち、油脂組成物中において、前記レ
シチンに起因する濁りや沈殿が発生すると、油脂組成物
中の実質的なレシチンの含有量が変動するために、その
ような油脂組成物を用いて得られる製品の品質がばらつ
くこととなり、製造上において支障を来すこととなるの
である。また、上記の如く沈殿を生じている油脂組成物
を適用するに際して、スプレーで噴霧する方法を採用す
る場合には、ノズルの詰まりが生じるといったような作
業上の支障も来すようになるのである。
【0004】そこで、このような油脂組成物におけるレ
シチンの沈殿を防止するために、従来では、グリセリン
脂肪酸エステルとプロピレングリコール脂肪酸エステル
とを併用する方法(特開昭63−222649号公報)
や、ポリグリセロール縮合リシノール酸エステル又は/
及びジアセチル酒石酸不飽和脂肪酸モノグリセライドを
用いる方法(特開昭59−6843号公報)、またエタ
ノールを用いる方法(特開昭51−133459号公
報)、更にはポリグリセロール脂肪酸エステルを用いる
方法(特公平1−60221号公報、特開昭61−11
654号公報)等が提案されている。
【0005】また、近年では、レシチン含有油脂組成物
の性質を改善する目的で、レシチンの代りに、或いはレ
シチンと併用して、レシチンのリゾ化処理物を用いるこ
とがある。しかし、このレシチンのリゾ化処理物の吸湿
性はレシチンのそれよりも高いものであるために、前記
の如きレシチン含有油脂組成物の沈殿防止方法では、充
分な効果が得られないのである。
【0006】より詳細に説明するならば、前記レシチン
のリゾ化処理物は、レシチンをホスフォリパーゼA1
いはホスフォリパーゼA2 で酵素処理することにより、
このレシチンに含有せしめられているジアシルグリセロ
リン脂質のα位又はβ位のエステル結合が加水分解さ
れ、それぞれ、β−モノアシルグリセロリン脂質又はα
−モノアシルグリセロリン脂質(リゾ化処理物)となっ
て、得られるのである。そして、このようにして得られ
るレシチンのリゾ化処理物は、レシチンと比較して、親
水性が高められているところから、例えば離型性が飛躍
的に向上する等、その効果が著しく改善されているので
ある。しかし、その反面、親水性が高められることによ
り、レシチンのリゾ化処理物と水分との結合も起こり易
くなり、油脂組成物中における沈殿の発生も格段に増加
することとなり、前記した沈殿防止方法では、充分に沈
殿を防止することが出来ないのである。
【0007】そのために、かかる沈殿防止効果をより一
層高めるべく、分散剤として、グリセリン脂肪酸エステ
ル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコ
ール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、或い
はショ糖脂肪酸エステルを配合する方法(特開昭63−
279751号公報)が提案されているが、この方法に
は、リゾ化処理したレシチンの分離や沈殿防止のため
に、リゾ化処理していないレシチンを併用する必要があ
るという欠点を有しており、分散剤として用いる乳化剤
も特に限定していない。また、ポリグリセリン縮合リシ
ノレイン酸エステル及び/又はHLBが3〜8のポリグ
リセリン脂肪酸エステルを配合する方法(特開昭63−
296649号公報)も提案されているが、かかる方法
にしても、リゾ化処理したレシチンの沈殿を充分に防止
し得ないのである。
【0008】ところで、レシチンは、ホスファチジルコ
リン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジ
ルイノシトール、ホスファチジン酸等の各種リン脂質か
ら構成される混合物であるが、それらレシチンの主成分
たる各リン脂質の特定の成分の含有量を増加させたレシ
チン、即ち分画処理を施したレシチン及び/又はそのリ
ゾ化処理物も、レシチンの性質を改善する目的で、利用
されるようになってきている。
【0009】例えば、ホスファチジン酸やリゾホスファ
