JP6023771B2 - セメント組成物及び土壌改良方法 - Google Patents

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Description

本発明は、汚染土壌や軟弱地盤の改良に好適に用いることができる環境負荷低減型のセメント組成物、及び該セメント組成物を前記土壌や地盤に混和して重金属の溶出を抑制したり強度を改善したりする土壌改良方法に関するものである。
高炉を用いて鉄鉱石から金属鉄を製造する際に副産物として得られる高炉スラグは、潜在水硬性を有するなどセメントに類似した性能を有するとともに大量に生成するため、高炉セメントの原材料、セメント混和材などとして広く土木・建築分野での利用が図られてきているが、地盤改良材や土壌改良材の構成材料としても種々利用されている。
軟弱地盤の強度改良材としては、例えば、特許文献1には「セメント系固化材、無水石膏、高炉水砕スラグ 及びアルミナスラッジからなる固化材」が、特許文献2には「C3S含有量が35〜65重量%、C3A含有量が10〜20重量%の鉱物組成を有し、かつ、Fe23の含有量が2重量%以下で、Al23/Fe23の重量比が3以上であるセメント組成物100重量部、石膏10〜300重量部、高炉スラグ10〜300重量部からなる地盤改良材」が記載されている。
また、汚染土壌からの6価クロム等の重金属の溶出を抑制する改良材(不溶化剤)としては、特許文献3に「スラグ含有量31〜70%の高炉セメントからなる不溶化剤」が記載されている。更に、前記重金属の溶出抑制と強度発現性の両方に配慮したものとして、特許文献4には「水硬性材料、高炉スラグ及び石膏を含んでなる地盤改良材」が記載されている。
一方、2005年2月に発行された京都議定書、2009年7月のG8サミットの決議に基づく温室効果ガス排出量の削減を受け、セメント業界や建設業界も温室効果ガスの一つである二酸化炭素の排出抑制に取組む必要が生じてきている。
そのような中で、セメント製造時の二酸化炭素の原単位は788kg/tであり、高炉スラグ生成時に発生する同原単位24.1kg/tと比べ極めて大きい。したがって、最近では、上記のような環境問題を考慮して、地盤改良や土壌改良に用いられるセメント系固化材においても脱セメント化、低セメント化、高炉スラグの増量化等が更に図られつつある。
そのような中で、特許文献5に示されるような「高炉スラグ100重量部に対し、ポルトランドセメント又は石灰を1〜42重量部含有する重金属溶出抑制剤」といった高炉スラグを主体としたセメント系固化材も開発されてきている。
また、一方、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9などに示されるように、従来から、軽焼マグネシア、酸化マグネシウム、焼成ドロマイト等のマグネシウム含有物を含む種々の土壌改良材(重金属の溶出抑制剤)も知られている。
特開平05−311170号公報 特開2005−105234号公報 特開2001−321756号公報 特開2001−348571号公報 特開2005−162862号公報 特開2003−013063号公報 特開2004−292568号公報 特開平09−279142号公報 特開2009−155414号公報
上記特許文献1〜特許文献3に示されるように、従来から、高炉スラグを含むセメント系の「軟弱地盤の強度改良材」や「汚染土壌からの6価クロム等の重金属の溶出を抑制する改良材(不溶化剤)」が種々開発されてきているが、いずれも、強度と重金属の溶出抑制の両方を考慮したものではなく、また、上記環境問題を考慮したものでもない。
特許文献4に示されるものは、強度と重金属の溶出抑制の両方を考慮したものではあるものの、上記環境問題については何ら考慮されていない。
特許文献5に示されるものは、強度と重金属の溶出抑制の両方を考慮しており、また、高炉スラグを主体としたものであるため、一応、上記環境問題にも対応するものと見れるが、重金属溶出抑制剤中の含有セメント量が少なかったり土壌へのこの重金属溶出抑制剤の添加量が少なかったりすると、重金属の溶出抑制効果が十分に発揮されなかったり十分な強度が得られなかったりする。
