JPH08294601A - 有機化合物の結晶化制御方法およびそれに用いる結晶化制御用固体素子 - Google Patents

有機化合物の結晶化制御方法およびそれに用いる結晶化制御用固体素子

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JPH08294601A
JPH08294601A JP7329688A JP32968895A JPH08294601A JP H08294601 A JPH08294601 A JP H08294601A JP 7329688 A JP7329688 A JP 7329688A JP 32968895 A JP32968895 A JP 32968895A JP H08294601 A JPH08294601 A JP H08294601A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 蛋白質等の生体高分子の結晶化を制御できる
方法を提供する。 【解決手段】 蛋白質等の生体高分子を含む緩衝溶液の
環境に応じ、価電子制御としてドーピングされたシリコ
ン結晶15を該緩衝溶液14中に浸漬し、該価電子制御
に応じて電気的状態の制御された該シリコン結晶の表面
に該高分子の結晶を析出させていく。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有機化合物の結晶
化を積極的に制御するための方法に関し、特に、荷電粒
子の移動を制御することのできる半導体基板等を用い
て、蛋白質を始めとする種々の生体高分子の結晶化を制
御するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】蛋白質を始めとする各種生体高分子およ
びそれらの複合体における特異的性質および機能を理解
する上で、それらの詳細な立体構造は、不可欠な情報と
なっている。たとえば、基礎生化学的な観点から、蛋白
質等の三次元構造の情報は、酵素やホルモン等による生
化学系での機能発現のメカニズムを理解する上で基礎と
なる。また、産業界のうち特に薬学、遺伝子工学、化学
工学の分野においては、三次元構造は、ドラッグデザイ
ン、プロテインエンジニアリング、生化学的合成等を進
める上で合理的な分子設計に欠かせない情報を提供す
る。
【0003】このような生体高分子の原子レベルでの三
次元立体構造情報を得る方法としては、現在のところX
線結晶構造解析が最も有力かつ高精度な手段である。近
年のX線光源・回折装置のハードウェア上の改良による
測定時間の短縮、測定精度の向上に加え、コンピュータ
の計算処理速度の飛躍的な向上により、解析スピードが
大幅に向上してきており、今後もX線結晶解析を主流と
して三次元構造が明らかにされていくものと思われる。
【0004】一方、X線結晶構造解析により生体高分子
の三次元構造を決定するためには、目的とする物質を抽
出・精製後、結晶化することが必須となる。しかし、現
在のところ、どの物質に対しても適用すれば必ず結晶化
できるといった手法および装置がないため、勘と経験に
頼ったトライアンドエラーを繰返しながら結晶化を進め
ているのが実情である。生体高分子の結晶を得るために
は、非常に多くの実験条件による探索が必要であり、結
晶成長がX線結晶解析の分野での最も大きなボトルネッ
クとなっている。
【0005】蛋白質等の生体高分子の結晶化は、通常の
無機塩等の低分子量化合物の場合と同様、高分子を含む
水または非水溶液から溶媒を奪う処理を施すことによ
り、過飽和状態にして、結晶を成長させるのが基本とな
っている。このための代表的な方法として、(1)バッ
チ法、(2)透析法、(3)気液相間拡散法があり、試
料の種類、量、性質等によって使い分けられている。
【0006】バッチ法は、生体高分子を含む溶液に、水
和水を奪う沈澱剤を直接添加して、生体高分子の溶解度
を低下させ、固相へ変化させる方法である。この方法で
は、たとえば固体の硫酸アンモニウム(硫安)がよく使
用される。この方法は、溶液試料を大量に必要とし、塩
濃度、pHの微妙な調整が困難であること、さらに操作
に熟練を要し、再現性が低いといった欠点を有する。透
析法は、バッチ法の欠点を改善した方法で、たとえば図
45に示すように、透析チューブ51の内部に生体高分
子を含む溶液52を密封し、透析チューブ外液53(た
とえば緩衝溶液)のpH等を連続的に変化させ結晶化を
行なう方法である。この方法によれば、内外液の塩濃
度、pH差を任意の速度で調節可能であるため、結晶化
の条件を見出しやすい。気液相間拡散法は、たとえば図
46に示すように、カバーガラス等の試料台61上に、
試料溶液の液滴62を載せ、密閉した容器63内にこの
液滴と沈澱剤溶液64を入れることにより、両者間の揮
発成分の蒸発によって緩やかに平衡を成立させる手法で
ある。
【0007】しかし、蛋白質等の生体高分子の結晶化に
は、前述したように種々の問題点があるのが実情であ
る。第1に、結晶性が良好でないことである。生体高分
子には、他の物質の結晶とは異なり、多量の溶媒(主と
して水)が含まれている(≧50体積%)。この溶媒
が、無秩序であり、かつ結晶中で分子間の空隙となって
いる部分を容易に可動し得る。また、分子が巨大である
にもかかわらず、結晶中で広範囲な分子間のパッキング
コンタクトがほとんどなく、わずかの分子−分子間コン
タクトまたは水分子を介した水素結合によるコンタクト
しか存在していない。このような要因のため結晶性は良
好でない。第2に、結晶条件に非常に敏感であることで
ある。生体高分子は、個々の分子表面間の相互作用によ
り、溶媒中で安定化されている一方、分子表面の電荷分
布、特にアミノ酸の分子表面近傍でのコンフォメーショ
ン等は、環境、すなわち溶液のpH、イオン強度、温
度、緩衝溶液の種類、誘電率等により大きく変化する。
したがって、結晶化プロセスは、複雑な種々の条件の絡
み合ったマルチパラメータプロセスとなり、どの物質に
対しても適用できる統一的な手法が確立できていない。
また蛋白質については、水溶性蛋白質に比べ、生化学的
に非常に重要であるにもかかわらず、疎水性の膜蛋白質
の結晶化が、現在、非常に困難であり、結晶化を行ない
さらに高分解能の解析に成功した例はこれまでわずか2
件のみである。
【0008】以上のように、蛋白質を始めとする生体高
分子およびこれらの複合体の結晶化は、学術および産業
上の重要なプロセスであるにもかかわらず、これまで試
行錯誤を繰返しながら進められてきたため、X線結晶構
造解析の最大のネックとなっている。したがって、今後
結晶化の基本原理を理解して、どの分子に対しても適用
し得る結晶化技術を開発する必要がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、上述
したように多様な特性を有するためにどの物質に対して
も適用できる手法がなく、試行錯誤を繰返しながら進め
られてきた従来の結晶化プロセスの欠点を、技術的に解
消することである。
【0010】具体的には、本発明は、種々の生体高分子
および生体高分子から主として構成される生体組織の結
晶化の初期過程における核形成を制御し、これにより微
結晶の大量生成を抑制または制御する方法、ならびにX
線構造解析を可能にし得る大型の結晶にまで成長させる
技術を提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明に従う有機化合物
の結晶化制御方法は、溶媒中に含まれる有機化合物の結
晶化を制御するための方法であって、有機化合物を含む
溶媒の環境に応じて、価電子制御が可能な固体素子を溶
媒中に浸漬し、価電子制御に応じて電気的状態の制御さ
れた固体素子の表面において有機化合物の結晶を析出さ
せることを特徴とする。
【0012】本発明は、脂肪族化合物、芳香族化合物
等、種々の有機化合物を結晶化するため用いることがで
きる。また本発明は、特に、有機化合物の中で、アミノ
酸、蛋白質、脂質、糖質、核酸などの生体を構成する化
合物、ならびにこれらの複合体および誘導体を結晶化さ
せるため適用される。
【0013】本発明では、価電子制御が可能な固体素子
の表面に有機化合物を析出させる。そのような固体素子
として、半導体基板を用いることができる。半導体に
は、Ge、Si等の単体のもの、Ga−As、CdS等
の化合物のものが含まれる。また本発明では、価電子制
御が可能なものであれば、その他の材料を用いることも
でき、たとえば、チタン酸バリウム、チタン酸ストロン
チウム等の強誘電体を用いることもできる。
【0014】さらに、該固体素子である半導体基板は、
PN接合部を有することができる。すなわち、PN接合
を有する半導体デバイス(素子)を、固体素子として用
