JP4845927B2 - ガラス光学素子 - Google Patents

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Description

本発明は、所望の光学素子形状にもとづいて精密に形状加工された成形型により、加熱軟化したガラス素材を高精度にプレス成形し、被成形面に対する研磨等の後加工を必要としない、ガラス光学素子に関する。
近年、カメラ、ピックアップ等の光学機器に用いられる光学ガラスレンズ等の光学素子を製造するにあたり、加熱軟化したガラス素材を、金属やセラミック等からなる型によりプレス成形する製造法が多く提唱されている。この場合、ガラス素材(予備成形したプリフォーム)の形状は球形、ロッド状、扁平球形等など種々の形状がある。これら形状のガラス素子を用いて成形する場合、成形後の光学素子の形状、すなわち成形型の形状とガラス素子の相互関係によっては(例えば、型成形面の近軸曲率半径よりもガラス素材の曲率半径が大きい場合)、図5に示すように、下型2とガラス素材Wとの間に空間Sができた状態でプレス成形が行われる場合がある。この場合、空間内に存在する気体が排出されないまま成形が行われると、気体の残留した部分では成形されたガラス表面に凹みが生じ、ガストラップ痕となる。その結果、成形された光学素子の光学性能、外観品質が影響を受ける。
上記問題を解決するための方法として、次の従来技術を挙げることができる。
特開平6−9228号(以下、従来技術1という)には、加熱しながら加圧する途中において、圧力を少なくとも一回減圧するか零にして総変形量の略半分を加圧成形した後、冷却中に残りの加圧を行う成形方法が開示されている。
特開平8−325023号(以下、従来技術2という)には、平板状のガラス素材をプレス成形するにあたり、成形面の外周最頂部に溝又は突起を設け、成形面とガラス素材の間に存在する気体を外に逃がす方法が開示されている。
特開平11−236226号(以下、従来技術3という)には、加圧工程において成形室を真空にする方法が開示されている。
特開平8−245224号(以下、従来技術4という)には、加熱軟化したガラス素材を成形する直前に、ガラス素材周囲の空間を減圧し、押圧成形する方法が開示されている。
特開平6−9228号公報 特開平8−325023号公報 特開平11−236226号公報 特開平8−245224号公報
しかし、上記従来技術には、以下のような問題点があった。
従来技術1の方法では、加熱しながら圧力を減圧又は開放することで、閉じこめられた気体を常圧にもどしている。しかし、この方法では、空間の形状や体積によっては気体が空間に残留しやすく、すべての気体を排出するには、圧力の増減を繰り返す必要がある。また、プレス温度での離型は、ガラスの融着や成形された光学素子の外観不良を起こすことがある。
従来技術2の方法では、成形面の外周最頂部に溝又は突起を設け、成形面とガラス素材の間に存在する気体を外に逃がしている。しかし、この方法では、プレスした光学素子に前記溝や突起の形状が転写されるので、光学素子の取り付け部分などが異形になるか、又は後加工により除去する工程が必要となる。
従来技術3の方法では、成形室を真空にした後に加熱を行い、空間内の空気を排出している。しかし、この方法は、成形室が真空となるため、金型及びプリフォームの加熱に成形室内の気体を媒体とした熱伝導が利用できない。このため、加熱効率が不充分であるとともに、装置の均熱化が困難であり温度コントロールが不安定となる。
従来技術4の方法では、ガラス素材を軟化点以上の温度に加熱した後に搬送部材によって上下型間に搬送し、ガラス素材の周囲を減圧した後に押圧成形している。しかし、この方法では、ガラス素材をプレス成形に適した温度にしてから、上下型間に搬送しているので、ガラス粘度が低いためガラス素材が変形し、搬送後に下型との間に気体を密閉してしまうことが避けられない。したがって、その後減圧しても、気体を除去することができない。
このように、上記した従来技術の方法では、型とプリフォームとの間における気体が残留するような空間から気体を完全に排除して成形することはできなかった。
ところで、光情報記録媒体の記録及び/又は再生に用いられる光ピックアップにおいては、記録密度の増大とともに、分解能の高い対物レンズが必要となる。このため、これらの装置においては、光源波長を短波長化させるとともに、開口数NAの大きな対物レンズが求められるようになっている。また、光通信用のカップリングレンズにおいても、カップリング効率をより高くするために、高NAのレンズが求められるようになっている。
