JP4737510B2 - 動力伝達チェーンおよびこれを備える動力伝達装置 - Google Patents
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しかるに、動力伝達チェーンの直線領域において、リンクが正規の屈曲方向の反対の方向に(いわゆる負側)に屈曲する場合がある。負側に屈曲した場合の一対の対偶部材の接触領域のなす形状はインボリュート曲線ではなく、円弧状であるため、一対の対偶部材の挙動が不安定となるおそれがあった。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、大きな伝達トルクと優れた耐久性を達成することができ且つ挙動の安定した動力伝達チェーンおよびこれを用いた動力伝達装置を提供することを目的とする。
また、リンク間が多少、負側に屈曲したとしも、上記所定の動力伝達部材と対偶部材との接触点の移動軌跡は、連続的なインボリュート曲線に沿うので、上記所定の動力伝達部材および対偶部材の挙動が不安定になることがなくチェーンに不用意な振動や騒音が発生することを防止することができる。
また、本発明において、各上記リンクは、チェーン進行方向の前後に並ぶ第1および第2の貫通孔をそれぞれ有し、各上記所定の動力伝達部材により連結されたリンクは、当該所定の動力伝達部材がその第1の貫通孔に遊嵌されたリンクと、当該所定の動力伝達部材がその第2の貫通孔に圧入固定されたリンクとを含む場合がある。この場合、上記所定の動力伝達部材をリンクに確実に保持させることができ、その結果、上記所定の動力伝達部材がリンクに対して不用意に動くことを防止して、振動や騒音の防止効果を高くすることができる。
図1は、本発明の一実施の形態に係る動力伝達チェーンを備える動力伝達装置としてのチェーン式無段変速機(以下では、単に無段変速機ともいう)の要部構成を模式的に示す一部破断斜視図である。
図1を参照して、本無段変速機100は自動車等の車両に搭載される。無段変速機100は、一対のプーリの一方としての第1のプーリである金属(構造用鋼等)製のドライブプーリ60と、一対のプーリの他方としての第2のプーリである金属(構造用鋼等)製のドリブンプーリ70と、これらの両プーリ60,70間に巻き掛けられた無端状の動力伝達チェーン1(以下では、単にチェーンともいう)とを備えている。
図2において、ドリブンプーリ70において、ドライブプーリ60と対応する参照符号を括弧内に示してある。そのドリブンプーリ70は、図1および図2に示すように、駆動輪( 図示せず)に動力伝達可能に連なる出力軸71に一体回転可能に取り付けられており、ドライブプーリ60と同様に、チェーン1を強圧で挟む溝を形成するための相対向する一対のシーブ面73a,72aをそれぞれ有する固定シーブ73および可動シーブ72を備えている。
上記の構成により、無段変速機100の減速比を最も高くする場合(アンダードライブ時)には、図3(A)に示すように、ドライブプーリ60の有効半径Rが最小値R1とされ、ドリブンプーリ70の有効半径Rが最大値R2とされる。
図4は、チェーン1の要部の断面図である。図5はチェーン1の直線領域におけるリンクおよび両ピン3,4の側面図である。図4および図5を参照して、チェーン1は、複数のリンク2と、これらのリンク2を互いに相対回転可能に連結する複数の連結部材200を備える。その連結部材200は、所定の動力伝達部材としての第1ピン3と、これと対をなす動力伝達部材兼対偶部材としての第2のピン4とを含む。対をなす第1および第2のピン3,4は、互いに転がり摺動接触するようになっている。
以下では、チェーン1の進行方向に沿う方向をチェーン進行方向Xといい、チェーン進行方向Xに直交し且つ第1および第2のピン3,4の長手方向に沿う方向をチェーン幅方向Wといい、チェーン進行方向Xおよびチェーン幅方向Wの双方に直交する方向を直交方向Vという。
前端部5および後端部6には、第1の貫通孔としての前貫通孔9、および第2の貫通孔としての後貫通孔10がそれぞれ形成されている。中間部7は、前貫通孔9および後貫通孔10間を仕切る柱部8を有している。この柱部8は、チェーン進行方向Xに所定の厚みを有している。なお、前貫通孔9と後貫通孔10とは、柱部8に設けられる溝を介して互いに連通していてもよく、この場合、リンク2の応力集中を緩和することができる。
