以下に、本発明に係る操舵装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
〔実施形態1〕
図1は、本発明の実施形態1に係る操舵装置の概略図である。同図に示す操舵装置1は、車両の操舵輪を操舵するための装置として車両の搭載されており、操舵時における操舵力を電動機等の動力により補助する、いわゆる電動パワーステアリング装置(EPS:Electronic Power Steering)である。即ち、操舵装置1は、車両の運転者が操舵操作をする操舵部材として設けられるステアリングホイール(以降、「ステアリング」と示す。)5に対して付与された操舵力に応じた操舵補助力を得られるように電動機等を駆動することにより、運転者の操舵操作を補助することが可能になっている。
具体的には、操舵装置1は、ステアリング5と、このステアリング5に対する操舵操作によって入力された操舵力の補助を行うEPS装置10と、を備えている。さらに、操舵装置1は、運転者による操舵力をEPS装置10による補助力と合わせて操舵輪側に伝達するステアリングシャフト(以降、「シャフト」と示す。)41と、シャフト41によって伝達された回転トルクを直線方向の力に変換するラック&ピニオンギア機構(以降、「ギア機構」と示す。)42と、を備えている。さらに、操舵装置1は、ギア機構42で変換した直線方向の力を左右の操舵輪の方向の伝達するタイロッド43と、操舵輪を支持すると共に操舵輪の向きを変えるナックルアーム(図示省略)とタイロッド43とを接続するタイロッドエンド44と、を備えている。
このうち、ステアリング5は、回転軸線X1周り方向に回転操作に、車両の運転席に設けられる。運転者は、回転軸線X1を回転中心としてステアリング5を回転操作することにより、操舵操作を行うことが可能になっている。また、シャフト41は、一端がステアリング5と連結され、他端がギア機構42と連結されており、運転者によるステアリング5の回転操作に伴って中心軸線周り方向に回転可能になっている。このシャフト41は、例えば、アッパシャフト、インタミディエイトシャフト、ロアシャフト等の複数の部材が連結されることにより、ステアリング5とギア機構42との間にかけて配設されている。
ギア機構42は、シャフト41から伝達された回転トルクの向きを車幅方向の直線方向の力に変換してタイロッド43に伝達可能になっており、タイロッド43は、この力によってナックルアームを回動させることができるようにナックルアームに連結されている。これにより、ステアリング5への操舵操作によって操舵輪の向きを変えることが可能になっている。
また、EPS装置10は、運転者によりステアリング5に入力された操舵力を補助する操舵補助力を出力する装置になっている。即ち、EPS装置10は、操舵補助力であるアシストトルクをシャフト41に作用させることにより、シャフト41からギア機構42に伝達される回転トルクを増大させ、運転者の操舵操作をアシストする。つまり、EPS装置10は、操舵時に操舵操作によってナックルアームに作用させる力の一部をEPS装置10で発生することにより、運転者がステアリング5に対して入力する操舵力を軽減させることが可能になっている。
このEPS装置10は、電動機であるモータ11と減速機15とを有している。また、本実施形態1に係る操舵装置1は、インタミディエイトシャフト等のシャフト41にモータ11で発生した動力が入力される、いわゆるコラムEPS装置になっており、コラムアシスト式のアシスト機構が備えられている。
図2は、図1のA−A方向断面図である。モータ11は、車両に搭載されるバッテリ(図示省略)から電力が供給されることにより動力を発生するコラムアシスト用電動モータとして設けられており、EPS装置10は、このモータ11で発生した動力によって操舵補助力であるアシストトルクを発生させることが可能になっている。このように設けられるモータ11は、減速機15等を介してシャフト41に接続されており、減速機15等を介してシャフト41に動力の伝達が可能に設置されている。
また、減速機15は、転舵輪に出力を伝達するシャフト41等の出力軸に接続され、ステアリング5への操舵操作に基づいて動作する第1ギアであるホイールギア16と、このホイールギア16に噛合うと共にモータ11で発生する動力をホイールギア16に対して伝達可能な第2ギアであるウォームギア18とを有している。
このうち、ウォームギア18は、モータ11の回転体であるロータ12と一体回転可能にモータ11に連結されている。また、ホイールギア16は、はす歯歯車からなり、シャフト41と一体となって回転可能にシャフト41に接続されている。このホイールギア16とウォームギア18とは噛み合った状態で配設されており、これにより、モータ11の駆動時に発生したモータ11の動力は、ウォームギア18からホイールギア16に伝達され、ホイールギア16からシャフト41に伝達可能になっている。その際に、減速機15は、モータ11で発生した回転動力を減速し、トルクを増大させてシャフト41に伝達する。
このように、シャフト41に対して回転動力を伝達可能なEPS装置10は、EPS制御装置20によって制御可能になっており、具体的には、モータ11を制御することにより、EPS装置10からシャフト41に伝達する回転トルクを制御する。
このEPS装置10を制御するEPS制御装置20には、操舵装置1を搭載する車両の状態を検出する状態検出装置50が電気的に接続されている。状態検出装置50は、主に車両の各部に設置されるセンサ類によって構成されており、例えば、ステアリング5に作用するトルクを検出するトルクセンサ51や、ステアリング5を操舵操作した場合における回転角度である舵角を検出する舵角センサ52、操舵装置1が搭載されている車両の車速を検出する車速センサ53を含んでいる。
このうち、トルクセンサ51は、EPS装置10の一部を構成する捩れ部材であり、シャフト41に内設されるトーションバー(図示省略)の捩れを検出することにより、トーションバーに作用するトルクを検出可能になっている。即ち、トーションバーの一端側は、シャフト41におけるステアリング5側との間でトルクの入出力を行い、トーションバーの他端側は、シャフト41におけるギア機構42側との間でトルクの入出力を行う。
これにより、トーションバーは、ステアリング5側との間で入出力するトルクと、ギア機構42側との間で入出力するトルクとの差異に応じて捩れが発生し、トルクセンサ51は、この捩れを検出することにより、ステアリング5に作用するトルクを検出する。このため、トルクセンサ51は、ステアリング5に入力される操舵力に応じてシャフト41に作用する操舵トルクや、操舵輪への路面外乱入力等に応じて操舵輪側からタイロッド43やギア機構42を介してシャフト41に入力される外乱トルク等が反映されたトルクを検出する。
