JP4644933B2 - 溶融液晶性樹脂の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は流動開始温度が340℃以上の溶融液晶性樹脂の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
溶融液晶性樹脂(thermotropic liquid crystalline polymer)は、分子が剛直なため溶融状態でも絡み合いを起こさず液晶状態を有するポリドメインを形成し、成形時の剪断により分子鎖が流れ方向に著しく配向する挙動を示す。この特異的な挙動のため溶融流動性が優れ、また耐熱性に優れるため、耐熱性の要求される小型、薄肉の電気、電子部品材料として広く用いられている。中でも高分子主鎖のすべてが芳香族基よりなる全芳香族性の溶融液晶性樹脂は、特に耐熱性に優れるため、溶融ハンダの直接浸漬によってハンダ付けされるコイルボビンや、高温の電熱体、光熱機器の支持部品などに用いられる。
【0003】
溶融液晶性樹脂を製造するために、種々の方法が開示されている。
例えば、特開平2−69518号公報には、芳香族ヒドロキシカルボン酸類、芳香族ジカルボン酸類、および芳香族ジオ−ル類を出発原料として、出発原料のアセチル化、分子量の充分に伸張していないプレポリマーを生成させる重縮合、そしてそのプレポリマーを固相状態にて高分子量化させること(以下、固相重合ということがある。)による全芳香族ポリエステルの製造方法が開示されている。同号公報には、流動開始温度290℃のプレポリマーを固相重合するに際し、室温から200℃まで1時間で昇温し、200℃から270℃まで4時間で昇温し、さらに270℃で3時間保持することにより、流動開始温度337℃の全芳香族ポリエステルが得られることが記載されている。また、同号公報には、固相重合の際には、処理温度や昇温速度はその粒子を融着させないように選ぶ必要があり、融着を起こした場合、高分子量化や低沸点物の除去が不十分となる旨記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
特に、流動開始温度が340℃以上であるような高耐熱の溶融液晶性樹脂を固相重合により製造する場合には、該樹脂の粒子を融着させないように固相重合を行うことは難しく、融着を少なく重合できた場合であっても、その樹脂を含む組成物からなる成形品の表面が、ハンダ付け等の高温環境下で発泡するなどの不具合が生じることがあった。
本発明の目的は、流動開始温度が340℃以上である溶融液晶性樹脂の製造方法であって、固相重合時に融着を起こさず、該樹脂からなる成形品が高温環境下においても発泡するなどの不具合がほとんど生じない溶融液晶性樹脂の製造方法および該製造方法で製造された溶融液晶性樹脂を含む溶融液晶樹脂組成物を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、昇温開始前の流動開始温度FT0が200℃以上300℃以下である溶融液晶性樹脂を、実質的に固相の状態で、樹脂温度を200℃以下の昇温開始温度から(FT0+50)℃以上の昇温終端温度(A℃)まで昇温させる製造方法であって、少なくとも、樹脂温度を(FT0+20)℃から(FT0+50)℃に昇温させるまでの工程において、樹脂温度の平均昇温速度が特定の範囲に、かつ各樹脂温度(t)における、溶融液晶性樹脂の流動開始温度が特定の範囲になるように昇温させることにより、上記課題を解決することができることを見い出し本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明は〔1〕昇温開始前の流動開始温度FT0が200℃以上300℃以下である溶融液晶性樹脂を、実質的に固相の状態で、樹脂温度を200℃以下の昇温開始温度から(FT0+50)℃以上の昇温終端温度(A℃)まで昇温させる製造方法であって、少なくとも、樹脂温度を(FT0+20)℃から(FT0+50)℃に昇温させるまでの工程(工程(1))において、樹脂温度の平均昇温速度が0.1℃/分を超え0.5℃/分未満の範囲に、かつ各樹脂温度(t)における、溶融液晶性樹脂の流動開始温度が(t−10)℃以上(t+40)℃以下の範囲になるように昇温させる流動開始温度が340℃以上の溶融液晶性樹脂の製造方法に係るものである。
