JP6635268B2 - 塩味増強油脂の製造方法 - Google Patents
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Description
また、特許文献3の製造方法では、酸化臭や刺激臭が抑制され、バター風味が増強されたバターフレーバーを製造することができると記載されている。この特許文献3の実施例1では、当該バターフレーバーを市販のマーガリンに添加することにより塩味が非常に良好であった旨の記載がある。
特許文献1の呈味強化用油脂ならびに呈味含有含油食品の呈味を強化する方法では、有機酸またはその塩を水溶液の状態で油脂中に添加し、その後に脱水処理をされた呈味強化用油脂を、呈味材、特に食塩を含有する食品素材と共に用いることを特徴としている。そのため、水溶液として水分を添加後、脱水処理をして、結晶として析出した有機酸またはその塩を濾過して取り除く必要があるため、工程が煩雑であった。
特許文献2の油脂組成物、並びに食品では、オレイン酸含有量が55重量%以上、及びリノレン酸含有量が0.5重量%以下の油脂組成物、特にヒマワリ油を用いることにより、食品の塩味などの食味の増強・保持する作用を有すると記載されている。しかし、特許文献2に使用される油脂として、バターオイルの示唆も記載もない。そもそも、バターオイルのオレイン酸含量は24重量%程度、リノレン酸含量は1重量%程度、並びに短鎖及び中鎖脂肪酸含量は10〜20重量%である。
(1)水分が2重量%以下であるバターオイル含有油脂を、105℃以上かつ145℃以下の温度で、TTm値(℃分)が8〜5000である条件で加熱処理することを特徴とする、塩味増強油脂の製造方法(ここで、TTm値(℃分)とは、加熱温度−100(℃)と加熱保持時間(分)の積分値である。)、
(2)バターオイル含有油脂がバターオイルを50重量%以上含有する、(1)記載の塩味増強油脂の製造方法、
(3)加熱処理直後の過酸化物価が1.5meq/Kg未満であり、酸価が2未満である、(1)または(2)に記載の塩味増強油脂の製造方法、
(4)(1)〜(3)のいずれか1に記載の方法で製造した塩味増強油脂を含有する、塩味含有飲食品の製造方法、
(6)(1)〜(3)のいずれか1に記載の方法で製造した塩味増強油脂を使用することによる、塩味含有飲食品の塩味を増強する方法、
に関するものである。
本発明でいう塩味増強油脂とは、塩味含有飲食品に使用することにより、塩味含有飲食品の塩味を増強することができるものである。塩味増強油脂の定義に合致する油脂の判定は、実施例に記載の方法に従い行う。本発明の製造方法で得ることができる塩味増強油脂を使用することで、塩味が顕著に増強された塩味含有飲食品を調製することができる。そのため、同等の塩味を得るための塩味剤の使用量を低減することができる。
本発明でいう塩味増強油脂の製造方法は、低水分のバターオイル含有油脂を特定の温度及び条件で加熱処理することを特徴としている。
本発明でいうバターオイル含有油脂とは、バターオイル、またはバターオイルをその他の油脂と調合した油脂である。なお、使用するバターオイルは、本発明に係る加熱処理を行う前の熱履歴は問わない。例えば、本発明の効果を妨げない範囲であれば、脱色及び/又は脱臭工程が施されていなくてもよいし、脱色及び/又は脱臭工程が施されたバターオイルを使用してもよい。特に、脱色及び/又は脱臭工程が施されておらず、100℃以上の加熱を受けていないものが好適である。
また、バターオイル以外の油脂を使用する場合には、脱色及び脱臭工程を経たものを使用することが好ましい。
なお、バターオイルの組成は、季節や飼料、産地等の要因により大きく変化することが知られている。しかし、これらの要因により、本発明のバターオイル原料としての使用が制限されることはない。バターオイルの流通温度に関しても、常温流通品を使用することができるが、酸化劣化する可能性のより少ない冷凍流通品が好ましい。本発明でいうバターとは、製造方法に特に制限はなく、通常、遠心分離して原料乳からクリームを分離した後、撹動(チャーニング)して固化させる無発酵バター(スイートクリームバター)である。なお、典型的なバターの組成は、成分の約83重量%がバターオイルであり、水分を約16重量%及び無脂乳固形分を含む油中水滴型エマルションである。
