以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。本発明に係る製造方法で製造した異方形状粉末をテンプレートとして製造した結晶配向セラミックスは、少なくともK及びNbを含む第1のペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなり、該多結晶体を構成する各結晶粒の擬立方{100}面が配向していることを特徴とする。
第1のペロブスカイト型化合物は、具体的には、次の(1)式に示す一般式で表すことができる。
(KxA'1−x)(NbyB'1−y)O3 ・・・(1)
(但し、0<x≦1。0<y≦1。A'は、1種又は2種以上の1価の金属元素。B'は、1種又は2種以上の5価の金属元素。)
ここで、第1のペロブスカイト型化合物は、Aサイト元素として、少なくともKを含むものからなる。この場合、Aサイト元素は、Kのみからなるものであっても良く、あるいは、K以外のAサイト元素(元素A’)が含まれていても良い。元素A’の種類は、特に限定されるものではなく、少なくとも1価の金属元素であればよい。元素A’としては、具体的には、Na、Li、Ag、Cu等が挙げられる。
また、第1のペロブスカイト型化合物は、Bサイト元素として、少なくともNbを含むものからなる。この場合、Bサイト元素は、Nbのみからなるものであっても良く、あるいは、Nb以外のBサイト元素(元素B’)が含まれていても良い。元素B’の種類は、特に限定されるものではなく、少なくとも5価の金属元素であればよい。元素B’としては、具体的には、Ta、Sb、V等が挙げられる。
(1)式で表される第1のペロブスカイト型化合物としては、具体的には、KNbO3、(K、Na)NbO3、(K、Na)(Nb、Ta)O3、(K、Na)(Nb、Sb)O3、(K、Na)(Nb、Ta、Sb)O3、(K、Li)NbO3、(K、Li)(Nb、Ta)O3、(K、Li)(Nb、Sb)O3、(K、Li)(Nb、Ta、Sb)O3、(K、Na、Li)NbO3、(K、Na、Li)(Nb、Ta)O3、(K、Na、Li)(Nb、Sb)O3、(K、Na、Li)(Nb、Ta、Sb)O3、(K、Ag)NbO3、(K、Ag)(Nb、Ta)O3、(K、Ag)(Nb、Sb)O3、(K、Ag)(Nb、Ta、Sb)O3、(K、Na、Ag)NbO3、(K、Na、Ag)(Nb、Ta)O3、(K、Na、Ag)(Nb、Sb)O3、(K、Na、Ag)(Nb、Ta、Sb)O3、(K、Li、Ag)NbO3、(K、Li、Ag)(Nb、Ta)O3、(K、Li、Ag)(Nb、Sb)O3、(K、Li、Ag)(Nb、Ta、Sb)O3、(K、Na、Li、Ag)NbO3、(K、Na、Li、Ag)(Nb、Ta)O3、(K、Na、Li、Ag)(Nb、Sb)O3、(K、Na、Li、Ag)(Nb、Ta、Sb)O3等が挙げられる。
また、上記「第1のペロブスカイト型化合物を主相とする」とは、結晶配向セラミックス中に第1のペロブスカイト型化合物がモル分量で70mol%以上含まれていることをいう。高い圧電特性等を得るためには、第1のペロブスカイト型化合物のモル分量は、より好ましくは、90mol%以上、さらに好ましくは、99mol%以上である。ここで、結晶配向セラミックスは、第1のペロブスカイト型化合物のみからなることが望ましいが、ペロブスカイト型の結晶構造を維持でき、かつ、焼結特性、圧電特性等の諸特性に悪影響を及ぼさないものである限り、他の元素又は他の相が含まれていても良い。
このような「他の元素」としては、具体的には、Pb、Ba、Ca、Sr、Mg、Zr、Ti、Sn、Ge、Si等がある。また、「他の相」としては、具体的には、後述する製造方法や使用する出発原料に起因する添加物、焼結助剤、副生成物、不純物等(例えば、Bi2O3、CuO、MnO2、NiO等)が一例として挙げられる。圧電特性等に悪影響を及ぼすおそれのある他の元素又は他の相の含有量は、少ないほど良い。
「擬立方{100}面が配向している」とは、(1)式で表される第1のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面が互いに平行になるように、各結晶粒が配列していること(以下、このような状態を「面配向」という。)、又は、擬立方{100}面が成形体を貫通する1つの軸に対して平行になるように、各結晶粒が配列していること(以下、このような状態を「軸配向」という。)の双方を意味する。
なお、「擬立方{HKL}」とは、一般に、ペロブスカイト型化合物は、正方晶、斜方晶、三方晶など、立方晶からわずかに歪んだ構造を取るが、その歪は僅かであるので、立方晶とみなしてミラー指数表示することを意味する。
また、特定の結晶面が面配向している場合において、面配向の程度は、次の(2)式で表されるロットゲーリング(Lotgering)法による平均配向度F(HKL)で表すことができる。
F(HKL)={(P−P0)/(1−P0)}×100(%) ・・・(2)
但し、P=Σ'I(HKL)/ΣI(hkl)、
P0=Σ'I0(HKL)/ΣI0(hkl)。
なお、(2)式において、ΣI(hkl)は、結晶配向セラミックスについて測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和であり、ΣI0(hkl)は、結晶配向セラミックスと同一組成を有する無配向セラミックスについて測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和である。また、Σ'I(HKL)は、結晶配向セラミックスについて測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和であり、Σ'I0(HKL)は、結晶配向セラミックスと同一組成を有する無配向セラミックスについて測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和である。さらに、{100}面配向度を求める場合は、(HKL)として(100)と等価な面を用いた。また、CuKα線を用いてX線回折パターンを測定し、2θが5度から70度の範囲にあるピークを計算に用いた。
従って、多結晶体を構成する各結晶粒が無配向である場合には、平均配向度F(HKL)は0%となる。また、多結晶体を構成するすべての結晶粒の(HKL)面が測定面に対して平行に配向している場合には、平均配向度F(HKL)は100%となる。
一般に、配向している結晶粒の割合が多くなる程、高い特性が得られる。具体的には、特定の結晶面を面配向させる場合において、高い特性を得るためには、(2)式で表されるロットゲーリング(Lotgering)法による平均配向度F(HKL)は、5%以上が好ましく、さらに好ましくは20%以上である。また、後述する製造方法を用いると、平均配向度F(HKL)が30%を越える結晶配向セラミックスであっても製造することができる。