また本発明は、〔2〕上記〔1〕の製造方法により製造された溶融液晶性樹脂に係るものである。
また本発明は、〔3〕上記〔2〕の溶融液晶性樹脂100重量部に対して10〜100重量部の無機物を配合してなる溶融液晶性樹脂組成物に係るものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について述べる。なお、以下において樹脂の「耐熱性」とは、熱機械的および化学的な耐熱性を示す。熱機械的な耐熱性の尺度としては、例えば、荷重たわみ温度があげられ、化学的な耐熱性の尺度としては、耐ハンダ発泡性能があげられる。また、樹脂の「加工性」とは、主に射出成形における樹脂の溶融流動性を示す。
【0008】
本発明の目的とする溶融液晶性樹脂は、例えば、全芳香族骨格を有するポリエステルもしくはポリエステルアミドなどの全芳香族性の溶融液晶性樹脂であり、
(1)1種または2種以上の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位からなるもの、
(2)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールに由来する構造単位からなるもの、
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジオールに由来する構造単位からなるもの、
(4)(1)に芳香族アミノカルボン酸に由来する構造単位を加えたもの、
(5)(2)、(3)にアミノフェノール類に由来する構造単位を加えたもの、
等があげられ、通常400℃以下の温度で異方性溶融体を形成するものである。
【0009】
該全芳香族骨格を有するポリエステルもしくはポリエステルアミドの構造単位としては下記のものを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位:
【0010】
Figure 0004644933
【0011】
芳香族ジオールに由来する構造単位:
【0012】
Figure 0004644933
【0013】
Figure 0004644933
【0014】
芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位:
【0015】
Figure 0004644933
【0016】
芳香族アミノカルボン酸に由来する構造単位:
【0017】
Figure 0004644933
【0018】
アミノフェノール類に由来する構造単位:
Figure 0004644933
上記芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位、芳香族ジオールに由来する構造単位、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位、芳香族アミノカルボン酸に由来する構造単位およびアミノフェノール類に由来する構造単位は、芳香環上にハロゲン原子、アルキル基、アリール基等の置換基を有していてもよい。
【0019】
中でも、耐熱性、加工性のバランスの点で、上記構造単位(I)、(II)、(III)、および(IV)の合計が全構造単位の95モル%以上であるものが好ましく、実質的に上記構造単位(I)、(II)、(III)、および(IV)からなるものがより好ましい。(I)、(II)、(III)、(IV)以外の構造単位としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位、芳香族ジオールに由来する構造単位、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位、芳香族アミノカルボン酸に由来する構造単位およびアミノフェノール類に由来する構造単位から適宜選ぶことができる。
【0020】