また、本発明のバターオイル含有油脂において、オレイン酸含有量は55重量%未満が好ましく、より好ましくは52重量%未満、さらに好ましくは49重量%未満である。この範囲にあると、塩味含有飲食品に使用した場合に塩味の増強効果が十分であるために好適である。
なお、水分の測定は、カールフィッシャー法、又は海砂法により行う。
ここで、本発明でいう炭水化物とは、糖類、澱粉等の糖質及び食物繊維であり、タンパク質とは、リパーゼ及びエステラーゼ等の脂肪分解酵素、乳タンパク質並びにタンパク質の構成成分であるアミノ酸及びペプチドを示す。
また、本発明でいうバターオイル含有油脂は、バター又はクリームから炭水化物やタンパク質を含有する水相成分を分離除去したバターオイルを含有し、更に炭水化物及びタンパク質も添加しないため、加熱処理前後ともに固形分が存在せず、加熱処理後にろ過等の工程を必要としない。従って、本発明の製造方法は、一般的な焦がしバターの製法のように、加熱処理により生成されたメイラード反応生成物等を除去する工程を必要としないために非常に簡便である。
本発明の製造方法でいう加熱処理とは、特定の加熱温度において、特定のTTm値(℃分)を満たすように加熱保持時間を調整することが必要がある。
本発明の製造方法において、加熱処理の上限温度は145℃以下、より好ましくは140℃以下、さらに好ましくは135℃以下である。一方、加熱処理の下限温度は105℃以上であり、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上である。加熱処理温度がこの範囲であると、油脂の酸化劣化が促進されにくく、塩味含有飲食品に使用した場合に塩味の増強効果が十分であるために好適である。
TTm値は、具体的には、温度変化が0.5〜10℃/分の条件下において、温度が100℃以上の段階で30秒毎に温度を測定し、その温度に0.5分をかけた値を全て足すことにより、概算の積分値として求めることができる。また、簡易的には、昇温時及び冷却時に直線的に温度変化する場合は、(昇温時の加熱処理(℃分))+((加熱処理温度−100)(℃)×加熱保持時間(分))+(冷却時の加熱処理(℃分))により概算することもできる。
本発明の製造方法における加熱保持時間は、上述のTTm値(℃分)を満たす範囲であれば、特に制限されることはないが、目安としては、目標とする加熱処理温度に達温後240分以下が好ましく、より好ましくは90分以下、さらに好ましくは1〜60分、最も好ましくは1.5〜45分間保持することにより加熱処理することができる。TTm値がこの範囲であると、油脂の酸化劣化が促進されにくく、塩味含有飲食品に使用した場合に塩味の増強効果が十分であめに好適である。
また、本発明の製造方法における加熱処理条件として、圧力の制御を行わずに、例えば、常圧で実施することができる。
なお、本発明で製造される塩味増強油脂が塩味を増強する機構は不明であるが、本発明の加熱処理により生成すると考えられる有効成分が減圧下では系外に放出されてしまうために、減圧下で加熱処理した場合には、十分な効果を有する塩味増強油脂は得られないと推定される。
本発明の製造方法で得られる塩味増強油脂は、加熱処理直後の過酸化物価が1.5meq/Kg未満であることが好ましく、より好ましくは1meq/Kg以下である。また、加熱処理直後の酸価が2未満であることが好ましく、より好ましくはそれぞれ1以下である。従って、加熱処理後にカラム処理及び脱色脱臭等の精製処理を必要とせずに、そのまま使用することができる。ここで、加熱処理直後とは、加熱処理終了後、概ね1時間以内に分析を行うという意味である。
本発明において、塩味含有飲食品とは、文字通り、塩味を含有する飲食品であり、本発明の製造方法で得られる塩味増強油脂を含まない塩味含有飲食品のことである。この塩味含有飲食品に、本発明の製造方法で得られる塩味増強油脂を使用することにより、本発明の製造方法とは異なる方法で製造された油脂を同量使用した場合に比べて、塩味が増強された塩味含有飲食品を調製することができる。
本発明における塩味剤とは、飲食品に含まれることにより塩味を付与する機能のある物質である。よって、本発明の塩味含有飲食品とは、食したときに塩味を感じる飲食品である。ここで、塩味剤にも、その種類や有効成分の純度などにより閾値は変わる。しかし、本発明の製造方法で得られる塩味増強油脂を使用することにより、塩味増強油脂を使用しなかった場合に比べて、塩味を増強することができる。また、同程度の塩味を得るためであれば、本発明の製造方法で得られる塩味増強油脂を使用することにより、塩味剤を減量することが可能となる。
