JP6206408B2 - シゾサッカロミセス・ポンベ変異体の形質転換体、およびクローニングベクター - Google Patents
シゾサッカロミセス・ポンベ変異体の形質転換体、およびクローニングベクター Download PDFInfo
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Description
セルロースの酵素糖化には、セルラーゼと総称される一群の酵素が利用される。まず、セルロース鎖をランダムに切断する活性を有するエンドグルカナーゼ(EG)が、セルロースの非結晶領域を分解し、グルコース末端を露出させる。露出したグルコース末端は、セロビオハイドラーゼ(CBH)により分解され、セロビオースが遊離する。そして、遊離したセロビオースをβ−グルコシダーゼ(BGL)が分解することで、グルコースが遊離する。
一方、アスペルギルス属およびトリコデルマ属よりも、シゾサッカロミセス属酵母の方が、その遺伝子解析が進んでおり、種々の有用な変異体および遺伝子導入用ベクターが確立しており、蛋白質の工業的大量生産に適しているといった利点がある。しかし、シゾサッカロミセス属酵母は、固有のβ−グルコシダーゼ遺伝子を有しておらず、セロビオースを資化することができない。本発明者らは、β−グルコシダーゼをコードする遺伝子によってシゾサッカロミセス属酵母を形質転換し、得られた形質転換体にこれらの酵素を発現させた(特許文献1)。
なお、非特許文献1には、出芽酵母に生産させたβ−グルコシダーゼのグルコース阻害については全く触れられていない。
さらに、β−グルコシダーゼの生産規模の拡大に従い、該分離工程の煩雑性の増大が容易に予想される。
S.ポンベはその様々な特徴から、より高等動物細胞に近い単細胞真核生物であると位置づけられ、外来遺伝子、特に高等動物由来遺伝子の発現用宿主として非常に有用な酵母であると考えられる。特にヒトを含む動物細胞由来の遺伝子の発現に適していることが知られている(特許文献3〜9参照)。
S.ポンベを宿主とした蛋白質発現において利用されているプロモーターとしては、S.ポンベが本来有している遺伝子中のプロモーターとして、アルコールデヒドロゲナーゼ(adh1)遺伝子プロモーター、チアミンの代謝に関与するnmt1遺伝子プロモーター、グルコースの代謝に関与するフルクトース−1、6−ビスホスファターゼ(fbp1)遺伝子プロモーター、カタボライト抑制に関与するインベルターゼ(inv1)遺伝子のプロモーター(特許文献7または10参照)、熱ショック蛋白質遺伝子プロモーター(特許文献11参照)などが挙げられる。またhCMV、SV40、CaMV(構成的発現)などのウィルスのプロモーターも知られている(特許文献4、6、または12参照)。
このため、たとえばpH5より上の比較的pHの高い培養液中では凝集性を有するが、pH2〜5の酸性条件下では凝集しない場合には、酵母を凝集させるために、培養終了後にpHを中性付近に調整する中和処理を行わなくてはならない。
hsp9遺伝子が有するプロモーター(以下、hsp9プロモーターともいう)は、hsp9遺伝子のORFの5’末端の上流1〜400bpを含む領域であることが好ましく、配列番号6で表される塩基配列、または該塩基配列中の1以上の塩基を置換、欠失、もしくは付加された塩基配列からなり、かつプロモーター活性を有するものであることがより好ましい。
ihc1遺伝子が有するプロモーター(以下、ihc1プロモーターともいう)は、ihc1遺伝子のORF(オープンリーディングフレーム)の5’末端の上流1〜501bpを含む領域であることが好ましく、配列番号9で表される塩基配列、または該塩基配列中の1以上の塩基を置換、欠失、もしくは付加された塩基配列からなり、かつプロモーター活性を有するものであることがより好ましい。
本発明の形質転換体の製造方法は上記発現ベクターをシゾサッカロミセス属酵母に導入することを特徴とし、本発明の形質転換体は上記発現ベクターを含む形質転換体である。
本発明の蛋白質の製造方法は、上記形質転換体を培養し、得られた菌体または培養液上清から、前記外来構造遺伝子がコードする蛋白質を取得することを特徴とする。
以下、上記hsp9プロモーターまたはihc1プロモーターを有する、クローニングベクター、発現ベクターおよび形質転換体に係る本発明、ならびに、上記発現ベクターの製造方法、形質転換体の製造方法および蛋白質の製造方法に係る本発明を、第二の態様に係る本発明という。
本明細書において「外来構造遺伝子由来の蛋白質」とは形質転換体が産生する外来構造遺伝子由来の蛋白質であり、以下、「外来蛋白質」ともいう。なお、外来構造遺伝子が宿主とは異種の生物の構造遺伝子の場合には異種蛋白質ともいう。
[S.ポンベ変異体]
本発明において、S.ポンベ変異体の形質転換体の宿主となるS.ポンベ変異体は、S.ポンベの遺伝子の少なくとも一部が改変された結果、Gsf活性が増大しており、かつピルビン酸転移酵素Pvg1の酵素活性が低下または失活している変異体である。S.ポンベにおいて、Gsf活性が増大し、かつPvg1の酵素活性が低下または失活すると、酸性条件下においても非性的に凝集する形質が獲得される。以下、酸性条件下において非性的に凝集する性質を、耐酸性非性的凝集性ともいう。
すなわち、本発明におけるS.ポンベ変異体は、耐酸性非性的凝集性を獲得した変異体である。
gsf2遺伝子は、S.ポンベにおいては凝集素遺伝子である。S.ポンベのgsf2遺伝子の系統名はSPCC1742.01である。
Pvg1は、ピルビン酸転移酵素である。S.ポンベのPvg1をコードするpvg1遺伝子の系統名はSPAC8F11.10cである。
このため、本発明におけるS.ポンベ変異体は、遺伝子工学的方法により、野生株等の耐酸性非性的凝集性を有さないS.ポンベを宿主とし、遺伝子工学的方法により、外来のgsf2遺伝子を組み込み、かつPvg1をコードする遺伝子を欠失する、または該遺伝子にPvg1の酵素活性が低下もしくは失活する変異を導入することで製造できる。
gsf2遺伝子をS.ポンベの染色体に導入する方法としては、gsf2遺伝子を有する発現カセットと組換え部位とを有するベクター(以下、gsf2ベクターという)を用い、相同組換え法により導入する方法が好ましい。
発現カセットとは、Gsf2を発現するために必要なDNAの組み合わせであり、gsf2遺伝子とS.ポンベ内で機能するプロモーターとS.ポンベ内で機能するターミネーターを含む。さらに、5’−非翻訳領域、3’−非翻訳領域のいずれか1つ以上が含まれていてもよい。さらに、栄養要求性相補マーカーが含まれていてもよい。好ましい発現カセットは、gsf2遺伝子、プロモーター、ターミネーター、5’−非翻訳領域、3’−非翻訳領域、栄養要求性相補マーカーを含む発現カセットである。発現カセットには複数のgsf2遺伝子が存在していてもよい。発現カセット中のgsf2遺伝子の数は1〜8が好ましく、1〜5がより好ましい。
