JP2009291134A - 油脂組成物 - Google Patents

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礼央 田中
Takamichi Kamigaki
隆道 神垣
Hiroaki Ishii
宏明 石井
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朋之 磯貝
Atsushi Serizawa
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Abstract

【課題】
冷蔵保存時には、バター様の独特の風味を持ち、かつ加熱時には、焦がしバター風味を生じさせながらも素材の味を生かす風味を合わせ持つ油脂組成物および油脂組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】
フラン化合物含量のピーク面積値が100以下であり、80℃〜240℃での加熱後のフラン化合物含量のピーク面積値が2000〜10000であることを特徴とする油脂組成物は、冷蔵保存時にはバター様の独特の風味を持ち、かつ加熱時には、焦がしバター風味を生じさせながらも素材の味を生かす風味を合わせ持つ。
【選択図】なし

Description

本発明はパン、菓子、調理加工食品類の用途としてバター様の風味ならびに加熱時には、焦がしバター風味を生じさせながらも素材の味を生かす風味を付与する油脂組成物および該油脂組成物を安定な品質で容易に大量生産できる製造方法、並びに該油脂組成物を含んでなる食品に関する。
バターは、乳脂肪、油溶成分、水溶性成分、塩類及び水分を含んだ食品原料であり独特な風味を有し広く食品に利用されている。特に、良質なバターは、調理に用いた場合に素材の味を引き出すようなバター風味を付与することができる。又このバターの風味をより引き出すために、80℃から240℃での加熱によって香気・風味成分を生じさせることで、バター風味の増強が試みられている。これは、バター独特の香ばしい風味を持つものであるため菓子類に多く使用されている。しかしながら、この風味を得るためには、天然のバターを使用する必要があり、高価なものとなる。本発明は以上のような状況を鑑み、バター様の独特の香ばしい風味を持つ油脂組成物および該油脂組成物を安定な品質で提供するものである。
従来から、製菓・製パン・調理用油脂として、バターは広く用いられている。バターは“美味しさ”という風味上の利点がある。一方、マーガリンに比べ高価であるという価格上の問題、低温でのスプレッド性不良等の物性上の問題がある。そこでバターに代えて可塑性に優れるマーガリンが使用されることが多くなっている。但し、マーガリンはバターに比べて風味が劣るため、バターとマーガリンの欠点を相互に補うためにバターコンパウンドマーガリン(以下、コンパウンドマーガリンと略す)が存在する。しかし、コンパウンドマーガリンは風味上の満足感には乏しいのが現実である。
特許文献1には、良好なバター風味を有する油脂組成物の方法が記載されているが、これは水相のpHを調整し醗酵バターを添加する方法で、風味は酸味の方向に移行する。その他、特許文献2などにはスターター醗酵菌留出物や醗酵バター用培養濃縮物などを含有することによりマーガリンの風味の改善を狙ったものがあるが、いずれもマーガリンの風味の改善は部分的な改善に過ぎず、抜本的な風味の改良には至らなかった。
また、乳脂肪分を含有する油中水型乳化油脂が提案されている(特許文献3、特許文献4、特許文献5)。しかしながら、これら乳脂肪分を含有する方法は、乳脂肪分を高含有することで風味を得ており、乳脂肪を減らしていくとその分風味が弱くなってしまうという欠点があった。また、特許文献6には焦がしバター風味油、の製造法が記載されているが、この方法による風味そのものは美味しいが、通常の調理時における焦がしバター風味を得ることはできなかった。
加熱時のフレーバー成分に注目した場合、フルフラールなどのフラン系化合物は、甘いバター様の風味を持ち、焦がしバター風味の因子として挙げられる(特許文献7)。しかしながら従来の方法では、調理前にフルフラールが含まれている必要があった。通常、加熱前のバター中にはフルフラールは含有されていないことから、従来の方法では加熱前のバター風味を得ることが出来ず、また、加熱後にバター風味を得る場合においても、従来技術では加熱温度が140℃以下という制約があり、より高温での加熱時にはフルフラールの風味が失われてしまうという問題があった。フルフラール以外のフレーバー成分では、ミルク感を向上させるラクトンが因子として挙げられる(特許文献8)が、従来の方法では、ラクトンをフレーバーとして添加しても、加熱時に大きく減少してしまうという問題があった。
