JP6575530B2 - 乳風味増強油脂、及び飲食品の乳風味を増強する方法 - Google Patents
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Description
特許文献1の製造方法では、乳原料を2種類以上の脂肪分解酵素により加水分解することで、バター風味が増強されると記載されている。しかし、従来と同様、加水分解によりラクトン類及びケトン類の含有量を増加させているために、バランスのとれた良好なフレーバーを得ることは難しく、先味や中味はある程度補強できるものの、特に後味のコクを増強することは困難であった。
特許文献4記載の乳系香料組成物は、従来報告されていた各種成分を組み合わせた組成物であり、当該組成物を使用することにより、天然らしいミルクもしくはバター様の風味を付与し、食品の嗜好性を高めることができると記載されている。しかし、非常に多種の成分を組み合わせる必要があり簡便な方法とは言えず、かつ食品に添加した際の後味のコクを付与する効果に関しての示唆も開示もなかった。また、乳脂肪は元来少量のラクトン類を含有しており、保存状態が悪いと酸化や加水分解により遊離脂肪酸類を生成する場合がある。そのため、乳脂肪と当該組成物を区別することができないものであった。
(1)メチルケトン類の総含有量に対するδ‐ラクトン類の総含有量の重量比が1〜6であって、δ‐ラクトン類の総含有量が55重量ppm以上であり、乳脂肪を含有する、乳風味増強油脂、
(ここで、メチルケトン類は、2-ヘプタノン、2-ノナノン、2-ウンデカノン、2-トリデカノン及び2-ペンタデカノンの総和、δ‐ラクトン類は、δ-デカノラクトン、δ-ドデカノラクトン、δ-テトラデカノラクトン及びδ-ヘキサデカノラクトンの総和である。)
(2)乳脂肪含量が20重量%以上である、(1)記載の乳風味増強油脂、
(3)遊離の酪酸含量が2重量ppm以下である、(1)又は(2)に記載の乳風味増強油脂、
(4)水分が1重量%未満である、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の乳風味増強油脂、
(5)(1)〜(4)のいずれか1つに記載の乳風味増強油脂の製造方法、
(6)(1)〜(4)のいずれか1つに記載の乳風味増強油脂を含有することによる、飲食品の乳風味を増強する方法、
である。
本発明の乳風味増強油脂とは、乳に由来する風味、例えば乳風味やバター風味等、を増強した油脂である。また、本発明の乳風味増強油脂は、メチルケトン類の総含有量に対するδ‐ラクトン類の総含有量の重量比が規定量であり、かつδ‐ラクトン類の総含有量を規定量以上及び乳脂肪を含有する油脂のことである。
また、本発明でいう乳風味とは、後味のコクにより、本発明の乳風味増強油脂を使用しない場合に比べて増強される乳風味のことである。そのため、同等の乳風味を得るための、乳脂肪含量を低減することができる。
いずれも、具体的な評価方法は実施例に記載する。
本発明の乳風味増強油脂は、乳に由来する風味の増強が好ましい飲食品に使用することができる。このような飲食品としては、例えば、小麦粉加工食品、油脂加工食品及び調理加工食品の製造用に使用することができる。具体的には、小麦粉加工食品として、菓子パン、デニッシュ、クロワッサン等のパン類、ドーナツ、スポンジケーキ、ワッフル、ブッセ、どら焼き、パウンドケーキ等の和洋菓子、パイ、クッキー、ビスケット等の菓子類等、油脂加工食品としては、香味油、チョコレート類等、調理加工食品としては、オムレツなどの卵製品、スープ類、惣菜類、及びパスタソース等を例示することができる。また、これらの原料として用いられる飲食品である、たとえば、油脂加工食品、油中水型乳化物及び水中油型乳化物に使用することもできる。具体的には、油中水型乳化物としては、マーガリン、ファットスプレッドや油脂を連続相とする乳等を主要原料とする食品等、水中油型乳化物としては、ホイップクリーム等のクリーム類、カスタードクリーム等のフラワーペースト類、クリームチーズ等のチーズ類、アイスクリーム類、油脂分を含有する飲料類、ベシャメルソースやホワイトソース等のソース類、及びスープ類等を例示することができる。