また、舵角センサ52は、ステアリング5と一体となって回転をするシャフト41の絶対的な回転角度、即ち、車両が直進走行を行う場合におけるシャフト41の角度位置に対する回転角度を舵角として検出可能になっている。例えば、舵角センサ52は、モータ11に内蔵され、シャフト41の回転に伴って減速機15を介して回転するモータ11のロータ12の回転角度を検出することにより、シャフト41の回転角度を検出する。また、シャフト41の回転角度は、モータ11についている回転角センサで検出してもよい。
また、車速センサ53は、例えば、車両の変速装置(図示省略)の出力軸の回転速度を検出可能に設けられ、この出力軸の回転速度に基づいて車速を検出する。これらのトルクセンサ51、舵角センサ52、車速センサ53等の状態検出装置50で検出した車両の状態の検出結果は、電気信号によってEPS制御装置20に伝達され、EPS制御装置20は、車両の状態の検出結果に基づいて、EPS装置10の制御を行う。
図3は、図1に示す操舵装置の要部構成図である。EPS制御装置20には、CPU(Central Processing Unit)等を有する処理部21や、RAM(Random Access Memory)等の記憶部30、さらに入出力部31が設けられており、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。また、EPS制御装置20に接続されているモータ11や状態検出装置50は、入出力部31に接続されており、入出力部31は、これらの状態検出装置50等との間で信号の入出力を行う。また、記憶部30には、EPS装置10を制御するコンピュータプログラムが格納されている。
また、このように設けられるEPS制御装置20の処理部21は、モータ11の駆動制御を行うモータ制御部22と、モータ11の駆動状態を判定する駆動状態判定部23と、車両の状態を取得する車両状態取得部24と、車両の状態を判定する車両状態判定部25と、モータ11の回転速度を制御する際における設定値を設定する回転速度制御設定部26と、減速機15のバックラッシュの状態を判定するバックラッシュ判定部27と、を有している。
EPS制御装置20によってEPS装置10の制御を行う場合には、状態検出装置50等の検出結果に基づいて、処理部21が上記コンピュータプログラムを当該処理部21に組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じてモータ11を制御することにより、車両の状態に適したアシストトルクを発生させる。その際に処理部21は、適宜記憶部30へ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。
この実施形態1に係る操舵装置1は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両の走行時に運転者がステアリング5の操舵操作を行った場合、ステアリング5に入力した回転トルクがシャフト41を介してギア機構42に伝達され、ギア機構42は、この回転トルクによる力の向きを車両の幅方向の向きに変換してタイロッド43に伝達する。その際に、ギア機構42は、車両の幅方向、即ち、車両の左右方向のうち、ステアリング5に入力される回転トルクの方向に応じた方向の力をタイロッド43に伝達する。車両の幅方向の力が入力されたタイロッド43は、入力された力の方向に移動し、このタイロッド43の移動に伴ってナックルアームが回動する。これにより、操舵輪は、ステアリング5に入力した回転トルクの方向と角度で向きが変化し、走行時の車両の向きは、ステアリング5に対する操舵操作に応じて変化する。
また、このようにステアリング5に対して操舵操作を行った場合、車両の状態に応じてEPS装置10が作動することにより、運転者の操舵力に対するアシストトルクを発生する。具体的には、ステアリング5に対して操舵操作を行った場合、シャフト41に作用する回転トルクをトルクセンサ51で検出し、また、操舵時における回転角である舵角を舵角センサ52で検出する。これらの回転トルクや舵角は、トルクセンサ51や舵角センサ52からEPS制御装置20の処理部21が有する車両状態取得部24に伝達され、車両状態取得部24で取得する。また、車両状態取得部24には、車速センサ53で検出した車速も伝達される。
車両の状態が伝達され、これらの情報を取得したEPS制御装置20は、車両の状態に基づいてEPS装置10を制御することにより、モータ11を駆動させ、ステアリング5の操舵操作時におけるアシストトルクをEPS装置10に発生させる。具体的には、EPS制御装置20は、トルクセンサ51で検出したトルク等に基づいてモータ11に供給するアシスト電流を、EPS制御装置20の処理部21が有するモータ制御部22で調節することにより、モータ11の駆動時に発生する動力を調節する。モータ11で発生した動力は、ロータ12の回転に伴ってウォームギア18が回転し、ウォームギア18に噛み合っているホイールギア16がウォームギア18の回転に伴って回転することにより、ホイールギア16と一体回転可能なシャフト41に伝達される。これにより、シャフト41にはモータ11で発生した動力が伝達され、即ち、アシストトルクが伝達される。
このアシストトルクは、操舵操作時に運転者がステアリング5に対して入力した回転トルクの方向と同じ方向の回転トルクになっており、シャフト41は、操舵操作による回転トルクに、モータ11で発生した動力による回転トルクが加えられた大きさの回転トルクで回転する。
一方、操舵操作時に必要な回転トルクは、操舵輪の向きを変える際における操舵輪と路面との間に発生する抵抗等に起因する、シャフト41の回転抵抗に打ち勝つ大きさの回転トルクが必要になる。EPS装置10は、運転者の操舵操作による回転トルクと同方向の回転トルクをシャフト41の付与するため、路面との間の抵抗等に起因する回転抵抗に打ち勝つ大きさの回転トルクをシャフト41に入力する場合は、EPS装置10で発生する回転トルクの分、運転者が入力する回転トルクの大きさを小さくできる。即ち、操舵操作時に、運転者がステアリング5に対して入力する力を小さくでき、運転者の操舵操作を補助できる。
また、操舵輪の向きを変える際に操舵輪と路面との間に発生する抵抗は、車速によって変化し、車速が低くなるに従って、この抵抗は大きくなる。このため、EPS装置10は、車速が低くなるに従って、シャフト41に伝達するアシストトルクを大きくする。具体的には、EPS制御装置20のモータ制御部22は、車両状態取得部24で取得した車速の情報に基づいて、モータ11に供給するアシスト電流を調節し、車速が低くなるに従って、モータ11で発生する動力を大きくする。これにより、車速が低くなるに従って、EPS装置10によるアシストトルクが大きくなるため、操舵操作時における回転抵抗が、車速が低いことに起因して大きくなる場合でも、運転者が入力する回転トルクの大きさを小さくすることができる。