いることができる。
【0015】一方、該固体素子は、溝を有することがで
き、溝において、有機化合物を析出させることができ
る。PN接合を有する半導体基板を固体素子として用い
る場合、溝においてPN接合部が露出していることが好
ましい。
【0016】なお本発明において、溶媒は、結晶化すべ
き有機化合物を保持するための液体であれば特に限定さ
れるものではない。溶媒として、多くの場合、水または
緩衝塩溶液等の水溶液が用いられるが、その他の有機溶
媒等を用いることもできる。
【0017】本発明の方法では、用いる固体素子に空間
電荷層を形成し、該空間電荷層に基づく表面電位によっ
て、有機化合物の結晶化を制御することができる。ま
た、該表面電位を固体素子の表面の部位によって異なら
しめ、それにより、固体素子表面の特定の領域で所望の
結晶化を行なうことができる。
【0018】固体素子の表面電位は、固体素子中にドー
ピングされる不純物の濃度によって制御することができ
る。固体素子中に含有される不純物の濃度は、通常、固
体素子の表面部分と内部とで異なっている。
【0019】また、固体素子の表面部分において、第1
の所定領域から第2の所定領域まで、不純物の濃度を連
続的または段階的に減少または増加させることができ
る。さらに、固体素子の表面部分において、不純物濃度
は、特定の領域において極大もしくは最大または極小も
しくは最小となるよう設定することもできる。
【0020】本発明の方法では、固体素子の表面部分に
おいて、所定の濃度で不純物を含有する第1の領域と、
第1の領域よりも高い濃度で不純物を含有する第2の領
域とを混在させることができ、第1の領域および第2の
領域のいずれかで結晶化を促進し、残りの領域で結晶化
を抑制することもできる。このような第1の領域と第2
の領域は、2次元的に配列することができる。
【0021】また、本発明に従い、上述してきた方法に
用いる結晶化制御用固体素子を提供することができる。
このような素子は、溶媒中に含まれる有機化合物の結晶
化を制御するため、所定の表面電位をもたらすよう、少
なくとも表面部分に不純物が添加されている半導体基板
を備える。
【0022】
【発明の実施の形態】蛋白質を始めとする生体高分子物
質は、他の低分子化合物と異なり比重が非常に大きい。
そして溶液内においては、ほとんど幾何学的に特異的な
構造および静電的な相互作用(静電斥力・引力、ファン
デルワールス力)によって分子間同士の認識が行なわれ
ている。静電的なエネルギに基づく分子間の相互作用に
おいては、個々の分子最表面でのわずかの空間的な電荷
分布の相違が、分子間の認識度合、分子集合体の作りや
すさに決定的な影響を及ぼすことが予想される。したが
って、比重の大きな生体高分子が、溶液中で沈降、凝集
する際に、周囲の溶液の密度が局部的に変化し、低密度
溶液が上昇して対流を引起こすことにより、均一な結晶
成長が妨げられると考えられる。さらには、結晶核が形
成されたとしても、核分子表面の分子構造、電荷分布
が、分子の変性(立体構造が変形した状態になること)
等の影響により、同一でなくなってくれば、核の周囲に
集合する各分子は、互いに緩く結合することになり、よ
って結晶性が低下するものと考えられる。
【0023】本発明では、結晶化すべき有機化合物を含
む液中において、結晶核を安定して生成させるため、価
電子制御が可能な固体素子を液中に浸漬する。該固体素
子は、液と接触する表面から内部に向かって、あるいは
該固体素子の断面内において、価電子制御により電子お
よび正孔の濃度を制御することができ、それによって固
体素子表面の電気的性状を制御することができる。たと
えば、結晶化の対象となる分子の有する実効表面電荷の
極性および電荷量に対して、少なくとも1分子当たりの
実効電荷量と同等かあるいはそれ以上の制御された電荷
量を有する固体素子をもたらすことができる。また、該
固体素子における価電子制御により、結晶化の対象とな
る分子に対して、オーミック特性、非オーミック特性、
オーミック特性と非オーミック特性の空間的に混在した
特性のうち少なくとも1つ以上の電気的特性を有する固
体素子表面をもたらすことができる。このような価電子
制御は、たとえば、半導体結晶中に所定の濃度で所定の
領域にドーパントを導入することにより可能となる。本
発明によれば、このような固体素子の表面に電気的作用
によって結晶核を固定し、該固体素子の表面において結
晶の成長を制御することができる。
【0024】たとえば図1に、本発明に従い、固体素子
表面において結晶核が固定され、結晶が成長していくよ
うすを模式的に示す。本発明では、図1(a)に示すよ
うに、価電子制御により、所定の電気的状態とされた固
体素子1の表面に、結晶核2が静電的な作用によって固
定される。そして、図1(b)に示すように、蛋白質等
の有機化合物は、静電的な相互作用により、固体素子表
面に凝集し、結晶核の生成が促進され、結晶の成長がも
たらされる。したがって、固体素子表面の電気的特性を
制御することにより、結晶化の制御が可能となる。たと
えば、固体素子表面に固定される結晶核の種類、量、配
列密度等を価電子制御により調整することができ、それ
によって結晶化の制御が可能となる。また、生成された
結晶核が固体素子表面に固定されているため、溶液内の
対流等による核の微小な変動が抑制され、核の形成に従
って規則的に分子が集合し、結晶性が向上することも期
待される。
【0025】また、一般に電解質溶液内における帯電物
質または分子の凝集性は、それらの間の電気二重層斥力
とファンデルワールス力との和に依存するため、物質ま
たは分子同士を凝集させる場合、電解質溶液中に添加す
る表面電位を調整するための塩濃度をコントロールする
ことが非常に重要となるが、本発明によれば、固体素子
表面の静電特性は予め価電子制御により調整できるた
め、塩濃度の調整が容易または不要になるという長所も
有する。
【0026】このような目的に供される固体としては、
上述したような静電特性を有し、電荷量および極性の制
御可能な物質で、さらに溶液中で化学的に安定な物質で
あれば、どのような物質でもよいが、好ましい材料の1
つとして半導体結晶であるシリコンが挙げられる。以
下、シリコン結晶を用いた場合について予想される結晶
化のメカニズムを以下に説明する。
【0027】たとえば、負の実効電荷を有する生体高分
子を含む電解質水溶液から結晶を析出させることを考え
る。固体素子として、価電子制御されたN型またはP型
のシリコン結晶を用いることができる。N型またはP型
のシリコン結晶を電解質水溶液にそれぞれ浸漬すると、
N型シリコン表面に対してはショットキー障壁が形成さ
れる一方、P型シリコン表面に対してはオーミック性接
触が得られると考えられる。N型シリコンの表面には、
水溶液の電解質濃度に依存した表面電位が発生するとと
もに、内部に空間電荷層領域が形成される。この空間電
荷量は、N型シリコンのドーパント濃度にも依存する。
したがって、電解質水溶液中の負電荷を有する生体高分
子は、N型シリコンの有する正の空間電荷を少なくとも
補償するまでシリコン表面に凝集し続けることが予想さ
れる。一方、P型シリコン表面では、負の電荷を有する
分子に対して、シリコン側から常に正孔が供給されるた
め(オーミック特性)、生体高分子は、常にシリコン表
面に凝集し続けることが予想される。よって、空間電荷
層領域が形成されるシリコン表面に対しては、生体高分
子の凝集、結晶化が制限されて起こるのに比べ、オーミ
ック性接触が生成されるシリコン表面に対しては、生体
高分子の凝集が無制限に進行することが考えられる。以
上、負の実効電荷を有する分子の結晶化について説明し
たが、正の実効電荷を有する分子の結晶化の場合、N型
シリコンおよびP型シリコンに対して上述と逆のメカニ
ズムで結晶化が進むと考えられる。
【0028】本発明に用いられるN型およびP型のシリ
コン結晶は、通常のLSIプロセスにて用いられるシリ
コンウェハと同等の特性を有するものでよい。シリコン
結晶の比抵抗は、0.001〜1000Ωcm程度の範
囲内であればよく、0.001〜100Ωcmの範囲の
ものがより望ましい。またシリコン結晶の表面は、ミラ
ーポリッシュされたものが結晶核の制御を行なう上で好
ましい。
【0029】また、表面から内部に向かって、N型およ
びP型となるように価電子制御されたシリコン結晶(P
型とN型の積層構造)を浸漬させることもできる。この
場合、電解質水溶液中において負の実効電荷を有する分
子に対し、シリコン表面は順バイアス状態となってシリ
コン側から常に正孔が表面に供給される。これにより、
負の実効電荷を有する分子はシリコン表面に静電的に凝
集することになると考えられる。一方、表面から内部に
向かってP型およびN型となるよう価電子制御されたシ