本発明に係る製造方法で製造した異方形状粉末をテンプレートとして製造される結晶配向セラミックスは、擬立方{100}面が配向しているので、配向方向の特性は、同一組成を有する無配向セラミックスに比べて高い値を示す。特に、(1)式で表される第1のペロブスカイトが化合物が圧電特性を有している場合には、擬立方{100}面が分極軸に垂直な面となるので、擬立方{100}面を配向させることによって、配向方向の圧電特性を大きく向上させることができる。
なお、特定の結晶面を軸配向させる場合には、その配向の程度は、面配向と同様の配向度((2)式)では定義できない。しかしながら、配向軸に垂直な面に対してX線回折を行った場合の(HKL)回折に関するLotgering法による平均配向度(以下、これを「軸配向度」という。)を用いて、軸配向の程度を表すことができる。また、特定の結晶面がほぼ完全に軸配向している成形体の軸配向度は、特定の結晶面がほぼ完全に面配向している成形体について測定された軸配向度と同程度になる。
本発明に係る製造方法で製造した異方形状粉末をテンプレートとして製造される結晶配向セラミックスは、擬立方{100}面が配向しているので、配向方向の圧電特性等は、無配向セラミックスに比べて高い値を示す。そのため、これを、誘電素子、マイクロ波誘電素子、熱電素子、焦電素子、磁気抵抗素子、磁性素子、圧電素子、電界駆動変位素子、超伝導素子、抵抗素子、電子伝導素子、イオン伝導性素子、PTCサーミスタ素子、NTCサーミスタ素子等に応用すれば、高い性能を有する各種素子を得ることができる。
次に、本発明に係る製造方法で製造される異方形状粉末について説明する。ペロブスカイト型化合物のような複雑な組成を有するセラミックスは、通常、成分元素を含む単純化合物を化学量論比になるように混合し、この混合物を成形・仮焼した後に解砕し、次いで解砕粉を再成形・焼結する方法によって製造される。しかしながら、このような方法では、各結晶粒の特定の結晶面が特定の方向に配向した配向焼結体を得るのは極めて困難である。
この問題を解決するために、所定の条件を満たす異方形状粉末を成形体中に配向させ、この異方形状粉末をテンプレートとして用いてペロブスカイト型化合物の生成及びその焼結を行わせ、これによって多結晶体を構成する各結晶粒の特定の結晶面を一方向に配向させた。異方形状粉末には、以下の条件を満たすものが用いられる。
第1に、異方形状粉末は、少なくともK及びNbを含む第2のペロブスカイト型化合物を主相とするものからなる。第2のペロブスカイト型化合物は、具体的には、次の(3)式に示す一般式で表すことができる。
(KxA'1−x)(NbyB'1−y)O3 ・・・(3)
(但し、0<x≦1。0<y≦1。A'は、1種又は2種以上の1価の金属元素。B'は、1種又は2種以上の5価の金属元素。)
この場合、異方形状粉末を構成する第2のペロブスカイト型化合物は、作製しようとする結晶配向セラミックスを構成する第1のペロブスカイト型化合物と同一組成を有するものであっても良く、あるいは、異なる組成を有しているものであっても良い。
また、「第2のペロブスカイト型化合物を主相とする」とは、異方形状粉末中に第2のペロブスカイト型化合物がモル分量で70mol%以上含まれていることをいう。第2のペロブスカイト型化合物のモル分量は、より好ましくは、90mol%以上、さらに好ましくは、99mol%以上である。異方形状粉末は、第2のペロブスカイト型化合物のみからなることが望ましいが、ペロブスカイト型の結晶構造を維持でき、かつ、焼結性、圧電特性等の諸特性に悪影響を及ぼさないものである限り、他の元素又は他の相が含まれていても良い。
なお、第2のペロブスカイト型化合物のその他の点については、第1のペロブスカイト型化合物と同様であるので、説明を省略する。
第2に、異方形状粉末は、その発達面(最も広い面積を有する面)が第2のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面からなるものが用いられる。第2のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面は、当然に、第1のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面と良好な格子整合性を有している。そのため、擬立方{100}面を発達面とする異方形状粉末を成形体中に配向させ、これを焼結すれば、異方形状粉末の配向方位を継承した状態で第1のペロブスカイト型化合物からなる異方形状結晶を生成及び成長させることができる。
第3に、異方形状粉末は、異方形状粉末には、成形時に一定の方向に配向させることが容易な形状を有しているものが用いられる。そのためには、異方形状粉末のアスペクト比(=Wa/ta。Wa:異方形状粉末の発達面の最大長さ。ta:異方形状粉末の厚さ。)は、2以上であることが好ましい。アスペクト比が2未満であると、成形時に異方形状粉末を一方向に配向させるのが困難となるので好ましくない。高い配向度の結晶配向セラミックスを得るためには、異方形状粉末のアスペクト比は、5以上が好ましく、さらに好ましくは、10以上である。
一般に、異方形状粉末の平均アスペクト比が大きくなるほど、成形時における異方形状粉末の配向が容易化される傾向がある。但し、アスペクト比が過大になると、後述する混合工程において異方形状粉末が破砕され、異方形状粉末が配向した成形体が得られない場合がある。従って、異方形状粉末の平均アスペクト比は、100以下が好ましい。
また、異方形状粉末の発達面の最大長さWaは、0.05μm以上が好ましい。最大長さWaが0.05μm未満であると、成形時に作用するせん断応力によって異方形状粉末を一定の方向に配向させるのが困難になる。また、界面エネルギーの利得が小さくなるので、結晶配向セラミックスを作製する際のテンプレートとして用いた時に、テンプレート粒子へのエピタキシャル成長が生じにくくなる。
一方、異方形状粉末の発達面の最大長さWaは、100μm以下が好ましい。最大長さWaが100μmを越えると、焼結性が低下し、焼結体密度の高い結晶配向セラミックスが得られない。最大長さWaは、さらに好ましくは、0.1μm以上50μm以下であり、さらに好ましくは、0.5μm以上20μm以下である。特に、異方形状粉末のWaが0.5μm以上であると、テープ成形時に配向成形するのが容易となり、高い配向度を有する結晶配向セラミックスが得られる。
なお、アスペクト比(Wa/ta)及び/又は最大長さ(Wa)の異なる異方形状粉末の混合物をテンプレートとして用いる場合、アスペクト比(Wa/ta)及び/又は最大長さ(Wa)の平均値が、上述の範囲であればよい。また、「異方形状」とは、幅方向又は厚さ方向の寸法に比して、長手方向の寸法が大きいことをいう。具体的には、板状、柱状、鱗片状等が好適な一例として挙げられる。