特許文献6〜9に示されるものは、上記環境問題については何ら考慮されていない。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、高炉スラグの有効利用を図りつつ、土壌や地盤への混和量が少なくても汚染土壌からの重金属の溶出抑制に有効で軟弱地盤に対して強度改善が図れる低セメントの環境負荷低減型セメント組成物及び該セメント組成物を対象土に混和することによる土壌改良方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、セメントの使用量を減らし高炉スラグの使用量を増やすことにより低セメント化し高炉スラグを主体とした系でマグネシア含有物を併用し、マグネシウム分の含有量を制御しつつ、必要に応じて、適量の無水石膏をも併用すれば、混和量が少なくても汚染土壌からの重金属(特に6価クロム)の溶出抑制が可能で、かつ、強度発現性の良い改良土が得られる環境負荷低減型のセメント組成物とそれを用いた土壌改良方法を見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の一つは、特定量のセメントと特定量の高炉スラグと特定量のマグネシア含有物からなり特定量のマグネシウム分を含むセメント組成物であって、必要に応じて、特定量の無水石膏を含む環境負荷低減型のセメント組成物であり、他の一つは該セメント組成物を対象土に特定量を特定の方法で混和する土壌改良方法である。
請求項1に係るセメント組成物は、高炉スラグが主体の低セメント化した改良土用のセメント組成物であって、ポルトランドセメントと高炉スラグとマグネシア含有物とからなり、前記セメント組成物中における前記ポルトランドセメントと前記高炉スラグとの割合はポルトランドセメント20〜40質量%、高炉スラグ60〜80質量%であり、これらポルトランドセメントと高炉スラグの合量100質量部に対し1〜50質量部の前記マグネシア含有物を含み、前記セメント組成物中のマグネシウム分がMgO換算で8.4〜14.2質量%であることを特徴とするものである。
このように、重金属の溶出抑制に有効なマグネシウム分の含有量を制御しつつ、セメントと高炉スラグとマグネシウム含有物とを特定の配合で組み合わせることにより、混和量が少なくても汚染土壌からの重金属の溶出抑制が可能で強度発現性の良い改良土が得られる、低セメントの環境負荷低減型セメント組成物となる。
また、大量に高炉スラグを使用するので、高炉スラグの有効利用が拡大できる。なお、本発明でいう「環境負荷低減型」とは、二酸化炭素の排出抑制や産業廃棄物の廃棄処分低減といった環境問題に貢献するタイプのものである。
請求項2に係るセメント組成物、高炉スラグが主体の低セメント化した改良土用のセメント組成物であって、ポルトランドセメントと高炉スラグと無水石膏とマグネシア含有物とからなり、前記セメント組成物中における前記ポルトランドセメントと前記高炉スラグと前記無水石膏との割合はポルトランドセメント20〜30質量%、高炉スラグ60〜70質量%、無水石膏10質量%以下であり、これらポルトランドセメントと高炉スラグと無水石膏の合量100質量部に対し1〜50質量部の前記マグネシア含有物を含み、前記セメント組成物中のマグネシウム分がMgO換算で5.0〜11.7質量%であることを特徴とするものである。
セメントと高炉スラグに、さらに必要に応じて添加される無水石膏を特定の配合で組み合わせることにより、汚染土壌からの重金属の溶出抑制の効果、強度発現性を高めることができる。
上記本発明では、ポルトランドセメントと高炉スラグとの合量100質量部、もしくは、ポルトランドセメントと高炉スラグと無水石膏の合量100質量部に対し、マグネシア含有物を1〜50質量部混和してなる。
マグネシア含有物は重金属の溶出抑制効果の向上を目的として添加されるものであり、概して、上記配合設計をすることにより本発明の目的が達成し易い。
