JP5833730B1 - 層状食品用油脂組成物とそれを用いた生地及び焼成品の製造方法 - Google Patents

層状食品用油脂組成物とそれを用いた生地及び焼成品の製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP5833730B1
JP5833730B1 JP2014216724A JP2014216724A JP5833730B1 JP 5833730 B1 JP5833730 B1 JP 5833730B1 JP 2014216724 A JP2014216724 A JP 2014216724A JP 2014216724 A JP2014216724 A JP 2014216724A JP 5833730 B1 JP5833730 B1 JP 5833730B1
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
oil
fat
oils
mass
fats
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2014216724A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2016082889A (ja
Inventor
晶 太田
晶 太田
将来 伊藤
将来 伊藤
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Miyoshi Oil and Fat Co Ltd
Original Assignee
Miyoshi Oil and Fat Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Miyoshi Oil and Fat Co Ltd filed Critical Miyoshi Oil and Fat Co Ltd
Priority to JP2014216724A priority Critical patent/JP5833730B1/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP5833730B1 publication Critical patent/JP5833730B1/ja
Publication of JP2016082889A publication Critical patent/JP2016082889A/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Edible Oils And Fats (AREA)
  • Bakery Products And Manufacturing Methods Therefor (AREA)

Abstract

【課題】乳脂分別軟質部を含有していても保存時に染みだしが起こりにくく長期にわたり安定した物性を保つことができ、乳由来の油脂を含有していても生地中での伸展性が良好で、サクさと歯切れの良い食感の焼成品を得ることができ、焼成品の風味発現性と口溶けが良好な層状食品用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂、生地及び焼成品を提供する。【解決手段】10℃の固体脂含量が20%以下である乳脂分別軟質部を含有し、構成脂肪酸の総炭素数が36〜48であるトリグリセリドの含有量が油脂全量に対して20〜46質量%、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が油脂全量に対して45〜65質量%、2飽和トリグリセリドのうち対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が0.2〜1.2であり、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるソルビタン脂肪酸エステル及び有機酸がコハク酸、クエン酸、乳酸又は酢酸である有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴としている。【選択図】なし

