JP4737511B2 - 動力伝達チェーンおよびこれを備える動力伝達装置 - Google Patents
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特許文献1のチェーンの各リンクには、一対の貫通孔が形成されている。一方の貫通孔には、ピンが圧入固定されているとともにインターピースが遊嵌されており、他方の貫通孔にはピンが遊嵌されているとともにインターピースが圧入固定されている。これにより、ピンがプーリに接触する際、ピンをプーリに対してほとんど回転しないようにして、摩擦損失を少なくして伝動効率を向上している。
本発明によれば、第1の動力伝達部材がプーリに接触して動力を伝達する際、第1の動力伝達部材を上記プーリに対してほとんど回転しないようにでき、第1の動力伝達部材とプーリとの間の摩擦損失を低減して高い伝動効率を達成できる。また、接触部の移動軌跡の曲線に変化率増大領域を設けることで、第1の動力伝達部材がプーリに係合する前後において、第1の動力伝達部材および対応するリンクがプーリの径方向に揺動することを抑制でき、動力伝達チェーンに弦振動的な微小振動が発生することを抑制し、騒音を低減することができる。さらに、動力伝達チェーンの直線領域における接触部の位置を、第2の動力伝達部材の中央部の近傍に設定している。これにより、第1および第2の動力伝達部材からリンクに作用する荷重が、直交方向に関して偏って作用することを抑制でき、リンクの応力が局所的に高くなることを抑制できる。その結果、動力伝達チェーンの駆動時にリンクに生じる繰返し応力の振幅値が局所的に高くなることを抑制してリンクの耐久性(疲労寿命)を向上でき、その結果、動力伝達チェーンの耐久性を向上することができる。
また、本発明において、上記所定の曲線は、インボリュート曲線(INV)を含む場合がある。この場合、第1の動力伝達部材がプーリに係合する前後において、第1の動力伝達部材および対応するリンクがプーリの径方向に揺動することを、より良好に抑制でき、その結果、騒音をより低減することができる。
図1は、本発明の一実施の形態に係る動力伝達チェーンを備える動力伝達装置としてのチェーン式無段変速機(以下では、単に無段変速機ともいう)の要部構成を模式的に示す斜視図である。図1を参照して、無段変速機100は、自動車等の車両に搭載されるものであり、第1のプーリとしての金属(構造用鋼等)製のドライブプーリ60と、第2のプーリとしての金属(構造用鋼等)製のドリブンプーリ70と、これらの両プーリ60,70間に巻き掛けられた無端状の動力伝達チェーン1(以下では、単にチェーンともいう)とを備えている。なお、図1中のチェーン1は、理解を容易にするために一部断面を示している。
ドリブンプーリ70の可動シーブ72には、ドライブプーリ60の可動シーブ63と同様に油圧アクチュエータ(図示せず)が接続されており、変速時にこの可動シーブ72を移動させることにより溝幅を変化させるようになっている。それにより、チェーン1を移動させて、プーリ70のチェーン1に関する有効半径Rを変更できるようになっている。
なお、以下では、図4を参照して説明するときは、チェーン1の直線領域を基準として説明し、図5を参照して説明するときは、チェーン1の屈曲領域を基準として説明する。
各連結部材200は、第1の動力伝達部材としての第1のピン3と、これと対をなす第2の動力伝達部材としての第2のピン4とを含んでいる。第1のピン3は、対をなす第2のピン4に対して、リンク2間の屈曲に伴い転がり摺動接触するようになっている。
また、以下では、チェーン1の進行方向に沿う方向をチェーン進行方向Xといい、チェーン進行方向Xに直交し且つ第1および第2のピン3,4の長手方向に沿う方向をチェーン幅方向Wといい、チェーン進行方向Xおよびチェーン幅方向Wの双方に直交する方向を直交方向Vという。
前端部5および後端部6には、第1の貫通孔としての前貫通孔9、および第2の貫通孔としての後貫通孔10がそれぞれ形成されている。中間部7は、前貫通孔9および後貫通孔10間を仕切る柱部8を有している。各リンク2における周縁部は、滑らかな曲線に形成されており、応力集中の生じ難い形状とされている。
具体的には、第1のリンク列51のリンク2の前貫通孔9と、第2のリンク列52のリンク2の後貫通孔10とは、チェーン幅方向Wに並んで互いに対応しており、これらの貫通孔9,10を挿通する連結部材200によって、第1および第2のリンク列51,52のリンク2同士がチェーン進行方向Xに屈曲可能に連結されている。
