JP5291783B2 - n−型スクッテルダイト系Yb−Co−Sb熱電変換材料の製造方法 - Google Patents
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熱電変換材料の性質は、性能指数Zによって評価される。性能指数Zとは、ゼーベック係数S、熱伝導率κおよび電気抵抗率ρを用いた次式(1)によって表される。
Z=S2/(κρ) …(1)
ZT=S2T/(κρ) …(2)
上式(2)に示したZTは無次元性能指数と呼ばれ、熱電変換材料の性能を示す良い指標となる。熱電変換材料は、このZTの値が大きいほど、その温度Tにおける熱電性能が高い。上式(1)と(2)から、優れた熱電変換材料とは、無次元性能指数ZTの値を大きくできる材料、すなわちゼーベック係数Sが大きく、熱伝導率κおよび電気抵抗率ρが小さい材料である。
ηmax={(Th−Tc)/Th}{(M−1)/(M+(Tc/Th))} …(3)
上式(3)のMは、次式(4)によって表される。また、Thは熱電変換材料の高温端の温度、Tcは低温端の温度である。
M={1+Z(Th+Tc)/2}−0.5 …(4)
上記の式(1)〜(4)から、熱電変換材料の熱電変換効率は、性能指数及び高温端と低温端との温度差が大きいほど、向上することが分かる。
このような中で実用化されているのはBi2Te3系のみである。Bi2Te3系熱電変換素子は、主として低温域での用途開発がなされているが、熱電変換効率が10%未満と低く、スペースユーティリティーが小さいペルチェ素子などに用途が限られている。
しかし、これらの材料系は一般に熱伝導率が大きく、無次元性能指数ZTが小さいために現在のところ実用化に至っていない。
2000年にはNolasらによって、YbxCo4Sb12(0<x≦1)が良好なn−型熱電性能を持つことが発見され、その無次元性能指数ZTは0.7と報告されている。
まず、CoSb3の作製を目的に原料を秤量してその融点以上に溶融し、図中の点(A)に保持する。そのまま冷却すると、まず温度T0(T0>1000℃)において、
(1)L0(液相0) → β−CoSb T0>1000℃
の反応によりβ−CoSbが析出しはじめる。さらに冷却していくとβ−CoSbの析出量が増し、温度TA=931℃では、
(2)L1(液相1) + β−CoSb → γ−CoSb2 TA=931℃
という包晶反応によって液相1とβ−CoSbからγ−CoSb2が生成する。さらに温度が下がると温度TB=876℃においては、このγ−CoSb2と液相2による
(3)L2(液相2) + γ−CoSb2 → δ−CoSb3 TB=876℃
という包晶反応によって、目的相であるδ−CoSb3が生成、そのまま室温まで冷却していくと目的相であるδ−CoSb3の溶製材が得られる。
次の表1に、上述の(1)〜(3)の反応に関係する物質の密度とモル体積を示す。つまり、表1は、CoSb3の生成に関する物質の密度とモル体積を表す。
上記の(2)や(3)の包晶反応が液体−液体反応のように一様に起きれば全体的に体積縮小するのでポーラスな組織にはならない。しかし、それらの反応は固体−液体反応なので、反応の進行が固体の初期の組織形状に大きく依存し、物質全体が一様に体積縮小することが困難である。このため、部分的にポーラスな組織が形成されやすくなる。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、安価な製造コストにて、緻密で、熱電変換性能の高いn−型スクッテルダイト系Yb−Co−Sb熱電変換材料が得られる方法を提供することを目的としている。
(a) 密度が7.4g/cm3 以上である。
(b) 熱電変換性能を示す無次元性能指数ZT(Z:性能指数、T:絶対温度)が0.6以上である。
(c) Ybの含有量xが0<x≦1であり、Coの含有量yが3.5≦y≦4.5であり、Sbの含有量zが10≦z≦15である。
(4) L0(液相0) → (Yb固溶)β−CoSb T0>1000℃
(5)[包晶反応A]
L1(液相1) + (Yb固溶)β−CoSb→(Yb固溶)γ−CoSb2
TA=930℃
(6)[包晶反応B]
L2(液相2) + (Yb固溶)γ−CoSb2 → YbxCoySbz
TB=875℃
以降、(5)の反応を包晶反応A、(6)の反応を包晶反応Bと呼ぶが、上記の表2に示した体積変化と同様に包晶反応Aの方が包晶反応Bよりも体積縮小率の大きい反応で、反応前の体積より反応後の体積が小さくなってポーラスな構造が生成する原因となる。