S.ポンベが本来有するプロモーターとしては、たとえば、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモーター、チアミンの代謝に関与するnmt1遺伝子プロモーター、グルコースの代謝に関与するフルクトース−1、6−ビスホスファターゼ遺伝子プロモーター、カタボライト抑制に関与するインベルターゼ遺伝子のプロモーター(国際公開第99/23223号パンフレット参照)、熱ショック蛋白質遺伝子プロモーター(国際公開第2007/26617号パンフレット参照)等が挙げられる。S.ポンベが本来有しないプロモーターとしては、たとえば、特開平5−15380号公報、特開平7−163373号公報、特開平10−234375号公報に記載されている動物細胞ウイルス由来のプロモーター等が挙げられる。該プロモーターのうち、発現効率が良好なnmt1遺伝子プロモーターおよびその改変プロモーター(たとえば、nmt1+、nmt41)、hCMVプロモーター、SV40プロモーターが好ましい。
なお、後述の第二の態様に係る本発明におけるhsp9プロモーターまたはihc1プロモーターを使用することも好ましい。
ターミネーターとしては、たとえば、特開平5−15380号公報、特開平7−163373号公報、特開平10−234375号公報に記載されているヒト由来のターミネーターが挙げられ、ヒトリポコルチンIのターミネーターが好ましい。
前記組換え部位の塩基配列と標的部位の塩基配列との相同性は70%以上とすることが必要である。また、組換え部位の塩基配列と標的部位の塩基配列との相同性は、相同組換えが起きやすくなる点から、90%以上とすることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。このような組換え部位を有するベクターを用いることにより、発現カセットが相同組換えにより標的部位に組み込まれる。
組換え部位の長さ(塩基数)は、20〜2000bpであることが好ましい。組換え部位の長さが20bp以上であれば、相同組換えが起きやすくなる。また、組換え部位の長さが2000bp以下であれば、ベクターが長くなりすぎて相同組換えが起き難くなることを防ぎやすい。組換え部位の長さは100bp以上であることがより好ましく、200bp以上であることがさらに好ましい。また、組換え部位の長さは800bp以下であることがより好ましく、400bp以下であることがさらに好ましい。
ベクターは、環状DNA構造または線状DNA構造を有するベクターであり、S.ポンベの細胞に導入する際には線状DNA構造で導入することが好ましい。すなわち、通常用いられるプラスミドDNA等の環状DNA構造を有するベクターである場合には、制限酵素でベクターを線状に切り開いた後にS.ポンベの細胞に導入することが好ましい。
この場合、環状DNA構造を有するベクターを切り開く位置は、組換え部位内とする。これにより、切り開かれたベクターの両端にそれぞれ組換え部位が部分的に存在することとなり、相同組換えによりベクター全体が染色体の標的部位に組み込まれる。
ベクターは、両端それぞれに組換え部位の一部が存在するような線状DNA構造とすることができれば、環状DNA構造を有するベクターを切り開く方法以外の方法で構築してもよい。
この場合、相同組換えに用いる際のプラスミドベクターは、大腸菌内での複製のために必要な「ori」と呼ばれる複製開始領域が除去されていることが好ましい。これにより、上述したベクターを染色体に組み込む際に、その組み込み効率を向上させることができる。
複製開始領域が除去されたベクターの構築方法は特に限定されないが、特開2000−262284号公報に記載されている方法を用いることが好ましい。すなわち、組換え部位内の切断箇所に複製開始領域が挿入された前駆体ベクターを構築しておき、前述のように線状DNA構造とすると同時に複製開始領域が切り出されるようにする方法が好ましい。これにより、簡便に複製開始領域が除去されたベクターを得ることができる。
また、特開平5−15380号公報、特開平7−163373号公報、国際公開第96/23890号パンフレット、特開平10−234375号公報等に記載された発現ベクターおよびその構築方法を適用して、発現カセットおよび組換え部位を有する前駆体ベクターを構築し、さらに通常の遺伝子工学的手法で該前駆体ベクターから複製開始領域を除去して相同組換えに用いるベクターを得る方法であってもよい。
Nathan J. Bowen et al, “Retrotransposons and Their Recognition of pol II Promoters: A Comprehensive Survey of the Transposable Elements From the Complete Genome Sequence of Schizosaccharomyces pombe”,Genome Res. 2003 13: 1984−1997
染色体に13箇所存在するTf2の1箇所のみにベクターを組み込むことができる。この場合、2個以上のgsf2遺伝子を有するベクターを組み込むことにより、2個以上のgsf2遺伝子を有する形質転換体を得ることができる。また、Tf2の2箇所以上にベクターを組み込むことにより、2個以上のgsf2遺伝子を有する形質転換体を得ることができる。この場合、2個以上のgsf2遺伝子を有するベクターを組み込むことにより、さらに多くのgsf2遺伝子を有する形質転換体を得ることができる。Tf2の13箇所すべてにベクターが組み込まれると、形質転換体の生存や増殖に対する負荷が大きくなりすぎるおそれがある。13箇所のTf2の8箇所以下にベクターが組み込まれることが好ましく、5箇所以下にベクターが組み込まれることがより好ましい。
この宿主と形質転換体の栄養要求性の相違により、両者を区別して形質転換体を得ることができる。
たとえば、オロチジンリン酸デカルボキシラーゼ遺伝子(ura4遺伝子)が欠失または失活してウラシル要求性となっているS.ポンベを宿主とし、ura4遺伝子(栄養要求性相補マーカー)を有するベクターにより形質転換した後、ウラシル要求性が消失したものを選択することにより、ベクターが組み込まれた形質転換体を得ることができる。宿主において欠落により栄養要求性となる遺伝子は、形質転換体の選択に用いられるものであればura4遺伝子には限定されず、イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(leu1遺伝子)等であってもよい。
