JP5895976B2 - 複合半透膜 - Google Patents

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Description

本発明は、耐久性、透水性に優れ、水処理に好適な複合半透膜およびその製造方法に関するものである。
従来、塩などの溶解物成分の透過を阻止する水処理分離膜として利用されている半透膜には、非対称型の酢酸セルロース膜があった(例えば特許文献1)。しかし、この膜は耐加水分解性、耐微生物性が低く、さらに塩阻止率、水透過性のような水処理用分離膜としての基本的な性能も十分ではなかった。このため、非対称型の酢酸セルロース膜は一部の用途には使用されているが広範囲の用途に実用化されるには至っていない。
これらの欠点を補うべく非対称型の膜とは形態を異にする半透膜として、微多孔性支持膜上に異なる素材を設けて、これが実質的に膜分離性能を与える分離機能層となる複合半透膜が提案された。複合半透膜では、微多孔性支持膜および分離機能層の各々で最適な素材を選択する事が可能であり、製膜技術も種々の方法を選択できる。これまで市販されている複合半透膜の大部分は多孔質膜支持膜上での界面重縮合により、ポリアミドからなる分離機能層が得られたものである。かような複合半透膜としては、特許文献2に記載された発明が挙げられる。さらに特許文献3では、ポリアミドの構造中にアルコキシ基を有するケイ素化合物が含まれる分離機能膜層が開示されている。
上で説明した複合半透膜では酢酸セルロース非対称膜よりも高い脱塩性能が得られており、同時に高い水透過性も得られている。しかしながらこのようなポリアミドを用いた複合半透膜は、主鎖にアミド結合を有するため酸化剤に対する耐久性が未だ不十分であり、膜の殺菌に用いられる塩素、過酸化水素などで処理することにより脱塩性能や選択的な分離性能が著しく劣化することが知られている。
そのような点を省み、例えば特許文献4、特許文献5などでは製膜技術の汎用性が高く、また、原料の選択性の幅も広いエチレン性不飽和化合物を重合した分離機能層を開示している。しかしながら上記のような化合物を用い作製した複合半透膜は、耐薬品性には優れているものの、透水性、分離性能のいずれかが十分とは言えなかった。
米国特許第3,133,132号明細書 米国特許第4,277,344号明細書 特開平9−99228号公報 特開2000−117077号公報 特開2004−17002号公報
そこで、本発明では、耐久性が高く、高分離性、高透水性である複合半透膜を得ることを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明は、下記(1)〜(5)で構成される。
(1)微多孔性支持膜上に分離機能層を形成してなり、該分離機能層が、
(A)エチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に直接結合したケイ素化合物、ならびに
(B)前記ケイ素化合物以外のエチレン性不飽和基を有する化合物から、
(A)のケイ素化合物の加水分解性基の縮合ならびに(A)のケイ素化合物および(B)のエチレン性不飽和基を有する化合物のエチレン性不飽和基の重合により、
形成されたことを特徴とする複合半透膜。
(2)微多孔性支持膜の平均細孔径が1〜100nmであることを特徴とする(1)の複合半透膜。
(3)化合物(A)の加水分解性基がアルコキシ基、アルケニルオキシ基、カルボキシ基、ケトオキシム基、ハロゲン原子またはイソシアネート基である(1)または(2)の複合半透膜。
(4)ケイ素化合物(A)が下記一般式(a)で表されるものである(1)〜(3)いずれかの複合半透膜。
Si(R(R(R4−m−n ・・・(a)
(Rはエチレン性不飽和基を含む反応性基を示す。Rはアルコキシ基、アルケニルオキシ基、カルボキシ基、ケトオキシム基、ハロゲン原子またはイソシアネート基。Rは水素原子またはアルキル基を表す。m、nは整数。m+n≦4、m≧1、n≧1を満たす。R、R、Rそれぞれにおいて2以上の官能基がケイ素原子に結合している場合、同一であっても異なっていてもよい。)
(5)微多孔性支持膜上に分離機能層を形成してなる複合半透膜の製造方法であって、該分離機能層が、(A)エチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に直接結合したケイ素化合物、ならびに(B)前記ケイ素化合物以外のエチレン性不飽和基を有する化合物を塗布し、(a)ケイ素化合物の加水分解性基の縮合ならびに(A)のケイ素化合物および(B)のエチレン性不飽和基を有する化合物のエチレン性不飽和基を重合させることにより、分離機能層を形成させることを特徴とする複合半透膜の製造方法。
