JP6314812B2 - n型熱電材料 - Google Patents

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Description

本発明は、n型熱電材料に関し、さらに詳しくは、充填スクッテルダイト(RxCo4Sb12)系化合物からなるn型熱電材料に関する。
熱電材料は、熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換可能な材料であり、その変換効率は、以下の無次元性能指数ZTと相関がある。
ZT=[(σ×S2)/κ]×T=[PF/κ]×T
(σ:電気伝導度、S:ゼーベック係数、κ:熱伝導度、T:絶対温度)
このZTを高めるためには、熱伝導度κの低減が必要である。
充填スクッテルダイト(RxCo4Sb12)系材料(0≦x≦1)は、熱電材料の一種であり、CoとSbが作る籠の中心部分に充填元素Rが充填された結晶構造を持つ。籠の中に充填された充填元素Rは、固有の振動数で振動しており、共鳴的に格子振動を散乱することで熱伝導度κを低減することができる(ラトリング効果)。また、充填元素Rを含まないCo4Sb12はp型熱電材料であるが、充填元素Rは電子ドーパントである。そのため、充填スクッテルダイトRxCo4Sb12は、n型半導体となる。
この充填元素Rには、アルカリ金属元素(非特許文献1)、アルカリ土類金属元素(非特許文献2)、希土類元素(特許文献1)、IIIB族元素(特許文献2)、その他の元素(非特許文献3〜5)などの種々の元素が提案されている。さらに、充填元素数を1種類から2種類、3種類と増やす(多重充填)に従って、熱伝導度κがより低下するため、ZTをより高めることができる。一般的に、高性能なn型多重充填スクッテルダイトは、Coサイトを置換するFeを含まず、充填元素量xが0.3以下であり、かつ、充填元素数が3種類以下である(非特許文献6)。
Fe置換系に関しては、例えば、特許文献3などの報告例がある。しかしながら、充填元素Rは、Yb及びアルカリ土類金属元素のみであり、具体的に開示されている組成物(実施例)の充填元素量xは、0.4以下である。
特許文献4には、5種類の充填元素R(Ca、Yb、Al、Ga、In)を含み、充填元素量xが0.4から0.9であり、かつ、Coサイトの一部をFeで置換したn型スクッテルダイト材料が報告されている。
すなわち、5種類よりも多くの充填元素を含み、高濃度に充填元素Rを添加し、Feでキャリア濃度を調整した充填スクッテルダイト系化合物からなるn型熱電材料は、報告されていない。
特開2002−026400号公報 特表2007−523998号公報 特開2008−159680号公報 国際公開第WO2009/093455号
Appl.Phys.Lett. 98 072109(2011) Journal of Applied Physics Vol. 90(4) 1864(2001) Appl.Phys.Lett. 84 5210(2004) Appl.Phys.Lett. 77 52(2000) Phys.Rev. B61 2475(2000) Journal of American Chemical Society, xxxx, xxx, 000-000
本発明が解決しようとする課題は、充填スクッテルダイト(RxCo4Sb12)系化合物からなる新規なn型熱電材料を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、充填スクッテルダイト(RxCo4Sb12)系化合物からなるn型熱電材料において、充填元素Rの種類及び量、並びに、Fe置換量を最適化し、これによって高性能な熱電材料を実現することにある。
上記課題を解決するために本発明に係るn型熱電材料の1番目は、以下の構成を備えている。
(1)前記n型熱電材料は、次の(1)式で表される組成を有する。
(Aabct)Co4-yFeySb12 ・・・(1)
但し、
0<a≦0.5、0≦b≦0.7、0<c≦0.5、0≦t≦0.1、
a+b+c+t=x、0.4≦x≦1.0、0≦y≦0.4、a+b>0、
前記元素A(充填元素A)は、Ca、Sr、及びBaからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
前記元素B(充填元素B)は、Y、Sc、La、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Ho、Er、Tm、及び、Ybからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
前記元素C(充填元素C)は、Al、Ga、及びInからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素
前記元素D(充填元素D)は、Zn及び/又はTi。
(2)前記Aabct(=Rx)は、次の(2)式を満たす。
x=[BadA'1-d]a[YbeB'1-e]b[InfC'1-f]ct ・・・(2)
但し、0<d≦1、0≦e≦1、0<f≦1、ad+be>0。
前記元素A'は、Ba以外の前記充填元素A、
前記元素B'は、Yb以外の前記充填元素B、
前記元素C'は、In以外の前記充填元素C。
(3)前記n型熱電材料は、合計5種類以上10種類以下の前記充填元素A〜前記充填元素Dを含む。
本発明に係るn型熱電材料の2番目は、以下の構成を備えている。
(1)前記n型熱電材料は、次の(1’)式で表される組成を有する。
(Aabct)Co4-yFeySb12 ・・・(1’)
但し、
0.1≦a≦0.3、0.1≦b≦0.6、0.1≦c≦0.4、0≦t≦0.1、
a+b+c+t=x、0.5≦x≦1.0、0≦y≦0.4、
前記元素A(充填元素A)は、Ca、Sr、及びBaからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
前記元素B(充填元素B)は、Y、Sc、La、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Ho、Er、Tm、及び、Ybからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
前記元素C(充填元素C)は、Al、Ga、及びInからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
前記元素D(充填元素D)は、Zn及び/又はTi。
(2)前記Aabct(=Rx)は、次の(2’)式を満たす。
x=[BadA'1-d]a[YbeB'1-e]b[InfGagAl1-f-g]ct ・・・(2’)
但し、
0.1≦ad≦0.2、0.1≦be≦0.3、
0<f<1、0≦cg≦0.15、f+g≦1、
前記元素A'は、Ba以外の前記充填元素A、
前記元素B'は、Yb以外の前記充填元素B。
(3)前記n型熱電材料は、合計6種類以上10種類以下の前記充填元素A〜前記充填元素Dを含む。
スクッテルダイト系化合物への充填元素Rの導入は、電気伝導度σの向上と熱伝導度κの低減に効果を及ぼすが、充填元素Rの種類により効果を及ぼす度合いは異なる。そのため、効果の異なる充填元素Rを複数組み合わせて添加すると同時に、Coサイトの一部をホールドーパントであるFeで置換すると、キャリア濃度が最適化され、かつ、熱伝導度κが低減する。その結果、熱電特性が向上する。
xCo4-yFeySb12の熱伝導度κに及ぼす充填元素量xの影響を示す図である。 xCo4-yFeySb12の無次元性能指数ZTに及ぼす充填元素量xの影響を示す図である。 xCo4-yFeySb12の無次元性能指数ZTに及ぼす充填元素数の影響を示す図である。 xCo4-yFeySb12の無次元性能指数ZTに及ぼす充填元素量xの影響を示す図である。
00.1Co4Sb12(R0=Ba0.1La0.05Yb0.05In0.1)の熱伝導度κ、出力因子PF、及び無次元性能指数ZTに及ぼす充填元素Xのイオン半径の影響を示す図である。 xCo4-yFeySb12の出力因子PFに及ぼす充填元素量x及びFe置換量yの影響を示す図である。 xCo4-yFeySb12の熱伝導度κに及ぼす充填元素量x及びFe置換量yの影響を示す図である。 xCo4-yFeySb12の無次元性能指数ZTに及ぼす充填元素量x及びFe置換量yの影響を示す図である。 xCo4-yFeySb12の組成と、出力因子PFとの関係を示す図である。 xCo4-yFeySb12の組成と、熱伝導度κとの関係を示す図である。 xCo4-yFeySb12の組成と、無次元性能指数ZTとの関係を示す図である。
以下に本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. n型熱電材料(1)]
本発明の第1の実施の形態に係るn型熱電材料は、以下の構成を備えている。
(1)前記n型熱電材料は、次の(1)式で表される組成を有する(条件(1))。
(Aabct)Co4-yFeySb12 ・・・(1)
但し、
0≦a≦0.5、0≦b≦0.7、0<c≦0.5、0≦t≦0.1、
a+b+c+t=x、0.4≦x≦1.0、0≦y≦0.5、a+b>0、
前記元素A(充填元素A)は、Mg、Ca、Sr、及びBaからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
