JP6413917B2 - n型熱電材料及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、n型熱電材料及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、充填スクッテルダイト(RxCo4Sb12)系化合物からなるn型熱電材料及びその製造方法に関する。
熱電材料は、熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換可能な材料であり、その変換効率は、以下の無次元性能指数ZTと相関がある。
ZT=[(σ×S2)/κ]×T=[PF/κ]×T
(σ:電気伝導度、S:ゼーベック係数、κ:熱伝導度、T:絶対温度)
このZTを高めるためには、熱伝導度κの低減が必要である。
充填スクッテルダイト(RxCo4Sb12)系材料(0≦x≦1)は、熱電材料の一種であり、CoとSbが作る籠の中心部分に充填元素Rが充填された結晶構造を持つ。籠の中に充填された充填元素Rは、固有の振動数で振動しており、共鳴的に格子振動を散乱することで熱伝導度κを低減することができる(ラトリング効果)。また、充填元素Rを含まないCo4Sb12はp型半導体であるが、充填元素Rは電子ドーパントである。そのため、充填スクッテルダイトRxCo4Sb12は、n型半導体となる。
この充填元素Rには、アルカリ金属元素(非特許文献1)、希土類元素(特許文献1)、IIIB族元素(特許文献2)などの種々の元素が提案されている。さらに、充填元素数を1種類から2種類、3種類と増やす(多重充填)に従って、熱伝導度κがより低下するため、ZTを更に高めることができる。但し、一般的に、高性能なn型多重充填スクッテルダイトは、Coサイトを置換するFeを含まず、充填元素量xが0.3以下であり、かつ、充填元素の数も3種類以下である(非特許文献2)。
また、一般的に熱電材料の結晶粒径が小さくなると、粒界面積が増え、粒界部分でのフォノン散乱確率が増加するため、熱伝導度が低下する。充填元素とナノ構造とを組み合わせると、更なる高性能化の実現が期待できるが、報告例は少ない。
例えば、非特許文献3では、300rpm−2hrの条件下でボールミルによる結晶粒の微細化が検討されているが、充填元素が16wt%相当の酸化物として析出して十分な高性能化が実現されていない。
非特許文献4では、溶液法によりCo4Sb12のナノ粒子を合成し、それを焼結することでナノ構造を実現しているが、希土類等の充填元素系には適用できない。
非特許文献5では、高圧下ねじり加工(HTP)法により結晶粒に歪を入れて、性能を向上させている。この文献では、結晶粒径への言及があるが、n型熱電材料では、充填元素量が少ない組成で実施されている。
さらに、特許文献3では、5種類の充填元素を含み、CoサイトをFe置換したn型スクッテルダイト材料が報告されているが、ナノ構造制御されていない。
すなわち、高濃度に充填元素を添加し、Feでキャリア濃度を調整し、充填元素の析出を抑制しつつ、結晶粒径の粒度分布のピーク値を150nm以下に制御したn型熱電材料、及びそれを簡便に作製する方法は、報告されていない。
特開2002−026400号公報 特表2007−523998号公報 国際公開第WO2009/093455号
Journal of Applied Physics Vol. 90(4) 1864(2001) Journal of American Chemical Society, vol. 133, No. 20, p. 7837-7846(2011) Journal of Alloys and Compounds 481(2009), 106-115 Journal of Alloys and Compounds 417(2006), 269-272 Acta Materialia 60(2012), 2146-2157
本発明が解決しようとする課題は、充填スクッテルダイト(RxCo4Sb12)系化合物からなる新規なn型熱電材料及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、充填スクッテルダイト(RxCo4Sb12)系化合物からなるn型熱電材料において、充填元素Rの種類及び量、並びに、Fe置換量を最適化し、かつ、酸化や充填元素の析出を抑制しつつ結晶粒径を微細化することによって高性能な熱電材料を実現することにある。
上記課題を解決するために本発明に係るn型熱電材料は、以下の構成を備えている。
(1)前記n型熱電材料は、次の(1)式で表される組成を有する。
(Aabc)Co4-yFeySb12 ・・・(1)
但し、
0≦a≦0.4、0≦b<1.0、0<c≦0.5、
a+b+c=x、0.4≦x≦1.0、0≦y≦0.5、a+b>0、
前記元素A(充填元素A)は、Mg、Ca、Sr、及びBaからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
前記元素B(充填元素B)は、Y、Sc、及びLa〜Luからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
前記元素C(充填元素C)は、Al、Ga、及びInからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素。
(2)前記Aabc(=Rx)は、次の(2)式を満たす。
x=[BadA'1-d]a[YbeB'1-e]b[InfC'1-f]c ・・・(2)
但し、0<d≦1、0<e<1、0<f≦1、ad+be>0。
前記元素A'は、Ba以外の前記充填元素A、
前記元素B'は、Yb以外の前記充填元素B、
前記元素C'は、In以外の前記充填元素C。