チジン酸の含有量を増加させたレシチンを含有せしめた
油脂組成物では、その離型効果が向上せしめられ、また
加熱時に着色したり、臭いが発生したりすることがな
く、更には加熱時の油脂の飛びはね(スパッタリング)
の抑制効果においても優れていることが、特開昭64−
27431号公報や特開平2−27943号公報におい
て、報告されている。また、レシチンの生理作用を期待
して、ホスファチジルコリンの含有量の多い製菓・製パ
ン用油脂組成物(特開昭63−258535号公報)も
提案されているのである。
【0010】しかしながら、これらレシチンの分画物及
び/又はそのリゾ化処理物からなるレシチン改質体を含
有してなる油脂組成物、特に常温において液状であるも
のには、該レシチン改質体の沈殿が長期に亘って起こら
ないことが、要求されているが、未だ解決されていない
というのが実情である。
【0011】
【解決課題】ここにおいて、本発明は、上記の如き事情
を背景として為されたものであって、その課題とすると
ころは、レシチンのリゾ化処理物、又はレシチンを分画
処理して得られる、ホスファチジルコリン、ホスファチ
ジルエタノールアミン、或いはホスファチジン酸等のレ
シチン構成リン脂質の濃度を高めた分画物若しくはその
リゾ化処理物からなるレシチン改質体を含有せしめるこ
とにより、高い離型性等、優れた特性が付与せしめられ
た油脂組成物を提供すると共に、かかるレシチン改質体
の添加によって生じる問題、即ち保存の際に、油脂組成
物中において、レシチン改質体の沈殿物が生じたり、油
脂とレシチン改質体が分離したりするという問題を効果
的に解消することにある。
【0012】
【解決手段】そこで、本発明者等は、上記の如きレシチ
ン改質体を含有してなる油脂組成物中での沈殿の発生を
防止するために、分散剤として、各種の乳化剤について
種々検討した結果、HLBが3以下であり、しかも、そ
の構成脂肪酸が不飽和脂肪酸であるショ糖不飽和脂肪酸
エステルのみが、他の乳化剤(分散剤)よりも、優れた
効果を発揮し得ることを見出したのである。また、本発
明者等は、前記ショ糖不飽和脂肪酸エステルと共に、更
に、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを添加
することにより、特に離型効果が向上せしめられること
をも、見出したのである。
【0013】そして、本発明は、かかる知見に基づいて
完成されたものであって、その要旨とするところは、油
脂に、レシチンのリゾ化処理物、又はレシチンを分画処
理して得られる、ホスファチジルコリン、ホスファチジ
ルエタノールアミン、或いはホスファチジン酸等のレシ
チン構成リン脂質の濃度を高めた分画物若しくはそのリ
ゾ化処理物からなるレシチン改質体の0.01重量%〜
15重量%を、分散剤として、該レシチン改質体の10
0重量部に対して30重量部〜500重量部の割合の、
HLBが3以下であるショ糖不飽和脂肪酸エステルを用
いて、含有せしめてなるレシチン改質体含有油脂組成物
にある。
【0014】また、本発明の好ましい態様によれば、前
記レシチン改質体含有油脂組成物には、ポリグリセリン
縮合リシノレイン酸エステルが、0.01重量%〜5重
量%の割合において、更に添加されることとなる。
【0015】
【具体的構成・作用】要するに、本発明に係るレシチン
改質体含有油脂組成物においては、レシチンをリゾ化処
理したり、分画処理したりして得られるレシチン改質体
を用い、これを油脂に添加、含有せしめることにより、
通常のレシチンを含有せしめたものと比較して、抗酸化
作用、離型作用、分散作用、蛋白質や澱粉との結合作用
等の多岐に亘るレシチンの有用な作用を効果的に向上せ
しめていると共に、特定のHLBを有するショ糖不飽和
脂肪酸エステルが分散剤として添加されているところか
ら、前記油脂組成物に含有せしめられるレシチン改質体
の沈殿や分離が、効果的に回避され得ているのである。
【0016】ところで、本発明に係るレシチン改質体含