前記元素B(充填元素B)は、Y、Sc、及びLa〜Luからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
前記元素C(充填元素C)は、Al、Ga、及びInからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
前記元素D(充填元素D)は、Zn及び/又はTi。
(2)前記Aabct(=Rx)は、次の(2)式を満たす(条件(2))。
x=[BadA'1-d]a[YbeB'1-e]b[InfC'1-f]ct ・・・(2)
但し、0<d≦1、0≦e≦1、0<f≦1、ad+be>0。
前記元素A'は、Ba以外の前記充填元素A、
前記元素B'は、Yb以外の前記充填元素B、
前記元素C'は、In以外の前記充填元素C。
(3)前記n型熱電材料は、合計5種類以上の前記充填元素A〜前記充填元素Dを含む(条件(3))。
[1.1. 充填スクッテルダイト]
本発明に係るn型熱電材料は、充填スクッテルダイト系化合物(RxCo4-yFeySb12)を主成分とする。充填元素Rは、CoとSbが作る籠の中に充填されている。充填元素Rは、電子ドーパントであり、電気伝導度σの向上と熱伝導度κの低減に効果を及ぼすが、元素の種類により効果を及ぼす度合いは異なる。一方、Coサイトを置換するFeは、ホールドーパントである。そのため、効果の異なる充填元素Rを複数組み合わせると同時に、Coサイトの一部をFeで置換すると、キャリア濃度が最適化され、かつ、熱伝導度κが低減する。その結果、熱電特性が向上する。
[1.2. 充填元素]
[1.2.1. 充填元素の種類]
本実施の形態において、充填元素Rは、
(1)アルカリ土類金属元素(Mg、Ca、Sr、及びBa)からなる充填元素A、
(2)希土類元素(Y、Sc、及びLa〜Lu)からなる充填元素B、
(3)IIIB族元素(Al、Ga、及びIn)からなる充填元素C、並びに、
(4)Fe及び希土類元素以外の遷移金属元素(Zn及びTi)からなる充填元素D
で構成される。
n型熱電材料は、1種類の充填元素Aを含むものでも良く、あるいは、2種以上の充填元素Aを含むものでも良い。この点は、充填元素B、C、Dも同様である。
本実施の形態において、n型熱電材料は、合計5種類以上の充填元素A〜Dを含む。n型熱電材料は、合計5種類以上の充填元素A〜Cを含むものが好ましい。一般に、充填元素Rの種類が多くなるほど、高い熱電特性が得られる。充填元素Rの種類は、さらに好ましくは、6種類以上、さらに好ましくは、7種類以上である。
また、本実施の形態において、n型熱電材料は、充填元素Rとして、少なくともBa及びInを含むものが好ましい。さらに、n型熱電材料は、充填元素Rとして、少なくともBa、Yb及びInを含むものが好ましい。これらの場合において、残りの充填元素Rは、目的に応じて最適な元素を選択することができる。
[1.2.2. 充填元素の量]
(1)式において、「a」は、充填元素Aの量(原子割合)を表す。本実施の形態において、充填元素Aは必須元素でない。すなわち、a≧0であれば良い。一般に、充填元素Aの量が多くなるほど、高い熱電特性が得られる。特に、元素Aは、電気伝導度σの向上に寄与する。ある範囲内では、元素Aの量が多くなるほど、電気伝導度σは高くなる。その結果、出力因子PF、及びZTが向上する。aは、好ましくは、a≧0.1である。
一方、充填元素Aの量が過剰になると、出力因子PFの増大と、熱伝導度κの低減とを同時に達成するのが困難となる。特に、電気伝導度σが高くなりすぎるため、熱伝導度κのキャリア成分が増大し、ZTが低下する。従って、a≦0.5である必要がある。aは、好ましくは、a≦0.4である。
(1)式において、「b」は、充填元素Bの量(原子割合)を表す。本実施の形態において、充填元素Bは必須元素でない。すなわち、b≧0であれば良い。一般に、充填元素Bの量が多くなるほど、高い熱電特性が得られる。特に、元素Bは、適度に電気伝導度σを向上させ、かつ、熱伝導度κを低下させる効果がある。bは、好ましくは、b≧0.1、さらに好ましくは、b≧0.2である。
一方、充填元素Bの量が過剰になると、出力因子PFの増大と、熱伝導度κの低減とを同時に達成するのが困難となる。従って、b≦0.7である必要がある。bは、好ましくは、b≦0.6である。
(1)式において、「a+b>0」は、少なくとも元素A又は元素Bのいずれか一方が含まれていることを表す。元素Cに加えて、元素A又は元素Bが含まれていると、高い熱電特性が得られる。
(1)式において、「c」は、充填元素Cの量(原子割合)を表す。本実施の形態において、Inは必須元素である。従って、c>0である必要がある。一般に、充填元素Cの量が多くなるほど、高い熱電特性が得られる。特に、元素Cは、熱伝導度κの低下に寄与する。元素Cの量が多くなるに従い、主に熱伝導度κが低下するため、ZTが増大する。cは、好ましくは、c≧0.1、さらに好ましくは、c≧0.2である。
一方、充填元素Cの量が過剰になると、出力因子PFの増大と、熱伝導度κの低減とを同時に達成するのが困難となる。特に、電気伝導度σが低下するため、ZTが低下する。従って、c≦0.5である必要がある。cは、好ましくは、c≦0.4である。
(1)式において、「t」は、充填元素Dの量(原子割合)を表す。本実施の形態において、充填元素Dは、必須元素ではない。すなわち、t≧0であれば良い。ある種の遷移金属元素は、希土類元素とほぼ同等の効果を持つ。
一方、充填元素Dの量が過剰になると、出力因子PFの増大と、熱伝導度κの低減とを同時に達成するのが困難となる。従って、t≦0.1である必要がある。
(1)式において、「x」は、充填元素Rの量(原子割合)、すなわち、充填元素A〜Dの総量を表す。充填元素Rの量が多くなるほど、高い熱電特性が得られる。特に、xの値が増大するに従い、電気伝導度σが増大し、格子熱伝導度κphが低下する傾向がある。このような効果を得るためには、x≧0.4である必要がある。xは、好ましくは、x≧0.5である。
一方、充填元素Rの充填量には限界があり、充填元素Rの量が限界を超えると、充填元素Rが異相として析出する。従って、x≦1.0である必要がある。また、xが大きくなりすぎると、熱伝導度κのキャリア成分が増大する。そのため、xの増加に伴いZT値が増大し、あるxの値(0.7〜0.8付近)で極大となる。
(1)式において、「y」は、Coサイトを置換するFeの量(原子割合)を表す。充填元素A〜Dの種類及び量によっては、適量の電子がドープされるので、Feは、必ずしも必要ではない。すなわち、y≧0であれば良い。
一方、Fe置換量が過剰になると、ホールが過剰となる。そのため、n型熱電材料では、かえって熱電特性が低下する。従って、y≦0.5である必要がある。yは、好ましくは、y≦0.4である。
(2)式において、「d」は、充填元素Aに占めるBaの量(原子割合)を表す。本実施の形態において、充填元素Aを含む時には、Baは必須元素である。従って、d>0である必要がある。
一方、n型熱電材料は、充填元素Aとして、Baのみを含むものでも良く、あるいは、Baに加えてBa以外のアルカリ土類金属元素を含むものでも良い。すなわち、d≦1であれば良い。
(2)式において、「e」は、充填元素Bに占めるYbの量(原子割合)を表す。Ybは、熱電特性を向上させる作用が大きい元素であるが、本実施の形態において、Ybは、必須元素ではない。すなわち、e≧0であれば良い。
一方、n型熱電材料は、充填元素Bとして、Ybのみを含むものでも良く、あるいは、Ybに加えて又はこれに代えて、Yb以外の希土類元素を含むものでも良い。すなわち、e≦1であれば良い。
(2)式において、「ad+be>0」は、少なくともBa又はYbのいずれか一方が含まれていることを表す。元素Cに加えて、Ba又はYbが含まれていると、高い熱電特性が得られる。
(2)式において、「f」は、充填元素Cに占めるInの量(原子割合)を表す。本実施の形態において、Inは必須元素である。従って、f>0である必要がある。
一方、n型熱電材料は、充填元素Cとして、Inのみを含むものでも良く、あるいは、Inに加えてIn以外のIIIB族元素を含むものでも良い。すなわち、f≦1であれば良い。
[1.3. 好適な組成]
上述した条件(1)〜(3)を満たすn型熱電材料において、充填元素Rの種類及び量を最適化すると、熱電特性がさらに向上する。n型熱電材料は、具体的には、以下のような組成が好ましい。
[1.3.1. 組成物(1.1)]
n型熱電材料は、上述した条件(1)〜(3)に加えて、前記元素A、前記元素B、及び前記元素Cからなる群から選ばれる2種以上の充填元素を含むもの(組成物(1.1))が好ましい。組成物(1.1)は、特に、充填元素Rとして、アルカリ土類金属元素、希土類元素、及びIIIB族元素を含むものが好ましい。
組成物(1.1)は、以下のような利点がある。
すなわち、上述のように、元素Aは主に電気伝導度σの増大に、元素Cは主に熱伝導度κの低減に寄与する。従って、どちらかの元素に偏りがあると、熱電特性が低下する場合がある。一方、これらの元素の一部を元素Bで置換すると、電気伝導度σと熱伝導度κのバランスが変化し、熱電特性が向上する場合がある。
