JP4314667B2 - オフセット印刷カード用樹脂組成物およびオフセット印刷カード - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、表面にオフセット印刷が施される、磁気ストライプカード、ICカード等の印刷プラスチックカード用樹脂組成物及びこれを用いたオフセット印刷カードに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、例えばクレジットカード、キャッシュカード等に代表される、情報記録媒体としてのプラスチックカードの用途が急拡大しているが、これらのプラスチックカードは、その表面にオフセット印刷方式により文字、数字、記号、模様、図柄等の印刷が施されることが多くなってきている。このオフセット印刷方式は、例えば従来のシルク印刷等に比べて生産性に優れるという利点がある。
【0003】
このようなカード基板の材料としては、従来より、安価である上に、印刷インキを受容しやすくて印刷適性に優れることから、塩化ビニル樹脂が最も汎用されている。
【0004】
一方、カードの層構成としては、白色のカード基板に印刷が施され、更にこの上に保護層として透明のオーバーシートが熱積層された構成が一般的であったが、近年コスト低減の要請から、オーバーシート層を積層しない構成のものが提案されている。即ち、白色のカード基板に印刷を施した後、更に透明の保護層を同じく印刷することにより、従来のオーバーシート層の積層工程を省略し、これによってコスト低減を図るものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、カード基板の材料として塩化ビニル系樹脂組成物を用いて後者のオーバーシート層を積層しない構成を採用する場合において、印刷をオフセット印刷で行うと、次のような問題があった。即ち、印刷インキとカード基板との密着性が十分に得られず、従って印刷インキがカード基板から剥離しやすいという問題があった。
【0006】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、鮮明で高発色の高品位な印刷を施し得ると共に、印刷インキとカード基板との密着性に優れて印刷インキの剥離を効果的に防止し得るオフセット印刷カード用樹脂組成物及びオフセット印刷カードを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明者は鋭意研究の結果、塩化ビニル系樹脂に含有せしめる安定剤として常温にて固体状のものを選択し、かつエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂を必須成分として特定割合含有せしめた構成とすることによって、オフセット印刷の印刷インキとカード基板との密着性を顕著に向上させることができることを見出すに至り、この発明を完成したものである。
【0008】
即ち、この発明に係るオフセット印刷カード用樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂と、該塩化ビニル系樹脂100重量部に対して融点が50℃以上である安定剤0.5〜5重量部と、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対してエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂0.1〜10重量部とを含有してなることを特徴とするものである。
【0009】
構成樹脂として塩化ビニル系樹脂を用いているから、印刷インキを受容しやすくて印刷適性に優れ、明瞭かつ美麗な印刷が可能となる。また、安定剤が特定割合含有されているから、強度低下を招くことなく十分に安定化効果を享受し得る。更に、安定剤として融点が50℃以上のものを用い、かつエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂を必須成分として特定割合含有せしめているから、印刷適性、機械的強度等を何ら損なうことなく、印刷インキとカード基板との密着性を顕著に向上させ得る。
【0010】
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂における酢酸ビニル含量は40〜80重量%であるのが望ましく、このような構成とすることにより、印刷インキとカード基板との密着性が一層向上され得る。
【0011】
上記融点が50℃以上である安定剤は、ジブチル錫マレートポリマーであるのが望ましく、これにより印刷インキとカード基板との密着性がより一層向上される。
【0012】
