JP4591764B2 - 動力伝達チェーンおよびこれを備える動力伝達装置 - Google Patents
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一方、プーリの有効径が最小となるときに、当該プーリに巻き回された動力伝達チェーンは、設計上、最大に屈曲する状態となるが、このときにも、リンクの第2の孔の周面とこの第2の孔に嵌め入れられたピンの外周面との間には、所定の隙間が設けられている。その結果、チェーンの上記最大屈曲状態において、チェーン進行方向に隣り合うリンク間の屈曲が滑らかに行われるようになっている。
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、滑らかな屈曲を達成でき、且つ騒音の低減、伝動効率の向上および動力伝達チェーンにかかる負荷の低減を達成することのできる動力伝達チェーン、ならびにこれを備える動力伝達装置を提供することを目的とする。
本発明によれば、柱部の斜面に規制部を設けている。柱部であれば、比較的広い斜面を確保することができ、その斜面であれば、当該動力伝達チェーンが直線状態にあるときや、最大屈曲状態(プーリに巻き回されてそのプーリの最小有効半径に相当する曲率で屈曲された状態)にあるときにおいて、当該斜面と対応する動力伝達部材との間の隙間を精度よく小さく設定することができる。これにより、動力伝達チェーンの滑らかな屈曲を達成しつつ、動力伝達チェーンの駆動時における弦振動的な振動を抑制することができ、騒音の低減、伝動効率の向上および動力伝達チェーンにかかる負荷の低減を達成できる。
図1は、本発明の一実施の形態に係る動力伝達チェーンを備える動力伝達装置としてのチェーン式無段変速機(以下では、単に無段変速機ともいう)の要部構成を模式的に示す斜視図である。図1を参照して、無段変速機100は、自動車等の車両に搭載されるものであり、第1のプーリとしての金属(構造用鋼等)製のドライブプーリ60と、第2のプーリとしての金属(構造用鋼等)製のドリブンプーリ70と、これらの両プーリ60,70間に巻き掛けられた無端状の動力伝達チェーン1(以下では、単にチェーンともいう)とを備えている。なお、図1中のチェーン1は、理解を容易にするために一部断面を示している。
ドリブンプーリ70の可動シーブ72には、ドライブプーリ60の可動シーブ63と同様に油圧アクチュエータ(図示せず)が接続されており、変速時に、この可動シーブ72を移動させることにより溝幅を変化させるようになっている。それにより、チェーン1を移動させて、出力軸71(プーリ70)におけるチェーン1の有効半径Rを、最大値R2(図3(A)参照)から最小値R1(図3(B)参照)までの間で変化できるようになっている。
一方、無段変速機100における増速比を最も高くする場合には、図3(B)に示すように、ドライブプーリ60におけるチェーン1の有効半径が最大値R2とされ、ドリブンプーリ70におけるチェーン1の有効半径が最小値R1とされる。
なお、図5を参照して説明するときは、チェーン直線状態を基準として説明し、図6を参照して説明するときは、最大屈曲状態を基準として説明する。
なお、転がり摺動接触とは、転がり接触およびすべり接触の少なくとも一方を含む接触のことをいう。
各リンク2は板状に形成されており、チェーン進行方向Xの前後に並ぶ一対の端部としての前端部5および後端部6、ならびにこれら前端部5および後端部6間に配置される中間部7を含んでいる。
前貫通孔9は、第1のピン3にとって、一対の貫通孔の他方であるとともに、第2のピン4にとって、一対の貫通孔の一方である。
中間部7は、対応する前貫通孔9および後貫通孔10間を仕切る柱部8を有している。この柱部8は、中間部7のチェーン厚み方向Vの一端部および他端部間を接続しており、チェーン進行方向Xに所定の厚みを有している。
リンク2を用いて、第1〜第3のリンク列51〜53が形成されている。具体的には、第1のリンク列51、第2のリンク列52および第3のリンク列53はそれぞれ、チェーン幅方向Wに並ぶ複数のリンク2を含んでいる。第1〜第3のリンク列51〜53のそれぞれにおいて、同一リンク列のリンク2は、チェーン進行方向Xの位置が互いに同じとなるように揃えられている。第1〜第3のリンク列51〜53は、チェーン進行方向Xに沿って並んで配置されている。
具体的には、第1のリンク列51のリンク2の前貫通孔9と、第2のリンク列52のリンク2の後貫通孔10とは、チェーン幅方向Wに並んで互いに対応しており、これらの貫通孔9,10を挿通する第1および第2のピン3,4によって、第1および第2のリンク列51,52のリンク2同士がチェーン進行方向Xに屈曲可能に連結されている。