例えば、元素Cと元素Aのみを含む組成(後述する試料No.150、168など)では、熱伝導度κは低いが、電気伝導度σが低いため、出力因子PFが低く、ZT値も低い。一方、元素Cの一部をYbで置換した組成(試料No.151、169など)では、熱伝導度κは増大するが、出力因子PFが向上するため、ZT値は向上している。
また、逆に、元素Aの一部をYbで置換した場合(試料No.168→No.151)には、出力因子PFは低下するものの、熱伝導度κが低下するため、ZT値は向上する。
[1.3.2. 組成物(1.2)]
n型熱電材料は、上述した条件(1)〜(3)に加えて、0<b≦0.6、及び0.1≦be≦0.5をさらに満たすもの(組成物(1.2))が好ましい。「be」は、Ybの量(原子比率)を表す。すなわち、組成物(1.2)は、充填元素Rとして、少なくとも、Ybと、Inとを含む。組成物(1.2)は、充填元素Rとして、Sc、Y、La、Pr、Sm、Eu、Gd、Ho、Er、及びTmからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素をさらに含むものが好ましい。
組成物(1.2)は、以下のような利点がある。
(1)be≧0.1である組成物(1.2)は、Ybを含まない組成物に比べて、ZT値が高くなる場合がある。例えば、試料No.150は、IIIB族元素を多く含むため熱伝導度が低いが、電気伝導度も低いためZT値も低い。このIIIB族元素の一部をアルカリ土類元素で置換した試料No.168では、電気伝導度が向上しZT値が改善されるが、熱伝導度も増加する。IIIB族元素の一部をYbで置換した場合にも、熱伝導度は増大する(試料No.151)が、その値は試料No.168と比べて小さい。そのため、Ybを含まない場合(試料No.150、168)に比べて、Ybを含む場合(試料No.151)には、より高いZT値が得られる場合がある。これは、Ybは、電子ドーパントとして電気伝導度を改善するとともに、イオン半径が小さく、かつ、重い元素であるため、ラトリングによる熱伝導度κの低減効果が大きくなるためである。
(2)充填元素RとしてYbのみを含む組成では、ZT値は1.2を超えておらず、be=0.5近傍でのZT=1.19が最大である(試料No.35、53、105、198など)。また、b>0.6の組成においては、Yb以外の希土類元素を導入しても、ZTが1.2を超える組成は見出されなかった。
一方、希土類元素以外の元素を含む組成(例えば、x=0.7の組成では、試料No.110〜188など)では、0<b≦0.6の範囲で、ZT値が1.2を超える場合があった。b=0.6の組成では、a=0、かつc=0.1の時に、ZT値が1.2を超える場合があることがわかった(試料No.104)。さらに、0<b<0.6の組成では、Yb、Yb以外の充填元素B’及びInを含み、かつ、充填元素数が6以上の時に、試料No.148(a=0.1、かつc=0.1の場合)を除いて、ZT値が1.2を超えることがわかった。
[1.3.3. 組成物(1.3)]
n型熱電材料は、上述した条件(1)〜(3)に加えて、
b=0、a>0、c>0、ad>0、及びcf>0をさらに満たし、
前記元素A'は、Ca及び/又はSrを含み、
前記元素C'は、Al及び/又はGaを含む
もの(組成物(1.3))が好ましい。
組成物(1.3)は、充填元素Rとして、少なくともBa及びInを含むが、希土類元素を含まない。
2種以上のアルカリ土類金属元素を含む場合(d<1)、組成物(1.3)は、充填元素Rとして、Ca及び/又はSrをさらに含む。
2種以上のIIIB族元素を含む場合(e<1)、組成物(1.3)は、充填元素Rとして、Al及び/又はGaをさらに含む。
組成物(1.3)は、以下のような利点がある。
すなわち、アルカリ土類金属元素のドーピングにより、電気伝導度σが増大するとともに、IIIB族元素のドーピングにより熱伝導度κが低下する。そのため、最適組成では、ZT値が1.2以上となる(試料No.168など)。
[1.3.4. 組成物(1.4)]
n型熱電材料は、上述した条件(1)〜(3)に加えて、0.2≦b≦0.3、及びe>0をさらに満たし、前記元素B'として1種以上の元素を含むもの(組成物(1.4))が好ましい。すなわち、組成物(1.4)は、充填元素Rとして、少なくとも、Ybと、1種以上の元素B'と、Inとを含む。
組成物(1.4)は、以下のような利点がある。
(1)組成物(1.4)は、ZT値が1.2を超えるものが多い(例えば、試料No.73〜77参照)。
(2)組成物(1.4)は、ZT値が1.3を超えるものが多い(例えば、試料No.78、79、114、118、119、127、131、132、138、139、141、146参照)。
[1.3.5. 組成物(1.5)]
n型熱電材料は、上述した条件(1)〜(3)に加えて、0.3<b≦0.6、及びe>0をさらに満たし、前記元素B'として2種以上の元素を含むもの(組成物(1.5))が好ましい。すなわち、組成物(1.5)は、充填元素Rとして、少なくとも、Ybと、2種以上の元素B'と、Inとを含む。
組成物(1.5)は、以下のような利点がある。
すなわち、組成物(1.5)は、相対的に高いZT値を有し、ZT値が1.3を超えるものも多い(例えば、試料No.189〜192、196〜197、203、205参照)。
[1.3.6. 組成物(1.6)]
n型熱電材料は、上述した条件(1)〜(3)に加えて、0<a≦0.4をさらに満たすもの(組成物(1.6))が好ましい。すなわち、組成物(1.6)は、充填元素Rとして、少なくとも、Ba及びInを含む。
組成物(1.6)は、以下のような利点がある。
すなわち、試料No.39(1873S/cm)→No.60(1960S/cm)→No.80(2230S/cm)のように、アルカリ土類金属元素の増加に伴い、電気伝導度σは増加する。但し、これらはInを含まず、0.4≦aであるので性能が低い。また、Inを含む場合でも、0.4<aの場合にはZT値は1.2に達していない(例えば、試料No.181など)。これに対して、元素Aの一部を他の元素種で置換してa≦0.4とした組成では、ZT値は1.2を超えている(例えば、試料No.178、あるいは、試料No.180→No.171など)。
[1.3.7. 組成物(1.7)]
n型熱電材料は、上述した条件(1)〜(3)に加えて、
0.3≦a<0.4、及び0.1≦ad≦0.2をさらに満たし、
前記A'としてCa及びSrを含む
もの(組成物(1.7))が好ましい。「ad」は、Baの量(原子比率)を表す。
すなわち、組成物(1.7)は、充填元素Rとして、少なくとも、Baと、Caと、Srと、Inとを含む。
組成物(1.7)は、以下のような利点がある。
すなわち、組成物(1.7)は、相対的に高いZT値を有し、ZT値が1.3に近い、あるいは1.3を超えるものも多い(例えば、試料No.171、204〜207参照)。
[1.3.8. 組成物(1.8)]
n型熱電材料は、上述した条件(1)〜(3)に加えて、a=0.4、b>0、c>0、及び0.1≦ad≦0.2をさらに満たし、前記元素A'としてCa及びSrを含むもの(組成物(1.8))が好ましい。すなわち、組成物(1.8)は、充填元素Rとして、少なくとも、Baと、Caと、Srと、希土類元素と、Inとを含む。
組成物(1.8)は、以下のような利点がある。
すなわち、組成物(1.8)は、ZT値が1.2以上の比較的高い熱電特性が得られる(例えば、試料No.178)。
[1.3.9. 組成物(1.9)]
n型熱電材料は、上述した条件(1)〜(3)に加えて、0.1≦c≦0.4をさらに満たすもの(組成物(1.9))が好ましい。すなわち、組成物(1.9)は、充填元素Rとして、少なくともInを含む。
組成物(1.9)は、以下のような利点がある。
すなわち、試料No.100→No.99→No.98のように、cの増加に伴い熱伝導度κは低下する。但し、0.4<cの組成範囲では、電気伝導度σが不十分なためZT値は1.2に達しない。これに対して、0.1≦c≦0.4の組成範囲にある試料(例えば、試料No.101〜104)では、いずれもZT値が1.2を超えている。
[1.3.10. 組成物(1.10)]
n型熱電材料は、上述した条件(1)〜(3)に加えて、
0.2≦c≦0.4をさらに満たし、
C=InfGagAl1-f-gであり、
0<cg≦0.2、及び0≦(1−f−g)c≦0.1を満たす
もの(組成物(1.10))が好ましい。「cg」は、Gaの量(原子比率)を表す。「(1−f−g)c」は、Alの量(原子比率)を表す。すなわち、組成物(1.10)は、充填元素Rとして、少なくとも、Inと、Gaとを含む。
組成物(1.10)は、以下のような利点がある。
すなわち、組成物(1.10)は、組成物(1.9)と比べて電気伝導度σを大幅に損なうことなく熱伝導度κを低くすることができる。そのため、そのZT値が1.3を超えるものも多い(例えば、試料No.189〜192、196〜197、203、205参照)。
[1.4. 無次元性能指数(ZT)]
上述したように、充填元素Rの種類及び量を最適化すると、n型熱電材料の無次元性能指数(ZT)が向上する。ZTは、温度の関数であり、最大のZTが得られる温度が存在する。充填元素Rの種類及び量を最適化すると、823KでのZT値は、1.3以上となる。