(3)前記n型熱電材料は、合計5種類以上の前記充填元素A〜前記充填元素Cを含む。
(4)前記n型熱電材料を構成する主相の結晶粒径の粒径分布のピーク値は、150nm以下である。
(5)前記元素A〜Cに由来する異相の量は、5%以下である。
本発明に係るn型熱電材料の製造方法は、
本発明に係るn型熱電材料が得られるように原料を秤量し、不活性雰囲気中で前記原料を溶融させ、インゴットを得る溶解・鋳造工程と、
前記インゴット又は前記インゴットを粗粉砕することにより得られる粗粉末を仮焼する仮焼工程と、
前記仮焼工程で得られた生成物を、酸素濃度が1ppm以下に制御された不活性雰囲気下において、酸化や前記充填元素の析出を生じさせることなく微細化し、微粉末を得る粉砕工程とを備え、
前記粉砕工程は、前記微粉末を焼結させたときに、焼結体に含まれる結晶粒径の粒径分布のピーク値が150nm以下となるように、前記生成物を微細化するものである
ことを要旨とする。
スクッテルダイト系化合物への充填元素Rの導入は、電気伝導度σの向上と熱伝導度κの低減に効果を及ぼすが、充填元素Rの種類により効果を及ぼす度合いは異なる。そのため、効果の異なる充填元素Rを複数組み合わせて添加すると同時に、Coサイトの一部をホールドーパントであるFeで置換すると、キャリア濃度が最適化され、かつ、熱伝導度κが低減する。その結果、熱電特性が向上する。
さらに、このようなn型熱電材料を製造する場合において、所定の元素を含む母合金を、酸素濃度が1ppm以下に制御された不活性雰囲気下において粉砕すると、酸化や充填元素の析出が抑制された微粉末が得られる。このような微粉末を用いて焼結体を作製すると、異相の量が少なく、かつ、結晶粒が極めて微細な焼結体が得られる。
比較例2(試料No.8)で得られた焼結体のSEM像である。 実施例1(試料No.8)で得られた焼結体のSEM反射電子像である。 実施例1(試料No.8)で得られた焼結体のTEM明視野像である。 結晶粒径と熱伝導度κとの関係、及び、結晶粒径と無次元性能指数ZTとの関係を示す図である。 結晶粒径がミクロンサイズの場合と、150nm以下である場合の無次元性能指数ZTの組成依存性を示す図である。 異相の析出量とZTの変化量との関係を示す図である。
以下に本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. n型熱電材料]
本発明の一実施の形態に係るn型熱電材料は、以下の構成を備えている。
(1)前記n型熱電材料は、次の(1)式で表される組成を有する(条件(1))。
(Aabc)Co4-yFeySb12 ・・・(1)
但し、
0≦a≦0.4、0≦b<1.0、0<c≦0.5、
a+b+c=x、0.4≦x≦1.0、0≦y≦0.5、a+b>0、
前記元素A(充填元素A)は、Mg、Ca、Sr、及びBaからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
前記元素B(充填元素B)は、Y、Sc、及びLa〜Luからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
前記元素C(充填元素C)は、Al、Ga、及びInからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素。
(2)前記Aabc(=Rx)は、次の(2)式を満たす(条件(2))。
x=[BadA'1-d]a[YbeB'1-e]b[InfC'1-f]c ・・・(2)
但し、0<d≦1、0<e<1、0<f≦1、ad+be>0。
前記元素A'は、Ba以外の前記充填元素A、
前記元素B'は、Yb以外の前記充填元素B、
前記元素C'は、In以外の前記充填元素C。
(3)前記n型熱電材料は、合計5種類以上の前記充填元素A〜前記充填元素Cを含む(条件(3))。
(4)前記n型熱電材料を構成する主相の結晶粒径の粒度分布のピーク値は、150nm以下である(条件(4))。
(5)前記元素A〜Cに由来する異相の量は、5%以下である(条件(5))。
[1.1. 充填スクッテルダイト]
本発明に係るn型熱電材料は、充填スクッテルダイト系化合物(RxCo4-yFeySb12)を主成分とする。充填元素Rは、CoとSbが作る籠の中に充填されている。充填元素Rは、電子ドーパントであり、電気伝導度σの向上と熱伝導度κの低減に効果を及ぼすが、元素の種類により効果を及ぼす度合いは異なる。一方、Coサイトを置換するFeは、ホールドーパントである。そのため、効果の異なる充填元素Rを複数組み合わせると同時に、Coサイトの一部をFeで置換すると、キャリア濃度が最適化され、かつ、熱伝導度κが低減する。その結果、熱電特性が向上する。
[1.2. 充填元素]
[1.2.1. 充填元素の種類]
本実施の形態において、充填元素Rは、
(1)アルカリ土類金属元素(Mg、Ca、Sr、及びBa)からなる充填元素A、
(2)希土類元素(Y、Sc、及びLa〜Lu)からなる充填元素B、及び、
(3)IIIB族元素(Al、Ga、及びIn)からなる充填元素C、
で構成される。
n型熱電材料は、1種類の充填元素Aを含むものでも良く、あるいは、2種以上の充填元素Aを含むものでも良い。この点は、充填元素B、Cも同様である。
本実施の形態において、n型熱電材料は、合計5種類以上の充填元素A〜Cを含む。一般に、充填元素Rの種類が多くなるほど、高い熱電特性が得られる。充填元素Rの種類は、さらに好ましくは、6種類以上、さらに好ましくは、7種類以上である。
また、本実施の形態において、n型熱電材料は、充填元素Rとして、少なくともBa及びInを含むもの、又は、In及びYbを含むものが好ましい。さらに、n型熱電材料は、充填元素Rとして、少なくともBa、Yb及びInを含むものが好ましい。これらの場合において、残りの充填元素Rは、目的に応じて最適な元素を選択することができる。