染色体に組み込まれるベクターの数は組み込み条件等を調整することによりある程度は調整できるが、ベクターの大きさ(塩基数)および構造により、組み込み効率および組み込み数も変化すると考えられる。
また、pvg1遺伝子の塩基配列の一部に欠失、挿入、置換、付加を起こすことにより、該pvg1遺伝子を失活させることもできる。該遺伝子の欠失、挿入、置換、付加による変異は、それらのいずれか1つのみを起こしてもよく、2つ以上を起こしてもよい。
pH4.0における沈降速度が8.0m/h以上であることにより、pH4よりもさらに低いpHにおいても、充分な凝集性が示される。
本発明のS.ポンベ変異体の形質転換体は、上述したS.ポンベ変異体を宿主として、糸状菌由来のβ−グルコシダーゼをコードする構造遺伝子配列並びに該構造遺伝子を発現させるためのプロモーター配列およびターミネーター配列含む発現カセットを染色体中に有するか、または、染色体外遺伝子として有する。上記発現カセットを染色体中に有するとは、シゾサッカロミセス属酵母の染色体中の1カ所以上に発現カセットが組み込まれていることであり、染色体外遺伝子として有するとは、発現カセットを含むプラスミドを細胞内に有するということである。形質転換体の継代培養が容易であることから、上記発現カセットを染色体中に有することが好ましい。
なお、発現カセットとは、[S.ポンベ変異体]において述べたものと同様であり、β−グルコシダーゼを発現するために必要なDNAの組み合わせであり、β−グルコシダーゼ構造遺伝子とシゾサッカロミセス属酵母内で機能するプロモーターとターミネーターとを含む。
β-グルコシダーゼ(EC.3.2.1.21)とは、β−D−グルコピラノシド結合の加水分解反応を特異的に触媒する酵素の総称として用いられる。特にセロビオースをグルコースに分解することからセロビアーゼとも呼ばれ、広く細菌、糸状菌、植物および動物に分布する。それぞれの生物種内に、β−グルコシダーゼをコードする遺伝子が複数存在することが多く、たとえば、糸状菌の1種であるアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)では、bgl1〜bgl7の存在が報告されている(Soy protein Research,Japan 12,78−83,2009、特開2008−086310号公報)。これらのうち、活性の高さ等から、BGL1をコードするbgl1が好ましい。
糸状菌とは、菌類のうち、菌糸と呼ばれる管状の細胞から構成される真核細胞微生物である。糸状菌としては、たとえば、アスペルギルス属(Aspergillus)、トリコデルマ属(Trichoderma)属、フサリウム属(Fusarium)、ペニシリウム属(Penicillium)およびアクレモニウム属(Acremonium)等が挙げられる。本発明におけるβ−グルコシダーゼの構造遺伝子は、β−グルコシダーゼを産生する糸状菌であればいずれの糸状菌由来のものであってもよいが、酵素活性の高さなどから、アスペルギルス属の糸状菌由来のβ−グルコシダーゼが好ましい。アスペルギルス属の糸状菌としては、たとえば、アスペルギルス・ニジュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・アクリータス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)、アスペルギルス・パルベルレンタス(Aspergillus pulverulentus)を挙げることができる。結晶セルロース分解力が高く、単糖生成力に優れていることから、アスペルギルス・アクリータス(Aspergillus aculeatus)由来のβ−グルコシダーゼをコードする遺伝子が好ましく、アスペルギルス・アクリータス(Aspergillus aculeatus)由来のBGL1(以下、AaBGL1ともいう)をコードする遺伝子がより好ましい。
坂本禮一郎博士論文(Aspergillus aculeatus No.F−50のセルラーゼ系に関する研究、大阪府立大学、1984年)によれば、Aspergillus aculeatusから精製した野生型のAaBGL1の分子量は約133KDa、至適pHは4.0で、安定pH範囲は3〜7(25℃、24時間)である。
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるβ−グルコシダーゼは、1〜数十個のアミノ酸の欠失、置換または付加が入ってもβ-D-グルコピラノシド結合の加水分解反応を触媒する活性を有するものである。
さらに、bglベクターは、S.ポンベ変異体内で機能する分泌シグナル遺伝子を有することが好ましい。分泌シグナル遺伝子の位置は、β−グルコシダーゼ構造遺伝子の5’末端側である。S.ポンベ変異体内で機能する分泌シグナル遺伝子は、発現した外来蛋白質を宿主細胞外に分泌させる機能を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子である。分泌シグナル遺伝子が結合した外来構造遺伝子から、N末端に分泌シグナルが付加した外来蛋白質が発現する。この外来蛋白質は、宿主内の小胞体やゴルジ装置等で分泌シグナルが切断され、その後分泌シグナルが除去された外来蛋白質が細胞外に分泌される。分泌シグナル遺伝子(および分泌シグナル)はS.ポンベ変異体内で機能することが必要である。S.ポンベ変異体内で機能する分泌シグナル遺伝子としては、たとえば、国際公開第1996/23890号に記載のものを使用できる。
本発明では、β−グルコシダーゼの構造遺伝子の5’末端側にこの分泌シグナルの構造遺伝子を導入することにより、N末端に上記分泌シグナルが付加されたβ−グルコシダーゼを発現させ、シゾサッカロミセス属酵母の菌体外にβ−グルコシダーゼを分泌させることができる。シゾサッカロミセス属酵母内で機能する分泌シグナルとしては、国際公開第1996/23890号に記載のP3シグナルが特に好ましい。
窒素源としては、たとえば、アンモニア、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム等の無機酸または無機酸のアンモニウム塩、ペプトン、カザミノ酸が挙げられる。