本発明の目的とする溶融液晶性樹脂の構造単位(III)、(IV)のモル比は、(III)/(IV)=8〜50であることが好ましい。(III)/(IV)が8未満である溶融液晶性樹脂は、本発明の方法で高分子量化を試みても、樹脂の融着を招かず均質に340℃以上の流動開始温度を示す樹脂を得ることが困難なことがある。また、(III)/(IV)が50を越える場合は、加工性に劣ることがある。充分な耐熱性と加工性のバランスの点では、(III)/(IV)=18〜40であることがより好ましく、15〜30であることがさらに好ましい。
【0021】
また、構造単位(I)、(II)、(III)、および(IV)のモル比は、(I)/((I)+(II)+(III)+(IV))=0.4〜0.7であるものが好ましい。(I)/((I)+(II)+(III)+(IV))が0.4未満であるものは、その溶融液晶性樹脂の耐熱性が低下することがある。また、0.7を越えるものは、加工性に劣ることがある。充分な耐熱性と加工性のバランスの点では、(I)/((I)+(II)+(III)+(IV))=0.45〜0.55であることがさらに好ましい。
【0022】
また、構造単位(II)、(III)、および(IV)のモル比は、(II)/((III)+(IV))=0.9〜1.1であるものが好ましい。(II)/((III)+(IV))が0.9未満、あるいは1.1を超えると、本発明の方法で高分子量化を試みても、樹脂の融着を招かず均質に340℃以上の流動開始温度を示す樹脂を得ることが困難な場合がある。
【0023】
本発明の目的とする溶融液晶性樹脂の流動開始温度は340℃以上である。樹脂の加工性の点では、流動開始温度は400℃以下であることが好ましい。より高い耐熱性と加工性のバランスを求められる場合、その樹脂の流動開始温度は370〜390℃であることがより好ましい。
【0024】
本発明で用いる昇温開始前の流動開始温度FT0が200℃以上300℃以下の溶融液晶性樹脂(以下、この樹脂をプレポリマーということがある。)を製造する方法は特に限定されるものではない。例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸類、芳香族ジオール類、芳香族アミノカルボン酸類、あるいは芳香族アミノフェノール類の水酸基およびアミノ基を無水酢酸等のアシル化剤によりアシル化し、未反応のアシル化剤および副成する酸などを留去しながら芳香族ジカルボン酸類とともに重縮合する方法があげられる。得られた重縮合物は溶融状態で反応槽より回収し、冷却固化せしめた後に粉砕してプレポリマーの粉粒体とするか、あるいは溶融状態から紐状に冷却固化せしめつつ切断することによりプレポリマーのペレットとして用いることが好ましい。
【0025】
本発明の製造方法において、プレポリマーの粉粒体もしくはペレットの粒径は10mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは5mm以下である。粉粒体もしくはペレットの粒径が10mmを越えると、固相にて重縮合せしめたときに、重縮合によって副成する酸などの低沸点物の除去が不十分になる場合がある。
【0026】
本発明の製造方法に使用する装置は特に限定されるものではなく、一般に公知の熱処理装置や乾燥装置を用いることができる。例としては、棚段式オーブン、ロータリーキルン、流動床式乾燥機などがあげられる。その雰囲気としては、窒素雰囲気下であることが好ましい。
【0027】
本発明の溶融液晶性樹脂の製造方法は、昇温開始前の流動開始温度FT0が200℃以上300℃以下である溶融液晶性樹脂を、実質的に固相の状態で、樹脂温度を200℃以下の昇温開始温度から(FT0+50)℃以上の昇温終端温度(A℃)まで昇温させる製造方法であって、少なくとも、樹脂温度を(FT0+20)℃から(FT0+50)℃に昇温させるまでの工程(工程(1))において、樹脂温度の平均昇温速度が0.1℃/分を超え0.5℃/分未満の範囲に、かつ各樹脂温度(t)における、溶融液晶性樹脂の流動開始温度が(t−40)℃以上(t+10)℃以下の範囲になるように昇温させることを特徴とする。
ここに、流動開始温度とは、4℃/分の昇温速度で加熱された樹脂を荷重9.81MPaのもとで、内径1mm、長さ10mmのノズルから押出したときに、溶融粘度が4800Pa・sを示す温度をいう。工程(1)において、昇温速度は、実質的に一定であることが好ましい。
【0028】