すなわち最高溶解温度Tmaxを875℃〜930℃の温度範囲に制御した場合、液相中に骨格構造を作る初晶相(Yb固溶)β−CoSbそのものが形成されず、かつ反応前後の体積縮小変化が大きい包晶反応Aが発生することなく、(Yb固溶)γ−CoSb2が液相から直接形成される。このため、ポーラス状態形成の要因が完全に排除されて緻密なn−型スクッテルダイト系YbxCoySbz(0<x≦1、3.5≦y≦4.5、10≦z≦15)熱電変換材料を製造することができる。
n−型スクッテルダイト系YbxCoySbz(0<x≦1、3.5≦y≦4.5、10≦z≦15)熱電変換材料を緻密化して製造するには、前述で説明したように最高溶解温度Tmaxを875℃〜930℃の温度範囲に制御することが望ましい。最高溶解温度Tmaxが875℃〜930℃の温度範囲内であれば、緻密なn−型スクッテルダイト系YbxCoySbz(0<x≦1、3.5≦y≦4.5、10≦z≦15)熱電変換材料を製造することができる。
いずれの製法で得られたn−型スクッテルダイト系YbxCoySbz(0<x≦1、3.5≦y≦4.5、10≦z≦15)熱電変換材料は緻密になっており、その密度が7.4g/cm3以上であった。そのゼーベック係数、電気抵抗率、熱伝導率と温度との関係を測定し、各温度での無次元性能指数ZTを算出した結果、室温〜600℃の温度範囲で無次元性能指数ZTが0.7以上に達した。
(実施例1)
Yb、Co、Sbの単体金属を出発原料とし、Yb:Co:Sb=1:9.0820:56.2922の重量比率で純金属Yb、Co、Sbの原料をアルミナ坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気中において、電気炉を用いて最高温度900℃まで加熱・溶解して6時間保持した。その後800℃で24時間、そして650℃で12時間、さらに550℃で6時間それぞれ保持してから室温まで冷却すると、図1(a)のYb0.15Co4Sb12熱電変換材料の組織顕微鏡写真に示すように、密度が7.48g/cm3である、ポーラス状態のない緻密なYb0.15Co4Sb12熱電変換材料を得ることができた。
但し、図2はYb0.15Co4Sb12熱電変換材料のゼーベック係数と温度との関係図、図3はYb0.15Co4Sb12熱電変換材料の電気抵抗率と温度との関係図、図4はYb0.15Co4Sb12熱電変換材料の熱伝導率と温度との関係図、図5はYb0.15Co4Sb12熱電変換材料の無次元性能指数ZTと温度との関係図である。
Yb、Co、Fe、Sbの単体金属を出発原料とし、Yb:Co:Fe:Sb=1:4.2572:0.2689:28.1461の重量比率で純金属Yb、Co、Fe、Sbの原料をアルミナ坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気中において電気炉で最高温度900℃まで加熱・溶解し、6時間保持した後、800℃で24時間、650℃で12時間、さらに550℃で6時間それぞれ保持してから室温まで冷却した。
すると密度が7.50g/cm3であるポーラス状態のない緻密なYb0.3Co3.75Fe0.25Sb12熱電変換材料を得ることができた。さらに熱電性能評価装置を用いて室温〜600℃の温度範囲でこの材料における無次元性能指数を算出したところ、無次元性能指数ZTは400〜500℃の温度範囲で最大0.8に達した。
Yb、Ca、Co、Fe、Sbの単体金属を出発原料とし、Yb:Ca:Co:Fe:Sb=1:0.0772:4.2572:0.2689:28.1461の重量比率で純金属Yb、Ca、Co、Fe、Sbの原料をアルミナ坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気中において電気炉で最高温度900℃まで加熱・溶解し、6時間保持した後、800℃で24時間、650℃で12時間、さらに550℃で6時間それぞれ保持してから室温まで冷却した。
すると密度が7.51g/cm3である、ポーラス状態のない緻密なYb0.3Ca0.1Co3.75Fe0.25Sb12熱電変換材料を得ることができた。さらに熱電性能評価装置を用いて室温〜600℃の温度範囲でこの材料における無次元性能指数を算出したところ、無次元性能指数ZTは400〜500℃の温度範囲で最大1.1に達した。
Yb、Sr、Co、Fe、Sbの単体金属を出発原料とし、Yb:Sr:Co:Fe:Sb=1:0.1688:4.2572:0.2689:28.1461の重量比率で純金属Yb、Sr、Co、Fe、Sbの原料をアルミナ坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気中において電気炉で最高温度900℃まで加熱・溶解し、6時間保持した後、800℃で24時間、650℃で12時間、さらに550℃で6時間それぞれ保持してから室温まで冷却した。
