JP6155141B2 - 熱電変換材料およびその製造方法 - Google Patents
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ZT=S2T/ρκ … [1]
式[1]中、S、ρ、κおよびTは、それぞれ、ゼーベック係数、電気抵抗率、熱伝導度および測定温度を表す。
たとえば、ビスマス・テルル系材料は室温では大きなZT値を有するが、100℃を越えれば急激にそのZT値が小さくなり、廃熱発電のような200〜800℃程度では、熱電変換材料として利用できなくなる。また、ビスマス・テルル系、鉛・テルル系は環境負荷物質の鉛とテルルを含んでいる。
また、特許文献3には、Ba−Ga−Al−Siクラスレート化合物において800℃でのZTが0.4以上であることが開示されている。
すなわち、特許文献1に記載の技術では、ZTが明らかではなく、性能が低いことが懸念される。特許文献2に記載の技術では、p型については開示されているが、n型についてのZTは明らかではなく、性能が低いことが懸念される。
特許文献3に記載の技術では、600℃でのZTが明らかではなく、たとえば廃熱発電にも利用可能とするなど、さらなる性能向上が望まれる。特許文献4に記載の技術では、希少元素であるPdが使用されており、高価なことが懸念される。
PF=S2/ρ … [2]
本発明にかかる熱電変換材料は、Si系クラスレート化合物を主体とし、このSi系クラスレート化合物の母相中に、第二相としてSi化合物を分散させたものである。
クラスレート化合物は格子熱伝導率が低いという特性を有する。そこで、熱電変換材料の性能指数を向上させるためにはゼーベック係数を増加させることが重要である。なお、これらの物性値は熱電変換材料のキャリア濃度に依存するところが大きい。
本実施形態にかかるSi系クラスレート化合物は、好ましくは、組成式BaaGabSic(7≦a≦8、14≦b≦18、28≦c≦32、a+b+c=54)で表されるクラスレート化合物である。
本発明では、Si系クラスレート化合物を主体としているが、Si化合物を形成する元素を添加し、第二相としてSi化合物を析出(または晶出)させることにより、Si量(組成式中のcの値)を低減したSi系クラスレート化合物を主体とする熱電変換材料を実現した。
本実施形態にかかるSi系クラスレート化合物は、Siが含まれたクラスレート化合物であり、好ましくは組成式BaaGabSic(7≦a≦8、14≦b≦18、28≦c≦32、a+b+c=54)で表される。
b+c=46
このような関係を満たせば、当該Si系クラスレート化合物はSiクラスレート相を主体とするものとして実現され、理想的な結晶構造をとりうる。
なお、本実施形態にかかる「熱電変換材料」は、上記Si系クラスレート化合物を主成分とし、少量の他の添加物が含まれてもよい。
本実施形態にかかる「Si系クラスレート化合物」は、Siクラスレート相を主体とするものであればよく、分散したSi化合物に含有されている同じ元素が少量含有されていてもよいし、さらに少量の他の添加物が含まれてもよい。
本実施形態にかかるSi化合物は、Si系クラスレート化合物中に分散している。
かかるSi化合物は、好ましくは、Siと、V、Cr、Co、Mn、Mo、Nb、Ti、Zr(これらの金属を以後「M」とする。)から選択される少なくとも1種の金属とからなる金属間化合物であり、さらに好ましくはSiと、V、Crから選択される少なくとも1種とからなる金属間化合物である。
本発明の好ましい実施形態にかかる熱電変換材料の製造方法は、主に、
(1)Si系クラスレート化合物を形成する原料に、Si系クラスレート化合物の母相中に分散させるSi化合物を形成する元素を添加し、混合・溶融・凝固して所定の組成のクラスレート化合物を調製する調製工程と、
(2)前記クラスレート化合物を粉砕して微粒子とする粉砕工程と、
(3)前記微粒子を焼結する焼結工程と、
を有する。これらの工程を経ることにより、所定の組成を有し、ポア(空隙)が少ない材料が得られるという利点がある。
調製工程では、所定の組成を有しかつ均一な組成のクラスレート化合物のインゴットを製造する。まず、所望のクラスレート化合物の組成となるように、所定量の原料(Ba、Ga、Si、M)を秤量し混合させる。原料は、単体であってもよいし、合金や化合物であってもよく、その形状は、粉末でも片状でも塊状であってもよい。
溶融方法としては、たとえば、抵抗発熱体による加熱、高周波誘導溶解、アーク溶解、プラズマ溶解、電子ビーム溶解などが挙げられる。
