以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。本発明の第1の実施の形態に係る結晶配向セラミックスは、少なくともPb及びTiを含む第1のペロブスカイト型化合物(但し、Caを含むものを除く)を主相とする多結晶体からなり、該多結晶体を構成する各結晶粒の擬立方{100}面が配向していることを特徴とする。
第1のペロブスカイト型化合物は、具体的には、次の(1)式に示す一般式で表すことができる。
(PbxA'1−x)(TiyB'1−y)O3 ・・・(1)
(但し、0<x≦1。0<y≦1。A'は、1種又は2種以上の2価の金属元素。B'は、1種又は2種以上の4価の金属元素。)
本実施の形態において、第1のペロブスカイト型化合物は、Aサイト元素として、少なくともPbを含むものからなる。この場合、Aサイト元素は、Pbのみからなるものであっても良く、あるいは、Pb以外のAサイト元素(元素A’)が含まれていても良い。元素A’の種類は、特に限定されるものではなく、少なくとも2価の金属元素であればよい。元素A’としては、具体的には、Ba、Mg、Zn、Co、Fe等が挙げられる。
また、第1のペロブスカイト型化合物は、Bサイト元素として、少なくともTiを含むものからなる。この場合、Bサイト元素は、Tiのみからなるものであっても良く、あるいは、Ti以外のBサイト元素(元素B’)が含まれていても良い。元素B’の種類は、特に限定されるものではなく、少なくとも4価の金属元素であればよい。元素B’としては、具体的には、Zr、Hf、Sn、Ge、Si等が挙げられる。
(1)式で表される第1のペロブスカイト型化合物としては、具体的には、PbTiO3、(Ba、Pb)TiO3、(Ba、Pb)(Ti、Zr)O3、(Ba、Pb)(Ti、Sn)O3、(Ba、Pb)(Ti、Zr、Sn)O3等が挙げられる。
また、本実施の形態において、「第1のペロブスカイト型化合物を主相とする」とは、結晶配向セラミックス中に第1のペロブスカイト型化合物がモル分量で70mol%以上含まれていることを言う。本実施の形態に係る結晶配向セラミックスは、第1のペロブスカイト型化合物のみからなることが望ましいが、ペロブスカイト型の結晶構造を維持でき、かつ、焼結特性、圧電特性等の諸特性に悪影響を及ぼさないものである限り、他の元素又は他の相が含まれていても良い。
このような「他の元素」としては、具体的には、Ba、Mg、Zr、Sn、Ge、Si等がある。また、「他の相」としては、具体的には、後述する製造方法や使用する出発原料に起因する添加物、焼結助剤、副生成物、不純物等(例えば、Bi2O3、CuO、MnO2、NiO等)が一例として挙げられる。圧電特性等に悪影響を及ぼすおそれのある他の元素又は他の相の含有量は、少ないほど良い。
「擬立方{100}面が配向している」とは、(1)式で表される第1のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面が互いに平行になるように、各結晶粒が配列していること(以下、このような状態を「面配向」という。)、又は、擬立方{100}面が成形体を貫通する1つの軸に対して平行になるように、各結晶粒が配列していること(以下、このような状態を「軸配向」という。)の双方を意味する。
なお、「擬立方{HKL}」とは、一般に、ペロブスカイト型化合物は、正方晶、斜方晶、三方晶など、立方晶からわずかに歪んだ構造を取るが、その歪は僅かであるので、立方晶とみなしてミラー指数表示することを意味する。
また、特定の結晶面が面配向している場合において、面配向の程度は、次の(2)式で表されるロットゲーリング(Lotgering)法による平均配向度F(HKL)で表すことができる。
F(HKL)={(P−P0)/(1−P0)}×100(%) ・・・(2)
但し、P=ΣI(HKL)/ΣI(hkl)、
P0=ΣI0(HKL)/ΣI0(hkl)。
なお、(2)式において、ΣI(hkl)は、結晶配向セラミックスについて測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和であり、ΣI0(hkl)は、結晶配向セラミックスと同一組成を有する無配向セラミックスについて測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和である。また、Σ'I(HKL)は、結晶配向セラミックスについて測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和であり、Σ'I0(HKL)は、結晶配向セラミックスと同一組成を有する無配向セラミックスについて測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(HKL)のX線回折強度の総和である。さらに、{100}面配向度を求める場合は、(HKL)として(100)と等価な面を用いた。また、CuKα線を用いてX線回折パターンを測定し、2θが5度から70度の範囲にあるピークを計算に用いた。
従って、多結晶体を構成する各結晶粒が無配向である場合には、平均配向度F(HKL)は0%となる。また、多結晶体を構成するすべての結晶粒の(HKL)面が測定面に対して平行に配向している場合には、平均配向度F(HKL)は100%となる。
一般に、配向している結晶粒の割合が多くなる程、高い特性が得られる。具体的には、特定の結晶面を面配向させる場合において、高い特性を得るためには、(2)式で表されるロットゲーリング(Lotgering)法による平均配向度F(HKL)は、10%以上が好ましく、さらに好ましくは50%以上である。また、後述する製造方法を用いると、平均配向度F(HKL)が90%を越える結晶配向セラミックスであっても製造することができる。
本実施の形態に係る結晶配向セラミックスは、擬立方{100}面が配向しているので、配向方向の特性は、同一組成を有する無配向セラミックスに比べて高い値を示す。特に、(1)式で表される第1のペロブスカイトが化合物が圧電特性を有している場合には、擬立方{100}面が分極軸に垂直な面となるので、擬立方{100}面を配向させることによって、配向方向の圧電特性を大きく向上させることができる。
なお、特定の結晶面を軸配向させる場合には、その配向の程度は、面配向と同様の配向度((2)式)では定義できない。しかしながら、配向軸に垂直な面に対してX線回折を行った場合の(HKL)回折に関するLotgering法による平均配向度(以下、これを「軸配向度」という。)を用いて、軸配向の程度を表すことができる。また、特定の結晶面がほぼ完全に軸配向している成形体の軸配向度は、特定の結晶面がほぼ完全に面配向している成形体について測定された軸配向度と同程度になる。
本実施の形態に係る結晶配向セラミックスは、擬立方{100}面が配向しているので、配向方向の圧電特性等は、無配向セラミックスに比べて高い値を示す。
特に、その組成及び配向度を最適化すると、圧電電荷出力d33定数が、同一組成を有する無配向セラミックスの1.2倍以上である結晶配向セラミックスが得られる。
また、その圧電電圧定数g33定数が、同一組成を有する無配向セラミックスの1.2倍以上である結晶配向セラミックスが得られる。
そのため、これを、誘電素子、マイクロ波誘電素子、熱電素子、焦電素子、磁気抵抗素子、磁性素子、圧電素子、電界駆動変位素子、超伝導素子、抵抗素子、電子伝導素子、イオン伝導性素子、PTCサーミスタ素子、NTCサーミスタ素子等に応用すれば、高い性能を有する各種素子を得ることができる。
次に、本実施の形態に係る結晶配向セラミックスの製造に用いられる異方形状粉末について説明する。ペロブスカイト型化合物のような複雑な組成を有するセラミックスは、通常、成分元素を含む単純化合物を化学量論比になるように混合し、この混合物を成形・仮焼した後に解砕し、次いで解砕粉を再成形・焼結する方法によって製造される。しかしながら、このような方法では、各結晶粒の特定の結晶面が特定の方向に配向した配向焼結体を得るのは極めて困難である。
本発明は、この問題を解決するために、所定の条件を満たす異方形状粉末を成形体中に配向させ、この異方形状粉末をテンプレートとして用いてペロブスカイト型化合物の生成及びその焼結を行わせ、これによって多結晶体を構成する各結晶粒の特定の結晶面を一方向に配向させた点に特徴がある。本発明において、異方形状粉末には、以下の条件を満たすものが用いられる。
第1に、異方形状粉末は、少なくともPb及びTiを含む第2のペロブスカイト型化合物(但し、Caを含むものを除く)を主相とするものからなる。第2のペロブスカイト型化合物は、具体的には、次の(3)式に示す一般式で表すことができる。
(PbxA'1−x)(TiyB'1−y)O3 ・・・(3)
(但し、0<x≦1。0<y≦1。A'は、1種又は2種以上の2価の金属元素。B'は、1種又は2種以上の4価の金属元素。)
この場合、異方形状粉末を構成する第2のペロブスカイト型化合物は、作製しようとする結晶配向セラミックスを構成する第1のペロブスカイト型化合物と同一組成を有するものであっても良く、あるいは、異なる組成を有しているものであっても良い。
また、「第2のペロブスカイト型化合物を主相とする」とは、異方形状粉末中に第2のペロブスカイト型化合物がモル分量で70mol%以上含まれていることを言う。異方形状粉末は、第2のペロブスカイト型化合物のみからなることが望ましいが、ペロブスカイト型の結晶構造を維持でき、かつ、焼結特性、圧電特性等の諸特性に悪影響を及ぼさないものである限り、他の元素又は他の相が含まれていても良い。なお、第2のペロブスカイト型化合物のその他の点については、第1のペロブスカイト型化合物と同様であるので、説明を省略する。
第2に、異方形状粉末は、その発達面(最も広い面積を有する面)が第2のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面からなるものが用いられる。第2のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面は、当然に、第1のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面と良好な格子整合性を有している。そのため、擬立方{100}面を発達面とする異方形状粉末を成形体中に配向させ、これを焼結すれば、異方形状粉末の配向方位を継承した状態で第1のペロブスカイト型化合物からなる異方形状結晶を生成及び成長させることができる。
第3に、異方形状粉末は、成形時に一定の方向に配向させることが容易な形状を有しているものが用いられる。そのためには、異方形状粉末のアスペクト比(=Wa/ta。Wa:異方形状粉末の発達面の最大長さ。ta:異方形状粉末の厚さ。)は、2以上であることが好ましい。アスペクト比が2未満であると、成形時に異方形状粉末を一方向に配向させるのが困難となるので好ましくない。高い配向度の結晶配向セラミックスを得るためには、異方形状粉末のアスペクト比は、5以上が好ましく、さらに好ましくは、10以上である。
一般に、異方形状粉末の平均アスペクト比が大きくなるほど、成形時における異方形状粉末の配向が容易化される傾向がある。但し、アスペクト比が過大になると、後述する混合工程において異方形状粉末が破砕され、異方形状粉末が配向した成形体が得られない場合がある。従って、異方形状粉末の平均アスペクト比は、100以下が好ましい。
また、異方形状粉末の発達面の最大長さWaは、0.05μm以上が好ましい。最大長さWaが0.05μm未満であると、成形時に作用するせん断応力によって異方形状粉末を一定の方向に配向させるのが困難になる。また、界面エネルギーの利得が小さくなるので、結晶配向セラミックスを作製する際のテンプレートとして用いた時に、テンプレート粒子へのエピタキシャル成長が生じにくくなる。