前記マグネシア含有物の好ましいものの一つがドロマイト焼成物である。
高炉スラグのアルカリ刺激剤となるCaOやMgOを含むドロマイト焼成物を用いることによって、上記配合設計で本発明の目的が容易に達せられる。なお、本発明で言うドロマイト焼成物とは、一般的に、仮焼ドロマイト、軟焼ドロマイト、軽焼ドロマイト、焼成ドロマイトなどと言われるものである。
前記マグネシア含有物の好ましいものの他の一つが軽焼マグネシアである。
上記ドロマイト焼成物と同様に高炉スラグのアルカリ刺激剤となり重金属の溶出抑制効果も高い軽焼マグネシアもマグネシウム含有物の中でも好ましいものの一つであり、これを用いることによって、上記配合設計で本発明の目的が容易に達せられる。
請求項3に係るセメント組成物は、請求項1または2記載のセメント組成物において、前記マグネシア含有物がドロマイト焼成物であることを特徴とするものである。
請求項4に係るセメント組成物は、請求項1または2記載のセメント組成物において、前記マグネシア含有物が軽焼マグネシアであることを特徴とするものである。
請求項5に係る発明は、請求項1、3または4に記載のセメント組成物を用いた土壌改良方法であって、前記マグネシア含有物を前記ポルトランドセメントと前記高炉スラグとのプレミックス混合物に、施工時に混和して使用することを特徴とするものである。
請求項6に係る発明は、請求項2、3または4に記載のセメント組成物を用いた土壌改良方法であって、前記マグネシア含有物を前記ポルトランドセメントと前記高炉スラグと前記無水石膏とのプレミックス混合物に、施工時に混和して使用することを特徴とするものである。
記のように、本発明の土壌改良方法では、ポルトランドセメントと高炉スラグ、あるいは、ポルトランドセメントと高炉スラグと無水石膏とをプレミックスしておき、マグネシア含有物は施工時にこれらに混和して使用する。
このように、本発明の土壌改良方法は、上記本発明のセメント組成物を汚染土や軟弱土等の対象土に所定量混和して、重金属の溶出を抑制したり強度面での補強をしたりする方法であり、特に対象土1m3に対し100kg以下の比較的少量混和した場合でも、ある程度の強度を確保しつつ重金属の溶出抑制を図ることができる。
なお、本発明で言う上記対象土とは、重金属(特に6価クロム)による汚染土、火山灰質粘性土、砂質土、腐植土、高含水土、その他の軟弱土、有機質土、高有機質土、黒ぼく、シルト、粘性土等などである。
本発明のセメント組成物によれば、土壌や地盤への混和量が比較的少なくても汚染土壌からの重金属(特に6価クロム)の溶出抑制に有効で、軟弱地盤に対して強度改善が図れる土壌改良や地盤改良用のセメント組成物が容易に得られる。
また、本発明のセメント組成物は、高炉スラグの有効利用を図るべく高炉スラグ主体で低セメントの環境負荷低減型のものであり、二酸化炭素の排出抑制や産業廃棄物の有効利用といった昨今の環境問題の解決にも寄与するものである。
また、本発明の土壌改良方法によれば、対象土に本発明のセメント組成物を混和するだけで強度と重金属(特に6価クロム)溶出抑制の両面の改善が図れる。そして、本発明のセメント組成物を対象土1m3に対し100kg以下の比較的少量混和した場合でも、ある程度の強度を確保しつつ重金属の溶出抑制ができ、環境に優しい。
以下、本発明のセメント組成物と土壌改良方法について、より具体的に説明する。
本発明のセメント組成物は、少量のセメントと多量の高炉スラグとを含み、必要に応じて適量の無水石膏と適量のマグネシア含有物を含むものである。
セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメントなどの市販のポルトランドセメントである。価格や供給面から、普通ポルトランドセメントが好ましい。
これらポルトランドセメント中には、通常、MgO換算で1〜2.5%のマグネシウム分が含まれる。このマグネシウム分も僅かではあるが重金属の溶出抑制効果に影響すると見られる。
