以下に、本発明の実施の形態及び実施例を説明するが、当然ながら本発明はこれらの形式に限定されるものでなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。
<実施の形態1>
(PDPの構成例)
図1は、本発明の実施の形態1に係るPDP1の構造を模式的に示す断面図である。
PDP1としては、以下では42インチクラスの1024×768(画素数)仕様を例として説明するが、本発明は当然ながら、他の仕様にも適用可能であり、例えば、1920×1080(画素数)を備えるフルHDパネルにも、また、7680×4320(画素数)のスーパーハイビジョンにも、適用可能である。
図1に示すように、PDP1の構成は互いに主面を対向させて配設された第1基板(フロントパネル)2、および第2基板(バックパネル)9に大別される。
フロントパネル2の基板となるフロントパネルガラス3には、その一方の主面に所定の放電ギャップ(75μm)をおいて配設された一対の表示電極対6(走査電極5、維持電極4)が複数対にわたり形成されている。各表示電極対6は、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO2)等の透明導電性材料からなる帯状の透明電極51、41(例えば、厚さ0.1μm、幅150μm)に対して、Ag厚膜(例えば、厚み2μm〜10μm)、Al薄膜(例えば、厚み0.1μm〜1μm)またはCr/Cu/Cr積層薄膜(例えば、厚み0.1μm〜1μm)等からなるバスライン52、42(例えば、厚さ7μm、幅95μm)が積層されてなる。
そして、表示電極対6を配設したフロントパネルガラス3には、その主面全体にわたり、酸化鉛(PbO)または酸化ビスマス(Bi2O3)または酸化燐(PO4)を主成分とする低融点ガラス(厚み約30μm)の誘電体層7が、スクリーン印刷法等によって形成されている。
誘電体層7は、AC型PDP特有の電流制限機能を有し、DC型PDPに比べて長寿命化を実現する要素になっている。誘電体層7の放電空間側の面には、膜厚約1μmの膜層8と、当該膜層8の表面に、MgO結晶粒子16aを含むMgO結晶粒子群16が配設されている。この膜層8およびMgO結晶粒子群16の組み合わせにより、誘電体層7に対する保護層17が構成されている。
膜層8は、誘電体層7および表示電極対6をプラズマ放電のイオン衝突より保護すると共に、二次電子を効率よく放出し、放電開始電圧を低下させる役目をなす薄膜であって、耐スパッタ性および二次電子放出係数γに優れる、例えばMgO材料からなる。当該材料は、さらに良好な光学透明性、電気絶縁性を有する。一方、MgO結晶粒子群16は、前記前駆体を焼成することにより形成される。なお、図1では説明のため、膜層8の表面に配設されるMgO結晶粒子群16を実際よりも大きく、模式的に表している。
バックパネル9の基板となるバックパネルガラス10には、その一方の主面に、Ag厚膜(厚み2μm〜10μm)、Al薄膜(厚み0.1μm〜1μm)またはCr/Cu/Cr積層薄膜(厚み0.1μm〜1μm)等のいずれかからなるデータ電極11が、幅100μmで、x方向を長手方向としてy方向に一定間隔毎(360μm)でストライプ状に並設される。そして、各々のデータ電極11を内包するように、バックパネルガラス9の全面にわたって、厚さ30μmの誘電体層12が配設されている。
誘電体層12の上には、さらに隣接するデータ電極11の間隙に合わせて井桁状の隔壁13(高さ約110μm、幅40μm)が配設され、放電セルが区画されることで誤放電や光学的クロストークの発生を防ぐ役割をしている。隣接する2つの隔壁13の側面とその間の誘電体層12の面上には、カラー表示のための赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の各々に対応する蛍光体層14が形成されている。各種組成として、青色蛍光体(B)には、既知のBAM:Eu、赤色蛍光体(R)には(Y、Gd)BO3:EuやY2O3:Eu等、緑色蛍光体(G)にはZn2SiO4:Mn、YBO3:Tbおよび(Y、Gd)BO3:Tb等が利用できる。なお、誘電体層12は必須ではなく、データ電極11を直接蛍光体層14で内包するようにしてもよい。
そして、フロントパネル2とバックパネル9は、データ電極11と表示電極対6の互いの長手方向が交差するように対向配置され、両パネル2、9の外周縁部がガラスフリットで封着されている。この両パネル2、9間にはXeを含む不活性ガス成分からなる放電ガスが所定の圧力で封入される。
隔壁13の間は放電空間15であり、隣り合う一対の表示電極対6と1本のデータ電極11が放電空間15を挟んで交叉する領域が、画像表示にかかる放電セル(「サブピクセル」とも言う)に対応する。放電セルピッチはx方向が675μm、y方向が300μmである。隣り合うRGBの各色に対応する3つの放電セルで1画素(675μm×900μm)が構成される。
走査電極5、維持電極4およびデータ電極11の各々は、図2に配線の概略を平面図で示すように、パネルxy方向端部付近において、駆動回路として走査電極ドライバ111、維持電極ドライバ112、データ電極ドライバ113が電気的に接続される。ここで、維持電極4は一括して維持電極ドライバ112に接続され、各走査電極5と各データ電極11は、それぞれ独立して走査電極ドライバ111或いはデータ電極ドライバ113に接続される。
(PDPの駆動例)