平均昇温速度が0.1℃/分以下になると、溶融液晶性樹脂の流動開始温度が340℃以上に至らない;高分子量化や低沸点物の除去を充分進めるのに長時間を要する;熱着色する;などの問題が生じることがある。平均昇温速度が0.5℃/分以上のとき、樹脂が融着して粉粒状へ解砕することが困難になったり、融着に至らなくても物性上の不具合を生じることがある。
昇温終端温度(A℃)としては、樹脂粉粒体またはペレットの高分子量化を均一に進めるには、(FT0+100)℃以下であることが好ましく、(FT0+80)℃以下であることがさらに好ましい。
【0029】
また、工程(1)においては、該樹脂の樹脂温度を、各樹脂温度(t)における、溶融液晶性樹脂の流動開始温度を(FT)を(t−10)℃以上(t+40)℃以下の範囲になるように昇温させる。平均昇温速度が上記範囲であったとしても、 FTが(t+40)℃より高くなると、高分子量化や低沸点物の除去が不十分になることがある。また、FTが(t−10)℃より低くなると、樹脂が融着して粉粒状へ解砕することが困難になったり、融着に至らなくても物性上の不具合を生じることがある。
【0030】
また、樹脂温度が昇温終端温度(A℃)に達した後、樹脂温度を200℃以下になるまで降温する工程(2)を有することが好ましい。平均降温速度は特に限定されないが、200℃までは0.5℃/分以上であることが好ましい。
【0031】
また、樹脂温度が昇温終端温度(A℃)に達した後、樹脂温度をA℃±10℃以内の範囲で、かつ樹脂温度の変動が±0.1℃/分以内になるようにして、さらに1時間以上熱処理する工程(3)を有することが好ましい。
これにより、樹脂の粉粒体またはペレットがより均一に高分子量化されることにより分子量分布がより狭くなり、高分子量化や低沸点物の除去を十分に達成することができる。
【0032】
また、工程(1)の前に、樹脂温度を200℃以下かつ(FT0−40)℃未満の任意の温度から(FT0−40)℃以上(FT0+20)℃以下の範囲の任意の温度まで0.5℃/分以上の平均昇温速度で昇温する工程(4)を有することが好ましい。これにより、処理時間を短くすることができる。特に樹脂を常温(20℃程度)から昇温開始する場合などにおいては、処理時間を短縮するなどの目的で、3℃/分〜10℃/分の範囲で昇温することがより好ましい。
また、(FT0+20)℃を超える温度まで、0.5℃/分以上の平均昇温速度で昇温すると、樹脂が融着して粉粒状へ解砕することが困難になる場合がある。また、(FT0−40)℃より低い温度のときには、熱処理時間が過大になることがある。工程(4)においては、実質的に一定の昇温速度で昇温することがより好ましい。
【0033】
工程(4)に樹脂を導入する方法としては、
(a)トレー上に均した樹脂を棚段式オーブンへ導入した後、(FT0+20)℃以下の温度まで、0.5℃/分以上の昇温速度で昇温する方法、
(b)その樹脂の流動開始温度(FT0+20)℃以下の温度まで予熱したロータリーキルン中へ導入する方法
(c)樹脂導入口がその樹脂の流動開始温度(FT0+20)℃以下に制御されている流動床式乾燥機へ連続的に導入する方法。
(d)樹脂導入口がその樹脂の流動開始温度(FT0+20)℃以下に制御されている、温度分布の付いたトンネル型コンベアー炉へ導入する方法。
等があげられる。
【0034】
本発明の製造方法において、溶融液晶性樹脂に重合触媒として金属酸化物、有機金属塩、有機塩基化合物等を使用してもよい。その例としては、ゲルマニウム、錫、チタン、アンチモン、コバルトまたはマンガンなどの酸化物、酢酸塩、シュウ酸塩などがあげられるが、これに限るものではない。
【0035】
本発明の製造方法においては、本発明の目的を損なわず、物性に悪影響を与えない範囲で、プレポリマーに酸化防止剤、熱分解防止剤、加水分解防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤などを添加することができる。
【0036】
本発明の溶融液晶性樹脂組成物は、本発明の製造方法により製造された溶融液晶性樹脂100重量部に対して10〜100重量部の無機物を配合してなるものである。
