本発明は、塗工紙における顔料バインダーに用いられる共重合体ラテックス、その共重合体ラテックスを使用した紙塗工組成物に関するものである。更に詳しくは、高い接着強度(ピック強度及び湿潤ピック強度)、と塗工操業性とを両立する共重合体ラテックス、オフセット紙塗工組成物、塗工紙に関する。
共重合体ラテックスは、塗工紙における顔料バインダー、カーペットバッキング剤、各種接着剤および粘着剤、繊維結合剤ならびに塗料など広範な用途に用いられてきた。これらの用途に用いられる共重合体ラテックスには、基材や配合される顔料などに対する優れた接着力が要求される。
塗工紙は、抄造された紙の表面の平滑性を高め、光沢や印刷適性を向上させる目的で、原紙にカオリンクレー、炭酸カルシウム、サチンホワイト、タルク、酸化チタンなどの無機顔料およびプラスチック顔料などの有機顔料を塗布したものであり、これらの顔料のバインダーとしてジエン系共重合体ラテックスが一般的に用いられている。顔料バインダーとして用いられる共重合体ラテックスの性質は、これを利用した塗工紙の表面強度に大きな影響を及ぼすことが知られている。
近年、カラー印刷された雑誌類やパンフレット、広告等の需要の増大に伴い、印刷速度の高速化が進められており、特にインクのタックによる紙の表面の破壊に対する抵抗性(いわゆるピック強度及び湿潤ピック強度)の改善が以前にも増して要求されるようになった。また、塗工紙を生産する製紙メーカーにとっては、製品のコストダウンが主要課題の1つでもあり、共重合体ラテックスの使用割合を減らす事が要求され、この観点でも共重合体ラテックスの持つ性能としての接着強度(ピック強度及び湿潤ピック強度)の改善が望まれている。更には最近の塗工紙品質へのニーズとして、白紙光沢の高いものが求められ、このニーズへの対応として紙塗工組成物には平均粒子径の小さい顔料が主体的に用いられる傾向がある。この作用は同時に塗工紙のピック強度や湿潤ピック強度を低下させる方向になる。この観点でも、共重合体ラテックスに対して高いピック強度や湿潤ピック強度の性能を付与する事が求められている。
一方、塗工紙の生産においても、生産能力および生産性の向上のため塗工速度の高速化が進められ、ここでも塗工操業性に影響を与える共重合体ラテックスへの品質要求は高まっている。塗工紙の製造は、先に述べた共重合体ラテックスを主バインダーとする塗工液が、原紙にフラッデドニップロールやジェットファウンテン方式によってアプリケートされ、ブレード等によって余分な塗工液が掻き取られ、塗工液の所定量を塗布し、乾燥するのが一般的な方法である。塗工紙は表裏両面に印刷されることが多く、このため塗工紙の生産では、原紙の片面(おもて面)に塗布乾燥後、もう一方の面(裏面)に同様な方法で処理が行われる。
このブレードによる計量の際に塗工紙はブレードとバッキングロールとの間で高いシェアーと圧力を受け、特に裏面塗工時におもて面の塗工層表層部分がバッキングロールに転移する、いわゆるバッキングロール汚れを発生することがあり、汚れの発生が著しくなると原紙の紙切れや頻繁な研磨によるロール洗浄の必要が生じ、生産性が低下する。この塗工操業性の改良には、主として2種類の考え方がある。
まず第一に、ロールへの転移を少なくする事であり、その目的を果たす為には、更に2つの改良方向がある。改良方向の1点目は共重合体ラテックスの粘着性を低減させることであり、共重合体ラテックスのベタツキ性を低減させることが有効であるが、通常、バッキングロールにはフロークリン水と呼ばれる少量の洗浄水がロール上に連続的に流されている。従って、共重合体ラテックスの粘着性についても、水を介した状態でのベタツキ性、即ち、耐湿潤ベタツキ性の向上が特に有効である。ロールへの転移を少なくする改良方向の2点目は、塗工紙の表面強度を向上させる事であるが、前述のフロークリン水の存在を考慮し、水を介した状態での表面強度、即ち、耐湿潤強度の改良が有効である。塗工紙の耐湿潤強度は、塗工後より経時変化を伴う為、本課題に対する改良方向としては、塗工直後の耐湿潤強度、即ち初期耐水性を改良する事が特に有効である。
塗工操業性改良の考え方の第二は、ロール上に転移した共重合体ラテックスを含む異物(塗工層の一部)を、容易に洗浄・除去させる事である。通常、バッキングロールには付着した異物を掻きとって除去するドクターブレードが設置されている。この観点で必要な性能は、前述の様な共重合体ラテックスの耐湿潤ベタツキ性の向上に加え、ドクターブレードでの異物の掻き取り易さ、即ち洗浄性を改良する事が特に有効である。
以上のような塗工紙の品質向上や塗工紙生産の操業上の問題解決を目的として、共重合体ラテックスについては様々な改良がなされてきた。例えば、ピック強度を改良する目的で共役ジエン系単量体の組成比率を上げて共重合体のガラス転移温度を低くする方法がある。しかし、この方法では白紙光沢の低下および耐湿潤ベタツキ性が低下する問題点が残る。
また、例えば、特定の単量体組成で二段もしくは多段で重合を行う共重合体ラテックスの改良が多数提案されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7)。しかしながらこれらの発明では、塗工紙のピック強度、湿潤ピック強度の向上とバッキングロール汚れ特性の向上を両立させる手段としていずれも不充分なものであった。
更には、初期耐水性を改良させる方法として、ジルコニウムを含む特定組成の共重合体ラテックスを使用した紙塗工組成物(特許文献8)が開示されているが、この方法では初期耐水性改良の効果は未だ不充分である。また、水への洗浄性を改良する方法として特定組成の単量体を、特定組成を有する反応性乳化剤と共に共重合して製造する共重合体ラテックスの製造方法(特許文献9)が開示されているが、この発明では前述のようなドクターブレードでの掻き取り易さを考慮した洗浄性(以下、ドクターブレード洗浄性と言うことがある)を改良させる効果は不充分であり、従ってバッキングロール汚れの改良手段としては不充分なものであった。
特公昭62−58371号公報
特公昭62−31116号公報
特公昭64−2716号公報
特公昭60−19927号公報
特開平4−41502号公報
特開平5−272094号公報
特開平7−247327号公報
特開平6−192997号公報
特開2002−332315号公報
本発明は、以上のような状況から、塗工紙のピック強度と湿潤ピック強度を向上させ、更に耐湿潤ベタツキ性、ドクターブレード洗浄性及び初期耐水性に優れてバッキングロール汚れの抑制効果をも有する共重合体ラテックスを提供することを課題とする。好ましくは、該共重合体ラテックスを使用した紙塗工組成物、印刷用塗工紙を提供する事を課題とする。
本発明者は、上述の問題点を解決するために鋭意検討した結果、共重合体ラテックスに関し、出発原料である単量体組成を特定範囲に限定すると共に、共重合体ラテックス中に含有した単量体の効果及び影響に着目し、特定のエチレン系不飽和カルボン酸単量体の含有量を調整する事によって顕著な効果を発現する事を見出し、鋭意検討した結果、本発明をなすに至った。即ち本発明は、下記の通りである。
