JP3935325B2 - フェライト磁石の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、マグネトプランバイト型六方晶フェライト磁石の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
酸化物永久磁石材料としては、六方晶系のマグネトプランバイト型(M型)のSrフェライトまたはBaフェライトが主に用いられており、これらは焼結磁石やボンディッド磁石として利用されている。
【0003】
本発明者らは、例えば特開平11−154604号公報において、従来のM型フェライト磁石では達成不可能であった高い残留磁束密度と高い保磁力とを有するフェライト磁石を提案している。このフェライト磁石は、Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種の元素であって、Srを必ず含むものをAとし、希土類元素およびBiから選択される少なくとも1種の元素であってLaを必ず含むものをRとし、CoであるかCoおよびZnを元素Mとしたとき、A、R、FeおよびMそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、全金属元素量に対し、
A:1〜13原子%、
R:0.05〜10原子%、
Fe:80〜95原子%、
M:0.1〜5原子%
である六方晶マグネトプランバイト型フェライトの主相を有するものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
焼結磁石は、原料粉末を成形して焼成することにより製造される。原料粉末の粒径を小さくすると、焼結体の結晶粒径を小さくするできるため、保磁力が向上する。しかし、原料粉末の粒径を小さくすると、磁場中成形の際の粒子の配向度が低下するため、残留磁束密度が低下し、また、成形性も悪化するという問題がある。また、上記特開平11−154604号公報に示されるように、元素Rおよび元素Mを含有させることにより、フェライト焼結磁石の保磁力および残留磁束密度を著しく向上させることができるが、元素Mに含まれるCoは高価であるため、コストアップを招く。
【0005】
このような事情から、保磁力および残留磁束密度が共に高いフェライト焼結磁石を低コストで製造することは困難であった。
【0006】
本発明は、残留磁束密度を低下させることなく、また、Coの添加量を増加させることなく、フェライト磁石の保磁力を向上させることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(2)の本発明により達成される。
(1)Fe、元素A(Aは、Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種)、元素R(Rは、希土類元素およびBiから選択される少なくとも1種)および元素M(Mは、Co、Mn、NiおよびZnから選択される少なくとも1種)を含有し、六方晶フェライトを主相として有するフェライト磁石を製造するに際し、
原料粉末の成形体を焼成して焼結体とし、この焼結体を400℃未満の温度まで冷却した後に、前記焼結体に400〜1000℃の温度範囲に2〜120時間保持する熱処理を施すフェライト磁石の製造方法。
(2)元素A、元素Rおよび元素Mをそれぞれ酸化物に換算して含有量を求めたとき、
式I A1−xRx(Fe12−yMy)zO19
(上記式Iにおいて、
0.04≦x≦0.9、
0.04≦y≦1.0、
0.4≦x/y≦4、
0.7≦z≦1.2
である)
である組成の焼結磁石が製造される上記(1)のフェライト磁石の製造方法。
【0008】
【作用および効果】
本発明では、フェライト焼結磁石を製造するに際し、焼結後に所定範囲内の温度で焼結体に熱処理を施す。これにより、残留磁束密度を実質的に低下させることなく保磁力を向上させることができる。
【0009】
金属磁石においては、焼結後に時効と呼ばれる熱処理を施すことが知られているが、フェライト焼結磁石に対し熱処理を施すことにより保磁力が向上し、かつ残留磁束密度の低下を招かないことは全く知られていない。しかも、本発明においてフェライト磁石に施す熱処理は比較的低温で行い、高温で熱処理を施すと保磁力向上率が著しく低下してしまうことから、本発明では金属磁石における高温の時効処理とは全く異なったメカニズムで保磁力が向上するものと考えられる。
【0010】
【発明の実施の形態】
製造方法
本発明の製造方法は、原料粉末の成形体を焼成して焼結磁石を得る焼結工程を有する。
【0011】
本発明では、焼結工程の降温過程において、または降温過程終了後に、焼結体の温度を所定範囲内に保持する熱処理を施すことにより、焼結磁石の保磁力を向上させる。
【0012】
具体的には、成形体を焼成して焼結体とし、この焼結体を冷却した後に再び昇温することにより、熱処理を施す。この熱処理のための昇温は、焼結体を、室温より高く、かつ熱処理温度の下限である400℃を下回る温度まで冷却した後に行ってもよく、焼結体を室温付近まで冷却した後に行ってもよい。また、この熱処理を、フェライト磁石の製造工程に直接組み込む必要はない。例えば、製造されてから長期間経過したフェライト磁石に対し、本発明における熱処理を施した場合でも、本発明の効果は実現する。