一方、異方形状粉末の発達面の最大長さWaは、100μm以下が好ましい。最大長さWaが100μmを越えると、焼結性が低下し、焼結体密度の高い結晶配向セラミックスが得られない。最大長さWaは、さらに好ましくは、0.1μm以上50μm以下であり、さらに好ましくは、0.5μm以上20μm以下である。特に、異方形状粉末のWaが0.5μm以上であると、テープ成形時に配向成形するのが容易となり、高い配向度を有する結晶配向セラミックスが得られる。
なお、アスペクト比(Wa/ta)及び/又は最大長さ(Wa)の異なる異方形状粉末の混合物をテンプレートとして用いる場合、アスペクト比(Wa/ta)及び/又は最大長さ(Wa)の平均値が、上述の範囲であればよい。また、「異方形状」とは、幅方向又は厚さ方向の寸法に比して、長手方向の寸法が大きいことをいう。具体的には、板状、柱状、鱗片状等が好適な一例として挙げられる。
本実施の形態に係る結晶配向セラミックスを製造するために用いられる異方形状粉末としては、具体的には、擬立方{100}面を発達面とするPbTiO3粉末、Pb(Ti、Zr)O3粉末、(Ba、Pb)TiO3粉末、(Ba、Pb)(Ti、Zr)O3粉末等が挙げられる。高い配向度を有する結晶配向セラミックスを得るためには、異方形状粉末は、作成しようとする結晶配向セラミックスと同一組成を有するものを用いるのが好ましい。また、作成しようとする結晶配向セラミックスが2以上の成分を含む固溶体からなる場合、異方形状粉末は、いずれか1以上の端成分からなるものを用いても良い。
さらに、このような条件を満たす異方形状粉末は、種々の方法により製造することができるが、後述する本発明に係る方法(Topochemical Microcrystal Conversion:TMC変換法)により得られる粉末が特に好適である。本発明に係る方法により得られた異方形状粉末は、他の方法を用いて得られる異方形状粉末に比べて、目的とするセラミック組成と同じ組成の板状粉末が製造でき、少ないテンプレート量により結晶配向セラミックスを作ることができ、また少ないテンプレートのために焼結性が向上する(低温、かつ短時間で高密度化できる)という利点がある。
次に、本実施の形態に係る異方形状粉末の製造方法について説明する。本実施の形態に係る異方形状粉末の製造方法は、合成工程と、イオン交換工程と、除去工程とを備えている。
初めに、合成工程について説明する。「合成工程」は、第2のペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末を合成するための反応性テンプレートとして用いられる第1異方形状粉末を合成する工程である。
第1異方形状粉末が本発明に係る異方形状粉末を合成するための反応性テンプレートとして機能するためには、以下のような条件を備えている必要がある。
第1に、第1異方形状粉末には、層状結晶構造を有する層状化合物からなるものが用いられる。層状化合物は、結晶格子の異方性が大きいので、表面エネルギの最も小さい結晶面を発達面とし、かつ形状異方性を有する粉末を比較的容易に合成することができる。
第2に、第1異方形状粉末は、その発達面が(3)式に示す第2のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面と格子整合性を有しているものが用いられる。所定の形状を有している第1異方形状粉末であっても、その発達面が第2のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面と格子整合性を有していない場合には、本発明に係る異方形状粉末を合成するための反応性テンプレートとして機能しない場合がある。
格子整合性の良否は、第1異方形状粉末の発達面の格子寸法と、第2のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面の格子寸法との差の絶対値を、第1異方形状粉末の発達面の格子寸法で割った値(以下、これを「格子整合率」という。)で表すことができる。この格子整合率は、格子をとる方向によって若干異なる場合がある。一般に、平均格子整合率(各方向について算出された格子整合率の平均値)が小さくなるほど、その第1異方形状粉末は、良好な反応性テンプレートとして機能することを示す。所定の条件を満たす異方形状粉末を得るためには、格子整合率は20%以下が好ましく、さらに好ましくは、10%以下である。
第3に、成形時に一方向に配向させることが容易な第2のペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末を容易に合成するためには、その合成に使用する第1異方形状粉末もまた、成形時に一方向に配向させることが容易な形状を有していることが望ましい。これは、第1異方形状粉末を反応性テンプレートとして用いて第2のペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末を合成する場合、反応条件を最適化すれば、得られる異方形状粉末の平均粒径及び/又はアスペクト比を増減させることもできるが、通常は、結晶構造の変化のみが起こり、粉末形状の変化はほとんど生じないためである。
すなわち、第1異方形状粉末は、その厚さ(tb)に対する発達面の最大長さ(Wb)のアスペクト比(Wb/tb)が2以上であるものが好ましい。第1異方形状粉末のアスペクト比は、さらに好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上である。また、後工程における破砕を抑制するためには、第1異方形状粉末のアスペクト比は、100以下が好ましい。
また、焼結性の高い異方形状粉末を得るためには、第1異方形状粉末の発達面の最大長さWbは、100μm以下が好ましい。また、配向させるのが容易な異方形状粉末を得るためには、第1異方形状粉末の発達面の最大長さWbは、0.05μm以上が好ましい。最大長さWaは、さらに好ましくは、0.1μm以上50μm以下であり、さらに好ましくは、0.5μm以上20μm以下である。
なお、アスペクト比(Wb/tb)及び/又は最大長さ(Wa)の異なる第1異方形状粉末の混合物を反応性テンプレートとして用いる場合、アスペクト比(Wb/tb)及び/又は最大長さ(Wa)の平均値が、上述の範囲であればよい。また、「異方形状」とは、幅方向又は厚さ方向の寸法に比して、長手方向の寸法が大きいことをいう。具体的には、板状、柱状、鱗片状等が好適な一例として挙げられる。
このような条件を満たす層状化合物には、種々の化合物があるが、中でも、少なくともBi及びTiを含む層状化合物、あるいは、次の(4)式に示す一般式で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物が好適である。特に、ビスマス層状ペロブスカイト型化合物は、その{001}面((Bi2O2)2+層に平行な面)の表面エネルギーが他の結晶面の表面エネルギーより小さいので、{001}面を発達面とする異方形状粉末を比較的容易に合成できる。
また、ビスマス層状ペロブスカイト型化合物の{001}面は、第2のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面との間に極めて良好な格子整合性を有している。さらに、後述するイオン交換反応用原料の組成を最適化することによって、イオン交換反応時にBiを余剰成分として排出することができるので、Aサイト元素として実質的にBiを含まない第2のペロブスカイト型化合物を合成できる。しかも、排出されたBi含有化合物は、比較的容易に除去することができる。そのため、ビスマス層状ペロブスカイト型化合物は、第1異方形状粉末を構成する材料として特に好適である。
(Bi2O2)2+(Am−1BmO3m+1)2− ・・・(4)
(但し、Aは、Na+、K+、Pb2+、Ba2+及びBi3+から選ばれる少なくとも1種の元素、又は、これらの元素の組み合わせ。
Bは、Fe3+、Ti4+、Nb5+、Ta5+、及び、W6+から選ばれる少なくとも1種の元素、又は、これらの組み合わせ。
mは、1から8までの整数であって、元素Aの平均価数をα、元素Bの平均価数をβとしたときに、α(m−1)+βm=6mの関係を満たすもの。
また、AがNa+及び/又はK+とBi3+の双方のみからなり、かつBがNb5+のみからなるものを除く。)
(4)式で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物は、Bi2Am−1BmO3m+3と表すこともできる。このようなビスマス層状ペロブスカイト型化合物としては、具体的には、Bi4Ti3O12、PbBi4Ti4O14、Pb2Bi4Ti5O18、Pb3Bi4Ti6O21、及び、Pb4Bi4Ti7O24等が挙げられる。又、これらの中でも、Aサイトイオンとして、少なくともPb2+を含むものが好適である。
なお、このような第1異方形状粉末は、成分元素を含む酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の原料を、液体又は加熱により液体となる物質と共に加熱することにより容易に製造することができる。具体的には、所定の原料に適当なフラックス(例えば、LiCl、NaCl、KCl、NaClとKClの混合物、PbCl2、KF等)を加えて所定の温度で加熱する方法(フラックス法)、作製しようとする第1異方形状粉末と同一組成を有する不定形粉末をアルカリ水溶液と共にオートクレーブ中で加熱する方法(水熱合成法)等が好適な一例として挙げられる。この場合、第1異方形状粉末のアスペクト比及び平均粒径は、合成条件を適宜選択することにより、制御することができる。
次に、イオン交換工程について説明する。「イオン交換工程」は、合成工程で得られた第1異方形状粉末と、イオン交換反応用原料とを、溶液又は融液中においてイオン交換反応を行わせる工程である。
ここで、「イオン交換反応用原料」とは、第1異方形状粉末とのイオン交換反応により、第2のペロブスカイト型化合物及び余剰成分を生成するものをいう。イオン交換反応用原料の形態は、特に限定されるものではなく、酸化物粉末、複合酸化物粉末、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩等の塩、アルコキシド等を用いることができる。また、イオン交換反応用原料の組成は、作製しようとする第2のペロブスカイト型化合物の組成、及び、第1異方形状粉末の組成に応じて最適なものを選択する。
また、「余剰成分」とは、目的とする第2のペロブスカイト型化合物以外の物質であって、熱的又は化学的に除去が容易なものをいう。そのためには、余剰成分は、第2のペロブスカイト型化合物に比べて融点若しくは蒸気圧が高いもの、又は、酸、アルカリ等に対する溶解度が高いものであることが好ましい。余剰成分としては、具体的には、Bi含有化合物(例えば、Bi2O3等)が好適な一例として挙げられる。
さらに、「溶液又は融液中においてイオン交換反応を行わせる」とは、第1異方形状粉末及びイオン交換反応用原料を適当なフラックス中で加熱すること(フラックス法)、あるいは、第1異方形状粉末及びイオン交換反応用原料を適当な水溶液と共にオートクレーブ中で加熱すること(水熱合成法)等をいう。
例えば、(4)式で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物の一種であるBi4Ti3O12からなる第1異方形状粉末を用いて、第2のペロブスカイト型化合物の一種であるPbTiO3からなる異方形状粉末を合成する場合、イオン交換反応用原料として、Pbを含む化合物(酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等)を用いる。この場合、1モルのBi4Ti3O12に対して、Pb原子3モルに相当するPb含有化合物をイオン交換反応用原料として添加すれば良い。