高炉スラグは、従来から高炉セメントやセメント混和材の一材料として使用されている市販の高炉水砕スラグ粉末である。粉末度は特に限定されないが、ブレーン値が3000〜8000cm2/gのものが好ましい。この範囲のものであれば手頃な価格で入手し易く、本発明の目的が十分達成できる。
高炉スラグはアルカリ刺激剤により水硬する潜在水硬性を有する製鉄の際の産業廃棄物であり、強度発現と重金属の溶出抑制の両方に寄与する。特に、重金属の溶出抑制の観点から、マグネシウム分の多い高炉スラグ(高炉スラグ中にMgO換算で5〜8%)を用いることは好ましい。
無水石膏(CaSO4)は、従来からセメント混和材の一材料として種々使用されており、これらのものが使用できる。無水石膏を90重量%以上含むものであれば、他の石膏類が少し含まれていても良い。廃石膏ボードあるいはこれの焼成物といった廃材を使用することは、環境面から好ましい。無水石膏の粉末度は粉であれば特に限定されない。
無水石膏はエトリンガイト形成による初期強度発現に寄与し、上記セメントと上記高炉スラグだけでは、必要強度が確保できない場合に添加される。
マグネシア含有物はMgOを10〜100%含むものであり、セメント組成物中のマグネシア分がセメントと高炉スラグだけでは不足する場合に添加される。マグネシア含有物としては、ドロマイト焼成物、軽焼マグネシア、マグネシアセメント、マグネシアクリンカー、などが挙げられるが、中でもドロマイト焼成物と軽焼マグネシアが好ましい。
マグネシア含有物の粉末度は特に限定されないが、重金属の溶出抑制、高炉スラグに対するアルカリ刺激剤の両方の役割を効率よく果たすためには少なくとも粒径5mm以下の粉粒が好ましい。
ドロマイト焼成物は、ドロマイト(CaMg(CO3)2)を750〜1000℃で焼成してドロマイトを脱炭酸させたものである。1000℃を超えて焼成したいわゆる堅焼のドロマイト焼成物は重金属を固定できない場合がある。ドロマイト焼成物は、CaCO3とMgCO3を脱炭酸させた焼成ドロマイトとMgCO3のみを脱炭酸させた半焼成ドロマイトがある。焼成ドロマイトの他、仮焼ドロマイト、軟焼ドロマイト、軽焼ドロマイトといったものも含まれる。成分は、例えば、CaO:65.6%、MgO:32.1%であり、若干のシリカ分や炭酸カルシウム等の不純物が含まれる。
CaOとMgOとの合量が95%以上であれば、市販のものを使用しても良い。ドロマイト焼成物は、重金属の溶出抑制、高炉スラグに対するアルカリ刺激剤の両方の役割を効果的に果たすことができ、比較的低価格で安定供給できるので好ましい。
軽焼マグネシアは、水酸化マグネシウム等の原材料を300〜400℃で焼成して得られるMgOからなるものである。上記ドロマイト焼成物と同様、重金属の溶出抑制、高炉スラグに対するアルカリ刺激剤の両方の役割を効果的に果たすことができるが、特に重金属の溶出抑制効果を高めたい場合に用いることが好ましい。
本発明では、セメント組成物の主構成となる上記ポルトランドセメントと高炉スラグのセメント組成物中における割合は高炉スラグの方が多くなるようにして限定する必要がある。高炉スラグがポルトランドセメントより多いとMgOによる強度増進も期待できる。
ポルトランドセメントは、セメント組成物中20〜40質量%である。20質量%未満では、セメントが少なすぎて強度発現性が悪くなる。40質量%を超えると高炉スラグの含有量が減るので重金属の溶出抑制効果が悪くなるとともに、環境負荷低減型のセメント組成物にはなり難くなる。
高炉スラグは、セメント組成物中50〜80質量%である。50質量%未満では、重金属の溶出抑制効果が悪くなるとともに、セメント量を増やすことになるので環境負荷低減型のセメント組成物にはなり難くなる。また、80質量%を超えるとセメント量が減りすぎて強度発現性が悪くなる。
無水石膏は、セメント組成物中0〜15質量%であり、セメント組成物中に必ずしも含まれる必要はない。ポルトランドセメントと高炉スラグと必要に応じて添加されるマグネシア含有物とだけでは強度発現が不十分となる場合に添加される。
添加量の上限は15質量%とする必要がある。15質量%を超えると、重金属の溶出抑制効果が悪くなったり長期強度の発現性が悪くなったり異常膨張を起こしたりして、安定した性能のセメント組成物が得られ難くなる。