Description

本発明は、デニッシュ、クロワッサン、パイ等の層状の焼成品の生地に折り込んで使用される層状食品用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂、生地及び焼成品に関する。
乳脂は風味が良く、従来よりマーガリンやショートニングなどの可塑性油脂に配合されて使用されている。
乳脂は温度による硬さ変化が大きく、例えば5℃では硬く、20℃以上では軟化し、融点である30℃付近で溶解する。そのため可塑性油脂として使用する場合、組み合わせる他の油脂の配合を調整することが行われている。
一方、乳脂の低融点画分である乳脂分別軟質部は、乳脂に比べて低温での結晶量が少ないなど、乳脂とは異なる特性を持ちながらも、乳脂特有の風味を付与することができることから、このような分別乳脂を用いて他の油脂とコンパウンドし可塑性油脂とすることも検討されている(特許文献1、2)。
しかし乳脂は、結晶化が遅いことに起因して、低温で保管中に徐々に結晶化し、経時的に硬くなることから、層状食品用可塑性油脂の物性として必要な伸展性を得るのが難しい。乳脂分別軟質部も、分画方法によっては低温において固体脂を含有しており、この固体脂の結晶化が遅いことから、乳脂と同様に経時的に硬くなるという問題がある。
この経時的に油脂が硬くなる現象を改善するものとして、特許文献1、2の技術が提案されている。
特許文献1には、2位の構成脂肪酸が炭素数16以上の脂肪酸であるトリグリセリドを乳由来の油脂に対して特定比率で配合する技術が提案されている。実施例では主に乳脂について検討され、乳脂分別軟質部としては、パーム核油と大豆極度硬化油とのエステル交換油脂や部分水素添加油とともに配合したものについて、経時での硬さ変化を抑制した結果が示されている。
特許文献2には、全構成脂肪酸中に炭素数14以下の脂肪酸とパルミチン酸を特定量含有するエステル交換油脂を、乳由来の油脂に組み合わせる技術が提案されている。実施例では主に乳脂について検討され、組織の状態などが評価されている。
しかし乳脂分別軟質部は、乳脂とは異なる側面として、経時的に結晶化するものの、非結晶である油脂も多く含有していることから、長期保存した場合に非結晶部分、すなわち2不飽和トリグリセリド及び3不飽和トリグリセリドなどの低融点トリグリセリドが染みだすという問題がある。このような液状油の染みだしは、可塑性油脂の保存時にベタツキや外観変化を生じることにも繋がり、その後の使用時における伸展性等の特性を損なう懸念もあることから、液状油の染みだしを抑制することが望まれている。
そして特許文献1、2の技術では、乳脂分別軟質部と他の油脂とを混合した場合の相溶性についての知見は開示がなく、また実施例において混合された油脂は乳脂分別軟質部の非結晶部分との相溶性が良好なものとは言えず、ここでは染みだしの問題を改善する知見は示されていない。
一方、層状食品用の可塑性油脂に関するものでは、特許文献3には、乳脂の分別油として低融点の分別軟質部と高融点の分別硬質部とを組み合わせることが提案されている。しかし、分別硬質部に起因して良好な口溶けを得ることが難しく、また分別硬質部は分別軟質部との相溶性が悪いため、染みだしを抑制することが難しい。
また、低温での耐性(伸展性)を得るために、乳脂分別軟質部に代替して、液状油のような軟らかい油脂と呈味成分や香料などを用いると、低温での伸展性を得ることはできるが、前述と同様に染みだしを生じ、また乳脂感や、乳脂風味の持続性を得ることができない。
デニッシュ、クロワッサン、パイ等の層状食品においては、例えば可塑性油脂の生地中での伸展性や、焼成品の食感と風味の発現性が良好なことも求められる。層状食品の食感としては、サクサクとした食感(サクさ)や、歯切れのある食感が好まれている。しかし、乳脂分別軟質部は結晶量が少ないため、これを添加した可塑性油脂を生地に折り込み、この生地を焼成した層状食品は、良好なサクさや歯切れが得られにくい懸念がある。
特開2003−3194号公報 国際公開第2014/050488号 特開2007−60913号公報
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、乳脂分別軟質部を含有していても保存時に染みだしが起こりにくく長期にわたり安定した物性を保つことができ、乳由来の油脂を含有していても生地中での伸展性が良好で、サクさと歯切れの良い食感の焼成品を得ることができ、焼成品の風味発現性と口溶けが良好な層状食品用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂、生地及び焼成品を提供することを課題としている。
上記の課題を解決するために、本発明の層状食品用油脂組成物は、10℃の固体脂含量が20%以下である乳脂分別軟質部を含有し、構成脂肪酸の総炭素数が36〜48であるトリグリセリドの含有量が油脂全量に対して20〜46質量%、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が油脂全量に対して45〜65質量%、2飽和トリグリセリドのうち対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が0.2〜1.2であり、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるソルビタン脂肪酸エステル及び有機酸がコハク酸、クエン酸、乳酸又は酢酸である有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴としている。
本発明の層状食品用可塑性油脂及び焼成品用の生地は、前記層状食品用油脂組成物を含有し、本発明の焼成品は、この生地を焼成して得られる。
本発明によれば、乳脂分別軟質部を含有していても保存時に染みだしが起こりにくく長期にわたり安定した物性を保つことができる。そして乳由来の油脂を含有していても生地中での伸展性が良好で、サクさと歯切れの良い食感の焼成品を得ることができ、焼成品の風味発現性と口溶けが良好である。
以下に、本発明を詳細に説明する。
(油脂)
本発明において、油脂中のトリグリセリドとは、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有するものである。トリグリセリドの1位、2位、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。なお、トリグリセリドの構成脂肪酸の略称として、S:飽和脂肪酸、U:不飽和脂肪酸、を用いる。
飽和脂肪酸Sは、油脂中に含まれるすべての飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つ又は3つの飽和脂肪酸Sは、同一の飽和脂肪酸であってもよいし、異なる飽和脂肪酸であってもよい。
飽和脂肪酸Sとしては、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)等が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数である。
不飽和脂肪酸Uは、油脂中に含まれるすべての不飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つ又は3つの不飽和脂肪酸Uは、同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。
不飽和脂肪酸Uとしては、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エルカ酸(22:1)等が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数と二重結合数の組み合わせである。
本発明の層状食品用油脂組成物に使用される油脂は、1位、2位、3位のすべてに飽和脂肪酸Sが結合した3飽和トリグリセリドを含み、1分子のグリセロールに2分子の飽和脂肪酸Sと1分子の不飽和脂肪酸Uが結合した2飽和トリグリセリドとして、1位及び3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ2位に不飽和脂肪酸Uが結合した対称型トリグリセリド(SUS)と、1位及び2位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ3位に不飽和脂肪酸Uが結合した非対称型トリグリセリド(SSU)とを含む。また、1分子のグリセロールに2分子の不飽和脂肪酸Uと1分子の飽和脂肪酸Sが結合した2不飽和トリグリセリドを含み、1位、2位、3位のすべてに不飽和脂肪酸Uが結合した3不飽和トリグリセリドを含む。
本発明の層状食品用油脂組成物は、油脂として乳脂分別軟質部を含有する。乳脂分別軟質部を含有する本発明の層状食品用油脂組成物は、乳脂特有の風味が強く良好である。乳脂分別軟質部を調製するための乳脂としては、乳等省令で定められるバター又はクリームからほとんどすべての乳脂肪以外の成分を除去(脂肪率99.3質量%以上、水分5質量%以下)した乳脂や、牛乳から分離したクリームを転相し、濃縮、真空乾燥することで、脂肪率99.9質量%以上の無水乳脂肪(anhydrous milk fat AMF)を使用することができる。
上記乳脂を分別して乳脂分別軟質部を得る方法としては、乾式分別、溶剤分別、界面活性剤(乳化)分別があり、これらを1種単独であるいは2種以上を組み合わせて分別を行うことができる。
乾式分別では、高融点と低融点のトリグリセリドの融点差を利用して、完全に溶解した油脂を徐々に冷却し、生成した結晶部分と液体部分とをろ別して分離し得ることができる。また乾式分別では、温度を段階的に低下させる一段分別、二段分別、又は多段分別により分別油を得ることができる。
溶剤分別では、アセトンやヘキサンなどの溶剤に対する溶解度差を利用して、油脂を溶剤に溶解し、冷却することで、溶剤に対して溶解度の低い高融点部、次いで中融点部の順に結晶を析出させる。結晶を十分成長させた後、結晶部分と液油部分とに分離し、溶媒を留去して、液油部分を分別油として得ることができる。
界面活性剤(乳化)分別では、油脂を溶解し、冷却して結晶化後、界面活性剤(乳化剤)の水溶液を添加して結晶部分に混在している液体部を大きな液滴とし、液状油、固体脂と水溶液の懸濁液、過剰の水溶液の三層に分離し分別油を得ることができる。
本発明の層状食品用油脂組成物に使用される乳脂分別軟質部は、10℃の固体脂含量(SFC)が20%以下であり、好ましくは10%以下である。また、乳脂分別軟質部の融点は、25℃以下であり、好ましくは20℃以下であり、最も好ましくは15℃以下である。
なお、ここで固体脂含量と融点は、後述の実施例に記載の方法で測定することができ、固体脂含量は、加熱溶解後、10℃で7日間保存後における値である。このような乳脂分別軟質部を使用することで、長期保存による硬さの経時変化を抑制することができる。以下の記述においては、ここで定義されたものを単に「乳脂分別軟質部」と言う。
また、このような乳脂分別軟質部は、長期にわたり結晶が析出しないものであると、可塑性油脂としたときに、硬さの経時変化が少なく、焼成品を作る場合、生地への伸展性が良好であることから、加熱溶解後、10℃で3週間保存後における固体脂含量が20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
乳脂分別軟質部は、乳脂特有の風味が強く、本発明の層状食品用油脂組成物は風味発現性が良好である。また、乳脂に比べて低温での結晶量が少ないため、口溶けが良好で、温度による硬さ変化も小さいことから作業性を良好なものとすることができる。
本発明の層状食品用油脂組成物に使用される油脂は、構成脂肪酸の総炭素数が36〜48であるトリグリセリドを油脂全量に対して20〜46質量%、好ましくは25〜40質量%含有する。この範囲内であると、乳脂分別軟質部を含有していても、保存時に染みだしが起こりにくく、長期にわたり安定した物性を保つことができ、また焼成品の風味発現性が良好である。