このような組成を有する第1異方形状粉末及びイオン交換反応用原料に対して、適当なフラックス(例えば、LiCl、NaCl、KCl、NaClとKClの混合物、PbCl2、KF等)を1wt%〜500wt%加えて、共晶点・融点に加熱すると、融液中において第1異方形状粉末とイオン交換反応用原料との間でイオン交換反応が起こり、PbTiO3からなる異方形状粉末と、Bi2O3を主成分とする余剰成分が生成する。
また、例えば、(4)式で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物の一種であるPbBi4Ti4O15からなる第1異方形状粉末を用いて、PbTiO3からなる異方形状粉末を合成する場合、イオン交換反応用原料として、1モルのPbBi4Ti4O15に対して、Pb原子3モルに相当するPb含有化合物を添加すれば良い。このような組成を有する第1異方形状粉末及びイオン交換反応用原料に対して適当なフラックスを加え、適当な温度に加熱すると、PbTiO3からなる異方形状粉末と、Bi2O3を主成分とする余剰成分が生成する。
また、例えば、(4)式で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物の一種であるPb2Bi4Ti5O18からなる第1異方形状粉末を用いて、PbTiO3からなる異方形状粉末を合成する場合、イオン交換反応用原料として、1モルのPb2Bi4Ti5O18に対して、Pb原子3モルに相当するPb含有化合物を添加すれば良い。このような組成を有する第1異方形状粉末及びイオン交換反応用原料に対して適当なフラックスを加え、適当な温度に加熱すると、PbTiO3からなる異方形状粉末と、Bi2O3を主成分とする余剰成分が生成する。
また、例えば、(4)式で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物の一種であるPb3Bi4Ti6O21からなる第1異方形状粉末を用いて、PbTiO3からなる異方形状粉末を合成する場合、イオン交換反応用原料として、1モルのPb3Bi4Ti6O21に対して、Pb原子3モルに相当するPb含有化合物を添加すれば良い。このような組成を有する第1異方形状粉末及びイオン交換反応用原料に対して適当なフラックスを加え、適当な温度に加熱すると、PbTiO3からなる異方形状粉末と、Bi2O3を主成分とする余剰成分が生成する。
また、例えば、(4)式で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物の一種であるPb4Bi4Ti7O24からなる第1異方形状粉末を用いて、PbTiO3からなる異方形状粉末を合成する場合、イオン交換反応用原料として、1モルのPb4Bi4Ti7O24に対して、Pb原子3モルに相当するPb含有化合物を添加すれば良い。このような組成を有する第1異方形状粉末及びイオン交換反応用原料に対して、適当なフラックスを加え、適当な温度に加熱すると、PbTiO3からなる異方形状粉末と、Bi2O3を主成分とする余剰成分が生成する。
また、例えば、(4)式で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物の一種であるPbBi4Ti4O15、Pb2Bi4Ti5O18、Pb3Bi4Ti6O21、及び、Pb4Bi4Ti7O24の混合物からなる第1異方形状粉末を用いて、PbTiO3からなる異方形状粉末を合成する場合、イオン交換反応用原料として、1モルの混合物に対して、Pb原子3モルに相当するPb含有化合物を添加すれば良い。このような組成を有する第1異方形状粉末及びイオン交換反応用原料に対して、適当なフラックスを加え、適当な温度に加熱すると、PbTiO3からなる異方形状粉末と、Bi2O3を主成分とする余剰成分が生成する。
また、例えば、Bi4Ti3O12、PbBi4Ti4O15、Pb2Bi4Ti5O18、Pb3Bi4Ti6O21、及び、Pb4Bi4Ti7O24等のビスマス層状ペロブスカイト型化合物からなる第1異方形状粉末を強酸と共にオートクレーブ中で加熱すると、第1異方形状粉末中のBiがHに置換され、Bi2O3を主成分とする余剰成分が生成する。次いで、水素置換された第1異方形状粉末と、Pb含有化合物とをオートクレーブ中で加熱すると、第1異方形状粉末中のHがPbに置換され、PbTiO3からなる異方形状粉末が得られる。他の組成の場合も同様である。
なお、反応条件によっては、置換反応が完全に進行せず、部分的に止まる場合がある。そのような場合には、イオン交換反応用原料を化学量論量より過剰に加え、及び/又は、第1異方形状粉末とイオン交換反応用原料との反応を、再度繰り返すのが好ましい。
次に、除去工程について説明する。「除去工程」は、イオン交換工程で得られた混合物から必要に応じて湯せん等によりフラックスを取り除いた後、第1異方形状粉末から排出された余剰成分(イオン交換反応用原料を過剰に加える場合には、残留したイオン交換反応用原料を含む)を熱的又は化学的に除去する工程である。
ここで、「余剰成分を熱的に除去する」とは、第2のペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末と余剰成分との混合物を加熱し、余剰成分を融液又気体として除去することをいう。この方法は、第2のペロブスカイト型化合物と余剰成分の融点又は蒸気圧の差が大きい場合に有効な方法である。
例えば、余剰成分が酸化ビスマス(Bi2O3)単相である場合、イオン交換工程で得られた混合物を大気中又は減圧雰囲気下において、800℃以上1300℃以下で加熱するのが好ましい。加熱温度は、さらに好ましくは、1000℃以上1200℃以下である。加熱時間は、加熱雰囲気、加熱温度等に応じて、最適な温度を選択する。
また、「余剰成分を化学的に除去する」とは、イオン交換工程で得られた混合物を余剰成分のみを侵蝕させる性質を有する処理液中に入れ、余剰成分を溶解させることをいう。この方法は、処理液に対する第2のペロブスカイト型化合物と余剰成分との溶解度の差が大きい場合に有効な方法である。
例えば、余剰成分が酸化ビスマス(Bi2O3)単相である場合、処理液は、硝酸、塩酸等の酸溶液を用いるのが好ましい。特に、硝酸は、酸化ビスマスを主成分とする余剰成分を化学的に抽出する処理液として好適である。
次に、本実施の形態に係る異方形状粉末の製造方法の作用について説明する。第2のペロブスカイト型化合物は、結晶格子の異方性が小さいので、直接、異方形状粉末を合成するのは困難である。また、擬立方{100}面を発達面とする異方形状粉末を直接、合成することも困難である。
これに対し、層状化合物は、結晶格子の異方性が大きいので、形状異方性を有する粉末を直接合成するのは容易である。また、層状化合物の内、ある種の化合物からなる第1異方形状粉末の発達面は、第2のペロブスカイト型化合物の{100}面との間に良好な格子整合性を有している。さらに、第2のペロブスカイト型化合物は、一般に、層状化合物に比して熱力学的に安定である。
そのため、層状化合物からなり、かつ、その発達面が第2のペロブスカイト型化合物の特定の結晶面と格子整合性を有する第1異方形状粉末と反応用原料とを、適当な溶液又は融液中で反応させると、第1異方形状粉末が反応性テンプレートとして機能し、第1異方形状粉末の配向方位を継承した第2のペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末を容易に合成することができる。
また、第1異方形状粉末(AB)及びイオン交換反応用原料(C)の組成を最適化すると、両者の間でイオン交換反応が起こり、目的とする第2のペロブスカイト型化合物(AC)と、余剰成分(B)との混合物が得られる。そのため、実質的に余剰成分(B)を含まない第2のペロブスカイト型化合物(AC)からなる異方形状粉末を合成することができる。
特に、第1異方形状粉末が(4)式に示すビスマス層状ペロブスカイト型化合物からなる場合には、イオン交換反応時に第1異方形状粉末からBiが排出され、Bi2O3を主成分とする余剰成分が生成する。しかも、Bi2O3を主成分とする余剰成分は、熱的又は化学的な除去が極めて容易である。そのため、得られた反応物から余剰成分を除去すれば、実質的にBiを含まず、第2のペロブスカイト型化合物からなり、かつ、擬立方{100}面を発達面とする異方形状粉末が得られる。
次に、本発明に係る結晶配向セラミックスの製造方法について説明する。本発明に係る結晶配向セラミックスの製造方法は、混合工程と、成形工程と、焼結工程とを備えている。
初めに、混合工程について説明する。「混合工程」とは、異方形状粉末と、マトリックス化合物粉末とを混合する工程をいう。また、「異方形状粉末」とは、上述したように、(3)式で表される第2のペロブスカイト型化合物からなり、その発達面が擬立方{100}面からなるものをいう。
なお、成形時における異方形状粉末の配向を容易化するためには、異方形状粉末は、少なくともその厚さ(ta)に対する発達面の最大長さ(Wa)のアスペクト比(Wa/ta)が2以上が好ましい点、及び、少なくともその最大長さ(Wa)は、100μm以下が好ましい点は、上述したとおりである。また、混合工程においては、このような条件を満たす1種類の異方形状粉末を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。さらに、異方形状粉末は、作成しようとする結晶配向セラミックスと同一組成を有するものであっても良く、あるいは、作成しようとする結晶配向セラミックスを構成する端成分のいずれか1以上と同一組成を有するものであっても良い。
「マトリックス化合物粉末」とは、異方形状粉末と反応し、又は反応することなく、(1)式で表される第1のペロブスカイト型化合物となるものをいう。マトリックス化合物粉末の組成は、異方形状粉末を構成する第2のペロブスカイト型化合物の組成、及び、作製しようとする第1のペロブスカイト型化合物の組成に応じて定まる。また、また、マトリックス化合物粉末の形態は、特に限定されるものではなく、酸化物粉末、複合酸化物粉末、水酸化物粉末、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩等の塩、アルコキシド等を用いることができる。
例えば、PbTiO3からなる結晶配向セラミックスを作製する場合において、異方形状粉末として、PbTiO3からなる板状粉末を用いるときには、マトリックス化合物粉末として、PbTiO3からなる微粉末を用いても良い。あるいは、Pb及びTiの少なくとも1つの元素を含む化合物からなる微粉末の混合物であって、これらが固相反応することによってPbTiO3が生成するように、化学量論比で配合されたものを用いても良い。
また、例えば、(Ba、Pb)TiO3からなる結晶配向セラミックスを作製する場合において、異方形状粉末として、PbTiO3からなる板状粉末を用いるときには、マトリックス化合物粉末として、BaTiO3からなる微粉末を用いても良い。あるいは、Pb、Ti及びBaの少なくとも1つの元素を含む化合物からなる微粉末の混合物であって、これらと異方形状粉末とが固相反応することによって(Ba、Pb)TiO3が生成するように、化学量論比で配合されたものを用いても良い。他の組成を有する結晶配向セラミックスを作製する場合も同様である。
なお、異方形状粉末を構成する第2のペロブスカイト型化合物と、結晶配向セラミックスを構成する第1のペロブスカイト型化合物の組成が異なる場合、マトリックス化合物粉末中に、第1のペロブスカイト型化合物からなる微粉末が含まれていても良い。また、混合工程においては、所定の比率で配合された異方形状粉末及びマトリックス化合物粉末に対して、さらに、焼結助剤(例えば、MnO2、CuO等)を添加しても良い。出発原料に対して、第1のペロブスカイト型化合物からなる微粉末や焼結助剤を添加すると、焼結体の緻密化がさらに容易化するという利点がある。