【0013】
熱処理における温度変化プロファイルは特に限定されず、昇温過程と降温過程とからだけ構成されるものであってもよく、ほぼ一定の温度(安定温度)に保持する安定過程を、昇温過程と降温過程との間に設ける構成としてもよい。安定過程を設けない場合、熱処理時の降温過程における降温速度は、好ましくは3℃/min以下、より好ましくは1℃/min未満、さらに好ましくは0.5℃/min以下、最も好ましくは0.1℃/minとする。また、降温過程の途中に、降温速度が0℃/minとなる時間を設けてもよい。一方、安定過程を設ける場合、降温速度は特に限定されないが、通常、0.1〜100℃/分、好ましくは1〜10℃/分とする。なお、熱処理時の昇温速度は特に限定されないが、通常、0.1〜100℃/分、好ましくは1〜10℃/分である。
【0014】
熱処理温度は、400〜1000℃、好ましくは500〜1000℃、より好ましくは550〜1000℃、さらに好ましくは550〜950℃である。熱処理温度が低すぎても高すぎても、保磁力向上効果が低くなってしまう。なお、この熱処理温度は、安定温度または最高温度である。熱処理時間は、保磁力向上効果が十分に大きくなるように適宜決定すればよいが、好ましくは1〜200時間、より好ましくは2〜120時間である。なお、この熱処理時間は、上記した熱処理温度範囲内に保持する時間または安定時間(安定温度に保持する時間)である。熱処理時間が短すぎると、保磁力向上効果が低くなる。一方、熱処理時間を著しく長くしても、それによる保磁力向上は小さいため、生産性を考慮すると、熱処理時間を上記範囲を超えて長くする必要はない。なお、この熱処理時間は、焼結体の温度が上記温度範囲内にある時間であり、好ましくは安定温度に保持する時間である。
【0015】
なお、焼結工程における降温速度は特に限定されないが、通常、0.1〜100℃/分、好ましくは1〜100℃/分とする。降温速度が遅すぎると生産性が低くなり、降温速度が速すぎるとクラックが生じやすくなる。
【0016】
熱処理時の雰囲気は特に限定されないが、通常、空気中で行えばよい。ただし、雰囲気中の酸素分圧を制御してもよい。
【0017】
次に、本発明の製造方法における、熱処理以外の各種条件等について説明する。
【0018】
成形対象の原料粉末は、六方晶フェライト相を有するものであれば特に限定されないが、好ましくはマグネトプランバイト型(M型)フェライト相を有するものを用いる。原料粉末は、例えば、いわゆる仮焼によって固相反応により製造してもよく、共沈法や水熱合成法などにより製造してもよい。以降では、主として仮焼工程を設ける場合について説明する。
【0019】
まず、出発原料を混合した後、仮焼し、仮焼体を得る。この仮焼体を解砕ないし粉砕して粉末化し、上記原料粉末を得る。そして、この原料粉末を成形した後、焼成する。
【0020】
出発原料としては、Fe、元素A(Aは、Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種)、元素R(Rは、希土類元素およびBiから選択される少なくとも1種)および元素M(Mは、Co、Mn、NiおよびZnから選択される少なくとも1種)のそれぞれ1種を含有する化合物、またはこれらの2種以上を含有する化合物を用いればよい。元素Aを含む出発原料には、ストック時の安定性が良好であることから、水酸化物または炭酸塩を用いることが好ましい。このほか、焼結助剤として、Si化合物および/またはCa化合物が用いられる。Si化合物としてはSiO2が好ましく、Ca化合物としてはCaCO3が好ましい。Si化合物のSiO2換算での添加量は、出発原料全体の0.1〜2質量%程度とすればよく、Ca化合物のCaCO3換算での添加量は、出発原料全体の0.2〜4質量%程度とすればよい。
【0021】
出発原料には、酸化物粉末、または焼成により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等の粉末を用いる。出発原料の平均粒径は特に限定されないが、通常、0.1〜2μm程度とすることが好ましい。特に酸化鉄は微細粉末を用いることが好ましく、具体的には一次粒子の平均粒径が好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下のものを用いる。
【0022】
仮焼は、通常、空気中等の酸化性雰囲気中で行えばよい。仮焼条件は特に限定されないが、通常、安定温度は1000〜1350℃、安定時間は1秒間〜10時間、より好ましくは1秒間〜3時間とすればよい。仮焼体は、実質的にマグネトプランバイト型のフェライト構造をもち、その一次粒子の平均粒径は、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.1〜1μm、最も好ましくは0.1〜0.5μmである。平均粒径は走査型電子顕微鏡により測定することができる。
【0023】