無機塩類としては、たとえば、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウムが挙げられる。
また、培養温度は、23〜37℃であることが好ましい。また、培養時間は適宜決定することができる。
また、培養は、回分培養(バッチ培養)または流加培養(フェドバッチ培養)であってもよく、連続培養であってもよい。
たとえば、培養後、沈降した菌体を培養液から分離し、菌体を破壊してβ−グルコシダーゼを含む細胞破砕液を得て、その細胞破砕液から塩析、カラム精製、クロマトグラフィー、免疫沈降等の公知の蛋白質分離方法を用いてβ−グルコシダーゼを取得できる。
[クローニングベクター]
本発明の第二の態様に係るクローニングベクターは、外来蛋白質を発現させるためにシゾサッカロミセス属酵母に導入される発現ベクターを作製するためのクローニングベクターであり、外来蛋白質の発現を制御するプロモーターがシゾサッカロミセス属酵母のhsp9プロモーターまたはihc1プロモーターであることを特徴とする。なお、以下、本発明の第二の態様に係るクローニングベクターを本発明のクローニングベクターともいう。
シゾサッカロミセス属酵母のhsp9遺伝子は、シゾサッカロミセス属酵母が有する熱ショック蛋白質(heatshock protein、hsp)の一種であるHsp9蛋白質をコードする遺伝子である。S.pombeの遺伝子配列データベース(S.pombe GeneDB;http://www.genedb.org/genedb/pombe/)に登録されているhsp9遺伝子の系統名はSPAP8A3.04cである。
熱ショック蛋白質とは、細胞や個体が平常温度より5〜10℃高い温度変化(熱ショック)を急激に受けたときにその合成が誘導され、シャペロンとして機能することによって蛋白質の熱変性や凝集を阻害する蛋白質の総称である。熱ショック蛋白質の生体内合成は、熱ショックの他、様々な化学物質、たとえば電子伝達系の阻害剤、遷移金属、SH試薬、エタノールなどによっても誘導される。
したがって、hsp9プロモーターを有する発現ベクターを導入した形質転換体においては、Hsp9蛋白質の発現と同様に、熱ショックや様々な化学物質による刺激によって外来蛋白質の発現を制御できる。
hsp9プロモーターは、シゾサッカロミセス属酵母が有するhsp9遺伝子のプロモーターであればよく、いずれのシゾサッカロミセス属酵母由来であってもよいが、より汎用されているため、S.pombeのhsp9プロモーターを用いることが好ましい。S.pombeのhsp9プロモーターは、hsp9遺伝子のORFの5’末端(開始コドンATGのA)の上流1〜400bpに含まれる領域である(配列番号6参照)。
ihc1遺伝子は、分子量15,400の蛋白質であるIhc1をコードする遺伝子である。ihc1遺伝子は、シゾサッカロミセス属酵母をはじめとする真菌類に広く保存されている。
Ihc1蛋白質は、増殖開始時等の菌体密度が低い状態では発現が抑制されており、菌体密度が高い状態では発現が誘導される。このIhc1蛋白質の発現はihc1遺伝子のプロモーターにより制御されている。したがって、ihc1プロモーターは、増殖開始時等の菌体密度が低い状態では、発現誘導が抑制されており、菌体密度が高い状態では発現が高誘導できる。このため、該プロモーターを使用することで、シゾサッカロミセス属酵母の形質転換体において、外来蛋白質の発現を、菌体密度依存的に調整可能な発現ベクターを作製することができる。
ihc1プロモーターは、シゾサッカロミセス属酵母が有するihc1遺伝子のプロモーターであればよく、いずれのシゾサッカロミセス属酵母由来であってもよいが、より汎用されているため、S.pombeのihc1プロモーターを用いることが好ましい。
S.pombeのihc1遺伝子は公知であり、S.pombeの遺伝子配列データベース(S.pombe GeneDB;http://www.genedb.org/genedb/pombe/)に登録されているihc1遺伝子の系統名はSPAC22G7.11cであり、そのihc1プロモーターは、ihc1遺伝子のORFの5’末端(開始コドンATGのA)の上流1〜501bpに含まれる領域である(配列番号9参照)。
本発明のクローニングベクターは、前記hsp9プロモーターおよびihc1プロモーターのいずれかに加えて、該プロモーターの下流に位置しかつ該プロモーターによって支配される外来構造遺伝子を導入するためのクローニングサイト、および、シゾサッカロミセス属酵母内で機能しうるターミネーターを有する。
本発明に係るクローニングベクターを構築するための具体的操作方法としては、公知の方法を使用することができる。たとえば、文献[J. Sambrook et al.,"Molecular Cloning 2nded.", Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)]に記載されている操作方法を使用できる。その他、PCRによる酵素的な増幅法や化学合成法、で構築してもよい。
第二の態様に係る本発明の発現ベクターは、本発明のクローニングベクター中のクローニングサイトに、外来構造遺伝子を導入することにより製造することができる。クローニングサイトへの外来構造遺伝子の導入は、クローニングベクターの作製と同様に公知の方法を使用することができる。
第二の態様の本発明に係る形質転換体は、上記第二の態様の本発明に係る発現ベクターを含むことを特徴とする。第二の態様の本発明に係る形質転換体は、シゾサッカロミセス属酵母に上記発現ベクターを導入することで製造される。
また、β−グルコシダーゼ遺伝子以外の外来構造遺伝子を有する発現ベクターを導入する場合であっても、前記第一の態様の本発明におけるS.ポンベ変異体を宿主として使用することもできる。
第二の態様の本発明に係る形質転換体は、天然のシゾサッカロミセス属酵母と同様に培養することができる。該培養方法としては、前記第一の態様の形質転換体の培養方法と同様の方法が挙げられる。具体的には、YPD培地等の栄養培地(M.D.Rose et al., "Methods In Yeast Genetics",Cold Spring Harbor LabolatoryPress(1990))またはMB培地等の最少培地(K.Okazaki et al.,Nucleic Acids Res., vol.18, p.6485-6489 (1990))等を使用できる。
また、培養温度は、23〜37℃であることが好ましい。また、培養時間は適宜決定することができる。
また、培養は、回分培養であってもよく、流加培養または連続培養であってもよい。