EPS制御装置20は、これらのように車速等の車両の状態に応じてモータ11を制御することにより、EPS装置10で発生させるアシストトルクを調節するが、さらに、アシストトルクの発生時やアシストトルクの向きが変化する場合には、モータ11の回転速度を遅くする。例えば、車両が直進走行をしていることにより、運転者が操舵操作を行っておらず、EPS装置10のモータ11が停止している状態から、運転者が操舵操作を行ってモータ11が駆動を開始する場合には、モータ11の回転速度を一時的に遅くする。
つまり、モータ11とシャフト41とが停止し、ウォームギア18とホイールギア16とが停止している状態で、モータ11が駆動を開始してウォームギア18が回転し始める場合、通常の操舵操作時にモータ11が駆動してアシストトルクを発生する際におけるモータ11の回転速度よりも、一時的に遅い回転速度でモータ11を駆動させる。
なお、この場合におけるモータ11の回転速度は、モータ11がいずれのものにも連結されていない状態での無負荷時の回転速度、或いは、モータ11の制御時における目標回転速度を示している。即ち、モータ11は、減速機15によってシャフト41と連結されているため、シャフト41の回転時は、モータ11の駆動状態に関わらずモータ11はシャフト41と共に回転をするが、駆動力を発生させていないモータ11の駆動開始時は、現在の車両の状態で、通常、モータ11を駆動させる際の目標回転速度よりも、目標回転速度を遅くする。
また、本実施形態1の説明中における通常の動作時とは、モータ11の駆動開始時、または、ウォームギア18等の第2ギアの回転方向の反転時ではなく、モータ11が継続して駆動している時である。例えば、モータ角速度が所定値以上を所定時間継続している時である。
このように、モータ11の駆動開始時に、一時的に通常時よりも回転速度を遅くする場合は、モータ11に供給するアシスト電流の印加電圧の制限値を小さくする。即ち、モータ11の駆動時にモータ11に供給するアシスト電流は、印加電圧に制限値を設定して供給するが、一時的に回転速度を遅くする場合には、この制限値を小さくし、モータ11に供給する電力を小さくすることによって遅くする。
この印加電圧の制限値は、通常の駆動時用の制限値と、モータ11の回転速度を遅くする際における制限値が共にEPS制御装置20が有する記憶部30に予め記憶されている。EPS制御装置20は、停止しているモータ11の駆動時であるか、通常のアシストトルクの発生時であるかに応じて、処理部21が有する回転速度制御設定部26によって、記憶部30に記憶されている制限値を選択し、この制限値で印加電圧を制限する。これにより、車両に状態に応じた制限値でアシスト電流の印加電圧を制限し、停止しているモータ11が駆動を開始する際には、モータ11に供給される電力は通常の制御時よりも制限され、回転速度は遅くなる。
ここで、モータ11で発生した動力がウォームギア18とホイールギア16との間で伝達される場合について説明すると、まず、ウォームギア18は、ウォームギア18の歯19と噛み合う歯19が、モータ11の回転軸を中心とする螺旋状に形成されている。このため、モータ11の駆動時は、ウォームギア18の歯19におけるホイールギア16に対して当接する部分は、モータ11の回転軸の方向に移動する。換言すると、ウォームギア18の歯19は、螺旋状に連続した形状で形成されているため、この歯19における、ホイールギア16の所定の歯17に当接する部分は、ウォームギア18の周方向に変位しながら、軸方向に変位する。
一方、ホイールギア16は、回転軸がウォームギア18の回転軸と直交する向きでウォームギア18に対して噛み合っているため、ホイールギア16は、ウォームギア18に対して噛み合っている部分付近の円周方向が、ウォームギア18の回転軸に沿った方向になる。このため、ホイールギア16の歯17とウォームギア18の歯19とが当接している状態で、ウォームギア18が回転した場合、ウォームギア18の歯19における当接部分の軸方向に変位に伴って、ホイールギア16の歯17は、ホイールギア16の円周方向に移動する。即ち、ホイールギア16は、このウォームギア18から伝達される力により、当該ホイールギア16の回転軸を中心として回転し、シャフト41に対して回転トルクを伝達する。
従って、EPS装置10によるアシストトルクの発生時は、EPS制御装置20は、状態検出装置50で検出した車両の状態に基づいた回転速度でモータ11が駆動するようにモータ11を制御するが、ウォームギア18とホイールギア16とは、バックラッシュを有して噛み合っている。このため、モータ11の停止時は、ウォームギア18の歯19とホイールギア16の歯17との間には空隙が形成されている。
このように、モータ11が停止している状態からのモータ11の駆動開始時は、軸方向に変位するウォームギア18の歯19におけるホイールギア16の歯17への当接部分が、ホイールギア16の歯17に当接することにより、ウォームギア18側からホイールギア16側へ回転トルクの伝達が開始される。
その際に、モータ11の回転速度を、通常時よりも一時的に遅くすることにより、ウォームギア18の歯19がホイールギア16の歯17に当接する際における相対速度を遅くする。これにより、離間している双方の歯同士が接触を開始する際における衝撃が小さくなり、この衝撃によって発生する異音の大きさが小さくなる。
モータ11の駆動開始時に一時的に遅くするモータ11の回転速度は、モータ11の駆動開始後、ウォームギア18の歯19がホイールギア16の歯17に当接したら、モータ11の回転速度は、通常時の回転速度にする。即ち、モータ11の駆動開始後、ウォームギア18の歯19がホイールギア16の歯17に当接したと判断することができる所定時間が経過したら、EPS制御装置20の処理部21が有する回転速度制御設定部26によって、通常時の制限値を選択する。これにより、モータ制御部22でモータ11を制御する際の印加電圧の制限値を、通常の制御時における制限値にし、モータ11の回転速度を、通常のアシストトルク発生させる際における回転速度にする。つまり、ホイールギア16とウォームギア18との位置関係により、モータ11への印加電圧の制限を解除し、印加電圧の制限値を、通常のアシストトルクを発生させる際における制限値にして回転速度の制限を解除する。