ルツボとしては、グラファイト、アルミナ、コールドクルーシブルなどが、加熱方法に対応して適宜用いられる。
溶融の際は、材料の酸化を防ぐために、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気下でおこなわれるのが好ましい。
短時間で均質に混ざり合った状態とするためには、好ましくは微細な粉末状の原料が混合されるのがよい。ただし、Baとしては、酸化を防ぐために、好ましくは塊状を呈するものを使用する。また、溶融時に機械的な攪拌または電磁的な攪拌を加えるのも好ましい。
アニール処理の処理時間は、製造時の省エネルギーを考慮すると、なるべく短時間とされることが望まれるが、アニール効果を考慮すると、長い時間が必要とされる。アニール処理の処理時間は、好ましくは1時間以上であり、さらに好ましくは1〜10時間がさらに好ましい。
粉砕工程では、調製工程によって得られたインゴットを、ボールミルなどを用いて粉砕し、微粒子状のクラスレート化合物を得ることができる。得られる微粒子としては、焼結性を向上するために粒度が細かいことが望まれる。本実施形態では、微粒子の粒径は、好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上75μm以下である。
焼結工程では、前記粉砕工程で得られた微粉末状のクラスレート化合物を焼結して、均質で空隙の少ない、所定の形状の固体を得ることができる。焼結方法としては、放電プラズマ焼結法、ホットプレス焼結法、熱間等方圧加圧焼結法などを用いることができる。
特に、焼結工程では、微粉末状のクラスレート化合物を上記焼結温度まで加熱してその温度で上記焼結時間保持し、その後に当該クラスレート化合物を加熱前の温度まで冷却する。この場合、微粉末状のクラスレート化合物を焼結温度まで加熱する工程とその温度で保持している工程とでは加圧状態とし、その後当該クラスレート化合物を冷却する工程では加圧状態を解除する。
かかる圧力操作によれば、微粉末状のクラスレート化合物の焼結工程での割れを抑制することができる。
前記の製造方法によって、Si系クラスレート化合物およびSi化合物が生成されたかどうかは、組成分析および粉末X線回折(XRD)により確認することができる。具体的には、焼結後のサンプルを再度粉砕して、JIS K 0131に準ずる方法により回折X線を測定し、得られるピークがタイプ1クラスレート相(Pm−3n、No.223)およびSi化合物相を示すものであれば、それぞれタイプ1クラスレート化合物、Si化合物が合成されたことを確認できる。
「最大回折ピーク強度」とは、前記回折ピーク強度が最大のものとする。
また、「回折ピーク強度比」とは、各化合物相の最大回折ピーク強度の割合で定義する。たとえば、Si化合物相の最大回折ピーク強度(IP)の、Siクラスレート化合物相の最大回折ピーク強度(IHS)に対する、回折ピーク強度比αは、それぞれの最大回折ピーク強度を用いて、下記の式[3]で定義される。
回折ピーク強度比α(%)=(IP)/(IHS)×100 … [3]
Si系クラスレート化合物相の最大回折ピーク強度は、空間群Pm−3n(No.223)を有するSi系クラスレート化合物の(123)面由来の回折ピーク強度である。VSi2化合物相の最大回折ピーク強度は、空間群P6222(No.180)を有するVSi2化合物の(111)面由来の回折ピーク強度である。CrSi2化合物相の最大回折ピーク強度は、空間群P6222(No.180)を有するCrSi2化合物の(111)面由来の回折ピーク強度である。NbSi2化合物相の最大回折ピーク強度は、空間群P6222(No.180)を有するNbSi2化合物の(111)面由来の回折ピーク強度である。MoSi2化合物相の最大回折ピーク強度は、空間群I4/mmm(No.139)を有するMoSi2化合物の(103)面由来の回折ピーク強度である。CoSi2化合物相の最大回折ピーク強度は、空間群Fm−3m(No.225)を有するCoSi2化合物の(220)面由来の回折ピーク強度である。
これらの面の最大回折ピーク強度を用い、上記の式[3]から回折ピーク強度比αを計算することができる。
次に、上記の方法で製造される熱電変換材料の無次元性能指数ZTを算出するための特性評価について説明する。
特性評価項目は、ゼーベック係数S、電気抵抗率ρである。
特性評価試験では、電子線マイクロアナライザー(島津製作所製EPMA−1610)による組成分析とミクロ組織観察、焼結密度測定をおこなう。各種特性評価用サンプルは、20mmφ(直径20mm)×5〜20mm(高さ5〜20mm)の円柱状焼結体から、切り出し、整形する。