[1] (a)共役ジエン系単量体25〜60質量%、(b)アクリル酸を含むエチレン系不飽和カルボン酸単量体1.5〜7質量%、(c)シアン化ビニル単量体10〜30質量%、および(d)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルを含むその他共重合可能な単量体3〜63.5質量%から成る単量体混合物であり、かつ全単量体混合物100質量部に対するアクリル酸とアクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとの合計量が2〜4.5質量部である単量体混合物を乳化重合して得られる共重合体ラテックスであって、該共重合体ラテックスが含有するアクリル酸単量体が、該共重合体ラテックスの固形分に対して100〜5000ppmであることを特徴とする共重合体ラテックス。
[2] 前記(b)成分のうち、40質量%以上、90質量%以下が二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体である、前記[1]記載の共重合体ラテックス。
[3] 前記(b)成分として二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体と前記アクリル酸以外の一塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体とを含有する前記[1]又は[2]記載の共重合体ラテックス。
[4] 前記乳化重合は、少なくとも二段の重合工程を経るものであり、ある重合段で用いられる単量体混合物組成から得られる共重合体の溶解度パラメーター(SP値)を基準として、その重合段の直後の重合段で用いられる単量体混合物組成から得られる共重合体のSP値の増分が、0.01以上0.5以下である、前記[1]〜[3]のいずれか一に記載の共重合体ラテックス。
[5] 前記[1]〜[4]のいずれか一に記載の共重合体ラテックスを製造する方法であって、前記の乳化重合は、少なくとも二段の重合工程を経ると共に、前記の二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸の少なくとも80質量%以上を、前記重合工程の第二重合段以降において系内の単量体の重合転化率が65〜95%の範囲内であるいずれかの時点から、添加を開始することを特徴とする共重合体ラテックスの製造方法。
[6] 顔料と共重合体ラテックスとを含有するオフセット印刷紙用の紙塗工組成物であって、前記顔料は、粒子径が2μm以下のものが95質量%以上であるカオリンクレーと、粒子径が2μm以下のものが97質量%以上である重質炭酸カルシウムとから成るものであり、前記共重合体ラテックスは、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の共重合体ラテックスであることを特徴とする紙塗工組成物。
[7] 前記[6]に記載の紙塗工組成物が、表面に塗工処理されたオフセット印刷用塗工紙。
本発明の共重合体ラテックスによれば、塗工紙のピック強度及び湿潤ピック強度向上と共に、耐湿潤ベタツキ性、初期耐水性及びドクターブレード洗浄性の全てを向上させることができる。その結果、共重合体ラテックスを含む紙塗工組成物を用いた塗工工程での操業性、特にバッキングロール汚れトラブルを抑制でき、かつ印刷用塗工紙に極めて優れたピック強度と湿潤ピック強度を付与する事が可能になる。
以下、本発明について、特にその好ましい実施の形態を中心に、具体的に説明する。共重合体ラテックスの原料の1つである(a)共役ジエン系単量体は、共重合体に柔軟性を与え、ピック強度、衝撃吸収性を与えるために必須の成分であり、該共重合体を構成する全単量体を100質量%とした場合、25〜60質量%、好ましくは30〜55質量%、最も好ましくは32〜50質量%の割合で用いられる。この単量体の使用量を上記範囲に設定する事により、共重合体に適度の柔軟性と弾性を付与してピック強度を向上させ、更には耐湿潤ベタツキ性を向上させる事ができる。使用される共役ジエン系単量体の好ましい例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロロ−1,3−ブタジエンなどがあげられ、これらは1種または2種以上が組み合わせて用いられる。
また、原料の1つである(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体は、共重合体ラテックスに必要な分散安定性を与え、ピック強度、湿潤ピック強度を高めるための必須成分であり、該共重合体を構成する全単量体を100質量%とした場合、全単量体に対し1.5〜7質量%、好ましくは2〜6質量%、更に好ましくは2.5〜5質量%の割合で用いられる。この単量体の使用量を上記範囲に設定する事により、共重合体ラテックスの耐湿潤ベタツキ性を良好(べたつかない)に保つ事が可能になり、且つこの共重合体ラテックスを使用した紙塗工組成物のドクターブレード洗浄性を良好にすることが可能となり、塗工工程におけるさまざまな問題発生を回避する事が可能となる。また共重合体ラテックス組成物の粘度を取り扱いに支障をきたさない適度な範囲に調整する事が可能である。
エチレン系不飽和カルボン酸単量体の好ましい例としては、アクリル酸、メタクリル酸等の一塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体などがあげられ、これらは1種または2種以上が組み合わせて用いられる。より好ましくは、二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体と、一塩基性エチレン系不飽和カルボン酸を併用して使用することであり、使用するエチレン系不飽和カルボン酸単量体の全質量に対し、少なくとも40質量%以上95質量%以下、好ましくは50質量%以上90質量%以下、最も好ましくは55質量%以上87質量%以下が二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体であることである。二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体の使用割合をこの範囲に定める事により、耐湿潤ベタツキ性をより良好なレベルに調整する事が可能になり、最も好ましくは、紙塗工組成物のドクターブレード洗浄性向上の観点から、イタコン酸とアクリル酸を併用して使用する事である。
