以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という)について詳細に説明する。
図1は、以下に説明する第1実施形態〜第5実施形態に係るブレーキシステム10の構成を示す図である。図1に示すブレーキシステム10における液圧回路は、左前輪および右前輪用の系統と、右後輪および左後輪用の系統とが独立している。
ブレーキシステム10は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込み量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダ14を備える。マスタシリンダ14は、シリンダハウジング16内に、第1ピストン18が摺動自在に収容されている。第1ピストン18の一方の端には、ブレーキペダル12に連結されたピストンロッド20が設けられている。さらに、シリンダハウジング16内には、第2ピストン22が摺動自在に収容されている。このように2つのピストンがシリンダハウジング16に挿入されることにより、第1ピストン18と第2ピストン22との間に第1液室24が形成され、第2ピストン22とシリンダハウジング16の底部との間に第2液室26が形成されている。
第1ピストン18と第2ピストン22の間には、所定の取付荷重で第1スプリング28が設けられており、第2ピストン22とシリンダハウジング16の底部との間には、第2スプリング30が設けられている。
マスタシリンダ14のシリンダハウジング16の側面には、第1液室24に連通する第1入力ポート32および第2液室26に連通する第2入力ポート34が形成されている。第1入力ポート32および第2入力ポート34は、外部リザーバとしてのマスタシリンダリザーバ36に連通接続されている。マスタシリンダリザーバ36は、作動液を貯留しており、第1入力ポート32、第2入力ポート34を介して、マスタシリンダ14の第1液室24、第2液室26に作動液を供給する。
また、マスタシリンダ14のシリンダハウジング16の側面には、第1液室24に連通する第1出力ポート38および第2液室26に連通する第2出力ポート40が形成されている。第1出力ポート38には、右前輪と左前輪用のブレーキ液圧制御導管42aが接続されている。また、第2出力ポート40は、左後輪と右後輪用のブレーキ液圧制御導管42bが接続されている。
上述のように構成されたマスタシリンダ14では、ブレーキペダル12が踏まれて第1ピストン18および第2ピストン22が所定値以上前進すると、第1ピストン18および第2ピストン22にそれぞれ設けられたカップリング(図示せず)により、第1液室24、第2液室26とマスタシリンダリザーバ36との連通が遮断される。これにより、マスタシリンダ14の第1液室24、第2液室26に、ブレーキペダル12の操作量に応じたマスタシリンダ圧が発生し、第1出力ポート38、第2出力ポート40より作動液が送出される。
ブレーキペダル12には、ペダル踏み込み時にON状態となるブレーキスイッチ44が設けられている。ブレーキペダル12とマスタシリンダ14との間に、運転者の踏力を増大させて大きな制動力を発生させるためのブレーキブースタ(図示せず)が設けられてもよい。
また、ブレーキシステム10は、ポンプ46a、46bを有する。ポンプ46aの一方の出力部は、逆止弁48aを介して高圧導管50aに接続されており、他方の出力部は、供給導管52aを介して内部リザーバ54aの第1ポートに接続されている。高圧導管50aは、後述するリニア制御弁56aを介して、ブレーキ液圧制御導管42aに接続されている。内部リザーバ54aの第2ポートは、カット弁58aを介してブレーキ液圧制御導管42aに接続されている。また、ポンプ46bの一方の出力部は、逆止弁48bを介して高圧導管50bに接続されており、他方の出力部は、供給導管52bを介して内部リザーバ54bの第1ポートに接続されている。高圧導管50bは、後述するリニア制御弁56bを介して、ブレーキ液圧制御導管42bに接続されている。内部リザーバ54bの第2ポートは、カット弁58bを介してブレーキ液圧制御導管42bに接続されている。
ポンプ46aは、内部リザーバ54aから作動液を汲み上げて左前輪のホイールシリンダ60FL、右前輪のホイールシリンダ60FRの液圧を増圧する方向(以下、増圧方向という)と、マスタシリンダ14またはホイールシリンダ60FL、60FRからの作動液を内部リザーバ54aに蓄積する方向(以下、蓄積方向という)の2方向に作動液を吐出可能なポンプである。また、ポンプ46bは、内部リザーバ54bから作動液を汲み上げて右後輪のホイールシリンダ60RR、左後輪のホイールシリンダ60RLの液圧を増圧する方向(以下、増圧方向という)と、マスタシリンダ14またはホイールシリンダ60RR、60RLからの作動液を内部リザーバ54bに蓄積する方向(以下、蓄積方向という)の2方向に作動液を吐出可能なポンプである。このような2方向に吐出可能なポンプとしては、たとえばギヤポンプを例示できる。
なお、以下においては、ポンプ46a、46bを総称して、適宜「ポンプ46」と呼び、内部リザーバ54a、54bを総称して、適宜「内部リザーバ54」と呼ぶ。また、高圧導管50a、50bを総称して、適宜「高圧導管50」と呼び、ブレーキ液圧制御導管42a、42bを総称して、適宜「ブレーキ液圧制御導管42」と呼び、リニア制御弁56a、56bを総称して、適宜「リニア制御弁56」と呼ぶ。また、ホイールシリンダ60FL、60FR、60RL、60RRを総称して、適宜「ホイールシリンダ60」と呼ぶ。
ポンプ46は、モータ62により駆動される。モータ62を所定の第1方向に回転させることにより、ポンプ46は、作動液を増圧方向に吐出するように駆動される(このときのポンプ46の回転状態を正回転と呼ぶ)。また、モータ62を第1方向と反対の第2方向に回転させることにより、ポンプ46は、作動液を蓄積方向に吐出するように駆動される(このときのポンプ46の回転状態を逆回転と呼ぶ)。
ポンプ46は、正回転するとき、内部リザーバ54に蓄積された作動液を汲み上げ、高圧導管50に吐出供給する。また、ポンプ46は、逆回転するとき、マスタシリンダ14またはホイールシリンダ60からの作動液を内部リザーバ54に蓄積する。
左前輪と右前輪用のブレーキ液圧制御導管42aと高圧導管50aとの間には、リニア制御弁56aおよび逆止弁64aが設けられている。リニア制御弁56aは、非通電時は開いた状態にあり、必要に応じて通電量を制御して開度を調整可能な常開型の電磁流量制御弁である。リニア制御弁56aの開度を調整することにより、ブレーキ液圧制御導管42aの液圧と高圧導管50aの液圧との間、すなわち、リニア制御弁56aの前後に差圧を作り出すことができる。
同様に、右後輪と左後輪用のブレーキ液圧制御導管42bと高圧導管50bとの間には、リニア制御弁56bおよび逆止弁64bが設けられている。リニア制御弁56bは、非通電時は開いた状態にあり、必要に応じて通電量を制御して開度を調整可能な常開型の電磁流量制御弁である。リニア制御弁56bの開度を調整することにより、ブレーキ液圧制御導管42bの液圧と高圧導管50bの液圧との間、すなわち、リニア制御弁56bの前後に差圧を作り出すことができる。
左前輪と右前輪用の供給導管52aには、左前輪と右前輪用のリターン導管66aが接続されており、リターン導管66aと高圧導管50aとの間には、左前輪用の接続導管68FLおよび右前輪用の接続導管68FRが接続されている。接続導管68FLには、常開型のソレノイド弁である増圧弁70FLおよび常閉型のソレノイド弁である減圧弁72FLが設けられており、接続導管68FRには、常開型のソレノイド弁である増圧弁70FRおよび常閉型のソレノイド弁である減圧弁72FRが設けられている。
増圧弁70FLと減圧弁72FLとの間の接続導管68FLは、接続導管74FLにより左前輪のホイールシリンダ60FLに接続されており、接続導管74FLと高圧導管50aとの間には、ホイールシリンダ60FLより高圧導管50aへ向かう作動液の流れのみを許す逆止弁76FLが設けられている。
同様に、増圧弁70FRと減圧弁72FRとの間の接続導管68FRは、接続導管74FRにより右前輪のホイールシリンダ60FRに接続されており、接続導管74FRと高圧導管50aとの間には、ホイールシリンダ60FRより高圧導管50aへ向かう作動液の流れのみを許す逆止弁76FRが設けられている。
左前輪および右前輪側と同様、右後輪と左後輪用の内部リザーバ54bには、右後輪と左後輪用のリターン導管66bが接続されており、リターン導管66bと高圧導管50bとの間には、左後輪用の接続導管68RLおよび右後輪用の接続導管68RRが接続されている。接続導管68RLには、常開型のソレノイド弁である増圧弁70RLおよび常閉型のソレノイド弁である減圧弁72RLが設けられており、接続導管68RRには、常開型のソレノイド弁である増圧弁70RRおよび常閉型のソレノイド弁である減圧弁72RRが設けられている。
増圧弁70RLと減圧弁72RRとの間の接続導管68RLは、接続導管74RLにより左後輪のホイールシリンダ60RLに接続されており、接続導管74RLと高圧導管50bとの間には、ホイールシリンダ60RLより高圧導管50bへ向かう作動液の流れのみを許す逆止弁76RLが設けられている。同様に、増圧弁70RRと減圧弁72RRとの間の接続導管68RRは、接続導管74RRにより右後輪のホイールシリンダ60RRに接続されており、接続導管74RRと高圧導管50bとの間には、ホイールシリンダ60RRより高圧導管50bへ向かう作動液の流れのみを許す逆止弁76RRが設けられている。
なお、以下においては、増圧弁70FL、70FR、70RL、70RRを総称して、「増圧弁70」と呼び、減圧弁72FL、72FR、72RL、72RRを総称して、「減圧弁72」呼ぶ。また、リターン導管66a、66bを総称して、「リターン導管66」と呼び、接続導管74FL、74FR、74RL、74RRを総称して、「接続導管74」と呼ぶ。