乳風味増強油脂の使用方法も、飲食品を製造するどの過程で使用することもできる。たとえば、スープ類の仕上げ段階で、乳風味増強油脂を直接添加することができる。これにより、乳風味だけでなく、長時間煮込んだような後味のコクを増強することができる。また、練り込み用油中水型乳化物の油相の一部として使用したり、油中水型乳化物に液糖や他の風味素材と混合されて調製されるフィリングクリームやサンドクリーム類の調製時に使用することもできる。さらに、ロールイン用油中水型乳化物の油相の一部に使用した場合、その油中水型乳化物を練り込んで焼成したデニッシュにおいても、乳風味並びに後味のコクを増強をすることができる。さらに、物性や価格的な制約等により、飲食品の乳脂肪含量をこれ以上増やすことが困難な場合には、本発明の乳風味増強油脂と、一般的に使用されている乳香料及び/又はその他の乳風味増強素材とを併用することもできる。
まず、δ‐ラクトン類の場合、分析サンプルのアセトニトリル可溶画分をシリカゲル処理してガスクロマトグラフ質量分析による定量分析を行った。
1.δ-トリデカラクトンを内部標準として添加した試料15gに対して、15mlのアセトニトリルを加えてよく振盪撹拌する。
2.2000r.p.m.で10分間遠心後、上清を回収する。この操作を3回繰り返し、得られる上清をロータリーエバポレーター(60℃以下)にて減圧及び窒素吹き込みにより脱溶剤することにより、アセトニトリル可溶画分を得る。
1.シリカゲル(InertSep SI FF 200mg/3ml : GLサイエンス)を2ml×3回ペンタンにて平衡化する。
2.アセトニトリル可溶画分50μlにペンタン50μl添加して、よく混和後、シリカゲルに添加する。
3.6mlのペンタン/ジエチルエーテル=95/5、及び6mlのペンタン/ジエチルエーテル=90/10で溶出後、ペンタン/ジエチルエーテル=80/20で溶出させる。
4.6mlのペンタン/ジエチルエーテル=80/20(v/v)で溶出する画分を窒素気流下で乾燥後、200μlのアセトンに溶解して分析サンプルとする。
ガスクロマトグラフ飛行時間型質量分析装置は、Pegasus 4D(GC-TOFMS Leco社製)を用いた。GC装置としてAgilent 6890(アジレント・テクノロジー株式会社製)を使用し、カラムにStaBilwax(長さ30m、内径0.25mm、液相膜厚0.5μm)(Restek社製)を用いる。キャリアガスにはヘリウムガスを用い、流量は1.0ml/分に設定する。サンプル注入口の温度は250℃に設定し、カラムの温度は、40℃で2分間の後、6℃/分で240℃まで昇温させ、240℃で10分間維持する。キャピラリーカラムへの抽出成分の導入は、スプリット方式(スプリット比1:10)により行う。
質量分析装置はPegasus 4D(TOFMS Leco社)を使用して、イオン源温度230℃、イオン化電圧70eVでイオン化を行い、20スペクトル/秒の割合でデータの取り込みを行う。GC装置と質量分析装置を接続するインターフェース温度は250℃に設定する。
内部標準として添加したδ-トリデカラクトンのピーク面積値を基準として、δ-デカノラクトン、δ-ドデカノラクトン、δ-テトラデカノラクトン及びδ-ヘキサデカノラクトンの定量値を算出する。
メチルケトン類の分析は、2-ヘプタノン、2-ノナノン、2-ウンデカノン、2-トリデカノン及び2-ペンタデカノンを、酪酸の分析は、酪酸を標準物質とした外部標準法によるヘッドスペース定量分析法によって行う。
1.固相マイクロ抽出法(Solid Phase Micro Extraction、以下「SPME」と称する。)による前処理を行う。まず、20mlバイアル(SUPELCO社製)にサンプル2gを計量し、セプタムキャップ(SUPELCO社製、テフロン(登録商標)シールされたもの)で密栓し、60℃、30分間、予備加熱する。次に、前記バイアルのヘッドスペース部分に、SPMEファイバーを30分間投入し、揮発成分の吸着を行う。SPMEファイバーは、ファイバー長1cmのDVB/PDMS/CARファイバー(SUPELCO社製)を用いる。
2.次に、ガスクロマトグラフ質量分析装置による分析を行う。同分析装置のサンプル注入口に、抽出成分を含有するSPMEファイバーを入れ、メチルケトン類及びアルデヒド類の定量を行う。ガスクロマトグラフ質量分析装置は、Pegasus 4D(GC−TOFMS Leco社製)を用いる。GC装置としてAgilent 6890(アジレント・テクノロジー株式会社製)を使用し、カラムにStaBilwax(長さ30m、内径0.25mm、液相膜厚0.5μm)(Restek社製)を用いる。キャリアガスにはヘリウムガスを用い、流量は1.0ml/分に設定する。サンプル注入口の温度は250℃に設定し、カラムの温度は、40℃で2分間の後、12℃/分で240℃まで昇温させ、240℃で10分間維持する。キャピラリーカラムへの抽出成分の導入は、スプリットレス方式により行う。