また、原料の1つである(c)シアン化ビニル単量体は、耐湿潤ベタツキ性の向上に必須の成分であり、該共重合体を構成する全単量体を100質量%とした場合、全単量体に対し10〜30質量%、好ましくは13〜28質量%、更に好ましくは15〜25質量%の割合で用いられる。この単量体の使用量を上記範囲に設定する事により、耐湿潤ベタツキ性を向上させる効果が得られ、かつ共重合体ラテックスの重合安定性を低下させる事がない。シアン化ビニル単量体の好ましい例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリルなどがあげられ、これらは1種または2種以上が組み合わせて用いられる。
また、他の原料として(d)上記単量体と共重合可能な他の単量体を含む。この共重合可能な他の単量体を適宜選択することにより、共重合体ラテックス及びその組成物にさまざまな特性を付与できる。共重合可能な他の単量体の好ましい例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、などのアクリル酸アルキルエステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸アルキルエステル類、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどのアクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチルなどのアミノアルキルエステル類、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどのピリジン類、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのグリシジルエステル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、グリシジルメタクリルアミド、N,N−ブトキシメチルアクリルアミドなどのアミド類、酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類、塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル類などがあげられ、これらは1種または2種以上が組み合わせて用いればよい。上記各種単量体の中でも、得られる共重合体ラテックスのピック強度及びドクターブレード洗浄性の観点から、スチレン、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチルを用いることが好ましい。
この(d)共重合可能な単量体は、共重合体ラテックスを構成する全単量体を100質量%とした場合、全単量体に対し3〜63.5質量%、好ましくは23〜50.5質量%の割合で用いられる。この単量体を上記範囲で使用する事で、好適なピック強度が発現する。
本発明の共重合体ラテックスは、上記の単量体の混合物(ただし、(a)+(b)+(c)+(d)=100質量%)を乳化重合法により重合することで得られる。乳化重合後の共重合体ラテックス中に残存しているアクリル酸単量体の濃度は、該共重合体ラテックスの固形分に対して100〜5000ppmである事が必要である。ここで、共重合体ラテックスの固形分とは、共重合体ラテックスから水及びその他揮発成分を除去した残りの成分を言う。共重合体ラテックス中のアクリル酸単量体の濃度がこの範囲に入る事によって、共重合体ラテックスの耐湿潤ベタツキ性、塗工紙のピック強度、湿潤ピック強度及び初期耐水性、該共重合体ラテックスを用いた紙塗工組成物のドクターブレード洗浄性、以上の全ての物性を良好なレベルに引き上げる事が可能になる。これらの物性の観点から、好ましくは200〜4000ppm、最も好ましくは300〜3500ppmの範囲に調整される事が望ましい。
共重合体ラテックス中のアクリル酸単量体の濃度は、幾つかの方法によって調整可能である。例えば原料としてアクリル酸を使用する場合には、他の原料単量体に対するその使用量割合、及び重合系内への添加時期及び/または添加速度を調整する事や、重合開始剤量、連鎖移動剤量、重合時間、重合温度を適正化する事で、アクリル酸単量体の重合転化率を調整し、最終製品としての共重合体ラテックス中のアクリル酸単量体濃度を適宜所望の範囲に調整する事が可能である。
また、原料としてアクリル酸を使用しない場合でも、最終製品としての共重合体ラテックス中にアクリル酸単量体を含有する事は事実上あり得る事であり、一例として(d)の他の共重合可能な単量体として、特にアクリル酸アルキルエステル単量体またはアクリル酸ヒドロキシアルキルエステル単量体またはこれらの両者を用い、これらの加水分解率を調整すべく、重合温度や重合系内のpHを調整する事でやはり適宜所望の範囲に調整する事が可能である。更には共重合体ラテックスには、一般的に分散剤を代表とする各種の添加剤を添加する事が多いが、この際、使用する添加剤中に含まれるアクリル酸単量体濃度を適宜調整する事や、添加剤の添加量を調整する事、等も、本発明で必要な共重合体ラテックス中の単量体としてのアクリル酸濃度を所望の範囲に調整する手段の一つである。
共重合体ラテックスのガラス転移温度(Tg)は、特に限定されるものではないが、塗工紙用途におけるピック強度・湿潤ピック強度とラテックスの耐湿潤ベタツキ性を両立させる観点から、−20℃〜+40℃の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは−15℃〜+35℃、さらに好ましくは−10〜+30℃の範囲にあることである。なお、Tgは、1種類の共重合体ラテックスにおいて1点だけに限定されず、複数のTgを有していても良い。
共重合体ラテックスの粒子径は50〜150nmであることが好ましい。より好ましくは60〜110nmにあることが好適である。この範囲の粒子径に設定する事により、ラテックスの粘度を好適な範囲に調整する事が可能であり、作業性を低下せしめない。更には、ピック強度・湿潤ピック強度の低下や塗料粘度上昇発生を抑制させる事ができる。
共重合体ラテックスについては、共重合体中のゲル分率(トルエン不溶分)が70〜98質量%に有ることが好ましく、更に好ましくは80〜97質量%、最も好ましくは88〜94質量%の範囲にあることである。この範囲にゲル分率を調整する事によって、共重合体ラテックスの耐湿潤ベタツキ性と塗工紙のピック強度及び湿潤ピック強度を同時に向上させる事ができる。
共重合体ラテックスの製造法は、従来商業的に用いられている乳化重合法の装置を使用して行われるものであるが、少なくとも二段の重合工程を含む多段重合法を取る事が好ましい。これにより目的の課題に対する効果がより大きくなる。多段重合法とは、例えば特開2002−226524号公報に開示されている如く、組成の異なる複数の単量体混合物を準備し、重合反応の進行に伴って系内に添加する単量体混合物の組成を、重合反応の途中で変化させる重合法である。