なお、この場合における、ウォームギア18の歯19がホイールギア16の歯17に当接したと判断することができる時間は、EPS制御装置20が有する記憶部30に予め記憶されている。EPS制御装置20は、モータ11の回転速度を遅くした状態での駆動開始後、記憶部30に記憶されている時間が経過したか否かを、処理部21が有するバックラッシュ判定部27で判定する。この時間が経過したとバックラッシュ判定部27で判定し、バックラッシュ分、ウォームギア18が回転したと判断できる状態になったら、モータ11の回転速度を、通常のアシストトルク発生させる際における回転速度にする。
また、このようにモータ11が停止している状態からのモータ11の駆動開始時に回転速度を遅くする制御は、操舵の方向を変化させる場合も行う。つまり、運転者の操舵操作の方向を切り替えることにより、ステアリング5を介してシャフト41に入力される回転トルクの方向が反転する場合、モータ11の回転方向も反転する。このように、モータ11の回転方向が反転する場合も、回転方向の反転時にモータ11は一旦停止するため、その後にそれまでの回転方向から向きが変化して回転する際には、モータ11の回転速度を一時的に遅くする。
また、モータ11の回転方向が反転した場合には、ウォームギア18もの回転方向も反転するが、ウォームギア18が反転した場合、ウォームギア18は、歯19において反転前にホイールギア16の歯17に当接する側の面の反対側の面が、ホイールギア16の歯17に当接する。このため、ウォームギア18の歯19における、ホイールギア16の所定の歯17に当接する部分が軸方向に変位する方向は、モータ11の反転前に変位していた方向の反対方向になる。従って、モータ11の反転時は、ウォームギア18の歯19において、反転前にホイールギア16の歯17に当接していた側の面の反対側の面が、ホイールギア16の歯17に当接することにより、ウォームギア18側からホイールギア16側へ回転トルクの伝達が開始される。
この場合、反転前は、ウォームギア18の歯19とホイールギア16の歯17とにおいて、バックラッシュによって当接していなかった部分が当接するが、その際に、モータ11の回転速度を、通常時よりも一時的に遅くすることにより、ウォームギア18の歯19がホイールギア16の歯17に当接する際における相対速度を遅くする。これにより、双方の歯同士が接触を開始する際における衝撃を小さくし、衝撃によって発生する異音を小さくする。
図4は、実施形態1に係る操舵装置の処理手順の概略を示すフロー図である。次に、本実施形態1に係る操舵装置1でモータ11が停止している状態からアシストトルクを発生する場合における処理手順の概略について説明する。この処理手順では、まず、モータ11が停止しているか否かを判定する(ステップST101)。この判定は、EPS制御装置20の駆動状態判定部23で行う。つまり、モータ11の駆動開始時に回転速度を遅くする制御は、停止している状態もモータ11が駆動を開始する際に行う。このため、モータ11の駆動開始時に回転速度を遅くする制御の前提として、モータ11が停止しているか否かを、車両状態取得部24で取得した舵角センサ52による舵角の検出結果に基づいて、駆動状態判定部23によって判定する。駆動状態判定部23での判定により、モータ11は停止していないと判定された場合には(ステップST101、No判定)、この処理手順から抜け出る。
これに対し、駆動状態判定部23での判定により、モータ11は停止していると判定された場合(ステップST101、Yes判定)には、次に、モータ11は回転しているか否かを判定する(ステップST102)。即ち、モータ11が停止している状態から駆動を開始したか否かを、舵角センサ52の検出結果に基づいて駆動状態判定部23によって判定する。この判定により、モータ11は回転していないと判定された場合には(ステップST102、No判定)、モータ11は回転しているか否かの判定(ステップST102)を継続する。換言すると、駆動状態判定部23は、舵角センサ52での検出結果に基づいて、或いは、モータ11についている回転角センサでの検出結果に基づいて、ウォームギア18の停止と回転とを判定し、ウォームギア18の停止後に回転しているか否かの判定を行う。
これに対し、駆動状態判定部23での判定により、モータ11は回転していると判定された場合(ステップST102、Yes判定)には、次に、車速≦判定閾値であるか否かを判定する(ステップST103)。この判定は、車両状態取得部24で取得した、車速センサ53で検出した車速の検出結果が、モータ11の駆動開始時に回転速度を遅くする制御を行うか否かの判断を車速に基づいて行う際における判定閾値以下であるか否かを、EPS制御装置20の処理部21が有する車両状態判定部25で判定する。
つまり、車速が高い場合は、操舵操作に対する応答性を優先させてアシストトルクを早急に発生させるのが好ましい。車両状態判定部25での判定に用いる判定閾値は、現在の車速が、操舵操作に対する応答性を優先させる車速であるか否かの判断を行う際に用いる車速の閾値として予め設定され、EPS制御装置20の記憶部30に記憶されている。
車両状態判定部25は、この記憶部30に記憶されている判定閾値と、車両状態取得部24で取得した車速とを比較し、車速≦判定閾値であるか否かを判定する。この判定により、車速は判定閾値より高いと判定された場合(ステップST103、No判定)、即ち、車速>判定閾値であると判定された場合には、この処理手順から抜け出る。つまり、車速が所定値以上の場合は、この処理手順から抜け出て、モータ11の回転速度を通常の動作時の速度にして制御するようにする。
これに対し、車両状態判定部25での判定により、車速≦判定閾値であると判定された場合(ステップST103、Yes判定)には、次に、印加電圧制限値を設定する(ステップST104)。この場合、モータ11に供給する電圧の制限値である印加電圧制限値を、モータ11の駆動開始時にモータ11の回転速度を遅くする際における制限値に設定する。この設定は、EPS制御装置20の処理部21が有する回転速度制御設定部26で行う。
回転速度制御設定部26は、モータ制御部22でモータ11を制御する際に用いる印加電圧制限値を、モータ11の回転速度を遅くする際における制限値として予め設定されて記憶部30に記憶されている制限値に設定する。即ち、この場合に用いる制限値は、モータ11の駆動開始時に、減速機15が有するギア同士のバックラッシュを通過させる際に用いる制限値となっており、回転速度制御設定部26は、印加電圧制限値をバックラッシュ通過用の制限値に設定する。
次に、バックラッシュは通過したか否かを判定する(ステップST105)。この判定は、印加電圧制限値をバックラッシュ通過用の制限値に設定した状態でモータ11を駆動し、減速機15のバックラッシュを通過する時間が経過したか否かをバックラッシュ判定部27で判断することによって行う。即ち、この判定に用いる時間は、モータ11の駆動開始後、ウォームギア18の歯19がホイールギア16の歯17に当接し、バックラッシュを通過したと判断することができる時間として、予め記憶部30に記憶されている。バックラッシュ判定部27は、印加電圧制限値をバックラッシュ通過用の制限値に設定し、停止しているモータ11の駆動を開始後の時間が、記憶部30に記憶されているこの時間を経過したか否かを判定することにより、バックラッシュは通過したか否かの判定を行う。