[2. n型熱電材料(2)]
本発明の第2の実施の形態に係るn型熱電材料は、以下の構成を備えている。
(1)前記n型熱電材料は、次の(1’)式で表される組成を有する(条件(1'))。
(Aabct)Co4-yFeySb12 ・・・(1’)
但し、
0.1≦a≦0.3、0.1≦b≦0.6、0.1≦c≦0.4、0≦t≦0.1、
a+b+c+t=x、0.5≦x≦1.0、0≦y≦0.4、
前記元素A(充填元素A)は、Ca、Sr、及びBaからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
前記元素B(充填元素B)は、Y、Sc、及びLa〜Luからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
前記元素C(充填元素C)は、Al、Ga、及びInからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
前記元素D(充填元素D)は、Zn及び/又はTi。
(2)前記Aabct(=Rx)は、次の(2’)式を満たす(条件(2'))。
x=[BadA'1-d]a[YbeB'1-e]b[InfGagAl1-f-g]ct ・・・(2’)
但し、
0.1≦ad≦0.2、0.1≦be≦0.3、
0<f<1、0≦cg≦0.15、f+g≦1、
前記元素A'は、Ba以外の前記充填元素A、
前記元素B'は、Yb以外の前記充填元素B。
(3)前記n型熱電材料は、合計6種類以上の前記充填元素A〜前記充填元素Dを含む(条件(3’))。
[2.1. 充填スクッテルダイト]
充填スクッテルダイト系化合物の詳細については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
[2.2. 充填元素]
[2.2.1. 充填元素の種類]
本実施の形態において、充填元素Rは、
(1)Mg以外のアルカリ土類金属元素(Ca、Sr、及びBa)からなる充填元素A、
(2)希土類元素(Y、Sc、及びLa〜Lu)からなる充填元素B、
(3)IIIB族元素(Al、Ga、及びIn)からなる充填元素C、並びに、
(4)Fe及び希土類元素以外の遷移金属元素(Zn及びTi)からなる充填元素D
で構成される。
本実施の形態において、n型熱電材料は、合計6種類以上の充填元素A〜Dを含む。一般に、充填元素Rの種類が多くなるほど、高い熱電特性が得られる。充填元素Rの種類は、さらに好ましくは、7種類以上、さらに好ましくは、8種類以上である。
また、本実施の形態において、n型熱電材料は、充填元素Rとして、少なくとも、2種以上のアルカリ土類金属元素(Ba、A')、2種以上の希土類元素(Yb、B')、及び2種以上のIIIB族元素(In、(Ga、Al))を含むものが好ましい。これらの場合において、Ba、Yb及びIn以外の充填元素Rは、目的に応じて最適な元素を選択することができる。
[2.2.2. 充填元素の量]
(1')式において、「a」は、充填元素Aの量(原子割合)を表す。充填元素Aの量が多くなるほど、高い熱電特性が得られる。特に、元素Aは、電気伝導度σの向上に寄与する。ある範囲内では、元素Aの量が多くなるほど、電気伝導度σは高くなる。その結果、出力因子PF、及びZTが向上する。このような効果を得るためには、a≧0.1が好ましい。
一方、充填元素Aの量が過剰になると、出力因子PFの増大と、熱伝導度κの低減とを同時に達成するのが困難となる。特に、電気伝導度σが高くなりすぎるため、熱伝導度κのキャリア成分が増大し、ZTが低下する。従って、a≦0.3が好ましい。aは、好ましくは、a≦0.2である。
(1')式において、「b」は、充填元素Bの量(原子割合)を表す。充填元素Bの量が多くなるほど、高い熱電特性が得られる。特に、元素Bは、適度に電気伝導度σを向上させ、かつ、熱伝導度κを低下させる効果がある。このような効果を得るためには、b≧0.1が好ましい。bは、さらに好ましくは、b≧0.2である。
一方、充填元素Bの量が過剰になると、出力因子PFの増大と、熱伝導度κの低減とを同時に達成するのが困難となる。従って、b≦0.6が好ましい。bは、好ましくは、b≦0.5である。
(1')式において、「c」は、充填元素Cの量(原子割合)を表す。充填元素Cが多くなるほど、高い熱電特性が得られる。特に、元素Cは、熱伝導度κの低下に寄与する。元素Cの量が多くなるに従い、主に熱伝導度κが低下するため、ZTが増大する。このような効果を得るためには、c≧0.1が好ましい。cは、好ましくは、c≧0.2である。
一方、充填元素Cの量が過剰になると、出力因子PFの増大と、熱伝導度κの低減とを同時に達成するのが困難となる。特に、電気伝導度σが低下するため、ZTが低下する。従って、c≦0.4が好ましい。
(1')式において、「t」は、充填元素Dの量(原子割合)を表す。tの詳細は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
(1')式において、「x」は、充填元素Rの量(原子割合)、すなわち、充填元素A〜Dの総量を表す。充填元素Rの量が多くなるほど、高い熱電特性が得られる。特に、xの値が増大するに従い、電気伝導度σが増大し、格子熱伝導度κphが低下する傾向がある。このような効果を得るためには、x≧0.5が好ましい。
一方、充填元素Rの充填量には限界があり、充填元素Rの量が限界を超えると、充填元素Rが異相として析出する。従って、x≦1.0である必要がある。また、xが大きくなりすぎると、熱伝導度κのキャリア成分が増大する。そのため、xの増加に伴いZT値が増大し、あるxの値(0.7〜0.8付近)で極大となる。
(1')式において、「y」は、Coサイトを置換するFeの量(原子割合)を表す。充填元素A〜Dの組み合わせ及び量によっては、適量の電子がドープされるので、Feは、必ずしも必要ではない。すなわち、y≧0であれば良い。yは、好ましくは、y>0.1である。
一方、Fe置換量が過剰になると、電子キャリアが少なくなりすぎる。そのため、n型熱電材料では、かえって熱電特性が低下する。従って、y≦0.4が好ましい。yは、好ましくは、y≦0.35、さらに好ましくは、y<0.3である。
(2')式において、「ad」は、Baの量(原子割合)を表す。Baの量が多くなるほど、高い熱電特性が得られる。このような効果を得るためには、ad≧0.1が好ましい。
一方、Baの量が過剰になると、出力因子PFの増大と、熱伝導度κの低減とを同時に達成するのが困難となる。従って、ad≦0.2が好ましい。
(2')式において、「be」は、Ybの量(原子割合)を表す。一般に、充填元素のイオン半径が小さく、重い元素ほどラトリングによる熱伝導度κの低減効果は大きくなる。Ybは、希土類元素の中でも、Luに次いで、イオン半径が小さく、かつ重い元素である。そのため、Ybの量が多くなるほど、熱伝導度κの低減効果は大きくなる。このような効果を得るためには、be≧0.1が好ましい。
一方、Ybの量が過剰になると、出力因子PFの増大と、熱伝導度κの低減とを同時に達成するのが困難となる。特に、Ybの固溶限界を超えると、Ybが析出し、十分なラトリング効果が得られない。従って、be≦0.3が好ましい。
(2')式において、「f」は、充填元素Cに占めるInの量(原子割合)を表す。本実施の形態において、Inは必須元素である。従って、f>0である必要がある。
また、本実施の形態において、n型熱電材料は、充填元素Cとして、In以外のIIIB族元素(Ga、Al)を含む。すなわち、f<1である必要がある。
(2')式において、「cg」は、Gaの量(原子割合)を表す。Gaは、熱電特性を向上させる作用が大きい元素あるが、本実施の形態において、Gaは、必須元素ではない。すなわち、cg≧0であれば良い。熱伝導度κの低減効果は、Al>Ga>Inの順に小さくなる。従って、Inの一部をGa(及び/又は、Al)で置換すると、熱伝導度κが低下し、ZT値が向上する場合がある。
一方、Gaの量が過剰になると、出力因子PFの増大と、熱伝導度κの低減とを同時に達成するのが困難となる。特に、その固溶度は、Al<Ga<Inの順に増加するので、Ga(及び/又は、Al)の量が過剰になると、Ga(及び/又は、Al)が析出し、かえってZT値が低下する。従って、cg≦0.15が好ましい。
(2')式において、「f+g」は、InとGaの量(原子割合)の和を表し、Alの量(原子割合)と相関がある。本発明に係るn型熱電材料は、充填元素Cとして、In及びGaのみを含むものでも良く、あるいは、Gaに加えて又はGaに代えて、Alを含むものでも良い。すなわち、f+g≦1であれば良い。
上述したように、Alは、熱伝導度κの低減に寄与する。しかし、Alの量が過剰になると、かえってZT値が低下する。従って、f+g≧0.66が好ましい。
[2.3. 好適な組成]
上述した条件(1')〜(3')を満たすn型熱電材料において、充填元素Rの種類及び量を最適化すると、熱電特性がさらに向上する。n型熱電材料は、具体的には、以下のような組成が好ましい。
[2.3.1. 組成物(2.1)]
n型熱電材料は、上述した条件(1')〜(3')に加えて、
0.7≦x<0.9、及び0≦y≦0.35をさらに満たす
もの(組成物(2.1))が好ましい。特に、組成物(2.1)は、合計6種類以上の充填元素A〜Cを含むものが好ましい。