図4において、第1〜第3のリンク列51〜53は、それぞれ1つしか図示されていないが、チェーン進行方向Xに沿って第1〜第3のリンク列51〜53が繰り返すように配置されている。そして、チェーン進行方向Xに互いに隣接する2つのリンク列のリンク2同士が、対応する第1および第2のピン3,4によって順次に連結され、無端状をなすチェーン1が形成されている。
第1のピン3の周面11は、チェーン幅方向W(図5において、紙面に垂直な方向)に平行に延びている。この周面11は、チェーン進行方向Xの前方を向く前部12と、チェーン進行方向Xの後方を向く背部としての後部13と、チェーン厚み方向Vに相対向する一対の端部としての一端部14および他端部15とを有している。
一端部14は、第1のピン3の周面11のうち、チェーン外周側(チェーン厚み方向Vの一方)の端部を構成しており、前部12および後部13のチェーン外周側端部間に配置されている。この一端部14は、チェーン外周側に向けて凸湾曲する曲面に形成され、その周方向の略中間部が、第1のピン3のチェーン外周側の頂部となっている。
図2および図4を参照して、第1のピン3の長手方向(チェーン幅方向W)における一対の端部16は、チェーン幅方向Wの一対の端部に配置されるリンク2からチェーン幅方向Wにそれぞれ突出している。これら一対の端部16には、端面17がそれぞれ設けられている。
同様に、プーリ70におけるチェーン1の有効半径Rは、プーリ70に挟持された第1のピン3の端面17の接触中心点Cと、プーリ70の中心軸線D2との間のプーリ径方向の距離として定義される。
図4および図5を参照して、第2のピン4(ストリップ、またはインターピースともいう)は、第1のピン3と同様の材料により形成された、チェーン幅方向Wに延びる長尺(板状)の動力伝達部材であり、断面形状がチェーン厚み方向Vに細長となるように形成されている。
第2のピン4の周面18は、チェーン幅方向Wに延びている。この周面18は、チェーン進行方向Xの後方を向く後部19と、チェーン進行方向Xの前方を向く背部としての前部20と、チェーン厚み方向Vに関する一対の端部としての一端部21および他端部22とを有している。
前部20は、後部19と概ね平行に延びる平坦面に形成されている。
一端部21は、第2のピン4の周面18のうち、チェーン外周側の端部を構成しており、後部19および前部20のチェーン外周側端部間に配置されている。この一端部21は、チェーン外周側に向けて凸湾曲する曲面に形成され、その周方向の略中間部が、第2のピン4のチェーン外周側の頂部となっている。
第1のピン3は、各リンク2の前貫通孔9に相対移動可能に遊嵌されていると共に、各リンク2の後貫通孔10に相対移動を規制されるようにして圧入嵌合され、第2のピン4は、各リンク2の前貫通孔9に相対移動を規制されるようにして圧入嵌合されていると共に、各リンク2の後貫通孔10に相対移動可能に遊嵌されている。
また、チェーン1は、上記各プーリに巻き掛けられた状態において、図5に示す直線状態と、図6に示す最大屈曲状態とが存在するようになっている。
再び図6を参照して、チェーン1の屈曲状態にある部分は、所定の屈曲角Eを有している。屈曲角Eは、例えば、リンク2の後貫通孔10に遊嵌された第2のピン4の前部20と上記チェーン進行方向Xに直交する平面Aとのなす角として定義することができる。チェーン1の最大屈曲状態における屈曲角E(最大屈曲角Emax)は、例えば、21°に設定されている。また、図5に示すように、チェーン1の直線状態における屈曲角は、例えば、0°に設定されている。
一端部26は、被遊嵌部25のチェーン外周側の端部を構成しており、一部が第1のピン3の周面11の一端部14と相対向している。他端部27は、被遊嵌部25のチェーン内周側の端部を構成しており、一部が第1のピン3の周面11の他端部15と相対向している。
図8は、図5のリンク2の後貫通孔10周辺の拡大図である。図8を参照して、リンク2の後貫通孔10における、第1のピン3の圧入嵌合および第2のピン4の遊嵌は、以下のようにされている。すなわち、リンク2の後貫通孔10の周縁部29は、第1のピン3が圧入嵌合される被圧入部30と、被圧入部30よりもチェーン進行方向Xの前方に配置され、第2のピン4が遊嵌される被遊嵌部31とを含んでいる。