この判定により、バックラッシュは通過していないと判定された場合(ステップST105、No判定)、つまり、停止しているモータ11の駆動開始後の時間が、記憶部30に記憶されている時間を経過していないと判定された場合には、印加電圧制限値をバックラッシュ通過用の制限値にする設定(ステップST104)を継続する。
これに対し、バックラッシュを通過したと判定された場合(ステップST105、Yes判定)、つまり、停止しているモータ11の駆動開始後の時間が、記憶部30に記憶されている時間を経過したと判定された場合には、次に印加電圧制限値を設定する(ステップST106)。この場合は、回転速度制御設定部26によって印加電圧制限値を、EPS装置10でアシストトルクを発生させる際の通常の制御時にモータ11に供給する電圧の制限値に設定する。
回転速度制御設定部26は、モータ11を制御する際に用いる印加電圧制限値を、アシストトルクを発生させる際の通常の制御時における制限値として予め設定されて、記憶部30に記憶されている制限値に設定する。即ち、回転速度制御設定部26は、印加電圧制限値を、通常制御用の制限値に設定する。これにより、EPS制御装置20は、アシストトルクを発生させる際の通常の制御をEPS装置10に対して行う。
以上の操舵装置1は、停止中のモータ11の駆動開始時や、モータ11の反転に伴ってウォームギア18の回転方向が反転する際に、モータ11の回転速度を通常の動作時よりも遅くするため、バックラッシュによって離間しているウォームギア18の歯19とホイールギア16の歯17との当接時における相対速度を遅くすることができる。これにより、離間している双方の歯同士の接触時における衝撃が小さなり、衝撃によって発生する異音が小さくなる。この結果、構造の複雑化させることなく異音の発生を抑えることができる。
また、モータ11の回転速度を遅くする場合は、モータ11への印加電圧の制限値を変更することによって遅くするため、バックラッシュによって離間しているウォームギア18の歯19とホイールギア16の歯17との接触時における衝撃を、より確実に小さくすることができる。この結果、構造の複雑化させることなく、より確実に異音の発生を抑えることができる。
また、モータ11の回転速度を遅くしている場合は、ホイールギア16とウォームギア18との位置関係により、モータ11への印加電圧の制限を解除するため、アシストトルクの発生を確保しつつ、異音の発生を抑制できる。つまり、ウォームギア18の歯19とホイールギア16の歯17とが接触し、異音が発生しなくなる状態になってから、アシストトルクを発生させる際における通常の印加電圧の制限値にするため、異音の発生を抑えた後は、アシストトルクの発生を確保することができる。この結果、構造の複雑化させることなく、アシストトルクを発生させることと、異音の発生を抑えることとを両立することができる。
〔実施形態2〕
実施形態2に係る操舵装置60は、実施形態1に係る操舵装置1と略同様の構成であるが、モータ11の回転速度を遅くする制御を行う際には、車両の状態に応じて制限値を調節する点に特徴がある。他の構成は実施形態1と同様なので、その説明を省略すると共に、同一の符号を付す。
図5は、実施形態2に係る操舵装置の要部構成図である。実施形態2に係る操舵装置60は、実施形態1に係る操舵装置1と同様に、EPS装置10を有しており、ステアリング5への操舵操作時の回転トルクに対してEPS装置10でアシストトルクを付加することにより、運転者の操舵操作を補助することができる。また、本実施形態2に係る操舵装置60は、ギア比可変ステアリングであるVGRS(Variable Gear Steering)として構成されており、即ち、ステアリング5の操舵に対する操舵輪の向きが変化する割合が、車両の走行状態によって変化する。
つまり、本実施形態2に係る操舵装置60は、シャフト41がステアリング5とギア機構42との間で分離しており、双方のシャフト41は、操舵操作に基づく動作を行うと共に、動作量が制御ゲインによって変化する可変動作装置であるVGRS装置62を介して接続されている。VGRS装置62は、EPS制御装置20によって制御可能になっており、車速と舵角とに応じて、シャフト41におけるステアリング5に接続されている部分の回転角と、シャフト41におけるギア機構42に接続されている部分の回転角とが変化させることができるように構成されている。このため、シャフト41におけるステアリング5側の部分とギア機構42側の部分との回転角の変化の度合いを、車速と舵角とに応じてVGRS装置62で変化させることにより、ステアリング5の舵角に対して操舵輪の向きが変化する割合を、車速と舵角とに応じて変化させることができる。
VGRS装置62が接続されるEPS制御装置20は、実施形態1に係る操舵装置1のEPS制御装置20と同様に、処理部21と記憶部30と入出力部31とを有しており、処理部21は、モータ制御部22と、駆動状態判定部23と、車両状態取得部24と、車両状態判定部25と、回転速度制御設定部26と、バックラッシュ判定部27と、を有している。さらに、本実施形態2に係る操舵装置60のEPS制御装置20は、処理部21に、VGRS装置62を制御するVGRS制御部65と、VGRS装置62を制御する際における制御ゲインを取得する制御ゲイン取得部66と、を有している。
この実施形態2に係る操舵装置60は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。運転者によるステアリング5の操舵操作時は、EPS制御装置20でEPS装置10を制御することによりEPS装置10にアシストトルクを発生させ、操舵操作を補助する。また、ステアリング5の操舵操作時は、EPS制御装置20は、VGRS装置62を制御することにより、車速と舵角とに応じて、ステアリング5の舵角に対して操舵輪の向きが変化する割合を変化させる。具体的には、EPS制御装置20は、VGRS装置62の制御時に、車速に応じて制御ゲインを変化させることにより、ステアリング5の舵角に対する操舵輪の向きが変化する割合を変化させる。
つまり、運転者の操舵操作時には、EPS制御装置20の車両状態取得部24で車速の情報を取得し、車速が低くなるに従って、VGRS制御部65は、制御ゲインを大きくしてVGRS装置62を制御する。これにより、VGRS装置62は、ステアリング5の舵角に対して、比較的大きな回転角の回転トルクをギア機構42側に出力し、操舵輪は、ステアリング5の舵角に対して向きが変化する割合が大きくなる。このように、比較的車速が低い領域では、EPS制御装置20はVGRS装置62を制御してステアリング5の舵角に対して操舵輪の向きが変化する割合を大きくすることにより、低速時における操縦性を確保する。