質量分析装置はPegasus 4D(TOFMS Leco社)を使用して、イオン源温度230℃、イオン化電圧70eVでイオン化を行い、20スペクトル/秒の割合でデータの取り込みを行う。GC装置と質量分析装置を接続するインターフェース温度は250℃に設定する。
よつ葉バターを57〜62℃の湯煎で加熱し、分離した油相をろ過して乳脂肪(比較例1)を調製した。この乳脂肪は、水分が668重量ppm、遊離の酪酸が0.5重量ppm、酸価が0.7、過酸化物価が測定限界以下(測定限界値 : 0.4meq/Kg)であり、風味は雑味がなく、すっきりとした自然な乳の香りであった。なお、下表に記載する比較例1は、δ‐ラクトン類、メチルケトン類及び酪酸を添加していない、この乳脂肪の分析値である。また、この乳脂肪を、実施例及び比較例1以外の比較例でも使用した。
パーム油とパーム核オレインの調合油を酵素ランダムエステル交換した、実質的にトランス酸を含有しない、融点32℃のエステル交換油脂Aを調製した。この油脂は、水分が80重量ppm、δ-ラクトン類、メチルケトン類及び遊離の酪酸の含有量がすべて0.1重量ppm以下であり、酸価が0.1以下、過酸化物価が測定限界以下であった。また、エステル交換油脂Aの風味は、一般的な精製された植物性油脂と同様に、無味無臭であった。
この際、使用されるδ‐ラクトン類及びメチルケトン類が、液状の場合にはバター含有油脂にそのまま添加することにより調製することができる。固体の場合には、加熱融解して液状にしてからバター含有油脂に添加する、又は固体状のままバター含有油脂に添加してから加熱融解することにより調製することができる。ここで、加熱溶解する場合には、添加した成分の沸点を超えるような過加熱とならないようにすることにより、添加した成分の効果を十分発揮させることができる点で好ましい。
また、下表に記載のように、油脂としては、上述の乳脂肪とエステル交換油脂Aを使用した。従って、すべての実施例及び比較例は、微量成分を含有しても水分が0.5重量%以下、酸価が1以下、過酸化物価が1meq/Kg以下であった。
評価方法は、乳風味増強油脂を完全融解し、40℃の融液状態で実施した。
この際、劣化風味については、乳脂肪(比較例1)の点数を3.0として、後味のコク及び乳風味については、乳脂肪(比較例1)及び乳脂肪(比較例1)を含有する飲食品の点数をそれぞれ1.0として相対評価し、平均点を下表3及び表4にまとめた。
風味評価基準(点数法)は、すべての項目について、平均点が2点以上を合格とした。
劣化風味 :
3 :劣化臭及び/又は劣化風味は感じられない。
2 :若干劣化臭及び/又は劣化風味が若干感じられるが、許容範囲内。
1 :劣化臭及び/又は劣化風味が強く感じられる。
後味のコク :
3 :乳脂肪(比較例1)又は乳脂肪(比較例1)を含有する飲食品に比べて、後味のコクを強く感じる。
2 :乳脂肪(比較例1)又は乳脂肪(比較例1)を含有する飲食品に比べて、後味にコクが感じられる。
1 :乳脂肪(比較例1)又は乳脂肪(比較例1)を含有する飲食品と同等及び/又は後味のコクが感じられない。
乳風味(総合評価) :
3 :乳脂肪(比較例1)又は乳脂肪(比較例1)を含有する飲食品に比べて、乳風味が強い。
2 :乳脂肪(比較例1)又は乳脂肪(比較例1)を含有する飲食品に比べて、乳風味を感じる。
1 :乳脂肪(比較例1)又は乳脂肪(比較例1)を含有する飲食品と同等で、乳風味が弱い。
以下の「油中水型乳化物の調製法」に従って、下表5に示すフィリング用油中水型乳化物を調製した。
「油中水型乳化物の調製法」
1.表5に従い、油脂を融解し、油脂に溶解する乳化剤を添加することで油相を調製した。
2.水に、水相原料に分類される原料を添加、溶解して水相を調製した。
3.攪拌中の油相へ水相を添加し、混合した。ここで得られる混合液を調合液と称する。
4.フィリング用/練り込み用の場合には、調合液をコンビネーター、ピンマシンを通してケースに流し込み、油中水型乳化物を得た。ロールイン用の場合には、調合液をコンビネーター、休止管、成型機を通してシート状の油中水型乳化物を調製した。
5.調製した油中水型乳化物を3〜7℃の冷蔵庫にて3〜7日間保管した。
・単位は重量%である。
・エステル交換油脂Bとしては、実質的にトランス酸を含有しない、ヤシ油、パームステアリン及びハイエルシン菜種極度硬化油の調合油を、ナトリウムメチラートを触媒としてエステル交換を行った油脂を使用した。この油脂は、水分が70重量ppm、酸価が0.1以下、過酸化物価が測定限界以下であった。また、風味は一般的な植物性精製油脂と同様に、無味無臭であった。
・乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチンを使用した。
表6 フィリング用油中水型乳化物の風味評価
その結果、油相中の乳脂肪含量は変わらず、乳風味増強油脂比率が3.7重量%であるにも関わらず、実施例12のフィリング用油中水型乳化物は、比較例5のフィリング用油中水型乳化物に比べて、後味のコク及び乳風味が強く感じられ、良好であった。
表7 ロールイン用油中水型乳化物の配合
・単位は重量%である。
・エステル交換油脂Cとしては、実質的にトランス酸を含有しない、パームステアリン、パーム油及びハイエルシン菜種極度硬化油の調合油を、ナトリウムメチラートを触媒としてエステル交換を行った油脂を使用した。この油脂は、水分が70重量ppm、酸価が0.1以下、過酸化物価が測定限界以下であった。また、風味は一般的な植物性精製油脂と同様に、無味無臭であった。
・乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、レシチンを使用した。
「クロワッサンの調製法」
1.下表8記載の小麦粉生地原料を練り上げ、28℃、湿度75%の庫内にて60分間発酵させた後、−18℃のフリーザーで30分間置いた後、−7℃のフリーザーで60分間リタードをとった。
2.調製したロールイン用油中水型乳化組成物を折り込み(対粉60重量部)、リバースシーターで3つ折りを2回行った後、−7℃のフリーザーで60分間リタードをとり、リバースシーターで3つ折りを1回行った後、−7℃のフリーザーで45分間リタードをとった。
3.リバースシーターで生地厚4mmまで延ばし、55gに成形し、32℃、湿度75%の庫内で60分間発酵させた。
4.庫内温度210℃のオーブンで17分間焼成し、クロワッサンを調製した。
表9 クロワッサンの風味評価
その結果、実施例14のクロワッサンは、比較例7のクロワッサンに比べ、後味のコク及び乳風味が強く感じられ、良好であった。
以上の結果から明らかなように、メチルケトン類の総含有量に対するδ‐ラクトン類の総含有量の重量比が規定量であり、かつδ‐ラクトン類の総含有量を規定量以上及び乳脂肪を含有することにより、長時間の反応及び酵素反応等の煩雑な工程を経ることなく、劣化風味が抑制され、後味のコクを付与することにより、乳風味を増強した乳風味増強油脂(実施例)を提供することができる。
しかし、メチルケトン類の総含有量に対するδ‐ラクトン類の総含有量の重量比が規定量でない、又はδ‐ラクトン類の総含有量が規定量でない若しくは乳脂肪を含有していない場合には、後味のコクが十分でなかったり、乳風味が弱いものであった。
本発明で好適に使用できるδ‐ラクトン類及びメチルケトン類は、新規な成分を添加するというよりも、元来乳脂肪に含有されている成分が好適である。また、δ‐ラクトン類及びメチルケトン類は、成分間及び/又はそれぞれの各成分のバランスを種々検討することにより見出したものである。従って、特定の成分のみを添加するよりも、上述のように各δ-ラクトン類及び各メチルケトン類が規定の重量比の場合に、特に乳風味を得ることができる。
さらに、当該乳風味増強油脂(実施例)は、フィリング等の直食を前提とした食品だけでなく、クロワッサン等の焼成品といった幅広い飲食品に使用することにより、後味のコクを付与し、乳風味を増強することができるものである。
Claims (4)
- メチルケトン類の総含有量に対するδ‐ラクトン類の総含有量の重量比が1〜6であって、δ‐ラクトン類の総含有量が60重量ppm以上であり、メチルケトン類の総含有量が45重量ppm以下であり、かつ遊離の酪酸含量が2重量ppm以下であり、乳脂肪を20重量%以上含有する、乳風味増強油脂。
(ここで、メチルケトン類は、2‐ヘプタノン、2‐ノナノン、2‐ウンデカノン、2‐トリデカノン及び2‐ペンタデカノンの総和、δ‐ラクトン類は、δ‐デカノラクトン、δ‐ドデカノラクトン、δ‐テトラデカノラクトン及びδ‐ヘキサデカノラクトンの総和である。) - 水分が1重量%未満である、請求項1記載の乳風味増強油脂。
- 請求項1または4に記載の乳風味増強油脂の製造方法。
- 請求項1または4に記載の乳風味増強油脂を含有することによる、飲食品の乳風味を増強する方法。
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