第二の態様の本発明に係る蛋白質の生産方法は、前記第二の態様の本発明に係る形質転換体を培養し、得られた菌体または培養液上清から、前記外来構造遺伝子がコードする蛋白質を取得することを特徴とする。
カドミウム添加による場合は、カドミウムイオンとして添加する。カドミウムの最終濃度は、0.1〜1.5mMまで、より好ましくは0.5〜1.0mMまでである。培養する時間は、好適には5時間まで、より好ましくは3時間までである。
浸透圧上昇剤の場合は、高濃度の電解質やソルビトールなどの浸透圧上昇剤を添加して浸透圧を高める。高濃度の塩化カリウムの場合、カリウムの最終濃度は、0.1〜2.0Mまで、より好ましくは0.5〜1.5Mまでである。添加する時間は、特に制限されないが好適には1〜12時間まで、より好ましくは1〜10時間程度である。
過酸化水素の場合は、その最終濃度は、0.1〜1.5mMまで、より好ましくは0.5〜1.0mMまでである。培養する時間は、特に制限されないが好適には1〜15時間まで、より好ましくは1〜12時間程度である。
エタノールの場合は、その最終濃度は、5〜20V/V%まで、より好ましくは5〜15V/V%までである。培養する時間は、特に制限されないが、好適には1〜20時間まで、より好ましくは1〜15時間程度である。
上記の条件は、単独でまたは複数組み合わせて処理を行なってもよい。組み合わせ効果は、発現量を比較することで容易に確認可能である。
既知のAaBGL1のペプチド配列から、S.ポンベの高発現型コドンで置き換えた遺伝子配列を設計した(配列番号2参照。以下、AaBGL1遺伝子と称する)。開始コドン前にKpnI,BspHI認識配列を付加した。終止コドン後にXbaI,SacI認識配列を付加した。この配列を含んだプラスミド(ジーンアート社、レーゲンスブルク、ドイツ、にて合成)を制限酵素BspHI,XbaIで消化した。
一方、これとは別にpSL6lacZを制限酵素AarI,XbaIで消化し、アルカリフォスファターゼ処理した。この処理後、アガロースゲル上で電気泳動し、ベクターpSL6断片と、上記のAaBGL1遺伝子断片をアガロースゲルから切出し、ライゲーションした後、大腸菌DH5α(タカラバイオ社製)に導入して形質転換した。得られた形質転換体よりベクターを調製し、目的とする発現ベクターpSL6AaBGL1(図1、配列番号3参照)を取得した。制限酵素地図の作製から目的とするベクターであることを確認した。
また、分泌シグナルであるP3シグナルをN末端に付加したAaBGL1の作製のため、pSL6AaBGL1を鋳型としてIn−fusionプライマーを用いてPCR法によりAaBGL1遺伝子断片を増幅した。一方、pSL6P3lacZを制限酵素AflII,XbaIで消化した。この断片とPCRによって得られた上記AaBGL1遺伝子断片とをIn−fusion法により環状化した後、大腸菌DH5αに導入して形質転換した。得られた形質転換体よりベクターを調製し、目的とする発現ベクターpSL6P3AaBGL1(図2、配列番号4参照)を取得した。制限酵素地図の作製および部分塩基配列の確認から目的とするベクターであることを確認した。
また、hsp9プロモーターを用いたAaBGL1発現ベクター作製のため、pSL6P3AaBGL1を鋳型としてIn−fusionプライマーを用いてPCR法によりP3AaBGL1遺伝子断片を増幅した。一方、hsp9プロモーターを持つ下記pSL14lacZを制限酵素AarI,Xba1で消化した。この断片とPCRによって得られた上記P3AaBGL1遺伝子断片とをIn−fusion法により環状化した後、大腸菌DH5αに導入して形質転換した。得られた形質転換体よりベクターを調製し、目的とする発現ベクターpSL14P3AaBGL1(図3、配列番号5参照)を取得した。制限酵素地図の作製および部分塩基配列の確認から目的とするベクターであることを確認した。
マルチクローニングベクターpSL9(図24、7038bp)のプロモーター領域(図24中、「inv1 pro.」)を、S.pombeのhsp9プロモーター(配列番号6)と置換することにより、マルチクローニングベクターpSL14(図25、6282bp)を作製した。
具体的には、まず、S.pombeのhsp9遺伝子中、ORFの5’末端(開始コドンATGのA)の上流1〜400bpの領域(配列番号6)を、S.pombeの野生株(ARC032株、ATCC38366、972h−相当)由来のゲノムDNAを鋳型とし、5’末端にSacIの制限酵素部位を備えるフォワードプライマーと、5’末端にPciIの制限酵素部位を備えるリバースプライマーとを用いたPCRによって増幅し、該領域の5’末端にSacI、3’末端にPciIの制限酵素部位を備えるフラグメントを得た。
pSL9のプロモーター部分を制限酵素AarIならびにSacIで二重消化し、ライゲーション、続く大腸菌DH5への形質転換後、プラスミドを抽出し、塩基配列の確認を行った。この結果、得られたプラスミドは、3’末端にアデニンが1つ追加されているものの、配列番号6で表される塩基配列を含むプロモーター領域を有することが確認された。該プラスミドをpSL14とした。
次いで、pSL14のアンピシリン耐性遺伝子およびpBR322oriを含む領域を、カナマイシン耐性遺伝子およびpUCoriを含む領域へと置換し、クローニングサイトにlacZ'をコードする構造遺伝子を組み込むことにより、マルチクローニングベクターpSL14lacZ(図26、6675bp、配列番号7参照)を作製した。
宿主としてS.ポンベのロイシン要求株(遺伝子型:h−、leu1−32、東京大学大学院理学系研究科付属遺伝子実験施設・飯野雄一教授より供与)(ATCC38399)をYES(0.5% 酵母エキス,3%グルコース, 0.1mg/mL SPサプリメント)培地で0.6×107細胞数/mLになるまで生育させた。集菌、洗浄後1.0×108細胞数/mLになるように0.1M酢酸リチウム(pH5.0)に懸濁した。その後、懸濁液100μLに上記で得られたベクターpSL14P3AaBGL1を制限酵素SwaIで消化したもの1μgを加え、さらに50%(w/v)ポリエチレングリコール(PEG4000)水溶液を290μL加えてよく撹拌した後、30℃で60分間、42℃で5分間、室温で10分間の順にインキュベートした。遠心によりPEG4000を除去し、洗浄後150μLの滅菌水に懸濁し、最少寒天培地に塗布した。3日後、形質転換体(AaBGL1発現株)が得られた。この形質転換体をASP3660株(以下、通常株ともいう)とした。