また、異方形状粉末とマトリックス化合物粉末とを混合する場合において、異方形状粉末の配合比率が小さくなりすぎると、擬立方{100}面の配向度が低下する場合がある。従って、異方形状粉末の配合比率は、要求される焼結体密度及び配向度に応じて、最適な比率を選択するのが好ましい。
擬立方{100}面の配向度が10%以上である結晶配向セラミックスを得るためには、異方形状粉末の配合比率は、結晶配向セラミックスに含まれる第1のペロブスカイト型化合物のBサイトイオンの0.001at%以上が、異方形状粉末から供給されるような比率とするのが好ましい。異方形状粉末の配合比率は、好ましくは、Bサイトイオンの2at%以上であり、さらに好ましくは、Bサイトイオンの5at%以上である。
さらに、異方形状粉末及びマトリックス化合物粉末、並びに、必要に応じて配合される焼結助剤の混合は、乾式で行っても良く、あるいは、水、アルコール等の適当な分散媒を加えて湿式で行っても良い。さらに、この時、必要に応じてバインダ及び/又は可塑剤を加えても良い。
次に、成形工程について説明する。成形工程は、混合工程で得られた混合物を、異方形状粉末の発達面が配向するように成形する工程である。この場合、異方形状粉末が面配向するように成形しても良く、あるいは、軸配向するように成形しても良い。
成形方法については、異方形状粉末を配向させることが可能な方法であれば良く、特に限定されるものではない。異方形状粉末を面配向させる成形方法としては、具体的には、ドクターブレード法、プレス成形法、圧延法等が好適な一例として挙げられる。また、異方形状粉末を軸配向させる成形方法としては、具体的には、押出成形法、遠心成形法等が好適な一例として挙げられる。
また、異方形状粉末が面配向した成形体(以下、これを「面配向成形体」という。)の厚さを増したり、配向度を上げるために、面配向成形体に対し、さらに積層圧着、プレス、圧延などの処理(以下、これを「面配向処理」という。)を行っても良い。この場合、面配向成形体に対して、いずれか1種類の面配向処理を行っても良く、あるいは、2種以上の面配向処理を行っても良い。また、面配向成形体に対して、1種類の面配向処理を複数回繰り返り行っても良く、あるいは、2種以上の配向処理をそれぞれ複数回繰り返し行っても良い。
次に、焼結工程について説明する。焼結工程は、成形工程で得られた成形体を加熱し、焼結させる工程である。異方形状粉末とマトリックス化合物粉末とを含む成形体を所定の温度に加熱すると、異方形状粉末がテンプレートとして機能し、第1のペロブスカイト型化合物からなる異方形状結晶が生成及び成長し、これと同時に、生成した第1のペロブスカイト型化合物の焼結が進行する。
加熱温度は、異方形状結晶の成長及び/又は焼結が効率よく進行し、かつ、目的とする組成を有する化合物が生成するように、使用する異方形状粉末、マトリックス化合物粉末、作製しようとする結晶配向セラミックスの組成等に応じて最適な温度を選択すればよい。
最適な加熱温度は、第1のペロブスカイト型化合物の組成に応じて異なる。例えば、PbTiO3からなる異方形状粉末及びPbTiO3からなるマトリックス化合物粉末を用いてPbTiO3からなる結晶配向セラミックスを製造する場合、加熱温度は、900℃以上1700℃以下が好ましい。また、加熱は、大気中、酸素中、減圧下又は真空下のいずれの雰囲気下で行っても良い。さらに、加熱時間は、所定の焼結体密度が得られるように、加熱温度に応じて最適な時間を選択すればよい。
加熱方法は、常圧焼結法、あるいは、ホットプレス、ホットフォージング、HIP等の加圧焼結法のいずれを用いても良く、結晶配向セラミックスの組成、用途等に応じて、最適な方法を選択することができる。
なお、バインダを含む成形体の場合、焼結工程の前に、脱脂を主目的とする熱処理を行っても良い。この場合、脱脂の温度は、少なくともバインダを熱分解させるに十分な温度であれば良い。300℃〜500℃が好適である。但し、原料中に揮発しやすい物(例えば、Na化合物)が含まれる場合、脱脂は、500℃以下で行うのが好ましい。
また、配向成形体の脱脂を行うと、配向成形体中の異方形状粉末の配向度が低下したり、あるいは、配向成形体に体積膨張が発生する場合がある。このような場合には、脱脂を行った後、熱処理を行う前に、配向成形体に対して、さらに静水圧(CIP)処理を行うのが好ましい。脱脂後の成形体に対して、さらに静水圧処理を行うと、脱脂に伴う配向度の低下、あるいは、配向成形体の体積膨張に起因する焼結体密度の低下を抑制できるという利点がある。また、焼結体密度及び配向度をさらに高めるために、熱処理後の焼結体に対してさらにホットプレスを行う方法も有効である。
次に、本実施の形態に係る結晶配向セラミックスの製造方法の作用について説明する。異方形状粉末及びマトリックス化合物粉末を混合し、これを異方形状粉末に対して一方向から力が作用するような成形方法を用いて成形すると、異方形状粉末に作用するせん断応力によって異方形状粉末が成形体中に配向する。このような成形体を所定の温度で加熱すると、異方形状粉末とマトリックス化合物粉末とが反応し、又は反応することなく、第1のペロブスカイト型化合物が生成する。
この時、異方形状粉末の発達面と第1のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面との間には格子整合性があるので、異方形状粉末の発達面が、生成した第1のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面として継承される。そのため、焼結体中には、擬立方{100}面が一方向に配向した状態で、第1のペロブスカイト型化合物からなる異方形状結晶が生成する。
層状化合物からなる異方形状粉末を反応性テンプレートとして用いて、ペロブスカイト型化合物を生成させる従来の方法は、異方形状粉末及びその他の原料に含まれるすべてのAサイト元素及びBサイト元素を含むペロブスカイト型化合物からなる結晶配向セラミックス又は異方形状粉末のみが製造可能である。
一方、反応性テンプレートとして用いる異方形状粉末の材質は、結晶格子の異方性の大きく、かつ、ペロブスカイト型化合物との間に格子整合性を有するものであることが必要であるが、作製しようとするペロブスカイト型化合物の組成によっては、このような条件を満たす材料が存在しないか、あるいは、その探索に著しい困難を伴う場合がある。従って、従来の方法では、得られる結晶配向セラミックスの組成制御、特に、Aサイト元素の組成制御には限界があった。
これに対し、まず、異方形状粉末の合成が容易な層状化合物からなる第1異方形状粉末を合成し、この第1異方形状粉末を反応性テンプレートとして用い、かつ、これと反応させるイオン交換反応用原料の組成を最適化すると、不要なAサイト元素を含まない第2のペロブスカイト型化合物からなり、かつ擬立方{100}面を発達面とする異方形状粉末を合成することができる。次いで、このようにして得られた異方形状粉末を成形体中に配向させ、所定の温度で加熱すると、不要なAサイト元素を含まない第1のペロブスカイト型化合物からなり、かつ擬立方{100}面が配向した結晶配向セラミックスが得られる。
本実施の形態に係る製造方法は、通常のセラミックスプロセスをそのまま利用できるので、結晶格子の異方性の小さい第1のペロブスカイト型化合物であっても、擬立方{100}面が高い配向度で配向した結晶配向セラミックスを容易かつ安価に製造することができる。また、このようにして得られた結晶配向セラミックスは、多結晶体であるので、単結晶に比べて、強度、破壊靱性等に優れている。
また、異方形状粉末として、作製しようとする結晶配向セラミックスと同一又は類似の結晶構造を有しているものを用いているので、異なる結晶構造を有する異方形状粉末を反応性テンプレートとして用いた場合に比べて、容易に高い配向度を有する結晶配向セラミックスが得られる。すなわち、異方形状粉末の配合比率が相対的に少ない場合であっても、高い配向度を有する結晶配向セラミックスが得られる。
次に、本発明の第2の実施の形態に係る結晶配向セラミックスについて説明する。本実施の形態に係る結晶配向セラミックスは、少なくともCa及びTiを含む第1のペロブスカイト型化合物を主相とする多結晶体からなり、該多結晶体を構成する各結晶粒の擬立方{100}面が配向していることを特徴とする。
第1のペロブスカイト型化合物は、具体的には、次の(5)式に示す一般式で表すことができる。
(CaxA'1−x)(TiyB'1−y)O3 ・・・(5)
(但し、0<x≦1。0<y≦1。A'は、1種又は2種以上の2価の金属元素(Pbを除く)。B'は、1種又は2種以上の4価の金属元素。)
本実施の形態において、第1のペロブスカイト型化合物は、Aサイト元素として、少なくともCaを含むものからなる。この場合、Aサイト元素は、Caのみからなるものであっても良く、あるいは、Ca以外のAサイト元素(元素A’)が含まれていても良い。元素A’の種類は、特に限定されるものではなく、少なくとも2価の金属元素であればよい。元素A’としては、具体的には、Pb、Mg、Zn、Co、Fe等が挙げられる。
また、第1のペロブスカイト型化合物は、Bサイト元素として、少なくともTiを含むものからなる。この場合、Bサイト元素は、Tiのみからなるものであっても良く、あるいは、Ti以外のBサイト元素(元素B’)が含まれていても良い。元素B’の種類は、特に限定されるものではなく、少なくとも4価の金属元素であればよい。元素B’としては、具体的には、Zr、Hf、Sn、Ge、Si等が挙げられる。
(5)式で表される第1のペロブスカイト型化合物としては、具体的には、CaTiO3、(Ca、Pb)TiO3、(Ca、Pb)(Ti、Zr)O3、(Ca、Pb)(Ti、Sn)O3、(Ca、Pb)(Ti、Zr、Sn)O3等が挙げられる。
また、本実施の形態において、「第1のペロブスカイト型化合物を主相とする」とは、結晶配向セラミックス中に第1のペロブスカイト型化合物がモル分量で90mol%以上含まれていることを言う。本実施の形態に係る結晶配向セラミックスは、第1のペロブスカイト型化合物のみからなることが望ましいが、ペロブスカイト型の結晶構造を維持でき、かつ、焼結特性、圧電特性等の諸特性に悪影響を及ぼさないものである限り、他の元素又は他の相が含まれていても良い。
このような「他の元素」としては、具体的には、Pb、Mg、Zr、Sn、Ge、Si等がある。また、「他の相」としては、具体的には、後述する製造方法や使用する出発原料に起因する添加物、焼結助剤、副生成物、不純物等(例えば、Bi2O3、CuO、MnO2、NiO等)が一例として挙げられる。圧電特性等に悪影響を及ぼすおそれのある他の元素又は他の相の含有量は、少ないほど良い。
「擬立方{100}面が配向している」とは、(5)式で表される第1のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面が面配向していること、又は、軸配向していることをいう。特定の結晶面を面配向させる場合において、高い特性を得るためには、上述した(2)式で表されるロットゲーリング(Lotgering)法による平均配向度F(HKL)は、10%以上が好ましく、さらに好ましくは50%以上である。また、後述する製造方法を用いると、平均配向度F(HKL)が90%を越える結晶配向セラミックスであっても製造することができる。
その他の点については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
本実施の形態に係る結晶配向セラミックスを、誘電素子、マイクロ波誘電素子、熱電素子、焦電素子、磁気抵抗素子、磁性素子、圧電素子、電界駆動変位素子、超伝導素子、抵抗素子、電子伝導素子、イオン伝導性素子、PTCサーミスタ素子、NTCサーミスタ素子等に応用すれば、高い性能を有する各種素子を得ることができる。
次に、本実施の形態に係る結晶配向セラミックスの製造に用いられる異方形状粉末について説明する。