また、この発明のオフセット印刷カードは、上記のいずれかのカード用樹脂組成物からなる成形シート表面に、オフセット印刷によって、文字、図柄等の着色印刷層、透明の保護印刷層が順に積層一体化されてなることを特徴とするものである。カード材料として上述の樹脂組成物を用いているから、明瞭かつ美麗な印刷面が形成されると共に、印刷インキとカード基板との密着性に優れて印刷インキが剥離することのない耐久性に優れた高品質のカードとなし得る。また、従来のような表面にオーバーシートを熱積層する工程を要しないから、この積層工程を省略できる分、コストの低減を図ることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
この発明に係るオフセット印刷カード用樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂と、該塩化ビニル系樹脂100重量部に対して融点が50℃以上である安定剤0.5〜5重量部と、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対してエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂0.1〜10重量部とを含有してなるものである。このように、安定剤として融点が50℃以上であるものを選択し、かつエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂を必須成分として特定割合含有せしめることにより、オフセット印刷の印刷インキの剥離を効果的に防止し得たものである。
【0014】
前記塩化ビニル系樹脂としては、その種類は特に限定されず、例えば塩化ビニルの単独重合体、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体、プロピレン−塩化ビニル共重合体、塩素化塩化ビニル共重合体、架橋塩化ビニル共重合体等を使用でき、これらは単独でも2種以上の混合物でも使用できる。
【0015】
前記安定剤としては、融点が50℃以上のものであればどのようなものでも使用でき、例えば鉛系安定剤、錫系安定剤、カルシウムや亜鉛等の石鹸系安定剤等が挙げられるが、中でも錫系安定剤のマレート系、メルカプタイド系を用いるのが好ましく、その中でもポリマータイプのものがより好適であり、特に好ましくはジブチル錫マレートポリマーである。このように安定剤として融点が50℃以上のものを選択することにより、オフセット印刷の印刷インキとカード基板の密着性向上に寄与させることができ、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂を必須成分として特定割合含有せしめることとも相俟って、印刷インキの剥離を効果的に防止できるのである。
【0016】
これに対して、安定剤として融点が50℃未満のものを用いると、使用状態において液状になるか、あるいは液状になりやすく、カード基板と印刷インキ層の界面にブリードしやすく、カード基板と印刷インキ層との密着性が低下し、印刷インキ層の剥離を生じる。
【0017】
上記融点が50℃以上の安定剤は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して0.5〜5重量部の含有量とする必要がある。0.5重量部未満では樹脂の安定化効果が十分に得られずシート状に加工するのが困難となる。一方、5重量部を超えると強度等の物性が低下する上に、添加量の増加に見合う安定化効果の向上が期待できず単にコスト増大を招来するだけである。中でも、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して1〜3重量部の含有量とするのが好ましい。
【0018】
また、必須成分であるエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部の含有量とする必要がある。0.1重量部未満ではカード基板と印刷インキ層との密着性を殆ど向上させることができない。一方10重量部を超えると柔軟温度が低下する上に引張強度等の物性も低下し、また添加量の増加に見合う密着性向上効果が得られずコスト増大を招く。中でも、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して1〜5重量部の含有量とするのが好ましい。
【0019】
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂における酢酸ビニル含量は40〜80重量%であるのが好ましい。40重量%未満のものも、また80重量%を超えるものであっても、カード基板と印刷インキ層との密着性を十分に向上し得ないので、好ましくない。中でも酢酸ビニル含量は55〜75重量%とするのがより好ましい。
【0020】
更に、前記樹脂組成物中には、合成ゴムおよびスチレン系樹脂から選択される1種または2種以上の改質剤を含有せしめるのが望ましい。これにより前記密着性を阻害することなくカードとしての機械的強度を大幅に向上させることができる。この改質剤の含有量は、前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して2〜50重量部とするのが好ましい。2重量部未満では十分な機械的強度の向上が期待できないし、一方50重量部を超えると、前記好適含有量で得られる強度よりも低下してしまうのみならず、徒にコストを増大させるだけであるので好ましくない。中でも、2〜15重量部とするのがより好ましい。
