JP4116487B2 - 磁気記録テープ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気記録テープ、特に電磁変換特性に優れ、かつ走行耐久特性にも優れる磁気記録テープに関する。
【0002】
【従来の技術】
磁気記録媒体では、一般に非磁性支持体の一方の面上に磁性層が形成され、他方の面上にバックコート層が形成される。従来の磁気記録において、主流のヘリカル記録では、記録ヘッドに対するテープの相対走行速度は大きいが、テープの走行速度それ自体は大きくない。そのため、バックコート層は適度な強度を保持していれば、テープの走行や記録において大きな問題を発生させることはなかった。
【0003】
バックコート層の塗膜強度のコントロールを目的として、α−アルミナ等の無機質粉末(すなわち研磨材)をバックコート層に含ませることが行われている。例えば、特公平5−63842号公報には、バックコート層が、電子線硬化性樹脂結合剤中に、結合剤100重量部に対し、導電性充填材粉末20〜100重量部及び無機充填材粉末25〜300重量部の範囲で少なくとも一方の充填材を含むことが開示されている。
【0004】
特開平1−176319号公報には、バックコート層が、α化率40〜70重量%、平均粒径0.3〜0.6μmのAl2 O3 粉末とカーボンブラックとを含有することが開示されている。
【0005】
特開平10−11736号公報には、非磁性支持体の一方の面上に、厚さ0.5〜2.0μmの非磁性下層と、厚さ0.05〜0.5μmの上層磁性層とを有し、非磁性支持体の他方の面上にバックコート層を有する磁気テープであって、テープの長手方向のヤング率が1200kg/mm2 以上であり、かつバックコート層が、平均粒子径30〜50nmでモース硬度3〜4.5の軟質無機粉末と、平均粒子径80〜250nmでモース硬度5〜9の硬質無機粉末とを含む、全厚7μm以下のコンピューターデータ記録用磁気テープが開示されている。
【0006】
しかしながら、最近のコンピューター用リニア記録テープにおいては、ヘリカル記録と異なりテープ走行速度は例えば2.5m/秒以上と大きい。そのため、テープの繰り返し走行時に、ガイドロールによるバックコート層の削れ、及びその削れ物の巻き込みによる磁性層への転移、さらにバックコート層と磁性層との高速摺動による磁性層へのキズ及び削れ等が発生する。これらによって、エラーレートの悪化やヘッド付着、ひいてはヘッド目詰まりが引き起こされる。
【0007】
これらの問題を解決するために、さらに適切な強度を有するバックコート層を有する磁気記録媒体の開発が望まれる。
【0008】
【特許文献1】
特公平5−63842号公報
【特許文献2】
特開平1−176319号公報
【特許文献3】
特開平10−11736号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、適切な強度を有するバックコート層を有し、電磁変換特性に優れ、かつ走行耐久特性にも優れる磁気記録テープ、特にコンピューター用リニア記録テープを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、バックコート層の補強のみならず、バックコート層と磁性層の強度の比を適切な範囲とすることによって、バックコート層と磁性層との高速摺動によっても磁性層へのキズ及び削れを抑制できることを見いだし、本発明に到達した。
【0011】
本発明は、非磁性支持体の一方の面上に下層非磁性層を有し、前記下層非磁性層上に上層磁性層を有し、前記非磁性支持体の他方の面上にバックコート層を有する磁気記録テープであって、
次の条件:
(1) 12.650mm幅テープ使用
(2) テープ走行速度:2.54m/sec
(3) 300mテープ,600パス(300往復)走行
(4) センダスト鋼材:SD−5 角柱:90°(断面正方形)
(5) センダスト鋼材部テープ走行時張力:1.4N/テープ幅
(6) センダスト鋼材部テープラップ角度θ:164°
に従って、該テープの測定面(バックコート層面又は磁性層面)が、断面正方形の角柱状センダスト鋼材の稜に接するようにテープを走行させ、センダスト鋼材を摩耗させ、
テープ走行後の摩耗されたセンダスト鋼材の平坦面のテープ走行方向の長さL(μm)を3点につき測定し、その平均値 Lm を算出し、以下の式:
摩耗体積量 [( μm ) 3 /m )] = [(1/2) × Lm ×( Lm/2) × 12.650 × 10 3 ]/300
によりテープ1m当たりの摩耗体積量を算出したとき、
磁性層のセンダスト摩耗体積量SMCが3.0×104 (μm)3/m以下であり、バックコート層のセンダスト摩耗体積量S BC が0.4×10 4 ( μm ) 3 /m以上4.0×10 4 ( μm ) 3 /m以下であり、かつバックコート層のセンダスト摩耗体積量SBCと磁性層のセンダスト摩耗体積量SMCの比(SBC/SMC)が0.5〜3.0である磁気記録テープである。
【0013】
本発明は、バックコート層の表面粗さRaが20nm以下である、前記の磁気記録テープである。
【0014】
本発明は、磁性層のAFM表面粗さRaが3.0〜8.0nmである、前記の磁気記録テープである。
【0015】
本発明は、磁性層の厚みは0.3μm以下である、前記の磁気記録テープである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の具体的構成について詳細に説明する。
本発明の磁気記録媒体(以下、磁気テープ又はテープとも記す)は、非磁性支持体の一方の面上に下層非磁性層が設けられ、下層非磁性層上に好ましくは厚み0.3μm以下の上層磁性層が設けられ、非磁性支持体の他方の面上にバックコート層が設けられている。なお、本発明では、磁性層上に潤滑剤塗膜や磁性層保護用の各種塗膜などが必要に応じて設けられてもよい。また、非磁性支持体の磁性層が設けられる前記一方の面には、塗膜と非磁性支持体との接着性の向上等を目的として、下塗り層(易接着層)が設けられてもよい。
【0018】
本発明においては、バックコート層の塗膜強度と磁性層の塗膜強度との関係が重要であり、各々の塗膜強度は、例えば、一定走行条件下で走行させられるテープによるセンダスト鋼材の摩耗体積量(テープの研磨能力)によって表される。センダスト鋼材の摩耗体積量が大きいほど、塗膜強度が強い。本発明におけるバックコート層又は磁性層のセンダスト摩耗体積量とは、次の条件によって測定される値である。
【0019】
図1を参照して、(a)に示すように、テープ(1) の測定面(1a)(バックコート層面又は磁性層面)が、断面正方形の角柱状センダスト鋼材(2) の稜(2a)に接するようにテープを走行させ、センダスト鋼材を摩耗させる(b)。
1.12.650mm幅テープ使用
2.テープ走行速度:2.54m/sec
3.300mテープ,600パス(300往復)走行
4.センダスト鋼材:SD−5 角柱:90°(断面正方形)
5.センダスト鋼材部テープ走行時張力:1.4N/テープ幅
6.センダスト鋼材部テープラップ角度θ:164°
7.テープ走行後の摩耗されたセンダスト鋼材の平坦面のテープ走行方向の長さL(μm)を3点につき測定し、その平均値Lmを算出し、以下の式によりテープ1m当たりの摩耗体積量を算出する。
摩耗体積量[(μm)3/m)]=[(1/2)×Lm×(Lm/2) ×12.650×103]/300
【0020】
本発明の磁気記録媒体は、バックコート層のセンダスト摩耗体積量SBCと磁性層のセンダスト摩耗体積量SMCの比(SBC/SMC)が0.5〜3.0であり、好ましくは0.5〜2.0である。この範囲のSBC/SMC比とすることによって、ドライブでのテープ走行時において、バックコート層と磁性層との高速摺動によっても磁性層へのキズ及び削れを抑制できる。SBC/SMC比が3.0を越えると、バックコート層の塗膜強度が磁性層の塗膜強度に比べ強すぎ、ドライブでのテープ走行時において、バックコート層による磁性層へのキズの発生が顕著となる。一方、SBC/SMC比が0.5より小さいと、磁性層の塗膜強度がバックコート層の塗膜強度に比べ強すぎ、実機テープ走行時において、磁性層によるバックコート層へのキズの発生が顕著となる。
【0021】
磁性層のセンダスト摩耗体積量の絶対量は、媒体が使用される各々の記録システム上の規格値範囲内に設定されることが必要となる。記録システムにおいては記録層(磁性層)側に単位時間当たりのヘッド摩耗量の規定が設けられていることが多く、最近の記録システムにおいてはヘッド寿命を考慮すると、磁性層のセンダスト摩耗体積量SMCは3.0×104 (μm)3/m以下がよい。SMCが3.0×104 (μm)3/mを超えると、ヘッド寿命に悪影響を及ぼす。このように規格化された磁性層に対して、SBC/SMCが0.5〜3.0となる範囲において、バックコート層の塗膜強度を強くしつつ、センダスト摩耗体積量SBCを設定することが重要となる。
