JP5930744B2 - クラスレート化合物および熱電変換材料ならびに熱電変換材料の製造方法 - Google Patents
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ゼーベック効果を利用した熱電変換素子の無次元性能指数ZTは、下記の式(1)で表すことができる。
ZT=S2T/ρκ … (1)
式(1)中、S、ρ、κおよびTは、それぞれ、ゼーベック係数、電気抵抗率、熱伝導度および測定温度を表す。
高い性能指数を示す熱電変換材料として、従来、ビスマス・テルル系材料、シリコン・ゲルマニウム系材料、鉛・テルル系材料などを用いた熱電変換素子が知られている。
たとえば、ビスマス・テルル系材料は室温では大きなZT値を有するが、100℃を越えれば急激にそのZT値が小さくなり、廃熱発電のような200℃〜800℃程度では、熱電変換材料として利用できなくなる。また、ビスマス・テルル系、鉛・テルル系は環境負荷物質の鉛とテルルを含んでいる。
Ba、Ga、Al、Siからなるクラスレート化合物の組成や合成法については既に開示されており、特許文献1には、単位格子あたりx個(10.8≦x≦12.2)のSi原子が、Al原子とGa原子のいずれかで置換されているBa8(Al,Ga)xSi46−xの単結晶とその製造方法が開示されている。特許文献2には、P型のBa−Al−Siクラスレート化合物において700KでのZTが1.01であることが開示されている。
すなわち、特許文献1に記載の技術では、ZTが明らかではなく、性能が低いことが懸念される。特許文献2に記載の技術では、p型については開示されているが、n型についてのZTは明らかではなく、性能が低いことが懸念される。
化学式BaaSrbGacAldSie(6.032≦a≦7.608,0≦b≦1.454,7≦c≦12,3≦d≦5,30≦e≦33,7.486≦a+b≦7.608,a+b+c+d+e=54)で表されるクラスレート化合物が提供される。
n型の熱電変換材料であって、
化学式BaaSrbGacAldSie(6.032≦a≦7.608,0≦b≦1.454,7≦c≦12,3≦d≦5,30≦e≦33,7.486≦a+b≦7.608,a+b+c+d+e=54)で表されるクラスレート化合物を含む熱電変換材料が提供される。
前記熱電変換材料を製造する製造方法であって、
Ba,Ga,Al,Siを原料として混合・溶融・凝固して所定の組成のクラスレート化合物を調製する調製工程と、
前記クラスレート化合物を粉砕して微粒子とする粉砕工程と、
前記微粒子を焼結する焼結工程と、
を有する熱電変換材料の製造方法が提供される。
特に、有害元素を含まず、安価な材料で、800℃という高温領域でのZTが0.4以上のn型の熱電変換素子に好適に用いられる新規なクラスレート化合物およびそれを用いた熱電変換材料、さらにはその熱電変換材料の製造方法を提供することができる。
本発明の好ましい実施形態にかかるクラスレート化合物は、化学式BaaSrbGacAldSie(6.032≦a≦7.608,0≦b≦1.454,7≦c≦12,3≦d≦5,30≦e≦33,7.486≦a+b≦7.608,a+b+c+d+e=54)で表され、BaとGaとAlとSiとが同時に含まれた化合物であり、本発明の好ましい実施形態にかかる熱電変換材料は当該クラスレート化合物を含むn型熱電材料である。
本実施形態にかかる「クラスレート化合物」は、Siクラスレート相を主体とするものであればよく、クラスレート相には該当しない他の相が含まれてもよい。当該「クラスレート化合物」は好ましくはSiクラスレート単相である。
c+d+e=46
このような関係を満たせば、当該クラスレート化合物はSiクラスレート相を主体とするものとして実現され、理想的な結晶構造をとりうる。
本実施形態にかかる熱電変換材料は、800℃におけるZTが0.4以上である。
なお、本実施形態にかかる熱電変換材料は、上記クラスレート化合物を主成分とし、少量の他の添加物が含まれてもよい。
本発明の好ましい実施形態にかかる熱電変換材料の製造方法は、
(1)Ba,Sr,Ga,Al,Siを原料として混合・溶融・凝固して所定の組成のクラスレート化合物を調製する調製工程と、