車両の各車輪に対しては、液圧制動装置として機能するディスクブレーキユニットが設けられており、各ディスクブレーキユニットは、ホイールシリンダ60の液圧駆動によってブレーキパッドをディスクに押し付けることで液圧制動力を発生するようになっている。また、左右後輪のディスクブレーキユニットは、電動パーキングブレーキ装置を内蔵している。電動パーキングブレーキ装置は、電動モータを駆動源として、ホイールシリンダ60に内蔵されたナット部材を移動させてブレーキパッドをディスクに押し付けることでパーキング制動力を発生するようになっている。ディスクブレーキユニットの詳細は後述する。
なお、左前輪用、右前輪用、左後輪用および右後輪用のホイールシリンダ60FL〜60RR付近には、ホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ78FL、78FR、78RLおよび78RRが設けられている。以下、適宜、ホイールシリンダ圧センサ78FL〜78RRを総称して「ホイールシリンダ圧センサ78」と呼ぶ。
また、左前輪、右前輪、左後輪および右後輪には、それぞれの車輪の車輪速を検出する車輪速センサ80FL、80FR、80RLおよび80RRが設けられている。以下、適宜、車輪速センサ80FL〜80RRを総称して「車輪速センサ80」と呼ぶ。
上述のリニア制御弁56、増圧弁70、減圧弁72、ポンプ46等は、ブレーキシステム10の液圧アクチュエータ82を構成する。そして、かかる液圧アクチュエータ82は、制御部として機能する電子制御ユニット(以下「ECU」という)84によって制御される。
ECU84は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、エンジン停止時にも記憶内容を保持できるバックアップRAM等の不揮発性メモリ、入出力インターフェース、各種センサ等から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して取り込むためのA/Dコンバータ、計時用のタイマ等を備えるものである。
ECU84には、上述のリニア制御弁56、増圧弁70、減圧弁72、モータ62等の液圧アクチュエータ82を含む各種アクチュエータ類が電気的に接続されている。
また、ECU84には、制御に用いるための信号を出力する各種センサ・スイッチ類が電気的に接続されている。すなわち、ECU84には、ホイールシリンダ圧センサ78から、ホイールシリンダ60におけるホイールシリンダ圧を示す信号が入力される。
また、ECU84には、車輪速センサ80から各車輪の車輪速度を示す信号が入力され、ヨーレートセンサからヨーレートを示す信号が入力され、操舵角センサからステアリングホイールの操舵角を示す信号が入力され、車速センサから車両の走行速度を示す信号が入力されたりしている。
また、ECU84には、マスタシリンダ圧センサ86からマスタシリンダ圧を示す信号が入力され、ブレーキスイッチ44より該スイッチがオン状態にあるか否かを示す信号(運転者による制動要求信号)が入力される。また、ECU84には、図示していない高圧導管圧を検出するセンサからの信号が入力され、マスタシリンダ圧と高圧導管圧とからリニア制御弁56前後の差圧を算出する。
このように構成されるブレーキシステム10では、通常の走行状態にある場合には、リニア制御弁56が開弁、増圧弁70が開弁、減圧弁72が閉弁された状態にあり、運転者がブレーキペダル12を踏み込んだことにより生じたマスタシリンダ圧と同じ油圧がホイールシリンダ圧に生じ、制動力を発生するようになっている。
また、ブレーキシステム10では、ECU84に接続された各種センサからの信号に基づいて車両の走行状態をモニタし、車両の走行状態に応じてポンプ48やリニア制御弁56を制御することで最適な制動力を自動的に発生させる機能を有する。このような自動制動力制御の例としては、トラクションコントロール(TRC)や、横滑り防止制御(VSC)などがある。また、自車両前方の状況、例えば先行車の走行状態をレーザやレーダを用いて認識して追従走行と制動を全速度領域で自動で実行する、いわゆるアダプティブクルーズコントロール(ACC)等がある。また、停車時に制動がかかった状態を維持させる、いわゆるブレーキホールド(BH)も自動制動力制御に含まれる。なお、これらの制御は公知であるため詳細な説明は省略する。
図2は、図1のブレーキシステム10に適用可能な電動パーキングブレーキ装置一体型のディスクブレーキユニット100の一部が断面図として示されている。ディスクブレーキユニット100は、マスタシリンダ14から発生した液圧によってピストンを作動させて液圧制動力を発生すると共に、電動モータ102によってピストンを作動させてパーキング制動力を発生する両方の機能を有している。
ディスクブレーキユニット100は、図示しない車両の車輪とともに回転するディスクロータ104と、摩擦部材としてのブレーキパッド106a、106と、ブレーキパッドを移動させるキャリパ108とを備える。
キャリパ108の内部にはホイールシリンダ60が形成されており、このホイールシリンダ60内にピストン110が摺動自在に配置される。また、ホイールシリンダ60内には液圧制動力制御用の液圧発生室112が形成されており、液圧発生室112は図示しない通路を介してマスタシリンダ14(図1参照)に連通している。
一対のブレーキパッド106a、106bは、ディスクロータ104の両側の摩擦摺動面104a、104bに対向してそれぞれ配置され、ディスクロータ104の軸方向に摺動可能に支持されている。ブレーキパッド106aの背部には、キャリパ108から延び出した爪部114が配置される。また、ブレーキパッド106bの背部にはピストン110が取り付けられている。
ディスクブレーキユニット100の内部には電動モータ102が配設されている。電動モータ102は、パーキングブレーキの作動時にブレーキパッド106a、106bをディスクロータ104に向けて押し付けるとともに、非作動時にブレーキパッド106a、106bをディスクロータ104から離隔させるための駆動手段として機能する。
電動モータ102は、減速機116を介してピストン110を駆動する。電動モータ102の出力軸にはピニオン116aが取り付けられ、このピニオン116aは段付きの第1歯車116bの大径歯車116b1と噛みあっている。第1歯車116bの小径歯車116b2は、第2歯車116cと噛みあっている。第2歯車116cの中心軸は、ホイールシリンダ60の内部に左右方向に延びるスクリューシャフト118と結合されている。
ピストン110は片側が開口した略円筒形状をしており、ピストン110に対して回転不能かつ軸方向摺動可能に支持されたロックナット120が、ピストン110の開口端から挿入されている。ロックナット120は略円筒形をなし、その内面にはスクリュー溝が形成されており、このスクリュー溝にスクリューシャフト118が螺合する。この構造によって、電動モータ102から伝達された回転運動をロックナット120の直線運動に変換することができる。
スクリューシャフト118の減速機側には拡径部122が形成されている。拡径部122とキャリパ108との間にはスラストベアリング(図示せず)が配置され、スクリューシャフトの軸方向の力を受けることができる。
通常の液圧制動力制御時、例えば運転者がブレーキペダル12を踏み込んだ場合には、マスタシリンダ14からの液圧が液圧発生室112に導入され、液圧発生室112内の圧力が上昇しピストン110を図2中矢印L方向に移動させて、ブレーキパッド106bをディスクロータ104の摩擦摺動面104bに押圧する。この状態でさらに液圧が液圧発生室112に導入されて液圧発生室112内の圧力が上昇するとキャリパ108自体が図中矢印R方向に移動する。その結果、キャリパ108と一体に移動する爪部114がブレーキパッド106aの背面を押圧してブレーキパッド106aをディスクロータ104の摩擦摺動面104aに押圧する。つまり、ディスクロータ104が一対のブレーキパッド106a、106bによって挟圧され摩擦制動力(液圧制動力)が発生する。
車室内には、運転者が操作するEPB(Electric Parking Brake)スイッチ124が設置される。EPBスイッチ124がオンにされると、ECU84から電動モータ102に対して駆動信号が発せられる。電動モータ102の回転が減速機116を介してスクリューシャフト118に伝達され、さらにロックナット120の図中矢印L方向への直線運動に変換される。この直線運動により、ロックナット120がピストン110の内壁面110aに当接し、ピストン110の先端に固定されたブレーキパッド106bがディスクロータ104の摩擦摺動面104bに押し付けられる。このとき、ピストン110の反力によって、キャリパ108がピストン110の移動方向とは反対の右方向(矢印R方向)に移動し、キャリパ108の先端の爪部114によって、液圧制動時と同様にブレーキパッド106aがディスクロータ104の摩擦摺動面104aに押し付けられる。こうして、ディスクロータ104が一対のブレーキパッド106a、106bにより挟圧されることで車輪が固定され、パーキングブレーキとしての機能が発揮される。