しかしながら、高NAのレンズは、その周縁部において面傾き角(レンズ面の法線と光軸とのなす角)が、大きくなる傾向がある。例えば、面傾き角が40度を超え、50度〜63度程度になることもある。また、高NAレンズとして有用なレンズは、近軸曲率半径も小さくなる傾向がある。さらに、高NAレンズは、製造上の公差を確保するため、あるいは、波面収差を小さくする目的で中心肉厚が大きくなることがあり、その結果、ガラス素材の体積が大きくなる。
例えば、プリフォームが球形状の場合、レンズの近軸曲率半径(成形型の成形面の近軸曲率半径)RLと、ガラス素材の曲率半径RMとの関係は、RM/RLが1より大きくなり、1.0<RM/RL≦1.6、特に、1.1≦RM/RL≦1.6程度になることもある。すなわち、ガラス素材がレンズ外径を超えない範囲で、ガラス素材の体積が大きくなる。このような形状のレンズを成形する場合、成形面とガラス素材の間に空間が生じることは避けられない。
しかしながら、上記のようにRM/RLが大きい場合においても、光学性能、外観品質の高いレンズを成形することが要求されている。
本発明は、上記事情にかんがみなされたものであり、型とガラス素材(プリフォーム)との間に気体が残留するような空間がある状態でプレス成形する場合であっても、気体の残留痕(以下、ガストラップ痕という)のない外観性能が良好なガラス光学素子の提供を目的とする。
本発明のガラス光学素子は、次のような構成としてある。
すなわち、開口数NAが0.7以上であり、使用波長380〜450nmにおいて総合波面収差WFEが0.06λrms以下の光情報記録媒体の記録または再生用対物レンズであって、第1面又は第2面の近軸曲率半径がRLであるような曲面を有し、当該対物レンズの体積をVとするとき、(4/3)π(RM’)=VとなるようなRM’が、1.0<RM’/RL<1.6の関係を満たし、かつ、光軸部分のレンズ厚をd、焦点距離をfとしたとき、1<d/f<3の関係となり、表面近傍に存在するガストラップ痕が直径200μm以下である構成としてある。
本発明のガラス光学素子は、性能を阻害するガストラップ痕がないので、高精度な光情報記録媒体の記録または再生用対物レンズとして用いることができる。
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明のガラス光学素子を製造する装置の一例を示す概略断面図である。
図1に示すガラス光学素子の製造装置は、成形型を構成する上型1及び下型2と、これら上下型1,2を保持するスリーブ3を有している。上型1とスリーブ3の上部は上型加熱部材6内に相対移動可能に収納されている。下型2とスリーブの下部は下型加熱部材7内において固定されている。スリーブ3には、スリーブ3の内部における上下型1,2の間及びガラス素材Wと下型2の間に形成された空間Sからのガスをスリーブ3の外部に抜き出すための細孔3aが設けてある。
上型1と上型支持部材8の下面との間には、ばね部材としての圧縮ばね4が配設してあり、さらに、上型1及びスリーブ3の上端面と圧縮ばね4との間には、キャップ部材5が介設してある。
上型1と上型支持部材8の下面との間には、非押圧時に圧縮ばね4が上型1を押圧しないようにするための隙間が設けられている。
また、キャップ部材5は、その下面が上型1及びスリーブ3の上端面と当接可能な幅を有する平面状に加工されており、上端には、上型支持部材8の下面8aと点接触が可能な突起5aが設けてある。
上型加熱部材6は上型支持部材8に固定されており、上型支持部材8は上型軸10に固定されている。すなわち、上型支持部材8は、上型加熱部材6を介して上型1とスリーブ3を支持している。一方、下型加熱部材7は下型支持部材9に固定されており、下型支持部材9は可動する下型軸11を介して図示しないモータに連結されていて、モータにより鉛直方向に上下動させられる。上型加熱部材6と下型加熱部材7は、上型1、下型2を加熱するときは、図1のように上型1、下型2を覆うような位置に配置される。
下型軸11により下型2が押し上げられると、上型1が上型加熱部材6内を上方に移動する。このとき、キャップ部材5が上型支持部材部材8の下面8aに当たるまでは、圧縮ばね4が押されて縮むことにより弱い荷重を、上型1を介してガラス素材Wに作用させる。
このときの圧縮ばね4による荷重は、プレス荷重より小さな荷重とする。
なお、プレス荷重は、ガラス素材を所望の光学素子の形状に変形させるために必要な荷重であり、使用する硝種や、光学素子の形状により適宜選択する。上記圧縮ばねによる荷重は、このプレス荷重より小さいものであり、ガラス素材がプレスに適した温度に加熱され、あるいは均熱化される前の比較的高粘度状態であっても、型や離型膜を損傷しない程度の荷重である。具体的には、プレス荷重の1/1000〜1/50程度であることが好ましい。圧縮ばね4のばね定数は、ばねの収縮量を位置センサで読み取って制御しやすい距離となるような値とするとよい。