PDP1は、各ドライバ111〜113を含む公知の駆動回路(不図示)によって、駆動時には各表示電極対6の間隙に数十kHz〜数百kHzのAC電圧が印加される。これにより任意の放電セル内で放電が発生し、励起Xe原子による波長147nm主体の共鳴線と励起Xe分子による波長173nm主体の分子線を含む紫外線が蛍光体層14に照射される。蛍光体層14は励起されて可視光発光する。そして当該可視光はフロントパネル2を透過して前面に発光される。
この駆動方法の一例としては、フィールド内時分割階調表示方式が採られる。当該方式は、表示するフィールドを複数のサブフィールド(S.F.)に分け、各サブフィールドをさらに複数の期間に分ける。1サブフィールドは更に、(1)全放電セルを初期化状態にする初期化期間、(2)各放電セルをアドレスし、各放電セルへ入力データに対応した表示状態を選択・入力していく書込期間、(3)表示状態にある放電セルを表示発光させる維持期間、(4)維持放電により形成された壁電荷を消去する消去期間、という4つの期間に分割されてなる。
各サブフィールドでは、初期化期間で画面全体の壁電荷を初期化パルスでリセットした後、書込期間で点灯すべき放電セルのみに壁電荷を蓄積させる書込放電を行い、その後の放電維持期間ですべての放電セルに対して一斉に交流電圧(維持電圧)を印加することによって一定時間放電維持することで発光表示する。
ここで図3は、フィールド中の第m番目のサブフィールドにおける駆動波形の例を示す図である。図3が示すように、各サブフィールドには、初期化期間、アドレス期間、維持期間、消去期間がそれぞれ割り当てられる。
初期化期間とは、それ以前の放電セルの点灯による影響(蓄積された壁電荷による影響)を防ぐため、画面全体の壁電荷の消去(初期化放電)を行う期間である。図3に示す駆動波形の例では、走査電極5にデータ電極11および維持電極4に比べて高い電圧(初期化パルス)を印加し放電セル内の気体を放電させる。それによって発生した電荷はデータ電極11、走査電極5および維持電極4間の電位差を打ち消すように放電セルの壁面に蓄積されるので、走査電極5付近の膜層8およびMgO結晶粒子群16の表面には、負の電荷が壁電荷として蓄積される。またデータ電極11付近の蛍光体層14表面および維持電極4付近の膜層8およびMgO結晶粒子群16の表面には、正の電荷が壁電荷として蓄積される。この壁電荷により、走査電極5―データ電極11間、走査電極5―維持電極4間に所定の値の壁電位が生じる。
アドレス期間(書込期間)は、サブフィールドに分割された画像信号に基づいて選択された放電セルのアドレッシング(点灯/不点灯の設定)を行う期間である。当該期間では、放電セルを点灯させる場合には走査電極5にデータ電極11および維持電極4に比べ低い電圧(走査パルス)を印加させる。すなわち、走査電極5―データ電極11には前記壁電位と同方向に電圧を印加させると共に走査電極5―維持電極4間に壁電位と同方向にデータパルスを印加させ、アドレス放電(書込放電)を生じさせる。これにより蛍光体層14表面、維持電極4付近の膜層8およびMgO結晶粒子群16の表面には、負の電荷が蓄積され、走査電極5付近の膜層8およびMgO結晶粒子群16の表面には、正の電荷が壁電荷として蓄積される。以上で維持電極4―走査電極5間には所定の値の壁電位が生じる。
維持期間は、階調に応じた輝度を確保するために、書込放電により設定された点灯状態を拡大して放電を維持する期間である。ここでは上記壁電荷が存在する放電セルで、一対の走査電極5および維持電極4の各々に維持放電のための電圧パルス(例えば約200Vの矩形波電圧)を互いに異なる位相で印加する。これにより表示状態が書き込まれた放電セルに対し電圧極性の変化毎にパルス放電を発生せしめる。
この維持放電により、放電空間における励起Xe原子からは147nmの共鳴線が放射され、励起Xe分子からは173nm主体の分子線が放射される。この共鳴線・分子線が蛍光体層14表面に照射され、可視光発光による表示発光がなされる。そして、RGB色ごとのサブフィールド単位の組み合わせにより、多色・多階調表示がなされる。なお、膜層8に壁電荷が書き込まれていない非放電セルでは、維持放電が発生せず表示状態は黒表示となる。消去期間では、走査電極5に漸減型の消去パルスを印加し、これによって壁電荷を消去させる。
(保護層17について)
本発明の実施の形態1によるPDPの特徴は、PDP1における保護層17の構成にある。すなわち、保護層17は、誘電体層7上に設けられた例えばMgOの膜層8と、当該MgO膜層8上に配設された、例えば、MgOの結晶粒子群16で構成される。MgO膜層8は、厚さ約1μmのMgO薄膜であって、誘電体層7上に真空蒸着法、イオンプレーティング法等、公知の薄膜形成法で成膜されてなる。当該MgO膜層8は、PDPの駆動時には十分な量の壁電荷を安定に蓄積する役目をなす。
一方、MgO結晶粒子群16は、MgO前駆体を焼成して得たものであって、平均粒径が300nm〜4μmの比較的均一な粒径分布を持つMgO結晶粒子16aを平面的に凝結させることにより構成されている。ここで、当該MgO結晶粒子16aの平均粒径は、SEM画像に現れた粒子の粒径から調査・計測したものである。
なお、当該膜層8の材料はMgOに限らず、MgO、CaO、BaOおよびSrOの群より選ばれた少なくとも一つの金属酸化物を含むように構成できる。
また、MgO結晶粒子群16は、保護層17において、少なくとも放電空間に臨む部分に設けられていればよい。さらに、MgO結晶粒子16aが分布する領域の面積が、保護層17の当該放電空間を臨む部分(ここではMgO膜層8)の面積に対して1%以上30%以下の範囲と設定するのが望ましい。すなわち、MgO結晶粒子群16は、MgO膜層8の全面に被覆されている必要はなく、MgO膜層8の上に島(island)の形態に形成するのが好適である。