本発明の層状食品用油脂組成物に使用される油脂は、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が、油脂全量に対して多い方が、液状油の染みだしが起こりにくく、サクさや歯切れも良好になる。この観点から、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量は、油脂全量に対して45質量%以上、好ましくは50質量%以上である。しかし、この合計量が油脂全量に対して多すぎると、生地中での伸展性、口溶け、焼成品の風味発現性が低下する。この観点から、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量は、油脂全量に対して65質量%以下、好ましくは60質量%以下である。すなわち、本発明の層状食品用油脂組成物は、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が、油脂全量に対して45〜65質量%であることによって、乳脂分別軟質部を含有していても保存時に染みだしが起こりにくく長期にわたり安定した物性を保つことができる。そして乳由来の油脂を含有していても生地中での伸展性が良好で、サクさと歯切れの良い食感の焼成品を得ることができ、焼成品の風味発現性と口溶けが良好である。
本発明の層状食品用油脂組成物は、2飽和トリグリセリドのうち対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が低い方が、可塑性が良くなり、染みだしが抑制され、生地中での伸展性も良くなり、サクさと歯切れも向上すると考えられる。これは、SSUが多いと、結晶の析出が速くなり、マーガリンやショートニング等の製造機において練られやすくなり、その結果として経時的な硬さ変化も小さくなることや、油脂の相溶性が良くなること、そして焼成後の徐冷において、油脂結晶が微細化してサクさと歯切れの向上に寄与するためと考えられる。この観点から、SUS/SSUは、1.2以下、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.6以下である。しかし、SUS/SSUが低すぎると、結晶の析出が速過ぎて製造機で練られすぎ、コシのないものとなって、液状油の染みだしが多くなり、生地中に練り込まれやすくなり、伸展性が低下したり生地縮みが大きくなったりする。この観点から、SUS/SSUは、0.2以上、好ましくは0.3以上である。すなわち、本発明の層状食品用油脂組成物は、SUS/SSUが0.2〜1.2であることによって、乳脂分別軟質部を含有していても保存時に染みだしが起こりにくく長期にわたり安定した物性を保つことができる。そして乳由来の油脂を含有していても生地への伸展性が良好で、サクさと歯切れの良い食感の焼成品を得ることができる。
本発明の層状食品用油脂組成物の製造に用いられる乳脂分別軟質部以外の油脂としては、特に限定されないが、植物油脂、動物油脂、これらの分別油、硬化油、エステル交換油脂等が挙げられる。具体的には、例えば、パーム系油脂、ヤシ油、パーム核油、豚脂(ラード)、牛脂、菜種油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、乳脂、これらの分別油、硬化油、エステル交換油脂等が挙げられる。油脂中における、構成脂肪酸の総炭素数が36〜48であるトリグリセリドの含有量、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量、及びSUS/SSUのバランスを適宜調整するために、これらの油脂は、1種あるいは2種以上を選択して含有させることが好ましい。またエステル交換油脂は、上記のような油脂の1種あるいは2種以上を選択した配合物をエステル交換反応したものであってよい。上記油脂に極度硬化油を含有させる場合、融点が50℃以上の極度硬化油の添加量が油脂全量に対して5質量%以下、更には3質量%以下であると、層状食品用油脂組成物の口溶けの低下を抑制できる。ここで、上記パーム系油脂としては、パーム油、パーム分別油、これらの硬化油、エステル交換油脂等が挙げられ、パーム分別油としては、硬質部、軟質部、中融点部等が挙げられる。
上記油脂のうち、本発明の層状食品用油脂組成物の製造には、エステル交換油脂を使用することが好ましく、エステル交換油脂を含有させると、油脂中における、構成脂肪酸の総炭素数が36〜48であるトリグリセリドの含有量、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量、及びSUS/SSUのバランスを適宜調整するのが容易である。
本発明の層状食品用油脂組成物は、好ましい態様において、油脂として次のエステル交換油脂Aを含有する。このエステル交換油脂Aは、ラウリン系油脂とパーム系油脂とをエステル交換反応して得られるものであり、以下、このエステル交換油脂Aを使用した場合について説明する。
エステル交換油脂Aの原料であるラウリン系油脂は、全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30質量%以上、好ましくは40〜55質量%である。このようなラウリン系油脂としては、パーム核油、ヤシ油、これらの分別油、硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。ラウリン系油脂は、ヨウ素価が2以下であることが好ましい。ヨウ素価が2以下のラウリン系油脂を用いると、エステル交換油脂Aを乳脂分別軟質部等の他の油脂と混合する際に結晶核となり固化し易く、また極度硬化油であるためトランス酸の生成の虞も少ない。
エステル交換油脂Aの原料であるパーム系油脂は、全構成脂肪酸中の炭素数16以上の脂肪酸含有量が35質量%以上である。このようなパーム系油脂としては、パーム油、パーム分別油、これらの硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。パーム分別油としては、硬質部、軟質部、中融点部等を用いることができる。パーム系油脂として硬化油を使用する場合、極度硬化油を使用するとトランス酸の生成の虞が少ない。パーム系油脂は、ヨウ素価が30〜55であることが好ましい。また、パーム系油脂は、全体として極度硬化油を5〜45質量%含有することが好ましく、20〜45質量%含有することがより好ましい。
そしてエステル交換油脂Aは、ラウリン系油脂5質量%以上30質量%未満と、パーム系油脂70質量%超95質量%以下とをエステル交換反応して得られる。好ましくはラウリン系油脂10質量%以上30質量%未満と、パーム系油脂70質量%超90質量%以下とをエステル交換反応して得られ、より好ましくは、ラウリン系油脂10〜28質量%と、パーム系油脂72〜90質量%とをエステル交換して得られる。ラウリン系油脂の含有量が30質量%未満であると、可塑性油脂からの液状油の染みだし抑制と、口溶けの向上に適している。
そしてエステル交換油脂Aは、ヨウ素価が20〜45である。この範囲内であると、乳脂分別軟質部等の他の油脂との相溶性が良く、そして乳脂分別軟質部等の他の油脂に対して核となりやすく、核発生を誘発し、その結果として固化が遅れることを抑制することができる。ヨウ素価が20以上であると、乳脂分別軟質部等の他の油脂との相溶性が良く、例えば硬い油脂だけで固まることが抑制され、ヨウ素価が45以下であると、乳脂分別軟質部等の他の油脂に対して核となりやすく、核発生を誘発し、その結果として固化が遅れることを抑制することができる。
油脂として、以上のエステル交換油脂Aを使用する場合、パーム系油脂をエステル交換反応して得られ、ヨウ素価が45〜60であるエステル交換油脂Bを併用することが好ましい。ここでパーム系油脂としては、パーム分別軟質油が好ましい。
本発明の層状食品用油脂組成物におけるエステル交換油脂Aの含有量は、油脂全量に対して15〜55質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。エステル交換油脂Bを使用する場合には、エステル交換油脂Bの含有量は、油脂全量に対して3〜55質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。エステル交換油脂Aとエステル交換油脂Bとの合計量は、油脂全量に対して35〜75質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましい。また、このような含有量のエステル交換油脂Aや、エステル交換油脂A及びBとともに使用される乳脂分別軟質部の含有量は、5〜45質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。
また、本発明の層状食品用油脂組成物は、油脂として、以上の乳脂分別軟質部やエステル交換油脂A、B以外に、液状油を併用することが好ましい。乳脂分別軟質部とともに液状油を使用すると、生地への伸展性が良好で、焼成品の風味発現性と口溶けも良好である。
ここで液状油としては、5℃で流動状を呈するものであり、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、米油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油、オリーブ油、パーム油を分別したスーパーオレイン等が挙げられる。
本発明の層状食品用油脂組成物における液状油の含有量は、油脂全量に対して3〜25質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。乳脂分別軟質部と液状油との合計量は、油脂全量に対して20〜50質量%が好ましい。また、乳脂分別軟質部と液状油との質量比(乳脂分別軟質部/液状油)は、0.3〜7.0が好ましく、0.5〜5.0がより好ましい。
本発明の層状食品用油脂組成物は、油脂として、以上の乳脂分別軟質部、エステル交換油脂A、B、及び液状油以外に、ヨウ素価70以下、好ましくはヨウ素価45〜70の油脂を使用することができる。このような油脂を使用すると、トリグリセリド組成、すなわち構成脂肪酸の総炭素数が36〜48であるトリグリセリドの含有量や、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量及びSUS/SSUを前述のような範囲内に調整することが容易である。
ヨウ素価70以下の油脂としては、植物油脂、動物油脂、これらの分別油、硬化油、エステル交換油脂等が挙げられる。
植物油脂としては、パーム油、ヤシ油、パーム核油、これらの分別油、硬化油、エステル交換油脂等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
動物油脂としては、動物の脂肉から溶出法により採取した脂肪を精製したものを用いることができる。具体的には、ラード、牛脂、これらの分別油、硬化油、エステル交換油脂等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
エステル交換油脂Aや、エステル交換油脂A及びBを使用する場合、本発明の層状食品用油脂組成物におけるヨウ素価70以下の油脂の含有量は、油脂全量に対して35質量%以下が好ましく、20質量%以下が好ましく、15質量%以下が好ましい。
トランス型脂肪酸は動脈硬化症のリスクを増加させると言われており、健康への影響が懸念される点を考慮し、本発明の層状食品用油脂組成物は、トランス酸量が油脂全量に対して0.1〜5.0質量%であることが好ましい。
ここで、トランス酸量はガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.4.3−2013 トランス脂肪酸含量(キャピラリーガスクロマトグラフ法)」)で測定することができる。
以上において、本発明の層状食品用油脂組成物に使用される油脂の分別、硬化反応、エステル交換反応は、次のような方法によって行うことができる。
油脂の分別は、前述した乳脂より乳脂分別軟質部を分別する方法と同様に、乾式分別、溶剤分別、又は界面活性剤(乳化)分別によって行うことができ、これらを1種単独であるいは2種以上を組み合わせて行うことができる。
油脂の硬化反応は、常法にしたがって、ニッケル触媒等の触媒を用いて油脂に水素添加し、加温、攪拌しながら反応を進め、トリグリセリドを構成する不飽和脂肪酸の二重結合部分に水素を結合させ飽和化することによって行うことができる。この際、圧力、温度、時間、触媒を制御することにより、求める硬さの油脂を得ることができる。