本発明のセメント組成物は、上記の配合割合において、セメント組成物中のマグネシウム分の含有量をMgO換算で3〜15質量%とする必要がある。3質量%未満では、重金属の溶出抑制効果が悪くなる場合がある。15質量%を超えると対象土によっては十分な強度を確保し難くなる。上記範囲にすることにより、重金属の溶出抑制効果と良好な強度発現性の両方が安定して得られ易くなる。ポルトランドセメントと高炉スラグだけでは上記範囲のMgOが得られない場合は、マグネシア含有物を添加する。
マグネシア含有物は重金属の溶出抑制効果を高めたい場合に混和されるが、その混和量はポルトランドセメントと高炉スラグと必要に応じて添加される無水石膏(混合物をECMセメントと称す)の合量100質量部に対し1〜50質量部とするのが好ましい。
1質量部未満では混和効果が得られ難くなる。50質量部を超えると混和量を増やしても効果の増大は見られず、逆に、強度発現性が悪くなる場合がある。例えば、ドロマイト焼成物や軽焼マグネシアを上記のようにして混和すれば、マグネシウム分の含有量がMgO換算で3〜15質量%のセメント組成物が簡単に得られる。
本発明のセメント組成物は、上記ポルトランドセメントと高炉スラグを主成分とし、必要に応じて添加される無水石膏とマグネシア含有物とからなるものであり、これらをプレミックスしたプレミックス品として使用しても良いが、ポルトランドセメントと高炉スラグ、あるいは、ポルトランドセメントと高炉スラグと無水石膏とをプレミックスしておき(ベースとなる数種類のECMセメントを作製しておき)、マグネシア含有物は施工時にこれらに混和して使用しても良い。
このようにすることで、対象土や使用目的に応じて、マグネシア含有物の種類や混和量を調整できるので、本発明のセメント組成物の使用範囲が広げられ、使用し易くなる。
本発明のセメント組成物の製造方法は特に限定されない。従来の方法で上記材料を適宜プレミックスしておくか、施工時に混合して使用すればよい。配合割合は、対象土の種類やセメント組成物の使用目的に応じて決められる。例えば、重金属の溶出抑制を主たる目的とする場合は、無水石膏の添加量やマグネシウム分の含有量が多くなる配合に、軟弱地盤の強度改善やソイルセメントの製造を目的とする場合は、ポルトランドセメントや無水石膏の含有量が多くなる配合にしておく。
いずれにしろ、少なくとも上記各材料中のアルミニウム分、硫酸分、マグネシウム分は事前に分析して把握しておくとともに、サンプリングした対象土と本発明のセメント組成物による配合決定のための予備試験を従来の方法で行っておくことは好ましい。
本発明の土壌改良方法は、上記本発明のセメント組成物を改良の対象とする土(対象土)1m3に対し、対象土の種類により適切な添加量が異なるが、50〜450kg混和してなるものである。
対象土としては、前述の通り、重金属(特に6価クロム)による汚染土、火山灰質粘性土、砂質土、腐植土、高含水土、その他の軟弱土、有機質土、高有機質土、黒ぼく、シルト、粘性土等が挙げられる。
これら対象土に本発明のセメント組成物を混和する。対象土の種類により適切な添加量が異なるが、対象土1m3に対し50〜450kgを混和する。たとえば、砂質土、シルトでは、50〜200kg、粘性土では、100〜300kg、火山灰質粘性土、腐植土、黒ぼく、高有機質土では、250〜450kgの添加が好ましい。
強度改善を目的とする場合は、(a)セメント含有量の多いセメント組成物を用いる、(b)セメント組成物中に無水石膏を含ませる、(c)対象土に対してセメント組成物の混和量を増やすなどの策をとればよい。
重金属の溶出抑制を目的とする場合は、(a)高炉スラグ含有量の多いセメント組成物を用いる、(b)セメントの混和量を増加させ、セメント水和物量を増加することにより重金属の固定量を増加させる、(c)セメント組成物中にマグネシア含有物を含ませセメント組成物中のマグネシウム分の含有量を多くするなどの策をとればよい。