有油脂組成物において、それを構成する油脂としては、
大豆油、菜種油、パーム油、コーン油、ヤシ油、綿実
油、サフラワー油、米ぬか油若しくはサンフラワー油等
の植物油脂類、又は牛脂、ラード、魚油若しくは乳脂等
の動物油脂類、或いはこれらを分別処理、水素添加処理
若しくはエステル交換処理等を施した油脂が挙げられ、
その中から、1種類の油脂若しくは2種類以上の油脂を
組み合わせたものが、適宜に使用される。なお、かかる
油脂には、その離型性を向上せしめる目的で、更に、ワ
ックス等の添加物を加えたものが用いられてもよい。
【0017】また、本発明に係るレシチン改質体含有油
脂組成物において、その性能を向上せしめる目的で含有
せしめられるレシチン改質体は、原料のレシチンを、リ
ゾ化処理したり、分画処理したり、或いは分画処理及び
リゾ化処理の両方を施したりすることによって、得られ
るものである。
【0018】より詳細には、前記原料のレシチンには、
大豆油を製造する際に副産物として得られる、油分を3
0重量%〜40重量%の割合で含有してなる大豆レシチ
ンや、その他の菜種レシチン、コーンレシチン、サフラ
ワーレシチン等の植物レシチンが用いられるのであり、
また、卵黄レシチン等の動物レシチンが用いられてもよ
い。そして、更には、これら天然由来のクルードレシチ
ンから、従来から公知の各種手法を用いて、その油分を
除去することにより得られる、高純度レシチンが、原料
のレシチンとして用いられても、何等差し支えない。
【0019】また、前記リゾ化処理は、前記原料のレシ
チンを、ホスフォリパーゼA1 又はホスフォリパーゼA
2 で酵素処理して、この原料のレシチンに含有されてい
るジアシルグリセロリン脂質のα位又はβ位のエステル
結合を加水分解して、それぞれをβ−モノアシルグリセ
ロリン脂質又はα−モノアシルグリセロリン脂質、即ち
リゾ化処理物とすることにより、行なわれるものであ
る。
【0020】さらに、前記分画処理は、エタノール等の
溶媒を用いた分別処理により、特定のリン脂質を分別し
たり、キャベツ葉等に豊富に存在するホスフォリパーゼ
Dを用いた酵素処理により、特定のリン脂質の含有割合
を高めたりすることにより、行なわれるのである。
【0021】具体的には、例えば、レシチンをエタノー
ルで抽出した場合においては、溶媒であるエタノールに
は、ホスファチジルコリンが溶解し易いために、ホスフ
ァチジルコリンの含有割合が高められたレシチンが抽出
され、一方、抽出残渣には、ホスファチジルエタノール
アミンの含有割合が高いレシチンが残存するところか
ら、それぞれ、ホスファチジルコリン或いはホスファチ
ジルエタノールアミンの含有割合が高められたレシチン
の分画物が、分別処理により、有利に得られるのであ
る。また、レシチンを、ホスフォリパーゼDを用いて酵
素処理した場合には、リン脂質中のリン酸と塩基との結
合部位が選択的に切断されることとなり、その結果とし
て、ホスファチジン酸の含有割合の高いレシチンの分画
物が、酵素処理にて、容易に得られるのである。また、
ホスフォリパーゼDにより酵素処理したレシチンを、エ
タノールで抽出した後に残る抽出残渣には、ホスファチ
ジルイノシトールが残存しているところから、ホスファ
チジルイノシトールの含有割合の高いレシチンの分画物
が容易に得られるのである。そして、ここで得られるレ
シチンの分画物は、そのままで用いられるだけでなく、
前記原料レシチンのリゾ化処理物と同様に、リゾ化処理
を更に行なってから用いてもよく、それによって、離型
性等の作用がより一層向上せしめられることとなるので
ある。
【0022】また、上記において、「分画」なる言葉
は、特定のリン脂質の含有割合を高めることを意味する
ものとして用いられており、その意味においては、含有
割合を高めたい特定のリン脂質の純品を、或いはそれを
高濃度に含有する脂質を、レシチンに添加することによ
り得られるものも、レシチンの分画物に含まれるもので
ある。
【0023】なお、かかるレシチン改質体の油脂組成物
