JP2986240B2 - P及びCr化合物を含有しない方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成方法 - Google Patents

P及びCr化合物を含有しない方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は被膜成分としてP及びC
r 化合物を含有しないため、電磁鋼板製品加工時の発
粉、被膜剥離等による作業環境への悪影響がなく、鉄心
加工性の優れる方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成方法に関
する。
【0002】
【従来の技術】方向性電磁鋼板はSi を例えば2〜4%
含有する珪素鋼スラブを熱間圧延し、焼鈍した後1回或
いは中間焼鈍を挟む2回以上の冷延をして最終板厚と
し、ついで脱炭焼鈍し、鋼板表面にSiO2主体の酸化膜を
形成後 MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、仕上焼
鈍を施してゴス方位を持つ2次再結晶を発達させ、さら
にS,N等の不純物を除去すると共にフィオルステライ
ト(Mg2SiO4) 主体のグラス被膜を形成する。ついで絶縁
被膜用コーティング剤を塗布し、焼付け処理を行って製
品とされる。
【0003】また、鉄損をより改善することを目的とし
て、仕上焼鈍後あるいは前に方向性電磁鋼板の表面に微
細な線状歪みを間隔を於いて付与し、磁区細分化するこ
とが行われている(特開昭53−137016号、特開昭56-515
22号)。この場合、被膜が損傷される事があるから、防
錆、絶縁の目的で再度絶縁処理が成されている。
【0004】ところで、方向性電磁鋼板は主としてトラ
ンス、電気機器の鉄心材料として用いられるが、鉄心製
造の際には所定幅にスリット、剪断或いは打ち抜き加工
した材料を連続的に巻き加工したり積層して巻鉄心や積
鉄心として使用される。巻鉄心の場合には巻加工、圧縮
成型、歪取り焼鈍をへてレーシングと呼ばれる巻線作業
の後ケースに入れてトランスとされる。積鉄心の場合に
は主に手作業により鉄心を組立てし、巻線作業を行って
トランスとされる。
【0005】該製造においては、例えば巻き鉄心の場合
には被膜の潤滑性が良く、巻加工、成型作業が円滑に行
え、且つ成型後の鋼板端面やラップ部に凹凸を生ぜず、
形状が優れている事が重要である。積鉄心の場合絶縁性
等の被膜特性のほかに需要家での加工段階でのコイル表
面の絶縁被膜が搬送ロール等の負荷荷重下での接触や剪
断時に剥離や発粉しないことが重要である。
【0006】又、巻鉄心の場合には歪取り焼鈍時のアド
ヒージョンとよばれる鋼板表面相互間での焼き付けがな
く、レーシング作業がスムースに行えることが鉄心加工
率の向上或いは焼き付きによる歪みの誘起や絶縁、被膜
張力等の被膜機能の劣化防止の観点から重要である。こ
れらの問題に対しては方向性電磁鋼板の絶縁被膜の影響
が大きいため、優れた絶縁コーティングの開発が強く望
まれている。
【0007】更に、従来の方向性電磁鋼板の絶縁被膜剤
としては被膜張力、絶縁性、耐蝕性等の問題からコロイ
ダルシリカ〜リン酸塩〜クロム酸塩系或いはリン酸塩単
独系の絶縁コーティングが主として使用されている。こ
の被膜成分のクロム化合物、リン化合物のトランス加工
工程での発粉や被膜剥離による作業環境への影響を回避
するため、被膜特性を改善することによって絶縁被膜の
発粉、剥離性を防止する事と、クロム、リン等の化合物
を使用しない被膜剤の開発が望まれている。
【0008】絶縁コーティングの改良によって被膜の性
状を改良する手段としては、例えば特開昭61−41778 号
公報にはコーティング剤としてAl ,M等の第1リン酸
塩に粒子径8nm以下の超微粒子コロイダルシリカとクロ
ム酸、クロム酸塩の1種或いは2種以上を配合した混合
液を仕上焼鈍後の鋼板に塗布し焼付け処理することによ
って絶縁被膜のすべり性を改善する技術が開示されてい
る。
【0009】これらの絶縁被膜の改善によって方向性電
磁鋼板の鉄損、磁気歪み、絶縁特性と共に被膜の潤滑性
が改良され、その結果、鉄心加工時の作業性や被膜の発
粉、剥離現象を改善する効果が得られている。しかし、
鉄心加工時の被膜剥離、発粉問題は完全に解決されたわ
けではなく、又、被膜成分としクロム化合物及びリン酸