【0022】
本発明において、塗膜強度として、バックコート層のセンダスト摩耗体積量SBCは0.4×104 〜4.0×104 (μm)3/mが好ましい。SBCが0.4×104 (μm)3/m未満であると、バックコート層強度が弱く、ドライブ走行でのガイドロールによる削れが発生する場合があり、SBCが4.0×104 (μm)3/mを超えると、磁性層にキズを発生させる場合がある。
【0023】
磁性層及びバックコート層双方について、塗膜強度向上のためには、硬質無機粉末(モース硬度5〜9程度)を層中に含有させることや、ニトロセルロース等の樹脂を用いることが考えられる。逆に、塗膜強度抑制のためには、軟質無機粉末(モース硬度3〜4.5)を層中に含有させることや、カレンダ加工時での変形量の多い塩化ビニル/ポリウレタン系樹脂等を用いることが考えられる。本発明においては、適切な無機粉末の含有、樹脂の使用、及び有機物添加剤の含有などによって、ある程度任意に磁性層及びバックコート層の塗膜強度を調整し、センダスト摩耗体積量SMC、SBCを設定できる。
【0024】
また、塗膜強度としてのセンダスト摩耗体積量を大きく支配する因子として表面粗さがある。表面粗さが小さいものほどセンダスト摩耗体積量は少なく、ヘッド摩耗量も少なくなる。一般的に磁性層の摩耗量が少ないのは、磁性層が硬質無機粉末を含有していても、記録時のスペーシングロスを考慮するためバックコート層に比較して格段に磁性層表面粗さが小さくされていることによる。しかし、バックコート層においても、その表面粗さが大きすぎると、巻き取り状態や熱硬化時において磁性層側への面粗さ転写を引き起こし、エラーレートの悪化を招くため、適切な表面粗さの設定が必要である。
【0025】
現在の記録システムにおける磁性層のヘッド摩耗規格、及び高密度記録化による磁性層表面平滑化に伴う低研磨能化が進む現状においては、バックコート層の表面粗さはRa値(Ra値は、中心線平均粗さ(JIS−B−0601)で表される表面粗さである)で20nm以下が好ましく、4〜15nmがより好ましい。表面粗さはRaが20nmを超えると、磁性層表面への面粗さ転写が起こることがある。
【0026】
同一組成物を用いてバックコート層を形成する場合においては、表面粗さを小さくするには、分散レベルの向上、及びカレンダ加工時の温度・加工圧条件を強化すること等が考えられる。逆に表面粗さを大きくするには、カレンダ加工条件を低下させたり、カレンダ加工を行わないこと等でコントロールできる。留意しなければいけないことは、表面粗さと動摩擦係数はほぼ反比例するため、表面粗さRa値が小さすぎると摩擦低下目的の有機物添加剤をバックコート層中に含有せしめても摩擦上昇を抑制できず、テープ走行が不安定になるだけでなく、ガイドロール等の走行系との摩擦によって塗膜へ過剰な負荷がかかり塗膜の欠損をもたらす。加えて、テープ走行安定化のためには、磁性層とバックコート層の動摩擦係数のバランスが必要であり、低すぎるバックコート層の動摩擦係数は好ましくない。好ましいバックコート層の動摩擦係数は0.10〜0.40であり、より好ましくは0.10〜0.30である。
【0027】
磁性層表面の中心線平均粗さ(Ra)は、1.0〜8.0nm、好ましくは2.0〜7.0nmとする。Raが1.0nm未満では表面が平滑すぎて、走行安定性が悪化して走行中のトラブルが生じやすくなる。一方、8.0nmを越えると、磁性層表面が粗くなり、MR型ヘッドを用いた再生システムでは、再生出力等の電磁変換特性が劣化する。
【0028】
最近の高密度記録対応の記録波長が小さくなるにつれて、磁性層の出力やエラーレート等の正確な評価においては、微小領域(例えば、10μm×10μm程度)での表面粗さをも考慮することが好ましい。微小領域のみの表面粗さという観点から、磁性層の表面粗さは、AFM表面粗さRa値として3.0〜8.0nmが好ましく、3.0〜6.0nmがより好ましい。AFMRa値は、原子間力顕微鏡を用いて測定された表面粗さ曲線より、JIS−B−0601で定義されるRaを求めたものである。AFM表面粗さRaが3.0nm未満であると、表面が平滑すぎて、走行安定性が悪化して走行中のトラブルが生じやすくなる。一方、8.0nmを越えると、エラーレートの悪化を招く恐れが高くなる。
【0029】
次に、本発明の磁気記録媒体について、各層ごとに説明する。
【0030】
[バックコート層]
バックコート層は、走行安定性の改善や磁性層の帯電防止等のために設けられ、カーボンブラック、カーボンブラック以外の非磁性無機粉末、結合剤樹脂を含む。
【0031】
バックコート層は、バックコート層を基準として30〜80重量%のカーボンブラックを含有することが好ましい。カーボンブラックの含有量が少なすぎると帯電防止効果が低下する傾向があり、さらに走行安定性が低下しやすくなる。また、媒体の光透過率が高くなりやすいので、テープ端を光透過率の変化で検出する方式では問題となる。一方、カーボンブラックの含有量が多すぎると、バックコート層の強度が低下し、走行耐久性が悪化しやすくなる。カーボンブラックは、通常使用されるものであればどのようなものであってもよく、その平均粒径は、5〜500nm程度が好ましい。平均粒径は、通常、透過型電子顕微鏡により測定する。
【0032】
カーボンブラック中に含まれる水溶性ナトリウムイオン及び水溶性カルシウムイオンは少ない方が好ましく、水溶性ナトリウムイオン含有量は500ppm以下、さらには300ppm以下が好ましい。水溶性カルシウムイオン含有量は300ppm以下、さらには200ppm以下が好ましい。上記範囲を上回ると塗膜中に含まれる有機酸(特に、後述する脂肪酸)と塩を形成し、塗膜表面に吐出し、ドロップアウトやエラーレート増加の要因となる。
【0033】
カーボンブラック中に含まれる水溶性ナトリウムイオン及び水溶性カルシウムイオンを低減するには、カーボンブラックの製造工程中における反応停止流体として使用される水、あるいは造粒工程にて使用される水の純度を高めればよい。カーボンブラックの製造方法は、特開平11−181323号公報、特開平10−46047号公報、特開平8−12898号公報に記載されている。
【0034】
バックコート層には、前記カーボンブラック以外に、機械的強度をコントロールするために、各種非磁性無機粉末を用いることができ、無機粉末として例えば、α−Fe2 O3 (モース硬度6〜6.5)、CaCO3 (モース硬度3)、酸化チタン(モース硬度6.5)、硫酸バリウム(モース硬度3.5)、α−Al2 O3 (モース硬度9)等を挙げることができる。非磁性無機粉末の含有量は、カーボンブラック100重量部に対し、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.5〜15重量部である。非磁性無機粉末の平均粒径は、0.01〜0.5μmであることが好ましい。このような非磁性無機粉末の含有量が少なすぎると、バックコート層の機械的強度が不十分となりやすく、多すぎるとテープ摺接経路のガイド等の摩耗量が多くなりやすいことや、磁性層へのキズを生じせしめることとなる。
【0035】
バックコート層には、上記材料の他に結合剤として、熱可塑性樹脂、熱硬化性ないし反応型樹脂、放射線(電子線又は紫外線)硬化型樹脂等が、媒体の特性、工程条件に合わせて適宜組み合わせて選択されて使用される。
【0036】
熱可塑性樹脂としては、軟化温度が150℃以下、平均分子量5000〜200000、重合度50〜2000程度のものが用いられ、また、熱硬化性樹脂、反応型樹脂又は放射線硬化型樹脂としては、平均分子量5000〜200000、重合度50〜2000程度のものであって、塗布、乾燥、カレンダー加工後に加熱及び/又は放射線(電子線又は紫外線)照射することにより、縮合、付加等の反応により分子量が増大するものが用いられる。
【0037】
これらのうちで、好ましく用いられるものとしては、以下に示すようなニトロセルロース及びポリウレタン樹脂の組み合わせ、塩化ビニル系共重合体及びポリウレタン樹脂の組み合わせである。
【0038】
塩化ビニル系共重合体としては、塩化ビニル含有量60〜95重量%、特に60〜90重量%のものが好ましく、その平均重合度は100〜500程度であることが好ましい。
【0039】
このような塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリート共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリート−マレイン酸共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、塩化ビニル−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、塩化ビニル−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート共重合体等が挙げられ、特に塩化ビニルとエポキシ(グリシジル)基を含有する単量体との共重合体が好ましい。