に対する配合割合は、0.01重量%〜15重量%とさ
れる。けだし、その配合割合が、0.01重量%より少
ない場合には、離型作用や、その他のレシチンの有用な
機能が充分に発揮され得ないからであり、一方、その配
合割合が、15重量%より多い場合には、レシチン改質
体の機能が、より向上せしめられるというわけではな
く、むしろ、油脂組成物中において、沈殿が発生し易く
なる等、好ましくない問題を惹起するからである。
【0024】さらに、本発明に係るレシチン改質体含有
油脂組成物においては、分散剤として、HLBが3以下
のショ糖不飽和脂肪酸エステルが添加せしめられ、その
ようなショ糖不飽和脂肪酸エステルの添加により、レシ
チン改質体の沈殿や分離が効果的に抑制され得るのであ
る。
【0025】詳細には、上記HLBは、グリフィンの式
から算出されたものであり、界面活性剤(分散剤)の親
水基と疎水基の性質及び量比によって変動するパラメー
タ値を表すものであり、かかるHLBが大きくなるほ
ど、親水性が高くなることを意味しており、油脂組成物
中におけるレシチン改質体の安定性を得るためには、H
LBが適当な値である必要があるため、本発明において
は、このHLBを、3以下と規定しているのである。換
言すれば、3より大きいHLBを有するショ糖不飽和脂
肪酸エステルを用いても、油脂組成物中におけるレシチ
ン改質体の沈殿生成の抑制効果は、充分に発揮され得な
いのである。
【0026】また、本発明に係るレシチン改質体含有油
脂組成物において、分散剤として用いられるショ糖不飽
和脂肪酸エステルは、その構成脂肪酸が不飽和脂肪酸で
あることも重要である。即ち、分散剤の構成脂肪酸が不
飽和脂肪酸であるショ糖不飽和脂肪酸エステルを用いる
と、油脂組成物中におけるレシチン改質体の沈殿生成の
抑制効果が得られるのに対して、分散剤の構成脂肪酸が
飽和脂肪酸であるショ糖飽和脂肪酸エステルを用いる
と、油脂組成物中におけるレシチン改質体の沈殿生成の
抑制効果が得られないのである。
【0027】さらに、本発明に係るレシチン改質体含有
油脂組成物に用いられる分散剤にあっては、その構成ア
ルコールが、ショ糖であることも必要である。つまり、
構成アルコールが、ショ糖でないグリセリン脂肪酸エス
テル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、又はソルビタン
脂肪酸エステル等の従来から用いられている分散剤で
は、例え、HLBが3以下であり、構成脂肪酸が不飽和
脂肪酸であっても、油脂組成物中におけるレシチン改質
体の沈殿生成の抑制効果を充分に得ることが出来ないの
である。
【0028】なお、かかるショ糖不飽和脂肪酸エステル
の油脂組成物への配合割合は、レシチン改質体の配合量
の100重量部に対して、30重量部〜500重量部と
される。けだし、その配合割合が、30重量部より少な
いと、分散剤としての効果が充分に発揮され得ず、以て
油脂組成物におけるレシチン改質体の沈殿を防止するこ
とが出来ないからであり、また、その配合割合が500
重量部より多いと、より分散剤としての効果が発揮され
るというわけではないからである。
【0029】そして、本発明に従うレシチン改質体含有
油脂組成物は、前記油脂に、前記原料レシチンのリゾ化
処理物、又は分画物若しくはそのリゾ化処理物からなる
レシチン改質体を、上記の如き分散剤のショ糖不飽和脂
肪酸エステルを用いて、油脂に含有せしめることによ
り、製造されることとなるのである。具体的には、レシ
チン改質体、ショ糖不飽和脂肪酸エステル及び油脂を混
合し、それを比較的低温度、例えば50℃〜60℃の温
度に加熱して、完全に溶解せしめた後、常温まで冷却す
ることにより、目的とするレシチン改質体含有油脂組成
物が製造されるのである。なお、レシチン改質体にあっ
ても、高温においては褐変等の好ましくない作用を惹起
するところから、その溶解のための加熱温度は、60℃
以下とされるのが望ましいのである。
【0030】また、本発明に従う油脂組成物を製造する