塩を主成分に使用する事は従来と変わりはない。
【0010】特にレーザー等によって製品板に局所的に
線状歪みを与え鉄損を改善する場合のように再度絶縁被
膜処理を行う場合には、歪みによる効果を保持するため
絶縁被膜の焼付け処理は例えば 500℃以下のような低温
で行われる。そのため、従来の高温焼付け用の被膜成分
では被膜硬化が十分に完了していないため硬度が十分で
ない。この結果、後の加工工程で絶縁被膜に傷が生じ易
く、発粉や剥離現象の原因になる。このため、この様な
低温焼き付け使用した場合に優れた被膜特性を有し、優
れた強度と潤滑性を兼ね備えた絶縁コーティングの開発
が嘱望されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明は方向性電磁鋼
板の絶縁被膜の形成方法として絶縁被膜成分にクロム化
合物或いはリン化合物を含有せず、需要家でのトランス
加工時の発粉、被膜剥離等での作業環境問題を有しない
絶縁コーティングを提供し、更に潤滑性、密着性、耐熱
性、耐蝕性、絶縁性等の被膜特性の優れる絶縁被膜を形
成する事を目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は珪素鋼ス
ラブを熱間圧延し、必要に応じて焼鈍し、1回或いは中
間焼鈍を挟んで2回以上の冷延をし、脱炭焼鈍し、焼鈍
分離剤を塗布後仕上焼鈍し、該仕上焼鈍後の鋼板に絶縁
コーティング剤を塗布し焼付け処理を行う場合と、更に
この製品板表面にレーザー等によって微細な線状歪みを
間隔を置いて付与し、その後再度絶縁コーティング剤を
塗布し、低温焼付け被膜を形成する超低鉄損方向性電磁
鋼板の絶縁被膜形成方法に於いて、下記の(A)+
(B)を主成分とする絶縁コーティング剤を前記レーザ
ー等によって微細な線状歪みを付与する前、及び/また
は後に塗布し、焼きつけ処理し、絶縁被膜を形成するこ
とを特徴とするP,Cr 化合物を含まない鉄心加工性の
優れる方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成方法にある。
【0013】 (A):一般式RnSi(OR ′)4-n R:炭素数1〜6の炭化水素基 R′:炭素数1〜6のアルキル基 n:0〜3の整数 で表されるアルコキシランの1種または2種以上の部分
加水分解物 (B):平均粒径50〜 10000Å無機酸化物粒子 以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
【作用】本発明者らは前記課題を解決すべく方向性電磁
鋼板の絶縁被膜の形成方法について種々検討した。その
結果、絶縁被膜用コーティングの塗布、焼付け過程に於
て、従来のリン酸塩、クロム酸塩系主成分の被膜剤に変
えて、特定のアルコキシランの部分加水分解物を主成分
とするコーティング剤により、絶縁被膜の絶縁被膜の潤
滑性、耐蝕性、密着性等が著しく向上し、鉄心加工工程
で被膜剥離等による作業環境問題のない絶縁被膜の形成
が出来ることを見出だした。
【0015】更に、本発明の組成液では、従来のリン酸
塩単独、リン酸塩〜クロム酸塩〜コロイダルシリカ系で
は不可能であった 400℃以下の焼付け処理によっても、
良好な被膜特性が得られることを見出だした。以下、実
験データに基ずき詳細に説明する。公知の方法で製造し
た板厚0.23mmの高磁束密度方向性電磁鋼板の仕上焼鈍後
のコイルからサンプルを切り出し、 850℃×4時間の歪
取り焼鈍を行いコイルセットと歪みを除去した。ついで
2%H2SO4 で80℃×20秒の軽酸洗の後、粒子径10nmの20
%コロイダルシリカ 100ml、50%第1リン酸Al 55ml、
無水クロム酸7gからなる組成のコーティング剤を焼付
け後の重量で4.5g/m2 になるように塗布し、N2
囲気中で 800℃×20秒の焼付け処理を行った。ついでレ
ーザー処理により製品板表面に圧延直交方向に間隔5mm
で線状歪み付与処理を行い、鉄損特性の改善処理を行っ
た。
【0016】この鋼板に表1に示す組成の絶縁コーティ
ング剤を焼付け後の重量で2.5g/m2 になるように塗
布し、 350℃×20秒間大気中で低温焼付け処理を行っ
た。得られた製品鋼板から試料を切り出し図1に示す方
法(A法、B法)により絶縁被膜の潤滑性を測定した。
上記A法(同図(a))では挟み板1−1,2−2間に試
料2を置き重錘3にて荷重Nを加え、試料2を引き出す