【0040】
塩化ビニル系共重合体は、分散性向上のために、硫酸基(−OSO 3 Y)及び/又はスルホ基(−SO3 Y)を極性基(以下、S含有極性基という)として含有するものが好ましい。前記S含有極性基において、Yは、H、アルカリ金属のいずれであってもよいが、Y=K、すなわち−OSO 3 K、−SO3 Kであることが特に好ましい。塩化ビニル系共重合体は、前記S含有極性基のうちいずれか一方のみを含有していてもよく、両者を含有していてもよく、両者を含むときにはその含有比は任意である。
【0041】
上記塩化ビニル系樹脂と併用するポリウレタン樹脂とは、ポリエステルポリオール及び/又はポリエーテルポリオール等のヒドロキシ基含有樹脂とポリイソシアネート含有化合物との反応により得られる樹脂の総称であって、数平均分子量5000〜200000程度で、Q値(重量平均分子量/数平均分子量)1.5〜4程度のものである。
【0042】
ポリウレタン樹脂は、末端や側鎖に極性基を有するものであっても良く、特に硫黄及び/又は燐を含有する極性基を含有しているものが好ましい。
【0043】
ポリウレタン樹脂中に含まれる極性基として、−SO3 M、−OSO 3 M、−SR等のS含有基、−PO3 M、−PO2 M、−POM、−P=O(OM1 )(OM2 )、−OP=O(OM1 )(OM2 )等のP含有極性基、−COOM、−OH、−NR2 、−N+ R3 X- (ここで、M、M1 、M2 は、H、Li、Na、Kを示し、Rは、H又は炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示す)、エポキシ基、−CN等が挙げられる。これらの極性基から選ばれる少なくとも1つの極性基が、共重合又は付加反応により導入されたポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。これら極性基は、分子中に0.01〜3重量%含まれていることが好ましく、これら極性基は骨格樹脂の主鎖中に存在しても、分枝中に存在してもよい。
【0044】
またポリウレタン樹脂は、ガラス転移温度Tgが−20℃≦Tg≦80℃の範囲のものが好ましい。
【0045】
このようなポリウレタン樹脂は公知の方法により、特定の極性基含有化合物及び/又は特定の極性基含有化合物と反応させた原料樹脂等を含む原料を、溶剤中又は無溶剤中で反応させることにより得られる。
【0046】
ポリウレタン樹脂は、バックコート層において全結合剤の10〜90重量%用いられることが好ましい。ポリウレタン樹脂を含有することで、カレンダ加工性、高温度環境下での走行安定性、電磁変換特性のバランスが得られる点で好ましく、また、耐摩耗性及び支持体への接着性が得られる点で特に有効である。塩化ビニル系共重合体と、硫黄及び/又は燐を含有する極性基含有ポリウレタン樹脂とは、その重量混合比(塩化ビニル系共重合体:ポリウレタン樹脂)が10:90〜90:10となるように混合して用いることが好ましい。
【0047】
塩化ビニル系共重合体及びポリウレタン樹脂に加えて、バックコート層において全結合剤の20重量%以下の範囲で、公知の各種樹脂が含有されてもよい。
【0048】
塩化ビニル系共重合体及びポリウレタン樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン系共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、ニトロセルロース、スチレン−ブタジエン系共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、アセタール樹脂、エポキシ系樹脂、フェノキシ系樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカプロラクトン等の多官能性ポリエーテル類、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ポリブタジエンエラストマー、塩化ゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、エポキシ変性ゴム等が挙げられる。
【0049】
また、熱硬化性樹脂としては、縮重合するフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、ブチラール樹脂、ホルマール樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、アクリル系反応樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、飽和ポリエステル樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0050】
これらの結合剤樹脂を硬化する架橋剤としては、各種ポリイソシアナート、特にジイソシアナートを用いることができ、特に、トリレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、メチレンジイソシアナートの1種以上を用いることが好ましい。これらの架橋剤は、トリメチロールプロパン等の水酸基を複数有するもので変性した架橋剤又はジイソシアネート化合物3分子が結合したイソシアヌレート型の架橋剤として用いることが特に好ましく、結合剤樹脂に含有される官能基等と結合して樹脂を架橋する。架橋剤の含有量は、結合剤樹脂100重量部に対し、10〜30重量部とすることが好ましい。このような熱硬化性樹脂を硬化するには、一般に加熱オーブン中で50〜70℃にて12〜48時間加熱すればよい。
【0051】
さらに、上記結合剤樹脂を公知の手法により(メタ)アクリル系二重結合を導入して電子線感応変性を行ったものを使用することも可能である。この電子線感応変性を行うには、樹脂に対し、トリレンジイソシアネート(TDI)と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(2−HEMA)との反応物(アダクト)を反応させるウレタン変性、エチレン性不飽和二重結合を1個以上及びイソシアネート基1個を1分子中に有し、かつウレタン結合を分子中に持たないモノマー(2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレート等)を用いる改良型ウレタン変性、水酸基やカルボン酸基を有する樹脂に対し、(メタ)アクリル基とカルボン酸無水物あるいはジカルボン酸とを有する化合物を反応させるエステル変性がよく知られている。これらの中でも改良ウレタン変性が、塩化ビニル系樹脂の含有比率を上げても脆くならず、しかも分散性、表面性に優れた塗膜を得ることができるため好ましい。
【0052】
これら電子線硬化型結合剤樹脂を用いる場合、架橋率を向上させるために従来公知の多官能アクリレートを、結合剤樹脂100重量部に対して1〜50重量部、好ましくは5〜40重量部混合して使用してもよい。
【0053】
バックコート層に用いる結合剤樹脂の含有量は、カーボンブラックと非磁性無機粉末の合計100重量部に対し、好ましくは15〜200重量部、より好ましくは50〜180重量部である。結合剤樹脂の含有量が多すぎると、テープ摺接経路のガイドロール等との摩擦が大きくなりすぎて走行安定性が低下し、走行事故を起こしやすくなる。また、磁性層とのブロッキング等の問題が発生する。結合剤樹脂の含有量が少なすぎると、バックコート層の強度が低下して走行耐久性が低下しやすくなる。
【0054】
バックコート層には、必要に応じ、界面活性剤等の分散剤、高級脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコンオイル等の潤滑剤、その他の各種添加物を添加してもよい。
【0055】
潤滑剤としては、飽和、不飽和に関わらず、脂肪酸、脂肪酸エステル、糖類など公知のものを、単独であるいは2種以上混合して用いることができ、融点の異なる脂肪酸を2種以上混合し用いることや、融点の異なる脂肪酸エステルを2種以上混合し用いることも好ましい。これは、磁気記録媒体の使用される、あらゆる温度環境に応じた潤滑剤を、媒体表面に持続して供給する必要があるからである。
【0056】
具体的には、脂肪酸として、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、エルカ酸などの飽和直鎖脂肪酸や、イソセチル酸、イソステアリン酸などの飽和で側鎖を有する脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの不飽和脂肪酸などを適宜使用することができる。
【0057】