本発明の製造方法で得られる塩味増強油脂は、塩味の増強が好ましい塩味含有飲食品に使用することができる。塩味の増強が好ましい飲食品としては、例えば、小麦粉加工食品、油脂加工食品及び調理加工食品の製造用に使用することができる。具体的には、小麦粉加工食品として、菓子パン、デニッシュ、クロワッサン等のパン類、ドーナツ、スポンジケーキ、ワッフル、ブッセ、どら焼き、パウンドケーキ等の和洋菓子、パイ、クッキー、ビスケット等の菓子類等、油脂加工食品としては、香味油、チョコレート類等、調理加工食品としては、オムレツなどの卵製品、スープ類、惣菜類、及びパスタソース等を例示することができる。また、これらの原料として用いられる飲食品である、たとえば、油脂加工食品、油中水型乳化物及び水中油型乳化物に使用することもできる。具体的には、油中水型乳化物としては、マーガリン、ファットスプレッドや油脂を連続相とする乳等を主要原料とする食品等、水中油型乳化物としては、ホイップクリーム等のクリーム類、カスタードクリーム等のフラワーペースト類、クリームチーズ等のチーズ類、アイスクリーム類、油脂分を含有する飲料類、ベシャメルソースやホワイトソース等のソース類、及びスープ類等を例示することができる。
よつ葉バターを57〜62℃の湯煎で加熱し、分離した油相をろ過してバターオイルを調製した。このバターオイルを比較例1とした。このバターオイル(比較例1)は、炭水化物及びタンパク質の総含有量が0.3重量%以下、水分が668重量ppm、酸価が0.65、過酸価物価が測定限界以下(測定限界値 : 0.4meq/Kg)であった。また、このバターオイル(比較例1)の風味は、雑味がなく、すっきりとした自然な乳の香りであった。
なお、水分の測定は、特に記載のない限りは、カールフィッシャー法により行った。また、タンパク質含有量の測定はケルダール法により測定し、炭水化物含有量の測定は重量から水分、タンパク質、脂質及び灰分を減ずることにより計算した。なお、脂質含量はエーテル抽出法、灰分含量は直接灰化法により測定した。
比較例2)
上記のバターオイル(比較例1)を、2Lの加熱攪拌装置の容器に1400g充填し、常圧で100℃に達温後10分間保持することにより加熱処理を行なった。
加熱保持後は速やかに80℃以下の温度まで冷却した。なお、加熱及びそれに続く冷却工程中は撹拌を行ない、系内の温度を出来るだけ均一となるようにした。
この際、加熱攪拌装置の昇温速度は約4℃/分、冷却速度は約8℃/分であった。
実施例1〜4、比較例3)
下表2に示すように加熱処理温度を変更した以外は比較例2と同様に、バターオイル(比較例1)の加熱処理を行った。
実施例1のTTm値の計算は、以下のよう行った。
TTm値=(昇温時の加熱処理(℃分))+((加熱処理温度−100)(℃)×加熱保持時間(分))+(冷却時の加熱処理(℃分))=(10(℃)×10(℃)/4(℃/分))/2+((110−100)(℃)×10(分))+(10(℃)×10(℃)/8(℃/分))/2=12.5+100+6.3=118.8(℃分)
実施例5)
バターオイル(比較例1)に、酸化防止剤としてトコフェロールを1000重量ppm添加した以外は、実施例3と同様に、130℃にて10分間の加熱処理を行った。
まず、劣化風味については、実施例1〜5及び比較例1〜3に係るサンプルを完全融解し、40℃の融液状態で相対評価を行った。この際、バターオイル(比較例1)の点数を3.0とした。
次に、最終配合でのバターオイル含量が5.0重量%となるように、下表1のバターオイル部を実施例又は比較例に変更して、フィリング用油中水型乳化物を調製して、塩味の評価を行った。この際、塩味については、バターオイル(比較例1)を同量含有する飲食品の点数を1.0として相対評価を行ない、パネラーの平均点を下表2にまとめた。
なお、試験例2以降での風味評価も、同様に以下に示した基準に従い行った。
劣化風味 :
3 :バターオイル(比較例1)と同等で、劣化臭及び/又は劣化風味は感じられず、良好。
2 :バターオイル(比較例1)に比べて、若干劣化臭及び/又は劣化風味を感じる程度であり、許容範囲。
1 :バターオイル(比較例1)に比べて、劣化臭及び/又は劣化風味を強く感じるために、不良。
塩味 :
3 :バターオイル(比較例1)を同量含有する飲食品に比べて、塩味を強く感じるため、良好。
