JP5081386B2 - プラズマディスプレイパネルとその製造方法 - Google Patents

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Description

技術分野 本発明は、プラズマディスプレイパネル等のガス放電パネルの製造方法に関するものであって、特に誘電体層の改質技術に関する。
技術背景
プラズマディスプレイパネル(以下PDPという)とは、ガス放電で発生した紫外線によって蛍光体を励起発光させ、画像表示するガス放電パネルである。その放電の形成手法からPDPは交流(AC)型と直流(DC)型に分類することが出来るが、AC型は輝度、発光効率、寿命の点でDC型より優れているため、このタイプが最も一般的である。
AC型PDPは、複数の電極(表示電極またはアドレス電極)とこれを覆うように誘電体層を配した2枚の薄いパネルガラスの表面を、複数の隔壁を介して対向させ、当該複数の隔壁の間に蛍光体層を配し、マトリクス状に放電セル(サブピクセル)を形成した状態で、両パネルガラスの間に放電ガスを封入した構成を持つ。表示電極を覆う誘電体層の表面には保護層(膜)が形成される。保護層の特性には、放電開始電圧Vf(Firing Voltage)と放電セルごとの放電バラツキの発生をともに低減する特性が高いことが望まれる。MgOの結晶膜は耐スパッタ性に優れ、かつ二次電子放出係数の大きい絶縁体であり、保護層として好適な材料である。
PDPでは、駆動時にはいわゆるフィールド内時分割階調表示方式に基づき、前記複数の電極に適宜給電して放電ガス中で放電を得ることにより蛍光発光させる。具体的には、PDPの駆動時はまず表示するフレームを複数のサブフレームに分け、各サブフレームをさらに複数の期間に分ける。各サブフレームでは、初期化期間で画面全体の壁電荷を初期化(リセット)した後、アドレス期間で点灯すべき放電セルのみに壁電荷を蓄積させるアドレス放電を行い、その後の放電維持期間ですべての放電セルに対して一斉に交流電圧(サステイン電圧)を印加することによって一定時間放電維持する。PDPで行われる各放電は確率現象に基づいて生じるため、個々の放電セルで放電が発生する率(放電確率と呼ばれる)が基本的にバラツキを有する性質を持つ。したがってこの性質によれば、例えばアドレス放電は、これを実行する印加パルス幅に比例して放電確率を高めることができることになる。
PDPの一般的な構成については、例えば特開平9−92133号公報等に開示されている。
ここでMgOからなる保護層は、低電圧動作を実現するためにも用いられるが、液晶表示装置などに比較して動作電圧が高い性質がある。そのため、駆動集積回路には高耐圧トランジスタが必要となり、PDPのコストを引き上げる要因の1つになっている。このことから現在ではPDPの消費電力を低減するために放電開始電圧Vfを低減しつつ、コストの掛かる高耐圧トランジスタの使用を控えることが要求されている。
一方、保護層をなすMgOの成膜は、真空蒸着法やEB法、スパッタ法等の薄膜形成法の他に、MgOの前駆体である有機材料を用いた印刷法(厚膜形成法)等によって行うことができる。このうち印刷法では、例えば特開平4−10330号公報に開示されているように、液体の有機材料をガラス材料と混合し、これをパネルガラス表面にスピンコートし、600℃付近で焼成することによりMgOを結晶化させて保護層を形成する。印刷法は真空蒸着法やEB法、スパッタ法に比べ、工程が比較的簡単で低コストで行えるメリットがあり、また真空プロセスを用いなくてもよいので、スループットの面からも優れている。
しかしながら、厚膜形成法で形成した保護層は、薄膜形成法において真空プロセスで形成した保護層と比較すると、放電開始電圧Vfを低減させる効果には大差がないが、PDP駆動時において放電セルごとに放電バラツキを生じやすい。この放電バラツキはいわゆる「黒ノイズ」を発生し、良好な画像表示性能が得られにくい原因ともなるので、改善が望まれる問題である。黒ノイズは、点灯すべき放電セル(選択された放電セル)が点灯しない現象であり、画面のうちの点灯領域と非点灯領域との境界で生じ易い。表示電極の長手方向に沿った1つのライン、又は隣接する2つ隔壁の長手方向に沿った1つの列における複数の選択セルの全てが点灯しないというものではなく、発生部位が点在することから、黒ノイズの原因はアドレス放電が生じないか、又は生じても強度が足りないという現象から生じていると考えられる。この原因としては、酸化マグネシウムから放出される電子と関係が深いことがわかっている。
また、PDPの放電バラツキに関する問題は、厚膜形成法を用いて保護層を形成する場合に限らず、薄膜形成法でも酸素欠損部分の少ない(すなわち酸素リッチな)MgOによって保護層が形成されると生じやすいので、厚膜・薄膜いずれの形成方法で成膜する場合においても早急な解決が求められている。