本実施の形態に係る異方形状粉末は、少なくともCa及びTiを含む第2のペロブスカイト型化合物を主相とするものからなる。第2のペロブスカイト型化合物は、具体的には、次の(6)式に示す一般式で表すことができる。
(CaxA'1−x)(TiyB'1−y)O3 ・・・(6)
(但し、0<x≦1。0<y≦1。A'は、1種又は2種以上の2価の金属元素。B'は、1種又は2種以上の4価の金属元素。)
この場合、異方形状粉末を構成する第2のペロブスカイト型化合物は、作製しようとする結晶配向セラミックスを構成する第1のペロブスカイト型化合物と同一組成を有するものであっても良く、あるいは、異なる組成を有しているものであっても良い。
また、「第2のペロブスカイト型化合物を主相とする」とは、異方形状粉末中に第2のペロブスカイト型化合物がモル分量で90mol%以上含まれていることを言う。異方形状粉末は、第2のペロブスカイト型化合物のみからなることが望ましいが、ペロブスカイト型の結晶構造を維持でき、かつ、焼結特性、圧電特性等の諸特性に悪影響を及ぼさないものである限り、他の元素又は他の相が含まれていても良い。
なお、第2のペロブスカイト型化合物のその他の点については、第1のペロブスカイト型化合物と同様であるので、説明を省略する。
また、本実施の形態において、異方形状粉末は、その発達面が第2のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面からなるものが用いられる点、及び、異方形状粉末は、成形時に一定の方向に配向させることが容易な形状を有しているものが用いられる点は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
本実施の形態に係る結晶配向セラミックスを製造するために用いられる異方形状粉末としては、具体的には、擬立方{100}面を発達面とするCaTiO3粉末、Ca(Ti、Zr)O3粉末、(Ca、Pb)TiO3粉末、(Ca、Pb)(Ti、Zr)O3粉末等が挙げられる。高い配向度を有する結晶配向セラミックスを得るためには、異方形状粉末は、作成しようとする結晶配向セラミックスと同一組成を有するものを用いるのが好ましい。また、作成しようとする結晶配向セラミックスが2以上の成分を含む固溶体からなる場合、異方形状粉末は、いずれか1以上の端成分からなるものを用いても良い。
さらに、このような条件を満たす異方形状粉末は、種々の方法により製造することができるが、後述する本発明に係る方法(Topochemical Microcrystal Conversion:TMC変換法)により得られる粉末が特に好適である。本発明に係る方法により得られた異方形状粉末は、他の方法を用いて得られる異方形状粉末に比べて、目的とするセラミック組成と同じ組成の板状粉末が製造でき、少ないテンプレート量により結晶配向セラミックスを作ることができ、また少ないテンプレートのために焼結性が向上する(低温、かつ短時間で高密度化できる)という利点がある。
次に、本実施の形態に係る異方形状粉末の製造方法について説明する。本実施の形態に係る異方形状粉末の製造方法は、合成工程と、イオン交換工程と、除去工程とを備えている。
「合成工程」は、第2のペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末を合成するための反応性テンプレートとして用いられる第1異方形状粉末を合成する工程である。
第1異方形状粉末が本発明に係る異方形状粉末を合成するための反応性テンプレートとして機能するためには、以下の条件を備えている必要がある。
(1) 第1異方形状粉末は、層状結晶構造を有する層状化合物からなること。
(2) 第1異方形状粉末は、その発達面が(6)式に示す第2のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面と格子整合性を有していること。
(3) 第1異方形状粉末は、成形時に一方向に配向させることが容易な形状を有していることが望ましいこと。
これらの点の詳細は、第1の実施の形態と同様であるので説明を省略する。
このような条件を満たす層状化合物には、種々の化合物があるが、中でも、少なくともBi及びTiを含む層状化合物、あるいは、次の(7)式に示す一般式で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物が好適である。特に、ビスマス層状ペロブスカイト型化合物は、その{001}面((Bi2O2)2+層に平行な面)の表面エネルギーが他の結晶面の表面エネルギーより小さいので、{001}面を発達面とする異方形状粉末を比較的容易に合成できる。
また、ビスマス層状ペロブスカイト型化合物の{001}面は、第2のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面との間に極めて良好な格子整合性を有している。さらに、後述するイオン交換反応用原料の組成を最適化することによって、イオン交換反応時にBiを余剰成分として排出することができるので、Aサイト元素として実質的にBiを含まない第2のペロブスカイト型化合物を合成できる。しかも、排出されたBi含有化合物は、比較的容易に除去することができる。そのため、ビスマス層状ペロブスカイト型化合物は、第1異方形状粉末を構成する材料として特に好適である。
(Bi2O2)2+(Am−1BmO3m+1)2− ・・・(7)
(但し、Aは、Na+、K+、Pb2+、Ca2+及びBi3+から選ばれる少なくとも1種の元素、又は、これらの元素の組み合わせ。
Bは、Fe3+、Ti4+、Nb5+、Ta5+、及び、W6+から選ばれる少なくとも1種の元素、又は、これらの組み合わせ。
mは、1から8までの整数であって、元素Aの平均価数をα、元素Bの平均価数をβとしたときに、α(m−1)+βm=6mの関係を満たすもの。
また、AがNa+及び/又はK+とBi3+の双方のみからなり、かつBがNb5+のみからなるものを除く。)
(7)式で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物は、Bi2Am−1BmO3m+3と表すこともできる。このようなビスマス層状ペロブスカイト型化合物としては、具体的には、Bi4Ti3O12、CaBi4Ti4O14、Ca2Bi4Ti5O18等が挙げられる。また、これらの中でも、Aサイトイオンとして、少なくともCa2+を含むものが好適である。
なお、このような第1異方形状粉末は、成分元素を含む酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の原料を、液体又は加熱により液体となる物質と共に加熱することにより容易に製造することができる。具体的には、所定の原料に適当なフラックス(例えば、LiCl、NaCl、KCl、NaClとKClの混合物、CaCl2、KF等)を加えて所定の温度で加熱する方法(フラックス法)、作製しようとする第1異方形状粉末と同一組成を有する不定形粉末をアルカリ水溶液と共にオートクレーブ中で加熱する方法(水熱合成法)等が好適な一例として挙げられる。この場合、第1異方形状粉末のアスペクト比及び平均粒径は、合成条件を適宜選択することにより、制御することができる。
「イオン交換工程」は、合成工程で得られた第1異方形状粉末と、イオン交換反応用原料とを、溶液又は融液中においてイオン交換反応を行わせる工程である。
例えば、(7)式で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物の一種であるBi4Ti3O12からなる第1異方形状粉末を用いて、第2のペロブスカイト型化合物の一種であるCaTiO3からなる異方形状粉末を合成する場合、イオン交換反応用原料として、Caを含む化合物(酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等)を用いる。この場合、1モルのBi4Ti3O12に対して、Ca原子3モルに相当するPb含有化合物をイオン交換反応用原料として添加すれば良い。
このような組成を有する第1異方形状粉末及びイオン交換反応用原料に対して、適当なフラックス(例えば、LiCl、NaCl、KCl、NaClとKClの混合物、CaCl2、KF等)を1wt%〜500wt%加えて、共晶点・融点に加熱すると、融液中において第1異方形状粉末とイオン交換反応用原料との間でイオン交換反応が起こり、CaTiO3からなる異方形状粉末と、Bi2O3を主成分とする余剰成分が生成する。
また、例えば、(7)式で表されるビスマス層状ペロブスカイト型化合物の一種であるCaBi4Ti4O15からなる第1異方形状粉末を用いて、CaTiO3からなる異方形状粉末を合成する場合、イオン交換反応用原料として、1モルのCaBi4Ti4O15に対して、Ca原子4モルに相当するPb含有化合物を添加すれば良い。このような組成を有する第1異方形状粉末及びイオン交換反応用原料に対して適当なフラックスを加え、適当な温度に加熱すると、CaTiO3からなる異方形状粉末と、Bi2O3を主成分とする余剰成分が生成する。
また、例えば、Bi4Ti3O12、CaBi4Ti4O15等のビスマス層状ペロブスカイト型化合物からなる第1異方形状粉末を強酸と共にオートクレーブ中で加熱すると、第1異方形状粉末中のBiがHに置換され、Bi2O3を主成分とする余剰成分が生成する。次いで、水素置換された第1異方形状粉末と、Ca含有化合物とをオートクレーブ中で加熱すると、第1異方形状粉末中のHがCaに置換され、CaTiO3からなる異方形状粉末が得られる。他の組成の場合も同様である。
なお、イオン交換工程に関するその他の点については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
「除去工程」は、イオン交換工程で得られた混合物から必要に応じて湯せん等によりフラックスを取り除いた後、第1異方形状粉末から排出された余剰成分(イオン交換反応用原料を過剰に加えた場合には、残留したイオン交換反応用原料を含む)を熱的又は化学的に除去する工程である。
除去工程の詳細は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
次に、本実施の形態に係る異方形状粉末の製造方法の作用について説明する。第2のペロブスカイト型化合物は、結晶格子の異方性が小さいので、直接、異方形状粉末を合成するのは困難である。また、擬立方{100}面を発達面とする異方形状粉末を直接、合成することも困難である。
これに対し、層状化合物は、結晶格子の異方性が大きいので、形状異方性を有する粉末を直接合成するのは容易である。また、層状化合物の内、ある種の化合物からなる第1異方形状粉末の発達面は、第2のペロブスカイト型化合物の{100}面との間に良好な格子整合性を有している。さらに、第2のペロブスカイト型化合物は、一般に、層状化合物に比して熱力学的に安定である。
そのため、層状化合物からなり、かつ、その発達面が第2のペロブスカイト型化合物の特定の結晶面と格子整合性を有する第1異方形状粉末と反応用原料とを、適当な溶液又は融液中で反応させると、第1異方形状粉末が反応性テンプレートとして機能し、第1異方形状粉末の配向方位を継承した第2のペロブスカイト型化合物からなる異方形状粉末を容易に合成することができる。
また、第1異方形状粉末(AB)及びイオン交換反応用原料(C)の組成を最適化すると、両者の間でイオン交換反応が起こり、目的とする第2のペロブスカイト型化合物(AC)と、余剰成分(B)との混合物が得られる。そのため、実質的に余剰成分(B)を含まない第2のペロブスカイト型化合物(AC)からなる異方形状粉末を合成することができる。
