JP4931494B2 - 塩化ビニリデン系人工毛髪 - Google Patents

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Description

本発明は、セット性に優れると共に軽いためボリューム感が得られやすく、しかも自然な風合いと手触り感とを維持できる塩化ビニリデン系の人工毛髪に関する。
人形の頭部に植えられる人形毛髪は、人間の毛髪に近い外観や手触り感さらには風合い等を有することが求められる。このような人形毛髪用繊維としては、材料に合成線状ポリアミドやアクリル樹脂等を用いたものも知られているが、特に毛髪の外観や手触り感に優れていることから、塩化ビニリデン系樹脂の人形毛髪(例えば、特許文献1参照)が主流となっている。
しかし、塩化ビニリデン系繊維は、比較的重くてしかも柔らかいという性質があり、人工毛髪として使用した場合に繊維が寝てしまいやすく、ボリューム感のあるバルキーな髪型にはなりにくい。また、髪型を保持できるセット性も強いとは言えない。そのため、塩化ビニリデン系繊維の人工毛髪は、小型の人形用の毛髪としては多く使用されているものの、大型の人形や、人間の頭部に装着するカツラ用の人工毛髪としては、使用しにくいのが実情であった。
対策としては、繊維を軽量化する目的で中空糸化する方法もあるが、単に中空糸化するのでは、繊維がさらに柔らかくなってセット性が低下する結果となってしまう。また、スチレン樹脂等を添加することで繊維の剛性を高くする方法もあるが(例えば、特許文献2参照)、単に硬くするだけでは、ゴワゴワとした不自然な手触り感になりやすい。自然な柔らかい手触り感と、バルキー性のあるボリューム感とは相反する性質のため、塩化ビニリデン系繊維が本来有する自然な風合いと手触り感とを維持しつつ、セット性を高くし、かつ髪型のボリューム感やバルキー性を得られるようにすることは、なかなかに困難なのが実情であった。
特開昭61−113814号公報 特開平5−106113号公報
本発明は、塩化ビニリデン系繊維の人工毛髪としての自然な手触り感などを得つつ、セット性やボリューム感に優れる人工毛髪を提供することを課題とする。
本発明は、塩化ビニリデン系樹脂からなる人工毛髪であって、前記塩化ビニリデン系樹脂は、塩化ビニリデンを80重量%以上95重量%以下含有する塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体を10〜60重量%と、塩化ビニリデンを90重量%以上98重量%以下含有する塩化ビニリデン−アクリル酸メチル共重合体を40〜90重量%とからなり、かつ中空率が3〜30%の中空糸であることを特徹とする人工毛髪である。または、人形毛髪用であることを特徴とする上記の人工毛髪である。または、人頭毛髪用であることを特徴とする上記の人工毛髪である。
本発明の人工毛髪は、軽量で適度に硬いため、髪型のセット性やボリューム感に優れる。その際、塩化ビニリデン系繊維が有する人工毛髪としての自然な手触り感が得られ、さらに植毛加工性にも優れる。
本発明について、特にその好ましい実施の形態を中心に具体的に説明する。本発明の人工毛髪は、2種類の特定の塩化ビニリデン系共重合樹脂を特定量比の範囲で混合して紡糸を行い、特定の中空率の中空糸とすることで、自然な手触り感を得ながら、髪型のセット性やボリューム感を確保するという絶妙なバランスをとることが可能になった。
特定の塩化ビニリデン系樹脂の1種類めは、塩化ビニリデンを80〜98重量%含有する塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合樹脂である。塩化ビニリデンに塩化ビニルを共重合すると、樹脂が柔らかくなって押出加工性が良くなる一方、人工毛髪とした場合に表面がベタつきやすくなる作用がある。塩化ビニリデンを80重量%以上含有することで、人工毛髪に適度な固さが得られやすく、ベタつきが生じにくくなる。また、塩化ビニリデンを95重量%以下含有することで、樹脂が適度に柔らかくなって人工毛髪に加工する場合の押出加工性が良好となる。好ましくは81〜95重量%であり、より好ましくは82〜90重量%である。