リコン結晶(N型とP型の積層構造)を用いることもで
きる。この場合、負の実効電荷を有する分子を含む電解
質溶液に対して、シリコン表面は逆バイアス状態となる
ため、PN接合部に空乏層が形成され、したがって空間
電荷が発生する。この空間電荷は、価電子制御を行なう
のに必要な不純物濃度およびその勾配、さらに表面電位
に依存する。よって、負の実効電荷を有する分子は、こ
のシリコンの空間電荷量と補償するまで表面に凝集する
ものと考えられ、表面から内部に向かってN型およびP
型となるよう価電子制御されたシリコンとは異なる結晶
成長がなされることが予想される。つまり、順バイアス
されたシリコン表面に対しては、分子の凝集が無制限に
進行するのに対し、空間電荷層領域が形成される逆バイ
アスされたシリコンに対しては、分子の凝集、結晶化が
制限されて、電荷が補償されるまで進行することと考え
られる。
【0030】このような手法に用いられるN型およびP
型のシリコン結晶は、通常のLSIプロセスにて用いら
れるシリコンウェハと同等の特性を有するものでよい。
シリコン結晶の比抵抗は、0.001〜1000Ωcm
程度の範囲内であればよく、0.001〜100Ωcm
の範囲のものがより望ましい。また結晶の表面は、ミラ
ーポリッシュされることが余分な結晶核の生成を抑制す
る上で好ましい。
【0031】本発明において、シリコン基板表面に不純
物を含有する層を形成する際、当該層の厚みは、望まし
くは0.1〜200μmであり、より望ましくは1〜5
0μmの範囲である。これ以外の範囲では作製が容易で
なかったり、効果的でなくなるため望ましくない。
【0032】本発明にて用いられるN型およびP型に価
電子制御されたシリコンの作製方法として、種々のもの
が考えられ、どのような方式のものでもよいが、最も簡
便で不純物濃度の制御が正確に行なえる方法として、イ
オン注入法が挙げられる。この方法の場合、P型および
N型の価電子制御は、それぞれ、周期律表第III族お
よび第V族に属する元素のイオンをシリコン中に注入、
アニールすることによって容易に行なうことができる。
P型にするための第III族元素としてB、Al、G
a、In、Tl等を挙げることができ、特にBが一般的
である。N型にするための第V族元素としてN、P、A
s、Sb、Bi等を挙げることができ、特にP、As、
Sbが一般的である。
【0033】本発明において、PN接合を生成する際、
その厚みは、たとえば次のとおりが好ましい。N型基板
上にP型シリコン層を形成する場合は、N型のシリコン
表面にP型のシリコン層を好ましくは1〜200μm、
より好ましくは3〜50μmの範囲で形成するのがよ
い。これ以外の範囲では作製が容易でなかったり、効果
がなくなったりするため望ましくない。またP型基板上
にN型シリコン層を形成する場合も同様であり、P型シ
リコンの表面に同様な厚みのN型層を形成するのが望ま
しい。
【0034】また本発明において、価電子制御された固
体素子表面からその内部に向かって、等方的あるいは異
方的エッチングにより凹状の溝部を設けてもよい。該固
体素子には、その内部に、価電子制御のための不純物元
素を少なくとも1種以上含有させることができる。たと
えば、固体をシリコン結晶とし、その表面から内部に向
かってN型、P型の不純物層を形成し(P型シリコン上
にN型のドーピング層を形成することと同一)、これを
エッチング加工してP型層に十分到達するように溝を形
成することができる。この場合、溝断面にはN/P接合
に基づく空間電荷層の領域が露出することになる。この
固体を、生体高分子を含有する電解質水溶液中に浸漬す
ると、比重の大きな生体高分子の凝集体は、固体最表面
および溝部に集合して結晶核を形成することになる。そ
して、溝部の両側壁には、空間電荷層の領域が存在する
ため、電解質水溶液中の可動電解質イオンおよび水和水
に、静電的な引力が作用し、溝部内での対流が抑制され
ることになる。溶液内での対流速度の変動は、結晶核へ
の分子の拡散律速による供給を変調するため、結晶性に
悪影響を及ぼすと考えられている。したがって、このよ
うに溝部を形成することにより、溶液内の対流が抑制さ
れるため、表面に規則的に集合する分子の結晶性は向上
することが期待される。
【0035】本発明において、シリコン等に形成される
溝部は、等方性または異方性エッチングによって形成す
ることができる。いずれの方法においても、溝の深さ
は、表層に形成された不純物層の厚み以上、すなわち、
好ましくは1〜200μm以上、より好ましくは3〜5
0μm以上の範囲にて形成されるのがよい。これ以外の
範囲では、作製が容易でなくなる場合が多い。また、固
体素子表面における溝の幅は、生成させるべき結晶のサ
イズと関係してくるが、通常最大で1〜2mm程度であ
ればよく、場合によっては1mm以下でもよい。等方性
または異方性エッチングとしては、一般的な酸、アルカ
リの化学薬品を用いた湿式法、および反応ガスを用いた
ドライエッチング法が適用でき、溝部の形状、幅、およ
び深さに応じてこれらを適宜使い分けることができる。
【0036】以上、価電子制御が容易な半導体結晶シリ
コンを用いた例について説明したが、本目的を達成する
ため、他の同様の機能を有する物質を適宜用いることが
できる。また、溶液中において安定であれば、半導体結
晶でなくてもどのような物質も用いることができ、たと
えば電荷分布の制御された無機化合物、有機化合物、有
機高分子等を結晶化のための固体素子の候補として挙げ
ることができる。
【0037】本発明の技術は、たとえば、生体高分子の
機能を応用した分子デバイスや免疫反応模倣デバイスの
作製に応用し得ると考えられる。たとえば、シリコンの
固体表面を微細加工し、本発明に従って、各種の生体高
分子を表面に固定すれば、たとえばレセプタとして働く
生体高分子からの情報を半導体デバイスで検出し、電気
的に処理を行なうことのできる装置を提供することがで
きると期待される。シリコンを用いれば、集積回路の技
術をそのまま応用することができ、種々の反応のセンシ
ングや信号の制御等がワンチップ化できるといった利点
がある。このようなデバイスの提供に当たり、本発明に
従う固体素子表面への結晶核の固定および結晶成長のプ
ロセスが有用であると考えられる。
【0038】また、生体高分子は、分子間の認識におい
て静電相互作用および立体特異性を利用している。本発
明に従う固体素子表面への分子の静電的固定は、上述の
静電相互作用に対応させることができる。そして、本発
明で固体素子の溝部にこの立体特異性と似た作用を持た
せれば、固体素子上での特異的な分子の固定、結晶成長
が可能となると考えられ、これに基づき、生体高分子を
用いた電子デバイスが可能になると期待される。
【0039】図2および図3に、本発明を行なうための
より具体的な装置を示す。図2に示す装置では、容器1
1内に緩衝溶液12が収容され、その中に透析膜チュー
ブ13が設けられている。透析膜チューブ13内には、
生体高分子を含む母液14とともに、結晶化制御用の固
体素子、たとえば所定の濃度の不純物がドーピングされ
たシリコン結晶15が収容されている。透析膜チューブ
13は、パッキン16で密封され、緩衝溶液12に浸漬
される。容器11の開口は、フィルム17によって覆わ
れている。この装置において、透析が進められるととも
に、シリコン結晶15上に母液14から生体高分子の結
晶が析出されていく。
【0040】図3に示す装置は、容器21(たとえばガ
ラス製)内で、本発明に従い固体素子上に結晶を析出さ
せるものである。容器21の下部には、緩衝溶液22が
収容される。一方、容器21の上部には、シリコン結晶
25が載置され、その上に生体高分子を含む母液の液滴
24が載せられる。緩衝溶液22および液滴24を載せ
たシリコン結晶25を収容する容器21の開口は、キャ
ップ27によって密閉される。そして、緩衝溶液22と
液滴24の間では、両者における揮発成分の蒸発によっ
て、緩やかな平衡が成立しており、本発明に従いシリコ
ン結晶25上で生体高分子の結晶析出がなされる。
【0041】本発明において用いられるシリコン結晶
は、たとえば図4に示すような構成とすることができ
る。図4(a)に示すシリコン結晶30では、P型シリ
コン31上にN型シリコン32が形成されているか、ま
たはN型シリコン31上にP型シリコン32が形成され
ている。この積層構造により、PN接合部が形成され
る。図4(b)に示すシリコン結晶35では、P型また
はN型シリコン36上に、N型またはP型領域37が、
形成されている。いずれにおいても、表面30aおよび
35aは、鏡面研磨されていることが好ましい。
【0042】上述してきたところからもわかるように、
本発明では、固体素子に空間電荷層を形成し、この空間