上記のような多段重合法を行う場合、本発明の共重合体ラテックスで目的とする効果を高める為には、各重合段の単量体混合物の組成が重要である。重合反応における時系列的な観点で整理した場合、最初の工程を第一重合段、これに続く工程を第二重合段、(更にこれに続く第三重合段以降が存在しても良い)と定義した場合に、各重合段における単量体混合物から得られる共重合体のガラス転移温度については、より後段の重合段ほど高いTgの得られる単量体混合物の組成にする事が望ましい。また第一重合段で用いる単量体混合物の量と、第二重合段以降の各重合段で用いられる単量体混合物合計量との質量比は、40:60〜80:20の範囲に入る事が好ましく、より好ましくは45:55〜65:35の範囲に入る事である。この範囲に入ることで共重合体ラテックスの耐湿潤ベタツキ性、及びこれを使用した塗工紙のピック強度・湿潤ピック強度と初期耐水性をより高める事ができる。最も好ましい範囲は、55:45〜62:38の範囲である。
また、各重合段において用いられる単量体混合物(但し第二重合段以降で使用される二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体を除く)から得られる共重合体の溶解度パラメーター(SP値)に関して、ある重合段で用いられる単量体混合物組成から得られる共重合体のSP値を基準として、その重合段の直後の重合段で用いられる単量体混合物組成から得られる共重合体のSP値の増分(以下ΔSP値と定義する。)が0.01以上0.8以下の範囲に入る様、各重合重合段の単量体混合物組成が調整される事が好ましい。つまり、隣接する重合段の各SP値がこの差を有していることが好ましい。このΔSP値が0.01以上0.8以下の範囲に入る事によって、耐湿潤ベタツキ性とピック強度、湿潤ピック強度のいずれにも優れる共重合体ラテックスが得られる。ΔSP値のより好ましい範囲は、0.1以上0.6以下、更に好ましい範囲は0.2以上0.5以下である。各重合段のSP値の調整は、単量体混合物を構成する単量体の種類と量で実施可能であるが、特に、SP値が低い(a)共役ジエン系単量体と、SP値が高い(c)シアン化ビニル単量体の使用量割合が重要な因子である。
更に、カルボン酸の使用方法をある特定の条件下に限定することが好ましい。前述の様に、原料単量体として二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体と一塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体とを併用して使用する事が好ましいが、この二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体については、重合開始時点で系内に存在する量と重合開始後に系内に後添加する量との比、および系内に後添加するタイミングが重要である。
即ち、二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体量の少なくとも60質量%以上は、第二重合段以降で、かつその時点までに系内に添加された単量体の重合転化率が65〜95質量%の範囲内にあるいずれかの時点から系内に後添加を開始する事が好ましく、この条件が満たされる事によって、得られる共重合体ラテックスはより良好な耐湿潤ベタツキ性を得ることが可能となり、この共重合体ラテックスを使用した紙塗工組成物はより良好な塗工操業性を有する。系内に後添加される二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体量割合のより好ましい範囲は80質量%以上であり、最も好ましくは90質量%以上である。この工程で使用される二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体の量は、使用する全単量体を100質量部とした場合に、1.5〜3.5質量部に入る事が好ましい。系内に後添加する二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体の割合、及び量がこの範囲にはいる事で、共重合体ラテックスはより高い耐湿潤ベタツキ性を有することが可能となる。
後添加される二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体の系内への後添加開始時期は、その時点までに系内に添加された他の単量体の重合転化率が70〜90質量%になったいずれかの時点から、系内に後添加開始される事がより好ましい。
また、後添加される二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体の添加方法については、第二重合段以降の単量体混合物中に(必要なら予め乳化して)混合する方法、単量体混合物とは別途、単独で系内に添加する方法等があるが、得られる共重合体ラテックスの耐湿潤ベタツキ性を良好なレベルにする為に、或いは他の単量体の重合転化率が適切となる時点から添加を開始する為には、二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体を単独で水溶液化し、他の単量体混合物とは別途独立して系内に添加する事が好ましい。後添加する二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体の水溶液濃度は5〜30質量%、好ましくは10〜20質量%の範囲にあることが、量産設備での効率を考慮すると好ましい。また系内に添加される前に二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体の変質や重合を抑制し、系内に添加された後の系内の温度を安定化させる為には、この水溶液の温度は、30〜80℃、好ましくは40〜65℃の範囲にある事が好ましい。
系内に後添加する二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸単量体の添加に要する時間は、後添加開始から45〜120分をかけて全量を系内に添加する事が好ましく、この範囲の時間で系内に後添加することにより、得られる共重合体ラテックスの耐湿潤ベタツキ性が優れる。
共重合体ラテックスを製造するに当たっては、上述した特定の方法以外については特に制限はなく、水性媒体中で界面活性剤の存在下、ラジカル開始剤により重合を行うなどの方法を用いることができる。
使用する乳化剤についても特に制限はなく、従来公知のアニオン、カチオン、両性および非イオン性の界面活性剤を用いることができる。好ましい界面活性剤の例としては、脂肪族セッケン、ロジン酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩などのアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマーなどのノニオン性界面活性剤があげられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いられる。使用される界面活性剤の量は、単量体100質量部当たり、0.3〜2.0質量部である事が好ましい。