この点を具体的に説明する。MgO膜層8は、上記のように、主として壁電荷の蓄積・保持機能を有し、PDP駆動時において表示電極4、5間で維持放電を発生させるための電圧維持機能を発揮するものである。これに対しMgO結晶粒子群16は、駆動時において、放電空間15内への電子放出機能に特化した構成である。
ここで仮にMgO膜層8の全面にMgO結晶粒子群16を密に配設すると、放電空間15へ電子放出は活発にできるが、維持放電を発生させるために必要な電子まで過剰に放出されてしまい、維持放電が正常に行えないおそれがある。
このような問題を効果的に回避し、MgO膜層8の電圧維持機能とMgO結晶粒子群16による電子放出機能とを両立させるためには、ある程度、MgO膜層8の表面が放電空間15に臨んでいるような構成が好適である。従って、MgO結晶粒子16aは、MgO膜層8の表面において、なるべく分散させて配設することで、上述した被覆率のMgO結晶粒子群16とする。さらに具体的には、例えば複数の粒子の集まりからなる二次粒子として配設してもよいし、公知のインクジェット法を用いたパターニングにより配設しても良い。また、所定のパターンでMgO膜層8上にMgO結晶粒子群16を配設することも可能である。なお、ここで言う「島」とは、MgO膜層8が放電空間に露出するような、MgO結晶粒子群16の配設状態全てを含む概念をいうものである。
また、「MgO結晶粒子16aが分布する領域」とは、保護層8の平面方向に対し垂直な方向から保護層8を視したときに、MgO結晶粒子16aに隠れてMgO膜層8又は誘電体層7を直接見ることができない領域のことをいう。これを言い換えると、前記結晶粒子群16の層が放電空間15に臨む面積は、フロントパネル2が放電空間15に臨む全面積よりも小さいと言うことができる。
なお、本発明の一実施の形態によるPDPにおけるMgO結晶粒子16aは、従来の前駆体焼成法で作製されるMgO結晶粒子のように、特定の辺が他の辺よりも長い偏平な板状体ではなく、基本的に辺の長さが所定の範囲内に整った六面体もしくは八面体結晶の形状を有する。さらには、六面体構造を採る場合、正六面体であれば好ましい。しかし、製造条件による誤差を考慮すると、最も長い辺の長さと最も短い辺の長さの比が、1対1〜2対1であってもよい。一方、八面体構造を採る場合、正八面体であれば好ましい。しかし、製造条件による誤差を考慮すると、最も長い辺の長さと最も短い辺の長さの比が、1対1〜2対1であってもよい。また、六面体もしくは八面体結晶の形状における稜線及び頂点は、明確に存在する必要はない。
ここで、例えばMgOからなる膜層8は、スパッタリング法、イオンプレーティング法、電子線蒸着法等によって成膜すれば良く、また、例えばMgOの結晶粒子群16は、MgO前駆体焼成による作製方法とすれば、後述する従来の気相酸化法で作製されたMgO結晶粒子群(例えば特開2006ー147417号公報)に比べて粒径のバラツキを抑制できるため、各MgO結晶粒子16aにわたり、均一な放電特性を発揮できるという有利な効果を有する。
ここで、図4にMgO結晶粒子に照射する真空紫外光の波長と、MgO結晶粒子からの発光強度の関係を示す。MgO結晶粒子に照射する波長が短いほど、高エネルギーの真空紫外光を照射したことになる。図4からは、2つのピークが存在すること、それぞれのピーク閾値が〜165nm及び〜230nmにあることが判る。これは、それぞれ、〜7.5eV及び〜5.4eV以上のエネルギーを持つ真空紫外光を照射することで、それぞれの発光が起こることを意味する。〜7.5eV及び〜5.4eV以上のエネルギーを持つ真空紫外光照射による発光は、CL発光の短波長領域及び中波長領域の発光と思われ、これらの発光が強く見られるMgO結晶粒子は結晶性が高く、一度励起された電子が、比較的エネルギーの高い準位でいる確率が高くなると考えられ、電子放出特性が高いと考えられる。
すなわち、本発明の一実施の形態による、MgO結晶粒子群16を持つPDP1によれば、エキソ電子放出能が増大されたMgO結晶粒子16aが、放電空間15に臨むように膜層8に分散配置されることとなるので、PDPの駆動時に各MgO結晶粒子16の表面から放電空間15内に向けて豊富にエキソ電子が放出される。その結果、PDP1では放電遅れを抑制することができる。
ここでPDP1では、MgO結晶粒子群16の配設に際し、膜層8に対してそれほど多くのMgO結晶粒子16aを被着させることなく、平面的に分散させて配設されており、当該MgO結晶粒子群16による膜層8の被覆率が低く抑えられている。このため、フロントパネル2ではディスプレイとして適度な可視透過率が確保される一方、放電遅れの発生に対しても十分な抑制効果が図られ、結果として優れた画像表示性能が発揮されるようになっている。
放電遅れの改善のためには、特許文献1または2に示されているように、結晶格子中に酸素欠陥やドーパントを導入して、エネルギーバンド中の局在準位を増大させる手法が知られている。しかし、この方法ではMgO膜の構成が経時的に不安定であり、使用時間が増すに従い構造劣化を生じ、放電特性が変化してしまう恐れがある。
本発明の実施の形態1によるPDPにおけるMgO結晶粒子16は、経時的に安定な結晶構造が維持され、且つ、165nm以下の励起光で励起した電子がバレンスバンドより5.4eV以上の準位に留まる時間が4ms以上と長いため、良好且つ安定的にエキソ電子を放出させる作用が期待できる。同時に、二次電子放出係数の増大も期待できる。