2 :バターオイル(比較例1)を同量含有する飲食品に比べると、少し塩味を感じる。
1 :バターオイル(比較例1)を同量含有する飲食品と同等、若しくは同等以下の塩味であり、
不良。
「油中水型乳化物の調製法」
1.下表1に従い、油脂を融解し、油脂に融解する乳化剤を添加することで油相を調製した。
2.水に、水相原料に分類される原料を添加、溶解して水相を調製した。
3.攪拌中の油相へ水相を添加し、混合した。ここで得られる混合液を調合液と称する。
4.フィリング用/練り込み用の場合には、調合液をコンビネーター、ピンマシンを通してケースに流し込み、油中水型乳化物を得た。ロールイン用の場合には、調合液をコンビネーター、休止管、成型機を通してシート状の油中水型乳化物を調製した。
5.調製した油中水型乳化物を3〜7℃の冷蔵庫にて3〜7日間保管した。
・単位は重量%である。
・エステル交換油脂Aとしては、実質的にトランス酸を含有しない、ヤシ油、パームステアリン及びハイエルシン菜種極度硬化油の調合油を、ナトリウムメチラートを触媒としてエステル交換を行った融点34℃の油脂を使用した。この油脂は、水分が70重量ppm、酸価が0.1以下、過酸価物価が測定限界以下であった。また、風味は、一般的な精製植物油脂と同様に、無味無臭であった。
・エステル交換油脂Bとしては、実質的にトランス酸を含有しない、パーム油とパーム核オレインの調合油を酵素ランダムエステル交換した融点32℃の油脂を使用した。この油脂は、水分が80重量ppm、酸価が0.1以下、過酸価物価が測定限界以下、炭水化物及びタンパク質の総含有量は0.3重量%以下であった。また、風味は一般的な精製植物油脂と同様に、無味無臭であった。さらに、エステル交換油脂Bのオレイン酸含量は33重量%、リノレン酸含量は0.5重量%以下であった。
・乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチンを使用した。
・TTm値の単位は℃分である。
・過酸化物価の単位はmeq/Kgである。
・表中の“-”は、風味評価を実施しなかったことを意味する。
試験例1では、加熱保持時間を10分間に固定して実施した結果、すべての実施例及び比較例で酸価は0.7であった。
風味評価の結果、加熱処理温度が110℃以上では塩味を増強する効果が十分であった。しかし、加熱処理温度が150℃以上である比較例3に係るサンプルでは、過酸価物価が1.7meq/Kgに上昇し、劣化風味を感じた。また、加熱処理後の色調についても、実施例1〜5及び比較例2に係るサンプルは、バターオイル(比較例1)と同等の淡黄色であったが、比較例3に係るサンプルでは、少し油脂の退色反応が起こり退色していた。
そこで、以下の実験においては、劣化風味を感じず、塩味の増強効果が十分であった実施例2の加熱処理温度である120℃を基準として、加熱処理温度以外の種々の条件について検討を行なった。この際、実施例2は、水分が400重量ppm、過酸価物価が測定限界以下であった。
また、実施例5に係るサンプルは、酸化防止剤であるトコフェロールを1000重量ppm添加した結果、過酸価物価が測定限界以下であり、実施例3に係るサンプルと同様に劣化風味を感じず、塩味の増強効果は十分であった。
このように、無脂乳固形分や水分を含有する一般的なバターを加熱することにより得られる褐色の焦がしバターと、本発明の加熱処理バターオイルとでは、本質的に異なるものであった。つまり、本発明の製造方法で得られた加熱処理バターオイル含有油脂は、炭水化物及びはタンパク質を実質的に含有しないために、加熱処理時にメイラード反応が起こらず、メイラード反応生成物を含有することもなかった。これ以降の試験例を含めて、本発明の製造方法で得られた加熱処理バターオイル含有油脂は、すべてメイラード反応生成物を含有していなかった。
実施例6〜10、比較例4)
下表3に示すように、加熱保持時間を変更した以外は、バターオイル(比較例1)を実施例2と同様に120℃にて加熱処理を行った。
・TTm値の単位は℃分である。
・過酸化物価の単位はmeq/Kgである。
・表中の“-”は、風味評価を実施しなかったことを意味する。
試験例2では、すべての実施例及び比較例で酸価は0.7であった。
実施例7では、実施例2に比べて短時間の加熱保持時間で同等の塩味増強油脂を調製できることが確認された。さらに短時間の加熱保持時間とした実施例6では、実施例7に比べると塩味の増強効果が劣るものの、バターオイル(比較例1)に比べると顕著な効果が確認された。
