JPH0741913A - 皮膜特性の優れる無方向性電磁鋼板及びその鋼板用表面処理剤 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 打ち抜き性、溶接性が優れ、焼鈍後の鋼板表
面の滑り性、絶縁性及び耐蝕性の優れた無方向性電磁鋼
板及びその処理剤。 【構成】 電磁鋼板の表面に無機物質としてＡｌ，Ｃ
ａ，Ｚｎのリン酸塩の一種又は二種以上とほう酸及び／
又はコロイド状シリカと有機樹脂からなる皮膜剤が塗布
され表面粗さがＲａ値で０．１５〜０．７μｍであるこ
とを特徴とする無方向性電磁鋼板及びその表面処理剤。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、打ち抜き性、溶接性、
占積率等の焼鈍前の皮膜特性が優れ、且つ、焼鈍後の皮
膜の潤滑性、絶縁性、耐蝕性等の特性の優れるクロム化
合物を含まない絶縁皮膜を有する無方向性電磁鋼板及び
該鋼板用表面処理剤に関する。

【０００２】

【従来の技術】電磁鋼板は、渦電流による鉄損を減少さ
せるために鋼板表面に絶縁皮膜が処理され、焼付け処理
が施されて使用される。電磁鋼板が使用されるモーター
或いはトランスの鉄心は、電磁鋼板或いはストリップを
所定の幅にスリット後、連続的に鉄心形状に打ち抜く
か、切断後、積層し、この積層体のエッジ部を溶接或い
はカシメて固定するプロセスによって製作される。鉄心
はその後必要に応じて７００〜８００℃の温度域で歪取
り焼鈍を施された後、巻線がなされ、ケースに挿入され
て最終製品とされる。

【０００３】したがって、電磁鋼板表面に形成される絶
縁皮膜は、絶縁性に優れていることは勿論、打ち抜き
性、密着性、耐熱性、耐油性に優れると共に、電磁鋼板
の占積率を低下せしめないといった、特性を有すること
が要求される。又特殊なケースとして、トランス用鉄心
は、例えば、ＥＩコアのように焼鈍後に再度積層工程が
ある場合には、鋼板表面の滑り性が積層時の作業効率を
左右するため、製品の絶縁皮膜は滑り性、耐キズ付き性
等が優れていることが併せて重要である。

【０００４】絶縁皮膜に要求されるこれらの特性を満足
させるべく、種々の絶縁皮膜形成方法が提案されて来
た。一般には、１）燐酸塩又はクロム酸塩を主成分とす
る全無機成分系の塗布剤を用いるもの、２）クロム酸塩
をベースとし、有機樹脂を添加配合する半有機成分系の
塗布剤を用いるもの、３）全量有機物質からなる全有機
成分系の塗布剤を用いるもの、の３種類である。 １）の全無機成分系の塗布剤を用いる場合、耐熱性、溶
接性に優れた電磁鋼板を得ることはできるが、打ち抜き
性、密着性が著しく劣る。３）の全有機成分系の塗布剤
を用いる場合には、打ち抜き性、密着性の良好な電磁鋼
板とすることはできるが、耐熱性、溶接性が悪いという
問題がある。前記、両者の欠点を補完すべく提案されて
いるのが２）の半有機成分系の塗布剤を用いるものであ
る。

【０００５】さらに、最近では、上記種々の絶縁皮膜形
成方法の改善策が提案されている。例えば、所定の形状
に打ち抜き、或いは切断加工された鋼板の表面形状をコ
ントロールする方法として、特開昭５２−３３８４６号
公報には、燐酸系、クロム酸系の一種又は二種以上と有
機樹脂の混合皮膜を形成するに際し、処理液中に有機樹
脂粒子を添加して表面粗さを２〜１０μｍＨmax の打ち
抜き性、溶接性の優れた電気絶縁皮膜を形成する方法に
おいて、粒径が５〜１０μｍの有機樹脂粒子を用い、こ
れを予め、従来のエマルジョン樹脂に添加して、均一に
分散後、無機物質に混合し、鋼板表面に塗布焼付けする
方法が提案されている。これにより、表面粗度が粗くな
り、溶接時の通気性がよくなり、良好な溶接性が得られ
るものである。