脂肪酸エステルとしては、ブチルステアレート、ブチルパルミテートなどの直鎖の飽和脂肪酸エステル、イソセチルステアレート、イソステアリルステアレートなどの側鎖を有する飽和脂肪酸エステル、イソステアリルオレエートなどの不飽和脂肪酸エステル、オレイルステアレートなどの不飽和アルコールの脂肪酸エステル、オレイルオレエートなどの不飽和脂肪酸と不飽和アルコールのエステル、エチレングリコールジステアレートなどの2価アルコールのエステル、エチレングリコールモノオレエート、エチレングリコールジオレエート、ネオペンチルグリコールジオレエートなどの2価アルコールと不飽和脂肪酸のエステル、またソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエートなどの糖類と飽和又は不飽和脂肪酸とのエステルなどが挙げられる。
【0058】
バックコート層の潤滑剤の含有量は、目的に応じ適宜調整すればよいが、カーボンブラックとカーボンブラック以外の無機粉末を加えた合計重量に対し、1〜20重量%が好ましい。
【0059】
バックコート層形成用の塗料は、上記各成分に有機溶剤を加えて調整する。用いる有機溶剤は特に制限はなく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤や、トルエン等の芳香族系溶剤などの各種溶媒の1種又は2種以上を、適宜選択して用いればよい。有機溶剤の添加量は、カーボンブラックや各種無機粉末等と結合剤樹脂との合計量100重量部に対し100〜900重量部程度とすればよい。
【0060】
バックコート層の厚さ(カレンダー加工後)は、1.0μm以下、好ましくは0.1〜1.0μm、より好ましくは0.2〜0.8μmである。バックコート層が厚すぎると、テープ摺接経路のガイドロール等との摩擦が大きくなりすぎて、走行安定性が低下する傾向にある。一方、バックコート層が薄すぎると、媒体の走行時にバックコート層の削れが発生しやすい。また、バックコート層が薄すぎると、非磁性支持体の表面粗さの影響でバックコート層の表面平滑性が低下する。このため、バックコートを熱硬化する際にバックコート層表面の粗さが磁性層表面に転写され、高域出力、S/N、C/Nの低下を招きやすい。
【0061】
[下層非磁性層]
下層非磁性層は、カーボンブラック、カーボンブラック以外の非磁性無機粉末、結合剤樹脂を含む。
【0062】
非磁性層に含まれるカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネスブラック、ゴム用サーマルブラック、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。比表面積は5〜600m2 /g、DBP吸油量は30〜400ml/100g、粒子径は10〜100nmが好ましい。使用できるカーボンブラックは具体的には「カーボンブラック便覧」、カーボンブラック協会編を参考にすることができる。
【0063】
カーボンブラック中に含まれる水溶性ナトリウムイオン及び水溶性カルシウムイオンは少ない方が好ましく、水溶性ナトリウムイオン含有量は500ppm以下、さらには300ppm以下が好ましい。水溶性カルシウムイオン含有量は300ppm以下、さらには200ppm以下が好ましい。上記範囲を上回ると塗膜中に含まれる有機酸(特に脂肪酸)と塩を形成し、塗膜表面に吐出し、ドロップアウトやエラーレート増加の要因となる。
【0064】
非磁性層にはカーボンブラック以外の各種無機粉末を用いることができ、例えば、針状の非磁性酸化鉄(α−Fe2 O3 )、CaCO3 、酸化チタン、硫酸バリウム、α−Al2 O3 等の無機粉末が挙げられる。これらの無機粉末中に含まれる水溶性ナトリウムイオン及び水溶性カルシウムイオンは少ない方が好ましく、水溶性ナトリウムイオン含有量は70ppm以下、さらには50ppm以下が好ましい。上記範囲を上回ると塗膜中に含まれる有機酸(特に脂肪酸)と塩を形成し、塗膜表面に吐出し、ドロップアウトやエラーレート増加の要因となる。無機粉末中に含まれる水溶性ナトリウムイオン及び水溶性カルシウムイオンを低減するには、水洗工程を加えればよい。
【0065】
カーボンブラックと前記カーボンブラック以外の無機粉末の配合比率は、重量比(カーボンブラック/無機粉末)で100/0〜5/95が好ましい。カーボンブラックの配合比率が5重量部を下回ると、表面電気抵抗に問題が生じる。
【0066】
下層非磁性層には、上記材料の他に結合剤として、熱可塑性樹脂、熱硬化性ないし反応型樹脂、放射線(電子線又は紫外線)硬化型樹脂等が、媒体の特性、工程条件に合わせて適宜組み合わせて選択されて使用される。バックコート層で説明した結合剤と同様のものの中から、適宜選択して使用することができる。
【0067】
下層非磁性層に用いる結合剤樹脂の含有量は、下層非磁性層中のカーボンブラックとカーボンブラック以外の無機粉末の合計100重量部に対し、好ましくは10〜100重量部、より好ましくは12〜30重量部である。結合剤の含有量が少なすぎると、下層非磁性層における結合剤樹脂の比率が低下し、十分な塗膜強度が得られない。結合剤の含有量が多すぎると、下層非磁性層塗料作成時に分散不良を起こし、平滑な下層非磁性層面を形成することができなくなる。
【0068】
下層非磁性層には必要に応じて潤滑剤を含有することが好ましい。バックコート層で説明した潤滑剤と同様のものの中から、適宜選択して使用することができる。下層非磁性層の潤滑剤の含有量は、目的に応じ適宜調整すればよいが、カーボンブラックとカーボンブラック以外の無機粉末を加えた合計重量に対し、1〜20重量%が好ましい。
【0069】
下層非磁性層形成用の塗料は、上記各成分に有機溶剤を加えて調整する。用いる有機溶剤は特に制限はなく、バックコート層で説明した有機溶剤と同様のものの中から、適宜選択して使用するとよい。有機溶剤の添加量は、カーボンブラックや各種無機粉末等と結合剤樹脂との合計量100重量部に対し100〜900重量部程度とすればよい。
【0070】
下層非磁性層の表面粗さ(ここで表面粗度を中心線平均粗さ(JIS−B−0601)Raで表わした。)は、良好である必要がある。下層非磁性層の平滑化処理後のRaは8.0nm以下が好ましく、6.0nm以下がより好ましく、5. 0nm以下が最も好ましい。8.0nmを超えると、上層磁性層/下層非磁性層界面が不均一となり出力変動を起こす傾向がある。
【0071】
下層非磁性層の厚さは、通常0.1〜2.5μm、好ましくは0.3〜2.3μmである。非磁性層が薄すぎると、非磁性支持体の表面粗さの影響を受けやすくなり、その結果、非磁性層の表面平滑性が悪化して磁性層の表面平滑性も悪化しやすくなり、電磁変換特性が低下する傾向にある。また、光透過率が高くなるので、テープ端を光透過率の変化により検出する場合に問題となる。一方、非磁性層をある程度以上厚くしても性能は向上しない。
【0072】
[上層磁性層]
上層磁性層は、少なくとも強磁性粉末、結合剤樹脂及びモース硬度6以上の研磨材を含有する。
【0073】
本発明において、強磁性粉末としては、金属磁性粉末又は六方晶形板状微粉末を用いることが好ましい。金属磁性粉末としては、保磁力Hcが118.5〜237kA/m(1500〜3000Oe)、飽和磁化σsが120〜160Am2/kg(emu/g)、平均長軸長が0.05〜0.2μm、平均短軸長が10〜20nm、アスペクト比が1.2〜20であることが好ましい。また、金属磁性粉末を用いて作製した媒体のHcは118.5〜237kA/m(1500〜3000Oe)が好ましい。六方晶形板状微粉末としては、保磁力Hcが79〜237kA/m(1000〜3000Oe)、飽和磁化σsが50〜70Am2/kg(emu/g)、平均板粒径が30〜80nm、板比が3〜7であることが好ましい。また、六方晶形板状微粉末を用いて作製した媒体のHcは94.8〜173.8kA/m(1200〜2200Oe)が好ましい。
【0074】
金属磁性粉末は、第一鉄塩とアルカリを混合した水懸濁液に、酸化性ガスを吹き込むことによって得られるオキシ水酸化鉄を出発原料とする。このオキシ水酸化鉄の種類としては、α−FeOOHが好ましく、その製法としては、第一鉄塩を水酸化アルカリで中和してFe(OH)2 の水懸濁液とし、この懸濁液に酸化性ガスを吹き込んで針状のα−FeOOHとする第一の製法がある。一方、第一鉄塩を炭酸アルカリで中和してFeCO3 の水懸濁液とし、この懸濁液に酸化性ガスを吹き込んで紡錘状のα−FeOOHとする第二の製法がある。
【0075】
これらの方法で用いる第一鉄塩としては、塩化第一鉄、硝酸第一鉄、硫酸第一鉄のいずれを使用してもよい。また、第一の製法で用いる水酸化アルカリとしては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア水が使用可能である。また、第二の製法で用いる炭酸アルカリとしては、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等が使用可能である。
【0076】