この1種類めの樹脂は、紡糸に用いる塩化ビニリデン系樹脂の全量に対して10〜60重量%の範囲となるように用いる。10重量%以上とすることで、人工毛髪の柔かい手触り感が得られやすく、かつねばり強くなり(脆さが減少し)、中空糸とした場合の中空糸の「割れ」が生じにくくなる。また、60重量%以下とすることで、人工毛髪に必要な硬さが得られやすくなり、髪型のセット性やボリューム感が得られやすくなる。好ましくは、15〜55重量%であり、より好ましくは20〜50重量%であり、さらに好ましくは25〜45重量%である。
特定の塩化ビニリデン系樹脂の2種類めは、塩化ビニリデンを90〜98重量%含有する塩化ビニリデン−アクリル酸メチル共重合樹脂である。アクリル酸メチルも塩化ビニルと同様に、塩化ビニリデンと共重合することで、樹脂を柔らかくして人工毛髪表面のベタつきを生じやすくする作用を有するが、作用の程度は塩化ビニルとは微妙に異なる。樹脂における塩化ビニリデン含量を90重量%以上とすることで、樹脂に適度な硬さが得られやすく、かつ人工毛髪とした場合の表面ベタつきが生じにくくなる。また、塩化ビニリデンを98重量%以下含有することで、樹脂に適度な柔らかさが得られやすく、人工毛髪に加工する場合の押出加工性が良好となりやすい。好ましくは92〜97重量%であり、より好ましくは93〜96重量%である。
この2種類めの樹脂は、1種類めの樹脂より比較的硬い特性があり、紡糸に用いる塩化ビニリデン系樹脂の全量に対して40〜90重量%の範囲となるように用いる。40重量%以上とすることで、人工毛髪とした場合のセット性やボリューム感が得られやすくなる。また、90重量%以下とすることで、人工毛髪としての自然な手触り感が得られやすくなり、中空糸とした場合に中空糸の「割れ」が生じにくくなる。好ましくは45〜85重量%であり、より好ましくは50〜80重量%であり、さらに好ましくは55〜75重量%である。
いずれの塩化ビニリデン系樹脂も、常法に従って、上記の範囲の樹脂組成を得るために必要なモノマーの配合比で混合し、攪拌翼を備えた反応槽に投入して、通常用いられる重合条件下、攪拌しながら重合することで得られる。重合後の樹脂に含有される各成分の含有量は、NMR(核磁気共鳴)を用いた公知の分析方法により分析することができる。
人工毛髪は、上記の2種類の塩化ビニリデン系樹脂と、必要により添加された添加剤等とを混合・攪拌して樹脂組成物を作成し、常法により、これを塩化ビニリデン系樹脂用押出機に供給し、溶融押出しして紡口より紡出した後、冷水槽で冷却し、目的に応じた延伸温度や延伸倍率で延伸してからボビン等に巻き取ることで製造できる。
その際、押し出して得られる塩化ビニリデン系繊維は、中空率が3〜30%の中空糸状とする。中空率が3%以上で、人形毛髪に求められる軽い手触り感とボリューム感とが得られやすくなり、30%以下で人形毛髪に必要とされる強度が確保されて糸割れ等が発生しにくく、人形頭部への植毛時における植毛加工性やブラッシング時の非脱毛性も良好となる。また、人工毛髪が適度な強度を維持しつつ適度に軽量化されるため、大型人形の人形毛髪や人頭毛髪として用いた場合においても、人工毛髪が寝にくく、ボリューム感あるバルキーな髪型が安定して得られる。なお、中空率とは、人工毛髪の長さ方向に直角となる面の断面形状を顕微鏡で観察した場合に、人工毛髪の外径で画される断面積に対して、人工毛髪繊維の中空部分の断面積が占める割合を言う。
中空糸の断面形状は、通常の円形状であってもよいし、三角形、多角形、Y字形、星形、扁平形状等の異形形状であってもよい。人工毛髪とした場合の軽い滑らかな手触り感が得られやすいことから、特に、円形形状の中空構造とするのが好ましい。また、人工毛髪は、これらの様々な構造や形状の単糸を組み合わせたマルチフィラメントであってもよい。マルチフィラメントとして用いる場合、他の繊維と混繊してもよい。