本発明により、塩素に代表される薬品への耐薬品性、透水性に優れた複合半透膜が得られる。この膜を用いることで、工業的には低ランニングコスト化、低コスト化、省エネルギー化という改善が期待される。
本発明の微多孔性支持膜は、分離機能層の支持膜として本発明に係る複合半透膜に強度を与える。分離機能層は微多孔性支持膜の少なくとも片面に設けられたものである。複数の分離機能層を設けても良いが、通常、片面に1層の分離機能層があれば十分である。
本発明で用いる微多孔性支持膜の表面の細孔径は1〜100nmの範囲内であることが好ましく、下限として好ましくは5nm、さらに好ましくは10nm、好ましい上限としては50nmである。
微多孔性支持膜表面の細孔径がこの範囲であれば、得られる複合半透膜が、高い純水透過流束を持ち、かつ加圧運転中に分離機能層が支持膜孔内に落ち込むことなく構造を維持できる。
ここで、微多孔性支持膜の表面の細孔径は、電子顕微鏡写真により算出できる。写真撮影し、観察できる細孔すべての直径を測定し、平均することにより求めた値を指す。細孔が円状でない場合、画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求めることができる。別の手段としては、示差走査熱量測定(DSC)により求めることができる(石切山他、ジャーナル・オブ・コロイド・アンド・インターフェイス・サイエンス、171巻、p103、アカデミック・プレス・インコーポレーテッド(1995))にその詳細が記載されている。
微多孔性支持膜の厚みは、1μm〜5mmの範囲内にあると好ましく、10〜100μmの範囲内にあるとより好ましい。厚みが小さいと微多孔性支持膜の強度が低下しやすく、その結果、複合半透膜の強度が低下する傾向にある。厚みが大きいと微多孔性支持膜およびそれから得られる複合半透膜を曲げて使うときなど取り扱いにくくなる。また、複合半透膜の強度を上げるため、微多孔性支持膜は布、不織布、紙などで補強されていてもよい。これら補強する材料の好ましい厚みは50〜150μmである。
微多孔性支持膜に用いる素材としては特に限定されない。たとえばポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシドなどのホモポリマーあるいはコポリマーが使用できる。これらのポリマーを単独で、またはブレンドして用いることができる。上記のうち、セルロース系ポリマーとしては、酢酸セルロース、硝酸セルロースなどが例示される。ビニル系ポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどが好ましいものとして例示される。中でも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどのホモポリマーやコポリマーが好ましい。さらに、これらの素材の中でも、化学的安定性、機械的強度、熱安定性が高く、成型が容易であるポリスルホン、ポリエーテルスルホンを用いることが特に好ましい。
本発明の複合半透膜に存在する分離機能層の厚みは5〜500nmの範囲内にあると好ましい。下限としてはより好ましくは5nmである。上限としてより好ましくは200nmである。薄膜化することによりクラックが入りづらくなり欠点による除去率低下を避けることができる。さらにそのように薄膜化した分離機能層は透水性を向上させることができる。
本発明の分離機能層は、微多孔性支持膜上に以下の反応により形成されるものである。
(A)エチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に直接結合したケイ素化合物、ならびに(B)前記ケイ素化合物以外のエチレン性不飽和基を有する化合物から、
(A)のケイ素化合物の加水分解性基の縮合ならびに(A)のケイ素化合物および(B)のエチレン性不飽和基を有する化合物のエチレン性不飽和基の重合。
まず(A)のエチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に直接結合したケイ素化合物について説明する。
エチレン性不飽和基を有する反応性基はケイ素原子に直接結合している。かような反応性基としては、ビニル基、アリル基、メタクリルオキシエチル基、メタクリルオキシプロピル基、アクリルオキシエチル基、アクリルオキシプロピル基、スチリル基が例示される。重合性の観点から、メタクリルオキシプロピル基、アクリルオキシプロピル基、スチリル基が好ましい。