[1.2.2. 充填元素の量]
(1)式において、「a」は、充填元素Aの量(原子割合)を表す。本実施の形態において、充填元素Aは必須元素でない。すなわち、a≧0であれば良い。一般に、充填元素Aの量が多くなるほど、高い熱電特性が得られる。特に、元素Aは、電気伝導度σの向上に寄与する。ある範囲内では、元素Aの量が多くなるほど、電気伝導度σは高くなる。その結果、出力因子PF、及びZTが向上する。aは、好ましくは、a≧0.1である。
一方、充填元素Aの量が過剰になると、出力因子PFの増大と、熱伝導度κの低減とを同時に達成するのが困難となる。特に、電気伝導度σが高くなりすぎるため、熱伝導度κのキャリア成分が増大し、ZTが低下する。従って、a≦0.4である必要がある。aは、好ましくは、a≦0.3である。
(1)式において、「b」は、充填元素Bの量(原子割合)を表す。本実施の形態において、充填元素Bは必須元素でない。すなわち、b≧0であれば良い。一般に、充填元素Bの量が多くなるほど、高い熱電特性が得られる。特に、元素Bは、適度に電気伝導度σを向上させ、かつ、熱伝導度κを低下させる効果がある。bは、好ましくは、b≧0.1、さらに好ましくは、b≧0.2、さらに好ましくは、b≧0.3である。
一方、充填元素Bの量が過剰になると、出力因子PFの増大と、熱伝導度κの低減とを同時に達成するのが困難となる。従って、b<1.0である必要がある。bは、好ましくは、b≦0.7、さらに好ましくは、b≦0.6、さらに好ましくは、b≦0.35である。
(1)式において、「a+b>0」は、少なくとも元素A又は元素Bのいずれか一方が含まれていることを表す。元素Cに加えて、元素A又は元素Bが含まれていると、高い熱電特性が得られる。
(1)式において、「c」は、充填元素Cの量(原子割合)を表す。本実施の形態において、Inは必須元素である。従って、c>0である必要がある。一般に、充填元素Cの量が多くなるほど、高い熱電特性が得られる。特に、元素Cは、熱伝導度κの低下に寄与する。元素Cの量が多くなるに従い、主に熱伝導度κが低下するため、ZTが増大する。cは、好ましくは、c≧0.1、さらに好ましくは、c≧0.2である。
一方、充填元素Cの量が過剰になると、出力因子PFの増大と、熱伝導度κの低減とを同時に達成するのが困難となる。特に、電気伝導度σが低下するため、ZTが低下する。従って、c≦0.5である必要がある。cは、好ましくは、c≦0.4、さらに好ましくは、c≦0.3である。
(1)式において、「x」は、充填元素Rの量(原子割合)、すなわち、充填元素A〜Cの総量を表す。充填元素Rの量が多くなるほど、高い熱電特性が得られる。特に、xの値が増大するに従い、電気伝導度σが増大し、格子熱伝導度κphが低下する傾向がある。このような効果を得るためには、x≧0.4である必要がある。xは、好ましくは、x≧0.5である。
一方、充填元素Rの充填量には限界があり、充填元素Rの量が限界を超えると、充填元素Rが異相として析出する。従って、x≦1.0である必要がある。xは、さらに好ましくは、x≦0.95である。また、xが大きくなりすぎると、熱伝導度κのキャリア成分が増大する。そのため、xの増加に伴いZT値が増大し、あるxの値(0.7〜0.8付近)で極大となる。
(1)式において、「y」は、Coサイトを置換するFeの量(原子割合)を表す。充填元素A〜Cの種類及び量によっては、適量の電子がドープされるので、Feは、必ずしも必要ではない。すなわち、y≧0であれば良い。
一方、Fe置換量が過剰になると、ホールが過剰となる。そのため、n型熱電材料では、かえって熱電特性が低下する。従って、y≦0.5である必要がある。yは、好ましくは、y≦0.4、さらに好ましくは、y≦0.2である。
(2)式において、「d」は、充填元素Aに占めるBaの量(原子割合)を表す。本実施の形態において、充填元素Aを含む時には、Baは必須元素である。従って、d>0である必要がある。
一方、n型熱電材料は、充填元素Aとして、Baのみを含むものでも良く、あるいは、Baに加えてBa以外のアルカリ土類金属元素を含むものでも良い。すなわち、d≦1であれば良い。
(2)式において、「e」は、充填元素Bに占めるYbの量(原子割合)を表す。Ybは、熱電特性を向上させる作用が大きい元素である。本実施の形態において、充填元素Bを含む時には、Ybは、必須元素である。従って、e>0である必要がある。
また、本実施の形態において、充填元素Bを含む時には、充填元素Bには、Ybに加えて、Yb以外の希土類元素をさらに含む。従って、e<1である必要がある。
(2)式において、「ad+be>0」は、少なくともBa又はYbのいずれか一方が含まれていることを表す。元素Cに加えて、Ba又はYbが含まれていると、高い熱電特性が得られる。
(2)式において、「f」は、充填元素Cに占めるInの量(原子割合)を表す。本実施の形態において、Inは必須元素である。従って、f>0である必要がある。
一方、n型熱電材料は、充填元素Cとして、Inのみを含むものでも良く、あるいは、Inに加えてIn以外のIIIB族元素を含むものでも良い。すなわち、f≦1であれば良い。
[1.3. 好適な組成]
上述した条件(1)〜(3)を満たすn型熱電材料において、充填元素Rの種類及び量を最適化すると、熱電特性がさらに向上する。n型熱電材料は、具体的には、以下のような組成が好ましい。
[1.3.1. 組成物(1)]
n型熱電材料は、上述した条件(1)〜(3)に加えて、
前記元素Aは、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれるいずれか1以上を含み、
前記元素Bは、La、Eu、及びYbからなる群から選ばれるいずれか1以上を含み、