上記結晶配向セラミックスを製造するために用いられる異方形状粉末としては、具体的には、擬立方{100}面を発達面とするKNbO3粉末、(K、Na)NbO3粉末、(K、Li)NbO3粉末、(K、Na、Li)NbO3粉末、(K、Ag)NbO3粉末、(K、Li、Ag)NbO3粉末、(K、Na、Ag)NbO3粉末、(K、Na、Li、Ag)NbO3粉末等が挙げられる。高い配向度を有する結晶配向セラミックスを得るためには、異方形状粉末は、作製しようとする結晶配向セラミックスと同一組成を有するものを用いるのが好ましい。また、作製しようとする結晶配向セラミックスが2以上の成分を含む固溶体からなる場合、異方形状粉末は、いずれか1以上の端成分からなるものを用いても良い。
異方形状粉末は、第2のペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶組織、単結晶組織、若しくは、分域を有する単結晶組織、又は、これらの混在する組織のいずれであっても良い。
さらに、このような条件を満たす異方形状粉末は、種々の方法により製造することができるが、後述する本発明に係る方法(Topochemical Microcrystal Conversion:TMC変換法)により得られる粉末が特に好適である。本発明に係る方法により得られた異方形状粉末は、他の方法を用いて得られる異方形状粉末に比べて、目的とするセラミック組成と同じ組成の板状粉末が製造でき、少ないテンプレート量により結晶配向セラミックスを作ることができ、また少ないテンプレートのために焼結性が向上する(低温、かつ短時間で高密度化できる)という利点がある。
次に、本発明に係る異方形状粉末の製造方法について説明する。本発明に係る異方形状粉末の製造方法は、合成工程と、イオン交換工程と、除去工程とを備えている。
初めに、合成工程について説明する。「合成工程」は、第2のペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末を合成するための反応性テンプレートとして用いられる第1異方形状粉末を合成する工程である。第1異方形状粉末が上記異方形状粉末を合成するための反応性テンプレートとして機能するためには、以下のような条件を備えている必要がある。
第1に、第1異方形状粉末には、層状結晶構造を有する層状化合物からなるものが用いられる。層状化合物は、結晶格子の異方性が大きいので、表面エネルギの最も小さい結晶面を発達面とし、かつ形状異方性を有する粉末を比較的容易に合成することができる。
第2に、第1異方形状粉末は、その発達面が(2)式に示す第2のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面と格子整合性を有しているものが用いられる。所定の形状を有している第1異方形状粉末であっても、その発達面が第2のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面と格子整合性を有していない場合には、上記異方形状粉末を合成するための反応性テンプレートとして機能しない場合がある。
格子整合性の良否は、第1異方形状粉末の発達面の格子寸法と、第2のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面の格子寸法との差の絶対値を、第1異方形状粉末の発達面の格子寸法で割った値(以下、これを「格子整合率」という。)で表すことができる。この格子整合率は、格子をとる方向によって若干異なる場合がある。一般に、平均格子整合率(各方向について算出された格子整合率の平均値)が小さくなるほど、その第1異方形状粉末は、良好な反応性テンプレートとして機能することを示す。所定の条件を満たす異方形状粉末を得るためには、格子整合率は20%以下が好ましく、さらに好ましくは、10%以下である。
第3に、成形時に一方向に配向させることが容易な第2のペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末を容易に合成するためには、その合成に使用する第1異方形状粉末もまた、成形時に一方向に配向させることが容易な形状を有していることが望ましい。これは、第1異方形状粉末を反応性テンプレートとして用いて第2のペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末を合成する場合、反応条件を最適化すれば、得られる異方形状粉末の平均粒径及び/又はアスペクト比を増減させることもできるが、通常は、結晶構造の変化のみが起こり、粉末形状の変化はほとんど生じないためである。
すなわち、第1異方形状粉末は、その厚さ(tb)に対する発達面の最大長さ(Wb)のアスペクト比(Wb/tb)が2以上であるものが好ましい。第1異方形状粉末のアスペクト比は、さらに好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上である。また、後工程における破砕を抑制するためには、第1異方形状粉末のアスペクト比は、100以下が好ましい。
また、焼結性の高い異方形状粉末を得るためには、第1異方形状粉末の発達面の最大長さWbは、100μm以下が好ましい。また、配向させるのが容易な異方形状粉末を得るためには、第1異方形状粉末の発達面の最大長さWbは、0.05μm以上が好ましい。最大長さWaは、さらに好ましくは、0.1μm以上50μm以下であり、さらに好ましくは、0.5μm以上20μm以下である。
なお、アスペクト比(Wb/tb)及び/又は最大長さ(Wa)の異なる第1異方形状粉末の混合物を反応性テンプレートとして用いる場合、アスペクト比(Wb/tb)及び/又は最大長さ(Wa)の平均値が、上述の範囲であればよい。また、「異方形状」とは、幅方向又は厚さ方向の寸法に比して、長手方向の寸法が大きいことをいう。具体的には、板状、柱状、鱗片状等が好適な一例として挙げられる。
このような条件を満たす層状化合物には、種々の化合物があるが、中でも、少なくともK及びNbを含むタングステンブロンズ構造の層状化合物が好適である。K及びNbを含む層状化合物は、その{010}面に平行な面の表面エネルギが他の結晶面の表面エネルギより小さいので、{010}面を発達面とする第1異方形状粉末を比較的容易に合成することができる。
また、K及びNbを含む層状化合物の{010}面は、第2のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面との間に局所的には良好な格子整合性を有している。さらに、後述するイオン交換反応用原料の組成を最適化することによって、イオン交換反応時に不足しているAサイト元素及び/若しくはBサイト元素を補給し、並びに/又は、不要な陽イオン元素を余剰成分として排出することができるので、Aサイト元素及び/又はBサイト元素として実質的に不要な陽イオン元素を含まない第2のペロブスカイト型化合物を合成することができる。