電荷層に基づく表面電位によって、結晶化を制御するこ
とができる。表面電位は、たとえば、本発明の固体素子
として用いられる半導体基板中の不純物濃度によって制
御できる。たとえば図5(a)に示すように、高抵抗の
半導体基板71を準備し、図5(b)に示すように表面
部分に不純物を導入して低抵抗の領域71a(斜線で示
す)を形成することにより、所定の表面電位を示し得る
固体素子が得られる。この固体素子において、表面部分
の不純物濃度とその内部の不純物濃度は異なり、表面部
分に空間電荷層が形成されている。
【0043】また、固体素子表面の部位によって表面電
位を異ならしめ、それにより、固体素子表面において結
晶化に適した表面電位を有する特定の領域で、所望の結
晶化を行なうことができる。このような表面電位の設定
も、固体素子中に含有される不純物の濃度によって制御
することができる。以下、不純物の濃度を変えて固体素
子表面での結晶化を制御する具体例について述べてい
く。
【0044】まず、図6に示すように、結晶化を制御す
る固体素子1の表面部分において、不純物濃度が高い領
域1a(斜線で示す)と、不純物濃度が低い領域1bと
を混在させることができる。固体素子1としては、通
常、シリコン等の半導体基板が用いられる。不純物濃度
は、結晶化の対象となる分子が有する実効表面電荷の極
性および荷電量に応じて設定される。結晶化の際に溶媒
に接触する表面において、不純物濃度の高い表面領域
は、低抵抗であり、不純物濃度の低い表面領域は、高抵
抗である。これにより、生体高分子等の有機化合物が静
電的な相互作用によって固体素子表面に凝集する際、結
晶核の生成が空間的に制御されることになる。すなわ
ち、高抵抗の領域と低抵抗の領域とで、結晶化の態様
(特に結晶化速度)が異なり、いずれかの領域で結晶化
を促進させ、残りの領域で結晶化を抑制することができ
る。これにより、固体素子の特定の場所において、所望
の態様の結晶化が可能になる。また、特定の領域で生成
された結晶の核は、固体素子表面に固定され、溶媒内の
対流等による核の微妙な動きが抑制される。このため、
核の表面に規則的に分子が集合し、結晶性が良好となる
ことが期待される。
【0045】不純物濃度の異なる領域を有する固体素子
の具体例として、たとえば図7に示すものを挙げること
ができる。図7(a)は、低抵抗N(P)型シリコン8
1内に、高抵抗N(P)型シリコン82の領域が形成さ
れている例である。図7(b)は、逆に高抵抗N(P)
型シリコン82内に低抵抗N(P)型シリコン81の領
域が形成されている例である。図7(c)では、低抵抗
N(P)型シリコン81上に、高抵抗N(P)型シリコ
ン82のパターンが形成されている。図7(d)では、
高抵抗N(P)型シリコン82上に低抵抗N(P)型シ
リコン81の層が形成され、その層の一部に溝83が形
成されている。溝83の底において、高抵抗N(P)型
シリコン82が露出しているため、低抵抗シリコン81
内に高抵抗N(P)型シリコンが形成された構成となっ
ている。また、溝は、図7(e)に示すような形状とす
ることができる。図7(e)に示す固体素子では、高抵
抗N(P)型シリコン82上にV字形状の溝を有する低
抵抗N(P)型シリコン81の層が形成され、溝の底か
ら高抵抗N(P)型シリコン82が覗いている。これら
高抵抗の領域および低抵抗の領域は、上述したように、
シリコン中に含有される不純物の濃度を制御することに
よって形成される。
【0046】図7(a)および(b)に示す固体素子
は、通常の半導体装置の製造プロセス等に従って、シリ
コン基板表面にレジスト等のマスクを予め形成し、局所
的にイオンを注入することによって形成することができ
る。図7(c)、(d)および(e)に示す固体素子
も、通常の半導体装置の製造プロセスにおいて用いられ
る技術によって作製されるが、これらの場合、シリコン
基板表面に、まず全面的にイオンを注入し、その後、レ
ジスト等を用いた局所的なエッチングにより必要なパタ
ーンを形成する。溝が形成された固体素子の場合、結晶
の核は、平面上よりも溝部内に流れ込み、溝の中で安定
化されやすい。したがって、溝によって結晶化が促進さ
れる。これらの固体素子の中で、(a)および(b)
は、1μm以下の微細な領域を形成するのに有利であ
る。一方、それほど微細化の必要がなければ、(c)〜
(e)でも十分である。また、(c)〜(e)では、シ
リコン表面に溝が形成されているため、たとえばマイク
ロマシンに結晶化機能を付与する場合などに有利に適用
できると考えられる。なお、以上、シリコン基板を用い
た例を示したが、他の半導体や価電子制御が可能なその
他の材料を用いても、同様の固体素子を得ることができ
る。
【0047】固体素子表面に低抵抗の領域と高抵抗の領
域を混在させた場合、次に示すような態様で結晶化を制
御できる。まず、固体素子の表面が、均一な抵抗値の表
面であった場合、図8(a)に示すように、その表面に
おいて結晶の核がランダムに生成し、結晶成長が起こ
る。このように固体素子表面の任意の場所において結晶
成長が起こると、比較的小さな結晶が多く生成されやす
い。一方、図8(b)に示すように、低抵抗の領域91
内に、高抵抗の領域92を点在させると、領域によって
結晶の生成の仕方が異なってくる。たとえば、高抵抗の
領域に対して結晶化しやすい条件(荷電状態など)を備
える物質の場合、高抵抗領域92で選択的に結晶の核が
形成され、他の領域では結晶核の生成は抑制される。し
たがって、高抵抗領域92上で選択的に結晶の成長が進
み、結晶も比較的大きなものとなる。このように、結晶
核が生成する場所を限定することで、結晶化の空間的制
御が可能となり、また生成される結晶の大きさも制御で
きるようになる。
【0048】また、本発明では、固体素子表面におい
て、不純物濃度が異なる領域を2次元的に配列すること
ができる。すなわち、固体素子表面内において、所定の
パターンで不純物濃度が異なる領域を配置することがで
きる。不純物濃度は、結晶化の対象となる分子の有する
実効表面電荷の極性および荷電量に応じて設定される。
これにより、結晶化すべき分子が静電的な相互作用によ
って固体素子表面に凝集する際、分子表面の電荷分布
が、溶媒のpHや分子の変性等によって微妙に変化して
も、素子表面には、必ず分子の実効表面電荷と補償する
空間電荷が誘起されている。そして、結晶核の2次元的
な生成が容易にかつ優先的に行なわれることが期待され
る。また、生成された結晶核が素子表面に固定され、溶
媒内の対流等による核の微小な動きを抑制できるため、
2次元的に配列された結晶核の表面に規則的に分子が集
合し、結晶性が良好となることが期待される。
【0049】不純物濃度が異なる領域を2次元的に配列
した固体素子の具体例を以下に示す。たとえば、図9に
示す固体素子では、シリコン基板91において不純物濃
度が高い領域91a(高不純物領域)の中に、不純物濃
度が低い領域91b(低不純物領域)がマトリックスを
形成するように規則的に配列されている。低不純物領域
91bの縦および横の列において、領域の間隔はほぼ等
しい。図10は、図9に示す固体素子の一部の断面を示
している。シリコン基板91においてその表面部分に低
不純物領域91bがほぼ等間隔で形成されている。図1
0に示す素子の部分における表面電荷密度の分布を図1
1に示す。このような固体素子は、たとえば次のように
して作製することができる。図12(a)に示すよう
に、不純物濃度の低いシリコン基板91を準備し、図1
2(b)に示すように、その上にレジスト膜92を形成
する。通常の方法によって、レジストパターンを形成し
(図12(c))、その後、不純物のイオン注入を行な
う(図12(d))。次いで、レジストを除去すれば、
高不純物領域91a内に低不純物領域91bが配置され
た結晶化制御用固体素子が得られる(図12(e))。
【0050】また、図13に示すようなプロセスによっ
て結晶化制御用固体素子を作製することもできる。不純
物濃度の低いシリコン基板91を準備した後、その表面
全体に不純物のイオン注入を行ない、高不純物領域91
aを形成する(図13(a)、(b)および(c))。
次に、その上に酸化膜93を形成し(図13(d))、
その後、レジスト膜92を堆積してパターンを形成する
(図13(e))。レジスト膜で覆われていない酸化膜
の部分をエッチングによって除去し(図13(f))、
次いでレジストパターンを除去する(図13(g))。
酸化膜93を介して、シリコン基板の高不純物領域91
aを異方性エッチングすることにより、溝94を形成し
ていく(図13(h))。酸化膜を除去することによ
り、V字状の溝94を有する結晶化制御用固体素子が得
られる(図13(i))。この固体素子では、ほぼ等間