ラジカル開始剤は、熱または還元剤の存在下でラジカル分解して単量体の付加重合を開始させるものであり、無機系開始剤、有機系開始剤のいずれも使用することが可能である。好ましい例としてはペルオキソ二硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物などがあり、具体的にはペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、2,2−アゾビスブチロニトリル、クメンハイドロパーオキサイドなどがあげられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。また酸性亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸やその塩、エリソルビン酸やその塩、ロンガリットなどの還元剤を重合開始剤と組み合わせて用いる、いわゆるレドックス重合法を用いることもできる。
共重合体ラテックスを製造する場合、ラジカル重合において通常用いられる公知の連鎖移動剤を用いることが可能である。連鎖移動剤の好ましい例としては、核置換α−メチルスチレンの二量体のひとつであるα−メチルスチレンダイマー、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタンなどのメルカプタン類、テトラメチルチウラジウムジスルフィド、テトラエチルチウラジウムジスルフィドなどのジスルフィド類、四塩化炭素、四臭化炭素などのハロゲン化誘導体、2−エチルヘキシルチオグリコレートなどがあげられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。連鎖移動剤の添加方法にも特に制限はなく、一括添加、回分添加、連続添加など公知の添加方法が用いられる。
共重合体ラテックスを製造する場合の重合温度は、特に制約はなく、通常40〜100℃の範囲で行う事が一般的であるが、生産効率と、得られる共重合体ラテックス及びその組成物のピック強度等の品質の観点からは、重合開始時から単量体混合物の添加終了時までの期間においては、55〜85℃の範囲が好ましく、より好ましくは60〜80℃の範囲である。また全単量体を重合系内に添加終了後に、各単量体の重合転化率を引き上げる為に、重合温度を上げる方法(いわゆるクッキング工程)を設ける事も可能であり、この工程の重合温度は80〜100℃の範囲にある事が好ましい。
共重合体ラテックスを製造する場合の重合固形分濃度は、生産効率と、乳化重合時の粒子径制御の観点から、35〜60質量%、更に好ましくは40〜52質量%である。ここにいう固形分濃度とは、乾燥により得られた固形分質量の、元の共重合体ラテックス質量に対する割合を言う。
共重合体ラテックスを製造するにあたって、乳化重合の系内に(各重合段)の単量体混合物を添加する手段に関しては、上記で説明した方法以外には特に制約はない。単量体混合物の一部を一括して予め乳化重合系内に仕込み重合した後、残りの単量体混合物を連続的もしくは間欠的に仕込む方法、あるいは単量体混合物を各重合段の最初から連続的または間欠的に仕込む方法を採りうるものであり、これらの重合方法を組み合わせて重合してもよいが、商業生産ベースにおいて、発生する重合熱の除去の観点から、製品の生産性を考慮した場合に、全単量体混合物の80質量%以上については、連続的に系内に添加する方法が好ましい。
共重合体ラテックスの製造に際しては、粒子径の調整のため公知のシード重合法を用いることも可能であり、シードを作製後同一反応系内で共重合体ラテックスの重合を行うインターナルシード法、別途作製したシードを用いるエクスターナルシード法などの方法を適宜選択して用いることができる。
共重合体ラテックスには、必要に応じて公知の各種重合調整剤を用いることができる。これらはたとえばpH調整剤、キレート剤などであり、pH調整剤の好ましい例としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどがあげられ、キレート剤の好ましい例としてはエチレンジアミン四酢酸ナトリウムなどがあげられる。
共重合体ラテックスの、最終製品としての固形分濃度についても特に制限はなく、通常固形分濃度は30〜60質量%の範囲に希釈もしくは濃縮して調製される。
共重合体ラテックスには、その効果を損ねない限り、必要に応じて各種添加剤を添加すること、あるいは他のラテックスを混合して用いることが可能であり、例えば分散剤、消泡剤、老化防止剤、耐水化剤、殺菌剤、印刷適性剤、滑剤などを添加すること、アルカリ感応型ラテックス、有機顔料などを混合して用いることもできる。但し上記の様に各種添加剤及び/又は他のラテックスが混合された状態においても、含有される単量体としてのアクリル酸は、共重合体ラテックスの固形分に対して100〜5000ppmの範囲に入る事が必要である。
次に、前述の共重合体ラテックスを紙塗工用塗料のバインダーとして用いることにより紙塗工組成物が得られる。これは、通常行われている実施態様で製造することができる。すなわち、分散剤を溶解させた水中に、カオリンクレー、炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、サチンホワイト、タルク等の無機顔料、プラスチックピグメントやバインダーピグメントとして知られる有機顔料、澱粉、カゼイン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等の水溶性高分子、増粘剤、染料、消泡剤、防腐剤、耐水化剤、滑剤、印刷適性向上剤、保水剤等の各種添加剤とともに共重合体ラテックス組成物を添加して混合し、均一な分散液(紙塗工組成物)とする態様である。
ここで、本発明の共重合体ラテックスは、紙塗工組成物を構成する顔料について、その平均粒子径が小さいものを主として用いた場合に使用する事が好ましく、この時に特に顕著なピック強度、湿潤ピック強度及び初期耐水性の改良効果を発現することが可能となる。即ち、カオリンクレーと重質炭酸カルシウムを必須成分とし、カオリンクレーについては粒子径が2μm以下のものが80質量%以上であるもの、炭酸カルシウムについては粒子径が2μm以下のものが80質量%以上であるものを、顔料として用いる場合にその効果がより顕著となる。即ち、本発明以外の共重合体ラテックスとの効果の差異が拡大するのである。その理由は定かではないが、本発明の共重合体ラテックスは最適な単量体組成を有し、最適量のアクリル酸単量体を含有している為に、顔料との吸着効果が促進され、特に良好な接着強度が発現するものと推定している。更には親水性の強いアクリル酸単量体の適正量を含むが故に、フロークリン水に対する再分散性が高まり、特に優れたドクターブレード洗浄性を発現するものと推定している。