強度改善と重金属の溶出抑制の両方を目的とする場合は、上記策の中間の配合とする。上記両方を目的とする土壌改良における改良土の好ましい配合例は、対象土1m3に対し、ポルトランドセメント20〜30質量%、高炉スラグ70〜60質量%、無水石膏10質量%からなるこれらの混合物(ECMセメント)を200〜300kg混和するとともに、焼成ドロマイトを20〜50kg混和してなるものである。
なお、対象土に混和するセメント組成物量が少ないところでは重金属溶出抑制効果のある高炉スラグの対象土への混和量が少なくなるので、マグネシア含有物を併用して補った方がよい。
地盤改良の方法は、地面からの深さにより浅層改良、深層改良があり、添加方法として粉体による添加、スラリーによる添加方法がある。地盤改良の方法は、土壌に混和する従来のセメント系固化材の場合と同じであり、特に限定されない。
例えば、所定配合のポルトランドセメントと高炉スラグと無水石膏からなるプレミックス材(P)と水(W)とでW/P=1(重量比)のセメントミルクを作製し、これに攪拌しながら所定量の焼成ドロマイト粉を添加して本発明のセメント組成物からなるセメントミルクを作製する。
このセメントミルクの所定量を所定量の対象土と機械撹拌方式、噴射撹拌方式により混和して、土壌を改良する。本発明の土壌改良方法による対象土は建設発生土等の建設廃棄物にも拡大でき、得られる改良土は、ソイルセメント柱、土嚢、耐震補強、地盤沈下防止等の様々な分野で補強材や充填材として利用できる。
次に、本発明のセメント組成物を用いた試製改良土の性能を、試験例A〜Dで示す。
〔試験例A〕
(1) 使用材料
セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
高炉スラグ:セラメント(デイ・シイ社製:ブレーン値4000cm2/g品)
無水石膏:デイ・シイ社製:ブレーン値4000cm2/g
焼成ドロマイト:吉澤石灰社製(MgO:32.1%)
対象土:シルト(含水比率:41.1%、湿潤密度は1716kg/m3
(2) 試製改良土の製造
セメントと高炉スラグ、セメントと高炉スラグと無水石膏とをそれぞれ混合して表1に示す所定配合の混合物(ECMセメント)を得た。これに水を、水/ECMセメント=1(質量比)の割合で添加してホバートミキサーにより攪拌混合してセメントスラリーを得た。
表1に示す配合割合になるように調整して、上記セメントスラリーと必要に応じて混和される焼成ドロマイトを対象土に混和してソイルミキサーで混練し、得られた混練物を5φ×10cmに成形して一軸圧縮強度試験用の供試体を得た。
なお、表1に示す焼成ドロマイトとECMセメントの混和量(単位量:kg/m3)は、対象土1m3当たりのkg量である。
また、表1中におけるセメント組成物中のマグネシウム分含有量はJIS R 5202により求めた。
Figure 0006023771
(3) 性能試験
(i) 一軸圧縮強度試験
JIS A 1216の規定に準じて、材令7日と28日で一軸圧縮強度試験を行った。
(ii)6価クロムの溶出試験
上記一軸圧縮強度試験後の破砕片を用い、環境庁告示第46号法の規定に準じて、6価クロムの溶出試験を行った。
(4) 試験結果
試験結果を表1に示す。試験No.1〜6と試験No.13〜18あるいは試験No.7〜12と試験No.13〜18を比較してわかるとおり、本発明のセメント組成物を用いれば、低セメントでも従来の高炉セメント並の強度が得られる。また、シルトへのセメント組成物の混和量が比較的少なくても(セメント混和量が比較的少なくても)強度改善が図れる。
更に、従来の高炉セメントでは重金属の溶出抑制に有効なマグネシウム含有量が増える(焼成ドロマイトを混和する)と強度は低下するが、本発明のセメント組成物では逆に向上するので、本発明のセメント組成物を用いることにより重金属の溶出抑制が効果的にできるとともに強度改善も図れる。
〔試験例B〕
(1) 使用材料
対象土以外は試験例Aと同じである。対象土は、関東ローム(含水比率:134.3%、湿潤密度は1350kg/m3)を用いた。
(2) 試製改良土の製造