隔で形成された溝94の底から、低不純物領域91bが
覗いており、図9に示すと同様に、高不純物領域の中に
低不純物領域が配列された構成となっている。以上に示
す固体素子では、シリコン基板を用いたが、価電子制御
が可能な他の半導体やその他の材料を用いることができ
る。また、不純物濃度の異なる領域の配列パターンは、
対象となる分子の結晶系等に応じて変えることができ
る。
【0051】タンパク質分子の結晶生成に関しては、そ
の核生成の初期過程が重要であるとの報告がなされてい
る。Yonath等は、Bacillus stear
othermophilusより抽出された巨大なリボ
ソームサブユニットの結晶化初期過程を電子顕微鏡によ
り観察している。それによれば、結晶化が進行するため
には、初期過程として、各分子が2次元的な規則構造
(編み目状、星状、千鳥格子状等)をとって凝集するこ
とが必須であると述べている(Biochemistr
y International,Vol.5,629
−636(1982))。これがすべての物質に共通し
て必須であるかどうかは不明であるが、一般にタンパク
質分子は分子間相互作用が弱く、しかも分子表面が局部
的に帯電しているため、凝集しにくいことを考慮する
と、結晶化の初期過程において核となる分子を結晶が形
成しやすい状態で2次元的に配列すれば、その後の結晶
の成長は、これを核としてエピタキシャル的にスムーズ
に進行するものと考えられる。以上では、不純物濃度
が、特定の領域において極端に変化する例を示したが、
不純物濃度は、固体素子において段階的にまたは連続的
に変化してもよい。図14は、不純物濃度が段階的に変
化する具体例を示している。図14に示す固体素子で
は、高抵抗のシリコン基板101の表面部分に、厚みD
(μm)で、不純物濃度の異なる3つの領域が形成され
ている。第1の領域101aが最も不純物濃度が低く、
第2の領域101b、第3の領域101cの順で不純物
濃度が高くなっている。不純物濃度の高低は、図におい
て垂直線の密度で表現されており、垂直線の密度が最も
高い第3の領域101cが最も不純物濃度が高い。図1
4に示す固体素子における表面位置と不純物濃度との関
係、および表面位置と表面電位との関係をそれぞれ図1
5(a)および図15(b)に示す。図15(a)およ
び図15(b)において、横軸は固体素子上の位置を示
し、縦軸はそれぞれ不純物濃度および表面電位を示して
いる。
【0052】一方、以下に示すように、不純物濃度を連
続的に変化させることもできる。図16に示す固体素子
では、たとえばシリコン等の半導体基板において、不純
物濃度の低い高抵抗層112上に、不純物濃度の高い低
抵抗層111が形成され、低抵抗層111における不純
物は、濃度勾配を有している。すなわち、図の垂直線の
密度で示されるように、向かって左側の領域から右側の
領域にいくに従って、不純物の濃度は一定の割合で増加
している。固体素子の表面位置における不純物濃度の変
化を図17(a)に、表面電位の変化を図17(b)に
それぞれ示す。図に示すように、不純物濃度は一定の勾
配で増加し、表面電位は一定の勾配で減少している。
【0053】また、図18に示す固体素子では、高抵抗
層112上に形成された低抵抗層121において、中央
部に、不純物濃度が最も低い領域が存在し、そこから遠
ざかるに従って不純物濃度が高くなっている。表面位置
と不純物濃度との関係、表面位置と表面電位との関係を
それぞれ図19(a)および図19(b)に示す。
【0054】図20に示す固体素子では、逆に、高抵抗
層112上に形成された低抵抗層131において、中央
部に不純物濃度が最も高い領域が形成され、そこから遠
ざかるに従って、不純物濃度が低くなっている。この固
体素子における表面位置と不純物濃度との関係および表
面位置と表面電位との関係を、それぞれ図21(a)お
よび(b)に示す。
【0055】結晶化が進むためには、結晶の元となる核
が生成されることが重要である。この核がいたるところ
にランダムに形成されれば、結晶は比較的小粒なものと
なる。一方、図14、16、18および20に示すよう
な固体素子では、その表面部分に誘起される空間電荷層
に基づく表面電位も、不純物濃度に比例して変化する。
このため、固体素子の位置によって静電特性が調整され
ており、対象となる分子の結晶に適した静電特性の位置
が用意されるようになる。したがって、結晶化すべき分
子表面の電荷分布が、溶液のpHや分子の変性によって
微妙に変化しても、固体表面のいずれかの部分に必ず分
子の実効表面電荷と補償する空間電荷が誘起されるた
め、結晶核の制御および生成が容易に行なわれる。した
がって、以上に示すような固体素子を用いれば、結晶化
に都合のよい表面電位を有する場所を中心として、核の
生成および結晶成長が進み、大型の結晶が得られること
が期待される。すなわち、結晶は所定の場所を中心とし
て大きく成長するようになる。また、生成された結晶核
は、素子表面に固定されており、溶媒内の対流等による
核の微小な動きが抑制されるため、核の周りに規則的に
分子が集合し、結晶性が良好となることが期待される。
なお、図14および16に示す固体素子を用いれば、比
較的広い面積にわたって、結晶化に適した表面電位を有
する領域を作り、そこで結晶を生成するのに適してい
る。一方、図18および20に示す固体素子を用いれ
ば、ごく限られた領域で局所的に結晶化を行なうのに適
していると考えられる。
【0056】以上を踏まえ、高抵抗領域と低抵抗領域と
を有するN型シリコンを用い、溶媒中においてマイナス
に帯電している分子(たとえばタンパク質分子)を結晶
化する場合のメカニズムについて次に述べる。N型シリ
コンの場合において、高抵抗基板ではドーパント濃度が
低いため、表面近傍に形成される空間電荷層の幅が広く
なることより、空乏層容量が小さく、したがってシリコ
ン表面に誘起される表面電位は低抵抗基板の場合と比較
して大きくなることが予想される。この表面電位は結晶
化すべき分子の有する実効表面電位と極性が逆となるた
め、静電的な引力の作用により分子の凝集が促進され
る。したがって、低抵抗シリコン表面の中の限定された
領域に高抵抗シリコンの島を形成しておけば、結晶化す
べき分子は低抵抗シリコン領域には析出せず、高抵抗シ
リコンの領域に選択的に析出して結晶化が進むことが期
待される。また、高抵抗N型シリコン基板上に、不純物
濃度が徐々に変化するように、不純物をドーピングし、
抵抗が連続的に変化する低抵抗の表面層を形成しておけ
ば、この表面の低抵抗シリコン領域のうち結晶化すべき
分子表面の実効電荷とバランスする箇所で選択的に結晶
化が行なわれることが期待される。以上、N型シリコン
を用いる場合について説明したが、溶媒においてプラス
に帯電している分子を結晶化する場合は、P型シリコン
を用いて同様のメカニズムで結晶化を制御することがで
きる。
【0057】図22は、上述したシリコン基板とタンパ
ク質分子との間および複数のタンパク質分子との間の電
気的な凝集効果を、電気二重層間の静電相互作用ポテン
シャルによって説明する図である。図22において、曲
線(1)は、同極性(負極性とする)のタンパク質分子
同士のポテンシャルエネルギであり、常に反発力が働
く。一方、曲線(4)は、タンパク質分子と、N型で低
不純物濃度領域のシリコン基板との相互作用エネルギ曲
線であり、常に大きな引力が両者に働く。また、タンパ
ク質分子とN型で高不純物濃度領域のシリコン基板との
相互作用エネルギ曲線が(3)であり、常に引力が働く
がその相互作用エネルギは曲線(4)と比較して低くな
っている。曲線(2)は、表面電荷が補償されて表面電
位がゼロボルトとなったタンパク質分子と負極性のタン
パク質分子との相互作用ポテンシャルカーブである。片
方の分子の表面電荷がゼロとなることによって、常に分
子間力に反発力が働く曲線(1)に対し、常に引力が働
くようになることがわかる。
【0058】以下に本発明についてより具体的に説明す
るが、本発明の範囲は、以下の具体例によって制限され
るものではない。
【0059】
【実施例】
実施例1 形成される蛋白質結晶のシリコン表面欠陥密度依存性を
調べるために、以下の実験を行なった。ニワトリ卵白製
リゾチーム(Lysozyme,from Chick
en Egg White)をpH=9.18の標準緩
衝溶液に溶解し、50mg/mlの濃度とし、その3m
lを十分煮沸洗浄された透析チューブ内にシリコン結晶
とともに封入した。シリコン結晶は以下に示す4種類の
ものを用いた。P型シリコンの比抵抗はすべて10〜2
0Ωcmである。
【0060】(1) エピタキシャルウェハ:P on
P+,表面酸化膜約50nm付 (2) エピタキシャルウェハ:P on P+,表面