上記第一の製法を用いて、微細で枝分かれがなく、分散性、パッキング性に優れる金属磁性粉末を得るのに適したα−FeOOHを製造する条件は、第一鉄塩の中和に必要なアルカリ量の2〜10倍量のアルカリを使用し、アルカリ濃度の高い条件でFe(OH)2 の酸化反応を進めることである。アルカリ濃度の高い領域での反応は、枝分かれのない粒子を得るのに必要な条件である。また、粒子の大きさのコントロールは、一般に知られているように、反応温度、酸化性ガスの吹き込み量のコントロールによって可能であるが、その他として、第一鉄塩中にNi、Co、Al、Si等の金属塩を存在させておき、これをアルカリで中和してから酸化反応を進めることによっても、粒子の寸法をコントロールすることが可能である。
【0077】
第二の製法では、生成する紡錘状のα−FeOOHは枝分かれがなく、粒度の揃った微細な粒子が得やすい。また第二の製法における粒子の大きさのコントロールは、水懸濁液中の鉄の濃度、反応温度、酸化性ガスの吹き込み量を変化させることにより可能である。また、第一の製法と同じようにNi、Co等の添加によっても粒子の形状をコントロールすることができる。
【0078】
以下、第一の製法で得た針状のα−FeOOHを原料とする金属磁性粉末の製造方法を例として説明する。先ず、第一鉄塩を中和に必要な量の2倍量以上の水酸化アルカリで中和して、Fe(OH)2 のアルカリ懸濁液とし、これに酸化性ガスを吹き込んで針状のα−FeOOHを得る。この時、α−FeOOHの針状比及び形状をコントロールするために、Ni、Co、Zn、Cr、Mn、Zr、Al、Si、P、Ba、Ca、Mg、Cu、Sr、Ti、Mo、Ag、稀土類元素等の金属をドープしておくことができる。これらの異種金属の添加方法は、第一鉄塩中に均一に混合しておいても良く、また反応の途中で添加しても良い。添加量については所望する形状、大きさにより、経験的に決められる。
【0079】
なお、本方法では、第一鉄塩をアルカリで中和してFe(OH)2 の懸濁液を生成させ、これを酸化してα−FeOOHを製造するのであるが、この時使用するアルカリ量を中和当量の2倍以上使用することにより、金属磁性粉末とした時に保磁力の高い原料α−FeOOHが得られる。このようなアルカリの過剰量は、多ければ多いほどα−FeOOHの枝分かれは少なくなるが、10倍以上加えてもそれ以上の効果は発現しないため、10倍以上の過剰量を加える反応は効率的でない。
【0080】
また、好ましい金属磁性粉末を得るのに必要なα−FeOOH粒子の大きさは、その比表面積BET値が60〜130m2/gの範囲となる大きさとすることが必要である。この比表面積が60m2/g未満では、粒子が大きすぎて高保磁力は得られないし、単波長領域用の磁性材料として好ましくない。また、比表面積が130m2/gを超えると、粒子が細かくなりすぎ超常磁性が発現するためかも知れないが、高保磁力は得られないし、また粒子の不揃いによるためかも知れないが、保磁力分布の広いものになってしまう。
【0081】
次に、Ni、Co、Zn、Cr、Mn、Zr、Al、Si、P、Ba、Ca、Mg、Cu、Sr、Ti、Mo、Ag、稀土類元素等がドープされているか又はドープされていないα−FeOOHに、Ni、Co、Al、Si及び稀土類元素の内の1種以上を含有させる。この際の含有方法としては、各種金属塩を酸又はアルカリで中和して、粒子表面上に水酸化物の微小な結晶の膜として被着させる方法が一般的である。Ni、Co、稀土類元素は、α−FeOOHを生成させる反応で必要量ドープされている場合は、新たにα−FeOOH粒子の表面に被着させなくてもよい場合もあるが、これらの元素を多量に含有させる必要がある場合は、ドープされる量に限界があるので、さらに表面にこれらの元素を被着させる。なお、金属磁性粉末中の各金属元素の含有量は以下の範囲が好ましい。以下の数値は鉄を100としたときの各金属の重量比である。
【0082】
Ni=0.3〜8.0
Co=3.0〜45.0
Al=0.5〜8.0
Si=0.5〜8.0
稀土類元素=0.2〜10.0
但し、Al+Si=2.0〜15.0
【0083】
稀土類元素は、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、及びYのうちの少なくとも1種であり、これらの組合せでも有効である。添加する金属は、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等の水溶性塩の使用が便利である。Siの場合は、メタ珪酸ソーダ、オルト珪酸ソーダ、水ガラスが使用できる。被着の順序は、まず合金化して金属磁性粉末の磁気特性をコントロールするNi及びCoを先に被着し、次に熱による粒子の焼結を防止するAlとSiを被着することが好ましい。稀土類元素の場合は、α力を高める効果があり、Al及び/又はSiを被着する時に被着しても効果はあるが、内部に存在させた方が効果は大きい。
【0084】
次に、上記各金属を所定量被着した後、これを十分に水洗して乾燥し、非還元性雰囲気中で、300〜800℃の温度で熱処理をする。熱処理温度が300℃未満では、α−FeOOHが脱水して生じたα−Fe2 O3 粒子中の空孔が多くなり、その結果、還元後の金属磁性粉末の特性が劣ることとなる。また、熱処理温度が800℃を超えると、α−Fe2 O3 粒子の融解が始まり粒子の形状が変化したり、あるいは焼結が進行し、その結果、得られた金属磁性粉末の特性は劣化する。
【0085】
次に、熱処理後の金属磁性粉末を水素ガス気流下で300〜600℃の温度で還元し、公知の方法で粒子の表面に酸化皮膜を形成させて金属磁性粉末を得る。金属磁性粉末中に含まれる水溶性ナトリウムイオン及び水溶性カルシウムイオンを低減するには、上記製造法において使用される水の純度を高めたり、ナトリウムあるいはカルシウムを含まないアルカリを使用すればよい。
【0086】
六方晶フェライトの製法としては、以下の方法等が挙げられ、いずれの製法を用いてもよい。
▲1▼ 酸化バリウム、酸化鉄、鉄を置換する金属酸化物、及びガラス形成物質として酸化ホウ素等を所望のフェライト組成になるように混合した後、溶融し、急冷して非晶質体とし、次いで、再加熱処理した後、洗浄、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得るガラス結晶化法。
▲2▼ バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後、100℃以上で液相加熱し、その後、洗浄、乾燥、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る水熱反応法。
▲3▼ バリウムフェライト組成金属塩溶液をアルカリで中和し、副生成物を除去した後、乾燥し、1100℃以下で処理し、粉砕してバリウムフェライト結晶粉体を得る共沈法。
【0087】
六方晶フェライト粉末中に含まれる水溶性ナトリウムイオン及び水溶性カルシウムイオンを低減するには、上記製造法▲1▼〜▲3▼にて使用される水の純度を高めたり、ナトリウムあるいはカルシウムを含まないアルカリを使用すればよい。
【0088】
強磁性粉末中に含まれる水溶性ナトリウムイオン含有量は70ppm以下、さらには50ppm以下が好ましい。水溶性カルシウムイオン含有量は30ppm以下、さらには20ppm以下が好ましい。上記範囲を上回ると塗膜中に含まれる有機酸(特に脂肪酸)と塩を作り、塗膜表面に吐出し、ドロップアウトやエラーレート増加の要因となる。
【0089】
このような強磁性粉末は、磁性層を基準として70〜90重量%程度含まれていればよい。強磁性粉末の含有量が多すぎると、結合剤の含有量が減少するためカレンダ加工による表面平滑性が悪化しやすくなり、一方、強磁性粉末の含有量が少なすぎると、高い再生出力を得られない。
【0090】
磁性層用の結合剤として、特に制限なく、熱可塑性樹脂、熱硬化性ないし反応型樹脂、放射線(電子線又は紫外線)硬化型樹脂等が、媒体の特性、工程条件に合わせて適宜組み合わせて選択されて使用される。バックコート層で説明した結合剤と同様のものの中から、適宜選択して使用することができる。
【0091】
磁性層に用いる結合剤樹脂の含有量は、強磁性粉末100重量部に対し、好ましくは5〜40重量部、特に好ましくは10〜30重量部である。結合剤の含有量が少なすぎると、磁性層の強度が低下し、走行耐久性が悪化しやすくなる。一方、結合剤の含有量が多すぎると、強磁性粉末の含有量が低下するため、電磁変換特性が低下する傾向にある。
【0092】
さらに磁性層中には、磁性層の機械的強度を高めるためと、磁気ヘッドの目詰まりを防ぐために、モース硬度6以上の研磨材を含有させる。研磨材としては、例えば、α−アルミナ(モース硬度9)、酸化クロム(モース硬度9)、炭化珪素(モース硬度9.5)、酸化珪素(モース硬度7)、窒化アルミニウム(モース硬度9)、窒化硼素(モース硬度9.5)等のモース硬度6以上、好ましくはモース硬度9以上の研磨材を少なくとも1種含有させることが好ましい。これらは通常、不定形状であり、磁気ヘッドの目詰まりを防ぎ、塗膜の強度を向上させる。
