JP5252183B2 - 動力伝達チェーンおよびこれを備える動力伝達装置 - Google Patents
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Description
動力伝達チェーンの直線領域において、一対のピンの互いの接触部は、チェーン径方向の内側寄りに位置している。このため、一対のピン間に作用する荷重は、一対のピンのうちのチェーン径方向の内側に作用することとなり、その結果、一方のピンが、貫通孔内で回転(自転)しようとする。その結果、ピンがリンクに対して滑り、フレッチングが生じてしまう。
R2<R1<R3
また、本発明において、上記チェーン幅方向から見たときに、上記第1の動力伝達部材は、上記平坦部に連なる湾曲状の隅部(40)を有し、上記隅部の曲率半径R1が、第2の動力伝達部材の対応する隅部(47)の曲率半径R’に対し下記の式を満たすようにされている場合がある(請求項3)。
この場合、第1の動力伝達部材の隅部の曲率半径R1と、第2の動力伝達部材の対応する隅部の曲率半径R’とを概ね同じ値にしている。これにより、リンクのうち、第1の動力伝達部材の隅部を受ける部分の形状と、第2の動力伝達部材の隅部を受ける部分の形状とを概ね同じにできる。その結果、リンクのうち、第1の動力伝達部材の隅部を受ける部分と、第2の動力伝達部材の隅部を受ける部分のそれぞれの応力集中係数を概ね同じにでき、これらの部分の何れかに応力が集中することを防止でき、リンク内の負荷の平準化を通じてリンクの耐久性をより向上できる。
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施の形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
図1は、本発明の一実施の形態に係る動力伝達チェーンを備える動力伝達装置としてのチェーン式無段変速機(以下では、単に無段変速機ともいう)の要部構成を模式的に示す斜視図である。図1を参照して、無段変速機100は、自動車等の車両に搭載されるものであり、第1のプーリとしての金属(構造用鋼等)製のドライブプーリ60と、第2のプーリとしての金属(構造用鋼等)製のドリブンプーリ70と、これらの両プーリ60,70間に巻き掛けられた無端状の動力伝達チェーン1(以下では、単にチェーンともいう)とを備えている。なお、図1中のチェーン1は、理解を容易にするために一部断面を示している。
ドリブンプーリ70の可動シーブ72には、ドライブプーリ60の可動シーブ63と同様に油圧アクチュエータ(図示せず)が接続されており、変速時に、この可動シーブ72を移動させることにより溝幅を変化させるようになっている。それにより、チェーン1を移動させて、プーリ70のチェーン1に関する有効半径(以下、プーリ70の有効半径ともいう)を変更できるようになっている。
前端部5および後端部6には、一対の貫通孔の一方としての前貫通孔9、および一対の貫通孔の他方としての後貫通孔10がそれぞれ形成されている。中間部7は、前貫通孔9および後貫通孔10間を仕切る柱部8を有している。
各リンクユニット51,52,53,…のリンク2はそれぞれ、対応する連結部材50を用いて、対応するリンクユニット51,52,53,…のリンク2と屈曲可能に連結されている。
第1のピン3は、チェーン幅方向Wに延びる長尺の第1の動力伝達部材である。第1のピン3の周面11は、滑らかな面に形成されており、チェーン進行方向Xの前方を向く対向部としての前部12と、前部12に対する背面としての後部13と、直行方向Vに関する一端部14および他端部15とを有している。
前部12は、チェーン進行方向Xの前方に突出する湾曲状をなしている。具体的には、前部12のうち、チェーン1の直線領域における接触部A0に対して直交方向Vの一方V1側にある部分の断面形状は、インボリュート曲線を含んでいる。これにより、隣接するリンク2同士が屈曲する際に、対応する第1および第2のピン3,4が滑らかに転がり接触でき、リンク2同士の滑らかな屈曲を達成してチェーン1の弦振動的な運動を抑制できる。また、前部12のうち、チェーン1の直線領域における接触部A0に対して直交方向Vの他方V2側にある部分の断面形状は、滑らかな湾曲線とされている。
図2および図4を参照して、これらの端面17のうちの接触領域19が、各プーリ60,70の対応するシーブ面62a,63a,72a,73aに潤滑油膜を介して動力伝達可能に係合する。