さらに、下型2が上昇し、上型1が上型加熱部材6内を上方に移動するとキャップ部材5の突起5aが上型支持部材8の下面8aと当接する。さらに、下型2が上昇すると、キャップ部材5が、上型1の上端面を押圧し、プレス荷重が上下型に伝達される。このようにして下型2とスリーブ3が上昇して、キャップ部材5の下面がスリーブ3の上端面に当接したとき、その当接した位置を上型の押し切り位置として、プレスを完了させ、肉厚を制御することができる。
なお、キャップ部材上端の突起5aは、断面が山形又は円弧状に形成してあり、上型支持部材8の下面8aと当接したときに、プレス荷重の印加方向が常に鉛直方向となるように作用させ、荷重の印加方向が傾斜することによって生じる成形レンズの偏心精度の低下を防止する。
上型1、下型2、スリーブ3には、例えば炭化ケイ素、窒化ケイ素などのセラミック、又は超硬合金などが用いられる。成形面は、成形しようとする光学素子の形状にもとづいて精密加工される。
上型1及び下型2によって光学素子に成形されるガラス素材としてのプリフォームWは、本実施形態では球形状となっているが、楕円形、矩形等他の形状であってもかまわない。また、ガラス素材としては、プリフォームのほかガラスコブ等であってもよい。
上型加熱部材6、下型加熱部材7の周りには上下型1,2を加熱するための高周波誘導コイル20を配設してある。ここで、上型加熱部材6、下型加熱部材7は、高周波により誘導加熱されやすい素材を用いており、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、タングステンなどを用いる。成形型の素材としてセラミックを用いる場合には、上型加熱部材6、下型加熱部材7として、近似した熱膨張率を有するタングステン合金などを用いることが好ましい。
また、上型1、下型2の成形面には離型膜を有することが好ましい。離型膜としては、ダイヤモンド状炭素膜(以下、DLC)、水素化ダイヤモンド状炭素膜(以下、DLC:H)、テトラヘドラルアモルファス炭素膜(以下、ta−C)水素化テトラヘドラルアモルファス炭素膜(以下、ta−C:H)、アモルファス炭素膜(以下、a−C)、水素化アモルファス炭素膜(以下、a−C:H)、窒素を含有するカーボン膜等の炭素系膜、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)、タングステン(W)、及びタンタル(Ta)から選ばれる少なくとも一つの金属を含む合金膜が適用できる。特に、炭素を主成分として含有する離型膜は、優れた離型性を備えているので好ましい。
また、離型膜は、DC−プラズマCVD法、RF−プラズマCVD法、マイクロ波プラズマCVD法、ECR−プラズマCVD法、光CVD法、レーザーCVD法等のプラズマCVD法、イオンプレーティング法などのイオン化蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、蒸着法やFCA(Filtered Cathodic Arc)法等によっての成膜することができる
成形型の上型加熱部材6には、上型測温用熱電対12が、下型加熱部材7には下型測温用熱電対13が差し込まれており、これら熱電対の測定結果にもとづいて上下型の温度バランスをモニターし、高周波誘導コイル20による加熱温度を制御する。
また、上型支持部材8と上型軸10及び下型支持部材9と下型軸11には、後述するガス供給手段102と連接するガス供給路15が設けてあり、また、成形室100の真空チャンバ101の下部には後述する真空ポンプ104と連接する排気路16が設けてある。
上記成形型は図1に示すように石英管により構成された真空チャンバ101からなる成形室内100にセットされている。真空チャンバ101は上下に開閉可能で、図示しないロボットなどにより、上方に持ち上げられる。さらに、図示しない搬送アームなどにより、下型2上にガラス素材Wを供給できるようになっている。
成形室100には、窒素供給手段102からバルブ103及びガス供給路15を介して窒素ガスを供給できるようになっている。窒素ガス供給路15は上型軸10から上型加熱部材6上方を通して供給する通路と、下型軸11から下型加熱部材7の下面を通して供給する通路からなっている。ガス供給路15には図示しない流量調節器が設けられている。
また、成形室100を真空にするための真空ポンプ104と真空バルブ105が設けられている。成形室100には室内からガスを排気するための排気路16が設けてある。この排気路16は、バルブ105を介して真空ポンプ104に連接されている。