またケイ素原子に直接結合している加水分解性基が水酸基に変化するなどのプロセスを経て、ケイ素化合物同士がシロキサン結合で結ばれるという縮合反応が生じ、高分子となる。加水分解性基としては以下の官能基が例示される。アルコキシ基、アルケニルオキシ基、カルボキシ基、ケトオキシム基、アミノヒドロキシ基、ハロゲン原子およびイソシアネート基。アルコキシ基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、さらに好ましくは炭素数1〜2のものである。アルケニルオキシ基としては炭素数2〜10のものが好ましく、さらには炭素数2〜4、さらには3のものである。カルボキシ基としては、炭素数2〜10のものが好ましく、さらには炭素数2のもの、すなわちアセトキシ基である。ケトオキシム基としては、メチルエチルケトオキシム基、ジメチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基が例示される。アミノヒドロキシ基は、酸素を介してアミノ基が酸素原子を介してケイ素原子に結合しているものである。このようなものとしては、ジメチルアミノヒドロキシ基、ジエチルアミノヒドロキシ基、メチルエチルアミノヒドロキシ基が例示される。ハロゲン原子としては、塩素原子が好ましく使用される。
分離機能層の形成にあたっては、上記加水分解性基の一部が加水分解し、シラノール構造をとっているケイ素化合物も使用できる。また2以上のケイ素化合物が、加水分解性基の一部が加水分解、縮合し架橋しない程度に高分子量化したものも使用できる。
ケイ素化合物(A)としては下記一般式(a)で表されるものであることが好ましい。
Si(R(R(R4−m−n ・・・(a)
(Rはエチレン性不飽和基を含む反応性基を示す。Rはアルコキシ基、アルケニルオキシ基、カルボキシ基、ケトオキシム基、ハロゲン原子またはイソシアネート基。Rは水素原子またはアルキル基を表す。m、nは整数。m+n≦4、m≧1、n≧1。R、R、Rそれぞれにおいて2以上の官能基がケイ素原子に結合している場合、同一であっても異なっていてもよい。)
はエチレン性不飽和基を含む反応性基であるが、上で解説したとおりである。
は加水分解性基であるが、これらは上で解説したとおりである。Rとなるアルキル基の炭素数としては1〜10のものが好ましく、さらに1〜2のものが好ましい。またアルキル基に対して他の官能基が結合していてもよい。
加水分解性基としては、分離機能層の形成にあたって、反応液が粘性を持つことからアルコキシ基が好ましく用いられる。
かようなケイ素化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシランが例示される。
(A)のケイ素化合物の他、エチレン性不飽和基を有する反応性基を有しないが、加水分解性基を有するケイ素化合物を併せて使用することもできる。このようなケイ素化合物は、一般式(a)では「m≧1」と定義されているが、一般式(a)においてmがゼロである化合物が例示される。かようなものとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランが例示される
次に(A)のケイ素化合物以外のものであって、エチレン性不飽和基を有する化合物である(B)について説明する。
エチレン性不飽和基は付加重合性を有する。かような化合物としてはエチレン、プロピレン、メタアクリル酸、アクリル酸、スチレンおよびこれらの誘導体が例示される。
また、この化合物は、複合半透膜を水溶液の分離などに用いたときに水の選択的透過性を高め、塩の阻止率を上げるために、酸基を有するアルカリ可溶性の化合物であることが好ましい。
好ましい酸の構造としては、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸およびスルホン酸であり、これらの酸の構造としては、酸の形態、エステル化合物、および金属塩のいずれの状態で存在してもよい。これらのエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物は、2つ以上の酸を含有し得るが、中でも1個〜2個の酸基を含有する化合物が、好ましい。
上記のエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物の中でカルボン酸基を有する化合物としては、以下のものが例示される。マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸および対応する無水物、10−メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)−N−フェニルグリシンおよび4−ビニル安息香酸が挙げられる。
上記のエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物の中でホスホン酸基を有する化合物としては、ビニルホスホン酸、4−ビニルフェニルホスホン酸、4−ビニルベンジルホスホン酸、2−メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2−メタクリルアミドエチルホスホン酸、4−メタクリルアミド−4−メチル−フェニル−ホスホン酸、2−[4−(ジヒドロキシホスホリル)−2−オキサ−ブチル]−アクリル酸および2−[2−ジヒドロキシホスホリル)−エトキシメチル]−アクリル酸−2,4,6−トリメチル−フェニルエステルが例示される。