yは、さらに好ましくは、0<y≦0.35である。0<yとすることで、熱伝導度を調整できるため、よりZT値が向上する可能性がある。
組成物(2.1)は、以下のような利点がある。
すなわち、組成物(2.1)は、相対的に高いZT値を有し、そのZT値が1.3を超えるものも多い。さらに、この中でも、最適な組成では、後述するようにZT値が1.4を超える場合もある(例えば、試料No.131〜132、189、191〜192、203参照)。
[2.3.2. 組成物(2.2)]
n型熱電材料は、上述した条件(1')〜(3')に加えて、
0.9≦x、及び0≦y≦0.4をさらに満たし、
前記充填元素A〜前記充填元素Dとして合計7種類以上の元素を含む
もの(組成物(2.2))が好ましい。特に、組成物(2.2)は、合計7種類以上の充填元素A〜Cを含むものが好ましい。
yは、さらに好ましくは、0<y≦0.4、さらに好ましくは、0.1<y<0.3である。0<yとすることで、熱伝導度を調整できるため、よりZT値が向上する可能性がある。
組成物(2.2)は、以下のような利点がある。
すなわち、組成物(2.2)は、相対的に高いZT値を有し、そのZT値が1.3を超えるものも多い(例えば、試料No.203、205参照)。
[2.3.3. 組成物(2.3)]
n型熱電材料は、上述した条件(1')〜(3')に加えて、
0.1≦a≦0.2、0.2≦b≦0.5、及び0.2≦c≦0.4をさらに満たし、
前記充填元素A〜前記充填元素Dとして、少なくともBa、Yb、Eu、La、In、及びGaを含み、必要に応じてさらにAlを含む
もの(組成物2.3)が好ましい。
組成物(2.3)は、以下のような利点がある。
(1)組成物(2.3)は、相対的に高いZT値を有し、そのZT値が1.3を超えるものも多い(例えば、試料No.131、132参照)。
(2)Inの一部をAlで置換することで、出力因子PFを損なわずに、熱伝導度κがより低下する。そのため、Al無しの場合(元素数6の場合)と比べて、ZT値が改善される(例えば、試料No.123→131)。また、Euを含むことで、高い電気伝導度σが得られる。そのため、Euを含まない場合と比べて、出力因子PFが向上し、ZT値がより向上する(例えば、試料No.140→131)。これらの効果により、後述する表中で最大のZT値=1.46が得られる。
[2.4. 無次元性能指数(ZT)]
無次元性能指数の詳細については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
[3. n型熱電材料の製造方法]
本発明に係るn型熱電材料は、
(1)本発明に係るn型熱電材料が得られるように原料を配合し、
(2)配合された原料を溶解・鋳造し、
(3)得られた鋳塊(又は、鋳塊を粗粉砕した粉末)を粉砕して、粉末とし、
(4)得られた粉末を焼結させる
ことにより製造することができる。
[3.1. 原料配合工程]
まず、本発明に係るn型熱電材料が得られるように、原料を配合する(原料配合工程)。
原料は、純金属でも良く、あるいは、2種以上の元素を含む合金でも良い。原料の配合比は、目的とする組成を有するn型熱電材料が得られる配合比であれば良い。また、原料の配合は、原料の酸化を防ぐために、非酸化雰囲気下(例えば、Arなどの不活性ガス雰囲気下)で行うのが好ましい。
[3.2. 溶解・鋳造工程]
次に、配合された原料を溶解及び鋳造し、鋳塊を得る(溶解・鋳造工程)。
溶解及び鋳造は、原料の酸化を防ぐために、非酸化雰囲気下(例えば、真空中、Arなどの不活性ガス雰囲気下など)で行うのが好ましい。
溶解温度は、均一な溶湯が得られる温度であればよい。最適な溶解温度は、原料組成にもよるが、通常、1100℃〜1200℃である。
鋳造方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。
なお、多元素を含む鋳塊は、一般に偏析が起きやすい。そのため、鋳塊の状態で、又は、鋳塊を粗粉砕した後で、鋳塊又は粗粉末をアニール処理しても良い。
アニール条件は、成分を均一化できる条件であればよい。アニール温度は、原料組成にもよるが、通常、500℃〜800℃である。アニール時間は、原料組成やアニール温度にもよるが、通常、72時間〜168時間である。
[3.3. 粉砕工程]
次に、得られた鋳塊又は鋳塊を粗粉砕した粉末(アニール処理後の鋳塊又は粗粉末を含む)を粉砕し、粉末を得る(粉砕工程)。
粉砕は、原料の酸化を防ぐために、不活性雰囲気下(例えば、グローブボックス中)で行うことが望ましい。
粉砕方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。
[3.4. 焼結工程]
次に、得られた粉末を焼結させる(焼結工程)。
焼結方法及び焼結条件は、特に限定されるものではなく、原料組成に応じて最適な方法及び条件を選択することができる。
一般に、焼結温度が高くなるほど、短時間で緻密な焼結体が得られる。しかしながら、焼結温度が高くなりすぎると、結晶粒が粗大化しやすくなる。最適な焼結温度は、原料組成や焼結方法にもよるが、通常、500〜800℃程度である。
焼結時間は、焼結温度や焼結方法に応じて最適な時間を選択する。一般に、焼結温度が高くなるほど、短時間で緻密な焼結体を得ることができる。
[4. 作用]
一般に、熱電材料の変換効率は、無次元性能指数ZTと1対1の対応関係があり、ZTが大きいほど変換効率は大きくなる。ZTは、以下の式で表される。
ZT=[(σ×S2)/κ]×T=[PF/κ]×T
(σ:電気伝導度、S:ゼーベック係数、κ:熱伝導度、T:絶対温度)
この式より、ZTを向上させるには、σ及びS(又は、PF)を向上させるか、κを低減すればよいことがわかる。
Co4Sb12系材料では、空孔サイトに種々の充填元素Rをドーピングするとキャリア濃度が増加する。その結果、電気伝導度σが増加する。これと同時に、充填元素Rにより格子振動が共鳴的に散乱されるため、熱伝導度κが低減する。通常、この充填元素Rの固溶濃度は低く、高濃度にドーピングすると析出して、十分に性能向上を実現できない。
これに対し、複数の充填元素Rを組み合わせてドーピングすると、充填元素Rの析出が抑制され、ZTの向上が可能となる。また、充填元素Rは、空孔サイト内で振動するが、イオンサイズなどに依存して固有の振動数を有している。そのため、複数種類の充填元素Rを導入することで、より幅広い周波数帯の格子振動(フォノン)を散乱し、熱伝導度κを効果的に低減することができる。
上記効果のため、アルカリ土類金属元素、希土類元素、IIIB族元素などの種類の異なる元素を組み合わせ、かつ、ある組成範囲に限定して充填元素Rを導入すると、熱電特性が向上する。
また、充填元素Rの種類によって熱伝導度κの低減度合いは異なる。例えば、イオン半径の小さな充填元素Rを導入することで熱伝導度κをより低減することができる。さらに、充填元素Rの価数や固溶しやすさなどにより、出力因子PFに与える影響も元素種ごとに異なる。
そのため、熱伝導度κの低減に効果的な元素と、出力因子PFの改善に効果的な元素とを適切に組み合わせることで、ZT値を効果的に改善することができる。
さらに、充填元素Rは、電子ドーパントであるため、固溶量を増やすとキャリア濃度が増加する。しかしながら、CoサイトをホールドーパントのFeで置換することで、キャリア濃度が最適化される。その結果、PFが向上し、これによってZTがより向上する。
例えば、Co4Sb12系材料において、充填元素数を3種類に増やすことで、ZTを大幅に改善できることが知られている。しかしながら、非特許文献6を参考に、ZT=1.5程度の性能が報告されている組成を検討したが、充填元素量xが0.2程度の組成ではZT値を1以上にすることができなかった。
一方、我々の検討では、充填元素量xを多くするほど、格子熱伝導度κphが低下した。但し、充填元素量xが多くなると、キャリア濃度も高くなるため、キャリア熱伝導度κelが高くなった。この場合、Fe置換によりキャリア濃度を最適化することで、ZTをより高くすることができる。
特許文献4では、充填元素量xが0.6以上で、かつ、5種類の元素(Ca、Yb、Al、Ga、In)を含む系で高いZT値が報告されている。しかしながら、5種類より元素数を増やした場合のデータはない。
一方、我々が検討した結果、充填元素数を5種類より多くし、さらに充填元素Rの組み合わせを最適化することで、ZT値が改善されることがわかった。また、5種類の元素でも文献を超える性能を実現できる組み合わせ(例えば、Ba、Yb、Al、Ga、Inなど)が存在することも分かった。
[1. 実験(1)]
[1.1. 試料の作製]
まず、原料の酸化を防ぐため、Arなどの不活性ガスで置換したグローブボックス中で、組成が(Aabc)Co4-yFeySb12(x=a+b+c、t=0)となるように、原料を秤量した。原料には、アルカリ土類金属元素、希土類元素、IIIB族元素、Co、Fe、及びSbを用いた。なお、一部の試料には、Fe及び希土類元素以外の遷移金属元素D(Zr、Cu、Ti)をさらに加えた。
その原料を石英管に入れて、真空ポンプで10-3Pa以下に真空引きした。この状態で石英管の口を溶かして封管した。さらに、石英管を1100℃に加熱して原料を溶融させ、冷却してインゴットを得た。この時、原料と石英管の反応を抑制するため、石英管と原料の間にカーボン箔あるいはタングステン箔を挟んだ。