油脂のエステル交換反応は、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸が結合したトリグリセリドのグリセロールに結合している脂肪酸の位置や脂肪酸の種類を組みかえる操作であり、常法にしたがって、ナトリウムメチラート等の化学触媒を用いて行われる化学的エステル交換反応や、リパーゼ等を触媒として用いた酵素的エステル交換反応等によって行うことができる。
化学的エステル交換反応は、ナトリウムメチラート等の化学触媒を用いて行われる、位置特異性の乏しいエステル交換反応である(ランダムエステル交換反応とも言われる)。
化学的エステル交換反応は、例えば、常法にしたがって、原料油脂を十分に乾燥させ、触媒を原料油脂に対して0.05〜1質量%添加した後、減圧下、80〜120℃で0.5〜1時間攪拌することにより行うことができる。エステル交換反応終了後は、触媒を水洗にて洗い流した後、通常の食用油の精製工程で行われる脱色、脱臭処理を施すことができる。
酵素的エステル交換反応は、リパーゼを触媒として用いて行われる。リパーゼとしては、リパーゼ粉末やリパーゼ粉末をセライト、イオン交換樹脂等の担体に固定化した固定化リパーゼを使用するができる。酵素的エステル交換によるエステル交換反応は、リパーゼの種類によって、位置特異性の乏しいエステル交換反応とすることもできるし、1、3位特異性の高いエステル交換反応とすることもできる。
位置特異性の乏しいエステル交換反応を行うことのできるリパーゼとしては、アルカリゲネス属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼQLM、リパーゼPL等)、キャンディダ属由来リパーゼ(例えば、名糖産業株式会社製のリパーゼOF等)等が挙げられる。
1、3位特異性の高いエステル交換反応を行うことのできるリパーゼとしては、リゾムコールミーハイ由来の固定化リパーゼ(ノボザイムズ社製のリポザイムTLIM、リポザイムRMIM等)等が挙げられる。
酵素的エステル交換反応は、例えば、リパーゼ粉末又は固定化リパーゼを原料油脂に対して0.02〜10質量%、好ましくは0.04〜5質量%添加した後、40〜80℃、好ましくは40〜70℃で0.5〜48時間、好ましくは0.5〜24時間攪拌することにより行うことができる。エステル交換反応終了後は、ろ過等によりリパーゼ粉末又は固定化リパーゼを除去後、通常の食用油の精製工程で行われる脱色、脱臭処理を施すことができる。
なお、エステル交換油脂A、Bを得るために用いるエステル交換反応は、化学的エステル交換反応であっても酵素的エステル交換反応であってもよい。
本発明の層状食品用油脂組成物は、以上のような油脂組成を持つ油脂に加えて、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるソルビタン脂肪酸エステル及び有機酸がコハク酸、クエン酸、乳酸又は酢酸である有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含有する。乳脂分別軟質部は結晶量が少ないため、これを添加した可塑性油脂を生地に折り込み、この生地を焼成した層状食品は、良好なサクさや歯切れが得られにくいが、これらのソルビタン脂肪酸エステルや有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルを添加すると、可塑性油脂の染みだしや生地中での伸展性など、他の特性をいずれも損なうことなく、焼成品のサクさと歯切れが良好なものとなる。
(ソルビタン脂肪酸エステル)
上記ソルビタン脂肪酸エステルは、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上、好ましくは1.5℃以上、より好ましくは2.0〜4.0℃上昇させるものである。このようなソルビタン脂肪酸エステルを用いることで、本発明の層状食品用油脂組成物を用いた焼成品の焼成後における徐冷条件において、油脂の結晶化が促進され、かつ均質に微細化した結晶が多く存在する結晶状態になる。そのため、サクさと歯切れのある食感が向上する。
上記パーム油の固化開始温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定した値である。固化開始温度の測定には、示差走査熱量計(型番:DSC Q1000、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いることができる。より詳細には、パーム油100質量部にソルビタン脂肪酸エステル0.5質量部を添加し、80℃から毎分10℃の速度で冷却し、固化開始温度を測定することができる。
上記ソルビタン脂肪酸エステルは、全構成脂肪酸中の好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上がパルミチン酸とステアリン酸である。また、パルミチン酸とステアリン酸の質量比は、好ましくは0.3:1.0〜1.0:1.0であり、より好ましくは0.5:1.0〜0.8:1.0である。パルミチン酸とステアリン酸の質量比がこの範囲程度であれば、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させることができる。
ここでパルミチン酸とステアリン酸の質量比は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」)により測定することができる。
上記ソルビタン脂肪酸エステルは、HLB値が好ましくは3.5〜5.5であり、より好ましくは4.0〜5.5である。HLB値がこの範囲であると、パーム油の固化開始温度を上昇させるのに適している。
ここでHLB値は、Griffin式(Atlas社法)により求めることができる。
本発明においては、上記ソルビタン脂肪酸エステルとして、市販のものを用いることができる。例えば、理研ビタミン(株)製のS−320YN、ポエムS−60V、及びソルマンS−300V等が挙げられる。
上記ソルビタン脂肪酸エステルの含有量は、油脂全量に対して、好ましくは0.05〜6.0質量%であり、より好ましくは0.1〜5.0質量%であり、更に好ましくは0.2〜4.0質量%である。ソルビタン脂肪酸エステルの含有量がこの範囲内にあれば、焼成品のサクさと歯切れが良好なものとなり、かつ、乳化剤による雑味を感じることなく風味の良好な焼成品を得ることができる。
(有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル)
本発明の層状食品用油脂組成物は、有機酸がコハク酸、クエン酸、乳酸又は酢酸である有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルを添加することで、サクさと歯切れの良い焼成品を得ることができる。小麦粉に水を加えて混捏すると、小麦粉の蛋白質であるグリアジンとグルテニンが疎水性相互作用やジスルフィド結合を介して網目状のグルテンネットワークを形成する。上記有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルは、生地中のグルテンに作用し、このグルテンネットワークが緻密になって、生地が強固なものとなり、焼成品は、サクさと歯切れが良くなると考えられる。
上記有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルは、全構成脂肪酸中の好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上が飽和脂肪酸である。飽和脂肪酸は、ステアリン酸とパルミチン酸が主体であることが好ましい。
上記有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルとしては、コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステル、クエン酸モノグリセリン脂肪酸エステル、乳酸モノグリセリン脂肪酸エステル、酢酸モノグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、コハク酸モノグリセリンステアリン酸エステル、コハク酸モノグリセリンラウリン酸エステル、コハク酸モノグリセリンミリスチン酸エステル、コハク酸モノグリセリンパルミチン酸エステル、コハク酸モノグリセリンミリストレイン酸エステル、コハク酸モノグリセリンパルミトレイン酸エステル、コハク酸モノグリセリンオレイン酸エステル、コハク酸モノグリセリンリノール酸エステル、コハク酸モノグリセリンリノレン酸エステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、コハク酸モノグリセリンステアリン酸エステルが好ましい。
クエン酸モノグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、クエン酸モノグリセリンステアリン酸エステル、クエン酸モノグリセリンラウリン酸エステル、クエン酸モノグリセリンミリスチン酸エステル、クエン酸モノグリセリンパルミチン酸エステル、クエン酸モノグリセリンミリストレイン酸エステル、クエン酸モノグリセリンパルミトレイン酸エステル、クエン酸モノグリセリンオレイン酸エステル、クエン酸モノグリセリンリノール酸エステル、クエン酸モノグリセリンリノレン酸エステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、クエン酸モノグリセリンステアリン酸エステルが好ましい。
乳酸モノグリセリン脂肪酸エステル、酢酸モノグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、コハク酸又はクエン酸モノグリセリン脂肪酸エステルとして上記に例示したもので有機酸を乳酸や酢酸に置換したもの等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルは、焼成品の風味が良好であることからコハク酸モノグリセリン脂肪酸エステル又はクエン酸モノグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。
上記有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、油脂全量に対して、好ましくは0.05〜6.0質量%であり、より好ましくは0.1〜5.0質量%であり、更に好ましくは0.2〜4.0質量%である。有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルの含有量がこの範囲内にあれば、焼成品のサクさと歯切れが良好なものとなり、かつ、乳化剤による雑味を感じることなく風味の良好な焼成品を得ることができる。
なお、上記ソルビタン脂肪酸エステルと上記有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルを併用する場合には、これらの合計量は、焼成品のサクさと歯切れを良好なものとし、かつ風味が良好な焼成品を得る点から、油脂全量に対して、好ましくは0.05〜6.0質量%であり、より好ましくは0.1〜5.0質量%であり、更に好ましくは0.2〜4.0質量%である。
(層状食品用可塑性油脂)
本発明の層状食品用油脂組成物は、油相中に本発明の層状食品用油脂組成物を含有する層状食品用可塑性油脂を調製し、これを原材料とする生地を用いて焼成品を得ることができる。
この層状食品用可塑性油脂は、油相中に本発明の層状食品用油脂組成物を含有するものである。
層状食品用可塑性油脂における本発明の層状食品用油脂組成物の含有量としては、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%である。
この層状食品用可塑性油脂は、水相を実質的に含有しない形態と、水相を含有する形態をとることができる。水相を含有する形態としては油中水型、油中水中油型が挙げられ、油相の含有量は、好ましくは60〜99.4質量%、より好ましくは65〜98質量%であり、水相の含有量は、好ましくは0.6〜40質量%、より好ましくは2〜35質量%である。水相を含有する形態としては油中水型が好ましく、マーガリンが挙げられる。
