JP6632218B2 - クラスレート化合物ならびに熱電変換材料およびその製造方法 - Google Patents

クラスレート化合物ならびに熱電変換材料およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、クラスレート化合物を主体とした熱電変換材料と、その製造方法に関する。
ゼーベック効果を利用した熱電変換モジュールは、熱エネルギーを電気エネルギーに変換することを可能とする。現実に熱電変換する場合は、p型熱電変換材料とn型熱電変換材料とを用いて、一般的には複数のp型およびn型熱電変換材料を交互に電気的に直列に接続する構造とする。熱電変換モジュールの性質を利用し、産業・民生用プロセスや移動体から排出される排熱を有効な電力に変換することができるため、熱電変換は、環境問題に配慮した省エネルギー技術として注目されている。
ゼーベック効果を利用した熱電変換素子の無次元性能指数ZTは、下記の式[1]で表すことができる。
ZT=ST/ρκ … [1]
式[1]中、S、ρ、κおよびTは、それぞれ、ゼーベック係数、電気抵抗率、熱伝導度および測定温度を表す。
式[1]から明らかなように、熱電変換素子の性能を向上させるためには、素子のゼーベック係数を大きくすること、電気抵抗率を小さくすること、熱伝導度を小さくすることが重要である。高い性能指数を示す熱電変換材料として、従来、ビスマス・テルル系材料、シリコン・ゲルマニウム系材料、鉛・テルル系材料などを用いた熱電変換素子が知られている。
ところで、従来の熱電変換素子は、それぞれ解決すべき課題を有する。たとえば、ビスマス・テルル系材料は室温では大きなZT値を有するが、100℃を越えれば急激にそのZT値が小さくなり、廃熱発電のような200〜800℃程度では、熱電変換材料として利用できなくなる。また、ビスマス・テルル系、鉛・テルル系は環境負荷物質の鉛とテルルを含んでいる。
そこで、熱電性能が良好で環境負荷が少なく、さらに軽量な新しい熱電変換材料が求められている。そのような新しい熱電変換材料の1つとしてクラスレート化合物が注目されている。熱電変換素子として有望なクラスレート化合物にはいくつかの種類が報告されているが、コスト面等からSi系のクラスレート化合物が注目されている。たとえば特許文献1には、Ba−Al−Siクラスレート化合物から構成されるp型の熱電変換材料が開示されている。
特許第4413323号公報(段落0048など)
しかしながら、特許文献1にはp型の熱電変換材料が開示されているにとまり、n型の熱電変換材料については特に言及されていないし、現時点においても、Si系クラスレート化合物から構成される熱電変換材料では、p型およびn型のいずれの熱電変換材料を実現しうるものは知られていない。
したがって、本発明の主な目的は、p型またはn型のいずれの熱電変換材料をも実現しうるクラスレート化合物を提供することにある。
発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、Si系クラスレート化合物に対し10族元素または11族元素を添加することによって、上記課題を解決するに至った。
すなわち本発明の一態様によれば、
化学式BaM1Si(M1=Pt、a≧7.6、b≧3.0、d≧39、a+b+d=54)、は化学式BaM2Si(M2=Ni、a≧7.6、3.0≦c<6.0、d≧39、a+c+d=54)で表されるクラスレート化合物を含む熱電変換材料が提供される。
本発明の他の態様によれば、
化学式BaM1M2Si (M1=Au、Pt、M2=Cu、Ni、AgのうちM1と同族の元素、a≧7.6、f≧1.6、g≧0.2、d≧40、a+f+gd=54)、または化学式BaM3M4Si (M3〜M4=Cu、Au、Ag、a≧7.6、h≧0.2、i≧0.2、d≧40、a+h+i+d=54、M3とM4は異なる元素)で表されるクラスレート化合物が提供される。
本発明の他の態様によれば、
Ba、M1〜M4、Si(M1=Au、Pt、M2〜M4=Cu、Ni、Ag)を原料として請求項1もしくは請求項に記載の熱電変換材料に含まれるクラスレート化合物、又は請求項3もしくは請求項4に記載のクラスレート化合物の組成となるように秤量し、秤量した各原料を混合・溶融・凝固して所定の組成のクラスレート化合物を調製する調製工程と、