成形室100から排気を行うときは、窒素ガス供給用のバルブ103とリークバルブ106を閉め、排気用のバルブ105を開け、真空ポンプ104を作動させることによって行う。また、成形室100内を窒素ガス雰囲気にするときは排気用バルブ105を閉じ窒素ガス供給用バルブ103を開き、かつリークバルブ106を開くことによって行う。
以下、上記構成の成形装置でガラス光学素子を成形する工程について、その一例を説明する。
まず、真空チャンバ101を上方に移動させ、下型2を高周波誘導コイル20より下方に下げた状態で上型1及びスリーブ3を持ち上げる。下型2の成形面上にガラス素材Wを載置し上型1及びスリーブ3をセットする。このとき、下型2の成形面の近軸曲率半径(レンズの近軸曲率半径)RLと、ガラス素材の曲率半径がRM1.0<RM/RLとなっているので、下型2の成形面とガラス素材Wの間に空間Sが形成される。
次に、真空チャンバ101を下げ成形室を密閉空間にする。下型加熱部材7を高周波誘導コイル20に加熱される位置まで上昇させる。このとき、圧縮ばね4の上端は上型支持部材8の下面8aに接触しない位置となっている。この状態で、バルブ操作により成形室100に対する真空引き・窒素導入を3回程度繰り返した後、成形室内が常圧又は陽圧となるようにする。このようにして成形室100内を窒素雰囲気としたところで高周波誘導コイル20に通電し上下型加熱部材6、7を加熱することで上下型1,2、スリーブ3、及び上下型間に配置されたガラス素材Wを加熱する(図2のI)。
次に、上下型測温用熱電対12、13で上型1と下型2の温度をモニターし、所定温度となったときに、調整器(図示せず)によって高周波誘導コイル20に対する通電を制御し、温度を一定に保ち始める。
また、温度が一定になるまでの任意の間に、バルブ105を開いて成形室100内からガスを吸引する。このときのガラス素材の温度は、プレス成形温度未満、好ましくはガラス転移点以上、プレス成形温度未満とする。
なお、プレス成形温度とは、前述のとおりガラス素材を所望の光学素子の形状に変形させるために適切な温度をいい、使用する硝種や、所望の形状によって決定する。上記ガス吸引はガラス素材がそれより低い温度にあるときに行う。
具体的には、好ましいプレス成形温度とは、10〜108.5dPa・sの粘度に相当する温度範囲内の所定温度であり、ガスを吸引するときの好ましい温度は、ガラス粘度で1011dPa・s相当温度以上、108.5dPa・s相当温度未満である。
成形室100内の真空度は、低ければ低いほど好ましいが、0.04MPa以下程度であれば本成形例の効果は十分に得られる。好ましい真空度は10kPa、
より好ましくは1kPa程度以下である。この真空引きによって、空間S内のガスが排出される。
その後、下型2を上方に移動させ、キャップ部材5と上型加熱部材6の間で圧縮ばね4を圧縮させる。このときには、空間Sが、上型1の成形面とガラス素材Wの表面によって密閉される程度の荷重がかかるくらいの圧縮量とする。具体的には、ガラス素材Wに10〜500gf程度の荷重、好ましくは、100〜300gfの荷重が作用する程度の圧縮量とする。この状態を所定時間(例えば、10秒程度)維持した後、成形室100内に再度窒素ガスを供給することにより、再度、成形室100内の雰囲気を常圧又は陽圧とする。このようにしても、下型2とガラス素材Wが密着し、空間Sが密閉されているので、空間Sにはガスが入り込まない。
なお、下型2の荷重及び/又は移動量を微調整することによっても、上型に対し、上型1の成形面とガラス素材Wの表面によって密閉される程度の荷重をかけることも可能である。この場合には、圧縮ばね4を省略することができ、また、キャップ部材5を、上型1の上端面と上型支持部材8の下面8aの間に、圧縮ばね4を介することなく配置する。
このあと、上型1、下型2及びスリーブ3は、さらに余熱によって加熱されつつ均熱化され、ガラス素材Wがプレス成形に適した温度域となるまで昇温される。
成形時には、上下型の成形面と、ガラス素材の温度が、108.5〜107.5dPa・sの粘度に相当する温度となっていることが好ましい。このとき、成形室内には、常圧又は陽圧のガスが存在するので、これが媒体となって熱伝導が効率よく行われ、また、熱電対を用いた温度コントロールも安定して行うことができる(以上、図2のII)。
このあと、下型2をさらに上昇させ、キャップ部材5の突起5aを上型支持部材8の下面8aに当接させてプレスを開始する。
プレス時の下型上昇速度は、0.001〜1mm/secが好ましく、より好ましくは、0.01〜0.5mm/secである。プレス荷重は50〜300kgf/cmが適切であり、100〜200kgf/cmがより好ましい。キャップ部材5の下面が上型1の上端面を押圧しスリーブ3の上端面と当接した(押し切った)ところで(例えば20秒間程度)維持する(図2のIII)。