作製したインゴットをグローブボックス中で乳鉢を用いて粉砕・混合した。これを再度、石英管に封入し、固相拡散反応により組成の均一性を向上させるために、700℃で100時間以上焼成した。
作製した試料を不活性雰囲気中で手粉砕した。これを放電プラズマ焼結(SPS)装置で50MPa、500〜800℃で10分間加熱し、焼結体を得た。
[1.2. 試験方法]
焼結体を10×3×3mmのサイズに加工した。この棒状試料を用いて、100〜600℃の温度範囲で電気伝導度σ及びゼーベック係数Sを評価した。測定には、熱電特性評価装置(アルバック社、ZEM3)を用いた。
焼結体を直径12.5mm×厚さ1mmのサイズに加工した。この円板状焼結体を用いて、レーザーフラッシュ法により室温から600℃の温度範囲で熱伝導度κを評価した。
さらに、測定した電気伝導度σ、及び熱伝導度κの値から、Wiedemann-Frannの法則により格子熱伝導度κphを見積もった。
[1.3. 結果]
本発明の組成物:(Aabct)Co4-yFeySb12(x=a+b+c+t)の熱電特性は、充填元素Rの種類(A、B、C、Dの種類)、並びに、その量及び割合(a、b、c、t、及び、xの値)に依存して複雑に変化した。表1〜6に、本発明において実施した組成、並びに、これらに対応する室温での熱伝導度κ、及び823Kでの無次元性能指数ZTの一覧を示す。表中において、例えば、「1.1」は、その試料が上述した組成物(1.1)に属することを表す。また、No.49、No.124及びNo.157は、欠番である。以下では、これらの組成の中から特定の組成(特に断らない限り、t=0の組成)をピックアップし、本発明の内容を説明する。
Figure 0006314812
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[1.3.1. 充填元素の数]
一般に、n型充填スクッテルダイト系で高い性能が報告されているものの多くは、Fe置換量y=0、充填元素量x<0.3、かつ、充填元素Rが3種類、のトリプル充填スクッテルダイト系である。例えば、非特許文献6には、Ba、La、及びYbを含み、x=0.2、かつ、y=0の組成において、非常に高いZT値(ZT=1.65)が報告されている。
そこで、最初に非特許文献6と同一組成(充填元素量x=0.2、Fe置換量y=0、充填元素R=Ba0.1La0.05Yb0.05)の試料を作製した。しかし、ZT=0.9程度の性能しか達成できなかった(図2の比較例1(◎印)、表1の試料No.1参照)。
なお、図2中の数字は、試料番号を表す。図1、3、4も同様である。
非特許文献6のデータと我々のデータとを比較すると、我々の試料の方が、電気伝導度σが低く、熱伝導度κも高かった。電気伝導度σの向上、及び熱伝導度κの低減を達成するためには、充填元素量xの増加が有効であると考えられた。
しかしながら、非特許文献6に示されているように、スクッテルダイト系材料の空孔サイトを占有することのできる元素量には限界があり、結晶中に存在する空孔サイトのすべてを1種類の充填元素Rが占有できるわけではない。例えば、□xCo4Sb12(□は空孔サイトを表す)で表されるスクッテルダイトには、x=1.0で表される割合の空孔サイトが存在する。しかし、実際に1種類の充填元素Rが空孔サイトのすべてを占有できるわけではない。
そこで、充填元素Rの固溶限界を増やすために、複数種類の充填元素Rで空孔サイトを置換することが行われる。ただし、n型スクッテルダイト系において、報告されている充填元素Rの種類は、ほとんど3種類以下である。
我々は、xが増加しても充填元素Rがきちんと空孔サイトを占有するように、Ba、La、Yb、Inをベースにして、さらにEu、Al及びGaからなる群から選ばれる1種以上の元素を加えた4から7種類の元素を選択し、充填元素Rの総量xを調整した。
その結果、充填元素数の違いにより熱電特性が影響されるものの、xが増加するに伴い、電気伝導度σが向上し、ラトリング効果による熱伝導度κの低減量が増加し、ZT値が改善される傾向が見出された(図1及び図2のグループ1〜グループ7参照)。その結果、xの大きな組成において、むしろ比較例1(試料No.1)の組成と比べて高い性能を達成できることが明らかになった。
図1及び図2では、4元素系(グループ1)と比べて、充填元素数が増えるに従って、格子熱伝導度κphがより低下し、ZT値も向上する傾向が確認された。熱電特性改善のためには、充填元素数は、5種類以上が好ましく、より好ましくは6種類以上であることがわかった。この傾向は、xが大きくなると、特に顕著となった。
また、前述のように、一般に、充填元素Rの種類は3種類以下である場合が多いが、4種類以上の元素を置換した系に関して報告例がないわけではない。
例えば、特許文献4には、x=0.5、0.6、0.7、又は0.9であり、y=0.25であり、かつ、充填元素Rとして、Ca及びYbを含み、これにさらにAl、Ga、及び/又はInを加えた3元素系〜5元素系の材料が報告されている(図2中、破線で表示した比較例2)。比較例2でも、充填元素量xが増加するに従い、ZT値が高くなる傾向が確認できる。ただし、特許文献4には、どのような充填元素Rの組み合わせが性能改善に有効であるかは明示されていない。
さらに、特許文献3には、x=0.4、y=0.25であり、Ca及びYbを含む2元素系の組成が示されている(図2の比較例3参照)。
ただし、これらの比較例2〜3は、y=0.25に固定されており、Fe置換量yがどの範囲の時、ZT値が最大になるかも分からない。
我々は、x及びyの値、並びに充填元素Rの種類が熱電特性に及ぼす影響を詳細に検討した。その結果、充填元素量xが同一の条件で比較した時に、
(a)充填元素Rとして、少なくともBa、Yb及びInを含み、
(b)追加の元素をさらに加えて充填元素数を4以上(x<0.7の場合)又は5以上(0.7≦xの場合)とし、かつ、
(c)Fe置換量yを適切に調整した
組成の中に、比較例2〜3よりZT値が改善される組成のあることを見出した。
例えば、図2のx=0.4〜0.6の組成の場合、グループ1〜グループ3(y=0、4元素系〜6元素系)のZTは、いずれも比較例2及び3(y=0.25、2元素系〜4元素系)のZTより高い。
また、図2のグループ5〜7(y>0、7元素系)とグループ4(y=0、7元素系)とを比較すると、充填元素量xが同一であっても、y>0の組成は、y=0の組成と比べてZT値が改善されることもわかる。
x=0.7の組成に関しては、比較例2(y=0.25、5元素系)が報告されている。一方、グループ2(y=0、5元素系)のx=0.7の組成は、比較例2のx=0.7の組成より若干、ZTが高い程度である。
しかし、x=0.7である場合において、充填元素数を6種類以上に増やした時(グループ3、4)には、y=0の組成でも、ZT値が比較例2と比べてかなり改善されることがわかる。さらに、グループ6(y=0.25、7元素系)では、比較例2と比べて明らかにZT値が改善されており、充填元素数を増やすことの有効性が確認できる。
同様に、図3及び図4においても、充填元素数の増加に伴って、ZT値が向上する傾向が確認された。
また、グループ4(y=0、7元素系)のx=0.9の組成は、比較例2のx=0.9の組成と比べてZT値が低い。しかし、x=0.9の組成において、グループ5(y=0.2、7元素系)のようにCoサイトの一部をFeで置換すると、7元素系においても比較例2を超えるZT値が得られることがわかった。
なお、後述する図6〜図8からも、x=0.9、かつ、7元素系の組成において、y=0.2に向けてZT値が増加していることがわかる。表6の試料No.201〜203参照。
一般に、電気伝導度σ及びゼーベック係数Sの値は、キャリア濃度に依存し、熱伝導度κのキャリア成分もキャリア濃度の増加に伴って増加する。そのため、これらの値を独立に制御することは出来ず、ZT値が最大となる最適キャリア濃度が存在する。この系では、電子ドーパントである充填元素Rの量を増やすと、キャリア濃度が増加する。一方、Coサイトの一部をホールドーパントであるFeで置換すると、キャリア濃度が減少する。従って、x及びyの値を適切に調節することで、キャリア濃度を制御することができる。
図6〜図8は、キャリア濃度制御のためにFe置換量y及び充填元素量xを調整すると、出力因子PF、熱伝導度κ、及びZT値がどのように変化するかを示している。出力因子PFは、概ねxの増加に伴い増加し、yの増加に伴い低下する傾向が見られた。
熱伝導度κは、xが0.5以下の場合にはxの増加とともに低下し、xがそれより大きい場合にはxが増加してもほぼ一定の傾向が見られた。一方、熱伝導度κは、yの増加に伴い低下する傾向が見られた。
その結果、あるyの値において、出力因子PFの向上と熱伝導度κの低下が相殺され、ZT値は極大となる傾向が見られる。
ZT値が極大となるyの値は、xが増大するに従い、大きくなる傾向も確認された。例えば、x=0.6の組成では、y=0〜0.05付近でZT値が極大となっている。一方、x=0.7の組成では、y=0.2〜0.3付近でZT値が極大となっている。特に、x=0.7の組成では、y=0.25付近の組成でZT値が1.5近くまで向上することがわかった。図4に示したように、この組成範囲でも、充填元素数の増加に伴って、ZT値が改善される傾向が確認された。