【0093】
研磨材の平均粒径は、例えば0.01〜0.3μmであり、0.05〜0.2μmであることが好ましい。平均粒径が大きすぎると、磁性層表面からの突出量が大きくなって、電磁変換特性の低下、ドロップアウトの増加、ヘッド摩耗量の増大等を招く。平均粒径が小さすぎると、磁性層表面からの突出量が小さくなって、ヘッド目詰まりの防止効果が不十分となる。
【0094】
平均粒径は、通常、透過型電子顕微鏡により測定する。研磨材の含有量は、強磁性粉末100重量部に対し、3〜25重量部、好ましくは5〜20重量部含有すればよい。
【0095】
このような研磨材平均粒径と添加量として、さらに磁性層の中心線平均粗さRaを1.0〜8.0nmの範囲内とすることにより、磁性層のセンダスト摩耗体積量SMCを3.0×104 (μm)3/m以下とすることができ、各磁気記録システムでのヘッド磨耗量の規格内とされる。
【0096】
また、磁性層中には、必要に応じ、界面活性剤等の分散剤、高級脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコンオイル等の潤滑剤、その他の各種添加物を添加してもよい。
【0097】
磁性層形成用の塗料は、上記各成分に有機溶剤を加えて調製する。用いる有機溶剤は特に制限はなく、下層非磁性層に使用するものと同様のものが使用可能である。
【0098】
媒体の上層として設ける磁性層の厚さは、0.30μm以下、好ましくは0.05〜0.30μm、更に好ましくは0.10〜0.25μmとする。磁性層が厚すぎると、自己減磁損失や厚み損失が大きくなる。
【0099】
[非磁性支持体]
非磁性支持体として用いる材料には特に制限はなく、目的に応じて各種可撓性材料、各種剛性材料から選択し、各種規格に応じてテープ状などの所定形状および寸法とすればよい。例えば、可撓性材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネートなどの各種樹脂が挙げられる。
【0100】
これら非磁性支持体の厚さは3.0〜15.0μmであることが好ましい。非磁性支持体の形態はテープ状であり、また必要に応じて種々の材料を選択して使用することができる。
【0101】
本発明で使用される非磁性支持体の表面粗さは、中心線平均表面粗さRaで20nm以下、好ましくは15nm以下である。非磁性支持体の表面粗さは、必要に応じて非磁性支持体に添加されるフィラーの大きさと量により自由に制御される。これらフィラーの例としては、Ca、Si、Ti、Alなどの酸化物や炭酸塩の他、アクリル系などの有機樹脂微粉末が挙げられ、好ましくは、Al2 O3 と有機樹脂微粉末の組み合わせである。
【0102】
[製造方法]
本発明の磁気記録テープは、非磁性支持体の片面上に下層非磁性層用塗料及び磁性層用塗料をこの順に塗布して、非磁性支持体上の他面上にバックコート層用塗料を塗布することにより、製造することができる。
【0103】
前記バックコート層用塗料、下層非磁性層用塗料及び磁性層用塗料を製造する工程は、それぞれ、少なくとも混練工程、分散工程、及びこれらの工程の前後に必要に応じて行われる混合工程、粘度調整工程及び濾過工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていても構わない。本発明に使用する強磁性粉末、非磁性無機粉末、結合剤、研磨材、カーボンブラック、潤滑剤、溶剤などすべての材料は、どの工程の最初又は途中で添加しても構わない。また、個々の材料を2つ以上の工程で分割して添加しても構わない。
【0104】
塗料の混練・分散には、従来公知の製造技術を一部又は全部の工程に用いることができることはもちろんであるが、混練工程では連続ニーダや加圧ニーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。連続ニーダ又は加圧ニーダを用いる場合は、強磁性粉末あるいは非磁性無機粉末、結合剤及び少量の溶剤が混練処理される。混練時のスラリー温度は、50℃〜110℃が好ましい。
【0105】
また、各工程において塗料の分散には、高比重の分散メディアを用いることが望ましく、ジルコニア、チタニア等のセラミック系メディアが好適である。従来より用いられているガラスビーズは、分散時のビーズ摩耗により不純物として塗料中に水溶性ナトリウムイオン及び水溶性カルシウムイオンが混入するため使用することはできない。
【0106】
磁気記録テープの製造に際して、非磁性支持体の片面上に、下層非磁性層用塗料を塗布、乾燥、表面平滑化処理し、硬化させた後に上層磁性層用塗料を塗布する方法(ウェット・オン・ドライ方法)、あるいは下層非磁性層用塗料を塗布し湿潤状態のうちに上層磁性層用塗料を塗布する方法(ウェット・オン・ウェット方法)が挙げられるが、上層磁性層/下層非磁性層界面の均一性を考慮すると前者の方が好ましい。バックコート層の塗布は、下層非磁性層及び上層磁性層の塗設前であっても塗設後であってもよく、同時であってもよい。
【0107】
塗布手段は、例えばグラビアコート、リバースコート、エクストルージョンノズル等のいずれを用いても良いが、操作性や生産性の点で、ダイノズルコーターを用いる方法が好ましい。
【0108】
本発明の磁気テープの製造においては、磁性層を設層した後、磁場を印加して、層中の磁性粒子を配向させることが好ましい。配向方向は、目的に応じて、媒体の走行方向に対して、平行方向であっても、垂直方向であっても、斜め方向であってもよい。所定方向へ向けるため、フェライト磁石や希土類磁石等の永久磁石、電磁石、ソレノイド等で1000G以上の磁界を印可したり、これらの磁界発生手段を複数併用することが好ましい。さらには乾燥後の配向性が最も高くなるように、配向前に予め適度の乾燥工程を設けたり、配向と同時に乾燥を行うなどして配向を行ってもよい。
【0109】
このようにして磁性層塗設後、配向処理の行われた塗膜は、通常、乾燥炉の内部に設けられた熱風、遠赤外線、電気ヒーター、真空装置等の公知の乾燥及び蒸発手段によって乾燥・固定される。乾燥温度は、室温から300℃程度までの範囲で、非磁性支持体の耐熱性や溶剤種、濃度等によって適宜選定すればよく、また乾燥炉内に温度勾配をもたせてもよい。さらに乾燥炉内のガス雰囲気は、一般の空気又は不活性ガスなどを用いればよい。
【0110】
このようにして磁性層を乾燥した後に、必要に応じて表面平滑化処理としてカレンダ処理を行う。カレンダ処理ロールとしては、エポキシ、ポリエステル、ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド等の耐熱性のあるプラスチックロール(カーボン、金属やその他の無機化合物が練り込まれているものでもよい)と金属ロールとの組合わせ(3ないし7段の組合わせ)を使用するとよい。また、金属ロール同士で処理することもできる。
【0111】
カレンダ処理温度は、好ましくは90℃以上、さらに好ましくは100℃以上である。線圧力は好ましくは200kg/cm以上、さらに好ましくは250kg/cm以上、処理速度は20m/分〜900m/分の範囲である。本発明において、100℃以上の温度で250kg/cm以上の線圧でのカレンダ処理を行うことにより、磁性層の表面平滑化を効果的に行うことができる。
【0112】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0113】
[実施例1]
<磁性層用塗料の調製>
(バインダー溶液調製)
【0114】
上記組成物をハイパーミキサーに投入し、混合・撹拌し、バインダー溶液とした。
【0115】
(混練)
下記組成物を加圧ニーダーに投入し、2時間混練を行った。
【0116】
α- Fe磁性粉(メタル粉1) 100重量部
(Hc=149kA/m (1885Oe), σs=138Am2/kg (emu/g), BET=58m2/g,平均長軸長=0.10 μm)
α−Al2 O3 (住友化学工業社製:HIT-60A,平均粒径=0.20 μm)6重量部
α−Al2 O3 (住友化学工業社製:HIT-82,平均粒径=0.13 μm) 6重量部
バインダー溶液 49重量部
【0117】
混練後のスラリーに下記組成物を投入して分散処理に最適な粘性に調整した。
【0118】
MEK 100重量部
トルエン 100重量部
シクロヘキサノン 75重量部
【0119】
(分散)
上記スラリーを、ジルコニアビーズ(東レ社製トレセラムf0.8 mm)を75%充填した横型ピンミルにて分散処理を行った。
【0120】
(粘度調整液)
下記組成物をハイパーミキサーに投入し、1時間混合・撹拌し、粘度調整液とした。
【0121】
ステアリン酸 1重量部
ステアリン酸ブチル 1重量部
MEK 100重量部
トルエン 100重量部
シクロヘキサノン 250重量部
【0122】
(粘度調整)