配合する無機物としては、目的に応じて、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、チタン酸繊維、アスベスト等の一般無機繊維、炭酸カルシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、石英砂、けい砂、ワラストナイト、ドロマイト、各種金属粉末、カーボンブラック、グラファイト、硫酸バリウム、チタン酸カリウム、焼石膏等の粉末物質、および炭化けい素、アルミナ、ボロンナイトライトや窒化けい素等の粉粒状、板状無機化合物、ウイスカー等があげられる。中でも組成物から成形された成形品の強度、剛性、耐熱性の点では、ガラス繊維、炭素繊維を用いることがより好ましい。上記無機物を配合しない溶融液晶性樹脂は、異方性が強すぎるために形状の安定した成形品が得られないことがある。
【0037】
その組成物には、本発明の目的を損なわず、物性に悪影響を与えない範囲で、酸化防止剤、熱分解防止剤、加水分解防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤(顔料、染料)、表面処理剤、導電剤、難燃材、滑剤、離型剤、可塑剤、接着助剤、粘着剤などを添加することができる。
【0038】
また、少量の熱可塑性樹脂、たとえば、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド等や、少量の熱硬化性樹脂、たとえば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の、1種または2種以上を添加することもできる。
【0039】
本発明の溶融液晶性樹脂組成物の荷重たわみ温度は300℃以上であることが好ましい。
溶融ハンダの直接浸漬によってハンダ付けされるコイルボビンや、高温の電熱体、光熱機器の支持部品などに用いる場合においては、荷重たわみ温度は330℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましい。
【0040】
【実施例】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の流動開始温度、荷重たわみ温度、曲げ強度、耐ハンダ発泡性能の測定は、次の方法で行った。
【0041】
(1)流動開始温度
(株)島津製作所製の高化式フローテスターCFT−500型を用いて、4℃/分の昇温速度で加熱された樹脂を荷重100kgf/cm2(9.81MPa)のもとで、内径1mm、長さ10mmのノズルから押出したときに、溶融粘度が48000ポイズ(4800Pa・s)を示す点における温度を流動開始温度とした。
(2)曲げ強度
射出成形機を用いて長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mmの試験片を作成し、これを用いてASTM D790に準拠して測定した。
(3)荷重たわみ温度
射出成形機を用いて長さ127mm、幅6.4mm、厚さ12.7mmの試験片を成形し、これを用いてASTM D648に準拠し、荷重18.6kg/cm2(1.82MPa)、昇温速度2℃/minで測定した。
(4)耐ハンダ発泡性能
射出成形機を用いてJIS K7113(1/2)号ダンベル試験片(厚さ1.2mm)を成形し、これを300℃に加熱した錫60%、鉛40%からなるハンダ浴に、10本以上、60秒間浸漬し、取り出し後の試験片に膨れや変形などの外観上の変化を生じた試験片の割合(%)を耐ハンダ発泡性能とした。この数値が低いほどハンダ浸漬に対する耐性が高いことを示す。
(5)樹脂の融着強度
所定条件で昇温処理を施した後の溶融液晶性樹脂粉体の塊(厚さ約1.5cm、面積約80cm2)を28cm2の円盤を介して上方から加重し、その塊が崩れたときの圧力を測定した。この圧力が高いほど、樹脂の融着が強いことを示す。
【0042】
参考例1: 溶融液晶性樹脂(プレポリマー)の製造例
還流冷却器、温度計、窒素導入管および攪拌翼を備えた容器に、
p−ヒドロキシ安息香酸 828.7g
4,4’−ジヒドロキシビフェニル 558.6g
テレフタル酸 473.5g
イソフタル酸 24.9g
無水酢酸 1347.6g