酸化膜除去したもの (3) CZウェハ:P型,表面酸化膜約50nm付 (4) CZウェハ:P型,表面酸化膜除去したもの CZシリコンウェハ(チョクラルスキー法により引上げ
たシリコン単結晶のウェハ)の表面結晶欠陥は、単位平
方センチメートル当たり10個程度であるのに対し、エ
ピタキシャルシリコンウェハの表面欠陥はほとんどない
ため、この両者の結晶を用いることによって、蛋白質結
晶成長の表面欠陥密度依存性を調べることができる。上
記(1)〜(4)のシリコン結晶を約2×5mm角のサ
イズに切出し、リゾチームを含む透析チューブ内に浸漬
した。さらに、これらの透析チューブをpH=8.9の
標準緩衝溶液(200ml)中に浸し、10℃の冷暗所
内に保管した。結晶析出のための装置は、たとえば図2
に示すとおりである。
【0061】冷暗所に72時間保管後、試料を取出し、
顕微鏡によってリゾチームの結晶を観察した。図23〜
図26は、以上の実施例の結果を示したものである。図
23は(1)、図24は(2)、図25は(3)、図2
6は(4)のシリコン結晶を用いたものにそれぞれ対応
する。図から明らかなように、結晶表面の欠陥の有無
は、リゾチームの結晶核の形成および結晶成長に全く影
響を及ぼさないことがわかる。
【0062】実施例2 実施例1と同様の濃度のリゾチームの水溶液を用いて、
以下の実験を行なった。シリコン結晶として次に示すも
のを作製した。
【0063】(1) P型基板上にN型シリコン層を形
成した試料 10〜20Ωcmの比抵抗のP型シリコンウェハに、ド
ーズ量として1E13/cm2 のリンをイオン注入した
後、1150℃8時間、窒素中にてアニールしN型層を
形成した。N型層の比抵抗は0.1〜1.0Ωcm、層
の深さは3〜4μmであった。この試料をサンプル−1
とする。
【0064】(2) N型基板上にP型シリコン層を形
成した試料 5〜10Ωcmの比抵抗のN型シリコンウェハに、ドー
ズ量として1E13/cm2 のホウ素をイオン注入した
後、1150℃8時間、窒素中にてアニールしP型層を
形成した。P型層の比抵抗は0.1〜1.0Ωcm、層
の深さは3〜4μmであった。この試料をサンプル−2
とする。
【0065】以上の(1)、(2)のシリコンを約2×
5mm角のサイズに加工し、洗浄した後、リゾチームの
水溶液3mlとともに透析チューブ内に封入した。外液
の標準緩衝溶液のpHは6.9および4.01とした。
【0066】図27〜図30に、10℃の冷暗所内に7
2時間保管した後、シリコン上で成長したリゾチームの
結晶について結果を示す。図27は、サンプル−1およ
びpH6.9の緩衝液を用いた結果であり、図28は、
サンプル−1およびpH4.01の緩衝液を用いた結果
であり、図29は、サンプル−2およびpH6.9の緩
衝液を用いた結果であり、図30は、サンプル−2およ
びpH4.01の緩衝液を用いた結果である。
【0067】(1) サンプル−1 pH=6.9の緩衝溶液により透析を行なった場合に
は、ウェハ表面上には無秩序にリゾチームの結晶が析出
することがわかる。またpH=4.01の緩衝溶液を用
いた場合には、同様に結晶サイズは若干大きいものの、
やはり無秩序にリゾチームの結晶が析出することがわか
る。
【0068】(2) サンプル−2 pH=6.9の緩衝溶液により透析を行なった場合に
は、0.5mm前後のサイズの大きなリゾチームの結晶
が析出する。またpH=4.01の緩衝溶液を用いた場
合には、やはり0.5mm程度の大きなリゾチームの結
晶が析出する。以上より、サンプル−2ではサンプル−
1と比較して、結晶成長が良好であり、シリコン基板の
価電子制御、この場合シリコンウェハへのドーピングの
制御によりN型シリコンウェハにP型層を形成すること
によって、結晶成長の制御が可能であることを示してい
る。
【0069】以上の実施例に示した結果より、価電子制
御された半導体結晶表面において、生体高分子の結晶化
を制御できることがわかった。
【0070】実施例3 実施例1と同様の濃度のリゾチームの水溶液を用いて、
以下の実験を行なった。シリコン結晶として次に示すも
のを作製した。
【0071】(1) P型CZウェハ(酸化膜除去した
もの)、比抵抗=10〜20Ωcm (2) N型CZウェハ(酸化膜除去したもの)、比抵
抗=4〜8Ωcm 以上の(1)〜(2)のシリコンを約2×5mm角のサ
イズに加工し、洗浄した後、リゾチームの水溶液3ml
とともに透析チューブ内に封入した。外液の標準緩衝溶
液のpHは9.1および6.9の2種類とした。
【0072】図31〜図34に、10℃の冷暗所内に7
2時間保管した後のシリコン上で成長したリゾチームの
結晶について結果を示す。図31は(1)のシリコンお
よびpH9.1の条件、図32は(2)のシリコンおよ
びpH9.1の条件、図33は(1)のシリコンおよび
pH6.9の条件、図34は(2)のシリコンおよびp
H6.9の条件にそれぞれ相当する。
【0073】pH=9.1の緩衝溶液により透析を行な
った場合には、P型CZウェハ表面上に、無秩序にリゾ
チームの結晶が析出する。一方、N型CZウェハ表面上
には、比較的大型の結晶のみが少量析出していることが
わかる。また、pH=6.9の場合には、P型、N型と
もに無秩序に結晶成長しており、有意差がないことがわ
かる。以上の結果より、pH=9.1の場合には、リゾ
チーム分子内の親水性アミノ酸のうち酸性基であるカル
ボキシル基が主に解離するため、分子全体としては負電
荷を有することになり、非オーミック性のN型シリコン
表面に対して空間電荷を補償するように表面にリゾチー
ム分子が凝集、結晶化することが推察できる。一方、p
H=6.9の中性の緩衝溶液の場合には、リゾチーム分
子はほとんど静電的に正と負が釣り合っており、P型、
N型両シリコン表面に対してオーミック性を有するた
め、結晶成長が無秩序に進行しているものと推察され
る。
【0074】以上の実施例に示した結果より、結晶化す
べき生体高分子表面の電荷分布は、溶液のpHによって
変化するため、その特性に応じて価電子制御を行なった
半導体基板を用いることが生体高分子の結晶化制御に有
効であることがわかる。
【0075】次に、溝を形成した固体を用いる例を示
す。溝は、たとえば図35に示すようにして形成するこ
とができる。まずシリコン基板41を準備する(図35
(a))。次いで基板41上にSiO2 膜42を形成す
る(図35(b))。SiO2膜42をエッチングして
所定のパターンとした(図35(c))後、たとえば通
常の異方性エッチングによりシリコン基板をエッチング
する(図35(d))。次いでSiO2 膜を除去するこ
とにより、溝43を有するシリコン基板41′が得られ
る。
【0076】実施例4 実施例1と同様の濃度のリゾチームの水溶液を用いて、
以下の実験を行なった。シリコン結晶として次に示すも
のを作製した。
【0077】(1) N型基板上にP型シリコン層を形
成したサンプル 5〜10Ωcmの比抵抗のN型シリコンウェハに、ドー
ズ量として1E13/cm2 のホウ素をイオン注入した
後、1150℃8時間、窒素中にてアニールしP型層を
形成した。P型層の比抵抗は0.1〜1.0Ωcm、層
の深さは3〜4μmであった。この試料をサンプル−1
とする。
【0078】(2) N型基板上にP型シリコン層を形
成した後、化学エッチングによって凹状の溝部を形成し
たサンプル 5〜10Ωcmの比抵抗のN型シリコンウェハに、ドー
ズ量として1E13/cm2 のホウ素をイオン注入した
後、1150℃8時間、窒素中にてアニールしP型層を
形成した。P型層の比抵抗は0.1〜1.0Ωcm、層
の深さは3〜4μmである。その後、熱CVD装置によ
りサンプル表面に約200nmのSiO2 膜を形成し、
次いで表面のSiO2 膜をエッチングして、ライン&ス
ペースがそれぞれ500μmのパターンを形成した。こ
れを水酸化カリウム(KOH)水溶液中に浸漬して異方
性エッチングによりV字型の溝部を形成した。溝部の深
さは5μmとした。最後に表面のSiO2 膜を除去して
シリコンを表面に露出させた。以上のようにして得られ
た試料をサンプル−2とする。
【0079】以上の(1)、(2)のシリコンを約2×
5mm角のサイズに加工し、洗浄した後、リゾチームの
水溶液3mlとともに透析チューブ内に封入した。外液
の標準緩衝液のpHは25℃で9.01とした。
【0080】図36および図37に、10℃の冷暗所内
に50時間保管した後、シリコン上で結晶成長したリゾ
チームの結果を示す。図36はサンプル−1を用いたも
の、図37はサンプル−2を用いたものにそれぞれ対応
する。
【0081】(1) サンプル−1 ウェハ表面上に析出するリゾチームの結晶の中には、単
結晶のものも存在するが、双晶のものもかなり多い。こ