なお、電動モータ102の駆動によりディスクロータ104が一対のブレーキパッド106a、106bにより挟圧された場合、電動モータ102に対する電力供給を停止してもロックナット120は移動しないので、挟圧状態、つまりパーキング制動状態が維持できる。パーキング制動状態を解除する場合は、電動モータ102を逆回転させて、ロックナット120を矢印R方向に後退させればよい。なお、ECU84は、EPBスイッチ124からの制御信号に拘わらず、車両が停車して所定期間経過した場合等、例えば停車後3分が経過する等、所定の停止条件が満たされた場合、電動モータ102を駆動してパーキング制動力を発生させる。すなわち車両の停止状態を維持する。このように、所定条件が成立したときに制動力を維持するものを、いわゆるブレーキホールド(BH)という。なお、BH制御は、液圧制動力制御時にも各制御弁の制御を行い液圧制動力を発生させることによって実施することもできる。ところで、停車後のBH状態で、電動パーキングブレーキ装置へ切り替えるまでの経過時間の設定が短すぎると、渋滞等で車両が停止と走行を繰り返し行うような場合、必要以上に電動パーキングブレーキ装置を作動して、電動モータ102の駆動回数が増えてバッテリを消耗させてしまう場合がある。したがって、停車後BH状態で、電動パーキングブレーキ装置へ切り替えるまでの経過時間は適宜変更可能とし、液圧制動によるバッテリの消耗と電動モータ102の駆動によるバッテリの消耗を比較し、消耗の少ない経過時間の設定値とすることが望ましい。
上述のように構成されるブレーキシステム10及びディスクブレーキユニット100を用いて液圧制動装置と電動パーキングブレーキ装置が連携して自動制動力制御を行う場合の具体的な例を説明する。なお、以下に示す各実施形態において、ブレーキシステムの構成として、図1に示す4輪構成の車両を採用し、4輪全輪に液圧制動装置(例えば、ディスクブレーキ装置)が装着されると共に、後輪2輪に電動パーキングブレーキ装置が装着されているものを一例として示す。
[第1実施形態]
図3〜図6を用いて第1実施形態を説明する。
第1実施形態では、自動制動力制御として、車両停車時に制動力の自動維持制御、いわゆるブレーキホールド(BH)が行われている場合を示している。なお、BHは、ACC制御の結果として制動力が維持される場合も含む。通常のACC制御の場合、全車輪に対して制動制御が実行される。そして、停車後所定期間が経過すると電動パーキングブレーキ装置が自動的に動作してパーキング制動制御に切り替わる。この場合、例えば4輪制動から電動パーキングブレーキ装置が装着された装着輪に対する2輪制動に切り替わることになるが、前述したように、制動輪数の変化や制動方式の変化に起因する切り替えショック(振動)が発生してしまう場合がある。また、液圧制御による自動制動力制御中に運転者がブレーキペダル12の踏み込みを行うと、作動液がホイールシリンダ60へ十分に流入できないのでブレーキペダル12がストロークし難く、運転者に違和感を与えてしまう場合がある。
ブレーキシステム10が自動制動力制御を実行しているときの液圧状態を図3に示す。 自動制動力制御が実行される場合、ECU84は、リニア制御弁56a、56bを閉弁すると共に、増圧弁70FL〜70RRを開弁し、減圧弁72FL〜72RRを閉弁した状態で、モータ62を駆動してポンプ46a、46bから作動液を吐出させる。その結果、ホイールシリンダ60FL〜60RRに液圧が供給されて、運転者の制動要求操作に拘わらず液圧制動力制御が可能になる。つまり、ACC制御を実行したりBH状態を形成したりすることができる。なお、図3において、各導管のうち太線で示された部分が高圧状態になっている部分である。
図3の状態において、例えばBH中に運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれる場合、ECU84は、ブレーキスイッチ44からの信号に基づきリニア制御弁56a、56bを開弁制御するが、リニア制御弁56a、56bよりホイールシリンダ60側の導管は高圧状態なので、液圧が拮抗しマスタシリンダ14から液圧が吐出できずブレーキペダル12がストロークし難くなる。つまり、ブレーキペダル12の操作フィーリングが低下する。
第1実施形態は、ACC制御中に渋滞等が原因で停車してBH制御が実行されているときに、ブレーキペダル12の踏み込みが検出された場合の制御例を示す。第1実施形態では、制御開始の契機をブレーキペダル12が操作されたこととするが、自動制動力制御中の所定の速度条件として、車速ゼロが満たされているものとする。この場合、例えば前輪側のホイールシリンダ60FL,60FRの液圧を減圧して、マスタシリンダ14からの液圧の受入を可能にしておく。言い換えれば、全車輪に対する液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置の装着輪に対する液圧制動力制御へ移行させる。具体的には、図4に示すように、ECU84は、全車輪に対する液圧制動力制御中にブレーキスイッチ44からの信号を取得した場合、リニア制御弁56a、56bを開弁制御する前に、ポンプ46aを停止すると共に、減圧弁72FL、72FRを開弁してホイールシリンダ60FL、60FRの作動液を内部リザーバ54aに一時的に移動させる。つまり、自動制動力制御としては、全車輪(4輪)に対する液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御へ移行する。なお、作動液の内部リザーバ54aへの移動は、ブレーキペダル12が現実にマスタシリンダ14内の作動液を送出し始める前に実行されることが望ましい。したがって、ECU84は、ブレーキペダル12の踏み込み初期の段階、例えばブレーキペダル12のストロークの「遊び」の範囲内で減圧弁72FL、72FRを開弁することが望ましい。ECU84は、ホイールシリンダ60FL、60FRの減圧が完了したら減圧弁72FL、72FRを閉弁する。
図5に示すように、ホイールシリンダ60FL、60FRが減圧されているので、ブレーキペダル12が踏み込まれてマスタシリンダ14から作動液が送出された場合でも、その作動液は、ホイールシリンダ60FL、60FRに流入可能となる。一方、減圧弁72RL、72RRの開弁は行われないので、ホイールシリンダ60RL、60RRの液圧状態は図3の状態と同じであり制動力を発生している。このような状態で、ブレーキペダル12が踏み込まれると、第1液室24の作動液はリニア制御弁56a、増圧弁70FR、70FLを介してホイールシリンダ60FL、60FRに流入可能となる。その結果、ブレーキペダル12はストロークし易く、自動制動力制御中でもブレーキペダル12の操作フィーリングの改善ができる。なお、減圧弁72RL、72RRは閉弁状態が維持されているので後輪側の制動力は確保されている。また、前輪側は、自動制動力制御としては減圧されるが、マスタシリンダ14からの作動液供給により制動力が生じるので車両全体として制動力が変動するとしても僅かであり、制動力の確保は十分に可能となる。
なお、このように自動制動力制御中に全車輪(4輪)に対する液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御へ移行させることで、車両停止後に液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置による制動に切り替わる場合、例えば車両停止後3分経過後に液圧による2輪制動から電動パーキングブレーキ装置による2輪制動に切り替わることになる。つまり、切り替わり時に制動輪数の変動がなくなる。その結果、制動方式の切り替えショックや姿勢変動等の振動が発生することを抑制できる。なお、内部リザーバ54aに移動させた作動液は、例えば自動制動力制御が実行されていないときなどにカット弁58aを開弁して、マスタシリンダ14の第1液室24やマスタシリンダリザーバ36に戻す。
図6は、第1実施形態のECU84における処理を説明するフローチャートである。
ECU84は、車両のイグニッションスイッチがオンの場合、またはそれと同等の状態の場合、図6を処理を所定周期で繰り返し実行している。
ECU84は車両停止時にBH(ACC制御中も含む)制動中でない場合、つまり自動制動力制御中でない場合(S100のN)、次の処理タイミングまで待機するためにフローの先頭に戻る。S100において、車両停止時、つまり、所定の速度条件として車速ゼロが満たされており、BH制動中の場合(S100のY)で、ブレーキペダル12の操作がなければ(S102のN)、前輪2輪の自動制動力維持(BH)制御を継続すると共に(S104)、後輪2輪の自動制動力維持(BH)制御を継続する(S106)。つまり、4輪の液圧制動力制御によりBH制御を継続し、次の周期の処理のためにフローの先頭に戻る。
一方、BH制御中にブレーキペダル12の操作が行われたことが検出された場合(S102のY)、ECU84は図4で説明したように、前輪側2輪の作動液を内部リザーバ54aに移動してホイールシリンダ60FL、60FRを減圧する。つまり、前輪側のBH制御を終了させて、通常ブレーキ可能状態にする(S108)。また、後輪側に関しては、ホイールシリンダ60RL、60RRの液圧状態を保持し、BH制御を維持し(S110)、次の周期の処理のためにフロー先頭に戻る。
このような処理を行うことにより、自動制動力制御中の停車時にブレーキペダル12が踏み込まれてもブレーキペダル12がストロークし難い等の違和感を運転者に与えてしまうことが抑制できる。なお、上述の例では、電動パーキングブレーキ装置の非装着輪である前輪側のホイールシリンダ60FL、60FRを減圧してマスタシリンダ14からの作動液の受入を可能にしたが、ブレーキペダル12の操作フィーリングを改善する目的であれば、全車輪のうち少なくとも1輪に対して減圧制御がなされればよい。例えば、後輪側のホイールシリンダ60RL、60RRを減圧してもよく、同様な効果を得ることができる。一般的には、前輪側のブレーキ装置の方が制動能力の高い場合が多い。したがって、渋滞等による停車のように電動パーキングブレーキ装置を利用することなくすぐに走行を再開するような場合は、大きな制動力を確保できる前輪側で停車状態の維持を行った方がよい場合がある。例えば坂路で停車した場合等のずり下がり抑制が容易にできる。また、別の例として、電動パーキングブレーキ装置の装着輪の一部と、非装着輪の一部を組み合わせて減圧するようにしてもよい。この場合、減圧する車輪の選択範囲が広がり制御自由度が向上できる。