前記クラスレート化合物を粉砕して微粒子とする粉砕工程と、
前記微粒子を焼結する焼結工程と、
を有する熱電変換材料の製造方法が提供される。
本発明によれば、ゼーベック係数の極性が制御され、p型またはn型のいずれの熱電変換材料をも実現することができる。
実施例1のサンプルにおけるBEI像を示す図である。 実施例1、6、16、25のサンプルにおけるゼーベック係数と温度との関係を概略的に示す図である。 実施例1、6のサンプルにおけるパワーファクターと温度との関係を概略的に示す図である。
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。無論、本発明は下記に記載する実施形態に限定されるものではない。
(A)熱電変換材料
本実施形態にかかる熱電変換材料は、Si系クラスレート化合物を主体とし、このSi系クラスレート化合物の母相中に、第二相としてSi化合物を分散させたものである。クラスレート化合物は格子熱伝導率が低いという特性を有する。そこで、熱電変換材料の性能指数を向上させるためにはゼーベック係数を増加させることが重要である。なお、これらの物性値は熱電変換材料のキャリア濃度に依存するところが大きい。
(A−1)3元系P・N型クラスレート化合物
本実施形態にかかるSi系クラスレート化合物の一態様は、Siが含まれたクラスレート化合物であり、好ましくは化学式BaM1SiまたはBaM2Si(M1=Au、Pt、M2=Cu、Ni、Ag、a≧7.6、b≧3.0、c≧3.0、d≧39、a+b+d=54またはa+c+d=54)で表される。
好ましくは、M1=Au、Pt、M2=Cu、Ni、Ag、7.6≦a≦8.2、3.0≦b<6.0、3.0≦c<6、39≦d≦45、a+b+d=54またはa+c+d=54である。
(A−2)3元系P型クラスレート化合物
本実施形態にかかるSi系クラスレート化合物の他の態様は、化学式BaM1Si(M1=Au、Pt、a≧7.7、e≧3.9、d≧40、a+e+d=54)で表される。
好ましくは、M1がPtに代表される10族の場合、7.6≦a≦8.2、4.0≦e≦5.5、41≦d≦42.5であり、M1がAuに代表される11族の場合、7.6≦a≦8.2、5.2≦e≦5.9、40≦d≦41.5である。本組成により、Si系p型クラスレート化合物の作製が可能となる。
(A−3)4元系P・N型クラスレート化合物
本実施形態にかかるSi系クラスレート化合物の他の態様は、化学式BaM1M2SiまたはBaM3M4Si(M1=Au、Pt、M2=Cu、Ni、Ag、M3〜M4=Cu、Ni、Ag、a≧7.6、f≧1.6、g≧0.2、h≧0.2、i≧0.2、d≧40、a+f+g+d=54またはa+h+i+d=54、M3とM4は異なる元素)で表される。
好ましくは、M1=Au、Pt、M2=Cu、Ni、Ag、7.6≦a≦8.2、1.6≦f≦5.0、0.2≦g≦4.0、40≦d≦45である。
(A−4)4元系P型クラスレート化合物
本実施形態にかかるSi系クラスレート化合物の他の態様は、化学式BaM1M2SiまたはBaM3M4Si(M1=Au、Pt、M2=Cu、Ni、Ag、M3〜M4=Cu、Ni、Ag、a≧7.6、j≧1.6、k≧0.3、l≧0.3、m≧0.3、d≧40、a+j+k+d=54またはa+l+m+d=54、M3とM4は異なる元素)で表される。
M1がPtに代表される10族元素の場合、好ましくはj≧1.6、k≧0.3であり、さらに好ましくは7.7≦a≦8.1、1.6≦j<3.9、0.3<k≦3.5、41.5≦d≦42.5である。
M1がAuに代表される11族元素の場合、好ましくはj≧1.6、k≧0.7であり、さらに好ましくは7.7≦a≦8.1、1.6≦j<5.2、0.5≦k≦4.0、40≦d≦45である。
以上のクラスレート化合物では、4元系のほうが、3元系よりもAuやPtなどのレアメタルの使用量を低減できるため、好ましい。
本実施形態にかかる熱電変換材料は、(A−1)〜(A−4)のクラスレート化合物を含むものであり、(A−1)〜(A−4)のクラスレート化合物を含む結果、p型またはn型のいずれの熱電変換材料にもなりうる。