に当たり、その使用目的に応じて、グリセリン脂肪酸エ
ステル、他のショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂
肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、
ソルビタン脂肪酸エステル等の、公知の乳化剤を適宜に
添加しても、何等差し支えない。但し、本発明において
は、HLBが3以下のショ糖不飽和脂肪酸エステル以外
は、レシチン改質体の沈殿を充分には防止し得ないとこ
ろから、それら各種の乳化剤を添加するに当たっては、
沈殿防止効果に悪影響を及ぼすことがないような濃度範
囲において、添加しなければならないことは、当然のこ
とである。
【0031】ところで、本発明に従うレシチン改質体含
有油脂組成物は、様々な用途に用いられ得るのである
が、特に離型油として使用されることが多い。そのた
め、本発明に係るレシチン改質体含有油脂組成物を製造
するに際しては、レシチン改質体の沈殿を抑制する目的
で添加される前記ショ糖不飽和脂肪酸エステルと共に、
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを、0.0
1重量%〜5重量%の配合割合において、添加すること
が好ましい。何故なら、かかるポリグリセリン縮合リシ
ノレイン酸エステルの添加により、離型効果が著しく改
善され得ることとなるからである。なお、ポリグリセリ
ン縮合リシノレイン酸エステルは、それ自身には、レシ
チン改質体の沈殿を抑制する作用がないところから、H
LBが3以下であるショ糖不飽和脂肪酸エステルを添加
せずに用いても、期待する効果は得られないのである。
【0032】
【実施例】以下に、本発明を更に具体的に明らかにする
ために、本発明の幾つかの実施例を示すこととするが、
本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制
約をも受けるものでないことは、言うまでもないところ
である。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更
には上記の具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱し
ない限りにおいて、当業者の知識に基づいて種々なる変
更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解さ
れるべきである。
【0033】実施例 1 この実施例では、用いられる分散剤(乳化剤)の違いに
より、得られる油脂組成物中のレシチン改質体の安定
性、即ち沈殿発生の抑制効果が、どのように変化するか
を調べることとする。
【0034】先ず、水の存在下において、ペースト状の
大豆レシチン(リン脂質含有量:63重量%)を、ホス
フォリパーゼA2 (商品名レシターゼ:ノボ社製)を用
いて、酵素分解することにより、リゾホスファチジルコ
リンとホスファチジルコリンとの含有比率が37:63
である酵素分解レシチン(リン脂質含有量:56重量
%)を得た。次いで、この得られた酵素分解レシチン
(レシチン改質体)を、1重量%の配合割合で、下記表
1に示した各種の分散剤の1重量%と共に、60℃に加
温した大豆油に添加して、全体が均一になるように溶解
させた後、室温になるまで放置して、目的とする各種の
油脂組成物を得た。なお、各種の分散剤の中で、ショ糖
脂肪酸エステルは、三菱化学フーズ株式会社製のものを
使用し、またグリセリン脂肪酸エステルは、理研ビタミ
ン株式会社製のものを使用し、更にポリグリセリン脂肪
酸エステルは、阪本薬品工業株式会社製のものを使用
し、更にまたソルビタン脂肪酸エステルは、日光ケミカ
ルズ株式会社製のものを使用した。
【0035】そして、この得られた各種の油脂組成物に
ついて、それを4℃〜6℃で保存したときの状態を調
べ、その結果を、下記表1に併せ示した。なお、評価