[1.3.2. 充填元素の種類及び量]
以下では、充填元素Rの種類及び量が熱電特性にどのように影響を及ぼすかを、より詳細に検討した結果を示す。
[A. 単独族元素による置換]
最初に、アルカリ土類金属元素、希土類元素、又はIIIB族元素がそれぞれ単独で含まれる場合について説明する。
アルカリ土類金属元素の単独置換に関しては、表1〜6の試料No.39〜41、60〜62、80〜82、185〜187の各組成を比較検討した。
何れの組成においても、Ba、Ca、及びSrの3種類の元素を含む組成のZT値は、Baを単独で含む組成と比べて高い。
但し、これらの組成において、x>0.4としてもZT値は改善されなかった。すなわち、アルカリ土類金属元素の置換量aは、0.5以下、好ましくは0.4以下で十分であることが分かった。
希土類元素の単独置換に関しては、主に表1〜6の試料No.35〜38、53〜58、67〜72、105〜109、及び198〜200の各組成を比較検討した。
充填元素量x、及びFe置換量yが同じ場合、前述のアルカリ土類金属元素系と比べて、電気伝導度σは低いが、熱伝導度κも低くなるため、ZTがより高くなる傾向が見られた。また、Yb単独の場合と比べて、Eu置換は、電気伝導度σを増加させ、La置換は、熱伝導度κを低下させるなどの傾向が確認できる。
但し、x=0.5の組成では、Yb単独でも比較的高いZT値を示した。すなわち、希土類元素の単独置換において、複数種類の希土類元素置換によるZT値の改善効果は小さかった。
一方、x=0.8まで置換量を増やすと、Yb単独置換の組成のZT値は極端に低下したのに対し、2種以上の希土類元素で置換した組成はZT値が改善された。但し、x=0.8の場合には、複数元素を導入したとしてもZT値そのものが低い。
IIIB族元素の単独置換に関しては、試料No.9〜16、47、48、98の各組成を比較検討した。この場合も、アルカリ土類金属元素系、希土類元素系と同様に、充填元素量xが増えると、ZT値が低下した。この系でも、充填元素量xが小さい場合には、複数種類のIIIB族元素置換によるZT値の改善効果が見られなかった。
遷移金属元素に関しては、以下の通りである。
すなわち、試料No.4の組成物に希土類元素を追加した場合、希土類元素の種類によらず、いずれも熱伝導度κが低下して、ZT値が改善された。
それに対して、試料No.4の組成物に遷移金属元素を追加した場合において、遷移金属元素がCuであるときには、逆に熱伝導度が増加してしまい、ZT値が低下した。一方、Znを追加した場合には、電気伝導度σを損なうことなく、他の希土類元素と同程度に熱伝導度κが低下しているため、ZT値が改善された。これは、希土類元素と同様に、Znも空孔サイトを置換し、ラトリング効果で熱伝導度κを改善していることを示唆している。
また、希土類元素の一部をTiで置換した場合にも、1.2以上の高いZT値を維持している。遷移金属元素は、希土類元素と比べて低価格であるため、コスト低減のメリットがある。
このように、同族元素しか含まれないような組成では、複数元素を置換する利点が見いだせなかった。一方、族の異なるアルカリ土類金属元素、希土類元素、及びIIIB族元素、並びに、ある種の遷移金属元素を組み合わせた場合には、同族元素のみによる置換の場合と比べて、明らかにZT値が改善された。さらに、族の異なる元素で置換すると同時に、複数の同族元素で置換すると、ZT値がさらに改善されることが見いだされた。
[B. 複数族元素による置換]
以下では、ZT値が特に大きかった、x=0.7、y=0.25、かつ、t=0の組成:(Aabc)Co3.75Fe0.25Sb12(A:アルカリ土類金属元素、B:希土類元素、C:IIIB族元素、x=a+b+c=0.7)を例にして、複数族元素による置換の利点を説明する。
図9〜図11に、上記組成(試料No.95〜127、131、133〜136、140、142〜155、158〜187)に関する出力因子PF、熱伝導度κ、及びZT値の組成依存性を示した。
これらの特性は、充填元素R(アルカリ土類金属元素A、希土類元素B、IIIB族元素C)の種類と比率(a、b、cの値)に依存して変化した。
全体的に、アルカリ土類金属元素が増えると、熱伝導度κが増加し、出力因子PFが高くなる傾向が見られた。また、IIIB族元素が増えると、出力因子PFは低くなるが、熱伝導度κも低下する傾向が見られた。図11の破線内の領域では、熱伝導度κの低下と出力因子PFの向上が最適化され、高いZT値(ZT≧1.2)が実現されることがわかった。さらに図11の点線内の領域では、ZT≧1.3の性能が得られた。
[C. 置換量]
置換量a、b、c、tの範囲に関しては、以下の通りである。
充填元素RがIIIB族元素のみである場合、熱伝導度κは低くなるが、出力因子PFも低い。そのため、ZT=0.3程度の性能に留まった。
逆に、充填元素RとしてIIIB族元素を含まない場合、熱伝導度κの低減が不十分であった。そのため、IIIB族元素を含まない組成において、ZT値が1.2を超える組成は見出されなかった。
従って、高性能化のためには、IIIB族元素は必須である。IIIB族元素を0<c≦0.5、好ましくは、0<c≦0.4の範囲で含み、さらにアルカリ土類金属元素及び/又は希土類元素を適量加えた組成では、出力因子PFが向上した。また、これによってZT値が1.2以上になることが分かった。
IIIB族元素は、Inが好ましい。一方、IIIB族元素としてAlのみを含む組成では、ZT値が低下した。
例えば、試料No.119〜123、及び131を比較すると、IIIB族元素としてInを単独で含む組成で、高いZT値を実現できる。また、Inの一部をAl及びGaで置換した3種類の元素を含む組成では、ZT値がより高くなっていることが分かる。
但し、IIIB族元素としてAlを単独で含む場合や、Alの置換量が0.1を超える場合には、ZT値が低下する傾向が見られた。
アルカリ土類金属元素としてBaのみを含む場合、希土類元素及びIIIB族元素の有無にかかわらず、a>0.3の範囲で、ZT値は1程度の値だった。
一方、アルカリ土類金属元素を3種類(Ca、Sr、Ba)含む場合、a=0.3でも、ZT=1.2程度の性能が得られる組成が存在した。しかし、それ以上aを増加させるとZT値が低下する傾向が見られた。
但し、3種類のアルカリ土類金属元素を含み、かつ、希土類元素及びIIIB族元素を含む組成の場合、最適組成では、a=0.4でもZT=1.2程度の性能が得られることがわかった(試料No.178)。
また、アルカリ土類金属元素を含まない組成であっても、3種類以上のIIIB族元素を含み、かつ、2種類以上の希土類元素を含む場合(合計元素数:5種類以上)には、ZT>1.2の性能が得られた。例えば、試料No.101〜104等を参照。
以上より、アルカリ土類金属元素の数は、1種類以上、より好ましくは、3種類以上であることがわかった。また、アルカリ土類金属元素の含有量aは、0≦a≦0.5、好ましくは、0≦a≦0.4であることがわかった。
希土類元素としてYbを単独で含む組成で、高いZT値が得られた。一方、YbをEuで完全に置換した場合、ZT値が低下した(試料No.126→No.125)。
また、例えば、試料No.126、127、131、140、142〜144を比較すると、以下のことがわかる。
すなわち、Ybの一部を他の元素で部分置換した場合において、希土類元素数が3種類以下の時には、ZT値が向上する傾向が確認された。一方、希土類元素が3種類よりも増えた場合には、顕著なZT値の改善効果は確認できなかった。
希土類元素の置換量bに関しては、b=0の場合でも、アルカリ土類金属元素及びIIIB族元素が各3種類以上(合計元素数が6種類以上)である時には、ZT≧1.2の性能が得られた(試料No.168)。
また、b=0.6の場合でも、ZT=1.21の高い性能が得られる組成が存在した(試料No.104)。
遷移金属元素の置換量tに関しては、以下の通りである。
例えば、試料No.118の一部(t=0.05)をTiで置換した場合(試料No.114)、ZT値は同程度である。それに対して、t=0.1までTiで置換した場合(試料No.113)、ZT値が低下している。これは、少量のTi置換(t≦0.1)が、希土類元素置換と同様の効果を持つことを示している。このことによって、高価で希少な希土類元素の使用量を減らして、性能向上を実現できる。
以上の結果から、充填元素Rとして2種以上の希土類元素を含み、かつ、0≦b≦0.7、好ましくは、0≦b≦0.6である組成が好ましいことがわかった。
また、これらの試料を比較すると、ZT≧1.3の性能が実現されているのは、アルカリ土類金属元素、希土類元素、及びIIIB族元素を合わせた充填元素数が5以上である組成であることがわかった。
よって、高いZT値を実現するためには、
(a)0<a≦0.5(好ましくは、0<a≦0.4)であり、
(b)0≦b≦0.7(好ましくは、0≦b≦0.6)であり、
(c)0<c≦0.5(好ましくは、0<c≦0.4)であり、
(d)0≦t≦0.1であり、かつ、
(e)充填元素Rとして、少なくとも4種類以上の元素(好ましくは、1種以上のアルカリ土類金属元素と、2種以上の希土類元素と、1種以上のIIIB族元素)を含むこと