以上のことから、本発明の実施の形態1によるPDP1では、保護層17の構成において、放電空間15に面する部分にMgO結晶粒子群16を配設することにより、PDPの「放電遅れ」の課題と「放電遅れの温度依存性」の課題との両方を、効果的に抑制することができる。
また、MgO結晶粒子群16を用いた場合に得られるその他の効果として、パルス依存性の改善が挙げられる。すなわち、フィールド内示分割表示方式では、各電極6、11に対してサブフィールド毎に繰り返し無数のパルスを高速で印加するが、この場合、1のサブフィールドにおいて印加したパルスの放電履歴が、次のサブフィールドにおける放電に影響を及ぼす性質がある。
また本発明の実施の形態1のPDPでは、保護層17の放電遅れ・放電遅れの温度依存性に関する放電特性が向上され、放電現象に対する高速応答性に優れている。これにより、駆動時には各セルにおいて、パルス印加後の壁電荷状態が安定され、パルス依存性の改善も期待できる。よって、本実施の形態1のPDP1によれば、放電履歴の影響も抑制し、一層良好な画像表示性能が実現される。この効果は、フルスペックHD等の微細なセル構造を持つPDPにおいて、短パルスが高速で印加される場合に特に発揮されるものである。
さらにMgO結晶粒子群16の特性は、それが呈するCLの測定から得られるスペクトルからも規定できる。CLスペクトルにおいて、短波長領域(200nm以上300nm未満)のスペクトル最大値をa、300nm以上550nm未満の波長領域のスペクトル最大値をbとするときの比率a/bと放電遅れとの関係を図5に示す。
図5より、a/bが2以上で放電遅れが、ばらつきを含みながらほぼ一定になっていることが分かる。そして、このばらつきの原因の一つが、165nm以下の励起光で励起した電子がバレンスバンドより5.4eV以上の準位に留まる時間の長さによると考えられる。すなわち上記準位に励起される電子の数が多く、且つ、その準位に留まる時間が長いMgO粉体ほど電子放出特性が良く、PDPの放電遅れを改善できると考えられる。
さらに、上記比率a/bにおいて、2以上から上記の効果が顕著に現れ始め、5ではその効果が飽和傾向にあり、12までになると、放電遅れのばらつきがかなり小さくなる。このことから、前記比率は2以上であることが好ましいが、5以上、または12以上とすることもできる。
なおCL法とは、試料に電子線を照射してエネルギー緩和過程としての発光スペクトルを検出する方法である。CL法によれば、保護層の構成に係る情報(例えばMgO中の酸素欠陥の存在等)を分析できる。
(CL測定結果より考察される保護層特性について)
本発明の実施の形態1によるPDPが有するMgO結晶粒子群16の特性は、CLの測定結果により、上記第一の定義とすることが可能である。以下、このような定義がなされる原理について説明する。
一般にMgOについてのCL測定では、短波長領域に加えて中波長領域に発光ピークが観測される(たとえば特許文献3)。ここで、従来の気相酸化法は、例えば特許文献3に示されるように、Mg(マグネシウム金属)を不活性ガスが満たされた槽中で、高温に加熱しながら酸素ガスを少量流し、Mgを直接酸化させてMgO結晶粒子群(粉体)を作製する合成方法である。従って十分に酸素がMgO中に取り込まれにくいため、酸素欠陥が生じやすいMgO結晶粒子群(粉体)になる。
上記した中波長領域で測定される発光ピークは、一般に酸素欠陥に起因すると言われており(非特許文献1)、気相酸化法で作製したMgO結晶粒子では、この放電遅れや放電遅れの温度依存性が悪化する原因と考えられるピークが顕著に現れる。この中波長領域で測定される波形隆起部に寄与するような準位がバンドギャップ間に多数存在すると、電子の遷移確率が増え、電子のエネルギーの緩和が起こりやすく、励起された電子がそのエネルギー準位にトラップされる時間が短くなると考えられる。このため、コンダクションバンド近傍の準位に電子が存在する確率が減少し、結果的に深い準位からの電子の放出を起こさなければならなくなると考えられる。
一方で、短波長領域で測定される発光ピークの存在は、5eV程度の電子のエネルギーの緩和過程が存在することを立証するものであり、オージェ過程での電子放出が存在すると考えられる。
ここでオージェ遷移とは、励起された電子のエネルギーが緩和する際に発生する余剰エネルギーを他の電子が受け取り、その電子が励起されるという電子の励起過程の一種である。このオージェ遷移によって励起され放出する電子も、他の過程で放出された電子と同様にPDPの放電に寄与すると考えられ、このことも短波長領域で測定される発光ピークを有するMgO結晶粒子群16の層を、前記前面板の放電空間側の全面あるいは一部に形成したPDPの放電特性が優れている要因の一つであると考えられる。
したがって、短波長領域で測定される発光ピークが大きく、中波長領域で測定される波形隆起部が小さいようなMgO結晶粒子群16を用いるとPDPの放電遅れや放電遅れの温度依存性が改善されると考えられる。逆に、中波長領域で大きな発光ピークが存在することは、コンダクションバンド近傍の準位に存在する電子が小さなエネルギー緩和で遷移することを促すため、上記の5eV程度という大きな余剰エネルギーを創出する電子の遷移が起こりにくくなり、上記で述べたオージェ遷移等による電子放出もほとんど見られなくなることが予想される。