れは、水溶液中での電解質溶液の対流によって不均一な
核形成が起こったためであると考えられる。
【0082】(2) サンプル−2 0.1mm前後のサイズのリゾチーム単結晶が析出す
る。この場合には、双晶は存在せず、したがって結晶化
が良好に進行したものと推察される。
【0083】以上より、サンプル−2ではサンプル−1
と比較して結晶成長が良好であり、溝の形成により結晶
生成が制御可能であることを示している。
【0084】以上の実施例に示した結果より、価電子制
御された半導体結晶表面において生体高分子の結晶化を
制御できることがわかる。
【0085】実施例5 実施例1で用いたニワトリ卵白製リゾチームをpH=
9.18の標準緩衝溶液に溶解し、50mg/mlの濃
度とし、その3mlを十分煮沸洗浄された透析チューブ
内にシリコン結晶とともに封入した。シリコン結晶は以
下に示す2種類のものを用いた。
【0086】(1) 低不純物濃度(高抵抗)N型シリ
コンのサンプル(サンプル−1)。約20Ωcmの比抵
抗のN型シリコン基板。
【0087】(2) 低不純物濃度および高不純物濃度
(高抵抗および低抵抗)領域の混在したN型シリコンの
サンプル(サンプル−2)。
【0088】2mm角の領域を交互に高抵抗(約20Ω
cm)、低抵抗(約0.1Ωcm)としたN型シリコン
基板。高抵抗N型基板上に常法に従ってリン原子のイオ
ン注入によって低抵抗領域を作製した。
【0089】上記(1)および(2)のシリコン結晶を
約5×10mm角のサイズに切出し、リゾチームを含む
透析チューブ内に浸漬した。さらに、これらの透析チュ
ーブをpH=8.9の標準緩衝溶液(200ml)中に
浸し、10℃の冷暗所内に保管した。結晶析出のための
装置は、たとえば図2に示すとおりである。
【0090】冷暗所に72時間保管後、試料を取出し顕
微鏡によってリゾチームの結晶を観察した。図38〜4
0は、以上の実施例の結果を示したものである。図38
は、サンプル−1のシリコン基板を用いた結晶化の結果
を示している。図39および40は、サンプル−2のシ
リコン基板を用いた結果で、図39は高抵抗領域での結
晶化の結果、図40は低抵抗領域での結晶化の結果をそ
れぞれ示している。図から明らかなように、サンプル−
1ではシリコン基板全面にリゾチームの結晶が多量に析
出する。一方、サンプル−2では、高抵抗領域ではサン
プル−1と同様に多量の結晶が前面に析出するが、低抵
抗領域では、結晶はわずかに析出するのみである。
【0091】実施例6 実施例1で用いたニワトリ卵白製リゾチームをpH=
7.0の標準緩衝溶液に溶解し、30mg/mlの濃度
とし、その5mlを十分煮沸洗浄された透析チューブ内
にシリコン結晶とともに封入した。シリコン結晶は以下
に示す2種類のものを用いた。
【0092】(1) 低不純物濃度(高抵抗)N型シリ
コンのサンプル(サンプル−1)。約20Ωcmの比抵
抗のN型シリコン基板。
【0093】(2) 低不純物濃度および高不純物濃度
(高抵抗および低抵抗)領域の混在したN型シリコンの
サンプル(サンプル−2)。
【0094】約20Ωcmの比抵抗を有するN型高抵抗
シリコン基板上に、図13に示す方法によって約1Ωc
mの比抵抗を有する低抵抗N型領域を形成した。低抵抗
N型領域表面内に露出した高抵抗領域は、そのサイズが
0.05μm径、領域間のピッチが0.2μmであっ
た。シリコン基板表面全体にわたって、低抵抗N型領域
の中に高抵抗領域を形成した。なお、表面低抵抗層の厚
みは約3μmであった。
【0095】上記(1)および(2)のシリコン結晶を
約5mm角のサイズにそれぞれ切出し、リゾチームを含
む透析チューブ内に浸漬した。さらに、これらの透析チ
ューブをpH=4.6の標準緩衝溶液200mlと1M
のNaCl水溶液20mlを混合した水溶液中に浸漬
し、10℃の冷暗所内に保管した。
【0096】冷暗所に96時間保管後、試料を取出し顕
微鏡によってリゾチームの結晶を観察した。サンプル−
1ではシリコン基板全面にリゾチームの結晶が無秩序に
多量に析出した。析出した結晶の平均的なサイズは約
0.1mmであった。一方、サンプル−2では、析出結
晶量はわずかになり、かつ平均的な結晶のサイズは約
0.3mmとなった。
【0097】実施例7 実施例1で用いたニワトリ卵白製リゾチームをpH=
9.18の標準緩衝溶液に溶解し、30mg/mlの濃
度とし、その3mlを十分煮沸洗浄された透析チューブ
内にシリコン結晶とともに封入した。シリコン結晶は以
下に示す2種類のものを用いた。
【0098】(1) 低不純物濃度(高抵抗)N型シリ
コンのサンプル(サンプル−1)。約20Ωcmの比抵
抗のN型シリコン基板。
【0099】(2) 低不純物濃度および高不純物濃度
(高抵抗および低抵抗)領域の混在したN型シリコンの
サンプル(サンプル−2)。
【0100】約20Ωcmの比抵抗を有するN型シリコ
ン基板上に、図14に示すように、2mm角の領域の表
面を順次約10Ωcm、約1Ωcm、約0.1Ωcmと
3種類の低抵抗値に形成したものである。高抵抗N型基
板上にリン原子のイオン注入によって低抵抗領域をそれ
ぞれ作製した。表面低抵抗層の厚みは約3μmであっ
た。
【0101】上記(1)および(2)のシリコン結晶を
約5×10mm角のサイズに切出し、リゾチームを含む
透析チューブ内に浸漬した。さらに、これらの透析チュ
ーブをpH=8.9の標準緩衝溶液(200ml)中に
浸し、10℃の冷暗所内に保管した。
【0102】冷暗所に96時間保管後、試料を取出し顕
微鏡によってリゾチームの結晶を観察した。図41〜4
4は、以上の実施例の結果を示すものである。図41
は、サンプル−1のシリコン基板を用いた結晶化の結果
を示している。図42〜44は、サンプル−2のシリコ
ン基板を用いた結果で、図42は、比抵抗約10Ωcm
の領域での結果、図43は、比抵抗約1Ωcmの領域で
の結果、図44は、比抵抗約0.1Ωcmの領域での結
果をそれぞれ示している。図から明らかなように、サン
プル−1では、シリコン基板全面にリゾチームの結晶が
多量に析出する。一方、サンプル−2において、高抵抗
領域ではサンプル−1と同様に多量の結晶が前面に析出
するが、低抵抗の領域になるに従って、析出結晶量はわ
ずかになり、かつ結晶のサイズも増大している。このよ
うにシリコン基板の価電子制御、この場合高抵抗N型基
板の所定の位置に不純物をドーピングし、低抵抗領域を
作製することにより、結晶の生成を制御可能であること
がわかる。
【0103】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
上述したように多様な特性を有するためどの物質に対し
ても適応できる手法がなく試行錯誤を繰返しながら進め
られてきた従来の結晶化プロセスの欠点を解決すること
ができる。本発明によれば、結晶化の初期過程における
核形成を安定化させ、微結晶の大量生成を抑制、制御す
ることができる。また本発明によれば、X線構造解析を
可能にし得る大型で結晶性の良好な結晶を成長させるこ
とが可能である。さらに本発明は、蛋白質等の生体高分
子を用いた電子デバイスの作製に応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に従って、固体素子の表面に結晶核が固
定化され、結晶成長が進んでいくようすを示す模式図で
ある。
【図2】本発明を実施するための装置の一例を示す模式
図である。
【図3】本発明を実施するための装置のもう1つの例を
示す模式図である。
【図4】本発明において固体素子として用いられるシリ
コン結晶の構造の一例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の固体素子を形成するプロセスを示す概
略断面図である。
【図6】不純物濃度の異なる領域を有する固体素子を示
す概略断面図である。
【図7】不純物濃度の異なる領域を有するもう1つの固
体素子を示す概略断面図である。
【図8】不純物濃度の異なる領域を有する固体素子にお
いて結晶化が制御される状態を説明するための概略断面
図である。
【図9】不純物濃度の異なる領域が2次元的に配列され
た固体素子の具体例を示す斜視図である。
【図10】図9の固体素子の一部を示す概略断面図であ
る。
【図11】図10に示す素子の部分における表面電荷密
度分布を示す図である。
【図12】図9に示す固体素子の製造プロセスの一例を
示す概略断面図である。
【図13】図9に示す固体素子の製造プロセスのもう1
つの例を示す概略断面図である。
【図14】不純物濃度が段階的に変化した固体素子の具
体例を示す概略断面図である。
【図15】図14に示す固体素子における不純物濃度の
分布および表面電位の変化を示す図である。