また水相を実質的に含有しない形態としてはショートニングが挙げられる。ここで「水相を実質的に含有しない」とは日本農林規格のショートニングに該当する、水分(揮発分を含む。)の含有量が0.5質量%以下のことである。
この層状食品用可塑性油脂には、水以外に、従来の公知の成分を含んでもよく、含まなくてもよい。公知の成分としては、特に限定されないが、例えば、乳、乳製品、蛋白質、糖質、塩類、酸味料、pH調整剤、抗酸化剤、香辛料、着色成分、香料、乳化剤等が挙げられる。乳としては、牛乳等が挙げられる。乳製品としては、脱脂乳、クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズ等)、発酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、蛋白濃縮ホエイパウダー、ホエイ蛋白コンセントレート(WPC)、ホエイ蛋白アイソレート(WPI)、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等が挙げられる。蛋白質としては、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白、小麦蛋白等の植物蛋白等が挙げられる。糖質としては、単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等)、二糖類(ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース等)、オリゴ糖、糖アルコール、デンプン、デンプン分解物、多糖類等が挙げられる、抗酸化剤としては、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸誘導体、トコフェロール、トコトリエノール、リグナン、ユビキノン類、キサンチン類、オリザノール、植物ステロール、カテキン類、ポリフェノール類、茶抽出物等が挙げられる。香辛料としては、カプサイシン、アネトール、オイゲノール、シネオール、ジンゲロン等が挙げられる。着色成分としては、カロテン、アナトー、アスタキサンチン等が挙げられる。香料としては、バターフレーバー、ミルクフレーバー等が挙げられる。乳化剤としては、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられ、本発明の効果を損なわない範囲において添加することができる。
この層状食品用可塑性油脂は、公知の方法により製造することができる。例えば水相を含有する形態のものは、本発明の層状食品用油脂組成物を含む油相と水相とを適宜に加熱し混合して乳化した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサス等の冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。水相を含有しない形態のものは、本発明の層状食品用油脂組成物を含む油相を加熱した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサス等の冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。冷却混合機により急冷捏和後には、必要に応じて熟成(テンパリング)してもよい。
この層状食品用可塑性油脂は、シート状、ブロック状、円柱状、直方体状、ペンシル状等の様々な形状とすることができる。その中でも、加工が容易である点等から、シート状とすることが好ましい。層状食品用可塑性油脂をシート状とした場合のサイズは、特に限定されないが、例えば、幅50〜1000mm、長さ50〜1000mm、厚さ1〜50mmとすることができる。
(生地及び焼成品)
本発明の層状食品用油脂組成物は、層状食品用可塑性油脂としてパンや菓子等の焼成品の生地に折り込んで使用することができる。例えば、生地の間に本発明の層状食品用油脂組成物を用いたシート状の層状食品用可塑性油脂を包み込み、その後、折り畳みと圧延を繰り返すことによって生地中に層状食品用可塑性油脂を層状に折り込んで、生地と層状食品用可塑性油脂の薄い層を何層にも作り上げる。そして、この本発明の層状食品用油脂組成物を含有する生地を焼成することによってデニッシュ、クロワッサン、パイ等の焼成品が得られる。生地への本発明の層状食品用油脂組成物の折り込みや、焼成は、例えば公知の条件及び方法に従って行うことができる。
生地は穀粉を主成分とし、穀粉としては、通常、焼成品の生地に配合されるものであれば、特に限定されないが、例えば、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉等が挙げられる。
生地における本発明の層状食品用油脂組成物の配合量は、焼成品の種類によっても異なり特に限定されないが、生地に配合される穀粉100質量部に対して、層状食品用可塑性油脂量として好ましくは20〜120質量部であり、より好ましくは20〜100質量部である。
生地には、穀粉と本発明の層状食品用油脂組成物以外にも、通常、焼成品の生地に配合されるものであれば、特に制限なく配合することができる。また、これらの配合量も、通常、焼成品の生地に配合される範囲を考慮して特に制限なく配合することができる。具体的には、例えば、水や、前記したような乳、乳製品、蛋白質、糖質の他、卵、卵加工品、塩類、乳化剤、乳化起泡剤(乳化油脂)、可塑性油脂、イースト、イーストフード、カカオマス、ココアパウダー、チョコレート、コーヒー、紅茶、抹茶、野菜類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、肉類、魚介類、豆類、きな粉、豆腐、豆乳、大豆蛋白、膨張剤、甘味料、調味料、香辛料、着色成分、香料等が挙げられる。
焼成品としては、例えば、イースト等を使用して生地を発酵させるデニッシュやクロワッサン、発酵過程のないパイ等のペストリーが挙げられる。
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
1.測定方法
各油脂のヨウ素価は、基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1−2013ヨウ素価(ウィイス−シクロヘキサン法)」で測定した。
乳脂分別軟質部の融点は、基準油脂分析法(社団法人日本油化学会)の「3.2.2.2−2013 融点(上昇融点)」で測定した。
固体脂含量は、基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.2.9−2013 固体脂含量(NMR法)」で測定した。また、基準油脂分析試験法の温度条件を変更し(0℃±2℃で30分保持後、26℃±0.2℃で30分保持し、その後0℃±2℃で30分保持する操作を除いた)、10℃で7日間及び3週間保存し測定した。
構成脂肪酸の総炭素数が36〜48であるトリグリセリドの含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.6.1−2013 トリアシルグリセリン組成(ガスクロマトグラフ法)」)で測定した。
油脂における2飽和トリグリセリド及び3飽和トリグリセリドの合計含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)で測定し、それぞれ脂肪酸量を用いて計算にて求めた。
油脂における対称型トリグリセリド(SUS)及び非対称型トリグリセリド(SSU)の含有量と質量比(SUS/SSU)は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)により測定し算出した。
2.層状食品用油脂組成物の製造
表1〜表3に示す配合比にて各油脂、ソルビタン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルを溶解後混合し、実施例及び比較例の油脂組成物を得た。
(エステル交換油脂A1)
パーム核極度硬化油20質量%、パーム油50質量%、パーム極度硬化油30質量%を混合して110℃に加熱し、十分に脱水させた後、化学触媒としてナトリウムメチラートを油脂量の0.08質量%添加し、減圧下、100℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、活性白土を用いて脱色し、更に脱臭を行ってエステル交換油脂A1を得た。
(エステル交換油脂A2)
パーム核極度硬化油20質量%、パーム油60質量%、パーム極度硬化油20質量%を混合し、エステル交換油脂A1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂A2を得た。
(エステル交換油脂B)
パーム分別軟質部(ヨウ素価56)について、エステル交換油脂A1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂Bを得た。
(乳脂分別軟質部1、2)
乳脂より常法により分別を行い、軟質部を得た。乳脂分別軟質部として2種類の融点(10℃、18℃)のものを使用した。これらについて、基準油脂分析法にしたがって測定した10℃のSFC、前述のとおり60℃±0.2℃で30分保持後、10℃で7日間保存し測定したSFCと、60℃±0.2℃で30分保持後、10℃で3週間保存し測定したSFCの値を表4に示す。なお、比較例で使用した乳脂(融点32.5℃)についても、基準油脂分析試験法、60℃±0.2℃で30分保持後、10℃で7日間及び3週間保存し測定した10℃のSFC値を示した。
(ソルビタン脂肪酸エステル1)
S−320YN (理研ビタミン(株)製)
パーム油の固化開始温度の上昇値 3.0℃
パルミチン酸とステアリン酸の合計含有量 98.1質量%
パルミチン酸/ステアリン酸(質量比) 0.8
HLB 4.2
(ソルビタン脂肪酸エステル2)
ポエムS−60V (理研ビタミン(株)製)
パーム油の固化開始温度の上昇値 2.0℃
パルミチン酸とステアリン酸の合計含有量 98.6質量%
パルミチン酸/ステアリン酸(質量比) 0.9
HLB 5.1
(ソルビタン脂肪酸エステル3)
ポエムS−65V(理研ビタミン(株)製)
パーム油の固化開始温度の上昇値 0.8℃
パルミチン酸とステアリン酸の合計含有量 98.0質量%
パルミチン酸/ステアリン酸(質量比) 0.9
HLB 3.0
ソルビタン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度(℃)の上昇値は、以下のようにして測定した。まず、パーム油(ヨウ素価53)100質量部にソルビタン脂肪酸エステル0.5質量部を添加し、それを測定用のアルミニウムパンに3.5mg量り、更にサンプルを何も入れない空パン(リファレンス)を用いて、示差走査熱量計(型番:DSC Q1000、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)で以下の条件で固化開始温度を測定した。
次に、同様にして、ソルビタン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度を測定した。
ソルビタン脂肪酸エステルを添加したパーム油の固化開始温度とソルビタン脂肪酸エステルを添加していないパーム油の固化開始温度の差を、パーム油の固化開始温度(℃)の上昇値とした。
<測定条件>
示差走査熱量計のセル内の温度を80℃まで昇温し、5分間保持し、完全にサンプルを溶解させた。その後、毎分10℃(10℃/min.)で80℃から−40℃まで降温させ、その過程における固化開始温度(発熱ピークにおける発熱開始温度)を測定した。固化開始温度は、ベースラインとピークとの接線における交点とした。
(有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル1)
ポエムB−10 (理研ビタミン(株)製)
コハク酸モノグリセリン脂肪酸エステル(飽和脂肪酸含量96%)
(有機酸モノグリセリン脂肪酸エステル2)
ポエムK−30 (理研ビタミン(株)製)
クエン酸モノグリセリン脂肪酸エステル(飽和脂肪酸含量98%)