かかる構成では、熱電変換材料における(A−1)〜(A−4)のクラスレート化合物の含有量が50%以上であることが好ましい。
本実施形態にかかるSi系クラスレート化合物は、主に、基本的な格子がSiのクラスレート格子から構成され、Ba元素がその内部に内包され、クラスレート格子を構成する原子の一部が(M1=Au、Pt、M2〜M4=Cu、Ni、Ag)で置換された構造を有している。
なお、本実施形態にかかる「熱電変換材料」は、上記Si系クラスレート化合物を主成分とし、少量の他の添加物が含まれてもよい。本実施形態にかかる「Si系クラスレート化合物」は、Siクラスレート相を主体とするものであればよく、分散した物に含有されている同じ元素が少量含有されていてもよいし、さらに少量の他の添加物が含まれてもよい。
更に、ZTによる性能に加え、クラスレート化合物は格子熱伝導率が低いという特性を有するため、熱電特性向上のためには、パワーファクターの向上も重要である。パワーファクター(PF)は、上記のゼーベック係数と電気抵抗率を用いて、下記の式[2]で表される。
PF=S/ρ … [2]
発熱発電にも利用可能な600℃という温度領域でのゼーベック係数(絶対値)を確保することができ、ひいてはパワーファクターをも向上させることができる新規なクラスレート化合物およびその製造方法を提供することにある。
本実施形態にかかるSi化合物においては、熱電変換材料の粉末X線回折におけるSi化合物の最大回折ピーク強度は、同熱電変換材料中のSi系クラスレート化合物の最大回折ピーク強度に対して、回折ピーク強度比α(%)が0<α<22の条件を満たしている(後記参照)。
(B)製造方法
本発明の好ましい実施形態にかかる熱電変換材料の製造方法は、主に、(1)Si系クラスレート化合物を形成する原料を混合・溶融・凝固して所定の組成のクラスレート化合物を調製する調製工程と、(2)前記クラスレート化合物を粉砕して微粒子とする粉砕工程と、(3)前記微粒子を焼結する焼結工程と、を有する。これらの工程を経ることにより、所定の組成を有し、ポア(空隙)が少ない材料が得られるという利点がある。
(1)調製工程
調製工程では、所定の組成を有しかつ均一な組成のクラスレート化合物のインゴットを製造する。まず、所望のクラスレート化合物の組成となるように、所定量の原料を秤量し混合させる。原料は、単体であってもよいし、合金や化合物であってもよく、その形状は、粉末でも片状でも塊状であってもよい。
溶融時間としては、すべての原料が液体状態で均質に混ざり合う時間が必要とされるが、製造に要するエネルギーを考慮すると、溶融時間はできるだけ短時間であることが望まれる。そのため、溶融時間は、好ましくは1〜100分であり、さらに好ましくは1〜10分であり、特に好ましくは1〜5分である。
原料混合物からなる粉末を溶融する方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。溶融方法としては、たとえば、抵抗発熱体による加熱、高周波誘導溶解、アーク溶解、プラズマ溶解、電子ビーム溶解などが挙げられる。ルツボとしては、グラファイト、アルミナ、コールドクルーシブルなどが、加熱方法に対応して適宜用いられる。溶融の際は、材料の酸化を防ぐために、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気下でおこなわれるのが好ましい。短時間で均質に混ざり合った状態とするためには、好ましくは微細な粉末状の原料が混合されるのがよい。ただし、Baとしては、酸化を防ぐために、好ましくは塊状を呈するものを使用する。また、溶融時に機械的な攪拌または電磁的な攪拌を加えるのも好ましい。
溶融後、インゴットにするためには、鋳型を用いて鋳造してもよいし、ルツボ中で凝固させてもよい。できあがったインゴットの均質化のためには、溶融後にアニール処理をおこなってもよい。アニール処理の処理時間は、製造時の省エネルギーを考慮すると、なるべく短時間とされることが望まれるが、アニール効果を考慮すると、長い時間が必要とされる。アニール処理の処理時間は、好ましくは1時間以上であり、さらに好ましくは1〜10時間がさらに好ましい。