その後、冷却を行う。冷却は、30〜200℃/min、好ましくは50〜100℃/minの速度で徐冷し、転移点温度以下の500℃で荷重を解放し、その後、急冷を開始する。急冷時の冷却速度は、100〜300℃/min程度であって、上記徐冷よりも速い速度で冷却する。なお、冷却(徐冷、急冷)の速度は、導入する窒素ガスの流量を図示しない流量調節器によって制御することで行う(図2のIV)。
冷却の際、成形された光学素子は熱収縮するが、このときにスリーブや上下型と熱膨張係数が異なる。これを考慮し、冷却中に上下型の成形面が離れることの無いように、ガラスの熱収縮に上型が追随できるように、上型1のフランジとスリーブ3の段部の間が、押し切り時に接触しないよう、余裕を設けてある。このようにすることで、光学素子のヒケを防止し、良好な面精度を達成する。
所定温度、例えば100℃まで降温した時点で、下型2を高周波誘導コイル20より下方に下げ、窒素導入を停止し真空チャンバ101を上方に移動させ、上型1及びスリーブ3を持ち上げプレスされたレンズを取り出す。その後、新たなガラス素材Wを供給し、上型1とスリーブ3をセットしてプレスサイクルを繰り返していく。
なお、上記成形例では、下型2を移動させることでプレスを行なったが、上型1を移動させてもよいし、上下型1,2の両方を移動させてもよい。また、成形室100に導入するガスは、非酸化性のガスであり、窒素ガスのほか、ヘリウムガス、又は窒素ガスと水素ガスの混合物(例えば窒素95%以上)などでもよい。
また、上記の代替手段として、成形型外でガラス素材を転移点以上、好ましくは1011dPa・s相当温度以上となる温度に加熱し、その後成形型内に供給してもよい。
上記成形例の場合、成形面とガラス素材Wの間に形成される空間Sは下型側であったが、上型側でもよく、両方にあってもよい。成形しようとするレンズ形状とガラス素材の形状の関係で、どちらか一方に空間が生じる場合には、下型側になるように配置することが好ましい。
なお、上型1が重すぎると、ガラス素材の供給後に上型1をセットし、上型をガラス素材上に載せると、上型1の自重で空間Sが密閉されてしまうため、成形室100内を減圧しても、空間Sからガスが排出されないことになる。そこで、上型1の自重によってガラス素材にかかる荷重は、成形室100内を真空にしたとき空間内外のガスの圧力差により上型1がわずかに持ち上がる程度としてある。また、上型側に空間Sが形成されるように配置し、上型1がガラス素材に非接触の状態で減圧してもよい。
さらに、前述のとおり、成形室100内を減圧する際の真空度は、低ければ低いほど好ましいが、0.04MPa以下程度であれば上記成形例の効果は十分に得られる。この場合、プレス成形開始時に、下型の上昇速度を小さくすることによって、空間Sにトラップされたガスを排出することができる。例えば、減圧時に0.04MPaの真空度であって、プレス時の下型の上昇速度を0.5mm/sec以下としたとき、成形された光学素子にガストラップは見られなかった。
上記成形例で適用されるガラス素材の大きさに制限はない。しかし、重量精度の高い球プリフォームを用いることが好適であり、さらに、溶融ガラスの滴下による熱間成形プリフォームが最も適している。また、このようなプリフォームの体積は、5〜70mmが好ましい。
上記成形例は、光学素子のいずれか一方の面の近軸曲率半径RLと、ガラス素材の曲率半径RMが、
1.0<RM/RL の関係であるとき、
好ましくは、1.0 < RM/RL ≦ 1.6の関係、
より好ましくは、1.2 ≦ RM/RL ≦ 1.6の関係
であるときに、効果が顕著である。
本発明の光学素子は、いずれか一方の面が非球面形状であるときに好適に実施することができるが、これに限定されるものではなく、球面であってもよい。このときは、上記RLは、球面の曲率半径とする。
また、上記成形例は、ガラス素材が、球状のときに好適に実施することができるが、扁平球(両凸形状)にも適用することができる。この場合には、光学素子の近軸部分に対応する偏平球の曲率半径をRMとする。
上記成形例によれば、ガラス素材と成形面の間に空間が生じる条件を避けるために、ガラス素材に特殊な形状加工を施す必要がなく、溶融状態から滴下又は流下したガラスを熱間で成形した、球状又は扁平球状の公知のガラス素材を用いることができる。したがって、生産効率が高く、コスト上も有利である。
レンズの大きさは、外径が5mm以下のものが好ましい。
また、レンズが光軸部分のレンズ厚をd、焦点距離をfとしたとき、
1<d/f<3
の関係となるような形状であるとき、上記成形例の効果が顕著である。このようなガラス素材体積とレンズ形状の相関が、ガストラップを生じやすいものになるからである。