は、油脂組成物中の沈殿の発生の有無により判断し、
◎:1ヶ月以上の保存後でも、清澄な状態であるもの、
○:1ヶ月以上の保存後に、少し混濁状態となっている
が、実用上、問題のないもの、△:2週間の保存後に
は、沈殿が生じ、実用上、使用が困難となるもの、×:
1週間の保存後には、沈殿が生じるもの、××:2日間
の保存後には、沈殿が生じるもの、×××:レシチン改
質体が、完全には分散、溶解しないもの若しくは調製
後、直ぐに沈殿を生じるものとして、評価した。
【0036】
【表1】
【0037】かかる表1の結果から明らかなように、レ
シチン改質体を含有してなる油脂組成物における沈殿・
混濁の発生は、本発明例1〜3の如き、ショ糖不飽和脂
肪酸エステルが添加されているものでは、有利に抑制さ
れている。しかも、比較例1との対比より、添加される
ショ糖不飽和脂肪酸エステルのHLBが3以下である
と、沈殿・混濁の発生が抑制されることは明らかであ
る。これに対して、ショ糖飽和脂肪酸エステルでは、H
LBに関係なく、沈殿防止効果は発揮されていない。ま
た、構成脂肪酸が不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸に関わら
ず、ショ糖脂肪酸エステルではない分散剤を用いて調製
された油脂組成物では、沈殿が生じ易いことが認められ
るのである。なお、ショ糖不飽和脂肪酸エステル以外の
分散剤で、唯一、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エ
ステルを用いた油脂組成物では、沈殿・混濁の防止効果
が多少認められるが、その油脂組成物の清澄度は、10
日前後と短く、実用に耐えるものではなかった。
【0038】また、レシチン改質体を得る際に用いた前
記ホスフォリパーゼA2 に代えて、ホスフォリパーゼA
1 (三共株式会社製)を用いて、酵素処理を行なって得
られたレシチン改質体についても、上記と同様な試験を
行なったところ、同様の結果が得られ、HLBが3以下
であるショ糖不飽和脂肪酸エステルを用いて調製された
油脂組成物のみが、沈殿抑制効果を示した。
【0039】実施例 2 この実施例では、レシチン改質体として分画物或いはそ
のリゾ化処理物を用いて得られる油脂組成物について、
その沈殿抑制効果を検討することとする。
【0040】先ず、高純度大豆レシチン(リン脂質含有
量95重量%以上)を原料として、これをエタノール抽
出し、そのエタノール抽出液から、ホスファチジルコリ
ンの含有割合が高いレシチン改質体(下記表2の試料N
o.1)を、またその抽出残渣より、ホスファチジルエ
タノールアミンの含有割合が高いレシチン改質体(下記
表2の試料No.2)を、それぞれ得た。一方、原料で
ある高純度大豆レシチンを、ホスフォリパーゼD(協和
発酵株式会社製)で酵素処理することにより、該高純度
大豆レシチンに含有されているホスファチジルコリン、
ホスファチジルエタノールアミンのリン酸基と塩基との
結合部位を切断し、以てそれらリン脂質の含有量を低減
すると共に、分解物であるホスファチジン酸の含有量を
増大させたレシチン改質体(下記表2の試料No.3)
を得た。
【0041】また、これらレシチン改質体(分画物)
を、前記実施例1と同様にして、ホスフォリパーゼA2
を用いて酵素処理することにより、各分画物に対応する
リゾ化処理物(下記表2の試料No.4乃至6)を得
た。
【0042】上記で得られたレシチンの分画物及びそれ
らのリゾ化処理物について、そのリン脂質組成を、下記
表2に示す。また、比較試料として、出発原料である高
純度大豆レシチンのリン脂質組成も、下記表2に併せ示
す。なお、かかる表2に示されたリン脂質組成は、各リ
ン脂質中のリン分の、総リン分に対する割合として求め
られるものであり、その各リン脂質中、ホスファチジル
コリン、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファ
チジン酸のリン分については、基準油脂分析試験法5.