以上のように、MgOのCL測定において中波長領域に発光ピークが観測される場合には、当該試料を保護層に用いた場合、放電遅れや放電遅れの温度依存性が優れないことが予想される。一方、本実施の形態1においては、MgO前駆体を焼成して得たMgO結晶粒子群16についてCL測定を行った場合、スペクトルの短波長領域において相当程度の値を持ち、ピーク状の波形をなす隆起状波形部が確認される。このような特性の隆起状波形部は、従来の気相酸化法等により作製されたMgO結晶粒子には見られない。よって当該隆起状波形部の有無は本願特有のものと言え、PDPの放電遅れ及び放電遅れの温度依存性について抑制効果を呈するか否かを確認する場合の指標となりうる。
なお、前記スペクトル積分値及び前記スペクトル最大値の比率の上限は、CL測定装置の測定限界(測定されるスペクトルのサチュレーションによる限界)を考慮すると、いずれも1000倍程度である。
<実施の形態2>
以下、本発明の実施の形態2によるPDP21について、実施の形態1によるPDP1との差異を中心に説明する。
図6は、本発明の実施の形態2に係るPDP21の構成を概略的に示す断面図である。PDP21の特徴は、膜層8を用いず、誘電体層7の上に直接、例えばMgOによる結晶粒子群16を配設し、これを保護層とした点にある。MgO結晶粒子群16をなすMgO結晶粒子16aは、実施の形態1の場合と同じである。
このような構成を持つPDP21によっても、PDP1と同様の効果が奏される。すなわち、誘電体層7表面に配設されたMgO結晶粒子群16によって、PDP21の駆動時には、エキソ電子放出能が増大されたMgO結晶粒子16aが、放電空間15に臨むように分散配置されているので、PDP21の駆動時に各MgO結晶粒子16aの表面から放電空間15内に向けて豊富にエキソ電子が放出される。その結果、PDP21では放電遅れを抑制することができる。また、放電開始電圧の低減も期待できる。MgO結晶粒子群16による誘電体層7の被覆率が低く抑えられているため、適度な可視透過率の確保と放電遅れの発生抑制が両立され、優れた画像表示性能が発揮される。
さらにPDP21では、実施の形態1のPDP1における膜層8がない構造であることから、当該膜層8(図1)を成膜するための工程(スパッタリング法、イオンプレーティング法、電子線蒸着法等を含む薄膜プロセス)が全く不要である。従って、その分、工程を省略できるので、製造コストを低減できるという有効且つ大きなメリットがある。
なお、以上述べた実施の形態1および2におけるPDP1、21においては、MgO結晶粒子16aは、膜層8もしくは、誘電体層7の表面上に加えて、蛍光体層14や隔壁13の表面、すなわち、前記第1基板2と第2基板9の間の単位発光領域に対向する部分に配設されてもよい。
<PDPの製造方法>
次に、本発明の実施の形態1および2におけるPDP1、21の製造方法について、その一例を説明する。
(バックパネル9の作製)
厚さ約2.6mmのソーダライムガラスからなるバックパネルガラス10の表面上に、スクリーン印刷法によりAgを主成分とする導電体材料を一定間隔でストライプ状に塗布し、厚さ数μm(例えば約5μm)のデータ電極11を形成する。データ電極11の電極材料としては、Ag、Al、Ni、Pt、Cr、Cu、Pd等の金属や、各種金属の炭化物や窒化物等の導電性セラミックスなどの材料やこれらの組み合わせ、あるいはそれらを積層して形成される積層電極も必要に応じて使用できる。続いて、データ電極11を形成したバックパネルガラス10の面全体にわたって鉛系あるいは非鉛系の低融点ガラスやSiO2材料からなるガラスペーストを厚さ約20〜30μmで塗布して焼成し、誘電体層12を形成する。
次に、誘電体層12面上に所定のパターンで隔壁13を形成する。この隔壁13は、低融点ガラス材料ペーストを塗布し、サンドブラスト法やフォトリソグラフィ法を用い、隣接放電セル(図示省略)との境界周囲を仕切るように、放電セルの複数個の配列を行および列を仕切る井桁形状のパターンで形成する。
隔壁13が形成できたら、隔壁13の壁面と、隔壁13間で露出している誘電体層12の表面に、AC型PDPで通常使用される赤色(R)蛍光体、緑色(G)蛍光体、青色(B)蛍光体のいずれかを含む蛍光インクを塗布する。これを乾燥・焼成し、それぞれ蛍光体層14とする。
適用可能なRGB各色蛍光の化学組成例としては、赤色蛍光体;(Y、Gd)BO3:Eu、Y2O3:Eu、緑色蛍光体;Zn2SiO4:Mn、YBO3:Tbおよび(Y、Gd)BO3:Tb、青色蛍光体;BaMgAl10O17:Eu、であり、また、各蛍光体材料の平均粒径は2.0μm程度のものが好適である。
上記蛍光体インクは、例えば体積平均粒径2μmの青色蛍光体30質量%と、質量平均分子量約20万のエチルセルロース4.5質量%と、ブチルカルビトールアセテート65.5質量%とを混合して作製する。また、隔壁30に対するインクの付着力を高めるため、粘度を最終的に2000〜6000cps(2〜6Pas)程度に調整する。そして例えばメニスカス法やラインジェット法などの公知の塗布方法により、蛍光体インクをポンプを用い、径60μmのノズルから隔壁13間に噴射させて塗布する。このとき、パネルを隔壁13の長手方向に移動させ、ストライプ状に蛍光体インクを塗布する。塗布したインクは500℃で10分間焼成することにより、蛍光体層14を形成する。
以上でバックパネル9が完成される。
(フロントパネル2の作製)
厚さ約2.6mmのソーダライムガラスからなるフロントパネルガラス3の面上に、表示電極対6を作製する。ここでは印刷法によって表示電極対6を形成する例を示すが、これ以外にもダイコート法、ブレードコート法等で形成することができる。