また、VGRS制御部65は、反対に車速が高くなるに従って制御ゲインを小さくしてVGRS装置62を制御することにより、VGRS装置62は、ステアリング5の舵角に対して、比較的小さな回転角の回転トルクをギア機構42側に出力する。これにより操舵輪は、ステアリング5の舵角に対して向きが変化する割合が小さくなる。このように、比較的車速が高い領域では、EPS制御装置20はVGRS装置62を制御してステアリング5の舵角に対して操舵輪の向きが変化する割合を小さくすることにより、高速走行時における走行安定性を確保する。
また、停止しているEPS装置10のモータ11の駆動開始時や、モータ11の回転方向が反転することによりウォームギア18が反転する場合は、モータ11の印加電圧を制限することにより、モータ11の回転速度を遅くする。この場合、本実施形態2に係る操舵装置60は、印加電圧の制限値を車両の状態に応じて変化させる。つまり、運転者が操舵操作を行った場合には、EPS制御装置20は、VGRS装置62の制御も行うが、モータ11の印加電圧を制限する場合には、VGRS制御部65でVGRS装置62の制御を行う際における制御ゲインに応じて、印加電圧の制限値を変化させる。
具体的には、運転者が操舵操作を行うことによる停止しているモータ11の駆動開始時、または、回転方向の反転時に、モータ11の回転速度を通常時よりも遅くする場合には、VGRS制御部65でVGRS装置62を制御する際における制御ゲインを、制御ゲイン取得部66で取得する。回転速度制御設定部26は、制御ゲイン取得部66で取得した制御ゲインが大きくなるに従って、モータ11の印加電圧の制限値を小さくし、印加電圧の制限を強める。即ち、モータ11の回転速度の低減を強くして回転速度を遅くさせる。つまり、VGRS装置62の制御ゲインが大きい場合、舵角の変化が小さくてもVGRS装置62の出力側に位置するシャフト41は大きく回転し、減速機15の歯当りの衝突速度が大きくなる。このため、回転速度制御設定部26は、VGRS装置62の制御ゲインが大きくなるに従って、モータ11の回転速度をより遅くし、減速機15の歯同士が接触する際における相対速度を遅くすることにより、接触時における衝撃を小さくする。
図6は、実施形態2に係る操舵装置の処理手順の概略を示すフロー図である。次に、本実施形態2に係る操舵装置60でモータ11が停止している状態からアシストトルクを発生する場合における処理手順の概略について説明する。この処理手順では、実施形態1に係る操舵装置1と同様に、まず、モータ11が停止しているか否かを駆動状態判定部23判定し(ステップST101)、モータ11は停止していないと判定された場合には(ステップST101、No判定)、この処理手順から抜け出る。
これに対し、モータ11は停止していると判定された場合(ステップST101、Yes判定)には、次に、モータ11は回転しているか否かを駆動状態判定部23に判定する(ステップST102)ことにより、モータ11が停止している状態から駆動を開始したか否かを判定する。
この判定により、モータ11は回転していないと判定された場合には(ステップST102、No判定)、モータ11は回転しているか否かの判定(ステップST102)を継続し、モータ11は回転していると判定された場合(ステップST102、Yes判定)には、次に、車速≦判定閾値であるか否かを車両状態判定部25で判定する(ステップST103)。この判定により、車速は判定閾値より高いと判定された場合(ステップST103、No判定)、この処理手順から抜け出る。
これに対し、車両状態判定部25での判定により、車速≦判定閾値であると判定された場合(ステップST103、Yes判定)には、次に、制御ゲインを取得する(ステップST201)。この制御ゲインの取得は、EPS制御装置20のVGRS制御部65でVGRS装置62の制御を行う際に決定し、VGRS装置62の制御に用いる制御ゲインを、EPS制御装置20の制御ゲイン取得部66で取得する。
次に、印加電圧制限値を設定する(ステップST202)。即ち、モータ11への印加電圧制限値を、回転速度制御設定部26によってバックラッシュ通過用に、通常のアシストトルクを発生させる制御時よりもモータ11の回転速度が遅くする制限値に設定する。
その際に、回転速度制御設定部26は、制御ゲイン取得部66で取得した制御ゲインが大きくなるに従って制限値を小さくし、印加電圧の制限を強める。即ち、印加電圧の許容値を小さくする。反対に、回転速度制御設定部26は、制御ゲイン取得部66で取得した制御ゲインが小さくなるに従って制限値を大きくし、印加電圧の制限を弱める。即ち、印加電圧の許容値を、通常のアシストトルクを発生させる制御時における許容値の範囲内で大きくし、モータ11の回転速度を遅くする度合いを弱める。
なお、印加電圧の制限値を制御ゲインに応じて設定する際における基準は、予めマップの状態でEPS制御装置20の記憶部30に記憶されており、回転速度制御設定部26は、制御ゲイン取得部66で取得した制御ゲインをこのマップに照らし合わせることによって、印加電圧の制限値を設定する。
次に、バックラッシュは通過したか否かを、印加電圧制限値をバックラッシュ通過用の制限値に設定した状態でモータ11を駆動した後の経過時間に基づいてバックラッシュ判定部27で判定する(ステップST105)。この判定により、バックラッシュは通過していないと判定された場合には(ステップST105、No判定)、印加電圧制限値を制御ゲインに基づく制限値にする設定(ステップST202)を継続する。
これに対し、バックラッシュを通過したと判定された場合は(ステップST105、Yes判定)、次に、モータ11への印加電圧制限値を、EPS装置10でアシストトルクを発生させる際の通常の制御時における電圧の制限値に、回転速度制御設定部26によって設定する(ステップST106)。これにより、EPS制御装置20は、アシストトルクを発生させる際の通常の制御をEPS装置10に対して行う。
以上の操舵装置60は、モータ11の回転速度を遅くする場合は、VGRS装置62を制御する際の制御ゲインが変化するに従って、モータ11への印加電圧の制限値を変更し、制限値を変更するため、車両の状態に応じて、アシストトルクの発生量と異音を抑える割合とを調節することができる。この結果、構造の複雑化させることなく、車両に状態に応じて適切に異音の発生を抑えることができる。