図3において、第1〜第3のリンク列51〜53は、それぞれ1つしか図示されていないが、チェーン進行方向Xに沿って第1〜第3のリンク列51〜53が繰り返すように配置されている。そして、チェーン進行方向Xに互いに隣接する2つのリンク列のリンク2同士が、対応する連結部材200によって順次に連結され、無端状をなすチェーン1が形成されている。
この周面11は、滑らかな面に形成されており、チェーン進行方向Xの前方を向く対向部としての前部12と、チェーン進行方向Xの後方を向く背部としての後部13と、直交方向Vに相対向する一対の端部としての一端部14および他端部15とを有している。
後部13は、平坦面に形成されている。この平坦面は、チェーン進行方向Xと直交する所定の平面A(図4において、紙面に直交する平面)に対して、所定の傾斜角B(迎え角を有しており、チェーン内周側を向いている。
他端部15は、第1のピン3の周面11のうち、チェーン内周側(直交方向Vの他方)の端部を構成しており、チェーン内周側に向けて凸湾曲する曲面に形成されている。第1のピン3の周方向に関する他端部15の中間部は、第1のピン3のチェーン内周側の頂部24を含んでいる。
第1のピン3の長手方向(チェーン幅方向W)に関する一対の端部16は、チェーン幅方向Wの一対の端部に配置されるリンク2からチェーン幅方向Wにそれぞれ突出している。これら一対の端部16のそれぞれに、プーリ係合用の動力伝達部としての端面17が設けられている。
第1のピン3は、上記対応するシーブ面62a,63a,72a,73a間に挟持され、これにより、第1のピン3と各プーリ60,70との間で動力が伝達される。第1のピン3は、その端面17が直接動力伝達に寄与するため、例えば、軸受用鋼(SUJ2)等の高強度耐摩耗材料で形成されている。
図3および図4を参照して、第2のピン4(ストリップ、またはインターピースともいう)は、第1のピン3と同様の材料により形成された、チェーン幅方向Wに延びる長尺(板状)の部材である。
図4の前貫通孔9周辺の拡大図である図6を参照して、チェーン1の直線領域において、チェーン進行方向Xに関する第2のピン4の厚みD2は、チェーン進行方向Xに関する第1のピン3の厚みD1よりも、薄く(D2<D1)されている。
後部19は、チェーン進行方向Xと直交する平坦面に形成されている。前述したように、この後部19は対をなす第1のピン3の前部12と対向している。
一端部21は、第2のピン4の周面18のうち、チェーン外周側の端部を構成しており、チェーン外周側に向けて凸湾曲する曲面に形成されている。第2のピン4の周方向に関する一端部21の略中央部が、第2のピン4のチェーン外周側の頂部25とされている。
他端部22は、第2のピン4の周面18のうち、チェーン内周側の端部を構成しており、チェーン内周側に向けて凸湾曲する曲面に形成されている。第2のピン4の周方向に関する他端部22の略中央部が、第2のピン4のチェーン内周側の頂部26とされている。
リンク2の前貫通孔9における、第1のピン3の遊嵌および第2のピン4の圧入固定は、以下のようにされている。すなわち、図6を参照して、リンク2の前貫通孔9の周縁部27は、第2のピン4が圧入固定される被圧入部28と、第1のピン3が遊嵌される被遊嵌部29とを含んでいる。
図4の後貫通孔10周辺の拡大図である図7を参照して、リンク2の後貫通孔10における、第1のピン3の圧入固定および第2のピン4の遊嵌は、以下のようにされている。すなわち、リンク2の後貫通孔10の周縁部32は、第1のピン3が圧入固定される被圧入部33と、第2のピン4が遊嵌される被遊嵌部34とを含んでいる。
図5を参照して、上記の構成により、第1のピン3の前部12と対をなす第2のピン4の後部19とは、チェーン進行方向Xに隣接するリンク2間の屈曲に伴って、互いに転がり摺動接触し、屈曲量(屈曲角)の増大に伴い、接触部Tがチェーン外周側に変位する。
第1の平面E1は、屈曲領域の一のリンク2aの各貫通孔9,10のそれぞれに挿通された、第1のピン3a,3bのそれぞれの接触中心点Cを含み、且つチェーン幅方向Wと平行な平面をいう。
チェーン1は、いわゆるインボリュートタイプのチェーンとされており、チェーン幅方向Wからみたときの、隣接するリンク2間の屈曲に伴う接触部Tの移動軌跡が、対応する第1のピン3を基準として、所定の曲線としてのインボリュート曲線INVを形成するようにされている。