前記元素Cは、Al、Ga、及びInからなる群から選ばれるいずれか1以上を含み、
さらに、前記元素A〜Cとして、少なくともBa、Yb、及びInを含む
ものが好ましい。
組成物(1)は、以下のような利点がある。
すなわち、上述のように、元素Aは主に電気伝導度σの増大に、元素Cは主に熱伝導度κの低減に寄与する。従って、どちらかの元素に偏りがあると、熱電特性が低下する場合がある。一方、これらの元素の一部を元素Bで置換すると、電気伝導度σと熱伝導度κのバランスが変化し、熱電特性が向上する場合がある。
例えば、元素Cと元素Aのみを含む組成では、熱伝導度κは低いが、電気伝導度σが低いため、出力因子PFが低く、ZT値も低い。一方、元素Cの一部を元素Bで置換した組成では、熱伝導度κは増大するが、出力因子PFが向上するため、ZT値は向上する。
また、逆に、元素Aの一部を元素Bで置換した組成では、出力因子PFは低下するものの、熱伝導度κが低下するため、ZT値は向上する。
特に、Baは、電気伝導度σを向上させる効果が大きい。
Ybは、電子ドーパントとして電気伝導度σを改善する。また、Ybは、イオン半径が小さく、かつ、重い元素であるため、ラトリングによる熱伝導度κの低減効果が大きい。
さらに、Inは、熱伝導度κを低減させるだけでなく、出力因子PFを向上させる効果が大きい。
そのため、元素A〜Cとして、少なくともBa、Yb、及びInを含む場合には、熱伝導度κの低下と出力因子PFの増大とを両立でき、高いZT値が得られる。
さらに、元素Aとして2種以上の元素を含む組成は、元素AとしてBaのみを含む組成に比べてZT値が向上する場合がある。
また、EuによるYbの部分置換は、電気伝導度σを増加させ、LaによるYbの部分置換は、熱伝導度κを低下させる。そのため、Ybの一部をLa及び/又はEuで置換した場合には、より熱電特性を改善することができる。
さらに、元素Cの固溶度は、Al<Ga<Inの順に増加する。すなわち、Inを含む組成は、Inを含まない組成に比べて出力因子PFが高くなる場合が多い。一方、元素Cの熱伝導度κの低減効果は、Al>Ga>Inの順に小さくなる。そのため、元素Cとして2種以上の元素を含む組成は、元素CとしてInのみを含む組成に比べて、出力因子PFの増大と熱伝導度κの低減とを同時に達成することができる。
[1.3.2. 組成物(2)]
n型熱電材料は、上述した条件(1)〜(3)に加えて、
前記元素Aは、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれるいずれか1以上を含み、
前記元素Bは、La、Eu、及びYbからなる群から選ばれるいずれか1以上を含み、
前記元素Cは、Al、Ga、及びInからなる群から選ばれるいずれか1以上を含み、
さらに、前記元素A〜Cとして、少なくともBa、Eu、Yb、In、及びGaを含む
ものが好ましい。
組成物(2)は、以下のような利点がある。
すなわち、組成物(2)は、元素Aとして、少なくともBaを含むので、Baを含まない組成物に比べて、高い電気伝導度σが得られる。
また、組成物(2)は、元素Bとして、少なくともYb及びEuを含むので、Ybのみを含む組成物に比べて高い電気伝導度σが得られる。
さらに、組成物(2)は、元素Cとして、少なくともIn及びGaを含むので、出力因子PFの増大と、熱伝導度κの低減とを同時に達成することができる。
[1.3.3. 組成物(3)]
n型熱電材料は、上述した条件(1)〜(3)に加えて、
前記元素Aは、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれるいずれか1以上を含み、
前記元素Bは、La、Eu、及びYbからなる群から選ばれるいずれか1以上を含み、
前記元素Cは、Al、Ga、及びInからなる群から選ばれるいずれか1以上を含み、
前記元素A〜Cとして、少なくともBa、Eu、Yb、In、及びGaを含み、かつ、
0.1≦a≦0.3、0.3≦b≦0.35、0.2≦c≦0.3、
0.5≦x≦0.95、及び、0≦y≦0.2
であるものが好ましい。
組成物(3)は、以下のような利点がある。
すなわち、組成物(3)は、充填元素Rの種類に加えて、各元素の添加量が最適化されているため、出力因子PFの増大と熱伝導度κの低減とを同時に達成することができる。そのため、組成物(3)は、本質的に高い熱電特性を持つ。さらに、後述する結晶粒径の粒径分布のピーク値及び異相の量を最適化することによって、823Kでの無次元性能指数ZTは、1.5以上、1.6以上、あるいは、1.7以上となる。
[1.4. 粒径分布のピーク値(条件(4))]
熱電材料において、粒界は、フォノンの散乱源となる。そのため、結晶粒径が小さくなるほど、熱伝導度κが低下し、高い熱電特性が得られる。しかしながら、一般に、熱電材料の結晶粒径を小さくすることは容易ではない。特に、酸化しやすい元素を含む材料や粉砕中に分解による元素の析出を生じやすい材料において、酸化や分解を生じさせることなく粉末を微細化することは難しい。
これに対し、後述する粉砕方法を用いると、酸化や分解を生じさせることなく、粉末を微細化することができる。また、この微粉末を用いて焼結体を作製すると、結晶粒径が極めて微細な焼結体が得られる。具体的には、n型熱電材料を構成する主相の結晶粒径の粒径分布のピーク値が150nm以下である焼結体が得られる。製造条件を最適化すると、粒径分布のピーク値は、100nm以下、あるいは、50nm以下となる。
特に、粒径分布のピーク値が50nm以下になると、823Kでの無次元性能指数ZTは、1.5以上となる。
ここで、「粒径分布のピーク値」とは、焼結体の結晶粒径のヒストグラムのピーク値(最頻値)をいう。
[1.5. 異相(条件(5))]