ガストラップ痕は、十分に小さければ光学素子の性能に致命的な影響を与えるものではないが、その直径が200μm、好ましくは100μmを超えないことが望ましい。上記成形例によれば、型とガラス素材の間に閉じた空隙ができるような、型とガラス素材の関係であっても、成形された光学素子の表面近傍に、直径200μm以上のガストラップ痕が存在しない光学素子の成形が可能である。
特に、第1面又は第2面の近軸曲率半径がRLであるような曲面を有する光学素子であって、光学素子の体積をVとするとき、
(4/3)π(RM’)3 = V
の関係を満たすRM’が、1.0<RM’/RL<1.6の関係であるときには、前記光学素子表面近傍に存在するガストラップ痕が直径200μm以下のガラス光学素子を製造することが可能である。
ここで、光学素子表面近傍のガストラップ痕とは、素子表面下に気泡が見られるもの、及び表面上に凹みとして見られるものをも含む
さらに、上記成形例によって成形する光学素子に限定は無いが、高NAの光情報記録媒体の記録/再生用対物レンズ、又は光通信用のレンズを成形するときに上記成形例を適用すると効果が高い。これは、上記高NAレンズにおいては、面傾き角の大きい、もしくは、第1面の曲率半径が小さい形状が、性能上有利であり、またレンズ厚との関係で、球プリフォームの曲率半径が、レンズの近軸曲率半径(すなわち上型又は下型の成形面の近軸曲率半径)よりも大きくなり、ガストラップの問題が生じやすいからである。
また、光学素子としては、成形後に芯取り工程を必要としない芯取りレスレンズが好ましい。このようにすると、レンズ体積と等しい体積のプリフォームを使用でき、また、工程を増やさなくてすむからである。
特に、本発明のガラス光学素子は、いずれかの光学機能面(好ましくは第1面)の開口数NAが0.7以上とするが、さらには、0.8以上であるときに、上記成形例の効果が顕著である。
また、本発明のガラス光学素子は、少なくとも一つの非球面を有することが好ましく、両非球面レンズに最も好適である。
この非球面レンズは、光ピックアップ装置に用いることができる。具体的には、対物レンズとして用いる単レンズであって、開口数NAが0.7以上、より好ましくは0.8以上であり、使用波長380〜450nmにおいて、波面収差総合値WFEが0.06λrms以下、より好ましくは0.04λrmsであることができる。このような対物レンズは、高密度の光情報記録媒体の記録/再生用のピックアップ装置に用いることができる。
このようなピックアップ装置としては、例えば、光源と、光源からの光束を光情報記録媒体に集光する対物レンズとを有する光ピックアップ装置において、前記光源の波長が700nm以下、より好ましくは500nm以下であるような装置がある。
[第1成形例]
図1に示すガラス光学素子製造装置を用いた第1成形例について説明する。
図2には第1成形例におけるプレススケジュールを示す。
本成形例において、ガラス素材Wは球体であり、nd=1.69350 νd=53.20 屈伏点温度560℃ 転移点温度520℃の光学ガラス素材を、φ2.7mmに研磨加工して製造したものである。
このガラス素材Wを、成形面の近軸曲率半径が1.1mmである下型2の成形面上に室温で載せ、次に上型1、スリーブ3をセットした。下型2とガラス素材Wとの間には空間Sが形成され、中心の最大高さは75μmであった。なお、図1では、わかりやすくするため空間の大きさが強調して描写されている。
下型2とガラス素材の接触している部分の径はφ2.2mmである。プレス後のレンズは外径φ3.1mm、肉厚2.0mmである。
以下、上記構成の成形装置でプレスする工程について説明する。
成形室100内の成形型にガラス素材Wをセットした後、バルブ103,105,106を操作して成形室100内に対し真空引き・窒素導入を3回繰り返した。その後、成形室100内を窒素雰囲気としたところで高周波誘導コイル20に通電し上下型加熱部材6,7を加熱することで上下型1,2、スリーブ3、ガラス素材Wを加熱した。上下型測温用熱電対12,13で温度をモニターし(実際にはガラス素材温度は、実測している型温度より、若干温度上昇に遅れが出る(図2参照))、1011da・s相当の530℃になったところで成形室100内の真空度が50Pa程度以下になるまで真空引きをした。
その後、下型2を上方に移動させ、圧縮ばね4を1mm縮めることによりガラス素材Wに250gf程度の荷重を作用させた。10秒程度その状態を維持した後、成形室100内に窒素ガスを導入して陽圧にした。次いで、108.0dPa・s相当の温度590℃になったところで、この温度を一定に保ち始めさせた。型温度を一定に保つ均熱化を30秒経た後、下型2を0.03mm/secの速度で上昇させプレスを開始した。プレス荷重は150kgfとした。押し切ったところで20秒間維持した。その後、90℃/minの徐冷速度で冷却し、転移点温度以下の500℃で荷重を解放し、急冷を開始した。冷却後、下型2を高周波誘導コイル20より下方に下げ、窒素導入を停止し真空チャンバ101を上方に移動させ、上型1及びスリーブ3取り除きプレスされた光学素子(レンズ)を取り出した。