また、K4Nb6O17は全域的にはNbO6ユニットが乱れているが、局所的にはNbO6の8面体を有しており、TMC(Topochemical Microcrystal Conversion)反応中に、格子の再配列を伴いながら、ペロブスカイトのNbO6規則ユニット構造に変換していく。そのときにペロブスカイトの{001}面が優先的に成長するために、1つの粉末結晶中で{001}面の優先配列した多結晶粉末を作成することができる。さらに、熱処理を行うと、{001}面配向のgrainが1つの粉末の中で粒成長して、1つの粉末全体が{001}面のそろった粉末となる。配向セラミックス用テンプレートとしては、{001}面の優先配列した多結晶粉末を用いても良く、{001}面の広がった単結晶粉末を用いても良い。
K及びNbを含むタングステンブロンズ構造の層状化合物としては、具体的には、K4Nb6O17、Bi3Nb17O47、K2BiNb5O15、KSr2Nb5O15、KBa2Nb5O15等が挙げられる。これらの中でも、K4Nb6O17は、不要な陽イオン元素を含まず、かつ、イオン交換反応用原料として、熱的又は化学的に除去が容易な化合物を用いることができるので、第1異方形状粉末を構成する材料として特に好適である。
なお、このような第1異方形状粉末は、成分元素を含む酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の原料を、液体又は加熱により液体となる物質と共に加熱することにより容易に製造することができる。具体的には、所定の原料に適当なフラックス(例えば、LiCl、NaCl、KCl、NaClとKClの混合物、BaCl2、KF等)を加えて所定の温度で加熱する方法(フラックス法)、作製しようとする第1異方形状粉末と同一組成を有する不定形粉末をアルカリ水溶液と共にオートクレーブ中で加熱する方法(水熱合成法)等が好適な一例として挙げられる。この場合、第1異方形状粉末のアスペクト比及び平均粒径は、合成条件を適宜選択することにより、制御することができる。
次に、イオン交換工程について説明する。「イオン交換工程」は、合成工程で得られた第1異方形状粉末と、イオン交換反応用原料とを、溶液又は融液中においてイオン交換を行わせる工程である。
ここで、「イオン交換反応用原料」とは、第1異方形状粉末とのイオン交換反応により第2のペロブスカイト型化合物を生成するものをいう。イオン交換反応用原料は、イオン交換反応時に、第2のペロブスカイト型化合物に加えて、余剰成分を生成するものであっても良い。
また、イオン交換反応用原料は、熱的又は化学的に除去が容易なものが好ましい。そのためには、そのためには、イオン交換反応用原料は、第2のペロブスカイト型化合物に比べて融点若しくは蒸気圧が高いもの、又は、温水、酸、アルカリ等に対する溶解度が高いものであることが望ましい。イオン交換反応用原料の形態は、熱的又は化学的に除去が容易である限り特に限定されるものではなく、酸化物粉末、複合酸化物粉末、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩等の塩、アルコキシド等を用いることができる。また、イオン交換反応用原料の組成は、作製しようとする第2のペロブスカイト型化合物の組成、及び、第1異方形状粉末の組成によって決まる。
また、「余剰成分」とは、目的とする第2のペロブスカイト型化合物以外の物質であって、熱的又は化学的に除去が容易なものをいう。そのためには、余剰成分は、第2のペロブスカイト型化合物に比べて融点若しくは蒸気圧が高いもの、又は、温水、酸、アルカリ等に対する溶解度が高いものであることが望ましい。余剰成分としては、具体的には、K2CO3、Li2CO3、Na2CO3が好適な一例として挙げられる。
さらに、「溶液又は融液中においてイオン交換を行わせる」とは、第1異方形状粉末及びイオン交換反応原料を適当なフラックス中で加熱すること(フラックス法)、あるいは、第1異方形状粉末及びイオン交換反応原料を適当な水溶液と共にオートクレーブ中で加熱すること(水熱合成法)等をいう。
例えば、K及びNbを含む層状化合物の一種であるK4Nb6O17からなる第1異方形状粉末を用いて、第2のペロブスカイト型化合物の一種であるKNbO3からなる異方形状粉末を合成する場合、イオン交換反応用原料として、Kを含む化合物(酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等)を用いる。この場合、1モルのK4Nb6O17に対して、少なくともK原子2モルに相当するK含有化合物をイオン交換反応用原料として添加すれば良い。
このような組成を有する第1異方形状粉末及びイオン交換反応用原料に対して、適当なフラックス(例えば、LiCl、NaCl、KCl、NaClとKClの混合物、BaCl2、KF等)を1wt%〜500wt%加えて、共晶点・融点に加熱すると、融液中において第1異方形状粉末とイオン交換反応用原料との間でイオン交換反応が起こり、KNbO3からなる異方形状粉末が生成する。また、反応条件によっては、未反応のK2CO3が合成物中に残留する。
また、例えば、K及びNbを含む層状化合物の一種である(K1−xLix)4Nb6O17(但し、0<x<1)からなる第1異方形状粉末を用いて、第2のペロブスカイト型化合物の一種であるKNbO3からなる異方形状粉末を合成する場合、イオン交換反応用原料として、1モルの層状化合物に対して、少なくともK原子4xモルに相当するK含有化合物を添加すればよい。このような組成を有する第1異方形状粉末及びイオン交換反応用原料に対して適当なフラックスを加え、適当な温度に加熱するとKNbO3からなる異方形状粉末が生成する。また、反応条件によっては、未反応のイオン交換反応用原料、及び、余剰成分であるLi2CO3が合成物中に残留する。
また、例えば、K及びNbを含む層状化合物の一種である(K1−xNax)4Nb6O17(但し、0<x<1)からなる第1異方形状粉末を用いて、第2のペロブスカイト型化合物の一種であるKNbO3からなる異方形状粉末を合成する場合、イオン交換反応用原料として、1モルの層状化合物に対して、少なくともK原子4xモルに相当するK含有化合物を添加すればよい。このような組成を有する第1異方形状粉末及びイオン交換反応用原料に対して適当なフラックスを加え、適当な温度に加熱するとKNbO3からなる異方形状粉末が生成する。また、反応条件によっては、未反応のイオン交換反応用原料、及び、余剰成分であるNa2CO3が合成物中に残留する。
また、例えば、K及びNbを含む層状化合物の一種であるK4Nb6O17からなる第1異方形状粉末とK含有化合物とを、強酸と共にオートクレーブ中で加熱すると、第1異方形状粉末中にKが補給され、KNbO3からなる異方形状粉末が得られる。他の組成の場合も同様である。