リンク2を用いて、第1〜第3のリンク列51〜53が形成されている。具体的には、第1のリンク列51、第2のリンク列52および第3のリンク列53はそれぞれ、チェーン幅方向Wに並ぶ複数のリンク2を含んでいる。第1〜第3のリンク列51〜53のそれぞれにおいて、同一リンク列のリンク2は、チェーン進行方向Xの位置が互いに同じとなるように揃えられている。第1〜第3のリンク列51〜53は、チェーン進行方向Xに沿って並んで配置されている。
具体的には、第1のリンク列51のリンク2の前貫通孔9と、第2のリンク列52のリンク2の後貫通孔10とは、チェーン幅方向Wに並んで互いに対応しており、これらの貫通孔9,10を挿通する第1および第2のピン3,4によって、第1および第2のリンク列51,52のリンク2同士が相対回転可能に連結されている。
図4において、第1〜第3のリンク列51〜53は、それぞれ1つしか図示されていないが、チェーン進行方向Xに沿って第1〜第3のリンク列51〜53が繰り返すように配置されている。そして、チェーン進行方向Xに相隣接する2つのリンク列のリンク2同士が、対応する第1および第2のピン3,4によって順次に連結され、無端状をなすチェーン1が形成されている。
この周面11は、チェーン進行方向Xの前方を向く対向部としての前部12と、チェーン進行方向Xの後方を向く背部としての後部13と、直交方向Vに相対向する一対の端部としての一端部14および他端部15とを有している。
他端部15は、第1のピン3の周面11のうち、チェーン内周側(直交方向Vの他方)の端部を構成しており、チェーン内周側に向けて凸湾曲する曲面に形成されている。
図2を参照して、第1のピン3の長手方向(チェーン幅方向W)における一対の端部16は、チェーン幅方向Wの一対の端部に配置されるリンク2からチェーン幅方向Wにそれぞれ突出している。これら一対の端部16には、互いに対称な形状を有する一対の動力伝達面17がそれぞれ設けられている。
動力伝達面17は、接触中心点Cを中心とする接触領域としての接触楕円Zで上記対応するシーブ面62a,63a,72a,73aに接触するようになっている。接触楕円Zの中心である接触中心点Cは、動力伝達面17の頂部に設けられており、例えば、チェーン幅方向Wからみたときの動力伝達面17の図心と概ね一致している。
同様に、ドリブンプーリ70の有効半径Rは、ドリブンプーリ70に挟持された第1のピン3の動力伝達面17の接触中心点Cと、ドリブンプーリ70の中心軸線A2との間のプーリ70の径方向の距離として定義される。
上記の構成により、第1のピン3は、各プーリ60,70の対応するシーブ面62a,63a,72a,73a間に挟持され、これにより、第1のピン3と各プーリ60,70との間で動力が伝達される。第1のピン3はその動力伝達面17によって直接動力伝達に寄与するため、例えば、軸受用鋼(SUJ2)等の高強度耐摩耗材料で形成されている。
第2のピン4は、対をなす第1のピン3のチェーン進行方向Xの前方に配置されている。また、第2のピン4は、上記各プーリのシーブ面に接触しないように、第1のピン3よりもわずかに短く形成されている。チェーン進行方向Xに関して、第2のピン4は、第1のピン3よりも薄肉に形成されている。
後部19は、チェーン進行方向Xと直交する平坦面に形成されている。この後部19は、対をなす第1のピン3の前部12と対向しており、当該リンク2と接触点Tで転がり摺動接触している。
一端部21は、第2のピン4の周面18のうち、チェーン外周側の端部を構成しており、チェーン外周側に向けて凸湾曲する曲面に形成されている。
他端部22は、第2のピン4の周面18のうち、チェーン内周側の端部を構成しており、チェーン内周側に向けて凸湾曲する曲面に形成されている。
チェーン1は、所定の連結ピッチSを有している。連結ピッチSとは、チェーン1の直線領域のリンク2の、隣り合う第1のピン3間の距離をいう。具体的には、チェーン1の直線領域のリンク2の前貫通孔9内の第1および第2のピン3,4の互いの接触点T1と、当該リンク2の後貫通孔10内の第1および第2のピン3,4の互いの接触点T1との間の、チェーン進行方向Xの距離をいう。本実施の形態では、連結ピッチSは、例えば、8mmに設定されている。