以上のようなプロセスにより製造された光学素子(レンズ)の外観を観察したところ、ガストラップ痕は全く見られず完全に型形状を転写していた。また、レンズの性能として収差を測定したところ405nmの測定波長でトータル波面収差0.02〜0.03λrmsを満足していた。
以上のように、プレス温度付近の温度で成形室100内をいったん真空にすることにより、ガラス素材Wと下型2との間に形成される空間Sにトラップされていたガスが排出される。その後、圧縮ばね4による弱い荷重でガラス素材Wを押圧することによってガラス素材Wと下型2との接触部分をシールする。したがって、この状態で再び窒素ガスを導入しても空間Sに窒素ガスが進入することはない。なお、真空引き後窒素ガスを導入した状態で均熱化させることでガラス素材Wの全体がプレス可能な粘度に達し、高いプレス荷重(ここでは150kgf)で押し切プレスすることができる。
比較例
比較のため、真空引き中における圧縮ばね4による弱い荷重を、プレス時と同様の荷重にしたところ、ガラス素材Wは粉々に破壊され、下型2のSiCからなる型材も破損した。
また、従来技術にあるように、ガラス素材Wを均熱化して成形温度に達した後に成形室100内を真空にし、その後プレスした結果、得られた光学素子には、ガストラップ痕があった。これは、均熱化によりガラス素材の粘度が下がり、弱い荷重でも変形する粘度となっているため、ガラス素材Wが下型成形面に密着し、成形室100内を真空にしても、空間Sからガスが排出されなかったためである。
さらに、圧縮ばねによる弱い荷重を作用させないで上記成形プロセスを実行したところ、ガストラップ痕がレンズに発生した。これは、真空引き後における、窒素ガスの再導入時に、空間Sに窒素ガスが入り込んだためである。
また、さらに、成形室を真空にしたまま加熱してプレスしたところ、温度制御している熱電対が成形温度になった後、均熱時間を設けプレスを行ったが、ガラス素材の加熱が十分に行われずガラス素材が割れ、型が破損した。
第1成形例において、プレス前の真空開始のタイミングは型温度がガラス素材の転移点温度以下でもよい。しかしながら、成形サイクルタイム短縮の為には、ガラス素材が成形温度に近づいてから真空引きを行った方が有利である。真空引きする成形室内の真空度はできるだけ低いほうが好ましいが0.04MPa以下程度でもよい。これはプレスするときのガラス素材の粘度が5×10dPa・s相当の温度以下で、下型の上昇速度(プレス速度)が0.5mm/sec以下であれば、多少空間Sにガスが残留していてもトラップされているガスが排出されるからである。
また、真空引き中の弱い荷重は、ガラス素材と型の接触径がφ2.2mmの場合、50gf以上であることが好ましく、これ以下ではガストラップ痕が発生することがある。真空引き後窒素ガスを導入してからの均熱時間は10秒以上あればよいが、好ましくは30秒以上である。
[第2成形例]
図3に示すガラス光学素子の製造装置を用いた第2成形例について説明する。
図3は、装置の型周辺部の縦断面図である。図4は本第2成形例におけるプレススケジュールを示す。
ガラス素材の硝種、レンズ及び型形状は第1成形例と同じ構成とした。
本成形例においては、成形室100は、プレス室チャンバ101aと、加熱炉チャンバ101b及び冷却炉チャンバ101cを有しており、成形型は、成形室内を図3において左から右へ、図示しないレールあるいは回転テーブルなどによって移動する構成となっている。成形室100の各チャンバ101a〜101cは、真空ポンプ104によりいったん真空引きされ、バルブ105a,105b,105cを閉じた後窒素ガス導入バルブ103a,103b,103cを開いて窒素ガスに置換することができる構成となっている。加熱炉チャンバ101b、プレス室チャンバ101a及び冷却炉チャンバ101cは図示しない抵抗加熱ヒータにより一定温度に設定されている。
成形室100の両端にはシャッター112,115が設けられていて、その外側には別の図示しない予備室チャンバが設けられており、大気と窒素の置換をそれぞれ行ってから成形室100に成形型の出し入れを行うようになっている。これにより、成形室100(プレス室チャンバ101a、加熱炉チャンバ101b及び冷却炉チャンバ101c)は、常に窒素ガス雰囲気が保たれるようになっている。また、プレス室チャンバ101aと加熱炉チャンバ101bとの間、及びプレス室チャンバ101aと冷却炉チャンバ101cとの間には、シャッター113及び114が設けられている。これはプレス室チャンバ101a内で独立して真空引き,窒素ガス導入を行うことができるようにしたものである。