3.3.1−86「リン脂質リン組成」に準ずる方法に
て求められ、またリゾホスファチジルコリン、リゾホス
ファチジルエタノールアミン及びリゾホスファチジン酸
については、そのままでは区別し難く、直接求めること
が出来ないところから、前記ホスファチジルコリン、ホ
スファチジルエタノールアミン及びホスファチジン酸の
リン分の減少を対応するリゾリン脂質のリン分として求
めた。なお、アセトン不溶分は、リン脂質分に相当す
る。
【0043】
【表2】
【0044】次いで、前記実施例1と同様にして、かく
して得られた各レシチン改質体の1重量%を大豆油に添
加して、均一に溶解、分散せしめた。なお、この際、分
散剤として、HLBが2のショ糖エルカ酸エステル(E
R−290:三菱化学フーズ株式会社製)を、下記表3
に示される配合割合において添加して、目的とする各種
の油脂組成物を得た。そして、ここで得られた各種の油
脂組成物について、それを4℃〜6℃で保存し、その性
状を前記実施例1と同様に評価して、その結果を、下記
表3に併せ示した。なお、評価は、前記実施例1と同様
な基準を用いて行なった。
【0045】
【表3】
【0046】かかる表3の結果から明らかなように、本
発明例では、HLBが3以下であるショ糖不飽和脂肪酸
エステルを分散剤として用いて、油脂組成物を調製した
ところから、通常のレシチンよりも沈殿を生じ易い、レ
シチンの分画物或いはそのリゾ化処理物が含有せしめら
れても、沈殿、混濁を生じることがないのである。これ
に対して、ショ糖不飽和脂肪酸エステルを用いずに調製
された、比較例の油脂組成物では、直ちに、レシチン改
質体の沈殿が生じ、実用にならないことが認められた。
【0047】それ故に、例えば、ホスファチジン酸の含
有割合が高められたレシチン改質体或いはそのリゾ化処
理物は、離型効果が優れており、しかも加熱時の着色や
臭いの発生がなく、また加熱時の油脂の飛びはね(スパ
ッタリング)の抑制効果において優れていることが報告
されている(特開昭64−27431号公報、特開平2
−27943号公報)のであるが、このように優れた効
果を有するレシチン改質体にしても、本発明で採用され
る分散剤、即ちHLBが3以下のショ糖不飽和脂肪酸エ
ステルを用いて油脂組成物を調製しない限りは、そのよ
うなレシチン改質体のみを含有せしめた油脂組成物で
は、沈殿の生成が早く、実用に適するものとはならない
のである。
【0048】実施例 3 この実施例においては、本発明に係るレシチン改質体含
有油脂組成物の数々の優れた効果の中から、特に離型性
を取り上げて、検討することとする。
【0049】先ず、前記実施例1で調製したレシチン改
質体(リゾ化処理物)及び実施例2で調製した前記表2
の試料No.4のレシチン改質体(分画物のリゾ化処理
物)を、実施例1の方法と同様にして、大豆油に添加
し、均一に溶解、分散せしめて、目的とする各種の油脂
組成物を得た。また、比較例として、レシチン(レシチ
ン改質体)を添加していない油脂組成物、及びレシチン
改質体の代りに、酵素処理をしていない通常のペースト
状レシチンを用いて、それを溶解、分散せしめた油脂組
成物を調製した。なお、油脂組成物を調製するに当た
り、レシチン改質体を大豆油に添加するときに、分散剤
として、HLBが2のショ糖エルカ酸エステル(ER−
290:三菱化学フーズ株式会社製)を、下記表4に示
される割合において、添加した。また、本発明例12に
おいてのみ、更にポリグリセリン縮合リシノレイン酸エ
ステル(CR−310:阪本薬品工業株式会社製)の
0.5重量%を添加した。
【0050】次いで、このようにして得られた各種の油
脂組成物について、その離型効果を調べ、その結果を、
下記表4に示した。なお、離型効果の評価に際しては、
先ず、鉄製の長方形フライパン(130mm×100m
m、厚さ:2.3mm)を、ガスこんろの中火で、30
秒間加熱した後、前記油脂組成物の0.3mLを前記フ
ライパンに入れ、全体に行き渡らせる。次に、よく溶い
てから、うらごしした全卵液の20gを、フライパンに
加えて、全面に広げ、20秒間中火で焼き、箸で巻き取
る。再び、よく混ぜてから、うらごしした全卵液の20
gを、フライパンに加えて、全面に広げ、20秒間中火