上述したように、後述する方法を用いると、充填元素を異相として析出させることなく焼結体の結晶粒径を極めて微細化することができる。具体的には、製造条件を最適化することにより、元素A〜Cに由来する異相の量は、5%以下、4%以下、3%以下、あるいは、2%以下となる。
ここで、「異相」とは、充填スクッテルダイト系化合物(主相)とは異なる相をいう。
「異相の量」とは、焼結体の断面を顕微鏡で観察したときに、観察視野の面積に対する観察視野に含まれる異相の面積の割合をいう。
[1.6. 無次元性能指数]
上述したように、充填元素Rの種類及び量、並びに、結晶粒径及び異相の量を最適化すると、n型熱電材料の無次元性能指数(ZT)が向上する。ZTは、温度の関数であり、最大のZTが得られる温度が存在する。組成及び組織を最適化すると、823KでのZT値は、1.5以上となる。また、組成及び組織をさらに最適化すると、823KでのZT値は、1.6以上、あるいは、1.7以上となる。
[2. 熱電材料の製造方法]
本発明に係る熱電材料の製造法方法は、溶解・鋳造工程と、仮焼工程と、粉砕工程とを備えている。本発明に係る方法は、さらに焼結工程を備えていても良い。
[2.1. 溶解・鋳造工程]
まず、本発明に係るn型熱電材料が得られるように原料を秤量し、不活性雰囲気中で前記原料を溶融させ、インゴットを得る(溶解・鋳造工程)。
原料は、純金属でも良く、あるいは、2種以上の元素を含む合金でも良い。原料の配合比は、目的とする組成を有するn型熱電材料が得られる配合比であれば良い。また、原料の配合は、原料の酸化を防ぐために、非酸化雰囲気下(例えば、Arなどの不活性ガス雰囲気下)で行うのが好ましい。
次に、配合された原料を溶解及び鋳造し、インゴットを得る。
溶解及び鋳造は、原料の酸化を防ぐために、非酸化雰囲気下(例えば、真空中、Arなどの不活性ガス雰囲気下など)で行うのが好ましい。
溶解温度は、均一な溶湯が得られる温度であればよい。最適な溶解温度は、原料組成にもよるが、通常、1100℃〜1200℃である。
鋳造方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。
[2.2. 仮焼工程]
溶解・鋳造工程で得られたインゴットをそのまま次工程に供しても良い。しかし、多元素を含むインゴットは、一般に偏析が起きやすい。そのため、インゴットの状態で、又は、インゴットを粗粉砕することにより得られる粗粉末の状態で、インゴット又は粗粉末を仮焼(アニール処理)するのが好ましい(仮焼工程)。
仮焼条件は、原料を酸化させることなく、成分を均一化できる条件であればよい。仮焼温度は、原料組成にもよるが、通常、500℃〜800℃である。仮焼時間は、原料組成や仮焼温度にもよるが、通常、72時間〜168時間である。
[3.3. 粉砕工程]
次に、仮焼工程で得られた生成物(すなわち、仮焼後のインゴット又は粗粉末)を粉砕し、微粉末を得る(粉砕工程)。
本発明においては、仮焼工程で得られた生成物を、酸素濃度が1ppm以下に制御された不活性雰囲気下において、酸化や前記充填元素の析出を生じさせることなく微細化させる。さらに、前記微粉末を焼結させたときに、焼結体に含まれる結晶粒径の粒径分布のピーク値が150nm以下となるように、前記生成物を微細化する。この点が、従来とは異なる。
原料の酸化を防ぐためには、酸素濃度が1ppm以下に制御された不活性雰囲気下において粉砕を行う必要がある。酸素濃度を1ppm以下に制御する方法は、特に限定されない。具体的には、仮焼工程で得られた生成物を粉砕容器に充填するところから粉砕を終了するまでの一連の作業を、酸素濃度が1ppm以下に制御されたグローブボックス内において行うのが好ましい。
また、粉砕は、酸素濃度が1ppm以下に制御された不活性雰囲気下で、かつ、有機溶媒中において行っても良い。有機溶媒中で粉砕を行うと、酸化や充填元素の析出を生じさせることなく、粉末を微細化することができる。使用する有機溶媒は、少なくとも原料を酸化させないものであれば良い。また、粉末を微細化するためには、有機溶媒は、粉砕中における粉末間の凝集を抑制可能なものが好ましい。
あるいは、粉砕は、ポッド内を真空にした状態で行っても良い。
粉砕条件は、焼結体の特性に影響を与える。一般に、粉砕が不十分であると、結晶粒が十分に微細化された焼結体を得ることができない。一方、過剰な粉砕は、粉砕装置からの不純物の混入量を増大させる原因となる。また、メカニカルアロイング法のような数十時間に及ぶ粉砕は、母相を分解させる場合がある。
最適な粉砕条件は、粉砕方法、母相の組成などにより異なる。例えば、ボールミルで粉砕する場合、回転数は、400〜900rpmが好ましい。粉砕時間は、回転数にもよるが、0.5〜数時間が好ましい。
[3.4. 焼結工程]
次に、前記微細化工程で得られた微粉末を焼結させる(焼結工程)。
焼結は、少なくとも酸化や前記充填元素の析出を生じさせない条件下(すなわち、不活性ガス雰囲気下)で行う必要がある。また、焼結は、焼結体に含まれる結晶粒径の粒径分布のピーク値が150nm以下となる条件下で行う必要がある。
焼結方法及び焼結条件に関するその他の点は、特に限定されるものではなく、原料組成に応じて最適な方法及び条件を選択することができる。
一般に、焼結温度が高くなるほど、短時間で緻密な焼結体が得られる。しかしながら、焼結温度が高くなりすぎると、液相が生じて結晶粒が粗大化したり、あるいは母相の分解が生じる可能性がある。最適な焼結温度は、原料組成や焼結方法にもよるが、通常、500〜700℃程度である。
また、焼結時間が長すぎると、結晶粒が粗大化する。最適な焼結時間は、焼結温度や母相の組成にもよるが、通常、1分〜1時間程度である。
[4. 作用]
[4.1. 充填元素]
一般に、熱電材料の変換効率は、無次元性能指数ZTと1対1の対応関係があり、ZTが大きいほど変換効率は大きくなる。ZTは、以下の式で表される。