人工毛髪の平均外径は、0.01〜0.2mmであることが好ましい。ここで平均外径とは、繊維の長さ方向に直角となる面の断面形状を顕微鏡で観察した場合に、繊維断面の外接円の直径を複数の断面に関して求め、それらの数平均により得られる値を言う。平均外径が0.01mm以上で人形毛髪に必要とされる強度が確保されやすくなり、0.2mm以下で天然毛髪に類似する柔らかい手触り感が得られやすくなる。
上記のように、微妙に特性が異なる2種類の塩化ビニリデン系樹脂を、適正な比率範囲で混合して紡糸に用いると共に、人工毛髪を特定の中空率の中空糸とすることで、人間の毛髪のような自然な手触り感を確保しつつ、同時に髪型のセット性やボリューム感を確保できるという、相反する特性を同時に満たせる絶妙なバランスの人工毛髪を得ることが可能になった。特に大型の人形の人形毛髪や、人のカツラに用いる人頭毛髪とした場合にも、セット性やボリューム感が確保されるため、従来よりはるかに広範囲の用途に人工毛髪を利用することが可能になる。
上記の特定の塩化ビニリデン系樹脂は、重量平均分子量が5万〜8万であることが好ましい。重量平均分子量を小さくシフトすることで、得られる繊維の強度が従来より低下するものの人形毛髪として必要な強度は維持しつつ、生産性を向上しやすくなる。重量平均分子量を5万以上とすることで、人形毛髪に必要な強度が確保されやすく、人形頭部への植毛時における植毛加工性やブラッシング時の非脱毛性が良好となりやすい。また、理由は必ずしも明確ではないが、重量平均分子量を8万以下とすることで、紡糸時における押出機内部における熱分解や紡口の詰まりが生じにくくなり、紡口を交換せずに連続的に使用できる時間が長くなりやすい。つまり、人工毛髪の生産性が向上しやすい。
なお、ここにいう紡口の交換とは、塩化ビニリデン系樹脂の熱劣化・分解に起因して、気泡(塩酸ガス)の発生や紡口詰まりが生じた場合に、紡糸作業を停止して押出機内の分解物を洗浄すると共に、精密洗浄に時間を要する紡口を洗浄済みの他の紡口に交換する作業をいう。紡口交換の頻度は、生産性に大きく影響するため、運転から停止までの紡口連続使用時間の長さは重要である。塩化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は、5万5千以上7万5千以下であることがより好ましく、6万以上7万以下であることがさらに好ましい。
上記の塩化ビニリデン系樹脂には、さらに物性を改善するために、本発明の効果を妨げない範囲で、上記以外の、塩化ビニリデンモノマーと共重合可能なエチレン誘導体モノマーを用いても良い。用いてもよいエチレン誘導体モノマーとしては、例えば、アクリルニトリルやメタクリロニトリルのごときエチレン性不飽和カルボン酸のニトリル、アクリル酸メチルを除くアクリル酸やメタクリル酸のアルキルエステル、ヒドロキシプロピルアクリレートやヒドロキシエチルアクリレートやヒドロキシブチルアクリレートのごときヒドロキシアルキルエステル、酢酸ビニルのごとき飽和カルボン酸のビニルエステル、アクリルアミドのごときエチレン性不飽和カルボン酸のアミド、アクリル酸のごときエチレン性不飽和カルボン酸、アリルアルコールのごときエチレン性不飽和アルコール、塩化ビニルを除くハロゲン化ビニルなどが例示される。
塩化ビニリデン系樹脂組成物は、上記の塩化ビニリデン系樹脂以外に、必要により可塑剤や熱安定剤などの他の成分を混合してもよい。他の成分としては、本発明の効果を妨げない範囲で、塩化ビニリデン系樹脂以外の他の樹脂や、可塑剤、熱安定剤、界面活性剤、滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、光安定化剤、顔料等を挙げることができる。塩化ビニリデン系樹脂組成物における塩化ビニリデン系樹脂の合計の含有量は、人形毛髪とした場合の手触り感の観点から、90重量%以上であることが好ましく、92重量%以上であることがより好ましく、95重量%以上であることがさらに好ましい。