が必要であることが分かった。
また、高いZT値を実現するためには、充填元素Rとして、5種類以上の元素を含むことが好ましいことがわかった。
これまで説明してきたように、充填元素Rとして、Ba、Yb、Inを含む組成において、それらの元素の一部を複数の他の充填元素で置換したり、x及びyを最適化することは、熱電特性改善に有効であることが分かった。
また、例えば、希土類元素の中でもEuは、電気伝導度σ(出力因子PF)の向上に有効であり、Ybを部分置換することで、出力因子PFを改善できる。一方、LaでYbを部分置換することは、熱伝導度κの低下に有効である。
そのため、Ybの一部を、これら効果の異なるLaとEuとで同時に置換した場合には、より熱電特性を改善することができる。
[1.3.3. イオン半径]
上述した部分置換する充填元素Rの種類が熱電特性(出力因子PF及び熱伝導度κ)にどのような影響を及ぼすかを明らかにするため、充填元素Rとしてイオン半径の異なる元素を添加して、熱電特性の変化を比較検討した。以下では、その結果を説明する。
非特許文献6の組成にIn0.1を加えた組成、すなわち、R0=Ba0.1La0.05Yb0.05In0.1(x=0.3)をベース組成とし、これにイオン半径の異なる種々の追加充填元素Xを0.1さらに加えてx=0.4とした[R00.1]。この場合、追加の充填元素Xの違いが熱電特性に影響を及ぼすことがわかった(図5参照)。
熱伝導度κの低下率は、イオン半径の小さな元素Xを充填するほど大きくなる傾向が見られた。何れの元素Xを追加した場合でも、ベース組成と比べてZT値が改善された。
一方、出力因子PFの値とイオン半径との間には、顕著な相関は認められなかった。しかしながら、ベース組成と比べて、電気伝導度σは増加し、かつ、出力因子PFは同程度か、増加する傾向が確認された。これらの元素Xを含む組成は、X=Gaの組成を除いて、X=Ybの組成よりも出力因子PFが高くなっていることがわかる。
以上の結果より、例えばYbの一部を、熱伝導度κの低減効果の高いイオン半径の小さな元素(例えば、Al、Gaなど)と、出力因子PFの改善効果のある図5の元素(この場合、Ga以外)で同時置換することは、熱電特性改善に有効であることが期待できる。
但し、結晶構造中の空孔サイトを元素が占有する場合、空孔サイズと占有元素のイオンサイズのマッチングが重要である。熱伝導度κの低減量を増やすには、イオン半径の小さいIIIB族元素置換が有効である。しかしながら、前述したようにAlなどはイオン半径が小さすぎて固溶度が高くない。そのため、Alを単独で添加し、かつ置換量を増やしすぎると、逆に性能が低下する。従って、これらの元素を適当に組み合わせることが熱電特性改善のために必要となる。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
本発明に係るn型熱電材料は、太陽熱発電器、海水温度差熱電発電器、化石燃料熱電発電器、工場排熱や自動車排熱の回生発電器等の各種の熱電発電器、光検出素子、レーザーダイオード、電界効果トランジスタ、光電子増倍管、分光光度計のセル、クロマトグラフィーのカラム等の精密温度制御装置、恒温装置、冷暖房装置、冷蔵庫、時計用電源等に使用することができる。

Claims (16)

  1. 以下の構成を備えたn型熱電材料。
    (1)前記n型熱電材料は、次の(1)式で表される組成を有する。
    (Aabct)Co4-yFeySb12 ・・・(1)
    但し、
    0<a≦0.5、0≦b≦0.7、0<c≦0.5、0≦t≦0.1、
    a+b+c+t=x、0.4≦x≦1.0、0≦y≦0.4、a+b>0、
    前記元素A(充填元素A)は、Ca、Sr、及びBaからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
    前記元素B(充填元素B)は、Y、Sc、La、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Ho、Er、Tm、及び、Ybからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
    前記元素C(充填元素C)は、Al、Ga、及びInからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
    前記元素D(充填元素D)は、Zn及び/又はTi。
    (2)前記Aabct(=Rx)は、次の(2)式を満たす。
    x=[BadA'1-d]a[YbeB'1-e]b[InfC'1-f]ct ・・・(2)
    但し、0<d≦1、0≦e≦1、0<f≦1、ad+be>0。
    前記元素A'は、Ba以外の前記充填元素A、
    前記元素B'は、Yb以外の前記充填元素B、
    前記元素C'は、In以外の前記充填元素C。
    (3)前記n型熱電材料は、合計5種類以上10種類以下の前記充填元素A〜前記充填元素Dを含む。
  2. 前記元素A、前記元素B、及び前記元素Cからなる群から選ばれる2種以上の充填元素を含む請求項1に記載のn型熱電材料。
  3. 0<b≦0.6、及び0.1≦be≦0.5をさらに満たす請求項1に記載のn型熱電材料。
  4. b=0、a>0、c>0、ad>0、及びcf>0をさらに満たし、
    前記元素A'は、Ca及び/又はSrを含み、
    前記元素C'は、Al及び/又はGaを含む
    請求項1に記載のn型熱電材料。
  5. 0.2≦b≦0.3、及びe>0をさらに満たし、
    前記元素B'として1種以上の元素を含む
    請求項1に記載のn型熱電材料。
  6. 0.3<b≦0.6、及びe>0をさらに満たし、
    前記元素B'として2種以上の元素を含む
    請求項1に記載のn型熱電材料。
  7. 0<a≦0.4をさらに満たす請求項1に記載のn型熱電材料。
  8. 0.3≦a<0.4、及び0.1≦ad≦0.2をさらに満たし、
    前記元素A'としてCa及びSrを含む
    請求項1に記載のn型熱電材料。
  9. a=0.4、b>0、c>0、及び0.1≦ad≦0.2をさらに満たし、
    前記元素A'としてCa及びSrを含む
    請求項1に記載のn型熱電材料。
  10. 0.1≦c≦0.4をさらに満たす請求項1に記載のn型熱電材料。
  11. 0.2≦c≦0.4をさらに満たし、
    C=InfGagAl1-f-gであり、
    0<cg≦0.2、及び0≦(1−f−g)c≦0.1を満たす
    請求項1に記載のn型熱電材料。
  12. 以下の構成を備えたn型熱電材料。
    (1)前記n型熱電材料は、次の(1’)式で表される組成を有する。
    (Aabct)Co4-yFeySb12 ・・・(1’)
    但し、
    0.1≦a≦0.3、0.1≦b≦0.6、0.1≦c≦0.4、0≦t≦0.1、
    a+b+c+t=x、0.5≦x≦1.0、0≦y≦0.4、
    前記元素A(充填元素A)は、Ca、Sr、及びBaからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
    前記元素B(充填元素B)は、Y、Sc、La、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Ho、Er、Tm、及び、Ybからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
    前記元素C(充填元素C)は、Al、Ga、及びInからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
    前記元素D(充填元素D)は、Zn及び/又はTi。
    (2)前記Aabct(=Rx)は、次の(2’)式を満たす。
    x=[BadA'1-d]a[YbeB'1-e]b[InfGagAl1-f-g]ct ・・・(2’)
    但し、
    0.1≦ad≦0.2、0.1≦be≦0.3、
    0<f<1、0≦cg≦0.15、f+g≦1、
    前記元素A'は、Ba以外の前記充填元素A、
    前記元素B'は、Yb以外の前記充填元素B。
    (3)前記n型熱電材料は、合計6種類以上10種類以下の前記充填元素A〜前記充填元素Dを含む。
  13. 0.7≦x<0.9、及び0≦y≦0.35をさらに満たす
    請求項12に記載のn型熱電材料。
  14. 0.9≦x、及び0≦y≦0.4をさらに満たし、
    合計7種類以上の前記充填元素A〜前記充填元素Dを含む
    請求項12に記載のn型熱電材料。
  15. 0.1≦a≦0.2、0.2≦b≦0.5、及び0.2≦c≦0.4をさらに満たし、
    前記充填元素A〜前記充填元素Dとして、少なくともBa、Yb、Eu、La、In、及びGaを含み、必要に応じてさらにAlを含む
    請求項12に記載のn型熱電材料。
  16. 823Kでの無次元性能指数(ZT)値が1.3以上1.46以下である請求項1から15までのいずれか1項に記載n型熱電材料。
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