S.ポンベのウラシル要求性株(ARC010、遺伝子型:h− leu1−32 ura4−D18、東京大学大学院理学系研究科附属遺伝子実験施設・飯野雄一教授より供与)をLatour法(Nucleic Acids Res.誌、2006年、34巻、e11頁、国際公開第2007/063919号パンフレットに記載)に従って形質転換し、pvg1遺伝子を削除したΔpvg1株を作製した。得られた変異体を培養し、パルスフィールドゲル電気泳動法によるゲノム解析を行い、pvg1遺伝子が欠損したことを確認した。
より具体的には、削除断片をUP領域、OL領域、およびDN領域に分け、各領域のDNA断片をそれぞれKOD−Dash(東洋紡社製)を用いたPCR法によって作製したのち、さらにそれらを鋳型として、同様のPCR法によって全長の削除断片を作製した。
上記のΔpvg1株をYES(0.5% 酵母エキス,3% グルコース, 0.1mg/mL SPサプリメント)培地で0.6×107細胞数/mLになるまで生育させた。集菌、洗浄後1.0×108細胞数/mLになるように0.1M 酢酸リチウム(pH5.0)に懸濁した。その後、懸濁液100μLに下記ihc1プロモーターとgsf2遺伝子を含む遺伝子断片(配列番号8参照)1μgを加え、さらに50%(w/v) ポリエチレングリコール(PEG4000)水溶液を290μL加えてよく撹拌した後、30℃で60分間、42℃で5分間、室温で10分間の順にインキュベートした。遠心によりPEG4000を除去し、洗浄後150μLの滅菌水に懸濁し、ロイシン含有最少寒天培地に塗布した。3日後、形質転換体(pvg1遺伝子欠損+gsf2遺伝子発現増大株)が得られた。その後FOA処理を行い、再度ウラシル要求性を持たせた。この変異体をIGF799株とした。
前記ihc1プロモーターとgsf2遺伝子を含む遺伝子断片は、以下の様に作製した。まず、ihc1プロモーター(配列番号9参照)の5’−末端側にgsf2プロモーター配列とUra4配列とを含み、3’−末端側にgsf2−ORFを含む配列を鋳型とし、上記遺伝子断片をPCRによって増幅した。
宿主として非性的凝集性を有するS.ポンベの上記IGF799株をYES(0.5%酵母エキス,3% グルコース, 0.1mg/mL SPサプリメント)培地で0.6×107細胞数/mLになるまで生育させた。集菌、洗浄後1.0×108細胞数/mLになるように0.1M 酢酸リチウム(pH5.0)に懸濁した。その後、懸濁液100μLに上記で得られたベクターpSL14P3AaBGL1を制限酵素SwaIで消化したもの1μgを加え、さらに50%(w/v) ポリエチレングリコール(PEG4000)水溶液を290μL加えてよく撹拌した後、30℃で60分間、42℃で5分間、室温で10分間の順にインキュベートした。遠心によりPEG4000を除去し、洗浄後150μLの滅菌水に懸濁し、ウラシル含有最少寒天培地に塗布した。3日後、形質転換体(AaBGL1発現株)が得られた。この形質転換体をASP4106株とした。
上記で作製したASP4106株をYES(0.5%酵母エキス,3%グルコース,0.1mg/mL SPサプリメント)培地で0.6×107細胞数/mLになるまで生育させた。集菌、洗浄後1.0×108細胞数/mLになるように0.1M 酢酸リチウム(pH5.0)に懸濁した。その後、懸濁液100μLにベクターpUC19−ura4(図4、配列番号10参照)を制限酵素BsiwIで消化したもの1μgを加え、さらに50% (w/v) ポリエチレングリコール(PEG4000)水溶液を290μL加えてよく撹拌した後、30℃で60分間、42℃で5分間、室温で10分間の順にインキュベートした。遠心によりPEG4000を除去し、洗浄後150μLの滅菌水に懸濁し、最少寒天培地に塗布した。図4中、AおよびBの配列は、ベクターの組換え部位を表す。3日後、形質転換体が得られた。このASP4106株のウラシル要求性が補完された形質転換体をASP4150株(以下、凝集株ともいう)とした。
上記で得られたAaBGL1発現株(通常株および凝集株)をYES培地で、試験管にて32℃24時間培養した。この培養液2mLを50mLのYPD培地(1%酵母エキス,2%ペプトン,2%グルコース)に植継ぎ、500mLの三角フラスコにて32℃で48時間本培養を行った。
菌体増殖の結果を図5に示す。通常株および凝集株において、培養中のOD660値の経時変化は、概ね同様の挙動を示し最終OD660値は通常株で23.4、凝集株で20.3を示した。
以下に示すバイオセンサ運転条件でBF5を運転し分析を行った。
流速: 1.0 mL/min
注入量: 5μL
恒温槽温度: 37℃
計測時間: 90 秒
濃度定量法: グルコースおよびエタノールの酵素分解により発生した過酸化水素を検出し、標準液のピーク高を基準に算出した。
上記で得られたAaBGL1発現株の培養上清を用いて、酵素希釈サンプルを調製し、下記方法にしたがって活性測定を行った。
(活性測定法)
20mM p−ニトロフェニル−β−D−グルコシド(以下、pNPGと略す) 10μLに、1M 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)10μLと水130μLを加え、酵素希釈サンプル50μlを添加して、37℃で10分間反応させた。2% 炭酸ナトリウム液100μLに反応液100μLを加えて反応停止させ、遊離したp−ニトロフェノール量を波長450nmで比色定量した。
1分間当たり、1μmolに相当するp−ニトロフェノールを生成する酵素量を1Uとした。通常株および凝集株における培養上清1mL当たりのpNPG分解活性(以下、pNPG活性ともいう)を図7に示す。
5mL YES培地に、通常株または凝集株を植菌し、試験管にて32℃で24時間前培養1を行った。さらに、200mL YES培地に、前培養1で得られた培養液4mLを加え、1L坂口フラスコにて30℃で24時間前培養2を行った。
次いで、5Lジャーファーメンターを用いて、表1に示す成分からなる初発培地1800mLに、前培養2で得られた培養液200mLを加え、30℃で培養を開始した。尚、表1の各成分の濃度は、前培養2植菌後の濃度を示す。培養開始から14.0時間後に、培養液中の残存グルコース濃度が1.0g/Lを下回ったことを確認し流加を開始した。その後、81時間流加を継続し、表2に示す組成の流加培地1450mLを流加し、30℃で95時間(培養開始時からの培養時間を示す)培養した。12.5%アンモニア水の添加制御により、pHを4.5に保った。