また、上述したように、車両が完全に停止した後で液圧制動力制御の対象輪数が変更(4輪から2輪に変更)されるので、自動的に行われる液圧制動力制御の移行制御の実行を車両搭乗者に気付かれにくくできる。また、移行制御に起因する車両の挙動変化が生じにくくなる。
なお、図6のフローチャートにおいて、BH状態(停車維持状態)が所定期間継続された場合、例えば車両の停止後3分が経過した場合、電動パーキングブレーキ装置の動作制御に切り替えると共に、液圧制動力制御を解除する。電動パーキングブレーキ装置の場合、その作動時に電動モータ102が駆動されるのみで、電動パーキングブレーキ装置による制動力が発生した後は、電動モータ102の駆動を必要としない。つまり、電動パーキングブレーキ装置による制動力が発生した後は、液圧アクチュエータ82の各制御弁を駆動する必要はなく、また電動モータ102を駆動する必要もなくなるので、バッテリの消耗を抑制できる。
[第2実施形態]
図7〜図11を用いて第2実施形態を説明する。
前述した第1実施形態では、自動制動力制御中の所定の速度条件として車速ゼロが満たされた場合の制御を説明したが、第2実施形態の場合は、自動制動力制御中の所定の速度条件として、停車後所定期間が経過したことを制御条件とする例を説明する。
図7は、ブレーキシステム10が自動制動力制御を実行しているときの液圧状態を示す。基本的には、図3の液圧状態と同じである。自動制動力制御が実行されている場合、ECU84は、リニア制御弁56a、56bを閉弁すると共に、増圧弁70FL〜70RRを開弁し、減圧弁72FL〜72RRを閉弁した状態で、モータ62を駆動してポンプ46a、46bから作動液を吐出させる。その結果、ホイールシリンダ60FL〜60RRに液圧が供給されて、運転者の制動要求操作に拘わらず液圧制動力制御が可能になる。つまり、自動制動停止時または自動停止制御中(停止直前も含む)の状態を示している。
図7の状態において、長時間BH制御が継続すると、駆動している各制御弁の発熱や駆動電力の消耗等の原因になり好ましくない。そのため、自動制動力制御においては、停車後所定期間(例えば3分)が経過すると液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置による制動に切り替える。この切り替えを行う場合、前述したように4輪の液圧制動力制御から2輪の電動パーキングブレーキ装置の制動に直接切り替えると、制動輪数の変化や制動方式の変化に起因する切り替えショック(振動)が発生してしまう場合がある。そこで、第2実施形態の場合、電動パーキングブレーキ装置を動作させるのにあたり事前処理を行っている。
ECU84は、停車後所定期間(例えば500ms)が経過すると、4輪の液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置の装着輪(後輪2輪)の液圧制動力制御に移行させる。具体的には、図8に示すように、ECU84は、図7の液圧状態からさらに前輪側で発生している制動力に相当する制動力を発生させる液圧を後輪側のホイールシリンダ60RL,60RRに供給する。つまり、カット弁58bを開弁すると共にポンプ46bのみを駆動し、マスタシリンダリザーバ36の作動液を第2液室26を介して汲み上げる。そして、ホイールシリンダ60RL,60RRに供給して増圧して後輪側の液圧制動力を増加する。前輪制動力相当の増圧が完了すると、図9に示すようにECU84は、カット弁58bを閉弁するとともにポンプ46bを停止し、ホイールシリンダ60RL,60RRの高圧状態を維持する。そして、ECU84は減圧弁72FL、72FR及びカット弁58aを開弁し、ホイールシリンダ60FL,60FRに蓄積されていた作動液を内部リザーバ54a、マスタシリンダ14の第1液室24を介してマスタシリンダリザーバ36に戻す。つまり、全車輪に対する液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置の装着輪に対する液圧制動力制御へ移行させる。ホイールシリンダ60FL、60FRの減圧が完了したらECU84は、図10に示すように減圧弁72FL、72FR及びカット弁58aを閉弁する。その結果、後輪側2輪のみで液圧制動力制御が実行されることになる。
このように、後輪側の液圧を増加することで車両全体の制動力(総制動力)としては、全車輪で制動していたときと同じまま、自動制動力制御としては、全車輪(4輪)に対する液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御へ移行する。この後、停車後所定期間(例えば3分)が経過して液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置によるパーキング制動に切り替える場合、制動輪数が変化しないので(2輪から2輪)、制動輪数の変化に起因する切り替えショック(振動)が発生することが防止できる。また、図9における4輪制動から2輪制動への移行は、液圧制動間の制御移行で制動方式自体の変化ではないので、この移行(切り替え)に起因する切り替えショック(振動)は抑制される。つまり、電動パーキングブレーキ装置による制動に切り替える際の切り替えショックや姿勢変動等の振動が発生することを抑制できる。
なお、図10に示すように、第2実施形態においても4輪液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御に移行するので、例えば、この状態でブレーキペダル12が踏み込まれてもマスタシリンダ14で発生する液圧はホイールシリンダ60FL,60FRに導入可能となる。その結果、もしブレーキペダル12が踏み込まれてもブレーキペダル12がストロークし難い等の違和感が軽減できる。
また、図8に示すように、前輪側の制動力を維持したまま、後輪側の制動力を増加し、その後に前輪側を減圧するので、車両が例えば坂路に停車していた場合等でも車両の停車姿勢の維持が可能である。また、車両が完全に停止した後で液圧制動力制御の対象輪数が変更(4輪から2輪に変更)されるので、自動的に行われる液圧制動力制御の移行制御の実行を車両搭乗者に気付かれにくくできる。
図11は、第2実施形態のECU84における処理を説明するフローチャートである。 第1実施形態と同様に、ECU84は、車両のイグニッションスイッチがオンの場合、またはそれと同等の状態の場合、図11を処理を所定周期で繰り返し実行している。
ECU84は、車両停止時にBH(ACC制御中も含む)制動中でない場合、つまり自動制動力制御中でない場合(S200のN)、次の周期の処理のためにフロー先頭に戻る。S200において、車両停止時にBH制動中であり(S200のY)、自動停止後所定期間、例えば500ms経過していないことが、車輪速センサ80等からの信号により検出された場合(S202のN)、前輪2輪の自動制動力維持(BH)制御を継続すると共に(S204)、後輪2輪の自動制動力維持(BH)制御を継続する(S206)。つまり、4輪の液圧制動力制御によりBH制御を継続し、次の周期の処理のためにフローの先頭に戻る。
一方、自動停止後所定期間、例えば500ms経過したことが車輪速センサ80等からの信号に基づき検出された場合(S202のY)、ECU84は図8で説明したように、後輪側のホイールシリンダ60RL,60RRを前輪側の制動力相当分増圧して、後輪側のBH制御を継続する(S208)。その後、ECU84は、図9で説明したように、前輪側のホイールシリンダ60FL,60FRを減圧し、前輪側のみBH制御を終了させる(S210)。
このような処理を行うことにより、自動制動力制御中に停車して、その後電動パーキングブレーキ装置による制動に切り替わる場合でも、制動輪数の変動はないため切り替えショックや姿勢変動等の振動が発生することが抑制できる。また、停車中にブレーキペダル12が踏み込まれても、ブレーキペダル12がストロークし難い等の違和感の発生が抑制できる。なお、図11のフローチャートでは、自動停止後500msで4輪から2輪への液圧制動力制御の移行を開始する例を説明したが、電動パーキングブレーキ装置による制動に切り替わる前に2輪の液圧制動力制御へ移行が完了していれば、移行開始までの期間は適宜選択できる。ただし、ブレーキペダル12が踏み込まれた場合の操作フィーリングを確保するためには、自動停止後初期の段階で制御移行を開始することが望ましい。
なお、図11のフローチャートにおいて、BH状態(停車維持状態)が所定期間継続された場合、例えば車両の停止後3分が経過した場合、電動パーキングブレーキ装置の動作制御に切り替えると共に、液圧制動力制御を解除する。このように、電動パーキングブレーキ装置による制動力が発生した後は、液圧アクチュエータ82の各制御弁を駆動する必要はなく、また電動モータ102を駆動する必要もなくなるので、バッテリの消耗が抑制できる。
また、上述の実施形態では、前輪側の減圧値に相当する液圧値を後輪側で増圧する例を示した。他の実施例では、後輪側の増圧値を前輪側の減圧値とは、無関係に所定量増圧するようにしてもよい。この場合、増圧と減圧を関連付けながら制御する場合に比べて、増減圧制御が簡略化できる。なお、上述のような制御を行った場合でも、総制動力を低下させないことが望ましいので、後輪側の増圧値は、前輪側の減圧値以上とすることが好ましい。
[第3実施形態]
図12〜図14を用いて第3実施形態を説明する。
前述した第1実施形態、第2実施形態では、自動制動力制御中の所定の速度条件として車速ゼロ(停車)、または車速ゼロ(停車)になってから所定期間経過した場合の制御を説明した。第3実施形態の場合は、自動制動力制御中の所定の速度条件として、車速が所定速度以下になったことを制御条件とする例を説明する。