ZT=[(σ×S2)/κ]×T=[PF/κ]×T
(σ:電気伝導度、S:ゼーベック係数、κ:熱伝導度、T:絶対温度)
この式より、ZTを向上させるには、σ×S2(=PF)を向上させるか、κを低減すればよいことがわかる。
Co4Sb12系材料では、空孔サイトに種々の充填元素Rをドーピングするとキャリア濃度が増加する。その結果、電気伝導度σが増加する。これと同時に、充填元素Rにより格子振動が共鳴的に散乱されるため、熱伝導度κが低減する。通常、この充填元素Rの固溶濃度は低く、高濃度にドーピングすると析出して、十分に性能向上を実現できない。
これに対し、複数の充填元素Rを組み合わせてドーピングすると、充填元素Rの析出が抑制され、ZTの向上が可能となる。また、充填元素Rは、空孔サイト内で振動するが、イオンサイズなどに依存して固有の振動数を有している。そのため、複数種類の充填元素Rを導入することで、より幅広い周波数帯の格子振動(フォノン)を散乱し、熱伝導度κを効果的に低減することができる。
上記効果のため、アルカリ土類金属元素、希土類元素、IIIB族元素などの種類の異なる元素を組み合わせ、かつ、ある組成範囲に限定して充填元素Rを導入すると、熱電特性が向上する。
また、充填元素Rの種類によって熱伝導度κの低減度合いは異なる。例えば、イオン半径の小さな充填元素Rを導入することで熱伝導度κをより低減することができる。さらに、充填元素Rの価数や固溶しやすさなどにより、出力因子PFに与える影響も元素種ごとに異なる。
そのため、熱伝導度κの低減に効果的な元素と、出力因子PFの改善に効果的な元素とを適切に組み合わせることで、ZT値を効果的に改善することができる。
さらに、充填元素Rは、電子ドーパントであるため、固溶量を増やすとキャリア濃度が増加する。しかしながら、CoサイトをホールドーパントのFeで置換することで、キャリア濃度が最適化される。その結果、PFが向上し、これによってZTがより向上する。
例えば、Co4Sb12系材料において、充填元素数を3種類に増やすことで、ZTを大幅に改善できることが知られている。しかしながら、非特許文献2を参考に、ZT=1.5程度の性能が報告されている組成を検討したが、充填元素量xが0.2程度の組成ではZT値を1以上にすることができなかった。
一方、我々の検討では、充填元素量xを多くするほど、格子熱伝導度κphが低下した。但し、充填元素量xが多くなると、キャリア濃度も高くなるため、キャリア熱伝導度κelが高くなった。この場合、Fe置換によりキャリア濃度を最適化することで、ZTをより高くすることができる。
特許文献3では、充填元素量xが0.6以上で、かつ、5種類の元素(Ca、Yb、Al、Ga、In)を含む系で高いZT値が報告されている。しかしながら、5種類より元素数を増やした場合のデータはない。
一方、我々が検討した結果、充填元素数を5種類より多くし、さらに充填元素Rの組み合わせを最適化することで、ZT値が改善されることがわかった。また、5種類の元素でも特許文献3を超える性能を実現できる組み合わせ(例えば、Ba、Yb、Al、Ga、Inなど)が存在することも分かった。
[4.2. 粒径分布のピーク値及び異相]
熱電材料において、粒界は、フォノンの散乱源となる。そのため、結晶粒径が小さくなるほど、熱伝導度κが低下し、高い熱電特性が得られる。しかしながら、一般に、熱電材料の結晶粒径を小さくすることは容易ではない。特に、酸化しやすい元素を含む材料や粉砕中に分解による元素の析出を生じやすい材料において、酸化や分解を生じさせることなく結晶粒を微細化することは難しい。
例えば、化学溶液法を用いたナノ構造化では、希土類イオンの還元が困難である。そのため、この方法を用いて充填スクッテルダイトのナノ粒子を合成するのは困難である。
また、充填スクッテルダイトをボールミル等で粉砕する場合、一般に、粒径を小さくするためには、長時間の処理が必要である。しかし、その処理に伴い母相が分解してしまう問題がある。一方、母相を単相化するためには長時間のアニールが必要であるが、その間に粒成長が生じやすい。更に、長時間のアニール中に希土類元素などの充填元素が析出してしまい、ラトリング効果が低下する問題もある。
さらに、高圧下ねじり加工(HPT)法で作製した材料は、試料の測定箇所で性能のバラツキが大きい。また、生産性が低く、量産化しにくい。
これに対し、酸素濃度を1ppm以下に制御した不活性雰囲気下において母合金を粉砕すると、酸化や充填元素の析出、あるいは、異相の析出を生じさせることなく、粉末を極めて微細にすることができる。特に、粉砕条件を最適化すると、結晶粒径が極めて微細な焼結体を得ることが可能な微粉末が得られる。また、このような微粉末を適切な条件下で焼結させると、粒径分布のピーク値が150nm以下である焼結体が得られる。その結果、熱伝導度κが低下し、これによってZT値が向上する。
(実施例1、比較例1〜2)
[1. 試料の作製]
[1.1. 母合金の作製]
Arなどの不活性雰囲気中で、組成が(Aabc)Co4-yFeySb12(x=a+b+c)となるように、原料を秤量した。原料には、アルカリ土類金属元素、希土類元素、IIIB族元素、Co、Fe、及びSbを用いた。表1に、各試料の組成を示す。
Figure 0006413917
これらの原料を石英管に入れて、真空ポンプで10-3Pa以下に真空引きした。この状態で石英管の口を加熱して封管した。さらに、石英管を1100℃に加熱して原料を溶融させ、冷却してインゴットを得た。この時、原料と石英管の反応を抑制するため、石英管と原料の間にカーボン箔あるいはタングステン箔を挟んだ。