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、比較的低コストでありながら効率よく放電開始電圧Vfと放電バラツキの発生をともに低減して駆動することにより、優れた画像表示性能を発揮できるPDPと、その製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明は、保護層が形成された第1基板が、放電空間を介して第2基板と対向配置され、前記両基板周囲が封着されてなるプラズマディスプレイパネルであって、保護層の表面には、互いに電子放出特性の異なる第1の材料と第2の材料が、それぞれ前記放電空間に露出し、且つ、第1の材料と第2の材料の少なくとも一方が分散して存在するものとした。
ここで、前記第1の材料は第1の結晶体であり、前記第2の材料は第2の結晶体であって、前記保護層の表面において、第1の結晶体中に第2の結晶体が分散されている構成とすることもできる。
この場合、前記第2の結晶体は、前記第1の結晶体よりも高純度であることが望ましい。
また本発明は、前記保護層は主として酸化マグネシウムからなり、前記第2の結晶体は酸化マグネシウムの結晶微粒子からなるものとすることができる。
一方前記第1の結晶体は、酸化マグネシウム前駆体を焼成して得ることができる。
このような本発明によれば、例えば保護層の放電開始電圧Vfの低減特性は、第1の結晶体としての酸化マグネシウム結晶体と、第2の結晶体としての酸化マグネシウム結晶微粒子の双方によって発揮される。
すなわちPDP駆動時において、放電空間内部で発生した電界により放電ガスが励起され、放電ガス中の希ガス原子が保護層表面に近づくと、いわゆるオージェプロセスが生じ、保護層中の価電子帯における電子が遷移し、これによって保護層中の別の電子が放電空間へポテンシャル放出される。その結果、良好に二次電子放出特性が発揮されるので、放電開始電圧Vfが低減される。この保護層による電子のポテンシャル放出は、酸化マグネシウム結晶体の電子放出特性が多少悪くても、保護層に求められる性能として十分な二次電子放出特性(γ)を得ることができる。このことから本発明の酸化マグネシウム結晶体には、厚膜形成法による塗布工程で保護層を作製する場合に用いられる低コストな酸化マグネシウム前駆体を利用しても、十分な効果が得られる。
次に、保護層の放電バラツキの抑制に関する特性は、高純度結晶構造を有することにより電子放出特性に優れる酸化マグネシウム結晶微粒子によって発揮される。すなわち放電空間内で電界が発生すると、これにともなう真空紫外線(VUV)によって、まずマグネシウム結晶微粒子中の電子が酸素欠損部分に遷移する。そして、当該酸素欠損部分における電子のエネルギー差により酸素欠損部分が発光中心として作用し、可視光を発光する。この可視光発光にともない、マグネシウム結晶微粒子中で価電子帯から伝導帯近傍のエネルギーレベル(不純物準位)まで励起される電子が発生する。この不純物準位の電子が増えることで保護層のキャリア濃度が向上し、インピーダンス制御がなされる。この結果、PDP駆動時の放電バラツキが抑制され、PDPの放電確率を向上させるとともに、黒ノイズの発生を防止して、良好な画像表示性能を発揮することができる。
図1は、実施の形態1におけるPDPの主要構成を示す部分断面図である。
図2は、PDPの駆動プロセス例を示す図である。
図3は、実施の形態1の保護層の構成を示す図である
図4は、実施の形態2の保護層の構成を示す図である。
図5は、保護層のエネルギーバンド図である。
図6は、実施の形態3におけるPDPの主要構成を示す部分断面図である。
図7は、MgOとAlの光電子分光データを示す図である。
図8は、酸化マグネシウムとAlのエネルギーバンドである。
図9は、酸化マグネシウムとその他の材料の複合体もしくは複合材料からなる保護層の構成図である。
図10は、実施の形態4におけるPDPの主要構成を示す部分断面図である。
発明を実施するための好ましい形態
1.実施の形態1
1−1.PDPの構成
図1は、本発明の実施の形態1に係るAC型PDP1の主要構成を示す部分的な断面斜視図である。図中、z方向がPDP1の厚み方向、xy平面がPDP1のパネル面に平行な平面に相当する。PDP1は、ここでは一例として42インチクラスのNTSC仕様に合わせた仕様にしているが、本発明はもちろんXGAやSXGA等、この他の仕様・サイズに適用してもよい。
図1に示すように、PDP1の構成は、互いに主面を対向させて配設されたフロントパネル10およびバックパネル16に大別される。
フロントパネル10の基板となるフロントパネルガラス11には、その一方の主面に複数対の表示電極12、13(スキャン電極12、サステイン電極13)が形成されている。各表示電極12、13は、ITOまたはSnO等の透明導電性材料からなる帯状の透明電極120、130(厚さ0.1μm、幅150μm)に対して、Ag厚膜(厚み2μm〜10μm)、アルミニウム(Al)薄膜(厚み0.1μm〜1μm)またはCr/Cu/Cr積層薄膜(厚み0.1μm〜1μm)等からなるバスライン121、131(厚さ7μm、幅95μm)が積層されてなる。このバスライン121、131によって透明電極120、130のシート抵抗が下げられる。