顔料と共重合体ラテックス組成物との使用割合は、組成物の使用目的によって適宜決定することが出来るが、顔料100質量部に対して共重合体ラテックス組成物3〜30質量部を用いる事が好ましい。そして、この紙塗工組成物は、各種ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、バーコーターなどを用いる通常の方法によって原紙に塗工することができるが、ブレードコーターを用いる事が好ましい。塗工形態も原紙に対し片面、又は表裏の両面に塗工されうるものであり、また片面当たりの塗工回数についても1回であるシングル塗工の他、2回の塗工工程を行ういわゆるダブル塗工に供する事もできる。この場合、共重合体ラテックス組成物はその下塗り用顔料組成物、及び上塗り用顔料組成物のいずれにも用いる事ができる。
次に、前述の紙塗工組成物を用いて、印刷用紙の表面に塗工処理して印刷用塗工紙を得ることができる。この印刷用塗工紙は、オフセット枚葉式印刷用紙、オフセット輪転式印刷用紙、グラビア式印刷用紙、凸版式印刷用紙、フレキソ印刷用紙等の各種印刷用紙及び板紙、ダンボール用紙、包装紙等に好適に用いられるが、特にオフセット枚葉式印刷用紙及びオフセット輪転式印刷用紙に用いられる事が望ましい。
更に、上述の共重合体ラテックス組成物は、紙のコーティング剤、カーペットバッキング剤、その他接着剤、各種塗料にも用いる事ができる。
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例の具体的態様に限定されるものではない。
[各物性の評価方法]
(1)ピック強度:
RI印刷試験機(明製作所製)を用いて、印刷インク(T&K TOKA社製、商品名SDスーパーデラックス50紅B、タック18)0.4ccを1回刷りし、ゴムロールに現れたピッキング状態を別の台紙に裏取りし、その状態を観察した。評価は10点評価法とし、ピッキング現象の少ないものほど高得点とした。
(2)湿潤ピック強度:
RI印刷試験機(明製作所製)を用いてスリーブロールで塗工紙表面に給水し、その直後に印刷インク(T&K TOKA社製SDスーパーデラックス50紅B;タック15)0.4cc1回刷りし、ゴムロールに現れたピッキング状態を別の台紙に裏取りし、その状態を観察した。評価は10点評価法とし、ピッキング現象の少ないものほど高得点とした。
(3)紙塗工組成物のドクターブレード洗浄性:
枚葉式ブレードコーター(エスエムテイ株式会社製;PM−9040MCA)を用いた。天然ゴム製のシートをこのコーターのステージ上にセットし、シート上に固形分換算で2gの紙塗工組成物を乗せ、No.10のワイヤーバーでシート上に一定量を塗布し、100℃で20sec乾燥させる。次に紙塗工組成物の塗布面上に、No.14のワイヤーバーを用いて2gの水を塗布し、直後にブレードで掻き取り操作を行う。ブレード圧力は0.2MPa、掻き取り速度は50m/分に固定した。ブレードで掻き取られた後の、シート上に残留した紙塗工組成物の量を目視で観察した。評価は10点評価法とし、残留量の少ないものほど高得点とした。
(4)塗工紙の初期耐水性
上記の枚葉式ブレードコーターを用い、同一原紙上にそれぞれの紙塗工組成物を一定量塗布し、(3)と同一の条件で乾燥させた。その直後に、30℃の水中に5秒間浸漬させておいた黒ラシャ紙をこの塗工紙に重ね合わせ、温度80℃、線圧19600N/mのスーパーカレンダーを通過させた後、黒ラシャ紙を剥離する。この黒ラシャ紙に転移した塗工層成分の転移状態を目視評価した。評価は10点評価法で行い、転移の少ないものほど高得点とした。
(5)紙塗工組成物の耐湿潤ベタツキ性:
紙塗工組成物を、No.12のワイヤーバーでマイラーフィルムに塗布して130℃で30秒乾燥した。このフィルムを30℃の水中に5秒間浸漬させた後、黒ラシャ紙と重ね合わせ、温度60℃、線圧19600N/mのスーパーカレンダーを通過させた後、黒ラシャ紙を剥離する。この黒ラシャ紙繊維のラテックスフィルムのベタツキによる転移状態を目視評価した。評価は10点評価法で行い、転移の少ないものほど高得点とした。
(6)共重合体ラテックス中に含有される単量体としてのアクリル酸濃度
固形分濃度が50質量%に調整された共重合体ラテックス1.5gを採取し、純水40gを添加して希釈する。次いでこの希釈された共重合体ラテックスに、硫酸バンド0.2gを添加・混合し、共重合体ラテックスの固形分を沈降させ、濾過して分離する。この操作で共重合体ラテックス中に含有されていた単量体としてのアクリル酸は、全て上澄み水溶液中に含まれる。液体クロマトグラフィー(島津製作所株式会社製LC−10AD型)を使用し、得られた上澄み水溶液中のアクリル酸単量体の濃度を求める。この値と、前述の希釈操作後の共重合体ラテックスの固形分濃度から、共重合体ラテックスの固形分に対しての単量体としてのアクリル酸濃度(ppm)を算出した。
(7)共重合体ラテックスの粒子径:
動的光散乱法により、光散乱光度計(シーエヌウッド社製、モデル6000)を用いて、初期角度45度−測定角度135度で測定した。
(8)共重合体ラテックスのゲル分率:
2倍に希釈したラテックスを130℃で30分間乾燥しラテックスフィルムを得る。このラテックスフィルムを0.5gとり秤量する。これをトルエン30mlと混合して3時間浸透したのち、目開き32μmの金属網にてろ過した場合の残留物の乾燥質量を秤量する。もとのラテックスフィルム質量に対する残留物の乾燥質量の割合をゲル分率(質量%)とする。
(9)系内に添加された単量体混合物の重合転化率:
反応の任意時間で重合槽(耐圧反応容器)から取り出したサンプルを熱風乾燥機中で130℃で1時間乾燥し、乾燥前重量と乾燥後重量から固形分濃度(%)を求める。次に、下記式(1)により重合転化率を求める。
重合転化率(%)=100×(固形分濃度−不揮発分濃度)/揮発分濃度・・(1)
(ここに、不揮発分濃度とは、サンプル採取時までに反応系内に添加した単量体混合物中の開始剤、乳化剤、カルボン酸などの揮発しない成分の質量割合(%)の合計値であり、揮発分濃度とは、サンプル採取時までに反応系内に添加した単量体混合物中のブタジエン、スチレンなどの揮発成分の質量割合(%)の合計値である。)
(10)各重合段における単量体混合物から得られる共重合体のSP値:
Robert F.Fedorsが規定する方法により、各々の単量体化合物構造と単量体組成から算出した。(POLYMER ENGINNEERING AND SCIENCE,1974,Vol.14,No.2,147−154page参照)
[実施例1]
○共重合体ラテックスの製造