なお、反応条件によっては、イオン交換反応が完全に進行せず、部分的に止まる場合がある。そのような場合には、第1異方形状粉末とイオン交換反応用原料との反応を、再度繰り返すか、あるいは、第1異方形状粉末に対して、過剰のイオン交換反応用原料を加えるのが好ましい。過剰のイオン交換反応用原料を加える場合、その添加量は、化学量論比の1.1倍以上が好ましく、さらに好ましくは、1.2倍以上、さらに好ましくは、1.5倍以上である。
次に、除去工程について説明する。「除去工程」は、イオン交換工程で得られた混合物から必要に応じて湯せん等によりフラックスを取り除いた後、未反応のイオン交換反応用原料、及び、第1異方形状粉末から余剰成分が排出される場合には、その余剰成分を熱的又は化学的に除去する工程である。
ここで、「イオン交換反応用原料及び/又は余剰成分を熱的に除去する」とは、第2のペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末とイオン交換反応用原料及び/又は余剰成分との混合物を加熱し、イオン交換反応用原料及び/又は余剰成分を融液又気体として除去することをいう。この方法は、第2のペロブスカイト型化合物とイオン交換反応用原料及び/又は余剰成分の融点又は蒸気圧の差が大きい場合に有効な方法である。
例えば、イオン交換反応用原料がK2CO3単相である場合、イオン交換工程で得られた混合物を大気中又は減圧雰囲気下において、800℃以上950℃以下で加熱するのが好ましい。加熱温度は、さらに好ましくは、850℃以上900℃以下である。加熱時間は、加熱雰囲気、加熱温度等に応じて、最適な温度を選択する。
また、「イオン交換反応用原料及び/又は余剰成分を化学的に除去する」とは、イオン交換工程で得られた混合物をイオン交換反応用原料及び/又は余剰成分のみを侵蝕させる性質を有する処理液中に入れ、イオン交換反応用原料及び/又は余剰成分を溶解させることをいう。この方法は、処理液に対する第2のペロブスカイト型化合物とイオン交換反応用原料及び/又は余剰成分との溶解度の差が大きい場合に有効な方法である。
例えば、イオン交換反応用原料が炭酸カリウム(K2CO3)単相である場合、処理液は、温水、硝酸、塩酸等を用いるのが好ましい。特に、温水は、炭酸カリウムを主成分とするイオン交換反応用原料を化学的に抽出する処理液として好適である。
次に、本発明に係る異方形状粉末の製造方法の作用について説明する。第2のペロブスカイト型化合物は、結晶格子の異方性が小さいので、直接、異方形状粉末を合成するのは困難である。また、擬立方{100}面を発達面とする異方形状粉末を直接、合成することも困難である。
これに対し、層状化合物は、結晶格子の異方性が大きいので、形状異方性を有する粉末を直接合成するのは容易である。また、層状化合物の内、ある種の化合物からなる第1異方形状粉末の発達面は、第2のペロブスカイト型化合物の{100}面との間に良好な格子整合性を有している。さらに、第2のペロブスカイト型化合物は、一般に、層状化合物に比して熱力学的に安定である。
そのため、層状化合物からなり、かつ、その発達面が第2のペロブスカイト型化合物の特定の結晶面と格子整合性を有する第1異方形状粉末とイオン交換反応用原料とを、適当な溶液又は融液中で反応させると、第1異方形状粉末が反応性テンプレートとして機能し、第1異方形状粉末の配向方位を継承した第2のペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末を容易に合成することができる。
また、第1異方形状粉末及びイオン交換反応用原料の組成を最適化すると、両者の間でイオン交換反応が起こり、目的とする第2のペロブスカイト型化合物が得られる。また、第1異方形状粉末に不要な陽イオン元素が含まれる場合であっても、これらの組成を最適化することによって第1異方形状粉末から不要な陽イオン元素が余剰成分として排出されるので、実質的に、不要な陽イオン元素を含まない第2のペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末を合成することができる。
特に、第1異方形状粉末がK及びNbを含む層状化合物からなる場合において、イオン交換反応用原料として炭酸カリウム等のアルカリ金属塩を用いると、イオン交換反応時に第1異方形状粉末にアルカリ金属が補給され、目的とする第2のペロブスカイト型化合物が得られ、その際に余剰成分の生成を伴わない。また、未反応のアルカリ金属塩は、熱的又は化学的な除去が容易であるので、不要な陽イオン元素を含まず、第2のペロブスカイト型化合物からなり、かつ、擬立方{100}を発達面とする異方形状粉末が得られる。
次に、結晶配向セラミックスの製造方法について説明する。結晶配向セラミックスの製造方法は、混合工程と、成形工程と、焼結工程とを備えている。
初めに、混合工程について説明する。「混合工程」とは、異方形状粉末と、マトリックス化合物粉末とを混合する工程をいう。また、「異方形状粉末」とは、上述したように、(3)式で表される第2のペロブスカイト型化合物からなり、その発達面が擬立方{100}面からなるものをいう。
なお、成形時における異方形状粉末の配向を容易化するためには、異方形状粉末は、少なくともその厚さ(ta)に対する発達面の最大長さ(Wa)のアスペクト比(Wa/ta)が2以上が好ましい点、及び、少なくともその最大長さ(Wa)は、100μm以下が好ましい点は、上述したとおりである。また、混合工程においては、このような条件を満たす1種類の異方形状粉末を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。さらに、異方形状粉末は、作成しようとする結晶配向セラミックスと同一組成を有するものであっても良く、あるいは、作成しようとする結晶配向セラミックスを構成する端成分のいずれか1以上と同一組成を有するものであっても良い。
「マトリックス化合物粉末」とは、異方形状粉末と反応し、又は反応することなく、(1)式で表される第1のペロブスカイト型化合物となるものをいう。マトリックス化合物粉末の組成は、異方形状粉末を構成する第2のペロブスカイト型化合物の組成、及び、作製しようとする第1のペロブスカイト型化合物の組成に応じて定まる。また、また、マトリックス化合物粉末の形態は、特に限定されるものではなく、酸化物粉末、複合酸化物粉末、水酸化物粉末、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩等の塩、アルコキシド等を用いることができる。
例えば、KNbO3からなる結晶配向セラミックスを作製する場合において、異方形状粉末として、KNbO3からなる板状粉末を用いるときには、マトリックス化合物粉末として、KNbO3からなる微粉末を用いても良い。あるいは、K及びNbの少なくとも1つの元素を含む化合物からなる微粉末の混合物であって、これらが固相反応することによってKNbO3が生成するように、化学量論比で配合されたものを用いても良い。