(2)前記クラスレート化合物を粉砕して微粒子とする粉砕工程と、
(3)前記微粒子を焼結する焼結工程と、
を有する。
これらの工程を経ることにより、所定の組成を有し、ポア(空隙)が少なく、組成が均一な材料が得られるという利点がある。
調製工程では、所定の組成を有しかつ均一な組成のクラスレート化合物のインゴットを製造する。
まず、所望のクラスレート化合物の組成となるように、所定量の原料(Ba,Sr,Ga,Al,Si)を秤量し混合させる。原料は、単体であってもよいし、合金や化合物であってもよく、その形状は、粉末でも片状でも塊状であってもよい。
溶融時間としては、すべての原料が液体状態で均質に混ざり合う時間が必要とされるが、製造に要するエネルギーを考慮すると、溶融時間はできるだけ短時間であることが望まれる。そのため、溶融時間は、好ましくは1〜100分であり、さらに好ましくは1〜10分であり、特に好ましくは1〜5分である。
溶融方法としては、たとえば、抵抗発熱体による加熱、高周波誘導溶解、アーク溶解、プラズマ溶解、電子ビーム溶解などが挙げられる。
ルツボとしては、グラファイト、アルミナ、コールドクルーシブルなどが、加熱方法に対応して適宜用いられる。
溶融の際は、材料の酸化を防ぐために、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気下でおこなわれるのが好ましい。
短時間で均質に混ざり合った状態とするためには、好ましくは微細な粉末状の原料が混合されるのがよい。ただし、Baとしては、酸化を防ぐために、好ましくは塊状を呈するものを使用する。また、溶融時に機械的な攪拌または電磁的な攪拌を加えるのも好ましい。
アニール処理の処理時間は、製造時の省エネルギーを考慮すると、なるべく短時間とされることが望まれるが、アニール効果を考慮すると、長い時間が必要とされる。アニール処理の処理時間は、好ましくは1時間以上であり、さらに好ましくは1〜10時間がさらに好ましい。
粉砕工程では、調製工程によって得られたインゴットを、ボールミルなどを用いて粉砕し、微粒子状のクラスレート化合物を得ることができる。得られる微粒子としては、焼結性を向上するために粒度が細かいことが望まれる。本実施形態では、微粒子の粒径は、好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上75μm以下である。
焼結工程では、前記粉砕工程で得られた微粉末状のクラスレート化合物を焼結して、均質で空隙の少ない、所定の形状の固体を得ることができる。焼結方法としては、放電プラズマ焼結法、ホットプレス焼結法、熱間等方圧加圧焼結法などを用いることができる。
特に、焼結工程では、微粉末状のクラスレート化合物を上記焼結温度まで加熱してその温度で上記焼結時間保持し、その後に当該クラスレート化合物を加熱前の温度まで冷却する。この場合、微粉末状のクラスレート化合物を焼結温度まで加熱する工程とその温度で保持している工程とでは加圧状態とし、その後当該クラスレート化合物を冷却する工程では加圧状態を解除する。
かかる圧力操作によれば、微粉末状のクラスレート化合物の焼結工程での割れを抑制することができる。
前記の製造方法によって、クラスレート化合物が生成されたかどうかは、粉末X線回折(XRD)により確認することができる。具体的には、焼結後のサンプルを再度粉砕して粉末X線回折測定し、得られるピークがタイプ1クラスレート相(Pm−3n、No.223)のみを示すものであれば、タイプ1クラスレート化合物が合成されたことを確認できる。
「最強ピーク比」=IHS/(IHS+IA+IB)×100(%) … (2)
次に、上記の方法で製造される熱電変換材料の無次元性能指数ZTを算出するための特性評価について説明する。
特性評価項目は、ゼーベック係数S、電気抵抗率ρ、熱伝導度κである。 特性評価試験では、電子線マイクロアナライザー(島津製作所製EPMA−1610)による組成分析とミクロ組織観察、焼結密度測定をおこなう。各種特性評価用サンプルは、20mmφ(直径20mm)×5〜20mm(高さ5〜20mm)の円柱状焼結体から、切り出し、整形する。