菌体増殖の結果を図8に示す。通常株および凝集株において、培養中のOD660値の経時変化は、概ね同様の挙動を示した。最終OD660値は通常株で376、凝集株で395であり、天然由来物としてYeast Extractを合成培地に添加した半合成培地にて高菌体濃度に達した。
培養液中の残存グルコース濃度、および、その代謝産物であるエタノール濃度を試験例8と同様の方法にて測定した。
試験例10で得られたフェドバッチ培養終了時のサンプル各1Lを1Lメスシリンダーにて沈降速度を比較した。各メスシリンダーを充分に懸濁させた後、静置して沈降を開始させた。液表面から固液界面(沈降した酵母菌体と上清との界面)までの距離を沈降開始からの経過時間で除することにより、沈降速度を算出した。結果を図10に示す。
図10に示すように、凝集株では通常株と比較して、沈降速度が速いことが確認された。凝集株の沈降速度は、沈降開始2時間後の時点で30mm/h、さらに10時間後(沈降開始12 時間後)の時点で6.7mm/hであった。一方、通常株の沈降速度は、沈降開始12 時間後の時点で1.5mm/hであった。
5mL YES培地に、通常株(ASP3660株)を植菌し、L型試験管にて30℃で24時間前培養1を行った。さらに、120mL YES培地に、前培養1で得られた培養液2.4mLを加え、500mL坂口フラスコにて30℃で24時間前培養2を行った。
次いで、3Lジャーファーメンターを用いて、初発培地1080mLに、前培養2で得られた培養液120mLを加え、培養を開始した。2基の培養槽で温度条件を30℃および34℃の2条件振って実施した。初発培地組成は、表1に示す組成からYeast extract、塩化コリン、葉酸、ピリドキシン、チアミン、チミジン、リン酸リボフラビンナトリウムおよびp−アミノ安息香酸を除いた培地を用いた。なお、表1の各成分の濃度は、前培養2植菌後の濃度を示す。培養開始から11.8時間後に流加を開始した。その後、84.2時間流加を継続し、表2に示す組成の流加培地685mLを流加し、30℃および34℃で96時間(培養開始時からの培養時間を示す)培養した。流加培地も同様に、表2に示す組成からYeast extract、塩化コリン、葉酸、ピリドキシン、チアミン、チミジン、リン酸リボフラビンナトリウムおよびp−アミノ安息香酸を除いた培地を用いた。12.5%アンモニア水の添加制御により、pHを4.5に保った。
試験例12で得られたフェドバッチ培養終了時の培養上清サンプル各5μLをSDS−PAGEサンプルバッファーに溶解させ、4−12%アクリルアミドゲルを用いてSDS−PAGEを行い、クマシーブリリアントブルーで染色した。得られた結果を図15に示す。SDS−PAGEの結果から、培養終了時である培養96時間後において、34℃では、30℃と比較して120kDa以上の分子量にみられるAaBGL1のバンドの強度が強く、AaBGL1の分泌発現量が増加していることを示した。AaBGL1に糖鎖が付加されたことにより、スメアなバンドとして確認された。
[試験例14]hsp9プロモーターによる蛋白質生産
<発現ベクターの作製>
GFP遺伝子を含むpEGFP−N1(CLONTECH社製)を鋳型としてIn−fusionプライマーを用いてPCR法によりEGFP遺伝子のORF断片を増幅した。一方、pSL14を制限酵素AflIIおよびXbaIで二重消化した。得られた断片とPCRによって得られた上記EGFP遺伝子のORF断片とをIn−fusion法により環状化した後、大腸菌DH5αに導入して形質転換した。得られた形質転換体よりベクターを調製し、目的とする発現ベクターpSL14−EGFP(図16)を取得した。制限酵素地図の作製および部分塩基配列の確認から目的とするベクターであることを確認した。
同様にして、pSL6にEGFP遺伝子のORF断片を組み込んだベクターpSL6−EGFP(図17)を作製し、対照とした。
宿主としてシゾサッカロミセス・ポンベのロイシン要求株(遺伝子型:h−、leu1−32、東京大学大学院理学系研究科付属遺伝子実験施設・飯野雄一教授より供与)(ATCC38399)をYES(0.5%酵母エキス、3%グルコース、0.1mg/mL SPサプリメント)培地で0.6×107細胞数/mLになるまで生育させた。集菌、洗浄後1.0×108細胞数/mLになるように0.1m 酢酸リチウム(pH5.0)に懸濁した。その後、懸濁液100μLに上記で得られた発現ベクターpSL14−EGFPを制限酵素NotIで消化したもの1μgを加え、さらに50%(w/v)ポリエチレングリコール(PEG4000)水溶液を290μL加えてよく撹拌した後、30℃で60分間、42℃で5分間、室温で10分間の順にインキュベートした。遠心によりPEG4000を除去し、洗浄後150μLの滅菌水に懸濁し、最少寒天培地に塗布した。
3日後、得られた形質転換体をASP3395株とした。
同様にして、pSL14−EGFPを導入して形質転換体SL14E株を、pSL6−EGFPを導入して形質転換体SL6E株を得た。
得られたASP3395株を試験管内の5mLのYES培地に植菌し、32℃で70時間培養した。培養終了後の培養液の、488nmで励起した場合の蛍光強度を測定した。
対照として、SL14E株およびSL6E株も同様の条件で培養し、培養終了後の培養液の蛍光強度を測定した。
測定結果を図18に示す。この結果、SL6E株の培養液の蛍光強度を1とした場合、SL14E株の蛍光強度(相対値)は0.50でしかなかったが、ASP3395株の蛍光強度(相対値)は17.17と非常に高かった。
培養液の蛍光強度は蛍光蛋白質EGFPの発現量の指標であり、hsp9プロモーターはシゾサッカロミセス属酵母内で非常に発現効率が高く、本発明の発現ベクターによって得られた形質転換体から外来蛋白質を他のプロモーターを用いた場合よりもより大量に生産し得ることが明らかである。
<マルチクローニングベクターの作製>
単座組込型組換えベクターpSL17を、以下に示す工程で作製した。すなわち、まず、公知の分裂酵母用組込型のマルチクローニングベクターpSL6(図19、5960bp、配列番号11)のhCMVプロモーター領域を、S.ポンベのihc1遺伝子のプロモーター(ihc1プロモーター)と置換することにより、マルチクローニングベクターpSL12(図20、5847bp)を作製した。
具体的には、まず、S.ポンベのihc1遺伝子中、ORFの5’末端(開始コドンATGのA)の上流1〜501bpの領域(配列番号9)を、S.ポンベの野生株(ARC032株、ATCC38366、972h−相当)由来のゲノムDNAを鋳型とし、5’末端にBlnIの制限酵素認識配列を備えるフォワードプライマー(ihc1−promoter−F:表3参照)と、5’末端にKpnIの制限酵素認識配列を備えるリバースプライマー(ihc1−promoter−R:表3参照)とを用いたPCRによって増幅し、該領域の5’末端にBlnI、3’末端にKpnIの制限酵素認識配列を備える断片(ihcプロモーター断片)を得た。