表示電極12、13を配設したフロントパネルガラス11には、当該ガラス11の主面全体にわたって、酸化鉛(PbO)または酸化ビスマス(Bi)または酸化燐(PO)を主成分とする低融点ガラス(厚み20μm〜50μm)の誘電体層14が、スクリーン印刷法等によって形成されている。誘電体層14は、AC型PDP特有の電流制限機能を有しており、DC型PDPに比べて長寿命化を実現する要素になっている。誘電体層14の表面には、厚さ約1.0μmの保護層15が順次コートされている。
ここにおいて本実施の形態1では、その主な特徴として、保護層15が互いに電子放出特性の異なる二種類の構造を持つ酸化マグネシウムから構成されている。すなわち図3の保護層正面図に示すように、後述の放電空間24に露出する保護層15の表面部分には、有機材料の前駆体を焼成してなる第1の材料として酸化マグネシウム結晶体15Aと、前記前駆体の焼成前に予め結晶化されてなる第2の材料として酸化マグネシウム結晶微粒子15Bが、分散して存在する。
この構成によれば、PDP駆動時には酸化マグネシウム結晶体15Aおよび酸化マグネシウム結晶微粒子15Bの両方で放電開始電圧Vfの低減が良好になされる一方、酸化マグネシウム結晶微粒子15Bによって、保護層15の電子放出特性が発揮されるので、良好な画像表示性能がなされることとなる。この効果の詳細については後述する。
バックパネル16の基板となるバックパネルガラス17には、その一方の主面にAg厚膜(厚み2μm〜10μm)、アルミニウム(Al)薄膜(厚み0.1μm〜1μm)またはCr/Cu/Cr積層薄膜(厚み0.1μm〜1μm)等からなる幅60μmの複数のアドレス電極18が、x方向を長手方向としてy方向に一定間隔毎(360μm)でストライプ状に並設され、このアドレス電極18を内包するようにバックパネルガラス17の全面にわたって厚さ30μmの誘電体膜19がコートされている。誘電体膜19の上には、さらに隣接するアドレス電極18の間隙に合わせて隔壁20(高さ約150μm、幅40μm)が配設され、隣接する隔壁20によってサブピクセルSUが区画され、x方向での誤放電や光学的クロストークの発生を防ぐ役割をしている。そして隣接する2つの隔壁20の側面とその間の誘電体膜19の面上には、カラー表示のための赤色(R)、緑色(G)、青色(b)のそれぞれに対応する蛍光体層21〜23が形成されている。
なお、誘電体膜19を用いずにアドレス電極18を直接蛍光体層21〜23で内包するようにしてもよい。
フロントパネル10とバックパネル16は、アドレス電極18と表示電極12、13の互いの長手方向が直交するように対向させながら配置され、両パネル10、16の外周縁部をガラスフリットで封着されている。この両パネル10、16間にはHe、Xe、Neなどの不活性ガス成分からなる放電ガス(封入ガス)が所定の圧力(通常53.2kPa〜79.8kPa程度)で封入されている。
隣接する隔壁20間は放電空間24であり、隣り合う一対の表示電極12、13と1本のアドレス電極18が放電空間24を挟んで交叉する領域が、画像表示にかかるサブピクセルSUに対応する。セルピッチはx方向が1080μm、y方向が360μmである。隣り合うRGB3つのサブピクセルSUで1画素(1080μm×1080μm)が構成される。
1−2.PDPの基本動作
上記構成のPDP1は、表示電極12、13およびアドレス電極18に給電する不図示の駆動部によって駆動される。画像表示のための駆動時には、一対の表示電極12、13の間隙には数十kHz〜数百kHzのAC電圧が印加され、サブピクセルSU内で放電を発生させ、励起されたXe原子からの紫外線によって蛍光体層21〜23を励起し可視光発光させる。
このとき上記駆動部では、各セルの発光をON/OFFの2値制御によって制御し、階調表現するために、外部からの入力画像である時系列の各フレームFを、例えば6個のサブフレームに分割する。各サブフレームにおける輝度の相対比率が例えば1:2:4:8:16:32となるように重み付けをして、各サブフレームのサステイン(維持放電)の発光回数を設定する。
ここで図2は、本PDP1の駆動波形プロセスの一例である。ここではフレーム中の第m番目のサブフレームの駆動波形を示している。当図2が示すように、各サブフレームには、初期化期間、アドレス期間、放電維持期間、消去期間がそれぞれ割り当てられる。
初期化期間とは、それ以前のセルの点灯による影響(蓄積された壁電荷による影響)を防ぐため、画面全体の壁電荷の消去(初期化放電)を行う期間である。当図2に示す波形例では、すべての表示電極12、13に放電開始電圧Vfを超える正極性の下りランプ波形のリセットパルスを印加する。これとともに、バックパネル16側の帯電とイオン衝撃を防ぐために、すべてのアドレス電極18に正極性パルスを印加する。印加パルスの立ち上がりと立ち下がりの差動電圧によって、すべてのセルで弱い面放電である初期化放電が生じ、すべてのセルにおいて壁電荷が蓄積され、画面全体が一様な帯電状態となる。
アドレス期間は、サブフレームに分割された画像信号に基づいて選択されたセルのアドレッシング(点灯/不点灯の設定)を行う期間である。当該期間では、スキャン電極12を接地電位に対して正電位にバイアスし、すべてのサステイン電極13を負電位にバイアスする。この状態で、パネル上部最先におけるライン(一対の表示電極に対応する横一列のセル)から1ラインずつ順に各ラインを選択し、該当するスキャン電極12に負極性のスキャンパルスを印加する。また、点灯すべきセルに対応したアドレス電極18に対して、正極性のアドレスパルスを印加する。これにより前記初期化期間での弱い面放電を受け継ぎ、点灯すべきセルのみでアドレス放電が行われ、壁電荷が蓄積される。