図3および図4を参照して、第2のピン4(ストリップ、またはインターピースともいう)は、第1のピン3と同様の材料により形成された、チェーン幅方向Wに延びる長尺の第2の動力伝達部材である。第2のピン4は、その一対の端部が上記各プーリのシーブ面に接触しないように、第1のピン3よりも短く形成されている。この第2のピン4は、直交方向Vに対称な形状に形成されている。
図5は、屈曲角θが正側の許容屈曲角θmaxであるときのチェーン屈曲領域の側面図である。図6は、屈曲角θが負側の許容屈曲角θminであるときのチェーン屈曲領域の側面図である。図5または図6を参照して説明するときは、チェーン1の屈曲領域をチェーン幅方向Wから見た状態を基準として説明する。
図5を参照して、チェーン1の屈曲領域の、チェーン進行方向Xに相隣接するリンク2は、互いに所定の屈曲角θをなして屈曲している。屈曲角θは、第1の平面F1と、第2の平面F2とがなす角として定義される。
第2の平面F2は、上記リンク2aとはチェーン進行方向Xに隣り合う他のリンク2bの各貫通孔9,10のそれぞれに挿通された、一対の第1のピン3b,3cのそれぞれの接触中心点Eを含み、且つチェーン幅方向Wと平行な平面をいう。
図7は、図4の要部の拡大図である。図7を参照して説明するときは、図4を参照して説明するときと同様に、チェーン直線領域をチェーン幅方向Wから見たときを基準として説明する。
図5に示すように、屈曲角θが正側の許容屈曲角θmaxにあるとき、一方の凸部34のうち、直交方向Vの他方V2側の斜面37が、第1のピン3の後部13の平坦部18に当接する。また、他方の凸部35のうち、直交方向Vの他方V2側の斜面39が、第2のピン4に当接する。これにより、チェーン1のそれ以上の正側への屈曲が規制される。
また、チェーン直線領域をチェーン幅方向Wから見て、リンク2の前貫通孔9内における接触部A0、および後貫通孔10内における接触部A0の双方を通過し、且つチェーン進行方向Xに延びる仮想線L2が規定されている。この仮想線L2が、第1のピン3の平坦部18と交差することにより、平坦部18上に交点P2が形成されている。この交点P2は、傾斜方向Dに関して、交点P0と、平坦部18のうちの直交方向Vの他方V2側の一端P1との間に形成されている。
0.1・h1≦h2…(1)
すなわち、傾斜方向Dに関して、交点P2から平坦部18の一端P1までの距離h2は、交点P0と交点P2との間の距離h1の10%以上に設定されている。
なお、第1のピン3が所定の回転方向Jに自転しようとしたときに、平坦部18がリンク2に受けられる長さを傾斜方向Dに関してより長くするという観点から、0.5・h1≦h2であることが好ましく、h1≦h2であることがより好ましい。本実施の形態においてはh1≒h2とされている。
隅部40は、所定の曲率半径R1を有する円弧面形状に形成されており、直交方向Vに関して、第1のピン3の他端部15のうちの最も他方V2側の部分を構成している。この隅部40は、リンク2の後貫通孔10の被圧接部31に当接しており、この被圧接部31を直交方向Vの他方V2側に押圧している。これにより、隅部40と被圧接部31との相対移動が規制されている。
平坦部に連なる部分43は、第1および第2の平面K1,K2間に区画されている。第1および第2の平面K1,K2は、それぞれ、平坦部に連なる部分43の曲率中心線M1を含む平面であって、チェーン幅方向Wとは平行な平面である。平坦部に連なる部分43の曲率中心線M1は、例えば、上記仮想線L2に対して直交方向Vの他方V2側に位置しており、第1のピン3を貫通している。第1および第2の平面K1,K2がなす角度N1(チェーン幅方向Wから見て、挟角)は、例えば、概ね18°に設定されている。第1の平面K1は、平坦部18の一端P1に直交しており、且つ平坦部に連なる部分43の一端43aと直交している。
R2<R1<R3…(2)
すなわち、隅部40、隅部に連なる部分42、および平坦部に連なる部分43のうち、平坦部に連なる部分43が最も扁平な形状をなしており、次いで、隅部40が扁平に近い形状をなしており、次いで、隅部に連なる部分42が扁平に近い形状をなしている。
h/2≦hb…(3)
すなわち、傾斜方向Dに関して、平坦部18の長さhbは、第1のピン3の全高hの半分以上とされている。また、傾斜方向Dに関して、平坦部18は、第1のピン3のうちの概ね中央に配置されている。これにより、傾斜方向Dに関する平坦部18の長さhbを十分に長くでき、平坦部18がリンク2の後貫通孔10の周縁部44に受けられる面積をより大きくできる。