上記のエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物の中でリン酸エステルの化合物としては、2−メタクリロイルオキシプロピル一水素リン酸および2−メタクリロイルオキシプロピル二水素リン酸、2−メタクリロイルオキシエチル一水素リン酸および2−メタクリロイルオキシエチル二水素リン酸、2−メタクリロイルオキシエチル−フェニル−水素リン酸、ジペンタエリトリトール−ペンタメタクリロイルオキシホスフェート、10−メタクリロイルオキシデシル−二水素リン酸、ジペンタエリトリトールペンタメタクリロイルオキシホスフェート、リン酸モノ−(1−アクリロイル−ピペリジン−4−イル)−エステル、6−(メタクリルアミド)ヘキシル二水素ホスフェートならびに1,3−ビス−(N−アクリロイル−N−プロピル−アミノ)−プロパン−2−イル−二水素ホスフェートが例示される。
上記のエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物の中でスルホン酸基を有する化合物としては、ビニルスルホン酸、4−ビニルフェニルスルホン酸または3−(メタクリルアミド)プロピルスルホン酸が挙げられる。
本発明の複合半透膜では、分離機能層を形成するために、(A)のケイ素化合物以外に、エチレン性不飽和基を1個以上有する化合物、および重合開始剤を含んだ反応液が使用される。この反応液を多孔質膜上に塗布し、さらに加水分解性基を縮合することに加えて、エチレン性不飽和基の重合によって、これら化合物を高分子量化することが必要である。(A)のケイ素化合物を単独で縮合させた場合、ケイ素原子に架橋鎖の結合が集中し、ケイ素原子周辺とケイ素原子から離れた部分との密度差が大きくなるため、分離機能層中の孔径が不均一となる傾向がある。一方、(A)のケイ素化合物自身の高分子量化および架橋に加え、(B)のエチレン性不飽和基を有する化合物を共重合させることで、加水分解性基の縮合による架橋点とエチレン性不飽和基の重合による架橋点が適度に分散される。このように適度に架橋点を分散させることで、均一な孔径を有する分離機能層が構成され、透水性能と除去性能のバランスが取れた複合半透膜を得ることができる。この際、エチレン性不飽和基を1個以上有する化合物は、低分子量だと複合半透膜使用時に溶出し膜性能低下を引き起こす可能性があるため、高分子量化していることが必要である。
本発明の製造方法において、(A)エチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に直接結合したケイ素化合物の含有量は、反応液に含有される固形分量100重量部に対し10重量部以上であることが好ましく、さらに好ましくは20重量部〜50重量部である。ここで、反応液に含有される固形分とは、反応液に含有される全成分のうち、溶媒や留去成分を除いた、本発明の製造方法によって得られた複合半透膜に最終的に分離機能層として含まれる成分のことを指す。(A)のケイ素化合物量が少ないと、架橋度が不足する傾向があるので、膜ろ過時に分離機能層が溶出し分離性能が低下するなどの不具合が発生するおそれがある。
(B)のエチレン性不飽和基を有する化合物の含有量は、反応液に含有される固形分量100重量部に対し90重量部以下であることが好ましく、さらに好ましくは50重量部〜80重量部である。(B)の化合物の含有量がこれらの範囲にあるとき、得られる分離機能層は架橋度が高くなるため、分離機能層が溶出することなく安定に膜ろ過ができる。
次に、本発明の複合半透膜の製造方法における、分離機能層を多孔質支持膜上に形成する方法について説明する。
分離機能層形成のために例示される方法としては、(A)のケイ素化合物および(B)のエチレン性不飽和基を有する化合物を含有する反応液を塗布する工程、溶媒を除去する工程、エチレン性不飽和基を重合させる工程、加水分解性基を縮合させる工程の順に行うものである。エチレン不飽和基を重合させる工程において、加水分解性基が同時に縮合することがあってもいい。
まず、(A)および(B)を含有する反応液を微多孔性支持膜に接触させる。かかる反応液は、通常溶媒を含有する溶液であるが、かかる溶媒は微多孔性支持膜を破壊せず、(A)および(B)、および必要に応じて添加される重合開始剤を溶解するものであれば特に限定されない。この反応液には、(A)のケイ素化合物のモル数に対して1〜10倍モル量、好ましくは1〜5倍モル量の水を無機酸または有機酸と共に添加して、(A)のケイ素化合物の加水分解を促すことが好ましい。