「熱伝導率κ」は、比熱c、密度δ、熱拡散率αの測定結果から、下記の式(3)により算出する。
κ=cδα … (3)
「比熱c」は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)法により測定する。測定装置として、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製の示差走査熱量計 EXSTAR6000DSCを用いる。
「密度δ」は、アルキメデス法により測定する。測定装置として、(株)島津製作所製の精密電子天秤 LIBROR AEG−320を用いる。
「熱拡散率α」は、レーザーフラッシュ法により測定する。測定装置として、アルバック理工(株)製の熱定数測定装置 TC−7000を用いる。
純度2N以上の高純度のBaと、純度3N以上の高純度のAl,Gaと、純度3N以上の高純度のSi,Srとを、所定の配合比率で秤量し、原料混合物を調製した。
(2.1)組成分析
組成分析の結果を表1に示す。
表1から、実施例1〜3のサンプルにおいて、所望の組成BaaSrbGacAldSie(6.032≦a≦7.608,0≦b≦1.454,7≦c≦12,3≦d≦5,30≦e≦33,7.486≦a+b≦7.608,a+b+c+d+e=54)の化合物が得られたことがわかる。
得られたサンプルを、粉末X線回折で分析した。
得られた結果から、式(2)に基づき最強ピーク比を算出し、すべてのサンプルで95%以上であることを確認した。
得られたサンプルについて、上記「(D)特性評価試験」の記載のとおりに、特性評価を行った。ゼーベック係数を測定したところ、すべてのサンプルでゼーベック係数が負となり、各サンプルがn型であることがわかった。さらに、800℃における電気抵抗率、熱伝導率を測定し、これらから無次元性能指数ZTを求めた。
特定の組成比BaaSrbGacAldSie(6.032≦a≦7.608,0≦b≦1.454,7≦c≦12,3≦d≦5,30≦e≦33,7.486≦a+b≦7.608,a+b+c+d+e=54)を有することが、n型の熱電特性を示しかつ800℃という高温領域でのZTが0.4以上という特性を得るのに、有用であることがわかる。
Claims (6)
- 化学式BaaSrbGacAldSie(6.032≦a≦7.608,0≦b≦1.454,7≦c≦12,3≦d≦5,30≦e≦33,7.486≦a+b≦7.608,a+b+c+d+e=54)で表されるクラスレート化合物。
- 請求項1に記載のクラスレート化合物において、
6.032≦a<7.608,0<b≦1.454であることを特徴とするクラスレート化合物。 - n型の熱電変換材料であって、
化学式BaaSrbGacAldSie(6.032≦a≦7.608,0≦b≦1.454,7≦c≦12,3≦d≦5,30≦e≦33,7.486≦a+b≦7.608,a+b+c+d+e=54)で表されるクラスレート化合物を含む熱電変換材料。 - 請求項3に記載の熱電変換材料において、
6.032≦a<7.608,0<b≦1.454であることを特徴とする熱電変換材料。 - 請求項3または4に記載の熱電変換材料を製造する製造方法であって、
Ba,Sr,Ga,Al,Siを原料として混合・溶融・凝固して所定の組成のクラスレート化合物を調製する調製工程と、
前記クラスレート化合物を粉砕して微粒子とする粉砕工程と、
前記微粒子を焼結する焼結工程と、
を有する熱電変換材料の製造方法。 - 請求項5に記載の熱電変換材料の製造方法において、
前記焼結工程は、
前記微粒子を一定の焼結温度まで加熱する加熱工程と、
前記微粒子を前記焼結温度で一定時間保持する温度保持工程と、
前記微粒子を加熱前の温度まで冷却する冷却工程とを、有し、
前記加熱工程および前記温度保持工程では加圧雰囲気とし、
前記冷却工程では加圧雰囲気を解除することを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
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