【0021】
前記合成ゴムとしては、特に限定されるものではないが、例えばEPR(エチレン−プロピレンゴム)、BR(ブタジエンゴム)、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等が挙げられる。
【0022】
前記スチレン系樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えばABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、MBS(メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体)、AAS(アクリルゴム−アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ACS樹脂(アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合体)等が挙げられる。
【0023】
中でも、上記改質剤としては、MBS樹脂、ABS樹脂を用いるのがより好ましく、この場合には少ない添加量でより一層機械的強度を向上させることができる。
【0024】
上記樹脂組成物中には、可塑剤、顔料、充填剤(炭酸カルシウム、タルクなど)、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、耐衝撃向上剤、紫外線吸収剤等の各種添加剤を必要に応じて適宜配合できる。とりわけ顔料は隠蔽性を付与するために配合されることが多いが、特に白色顔料が好適に用いられ、その中でも安価でかつ隠蔽性に優れた酸化チタンがより好適である。この顔料の配合量は塩化ビニル系樹脂100重量部に対して1〜20重量部とするのが好ましい。1重量部未満では十分な隠蔽性を確保できないので好ましくないし、一方20重量部を超えて配合してもそれに見合う隠蔽性向上は期待できず、コスト高になる上に、機械的特性も低下するので好ましくない。中でも、5〜15重量部とするのがより好ましい。なお、上記各種添加剤としては、カード基板と印刷インキ層との密着性をより十分に確保する観点から、常温で固体状のものを選択するのが望ましい。
【0025】
また、上記組成物中には、この発明の効果を阻害しない範囲で各種の重合体(合成樹脂)をブレンドすることもできる。
【0026】
上記樹脂組成物を用いてカードを作製するに際しては、特に限定されるものではないが、一般にはカレンダー成形法が採用されて、シート状に成形される。このカレンダー成形加工を行う場合には、通常上記樹脂組成物に滑剤を含有せしめる。滑剤としては、パラフィンワックス等の炭化水素系、ステアリン酸等の脂肪酸系、ステアリルアミド等の脂肪酸アミド系、脂肪酸エステル系、アルコール系、金属石鹸系、あるいはアクリル樹脂等の高分子系加工助剤等が挙げられる。中でも、滑剤としては、前記カード基板と印刷インキ層との密着性向上を殆ど妨げない高分子系加工助剤が好ましく、特に好ましいのはアクリル樹脂である。
【0027】
しかして、上記樹脂組成物からなる成形シート(4)表面に、オフセット印刷方式により印刷を施せば、即ち文字、数字、記号、模様、図柄等の着色印刷層(2)、更にこの上に透明の保護印刷層(3)を積層一体化すれば、該表面に鮮明で美麗な印刷層を形成させることができると共に、印刷インキとカード基板との密着性に優れて印刷インキが剥離することを防止でき、かつその密着耐久性にも優れた印刷カード(1)となし得る。
【0028】
この発明のオフセット印刷カード(1)は、磁気ストライプカード等の情報記録媒体としてのプラスチックカードはもちろんのこと、例えばこのような情報記録機能を有しない単なるプラスチックカード(例えば会員カード等)としても用いることができる。
【0029】
【実施例】
次に、この発明の具体的実施例について説明する。
【0030】
<原料>
(塩化ビニル樹脂)
平均重合度800の塩化ビニル樹脂
(融点が50℃以上である安定剤A)
ジブチル錫マレートポリマー(商品名:BM(N)、三共有機合成株式会社製、融点105〜125℃)
(融点が50℃以上である安定剤B)
ジブチル錫マレートポリマー(商品名:KS−100B、共同薬品社製、融点125℃)
(EVA樹脂)
ソアブレンEVA−DH(酢酸ビニル含有量60重量%、日本合成化学工業株式会社製)
(滑剤)
アクリル樹脂系滑剤(商品名:メタブレンP−700、三菱レイヨン株式会社製)
(改質剤)
MBS樹脂(メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、商品名:B−56、鐘淵化学社製)