反応液の溶媒としては、水、アルコール系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒および、これらを混ぜ合わせたものが好ましい。例えば、アルコール系有機溶媒として、メタノール、エトキシメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル(2-メトキシエタノール)、エチレングリコールモノアセトエステル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、メトキシブタノール等が挙げられる。また、エーテル系有機溶媒として、メチラール、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジアミルエーテル、ジエチルアセタール、ジヘキシルエーテル、トリオキサン、ジオキサン等が挙げられる。また、ケトン系有機溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルシクロヘキシルケトン、ジエチルケトン、エチルブチルケトン、トリメチルノナノン、アセトニトリルアセトン、ジメチルオキシド、ホロン、シクロヘキサノン、ダイアセトンアルコール等が挙げられる。また、溶媒の添加量としては、50〜99重量部%が好ましく、さらには80〜99重量部%が好ましい。溶剤の添加量が多すぎると膜中に欠点が生じやすい傾向があり、少なすぎると得られる複合半透膜の透水性が低くなる傾向がある。
微多孔性支持膜と反応液との接触は、微多孔性支持膜面上で均一にかつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、反応液をスピンコーター、ワイヤーバー、フローコーター、ダイコーター、ロールコーター、スプレーなどの塗布装置を用いて微多孔性支持膜にコーティングする方法があげられる。また微多孔性支持膜を、反応液に浸漬する方法を挙げることができる。
浸漬させる場合、微多孔性支持膜と反応液との接触時間は、0.5〜10分間の範囲内であることが好ましく、1〜3分間の範囲内であるとさらに好ましい。反応液を微多孔性支持膜に接触させたあとは、膜上に液滴が残らないように十分に液切りすることが好ましい。十分に液切りすることで、膜形成後に液滴残存部分が膜欠点となって膜性能が低下することを防ぐことができる。液切りの方法としては、反応液接触後の微多孔性支持膜を垂直方向に把持して過剰の反応液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの風を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させ、反応液の溶媒分の一部を除去することもできる。
ケイ素の加水分解性基を縮合させる工程は、微多孔性支持膜上に反応液を接触させた後に加熱処理することによって行われる。このときの加熱温度は、微多孔性支持膜が溶融し分離膜としての性能が低下する温度より低いことが要求される。縮合反応を速やかに進行させるために通常0℃以上で加熱を行うことが好ましく、20℃以上がより好ましい。また、前記反応温度は、150℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。反応温度が0℃以上であれば、加水分解および縮合反応が速やかに進行し、150℃以下であれば、加水分解および縮合反応の制御が容易になる。また、加水分解または縮合を促進する触媒を添加することで、より低温でも反応を進行させることが可能である。さらに本発明では分離機能層が細孔を有するよう加熱条件および湿度条件を選定し、縮合反応を適切に行うようにする。
(A)のケイ素化合物および(B)のエチレン性不飽和基を有する化合物のエチレン性不飽和基の重合方法としては、熱処理、電磁波照射、電子線照射、プラズマ照射により行うことができる。ここで電磁波とは赤外線、紫外線、X線、γ線などを含む。重合方法は適宜最適な選択をすればよいが、ランニングコスト、生産性などの点から電磁波照射による重合が好ましい。電磁波の中でも赤外線照射や紫外線照射が簡便性の点からより好ましい。実際に赤外線または紫外線を用いて重合を行う際、これらの光源は選択的にこの波長域の光のみを発生する必要はなく、これらの波長域の電磁波を含むものであればよい。しかし、重合時間の短縮、重合条件の制御などのしやすさの点から、これらの電磁波の強度がその他の波長域の電磁波に比べ高いことが好ましい。