以上のような種々の検討がこれまでも検討されてきているが、いずれも調理時に要求される好ましい焦がしバター風味を得るには至っていない。特に、バターを用いる調理では、通常のマーガリンやファットスプレッドでは成し得ない、加熱に対する風味の維持・向上と、素材の味を生かす風味を得られるという大きな違いが依然として存在していた。
特許第03916317号公報 特開2002−345403号公報 特開2006−34102号公報 特開平11−276069号公報 特開2002−345403号公報 特許第3780843号公報 特公平07−089868号公報 特開2005−15685号公報
本発明は、冷蔵保存時や室温での使用時には、バター様の独特の風味を持ち、かつ加熱時には、風味の減少が無く、焦がしバター風味を生じさせながらも素材の味を生かす風味を合わせ持つ油脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意検討を行った結果、油脂組成物中のフラン化合物、ラクトン類の加熱前後の含量を調整することにより、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、次の[方法I]によるフラン化合物含量のピーク面積値が100以下であり、80℃〜240℃での加熱後のフラン化合物含量のピーク面積値が2000〜10000であることを特徴とする油脂組成物である。
本発明はまた、80℃〜240℃で加熱後に、ラクトン類とフラン化合物の[方法I]によるピーク面積値の比がラクトン類1に対してフラン化合物8以上であり、かつ、加熱前と80℃〜240℃での加熱後のラクトン類の含量比が加熱前1に対して加熱後0.5以上であることを特徴とする前記の油脂組成物である。
本発明はまた、乳脂肪分解物を添加することを特徴とする前記の油脂組成物である。
本発明はまた、0%〜80%の乳脂肪を含むことを特徴とする前記の油脂組成物である。
本発明はまた、乳脂肪分解物を0.01%〜10%含み、次の[方法I]によるフラン化合物含量のピーク面積値が100以下であり、80℃〜240℃での加熱後のフラン化合物含量のピーク面積値が2000〜10000であることを特徴とする油脂組成物である。
本発明はまた、80℃〜240℃で加熱後に、ラクトン類とフラン化合物の[方法I]によるピーク面積値の比がラクトン類1に対してフラン化合物8以上であり、かつ、加熱前と80℃〜240℃での加熱後のラクトン類の含量比が加熱前1に対して加熱後0.5以上であることを特徴とする前記の油脂組成物である。
本発明はまた、0%〜80%の乳脂肪を含むことを特徴とする前記の油脂組成物である。
本発明はまた、油相に水相を添加し、乳化混合した後、乳脂肪分解物を添加し、冷却、可塑化する前記の油脂組成物の製造方法である。
本発明はまた前記の油脂組成物を含むことを特徴とする食品である。
なお、ピーク面積値は次の[方法I]で算出した。
[方法I]
SPMEとしてDVB/CAR/PDMS樹脂を用い、2mL容器に封入した1gのサンプルを37℃で60分間加温し、ヘッドスペースを60分間吸着させ、GC-MSによる測定を行った。GC−MSは、GC装置としてAgilent 6890N(アジレント・テクノロジー社)、MSDとしてAgilent 5973N(アジレント・テクノロジー社)を使用し、カラムはAgilent DB-5 (50m×0.32mm×0.52μm) (アジレント・テクノロジー社)を用いた。GC−MSの条件としては、40℃で8分間処理した後、毎分4℃ずつ230℃まで昇温させ、230℃で20分間保持した。この時のフラン化合物およびラクトン類の含量をMSDによって測定し、ピーク面積値として算出した。
本発明の油脂組成物は、冷蔵保存時には、バター様の独特の風味を持ち、かつ加熱時においても、風味の減少が無く、焦がしバター風味を生じさせながらも素材の味を生かす風味を合わせ持つという特徴を有する。また本発明の油脂組成物は、乳由来の酵素分解物を添加することを特徴とし、乳脂肪分の有無に関わらず、良好なバター風味を有するものである。
本発明で使用する油脂としては、通常、食用として用いられているものであれば植物油脂、動物油脂のいずれでもよく、例えば乳脂、牛脂、豚脂、大豆油、綿実油、米油、コーン油、ヤシ油、パーム油、カカオ脂等が挙げられ、これらを単独或いは混合、硬化、分別、エステル交換したものを単独或いは2種以上を混合して用いることが出来る。尚、本発明においては、乳脂は必須ではなく油脂中80重量%以下の使用でよい。