なお、ブレーキシステム10が自動制動力制御(ACC制御)を実行しているときの液圧状態は、図7に示す状態と同じであるので、図7を参照するとともに詳細な説明は省略する。自動制動力制御が実行されている場合、ECU84は、リニア制御弁56a、56bを閉弁すると共に、増圧弁70FL〜70RRを開弁し、減圧弁72FL〜72RRを閉弁した状態で、モータ62を駆動してポンプ46a、46bから作動液を吐出させる。その結果、ホイールシリンダ60FL〜60RRに液圧が供給されて、運転者の制動要求操作に拘わらず液圧制動力制御が可能になる。つまり、停止直前を含む走行中の自動制動力制御が実現できる。
前述したように、長時間BH制御が継続すると、駆動している各制御弁の発熱や駆動電力の消耗等の原因になり好ましくない。そのため、自動制動力制御においては、停車後速やかに電動パーキングブレーキ装置による制動に切り替えることが望ましい。そこで、第3実施形態においては、車両停止前に4輪の液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御に移行させて、停車直後に電動パーキングブレーキ装置による制動に切り替えることにより、制動輪数の変化や制動方式の変化に起因する切り替えショック(振動)が発生しないようにしている。また、自動制動力制御中でも停車直前であればブレーキペダル12の操作フィーリングが改善できるようにしている。
ECU84は、自動制動力制御中に車速が例えば10km/h以下になった場合、4輪の液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置の装着輪(後輪2輪)の液圧制動力制御に移行を開始する。具体的には、図12に示すように、ECU84は、図7の液圧状態から前輪側の減圧弁72FL、72FR及びカット弁58aを例えば所定周期で断続的に開弁し、ホイールシリンダ60FL,60FRに蓄積されていた作動液を内部リザーバ54a、マスタシリンダ14の第1液室24を介してマスタシリンダリザーバ36に断続的に戻す。同時に、ECU84は、減圧弁72FL、72FR及びカット弁58aの開弁周期と逆周期、つまり減圧弁72FL、72FR及びカット弁58aが閉弁しているタイミングで、カット弁58bを開弁するとともにポンプ46bを駆動して、第2液室26を介してマスタシリンダリザーバ36の作動液を汲み上げる。そして、増圧弁70RL、70RRを介してホイールシリンダ60RL、60RRに供給して、ホイールシリンダ60RL、60RRを断続的に増圧する。つまり、段階的に全車輪に対する液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置の装着輪に対する液圧制動力制御へ移行させる。ホイールシリンダ60FL、60FRの減圧とホイールシリンダ60RF、60RRの増圧を逆位相で断続的に行うことにより、自動制動力制御で走行中の前後輪の制動力バランスが急激に変化することが抑制され、スムーズに4輪から2輪への液圧制動制御の移行が実現できる。なお、前輪側で断続的に減圧する減圧値と後輪側で断続的に増圧する増圧値は、同じ値であってもよいし、異なる値であってもよいが、総制動力を低下させないことが望ましいので、減圧値に対し増圧値を大きくことが好ましい。
図14は、第3実施形態のECU84における処理を説明するフローチャートである。 第1、第2実施形態と同様に、ECU84は、車両のイグニッションスイッチがオンの場合、またはそれと同等の状態の場合、図14を処理を所定周期で繰り返し実行している。
ECU84は、自動制動力制御(ACC制御)中でない場合(S300のN)、次の周期の処理のためにフロー先頭に戻る。S300において、ACC制御中であり(S300のY)、車速が例えば10km/h以下でない場合(S302のN)、前輪2輪の自動制動力制御(ACC制御)を継続すると共に(S304)、後輪2輪の自動制動力制御(ACC制御)を継続する(S306)。つまり、先行車等の挙動に対応して4輪の液圧制動力制御により自動制動力制御を継続し、次の周期の処理のためにフローの先頭に戻る。
一方、自動制動力制御中に車速が10km/h以下になった場合(S302のY)、ECU84は、図12で説明したように、前輪側の減圧弁72FL,72FRを一時的に開弁してホイールシリンダ60FL、60FRの液圧を断続的に減圧する(S308)。またECU84は、減圧弁72FL,72FRの開弁後閉弁したタイミングで後輪側のポンプ46bの駆動によりホイールシリンダ60RL,60RRの液圧を断続的に増圧し(S310)、次の周期の処理のためにフローの先頭に戻る。前輪側の減圧と後輪側の増圧を断続的に繰り返すことにより、4輪の液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御に移行することができる。
このような処理を行うことにより、停車する前の段階で、車両全体の制動力としては、全車輪で制動していたときと同じまま、自動制動力制御としては、全車輪(4輪)に対する液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御へ移行させることができる。したがって、停車後は、速やかに2輪の液圧制動力制御から2輪の電動パーキングブレーキ装置による制動制御に切り替えることができる。その際、制動輪数が変化しないので(2輪から2輪)、制動輪数の変化に起因する切り替えショック(振動)が発生することが防止できる。また、図12、図13で説明したように、4輪制動から2輪制動への移行は、液圧制動間の移行で制動方式自体の変化ではないので、切り替えに起因する切り替えショック(振動)は抑制される。また、逆位相で断続的に増減圧制御を行ので、4輪から2輪への液圧制動力制御の移行時に制動力変動が現れにくく、スムーズな制御移行ができる。また、自動的に行われる液圧制動力制御の移行制御の実行を車両搭乗者に気付かれにくくできる。
なお、第3実施例においても4輪液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御に移行するので、例えば、この状態でブレーキペダル12が踏み込まれてもマスタシリンダ14で発生する液圧はホイールシリンダ60FL,60FRに導入可能となる。その結果、もしブレーキペダル12が踏み込まれてもブレーキペダル12がストロークし難い等の違和感を軽減できる。
なお、図14のフローチャートでは、車速が10km/h以下で4輪から2輪への液圧制動力制御の移行を開始する例を説明したが、電動パーキングブレーキ装置による制動に移行する前に2輪への液圧制動力制御が完了していれば、移行開始のタイミングは適宜選択できる。ただし、ブレーキペダル12が踏み込まれた場合の操作フィーリングを確保するためには、車両の挙動が不安定にならない範囲で早めに、4輪の液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御へ制御移行を開始することが望ましい。
図14のフローチャートにおいて、4輪の液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御への制御移行が完了し、その後、BH状態(停車維持状態)となり、BH状態が所定期間継続された場合、例えば車両の停止後3分が経過した場合、電動パーキングブレーキ装置の動作制御に切り替えると共に、液圧制動力制御を解除する。このように、電動パーキングブレーキ装置による制動力が発生した後は、液圧アクチュエータ82の各制御弁を駆動する必要はなく、また電動モータ102を駆動する必要もなくなるので、バッテリの消耗が抑制できる。
また、上述の実施形態では、前輪側の減圧値に相当する液圧値を後輪側で増圧する例を示した。他の実施例では、後輪側の増圧値を前輪側の減圧値とは、無関係に所定量増圧するようにしてもよい。この場合、増圧と減圧を関連付けながら制御する場合に比べて、増減圧制御が簡略化できる。なお、後輪側の増圧値は、前輪側の減圧値以上とすることが好ましい。
[第4実施形態]
図15は、第3実施形態の変形例である第4実施形態を説明するフローチャートである。前述したように、走行中に4輪の液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御へ移行させた場合、路面の状況等によっては、車両の挙動が不安定になる場合がある。例えば、低μ路面等を走行している場合、前後輪で制動バランスが変化するとアンチロックブレーキシステム(ABS)や横滑り防止装置(VSC)が動作する場合がある。このように車両の挙動安定化制御が実行される場合は、車両の挙動の修正を優先させて4輪全てを用いた制動制御に復帰させるようにする。
図15のフローチャートにおいて、ECU84は、車両のイグニッションスイッチがオンの場合、またはそれと同等の状態の場合、図15を処理を所定周期で繰り返し実行している。
ECU84は、自動制動力制御(ACC制御)中でない場合(S400のN)、次の周期の処理のためにフロー先頭に戻る。S400において、ACC制御中であり(S400のY)、車速が例えば10km/h以下でない場合(S402のN)、前輪2輪の自動制動力制御(ACC制御)を継続すると共に(S404)、後輪2輪の自動制動力制御(ACC制御)を継続する(S406)。つまり、先行車等の挙動に対応して4輪の液圧制動力制御により自動制動力制御を継続し、次の周期の処理のためにフローの先頭に戻る。この場合、仮にABSやVSCが動作して場合でも4輪を対象とする制動制御が可能となる。
ECU84は、自動制動力制御中に車速が10km/h以下になった場合(S402のY)でも、4輪ACC制御再始動状態の場合は(S408のY)、S404に移行して4輪での自動制動力制御を継続する。つまり、一度4輪の液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御に移行させようとしたが、再び4輪の液圧制動力制御に戻した場合のように車両の挙動を安定させつつ停車させることが望ましい場合は、自動制動力制御中に所定の速度条件が満たされても4輪での自動制動力制御を継続する。