作製したインゴットを不活性雰囲気中で粉砕混合した。これを再度、石英管に封入し、固相拡散により組成の均一性を向上させるために、600〜900℃で100時間以上加熱した。作製した粗粉末(母合金)を3等分し、それぞれ異なる条件下で粉砕を行った。
[1.2. 母合金の微細化及び焼結体の作製]
[1.2.1. 比較例1]
3等分した粗粉末の一つを不活性雰囲気中で手粉砕した。これを放電プラズマ焼結(SPS)装置で50MPa、500〜800°で10分間加熱し、焼結体を得た。
[1.2.2. 比較例2]
ZT値を更に改善するために、ボールミル処理による結晶粒の微細化を検討した。3等分した粗粉末の一つをグローブボックス(GB)中で手粉砕し、25μmのメッシュを通過させた。次に、手粉砕した粉末をGBから取り出し、大気中において、この粉末をジルコニア製ポッドに入れた。さらに、ジルコニア製ポットにアルコール溶媒を入れてボールミル粉砕した。
ボールミル処理後の粉末を、再度25ミクロンのメッシュを通過させた後、SPS装置を用いて50MPa、500〜800℃で10分間加熱し、焼結体を得た。
[1.2.3. 実施例1]
残りの粗粉末に対しては、粉砕時の酸化や充填元素の析出を抑制するために、酸素濃度を1ppm以下に制御したGB中に卓上ボールミル装置を持ち込んで、200〜900rpmの条件で1時間粉砕処理を行った。
ボールミル処理後の粉末を、再度25μmのメッシュを通過させた後、GB内においてSPS焼結用の型に粉末を充填した。型をGBから取りだし、素早くSPS装置にセットした。さらに、SPS装置を用いて、50MPa、500〜800℃で10分間加熱し、焼結体を得た。
[2. 試験方法]
[2.1. 結晶粒径]
結晶粒径の評価は、焼結体をSEM−EBSD測定することで行った。測定された個々の結晶粒径からヒストグラムを作成し、ヒストグラムのピーク値(最頻値)を求めた。以下、粒径分布のピーク値を単に「結晶粒径」という。
[2.2. XRD測定、SEM観察、及びTEM観察]
ボールミル処理した粉末のXRD測定を行った。また、焼結体のSEM観察及びTEM観察を行った。
[2.3. 熱電特性]
焼結体を10×3×3mmのサイズに加工した。この棒状試料を用いて、100〜600℃の温度範囲で電気伝導度σ及びゼーベック係数Sを評価した。測定には、熱電特性評価装置(アルバック社、ZEM3)を用いた。
焼結体を直径12.5mm×厚さ1mmのサイズに加工した。この円板状焼結体を用いて、レーザーフラッシュ法により室温から600℃の温度範囲で熱伝導度κを評価した。
[3. 結果]
[3.1. 結晶粒径]
実施例1では、ボールミル処理時の回転数の増加に伴い、焼結体の結晶粒径は低下した。すなわち、ボールミル処理時の回転数により、焼結体の結晶粒径を制御できることが分かった。
[3.2. 異相]
比較例2(試料No.8)の焼結体に関しては、SEM観察の結果、充填元素に由来する酸化物が析出していることがわかった(図1)。また、比較例2の焼結体は、ボールミル処理しない試料(比較例1)と比べてZT値がほとんど変化しないか、低下していることがわかった。この場合、ボールミル回転数を増加させるほど、性能の低下が著しかった。
これに対し、実施例1の条件下でボールミル処理した粉末のXRD測定を行ったところ、異相のピークは確認されなかった。また、600rpmで処理した実施例1の試料(試料No.8)について、SEM観察を行った。その結果、充填元素に由来する析出物は、ほとんど確認されなかった(図2)。図2中、黒い点や白い点がすべて異相であると仮定し、画像処理により母相に対する面積割合を見積もると、5%程度であった。また、同じ試料をTEM観察したところ、粒界部分に若干YbやIIIB族元素に由来する析出物が認められたが、その量は極めて少なく、酸化は確認できなかった(図3)。
[3.3. 熱電特性]
図4に、(Ba0.1La0.05Eu0.05Yb0.2Al0.1Ga0.1In0.1)Co4Sb12の組成の試料に関して、結晶粒径と熱伝導度κとの関係、及び、結晶粒径とZT値との関係を示す。結晶粒径がミクロンオーダーでは、熱伝導度κもZT値もほとんど変化しなかった。しかし、結晶粒径がナノサイズになると、熱伝導度κが低下し、ZT値が向上することがわかった。これらの結果より、熱電特性の向上のためには、充填元素の析出を抑制し、結晶粒径をナノサイズまで小さくすることが有効であることがわかる。特に、結晶粒径が150nm以下の場合には、ZT値も1.5以上まで向上した。
図5に、結晶粒径がミクロンサイズの場合と、150nm以下である場合の無次元性能指数ZTの組成依存性(x及びyの値)を示す。図中の番号は、表1の試料番号と組成に対応する。この図から明らかなように、同一組成では、結晶粒径がナノサイズの方が明らかにZT値が向上することがわかる。以上より、高性能化を実現するためには、充填元素を酸化析出させずに、ナノサイズ化することが有効であることがわかった。また、x=0.7の組成では、y=0の場合と比べて、y>0の方がZT値が高くなった。
(実施例2)
[1. 試料の作製]
異相の析出量がZT値に及ぼす影響を明らかにするために、図4と同じ組成の粉末試料((Ba0.1La0.05Eu0.05Yb0.2Al0.1Ga0.1In0.1)Co4Sb12)に対し、雰囲気中の酸素濃度が異なる条件でボールミル処理した。処理後の粉末をSPS装置で焼結した。
[2. 試験方法]
焼結体のSEM観察及び熱電特性の評価を行った。SEM写真をフォトショップ(登録商標)で画像処理し、異相部分を黒く塗りつぶし、マトリックス部分を白くして2値化した。処理後の写真に対して、全体に対する異相(黒く塗りつぶした部分)の面積割合を算出し、異相の析出量と定義した。
[3. 結果]