分散後のスラリーに上記溶液を混合撹拌した後、ジルコニアビーズ(東レ社製トレセラムf0.8 mm)を75%充填した横型ピンミルにて再度分散処理を行い、塗料とした。上記塗料を絶対濾過精度=1.0μmのデプスフィルターを用いて循環濾過を行った。
【0123】
(最終塗料)
濾過後の塗料100重量部にイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製、コロネートL)0.82重量部を加え撹拌・混合し、絶対濾過精度=1.0μmのデプスフィルターを用いて循環濾過を行い、磁性層用の最終塗料とした。
【0124】
<下層非磁性層用塗料の調製>
(バインダー溶液調製)
電子線硬化型塩化ビニル系樹脂(固形分濃度30wt%) 45重量部
(塩化ビニル−エポキシ含有モノマー共重合体,平均重合度=310, エポキシ含有量=3wt%,S含有量=0.6wt%,アクリル含有量=6個/1分子, Tg=60 ℃)
電子線硬化型ポリエステルポリウレタン樹脂 16重量部
(−OSO3 Na含有ポリエステルポリウレタン,数平均分子量=26000)
MEK 2重量部
トルエン 2重量部
シクロヘキサノン 2重量部
【0125】
上記組成物をハイパーミキサーに投入、撹拌し、バインダー溶液とした。
【0126】
(混練)
下記組成物を加圧ニーダーに投入し、2時間混練を行った。
【0127】
針状α−Fe2 O3 85重量部
(戸田工業社製:DB-65,平均長軸長=0.11 μm,比表面積=53m2/g)
カーボンブラック 15重量部
(三菱化学社製:#850B, 平均粒径=16nm,比表面積=200m2/g, DPB 吸油量=70ml/100g)
オルト−フタル酸 2重量部
バインダー溶液 67重量部
【0128】
混練後のスラリーに下記組成物を投入して分散処理に最適な粘性に調整した。
【0129】
MEK 40重量部
トルエン 40重量部
シクロヘキサノン 40重量部
【0130】
(分散)
上記スラリーを、ジルコニアビーズ(東レ社製トレセラムf0.8 mm)を75%充填した横型ピンミルにて分散処理を行った。
【0131】
(粘度調整液)
下記組成物をハイパーミキサーに投入、撹拌し、粘度調整液とした。
【0132】
ステアリン酸 1重量部
ステアリン酸ブチル 1重量部
MEK 30重量部
トルエン 30重量部
シクロヘキサノン 30重量部
【0133】
(粘度調整及び最終塗料)
分散後のスラリーに上記溶液を混合撹拌した後、ジルコニアビーズ(東レ社製トレセラムf0.8 mm)を75%充填した横型ピンミルにて再度分散処理を行い、塗料とした。上記塗料を絶対濾過精度=1.0μmのデプスフィルターを用いて循環濾過を行い、下層非磁性層用の最終塗料とした。
【0134】
<塩化ビニル/ポリウレタン系バックコート層用塗料の調製>
(バインダー溶液調製)
【0135】
上記組成物をハイパーミキサーに投入、撹拌し、バインダー溶液とした。
【0136】
(分散)
下記組成物をボールミルに投入し、24時間分散を行った。
【0137】
カーボンブラック 75重量部
(Cabot 社製:BLACK PEARLS 800,平均粒径=17nm, BET=220m2/g)
カーボンブラック 10重量部
(Cabot 社製:BLACK PEARLS 130,平均粒径=75nm, BET=25m2/g )
BaSO4 (堺化学工業社製:BF-20, 平均粒径=30nm ) 15重量部
バインダー溶液 880重量部
【0138】
(粘度調整液)
下記組成物をハイパーミキサーに投入、撹拌し、粘度調整液とした。
【0139】
ステアリン酸 1重量部
ミリスチン酸 1重量部
ステアリン酸ブチル 2重量部
MEK 210重量部
トルエン 210重量部
シクロヘキサノン 210重量部
【0140】
(粘度調整)
分散後のスラリーに上記溶液を混合撹拌した後、再度ボールミルにて分散処理を3時間行った。上記塗料を絶対濾過精度=3.0μmのデプスフィルターを用いて循環濾過を行った。
【0141】
(最終塗料)
濾過後の塗料100重量部にイソシアネート化合物(日本ポリウレタン社製、コロネート−L)1重量部を加え、撹拌・混合し、絶対濾過精度=3.0μmのデプスフィルターを用いて循環濾過を行い、バックコート塗料とした。
【0142】
<磁気記録媒体の製造>
厚さ6.1μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの表面上に、上記下層非磁性用塗料を乾燥厚み2.0μmとなるようにライン速度100m/minで塗布し、温度100℃の熱風が風速15m/secで供給される炉中にて乾燥し、次いで、照射量4.5Mradの条件にて電子線照射を行い、巻き取った。
【0143】
硬化させた下層非磁性層上に上記磁性層用塗料を乾燥厚み0.20μmとなるようにライン速度100m/minで塗布し、塗膜が湿潤状態のうちに395kA/m(5000Oe)のソレノイドで磁場配向処理を行い、温度100℃の熱風が風速15m/secで供給される炉中にて乾燥した。
【0144】
続いて、上記ポリエチレンテレフタレートフィルムの裏面上に上記バックコート層用塗料を乾燥厚み0.6μmとなるように塗布し、温度100℃の熱風が風速15m/secで供給される炉中にて乾燥し、巻き取った。次いで、100℃、2940N/cm(300kg/cm)、10ニップ、加工速度100m/minの条件でカレンダー処理を行い、巻き取った。巻き取られた原反を60℃のオーブンに24時間入れた後、1/2インチ(12.65mm)幅に裁断し、磁気テープを得た。
【0145】
[実施例2]
バックコート層用塗料を塗布、乾燥した後、100℃、3430N/cm(350kg/cm)、10ニップ、加工速度100m/minの条件でカレンダー処理を行った以外は、実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0146】
[実施例3]
バックコート層用塗料を塗布、乾燥した後、110℃、3430N/cm(350kg/cm)、10ニップ、加工速度100m/minの条件でカレンダー処理を行った以外は、実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0147】
[比較例1]
磁性層用塗料を塗布、乾燥した後、100℃、2940N/cm(300kg/cm)、10ニップ、加工速度100m/minの条件でカレンダー処理を行い、且つバックコート層用塗料を塗布、乾燥した後、カレンダー処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0148】
[比較例2]
バックコート層用塗料を塗布、乾燥した後、110℃、3430N/cm(350kg/cm)、10ニップ、加工速度100m/minの条件でカレンダー処理を2回行った以外は、実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0149】
[実施例4]
バックコート層用塗料を以下のものに変えた以外は、実施例1と同様にして磁気テープを作製した。
【0150】
<ニトロセルロース/ポリウレタン系バックコート層用塗料の調製>
(バインダー溶液調製)
【0151】
上記組成物をハイパーミキサーに投入、撹拌し、バインダー溶液とした。
【0152】
(分散)
下記組成物をボールミルに投入し、24時間分散を行った。
【0153】
カーボンブラック 90重量部
(Cabot 社製:BLACK PEARLS 800,平均粒径=17nm, BET=220m2/g)
カーボンブラック 10重量部
(Cabot 社製:BLACK PEARLS 130,平均粒径=75nm, BET=25m2/g )
オレイン酸銅 5重量部
銅フタロシアニン 5重量部
α−Al2 O3 (大明化学工業社製:TM-DR, 平均粒径=0.23 μm) 1重量部
バインダー溶液 760重量部
【0154】
(粘度調整液)
下記組成物をハイパーミキサーに投入、撹拌し、粘度調整液とした。
【0155】
MEK 220重量部
トルエン 220重量部
シクロヘキサノン 220重量部
【0156】
(粘度調整)
分散後のスラリーに上記溶液を混合撹拌した後、再度ボールミルにて分散処理を3時間行った。上記塗料を絶対濾過精度=3.0μmのデプスフィルターを用いて循環濾過を行った。
【0157】
(最終塗料)
濾過後の塗料100重量部にイソシアネート化合物(日本ポリウレタン社製、コロネート−L)1.1重量部を加え、撹拌・混合し、絶対濾過精度=3.0μmのデプスフィルターを用いて循環濾過を行い、バックコート塗料とした。
【0158】
[実施例5]
バックコート層用塗料中のα−Al2 O3 の配合量を0.5重量部とした以外は、実施例4と同様にして磁気テープを作製した。
【0159】
[実施例6]
バックコート層用塗料中のα−Al2 O3 の代わりにα−Fe2 O3 2重量部を用いた以外は、実施例4と同様にして磁気テープを作製した。
【0160】
[実施例7]