まず、ITO、SnO2、ZnO等の透明電極材料を最終厚み約100nmで、ストライプ等所定のパターンでフロントパネルガラス上に塗布し、乾燥させる。これにより透明電極41、51が作製される。
一方、Ag粉末と有機ビヒクルに感光性樹脂(光分解性樹脂)を混合してなる感光性ペーストを調整し、これを前記透明電極41、51の上に重ねて塗布し、形成するバスラインのパターンに合わせた開口部を有するマスクで覆う。そして、当該マスク上から露光し、現像工程を経て、590〜600℃程度の焼成温度で焼成する。これにより透明電極41、51上に最終厚みが数μmのバスライン42、52が形成される。このフォトマスク法によれば、従来は100μmの線幅が限界とされていたスクリーン印刷法に比べ、30μm程度の線幅までバスライン42、52を細線化することが可能である。バスライン42、52の金属材料としては、Agの他にPt、Au、Al、Ni、Cr、また酸化錫、酸化インジウム等を用いることができる。バスライン42、52は上記方法以外にも、蒸着法、スパッタリング法などで電極材料を成膜したのち、エッチング処理して形成することも可能である。
次に、表示電極対6の上から、軟化点が550℃〜600℃の鉛系あるいは非鉛系の低融点ガラスやSiO2材料粉末とブチルカルビトールアセテート等からなる有機バインダーを混合したペーストを塗布する。そして550℃〜650℃程度で焼成し、最終厚みが膜厚数μm〜数十μmの誘電体層7を形成する。
(MgO結晶粒子16の製造方法)
MgO結晶粒子群16に用いられるMgO結晶粒子16aは、酸化マグネシウムの前駆体を、焼成することによって得る。MgO前駆体としては、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、炭酸マグネシウム(MgCO3)、マグネシウムのアルコキシド、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウムの内の1種以上を用いることができる。なお、焼結助剤として、フッ化マグネシウム(MgF2)、塩化マグネシウム(MgCl2)、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化リチウム(LiF)、塩化ナトリウム(NaCl)等のハロゲン化合物の内の1種以上を用いることもできる。
原料の混合方法は、溶媒を用いた湿式混合、或いは乾燥粉体を用いた乾式混合のいずれで行ってもよい。湿式混合を行う場合は、溶媒として、水以外に、エチルアルコール、メチルアルコール、iso―プロピルアルコール、n―プロピルアルコール、n―ブトキシアルコール、sec―ブトキシアルコール、tert―ブトキシアルコール等のアルコールや、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸メチル、2―メトキシ酢酸エチル等の酢酸エステルや、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトンを用いることができ、特に限定されるものではない。
乾式混合を行う場合は、工業的に通常用いられるボールミル、媒体撹拌ミル、遊星型ボールミル、振動ミル、ジェットミル、V型混合機等を用いることができる。なお、原料中の粗大な粒子は、放電特性に悪影響を及ぼすので、粒度を揃えるために分級を実施しておくことが好ましい。
MgO前駆体は、600℃〜1800℃、好ましくは900℃〜1500℃で15分〜10時間焼成することによりMgO結晶粒子16aが得られる。焼成温度と焼成時間は、用いる前駆体の粒子径や分級条件、焼結助剤の添加量、混合粉体量など、様々な条件により適宜調整する必要がある。また、所望の放電特性を得るために、焼成時の雰囲気を酸化、あるいは還元雰囲気制御することもできる。焼成粉体量によっては、焼結助剤との混合の均質性を高めるため、本焼成前に仮焼工程を経ることが好ましい。
仮焼工程は大気中で700〜1000℃で15分〜5時間焼成して行うが、本焼成工程と同様に焼成温度と焼成時間は、上述した様な条件の違いによって適宜調製する必要がある。仮焼工程により得られる粉体は解砕、混合した後、本焼成工程で処理する。この際の仮焼粉の混合方法も湿式混合および乾式混合のいずれでもよいが、湿式混合の場合は、例えば水のように、MgOの溶解を伴う溶媒は使用できないため留意する。各焼成工程で利用する焼成炉は、工業的に通常用いられる炉、例えばプッシャー炉等の連続式、またはバッチ式の電気炉や、ガス炉等を用いることができる。
さらに、本焼成工程で得られたMgO結晶粒子16aは、ボールミルやジェットミルなどを用いて再度解砕し、必要に応じて分級することにより、MgO結晶粒子16aの粒度分布や流動性を調整することができる。
ここで、一般に気相酸化法で作製されるMgO結晶粒子は、粒径に比較的バラツキがあるため、良好かつ均一な放電特性を得るためには一定の粒径範囲の粒子を選別する分級工程が必要である。これに対し本発明では、気相酸化法ではなく、上記のようにMgO前駆体の焼成方法を採っている。この前駆体焼成法によれば、前駆体の種類を候補(材料種、粒子径、粒度分布等の各条件の違いを含む候補)の中から選定し、且つ、その焼成条件(焼成温度、焼成雰囲気、焼成時間等の焼成に必要な各条件)を適宜制御することにより、適切にMgO結晶粒子16aの粒度分布を制御できる。従って、当該方法で得られるMgO結晶粒子16aは、気相酸化法で作製される粒子よりも粒径を均一にして、且つ、一定の粒径範囲(100nm〜8μm、特に300nm〜4μmの範囲)に収めるように制御することができる。