また、モータ11の回転速度を遅くする場合は、VGRS装置62を制御する際の制御ゲインが大きくなるに従って、モータ11への印加電圧の制限値を小さくし、モータ11の印加電圧の許容量を小さくしているので、舵角が大きくなり易い状態における減速機15の歯当りの衝突速度を小さくすることができる。反対に、VGRS装置62を制御する際の制御ゲインが小さくなるに従って、モータ11への印加電圧の制限値を大きくし、モータ11の印加電圧の許容量を大きくしているので、舵角が大きくなり難い状態でのアシストトルクを確保することができる。この結果、アシストトルクの発生量を確保しつつ、より確実に異音の発生を抑えることができる。
〔変形例〕
なお、実施形態2に係る操舵装置60は、動作量が制御ゲインによって変化する可変動作装置としてVGRS装置62が備えられており、モータ11の回転速度を遅くする制御を行う場合は、VGRS装置62の制御時の制御ゲインに基づいて印加電圧の制限値を変更しているが、可変動作装置は、VGRS装置62以外のものでもよい。例えば、車両に、操舵操作に応じて後輪の操舵を行うアクティブ後輪操舵装置であるARS(Active Rear Steering)装置が設けられている場合には、ARS装置を、動作量が制御ゲインによって変化する可変動作装置として用いてもよい。つまり、ARS装置も減速機を有しており、互いに噛み合う歯車の歯同士にバックラッシュが存在するため、ARS装置の動作時には、歯衝突による異音が発生する場合がある。このため、ARS装置を可変動作装置として用いる場合も、停止中のモータ11の駆動開始時や、回転方向の反転時に、ARS装置の制御時の制御ゲインに基づいて印加電圧の制限値を変更することにより、モータ11の回転速度を遅くする。
ここで、ARS装置は、VGRS装置62と同様に、車速が低くなるに従って、制御ゲインを大きくすることにより、ステアリング5の舵角に対する後輪の操舵量を大きくする。このため、ARS装置もVGRS装置62と同様に、制御ゲインが大きくなるに従って、歯衝突による異音が発生し易くなる。従って、ARS装置の制御時の制御ゲインに基づいて印加電圧の制限値を変更する場合も、制御ゲインが小さくなるに従って、モータ11の印加電圧の制御量を大きくすることによりモータ11の回転速度の低減を弱め、制御ゲインが大きくなるに従って、モータ11の印加電圧の制御量を小さくすることによりモータ11の回転速度の低減を強めて回転速度を遅くする。これにより、車両に状態に応じて適切に異音の発生を抑えることができる。
また、印加電圧の制限値を変更する場合には、制御ゲイン以外に基づいて変更してもよい。例えば、VGRS装置62やARS装置の応答速度に基づいて印加電圧の制限値を変更してもよく、応答速度が速くなるに従って、印加電圧の制限値を小さくしてもよい。または、VGRS装置62やARS装置の角度フィードバックや電流フィードバックのゲインに基づいて印加電圧の制限値を変更してもよく、これらの角度フィードバックや電流フィードバックのゲインが大きくなるに従って、印加電圧の制限値を小さくしてもよい。
これらの応答速度が速かったり、フィードバックのゲインが大きかったりする場合、減速機の歯同士が接触する際における相対速度が大きくなり易く、歯当りの衝突速度が大きくなり易くなる。このため、この場合は、モータ11の印加電圧の制御量を小さくしてモータ11の回転速度の低減を強め、モータ11の回転速度を遅くすることにより、歯当りの衝突速度を極力小さくして異音の発生を抑える。
また、印加電圧の制限値は、車速に基づいて変更してもよく、例えば、車速センサ53で検出する車速が低くなるに従って、印加電圧の制限値を小さくしてもよい。車速が低い場合は、低速ほど、運転者の操作量が大きい傾向にあるため、車速が低くなるに従って印加電圧の制御量を小さくしてモータ11の回転速度の低減を強めることにより、より確実に異音の発生を抑えることができる。
また、上述した実施形態1、2に係る操舵装置1、60では、停止中のモータ11の駆動開始時やウォームギア18の回転方向の反転時に、モータ11の回転速度を通常の動作時よりも遅くする際には、モータ11への印加電圧の制限値を変更することによって、回転速度を遅くしているが、これ以外の手法によって回転速度を遅くしてもよい。例えば、モータ11への目標電流の制限値を変更することにより、モータ11の回転速度を遅くしてもよい。モータ11の回転速度は、モータ11に供給する電力によって調節することができるため、モータ11の回転速度を遅くする際には、印加電圧でなく、モータ11に供給する目標電流を、通常のアシストトルクの発生時よりも低くすることにより、回転速度を遅くすることができる。
また、モータ11の回転速度を遅くする場合には、電圧や電流を基準として制御するのではなく、機械的な物理量を基準として行ってもよい。例えば、モータ11の回転時における目標角や目標角速度の制限値を変更することによって回転速度を遅くしてもよい。
即ち、EPS装置10でアシストトルクを発生するためにモータ11を制御する際に、モータ11の回転時における舵角の目標値である目標角を設定し、舵角センサ52で検出する舵角が目標角になるように制御を行い、モータ11の回転を遅くする場合には、この目標角の制限値を小さくしてもよい。つまり、アシストトルクを発生させる際に、時間当りの舵角が所定の制限値の範囲内の目標角になるようにモータ11を制御し、モータ11の回転速度を遅くする場合には、この目標角の制限値を通常の制御時から変更することにより、時間当りの舵角の変位量を低減し、回転速度を遅くしてもよい。
また、このように舵角を基準としてモータ11の制御を行う場合は、目標角速度を基準として行ってもよい。つまり、EPS装置10でアシストトルクを発生させる場合には、モータ11の回転時における角速度が所定の制限値の範囲内の目標角速度になるようにモータ11を制御し、モータ11の回転速度を遅くする場合には、この目標角速度の制限値を通常の制御時から変更することによって回転速度を遅くしてもよい。
また、これらのように目標電流や目標角、目標角速度の制限値を変更することによってモータ11の回転速度を遅くする場合には、モータ11への印加電圧の制限値を変更する場合と同様に、実施形態1に係る操舵装置1のように所定の制限値を予め記憶部30に記憶させたり、実施形態2に係る操舵装置60のように、VGRS装置62の制御ゲインに応じて制限値を変更したりしてもよい。