表2に示す配合割合になるように調整して、試験例Aと同様にして製造した。
Figure 0006023771
(3) 性能試験
試験例Aと同じである。
(4) 試験結果
試験結果を表2に示す。本発明の範囲をはずれるものは、試験No.22に示すようにマグネシウム分含有量が少ないところでは強度は確保できても6価クロムの溶出抑制が不十分となる場合がある。
また、試験No.23、24に示すように、マグネシウム分含有量の多いところでは、6価クロムの溶出抑制はできたとしても本発明のもの(試験No.20、21)に比べて強度は低い。
本発明のセメント組成物を用いれば、マグネシウム分含有量の多少(バラツキ)によらず、安定して強度確保と重金属の溶出抑制ができる。
〔試験例C〕
(1) 使用材料
対象土以外は試験例Aと同じである。対象土は、砂質土(含水比率:34.0%、湿潤密度は1844kg/m3)を用いた。
(2) 試製改良土の製造
セメントと高炉スラグと無水石膏とをそれぞれ混合して表3に示す所定配合の混合物(ECMセメント)を得た。この混合物の粉と必要に応じて混和される焼成ドロマイトの粉を対象土に混和してソイルミキサーで混練し、得られた混練物を5φ×10cmに成形して一軸圧縮強度試験用の供試体を得た。その他は試験例Aと同様である。
Figure 0006023771
(3) 性能試験
試験例Aと同じである。
(4) 試験結果
試験結果を表3に示す。本発明のセメント組成物を用いれば、試験No.27、29、30に示すように、対象土への混和量が100kg/m3程度と比較的少ないところでも、強度確保が図れる。
〔試験例D〕
(1) 使用材料
セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
高炉スラグ:セラメント(デイ・シイ社製:ブレーン値4000cm2/g品)
無水石膏:デイ・シイ社製:ブレーン値4000cm2/g
焼成ドロマイト:吉澤石灰社製(MgO:32.1%)
軽焼マグネシア:武井工業所社製(MgO:49.0%)
対象土:粘土(含水比率:54.5%)と6号ケイ砂(含水比率:0.05%)とを質量比1:1で混合した試製対象土(含水比率:27.3%、湿潤密度:2002kg/m3
なお、この試製対象土は、1級試薬CaCrO4・2H2Oにより6価クロムをセメント中に300mg/kgとなるように含ませ、6価クロムによる汚染土とした。
(2) 試製改良土の製造
セメントと高炉スラグ、セメントと高炉スラグと無水石膏とをそれぞれ混合して表4、表5に示す所定配合の混合物(ECMセメント)を得た。これに水を、水/ECMセメント=1(質量比)の割合で添加してホバートミキサーにより攪拌混合してセメントスラリーを得た。
表4、表5に示す配合割合になるように調整して、上記セメントスラリーと必要に応じて混和される焼成ドロマイトもしくは軽焼マグネシアを試製対象土に混和してソイルミキサーで混練し、得られた混練物を5φ×10cmに成形して一軸圧縮強度試験用の供試体を得た。
Figure 0006023771
Figure 0006023771
(3) 性能試験
試験例Aと同じである。
(4) 試験結果
焼成ドロマイトを用いた試験結果を表4に、軽焼マグネシアを用いた試験結果を表5に示す。表4の試験No.31〜38と試験No.47〜54、もしくは試験No.39〜46と試験No.47〜54を比較してわかるように、本発明のセメント組成物を用いたものは、低セメントであるにもかかわらず、高炉セメント配合のもの以上の強度発現をし、6価クロムの溶出も抑制される。6価クロムによる汚染土に対しても有効であることがわかる。
また、試験No.47〜54に示すようにセメント量が本発明の範囲をはずれ高いところでは、マグネシウム分の含有量が増えると強度発現は悪くなるが、本発明のセメント組成物では、試験No.31〜46に示すように、高炉セメント配合のものほど低下はしない。
また、表5の試験No.55〜62からわかるように、本発明のセメント組成物において、マグネシア含有物を上記焼成ドロマイトに変えて軽焼マグネシアにした場合も、良好な強度発現、6価クロムの溶出抑制は達成される。そして、焼成ドロマイトを用いた場合と同様に、マグネシウム分の含有量が増えても強度発現は悪くならなず、若干良くなる。