一端部32は、被遊嵌部31のチェーン外周側の端部を構成しており、一部が第2のピン4の周面18の一端部21と相対向している。他端部33は、被遊嵌部31のチェーン内周側の端部を構成しており、一部が第2のピン4の周面18の他端部22と相対向している。
図5、図7および図8を参照して、リンク2の柱部8は、チェーン進行方向Xに並ぶ一対の側部35,36を含んでおり、これら一対の側部35,36によって、対応する前貫通孔9および後貫通孔10の周縁部23,29の一部がそれぞれ構成されている。
図7を参照して、一方の側部35の山形部37は、チェーン厚み方向Vの中間部がチェーン進行方向X(前貫通孔9に遊嵌された第1のピン3)に向かって凸となるように形成されており、頂部39と、その頂部39を挟んでチェーン厚み方向Vの両側に配置された一対の斜面40,41とを有している。
一方の斜面40は、頂部39よりもチェーン外周側に配置された平坦面を含んでおり、チェーン外周側を向いている。一方の斜面40のチェーン外周側端部は、被遊嵌部25の一端部26のチェーン進行方向Xの後端と接続されている。
頂部42は、他方の側部36のチェーン厚み方向Vの中央部よりもチェーン内周側に配置されており、滑らかな円弧面に形成されている。
チェーン1の直線状態において、一方の斜面43と後貫通孔10に遊嵌された第2のピン4の前部20とは、概ね平行とされている。このとき、一方の斜面43と上記第2のピン4の前部20との間には、隙間J1が設けられており、チェーン進行方向Xに隣り合うリンク2間の滑らかな屈曲を可能としている。隙間J1は、例えば、10μm〜80μm、好ましくは、10〜50μmの範囲に設定されている。
他方の側部36の一方の斜面43の規制部47は、当該一方の斜面43の少なくとも一部、例えば、略全域に亘って形成されている。他方の側部36の他方の斜面44の規制部48は、当該他方の斜面44の少なくとも一部、例えば、略全域に亘って形成されている。
再び図3(A)および図3(B)を参照して、チェーン1に上記と同様の振動が生じ、チェーン1の最大屈曲状態にある部分がチェーン屈曲方向にさらに曲げられるような力を受けたとき、対応する第1のピン3は、図10(A)に示すように、対応する前貫通孔9の他方の斜面41の規制部46に当接する。
このように、各規制部45〜48は、対応する第1および第2のピン3,4と当接することで、チェーン進行方向Xに隣り合うリンク2間の相対回転の角度範囲を、上記した交差角G(K)の範囲に規制する。
また、チェーン1の直線状態および最大屈曲状態の双方において、各リンク2に遊嵌された第1および第2のピン3,4と、対応する規制部45〜48との間に、10μm以上の隙間F1,F2,J1,J2を設けることで、チェーン進行方向Xに隣り合うリンク2同士の相対回転が不用意に規制されることを防止でき、チェーン1の滑らかな屈曲を達成することができる。さらに、上記の隙間F1,F2,J1,J2を80μm以下にすることで、チェーン1の弦振動的な振動を早期に収束させる振れ止め効果を良好に発揮することができる。
さらに、第1のピン3に迎え角Bを設けることで、第1のピン3の配置を最適化して、各プーリ60,70との係合をより滑らかにすることができる。
これにより、第1のピン3の各端面17が各プーリ60,70の対応するシーブ面62a,63a,72a,73aに接触する際、上記第1のピン3と対をなす第2のピン4とが、互いに転がり摺動接触することにより、チェーン進行方向Xに隣り合うリンク2同士の屈曲が可能とされている。
さらに、対をなす第1および第2のピン3,4互いの接触線Tの軌跡が、概ねインボリュート形状を描くようにされていることにより、第1のピン3が各プーリ60,70に順次噛み込まれる際に、チェーン1に弦振動的な運動が生じることをより抑制できる。その結果、チェーン1の駆動時の騒音をより低減することができる。
図11は、本発明の別の実施の形態の要部の一部断面図である。なお、本実施の形態では、図1〜図10に示す実施の形態と異なる点について主に説明し、同様の構成については図に同様の符号を付してその説明を省略する。
例えば、図1〜図10に示す実施の形態において、一方の側部35の一対の斜面40,41間の交差角Gは、上記例示した値より小さくても大きくてもよい。また、他方の側部36の一対の斜面43,44間の交差角Kは、上記例示した値より小さくても大きくてもよい。さらに、柱部8の一対の側部35,36の一方にのみ、山形部を設けて対応する第1および第2のピン3,4と当接するようにしてもよい。