耐圧反応容器に、重合初期の原料として水120質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5質量部、イタコン酸1.5質量部、及びα−メチルスチレンダイマー0.5質量部を含む重合初期原料を一括して仕込み、60℃にて十分に攪拌した。次いで、予め調整しておいたスチレン35質量部、ブタジエン34質量部、メタクリル酸メチル7質量部、アクリロニトリル18質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート3質量部、アクリル酸1.5質量部、α−メチルスチレンダイマー0.5質量部、及びt−ドデシルメルカプタン0.03質量部からなる単量体及び連鎖移動剤混合物を、耐圧容器内に連続的に添加開始し、7時間で全量を添加した。一方、上記単量体及び連鎖移動剤混合物の添加開始と同時に、水12質量部、ペルオキソ二硫酸ナトリウム0.5質量部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.5質量部、及び水酸化ナトリウム0.2質量部からなる水系混合物の添加を開始し、3時間30分かけて連続的に添加し、重合反応を開始させた。単量体及び連鎖移動剤混合物の添加終了後、耐圧容器内の温度を95℃に昇温させ、2時間重合反応を継続させて各単量体の重合転化率を高めた。全単量体の最終的な重合転化率は99.1質量%であった。
この共重合体ラテックスには、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムを添加してpHを6.0に調整し、スチームストリッピング法で未反応の単量体を除去した後、分散剤としてポリアクリル酸ナトリウムを共重合体ラテックスの固形分100質量部当たり1質量部添加し、水酸化ナトリウムを用いてpHを8.0に調整し、最後に固形分濃度を50質量%に調整した。この共重合体ラテックスを325メッシュのフィルターを通過させて濾過し、各物性評価に用いた。この共重合体ラテックスをAとする。共重合体ラテックスAの各物性の評価結果を表1に記載した。優れた耐湿潤ベタツキ性が得られた。
○紙塗工組成物の調製
次に、この共重合体ラテックスAと以下の構成材料とを使用し、均一に混合して紙塗工組成物を調製した。尚、以下の配合(質量部)は、水を除いて、全て固形分に換算した値である。
カオリンクレー 50質量部
重質炭酸カルシウム 45質量部
酸化チタン 5質量部
ポリアクリル酸ナトリウム 0.1質量部
水酸化ナトリウム 0.1質量部
ヒドロキシエチルエーテル化酸化澱粉 3質量部
共重合体ラテックスA 12質量部
水(塗工液の全固形分濃度が64質量%となるように添加)
なお、カオリンクレーとしては、商品名カオファイン(THIELE KAOLIN社製;粒子径2μm以下の割合=95質量%以上)、重質炭酸カルシウムとしては、商品名カービタル97(ECC社製;粒子径2μm以下の割合=97質量%以上)、酸化チタンとしては商品名KRONOS KA−10(チタン工業社製)、ポリアクリル酸ナトリウムとしては商品名アロンT−40(東亞合成社製)およびヒドロキシエチルエーテル化酸化澱粉としては商品名ペンフォードガム280(ペンフォード社製)をそれぞれ使用した。
次に、このようにして得られた紙塗工組成物を、塗工量が片面11g/m2になるように坪量74g/m2の塗工原紙にブレードコーターで塗工し、乾燥した後、ロール温度50℃、線圧150kg/cmでスーパーカレンダー処理を行い塗工紙を得た。得られた塗工紙を印刷試験に用いた。この塗工紙のピック強度、湿潤ピック強度を評価した。次いで前述の方法で、塗工紙の初期耐水性を評価した。また、前述の方法で紙塗工組成物のドクターブレード洗浄性を評価した。これらの評価結果を表1に記載した。優れたピック強度及び湿潤ピック強度、初期耐水性、ドクターブレード洗浄性を有していた。
[参考例2]
重合初期原料、重合温度、単量体組成及び連鎖移動剤組成を表1に記載した通りに変更した以外は、全て実施例1と同じ条件で共重合体ラテックスCを得た。いずれも優れた耐湿潤ベタツキ性を有していた。続いて実施例1と全く同様の条件で紙塗工組成物を調製し、塗工紙を得た。いずれも優れたピック強度及び湿潤ピック強度、初期耐水性、ドクターブレード洗浄性を有していた。評価結果を表1に記載した。
耐圧反応容器に重合初期の原料として水120質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5質量部、及びα−メチルスチレンダイマー0.5質量部を含む重合初期原料を一括して仕込み、65℃にて十分に攪拌した。次いで、第一重合段用として調製しておいたスチレン20.5質量部、ブタジエン25質量部、メタクリル酸メチル2質量部、アクリロニトリル8質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1質量部、アクリル酸1質量部、t−ドデシルメルカプタン0.03質量部、α−メチルスチレンダイマー1質量部から成る単量体混合物の内、15質量%をこの耐圧反応容器内に一括して仕込み、攪拌混合後、ペルオキソ二硫酸ナトリウム0.5質量部を耐圧容器内に添加して重合反応を開始させた。この時点から15分後、残りの第一重合段用の単量体混合物をこの耐圧容器内に添加開始し、3時間20分で連続的に添加を行った。一方、この残りの第一重合段用の単量体混合物の添加と同時に、水10質量部、水酸化ナトリウム0.2質量部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.5質量部、及びペルオキソ二硫酸ナトリウム0.6質量部からなる水系混合物の添加を開始し、3時間10分かけて連続的に添加し、重合反応を加速させた。
第一重合段用の単量体混合物の添加が終了した時点で、直ちに第二重合段用の単量体混合物の添加を開始した。この第二重合段用の単量体混合物は、スチレン16質量部、ブタジエン14質量部、メタクリル酸メチル1質量部、アクリロニトリル7質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1質量部、アクリル酸1質量部、t−ドデシルメルカプタン0.04質量部、α−メチルスチレンダイマー0.8質量部から成るものであり、2時間20分で連続的にこの耐圧容器内に添加し、重合反応を継続させた。
第二重合段の単量体混合物の添加開始時期から30分後に、水14質量部、イタコン酸2.5質量部からなる45℃のイタコン酸水溶液について、この耐圧容器への添加を開始し、1時間かけて全量を添加した。イタコン酸水溶液の添加開始時点での、容器内の単量体混合物の重合転化率は、74.2質量%であった。
第二重合段の単量体混合物の添加終了後、耐圧容器内の温度を95℃に昇温させ、2時間重合反応を継続させて各単量体の重合転化率を高めた。全単量体の最終的な重合転化率は98.8質量%であった。