上記の通り、本発明のセメント組成物は、環境負荷低減型の低セメント含有量のものであるにもかかわらず、従来の高炉セメント以上の強度発現効果を有するとともに、重金属(6価クロム)の溶出抑制効果も高い。
また、高セメント含有量の従来の高炉セメント配合のものでは、マグネシウム分が多くなると強度発現が悪くなったりして、マグネシウム分の含有量により強度発現が不安定となるが、本発明のセメント組成物では、マグネシウム分の含有量の影響を大きく受けることはなく、強度が安定して確保できる。
更に、対象土によっては、比較的少ない混和量で目的が達成でき、経済的な面でメリットが生ずる場合もある。
〔試験例E〕
Cr6+濃度10ppmの水溶液と表6のセメント組成物を水粉体比10で混合し、材齢7日でCr6+濃度を測定した。なお、ドロマイト焼成物はECMセメントに対し、外割で混和した。
使用したドロマイト焼成物は、ドロマイト原石(宇部マテリアル社製苦土石灰)を坩堝に蓋をして(炭酸ガス分圧0.1atm)、電気炉で750℃で4時間焼成した主成分がMgO、CaCO3の半焼成ドロマイト(CaO=42.4%、MgO=23.0%、ig.loss=33.9%)である。何れもCr6+濃度の濃度が定量限界以下まで固定された。
Figure 0006023771
本発明のセメント組成物は、土壌からの重金属の溶出抑制効果、良好で安定した強度発現性能を併せ持つ新規な高炉スラグ−マグネシア系固化材であり、汚染土壌や軟弱地盤の改良に有効であり、該セメント組成物を対象土に混和するだけで土壌改良ができる。また、このセメント組成物を建設発生土等に混和して作製した改良土は、ソイルセメント柱、土嚢等に利用できる。

Claims (6)

  1. 高炉スラグが主体の低セメント化した改良土用のセメント組成物であって、ポルトランドセメントと高炉スラグとマグネシア含有物とからなり、前記セメント組成物中における前記ポルトランドセメントと前記高炉スラグとの割合はポルトランドセメント20〜40質量%、高炉スラグ60〜80質量%であり、これらポルトランドセメントと高炉スラグの合量100質量部に対し1〜50質量部の前記マグネシア含有物を含み、前記セメント組成物中のマグネシウム分がMgO換算で8.4〜14.2質量%であることを特徴とするセメント組成物。
  2. 高炉スラグが主体の低セメント化した改良土用のセメント組成物であって、ポルトランドセメントと高炉スラグと無水石膏とマグネシア含有物とからなり、前記セメント組成物中における前記ポルトランドセメントと前記高炉スラグと前記無水石膏との割合はポルトランドセメント20〜30質量%、高炉スラグ60〜70質量%、無水石膏10質量%以下であり、これらポルトランドセメントと高炉スラグと無水石膏の合量100質量部に対し1〜50質量部の前記マグネシア含有物を含み、前記セメント組成物中のマグネシウム分がMgO換算で5.0〜11.7質量%であることを特徴とするセメント組成物。
  3. 請求項1または2記載のセメント組成物において、前記マグネシア含有物がドロマイト焼成物であることを特徴とするセメント組成物。
  4. 請求項1または2記載のセメント組成物において、前記マグネシア含有物が軽焼マグネシアであることを特徴とするセメント組成物。
  5. 請求項1、3または4に記載のセメント組成物を用いた土壌改良方法であって、前記マグネシア含有物を前記ポルトランドセメントと前記高炉スラグとのプレミックス混合物に、施工時に混和して使用することを特徴とする土壌改良方法。
  6. 請求項2、3または4に記載のセメント組成物を用いた土壌改良方法であって、前記マグネシア含有物を前記ポルトランドセメントと前記高炉スラグと前記無水石膏とのプレミックス混合物に、施工時に混和して使用することを特徴とする土壌改良方法。
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