特に、第1異方形状粉末が(7)式に示すビスマス層状ペロブスカイト型化合物からなる場合には、イオン交換反応時に第1異方形状粉末からBiが排出され、Bi2O3を主成分とする余剰成分が生成する。しかも、Bi2O3を主成分とする余剰成分は、熱的又は化学的な除去が極めて容易である。そのため、得られた反応物から余剰成分を除去すれば、実質的にBiを含まず、第2のペロブスカイト型化合物からなり、かつ、擬立方{100}面を発達面とする異方形状粉末が得られる。
次に、本発明に係る結晶配向セラミックスの製造方法について説明する。本発明に係る結晶配向セラミックスの製造方法は、混合工程と、成形工程と、焼結工程とを備えている。
「混合工程」とは、異方形状粉末と、マトリックス化合物粉末とを混合する工程をいう。「異方形状粉末」とは、(6)式で表される第2のペロブスカイト型化合物からなり、その発達面が擬立方{100}面からなるものをいう。
なお、異方形状粉末に関するその他の点及びマトリックス化合物粉末については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
例えば、CaTiO3からなる結晶配向セラミックスを作製する場合において、異方形状粉末として、CaTiO3からなる板状粉末を用いるときには、マトリックス化合物粉末として、CaTiO3からなる微粉末を用いても良い。あるいは、Ca及びTiの少なくとも1つの元素を含む化合物からなる微粉末の混合物であって、これらが固相反応することによってCaTiO3が生成するように、化学量論比で配合されたものを用いても良い。
また、例えば、(Ca、Pb)TiO3からなる結晶配向セラミックスを作製する場合において、異方形状粉末として、CaTiO3からなる板状粉末を用いるときには、マトリックス化合物粉末として、PbTiO3からなる微粉末を用いても良い。あるいは、Ca、Ti及びPbの少なくとも1つの元素を含む化合物からなる微粉末の混合物であって、これらと異方形状粉末とが固相反応することによって(Ca、Pb)TiO3が生成するように、化学量論比で配合されたものを用いても良い。他の組成を有する結晶配向セラミックスを作製する場合も同様である。
混合工程に関するその他の点については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
「成形工程」は、混合工程で得られた混合物を、異方形状粉末の発達面が配向するように成形する工程である。
成形工程の詳細は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
「焼結工程」は、成形工程で得られた成形体を加熱し、焼結させる工程である。異方形状粉末とマトリックス化合物粉末とを含む成形体を所定の温度に加熱すると、異方形状粉末がテンプレートとして機能し、第1のペロブスカイト型化合物からなる異方形状結晶が生成及び成長し、これと同時に、生成した第1のペロブスカイト型化合物の焼結が進行する。
加熱温度は、異方形状結晶の成長及び/又は焼結が効率よく進行し、かつ、目的とする組成を有する化合物が生成するように、使用する異方形状粉末、マトリックス化合物粉末、作製しようとする結晶配向セラミックスの組成等に応じて最適な温度を選択すればよい。
最適な加熱温度は、第1のペロブスカイト型化合物の組成に応じて異なる。例えば、CaTiO3からなる異方形状粉末及びCaTiO3からなるマトリックス化合物粉末を用いてCaTiO3からなる結晶配向セラミックスを製造する場合、加熱温度は、900℃以上1700℃以下が好ましい。また、加熱は、大気中、酸素中、減圧下又は真空下のいずれの雰囲気下で行っても良い。さらに、加熱時間は、所定の焼結体密度が得られるように、加熱温度に応じて最適な時間を選択すればよい。
焼結工程に関するその他の点については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
次に、本実施の形態に係る結晶配向セラミックスの製造方法の作用について説明する。異方形状粉末及びマトリックス化合物粉末を混合し、これを異方形状粉末に対して一方向から力が作用するような成形方法を用いて成形すると、異方形状粉末に作用するせん断応力によって異方形状粉末が成形体中に配向する。このような成形体を所定の温度で加熱すると、異方形状粉末とマトリックス化合物粉末とが反応し、又は反応することなく、第1のペロブスカイト型化合物が生成する。
この時、異方形状粉末の発達面と第1のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面との間には格子整合性があるので、異方形状粉末の発達面が、生成した第1のペロブスカイト型化合物の擬立方{100}面として継承される。そのため、焼結体中には、擬立方{100}面が一方向に配向した状態で、第1のペロブスカイト型化合物からなる異方形状結晶が生成する。
層状化合物からなる異方形状粉末を反応性テンプレートとして用いて、ペロブスカイト型化合物を生成させる従来の方法は、異方形状粉末及びその他の原料に含まれるすべてのAサイト元素及びBサイト元素を含むペロブスカイト型化合物からなる結晶配向セラミックス又は異方形状粉末のみが製造可能である。
一方、反応性テンプレートとして用いる異方形状粉末の材質は、結晶格子の異方性の大きく、かつ、ペロブスカイト型化合物との間に格子整合性を有するものであることが必要であるが、作製しようとするペロブスカイト型化合物の組成によっては、このような条件を満たす材料が存在しないか、あるいは、その探索に著しい困難を伴う場合がある。従って、従来の方法では、得られる結晶配向セラミックスの組成制御、特に、Aサイト元素の組成制御には限界があった。
これに対し、まず、異方形状粉末の合成が容易な層状化合物からなる第1異方形状粉末を合成し、この第1異方形状粉末を反応性テンプレートとして用い、かつ、これと反応させるイオン交換反応用原料の組成を最適化すると、不要なAサイト元素を含まない第2のペロブスカイト型化合物からなり、かつ擬立方{100}面を発達面とする異方形状粉末を合成することができる。次いで、このようにして得られた異方形状粉末を成形体中に配向させ、所定の温度で加熱すると、不要なAサイト元素を含まない第1のペロブスカイト型化合物からなり、かつ擬立方{100}面が配向した結晶配向セラミックスが得られる。
本発明に係る製造方法は、通常のセラミックスプロセスをそのまま利用できるので、結晶格子の異方性の小さい第1のペロブスカイト型化合物であっても、擬立方{100}面が高い配向度で配向した結晶配向セラミックスを容易かつ安価に製造することができる。また、このようにして得られた結晶配向セラミックスは、多結晶体であるので、単結晶に比べて、強度、破壊靱性等に優れている。
また、異方形状粉末として、作製しようとする結晶配向セラミックスと同一又は類似の結晶構造を有しているものを用いているので、異なる結晶構造を有する異方形状粉末を反応性テンプレートとして用いた場合に比べて、容易に高い配向度を有する結晶配向セラミックスが得られる。すなわち、異方形状粉末の配合比率が相対的に少ない場合であっても、高い配向度を有する結晶配向セラミックスが得られる。
(実施例1)
化学量論比でPbBi4Ti4O15(以下、これを「PBIT」という。)組成となるように、PbO粉末(平均粒径:0.5μm)、Bi2O3粉末(平均粒径:0.5μm)及びTiO2粉末(平均粒径:0.5μm)を秤量し、これらを湿式混合した。次いで、この原料に対して、フラックスとしてNaClを100wt%添加し、これらを乾式混合した。次に、得られた混合物を白金るつぼに入れ、950℃×2hの条件下で加熱し、PBITの合成を行った。冷却後、反応物から湯せんによりフラックスを取り除き、PBIT粉末を得た。得られたPBIT粉末は、{001}面を発達面とし、アスペクト比(Wb/tb)が約10、発達面の最大長さ(Wb)が約10μmである板状粉末であった。得られた粉末の結晶相をX線回折で測定したところ、PBITとPb2Bi4Ti5O18(以下、これを「P2BIT」という)の混合相であることがわかった。
次に、このPBIT板状粉末に対して、PbTiO3及び余剰成分であるBi2O3を生成させるに必要な量以上のPbO粉末(平均粒径:0.5μm。x=4/3)を加えて混合し、さらに、この原料に対して、フラックスとしてKClを100wt%添加した。次いで、この混合物を白金るつぼに入れ、950℃×4hの条件下で加熱した。これにより、トポケミカル結晶変換(以下、これを「TMC(Topochemical Mycrocrystal Conversion)変換」という。)が起こり、白金るつぼ中には、PbTiO3とBi2O3と過剰のPbOの混合物が生成した。
次に、TMC変換によって得られた反応物からフラックスを取り除いた後、これを2.5NのHNO3中に1h浸漬し、余剰成分として生成したBi2O3とPbOを溶解させた。さらに、この溶液を濾過してPbTiO3粉末を分離し、80℃のイオン交換水で洗浄した。得られたPbTiO3粉末は、擬立方{100}面を発達面とし、アスペクト比(Wa/ta)が約10、発達面の最大長さ(Wa)が約10μmである板状粉末であった。次の化1の式に、理想的なPbTiO3板状粉末の合成反応式を示す。
なお、本実施例のように、板状粉末(第1異方形状粉末)が複数のビスマス層状ペロブスカイト型化合物の混合相になった場合であっても、所定量のPbO(イオン交換反応用原料)と反応させることによって目的とする組成を有する板状粉末(異方形状粉末)を得ることができる。次の化2の式に、PBIT、P2BIT、Pb3Bi4Ti6O21(P3BIT)及びPb4Bi4Ti7O24(P4BIT)の混合相からなる板状粉末からPbTiO3板状粉末を合成する際のTMC変換反応及び不純物除去反応の反応式を示す。
図1(a)及び図1(b)に、それぞれ、合成されたPBIT板状粉末及びPbTiO3板状粉末のSEM写真を示す。図1より、本発明に係る方法により、アスペクト比の大きな板状粉末が得られていることがわかる。
また、図2(a)及び図2(b)に、それぞれ、合成されたPBIT板状粉末及びPbTiO3板状粉末のX線回折パターンを示す。さらに、図3(a)及び図3(b)に、それぞれ、PDFファイルに登録されているNo.430972、140278、350007、341312(PBIT、P2BIT、P3BIT、及び、P4BIT)のパターンと、同じくPDFファイルに登録されているNo.060452(PbTiO3)のパターンを示す。
図2及び図3より、PBITとP2BITの混合相からなるPBIT板状粉末から、ペロブスカイト型結晶構造を有する100%単相のPbTiO3粉末が得られていることが分かる。なお、PBIT板状粉末及びPbTiO3板状粉末の発達面の結晶面は、キャスト法により、それぞれ、{001}面及び擬立方{100}面であることを確認した。
(実施例2)
化学量論比でP2BIT組成となるように出発原料を配合した以外は、実施例1と同一の手順に従い、P2BIT粉末を合成した。得られたP2BIT粉末は、{001}面を発達面とし、アスペクト比(Wb/tb)が約10、発達面の最大長さ(Wb)が約8μmである板状粉末であった。得られた粉末の結晶相をX線回折で測定したところ、P2BITの単相であることがわかった。
次に、このP2BIT板状粉末に対して、TMC変換(x=4/3)及び不純物除去を行い、PbTiO3粉末を得た。反応条件は、PBIT板状粉末に代えてP2BIT板状粉末を用いた点、及び、TMC変換時の反応条件を950℃×8hとした点以外は、実施例1と同一とした。得られたPbTiO3粉末は、擬立方{100}面を発達面とし、アスペクト比(Wa/ta)が約10、発達面の最大長さ(Wa)が約5μmである板状粉末であった。次の化3の式に、PbTiO3板状粉末の合成反応式を示す。
図4(a)及び図4(b)に、それぞれ、合成されたP2BIT板状粉末及びPbTiO3板状粉末のSEM写真を示す。図4より、本発明に係る方法により、アスペクト比の大きな板状粉末が得られていることがわかる。