Figure 0005833730
Figure 0005833730
Figure 0005833730
Figure 0005833730
3.評価
実施例及び比較例の各試料について次の評価を行った。
(マーガリンの製造)
油脂組成物83.5質量部を70℃に調温して油相とした。一方、水13.9質量部に脱脂粉乳1.6質量部及び食塩1.0質量部を添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。次に、該油相に該水相を添加し、プロペラ撹拌機で撹拌して、油中水型に乳化した後、コンビネーターによって急冷捏和して、25cm×21cm×1cmのシート状に成型した下記の配合割合の層状食品用マーガリンを得た。
〈マーガリン配合〉
油脂組成物 83.5質量部
水 13.9質量部
脱脂粉乳 1.6質量部
食塩 1.0質量部
上記層状食品用マーガリンを10℃で7日保存した後、下記の評価を行った。
[層状食品用マーガリンからの液状油の染みだし]
層状食品用マーガリンを3×3cm角にカットし、30℃の恒温槽にて2日保存したときの液状油の染みだしを目視にて以下の基準で評価した。
評価基準
5:全く染みだしがない。
4:ほとんど染みだしがない。
3:少し染みだしがある。
2:染みだしがある。
1:染みだしが多くある。
(デニッシュの製造)
下記の配合および条件でデニッシュを製造した。具体的には、パン練り込み用マーガリン及び層状食品用マーガリン以外の材料をミキサーに投入し、低速3分、中低速3分ミキシングを行った後、パン練り込み用マーガリンを入れ低速2分、中低速3分ミキシングを行い、生地を得た。この生地を、フロアタイムをとった後、0℃で一晩リタードさせた。この生地に層状食品用マーガリンを折り込み、ゲージ厚3mmで3折り2回を加え−10℃にて30分リタードし、3折り1回を加え−10℃にて60分リタードさせた。その後ゲージ厚3mmとした後、10cm角(10cm×10cm)にカットし、ホイロ後、焼成してデニッシュを得た。
〈デニッシュの配合〉
強力粉 90質量部
薄力粉 10質量部
上白糖 10質量部
食塩 1.8質量部
脱脂粉乳 3質量部
全卵 6質量部
パン練り込み用マーガリン
(アドフリー440ミヨシ油脂製乳化剤無添加マーガリン) 8質量部
イースト 5質量部
イーストフード 0.1質量部
水 53質量部
層状食品用マーガリン 生地100質量部に対して21質量部
〈デニッシュ生地の製造条件〉
ミキシング: 低速3分、中低速3分、 (マーガリン投入)、低速2分、中低速3分
捏上温度: 25℃
フロアタイム:27℃ 75% 30分
リタード: 0℃ 一晩
ロールイン: 3折×2回 −10℃にてリタード30分
3折×1回 −10℃にてリタード60分
成型: シーターゲージ厚3mm
ホイロ: 35℃ 75% 60分
[層状食品用マーガリンの伸展性]
約1.9Kgの生地にシート状の層状食品用マーガリン400gをのせ、折り込み時の層状食品用マーガリンの伸展性を以下の基準で評価した。
評価基準
4:生地中で油脂が油切れなく均一に伸び、非常に伸展性が良好である。
3:生地中で油脂が油切れなく均一に伸び、伸展性が良好である。
2:伸展性はあるものの、やや油脂切れがある。
1:油脂が均一に伸びず、油脂切れがある。
[生地縮み]
3mm厚に成型した生地を10センチ角にカットし、10枚重ねたときの高さを測定し、以下の基準で評価した。
評価基準
4:58mm以下
3:58mm超63mm以下
2:63mm超68mm以下
1:68mm超
デニッシュを焼成し、20℃で1日保存後、官能評価を行った。
[焼成品のサクさ]
焼成したデニッシュのサクさについてパネル20名により以下の基準で評価した。
評価基準
5:パネル20名中16名以上が、サクさがあると評価した。
4:パネル20名中12〜15名が、サクさがあると評価した。
3:パネル20名中8〜11名が、サクさがあると評価した。
2:パネル20名中4〜7名が、サクさがあると評価した。
1:パネル20名中、サクさがあると評価したのは3名以下であった。
[焼成品の歯切れ]
焼成したデニッシュの歯切れについてパネル20名により次の基準で評価した。
評価基準
5:パネル20名中16名以上が、歯切れがあると評価した。
4:パネル20名中12〜15名が、歯切れがあると評価した。
3:パネル20名中8〜11名が、歯切れがあると評価した。
2:パネル20名中4〜7名が、歯切れがあると評価した。
1:パネル20名中、歯切れがあると評価したのは3名以下であった。
[焼成品の風味発現性]
焼成したデニッシュの風味発現性についてパネル20名により以下の基準で評価し、その平均点により評価した。
評価基準
点数
4点:乳脂の風味が非常に強く、持続時間が長い。
3点:乳脂の風味が強く、持続性がある。
2点:乳脂の風味が若干薄れ、持続性がない。
1点:乳脂の風味が弱く、持続性がない。
平均点による評価
4:平均点が3.5点以上
3:平均点が3点以上3.5点未満
2:平均点が2点以上3点未満
1:平均点が2点未満
[焼成品の口溶け]
焼成したデニッシュの口溶けについてパネル20名により以下の基準で評価した。
評価基準
4:パネル20名中15名以上が良好であると評価した。
3:パネル20名中10〜14名が良好であると評価した。
2:パネル20名中5〜9名が良好であると評価した。
1:パネル20名中、良好であると評価したのは4名以下であった。
上記の評価結果を表5〜表7に示す。
Figure 0005833730
Figure 0005833730
Figure 0005833730
上記の結果より、まず、表5及び表6において、10℃の固体脂含量が20%以下である乳脂分別軟質部を含有し、構成脂肪酸の総炭素数が36〜48であるトリグリセリドの含有量が油脂全量に対して20〜46質量%、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が油脂全量に対して45〜65質量%、2飽和トリグリセリドのうち対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が0.2〜1.2である実施例1〜19と参考例1は、いずれも乳脂分別軟質部を含有していても保存時に染みだしが起こりにくく、乳由来の油脂を含有していても生地中での伸展性が良好で、焼成品の風味発現性と口溶けが良好なものが得られることが確認された。
表5の参考例1は、ソルビタン脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルのいずれも含まないものであるが、これらの特性を満足していた。このことから、非結晶部分の多い乳脂分別軟質部を添加した油脂組成物であっても、上記のような油脂組成は、染みだしを抑制し、生地中での伸展性が良好で、焼成品の風味発現性と口溶けが良好であることがわかる。しかし、非結晶部分の多い乳脂分別軟質部を含有するため、焼成品のサクさと歯切れの評価はいずれも3で、サクさと歯切れがあると評価したパネルは半数程度にすぎなかった。
ところが、特定のソルビタン脂肪酸エステル又は有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルを添加した実施例1〜19では、焼成品のサクさと歯切れの評価はいずれも5又は4で、すべての実施例において少なくとも1つは最高である5の評価であった。そして、それ以外の上記特性も全体として維持されていることから、他の特性を損なうことなく、焼成品のサクさと歯切れが有意に向上することが確認された。
層状食品用マーガリンの染みだしについては、実施例は概ね評価が4と5で、全く染みだしがないか、ほとんど染みだしがないレベルであった。
実施例6、15は、少し染みだしがあるレベルであったが、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が少なめであったことが考慮される。すなわち、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量の下限値が45質量%程度であることを示唆した。また比較例2では、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が37.0質量%であるため、染みだしが著しく、このことを支持している。
実施例7、17は、少し染みだしがあるレベルであったが、構成脂肪酸の総炭素数が36〜48であるトリグリセリドの含有量が多めであったことが考慮される。すなわち、構成脂肪酸の総炭素数が36〜48であるトリグリセリドの含有量は46質量%以下が望ましいことを示唆した。乳脂分別軟質部の含有量が多く、構成脂肪酸の総炭素数が36〜48であるトリグリセリドの含有量が46質量%を超える比較例3は、染みだしが著しかった。
伸展性については、実施例は概ね評価が4で、生地中で油脂が均一に伸び、非常に伸展性が良好であった。生地縮みについても満足できるレベルで、油脂組成物は可塑性が良くコシのあるものであった。実施例3、8〜17は、伸展性がやや低下するものの、油脂切れはみられず、生地中で油脂が均一に伸び、伸展性が良好であった。実施例9〜17は、ソルビタン脂肪酸エステルが添加されていないことが伸展性に起因していると考えられる。また、実施例8、16は、SUS/SSUが高めで、製造機での結晶化がやや不十分となり、保存時に結晶化が進んで硬くなること、実施例3、13は2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が多めであることが伸展性の低下に影響を及ぼしていると考えられる。
比較例1は実施例1、9、10において乳脂分別軟質部を乳脂に変更したが、伸展性はあるものの、やや油脂切れがあり、乳化剤無添加であることを考慮すると、これらの実施例とは大きな差がみられた。
焼成品のサクさと歯切れについては、特定のソルビタン脂肪酸エステルを添加した実施例1〜8、18、19では特に焼成品のサクさが良好で、ほとんどが最高である5の評価であった。特定の有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルを添加した実施例9〜19では特に焼成品の歯切れが良好で、すべてが最高である5の評価であった。また、この特定のソルビタン脂肪酸エステルや有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルを添加しても、染みだし、伸展性などの他の特性について、いずれも顕著な低下は見られず満足できる値を維持した。
焼成品の風味発現性については、実施例1〜19は、乳脂の風味が強く、持続性があり、比較例1〜6に比べて有意差が見られた。ほとんどの実施例において、乳脂の風味が非常に強く、持続時間が長いものであった。
焼成品の口溶けについては、ほとんどの実施例でパネルの大部分が良好と評価し、比較例2や、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が多い比較例4、5に比べて有意差が見られた。
以上より、10℃の固体脂含量が20%以下である乳脂分別軟質部を含有し、構成脂肪酸の総炭素数が36〜48であるトリグリセリドの含有量が油脂全量に対して20〜46質量%、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が油脂全量に対して45〜65質量%、2飽和トリグリセリドのうち対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が0.2〜1.2であり、パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるソルビタン脂肪酸エステル及び有機酸がコハク酸、クエン酸、乳酸又は酢酸である有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含有することによって、乳脂分別軟質部を含有していても保存時に染みだしが起こりにくく長期にわたり安定した物性を保つことができ、乳由来の油脂を含有していても生地中での伸展性が良好で、サクさと歯切れの良い食感の焼成品を得ることができ、焼成品の風味発現性と口溶けが良好なものが得られることが確認された。