放電維持期間は、階調準位に応じた輝度を確保するために、アドレス放電により設定された点灯状態を拡大して放電維持する期間である。ここでは不要の放電を防止するため、全てのアドレス電極18を正極性の電位にバイアスし、全てのサステイン電極13に正極性のサステインパルスを印加する。その後、スキャン電極12とサステイン電極13とに対して交互にサステインパルスを印加し、所定期間放電を繰り返す。
消去期間では、スキャン電極12に漸減パルスを印加し、これによって壁電荷を消去させる。
なお初期化期間およびアドレス期間の長さは、輝度の重みに関わらず一定であるが、放電維持期間の長さは輝度の重みが大きいほど長い。つまり、各サブフレームの表示期間の長さは互いに異なる。
PDP1ではサブフレームで行われる各放電によって、Xeに起因する、147nmに鋭いピークを有する共鳴線と、173nmを中心とする分子線からなる真空紫外線が発生する。この真空紫外線が各蛍光体層21〜23に照射され、可視光が発生する。そして、RGB各色ごとのサブフレーム単位組み合わせにより、多色・多階調表示がなされる。
1−3.実施の形態1の効果について
PDPの放電特性は、放電空間24で放電ガスと接触する保護層15の放電特性に大きく依存している。保護層に求められる特性としては、放電開始電圧Vfの低減特性(二次電子放出特性)と、放電バラツキの抑制に関する特性に分けられ、当該両特性が優れるほどPDPの画像表示性能が実現される。
ここで本実施の形態1におけるPDP1では、上記両特性をともに有効に確保するため、図3の保護層正面図に示すように、少なくとも放電空間24に露出する保護層15の表面に、互いに異なる電子放出特性を持つ酸化マグネシウム結晶体15Aと、酸化マグネシウム結晶微粒子15Bが分散して存在するように構成している。酸化マグネシウム結晶体15Aは、有機材料の酸化マグネシウム前駆体を焼成して構成される。一方、酸化マグネシウム結晶微粒子15Bは、前記前駆体の焼成前に予め結晶化されたものであって、酸化マグネシウム結晶体15Aより高純度結晶構造を有している。ここで図3の保護層15の構成では、第1結晶体としての酸化マグネシウム結晶体15A中に、第2結晶体としての酸化マグネシウム結晶微粒子15Bが分散して存在するように構成されている。
このような構成によれば、まず保護層15の放電開始電圧Vfの低減特性は、酸化マグネシウム結晶体15Aと、酸化マグネシウム結晶微粒子15Bの双方によって発揮される。
すなわちPDP駆動時において、放電空間24内部で発生した電界により放電ガスが励起され、放電ガス中のNeが保護層表面に近づくと、いわゆるオージェプロセスが生じ、保護層中の価電子帯における電子が、Neの最外殻に遷移する。そしてこの電子の遷移にともない、保護層中の別の電子が前記Neへ遷移した電子のエネルギー変化分を受けて、放電空間24へポテンシャル放出される。その結果、良好に二次電子放出特性が発揮されるので、放電開始電圧Vfが低減される。この保護層による電子のポテンシャル放出は、保護層の価電子帯上端よりもNeの最外殻電子レベルがかなり深いところにあるので、酸化マグネシウム結晶体15Aの電子放出特性が多少悪くても(言い換えれば結晶中に不純物が多少混入していても)、保護層に求められる性能として十分な二次電子放出特性(γ)を得ることができる。このことから、本実施の形態1の酸化マグネシウム結晶体15Aには、厚膜形成法による塗布工程で保護層を作製する場合に用いられる酸化マグネシウム前駆体を利用しても、十分な効果が得られる。この厚膜形成法によれば、酸化マグネシウム前駆体中の炭素成分等の不純物が若干保護層中に残存することがあるが、その場合でも本実施の形態1では良好な性能の保護層を形成することができる。そのため、保護層の製造工程自体を真空プロセス等の大がかりな設備による薄膜形成法に依存しなくても、低コストかつ優れたスループットで製造することができるといった厚膜形成法のメリットを有効に活かすことができるのである。
なお、前記保護層の価電子帯からの電子の遷移は、Ne以外の放電ガス成分との間でも生じるが、Neが最も効果が高い。これは、保護層の価電子帯上端に対するNeの最外殻電子レベルが十分に低いためである。
次に、保護層15の放電バラツキの抑制に関する特性は、高純度結晶構造を有することにより電子放出特性に優れる酸化マグネシウム結晶微粒子15Bによって発揮される。