【０００６】又、特開昭６１−１８３４７９号公報に
は、燐酸系、クロム酸系の一種又は二種以上よりなる無
機系溶液と、粒子径が２〜５０μｍの有機樹脂粒子粉体
が、予め添加分散されたエマルジョン樹脂溶液との混合
液を電磁鋼板表面に塗布し、焼付けて、電磁鋼板表面
に、表面粗さが０．５〜１．５μｍの打ち抜き性、溶接
性ならびに絶縁性の優れた電気絶縁皮膜を形成する方法
において、上記有機樹脂の粒子をエマルジョン樹脂溶液
に添加される前に、分散性向上剤で表面処理することを
特徴とする電磁鋼板の表面処理方法が提案されている。
これにより、打ち抜き性がよく、溶接性、耐熱性等に優
れた無方向性電磁鋼板が得られることが述べられてい
る。

【０００７】さらに、特開平３−２４０９７０号公報に
は、歪取り焼鈍後の皮膜特性の優れた無方向性電磁鋼板
の製造方法として、ＣｒＯ₃ １００重量部、Ａｌ，Ｍ
ｇ，Ｃａ，Ｚｎから選ばれる酸化物の一種又は二種以上
を２０〜４０重量部、粒子径０．２〜０．５μｍに調整
したアクリル、スチレン、酢ビ及び／又はこれらの共重
合体からなる樹脂の一種又は二種以上の微粒子エマルジ
ョン溶液１０〜６０重量部、粒子径を１〜５０μｍに調
整したメチルメタアクリレート、ポリアクリルニトリ
ル、ポリスチレン、セルローズ、シリコン、メラミン、
フェノール、ポバール樹脂及び／又はこれらの共重合
体、架橋体の一種又は二種以上を２〜３０重量部からな
るものを塗布することを開示している。これにより、打
ち抜き性、溶接性等が良好で且つ、歪取り焼鈍後の特に
潤滑性が優れ、さらに、絶縁性、耐蝕性等が著しく優れ
るものである。

【０００８】しかしながら、これらの従来の技術は、ベ
ース樹脂としては、粒子径０．３μｍ以下のような微粒
子エマルジョン樹脂を用い、表面粗さを得るために添加
する粗粒子の樹脂として、いずれも極端に粒子径の粗い
粉体樹脂を使用するものである。このため粗粒子樹脂の
添加による効果は得られているものの粗粒子の添加時の
樹脂粉末の凝集や、これによる皮膜中での粒子の不均一
性やぬれ性の悪さのために、皮膜特性が安定しない問題
がある。又、耐熱性、溶接性等の向上のために、かなり
大量の粗粒子樹脂添加の必要性がある。このため、占積
率の大幅な低下や皮膜外観を劣化させる場合がある。

【０００９】更に、もう一つの課題として、これら従来
の無機−有機化合物による半有機系皮膜処理において
は、焼付け後の製品の皮膜特性として、耐蝕性、耐熱性
及び皮膜外観等における問題からクロム化合物としてク
ロム酸、クロム酸塩等が使用されてきたことがある。即
ち近年では作業環境改善のニーズが高まっており、電磁
鋼板製造工程や鉄心加工工程におけるクロム化合物のヒ
ューム、粉塵等の環境汚染問題回避のため、クロム化合
物を含まないコーティング処理剤の開発が強く望まれて
いる。

【００１０】

【発明が解決しようとする課題】本発明は、皮膜成分の
均一性、密着性に優れ、表面性状をクロム化合物を含ま
ない特殊リン酸塩−樹脂化合物によりコントロールされ
た電磁鋼板に関わり、電磁鋼板使用時の歪取り焼鈍前の
打ち抜き性、溶接性及び焼鈍後のスティッキング性、潤
滑性、耐キズ付き性、耐蝕性、絶縁性、密着性等の優れ
た無方向性電磁鋼板とその無方向性電磁鋼板を得るため
に塗布する表面処理剤を提供することを目的とする。