この理由から、本発明においては、前駆体焼成法を用いることで基本的に分級工程を行う必要はなくなり、そのままMgO結晶粒子16aを利用することが可能となる。このため分級工程を省略して工程の簡略化が図れ、製造効率およびコストの面で非常に有利である。さらに本発明は、気相酸化法のように専用の装置を必要とせず、従来の一般的なセラミック粉体の製造工程でも実施できるメリットがあるため、製造コストの効果的な抑制が期待できるものである。
さらには、前駆体焼成方法では、気相酸化法で作製された結晶粒子よりも比表面積(BET)が小さい粒子が得られる。ここで比表面積が小さいことは、MgO結晶粒子16aが不要なガス吸着を生じにくい耐吸着性に優れることを意味するので、良好な電子放出性能と均一な放電特性の発揮が可能なMgO結晶粒子16aが得られることとなる。
(165nm以下の真空紫外線により励起された電子が励起準位に残留する時間の評価)
作製されたMgO結晶粒子16aの粉体を約1cm角、深さ2mmのサンプルホルダーに圧粉し、真空中に静置した。真空度は、1×10-3Pa以下とした。ピーク波長約159nmの重水素ランプ(浜松ホトニクスL1835)による紫外線をマクファーソン製615型真空紫外集光光学系で集光した。減衰評価のため、UNIBLITZ製真空対応高速動作シャッタ609M2型を使用して集光光を周期的に遮断した。作動排気されたマクファーソン製の真空紫外分光器(234/302型)で、集光光のピーク波長を幅10nmで選択し、照射光学系を介して、試料に照射した。試料からの発光を、石英窓を通じて真空外に取り出し、波長200nm以上の紫外線および可視光を透過する光ファイバーで、浜松ホトニクス製UV−可視光増倍管(波長感度185−850nm)に導き、電流信号に変換した。UV−可視光増倍管に掛ける電圧は、800V程度であるが、シャッタ開のときの電流信号が適切となるように適宜調整する。
得られた電流信号をスタンフォードリサーチシステム製の高速前置増幅器SR445A型で電圧に変換し、同じくスタンフォードリサーチシステム製のマルチチャンネルスケーラSR430型で、高速動作シャッタ609M2型と同期させて、シャッタ閉からの信号の減衰を測定した。測定は、1つの試料に対して100回積算し、結果を平均した。サンプリング時間間隔は、163.84μsとした。得られた減衰曲線とバックグラウンドとの差を規格化し、強度が50%まで減衰する時間を165nm以下の真空紫外線で励起された電子がバレンスバンドから5.4eV以上の準位に留まる時間として定義した。
(CLの評価)
図7は、本発明の一実施の形態によるPDPにおける保護層17のCL測定の結果を示すものである。保護層17は基板上に単体で作製してCL測定した。グラフの縦軸及び横軸はそれぞれ、発光強度(実施例の短波長領域におけるピーク値で規格化した相対強度)及び波長(nm)を示している。
図7に示したスペクトルは、入射エネルギー3keV、ビーム電流3.9mAの電子線を入射角45°で試料に照射し、得られた光がファイバーを介して発光スペクトル解析用高感度型の分光光度測定システム(大塚電子(株)IMUC7000)に入射し、分光されることで得られた。なお、本測定システムでは、分光器の各波長に対する感度を補正するためのキャリブレーションを行っている。
(保護層形成工程)
次に、バックパネル上に保護層17を形成する。ここで、実施の形態1の保護層17を形成する場合には、誘電体層7上に、MgO材料を用いて真空蒸着法やイオンプレーティング法等の公知の薄膜形成法により、最終厚み約1μmになるように膜層8を形成する。
なお、当該膜層8の材料は耐スパッタ性および二次電子放出係数γに優れる各種材料、例えばアルカリ土類金属酸化物であるCaO、SrO、BaO、MgOの内の少なくとも1種類以上から構成することができる。
次に、形成した膜層8の表面上に、上記作製したMgO結晶粒子16aを、スプレー法や静電塗布法、スリットコート法、ドクターブレード法、ダイコート法で平面的に凝結させるように塗布する。当該塗布用法は限定するものではなく、前記いずれかの方法またはこれ以外の方法でもよい。製造コストを考慮すると、厚膜形成技術として工業的に広く用いられているスクリーン印刷法を用いるのが一般的である。当該印刷法は、使用するインクの固形分比率やスクリーンメッシュの仕様により、容易に塗着量を制御できる点でも優れている。
なお、MgO結晶粒子16aの塗着量は、MgO結晶粒子群16の成膜前後でフロントパネルの直線透過光の変化量(可視光)を測定した値より定義される「被覆率」に基づいて設定することができる。
この被覆率は、具体的に以下の式で表すことができる。
被覆率(%)=(MgO結晶粒子群16の成膜前のフロントパネル直線透過光量)/(MgO結晶粒子群16の成膜後のフロントパネル直線透過光量)×100
MgO結晶粒子16aを膜層8に塗布した後は、溶媒を乾燥・除去して各粒子を定着させる。これによりMgO結晶粒子群16が配設され、実施の形態1の保護層17が完成する。
なお、以上においては、MgO膜層8の表面においてMgO結晶粒子16は、その一部を埋設するように配設された構成であってもかまわない。
一方、実施の形態2の保護層17を形成する場合には、誘電体層7の表面に対して直接、MgO結晶粒子16aをスクリーン印刷法やスプレー法で定着させる。これによりMgO結晶粒子群16が配設され、実施の形態2の保護層17が形成される。
以上の手順で保護層17を形成すると、フロントパネル2が完成する。