力Aをバネ計り4で測定し、すべり摩擦係数μをμ(F
F)=A/Nにより求めた。
【0017】また上記B法(同図(b))では試料2の絶
縁被膜上に一定荷重7を加えた鋼球8を置き、その鋼球
を往復運動させて、鋼球8が絶縁被膜から受ける抵抗値
を歪みゲージ6により連続的に測定した。この測定の場
合、荷重7を 100g、鋼球8の直径を 100mmにした。9
はレコーダ、10はチャートである。また、別に切り出し
た試料により、図2の方法で歪取り焼鈍後の被膜面の焼
付状況を測定した。すなわち長さ3×4cmに剪断した試
料2を同図(a)に示す如く交互に積層し、圧力60Kg/
cm2 でボルト締めした後、 850℃×4時間、N2 、DP10
℃中で焼鈍後、同図(b)に示す如くバネ計り4で剥離
荷重を測定し、焼き付き状態を評価した。更に被膜の耐
蝕性、密着性、磁気特性への影響等についても調査を行
った。上記の結果を表2に示す。この結果、本発明の様
にクロム、リン化合物を主成分に使用しない絶縁コーテ
ィング剤においても被膜特性が優れ、潤滑性等の著しい
向上が見られた。
【0018】次に、本発明の絶縁被膜の形成方法につい
て述べる。本発明における絶縁被膜形成用のコーティン
グ剤は一般式 RnSi(OR ′)4-n R:炭素数1〜6の炭化水素基 R′:炭素数1〜6のアルキル基 n:0〜3の整数 で示されるアルコキシランの部分加水分解物である。具
体的なアルコキシランとしては、テトラメトキシシラ
ン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラ
ン、モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエ
トキシシラン、モノエチルトリエトキシシラン、ジメチ
ルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、モノ
メチルトリイソプポキシシラン、モノエチルトリブトキ
シシラン、モノビニルトリエトキシシラン等がある。
【0019】本発明ではこれらのアルコキシシランを水
−アルコール混合溶媒中で、公知の方法に従って加水分
解する。本発明では、これらのアルコキシシラン部分加
水分解物の1種かまたは2種以上の混合物を水及び/ま
たはアルコール等の有機溶媒で適宜希釈して用いる。本
発明で用いられる絶縁コーティング剤としては、さら
に、上述のアルコキシシラン部分加水分解物に平均粒子
径が50〜 10000Åの範囲の無機酸化物粒子を加えたもの
が用いられる。好ましい無機酸化物としては、SiO2, Al
2O3, ZrO2, TiO2, CeO2, ZnO, SnO2, In2O3, Sb2O5など
があげられる。これらの無機酸化物は、ゾルまたは微粉
末の状態で上記アルコキシシランと混合する。
【0020】このときの無機酸化物添加量は、アルコキ
シシランをSiO2に換算した 100重量当たり1〜45重量
部、好ましくは5〜20重量部である。以上の組成からな
る絶縁コーティング剤は鋼板に塗布され、乾燥後、焼付
け処理される。本発明のコーティング剤は従来の絶縁コ
ーティング剤の様にクロム化合物、リン化合物を主成分
としないため焼付け条件が広範囲で可能である。特に焼
付け温度が低温化が出来るため、レーザー処理等の歪み
付与処理材に再度コーティング処理を行う様な場合有利
である。
【0021】本発明の処理では 100℃の乾燥条件でも短
時間での焼付けが可能である。 100℃以下では乾燥、被
膜形成に長時間を要するため、実用的でない。逆に 900
℃以上では鋼板の張力、雰囲気ガス等のコントロールが
困難になるため 900℃以下に制限される。
【0022】
【実施例】実施例1 重量%でC; 0.083、Si ;3.18、Mn ;0.063 、S;
0.024 、Al ;0.033残部が鉄及び不可避の不純物から
なる珪素鋼スラブを公知の方法で熱延、焼鈍、冷延して
最終板厚0.23mmとした。次いでN2 +H2 湿潤雰囲気中
で炭焼鈍した後焼鈍分離剤を塗布し、1200℃×20時間の
仕上焼鈍を行いグラス被膜を形成した。
【0023】次いで余剰の MgOを水洗で除去し、軽酸洗
の後、粒子系10nmの20%コロイダルシリカ 100ml、50%
第1リン酸Al 55ml、CrO37gの配合からなる公知の絶
縁コーティング処理剤を焼付け後の重量で4.0g/m2
になるように塗布し、 820℃×20秒間の焼付け処理を行