【００１１】

【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
に本発明は、以下の構成を要旨とする。即ち、 （１）電磁鋼板の表面に無機物質としてリン酸Ａｌ、リ
ン酸Ｃａ、リン酸Ｚｎの一種又は二種以上と有機樹脂を
主成分とする皮膜剤が塗布され、歪取り焼鈍前の表面粗
さがＲａ値で０．１５〜０．７μｍであることを特徴と
する皮膜特性の優れる無方向性電磁鋼板。 （２）電磁鋼板の表面に無機物質としてリン酸Ａｌ、リ
ン酸Ｃａ、リン酸Ｚｎの一種又は二種以上とほう酸、コ
ロイド状シリカの一種又は二種と有機樹脂とからなる皮
膜剤が塗布され、歪取り焼鈍前の表面粗さがＲａ値で
０．１５〜０．７μｍであることを特徴とする、皮膜特
性の優れる無方向性電磁鋼板。及び （３）電磁鋼板の表面に無機物質として少なくともリン
酸Ａｌを５０％以上含むリン酸Ａｌ、リン酸Ｃａ、リン
酸Ｚｎの一種又は二種以上１００重量部と、ほう酸１〜
２０重量部、コロイダルシリカ１〜５０重量部の一種又
は二種に対し、有機樹脂としてアクリルポリスチレン、
酢ビ、シリコン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ
アミド、ポリカーボネート、メラミン、フェノール、ポ
リウレタン、アルキッド、イソシアネート、エポキシ樹
脂の一種又は二種以上が１〜３００重量部からなる皮膜
剤が塗布され、表面粗さがＲａ値で０．１５〜０．７μ
ｍであることを特徴とする、皮膜特性の優れる無方向性
電磁鋼板である。又、 （４）重量部で少なくともリン酸Ａｌを５０％以上含
む、リン酸Ａｌ、リン酸Ｃａ、リン酸Ｚｎの一種又は二
種以上１００重量部と、ほう酸１〜２０重量部、コロイ
ダルシリカ１〜５０重量部の一種又は二種に対し、有機
樹脂として、アクリル、ポリスチレン、酢ビ、シリコ
ン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ
カーボネート、メラミン、フェノール、ポリウレタン、
アルキッド、イソシアネート、エポキシ樹脂の一種又は
二種が１〜３００重量部からなる皮膜特性の優れる電磁
鋼板用絶縁皮膜剤であり、 （５）有機樹脂の粒子径を０．３〜３．０μｍとするこ
とを特徴とする前記（４）記載の皮膜特性の優れる無方
向性電磁鋼板用表面処理剤である。

【００１２】本発明者等は、近年の無方向性電磁鋼板を
使用して鉄心加工を行う需要化のニーズとして、従来の
無機−有機系皮膜剤を使用した場合の欠点である溶接性
や焼鈍後の皮膜表面の潤滑性、耐キズ付き性、耐蝕性等
の皮膜特性とクロム化合物による作業環境の改善に努め
るべく膨大な実験と研究を行った。その結果、従来の改
善技術をもってしても解決できなかった無機−有機系の
半有機皮膜電磁鋼板の製造工程及びこの鋼板を使用して
鉄心加工を行う際の前記問題を一挙に解決する技術の開
発に成功した。即ち、本発明においては半有機皮膜剤に
おけるベースの無機成分として従来使用されてきたクロ
ム化合物に変えてリン酸Ａｌ、リン酸Ｃａ、リン酸Ｚｎ
等のリン酸塩を主成分とし、粒子径０．３〜３．０μｍ
の特殊エマルジョン樹脂の適用技術を開発した。これに
より、クロム化合物を含まない処理液により焼付け後の
鋼板表面での皮膜組成の均一性、良好な密着性を実現す
ると共に鋼板表面に球面状の微細な突起形状を均一に、
安定して得られる技術の実現に至った。この結果、従来
技術では実現困難とされていた歪取り焼鈍前の打ち抜き
性、溶接性が優れ、歪取り焼鈍後においても鋼板表面の
潤滑性、耐蝕性、絶縁性、密着性等の特性を満足するク
ロム化合物を含まないコーティング剤を塗布焼付けした
無方向性電磁鋼板とその処理技術を得ることに成功した
ものである。