第1のピン3の前部12は、対をなす第2のピン4の後部19と接触部Tで接触する曲面部37と、延設部38とを含んでいる。曲面部37のチェーン内周側に延設部38が配置されている。
なお、起部Fの位置と接触部T1の位置とは、一致してなくてもよい。
中心Mは、チェーン進行方向Xに直交し且つ第1のピン3の接触部T1を含む平面上において、当該接触部T1よりもチェーン内周側に位置している。基礎円Kと起部Fとは、交差している。
すなわち、インボリュート曲線INVは、リンク2間の屈曲角φ(図5参照)の増大に応じて、当該インボリュート曲線INV上における接触部Tの変位量の変化率が増大する変化率増大領域を、全域に有している。
具体的には、チェーン1の直線領域における接触部T1は、直交方向Vに関して、対応する第2のピン4の中央部39から、チェーン内周側またはチェーン外周側に向けて、当該第2のピン4の全長N2の35%以内の範囲に配置されている。なお、直交方向Vに関する第2のピン4の全長N2とは、第2のピン4の周面18の一対の頂部25,26間の距離をいう。
本実施の形態において、直交方向Vに関する接触部T1の位置は、直交方向Vに関する対応する第2のピン4の中央部39と揃えられている。
第1のピン3と対をなす第2のピン4とは、直交方向Vの位置が揃えられており、何れか一方が直交方向Vに突出しないようにされている。直交方向Vに関する第1のピン3の前部12の略中央部が、チェーン進行方向Xに向けて張り出している。
このため、チェーン1の直線領域をチェーン幅方向Wからみたとき、第1のピン3と対をなす第2のピン4とは、接触部T1を作用点として、互いにチェーン進行方向Xに沿って押圧されている。これら第1および第2のピン3,4は、リンク2の対応する周縁部27,32にそれぞれ受けられる。
これにより、第1のピン3の各端面17が各プーリ60,70の対応するシーブ面62a,63a,72a,73aに接触して動力を伝達する際、対をなす第2のピン4が、上記第1のピン3に対して転がり摺動接触することにより、リンク2同士の屈曲が可能とされている。この際、対をなす第1および第2のピン3,4間において、互いの転がり接触成分が多くてすべり接触成分が極めて少なく、するとその結果、第1のピン3の各端面17を上記各プーリ60,70の対応するシーブ面62a,63a,72a,73aに対してほとんど回転しないようにでき、第1のピン3と各プーリ60,70との間の摩擦損失を低減して高い伝動効率を達成できる。
その結果、チェーン1の駆動時にリンク2に生じる繰返し応力の振幅値が局所的に大きくなることを抑制して、リンク2の耐久性(疲労寿命)を向上でき、その結果、チェーン1の耐久性を向上することができる。
ここで、第2のピン4の厚みD2を薄くすることにより、第2のピン4とリンク2の対応する周縁部27,32との接触面積が減少し、第2のピン4からリンク2に作用する圧力(面圧)、特にリンク2の前貫通孔9の被圧入部28に作用する圧力は高くなるが、リンク2の実用上の耐久性が十分確保されているため、実用上の耐久性を損なうことなく第2のピン4の厚みD2を十分に薄くできる。
なお、本実施の形態において、第1のピン3を基準とするその接触部Tの移動軌跡を、インボリュート曲線INV以外の曲線に形成してもよい。例えば、曲面部37の断面形状を、インボリュート曲線INVに一致する曲線以外の曲線に形成してもよい。このような曲線として、以下に示す曲線を例示することができる。すなわち、複数の曲率半径を有する曲線であって、チェーン内周側から外周側に向かうに連れて曲率半径が大きくなる領域を含む曲線を例示することができる。
図8は、本発明の別の実施の形態の要部の断面図である。以下では、図1〜図7に示す実施の形態と異なる点について説明し、同様の構成については図に同様の符号を付してその説明を省略する。
具体的には、接触部T1Aを、上記中央部39よりも、チェーン屈曲時のチェーン径方向の内側(チェーン内周側)に配置している。接触部T1Aは、直交方向Vに関して、第2のピン4の中央部39から当該第2のピン4の全長N2のたとえば10%だけ離隔した位置に配置されている。直交方向Vに関して、接触部T1Aと中央部39とは、距離Pだけ離隔している。
なお、接触部T1Aを、上記中央部39よりも、チェーン屈曲時のチェーン径方向の外側(チェーン外周側)に配置してもよい。