また、例えば、(K、Na)NbO3からなる結晶配向セラミックスを作製する場合において、異方形状粉末として、KNbO3からなる板状粉末を用いるときには、マトリックス化合物粉末として、KNbO3及びNaNbO3からなる微粉末を用いても良い。あるいは、K、Na及びNbの少なくとも1つの元素を含む化合物からなる微粉末の混合物であって、これらが固相反応することによって(K、Na)NbO3が生成するように、化学量論比で配合されたものを用いても良い。他の組成を有する結晶配向セラミックスを作製する場合も同様である。
なお、異方形状粉末を構成する第2のペロブスカイト型化合物と、結晶配向セラミックスを構成する第1のペロブスカイト型化合物の組成が異なる場合、マトリックス化合物粉末中に、第1のペロブスカイト型化合物からなる微粉末が含まれていても良い。また、混合工程においては、所定の比率で配合された異方形状粉末及びマトリックス化合物粉末に対して、さらに、焼結助剤(例えば、CuO等)を添加しても良い。出発原料に対して、第1のペロブスカイト型化合物からなる微粉末や焼結助剤を添加すると、焼結体の緻密化がさらに容易化するという利点がある。
また、異方形状粉末とマトリックス化合物粉末とを混合する場合において、異方形状粉末の配合比率が小さくなりすぎると、擬立方{100}面の配向度が低下する場合がある。従って、異方形状粉末の配合比率は、要求される焼結体密度及び配向度に応じて、最適な比率を選択するのが好ましい。
擬立方{100}面の配向度が5%以上である結晶配向セラミックスを得るためには、異方形状粉末の配合比率は、結晶配向セラミックスに含まれる第1のペロブスカイト型化合物のBサイトイオンの0.1at%以上が、異方形状粉末から供給されるような比率とするのが好ましい。異方形状粉末の配合比率は、好ましくは、Bサイトイオンの2at%以上であり、さらに好ましくは、Bサイトイオンの5at%以上である。
さらに、異方形状粉末及びマトリックス化合物粉末、並びに、必要に応じて配合される焼結助剤の混合は、乾式で行っても良く、あるいは、水、アコール等の適当な分散媒を加えて湿式で行っても良い。さらに、この時、必要に応じてバインダ及び/又は可塑剤を加えても良い。
次に、成形工程について説明する。成形工程は、混合工程で得られた混合物を、異方形状粉末の発達面が配向するように成形する工程である。この場合、異方形状粉末が面配向するように成形しても良く、あるいは、軸配向するように成形しても良い。
成形方法については、異方形状粉末を配向させることが可能な方法であれば良く、特に限定されるものではない。異方形状粉末を面配向させる成形方法としては、具体的には、ドクターブレード法、プレス成形法、圧延法等が好適な一例として挙げられる。また、異方形状粉末を軸配向させる成形方法としては、具体的には、押出成形法、遠心成形法等が好適な一例として挙げられる。
また、異方形状粉末が面配向した成形体(以下、これを「面配向成形体」という。)の厚さを増したり、配向度を上げるために、面配向成形体に対し、さらに積層圧着、プレス、圧延などの処理(以下、これを「面配向処理」という。)を行っても良い。この場合、面配向成形体に対して、いずれか1種類の面配向処理を行っても良く、あるいは、2種以上の面配向処理を行っても良い。また、面配向成形体に対して、1種類の面配向処理を複数回繰り返り行っても良く、あるいは、2種以上の配向処理をそれぞれ複数回繰り返し行っても良い。
次に、焼結工程について説明する。焼結工程は、成形工程で得られた成形体を加熱し、焼結させる工程である。異方形状粉末とマトリックス化合物粉末とを含む成形体を所定の温度に加熱すると、異方形状粉末がテンプレートとして機能し、第1のペロブスカイト型化合物からなる異方形状結晶が生成及び成長し、これと同時に、生成した第1のペロブスカイト型化合物の焼結が進行する。
加熱温度は、異方形状結晶の成長及び/又は焼結が効率よく進行し、かつ、目的とする組成を有する化合物が生成するように、使用する異方形状粉末、マトリックス化合物粉末、作製しようとする結晶配向セラミックスの組成等に応じて最適な温度を選択すればよい。
最適な加熱温度は、第1のペロブスカイト型化合物の組成に応じて異なる。例えば、KNbO3からなる異方形状粉末、並びに、KNbO3及びNaNbO3からなるマトリックス化合物粉末を用いて(K、Na)NbO3からなる結晶配向セラミックスを製造する場合、加熱温度は、900℃以上1300℃以下が好ましい。また、加熱は、大気中、酸素中、減圧下又は真空下のいずれの雰囲気下で行っても良い。さらに、加熱時間は、所定の焼結体密度が得られるように、加熱温度に応じて最適な時間を選択すればよい。
加熱方法は、常圧焼結法、あるいは、ホットプレス、ホットフォージング、HIP等の加圧焼結法のいずれを用いても良く、結晶配向セラミックスの組成、用途等に応じて、最適な方法を選択することができる。
なお、バインダを含む成形体の場合、焼結工程の前に、脱脂を主目的とする熱処理を行っても良い。この場合、脱脂の温度は、少なくともバインダを熱分解させるに十分な温度であれば良い。但し、原料中に揮発しやすい物(例えば、Na化合物)が含まれる場合、脱脂は、500℃以下で行うのが好ましい。
また、配向成形体の脱脂を行うと、配向成形体中の異方形状粉末の配向度が低下したり、あるいは、配向成形体に体積膨張が発生する場合がある。このような場合には、脱脂を行った後、熱処理を行う前に、配向成形体に対して、さらに静水圧(CIP)処理を行うのが好ましい。脱脂後の成形体に対して、さらに静水圧処理を行うと、脱脂に伴う配向度の低下、あるいは、配向成形体の体積膨張に起因する焼結体密度の低下を抑制できるという利点がある。また、焼結体密度及び配向度をさらに高めるために、熱処理後の焼結体に対してさらにホットプレスを行う方法も有効である。
次に、結晶配向セラミックスの製造方法の作用について説明する。異方形状粉末及びマトリックス化合物粉末を混合し、これを異方形状粉末に対して一方向から力が作用するような成形方法を用いて成形すると、異方形状粉末に作用するせん断応力によって異方形状粉末が成形体中に配向する。このような成形体を所定の温度で加熱すると、異方形状粉末とマトリックス化合物粉末とが反応し、又は反応することなく、第1のペロブスカイト型化合物が生成する。
この時、異方形状粉末の発達面と第1のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面との間には格子整合性があるので、異方形状粉末の発達面が、生成した第1のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面として継承される。そのため、焼結体中には、擬立方{100}面が一方向に配向した状態で、第1のペロブスカイト型化合物からなる異方形状結晶が生成する。