また、相隣接するリンク2,2が正規の屈曲方向Q1と反対方向Q2に(すなわち負側に)屈曲したとしも、このときの接触点Tの移動軌跡は、連続的なインボリュート曲線に沿うので、第1および第2のピン3,4の挙動が不安定になることがなくチェーン1に異常な振動や騒音が発生することを防止することができる。この点からもチェーン1の寿命を長くすることができる。
また、本実施の形態のインボリュート曲線は、例えば、下記のようにして得ることができる。すなわち、図7(a)を参照して、相隣接するリンク2,2が正規の屈曲方向Q1に屈曲されるときに接触点Tの好ましい移動軌跡を達成できる、基準となる一次インボリュート曲線G1(このインボリュート曲線G1の起点F1はチェーン1の直線領域P1における接触点T1の位置に一致する。)があるとすると、相隣接するリンク2,2間に所定の屈曲角U1(例えばU1=5°)が生ずるときの接触点Taの位置を中心として、上記所定の屈曲角U1に相当する角度U1だけ、上記の一次インボリュート曲線G1を時計回り方向(正側)に回転させて二次インボリュート曲線G2を得る。二次インボリュート曲線G2の起点F11は一次インボリュート曲線G1の起点F1よりも、図7(a)において左方に変位する。
上記は、インボリュート曲線の基礎円の半径Rbを変更しない例に則して説明したが、相隣接するリンク2,2が正規の屈曲方向Q1に屈曲されるときの接触点の移動軌跡に相当するインボリュート曲線G3の部分を上記の好ましい曲線である一次インボリュート曲線G1に略一致させようとすると、インボリュート曲線G3の基礎円の半径Rb3は、一次インボリュート曲線G1の基礎円の半径Rb1よりも小さくする必要がある。
0.3・R1≦Rb≦2.5・R1
図8は本発明の別の実施の形態を示している。図8を参照して本実施の形態が図6の実施の形態と異なるのは、第2のピン4を廃止し、連結部材を所定の動力伝達部材としての第1のピン3のみで構成した点にある。本実施の形態では、その第1のピン3と転がり摺動接触する対偶部材はリンク2Aであり、リンク2Aの前貫通孔9Aに遊嵌された第1のピン3の前部12は、その前貫通孔9Aの内周面の接触部40と転がり摺動接触する。その転がり摺動の接触点Tの軌跡がインボリュート曲線を呈し、そのインボリュート曲線の起点F1が、チェーン1の直線領域P1における第1のピン3とリンク2Aの前貫通孔9Aの内周面との接触点T1よりもチェーン1の内周側にオフセットされている点については、図5の実施の形態と同様である。
Claims (4)
- チェーン進行方向に並ぶ複数のリンクと、
それらのリンクを互いに屈曲可能に連結する複数の連結部材とを備え、
各連結部材は、リンク又はリンクとの間に介在する部材の何れか一方からなる対偶部材に対して転がり摺動接触する所定の動力伝達部材を含み、
リンク間の屈曲に伴う上記所定の動力伝達部材と対偶部材との転がり摺動の接触点の移動軌跡はインボリュート曲線をなし、
そのインボリュート曲線の起点は、動力伝達チェーンの直線領域における上記所定の動力伝達部材と対偶部材との接触点よりも動力伝達チェーンの内周側にオフセットされていることを特徴とする動力伝達チェーン。 - 請求項1において、CVT用チェーンとして使用される際のチェーン屈曲部の最小半径をR1とし、インボリュート曲線の基礎円の半径をRbとしたときに、次式の関係を満たすことを特徴とする動力伝達チェーン。
0.3・R1≦Rb≦2.5・R1 - 請求項1又は2の何れか1項において、各上記リンクは、チェーン進行方向の前後に並ぶ第1および第2の貫通孔をそれぞれ有し、
各上記所定の動力伝達部材により連結されたリンクは、当該所定の動力伝達部材がその第1の貫通孔に遊嵌されたリンクと、当該所定の動力伝達部材がその第2の貫通孔に圧入固定されたリンクとを含むことを特徴とする動力伝達チェーン。 - 相対向する一対の円錐面状のシーブ面をそれぞれ有する一対のプーリと、これらのプーリ間に巻き掛けられ、シーブ面に接触して動力を伝達する請求項1,2又は3の何れか1項に記載の動力伝達チェーンとを備える動力伝達装置。
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