【図16】不純物濃度が連続的に変化した固体素子の一
具体例を示す概略断面図である。
【図17】図16に示す固体素子における不純物濃度の
分布および表面電位の変化を示す図である。
【図18】中央部に不純物濃度が最も低い領域を有する
固体素子の具体例を示す概略断面図である。
【図19】図18に示す固体素子における不純物濃度の
分布および表面電位の変化を示す図である。
【図20】中央部に不純物濃度が最も高い領域を有する
固体素子の具体例を示す断面図である。
【図21】図20に示す固体素子における不純物濃度の
分布および表面電位の変化を示す図である。
【図22】価電子制御されたシリコン基板と、結晶化す
べき分子との間の電気的凝集効果を、電気二重層間の静
電相互作用ポテンシャルによって説明するための図であ
る。
【図23】実施例1において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図24】実施例1において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図25】実施例1において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図26】実施例1において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図27】実施例2において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図28】実施例2において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図29】実施例2において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図30】実施例2において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図31】実施例3において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図32】実施例3において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図33】実施例3において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図34】実施例3において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図35】シリコン基板上に溝を形成するプロセスを示
す模式図である。
【図36】実施例4において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図37】実施例4において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図38】実施例5において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図39】実施例5において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図40】実施例5において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図41】実施例7において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図42】実施例7において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図43】実施例7において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図44】実施例7において生成した結晶構造の顕微鏡
写真である。
【図45】従来の方法に用いられる装置の一例を示す模
式図である。
【図46】従来の方法に用いられる装置のもう1つの例
を示す模式図である。
【符号の説明】
1 固体素子 2 結晶核 11 容器 12 緩衝溶液 13 透析膜チューブ 14 生体高分子を含む母液 15 ドーピングされたシリコン結晶 21 容器 22 緩衝溶液 24 生体高分子を含む母液の液滴 25 シリコン結晶
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 B01D 9/02 620 9344−4D B01D 9/02 620 625 9344−4D 625Z H01L 21/368 H01L 21/368 L 51/00 29/28

Claims (14)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 溶媒中に含まれる有機化合物の結晶化を
    制御するための方法であって、 前記有機化合物を含む前記溶媒の環境に応じて、価電子
    制御が可能な固体素子を前記溶媒中に浸漬し、 前記価電子制御に応じて電気的状態の制御された前記固
    体素子の表面において前記有機化合物の結晶を析出させ
    ることを特徴とする、有機化合物の結晶化制御方法。
  2. 【請求項2】 前記固体素子が溝を有し、前記溝におい
    て、前記有機化合物の結晶が析出されることを特徴とす
    る、請求項1記載の有機化合物の結晶化制御方法。
  3. 【請求項3】 前記固体素子が半導体基板であることを
    特徴とする、請求項1または2記載の有機化合物の結晶
    化制御方法。
  4. 【請求項4】前記半導体基板がPN接合を有することを
    特徴とする、請求項3記載の有機化合物の結晶化制御方
    法。
  5. 【請求項5】 前記固体素子がPN接合を有する半導体
    基板であり、前記溝において前記PN接合部が露出して
    いることを特徴とする、請求項2記載の有機化合物の結
    晶化制御方法。
  6. 【請求項6】 前記固体素子に空間電荷層が形成されて
    おり、前記空間電荷層に基づく表面電位によって、前記
    有機化合物の結晶化が制御されることを特徴とする、請
    求項1〜5のいずれか1項記載の有機化合物の結晶化制
    御方法。
  7. 【請求項7】 前記表面電位を前記固体素子表面の部位
    によって異ならしめ、それにより、前記固体素子表面の
    特定の領域で所望の結晶化を行なうことを特徴とする、
    請求項6記載の有機化合物の結晶化制御方法。
  8. 【請求項8】 前記表面電位は、前記固体素子中にドー
    ピングされる不純物の濃度によって制御される、請求項
    6または7記載の有機化合物の結晶化制御方法。
  9. 【請求項9】 前記固体素子中に含有される前記不純物
    の濃度は、前記固体素子の表面部分と内部とで異なって
    いることを特徴とする、請求項8記載の有機化合物の結
    晶化制御方法。
  10. 【請求項10】 前記固体素子の表面部分において、第
    1の所定領域から第2の所定領域まで、前記不純物の濃
    度が連続的または段階的に減少または増加していること
    を特徴とする、請求項8または9記載の有機化合物の結
    晶化制御方法。
  11. 【請求項11】 前記固体素子の表面部分において、前
    記不純物の濃度が特定の領域において極大もしくは最大
    または極小もしくは最小となっていることを特徴とす
    る、請求項8または9記載の有機化合物の結晶化制御方
    法。
  12. 【請求項12】 前記固体素子の表面部分において、所
    定の濃度で前記不純物を含有する第1の領域と、前記第
    1の領域よりも高い濃度で前記不純物を含有する第2の
    領域とが混在しており、前記第1の領域および前記第2
    の領域のいずれかで、前記結晶化が促進され、その残り
    の領域で前記結晶化が抑制されることを特徴とする、請
    求項8または9記載の有機化合物の結晶化制御方法。
  13. 【請求項13】 前記第1の領域と前記第2の領域が2
    次元的に配列されていることを特徴とする、請求項12
    記載の有機化合物の結晶化制御方法。
  14. 【請求項14】 請求項3〜13のいずれか1項記載の
    方法に用いる結晶化制御用固体素子であって、 溶媒中に含まれる有機化合物の結晶化を制御するため、
    所定の表面電位をもたらすよう、少なくとも表面部分に
    不純物が添加されている半導体基板を備えることを特徴
    とする、結晶化制御用固体素子。
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