【００１３】本発明の第一の特徴は、無機−有機系のい
わゆる半有機皮膜において、無機成分としてクロム化合
物を含まないＡｌ，Ｃａ，Ｚｎのリン酸塩を主成分とし
て適用することにある。その他、皮膜形成補助剤として
ホウ酸塩、コロイド状シリカ等の補助剤も必要に応じて
使用される。前記、リン酸塩１００重量部に対し、ホウ
酸１〜２０重量部及び／又はコロイド状シリカ１〜５０
重量部が添加配合される。第二の特徴として有機樹脂と
して粒子径０．３〜３．０μｍに調整したアクリル、ポ
リスチレン、酢ビ、シリコン、ポリエチレン、ポリプロ
ピレン、ポリアミド、ポリカーボネート、メラミン、フ
ェノール、ポリウレタン、アルキッド、イソシアネー
ト、エポキシ樹脂の少なくとも一種をリン酸塩１００重
量部に対し１〜３００重量部の割合で添加配合される。

【００１４】これらの混合液においては、本発明の粗粒
子タイプのエマルジョン樹脂は他の無機成分との分散性
が良好で均一な混合液をつくる。このため、耐熱性の高
い成分からなる粗粒子エマルジョン樹脂の表面は均一に
リン酸塩、ホウ酸塩、コロイド状シリカ等で覆われる。
そして、塗布焼付け時には粗粒子エマルジョン樹脂の粒
子効果によって鋼板表面に均一に分散し、微細な球面状
突起を有する皮膜が形成される。本発明においては、従
来の粉末の粗粒子樹脂粉末添加技術に見られるような溶
液中での粒子の凝集は全く見られず、均一に球面状突起
が皮膜表面に配列されるため、鋼板全面に渡って安定し
て均一な皮膜性能が発揮できる。

【００１５】次に、本発明の製品の歪取り焼鈍前の表面
粗度、処理剤において使用する処理液の種類、配合割合
及び処理条件を前記範囲内に限定するのが好適なのは以
下の理由による。まず本発明の絶縁皮膜を適用した製品
の歪取り焼鈍前の表面粗度がＲａ値で０．１５〜０．７
μｍの範囲とするのが良いのは、皮膜剤焼付け処理後の
表面粗さＲａ値で０．１５μｍ未満では、絶縁皮膜剤成
分の球状の樹脂成分により作り出される球面状の突起効
果による空隙効果がもたらす溶接性の向上と焼鈍後の表
面突起形状効果による絶縁性、潤滑性向上効果等が得ら
れないからである。一方、０．７μｍ超になるとこれら
の効果は十分得られるものの、占積率が低下して問題が
生じる。即ち０．１５〜０．７０μｍの範囲では、焼鈍
前後の皮膜特性と磁気特性を十分に満足した製品が得ら
れる。

【００１６】次に皮膜成分としてはまずクロム化合物を
含まない無機成分としては、少なくともリン酸Ａｌを５
０％以上含むＡｌ，Ｃａ，Ｚｎの中から選ばれるリン酸
塩の一種又は二種以上が用いられる。これらのリン酸塩
は本発明のような低温焼付け皮膜において良好な造膜作
用を有し、皮膜の耐熱性の向上と共に他の主成分として
配合される有機樹脂の鋼板へのバインダーと摩耗、耐熱
保護剤として作用する。このリン酸塩は粗粒エマルジョ
ンとの間で一定量の配合割合であることが重要である
が、これは歪取り焼鈍での耐熱性、絶縁性、密着性等が
十分に得られないためと、低温焼付けでの皮膜の形成安
定性が十分でないためである。リン酸Ｃａやリン酸Ｚｎ
はリン酸塩液中で５０％以下の添加では加工性、皮膜の
滑り性等の向上に有効に働く。しかし耐熱性や溶解度に
限界があるため工業的な使用に耐えられなくなる問題が
ある。このため、配合割合はリン酸塩溶液中で５０％以
下に抑えられる。これらのリン酸塩は他のＭｇ等のリン
酸塩に比較して低温焼付けで安定して光沢のあるガラス
状皮膜を形成する。