一方、ECU84は、自動制動力制御中に車速が10km/h以下になった場合(S402のY)で、4輪ACC制御再始動状態でない場合は(S408のN)、その段階においては、車両の挙動は安定していると見なして、図12で説明したように、前輪側の減圧弁72FL,72FRを一時的に開弁してホイールシリンダ60FL、60FRの液圧を断続的に減圧する(S410)。またECU84は、減圧弁72FL,72FRの開弁後、それが閉弁したタイミングで後輪側のポンプ46bの駆動によりホイールシリンダ60RL,60RRの液圧を断続的に増圧する(S412)。このように4輪の液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御へ移行を開始した場合、ECU84は、ABSまたはVSCが動作中か否かを車輪速センサ80FL〜80RRやヨーレートセンサからの信号に基づいて検出する。そして、ABSやVSCが動作中でない場合には(S414のN)、次の周期の処理のためにフローの先頭に戻る。一方、ABSまたはVSCが動作中であることを検出した場合(S414のY)、S410、S412での処理をリセットするために、4輪ACC制御再始動状態を示すフラグをオンして(S416)、次の周期の処理のためにフローの先頭に戻る。4輪ACC制御再始動状態フラグがオンの場合、S408でS404に移行して車両が自動停止するまで4輪でACC制御が実行されることになる。
第4実施形態において、4輪の液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御に移行して車両が停止した後の処理は、第3実施形態で説明した内容と同じであり、同様の効果を得ることができる。つまり、4輪の液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御への制御移行が完了し、その後、BH状態(停車維持状態)となり、BH状態が所定期間継続された場合、例えば車両の停止後3分が経過した場合、電動パーキングブレーキ装置の動作制御に切り替えると共に、液圧制動力制御を解除する。このように、電動パーキングブレーキ装置による制動力が発生した後は、液圧アクチュエータ82の各制御弁を駆動する必要はなく、また電動モータ102を駆動する必要もなくなるので、バッテリの消耗が抑制できる。また、自動制動力制御中に車両の挙動安定化制御が実行される場合には、全輪を対象とする液圧制動力制御に戻すので、良好な挙動安定化制御を実施しつつ、自動制動力制御が可能になる。
なお、この実施形態においても、前輪側で断続的に減圧する減圧値と後輪側で断続的に増圧する増圧値は、同じ値であってもよいし、異なる値であってもよいが、総制動力を低下させないことが望ましいので、減圧値に対し増圧値を大きくことが好ましい。
[第5実施形態]
図16は、第2実施形態の変形例である第5実施形態を説明するフローチャートである。前述したように、ACC制御に続いてBH制御が行われた場合、運転者の制動要求操作に拘わらず、自動的に電動パーキングブレーキ装置により停車状態の維持が行われる。しかし、路面状態によっては、自動的に実行される電動パーキングブレーキ装置による制動(2輪制動)では停車状態を維持できない場合がある。第5実施形態では、そのような場合の対応について示す。
第5実施形態の場合、第2実施形態と同様にECU84は、車両のイグニッションスイッチがオンの場合、またはそれと同等の状態の場合、図16を処理を所定周期で繰り返し実行している。
ECU84は、車両停止時にBH(ACC制御中も含む)制動中でない場合、つまり自動制動力制御中でない場合(S500のN)、次の周期の処理のためにフロー先頭に戻る。S500において、車両停止時にBH制動中であり(S500のY)、自動停止後所定期間、例えば500ms経過していないことが、車輪速センサ80等からの信号により検出された場合(S502のN)、前輪2輪の自動制動力維持(BH)制御を継続すると共に(S504)、後輪2輪の自動制動力維持(BH)制御を継続する(S506)。つまり、4輪の液圧制動力制御によりBH制御を継続し、次の周期の処理のためにフローの先頭に戻る。
一方、自動停止後所定期間、例えば500ms経過したことが車輪速センサ80等からの信号に基づき検出された場合で(S502のY)、停車後の現在の車両状態が安定している場合、つまり、路面状態は停止状態維持に適したものであり、車両姿勢が不安定であることを示す不安定警告が出力されていない場合(S508のY)、ECU84は、液圧制動の移行処理を開始する。つまり、ECU84は図8で説明したように、後輪側のホイールシリンダ60RL,60RRを前輪側の制動力相当分増圧して、後輪側のBH制御を継続する(S510)。その後、ECU84は、図9で説明したように、前輪側のホイールシリンダ60FL,60FRを減圧し、前輪側のみBH制御を終了させる(S512)。
ECU84は、4輪の液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御に移行させることにより、2輪制動である電動パーキングブレーキ装置による停車維持(パーキング)が可能か否か検出することができる。ブレーキ装置が発生する制動力は路面摩擦係数と接地荷重で決まるので、路面が低μの坂路等であった場合、4輪を用いた制動では停車維持ができても2輪制動の場合は停車状態を維持できない場合がある。つまり、電動パーキングブレーキ装置によりBH状態にした場合、車両がずり下がり不安定な状態が発生する場合がある。停車しているはずの車両のずり下がりは、例えば、車輪速センサ80FL〜80RRやヨーレートセンサ等からの信号に基づき検出することができる。
このように、2輪の液圧制動力制御でずり下がり等が発生する場合は、2輪の液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置による制動に切り替えた場合も停車状態の維持が困難であることが予測できる。したがって、ECU84は、2輪の液圧制動力制御へ移行途中または移行した段階で車両がずり下がる等不安定な状態であることを検出した場合は(S514のY)、運転者に対して「車両不安定警告」を出力する(S516)。例えば、運転席側インストルメントパネルで警告灯を点灯させたり、ディスプレイに「車両のずり下がりあり」や「自動パーキング不可」等のメッセージを表示する。また、音声で警告音や警告メッセージを出力してもよい。この場合、運転者は、パーキングブレーキを手動で増しがけしたり、停車位置を変更したりする等の対応をとることになる。なお、警告メッセージで、具体的な対処方法を通知するようにしてもよい。S514において、車両がずり下がる等不安定な状態ではないことを検出した場合は(S514のN)、次の周期の処理のためにフローの先頭に戻る。
なお、図16のフローチャートにおいて、車両の不安定な状態が検出されることなく、4輪の液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御への制御移行が完了したとする。その後、BH状態(停車維持状態)となり、BH状態で所定期間継続された場合、例えば車両の停止後3分が経過した場合、電動パーキングブレーキ装置の動作制御に切り替えると共に、液圧制動力制御を解除する。このように、電動パーキングブレーキ装置による制動力が発生した後は、液圧アクチュエータ82の各制御弁を駆動する必要はなく、また電動モータ102を駆動する必要もなくなるので、バッテリの消耗が抑制できる。
また、S508において、不安定警告がなされていなる場合(S508のN)、ECU84は、停車後所定期間が経過していても2輪液圧制動力制御への移行は行わず、S504へ移行して4輪によるBH制御を継続させて、車両のずり下がりを抑制するようにして、次の周期の処理のためにフローの先頭に戻る。
このように、自動制動力制御により2輪で車両の停車維持が困難な場合は、2輪の液圧制動力制御を実行しないようにすると共に、電動パーキングブレーキ装置による制動制御への切り替えも禁止するようにする。つまり、電動パーキングブレーキ装置による制動制御の切り替え前に停車維持が可能か否か判断できるので、電動パーキングブレーキ装置の動作による電力消費が抑制できる。また、安全な位置での車両停車を推奨することができる。
図17は、以下に説明する第6実施形態〜第8実施形態に係るハイドロブレーキシステム200の構成を示す図である。ハイドロブレーキシステム200は、ブレーキシステム全体を制御するECU202と、ECU202により制御される液圧制御系統204とを含む。
液圧制御系統204は、ブレーキペダル206からブレーキ踏力が伝達されるマスタシリンダハイドロブースタ208と、マスタシリンダハイドロブースタ208に作動液を供給するリザーバ210とポンプ212とアキュムレータ214とアキュムレータ圧センサ216とを有する。
また、液圧制御系統204は、液圧系統を切り替える切替ソレノイド218とアンチロックブレーキ動作を制御する制御ソレノイド220とを有し、各ソレノイドはアンチロックブレーキ作動を含む制動制御時に動作する。切替ソレノイド218は、ブレーキアシスト動作時に開弁してアキュムレータ214からの液圧を伝えるリニア制御弁222と、分離弁224を有する。
また、切替ソレノイド218は、通常ブレーキ動作時に開弁してマスタシリンダハイドロブースタ208から液圧を伝えるレギュレータカット弁(リニア制御弁)226と、マスタカット弁228とを備える。また、マスタシリンダハイドロブースタ208とレギュレータカット弁226との間に、レギュレータ圧センサ230を備える。レギュレータ圧センサ230は、ブレーキペダル206の踏力に対応するマスタシリンダハイドロブースタ208の圧力を示すセンサである。