出発原料化合物は、仮焼前にすべてを混合する必要はなく、各化合物の一部または全部を仮焼後に添加する構成としてもよい。特に、焼結助剤として用いるSi化合物およびCa化合物は、一部、好ましくは全部を、仮焼後に添加することが好ましい。
【0024】
焼結助剤以外の化合物、すなわち、Fe、元素A、元素Rまたは元素Mを含有する化合物の少なくとも一部を仮焼後に添加する方法を、本明細書では後添加法と呼ぶ。この後添加法では、まず、少なくとも前記元素Aを含有する六方晶フェライトを主相とする仮焼体を製造する。次いで、この仮焼体を粉砕した後、または粉砕時に、後添加する化合物(後添加物)を仮焼体に添加し、その後、成形し、焼結する。元素Rおよび元素Mから選択される1種または2種以上の元素、好ましくは元素Rおよび元素Mの両方が後添加物に含有されるように、後添加する化合物を選択すれば、後述するように複数のキュリー温度をもつ磁石を得ることができ、その結果、高磁気特性が得られる。
【0025】
後添加物の量は、仮焼体の好ましくは1〜100体積%、より好ましくは5〜70体積%、さらに好ましくは10〜50体積%である。元素Rを含有する化合物としてはR酸化物を用いることができるが、R酸化物は水に対する溶解度が比較的大きいため、湿式成形の際に流出してしまうなどの問題がある。また、吸湿性もあるため、秤量誤差の原因になりやすい。そのため、R化合物としては炭酸塩または水酸化物が好ましい。そのほかの元素の後添加物は、酸化物、または焼成により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩や水酸化物として添加すればよい。
【0026】
後添加物の添加時期は、仮焼後かつ焼結前であればよいが、好ましくは、次に説明する粉砕時に添加する。ただし、仮焼体ではなく、共沈法や水熱合成法などにより製造され、少なくとも前記元素Aを含有する六方晶フェライトを主相とする粒子に後添加物を添加してもよい。
【0027】
元素Rまたは元素Mについては、磁石中に含まれる全量の好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上が、後添加物として添加されることが望ましい。そのほかの元素については、後添加物として添加される量は特に限定されない。なお、後添加物の平均粒径は、0.1〜2μm程度であることが好ましい。
【0028】
ここで、後添加物の添加量について、具体的に説明する。例えば、
Sr:La:Fe:Co=0.8:0.2:11.8:0.2
である焼結磁石の製造を目的とする場合、原料配合時には
Sr:Fe=0.8:9.6(=1:12)
の割合で混合して仮焼し、得られた仮焼体に、
La:Fe:Co=0.2:2.2:0.2
である後添加物を添加して焼成することにより、上記した目的組成の焼結磁石が得られる。また、例えば、
Sr:Fe=0.8:11.8(=1:14.75)
の割合で混合して仮焼し(このとき仮焼体はM型Srフェライトとα−Fe2O3との2相状態となる)、得られた仮焼体に
La:Co=0.2:0.2
である後添加物を添加して焼成することによっても、上記した目的組成の焼結磁石が得られる。
【0029】
後添加法により製造された焼結磁石が複数のキュリー温度をもつ理由は明確ではないが、次のように考えられる。焼結時には、M型フェライト相を有する仮焼体粒子と後添加物との反応が生じるが、その過程でLa濃度およびCo濃度が高いM型フェライト部分と、これらの濃度が低いM型フェライト部分とが生じると考えられる。すなわち、後添加物中のLaやCoが、焼結時に仮焼体粒子の中心に向かって拡散していくとすると、焼結後の結晶粒中におけるLaやCoの濃度は、中心部よりも表層部で高くなりやすいと考えられる。キュリー温度はLaやCoの置換量、特にLaの置換量に依存するため、複数のキュリー温度の存在は、結晶粒中におけるLaやCoの濃度分布の存在を反映していると考えられる。
【0030】
次に、成形およびその前工程である粉砕について説明する。
【0031】
原料粉末の成形には、乾式成形法を用いても湿式成形法を用いてもよく、いずれの場合でも本発明の効果は実現する。ただし、より高い磁気特性が得られる点では、湿式成形法を利用することが好ましい。湿式成形では、原料粉末と、分散媒としての水と、分散剤とを含む成形用スラリーを用いることが好ましい。なお、分散剤の効果をより高くするためには、湿式成形工程の前に湿式粉砕工程を設けることが好ましい。また、原料粉末として仮焼体粉末を用いる場合、仮焼体粉末は一般に顆粒から構成されるので、仮焼体粉末の粗粉砕ないし解砕のために、湿式粉砕工程の前に乾式粗粉砕工程を設けることが好ましい。なお、共沈法や水熱合成法などにより原料粉末を製造した場合には、通常、乾式粗粉砕工程は設けず、湿式粉砕工程も必須ではないが、配向度をより高くするためには湿式粉砕工程を設けることが好ましい。以下では、仮焼体粒子を原料粉末として用い、乾式粗粉砕工程および湿式粉砕工程を設ける場合について説明する。
【0032】