例えば、実施形態1に係る操舵装置1のように所定の制限値を記憶する場合には、EPS制御装置20の記憶部30には、通常のアシストトルクを発生させる制御時の制限値と、この制限値よりも制限量が小さい制限値であり、モータ11の回転を遅くする際に用いる制限値とを、予め記憶しておく。また、実施形態2に係る操舵装置60のように、制御ゲインに応じて制限値を変更する場合には、EPS制御装置20の記憶部30には、通常のアシストトルクを発生させる制御時の制限値と、この制限値よりも制限量が小さく、且つ、制御ゲインに応じた制限値であり、モータ11の回転を遅くする際に用いる制限値とを、予め記憶しておく。EPS装置10でアシストトルクを発生させる際には、通常のアシストトルクを発生させる制御時と、モータ11の回転を遅くする制御時とで、それぞれの制御時用の制限値を読み出してEPS装置10の制御を行う。これにより、モータ11の回転を遅くする場合には、通常のアシストトルクを発生させる制御時に対して制限値を変更ことにより、回転速度を遅くする。
また、モータ11の回転を遅くする制御を行っている場合に、ホイールギア16とウォームギア18との位置関係によって、通常のアシストトルクを発生させる制御にする場合には、これらの目標電流や目標角、目標角速度の制限値を、通常のアシストトルクを発生させる制御時の制限値にすることにより、制限を解除する。つまり、モータ11の回転速度が遅い状態でウォームギア18の歯19とホイールギア16の歯17とが接触し、異音が発生する期間を経過したら、モータ11の回転速度を遅くするために用いていたこれらの制限値を、通常のアシストトルクを発生させる制御時の制限値にする。これにより、目標電流や目標角、目標角速度の制限を解除し、通常のアシストトルクの発生時における制御を行う。
また、上述した実施形態1、2に係る操舵装置1、60では、モータ11の回転速度を遅くしている状態から通常のアシストトルクを発生させる制御に移行する際には、印加電圧の制限値を切り替え、制限を解除することにより行っているが、制限の解除は徐変させてもよい。即ち、印加電圧の制限値を、モータ11の回転速度を遅くする際における制限値から、通常のアシストトルクを発生させる制御時における制限値に、徐々に変化させてもよい。これにより、アシストトルクの急変を抑制することができ、ドライバビリティの向上を図ることができる。
また、上述した実施形態1、2に係る操舵装置1、60では、モータ11の回転速度を遅くする制御を行っている場合は、バックラッシュを通過したと判断することができる時間が経過したら、通常のアシストトルクの発生時における制御に切り替えているが、バックラッシュを通過したか否かは、時間以外によって判断してもよい。例えば、ウォームギア18側とホイールギア16側とのそれぞれの回転角を検出できるセンサを設け、このセンサの検出結果に基づいて、ウォームギア18とホイールギア16とのバックラッシュが埋まったことを認識できる状態になったら通常の制御に切り替えてもよい。または、モータ11の回転を遅くする制御の開始後に、ウォームギア18の回転角を検出するセンサによって、ウォームギア18が所定角だけ回転したことを検出したら、通常の制御に切り替えてもよい。モータ11の回転速度を遅くする制御の開始後に、バックラッシュを通過したことを判断する手法は、適切に判断することができる手法であれば、時間以外の手法によって行ってもよい。
また、上述した実施形態1、2に係る操舵装置1、60では、モータ11の回転速度を遅くする場合は、印加電圧等の制限値を変更することにより行っているが、これ以外の手法によって行ってもよい。例えば、通常のアシストトルクを発生させる際における制御時には印加電圧等に制限値を設定せずに制御し、モータ11の回転速度を遅くする場合に、制限値を設定して制御することにより、回転速度を遅くしてもよい。
また、上述した実施形態1、2に係る操舵装置1、60では、車速が所定の判定閾値以上の場合は、モータ11の回転速度を遅くする制御を行わないが、これ以外の基準によっても、モータ11の駆動開始時等に回転速度を遅くする制御を開始しないようにしてもよい。例えば、前回の反転から、ある一定時間以内は、モータ11の回転速度を遅くする制御を開始しないようにしてもよい。モータ11の反転が短時間で行われる場合、ステアリング5に対して急激な反復操舵操作を行っていることが予想される。この場合、極力アシストトルクを発生して運転者の操舵操作を補助することが好ましいため、前回の反転からの経過時間が所定時間以内の場合は異音の発生を抑制するための制御は行わずに、モータ11で発生する動力を早急にシャフト41に伝達し、アシストトルクを発生させるのが好ましい。
また、EPS装置10のモータ11を回転させる際における目標となる回転速度である目標速度が小さい場合も、モータ11の回転速度を遅くする制御を開始しないようにしてもよい。モータ11の回転速度が遅い場合には、バックラッシュによって離間しているウォームギア18の歯19とホイールギア16の歯17とが当接した際における衝撃が小さく、異音も小さいため、目標速度が所定値以下の場合には、モータ11の回転速度を遅くする制御は行わなくてもよい。
また、上述した実施形態1、2に係る操舵装置1、60では、舵角センサ52の検出結果に基づいてウォームギア18の停止と回転とを判定しているが、ウォームギア18の停止と回転とを判定してもよい。例えば、モータ11の角速度を検出する角速度センサを設け、角速度で検出したモータ11の角速度に基づいて、ウォームギア18の停止と回転とを判定してもよい。
また、上述した実施形態1、2に係る操舵装置1、60では、減速機15は、互いに回転軸が直交するホイールギア16とウォームギア18とによって構成されており、ホイールギア16が、ステアリング5への操舵操作に基づいて動作する第1ギアとして用いられ、ウォームギア18が、ホイールギア16に噛合うと共にモータ11で発生する動力をホイールギア16に対して伝達可能な第2ギアとして用いられているが、第1ギアと第2ギアとは、これ以外の形態であってもよい。例えば、第1ギアと第2ギアとは、遊星ギア機構が用いられたり、2つの平歯車やはす歯歯車が用いられたりするなど、ギア同士の回転軸が平行になる形態で構成されていてもよい。ギアの形態に関わらず、2つのギアが噛み合わされる部分にはバックラッシュが存在するため、バックラッシュによって離間している歯同士が接触する際に、モータ11の回転速度を遅くすることにより、歯同士の接触時における衝撃を抑えることができ、異音の発生を抑制することができる。
また、上述した実施形態1、2に係る操舵装置1、60は、EPS装置10は、コラムアシスト式のアシスト機構として設けられているが、EPS装置10は、これ以外の方式であってもよく、例えば、ピニオンアシスト式、ラックアシスト式であってもよい。
また、操舵装置は、上述した実施形態1、2、及び各変形例で用いられているものを適宜組み合わせてもよく、または、上述した以外のものを用いてもよい。操舵装置の構成や、制御方法に関わらず、モータ11の動力を用いてアシストトルクを発生し、モータ11で発生した動力をギアによって伝達するものであれば、停止中のモータ11の駆動開始時や回転方向の反転時に、モータの回転速度を通常の動作時よりも遅くすることにより、異音の発生を抑制することができる。