可塑剤としては、ジイソブチルアジペート、ジブチルアジペート、クエン酸アセチルトリブチル、セバチン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、フタル酸ジオクチル等を例示することができ、得られる繊維の手触り感の改善の観点から、ジイソブチルアジペート、ジブチルアジペート、クエン酸アセチルトリブチルとするのが好ましく、ジイソブチルアジペートまたはジブチルアジペートとするのがさらに好ましい。可塑剤を用いることで溶融押出しの加工性が改良され、繊維の生産性をさらに向上させることができるが、一方で、繊維表面のベタツキが生じ易くなり、人形毛髪とした場合の手触り感が低下する。可塑剤量は、樹脂組成物において5重量%以下とするのが好ましく、より好ましくは2重量%以上5重量%以下である。
熱安定剤としては、エポキシ化アマニ油、エポキシ化大豆油、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エポキシ化ステアリン酸ブチル、エポキシ化ステアリン酸オクチル、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、パラフィン等を例示することができる。好ましくはエポキシ化安定剤であり、最も好ましいのはエポキシ化アマニ油である。熱安定剤を用いることで塩化ビニリデン系樹脂の熱分解を低減することができるが、一方で、可塑剤と同様に繊維表面のベタツキが生じ易くなり手触り感が低下する。熱安定剤は、樹脂組成物において5重量%以下とするのが好ましく、1重量%以上4重量%以下とするのがより好ましい。
可塑剤と熱安定剤は、共に繊維表面のベタツキ感を増大させて手触り感を低下させるため、可塑剤と熱安定剤の合計含有量は、樹脂組成物において10重量%以下とするのが好ましく、8重量%以下とするのがより好ましい。
得られた人工毛髪には、必要によりカール処理等の成形処理が行われる。図1は、人工毛髪にカール処理を行うカーリング装置の一例の概略構成を示した模式図である。紡糸された繊維状の人工毛髪が巻回された1または2以上のボビン7から人工毛髪が取り出され、パイプ糸道6を経由して束の状態でマシンヘッド5に供給される。マシンヘッド5は、図面に向かって左右方向に延びるマンドレル3を中心として回転しており、ボビン7と反対側からマンドレル3上に人工毛髪を吐出する。人工毛髪はマンドレル3に巻き付いた状態で図面左側に順次移動し、マンドレル3の周囲に設けられた加熱ヒーター4により加熱されて、巻き付いた状態のままで形状が固定される。図面に向かって左側に移動して加熱ヒーター4を通過した人工毛髪は、マンドレル3の端部でマンドレル3から外れ、カールした形状のまま樹脂製袋1に収納される。これでカール処理が完了する。
必要によりカール処理等が行われた人工毛髪は、人形頭部に植毛されることにより人形毛髪となる。図2は、人形頭部に繊維を植毛する植毛ミシンの一例の概略構成を示した図である。人工毛髪である繊維が巻回されたボビン13から、繊維14が引き出されてミシン本体8の懸垂部に設けられた回転パイプ糸道11を経由して人形頭部9の上に導かれる。ミシン針10が、内側から上向きに人形頭部9を貫通して、繊維14を引っ掛けて人形頭部9内に引き込むようにして植毛する。人形頭部9の位置と回転パイプ糸道11の出口とを相対的に移動させることで、人形頭部9の必要部分全体に植毛する。
以下、本発明を実施例や比較例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の具体的態様に限定されるものではない。なお、各種物性の評価方法は下記の通りである。
《平均外径、中空率》
10本の中空単糸をエポキシ樹脂で固め、長さ方向に直角の断面を切り出して顕微鏡観察により測定した。測定は、各断面の外周の長径と短径とを計測して単純平均して単糸外径とし、さらに内周の長径と短径とを測定して単糸内径とし、単糸外径と単糸内径とから各単糸の中空部分の割合を計算した。最後に、これらの値の10本の平均値をそれぞれ求めて、平均外径と中空率とした。