【００１７】他の無機剤としてはリン酸塩１００重量部
に対しホウ酸１〜２０重量部及び／又はコロイド状シリ
カ１〜５０重量部が皮膜形成、耐熱性向上等の補助剤と
して添加される。ホウ酸１重量部以下ではガラス化や耐
熱性向上効果が得られにくい。一方、２０重量部以上で
は溶解度の問題による液管理皮膜の外観不良、密着性不
良が発生しやすいので２０重量部以下が好ましい。コロ
イド状シリカは皮膜の耐熱性や皮膜の光沢等の外観向上
剤として作用すると共に、本発明のようなクロム化合物
を含まない成分系においては、焼付け処理時にリン酸塩
と結合して皮膜中のフリーリン酸を抑え、皮膜の吸湿
性、焼鈍時の焼付け性を抑えるのに働く。１重量部以下
ではこのような効果が得られにくい。一方、５０重量部
以上では液中の安定性が悪くなってＳｉＯ₂ の析出を生
じたり、打ち抜き等の加工性に影響するため制限され
る。

【００１８】次に本発明の重要な主成分の一つである有
機樹脂として使用されるエマルジョン樹脂の粒子径は
０．３〜３．０μｍが好適である。従来の半有機系絶縁
皮膜においては主に０．１〜０．２５μｍのような微粒
子エマルジョン樹脂が使用されてきた。このような粗粒
子径のエマルジョン樹脂は本発明者らが試作を重ねた結
果新規に見いだされたもので、従来技術には用いられた
例がなく、本発明における大きな特徴である。又、その
成分としてはアクリル、ポリスチレン、酢ビ、シリコ
ン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ
カーボネート、メラミン、フェノール、ポリウレタン、
アルキッド、イソシアネート、エポキシ等の一種又は二
種以上を用いることを特徴とする。

【００１９】これらの樹脂は前記リン酸塩１００重量部
に対し１〜３００重量部が用いられる。１重量部未満で
は耐熱性の向上等はあるが皮膜成分中の樹脂割合が少な
すぎて打ち抜き等の加工性や表面形状制御効果が十分得
られにくい。一方、３００重量部超では有機樹脂の表面
被覆を行うリン酸塩等の無機成分が減って、本発明の粗
粒子効果をもってしても耐熱性の改善効果が得られにく
くなったり、皮膜の滑り性や耐キズ付き性が劣化するた
め制限されるのが望ましい。粒子径は０．３μｍ未満で
は焼付け後に十分に微細な球面状の突起効果が得られな
いため、潤滑性、溶接性等の改善効果が得られない。一
方、３．０μｍ超の粗大粒子になると占積率が劣化した
り、エマルジョン粒子の沈降性や塗れ性の問題が生じる
ため制限される。皮膜特性、沈降性、経済性等の総合的
に優れるのは０．７〜１．２μｍである。前記範囲内の
組成物が好適で粒子の粗大化技術を適用することによ
り、焼鈍前の打ち抜き性、溶接性等の問題と共に歪み取
り焼鈍での耐熱性改善効果が顕著に得られ、皮膜の潤滑
性、耐キズ付き性、絶縁性、耐蝕性等の改善効果が得ら
れる。これらの樹脂成分以外では本発明の粗粒子エマル
ジョン樹脂技術をもってしても上記のような改善効果が
得られない。本発明の皮膜剤の適用に当たっては、エマ
ルジョン樹脂の塗れ性向上のために表面活性剤等の塗れ
性改善剤を添加して処理してもよい。