以下、第2成形例の工程について説明する。
図示しない型分解組み立てユニットにより下型2にガラス素材Wを置く。次いで、上型1をスリーブ3に挿入したものを型支持台17に設置し、図示しない予備室チャンバに投入し真空引きを行った後窒素ガスを導入してガス置換を行った。窒素ガス置換終了後シャッター112を開け加熱炉チャンバ101bに型支持台17ごと移動させる。加熱炉チャンバ101bの第一加熱炉は700℃に設定されていて100秒後に第二加熱炉に移動する。第二加熱炉は630℃に設定されており、ここで100秒間加熱されたところで、型支持台17は108.5dPa・s相当の温度580℃まで加熱される。次にシャッター113を開け型支持台17ごと640℃に設定されたプレス室チャンバ101aに移動させ、シャッター113を閉じる。このとき、シャッター114も閉じておく。次に、バルブ105bを開けプレス室チャンバ101a内を50Pa程度の真空度にする。これにより、下型2の空間Sからガスが排出される。
次いで、シリンダー110によりプレスヘッド10を、圧縮ばね4が1mm縮む位置まで下降させる。この下降量は、位置センサ111によって測定する。このときのばね定数は250gf/mmで、250gfの荷重が作用する。10秒程度この状態を維持した後、窒素ガス導入バルブ103bを開けプレス室チャンバ101a内に窒素ガスを導入する。このとき、ガラス素材Wと下型2はシールされているので、空間Sにはガスが入り込まない。108.0dPa・s相当の温度590℃になったところで型温度を一定に保つ均熱化を30秒行い、その後プレスヘッド10を0.03mm/secの速度で下降させプレスを開始する。プレス荷重は150kgfとし、押し切ったところで20秒間維持した。
プレスヘッド10を上昇させシャッター114を開けて、型支持台17を冷却炉チャンバ101cに移動させる。冷却炉チャンバ101cの第一冷却炉(徐冷炉)は450℃に設定されている。100秒経過後、型支持台17を第二冷却炉(急冷炉)に移動させ、100秒経過した後に図示しない予備室チャンバを経て型を分解し、ガラス光学素子であるレンズを取り出した。
以上のようなプロセスにより製造された光学素子の外観を観察したところ、ガストラップ痕は全く見られず完全に型を転写していた。また、レンズの性能として収差を測定したところ405nmの測定波長でトータル波面収差0.02〜0.03λrmsを満足していた。
なお、真空引きを開始する温度は、第1成形例のように上記条件より低い温度でもよいが、このようにするとサイクルタイムが長くなる。
以上のように、第2成形例においても、第1成形例と同様ガストラップ痕のない外観性能の良好な光学素子を得ることができる。また、成形型を各炉に一型ずつ位置するようにセットすれば、成形サイクルタイム100秒以下で光学素子を製造することができる。また、各炉に型を多数セットできるようにしプレスヘッドもそれに合わせた本数とすることにより量産化も可能となり、低コスト生産が実現できる。
本発明は、光情報記録媒体の記録または再生用対物レンズに好適である。
本発明に好適なガラス光学素子製造装置の一例を示す概略断面図である。 本発明に好適なガラス光学素子製造装置の一例によってガラス光学素子を製造する第1成形例のプレススケジュールを示す図である。 本発明に好適なガラス光学素子製造装置の他の例を示す概略断面図である。 図3に示すガラス光学素子製造装置によってガラス光学素子を製造する第2成形例のプレススケジュールを示す図である。 ガラス素材とした型の間に空間が形成された状態を示す概略図である。
符号の説明
1 上型
2 下型
3 スリーブ
4 圧縮ばね(ばね部材)
5 キャップ部材
W ガラス素材
S 空間

Claims (1)

  1. 開口数NAが0.7以上であり、使用波長380〜450nmにおいて総合波面収差WFEが0.06λrms以下の光情報記録媒体の記録または再生用対物レンズであって、
    第1面又は第2面の近軸曲率半径がRLであるような曲面を有し、当該対物レンズの体積をVとするとき、
    (4/3)π(RM’) = V となるようなRM’が、
    1.0<RM’/RL<1.6 の関係を満たし、
    かつ、光軸部分のレンズ厚をd、焦点距離をfとしたとき、
    1<d/f<3 の関係となり、
    表面近傍に存在するガストラップ痕が直径200μm以下であることを特徴とするガラス光学素子。
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