《カール保持率の評価》
試料糸2本をそれぞれボビンより取り出し、図1に示したものと同様のカーリング装置を用いて、回転速度4000rpm、加熱槽温度190±5℃の条件で熱処理して、13mmφのカール品を製造した。そのカール品のセット性の代用評価方法として、下記の測定法でカール保持率[CR]を求めた。
(1)カール品の一方を固定し、他方を鉛直にぶら下げた状態で、固定点より30cmの長さでカットする。
(2)糸のカットされた側に30gの錘を30秒間ぶら下げた後、直ちに、その糸の伸ばされた状態で固定点から30cmの長さでカットし、錘を取り去る。
(3)錘を取り去って30秒後に、固定点から糸のカット点までの長さL(cm)を正確に測定し、下記の式(a)からカール保持率[CR](%)を計算する。
カール保持率=(30−L)/30×100・・・・・・(a)
カールのセット力(形状保持力)が強く残っているほど、CRは大きな値(Lが小さい値)となり、カールセット性の有効な評価方法である。得られたカール保持率を以下の評価基準で評価した。
◎:CRが50%以上
○:CRが45%以上50%未満
△:CRが40%以上45%未満
×:CRが40%未満
《人形毛髪のセット性の評価》
人形ヘッドの製作:塩化ビニルシート(厚さ約1mm)から作られた直径約6cmの球形の人形ヘッドを用意し、これに、図2に示したものと同様の人形植毛用ミシン(DOLLY CO.LTD社製、商品名:TUNF−28B、植毛速度800RPM、繊維カット長25cm)を用いて、実施例、比較例で得られた試料を植毛した。植毛は、人形ヘッドの頭頂部から後頭部(垂直部分)と側頭部(垂直部分)にかけて約50cm2の面積の範囲に行った。さらに、垂直に立てた長さ30cmの固定棒の頂部に、植毛した上記の人形ヘッドを固定してから、ヘアをプラスチック製のブラシでブラッシングし、カールヘアの人形ヘッドとした。
上記人形ヘッドを5個並べて、固定棒に固定した状態のまま5日間静置し、その後にカールヘアの髪型の崩れの状況を観察して、以下の評価基準でセット性を評価した。
◎:カールヘアの髪型を保持している。
○:カールヘアの髪型の崩れが生じているものの崩れは小さい。
△:カールヘアの髪型の崩れが大きい。
×:カールヘアの髪型がさらに大きく崩れてカールがほぼ取れている。
《人形毛髪のボリューム感の評価》
人形ヘッドの製作:塩化ビニルシート(厚さ約1mm)から作られた直径約6cmの球形の人形ヘッドを用意し、これに、図2に示したものと同様の人形植毛用ミシン(DOLLY CO.LTD社製、商品名:TUNF−28B、植毛速度800RPM、繊維カット長25cm)を用いて、実施例、比較例で得られた試料を植毛した。植毛は、人形ヘッドの頭頂部から後頭部(垂直部分)と側頭部(垂直部分)にかけて約50cm2の面積の範囲に行った。さらに、垂直に立てた長さ30cmの固定棒の頂部に、植毛した上記の人形ヘッドを固定してから、ヘアを市販の犬猫ペット用スリッカーブラシで真下にブラッシングした後、繊維束の下面をハサミで切り揃え、ストレートヘアの人形ヘッドを製作した。
固定棒に固定した状態で上記人形ヘッドを5個並べて、そのボリューム感について20人のモニターで評価を行った。各モニターにおける評価基準は下記の通りである。
4点:人形の頭頂部、後頭部、側頭部のヘアに、それぞれ自然な膨らみと広がりとがあり、全体にボリューム感がある。
3点:人形の頭頂部の膨らみは小さいが、後頭部と側頭部とにヘアの広がりが見られる。
2点:人形の頭頂部の膨らみが無く、後頭部/側頭部にヘアの広がりも少ない。
1点:人形の頭頂部/後頭部/側頭部のヘアに膨らみ、広がりが見られない。
次に、20人のモニターがそれぞれつけた点数を単純平均して評価点数を求め、以下の基準でボリューム感の評価とした。
◎:4.0点以下3.5点以上
○:3.5点未満3.0点以上
△:3.0点未満2.0点以上
×:2.0点未満1.0点以上