また、実施例8〜10及び比較例4では、実施例2に係るサンプルと同様の加熱処理温度(120℃)で、加熱保持時間を延長した場合の影響を確認した。その結果、加熱保持時間が長くなるにつれて、劣化風味が増す傾向が認められた。特に、加熱保持時間を360分間とした比較例4に係るサンプルでは、過酸価物価は10.3meq/Kgに上昇し、強い劣化風味が感じられた。
実施例11〜12、比較例5〜8)
乳原料の場合、食餌や品種の相違による風味の差異が確認されている。そこで、よつ葉バターから調製したバターオイルの代わりに、ニュージーランド産無水乳脂肪(冷凍流通品、水分952重量ppm、比較例5)100重量%を、実施例2と同様に120℃で10分間の加熱処理を行ない、実施例11に係るサンプルを調製した。
また、60重量%のよつ葉バターから調製したバターオイル(比較例1)と40重量%のエステル交換油脂Bとを調合したバターオイル含有油脂(比較例6)を、実施例2と同様に120℃で10分間の加熱処理を行ない、実施例12に係るサンプルを調製した。
さらに、バターオイルを含有せず、エステル交換油脂B 100重量%(比較例7)を、実施例2と同様に120℃で10分間の加熱処理を行ない、比較例8に係るサンプルを調製した。
ここで、比較例5〜6、及び比較例7は、炭水化物及びタンパク質を実質的に含有していなかった。
また、試験例3のすべての加熱条件において、TTm値=(20(℃)×20(℃)/4(℃/分))/2+(120−100)(℃)×10(分)+(20(℃)×20(℃)/8(℃/分))/2=200+50+25=275(℃分)であった。
表4 バターオイル含有油脂の組成による影響
試験例3では、加熱処理温度を120℃に固定して実施した結果、すべての実施例及び比較例で酸価は0.7、過酸化物価は測定限界以下であった。
実施例11のように産地の異なるバターオイルでも、加熱処理により前述の実施例2に係るサンプルと同様の塩味増強効果が確認された。また、実施例12のようにバターオイル含量が100重量%でない場合でも、最終配合として加熱処理バターオイルの含量を同等にすることにより、実施例2と同様の塩味増強効果が確認された。しかし、バターオイルを含有しないエステル交換油脂B 100重量%を、実施例2と同様に加熱処理した比較例8に係るサンプルでは、塩味増強効果が認められなかった。
実施例13)
バターオイル(比較例1)を、40℃にて減圧蒸留(エバポレーター使用)することにより、水分が247重量ppmのバターオイルを得た。これを実施例2と同様に120℃にて10分間の加熱処理をすることにより、実施例13に係るサンプルを調製した。
水分調整用乳化物の調整)
80重量%のバターオイル(比較例1)及び20重量%の水からなる乳化物を連続掻き取り式冷却機に供して、水分含量が20.02重量%の水分調整用乳化物を得た。なお、ここでの水分調整用乳化物の水分測定は、海砂法により行った。
実施例14〜15、比較例9〜10)
上述の水分調整用乳化物と、バターオイル(比較例1)を適宜配合することにより、水分含量の異なるバターオイルを調整した。なお、下表5に記載した加熱前の各バターオイルの水分含量は、カールフィッシャー法による測定値である。
これらの水分含量が異なるバターオイルを実施例2と同様に120℃にて10分間の加熱処理を行い、実施例14〜15及び比較例9〜10に係るサンプルを調製した。
この際、加熱前の水分を5重量%とした比較例9では、加熱処理の際、105℃で沸騰状態となり9分間温度が一定であったが、更に加熱を続けて、120℃に達温後、10分間保持する加熱処理を行った。また、加熱前の水分が一般的なバターの水分含量である16重量%とした比較例10でも、105℃で20分間温度が一定であったが、同様に加熱を続けて、120℃に達温後、10分間保持する加熱処理を行った。これらの数値を基にした、TTm値を下表5に記載した。
・水分含量の単位は、重量ppm又は重量%である。
・TTm値の単位は℃分である。
・表中の“-”は、風味評価を実施しなかったことを意味する。
試験例4では、加熱処理温度である120℃に達温後、加熱保持時間を10分間に固定して実施した結果、酸価はすべての実施例及び比較例で0.7、過酸化物価は測定限界以下であった。