を仕込んだ後、約140℃まで昇温し、還流条件下で3時間攪拌した。その後、約310℃まで昇温しながら酢酸を留去し、さらに約310℃にて1時間保温して酢酸の留去を続け、約1600gのプレポリマーを得た。得られたプレポリマーを冷却して粉砕機で3mm以下の粒径にまで粉砕した。
【0043】
実施例1
参考例1に準じて製造された構造単位(I):(II):(III):(IV)=500:250:237:13であって、流動開始温度が260℃である溶融液晶性樹脂をSUS製トレーに厚さ1.5cmで均して仕込み、室温状態にある熱風循環式オーブンに導入した。オーブン内を窒素置換した後、樹脂直上の気相部温度を230℃まで70分間で昇温し、引き続き330℃まで300分で昇温し、その後330℃で180分間保持した。保持の間の樹脂温度は、330℃±10℃以内の温度範囲で、かつ樹脂温度の変動が±0.1℃/分以内であった。
この熱処理操作中、樹脂に熱電対を導入して樹脂温度を測定し気相部温度に追随していることを確認した。また、280℃〜310℃の範囲における昇温速度は0.3℃/分であった。
この熱処理操作後の粉体の、上記の方法によって測定した融着強度は1kg/cm未満であり、流動開始温度は383℃であった。
この樹脂60重量部に対しガラス繊維(日本板硝子製 REV−8)を40重量部混合した後、二軸押出機(池貝鉄工(株)製、PCM−30)を用いてシリンダー温度390℃で造粒し、溶融液晶性樹脂組成物を得た。
この溶融液晶性樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)製PS40E5ASE)を用いてシリンダー温度400℃、金型温度130℃、射出速度50〜80%、圧力20〜60%で上記の試験片を成形し、荷重たわみ温度、曲げ強度、および耐ハンダ発泡性能を測定したところ、以下の結果を得た。
荷重たわみ温度: 349℃
曲げ強度: 129MPa
耐ハンダ発泡性能: 0%
【0044】
<流動開始温度(FT)と樹脂温度との関係>
上記実施例1と同様の操作を樹脂直上の気相部温度が280℃に達する時点までくり返し、その時点で熱処理を中断し、ただちにオーブンより取り出して冷却した。同様の操作で290,300,310、および330℃までそれぞれ昇温して取り出した樹脂を得た。
【0045】
各々の樹脂について流動開始温度を、また、310℃まで昇温して取り出した樹脂については、流動開始温度の測定前に樹脂の融着強度を併せて測定し、表1の結果を得た。
【0046】
【表1】
Figure 0004644933
【0047】
比較例1
参考例1に準じて製造された構造単位(I):(II):(III):(IV)=500:250:237:13であって、流動開始温度が260℃である溶融液晶性樹脂をSUS製トレーに厚さ1.5cmで均して仕込み、室温状態にある熱風循環式オーブンに導入した。オーブン内を窒素置換した後、樹脂直上の気相部温度を230℃まで70分間で昇温し、引き続き330℃まで180分で昇温し、その後330℃で180分間保持した。
この熱処理操作中、樹脂に熱電対を導入して樹脂温度を測定し気相部温度に追随していることを確認した。また、280℃〜310℃の範囲における昇温速度は0.6℃/分であった。
【0048】
この熱処理操作後、強固に融着した溶融液晶性樹脂粉体が得られた。上記の方法によって測定した融着強度は4.5kg/cm2であり、粉体として扱うには改めて粉砕機で解砕する必要があった。
この融着した樹脂を粉砕機を用いて解砕し、上記の方法によって測定した流動開始温度は384℃であった。
この樹脂60重量部に対しガラス繊維(日本板硝子製 REV−8)を40重量部混合した後、二軸押出機(池貝鉄工(株)製、PCM−30)を用いてシリンダー温度390℃で造粒し、溶融液晶性樹脂組成物を得た。
この溶融液晶性樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業(株)製PS40E5ASE)を用いてシリンダー温度400℃、金型温度130℃、射出速度50〜80%、圧力20〜60%で上記の試験片を成形し、荷重たわみ温度、曲げ強度、および耐ハンダ発泡性能を測定したところ、以下の結果を得た。
荷重たわみ温度: 349℃
曲げ強度: 131MPa
耐ハンダ発泡性能: 10%
【0049】