具体的には、図5の保護層のエネルギーバンド図に示すように、PDP駆動時において放電空間24内で電界が発生すると、これにともなう真空紫外線(VUV)によって、まずマグネシウム結晶微粒子15B中の電子が酸素欠損部分に遷移する。そして、当該酸素欠損部分における電子のエネルギー差(E2−E1)により酸素欠損部分が発光中心として作用し、可視光を発光する。この可視光発光にともない、マグネシウム結晶微粒子15B中で価電子帯Evから伝導帯Ec近傍のエネルギーレベル(不純物準位E3)まで励起される電子が発生する。この不純物準位E3の電子が増えることで保護層15のキャリア濃度が向上し、インピーダンス制御がなされる。この結果、PDP駆動時の放電バラツキが抑制され、PDPの放電確率を向上させるとともに、黒ノイズの発生を防止することができる。保護層15の放電バラツキの抑制に関する特性は、半導体におけるキャリアドープに近い現象であるため、これをなすための保護層15に不純物が少なく、配向性に優れる等、高い結晶性が求められる。そこで本実施の形態1では、放電バラツキの抑制効果を良好に得るために、電子放出特性に優れる(すなわち前記高い結晶性の)酸化マグネシウム結晶微粒子15Bを用い、これに放電バラツキを抑制し、黒ノイズの発生を防止するための機能を分担させるようにしている。マグネシウム結晶微粒子15B中では酸素欠損部分を多く得るために酸素リッチな構成とするのが望ましい。
このように本実施の形態1では、放電空間24に臨む保護層15の表面部分に、電子放出特性の異なる複数の絶縁体(結晶体)15A、15Bを露出させ、当該個々の結晶体15A、15Bで放電特性を機能分担しているので、放電特性の制御の自由度が大きくなるとともに、セル設計や製造方法の自由度も拡大できるといったメリットが得られる。
また本実施の形態1のPDP1では、駆動回路に高価な高耐圧トランジスタを用いなくても放電開始電圧Vfを低減し、且つ放電バラツキの発生を抑制して黒ノイズの発生を防止することで良好な画像性能を得ることが可能となっている。
なお、放電空間24に臨む保護層15の表面部分に露出させる絶縁体(結晶体)は、酸化マグネシウムに限定するものではなく、これ以外の絶縁体(例えばMgAlO、BaO、CaO、ZnO、SrO等)のうち一種以上を用いることができる。
さらに、本実施の形態1の保護層15を形成する方法としては、酸化マグネシウム前駆体に酸化マグネシウム結晶微粒子を添加させ、これを塗布・焼成する方法に限定するものではなく、液体材料同士を混合してもよいし、パターニングやパターニング後のエッチバックなどの方法を取ってもよい。
1−4.保護層に不純物をドープする場合について
上記実施の形態1の保護層15は、そのままの構成でも優れた効果を得ることができるが、以下の工夫を行うことで、さらにその効果を高めることができる。
一例を挙げると、少なくとも酸化マグネシウム結晶微粒子15BにCrを1E−17/cm程度以上の濃度でドープすると、PDP駆動時には本来から存在する酸素欠損部分に加え、波長約700nmの可視光発光を生じる発光中心が形成され、豊富な可視光発光とともに伝導帯近傍に励起される電子数が増えるので、放電バラツキを抑制する効果をより高めることができる(C.C.Chao,J.Phys.Chem.Solids,32 2517(1971)や、M.Maghrabi et al,NIM B191(2002)181を参照)。
また、少なくとも酸化マグネシウム結晶微粒子15BにSi、H等を1E−16/cm程度以上の濃度で添加すると、これらは伝導帯近傍に励起された電子のリザーバーとして作用し、発光中心の可視光発光が長寿命化するので、この場合も放電バラツキを抑え、黒ノイズの発生を低減する効果が高くなる。
少なくとも酸化マグネシウム結晶微粒子15BにSiを添加する方法としては、前記15A、15Bの基本構成を焼成によって得た後、シランやジシランを含むガスをプラズマ状態にした雰囲気中で処理しても良いし、Si原子もしくはSiを含む分子をドーピングによって注入してもよい。また、事前にSiを添加した酸化マグネシウム結晶微粒子を用いても良い。
保護層に対するHの添加方法としては、保護層表面をH雰囲気中でアニール処理しても良いし、Hを含むガスをプラズマ状態にした雰囲気中に保護層を載置することにより処理してもよい。また、事前にHを添加した酸化マグネシウム結晶微粒子を用いても良い。
PDPの全体的な製造方法については以下に説明する。
2.PDPの製造方法
ここでは実施の形態1のPDP1の製造方法について、その一例を説明する。
なお当該製造方法は、その他の実施の形態のPDP1の製造方法としても適用可能である。
2−1.フロントパネルの作製
厚さ約2.6mmのソーダライムガラスからなるフロントパネルガラスの面上に表示電極を作製する。ここでは印刷法によって表示電極を形成する例を示すが、これ以外にもダイコート法、ブレードコート法等で形成することができる。
まず、ITO(透明電極)材料を所定のパターンでフロントパネルガラス上に塗布する。これを乾燥させる。
一方、フォトマスク法を用いて、金属(Ag)粉末と有機ビヒクルに感これを前記透明電極材料の上に重ねて塗布し、形成する表示電極のパターンを有するマスクで覆う。そして、当該マスク上から露光し、現像・焼成(590〜600℃程度の焼成温度)する。これにより透明電極上にバスラインが形成される。このフォトマスク法によれば、従来は100μmの線幅が限界とされていたスクリーン印刷法に比べ、30μm程度の線幅までバスラインを細線化することが可能である。なお、このバスラインの金属材料としては、この他にPt、Au、Ag、Al、Ni、Cr、また酸化錫、酸化インジウム等を用いることができる。