(PDPの完成)
作製したフロントパネル2とバックパネル9を、データ電極11と表示電極対6とが交差するように配置し、フロントパネル2とバックパネル9の外周縁部を封着領域として、封着部材(フリットガラス)を用いて貼り合わせる。その後、放電空間15の内部を高真空(1.0×10-4Pa程度)に排気し、大気や不純物ガスを取り除く。そして当該内部に所定の圧力(通常6.7×104〜1.0×105Pa程度)でNe−Xe系やHe−Ne−Xe系、Ne−Xe−Ar系等のXe混合ガスを放電ガスとして封入する。
以上の工程を経ることにより、PDP1又は21が完成する。
なお、以上の説明においては、フロントパネルガラス3およびバックパネルガラス10をソーダライムガラスからなるものとしたが、これは材料の一例として挙げたものであって、これ以外の材料で構成してもよい。
(放電遅れの評価)
完成したPDPに対して放電遅れ時間を評価した。具体的方法として、各PDPにおける任意の1画素に対して、データパルスおよび走査パルスを繰り返し印加するごとに、パルスを印加してから放電が発生するまでの時間(放電遅れ時間)を100回測定し、測定した放電遅れ時間の最大値と最小値の平均を算出した。遅れ時間は、放電に伴う蛍光体の発光を光センサーモジュールにより受光し、印加したパルス波形と受光信号波形をデジタルオシロスコープで観察した。
<実施例>
(測定評価試験)
表1に本発明の実施例および比較例における、165nm以下の真空紫外線で励起された電子がバレンスバンドから5.4eV以上の準位に留まる時間および放電遅れ時間(相対値)を示す。
MgO前駆体として純度99.99%の水酸化マグネシウムを用いた。これらを所望の組成に秤量し、遊星型ボールミルおよびジルコニアビーズを用い、純水中で湿式混合した。この混合物を乾燥した後、乳鉢で解砕し、高純度のアルミナるつぼ中で焼成した。
焼成後の各MgO結晶粒子16aは、ボールミルを用いて乾式粉砕し、ナイロン製メッシュを通過させて粗大粒子を取り除くことで分級した。次に、予めフロントパネルガラスに形成された膜層8の上に、スクリーン印刷法を用いてMgO結晶粒子群16を成膜した。その際、前記被覆率が4.5%になるようにMgO結晶粒子16aと溶剤、樹脂の混合比を調整し、三本ロールミルを用いて、スクリーン印刷用インクとした。成膜後は、100℃で1時間乾燥した後、500℃で3時間焼成して有機成分を焼去した。
こうして得たフロントパネルを用いて、<PDPの製造方法>で説明したものと同様の交流面放電型PDPを作製した。
図8に、実施例3、10および比較例1、2の、165nm以下の真空紫外線で励起された電子がバレンスバンドから5.4eV以上の準位に留まる時間を示す。MgO粉体ごとに減衰特性が異なることが分かる。
得られた減衰曲線から、強度が50%となる時間を、165nm以下の真空紫外線で励起された電子がバレンスバンドから5.4eV以上の準位に留まる時間として、表1ならびに図9にまとめて示す。なお、図9(b)は図9(a)のグラフの拡大図である。
以上の結果から、本発明の実施例1〜12では、放電遅れ時間の相対値が15%以下にまで低減されていることがわかる。なお、放電遅れについては、MgO結晶粒子16aを設置しない場合を1としている。このとき、強度が50%となる時間を165nm以下の真空紫外線で励起された電子がバレンスバンドから5.4eV以上の準位に留まる時間は、4ms以上となっている。
一方、比較例1および2では放電遅れ時間の相対値が25%以上と悪く、強度が50%となる時間を165nm以下の真空紫外線で励起された電子がバレンスバンドから5.4eV以上の準位に留まる時間が、1ms以下と短くなっている。以上により、放電遅れと強度が50%となる時間を165nm以下の真空紫外線で励起された電子がバレンスバンドから5.4eV以上の準位に留まる時間の間に相関が見出された。以上の各考察から、従来のPDPに対し、本発明の優位性が確認された。
以上、本発明によれば、波長165nm以下の真空紫外線で励起された電子がバレンスバンドから5.4eV以上の準位に4ms以上留まることのできるMgO結晶粒子群16は、高いエキソ電子放出能を有するので、放電遅れを適切に抑制することができる。また、二次電子放出係数の向上による放電開始電圧の低下も期待できる。
また本発明では、膜層或いは誘電体層に対するMgO結晶粒子群16の被覆率は、気相法で作成されたMgO結晶粒子を用いる場合と比較して、高くする必要がないため、フロントパネルの適度な可視透過率が確保され、放電遅れの抑制効果と相まって、優れた画像表示性能が発揮される。
また本発明では、MgO前駆体の焼成により従来に比して均一な粒径でMgO結晶粒子16aを得ているので、放電遅れの防止・抑制に貢献しない微粒子を除くための分級工程が不要であって、そのまま生成されたMgO結晶粒子16aを利用できる。このため、分級工程を省略して工程の簡略化が図れ、製造効率およびコストの面で大きなメリットを有するほか、従来の一般的なセラミック粉体の製造工程でも実施でき、製造コストの効果的な抑制が期待できる。
なお、165nm以下の真空紫外線で励起された電子がバレンスバンドから5.4eV以上の準位に長時間留まることができることは、励起準位が安定であることを意味し、その励起準位が、エキソ電子放出に寄与する励起準位と同一である、あるいは、その形成過程において、相関を有することを仮定すれば、電子の残留時間とエキソ電子放出能の関係がある程度は理解できる。これは、二次電子放出係数の向上に関しても同様である。