また、バターオイルの水分含量が増えるに伴い、加熱処理品にのどにイガイガとした刺激を感じる傾向が少しずつ強くなるのが認められた。特に、比較例10にかかるサンプルでは、加熱後の水分が4000重量ppmに減少していたが、のどにイガイガとした刺激を感じる傾向が非常に強く不良であった。
試験例5 製造方法による影響>
比較例11)
バターオイル(比較例1)を、60℃にて2週間、静置保存して、比較例11に係るサンプルを調製した。
比較例12)
バターオイル(比較例1、水分668重量ppm)を、WO2013-105624の実施例1に記載の方法(試料D(水分757重量ppm))に準じて、冷凍庫で冷却固化させた後、20℃定温下で2週間静置保管し、比較例12に係るサンプルを調製した。
・過酸化物価の単位はmeq/Kgである。
・表中の“-”は、風味評価を実施しなかったことを意味する。
試験例5のすべての比較例で、酸価は0.7であった。
比較例11に係るサンプルでは、温度は60℃であったが2週間の処理期間により、過酸化物価が2.8meq/Kgで、劣化風味が強く感じられた。
また、比較例12に係るサンプルでは、塩味の評価がバターオイル(比較例1)の評価に近く、加熱処理バターオイル(実施例)より明らかに劣り、不良であった。
以上で記載したように、低水分のバターオイル含有油脂を、特定の温度及び条件で加熱処理することにより、本発明の塩味増強油脂を調製することができた。
本発明の製造方法で得られる塩味増強油脂を使用した塩味剤含有飲食品の風味評価は、特に記載のない限りは、上述した基準に従い塩味について相対評価を行った。
なお、塩味増強油脂としては、上述の実施例2に係るサンプルを使用した。
上記の「油中水型乳化物の調製法」に従って、下表7に示すロールイン用油中水型乳化物を調製した。
表7 ロールイン用油中水型乳化物の配合
・単位は重量%である。
・エステル交換油脂Cとしては、実質的にトランス酸を含有しない、パームステアリン、パーム油及びハイエルシン菜種極度硬化油の調合油を、ナトリウムメチラートを触媒としてエステル交換を行った融点が47℃の油脂を使用した。この油脂は、水分が70重量ppm、酸価が0.1以下、過酸価物価が測定限界以下であった。また、風味は一般的な精製植物油脂と同様に、無味無臭であった。
・乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、レシチンを使用した。
以下に、小麦粉加工食品であるクロワッサンについて説明する。
実施例16及び比較例13で調製したロールイン用油中水型乳化物を使用して、以下の「クロワッサンの調製法」に従い、クロワッサンを焼成した。
「クロワッサンの調製法」
1.下表8記載の小麦粉生地原料を練り上げ、28℃、湿度75%の庫内にて60分間発酵させた後、−18℃のフリーザーで30分間置いた後、−7℃のフリーザーで60分間リタードをとった。
2.対粉60重量部のロールイン用油中水型乳化組成物を折り込み、リバースシーターで3つ折りを2回行った後、−7℃のフリーザーで60分間リタードをとり、リバースシーターで3つ折りを1回行った後、−7℃のフリーザーで45分間リタードをとった。
3.リバースシーターで生地厚4mmまで延ばし、55gを成形し、32℃、湿度75%の庫内で60分間発酵させた。
4.庫内温度210℃のオーブンで17分間焼成し、クロワッサンを調製した。
表9 クロワッサンの風味評価
その結果、実施例17のクロワッサンは、比較例14のクロワッサンに比べて、塩味が強く感じられ良好であった。
次に、油脂加工食品であるショートニングについて説明する。
以下の「ショートニングの調製法」に従って、下表10に示すショートニングを調製した。
「ショートニングの調製法」
1.下表10に従い、油脂を融解し、油脂に融解する乳化剤を添加、混合した。ここで得られる混合液を調合液と称する。
2.調合液をコンビネーター、ピンマシンを通してショートニングを調製した。
3.調製したショートニングは20℃で1日間テンパリング後、3〜7℃の冷蔵庫にて3〜7日間保管した。
・単位は重量%である。
・乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルを使用した。
・なお、上記のショートニングには、塩味剤を含有していないので製造例とした。
製造例1及び製造例2で調製したショートニングを使用して、以下の「サンドクリームの調製法」に従い、サンドクリームを調製した。