アニール処理の処理温度は、好ましくは700〜950℃であり、さらに好ましくは850〜930℃である。処理温度が700℃未満であると、均質化が不十分になるという問題が生じ、処理温度が950℃を超えると、再溶融による濃度偏析が生じるという問題が生じる。
(2)粉砕工程
粉砕工程では、調製工程によって得られたインゴットを、ボールミルなどを用いて粉砕し、微粒子状のクラスレート化合物を得ることができる。得られる微粒子としては、焼結性を向上するために粒度が細かいことが望まれる。本実施形態では、微粒子の粒径は、好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上75μm以下である。
所望の粒径の微粒子とするためには、ボールミルなどによってインゴットを粉砕した後、粒度を調製する。粒度の調製方法は、ISO3310−1規格のレッチェ社製試験ふるいとレッチェ社製ふるい振とう機AS200デジットを用いたふるい分けによりおこなえばよい。なお、この粉砕工程に代えて、ガスアトマイズ法などの各種アトマイズ法やフローイングガスエバポレーション法などを用いて微粉末を製造することもできる。
(3)焼結工程
焼結工程では、前記粉砕工程で得られた微粉末状のクラスレート化合物を焼結して、均質で空隙の少ない、所定の形状の固体を得ることができる。焼結方法としては、放電プラズマ焼結法、ホットプレス焼結法、熱間等方圧加圧焼結法などを用いることができる。
放電プラズマ焼結法を用いる場合、その焼結の1条件となる焼結温度は、好ましくは600〜1000℃であり、より好ましくは900〜1000℃である。焼結時間は好ましくは1〜10分であり、より好ましくは3〜7分である。圧力は好ましくは40〜80MPaであり、より好ましくは50〜70MPaである。
焼結温度が600℃未満では焼結せず、焼結温度が1100℃以上では溶解する。焼結時間が1分未満では密度が低く、焼結時間が10分を超えると焼結が完了・飽和し、それ以上時間をかける意義がないと考えられる。特に、焼結工程では、微粉末状のクラスレート化合物を上記焼結温度まで加熱してその温度で上記焼結時間保持し、その後に当該クラスレート化合物を加熱前の温度まで冷却する。この場合、微粉末状のクラスレート化合物を焼結温度まで加熱する工程とその温度で保持している工程とでは加圧状態とし、その後当該クラスレート化合物を冷却する工程では加圧状態を解除する。かかる圧力操作によれば、微粉末状のクラスレート化合物の焼結工程での割れを抑制することができる。
(C)クラスレート化合物およびSi化合物の生成の確認
前記の製造方法によって、Si系クラスレート化合物およびSi化合物が生成されたかどうかは、組成分析および粉末X線回折(XRD)により確認することができる。具体的には、焼結後のサンプルを再度粉砕して、JIS K 0131に準ずる方法により回折X線を測定し、得られるピークがタイプ1クラスレート相(Pm−3n、No.223)およびSi化合物相を示すものであれば、それぞれタイプ1クラスレート化合物、Si化合物が合成されたことを確認できる。
前記の製造方法によって、生成された合金では、Si化合物のクラスレート化合物に対する体積割合が大きすぎても性能劣化の原因となってしまう。そのため、粉末X線回折ピークにおける前記Si化合物の構造に由来する最大回折ピーク強度は、同熱電変換材料中のSi系クラスレート化合物の構造に由来する最大回折ピーク強度に対して、回折ピーク強度比α(%)が0<α<22である。
また、実際にはタイプ1クラスレート相とSi化合物相のみからなるものと、不純物相を含むものとがあるため、不純物のピークも観察される。本実施形態にかかる不純物相の割合が多くなると性能劣化の原因となるため、不純物相の最大回折ピーク強度の、Siクラスレート化合物の最大回折ピーク強度に対する、回折ピーク強度比は50%以下であり、好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。
なお、「回折ピーク強度」とは、粉末X線回折測定において測定された各化合物相のピーク高さとそのピークにおける半値幅の積で定義する。
「最大回折ピーク強度」とは、前記回折ピーク強度が最大のものとする。