Claims (3)

  1. 10℃の固体脂含量が20%以下である乳脂分別軟質部を含有し、
    構成脂肪酸の総炭素数が36〜48であるトリグリセリドの含有量が油脂全量に対して20〜46質量%、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計量が油脂全量に対して45〜65質量%、2飽和トリグリセリドのうち対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が0.2〜1.2であり、
    パーム油の固化開始温度を1.0℃以上上昇させるソルビタン脂肪酸エステル及び有機酸がコハク酸、クエン酸、乳酸又は酢酸である有機酸モノグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1種を含有する層状食品用油脂組成物。
  2. 請求項1に記載の層状食品用油脂組成物を含有する焼成品用の生地。
  3. 請求項2に記載の生地を焼成する焼成品の製造方法
JP2014216724A 2014-10-23 2014-10-23 層状食品用油脂組成物とそれを用いた生地及び焼成品の製造方法 Active JP5833730B1 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014216724A JP5833730B1 (ja) 2014-10-23 2014-10-23 層状食品用油脂組成物とそれを用いた生地及び焼成品の製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014216724A JP5833730B1 (ja) 2014-10-23 2014-10-23 層状食品用油脂組成物とそれを用いた生地及び焼成品の製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP5833730B1 true JP5833730B1 (ja) 2015-12-16
JP2016082889A JP2016082889A (ja) 2016-05-19