層状化合物からなる異方形状粉末を反応性テンプレートとして用いて、ペロブスカイト型化合物を生成させる従来の方法は、異方形状粉末及びその他の原料に含まれるすべてのAサイト元素及びBサイト元素を含むペロブスカイト型化合物からなる結晶配向セラミックス又は異方形状粉末のみが製造可能である。
一方、反応性テンプレートとして用いる異方形状粉末の材質は、結晶格子の異方性の大きく、かつ、ペロブスカイト型化合物との間に格子整合性を有するものであることが必要であるが、作製しようとするペロブスカイト型化合物の組成によっては、このような条件を満たす材料が存在しないか、あるいは、その探索に著しい困難を伴う場合がある。従って、従来の方法では、得られる結晶配向セラミックスの組成制御、特に、Aサイト元素の組成制御には限界があった。
これに対し、まず、異方形状粉末の合成が容易な層状化合物からなる第1異方形状粉末を合成し、この第1異方形状粉末を反応性テンプレートとして用い、かつ、これと反応させるイオン交換反応用原料の組成を最適化すると、不要なAサイト元素及び/又はBサイト元素を含まない第2のペロブスカイト型化合物からなり、かつ擬立方{100}面を発達面とする異方形状粉末を合成することができる。次いで、このようにして得られた異方形状粉末を成形体中に配向させ、所定の温度で加熱すると、不要なAサイト元素及び/又はBサイト元素を含まない第1のペロブスカイト型化合物からなり、かつ擬立方{100}面が配向した結晶配向セラミックスが得られる。
上記製造方法は、通常のセラミックスプロセスをそのまま利用できるので、結晶格子の異方性の小さい第1のペロブスカイト型化合物であっても、擬立方{100}面が高い配向度で配向した結晶配向セラミックスを容易かつ安価に製造することができる。また、このようにして得られた結晶配向セラミックスは、多結晶体であるので、単結晶に比べて、強度、破壊靱性等に優れている。
また、異方形状粉末として、作製しようとする結晶配向セラミックスと同一又は類似の結晶構造を有しているものを用いているので、異なる結晶構造を有する異方形状粉末を反応性テンプレートとして用いた場合に比べて、容易に高い配向度を有する結晶配向セラミックスが得られる。すなわち、異方形状粉末の配合比率が相対的に少ない場合であっても、高い配向度を有する結晶配向セラミックスが得られる。
(実施例1)
化学量論比でK4Nb6O17組成となるように、K2CO3粉末(平均粒径:0.7μm)及びNb2O5粉末(平均粒径:0.7μm)を秤量し、これらを湿式混合した。次いで、この原料に対して、フラックスとしてKClを50wt%添加し、これらを乾式混合した。次に、得られた混合物を白金るつぼに入れ、1050℃×2hの条件下で加熱し、K4Nb6O17の合成を行った。冷却後、反応物から湯せんによりフラックスを取り除き、K4Nb6O17粉末を得た。得られたK4Nb6O17粉末は、{001}面を発達面とし、アスペクト比(Wb/tb)が約8、発達面の最大長さ(Wb)が約7μmである板状粉末であった。
次に、このK4Nb6O17板状粉末に対して、KNbO3を生成させるのに必要な化学量論量の1.2倍に相当するK2CO3を加えて混合し、さらに、この原料に対して、フラックスとしてKClを50wt%添加した。次いで、この混合物を白金るつぼに入れ、850℃×8hの条件下で加熱した。これにより、トポケミカル結晶変換(以下、これを「TMC(Topochemical Mycrocrystal Conversion)変換」という。)が起こり、白金るつぼ中には、KNbO3と未反応のK2CO3の混合物が生成した。
次に、TMC変換によって得られた反応物からフラックスを取り除いた後、これを90℃の熱水中に1h浸漬し、残留したK2CO3を溶解させた。さらに、この溶液を濾過してKNbO3粉末を分離し、80℃のイオン交換水で洗浄した。得られたKNbO3粉末は、擬立方{100}面を発達面とし、アスペクト比(Wa/ta)が約8、発達面の最大長さ(Wa)が約5μmである板状粉末であった。次の化1の式に、KNbO3板状粉末の合成反応式を示す。
図1(a)及び図1(b)に、それぞれ、合成されたK4Nb6O17板状粉末及びKNbO3板状粉末のSEM写真を示す。また、図2(a)及び図2(b)に、それぞれ、それぞれ、合成されたK4Nb6O17板状粉末及びKNbO3板状粉末の拡大SEM写真を示す。図1及び図2より、本発明に係る方法により、アスペクト比の大きな板状粉末が得られていることがわかる。
また、図3(a)及び図3(b)に、それぞれ、合成されたK4Nb6O17板状粉末及びKNbO3板状粉末のX線回折パターンを示す。また、図4(a)に、PDFファイルに登録されているNo.320832(KNbO3)のパターンを示す。さらに、図4(b)及び図5に、PDFファイルに登録されているNo.760977(K4Nb6O17)のパターンを示す。
図3〜図5より、100%単相のK4Nb6O17板状粉末から、ペロブスカイト型結晶構造を有する100%単相のKNbO3板状粉末が得られていることがわかる。なお、K4Nb6O17板状粉末及びKNbO3板状粉末の発達面の結晶面は、キャスト法により、それぞれ、{001}面及び擬立方{100}面であることを確認した。
(比較例1)
フラックス法を用いて、KNbO3粉末を合成した。すなわち、化学量論比でKNbO3組成となるように、K2CO3粉末(平均粒径:0.7μm)及びNb2O5粉末(平均粒径:0.7μm)を秤量し、これらを湿式混合した。次いで、この原料に対して、フラックスとしてKClを50wt%添加し、これらを乾式混合した。次に、得られた混合物を白金るつぼに入れ、950℃×2hの条件下で加熱した。冷却後、反応物から湯せんによりフラックスを取り除き、KNbO3粉末を得た。次の化2の式に、フラックス法によるKNbO3の合成反応式を示す。
図6に、合成されたKNbO3粉末のSEM写真を示す。また、図7に、合成された粉末のX線回折パターンを示す。図7より、フラックス法によりKNbO3単相粉末が得られていることがわかる。また、図6より、得られたKNbO3粉末は、平均粒径が約1.0μm、アスペクト比が約1である等方性の粉末であることがわかる。
(比較例2)
固相反応法を用いて、KNbO3粉末を作製した。すなわち、化学量論比でKNbO3となるように、K2CO3粉末(平均粒径:0.7μm)及びNb2O5粉末(平均粒径:0.7μm)を秤量し、これらを湿式混合した。次いで、この原料をるつぼに入れ、大気中において1000℃×5時間の条件下で加熱した。冷却後、反応物をボールミルで24時間粉砕し、KNbO3粉末を得た。次の化3の式に、固相反応法によるKNbO3の合成反応式を示す。
得られたKNbO3粉末は、平均粒径が約0.8μm、アスペクト比が約1である等方性の粉末であった。
(実施例2)