乾式粗粉砕工程では、通常、BET比表面積が2〜10倍程度となるまで粉砕する。粉砕後において、平均粒径は好ましくは0.1〜1μm程度、BET比表面積は好ましくは4〜10m2/g程度である。粉砕手段は特に限定されず、例えば乾式振動ミル、乾式アトライター(媒体攪拌型ミル)、乾式ボールミル等が使用できるが、特に乾式振動ミルを用いることが好ましい。粉砕時間は、粉砕手段に応じて適宜決定すればよい。なお、仮焼後に一部の出発原料を添加する場合には、この乾式粗粉砕工程において添加することが好ましい。SiO2と、焼成によりCaOとなるCaCO3とは、それぞれの少なくとも一部をこの乾式粗粉砕工程またはこれに続く湿式粉砕工程において添加すればよい。
【0033】
乾式粗粉砕には、仮焼体粒子に結晶歪を導入して保磁力HcBを小さくする効果もある。保磁力の低下により粒子の凝集が抑制され、分散性が向上する。また、軟磁性化することにより、配向度も向上する。軟磁性化された粒子は、後の焼結工程において本来の硬磁性に戻る。
【0034】
乾式粗粉砕の後、粉砕された粒子と水とを含む粉砕用スラリーを調製し、これを用いて湿式粉砕を行う。粉砕用スラリー中の原料粉末の含有量は、10〜70質量%程度であることが好ましい。湿式粉砕に用いる粉砕手段は特に限定されないが、通常、ボールミル、アトライター、振動ミル等を用いることが好ましい。粉砕時間は、粉砕手段に応じて適宜決定すればよい。
【0035】
湿式粉砕後、粉砕用スラリーを濃縮して成形用スラリーを調製する。濃縮は、遠心分離などによって行えばよい。成形用スラリー中の原料粉末の含有量は、60〜90質量%程度であることが好ましい。
【0036】
湿式成形工程では、成形用スラリーを用いて磁場中成形を行う。成形圧力は10〜50MPa程度、印加磁場強度は0.5〜1.5T程度とすればよい。
【0037】
成形用のスラリーに非水系の分散媒を用いると高配向度が得られるが、環境への負荷を軽減するためには水系分散媒を用いることが好ましい。そして、水系分散媒を用いることによる配向度の低下を補うために、成形用スラリー中に分散剤を存在させることが好ましい。この場合に用いる分散剤は、水酸基およびカルボキシル基を有する有機化合物であるか、その中和塩であるか、そのラクトンであるか、ヒロドキシメチルカルボニル基を有する有機化合物であるか、酸として解離し得るエノール型水酸基を有する有機化合物であるか、その中和塩であることが好ましい。このような分散剤は、例えば特開平11−214208号公報に記載されている。
【0038】
なお、非水系の分散媒を用いる場合には、例えば特開平6−53064号公報に記載されているように、トルエンやキシレンのような有機溶媒に、例えばオレイン酸のような界面活性剤を添加して、分散媒とする。このような分散媒を用いることにより、分散しにくいサブミクロンサイズのフェライト粒子を用いた場合でも最高で98%程度の高い磁気的配向度を得ることが可能である。
【0039】
湿式成形後、成形体を乾燥させ、次いで、空気中または窒素中において好ましくは100〜500℃の温度に加熱する脱脂処理を施すことにより、添加した分散剤を十分に分解除去する。乾燥と上記脱脂処理とは連続して行えばよいが、成形体を十分に乾燥させないまま急激に加熱すると、成形体にクラックが発生してしまうので、室温から100℃程度まではゆっくりと昇温し、この温度範囲において十分に乾燥させることが好ましい。脱脂処理後、焼成し、かつ、前記熱処理を施すことにより、フェライト焼結磁石を得る。
【0040】
焼成温度は、好ましくは1150〜1250℃、より好ましくは1160〜1220℃であり、前記温度範囲に保持する時間または安定温度に保持する時間は、好ましくは0.5〜3時間である。
【0041】
なお、前記成形体をクラッシャー等を用いて解砕し、ふるい等により平均粒径が100〜700μm程度となるように分級して磁場配向顆粒を得、これを乾式磁場成形した後、焼結することにより磁石を得てもよい。
【0042】
焼結磁石
本発明により製造されるフェライト磁石は、六方晶マグネトプランバイト型(M型)フェライトを主相として有し、Fe、元素A(Aは、Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種)、元素R(Rは、希土類元素およびBiから選択される少なくとも1種)および元素M(Mは、Co、Mn、NiおよびZnから選択される少なくとも1種)を含有する。なお、本明細書において希土類元素とは、Y、Scおよびランタノイドである。
【0043】
本発明の磁石中において、全金属元素量に対するA,R,FeおよびMそれぞれの総計の比率は、好ましくは
A:1〜13原子%、
R:0.05〜10原子%、
Fe:80〜95原子%、
M:0.1〜5原子%
であり、より好ましくは
A:3〜11原子%、
R:0.2〜6原子%、
Fe:83〜94原子%、
M:0.3〜4原子%
であり、さらに好ましくは
A:3〜9原子%、
R:0.5〜4原子%、
Fe:86〜93原子%、
M:0.5〜3原子%
である。元素Aの含有量が少なすぎると、M型フェライトが生成しないか、α−Fe2O3 等の非磁性相が多くなる。元素Aの含有量が多すぎると、M型フェライトが生成しないか、SrFeO3-x 等の非磁性相が多くなる。元素Rの含有量が少なすぎると、元素Mの固溶量が少なくなってしまうので、磁気特性向上効果が不十分となる。元素Rの含有量が多すぎると、オルソフェライト等の非磁性の異相が多くなる。元素Mの含有量が少なすぎても多すぎても、磁気特性向上効果が不十分となる。