風味付けには、通常油脂組成物に使用されるフレーバー類を用いることができるが、特に生乳、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、乳清、生クリーム、チーズ類、ヨーグルト類、バター、バターミルク又はこれらを濃縮加工したものを脂質分解酵素あるいは蛋白質分解酵素あるいは糖分解酵素またはそれぞれの組合せにて処理したものの1種又は2種以上を使用することを特徴とする。乳脂肪分解物を使用することにより、加熱後のフラン化合物の含量を増加させることができ、ラクトン類の含量も調整することが可能である。乳脂肪分解物の配合割合としては、油脂100重量%に対して0.01〜10重量%、さらに望ましくは0.05〜5重量%の範囲である。配合割合が0.01重量%未満では十分な風味が得られず、10重量%を越えて配合しても効果は頭打ちとなる。また上記以外のフラン化合物、ラクトン類の含量を調整する方法としては、糖類を添加する方法などが挙げられる。
次に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
乳脂肪50kg、大豆硬化油(融点32℃)800kgを配合して油相を調製した。これに、全脂粉乳20kgを水130kgに溶解した水相を徐々に添加し混合物とした後、80℃で10分間加熱した。これに乳脂肪加水分解物を1kg添加した後、コンビネータにて急冷可塑化し油脂組成物を得た。
大豆硬化油(融点32℃)850kgを配合して油相を調製した。これに、全脂粉乳20kgを水130kgに溶解した水相を徐々に添加し混合物とした後、80℃で10分間加熱した。これに乳脂肪加水分解物を1kg添加した後、コンビネータにて急冷可塑化し油脂組成物を得た。
(比較例1)
乳脂肪50kg、大豆硬化油(融点32℃)800kgを配合して油相を調製した。これに、全脂粉乳20kgを水130kgに溶解した水相を徐々に添加し混合物とした後、80℃で10分間加熱した。これに合成香料を2kg添加した後、コンビネータにて急冷可塑化し油脂組成物を得た。
(比較例2)
大豆硬化油(融点32℃)850kgを配合して油相を調製した。これに、全脂粉乳20kgを水130kgに溶解した水相を徐々に添加し混合物とした後、80℃で10分間加熱した。これに合成香料を2kg添加した後、コンビネータにて急冷可塑化し油脂組成物を得た。
(比較例3)
比較例3として、市販のマーガリンA(ラクトン含量の高い製品)を用いた。
(比較例4)
比較例4として、市販のマーガリンB(ラクトン含量と遊離脂肪酸含量の高い製品)を用いた。
(試験例1)
実施例1、2および比較例1、2、3、4、バターを用いて官能評価とSPMEを用いたGC-MSによる香気成分分析を行った。
調理による官能評価は次の通り行なった。じゃがバター風味の官能評価では、実施例1、2および比較例1、2、3、4、市販バターをそれぞれ、蒸かしたジャガイモに乗せたものを評価した。ホタテバター風味の官能評価では、実施例1、2および比較例1、2、3、4、市販バターを用いて、ホタテを炒めたものを評価した。熟練したパネラー5名にて、官能評価を行なった結果を表1、2、4に示す。また、加熱前の分析結果を表3、これを140℃で10分間加熱した後の官能評価と香気成分分析を表5に示す。香気成分分析は、SPMEとしてDVB/CAR/PDMS樹脂を用い、2mL容器に封入した1gのサンプルを37℃で60分間加温し、ヘッドスペースを60分間吸着させ、GC-MSによる測定を行った。GC−MSは、GC装置としてAgilent 6890N(アジレント・テクノロジー社)、MSDとしてAgilent 5973N(アジレント・テクノロジー社)を使用し、カラムはAgilent DB-5 (50m×0.32mm×0.52μm) (アジレント・テクノロジー社)を用いた。GC−MSの条件としては、40℃で8分間処理した後、毎分4℃ずつ230℃まで昇温させ、230℃で20分間保持した。この時のフラン化合物およびラクトン類の含量をMSDによって測定し、ピーク面積値として算出した。
Figure 2009291134
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Figure 2009291134
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加熱前の風味成分分析の結果、実施例1、2、比較例1、2、3、4は、オイリー感、油脂のコク味に寄与する遊離脂肪酸とミルク感を増加させるラクトン類の量が多く、バターと比較すると強度が高いが、全て好ましい風味を持っていた。