すると密度が7.52g/cm3である、ポーラス状態のない緻密なYb0.3Sr0.1Co3.75Fe0.25Sb12熱電変換材料を得ることができた。さらに熱電性能評価装置を用いて室温〜600℃の温度範囲でこの材料における無次元性能指数を算出したところ、無次元性能指数ZTは400〜500℃の温度範囲で最大0.8に達した。
Yb、Ba、Co、Fe、Sbの単体金属を出発原料とし、Yb:Ba:Co:Fe:Sb=1:0.2645:4.2572:0.2689:28.1461の重量比率で純金属Yb、Ba、Co、Fe、Sbの原料をアルミナ坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気中において電気炉で最高温度900℃まで加熱・溶解し、6時間保持した後、800℃で24時間、650℃で12時間、さらに550℃で6時間それぞれ保持してから室温まで冷却した。
すると密度が7.54g/cm3である、ポーラス状態のない緻密なYb0.3Ba0.1Co3.75Fe0.25Sb12熱電変換材料を得ることができた。さらに熱電性能評価装置を用いて室温〜600℃の温度範囲でこの材料における無次元性能指数を算出したところ、無次元性能指数ZTは400〜500℃の温度範囲で最大0.9に達した。
本実施例では、溶製法2を用いた場合のYb0.15Co4Sb12熱電変換材料の製造方法およびその熱電変換性能について述べる。
CoSb2化合物、Yb、Sbの単体金属を出発原料とし、Yb:CoSb2:Sb=1:46.6101:18.7641の重量比率で純金属Yb、Sbの原料およびCoSb2化合物の原料をアルミナ坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気中において、電気炉加熱によって最高温度1000℃まで加熱・溶解し、2時間保持した後、900℃で6時間、800℃で24時間、そして650℃で12時間、さらに550℃で6時間それぞれ保持した。室温まで冷却すると、密度が7.45g/cm3である、ポーラス状態のない緻密なYb0.15Co4Sb12熱電変換材料を得ることができた。
熱電性能評価装置を用い、室温〜600℃の温度範囲で上述の熱電変換材料のゼーベック係数、電気抵抗率および熱伝導率を測定し、無次元性能指数を算出した。これらの結果を図2〜図5に示す。図5のように無次元性能指数ZTは400〜500℃の温度範囲でも0.7に達した。
本比較例では、Yb0.15Co4Sb12熱電変換材料の従来溶製法およびその熱電性能について述べる。
Yb、Co、Sbの単体金属を出発原料とし、Yb:Co:Sb=1:9.0820:56.2922の重量比率で純金属Yb、Co、Sbの原料をアルミナ坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気中において、電気炉加熱によって液相線以上の温度まで例えば1200℃まで加熱・溶解し、2時間保持した後、徐冷し、900℃で6時間、800℃で24時間、650℃で12時間、さらに550℃で6時間それぞれ保持した。室温まで冷却すると、図1(b)に示すように、密度が7.0g/cm3である、緻密ではないポーラス状態のYb0.15Co4Sb12熱電変換材料が得られた。
但し、上記では具体的に示しながら発明の形態に基づいて本発明を詳細に説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない範囲においてあらゆる変形や変更が可能である。
Claims (1)
- CoSbおよびCoSb2 の少なくとも一種が含まれる原料を、最高溶解温度を930℃〜1000℃の温度範囲に制御して加熱した後に冷却することで、粉砕を行わずに、下記の構成(a) 〜(c) を満たし、スクッテルダイト構造を有するn−型Yb−Co−Sb系熱電変換材料を得ることを特徴とするn−型スクッテルダイト系Yb−Co−Sb熱電変換材料の製造方法。
(a) 密度が7.4g/cm3 以上である。
(b) 熱電変換性能を示す無次元性能指数ZT(Z:性能指数、T:絶対温度)が0.6以上である。
(c) Ybの含有量xが0<x≦1であり、Coの含有量yが3.5≦y≦4.5であり、Sbの含有量zが10≦z≦15である。
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