さらに、チェーン1の直線状態から最大屈曲状態までの全ての状態において、各リンク2の貫通孔9,10の被遊嵌部25,31とこれらの遊嵌部25,31に遊嵌された対応する第1および第2のピン3,4との間の隙間の最大値が、概ね一定とされていてもよい。当該隙間の最大値は、例えば、最大で10〜80μm、好ましくは10〜50μmの範囲で設定される。
また、第2のピン4が各プーリ60,70に係合するようにしてもよい。さらに、対をなす第1および第2のピン3,4の互いの転がり摺動接触の軌跡がインボリュート形状を描くようにしなくてもよい。具体的には、第1のピン3の前部12の形状を断面インボリュート曲線に形成しなくてもよいし、第2のピン4の後部19を断面直線形状に形成しなくてもよい。
また、上記各実施の形態において、第1のピン3の一対の端面17のそれぞれの近傍に、端面17と同様の動力伝達面を有する部材を配置し、第1のピン3と当該動力伝達面を有する部材とを含む動力伝達ブロックを設け、これを動力伝達部材としてもよい。
さらに、ドライブプーリ60およびドリブンプーリ70の双方の溝幅が変動する態様に限定されるものではなく、何れか一方の溝幅のみが変動し、他方が変動しない固定幅にした態様であっても良い。さらに、上記では溝幅が連続的(無段階)に変動する態様について説明したが、段階的に変動したり、固定式(無変速)である等の他の動力伝達装置に適用しても良い。チェーン1の有効半径Rを変化させない固定式プーリにおいても、可変径プーリにチェーン1を巻き掛けたときと同様の効果を奏することができる。
2,2A リンク
3 第1のピン(動力伝達部材)
4 第2のピン(動力伝達部材)
8 柱部
9,9A 前貫通孔(一対の貫通孔の一方、他方)
10,10A 後貫通孔(一対の貫通孔の他方、一方)
23,23A (前貫通孔の)周縁部
29,29A (後貫通孔の)周縁部
35 一方の側部(一対の側部の一方)
36 他方の側部(一対の側部の他方)
37 (一方の側部の)山形部
38 (他方の側部の)山形部
39 (一方の側部の)頂部
40 (一方の側部の)一方の斜面(一対の斜面の一方)
41 (一方の側部の)他方の斜面(一対の斜面の他方)
42 (他方の側部の)頂部
43 (他方の側部の)一方の斜面(一対の斜面の一方)
44 (他方の側部の)他方の斜面(一対の斜面の他方)
45〜48 規制部
60 ドライブプーリ(第1のプーリ)
62a,63a シーブ面
70 ドリブンプーリ(第2のプーリ)
72a,73a シーブ面
100 無段変速機(動力伝達装置)
F1,F2,J1,J2 隙間
X チェーン進行方向
Claims (3)
- チェーン進行方向に並ぶ複数のリンクと、それらのリンクを相対回転可能に連結する複数の動力伝達部材とを備える動力伝達チェーンにおいて、
各上記リンクは、チェーン進行方向に並びそれぞれ対応する動力伝達部材が挿通された一対の貫通孔と、一対の貫通孔間を仕切る柱部とを含み、その柱部の一対の側部によってそれぞれ対応する貫通孔の周縁の一部が構成され、
上記動力伝達部材は第1の動力伝達部材および第2の動力伝達部材を含み、
一方の貫通孔には、第1の動力伝達部材が相対移動可能に嵌め入れられ、且つ第2の動力伝達部材が相対移動を規制されて嵌め入れられ、
他方の貫通孔には、第2の動力伝達部材が相対移動可能に嵌め入れられ、且つ第1の動力伝達部材が相対移動を規制されて嵌め入れられ、
各上記側部は山形部を含み、その山形部は、頂部と、その頂部を挟んで配置された一対の斜面と、一対の斜面にそれぞれ設けられた規制部と、を有し、
上記動力伝達チェーンに振動が生じていないとき、各規制部は、上記対応する貫通孔に相対移動可能に嵌め入れられた動力伝達部材と当接しておらず、
上記動力伝達チェーンに振動が生じているとき、各規制部は、対応する貫通孔に相対移動可能に嵌め入れられた動力伝達部材と当接することにより、チェーン進行方向に隣り合うリンク間の相対回転の角度範囲を規制する
ことを特徴とする動力伝達チェーン。 - 相対向する一対の円錐面状のシーブ面をそれぞれ有する第1および第2のプーリと、これらのプーリ間に巻き掛けられ、シーブ面に接触して動力を伝達する請求項1記載の動力伝達チェーンとを備えることを特徴とする動力伝達装置。
- 請求項2において、上記動力伝達チェーンに振動が生じていないとき、各上記動力伝達部材は、動力伝達チェーンの直線状態および最大屈曲状態でそれぞれ対応する規制部との間に、10μm〜80μmの隙間を形成することを特徴とする動力伝達装置。
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