【0044】
本発明の磁石中において、A、R、FeおよびMの原子比は、
式I A1-xRx(Fe12-yMy)zO19
で表すことができる。上記式Iにおいて、x、yおよびzは、好ましくは
0.04≦x≦0.9、
0.04≦y≦1.0、
0.4≦x/y≦5、
0.7≦z≦1.2
であり、より好ましくは
0.04≦x≦0.9、
0.04≦y≦0.5、
0.8≦x/y≦2、
0.7≦z≦1.2
であり、さらに好ましくは
0.04≦x≦0.5、
0.04≦y≦0.4、
0.8≦x/y≦2、
0.8≦z≦1.1
である。この範囲において、熱処理による保磁力向上率が特に高くなる。
【0045】
上記式Iにおいて、xが小さすぎると、すなわち元素Rの量が少なすぎると、六方晶フェライトに対する元素Mの固溶量を多くできなくなってきて、飽和磁化向上効果および/または異方性磁場向上効果が不十分となってくる。xが大きすぎると六方晶フェライト中に元素Rが置換固溶できなくなってきて、例えば元素Rを含むオルソフェライトが生成して飽和磁化が低くなってくる。yが小さすぎると飽和磁化向上効果および/または異方性磁場向上効果が不十分となってくる。yが大きすぎると六方晶フェライト中に元素Mが置換固溶できなくなってくる。また、元素Mが置換固溶できる範囲であっても、異方性定数(K1)や異方性磁場(HA)の劣化が大きくなってくる。zが小さすぎるとSrおよび元素Rを含む非磁性相が増えるため、飽和磁化が低くなってくる。zが大きすぎるとα−Fe2O3相または元素Mを含む非磁性スピネルフェライト相が増えるため、飽和磁化が低くなってくる。
【0046】
上記式Iにおいて、x/yが小さすぎても大きすぎても元素Rと元素Mとの価数の平衡がとれなくなり、W型フェライト等の異相が生成しやすくなる。元素Mが2価イオンであって、かつ元素Rが3価イオンである場合、価数平衡の点でx/y=1とすることが一般的であるが、前述したようにRを過剰にすることが好ましい。なお、x/yが1超の領域で許容範囲が大きい理由は、yが小さくてもFe3+→Fe2+の還元によって価数の平衡がとれるためである。
【0047】
組成を表わす上記式Iにおいて、酸素(O)の原子数は19となっているが、これは、Mがすべて2価、Rがすべて3価であって、かつx=y、z=1のときの酸素の化学量論組成比を示したものである。MおよびRの種類やx、y、zの値によって、酸素の原子数は異なってくる。また、例えば焼成雰囲気が還元性雰囲気の場合は、酸素の欠損(ベイカンシー)ができる可能性がある。さらに、FeはM型フェライト中においては通常3価で存在するが、これが2価などに変化する可能性もある。また、Co等の元素Mも価数が変化する可能性があり、これらにより金属元素に対する酸素の比率は変化する。本明細書では、Rの種類やx、y、zの値によらず酸素の原子数を19と表示してあるが、実際の酸素の原子数は、これから多少偏倚した値であってよい。
【0048】
磁石組成は、蛍光X線定量分析などにより測定することができる。また、上記主相の存在は、X線回折や電子線回折などにより確認できる。
【0049】
磁石の飽和磁化および保磁力を高くするためには、元素AとしてSrおよびCaの少なくとも1種を用いることが好ましく、特にSrを用いることが好ましい。A中においてSr+Caの占める割合、特にSrの占める割合は、好ましくは51原子%以上、より好ましくは70原子%以上、さらに好ましくは100原子%である。元素A中のSrの比率が低すぎると、飽和磁化向上と保磁力の著しい向上とを共に得ることができなくなる。
【0050】
元素Rとしては、好ましくはランタノイドの少なくとも1種、より好ましくは軽希土類の少なくとも1種、さらに好ましくはLa、NdおよびPrの少なくとも1種を用い、特にLaを必ず用いることが好ましい。R中においてLaの占める割合は、好ましくは40原子%以上、より好ましくは70原子%以上であり、飽和磁化向上のためにはRとしてLaだけを用いることが最も好ましい。これは、六方晶M型フェライトに対する固溶限界量を比較すると、Laが最も多いためである。したがって、R中のLaの割合が低すぎるとRの固溶量を多くすることができず、その結果、元素Mの固溶量も多くすることができなくなり、磁気特性向上効果が小さくなってしまう。なお、Biを併用すれば、仮焼温度および焼結温度を低くすることができるので、生産上有利である。
【0051】
元素Mとしては、少なくともCoおよびZnの1種以上、特にCoを必ず用いることが好ましい。M中においてCoの占める割合は、好ましくは10原子%以上、より好ましくは20原子%以上である。M中におけるCoの割合が低すぎると、保磁力向上が不十分となる。
【0052】
磁石には、B2O3が含まれていてもよい。B2O3を含むことにより仮焼温度および焼結温度を低くすることができるので、生産上有利である。B2O3の含有量は、磁石粉末全体の0.5質量%以下であることが好ましい。B2O3含有量が多すぎると、飽和磁化が低くなってしまう。