電磁波は、ハロゲンランプ、キセノンランプ、UVランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプ、希ガス蛍光ランプ、水銀灯などから発生させることができる。電磁波のエネルギーは重合できれば特に制限しないが、中でも高効率で低波長の紫外線が薄膜形成性が高い。かような紫外線は低圧水銀灯、エキシマレーザーランプにより発生させることができる。本発明に係る分離機能層の厚み、形態はそれぞれの重合条件によっても大きく変化することがあり、電磁波による重合であれば電磁波の波長、強度、被照射物との距離、処理時間により大きく変化することがある。そのためこれらの条件は適宜最適化を行う必要がある。
重合速度を速める目的で分離機能層形成の際に重合開始剤、重合促進剤等を添加することが好ましい。ここで、重合開始剤、重合促進剤とは特に限定されるものではなく、用いる化合物の構造、重合手法などに合わせて適宜選択されるものである。
重合開始剤を以下例示する。電磁波による重合の開始剤としては、ベンゾインエーテル、ジアルキルベンジルケタール、ジアルコキシアセトフェノン、アシルホスフィンオキシドもしくはビスアシルホスフィンオキシド、α−ジケトン(例えば、9,10−フェナントレンキノン)、ジアセチルキノン、フリルキノン、アニシルキノン、4,4’−ジクロロベンジルキノンおよび4,4’−ジアルコキシベンジルキノン、およびショウノウキノンが、例示される。熱による重合の開始剤としては、アゾ化合物(例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)もしくはアゾビス−(4−シアノバレリアン酸)、または過酸化物(例えば、過酸化ジベンゾイル、過酸化ジラウロイル、過オクタン酸tert−ブチル、過安息香酸tert−ブチルもしくはジ−(tert−ブチル)ペルオキシド)、さらに芳香族ジアゾニウム塩、ビススルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アルキルリチウム、クミルカリウム、ナトリウムナフタレン、ジスチリルジアニオンが例示される。なかでもベンゾピナコールおよび2,2’−ジアルキルベンゾピナコールは、ラジカル重合のための開始剤として特に好ましい。
過酸化物およびα−ジケトンは、開始を加速するために、好ましくは、芳香族アミンと組み合わせて使用される。この組み合わせはレドックス系とも呼ばれる。このような系の例としては、過酸化ベンゾイルまたはショウノウキノンと、アミン(例えば、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチル−アミノ安息香酸エチルエステルまたはその誘導体)との組み合わせである。さらに、過酸化物を、還元剤としてのアスコルビン酸、バルビツレートまたはスルフィン酸と組み合わせて含有する系もまた好ましい。
次いで、これを約100〜200℃で10分〜3時間程度加熱処理すると縮合反応が起こり、微多孔性支持膜表面にケイ素化合物由来の分離機能層が形成された本発明の複合半透膜を得ることができる。加熱温度は微多孔性支持膜の素材にもよるが、高すぎると溶解が起こり微多孔性支持膜の細孔が閉塞するため、複合半透膜の造水量が低下する。一方低すぎた場合には、縮合反応が不十分となり機能層の溶出により除去率が低下するようになる。
なお上記の製造方法において、(A)のケイ素化合物と(B)のエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物とを高分子量化する工程は、ケイ素化合物の縮合工程の前に行っても良いし、後に行っても良い。また、同時に行っても良い。
このようにして得られた複合半透膜はこのままでも使用できるが、使用する前に例えばアルコール含有水溶液、アルカリ水溶液によって膜の表面を親水化させることが好ましい。
以下実施例をもって本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれにより限定されるものではない。
以下の実施例において複合半透膜の除去率は次式(b)、複合半透膜の膜透過流束は次式(c)、塩素浸漬後の性能保持率は次式(d)で計算されるものである。
除去率(%)={(供給液の濃度−透過液の濃度)/供給液の濃度}×100 ・・・式(b)
膜透過流束(m/m/day)=(一日の透過液量)/(膜面積) ・・・式(c)
塩素浸漬後の性能保持率(%)=(塩素浸漬後の除去率)/(塩素浸漬前の除去率)×100・・・式(d)
また微多孔性支持膜の表面の細孔径は60,000倍の電子顕微鏡写真から算出した。
(実施例1)
ポリエステル不織布上にポリスルホンの15.7重量%ジメチルホルムアミド溶液を200μmの厚みで、室温(25℃)でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって微多孔性支持膜を作製した。このようにして得られた微多孔性支持膜の表面の細孔径は21nmであり、厚みは150μmであった。