また、前記電極は上記方法以外にも、真空蒸着法、スパッタリング法などで電極材料を成膜したのち、エッチング処理して形成することも可能である。
次に、形成した表示電極の上から、軟化点が550℃〜600℃の酸化鉛系あるいは酸化ビスマス系の誘電体ガラス粉末とブチルカルビトールアセテート等からなる有機バインダーを混合したペーストを塗布する。そして、550℃〜650℃程度で焼成し、誘電体層を形成する。
次に、誘電体層の表面に、本発明の特徴である保護層を、印刷法(厚膜形成法)を用いて形成する。具体的には、予め形成された第1の結晶体材料としての平均粒径50nmの酸化マグネシウム結晶微粒子(宇部興産製)を、第2の結晶体材料として液体状有機材料である酸化マグネシウム前駆体(マグネシウムジエトキシド、ナフテン酸マグネシウム、オクチル酸マグネシウム、マグネシウムジメトキシドの中から選ばれた1種以上)と混合する。これをスピンコート法等により、前記誘電体層の上から厚み約1μmで塗布する。印刷法としては、この他にダイコート法、ブレードコート法等で形成することができる。塗布工程が完了したら、次に約600℃で焼成し、材料中に含まれている炭素成分などの不純物を十分除去することにより、実施の形態1の保護層が形成される。酸化マグネシウム前駆体としては前記以外のものを用いてもよい。
また上記例では、一種類の材料からなる酸化マグネシウム結晶微粒子を用いたが、保護層における粒子密度を確保するため等の目的で、適宜を用いたが、保護層における粒子密度を確保するため等の目的で、適宜複数種類の酸化マグネシウム結晶微粒子を用いても良い。酸化マグネシウム結晶微粒子のサイズは、保護層の厚さに合わせて適宜決定すればよいが、現在の保護層の設計(厚さ700nmから1μm程度)では、数十nmから数百nmのサイズの微粒子を用いるのが良い。
本発明の保護層は、厚膜形成法によって作製しても良好な性能が得られる点で優れているが、製造コストおよびスループットが許容範囲にあれば、薄膜形成法によって形成してもよい。この場合、蒸発源として二種類の異なる材料を用い、通常の真空プロセスを行うという方法がある。
これでフロントパネルが作製される。
2−2.バックパネルの作製
厚さ約2.6mmのソーダライムガラスからなるバックパネルガラスの表面上に、スクリーン印刷法によりAgを主成分とする導電体材料を一定間隔でストライプ状に塗布し、厚さ約5μmのアドレス電極を形成する。ここで、作製するPDP1を例えば40インチクラスのNTSC規格もしくはVGA規格とするためには、隣り合う2つのアドレス電極の間隔を0.4mm程度以下に設定する。
続いて、アドレス電極を形成したバックパネルガラスの面全体にわたって鉛系ガラスペーストを厚さ約20〜30μmで塗布して焼成し、誘電体膜を形成する。
次に、誘電体膜と同じ鉛系ガラス材料を用いて、誘電体膜の上に、隣り合うアドレス電極の間毎に高さ約60〜100μmの隔壁を形成する。この隔壁は、例えば上記ガラス材料を含むペーストを繰り返しスクリーン印刷し、その後焼成して形成できる。なお、本発明では隔壁を構成する鉛系ガラス材料にSi成分が含まれていると、保護層のインピーダンス上昇を抑制する効果が高まるので望ましい。このSi成分はガラスの化学組成に含まれていても、ガラス材料に添加してもよい。
隔壁が形成できたら、隔壁の壁面と、隔壁間で露出している誘電体膜の表面に、赤色(R)蛍光体、緑色(G)蛍光体、青色(b)蛍光体のいずれかを含む蛍光インクを塗布し、これを乾燥・焼成してそれぞれ蛍光体層とする。
RGB各色蛍光の化学組成は、例えば以下の通りである。
赤色蛍光体;Y;Eu3+
緑色蛍光体;ZnSiO:Mn
青色蛍光体;BaMgAl1017:Eu2+
各蛍光体材料は、平均粒径2.0μmのものが使用できる。これをサーバー内に50質量%の割合で入れるとともに、エチルセルローズ1.0質量%、溶剤(α−ターピネオール)49質量%を投入し、サンドミルで撹拌混合して、15×10−3Pa・sの蛍光体インクを作製する。そして、これをポンプにて径60μmのノズルから隔壁20間に噴射させて塗布する。このとき、パネルを隔壁20の長手方向に移動させ、ストライプ状に蛍光体インクを塗布する。その後は500℃で10分間焼成し、蛍光体層21〜23を形成する。
以上でバックパネルが完成される。
なおフロントパネルガラスおよびバックパネルガラスをソーダライムガラスからなるものとしたが、これは材料の一例として挙げたものであって、これ以外の材料でもよい。
2−3.PDPの完成
作製したフロントパネルとバックパネルを、封着用ガラスを用いて貼り合わせる。その後、放電空間の内部を高真空(1.0×10−4Pa)程度に排気し、これに所定の圧力(ここでは66.5kPa〜101kPa)でNe−Xe系やHe−Ne−Xe系、He−Ne−Xe−Ar系などの放電ガスを封入する。本発明の保護層によるポテンシャル放出(二次電子放出特性)に関する効果を有効に得るためには、放電ガスにNeが含まれるようにするとよい。
以上でPDP1が完成する。
3.実施の形態2
次に、実施の形態2のPDPの構成を図4を用いて説明する。