図5を参照して、また、屈曲角θが正の値をとるときのチェーン屈曲領域において、接触部Aが形成されている位置での、第1のピン3の前部12の接線面S1に直交する法線面S2が、第1のピン3の平坦部18と交差している。
再び図7を参照して、第2のピン4の一端部23および他端部24には、それぞれ、隅部46,47が設けられている。隅部46は、第2のピン4の一端部23のうちの、直交方向Vに関する最も一方V1側を構成している。隅部47は、第2のピン4の他端部24のうちの、直交方向Vに関する最も他方V2側を構成している。
隅部46は、単一の曲率半径R’を有する円弧面に形成されている。この曲率半径R’は、第2のピン4の一端部23の曲率半径のうちで最も大きい値とされている。隅部47は、単一の曲率半径R’を有する円弧面に形成されている。この曲率半径R’は、第2のピン4の他端部24の曲率半径のうちで最も大きい値とされている。
互いに対応する隅部としての、第2のピン4の他端部24の隅部47と、第1のピン3の他端部15の隅部40とについて、それぞれの曲率半径R’,R1は、下記の式(4)を満たすようにされている。
すなわち、第1のピン3の他端部15の隅部40の曲率半径R1は、第2のピン4の他端部24の隅部47の曲率半径R’の、90%〜110%の範囲に設定されている。このように、上記曲率半径R1を、上記曲率半径R’と概ね同じ値に設定することにより、第1のピン3の隅部40を受ける被圧接部31における応力集中係数と、第2のピン4の隅部47を受ける被圧接部29における応力集中係数とを、概ね等しくでき、その結果、これらの被圧接部31,29の何れかにのみ大きな応力が生じることを防止できる。
また、チェーン直線領域において、第1のピン3の接触部A0に第2のピン4からの荷重Gが作用すると、第1のピン3は、傾斜方向Dに関する平坦部18の他端側を支点にして、リンク2に対して回転(自転)しようとする。しかしながら、平坦部18のうち、交点P2よりも一端P1側に位置している部分を、傾斜方向Dに十分に長くしている結果、平坦部18とリンク2との係合により、第1のピン3の自転を確実に規制できる。これにより、第1のピン3がリンク2に対して滑ることを確実に抑制でき、フレッチングの発生を抑制できる。
また、リンク2の後貫通孔10内において、第1のピン3の自転が抑制されている結果、リンク2に、チェーン進行方向Xに沿う引張力が作用したときに、リンク2が塑性変形を開始するときの引張力と、リンク2が破断するときの引張力との差を極めて大きくできる。リンク2に引張力を負荷して塑性変形させることにより予張力を与えるときに、十分な引張力をもって各リンク2を確実に塑性変形でき、各リンク2に予張力を確実に与えることができる。各リンク2の疲労強度をより増すことができる。
さらに、第1のピン3の隅部40の曲率半径R1と、第2のピン4の他端部24の対応する隅部47の曲率半径R’とを概ね同じ値にしている。これにより、リンク2のうち、第1のピン3の隅部40を受ける被圧接部31の形状と、第2のピン4の隅部47を受ける被圧接部29の形状とを概ね同じにできる。その結果、リンク2のうち、各上記被圧接部31,29のそれぞれの応力集中係数を概ね同じにでき、これらの被圧接部31,29の何れかに応力が集中することを防止でき、リンク2内の負荷の平準化を通じて、リンク2の耐久性をより向上できる。
これにより、上記任意の屈曲角θにおいて、第1および第2のピン3,4間で荷重が伝達されているときに、第1のピン3に作用する荷重Gを、リンク2のうち平坦部18に面している受け部45で受けることができる。これにより、平坦部18の広い範囲からリンク2に荷重を伝達できるので、リンク2に生じる応力のピーク値を低くでき、リンク2の負荷の低減を通じてリンク2の耐久性をより確実に向上できる。
また、平坦部に連なる部分43および隅部40のそれぞれの曲率半径R3,R1を十分に大きくしている結果、第1のピン3からリンク2に作用する力の大部分を、これら平坦部に連なる部分43および隅部40で受けることから、隅部に連なる部分42からリンク2に作用する力は小さく、この部分42の曲率半径R2は小さくてもよい。
本発明は、以上の実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、第1のピン3の他端部15の接続部41のうち、隅部に連なる部分42を廃止してもよい。この場合、接続部41の平坦部に連なる部分43の他端43bが隅部40の一端40aに接続される。