TCM変換を行う際に、K4Nb6O17板状粉末に対して加えるK2CO3の量(1+x)を、それぞれ、KNbO3を生成させるのに必要な化学量論量の1.0倍、1.1倍、1.2倍、又は1.5倍とした以外は、実施例1と同様の手順に従い、KNbO3板状粉末を作製した。図8〜図13に、それぞれ、未反応のK2CO3を除去した後の粉末のX線回折パターン及びSEM写真を示す。
図8〜図13のSEM写真に示すように、K2CO3の量によらず、いずれの場合も、板状粉末を合成することができた。
また、1+x=1.0である場合(図8)、100%単相のKNbO3板状粉末を得ることはできず、K4Nb6O17(図8中、黒塗りの逆三角印で表示)が残留した。これに対し、1+x=1.1である場合(図9)、K4Nb6O17のピークは、大幅に減少しており、変換が進んでいることがわかる。さらに、1+x=1.2である場合(図10、図11)、及び、1+x=1.5である場合(図12、図13)、K4Nb6O17のピークは完全に消失しており、100%単相のKNbO3板状粉末が得られていることがわかる。従って、板状KNbO3の合成変換効率を上げるには、TCM変換の際のK2CO3の量は、化学量論量の1.2倍以上が望ましいことがわかった。
また、1+x=1.2とし、TCM変換を850℃×8hの条件下で行った場合、図11の拡大SEM写真に示すように、得られたKNbO3板状粉末は、多数の結晶粒からなる多結晶組織を有していた。一方、1+x=1.5とし、TCM変換を850℃×8hの条件下で行った場合、図13の拡大SEM写真に示すように、相対的に少数の結晶粒からなる多結晶組織を有していた。すなわち、K2CO3の量が多くなるほど、得られるKNbO3板状粉末の組織が単結晶に近づくことがわかった。
さらに、図示はしないが、TCM変換時のK2CO3の量を多くすることに加えて、又はこれに代えて、合成温度を上昇させ、及び/又は、合成時間を長くすると、KNbO3板状粉末の組織を単結晶組織にすることが可能であることを確認した。
(実施例3)
図14に示す手順に従い、K0.5Na0.5NbO3からなる結晶配向セラミックスを作製した。まず、KNbO3粉末((株)高純度化学製、純度99.99%)及びNaNbO3粉末((株)高純度化学製、純度99.99%)を、それぞれ別々に、ジルコニアボールを使い、アセトン溶媒中で24時間ボールミル粉砕した。粉砕後の粉末の平均粒径をレーザ散乱粒度分布装置(Horiba、LA−700)で測定したところ、いずれも0.5μmであった。これを乾燥した後、等方性粉末(マトリックス化合物粉末)として実験に用いた。
次に、実施例1で得られたKNbO3板状粉末(合成時の1+x=1.2、アスペクト比=約8)と、マトリックス化合物粉末(KNbO3等方性粉末、NaNbO3等方性粉末)と、焼結助剤であるCuO粉末(平均粒径:0.7μm)とをモル比で、KNbO3板状粉末:KNbO3等方性粉末:NaNbO3等方性粉末:CuO粉末=10:40:50:0.01となるように秤量した。この配合比は、Bサイトイオンの10at%がKNbO3板状粉末から供給される量に相当する。この秤量した粉末に、55vol%トルエン45vol%エタノールの混合溶媒を、粉末に対する重量比で90wt%となるように加えた。
さらに、これに対して、バインダ(積水化学(株)製、エスレック(登録商標)BH−3)及び可塑剤(フタル酸ブチル)を、粉末量に対して、それぞれ、6wt%となるように配合した。この混合物をボールミルにより、5時間の湿式混合を行い、スラリーを作製した。
次に、ドクターブレード装置を用いて、混合したスラリを厚さ100μmのテープ状に成形し、乾燥させた。さらに、このテープを25枚積層して、80℃×100kg/cm2(9.8MPa)×10minの条件で圧着し、厚さ約2.3mmの板状成形体を得た。次に、得られた板状成形体を、大気中において、加熱温度:600℃、加熱時間:2時間、昇温速度:200℃/h、冷却速度:炉冷の条件下で脱脂した。さらに、酸素中において、1100℃〜1175℃で1時間の条件で焼結させた。
(比較例3)
KNbO3板状粉末に代えて、比較例1で作製した等方性KNbO3粉末を用い、焼結温度を1175℃とした以外は、実施例3と同一の手順に従い、焼結体を作製した。
(比較例4)
KNbO3板状粉末に代えて、比較例2で作製した等方性KNbO3粉末を用い、焼結温度を1175℃とした以外は、実施例3と同一の手順に従い、焼結体を作製した。
次の化4の式に、実施例3並びに比較例3及び4のセラミックス作製ルートを示す。
実施例3及び比較例3、4で得られた焼結体について、テープ面と平行な面についてX線回折を行った。図15〜図17に、実施例3で得られた焼結体のX線回折パターンを示す。図15〜図17より、擬立方{100}面が、テープ面に対して平行に、かつ高い配向度で配向していることがわかる。K0.5Na0.5NbO3のピークの指数付けは、PDFファイルに相当するものがなかったので、Rietveid法によりXRD回折パターンを計算した。図18に、その結果を示す。図18の結果に基づいて計算されたロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度F(100)は、焼結条件により異なり、1100℃×1hで6.61%(図15)、1150℃×1hで29.77%(図16)、1175℃×1hで39.72%(図17)であった。
また、図19に、比較例3で得られた焼結体のX線回折パターンを示す。図19より、得られた焼結体は、無配向であることがわかる。図18の結果に基づいて計算されたロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度F(100)は、0%であった。同様に、図示はしないが、比較例4で得られた焼結体もまた無配向であり、図18の結果に基づいて計算されたロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度F(100)は、0%であった。
表1に、焼結温度と配向度との関係を示す。同じく、図20に、焼結温度と配向度との関係を示す。表1及び図20より、焼結温度が上がるにつれて、配向度が大きくなることがわかる。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、上記実施例では、結晶配向セラミックスを製造するに際し、常圧焼結法が用いられているが、他の焼結法(例えば、ホットプレス法、HIP処理等)を用いても良い。
また、上記実施例では、主として、ペロブスカイト型化合物単相からなる結晶配向セラミックス及びその製造方法について主に説明したが、第1のペロブスカイト型化合物に対して適当な副成分及び/又は副相を添加すれば、熱電特性やイオン伝導特性を付与することができる。そのため、上記実施例に係る製造方法を応用すれば、熱電材料やイオン伝導材料等として好適な結晶配向セラミックスであっても製造することができる。