「回折ピーク強度比」とは、各化合物相の最大回折ピーク強度の割合で定義する。たとえば、Si化合物相の最大回折ピーク強度(IP)の、Siクラスレート化合物相の最大回折ピーク強度(IHS)に対する、回折ピーク強度比αは、それぞれの最大回折ピーク強度を用いて、下記の式[3]で定義される。
回折ピーク強度比α(%)=(IP)/(IHS)×100 … [3]
最大回折ピーク強度は、例えば次の通りである。
Si系クラスレート化合物相の最大回折ピーク強度は、空間群Pm−3n(No.223)を有するBa−Ga−Al−Si系クラスレート化合物の(123)面由来の回折ピーク強度である。
(D)特性評価試験
次に、上記の方法で製造される熱電変換材料の無次元性能指数ZTを算出するための特性評価について説明する。特性評価項目は、ゼーベック係数S、電気抵抗率ρである。特性評価試験では、電子線マイクロアナライザー(島津製作所製EPMA−1610)による組成分析とミクロ組織観察、焼結密度測定をおこなう。各種特性評価用サンプルは、20mmφ(直径20mm)×5〜20mm(高さ5〜20mm)の円柱状焼結体から、切り出し、整形する。
「ゼーベック係数S」および「電気抵抗率ρ」は、四端子法によりアルバック理工(株)製の熱電特性評価装置 ZEM−3を用いて測定する。
以上の測定結果から、パワーファクターも算出される。クラスレート化合物は算出されたパワーファクターから、その熱電変換材料の特性を評価することができる。本実施形態にかかる熱電変換材料では、600℃におけるパワーファクターが好ましくは0.1mW/mK以上である。
以下、本発明を、実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例により限定されるものではない。
(1)サンプルの作製
純度2N以上の高純度のBaと、純度3N以上の高純度のM1(=Au、Pt)、M2〜M4(=Cu、Ni、Ag)と、純度3N以上の高純度のSiとを、表1の配合比率(g)で秤量し、原料混合物を調製した。
この原料混合物を、Ar(アルゴン)雰囲気中において、水冷銅ハース上で300Aの電流で1分間アーク溶解した後、原料の不均一を解消するためにインゴットを反転して、再度アーク溶解を行う工程を5回繰り返し、そのまま水冷銅ハース上で常温まで冷却することによりクラスレート化合物を有するインゴットを得た。
その後、インゴットの均一性を高めるために、アルゴン雰囲気で、900℃で6時間のアニール処理をおこなった。得られたインゴットを、メノウ製遊星ボールミルを用いて粉砕し、微粒子を得た。このとき、得られた粒子の粒径の平均が75μm以下となるようにISO3310−1規格のレッチェ社製試験ふるいとレッチェ社製ふるい振とう機AS200デジットを用いて粒度を調製した。
得られた焼結用粒子を、放電プラズマ焼結法(SPS法)を用いて、圧力50MPaまで加圧した後に1000℃まで加熱を行い、その後1000℃で5分間焼結した。焼結が終了してから、加圧状態を解除し、1000℃から室温まで冷却を行った。
なお、焼結用粒子の焼結が終了してから、加圧状態を保持し続けて冷却を行うと、割れが生じてしまったが、上記のとおりに焼結後に加圧状態を解除して1000℃から室温まで冷却を行うと、そのような割れを抑制することができた。得られるサンプルやダイスの劣化を考慮すると、冷却温度が500℃以上では真空雰囲気で保持することが好ましいが、500℃未満では大気雰囲気で保持してもかまわない。
このようにして得られたサンプルの焼結体を、電子線マイクロアナライザー(島津製作所製EPMA−1610)で組成分析するとともに、前記の「(C)クラスレート化合物およびSi化合物の生成の確認」のX線回折と、前記の「(D)特性評価試験」とに供した。
(2)サンプルの評価
(2.1)組成分析および組織観察
図1に、実施例1のサンプルにおけるBEI像を示す。
黒のコントラストの化合物が確認され、EPMAによる元素マッピングから実施例1のサンプルにはSi、BaおよびPtが含有されていることを確認した。
得られたサンプルの組成分析の結果を表2に示す。
表2から、実施例1〜27において、Si系のp型、n型クラスレート化合物が得られたことがわかる。
(2.2)X線回折分析
得られたサンプルを、粉末X線回折で分析した。