得られた微多孔性支持膜を、化合物(A)に該当する3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.8重量%、化合物(B)に該当する4−ビニルフェニルスルホン酸ナトリウム3.2重量%、2,2−ジメソキシ−2−フェニルアセトフェノン0.24重量%、純水33.5重量%含むイソプロピルアルコール溶液に1分間接触させ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な溶液を取り除き微多孔性支持膜上に前記溶液の層を形成した。次いで波長172nmの紫外線が照射できるウシオ電機社製エキシマランプ(UER20−172)を用い、酸素濃度0.1%以下の窒素雰囲気下でランプと微多孔性支持膜の距離を1cmに設定し、紫外線を5分間照射して3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランと、4−ビニルフェニルスルホン酸ナトリウムとを原料とする分離機能層を微多孔性支持膜表面に形成した複合半透膜を作製した。
次に、得られた複合半透膜を100℃の熱風乾燥機中で2時間保持して3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランを縮合させ、微多孔性支持膜上に分離機能層を有する乾燥複合半透膜を得た。その後、乾燥複合半透膜を10重量%イソプロピルアルコール水溶液に10分間浸漬して親水化を行った。このようにして得られた複合半透膜に、pH6.5に調整した500ppm食塩水を、0.5MPa、25℃の条件下で供給して加圧膜ろ過運転を行ない、透過水、供給水の水質を測定することにより、表1に示す結果が得られた。また、この時得られた分離機能層の厚みは電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)によって、膜の断面の画像で測定したところ平均で180nmであった。
(実施例2)
実施例1で使用した3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランを3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン置き換えた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。分離機能層の厚みは平均230nmであった。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
(実施例3)
実施例1で使用した3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランをp−スチリルトリメトキシシランに置き換えた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。分離機能層の厚みは平均240nmであった。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
(実施例4)
実施例1における反応液を、化合物(A)に該当する3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン2重量%、化合物(B)に該当する4−ビニルフェニルスルホン酸カリウム2重量%、2,2−ジメソキシ−2−フェニルアセトフェノン0.24重量%、純水33.5重量%含むイソプロピルアルコール溶液に置き換えた以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。分離機能層の厚みは平均300nmであった。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
(実施例5)
実施例1におけるポリスルホンのDMF溶液の濃度を18重量%として作製し、得られた表面の細孔径が16.4nm、総厚みが224〜229μmであるポリスルホン微多孔性支持膜を得た。その後、実施例1と同様にして分離機能層を設けて複合半透膜を作製した。分離機能層の厚みは平均200nmであった。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
(実施例6)
実施例1におけるポリスルホンのDMF溶液の濃度を25重量%として作製した細孔径13.1nm、総厚み232〜237μmのポリスルホン微多孔性支持膜を得た。その後、実施例1と同様にして分離機能層を設けて複合半透膜を作製した。分離機能層の厚みは平均250nmであった。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
(比較例1)