【0053】
磁石粉末中には、Na、KおよびRbの少なくとも1種が含まれていてもよい。これらをそれぞれNa2O、K2OおよびRb2Oに換算したとき、これらの含有量の合計は、磁石粉末全体の3質量%以下であることが好ましい。これらの含有量が多すぎると、飽和磁化が低くなってしまう。これらの元素をMIで表わしたとき、フェライト中においてMIは例えば
Sr1.3-2aRaMI a-0.3Fe11.7M0.3O19
の形で含有される。なお、この場合、0.3<a≦0.5であることが好ましい。aが大きすぎると、飽和磁化が低くなってしまう他、焼成時に元素MIが多量に蒸発してしまうという問題が生じる。
【0054】
また、これらのほか、例えばGa、In、Li、Mg、Cu、Ti、Zr、Ge、Sn、V、Nb、Ta、Sb、As、W、Mo等が酸化物として含有されていてもよい。これらの含有量は、化学量論組成の酸化物に換算して、それぞれ酸化ガリウム5質量%以下、酸化インジウム3質量%以下、酸化リチウム1質量%以下、酸化マグネシウム3質量%以下、酸化銅3質量%以下、酸化チタン3質量%以下、酸化ジルコニウム3質量%以下、酸化ゲルマニウム3質量%以下、酸化スズ3質量%以下、酸化バナジウム3質量%以下、酸化ニオブ3質量%以下、酸化タンタル3質量%以下、酸化アンチモン3質量%以下、酸化砒素3質量%以下、酸化タングステン3質量%以下、酸化モリブデン3質量%以下であることが好ましい。
【0055】
本発明により製造される磁石は、少なくとも2つの異なるキュリー温度を有するものであってもよい。この場合、これらのキュリー温度が400℃〜480℃の範囲に存在し、かつこれらの差の絶対値が5℃以上であることが好ましい。Coを含有する場合においてこのように複数のキュリー温度をもつ構造とすることで、角形性Hk/HcJが著しく改善されると共に、高価なCoやRの含有量を少なくすることが可能になる。このような磁石は、前記した後添加法により製造することができる。
【0056】
キュリー温度(Tc)は、磁性材料が強磁性から常磁性に変化するときの温度である。Tcを測定するにはいくつかの方法があるが、特に複数のTcをもつ磁性材料の場合は、ヒータなどで測定サンプルの温度を変化させながら、磁化−温度曲線を描くことによりTcを求める。ここで、磁化の測定には、振動式磁力計(VSM)が多く用いられる。これは、測定サンプルの周囲にヒータ等を設置する空間を確保しやすいためである。
【0057】
測定サンプルは粉末でも焼結体でもよいが、粉末の場合は耐熱性の接着剤のようなもので固定する必要がある。測定の際にサンプル全体を均一に昇温できるように、磁化の測定精度が確保できる範囲でサンプルをなるべく小さくすることが好ましく、また、昇温速度を比較的遅くすることが好ましい。
【0058】
サンプルは異方性でも等方性でもよいが、異方性サンプルの場合は磁化容易軸方向であるc軸方向に着磁後、c軸方向に測定することが好ましい。等方性サンプルの場合は、着磁方向と同一方向の磁化を測定する。サンプルの着磁は、1T以上の十分に大きな磁場を印加して行う。通常は常温で着磁した後、温度を上げながらサンプルの磁化を測定していくが、このとき磁場は全く印加しないか、印加しても0.1T以下の弱い磁場下で測定することが好ましい。これは、大きな磁場を印加しながら測定すると、キュリー温度以上で常磁性成分も検出してしまい、キュリー温度が不明確になりやすいためである。
【0059】
2つのキュリー温度が現れる例を、図1に示す。図1は、温度Tを横軸とし、磁化σを縦軸とするσ−T曲線のキュリー温度近傍を示したグラフである。磁化の急激な減少が始まる温度付近において、σ−T曲線は上に凸である。ここから温度を上昇させていくと、磁化σは以下のように変化する。まず、温度上昇に伴って、急激に磁化が減少する。次いで、σ−T曲線は下に凸へと変わり、磁化の減少が緩やかとなる。次いで、σ−T曲線は再び上に凸へと変わり、急激に磁化が減少する。次いで、σ−T曲線は再び下に凸へと変わって磁化の減少が緩やかになりながら、最終的に磁化がゼロとなる。このσ−T曲線において、変曲点、すなわち上に凸から下に凸へと変化する点または下に凸から上に凸へと変化する点、における3本の接線を、低温側からI、II、IIIとする。接線Iと接線IIとの交点が低温側のキュリー温度Tc1であり、接線IIIと横軸との交点が高温側のキュリー温度Tc2である。キュリー温度が3以上存在する場合も、この方法に準じて、σ−T曲線から各キュリー温度を求めることができる。
【0060】
複数のキュリー温度が存在する場合、互いの差の絶対値は5℃以上、好ましくは10℃以上である。これらのキュリー温度は400〜480℃の範囲に存在し、好ましくは400〜470℃、より好ましくは430〜460℃の範囲に存在することが望ましい。なお、純粋なM型Srフェライトのキュリー温度は465℃程度である。
【0061】
ここで、最も低温側のキュリー温度における磁化(σ1)の、25℃における磁化(σRT)に対する比率(σ1/σRT)は、好ましくは0.5%〜30%、より好ましくは1%〜20%、さらに好ましくは2%〜10%である。σ1/σRTが0.5%未満の場合、より高温側のキュリー温度を検出することが困難となる。