この共重合体ラテックスには、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムを添加してpHを6.0に調整し、スチームストリッピング法で未反応の単量体を除去した後、分散剤としてポリアクリル酸ナトリウムを共重合体ラテックスの固形分100質量部当たり1質量部添加し、水酸化ナトリウムを用いてpHを8.0に調整し、最後に固形分濃度を50質量%に調整した。この共重合体ラテックスを325メッシュのフィルターを通過させて濾過し、各物性評価に用いた。この共重合体ラテックスをDとする。共重合体ラテックスDの各物性の評価結果を表2に記載した。優れた耐湿潤ベタツキ性が得られた。
○紙塗工組成物、塗工紙の調製
次に、共重合体ラテックスAに代えて上記で得られた共重合体ラテックスDを用いた以外は、実施例1と同様にして紙塗工組成物と塗工紙を得た。評価結果を表2に記した。優れたピック強度及び湿潤ピック強度、初期耐水性、ドクターブレード洗浄性を有していた。
[実施例5]
実施例1と同一の耐圧反応容器に、重合初期の原料として水110質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2質量部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.2質量部、及びα−メチルスチレンダイマー0.4質量部を含む重合初期原料を一括して仕込み、70℃にて十分に攪拌した。次いで、第一重合段用として調製しておいたスチレン20質量部、ブタジエン23質量部、メタクリル酸メチル6質量部、アクリロニトリル8質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート0.5質量部、t−ドデシルメルカプタン0.1質量部、α−メチルスチレンダイマー0.6質量部から成る単量体及び連鎖移動剤混合物の内、17質量%をこの耐圧反応容器内に一括して仕込み、攪拌混合後、濃度30質量%のペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液0.45質量部(固形分換算)を耐圧容器内に5分間かけて添加して重合反応を開始させた。ペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液の添加終了時点から10分後、残りの第一重合段用の単量体及び連鎖移動剤混合物をこの耐圧容器内に添加開始し、3時間10分で連続的に添加を行った。一方、この残りの第一重合段用の単量体及び連鎖移動剤混合物の添加開始時の10分後より、水15質量部、水酸化カリウム0.1質量部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.7質量部、及びペルオキソ二硫酸ナトリウム1質量部からなる水系混合物の添加を開始し、4時間かけて連続的に添加し、重合反応を加速させた。
第一重合段用の単量体及び連鎖移動剤混合物の添加が終了した時点から、1時間後に第二重合段用の単量体及び連鎖移動剤混合物の添加を開始した。この系においては、第一重合段と第二重合段との間に、系内に単量体及び連鎖移動剤を添加しないインターバル時間を設け、第一重合段の重合転化率を高めた。この第二重合段用の単量体及び連鎖移動剤混合物は、スチレン13.5質量部、ブタジエン13質量部、メタクリル酸メチル5質量部、アクリロニトリル7質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1質量部、t−ドデシルメルカプタン0.1質量部、α−メチルスチレンダイマー0.8質量部、アクリル酸0.5重量部から成るものであり、2時間で連続的にこの耐圧容器内に添加し、重合反応を継続させた。
一方、第二重合段の単量体及び連鎖移動剤混合物の添加開始時点と同時に、イタコン酸2.5質量部を含む固形分濃度15質量%の、50℃のイタコン酸水溶液について、この耐圧容器への添加を開始し、60分かけて全量を添加した。添加開始時点での容器内の単量体混合物の重合転化率は、82.7質量%であった。
第二重合段の単量体混合物の添加終了後、耐圧容器内の温度を、60分かけて95℃にまで昇温させ、更に30分間重合反応を継続させて各単量体の重合転化率を高めた。全単量体の最終的な重合転化率は98.8質量%であった。この共重合体ラテックスには、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムを添加してpHを6.0以上に調整し、スチームストリッピング法で未反応の単量体を除去した後、分散剤としてポリアクリル酸ナトリウムを共重合体ラテックスの固形分100質量部当たり0.5質量部添加し、水酸化ナトリウムを用いてpHを8.0に調整し、前述の濾過装置及び条件でフィルターを通過させて濾過し、各物性評価に用いた。この共重合体ラテックスをEとする。共重合体ラテックスEの各物性の評価結果を表2に記載した。優れた耐湿潤ベタツキ性が得られた。
次に、共重合体ラテックスAに代えて上記で得られた共重合体ラテックスEを用いた事以外は、実施例1と同様にして紙塗工組成物と塗工紙を得た。結果を表2に記載した。優れたピック強度及び湿潤ピック強度、初期耐水性及びドクターブレード洗浄性を有していた。
[実施例6]
重合初期原料、重合温度、各重合段の単量体組成及び連鎖移動剤組成、後転化する二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸量について、表2に記載した通りに変更した事以外は、全て実施例5と同一の条件で共重合体ラテックスFを製造した。優れた耐湿潤ベタツキ性が得られた。次いで共重合体ラテックスAに代えて上記で得られた共重合体ラテックスFを用いた事以外は、実施例1と同様にして紙塗工組成物と塗工紙を得た。結果を表2に記載した。優れたピック強度及び湿潤ピック強度、初期耐水性及びドクターブレード洗浄性を有していた。
[比較例1]
重合初期原料、重合温度、単量体組成及び連鎖移動剤組成を表1に記載した通りに変更した事以外は、全て実施例1と同じ条件で共重合体ラテックスGを得た。耐湿潤ベタツキ性が劣る結果となった。続いて共重合体ラテックスAに代えて上記で得られた共重合体ラテックスGを用いた事以外は、実施例1と全く同様の条件で紙塗工組成物を調製し、塗工紙を得た。ピック強度及び湿潤ピック強度、初期耐水性、ドクターブレード洗浄性はいずれも劣る結果となった。評価結果を表1に記載した。
重合初期原料、各重合段の単量体組成及び連鎖移動剤組成、後添加する二塩基性エチレン系不飽和カルボン酸量について、表2に記載した通りに変更した事以外は、全て実施例5と同一の条件で共重合体ラテックスI、Jを製造した。いずれも耐湿潤ベタツキ性は劣る結果となった。次いで共重合体ラテックスAに代えて上記で得られた共重合体ラテックスI又はJを用いた事以外は、実施例1と同様にして紙塗工組成物と塗工紙を得た。結果を表2に記載した。ピック強度及び湿潤ピック強度、初期耐水性、ドクターブレード洗浄性はいずれも劣る結果となった。評価結果を表2に記載した。