また、図5(a)及び図5(b)に、それぞれ、合成されたP2BIT板状粉末及びPbTiO3板状粉末のX線回折パターンを示す。
図5及び図3より、P2BIT板状粉末から、ペロブスカイト型結晶構造を有する100%単相のPbTiO3粉末が得られていることが分かる。なお、P2BIT板状粉末及びPbTiO3板状粉末の発達面の結晶面は、キャスト法により、それぞれ、{001}面及び擬立方{100}面であることを確認した。
(実施例3)
化学量論比でBi4Ti3O12(以下、これを「BIT」という。)組成となるように、Bi2O3粉末(平均粒径:0.5μm)及びTiO2粉末(平均粒径:0.5μm)を秤量し、これらを湿式混合した。次いで、この原料に対して、フラックスとしてNaCl50wt%−KCl50wt%混合物を100wt%添加し、これらを乾式混合した。次に、得られた混合物を白金るつぼに入れ、1100℃×2hの条件下で加熱し、BITの合成を行った。冷却後、反応物から湯せんによりフラックスを取り除き、BIT粉末を得た。得られたBIT粉末は、{001}面を発達面とし、アスペクト比(Wb/tb)が約10、発達面の最大長さ(Wb)が約10μmである板状粉末であった。
次に、このBIT板状粉末に対して、PbTiO3及び余剰成分であるBi2O3を生成させるに必要な量以上のPbO粉末(平均粒径:0.5μm。x=1)を加えて混合し、さらに、この原料に対して、フラックスとしてKClを100wt%添加した。次いで、この混合物を白金るつぼに入れ、950℃×8hの条件下で加熱した。これにより、TMC変換が起こり、白金るつぼ中には、PbTiO3とBi2O3と過剰のPbOの混合物が生成した。
次に、TMC変換によって得られた反応物からフラックスを取り除いた後、これを2.5NのHNO3中に1h浸漬し、余剰成分として生成したBi2O3とPbOを溶解させた。さらに、この溶液を濾過してPbTiO3粉末を分離し、80℃のイオン交換水で洗浄した。得られたPbTiO3粉末は、擬立方{100}面を発達面とし、アスペクト比(Wa/ta)が約10、発達面の最大長さ(Wa)が約7μmである板状粉末であった。次の化4の式に、PbTiO3板状粉末の合成反応式を示す。
図6(a)及び図6(b)に、それぞれ、合成されたBIT板状粉末及びPbTiO3板状粉末のSEM写真を示す。図6より、本発明に係る方法により、アスペクト比の大きな板状粉末が得られていることがわかる。図示はしないが、得られた粉末に対してX線回折を行ったところ、100%単相のBIT板状粉末から、ペロブスカイト型結晶構造を有する100%単相のPbTiO3粉末が得られていることが分かった。なお、BIT板状粉末及びPbTiO3板状粉末の発達面の結晶面は、キャスト法により、それぞれ、{001}面及び擬立方{100}面であることを確認した。
(比較例1)
フラックス法を用いて、PbTiO3粉末を合成した。すなわち、化学量論比でPbTiO3組成となるように、PbO粉末(平均粒径:0.5μm)及びTiO2粉末(平均粒径:0.5μm)を秤量し、これらを湿式混合した。次いで、この原料に対して、フラックスとしてNaClを100wt%添加し、これらを乾式混合した。次に、得られた混合物を白金るつぼに入れ、900℃×2hの条件下で加熱した。冷却後、反応物から湯せんによりフラックスを取り除き、PbTiO3粉末を得た。次の化5の式に、フラックス法によるPbTiO3粉末の合成反応式を示す。
(比較例2)
固相反応法を用いて、PbTiO3粉末を合成した。すなわち、化学量論比でPbTiO3組成となるように、PbO粉末(平均粒径:0.5μm)及びTiO2粉末(平均粒径:0.5μm)を秤量し、これらを湿式混合した。次いで、この原料をルツボに入れ、大気中において900℃×5時間の条件下で加熱した。冷却後、反応物をボールミルで24時間粉砕し、PbTiO3粉末を得た。次の化6の式に、固相合成法によるPbTiO3粉末の合成反応式を示す。
図7(a)及び図7(b)に、それぞれ、フラックス法及び固相合成法により合成されたPbTiO3粉末のSEM写真を示す。図7より、得られたPbTiO3粉末は、平均粒径が約5μm(フラックス法)又は0.5μm(固相合成法)、アスペクト比が約1である等方性の粉末であることがわかる。
(実施例4)
図8に示す手順に従い、PbTiO3からなる結晶配向セラミックスを作製した。まず、PbTiO3粉末((株)高純度化学製、99.99%)をジルコニアボールを使い、アセトン溶媒中で24時間ボールミル粉砕した。粉砕後の粉末の平均粒径をレーザ散乱粒度分布測定装置(Horiba、LA−700)で測定したところ、0.5μmであった。これを乾燥した後、非板状PbTiO3粉末として実験に用いた。
次に、実施例1で得られたPbTiO3板状粉末(アスペクト比=約10)と、非板状PbTiO3粉末とを10:90のモル比で秤量した。この配合比は、Bサイトイオンの10at%がPbTiO3板状粉末から供給される比に相当する。この秤量した粉末に対し、PbTiO3に対して1mol%に相当するMnO2を加え、さらに、55vol%トルエン+45vol%エタノールの混合溶液を、粉末に対する重量比で90wt%となるように加えた。さらに、これに対してバインダ(積水化学(株)製、エスレック(登録商標)BH−3)及び可塑剤(フタル酸ブチル)を、それぞれ、粉末量に対して6wt%となるように配合した。この混合物をボールミルにより、5時間の湿式混合を行い、スラリーを作製した。
次に、ドクターブレード装置を用いて、スラリーを厚さ100μmのテープ状に成形し、乾燥させた。さらに、このテープを25枚積層して、80℃×100kg/cm2(9.8MPa)×10minの条件で圧着し、厚さ2.3mmの板状成形体を得た。次に、得られた板状成形体を、大気中において、加熱温度:600℃、加熱時間:2時間、昇温速度:200℃/h、冷却速度:炉冷の条件下で脱脂した。さらに、これを酸素中において、1175℃で1時間の条件で焼結させた。
得られた焼結体について、テープ面と平行な面についてX線回折を行った。その結果、図示はしないが、擬立方{100}面が、テープ面に対して平行に、かつ高い配向度で配向していることがわかった。本実施例の場合、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度F(100)は、96.5%であった。
(比較例3)
PbTiO3板状粉末に代えて、比較例1で得られた等方性PbTiO3粉末を用いた以外は、実施例4と同一の手順に従い、PbTiO3からなる焼結体を得た。図9に、テープ面と平行な面について測定された焼結体のX線回折パターンを示す。図9より、得られた焼結体は、無配向であることがわかる。図9から求めたロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度F(100)は、0%であった。
(比較例4)
PbTiO3板状粉末に代えて、比較例2で得られた等方性PbTiO3粉末を用いた以外は、実施例4と同一の手順に従い、PbTiO3からなる焼結体を得た。図示はしないが、得られた焼結体は、無配向であり、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度F(100)は、0%であった。
次の化7の式に、TMC変換により得られた板状粉末をテンプレートとして用いた結晶成長法(TMC−TGG法)によるセラミックス作製ルート(実施例4)、フラックス法による等方性粉末を用いたセラミックス作製ルート(比較例3)、及び、固相合成法による等方性粉末を用いたセラミックス作製ルート(比較例4)を示す。
(実施例5)
PbTiO3板状粉末の配合量を、Bサイトイオンの0.01%、0.05%、0.1%、0.2%、0.5%、1%、5%又は10%とした以外は、実施例4と同一の条件下で板状成形体を作製した。次いで、板状成形体を実施例4と同一の条件下で脱脂した後、酸素中において、加熱温度:1200℃〜1225℃、保持時間:1時間の条件下で焼結させた。
得られた焼結体について、テープ面と平行な面についてX線回折を行った。図10〜図13に、焼結時間が1時間である焼結体のX線回折パターンを示す。図10〜図13より、いずれの条件下においても、擬立方{100}面が、テープ面に平行に、かつ高い配向度で配向していることがわかる。また、図13(b)に示すように、テンプレート量がBサイトイオンのわずか0.01at%であっても、高い配向度が得られていることがわかる。図25に、テンプレート量と配向度との関係を示す。
次の表1に、それぞれ、焼結時間を1時間とした場合の、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度F(100)を示す。
本実施例において、いずれの条件下においても、擬立方{100}面の平均配向度F(100)は、70%を超えていた。また、テンプレート量がBサイトイオンの僅か0.1at%であっても、焼結条件を1210℃×1時間とすると、擬立方{100}面の平均配向度F(100)は、98.63%に達した。また、テンプレート量がBサイトイオンの僅か0.01%であっても、焼結時間を1時間とすると、擬立方{100}面の平均配向度F(100)は、77.1%に達した。
表1及び図25より、平均配向度を10%以上とするためには、テンプレート量を0.001at%以上とすればよいことがわかる。また、平均配向度を40%以上とするためには、テンプレート量を0.005%以上とすればよいことがわかる。なお、表1中、かっこ書きされた配向度は、図25に基づく内挿値を表す。
(実施例6)
実施例5で得られた結晶配向セラミックス(テンプレート量:Bサイトイオンの1at%、焼結温度:1200℃、保持時間:1時間、擬立方{100}面配向度:99.3%)、及び、比較例4で得られた無配向セラミックス(固相反応−粉砕法で得られた等方性PbTiO3粉末を使用。焼結温度:1175℃)を、それぞれ、厚み1mm、直径11mmに平面研磨、加工した。次いで、円板状試料の上下面にAuスパッタ蒸着電極を付け、150℃で10分、1〜6kV/mmの条件で分極処理を施した。さらに、分極された試料について、比誘電率、圧電電荷出力d33定数及び圧電電圧出力g33定数をインピーダンスアナライザ(アジレント、HP4194A)、Piezo−d33メーター(中国化学院、ZJ−4B)により測定し、圧電特性を比較した。表2に、その結果を示す。また、図14に、比誘電率の温度依存性を示す。
焼結体の相対密度は、いずれも97%以上と高密度であった。一方、比較例4の圧電電荷出力d33定数は、45pm/V(分極電界6kV/m)であるのに対し、実施例5の圧電電荷出力d33定数は、115.5pm/V(分極電界6kV/m)であり、比較例4の2.57倍に大きく向上することが分かった。
また、比較例4の圧電電圧出力g33定数は、34.0×10−3Vm/N(分極電界6kV/m)であるのに対し、実施例5の圧電電圧出力g33定数は、167.3×10−3Vm/N(分極電界6kV/m)であり、比較例4の4.92倍に大きく向上することがわかった。
圧電電荷出力d33定数は、加速度センサにおいて、電荷出力回路を使用した場合の出力電圧に比例する。従って、本実施例の結晶配向セラミックスを加速度センサに応用すれば、出力の大きな電荷出力回路型加速度センサを作ることができる。また、圧電電圧出力g33定数は、加速度センサにおいて、電圧出力回路を使用した場合の出力電圧に比例する。従って、本実施例の結晶配向セラミックスを加速度センサに応用すれば、出力電圧の大きな電圧出力回路型加速度センサを作ることができる。
(参考例11)