得られた結果から、Si化合物相のSi系クラスレート化合物相に対する回折ピーク強度比を算出したところ、すべてのサンプルで回折ピーク強度比α(%)が0<α<22であるであることを確認できた。
(2.3)特性評価
得られたサンプルについて、上記「(D)特性評価試験」の記載のとおりに、特性評価を行い、ゼーベック係数および電気抵抗率を測定した。
ゼーベック係数の測定結果から、実施例1〜3、6〜8、11〜14、17〜24のサンプルではゼーベック係数が正となりp型の熱電変換材料が製造され、実施例4〜5、9〜10、15〜16、25〜27のサンプルではゼーベック係数が負となりn型の熱電変換材料が製造されていた。
本実施例にかかるSi系クラスレート化合物によれば、p型とn型の熱電変換材料を作り分けることが可能となった。
更に、実施例1、6、16、25を選択し、ZTと温度の関係を測定した。
図2に示すとおり、温度変化800℃までの条件下で、ゼーベック係数は急激に変動することはなくZTの値は維持されており、熱電変換材料に期待される高温条件下での効果が認められたといえる。
続いて、ゼーベック係数および電気抵抗率の測定結果から、式[2]に基づき、実施例1、6おいてはパワーファクターも算出した。
図3に示すとおり、実施例1、6のサンプルにおいては、殆どの温域でパワーファクターが0.1mW/mK以上であり、実施例6のサンプルにおいては、殆どの温域でパワーファクターが0.3mW/mK以上であった。
よって、幅広い温度域でSi材料系熱電変換材料として効果的であると考えられる。

Claims (8)

  1. 化学式BaM1Si(M1=Pt、a≧7.6、b≧3.0、d≧39、a+b+d=54)、は化学式BaM2Si(M2=Ni、a≧7.6、c≧3.0、d≧39、a+c+d=54)で表されるクラスレート化合物を含む熱電変換材料
  2. 化学式BaM1Si(M1=Pt、a≧7.7、e≧3.9、d≧40、a+e+d=54)で表されるクラスレート化合物を含む熱電変換材料
  3. 化学式BaM1M2Si(M1=Au、Pt、M2=Cu、Ni、AgのうちM1と同族の元素、a≧7.6、f≧1.6、g≧0.2、d≧40、a+f+g+d=54)、は化学式BaM3M4Si(M3〜M4=Cu、Au、Ag、a≧7.6、h≧0.2、i≧0.2、d≧40、a+h+i+d=54、M3とM4は異なる元素)で表されるクラスレート化合物。
  4. 化学式BaM1M2Si(M1=Au、Pt、M2=Cu、Ni、AgのうちM1と同族の元素、a≧7.6、j≧1.6、k≧0.3、d≧40、a+j+k+d=54)、は化学式BaM3M4Sid(M3〜M4=Cu、Au、Ag、a≧7.6、l≧0.3、m≧0.3、d≧40、a+l+m+d=54、M3とM4は異なる元素)で表されるクラスレート化合物。
  5. 請求項3又に記載のクラスレート化合物を含む熱電変換材料。
  6. 化学式BaM2Si(M2=Cu、Au、Ag、a≧7.6、4.9≦n≦5.9、d≧39、a+n+d=54)で表されるクラスレート化合物を含む熱電変換材料。
  7. Ba、M1〜M4、Si(M1=Au、Pt、M2〜M4=Cu、Ni、Ag、Au)を請求項1もしくは請求項に記載の熱電変換材料に含まれるクラスレート化合物、又は請求項3もしくは請求項4に記載のクラスレート化合物の組成となるように秤量し、秤量した各原料を混合・溶融・凝固して所定の組成のクラスレート化合物を調製する調製工程と、
    前記クラスレート化合物を粉砕して微粒子とする粉砕工程と、
    前記微粒子を焼結する焼結工程と、
    を有する熱電変換材料の製造方法。
  8. 請求項7に記載の熱電変換材料の製造方法において、
    前記焼結工程は、
    前記微粒子を一定の焼結温度まで加熱する加熱工程と、
    前記微粒子を前記焼結温度で一定時間保持する温度保持工程と、
    前記微粒子を加熱前の温度まで冷却する冷却工程と、を有し、
    前記加熱工程および前記温度保持工程では加圧雰囲気とし、前記冷却工程では加圧雰囲気を解除することを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
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