Family

ID=54874353

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2014216724A Active JP5833730B1 (ja) 2014-10-23 2014-10-23 層状食品用油脂組成物とそれを用いた生地及び焼成品の製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP5833730B1 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP7492819B2 (ja) * 2019-10-23 2024-05-30 株式会社Adeka ロールイン用油脂組成物

Citations (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2001204384A (ja) * 2000-01-25 2001-07-31 Showa Sangyo Co Ltd 流動状ショートニング
JP2007060913A (ja) * 2005-08-29 2007-03-15 Kaneka Corp シート状油中水型乳化油脂組成物及びそれを用いた層状膨化食品
JP5421496B1 (ja) * 2013-08-28 2014-02-19 ミヨシ油脂株式会社 油脂組成物及び可塑性油脂組成物
JP5584351B1 (ja) * 2013-12-27 2014-09-03 ミヨシ油脂株式会社 可塑性油脂組成物及び可塑性油脂組成物を用いた食品

Patent Citations (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2001204384A (ja) * 2000-01-25 2001-07-31 Showa Sangyo Co Ltd 流動状ショートニング
JP2007060913A (ja) * 2005-08-29 2007-03-15 Kaneka Corp シート状油中水型乳化油脂組成物及びそれを用いた層状膨化食品
JP5421496B1 (ja) * 2013-08-28 2014-02-19 ミヨシ油脂株式会社 油脂組成物及び可塑性油脂組成物
JP5584351B1 (ja) * 2013-12-27 2014-09-03 ミヨシ油脂株式会社 可塑性油脂組成物及び可塑性油脂組成物を用いた食品

Also Published As

Publication number Publication date
JP2016082889A (ja) 2016-05-19

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP7180956B2 (ja) 層状食品用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂、生地及び焼成品
JP7180955B2 (ja) 練り込み用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂、生地及び焼成品
JP6121228B2 (ja) 製菓製パン用油脂組成物およびその製造方法
JP5584351B1 (ja) 可塑性油脂組成物及び可塑性油脂組成物を用いた食品
WO2015099160A1 (ja) 油脂組成物
JP2020115893A (ja) 可塑性油脂組成物
JP6497875B2 (ja) 可塑性油脂組成物及び可塑性油脂組成物が添加された食品
JP6836331B2 (ja) 可塑性油脂組成物とそれを用いたスプレッドおよび焼成品の製造方法
JP6518427B2 (ja) 製菓製パン用油脂組成物およびその製造方法
JP5833729B1 (ja) バタークリーム又はベーカリー製品用可塑性油脂組成物とそれを用いた食品の製造方法
JP5833728B1 (ja) 層状食品用油脂組成物とそれを用いた生地及び焼成品の製造方法
JP6302243B2 (ja) 層状食品用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂、生地及び焼成品
JP2017079737A (ja) 油脂組成物とそれを用いた食品
JP5833730B1 (ja) 層状食品用油脂組成物とそれを用いた生地及び焼成品の製造方法
JP6441625B2 (ja) 層状食品用油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂、生地及び焼成品
JP6787666B2 (ja) 製菓製パン練り込み用油脂組成物とそれを用いた焼成品の製造方法
JP7174737B2 (ja) 可塑性油脂組成物及び可塑性油脂組成物が添加された食品
JP2018027079A (ja) 可塑性油脂組成物及び食品
JP2017105890A (ja) エステル交換油脂組成物とそれを用いた可塑性油脂組成物
JP6717729B2 (ja) 可塑性油脂組成物とそれを用いたマーガリン、スプレッド、バタークリーム
JP2019004875A (ja) 可塑性油脂組成物
JP6456694B2 (ja) 層状食品用生地および焼成品
JP2018068289A (ja) 層状食品用油中水型乳化物とそれを用いた可塑性油脂および層状食品の製造方法
JP6258463B2 (ja) 製菓製パン用油脂組成物およびその製造方法
JP7109195B2 (ja) 油脂組成物

Legal Events

Date Code Title Description
TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20151006

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20151029

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 5833730

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250