【0062】
複数のキュリー温度は、フェライト結晶の組織構造が、磁気的に異なるM型フェライトの多相構造となるために発現すると考えられる。ただし、キュリー温度が複数存在する場合でも、通常のX線回折法ではM相からなる単相構造が検出される。前記した後添加法を用いた場合、通常、複数のキュリー温度が存在するが、この場合、キュリー温度の数は2となることがほとんどである。
【0063】
磁石の平均結晶粒径は、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.5〜1.0μmであるが、本発明では平均結晶粒径が1μmを超えていても、十分に高い保磁力が得られる。結晶粒径は走査型電子顕微鏡によって測定することができる。なお、比抵抗は、通常、100Ωm以上となる。
【0064】
本発明により製造されるフェライト磁石では、高保磁力かつ高飽和磁化が実現する。そのため、これらの元素を含有しない従来のフェライト磁石と同一形状であれば、発生する磁束密度を増やすことができるため、モータに適用した場合には高トルク化等を実現でき、スピーカーやヘッドホンに適用した場合には磁気回路の強化によりリニアリティーのよい音質が得られるなど、応用製品の高性能化に寄与できる。また、従来のフェライト磁石と同じ機能でよいとすれば、磁石の大きさ(厚さ)を小さく(薄く)できるので、小型軽量化(薄型化)に寄与できる。また、従来は界磁用の磁石を巻線式の電磁石としていたようなモータにおいても、これをフェライト磁石で置き換えることが可能となり、軽量化、生産工程の短縮、低価格化に寄与できる。さらに、保磁力(HcJ)の温度特性に優れているため、従来はフェライト磁石の低温減磁(永久減磁)の危険のあった低温環境でも使用可能となり、特に寒冷地、上空域などで使用される製品の信頼性を著しく高めることができる。
【0065】
本発明により製造された磁石は所定の形状に加工され、下記に示すような幅広い用途に使用される。
【0066】
例えば、フュエルポンプ用、パワーウインド用、ABS用、ファン用、ワイパ用、パワーステアリング用、アクティブサスペンション用、スタータ用、ドアロック用、電動ミラー用等の自動車用モータ;FDDスピンドル用、VTRキャプスタン用、VTR回転ヘッド用、VTRリール用、VTRローディング用、VTRカメラキャプスタン用、VTRカメラ回転ヘッド用、VTRカメラズーム用、VTRカメラフォーカス用、ラジカセ等キャプスタン用、CD、LD、MDスピンドル用、CD、LD、MDローディング用、CD、LD光ピックアップ用等のOA、AV機器用モータ;エアコンコンプレッサー用、冷蔵庫コンプレッサー用、電動工具駆動用、扇風機用、電子レンジファン用、電子レンジプレート回転用、ミキサ駆動用、ドライヤーファン用、シェーバー駆動用、電動歯ブラシ用等の家電機器用モータ;ロボット軸、関節駆動用、ロボット主駆動用、工作機器テーブル駆動用、工作機器ベルト駆動用等のFA機器用モータ;その他、オートバイ用発電器、スピーカ・ヘッドホン用マグネット、マグネトロン管、MRI用磁場発生装置、CD−ROM用クランパ、ディストリビュータ用センサ、ABS用センサ、燃料・オイルレベルセンサ、マグネットラッチ等に使用できる。
【0067】
【実施例】
実施例1
モル比で
SrCO3:Fe2O3=0.8:5.9
となるようにSrCO3とFe2O3とを秤量し、湿式アトライタで粉砕して混合した。得られた混合物を、乾燥して整粒し、顆粒とした。この顆粒を、ロータリーキルンを用いて空気中で仮焼して、仮焼体を得た。仮焼温度は1250℃、仮焼時間は3時間とした。
【0068】
この仮焼体を振動ミルで解砕した後、後添加物としてSiO2、CaCO3、水酸化ランタン[La(OH)3]および酸化コバルト(Co3O4とCoOとの混合物)を添加し、さらにグルコン酸カルシウムを添加し、水を媒体として湿式アトライタで粉砕して混合することにより、スラリーとした。なお、グルコン酸カルシウムの添加量は原料粉末全体に対し0.6質量%とし、SiO2およびCaCO3の添加量は、出発原料全体のそれぞれ0.6質量%および1.4質量%とした。また、水酸化ランタンおよび酸化コバルトの添加量は、最終組成におけるモル比が
(Sr0.8La0.2)(Fe11.8Co0.2)O19
となるように決定した。
【0069】
次いで、固形分濃度が約76%となるように上記スラリーを脱水濃縮して、成形用スラリーを得た。
【0070】
次いで、成形用スラリーを脱水しながら圧縮成形し、直径30mm、高さ18mmの成形体を得た。なお、圧縮成形の際には、加圧方向に平行な1Tの磁場を印加した。
【0071】
この成形体を空気中において100〜500℃に加熱して十分に脱脂し、次いで、空気中において1220℃に1時間保持することにより焼結した後、室温まで降温し、焼結磁石を得た。なお、焼結工程における降温速度は5℃/分とした。
【0072】