前記実施の形態1では、保護層15として酸化マグネシウム結晶体15Aに示す本実施の形態2の保護層15は、前記酸化マグネシウム結晶微粒子15Bの代わりに、炭素結晶体であるカーボンナノチューブ(CNT)15Cを放電空間24に露出するように、酸化マグネシウム結晶体15A中に分散させた構成としている。この酸化マグネシウム結晶体15AとCNT15Cによって、保護層15に求められる放電開始電圧Vfの低減特性と、放電バラツキの抑制特性をそれぞれ機能分担させている。当該保護層15は、例えば酸化マグネシウム前駆体を含む有機材料にCNTを添加し、これをフロントパネルに塗布・焼成することで形成できる。
このような構成のPDPによれば、PDP駆動時において、まず酸化マグネシウム結晶体15Aが実施の形態1と同様の効果を奏する。CNT15Cは電子放出特性に優れているので、酸化マグネシウム結晶体15Aとともに保護層15の二次電子放出係数(γ)が向上し、放電開始電圧Vfが良好に低減される。
一方、CNT15Cは保護層15の電子放出量を増大させる働きがある。これによりPDP駆動時には保護層15のキャリア濃度が向上するので、結果としてインピーダンス制御が行われ、放電バラツキが抑制される。本発明ではこのように、酸化マグネシウムとCNTを利用する構成としてもよい。
なお、ここでは炭素結晶体としてCNTを用いる構成を示したが、本発明ではこの他にフラーレン等、電子放出特性に優れる炭素結晶体を用いても同様の効果が奏される。
4.その他の事項
上記実施の形態1、2では、PDPの構成例を示したが、本発明はこれに限定するものではなく、例えば放電ガスが封入された放電空間と、当該放電空間に臨むように配された保護層とを有し、上記放電空間内でプラズマを発生して発光する構成の放電発光素子に適用してもよい。具体的な放電発光素子の構成としては、例えば実施の形態1におけるPDP1の単セル構造体とすることができる。
5.実施の形態3
5−1.保護層の構成
次に、実施の形態3のPDP1について図6のPDP部分断面図を用いて説明する。
図1(a)は、x方向断面図、図1(b)は図1(a)のa−a’で切断したy方向断面図である。当該PDP1の基本的な構成は実施の形態1、2と同様であり、特徴部分の保護層15の構成だけが異なる。
すなわち実施の形態3のPDP1では少なくとも保護層15の表面部分において、図1(a)、(b)に示すように、第1の材料として酸化マグネシウムからなるベースに、第2の材料として前記酸化マグネシウムより高いフェルミエネルギーを有する島状金属材料からなる島状金属部150を、放電空間24に臨むように配設した構成としている。具体的には、島状金属部150は一対の表示電極12、13にパネル厚み方向(z方向)で重なる位置(ここではスキャン電極12の直下)に配設した構成としている。
島状金属材料には、仕事関数が5eV以下で、かつ耐スパッタ性に優れたものが望ましく、例えばFe、Al、Mg、Ta、Mo、W、Niの中から選ばれた材料が好ましい。上記例ではAlを用いている。
なお島状金属部の代わりに、前記酸化マグネシウムより高いフェルミエネルギーを有する材料として、この他に各種絶縁材料、半導体材料等を選び、これを島状に形成して用いることもできる。
5−2.実施の形態3の効果
図7は、MgO膜上に上記島状金属部を形成し、これについて測定した光電子分光データである。当図7中、実施の形態3の保護層に関するデータが2Aに相当し、比較例(通常のMgO膜からなる保護層)に関するデータが2Bに相当する。島状金属部としては、セル開口部面積の10分の1程度としている。本発明の島状金属部は、空間周期がセルサイズの10分の1以下程度になるよう設定するのが望ましい。
このデータから明らかなように、実施の形態3の性能を示す2Aのデータでは、島状金属部が微小な領域であるにもかかわらず、電子放出がAlの仕事関数である4.2eVで立ち上がっている。一方、比較例のデータにおける電子放出の立ち上がりは、5.0eV程度であり、真空準位から測ったMgO膜のフェルミレベル(エネルギー)までのエネルギーに相当する。このことから実施の形態3では、MgO膜自体で放電開始電圧Vfを抑制しつつ、島状金属部によって保護層の電子放出特性を向上させ、放電バラツキを抑制させる効果が期待できる。
AlとMgOのエネルギーバンドを図8に示す。当図に示されるエネルギー関係から、実施の形態3の保護層15において、酸化マグネシウム表面に島状金属部150を設けることにより壁電荷が充分保持できるようになり、かつ2次電子放出量の多い特性が得られることが分かる。これはPDPの保護層として好ましい特性であると言える。
ここで島状金属部150は、それぞれの島状金属部150が互いに孤立して絶縁状態になるよう設ける必要があるが、セル放電等に必要な壁電荷が抜けない程度の個数、大きさ、形状、形成場所であれば問題はない。
また、前記島状金属部150を配置する位置は、PDP駆動時に発生する放電によって、スパッタリングが顕著になされる保護層表面領域を避け、且つ、画像表示のための可視光発光を遮蔽することのないような位置が望ましい。この理由から、本実施の形態3では、図6に示すように、表示電極直下、例えばスキャン電極12上のバスライン12114の直下が適している。