加熱後の官能評価の結果、実施例1、実施例2、比較例1ではバター風味を感じた。実施例1、実施例2が比較例1よりもバター風味を強く感じた。比較例2、3、4はバター風味を感じなかった。加熱後の風味成分分析の結果、実施例1、実施例2、比較例1では、遊離脂肪酸とラクトン類の量が維持された。バターは加熱により遊離脂肪酸とラクトン類が増加し、実施例1、実施例2、比較例1と同等の量となった。しかしながら、比較例2、3、4は遊離脂肪酸とラクトン類の量が減少した。また、実施例1、2、比較例1、2、3、4、バター全てにおいてバター風味の甘味成分であるフラン化合物が増加した。しかしながら、比較例1、3のフラン化合物/ラクトン類の比は低くなり、バターと異なるバランスとなった。
(油脂組成物を用いたパンの製造方法)
表6に記載した分量で、強力粉、薄力粉、バター、砂糖、塩、ドライイースト、水を混合した。25℃で1時間醗酵させた後、生地を成形した。200℃のオーブンで20分焼いた。出来上がったパンはバターを用いた場合と遜色ない風味であった。
Figure 2009291134
(油脂組成物を使用したじゃがバターの製造方法)
じゃがいも4個を、それぞれ十字の切り込みを入れた後、サランラップで包み30分間電子レンジで加熱した。その後、油脂組成物40gを10gずつじゃがいもの上に乗せた。調理したじゃがいもは、バターを用いたじゃがバターと同等の風味であった。

Claims (9)

  1. 次の[方法I]によるフラン化合物含量のピーク面積値が100以下であり、80℃〜240℃での加熱後のフラン化合物含量のピーク面積値が2000〜10000であることを特徴とする油脂組成物。
    [方法I]
    SPMEとしてDVB/CAR/PDMS樹脂を用い、2mL容器に封入した1gのサンプルを37℃で60分間加温し、ヘッドスペースを60分間吸着させ、GC-MSによる測定を行った。GC−MSは、GC装置としてAgilent 6890N(アジレント・テクノロジー社)、MSDとしてAgilent 5973N(アジレント・テクノロジー社)を使用し、カラムはAgilent DB-5 (50m×0.32mm×0.52μm) (アジレント・テクノロジー社)を用いた。GC−MSの条件としては、40℃で8分間処理した後、毎分4℃ずつ230℃まで昇温させ、230℃で20分間保持した。この時のフラン化合物およびラクトン類の含量をMSDによって測定し、ピーク面積値として算出した。
  2. 80℃〜240℃で加熱後に、ラクトン類とフラン化合物の[方法I]によるピーク面積値の比がラクトン類1に対してフラン化合物8以上であり、かつ、加熱前と80℃〜240℃での加熱後のラクトン類の含量比が加熱前1に対して加熱後0.5以上であることを特徴とする請求項1記載の油脂組成物。
  3. 乳脂肪分解物を添加することを特徴とする請求項1または請求項2記載の油脂組成物。
  4. 0%〜80%の乳脂肪を含むことを特徴とする請求項1〜3記載の油脂組成物。
  5. 乳脂肪分解物を0.01%〜10%含み、次の[方法I]によるフラン化合物含量のピーク面積値が100以下であり、80℃〜240℃での加熱後のフラン化合物含量のピーク面積値が2000〜10000であることを特徴とする油脂組成物。
    [方法I]
    SPMEとしてDVB/CAR/PDMS樹脂を用い、2mL容器に封入した1gのサンプルを37℃で60分間加温し、ヘッドスペースを60分間吸着させ、GC-MSによる測定を行った。GC−MSは、GC装置としてAgilent 6890N(アジレント・テクノロジー社)、MSDとしてAgilent 5973N(アジレント・テクノロジー社)を使用し、カラムはAgilent DB-5 (50m×0.32mm×0.52μm) (アジレント・テクノロジー社)を用いた。GC−MSの条件としては、40℃で8分間処理した後、毎分4℃ずつ230℃まで昇温させ、230℃で20分間保持した。この時のフラン化合物およびラクトン類の含量をMSDによって測定し、ピーク面積値として算出した。
  6. 80℃〜240℃で加熱後に、ラクトン類とフラン化合物の[方法I]によるピーク面積値の比がラクトン類1に対してフラン化合物8以上であり、かつ、加熱前と80℃〜240℃での加熱後のラクトン類の含量比が加熱前1に対して加熱後0.5以上であることを特徴とする請求項5記載の油脂組成物。
  7. 0%〜80%の乳脂肪を含むことを特徴とする請求項5または請求項6記載の油脂組成物。
  8. 油相に水相を添加し、乳化混合した後、乳脂肪分解物を添加し、冷却、可塑化する請求項1〜7記載の油脂組成物の製造方法。
  9. 請求項1〜7記載の油脂組成物を含むことを特徴とする食品。
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