バックコート層用塗料中のカーボンブラック(BLACK PEARLS 800)の配合量を75重量部に変え、α−Al2 O3 の代わりにCaCO3 15重量部を用いた以外は、実施例5と同様にして磁気テープを作製した。
【0161】
[実施例8]
バックコート層用塗料中の軟質無機粉末CaCO3 15重量部をBaSO4 15重量部に変えた以外は、実施例7と同様にして磁気テープを作製した。
【0162】
[実施例9]
磁性層用塗料において、α- Fe磁性粉(メタル粉1)100重量部をα- Fe磁性粉(メタル粉2,Hc=143.8kA/m (1820Oe),σs=130Am2/kg (130emu/g), BET=57m2/g, 平均長軸長=0.10 μm) 100重量部に変えた以外は、実施例4と同様にして磁気テープを作製した。
【0163】
[比較例3]
バックコート層用塗料中のα−Al2 O3 の配合量を2重量部とした以外は、実施例4と同様にして磁気テープを作製した。
【0164】
[比較例4]
<磁性層用塗料の調製>
分散操作までは、実施例1での磁性層用塗料の調製と全く同様に行った。
【0165】
(粘度調整液)
下記組成物をハイパーミキサーに投入し、1時間混合・撹拌し、粘度調整液とした。
【0166】
ステアリン酸 1重量部
ステアリン酸ブチル 1重量部
MEK 30重量部
トルエン 30重量部
シクロヘキサノン 30重量部
【0167】
(粘度調整)
分散後のスラリーに上記溶液を混合撹拌した後、ジルコニアビーズ(東レ社製トレセラムf0.8 mm)を75%充填した横型ピンミルにて再度分散処理を行い、塗料とした。上記塗料を絶対濾過精度=1.0μmのデプスフィルターを用いて循環濾過を行った。
【0168】
(最終塗料)
濾過後の塗料100重量部にイソシアネート化合物(日本ポリウレタン製、コロネートL)1.3重量部を加え撹拌・混合し、絶対濾過精度=1.0μmのデプスフィルターを用いて循環濾過を行い、磁性層用の最終塗料とした。
【0169】
<磁気記録媒体の製造>
バックコート層用塗料は、実施例1で調製したのと同じものを用いた。
厚さ6.1μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの表面上に、上記磁性層用塗料を乾燥厚み2.5μmとなるようにライン速度100m/minで塗布し、塗膜が湿潤状態のうちに395kA/m(5000Oe)のソレノイド中を通過させて磁場配向処理を行い、温度100℃の熱風が風速15m/secで供給される炉中にて乾燥し、次いで、100℃、2940N/cm(300kg/cm)、10ニップ、加工速度100m/minの条件でカレンダー処理を行った。
【0170】
続いて、上記ポリエチレンテレフタレートフィルムの裏面上に、バックコート層用塗料を乾燥厚み0.5μmとなるように塗布し、温度100℃の熱風が風速15m/secで供給される炉中にて乾燥し、巻き取った。カレンダ加工は行わずに、巻き取られた原反を60℃のオーブンに24時間入れた後、1/2インチ(12.65mm)幅に裁断し、磁気テープを得た。
【0171】
[比較例5]
磁性層用塗料を塗布、乾燥した後のカレンダー処理の圧力条件を3430N/cm(350kg/cm)に変更した以外は、比較例4と同様にして磁気テープを得た。
【0172】
[磁気テープの評価]
(中心線平均表面粗さ:Ra(nm))
バックコート層表面及び磁性層表面について、テーラーホブソン社製TALYSTEPシステムを用い、JIS−B−0601に基づいて中心線平均粗さRaの測定を行った。測定器の条件としては、フィルター条件0.18〜9Hz、触針0.1×2.5μmスタイラス、触針圧1.96×10-5N(2mg)、測定スピード0.03mm/sec、測定長さ500μmとした。
【0173】
(AFM中心線平均表面粗さ:Ra(nm))
サーモマイクロスコープス(Thermo Microscopes) 社製のAutoProbeM5の原子間力顕微鏡(AFM)を使用して、下記条件に従いAFM表面平均粗さRaを求めた。この結果を表1中に示す。
【0174】
分析回数:N=3
探針:シリコン単結晶プローブ(ナノセンサーズ社製)
走査モード:ノンコンタクトモード
走査面積(scan area) :10μm×10μm
画素数:512×512データポイント
走査速度(scan rate) :0.6Hz
測定環境:室温、大気中
データ処理:イメージ全体のデータに対して2次の傾き補正を縦、横の両方向に行った。
【0175】
(センダスト摩耗体積量)
前述したようにして、バックコート層のセンダスト摩耗体積量SBC( (μm)3/m)及び磁性層のセンダスト摩耗体積量SMC( (μm)3/m)を測定した。
【0176】
(塗膜削れ)
データストレージシステムの1つであるSDLT220ドライブにて10万パスの繰り返し走行を行った後に、バックコート層及び磁性層の削れ度合いを顕微鏡観察(100倍)により観察した。以下の基準で判定した。
○:全く傷が見られない
△:顕微鏡観察100倍で1視野に1本以内の傷
▲:顕微鏡観察100倍で1視野に2〜10本の傷
×:顕微鏡観察100倍で1視野に11本以上の傷
【0177】
(エラーレート)
エラーレートについては、テープ全長、全トラックに、MIGヘッド(ヘッド幅:24μm)でデータを書き込み (write)、次いでMRヘッド(ヘッド幅:14μm)でデータを読み取り(read)、測定した。最短記録波長0.37μm、トラック数450本であった。なお、比較例4では、磁性層の研磨能力が高すぎて、MRヘッドにスメアリング(傷)が発生したため、エラーレートを測定できなかった。
【0178】
以上の結果を表1及び表2に示す。
【0179】
【表1】
【0180】
【表2】
【0181】
表1及び表2より、実施例1〜9の磁気テープではいずれも、バックコート層(BC)及び磁性層(MC)の削れ度合いが少なく走行耐久性に優れ、且つエラーレートも優れていた。
【0182】
比較例4、5は、下層非磁性層を有しないため、エラーレートに劣っていた。比較例1、3は、SBC/SMCの値が本発明の範囲外でバックコート層の塗膜強度が磁性層の塗膜強度に比べ強すぎるため、耐久走行後に磁性層への傷が多く発生した。比較例2は、SBC/SMCの値が本発明の範囲外で磁性層の塗膜強度がバックコート層の塗膜強度に比べ強すぎるため、耐久走行後にバックコート層への傷が多く発生した。
【0183】
【発明の効果】
本発明によれば、電磁変換特性に優れ、かつ走行耐久特性にも優れる磁気記録テープ、特にコンピューター用リニア記録テープが提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明におけるバックコート層又は磁性層のセンダスト摩耗体積量の測定を説明するための図である。
【符号の説明】
(1) :テープ
(1a):テープ測定面
(2) :センダスト鋼材
(2a):センダスト鋼材の稜
Claims (4)
- 非磁性支持体の一方の面上に下層非磁性層を有し、前記下層非磁性層上に上層磁性層を有し、前記非磁性支持体の他方の面上にバックコート層を有する磁気記録テープであって、
次の条件:
(1) 12.650mm幅テープ使用
(2) テープ走行速度:2.54m/sec
(3) 300mテープ,600パス(300往復)走行
(4) センダスト鋼材:SD−5 角柱:90°(断面正方形)
(5) センダスト鋼材部テープ走行時張力:1.4N/テープ幅
(6) センダスト鋼材部テープラップ角度θ:164°
に従って、該テープの測定面(バックコート層面又は磁性層面)が、断面正方形の角柱状センダスト鋼材の稜に接するようにテープを走行させ、センダスト鋼材を摩耗させ、
テープ走行後の摩耗されたセンダスト鋼材の平坦面のテープ走行方向の長さL(μm)を3点につき測定し、その平均値 Lm を算出し、以下の式:
摩耗体積量 [( μm ) 3 /m )] = [(1/2) × Lm ×( Lm/2) × 12.650 × 10 3 ]/300
によりテープ1m当たりの摩耗体積量を算出したとき、
磁性層のセンダスト摩耗体積量SMCが3.0×104 (μm)3/m以下であり、バックコート層のセンダスト摩耗体積量S BC が0.4×10 4 ( μm ) 3 /m以上4.0×10 4 ( μm ) 3 /m以下であり、かつバックコート層のセンダスト摩耗体積量SBCと磁性層のセンダスト摩耗体積量SMCの比(SBC/SMC)が0.5〜3.0である磁気記録テープ。 - バックコート層の表面粗さRaが20nm以下である、請求項1に記載の磁気記録テープ。
- 磁性層のAFM表面粗さRaが3.0〜8.0nmである、請求項1又は2に記載の磁気記録テープ。
- 磁性層の厚みは0.3μm以下である、請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の磁気記録テープ。
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