このような実施の形態3では、本願発明者らの実験によれば、従来のものに比べて放電開始電圧Vfを20%程度低減でき、かつ壁電荷の保持力については従来のものと遜色なく、黒ノイズにおいても従来に比べて生じにくい良好なPDPを実現できることが分かっている。
6.実施の形態4
次に、実施の形態4のPDP1について図9の保護層正面図を用いて説明する。図9(a)および図9(b)はそれぞれ保護層の別構成を示す。
当該PDP1の基本的な構成は実施の形態1〜3と同様であり、特徴部分の保護層15の構成だけが異なる。
図9(a)に示す構成例では、保護層15において、隣接する第1の材料としての酸化マグネシウム結晶粒152の結晶粒界153もしくはその近傍に、実施の形態3で説明した第2の材料として、MgOのフェルミエネルギーよりも高いフェルミエネルギーをもつ絶縁体もしくは半導体、もしくは金属を析出させ、保護層全体で複合体を形成する構成となっている。
このような保護層15は、Mgなどの650℃程度以下の融点を持つ金属材料をMgO中で選択的に溶融させることで形成できる。
もちろん、上記結晶粒界153に析出させる金属としてはMgに限るものではなく、5eV以下の仕事関数を持ち、かつ耐スパッタ性に優れたものが好ましい。上記金属材料は、例えば、Fe、Al、Ta、Mo、W、Niの中から選ばれた1種以上であってもよい。
一方、図9(b)に示す構成例は、MgOの多結晶膜中において、酸化マグネシウム結晶粒152とともに、MgOのフェルミエネルギーよりも高いフェルミエネルギーをもつ絶縁体もしくは半導体、もしくは金属(Fe)などの別の材料の結晶粒154を分散させたナノコンポジット複合材料からなる保護層15である。当該ナノコンポジット複合材料としては、例えば、Journal of the Ceramic Society of Japan 108(9)(2000)p.781−784に開示された技術で作製されたMgO/Feのナノコンポジット複合材料を用いてもよい。
上記結晶粒154に用いる金属としてはFeに限らず、5eV以下の仕事関数を持ち、かつ耐スパッタ性に優れたものが好ましい。例えば、Mg、Al、Ta、Mo、W、Niなどを用いることが可能である。
図10(a)、(b)は、図9(a)、(b)に示したような複合体や複合材料をPDPの保護層15に適用させた具体的な構成を示している。図10(a)は、x方向断面図、図10(b)は図10(a)のa−a’で切断したy方向断面図である。当図10に示す構成では、前記複合体または複合材料からなる保護層領域を各サブピクセルSU(放電セル)内で局所的に設けている。具体的には、複合体または複合材料からなる保護層領域は、前記実施の形態3の島状金属部150と同様に、PDP駆動時に発生する放電によって、スパッタリングが顕著になされる領域を避け、且つ、画像表示のための可視光発光を遮蔽することのないような位置に設けることが望ましい。この理由から図10(a)、(b)の構成例では、表示電極直下、例えばスキャン電極12上のバスライン121の直下に島状に局所的に設けている。
なお、実施の形態4では前記複合体または複合材料からなる保護層領域を局所的に設ける構成に限定するものではなく、保護層15全体を前記複合体または複合材料により構成してもよい。
実施の形態4では、発明者の実験によれば従来に比べて放電開始電圧Vfを20%程度低減でき、かつ壁電荷の保持力については従来のものと遜色なく、黒ノイズにおいても従来に比べて生じにくい良好なPDPを実現できることが明らかにされている。
本願発明は、テレビジョン、特に高精細な再現画像が可能なハイビジョンテレビに適用が可能である。

Claims (3)

  1. 保護層が形成された第1基板が、放電空間を介して第2基板と対向配置され、前記両基板周囲が封着されてなるプラズマディスプレイパネルであって、
    保護層の表面には、
    互いに電子放出特性の異なる第1の結晶体と第2の結晶体が、それぞれ前記放電空間に露出し、且つ、第1の結晶体中に第2の結晶体が分散されており、
    第1の結晶体はMgO結晶体からなり、第2の結晶体はMgO結晶微粒子からなり、
    前記第1の結晶体は、薄膜形成法によって形成されている、
    プラズマディスプレイパネル。
  2. 前記第の結晶体の純度は、第1の結晶体の純度よりも高い請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
  3. 保護層が形成された第1基板を、放電空間を介して第2基板と対向配置し、前記両基板周囲を封着する工程を経るプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
    互いに電子放出特性の異なる第1の結晶体と第2の結晶体を第1基板上に配設する配設ステップを有し、
    配設ステップでは、薄膜形成法で形成したMgO結晶体からなる第1の結晶体と、MgO結晶微粒子からなる第2の結晶体を用い、保護層表面において、第1の結晶体及び第2の結晶体をそれぞれ前記放電空間に露出させるとともに、第1の結晶体中に第2の結晶体を分散するように配設する、
    プラズマディスプレイパネルの製造方法
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