また、ドライブプーリ60およびドリブンプーリ70の双方の溝幅が変動する態様に限定されるものではなく、何れか一方の溝幅のみが変動し、他方が変動しない固定幅にした態様であっても良い。さらに、上記では溝幅が連続的(無段階)に変動する態様について説明したが、段階的に変動したり、固定式(無変速)である等の他の動力伝達装置に適用しても良い。
第1のピンのうちのチェーン直線領域における接触部に、チェーン進行方向の後方を向く引張力を作用させるとともに、第2のピンのうちの直線領域における接触部に、チェーン進行方向の前方を向く引張力を作用させた。第1のピンに作用する引張力の値と第2のピンに作用する引張力の値とは、互いに等しくした。
なお、上記の引張力を負荷するシミュレーションは、第1のピンに関するh2/h1の値を適宜変更しながら複数回行った。
一方、h2/h1が0.1であるときには、第1の引張力と、第2の引張力との差Δが明確に表れた。この差Δは、h2/h1の値が0.1から増すにしたがい、連続的に増した。そして、h2/h1が0.5以上のときには、上記の差Δは、h2/h1の値に拘らず、概ね一定となった。これは、リンクの後貫通孔に圧入固定された第1のピンが、リンクに対して迎え角が小さくなるように回転(自転)することを確実に抑制できているためと考えられる。
以上より、h2/h1≧0.1、すなわち、0.1・h1≦h2とすることにより、第1の引張力と、第2の引張力との差Δを確実に大きくできることが実証された。さらに、h2/h1≧0.5、すなわち、0.5・h1≦h2とすることにより、第1の引張力と、第2の引張力との差Δを極めて大きくできることが実証された。
Claims (5)
- チェーン進行方向に並ぶ複数のリンクと、チェーン進行方向とは直交するチェーン幅方向に延びて上記リンクを互いに連結する複数の連結部材とを備え、
上記連結部材は、相対向する対向部を有する第1および第2の動力伝達部材を含み、
各上記対向部は、リンク間の屈曲角の変動に伴い変位する接触部Aで互いに転がり摺動接触し、
第1の動力伝達部材には、上記対向部に対する背面に平坦部が設けられ、
チェーン直線領域をチェーン幅方向から見たときに、上記平坦部はチェーン進行方向に対して傾斜する傾斜方向に沿って傾斜しており、
チェーン直線領域をチェーン幅方向から見たときに、上記傾斜方向に沿っての第1の動力伝達部材の全高の中央位置を通り且つ上記傾斜方向と直交する仮想線L1が、上記平坦部と交差することにより、交点P0が形成され、
チェーン直線領域をチェーン幅方向から見たときに、上記接触部Aを通過し且つチェーン進行方向に延びる仮想線L2が、上記交点P0と平坦部の一端P1との間において平坦部と交差することにより、交点P2が形成され、
傾斜方向に関して、上記交点P0と交点P2との距離をh1とし、上記交点P2と平坦部の一端P1との距離をh2としたときに、式0.1・h1≦h2が満たされ、
上記第1の動力伝達部材は、湾曲状の隅部と、平坦部および隅部を互いに接続する湾曲状の接続部とを含み、
上記接続部は、平坦部に連なる部分と、隅部に連なる部分とを有し、
隅部の曲率半径R1、隅部に連なる部分の曲率半径R2および平坦部に連なる部分の曲率半径R3が、下記の関係を満たす動力伝達チェーン。
R2<R1<R3 - 請求項1において、0.5・h1≦h2である動力伝達チェーン。
- 請求項1または2において、上記チェーン幅方向から見たときに、上記第1の動力伝達部材は、上記平坦部に連なる湾曲状の隅部を有し、
上記隅部の曲率半径R1が、第2の動力伝達部材の対応する隅部の曲率半径R’に対し下記の式を満たすようにされている動力伝達チェーン。
0.9・R’≦R1≦1.1・R’ - 請求項1,2または3において、上記チェーン幅方向から見たときに、上記第1の動力伝達部材の対向部は湾曲状をなし、
上記屈曲角は、所定の角度範囲内に制限されており、上記所定の角度範囲内の任意の屈曲角において、接触部が形成されている位置での上記第1の動力伝達部材の対向部の接線面に直交する法線面が、前記平坦部と交差するようにされている動力伝達チェーン。 - 相対向する一対の円錐面状のシーブ面をそれぞれ有する第1および第2のプーリと、これらのプーリ間に巻き掛けられ、シーブ面に係合して動力を伝達する請求項1〜4の何れか1項に記載の動力伝達チェーンとを備えることを特徴とする動力伝達装置。
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