【００２０】次に、本発明により打ち抜き性が良く、溶
接性が優れ、且つ、焼鈍後の皮膜潤滑性、絶縁性、耐蝕
性が優れる効果が得られる理由を説明する。本発明にお
いては、リン酸塩と粗粒子エマルジョン樹脂或いはコロ
イド状シリカ等の無機成分と有機成分によって鋼板表面
に均一で、微細な球状の突起を分散形成する。この表面
の均一、微細な凹凸効果は、従来の技術にあるような粗
粒子添加や圧延粗度の変更等では得られない安定したも
ので、打ち抜き性や溶接性等はもちろん、耐熱性、絶縁
性等の優れた良好な皮膜特性が得られる。これは、本発
明のようにエマルジョン樹脂の粒子径を０．３μｍ〜
３．０μｍの粗粒子にした場合には、熱処理時の分解反
応を粒子のサイズ効果によって抑制するとともに、その
表面積の違いから単位粒子あたりのＡｌ．Ｃａ，Ｚｎ等
のリン酸塩、コロイド状シリカやほう酸化合物の被覆量
が増大して、より耐熱性の向上する効果が得られる。事
実、本発明の皮膜成分によれば、歪取り焼鈍前後におい
て、皮膜成分で得られる鋼板の球状突起サイズがほとん
ど変わらず、表面粗度もほとんど変化しない。又、これ
らの耐熱性の良い皮膜成分が歪取り焼鈍時の皮膜の分解
作用を抑えることから皮膜の亀裂発生等を抑える効果を
もたらす。この結果、歪取り焼鈍後の皮膜特性において
も、皮膜の表面形状効果、硬さ、緻密さ等によって鋼板
の潤滑性、絶縁性、耐蝕性等において従来の有機−無機
系皮膜では見られなかったような新たな効果が得られる
ものと考えられる。

【００２１】

【実施例】

〔実施例１〕公知の方法で熱処理した板厚０．５mmの無
方向性電磁鋼板コイルに表１に示す組成の粒子径０．７
μｍに調整したエマルジョン樹脂とリン酸塩を主成分と
する処理剤をゴムロールを用いて鋼板に塗布し、板温３
５０℃で焼付け処理を行った。この際の塗布量は焼付け
後の重量で１．５ｇ／ｍ² であった。このコイルからサ
ンプルを切り出し、打ち抜き性、溶接性の他７５０℃×
２Hr歪取り焼鈍を行った後の皮膜の潤滑性、耐蝕性、絶
縁性等の皮膜特性を調査した。結果を表２に示す。この
結果、本発明によるものは打ち抜き性、溶接性等の焼鈍
前の皮膜特性が良好で、又、焼鈍後の皮膜特性として潤
滑性、耐蝕性、絶縁性等いずれも比較材のクロム酸系皮
膜剤を使用したものと比較して、同等以上の良好な改善
結果が得られた。

【００２２】

【表１】

【００２３】

【表２】

【００２４】〔実施例２〕実施例１と同様にして、仕上
げ焼鈍後の板厚０．５mmの無方向性電磁鋼板のコイル
に、表３に示すようなエマルジョン樹脂の粒子径を変更
した樹脂とリン酸塩及びほう酸及び／又はコロイダルシ
リカを配合した皮膜剤を塗布し、板温度３００℃で焼付
け処理を行い製品とした。この鋼板からサンプルを切り
出し実施例１の場合と同様にして皮膜特性の調査を行っ
た。結果を表４に示す。

【００２５】

【表３】

【００２６】

【表４】

【００２７】この結果、本発明のリン酸塩−粗粒子エマ
ルジョン主成分によるものは、ベースのエマルジョン樹
脂の粒子径に応じて表面粗度がコントロールされ、又、
いずれも焼鈍前の粗度と焼鈍後の粗度が殆ど変化がな
く、溶接性打ち抜き性及び焼鈍後の皮膜の潤滑性、耐焼
付き性等においていずれも良好な結果が得られた。

【００２８】一方、比較例１の従来のクロム酸塩−微粒
子エマルジョン樹脂系皮膜によるものは溶接性、歪取り
焼鈍後の潤滑性等において、本発明に比較して著しく劣
る結果となった。