で焼き、箸で巻き取る。同様に、この操作を繰り返し、
こびりつかずに、箸で簡単に巻き取れる枚数を数えた。
そして、この一連の操作を、2回行ない、その平均枚数
で、離型効果を評価した。そして、得られた結果を、下
記表4に示した。
【0051】
【表4】
【0052】かかる表4の結果から明らかなように、本
発明に従う油脂組成物では、レシチン改質体が用いられ
ているところから、優れた離型効果を示すのであるが、
特に、本発明例10及び本発明例11の油脂組成物の比
較より明らかな如く、含有せしめられるレシチン改質体
の量が増えると、離型効果も高まることが認められ、ま
た、本発明例11及び本発明例12の油脂組成物の比較
より、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを添
加することによって、離型効果が格段に改善されること
が認められるのである。更に、レシチン改質体として、
本発明例10乃至12では、レシチンのリゾ化処理物が
用いられているのに対して、本発明例13では、レシチ
ンの分画物をリゾ化処理したもの、即ちリゾホスファチ
ジルコリンの含有量が増加せしめられたものが用いられ
ているところから、更に、優れた離型効果が発揮され得
ることとなるのである。
【0053】これに対して、比較例1の油脂組成物で
は、レシチンが添加されていないところから、また比較
例2の油脂組成物では、通常のレシチンが用いられてい
るところから、その離型効果が著しく劣っているのであ
る。
【0054】
【発明の効果】以上の説明より明らかな如く、本発明に
係るレシチン改質体含有油脂組成物では、通常のレシチ
ンに代えて、レシチンのリゾ化処理物、又はレシチンを
分画処理して得られる、ホスファチジルコリン、ホスフ
ァチジルエタノールアミン、或いはホスファチジン酸等
のレシチン構成リン脂質の濃度を高めた分画物若しくは
そのリゾ化処理物からなるレシチン改質体が添加、含有
せしめられているところから、レシチンの有する様々な
効果が有利に改善されていると共に、分散剤として、H
LBが3以下のショ糖不飽和脂肪酸エステルが添加され
ているところから、かかるレシチン改質体を添加するこ
とによって沈殿や分離が発生し易くなるという問題を、
効果的に解消し得るのであり、以てレシチンの機能を、
充分に発揮せしめ得ることとなるのである。
【0055】しかも、その添加、含有せしめられるレシ
チン改質体が、ホスファチジルコリンを50重量%以上
の割合で含有するもの、ホスファチジルエタノールアミ
ンやホスファチジン酸の含量が多いもの、或いはそれら
のリゾ化処理物等、従来の油脂組成物において含有せし
められていると非常に沈殿を生じ易いものであっても、
効果的に、その沈殿の発生を防止することが出来ること
となったのである。
【0056】また、有利には、本発明に係るレシチン改
質体含有油脂組成物には、ポリグリセリン縮合リシノレ
イン酸エステルが添加されることにより、特に、離型効
果が著しく向上せしめられることとなるのである。

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 油脂に、レシチンのリゾ化処理物、又は
    レシチンを分画処理して得られる、ホスファチジルコリ
    ン、ホスファチジルエタノールアミン、或いはホスファ
    チジン酸等のレシチン構成リン脂質の濃度を高めた分画
    物若しくはそのリゾ化処理物からなるレシチン改質体の
    0.01重量%〜15重量%を、分散剤として、該レシ
    チン改質体の100重量部に対して30重量部〜500
    重量部の割合の、HLBが3以下であるショ糖不飽和脂
    肪酸エステルを用いて、含有せしめてなるレシチン改質
    体含有油脂組成物。
  2. 【請求項2】 ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エス
    テルが、0.01重量%〜5重量%の割合において、更
    に添加されていることを特徴とする請求項1記載のレシ
    チン改質体含有油脂組成物。
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