《人形毛髪の手触り感の評価》
上記と同様な方法で製作した人形ヘッドを用いて、固定棒に固定した状態で人形ヘッドを5個並べて、20人のモニターで評価を行った。各モニターにおける評価基準は下記の通りである。
4点:適度なしなやかさがあり、ヘアの指の通りがスムースである。
3点:やや腰があり、サラサラとした手触り感がある。
2点:硬くて、バサバサした感触がある。
1点:腰が強く、ゴワゴワした硬い感触で、櫛通しも悪い。
次に、20人のモニターがそれぞれつけた点数を単純平均して評価点数を求め、以下の基準で手触り感の評価とした。
◎:4.0点以下3.5点以上
○:3.5点未満3.0点以上
△:3.0点未満2.0点以上
×:2.0点未満1.0点以上
《非ベタつき性の評価》
糸量約20g、長さ約200mmの房状試料を作成し、この試料を54℃の恒温槽中に3日間保管した後、取り出し、手触りによる非ベタつき性の程度を、以下の評価基準に基づいて20人のモニターで評価した。
4点:さらっとした手触り感を感じる。
3点:少し粘着性を感じる。
2点:ベタツキ感を感じる。
1点:油のようなベトベトした感触を感じる。
次に、20人のモニターがそれぞれつけた点数を単純平均して評価点数を求め、以下の基準で非ベタつき性の評価とした。
◎:4.0点以下3.5点以上
○:3.5点未満3.0点以上
△:3.0点未満2.0点以上
×:2.0点未満1.0点以上
《植毛加工性の評価》
塩化ビニルシート(厚さ1mm)でできた直径2.5cmの球形の人形ヘッドを用意した。これに、図2に示したものと同様の人形植毛用ミシン(DOLLY CO.LTD社製、商品名:TUNF−28B、植毛速度1000RPM、繊維カット長20cm)を使用し、実施例、比較例で得られた試料をそれぞれ、人形ヘッドの頭頂部から後頭部(垂直部分)と側頭部(垂直部分)にかけて約7cm2の面積を占めるように植毛した。
人形ヘッド100個あたりの植毛時に発生した糸切れの回数をカウントし、これを糸切れ発生率(%)として、以下の評価基準により評価した。
◎:1%未満
○:1%以上5%未満
△:5%以上10%未満
×:10%以上
[実施例1〜3]
常法に従って原料モノマー類を混合・重合して、塩化ビニリデンと塩化ビニルとからなる塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体樹脂(樹脂A)と、塩化ビニリデンとアクリル酸メチルとからなる塩化ビニリデン−アクリル酸メチル共重合樹脂(樹脂B)とを、それぞれ用意した。各樹脂の組成をNMR法により分析した結果(各成分の重量比で表示)を表1に示した。
これらを表2に示す重量比にて混合し、さらにそれぞれの混合物に対し、可塑剤(ジイソブチルアジペート)が3重量%、熱安定剤(エポキシ化アマニ油)が2重量%、顔料(カーボンブラック)が0.25重量%、他の顔料(Pigment Blue 15)が0.05重量%、及び添加剤としてステアリン酸グリセライドが0.2重量%、タルクが0.1重量%、となるように混合して、3種類の樹脂組成物を作成した。
各樹脂組成物をそれぞれ、50mmφの単軸押出機を用いて、押出温度183℃で中空用紡口より溶融紡出し、冷水槽で急冷した後、速度差ローラーで4倍延伸して、断面中空円形で50d(中空率約15%)の黒色単糸10本よりなるマルチフィラメント(500d/10f)を3種類製造した。得られた3種類のマルチフィラメントについて、カール保持率、人工毛髪のセット性、ボリューム感、手触り感、非ベタつき性、植毛加工性を評価した。結果を表3に示す。得られた繊維は、セット性やボリューム感、手触り感に優れた人工毛髪であり、また、実用強度を有して植毛加工性も満足するものであることが確かめられた。
[実施例4]
実施例3の樹脂組成物(III)を用いて、実施例3と同じ方法で、断面中空円形の80d(中空率25%)の黒色の単糸10本よりなるマルチフィラメント800d/10fを得た。次に、この繊維を用いて、図1に記載したものと同様のカーリング装置により20mmφのカール品を作成し、続いて図2に記載したものと同様の人形植毛用ミシンを使用して、塩化ビニルシート(厚さ約1mm)で出来た直径約15cmの球形で、大型の人形ヘッドに植毛した。得られた大型人形ヘッドの人形毛髪は、ボリューム感があり、手触り感も良好なものであった。