pSL6を制限酵素BlnIおよびKpnIで二重消化した断片に、ihcプロモーター断片を制限酵素BlnIおよびKpnIで二重消化した断片をライゲーションにより組み込み、分裂酵母用組込型ベクターpSL12(配列番号14)を得た。
具体的には、まず、S.ポンベのihc1遺伝子中、ORFの3’末端(終止コドンの3文字目)の下流1〜200bpの領域(配列番号15)を、S.ポンベの野生株(ARC032株、ATCC38366、972h−相当)由来のゲノムDNAを鋳型とし、In−fusionプライマー(ihc1−terminator−Fとihc1−terminator−R:表3参照)を用いたPCRによって増幅し、ihcターミネーター領域を含む断片(ihcターミネーター断片)を得た。
pSL12を鋳型とし、In−fusionプライマー(pSL12−FとpSL12−R:表3参照)を用いたPCRによって増幅し、pSL12の全長からLPIターミネーター領域を欠損させた断片を得、当該断片にihcターミネーター断片をIn−fusionクローニングキット(製品名:In−Fusion HD Cloning Kit w/Cloning Enhancer、タカラバイオ社製)を用いて組み込み、マルチクローニングベクターpSL17(配列番号20)を作製した。
GFP遺伝子を含むpEGFP−N1(CLONTECH社製)を鋳型としてIn−fusionプライマーを用いてPCR法によりEGFP遺伝子のORF断片を増幅した。一方、前記pSL12を制限酵素AflIIおよびXbaIで二重消化した。この断片とPCRによって得られた上記EGFP遺伝子のORF断片とをIn−fusion法により環状化した後、大腸菌DH5αに導入して形質転換した。得られた形質転換体よりベクターを調製し、目的とする発現ベクターpSL12−EGFP(図22)を取得した。制限酵素地図の作製および部分塩基配列の確認から目的とするベクターであることを確認した。
同様にして、前記pSL6にEGFP遺伝子のORF断片をくみこんだベクターpSL6−EGFP(図17)を作製し、対照とした。
宿主としてシゾサッカロミセス・ポンベのロイシン要求株(遺伝子型:h−、leu1−32、東京大学大学院理学系研究科付属遺伝子実験施設・飯野雄一教授より供与)(ATCC38399)をYES(0.5%酵母エキス、3%グルコース、0.1mg/mL SPサプリメント)培地で0.6×107細胞数/mLになるまで生育させた。集菌、洗浄後1.0×108細胞数/mLになるように0.1m 酢酸リチウム(pH5.0)に懸濁した。その後、懸濁液100μLに上記で得られた発現ベクターpSL12−EGFPを制限酵素NotIで消化したもの1μgを加え、さらに50%(w/v)ポリエチレングリコール(PEG4000)水溶液を290μL加えてよく撹拌した後、30℃で60分間、42℃で5分間、室温で10分間の順にインキュベートした。遠心によりPEG4000を除去し、洗浄後150μLの滅菌水に懸濁し、最少寒天培地に塗布した。
3日後、得られた形質転換体を277G株とした。
同様にして、pSL6−EGFPを導入して形質転換体SL6E株を得た。
得られた277G株を試験管内の5mLのYES培地に植菌し、32℃で72時間培養した。培養開始から培養終了後まで、培養液の488nmで励起した場合の蛍光強度および600nmの吸光度を経時的に測定した。
対照として、SL6E株も同様の条件で培養し、培養液の蛍光強度および600nmの吸光度を経時的に測定した。
図23に、各株の培養液の[蛍光強度/OD600](蛍光強度を600nmの吸光度で除した値)の経時的変化を示した。この結果、277G株(図中、「ihc1p」)の[蛍光強度/OD600]は、培養開始から24時間経過時点ではhCMVプロモーターを用いたSL6E株(図中、「hCMVp」)よりも低いが、培養開始から48時間経過後にはSL6E株よりも高く、一酵母あたりのEGFPの発現量が高かった。
Claims (10)
- シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属酵母のhsp9遺伝子が有するプロモーターまたはihc1遺伝子が有するプロモーター、該プロモーターの下流に位置しかつ該プロモーターによって支配される外来構造遺伝子を導入するためのクローニングサイト、および、シゾサッカロミセス属酵母内で機能し得るターミネーターを有することを特徴とするクローニングベクター。
- 前記hsp9遺伝子が有するプロモーターが、hsp9遺伝子のORF(オープンリーディングフレーム)の5’末端の上流1〜400bpを含む領域である請求項1に記載のクローニングベクター。
- 前記プロモーターが、配列番号6で表される塩基配列、または該塩基配列中の1以上の塩基を置換、欠失、もしくは付加された塩基配列からなり、かつプロモーター活性を有する請求項2に記載のクローニングベクター。
- 前記ihc1遺伝子が有するプロモーターが、ihc1遺伝子のORF(オープンリーディングフレーム)の5’末端の上流1〜501bpを含む領域である請求項1に記載のクローニングベクター。
- 前記プロモーターが、配列番号9で表される塩基配列、または該塩基配列中の1以上の塩基を置換、欠失、もしくは付加された塩基配列からなり、かつプロモーター活性を有する請求項4に記載のクローニングベクター。
- 請求項1〜5のいずれか一項に記載のクローニングベクター中のクローニングサイトに、外来構造遺伝子を導入することを特徴とする発現ベクターの製造方法。
- 請求項1〜5のいずれか一項に記載のクローニングベクター中のクローニングサイトに、外来構造遺伝子が導入されていることを特徴とする発現ベクター。
- 請求項7に記載の発現ベクターを、シゾサッカロミセス属酵母に導入することを特徴とする、シゾサッカロミセス属酵母の形質転換体の製造方法。
- 請求項7に記載の発現ベクターを含むことを特徴とする、シゾサッカロミセス属酵母の形質転換体。
- 請求項9に記載の形質転換体を培養し、得られた菌体または培養液上清から、前記外来構造遺伝子がコードする蛋白質を取得することを特徴とする蛋白質の製造方法。
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