(酸化チタン)
アナターゼ型酸化チタン
<実施例1〜6、比較例1、2>
表1に示す材料を表1に示す割合で配合した樹脂組成物を用いて、カレンダー成形によって厚さ0.8mmの成形シートを作製した。この成形シートをカード形態に打ち抜くことによって縦54mm、横86mm、厚さ0.8mmのカード基板を作製した。このカード基板にオフセット印刷を施し、オフセット印刷カードを作製した。
【0031】
上記のようにして作製された各印刷カードに対し、下記に示す評価法に従い評価を行った。
【0032】
<密着性評価法(カード基板と印刷インキの密着性評価)>
上記各印刷カードの印刷面に、市販のセロテープを貼り付け良く密着させた後、テープを剥がし、該テープに印刷インキがどの程度付着するかを目視により調べ、下記判定基準に基づき評価した。
【0033】
(判定基準)
「○」…テープへの印刷インキの付着が全く見られない
「△」…テープに僅かに印刷インキの付着が観察される
「×」…テープへの印刷インキの付着が顕著である
【0034】
<カード表面の印刷状態評価法>
オフセット印刷カードの印刷状態を目視により下記判定基準に基づき評価した。
【0035】
(判定基準)
「○」…鮮明かつ高発色の高品位な印刷が施されている
「△」…鮮明さ、発色性のいずれか一方が不十分である
「×」…鮮明さ、発色性ともに不十分である
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
<評価結果>
表から明らかなように、この発明の樹脂組成物を用いて製作された実施例1〜6のオフセット印刷カードは、鮮明かつ高発色の高品位な印刷が施されていると共に、カード基板と印刷インキの密着性にも優れていた。
【0039】
これに対し、この発明の範囲を逸脱する比較例1、2では、印刷状態は良好なるものの、カード基板と印刷インキの密着性に劣っていた。
【0040】
【発明の効果】
この発明に係るオフセット印刷カード用樹脂組成物は、構成樹脂として塩化ビニル系樹脂を用いているから、印刷インキを受容しやすくて印刷適性に優れ、鮮明で高発色の高品位な印刷を施すことができる。また安定剤を特定割合含有しているから、強度低下を招くことなく十分な安定化効果を享受することができる。更に、安定剤として融点が50℃以上のものを用い、かつエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂を必須成分として特定割合含有せしめているから、印刷適性、機械的強度等を何ら損なうことなく、印刷インキとカード基板との密着性を顕著に向上させることができ、印刷インキの剥離を効果的に防止することができる。
【0041】
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂における酢酸ビニル含量が40〜80重量%である場合には、印刷インキとカード基板との密着性を一層向上させることができる。
【0042】
融点が50℃以上である安定剤がジブチル錫マレートポリマーである場合には、印刷インキとカード基板との密着性をより一層向上させることができる。
【0043】
また、この発明のオフセット印刷カードは、カード材料として上記樹脂組成物を用いているから、鮮明で高発色の高品位な印刷面を具備させることができると共に、印刷インキとカード基板との密着性に優れて印刷インキが剥離することのない耐久性に優れた高品質のものとなる。また、従来のような表面にオーバーシートを熱積層する構成ではなく、この熱積層工程を省略できる分、コスト低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施形態に係るオフセット印刷カードを示す図であって、(イ)は斜視図、(ロ)は一部拡大断面図である。
【符号の説明】
1…オフセット印刷カード
2…着色印刷層
3…透明保護印刷層
4…成形シート
Claims (3)
- 塩化ビニル系樹脂と、
該塩化ビニル系樹脂100重量部に対してジブチル錫マレートポリマー0.5〜5重量部と、
前記塩化ビニル系樹脂100重量部に対してエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂0.1〜10重量部とを含有してなることを特徴とするオフセット印刷カード用樹脂組成物。 - 前記エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂における酢酸ビニル含量が40〜80重量%である請求項1に記載のオフセット印刷カード用樹脂組成物。
- 請求項1または2に記載のオフセット印刷カード用樹脂組成物からなる成形シート表面に、オフセット印刷によって、文字、図柄等の着色印刷層、透明の保護印刷層が順に積層一体化されてなることを特徴とするオフセット印刷カード。
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