[比較例1〜2]
実施例1の樹脂A、樹脂Bの重量比を表2に記載のように変更し、実施例1と同様に可塑剤、安定剤、顔料、添加剤を混合して2種類の樹脂組成物を得た。
各樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の方法にて、黒色の単糸10本よりなるマルチフィラメントを2種類得て、それぞれに対して実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。樹脂組成物(IV)からなる繊維(比較例1)は、カール保持率、セット性、ボリューム感に劣り、人形毛髪としては不満足なものであった。また、樹脂組成物(V)からなる繊維(比較例2)は、腰が強く、ゴワゴワとして手触り感に問題があり、植毛加工時にも糸切れが多かった。
[比較例3]
常法に従って塩化ビニリデンとアクリル酸メチルとを混合・重合して、塩化ビニリデン−アクリル酸メチル共重合樹脂(樹脂C)を用意した。この樹脂の成分組成をNMR法により分析した結果(各成分の重量比で表示)を表1に示した。次に、実施例1の樹脂Aを50重量%と樹脂Cを50重量%とを混合した混合物に、実施例1と同様に可塑剤、安定剤、顔料、添加剤を添加・混合して樹脂組成物(VI)を作成した。
この樹脂組成物(VI)を用いて、実施例1と同じ方法で、黒色の単糸10本よりなるマルチフィラメントを得て、評価を行った。結果を表3に示す。樹脂組成物(VI)からなる繊維は、カール保持率、セット性、ボリューム感が不満足であった。
[比較例4]
常法に従って塩化ビニリデンと塩化ビニルとを混合・重合して、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体樹脂(樹脂D)を用意した。この樹脂の成分組成をNMR法により分析した結果(各成分の重量比で表示)を表1に示した。次に、この樹脂Dを50重量%と、実施例1の樹脂Bを50重量%とを混合した混合物に、実施例1と同様に可塑剤、安定剤、顔料、添加剤を添加・混合して樹脂組成物(VII)を作成した。
この樹脂組成物(VII)を用いて、実施例1と同じ方法で、黒色の単糸10本よりなるマルチフィラメントを得て、評価を行った。結果を表3に示す。樹脂組成物(VII)からなる繊維は、セット性、ボリューム感に劣るとともに、ベタツキ性があり、不適当なものであった。
Figure 0004931494
Figure 0004931494
Figure 0004931494
カーリング装置の概略構成を示した模式図である。 植毛ミシンの概略構成を示した模式図である。
符号の説明
1 樹脂製袋
2 カール処理された繊維
3 マンドレル
4 加熱ヒーター
5 マシンヘッド
6 パイプ糸道
7 ボビン
8 植毛ミシン本体
9 人形頭部
10 ミシン針
11 回転パイプ糸道
12 人形毛髪
13 ボビン
14 繊維

Claims (3)

  1. 塩化ビニリデン系樹脂からなる人工毛髪であって、前記塩化ビニリデン系樹脂は、塩化ビニリデンを80重量%以上98重量%以下含有する塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体を10〜60重量%と、塩化ビニリデンを90重量%以上98重量%以下含有する塩化ビニリデン−アクリル酸メチル共重合体を40〜90重量%とからなり、かつ中空率が3〜30%の中空糸であることを特徴とする人工毛髪。
  2. 人形毛髪用であることを特徴とする請求項1に記載の人工毛髪。
  3. 人頭毛髪用であることを特徴とする請求項1に記載の人工毛髪。
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