って製品とした。次いで、レーザー照射により鋼板の圧
延直交方向に5mmの間隔で線状歪みを付与し、鉄損特性
を改善後表1に示す組成の絶縁コーティング剤を焼付け
後の重量で2.0g/m2 になるように塗布し、380℃×3
0秒の焼付け処理を行った。得られた最終製品板からサ
ンプルを切り出し、被膜特性を調査した。
【0024】結果を表2に示す。本発明の絶縁コーティ
ング剤によるものは低温焼付け被膜において、耐蝕性が
著しく良好で、潤滑性等も良好な特性が得られた。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
【発明の効果】本発明によれば、クロム化合物、リン化
合物を被膜成分として含有せず、需要家におけるトラン
ス加工時の被膜成分の発粉、剥離等による作業環境汚染
の問題のない絶縁被膜形成法が提供できる。また、絶縁
被膜の潤滑性、耐熱性、耐蝕性等が良好でトランス加工
時に被膜表面に傷が生じにくい方向性電磁鋼板が得られ
る。
【0028】更にクロム化合物、リン化合物を被膜成分
として含有しないため図3に示す如く、低温で吸湿性の
ない緻密な絶縁被膜を形成する。なお、図3は絶縁被膜
の焼付け温度と被膜の耐蝕性(吸湿性)を示す図である
が、図中の☆の本発明材は実施例2の絶縁被膜成分1を
塗布、焼付けした材料、★は実施例2の4の比較例の特
公昭53-28375による被膜剤を塗布・焼付けした材料を大
気中、50℃×48時間、湿度98%で放置した後表面の状態
を調査した結果を表わしている。
【図面の簡単な説明】
【図1】試料の絶縁被膜の潤滑性を測定する方法を示す
図である。
【図2】試料の歪取り焼鈍後の被膜面の焼付け状況を調
査する方法を示す図である。
【図3】試料の絶縁被膜の焼付け温度と被膜の耐蝕性の
関係を示す図である。
【符号の説明】
1−1…板 1−2…板 2…試料 3…重錘 4…バネ計り 5…台 6…歪ゲージ 7…荷重 8…鋼球 9…レコーダ 10…チャート
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭62−50483(JP,A) 特開 昭61−9581(JP,A) 特開 昭57−152423(JP,A) 特公 昭45−5124(JP,B1) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) C23C 22/00 - 22/86

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 珪素鋼スラブを熱間圧延し、必要に応じ
    て焼鈍し、1回或いは中間焼鈍を挟み2回以上の冷延を
    して最終板厚とした後脱炭焼鈍し、焼鈍分離剤を塗布後
    仕上焼鈍し、該仕上焼鈍後の鋼板に絶縁コーティング剤
    を塗布後焼付け処理を行う事からなる方向性電磁鋼板の
    製造方法に於いて、下記の(A)+(B)を主成分とす
    る絶縁コーティング剤を鋼板に塗布した後、 100℃〜 9
    00℃で焼付け処理することを特徴とするP及びCr 化合
    物を含有しない且つ、被膜特性の優れる方向性電磁鋼板
    の絶縁被膜形成方法。 (A):一般式RnSi(OR ′)4-n R;炭素数1〜6の炭化水素基 R′;炭素数1〜6のアルキル基 n=0〜3の整数 で表されるアルコキシランの1種または2種以上の部分
    加水分解物(B)平均粒径50〜 10000Åの無機酸化物粒
  2. 【請求項2】 珪素鋼スラブを熱間圧延し、必要に応じ
    て焼鈍し、1回或いは中間焼鈍を挟み2回以上の冷延を
    して最終板厚とした後脱炭焼鈍し、焼鈍分離剤を塗布後
    仕上焼鈍し、該仕上焼鈍後の鋼板に絶縁コーティング剤
    を塗布後焼付け処理を行って製品を製造し、しかる後、
    該鋼板に光学的、機械的、熱的、化学的等の手段で磁区
    細分化処理を行い鉄損を改善後、再度絶縁コーティング
    剤を塗布焼付けする方法に於いて、請求項1に記載の絶
    縁コーティング剤を鋼板に塗布し、 100〜 500℃で焼付
    け処理することを特徴とするP及びCr 化合物を含有し
    ない且つ、被膜特性の優れる方向性電磁鋼板の絶縁被膜
    形成方法。
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