この焼結磁石の磁気特性をB−Hトレーサで測定した後、空気中において表1に示す条件で熱処理を施した。なお、表1に示す温度は安定温度であり、熱処理時間は安定温度に保持した時間である。熱処理の際の昇温速度および降温速度は、いずれも5℃/分とした。熱処理後にもB−Hトレーサで磁気特性を測定し、熱処理の前後での保磁力を比較した。表1に、熱処理後の保磁力から熱処理前の保磁力を減じた値(△HcJ)を示す。なお、熱処理前の保磁力HcJは、370kA/mであった。また、各磁石の残留磁束密度は、熱処理前が428〜433mT、熱処理後が428〜432mTであり、熱処理による残留磁束密度の変化は実質的に認められなかった。
【0073】
【表1】
【0074】
表1から本発明の効果が明らかである。すなわち、本発明にしたがって焼結磁石に熱処理を施すことにより、保磁力が向上することがわかる。
【0075】
なお、焼結後、室温まで降温せずに300℃まで降温した時点で、表1に示す温度まで昇温して熱処理を施したところ、それぞれの熱処理温度に対応して表1とほぼ同じ結果が得られた。
【0076】
上記焼結磁石について、以下の手順でキュリー温度を測定した。まず、熱処理前の焼結磁石を、高さ方向がc軸方向となるように直径5mm、高さ6.5mmの円柱状に加工し、測定サンプルとした。次いで、25℃において、VSMによりサンプルのc軸方向に約1.6MA/mの磁場を印加することにより着磁した。次いで、VSMの磁場発生電流をゼロ(ただし、磁極の残留磁化により約4kA/mの磁場が発生)とした状態で、サンプルのc軸方向における残留磁化とサンプル温度とを同時に測定することにより、図1に示すようなσ−T曲線を得た。サンプルの昇温は、サンプル周囲に配置したヒーターにより行った。昇温速度は約10℃/分とした。得られたσ−T曲線から、前述した方法によりキュリー温度を求めた。その結果、上記実施例で作製した磁石は2つのキュリー温度をもち、低温側のキュリー温度は436℃であり、高温側のキュリー温度は452℃であることがわかった。また、低温側のキュリー温度における磁化(σ1)の、25℃における磁化(σRT)に対する比率(σ1/σRT)は、約3%であった。なお、このサンプルをX線回折により解析したところ、M型フェライト単相であった。なお、熱処理後の焼結磁石についても同様にしてキュリー温度を測定した結果、熱処理によるキュリー温度の変化はほとんど認められなかった。
【0077】
実施例2
実施例1で作製した焼結磁石サンプルに対し、安定温度がなく昇温過程と降温過程とからだけ構成される熱処理を、空気中で施した。昇温速度は5℃/分、降温速度は0.5℃/分、最高温度は1000℃とした。その結果、熱処理によって向上した保磁力△HcJは、9.6kA/mであった。
【0078】
実施例3
焼成後の組成が
Sr1-xLax(Fe12-yCoy)zO19
となるようにSrCO3、Fe2O3、La2O3およびCoOを秤量し、湿式アトライタで粉砕して混合した。なお、xおよびyは表2に示す値とした。得られた混合物を、乾燥して整粒し、顆粒とした。この顆粒を空気中で仮焼して、仮焼体を得た。仮焼温度は1200℃、仮焼時間は3時間とした。
【0079】
この仮焼体に、0.6質量%のSiO2、1.4質量%のCaCO3および0.9質量%のソルビトールを添加した後、乾式振動ロッドミルにより20分間粗粉砕した。得られた粗粉砕粉を、水を媒体として湿式ボールミルで30時間微粉砕し、スラリーとした。
【0080】
次いで、固形分濃度が約75%となるように上記スラリーを脱水濃縮して、成形用スラリーを得た。
【0081】
次いで、実施例1と同様にして成形および焼結した後、室温まで降温し、焼結磁石を得た。次いで、各焼結磁石に対し、空気中において600℃で36時間熱処理を施した。熱処理の前後での保磁力の差(△HcJ)を、表2に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
表2から、本発明は広い組成範囲において有効であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】2つのキュリー温度の求め方を説明するための参考グラフである。
Claims (2)
- Fe、元素A(Aは、Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種)、元素R(Rは、希土類元素およびBiから選択される少なくとも1種)および元素M(Mは、Co、Mn、NiおよびZnから選択される少なくとも1種)を含有し、六方晶フェライトを主相として有するフェライト磁石を製造するに際し、
原料粉末の成形体を焼成して焼結体とし、この焼結体を400℃未満の温度まで冷却した後に、前記焼結体に400〜1000℃の温度範囲に2〜120時間保持する熱処理を施すフェライト磁石の製造方法。 - 元素A、元素Rおよび元素Mをそれぞれ酸化物に換算して含有量を求めたとき、
式I A1−xRx(Fe12−yMy)zO19
(上記式Iにおいて、
0.04≦x≦0.9、
0.04≦y≦1.0、
0.4≦x/y≦4、
0.7≦z≦1.2
である)
である組成の焼結磁石が製造される請求項1のフェライト磁石の製造方法。
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