<流動開始温度(FT)と樹脂温度との関係>
上記比較例1と同様の操作を樹脂直上の気相部温度が280℃に達する時点までくり返し、その時点で熱処理を中断し、ただちにオーブンより取り出して冷却した。同様の操作で290,300,310、および330℃までそれぞれ昇温して取り出した樹脂を得た。
【0050】
各々の樹脂について流動開始温度を、また、310℃まで昇温して取り出した樹脂については、流動開始温度の測定前に樹脂の融着強度を併せて測定し、表2の結果を得た。
【0051】
【表2】
Figure 0004644933
【0052】
【発明の効果】
本発明の製造方法によって製造された溶融液晶性樹脂は、樹脂が融着することなく取り扱いが容易であって優れた耐熱性を有し、該樹脂からなる成形品が高温環境下においても発泡するなどの不具合がほとんど生じないため、耐熱性を要求される家電製品、食器や医療機器、OA、AV機器や電気・電子機器などの部品、たとえば、溶融ハンダの直接浸漬によってハンダ付けされるコイルボビンや、高温の電熱体、光熱機器の支持部品などにきわめて有用なものである。

Claims (7)

  1. 昇温開始前の流動開始温度FT0が200℃以上300℃以下である溶融液晶性樹脂を、実質的に固相の状態で、樹脂温度を200℃以下の昇温開始温度から(FT0+50)℃以上の昇温終端温度(A℃)まで昇温させる製造方法であって、少なくとも、樹脂温度を(FT0+20)℃から(FT0+50)℃に昇温させるまでの工程(工程(1))において、樹脂温度の平均昇温速度が0.1℃/分を超え0.℃/分以下の範囲に、かつ各樹脂温度(t)における、溶融液晶性樹脂の流動開始温度が(t−10)℃以上(t+40)℃以下の範囲になるように昇温させること、および溶融液晶性樹脂が下記構造単位(I)〜(IV)からなる芳香族ポリエステルであることを特徴とする流動開始温度が340℃以上の溶融液晶性樹脂の製造方法。
    ここに、流動開始温度とは、4℃/分の昇温速度で加熱された樹脂を荷重9.81MPaのもとで、内径1mm、長さ10mmのノズルから押出したときに、溶融粘度が4800Pa・sを示す温度をいう。
    Figure 0004644933
    (構造単位(I)、(II)、(III)、および(IV)のモル比が、(I)/((I)+(II)+(III)+(IV))=0.4〜0.7、構造単位(II)〜(IV)のモル比が(II)/((III)+(IV))=0.9〜1.1、構造単位(III)、(IV)のモル比が(III)/(IV)=8〜50である)
  2. 樹脂温度が昇温終端温度(A℃)に達した後、樹脂温度を200℃以下になるまで降温する工程(2)を有することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
  3. 樹脂温度が昇温終端温度(A℃)に達した後、樹脂温度をA℃±10℃以内の範囲で、かつ樹脂温度の変動が±0.1℃/分以内になるようにして、さらに1時間以上熱処理する工程(3)を有することを特徴とする請求項1または2記載の製造方法。
  4. 工程(1)の前に、樹脂温度を200℃以下かつ(FT0−40)℃未満の任意の温度から(FT0−40)℃以上(FT0+20)℃以下の範囲の任意の温度まで0.5℃/分以上の平均昇温速度で昇温する工程(4)を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
  5. 構造単位(III)、(IV)のモル比が(III)/(IV)=18〜40であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の溶融液晶性樹脂の製造方法。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により溶融液晶性樹脂を得、この溶融液晶性樹脂100重量部に対して10〜100重量部の無機物を配合ることを特徴とする溶融液晶性樹脂組成物の製造方法
  7. 溶融液晶性樹脂組成物の荷重たわみ温度が300℃以上であることを特徴とする請求項記載の溶融液晶性樹脂組成物の製造方法
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