【００２９】

【発明の効果】本発明のリン酸塩と耐熱性の粗粒子エマ
ルジョンを適用する処理剤と製品においては、従来の微
粒子エマルジョン樹脂や耐熱性向上剤としての粗大粒子
の粉体樹脂を添加する技術では見られなかった、均一な
皮膜組成を持ち、均一にかつ微細に分散した球状の突起
を有する皮膜が安定して得られる。この皮膜成分と形状
効果がマッチして歪取り焼鈍前後の潤滑性、耐キズ付き
性、耐蝕性等の優れた製品が得られる。本発明において
はクロム酸化合物を用いないにも関わらず、吸湿性、歪
取り焼鈍時の焼付き等がない技術が提供できる。

【図面の簡単な説明】

【図１】歪取り焼鈍前後の鋼板の耐キズ付き性を測定す
る場合の装置の概略である。

【図２】歪取り焼鈍時の焼付き性を測定する方法であっ
て（ａ）は積層鋼板を焼付けた後に焼鈍した状態、
（ｂ）はバネ秤で鋼板の剥離荷重を測定する状態を示す
図である。

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 長 誠一郎 福岡県北九州市戸畑区飛幡町１番１号 新 日本製鐵株式会社八幡製鐵所内 (72)発明者 山本 政広 福岡県北九州市戸畑区飛幡町１番１号 新 日本製鐵株式会社八幡製鐵所内

Claims (5)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 電磁鋼板の表面に無機物質としてリン酸
   Ａｌ、リン酸Ｃａ、リン酸Ｚｎの一種又は二種以上と有
   機樹脂を主成分とする皮膜剤が塗布され、歪取り焼鈍前
   の表面粗さがＲａ値で０．１５〜０．７μｍであること
   を特徴とする皮膜特性の優れる無方向性電磁鋼板。
2. 【請求項２】 電磁鋼板の表面に無機物質としてリン酸
   Ａｌ、リン酸Ｃａ、リン酸Ｚｎの一種又は二種以上と、
   ほう酸、コロイド状シリカの一種又は二種と、有機樹脂
   とからなる皮膜剤が塗布され、歪取り焼鈍前の表面粗さ
   がＲａ値で０．１５〜０．７μｍであることを特徴とす
   る、皮膜特性の優れる無方向性電磁鋼板。
3. 【請求項３】 電磁鋼板の表面に無機物質として少なく
   ともリン酸Ａｌを５０％以上含むリン酸Ａｌ、リン酸Ｃ
   ａ、リン酸Ｚｎの一種又は二種以上１００重量部と、ほ
   う酸１〜２０重量部、コロイダルシリカ１〜５０重量部
   の一種又は二種に対し、有機樹脂としてアクリル、ポリ
   スチレン、酢ビ、シリコン、ポリスチレン、ポリプロピ
   レン、ポリアミド、ポリカーボネート、メラミン、フェ
   ノール、ポリウレタン、アルキッド、イソシアネート、
   エポキシ樹脂の一種又は二種以上１〜３００重量部から
   なる皮膜剤が塗布され、表面粗さがＲａ値で０．１５〜
   ０．７μｍであることを特徴とする皮膜特性の優れる無
   方向性電磁鋼板。
4. 【請求項４】 重量部で少なくともリン酸Ａｌを５０％
   以上含む、リン酸Ａｌ、リン酸Ｃａ、リン酸Ｚｎの一種
   又は二種以上１００重量部と、ほう酸１〜２０重量部、
   コロイダルシリカ１〜５０重量部の一種又は二種に対
   し、有機樹脂として、アクリル、ポリスチレン、酢ビ、
   シリコン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミ
   ド、ポリカーボネート、メラミン、フェノール、ポリウ
   レタン、アルキッド、イソシアネート、エポキシ樹脂の
   一種又は二種以上１〜３００重量部からなることを特徴
   とする皮膜特性の優れる電磁鋼板用絶縁皮膜剤。
5. 【請求項５】 有機樹脂の粒子径を０．３〜３．０μｍ
   とすることを特徴とする請求項４記載の皮膜特性の優れ
   る無方向性電磁鋼板用表面処理剤。