例えば、上記各実施の形態において、第1のピン3,3Aの前部12,12Aの形状と対をなす第2のピン4の後部19の形状とを入れ換えてもよい。また、第2のピン4が、各プーリ60,70に係合するようにされていてもよい。
さらに、第1のピンの一対の端部のそれぞれの近傍に、当該第1のピンの端面と同様の動力伝達部を有する部材を配置し、第1のピンと当該動力伝達面を有する部材とを含む動力伝達ブロックを設け、これを第1の動力伝達部材としてもよい。
また、ドライブプーリ60およびドリブンプーリ70の双方の溝幅が変動する態様に限定されるものではなく、何れか一方の溝幅のみが変動し、他方が変動しない固定幅にした態様であっても良い。さらに、上記では溝幅が連続的(無段階)に変動する態様について説明したが、段階的に変動したり、固定式(無変速)である等の他の動力伝達装置に適用しても良い。
実施例1は、チェーンの直線領域における第1および第2のピン間の接触部の位置が、直交方向に関して、当該第2のピンの中央部に揃えられている。
実施例2は、チェーンの直線領域における第1および第2のピン間の接触部の位置が、直交方向に関して、当該第2のピンの中央部から、当該第2のピンの全長の20%だけチェーン内周側にオフセットされている。
比較例1は、チェーンの直線領域における第1および第2のピン間の接触部の位置が、直交方向に関して、当該第2のピンの中央部から、当該第2のピンの全長の37.5%だけチェーン内周側にオフセットされている。
上記実施例1〜3および比較例1,2を用いて、疲労試験を行った。具体的には、実施例1〜3および比較例1,2のそれぞれに、直線領域のリンクに水平に張力を繰り返し負荷するという試験を行い、リンクが破断するまでの回数(繰返し数)を計測した。そして、実施例1に関する繰返し数と、実施例1,2,3および比較例1,2に関する繰返し数との比(寿命比)をそれぞれ求めた。結果を図9に示す。
一方、比較例1,2に関する寿命比は、それぞれ0.5未満であり、実施例1に関する疲労寿命の50%未満の疲労寿命となっている。
Claims (5)
- 複数のリンクと、これらのリンクを互いに屈曲可能に連結する複数の連結部材とを備える動力伝達チェーンにおいて、
各上記連結部材は、一対の端部のそれぞれにプーリ係合用の動力伝達部を有する第1の動力伝達部材と、第1の動力伝達部材と対をなす第2の動力伝達部材とを含み、
各リンクは、チェーン進行方向に並ぶ第1および第2の貫通孔を含み、
第1の貫通孔には、第1の動力伝達部材が相対移動可能に嵌め入れられているとともに第2の動力伝達部材が相対移動を規制されて嵌め入れられ、
第2の貫通孔には、第1の動力伝達部材が相対移動を規制されて嵌め入れられているとともに第2の動力伝達部材が相対移動可能に嵌め入れられ、
対をなす第1および第2の動力伝達部材は、相対向する対向部をそれぞれ有しており、
上記相対向する対向部は、リンク間の屈曲に伴って変位する接触部で互いに転がり摺動接触し、
リンク間の屈曲に伴う接触部の移動軌跡は所定の曲線を形成し、
上記所定の曲線は、リンク間の屈曲角の増大に応じて上記所定の曲線上における上記接触部の変位量の変化率が増大する変化率増大領域を含み、
動力伝達チェーンの直線領域における上記接触部は、チェーン進行方向およびチェーン幅方向の双方に直交する直交方向に関して、第2の動力伝達部材の中央部から当該第2の動力伝達部材の全長の35%以内の範囲に配置されていることを特徴とする動力伝達チェーン。 - 請求項1において、上記所定の曲線は、インボリュート曲線を含むことを特徴とする動力伝達チェーン。
- 請求項1または2において、上記動力伝達チェーンの直線領域における接触部は、上記直交方向に関する上記第2の動力伝達部材の中央部よりも、チェーン屈曲時のチェーン径方向の内側に配置されていることを特徴とする動力伝達チェーン。
- 請求項1,2または3において、チェーン進行方向に関する上記第2の動力伝達部材の厚みは、チェーン進行方向に関する第1の動力伝達部材の厚みよりも薄くされていることを特徴とする動力伝達チェーン。
- 相対向する一対の円錐面状のシーブ面をそれぞれ有する第1および第2のプーリと、これらのプーリ間に巻き掛けられ、シーブ面に係合して動力を伝達する請求項1,2,3または4記載の動力伝達チェーンとを備えることを特徴とする動力伝達装置。
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