「サンドクリームの調製法」
1.20℃に温調したショートニング50重量部を、ケンウッドミキサー(ビーター使用)にて撹拌し、比重0.4までホイップした。
2.ホイップしたショートニングに、デキストリン(松谷化学株式会社製)20重量部及びチーズパウダー(食塩5重量%含有)30重量部を添加し、ケンウッドミキサー(ビーター使用)にてすりあわせて、サンドクリームを調製した。
表11 サンドクリームの風味評価
その結果、実施例18のサンドクリームは、比較例15のサンドクリームに比べて、塩味が強く感じられ良好であった。
また、製造例1及び製造例2で調製したショートニングを使用して、以下の「ガレットサレの調製法」に従い、ガレットサレを焼成した。
「ガレットサレの調製法」
1.20℃に温調したショートニング100重量部に砂糖60重量部を加え、ケンウッドミキサー(ビーター使用)にて撹拌し、比重0.8までホイップした。
2.ホイップしたショートニングと砂糖との混合物をケンウッドミキサー(ビーター使用)にて混合しながら、3回に分けて全卵20重量部を添加した。
3.ショートニング、砂糖及び全卵の混合物に食塩1.2重量部、薄力粉100重量部を加え、ケンウッドミキサー(ビーター使用)で軽く撹拌混合後、手で生地をまとめビニール袋に入れ5℃で一晩休ませた。
4.生地を8mm厚まで展延した後、丸型で抜き、庫内温度180℃のオーブンで12分間焼成してガレットサレを調製した。
表12 ガレットサレの風味評価
その結果、実施例19のガレットサレは、比較例16のガレットサレに比べて、塩味が強く感じられ良好であった。このように、たとえショートニング等の原料が塩味剤を含有していなくても、それらを使用した最終的な飲食品である小麦粉加工食品等が塩味及び塩味増強油脂(実施例)を含有していれば、本発明の塩味増強効果は得られるものである。
以下の「水中油型乳化物の調製法」に従って、下表13に示す調理用水中油型乳化物を調製した。
「水中油型乳化物の調製法」
1.下表13に従い、油脂を融解し、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の油脂に融解する乳化剤を添加することで油相を調製した。
2.水に、脱脂粉乳、及びショ糖脂肪酸エステル等の水に溶解する添加剤及び乳化剤を添加、溶解して水相を調製した。
3.上記油相と水相を68℃、15分間ホモミキサーで攪拌し予備乳化した後、超高温滅菌装置(岩井機械工業(株)製)によって、145℃において4秒間の直接加熱方式による滅菌処理を行った。
4.滅菌処理後、30Kg/cm2の均質化圧力で均質化して、直ちに5℃に冷却した。
5.冷却後24時間エージングして調理用水中油型乳化物を調製した。
・単位は重量%である。
・乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチンを使用した。
・なお、上記の調理用水中油型乳化物には、塩味剤が含有されていないため製造例とした。
表14 90℃まで加熱した調理用水中油型乳化物の風味評価
90℃まで加熱品した結果、バターオイル(比較例1)の使用量が7.0重量%である比較例17に比べて、使用量を14.0重量%と2倍にした比較例18では、全体的なバター風味は強くなるものの、塩味の増強効果は感じられなかった。これに対して、塩味増強油脂(実施例2)の使用量が7.0重量%である実施例20では、比較例17及び18の調理用水中油型乳化物に比べて、塩味が強く感じられ良好であった。
表15 レトルト殺菌処理を施した調理用水中油型乳化物の風味評価
レトルト殺菌処理を施した結果でも、実施例21の調理用水中油型乳化物は比較例19及び20の調理用水中油型乳化物に比べて、塩味が強く感じられ良好であった。このように、たとえ調理用水中油型乳化物等の原料が塩味剤を含有していなくても、それらを使用した最終的な飲食品である90℃まで加熱した及び/又はレトルト殺菌処理を施した調理用水中油型乳化物が塩味及び塩味増強油脂(製造例)を含有していれば、本発明の塩味増強効果は得られるものである。さらに、実施例20と比較例18との比較、及び実施例21と比較例20との比較から、塩味含有飲食品に本発明の塩味増強油脂を使用することにより、バターオイルの配合量を減らしても、塩味が強く感じられる飲食品を調製できることが確認された。
以下の「ホワイトソースの調製法」に従って、下表16に示すホワイトソースを調製した。