実施例1と同じ微多孔性支持膜に、メタフェニレンジアミン3.0重量%、亜硫酸水素ナトリウム0.5重量%を含む水溶液を塗布し、70℃の熱風で1分間乾燥した。その後イソフタル酸クロライド0.4重量%、トリメシン酸クロライド0.1重量%を含むn−デカン溶液を塗布し、100℃の熱風で5分間処理した。その後さらにpH7に調整した100ppmの塩素水溶液に2分間浸漬した後、純水で洗浄した。その結果、ポリアミドからなる分離機能層が設けられた複合半透膜を得た。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。
(比較例2)
実施例1における反応液中に、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを含まず4−ビニルフェニルスルホン酸ナトリウムを4重量%とする以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行い、表1に示す結果が得られた。比較例2で得られた複合半透膜の初期性能は、実施例1〜6で得られた複合半透膜に比べ著しく塩除去率が低かった。
実施例1〜6、比較例1〜2でそれぞれ得られた複合半透膜を、pH7に調整した500ppmの塩素水溶液に1週間浸し、耐塩素性試験を行った。塩素水溶液浸漬後の性能保持率を表1に示す。
(比較例3)
3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランをエチレン性不飽和基を有しない3−クロロプロピルトリメトキシシランに代えたこと以外は、実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。このようにして得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行った結果、除去率13%、膜透過流束11m/m/dayとなり、除去率が著しく低下した。
(比較例4)
反応液を、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを4重量%、純水33.6重量%を含むイソプロピルアルコール溶液として、実施例1と同様に複合半透膜を得た。ただし紫外線の照射は行わなかった。得られた複合半透膜を実施例1と同様にして評価を行ったが、全く透水性を有さず、除去率、膜透過流束とも測定できなかった。
Figure 0005895976
表1から、比較例2で得られた複合半透膜では、塩素水溶液浸漬後の性能保持率が大きく低下しているのに対し、実施例1〜6で得られた複合半透膜は、塩素水溶液浸漬後も浸漬前と同等の性能を維持していることが読みとれる。したがって、本発明の製造方法によって得られた複合半透膜は、耐塩素性に優れていることがいることが分かる。
本発明の複合半透膜は、固液分離、液体分離、ろ過、精製、濃縮、汚泥処理、海水淡水化、飲料水製造、純水製造、排水再利用、排水減容化、有価物回収などの水の処理の分野に利用できる。その結果、高性能の膜が提供されると共に、省エネルギー化、ランニングコストの低減などの改善が期待される。

Claims (3)

  1. 平均細孔径が1〜100nmである微多孔性支持膜と、前記微多孔性支持膜上に設けられた分離機能層とを備え、
    該分離機能層が、
    (A)エチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に直接結合したケイ素化合物、ならびに
    (B)前記ケイ素化合物以外のエチレン性不飽和基および酸基を有する化合物から、
    前記化合物(A)のケイ素化合物の加水分解性基の縮合、ならびに前記化合物(A)および前記化合物(B)のエチレン性不飽和基の重合により形成され、
    25℃、pH6.5、500ppm食塩水を0.5MPaの圧力で加圧ろ過したときの食塩除去率が75.4%以上である
    複合半透膜。
  2. ケイ素化合物(A)の加水分解性基がアルコキシ基、アルケニルオキシ基、カルボキシ基、ケトオキシム基、ハロゲン原子またはイソシアネート基である請求項1記載の複合半透膜。
  3. ケイ素化合物(A)が下記一般式(a)で表されるものである請求項1または2記載の複合半透膜。
    Si(R(R(R4−m−n ・・・一般式(a)
    (Rはエチレン性不飽和基を含む反応性基を示す。Rはアルコキシ基、アルケニルオキシ基、カルボキシ基、ケトオキシム基、ハロゲン原子またはイソシアネート基。Rは水素原子またはアルキル基を表す。m、nは整数。m+n≦4、m≧1、n≧1。R、R、Rそれぞれにおいて2以上の官能基がケイ素原子に結合している場合、同一であっても異なっていてもよい。)
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