化学量論比でCaBi4Ti4O15(以下、これを「CBIT」という。)組成となるように、CaCO3粉末(平均粒径:0.5μm)、Bi2O3粉末(平均粒径:0.5μm)及びTiO2粉末(平均粒径:0.5μm)を秤量し、これらを湿式混合した。次いで、この原料に対して、フラックスとしてKClを100wt%添加し、これらを乾式混合した。次に、得られた混合物を白金るつぼに入れ、1000℃×4hの条件下で加熱し、CBITの合成を行った。冷却後、反応物から湯せんによりフラックスを取り除き、CBIT粉末を得た。得られたCBIT粉末は、{001}面を発達面とし、アスペクト比(Wb/tb)が約8、発達面の最大長さ(Wb)が約7μmである板状粉末であった。
次に、このCBIT板状粉末に対して、CaTiO3及び余剰成分であるBi2O3を生成させるに必要な量のCaCO3を加えて混合し、さらに、この原料に対して、フラックスとしてKClを100wt%添加した。次いで、この混合物を白金るつぼに入れ、1050℃×2hの条件下で加熱した。これにより、トポケミカル結晶変換(TMC変換)が起こり、白金るつぼ中には、CaTiO3とBi2O3の混合物が生成した。
次に、TMC変換によって得られた反応物からフラックスを取り除いた後、これを2.5NのHNO3中に1h浸漬し、余剰成分として生成したBi2O3を溶解させた。さらに、この溶液を濾過してCaTiO3粉末を分離し、80℃のイオン交換水で洗浄した。得られたCaTiO3粉末は、擬立方{100}面を発達面とし、アスペクト比(Wa/ta)が約8、発達面の最大長さ(Wa)が約4μmである板状粉末であった。次の化8の式に、CaTiO3板状粉末の合成反応式を示す。
図15(a)及び図15(b)に、それぞれ、合成されたCBIT板状粉末及びCaTiO3板状粉末のSEM写真を示す。図15より、本発明に係る方法により、アスペクト比の大きな板状粉末が得られていることがわかる。
また、図16(a)及び図16(b)に、それぞれ、合成されたCBIT板状粉末及びPbTiO3板状粉末のX線回折パターンを示す。さらに、図17(a)及び図17b)に、それぞれ、PDFファイルに登録されているNo.521640(CaBi4Ti4O15)のパターンと、同じくPDFファイルに登録されているNo.420423(CaTiO3)のパターンを示す。
図16及び図17より、100%単相のCBIT板状粉末から、ペロブスカイト型結晶構造を有する100%単相のCaTiO3粉末が得られていることが分かる。なお、CBIT板状粉末及びCaTiO3板状粉末の発達面の結晶面は、キャスト法により、それぞれ、{001}面及び擬立方{100}面であることを確認した。
(参考例12)
化学量論比でBi4Ti3O12(BIT)組成となるように、Bi2O3粉末(平均粒径:0.5μm)及びTiO2粉末(平均粒径:0.5μm)を秤量し、これらを湿式混合した。次いで、この原料に対して、フラックスとしてNaCl50wt%−KCl50wt%混合物を100wt%添加し、これらを乾式混合した。次に、得られた混合物を白金るつぼに入れ、1100℃×2hの条件下で加熱し、BITの合成を行った。冷却後、反応物から湯せんによりフラックスを取り除き、BIT粉末を得た。得られたBIT粉末は、{001}面を発達面とし、アスペクト比(Wb/tb)が約10、発達面の最大長さ(Wb)が約10μmである板状粉末であった。
次に、このBIT板状粉末に対して、CaTiO3及び余剰成分であるBi2O3を生成させるに必要な量のCaCO3粉末(平均粒径:0.5μm)を加えて混合し、さらに、この原料に対して、フラックスとしてKClを100wt%添加した。次いで、この混合物を白金るつぼに入れ、1050℃×8hの条件下で加熱した。これにより、TMC変換が起こり、白金るつぼ中には、CaTiO3とBi2O3の混合物が生成した。
次に、TMC変換によって得られた反応物からフラックスを取り除いた後、これを2.5NのHNO3中に1h浸漬し、余剰成分として生成したBi2O3を溶解させた。さらに、この溶液を濾過してCaTiO3粉末を分離し、80℃のイオン交換水で洗浄した。得られたCaTiO3粉末は、擬立方{100}面を発達面とし、アスペクト比(Wa/ta)が約10、発達面の最大長さ(Wa)が約4〜7μmである板状粉末であった。次の化9の式に、CaTiO3板状粉末の合成反応式を示す。
図18(a)及び図18(b)に、それぞれ、合成されたBIT板状粉末及びCaTiO3板状粉末のSEM写真を示す。図18より、本発明に係る方法により、アスペクト比の大きな板状粉末が得られていることがわかる。
また、図19(a)及び図19(b)に、それぞれ、合成されたBIT板状粉末及びCaTiO3板状粉末のX線回折パターンを示す。さらに、図20に、PDFファイルに登録されているNo.732181(Bi4Ti3O12)のパターンを示す。図19、図20及び図17(b)より、100%単相のBIT板状粉末から、ペロブスカイト型結晶構造を有する100%単相のCaTiO3粉末が得られていることがわかる。なお、BIT板状粉末及びCaTiO3板状粉末の発達面の結晶面は、キャスト法により、それぞれ、{001}面及び擬立方{100}面であることを確認した。
(比較例11)
フラックス法を用いて、CaTiO3粉末を合成した。すなわち、化学量論比でCaTiO3組成となるように、CaCO3粉末(平均粒径:0.5μm)及びTiO2粉末(平均粒径:0.5μm)を秤量し、これらを湿式混合した。次いで、この原料に対して、フラックスとしてKClを100wt%添加し、これらを乾式混合した。次に、得られた混合物を白金るつぼに入れ、1000℃×2hの条件下で加熱した。冷却後、反応物から湯せんによりフラックスを取り除き、CaTiO3粉末を得た。次の化10の式に、フラックス法によるCaTiO3粉末の合成反応式を示す。
(比較例12)
固相反応法を用いて、CaTiO3粉末を合成した。すなわち、化学量論比でCaTiO3組成となるように、CaCO3粉末(平均粒径:0.5μm)及びTiO2粉末(平均粒径:0.5μm)を秤量し、これらを湿式混合した。次いで、この原料をルツボに入れ、大気中において1000℃×5時間の条件下で加熱した。冷却後、反応物をボールミルで24時間粉砕し、CaTiO3粉末を得た。次の化11の式に、固相合成法によるCaTiO3粉末の合成反応式を示す。
図21(a)及び図21(b)に、それぞれ、フラックス法及び固相合成法により合成されたCaTiO3粉末のSEM写真を示す。図21より、いずれも、得られたCaTiO3粉末は、平均粒径が約0.5μm、アスペクト比が約1である等方性の粉末であることがわかる。
(参考例13)
図8と同様の手順に従い、CaTiO3からなる結晶配向セラミックスを作製した。まず、CaTiO3粉末((株)高純度化学製、99.99%)をジルコニアボールを使い、アセトン溶媒中で24時間ボールミル粉砕した。粉砕後の粉末の平均粒径をレーザ散乱粒度分布測定装置(Horiba、LA−700)で測定したところ、0.5μmであった。これを乾燥した後、非板状CaTiO3粉末として実験に用いた。
次に、参考例11で得られたCaTiO3板状粉末(アスペクト比=約8)と、非板状CaTiO3粉末とを10:90のモル比で秤量した。この配合比は、Bサイトイオンの10at%がCaTiO3板状粉末から供給される比に相当する。この秤量した粉末に対し、55vol%トルエン+45vol%エタノールの混合溶液を、粉末に対する重量比で90wt%となるように加えた。
さらに、これに対してバインダ(積水化学(株)製、エスレック(登録商標)BH−3)及び可塑剤(フタル酸ブチル)を、それぞれ、粉末量に対して6wt%となるように配合した。この混合物をボールミルにより、5時間の湿式混合を行い、スラリーを作製した。
次に、ドクターブレード装置を用いて、スラリーを厚さ100μmのテープ状に成形し、乾燥させた。さらに、このテープを25枚積層して、80℃×100kg/cm2(9.8MPa)×10minの条件で圧着し、厚さ2.3mmの板状成形体を得た。次に、得られた板状成形体を、大気中において、加熱温度:600℃、加熱時間:2時間、昇温速度:200℃/h、冷却速度:炉冷の条件下で脱脂した。さらに、これを酸素中において、1400℃で1時間の条件で焼結させた。
得られた焼結体について、テープ面と平行な面についてX線回折を行った。その結果、図23(b)に示すように、擬立方{100}面が、テープ面に対して平行に、かつ高い配向度で配向していることがわかった。本実施例の場合、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度F(100)は、99.7%であった。
(比較例13)
CaTiO3板状粉末に代えて、比較例11で得られた等方性CaTiO3粉末を用いた以外は、参考例13と同一の手順に従い、CaTiO3からなる焼結体を得た。図示はしないが、得られた焼結体は無配向であり、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度F(100)は、0%であった。
(比較例14)
CaTiO3板状粉末に代えて、比較例12で得られた等方性CaTiO3粉末を用いた以外は、参考例13と同一の手順に従い、CaTiO3からなる焼結体を得た。図示はしないが、得られた焼結体は、無配向であり、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度F(100)は、0%であった。
次の化12の式に、TMC変換により得られた板状粉末をテンプレートとして用いた結晶成長法(TMC−TGG法)によるセラミックス作製ルート(参考例13)、フラックス法による等方性粉末を用いたセラミックス作製ルート(比較例13)、及び、固相合成法による等方性粉末を用いたセラミックス作製ルート(比較例14)を示す。
(参考例14)
CaTiO3板状粉末の配合量を、Bサイトイオンの0.05%、0.20%、1%、5%又は10%とした以外は、参考例13と同一の条件下で板状成形体を作製した。次いで、板状成形体を参考例13と同一の条件下で脱脂した後、酸素中において、加熱温度:1350℃、1400℃、又は、1450℃、保持時間:1時間の条件下で焼結させた。
得られた焼結体について、テープ面と平行な面についてX線回折を行った。図22〜図24に、焼結時間が1時間である焼結体のX線回折パターンを示す。図22〜図24より、いずれの条件下においても、擬立方{100}面が、テープ面に平行に、かつ高い配向度で配向していることがわかる。また、図22(a)に示すように、テンプレート量がBサイトイオンのわずか1at%であっても、高い配向度が得られていることがわかる。
次の表3に、それぞれ、焼結時間を1時間とした場合の、ロットゲーリング法による擬立方{100}面の平均配向度F(100)を示す。
本参考例において、いずれの条件下においても、擬立方{100}面の平均配向度F(100)は、80%を超えていた。また、テンプレート量がBサイトイオンの僅か1at%であっても、焼結条件を1450℃×1時間とすると、擬立方{100}面の平均配向度F(100)は、86.2%に達した。
表3より、平均配向度を10%以上とするためには、テンプレート量を0.01at%以上とすればよいことがわかる。また、平均配向度を30%以上とするためには、テンプレート量を0.20%以上とすればよいことがわかる。なお、表3中、かっこ書きされた配向度は、内挿値であることを示す。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、上記実施例では、結晶配向セラミックスを製造するに際し、常圧焼結法が用いられているが、他の焼結法(例えば、ホットプレス法、HIP処理等)を用いても良い。
また、上記実施例では、主として、ペロブスカイト型化合物単相からなる結晶配向セラミックス及びその製造方法について主に説明したが、第1のペロブスカイト型化合物に対して適当な副成分及び/又は副相を添加すれば、熱電特性やイオン伝導特性を付与することができる。そのため、本発明に係る製造方法を応用すれば、熱電材料やイオン伝導材料等として好適な結晶配向セラミックスであっても製造することができる。