図6に、異相の析出量とZTの変化量との関係を示す。図6中、縦軸の値は、標準試料のZT値(ZT0)に対する個々の試料のZT値(ZT)の変化の割合(=(ZT−ZT0)×100/ZT0)を表す。標準試料には、不活性雰囲気下で手粉砕した同一組成の試料(比較例1)を用いた。
図6より、異相の析出量が少なくなるほど、ZT値が向上することがわかる。充填元素のドーピングは、電気伝導度σを増加させ、かつ、熱伝導度κを低減させる作用がある。一方、粉砕による結晶粒の微細化は、熱伝導度κをさらに低減させるが、電気伝導度σも低下させる。そのため、微細化による熱伝導度κの低下分が電気伝導度σの低下分を上回れば、ZT値は向上する。一方、充填元素の不適切な組み合わせや過度の粉砕などにより充填元素の析出量が増えると、電気伝導度σと熱伝導度κの増減のバランスが崩れ、ZT値が低下する。
図6より、標準試料と同等以上のZT値を得るためには、異相の析出量は、5%以下が好ましいことがわかる。また、異相の析出量は、さらに好ましくは、4%以下、さらに好ましくは、3%以下であることがわかる。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
本発明に係るn型熱電材料は、太陽熱発電器、海水温度差熱電発電器、化石燃料熱電発電器、工場排熱や自動車排熱の回生発電器等の各種の熱電発電器、光検出素子、レーザーダイオード、電界効果トランジスタ、光電子増倍管、分光光度計のセル、クロマトグラフィーのカラム等の精密温度制御装置、恒温装置、冷暖房装置、冷蔵庫、時計用電源等に使用することができる。

Claims (10)

  1. 以下の構成を備えたn型熱電材料。
    (1)前記n型熱電材料は、次の(1)式で表される組成を有する。
    (Aabc)Co4-yFeySb12 ・・・(1)
    但し、
    0≦a≦0.4、0≦b<1.0、0<c≦0.5、
    a+b+c=x、0.4≦x≦1.0、0≦y≦0.5、a+b>0、
    前記元素A(充填元素A)は、Mg、Ca、Sr、及びBaからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
    前記元素B(充填元素B)は、Y、Sc、及 57 Laから 71 Luまでのランタノイド元素からなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素、
    前記元素C(充填元素C)は、Al、Ga、及びInからなる群から選ばれるいずれか1種以上の元素。
    (2)前記Aabc(=Rx)は、次の(2)式を満たす。
    x=[BadA'1-d]a[YbeB'1-e]b[InfC'1-f]c ・・・(2)
    但し、0<d≦1、0<e<1、0<f≦1、ad+be>0。
    前記元素A'は、Ba以外の前記充填元素A、
    前記元素B'は、Yb以外の前記充填元素B、
    前記元素C'は、In以外の前記充填元素C。
    (3)前記n型熱電材料は、合計5種類以上の前記充填元素A〜前記充填元素Cを含む。
    (4)前記n型熱電材料を構成する主相の結晶粒径の粒径分布のピーク値は、150nm以下である。
    (5)前記元素A〜Cに由来する異相の量は、5%以下である。
  2. 前記粒径分布のピーク値が50nm以下であり、
    823Kでの無次元性能指数(ZT)値が1.5以上である
    請求項1に記載のn型熱電材料。
  3. 前記元素Aは、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれるいずれか1以上を含み、
    前記元素Bは、La、Eu、及びYbからなる群から選ばれるいずれか1以上を含み、
    前記元素Cは、Al、Ga、及びInからなる群から選ばれるいずれか1以上を含み、
    さらに、前記元素A〜Cとして、少なくともBa、Yb、及びInを含む
    請求項1又は2に記載のn型熱電材料。
  4. 前記元素A〜Cとして、少なくともBa、Eu、Yb、In、及びGaを含む請求項3に記載のn型熱電材料。
  5. 0.1≦a≦0.3、0.3≦b≦0.35、0.2≦c≦0.3、
    0.5≦x≦0.95、及び、0≦y≦0.2
    である請求項4に記載のn型熱電材料。
  6. 823Kでの無次元性能指数(ZT)値が1.6以上である請求項5に記載のn型熱電材料。
  7. 823Kでの無次元性能指数(ZT)値が1.7以上である請求項5に記載のn型熱電材料。
  8. 請求項1から7までのいずれか1項に記載のn型熱電材料が得られるように原料を秤量し、不活性雰囲気中で前記原料を溶融させ、インゴットを得る溶解・鋳造工程と、
    前記インゴット又は前記インゴットを粗粉砕することにより得られる粗粉末を仮焼する仮焼工程と、
    前記仮焼工程で得られた生成物を、酸素濃度が1ppm以下に制御された不活性雰囲気下において、酸化や前記充填元素の析出を生じさせることなく微細化し、微粉末を得る粉砕工程とを備え、
    前記粉砕工程は、前記微粉末を焼結させたときに、焼結体に含まれる結晶粒径の粒径分布のピーク値が150nm以下となるように、前記生成物を微細化するものである
    n型熱電材料の製造方法。
  9. 前記粉砕工程は、さらに有機溶媒中において前記生成物を微細化するものである請求項8に記載のn型熱電材料の製造方法。
  10. 前記微細化工程で得られた微粉末を、酸化や前記充填元素の析出を生じさせることなく焼結させる焼結工程をさらに備え、
    前記焼結工程は、焼結体に含まれる結晶粒径の粒径分布のピーク値が150nm以下となるように、前記微粉末を焼結させるものである
    請求項8又は9に記載のn型熱電材料の製造方法。
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