純度2N以上の高純度のBaと、純度3N以上の高純度のGaと、純度3N以上の高純度のSiと、純度2N以上の高純度のVまたは純度3N以上の高純度のCrとを、所定の配合比率で秤量し(表1参照)、原料混合物を調製した。
(2.1)組成分析および組織観察
図1に、実施例1のサンプルにおける(a)Si元素における面分析結果、(b)V元素における面分析結果、を示す。
図1(a)および(b)において、黒または白のコントラストの化合物が確認され、実施例1のサンプルにはSiおよびVが含有されていることを確認できた。
図2(a)および(b)においても、黒または白のコントラストの化合物が確認され、実施例4のサンプルにはSiおよびCrが含有されていることを確認できた。
表2から、実施例1〜7および比較例1〜3のサンプルにおいて、所望の組成BaaGabSic(7≦a≦8、14≦b≦18、28≦c≦32、a+b+c=54)の化合物が得られたことがわかる。
比較例1のサンプルは、実施例1〜7および比較例2〜4にくらべて、その秤量配合比におけるBaに対するSi割合が最も小さいにもかかわらず、Si系クラスレート化合物の組成比におけるBaに対するSi割合が最も大きい。
このことから、Si化合物を含有している熱電変換材料は、Si化合物を含有していない熱電変換材料よりも、Si系クラスレート化合物の組成比におけるBaに対するSi割合が小さいことがわかる。
得られたサンプルを、粉末X線回折で分析した。
得られた結果から、不純物相のSi系クラスレート化合物相に対する回折ピーク強度比を算出したところ、すべてのサンプルで50%以下であることを確認できた。また、遷移金属Si化合物であるVSi2またはCrSi2構造に由来する回折ピークも確認できた。
得られたサンプルについて、上記「(D)特性評価試験」の記載のとおりに、特性評価を行い、ゼーベック係数および電気抵抗率を測定した。
ゼーベック係数の測定結果から、すべてのサンプルでゼーベック係数が負となり、各サンプルがn型であることがわかった。
さらにゼーベック係数および電気抵抗率の測定結果から、式[2]に基づき、パワーファクターも算出した。
表3に示すとおり、回折ピーク強度比α(%)が0<α<22の条件を満たしている実施例1〜7のサンプルにおいて、ゼーベック係数の絶対値|S|が大きく90μV/K以上であり、600℃におけるパワーファクターが700μW/mK2以上であることがわかる。
本実施例によれば、Si系クラスレート化合物中に遷移金属Si化合物が分散することで、Si系クラスレート化合物のSi量割合は低減することがわかる。また、遷移金属Si化合物相のSi系クラスレート化合物相に対する回折ピーク強度比α(%)を、0<α<22とすることが、ゼーベック係数を増大させ、パワーファクターを向上させることに有用であることがわかる。
特定の組成式BaaGabSic(7≦a≦8、14≦b≦18、28≦c≦32、a+b+c=54)を有するSi系クラスレート化合物を主体とし、かつ、Si化合物が分散しており、その回折ピーク強度比α(%)が0<α<22である熱電変換材料が、ゼーベック係数の絶対値が90μV/K以上、パワーファクターが700μW/mK2以上という高い特性を得るのに、有用であることがわかる。
Claims (2)
- Si系クラスレート化合物を主体とし、
前記Si系クラスレート化合物の母相中に、第二相としてSi化合物が分散し、
前記Si化合物が、Siと、V、Cr、Co、Mn、Mo、Nb、Ti、Zrから選ばれる少なくとも1種の金属との、化合物であり、
前記Si系クラスレート化合物が、Ba−Ga−Si系クラスレート化合物であり、
粉末X線回折において、前記Si系クラスレート化合物相の最大回折ピーク強度に対する、前記Si化合物の最大回折ピーク強度の回折ピーク強度比α(%)が、0<α<22であることを特徴とする熱電変換材料。 - 請求項1に記載の熱電変換材料を製造する製造方法であって、
Si系クラスレート化合物を形成する原料に、Si化合物を形成する元素としてV、Cr、Co、Mn、Mo、Nb、Ti、Zrから選ばれる少なくとも1種の金属を添加し、混合・溶融・凝固して所定の組成のクラスレート化合物を調製する調製工程と、
前記クラスレート化合物を粉砕して微粒子とする粉砕工程と、
前記微粒子を焼結する焼結工程と、
を有することを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
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