「ホワイトソースの調製法」
1.鍋を火にかけ、下表16に従って融解した油脂を混合して油相を調製した。
2.小麦粉を入れて均一になるよう撹拌混合しながら加熱した。
3.加熱しながら牛乳を徐々に加えながらのばし、牛乳添加終了後に均一になった時点で食塩を加え、さらに均一になるまで加熱、混合しホワイトソースを調製した。
表17 ホワイトソースの風味評価
その結果、実施例22のホワイトソースは比較例21のホワイトソースに比べて、塩味が強く感じられ良好であった。
以下の「クリームチーズ様水中油型乳化物の調製法」に従って、下表18に示すクリームチーズ用水中油型乳化物を調製した。
「クリームチーズ様水中油型乳化物の調製法」
1.下表18に従い、油脂を融解、混合して油相を調製した(60℃)。
2.水に、脱脂粉乳、トータルミルクプロテインを撹拌、溶解して水相を調製した。
3.上記油相と水相を70℃、30分間ホモミキサーで攪拌し予備乳化した後、殺菌処理を行い、50Kg/cm2の均質化圧力で均質化して、水中油型乳化物を調製した。
4.水中油型乳化物にチーズ用乳酸菌バルクスターターを添加し、20℃で15時間発酵を行い、pH4.9の発酵乳を調製した。
5.発酵乳を80℃30分間加熱殺菌した後、食塩、加工澱粉を加え、ニーダーにて80℃10分間、撹拌混練した後、10Kg/cm2の均質化圧力で均質化して、クリームチーズ様水中油型乳化物を調製した。
表19 クリームチーズ様水中油型乳化物の風味評価
その結果、実施例23のクリームチーズ様水中油型乳化物は比較例22のクリームチーズ様水中油型乳化物に比べて、塩味が強く感じられ良好であった。
以上の結果から明らかなように、本発明の製造方法は、固形分の除去、長時間の反応及び酵素反応等の煩雑な工程を経ることなく、非常に簡便であった。ところが、塩味増強油脂を使用することにより、本発明の製造方法で得られた塩味増強油脂(実施例)を使用することにより、塩味含有飲食品の塩味を増強することができる。これに対して、比較例で記載したような、本発明とは異なる製造方法では、劣化風味が強く感じられたり、塩味増強油脂を使用しても塩味の増強効果が十分といえる油脂を調製することができなかった。
また、塩味含有飲食品に、本発明の製造方法によって得られる塩味増強油脂(実施例)を使用することにより、サンドクリーム、フィリング、油中水型乳化物及びクリームチーズ様水中油型乳化物等の再加熱されることなく喫食される食品だけではなく、調理用水中油型乳化物及びホワイトソース等といった再加熱させて喫食される食品を含めた幅広い飲食品において、塩味の増強効果が認められた。
さらに、本発明の製造方法によって得られる塩味増強油脂(実施例)をロールイン用油中水型乳化物及びショートニング等に使用することにより、それらを原料として使用して焼成したクロワッサン及びクッキー等の小麦粉加工食品でも、塩味を増強することが認められた。
これまでの減塩素材は、前述のように水溶性成分が殆どであったため、減塩技術としては水相によるものが殆どであった。しかし、本発明の塩味増強油脂を使用して、水溶性の減塩素材と共存させることにより、塩味含有飲食品の更なる減塩を期待できるものである。
Claims (5)
- 水分が2重量%以下であるバターオイル含有油脂を、実質的に炭水化物及びタンパク質を含有しない状態、110℃以上かつ145℃以下の温度で、TTm値(℃分)が30〜5000である条件で加熱処理することを特徴とする、塩味増強油脂の製造方法。
(ここで、TTm値(℃分)とは、加熱温度−100(℃)と加熱保持時間(分)の積分値である。) - バターオイル含有油脂がバターオイルを50重量%以上含有する、請求項1記載の塩味増強油脂の製造方法。
- 加熱処理直後の過酸化物価が1.5meq/Kg未満であり、酸価が2未満である、請求項1または請求項2に記載の塩味増強油脂の製造方法。
- 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の方法で製造した塩味増強油脂を含有する、塩味含有飲食品の製造方法。
- 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の方法で製造した塩味増強油脂を使用することによる、塩味含有飲食品の塩味を増強する方法。
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