また、制御ソレノイド220は、通常ブレーキ動作時やブレーキアシスト動作時に開弁してマスタシリンダハイドロブースタ208やアキュムレータ214から液圧を伝えるABS保持弁232FR、232FL、232RR及び232RLを備える。また、制御ソレノイド220は、アンチロックブレーキの作動時等に開弁して制御液圧を減圧するABS減圧弁234FR、234FL、234RR及び234RLを備える。
図17に示すようにブレーキアシストが作動する場合には、アキュムレータ214の液圧は、図中に太線で示すアキュムレータ経路236に沿ってブレーキキャリパ238に伝達される。ブレーキキャリパ238は、伝達された液圧により、不図示のブレーキパッドをディスクに圧接させるようにブレーキ動作するディスクブレーキユニット240FR,240FL、240RRおよび240RLを有する。なお、ディスクブレーキユニット240は、図2で説明したディスクブレーキユニット100と同等のものが利用できる。
また、アキュムレータ経路236上には、制御ソレノイド220を制御するための液圧を検出する制御圧センサ242が、制御ソレノイド220と切替ソレノイド218との間に設けられる。制御圧センサ242で検出する液圧値は、ECU202に入力される。また、液圧制御系統204が備える複数のソレノイドは、ECU202からの制御指示に基づいて動作する。
図18は、通常ブレーキ動作時の液圧状態を説明する説明図である。通常ブレーキ動作時には、ハイドロブレーキシステム200の液圧制御系統204は、図中に太線で示す通常ブレーキ系統246,248に沿ってマスタシリンダハイドロブースタ208からブレーキキャリパ238へと液圧が伝達される。
マスタシリンダハイドロブースタ208から通常ブレーキ系統248を経由して伝達される制御液圧は、レギュレータカット弁226とABS保持弁232RR,232RLを介してディスクブレーキユニット240RRと240RLとに伝達される。
また、マスタシリンダハイドロブースタ208から通常ブレーキ系統246を経由して伝達される制御液圧は、マスタカット弁228とABS保持弁232FR,232FLを介してディスクブレーキユニット240FRと240FLとに伝達される。通常ブレーキ動作時においては、ブレーキペダル206の踏力に、マスタシリンダハイドロブースタ208による重畳分を加圧してブレーキ制御圧としている。
上述のように構成されるハイドロブレーキシステム200を用いて液圧制動装置と電動パーキングブレーキ装置が連携して自動制動力制御を行う場合の具体的な例を説明する。
[第6実施形態]
図19〜図21を用いて第6実施形態を説明する。第6実施形態は、第1実施形態の内容に対応し、自動制動力制御として、車両停車時に制動力の自動維持制御、いわゆるブレーキホールド(BH)が行われている場合を示している。なお、BHは、ACC制御の結果として制動力が維持される場合も含む。通常のACC制御の場合、全車輪に対して制動制御が実行される。そして、停車後所定期間(例えば3分)が経過すると電動パーキングブレーキ装置が自動的に動作してパーキング制動制御に切り替わる。この場合、4輪制動から2輪制動に切り替わることになるが、前述したように、制動輪数の変化や制動方式の変化に起因する切り替えショック(振動)が発生してしまう場合がある。また、液圧制御による自動制動力制御中に運転者がブレーキペダル206の踏み込みを行うと、作動液がブレーキキャリパ238のホイールシリンダへ十分に流入できないのでブレーキペダル206がストロークし難く、運転者に違和感を与えてしまう場合がある。
ハイドロブレーキシステム200が自動制動力制御を実行しているときの液圧状態を図19に示す。なお、図19において、太線で示す部分が高圧状態である。自動制動力制御が実行される場合、ECU202(図17等参照)は、図17で説明したようにリニア制御弁222を介してアキュムレータ214からの液圧を各ディスクブレーキユニット240RR〜240FLに供給する。その後、リニア制御弁222を閉弁することにより下流側の高圧状態を維持して自動制動力制御を行っている。
図19の状態において、例えばBH中に運転者によってブレーキペダル206が踏み込まれる場合、ECU202は、ブレーキスイッチ250からの信号に基づきマスタカット弁228を開弁すると共に、分離弁224を閉弁するが、ブレーキキャリパ238側は高圧状態なので、液圧が拮抗しマスタシリンダハイドロブースタ208から液圧が吐出できずブレーキペダル206がストロークし難くなる。つまり、ブレーキペダル206の操作フィーリングが低下する。
そこで、第6実施形態では、ACC制御中に渋滞等が原因で停車してBH制御が実行されているときに、ブレーキペダル206の踏み込みが検出された場合の制御例を示す。第6実施形態では、制御開始の契機をブレーキペダル206が操作されたこととするが、自動制動力制御中の所定の速度条件として、車速ゼロが満たされているとする。この場合、例えば前輪側のホイールシリンダ252FL,252FRの液圧を減圧して、マスタシリンダハイドロブースタ208からの液圧の受入を可能にしておく。言い換えれば、全車輪に対する液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置の装着輪に対する液圧制動力制御へ移行させる。具体的には、図20に示すように、ECU202は、ブレーキスイッチ250からの信号を取得した場合、マスタカット弁228を開弁する前に分離弁224を閉弁する。また、ABS減圧弁234FR,234FLを開弁してホイールシリンダ252FR,252FL内の作動液をリターン経路254を介してリザーバ210に一時的に戻す。つまり、自動制動力制御としては、全車輪(4輪)に対する液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御へ移行させる。なお、作動液のリザーバ210への移動は、ブレーキペダル206が現実にマスタシリンダハイドロブースタ208内の作動液を送出し始める前に実行されることが望ましい。したがって、ECU202は、ブレーキペダル206の踏み込み初期の段階、例えばブレーキペダル206のストロークの「遊び」の範囲内でABS減圧弁234FL、234FRを開弁することが望ましい。そして、ECU202は、ホイールシリンダ252FR,252FL内の作動液をリザーバ210に戻した後、図21に示すようにABS減圧弁234FR,234FLを閉弁する。
この状態で、ホイールシリンダ252FL、252FRが減圧されているので、ブレーキペダル206が踏み込まれマスタシリンダハイドロブースタ208から作動液が送出される場合でも、その作動液は、ホイールシリンダ252FL、252FRに流入可能となる。一方、ABS減圧弁234RL、234RRの開弁は行われないので、ホイールシリンダ252RL、252RRの液圧状態は図21の状態と同じであり制動力を発生してる。このような状態で、ブレーキペダル206が踏み込まれると、マスタシリンダハイドロブースタ208からの作動液はホイールシリンダ252FL、252FRに流入可能なので、ブレーキペダル206はストロークし易く、自動制動力制御中でもブレーキペダル206の操作フィーリングの改善ができる。なお、この場合、後輪側の制動力は確保されている。また、前輪側は、自動制動力制御としては減圧されるが、マスタシリンダハイドロブースタ208からの作動液供給により制動力が生じるので車両全体として制動力が変動するとしても僅かであり、制動力の確保は十分に可能となる。
なお、このように自動制動力制御中に全車輪(4輪)に対する液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御へ移行させることで、車両停止後所定期間(例えば3分)が経過した後に液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置による制動に切り替わる場合、液圧による2輪制動から電動パーキングブレーキ装置による2輪制動に切り替わることになる。つまり、切り替わり時に制動輪数の変動がなくなる。その結果、制動方式の切り替えショックや姿勢変動等の振動が発生することを抑制できる。これらの効果は第1実施形態と同様である。
また、ブレーキペダル206の操作フィーリングを改善する目的であれば、第1実施形態と同様に、全車輪のうち少なくとも1輪に対して減圧制御がなされればよい。例えば、後輪側のディスクブレーキユニット240RL、240RRを減圧してもよく、第1実施形態と同様な効果を得ることができる。また、別の例として、電動パーキングブレーキ装置の装着輪の一部と、非装着輪の一部を組み合わせて減圧するようにしてもよい。この場合、減圧する車輪の選択範囲が広がり制御自由度が向上できる。
[第7実施形態]
図22〜図24を用いて第7実施形態を説明する。
前述した第6実施形態では、自動制動力制御中の所定の速度条件として車速ゼロが満たされた場合の制御を説明したが、第7実施形態の場合は、自動制動力制御中の所定の速度条件として、停車後所定期間が経過したことを制御条件とする例を説明する。
ハイドロブレーキシステム200が自動制動力制御を実行しているときの液圧状態は、図19で示したので、ここでの説明は省略する。図19の状態において、長時間BH制御が継続すると、駆動している各制御弁の発熱や駆動電力の消耗等の原因になり好ましくない。そのため、自動制動力制御においては、停車後所定期間(例えば3分)が経過すると液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置による制動に切り替える。この切り替えを行う場合、前述したように4輪の液圧制動力制御から2輪の電動パーキングブレーキ装置の制動に直接切り替えると、制動輪数の変化や制動方式の変化に起因する切り替えショック(振動)が発生してしまう場合がある。そこで、第7実施形態の場合、電動パーキングブレーキ装置を動作させるのにあたり事前処理を行っている。
ECU202は、停車後所定期間(例えば500ms)が経過すると、4輪の液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置の装着輪(後輪2輪)の液圧制動力制御に移行させる。具体的には、図22に示すように、ECU202は、図19の液圧状態からさらに前輪側で発生している制動力に相当する制動力を発生させる液圧を後輪側のホイールシリンダ252RL,252RRに供給するように、分離弁224閉弁すると共にリニア制御弁222を開弁制御して、アキュムレータ214からの液圧をホイールシリンダ252RR,252RFに追加導入して増圧する。つまり、後輪側の液圧制動力を増加する。前輪制動力相当の増圧が完了すると、図23に示すようにECU202は、リニア制御弁222を閉弁して、ホイールシリンダ252RL,252RRの高圧状態を維持する。そして、ECU202はABS減圧弁234FL、234FRを開弁し、ホイールシリンダ252FL,252FRに蓄積されていた作動液をリザーバ210に戻す。つまり、全車輪に対する液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置の装着輪に対する液圧制動力制御へ移行させる。ホイールシリンダ252FL、252FRの減圧が完了したらECU202は、図24に示すようにABS減圧弁234FL、234FRを閉弁する。その結果、後輪側2輪のみで液圧制動力制御が実行されることになる。
このように、車両全体の制動力としては、全車輪で制動していたときと同じまま、自動制動力制御としては、全車輪(4輪)に対する液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御へ移行する。したがって、車両停止後所定期間(例えば3分)が経過して液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置によるパーキング制動に切り替える場合、制動輪数が変化しないので(2輪から2輪)、制動輪数の変化に起因する切り替えショック(振動)が発生することが防止できる。また、図23における4輪制動から2輪制動への移行は、液圧制動間の移行で制動方式自体の変化ではないので、切り替えに起因する切り替えショック(振動)は抑制される。
なお、図24に示すように、第7実施形態においても4輪液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御に移行するので、例えば、この状態でブレーキペダル206が踏み込まれてもマスタシリンダハイドロブースタ208で発生する液圧はホイールシリンダ252FL,252FRに導入可能となる。その結果、もしブレーキペダル206が踏み込まれてもブレーキペダル206がストロークし難い等の違和感を軽減できる。
また、図22で説明するように、前輪側の制動力を維持したまま、後輪側の制動力を増加し、その後に前輪側を減圧するので、車両が例えば坂路に停車していた場合等でも車両の停車姿勢の維持が可能である。これらの効果は第2実施形態と同様である。
[第8実施形態]
図25〜図26を用いて第8実施形態を説明する。
前述した第6実施形態、第7実施形態では、自動制動力制御中の所定の速度条件として車速ゼロ(停車)、または車速ゼロ(停車)になってから所定期間経過した場合の制御を説明した。第8実施形態の場合は、自動制動力制御中の所定の速度条件として、車速が所定速度以下になったことを制御条件とする例を説明する。
ハイドロブレーキシステム200が自動制動力制御を実行しているときの液圧状態は、図19で示したので、ここでの説明は省略する。
前述したように、長時間BH制御が継続すると、駆動している各制御弁の発熱や駆動電力の消耗等の原因になり好ましくない。そのため、自動制動力制御においては、停車後速やかに電動パーキングブレーキ装置による制動に切り替えることが望ましい。そこで、第8実施形態においては、車両停止前に4輪の液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御に移行させて、停車直後に電動パーキングブレーキ装置による制動に切り替えることにより、制動輪数の変化や制動方式の変化に起因する切り替えショック(振動)が発生しないようにしている。また、自動制動力制御中でも停車直前であればブレーキペダル206の操作フィーリングが改善できるようにしている。
ECU202は、自動制動力制御中に車速が例えば10km/h以下になった場合、4輪の液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置の装着輪(後輪2輪)の液圧制動力制御に移行を開始する。具体的には、図25に示すように、ECU202は、図19の液圧状態から前輪側のABS減圧弁234FL、234FRを例えば所定周期で断続的に開弁し、ホイールシリンダ252FL,252FRに蓄積されていた作動液をリターン経路254を介してリザーバ210に断続的に戻す。同時に、ECU202は、図26に示すように、ABS減圧弁234FL、234FRaの開弁周期と逆周期、つまりABS減圧弁234FL、234FRが閉弁しているタイミングで、分離弁224閉弁すると共にリニア制御弁222を開弁制御して、アキュムレータ214からの液圧をホイールシリンダ252RR,252RFに断続的に追加導入して増圧する。つまり、段階的に全車輪に対する液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置の装着輪に対する液圧制動力制御へ移行させる。ここで、ホイールシリンダ252FL、252FRの減圧とホイールシリンダ252RF、252RRの増圧を逆位相で断続的に行うことにより、自動制動力制御で走行中の前後輪の制動力バランスが急激に変化することが抑制され、スムーズに4輪から2輪への液圧制動制御の移行が実現できる。
このように、車両全体の制動力としては、全車輪で制動していたときと同じまま、自動制動力制御としては、全車輪(4輪)に対する液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御へ移行する。したがって、車両停止後所定期間(例えば3分)が経過して液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置によるパーキング制動に切り替える場合、制動輪数が変化しないので(2輪から2輪)、制動輪数の変化に起因する切り替えショック(振動)が発生することが防止できる。また、4輪制動から2輪制動への移行は、液圧制動間の移行で制動方式自体の変化ではないので、切り替えに起因する切り替えショック(振動)は抑制される。
なお、第8実施例においても4輪液圧制動力制御から2輪の液圧制動力制御に移行するので、例えば、この状態でブレーキペダル206が踏み込まれてもマスタシリンダハイドロブースタ208で発生する液圧はホイールシリンダ252FL,252FRに導入可能となる。その結果、もしブレーキペダル206が踏み込まれてもブレーキペダル206がストロークし難い等の違和感を軽減できる。これらの効果は第3実施形態と同様である。
なお、ハイドロブレーキシステム200においてもブレーキシステム10を用いて説明した第4実施形態、第5実施形態の内容を適用可能であり、同様の効果を得ることができる。
上述した各実施形態では、自動制動力制御を行うブレーキシステム10、ハイドロブレーキシステム200をブレーキシステムの一例として示したが、4輪の液圧制動力制御から電動パーキングブレーキ装置の装着輪のみに対する液圧制動力制御に移行させ、その後電動パーキングブレーキ装置に切り替えるシステムであれば適用可能であり、同様の効果を得ることができる。
また、上述した各実施形態では、4輪車両を例として説明したが、車両仕様上6輪車両や8輪車両、その他多数輪車両に上述した各実施形態の技術は適用可能であり、同様の効果を得ることができる。また、上述した各実施形態では、電動パーキングブレーキ装置が装着される車輪を後輪2輪とする場合を説明したが、車両の仕様によって、電動パーキングブレーキ装置の装着輪は適宜選択可能であり、前輪に装着してもよい。また、電動パーキングブレーキ装置の装着輪数は、2輪に限らす例えば1輪でもよい。また、全車輪数が4輪以上の場合、例えば6輪や8輪等の場合は、電動パーキングブレーキ装置を3輪以上としてもよく、上述した各実施形態と同様に効果を得ることができる。
また、上述した各実施形態では、電動パーキングブレーキ装置として、ピストン110内のロックナット120を電動アクチュエータ(電動モータ102、減速機116、スクリューシャフト118等の組合せで構成)で作動させて、ブレーキパッド106a、106bでディスクロータ104を挟持する例を示したが種々の構造の電動パーキングブレーキ装置が利用できる。例えば、電動モータによりワイヤーを巻き上げることにより一対のブレーキパッドでディスクロータを挟持するタイプの電動パーキングブレーキ装置を採用してもよく、上述した各実施形態と同様に効果を得ることができる。さらに、上述した各実施形態では、電動パーキングブレーキ装置一体型のディスクブレーキユニットを示したが、電動パーキングブレーキ装置とディスクブレーキ装置とが別々に設けられてもよく、上述した各実施形態と同様に効果を得ることができる。
以上、本発明を上述の実施形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、実施形態や変形例の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を実施形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれうる。