JP4285797B2 - 磁石粉末、焼結磁石、ボンディッド磁石及びモータ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、それぞれ六方晶マグネトプランバイト型フェライトを有する磁石粉末および焼結磁石と、前記磁石粉末をそれぞれ含むボンディッド磁石および磁気記録媒体と、六方晶マグネトプランバイト型フェライト相を含む薄膜磁性層を有する磁気記録媒体と、前記焼結磁石または前記ボンディッド磁石を用いたモータとに関する。
【0002】
【従来の技術】
酸化物永久磁石材料には、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶系のSrフェライトまたはBaフェライトが主に用いられており、これらの磁石材料を用いた焼結磁石やボンディッド磁石が製造されている。
【0003】
磁石特性のうち特に重要なものは、残留磁束密度(Br)および固有保磁力(HcJ)であるが、各種機器に組み込まれて使用されるときに重要な特性は、HcJの温度特性である。フェライト磁石は、耐環境性に優れ安価でもあることから、自動車の各部に用いられるモータなどに使用されることが多い。自動車は、寒冷あるいは酷暑の環境で使用されることがあり、モータにもこのような厳しい環境下での安定した動作が要求される。しかし、従来のM型フェライト磁石は、低温環境下での保磁力の劣化が著しく、問題があった。
【0004】
具体的には、従来の異方性M型フェライト焼結磁石では、−80℃〜+80℃程度の温度範囲において、HcJの温度変化率△HcJ/△Tが+15Oe/℃程度と比較的大きな値であった。このため、低温側でHcJが大きく減少し、減磁する場合があった。この減磁を防ぐためには、室温におけるHcJを例えば5kOe程度の大きな値にする必要があるが、HcJとBrとは一般に相反するため、同時に高いBrを得ることは実質的に不可能であった。等方性M型フェライト粉末のHcJの温度依存性は異方性M型フェライト焼結磁石に比べると優れているが、それでも上記温度変化率は、低い場合でも+12Oe/℃程度であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、実用上十分な残留磁束密度と保磁力とを兼ね備えると共に、保磁力の温度特性が優れ、特に低温域においても保磁力の低下が少ないフェライト磁石粉末、フェライト焼結磁石、ボンディッド磁石を提供することである。また、本発明の他の目的は、低温から高温までの広い温度域において、十分な効率およびトルクが安定して得られるモータを提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(16)のいずれかの構成により達成される。
(1) Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種の元素をAとし、希土類元素(Yを含む)およびBiから選択される少なくとも1種の元素であってCeを必ず含むものをRとし、CoであるかCoおよびZnをMとしたとき、A,R,FeおよびMそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、全金属元素量に対し、A:1〜13原子%、R:0.02〜5原子%、Fe:80〜95原子%、M:0.1〜5原子%である組成を有し、かつ六方晶マグネトプランバイト型 フェライトを主相として有する磁石粉末。
(2) 全金属元素量に対するCeの構成比率が0.02原子%以上である上記(1)の磁石粉末。
(3) 組成を式I A1-xRx(Fe12-yMy)zO19と表したとき、0.008≦x≦0.5、0.04≦y≦0.5、0.2≦x/y≦5、0.7≦z≦1.2(x、yおよびzはモル比を表す)である上記(1)または(2)の磁石粉末。
(4) 前記M中のCoの比率が10原子%以上である上記(1)〜(3)のいずれかの磁石粉末。
(5) Sr,Ce,FeおよびCoを含有し、−80〜80℃における固有保磁力HcJの温度変化率△HcJ/△Tが0〜10Oe/℃である上記(1)〜(4)のいずれかの磁石粉末。
(6) Ba,Ce,FeおよびCoを含有し、−80〜80℃における固有保磁力HcJの温度変化率△HcJ/△Tが0〜7Oe/℃である上記(1)〜(4)のいずれかの磁石粉末。
(7) 上記(1)〜(6)のいずれかの磁石粉末を含むボンディッド磁石。
(8) 上記(7)のボンディッド磁石を有するモータ。
(9) Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種の元素をAとし、希土類元素(Yを含む)およびBiから選択される少なくとも1種の元素であって Ceを必ず含むものをRとし、CoであるかCoおよびZnをMとしたとき、A,R,FeおよびMそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、全金属元素量に対し、A:1〜13原子%、R:0.02〜5原子%、Fe:80〜95原子%、M:0.1〜5原子%である組成を有し、かつ六方晶マグネトプランバイト型フェライトを主相として有する焼結磁石。
(10) 全金属元素量に対するCeの構成比率が0.02原子%以上である上記(9)の焼結磁石。
(11) 組成を、式I A1-xRx(Fe12-yMy)zO19と表したとき、0.008≦x≦0.5、0.04≦y≦0.5、0.2≦x/y≦5、0.7≦z≦1.2(x、yおよびzはモル比を表す)である上記(9)または(10)の焼結磁石。
(12) Sr,Ce,FeおよびCoを含有し、−80〜80℃における固有保磁力HcJの温度変化率△HcJ/△Tが0〜12Oe/℃である上記(9)〜(11)のいずれかの焼結磁石。
(13) Ba,Ce,FeおよびCoを含有し、−80〜80℃における固有保磁力HcJの温度変化率△HcJ/△Tが0〜8Oe/℃である上記(9)〜(11)のいずれかの焼結磁石。
(14) 上記(9)〜(13)のいずれかの焼結磁石を有するモータ。
【0007】
【作用および効果】
本発明では、六方晶M型フェライトに、Ceと元素Mとを含有させることにより、これらを含まない六方晶M型フェライトと同等以上の磁気特性を維持したまま、HcJの温度依存性を小さくすることができる。具体的には、本発明では、元素Aとして少なくともSrを用いたとき(例えば元素A中のSr比率が90〜100原子%)、−80〜+80℃の温度範囲におけるHcJの温度変化率△HcJ/△Tを、磁石粉末では0〜10Oe/℃、焼結磁石では0〜12Oe/℃とすることができ、また、元素Aとして少なくともBaを用いたとき(例えば元素A中のBa比率が90〜100原子%)、−80〜+80℃の温度範囲におけるHcJの温度変化率△HcJ/△Tを、磁石粉末では0〜7Oe/℃、焼結磁石では0〜8Oe/℃とすることができる。すなわち、CeおよびCoを添加しないM型フェライトの磁石粉末および焼結磁石に比べ、HcJの温度特性が改善される。本発明の磁石粉末および焼結磁石は、このように性能劣化の少ない温度域が広く、特に、従来のフェライト磁石が弱点としていた低温環境に強いため、自動車の各部に用いられるモータなどに特に好適である。
【0008】
また、本発明では、Ceおよび元素Mの添加により、HcJの温度特性改善に加え、HcJやBrを向上させることも可能である。なお、添加量や焼成条件などによっては磁気特性が低下することもあるが、その場合でも低下量はわずかであり、実用上十分な特性が得られる。
【0009】
ところで、本発明者らは、代表的に
式A Sr1-xLaxFe12-xCoxO19
で表される組成をもつ六方晶M型フェライトを特願平9−273931号において提案している。この六方晶M型フェライトは、本発明に係る六方晶M型フェライトと同様にHcJの温度特性が極めて優れるものである。本発明では、この六方晶M型フェライトにおけるLaをCeに置換した組成としてある。4価元素のCeを用いる本発明の磁石は、代表的に
式B Sr1-x/2Cex/2Fe12-xCoxO19
で表される組成をもつ。上記式Aおよび上記式Bにおいてxを共に0.1前後としたとき、HcJの温度特性向上に関して同等の効果が実現する。すなわち、CeはLaの使用量の半分で済むことになる。また、Ceは、希土類元素のうちで最も安価に入手できる。したがって、本発明では、HcJの温度特性が良好でしかも安価な磁石が実現できる。なお、本発明では、Ceに加え、他の希土類元素、例えばLaを添加することにより、特性向上とコスト低減とを共に実現することも可能である。
【0010】
本発明にしたがって製造されたフェライト磁石粉末(仮焼体粉末)を、プラスチックやゴムなどのバインダと混合してボンディッド磁石とした場合にも、HcJの温度特性向上効果は同様に実現する。
【0011】
また、本発明にしたがって製造されたフェライト粉末がバインダ中に分散された磁性層を有する塗布型磁気記録媒体、および、このフェライト粉末と同様な六方晶マグネトプランバイト型フェライト相を有する薄膜磁性層をもつ磁気記録媒体においても、十分な残留磁束密度と保磁力とを維持したまま、HcJの温度特性が改善されるので、低温または高温での使用において安定した特性の磁気記録媒体が実現する。また、本発明の磁気記録媒体は、垂直磁気記録媒体として利用できるので、記録密度を高くすることができる。
【0012】
ところで、Bull.Acad.Sci.USSR,phys.Ser.(English Transl.)vol.25,(1961)pp1405-1408(以下、文献1)には、
Ba1-xM3+ xFe12-xM2+ xO19
で表されるBaフェライトが記載されている。このBaフェライトにおいて、M3+はLa3+、Pr3+またはBi3+であり、M2+はCo2+またはNi2+である。
【0013】
また、Indian Journal of Pure & Applied Physics Vol.8,July 1970,pp.412-415 (以下、文献2)には、
式 La3+Me2+Fe3+ 11O19
(Me2+=Cu2+、Cd2+、Zn2+、Ni2+、Co2+またはMg2+)
で表わされるフェライトが記載されている。
【0014】
また、特開昭62−100417号公報(以下、文献3)には、
式 Mx(I)My(II)Mz(III)Fe12-(y+z)O19
で表される組成の等軸ヘキサフェライト顔料類が記載されている。上記式において、M(I)は、Sr、Ba、希土類金属等と、一価の陽イオンとの組み合わせであり、M(II)は、Fe(II)、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、CdまたはMgであり、M(III)はTi等である。
【0015】
また、特開昭62−119760号公報(以下、文献4)には、マグネトプランバイト型のバリウムフェライトのBaの一部をLaで置換するとともに、Feの一部をCoで置換したことを特徴とする光磁気記録材料が記載されている。
【0016】
上記各文献には、六方晶M型フェライトが記載されており、希土類金属とCoとを同時に含みうる点では本発明と同じであるが、希土類元素としてCeを選択することは記載されておらず、当然、Ce添加によりHcJの温度特性が向上することの開示はない。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明において、磁石粉末および焼結磁石(以下、磁石粉末および焼結磁石を、単に磁石ということがある)は、六方晶マグネトプランバイト型(M型)フェライトを、主相として有する。本発明の磁石は、元素A、元素R、元素MおよびFeを含有する。元素Aは、Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種の元素である。元素Rは、希土類元素(Yを含む)およびBiから選択される少なくとも1種の元素であってCeを必ず含む元素である。元素Mは、CoであるかCoおよびZnである。
【0018】
本発明の磁石において、全金属元素量に対するA,R,FeおよびMそれぞれの金属元素の総計の構成比率は、
A:1〜13原子%、
R:0.02〜5原子%、
Fe:80〜95原子%、
M:0.1〜5原子%
であり、好ましくは
A:3〜11原子%、
R:0.1〜3原子%、
Fe:83〜94原子%、
M:0.3〜4原子%
である。なお、上記全金属元素量とは、A+R+Fe+Mを意味する。
【0019】
元素Aは、Srおよび/またはBaを含むことが好ましいが、Aとして具体的に選択する元素の種類は、磁石の用途に応じて適宜選択すればよい。元素Aの構成比率が低すぎると、M型フェライトが生成しないか、α−Fe2O3 等の非磁性相が多くなる。元素Aの構成比率が高すぎるとM型フェライトが生成しないか、SrFeO3-x 等の非磁性相が多くなる。
【0020】
全金属元素量に対するCeの構成比率は、好ましくは0.02原子%以上、より好ましくは0.1原子%以上である。Ceの構成比率またはRの構成比率が低すぎると、元素Mの固溶量が少なくなり、本発明の効果が得られないほか、HcJが低くなってしまう。一方、Ceの構成比率または元素Rの構成比率が高すぎると、オルソフェライト等の非磁性の異相が多くなる。なお、温度特性の向上と低コスト化のためには元素RとしてCeだけを用いることが最も好ましい。ただし、Biを併用すれば、仮焼温度および焼結温度を低くすることができるので、生産上有利である。
【0021】
元素Mの構成比率が低すぎると、本発明の効果が得られず、元素Mの構成比率が高すぎると、BrやHcJが低下する傾向となる。元素M中のCoの比率は、好ましくは10原子%以上、より好ましくは20原子%以上である。Coの比率が低すぎると、保磁力向上が不十分となる。
【0022】
本発明の磁石の組成を、
式I A1-xRx(Fe12-yMy)zO19
と表したとき、好ましくは
0.008≦x≦0.5、
0.04≦y≦0.5、
0.2≦x/y≦5、
0.7≦z≦1.2
(x、yおよびzはモル比を表す)
であり、より好ましくは、
0.01≦x≦0.3、
0.04≦y≦0.5、
0.2≦x/y≦2.5、
0.7≦z≦1.2
であり、さらに好ましくは
0.01≦x≦0.2、
0.04≦y≦0.5、
0.2≦x/y≦1.5、
0.7≦z≦1.2
であり、特に好ましくは
0.9≦z≦1.05
であり、磁気特性を優先する場合には、さらに、
0.01≦x≦0.09
とすることが好ましい。
【0023】
上記式Iにおいて、xが小さすぎると、すなわち元素Rの量が少なすぎると、HcJの温度特性向上効果が不十分となる。また、六方晶フェライトに対する元素Mの固溶量を多くできなくなるので、飽和磁化向上効果および/または異方性磁場向上効果が不十分となる。一方、xが大きすぎると、六方晶フェライト中に元素Rが置換固溶できなくなり、例えば元素Rを含むオルソフェライトが生成して飽和磁化が低くなってしまう。yが小さすぎると飽和磁化向上効果および/または異方性磁場向上効果が不十分となる。yが大きすぎると六方晶フェライト中に元素Mが置換固溶できなくなる。また、元素Mが置換固溶できる範囲であっても、異方性定数(K1)や異方性磁場(HA)の劣化が大きくなってしまう。zが小さすぎると元素Aおよび元素Rを含む非磁性相が増えるため、飽和磁化が低くなってしまう。一方、zが大きすぎると、α−Fe2O3相または元素Mを含む非磁性スピネルフェライト相が増えるため、飽和磁化が低くなってしまう。なお、上記式Iは不純物が含まれていないものとして規定されている。
【0024】
上記式Iにおいて、x/yが小さすぎても大きすぎても元素Rと元素Mとの価数の平衡がとれなくなり、W型フェライト等の異相が生成しやすくなる。元素Mは2価であり、元素Rは4価なので、ストイキオメトリーの観点から理想的にはx/y=0.5である。なお、x/yが0.5超の領域で許容範囲が大きい理由は、yが小さくてもFe3+→Fe2+の還元によって価数の平衡がとれるためである。
【0025】
組成を表わす上記式Iにおいて、酸素(O)のモル数は19となっているが、これは、元素Rがすべて4価であって、かつy=2x、z=1のときの化学量論組成比を示したものである。元素Rの種類やx、y、zの値によって、酸素の原子数は異なってくる。また、例えば焼成雰囲気が還元性雰囲気の場合は、酸素の欠損(ベイカンシー)ができる可能性がある。さらに、FeはM型フェライト中においては通常3価で存在するが、これが2価などに変化する可能性もある。また、Co等からなる元素Mも価数が変化する可能性があり、これらにより金属元素に対する酸素の比率は変化する。本明細書では、元素Rの種類やx、y、zの値によらず酸素の原子数を19と表示してあるが、実際の酸素の原子数は化学量論組成比から多少偏倚していてもよい。
【0026】
上記主相の存在はX線回折により確認できる。また、磁石組成は、蛍光X線定量分析などにより測定することができる。
【0027】
磁石には、B2O3が含まれていてもよい。B2O3を含むことにより仮焼温度および焼結温度を低くすることができるので、生産上有利である。B2O3の含有量は、磁石全体の0.5重量%以下であることが好ましい。B2O3含有量が多すぎると、飽和磁化が低くなってしまう。
【0028】
磁石中には、Na、KおよびRbの少なくとも1種が含まれていてもよい。これらをそれぞれNa2O、K2OおよびRb2Oに換算したとき、これらの含有量の合計は、磁石全体の3重量%以下であることが好ましい。これらの含有量が多すぎると、飽和磁化が低くなってしまう。これらの元素をMIで表わしたとき、フェライト中においてMIは例えば
Sr1.1-2aCe0.75aMI a-0.1Fe11.9M0.1O19
の形で含有される。なお、この場合、0.1<a≦0.5であることが好ましい。aが大きすぎると、飽和磁化が低くなってしまう他、焼成時に元素MIが多量に蒸発してしまうという問題が生じる。
【0029】
また、これらの不純物の他、例えばSi,Al,Ga,In,Li,Mg,Mn,Ni,Cr,Cu,Ti,Zr,Ge,Sn,V,Nb,Ta,Sb,As,W,Mo等が、酸化物の形で、それぞれ酸化シリコン1重量%以下、酸化アルミニウム5重量%以下、酸化ガリウム5重量%以下、酸化インジウム3重量%以下、酸化リチウム1重量%以下、酸化マグネシウム3重量%以下、酸化マンガン3重量%以下、酸化ニッケル3重量%以下、酸化クロム5重量%以下、酸化銅3重量%以下、酸化チタン3重量%以下、酸化ジルコニウム3重量%以下、酸化ゲルマニウム3重量%以下、酸化スズ3重量%以下、酸化バナジウム3重量%以下、酸化ニオブ3重量%以下、酸化タンタル3重量%以下、酸化アンチモン3重量%以下、酸化砒素3重量%以下、酸化タングステン3重量%以下、酸化モリブデン3重量%以下程度含有されていてもよい。
【0030】
上記組成の六方晶M型フェライトのキュリー温度は、通常、425〜460℃である。
【0031】
次に、磁石粉末を製造する方法を説明する。
【0032】
本発明の磁石粉末は、原料粉末として、通常、酸化鉄粉末と、元素Aを含む粉末と、元素Rを含む粉末と、元素Mを含む粉末とを用い、これらの粉末の混合物を仮焼することにより製造する。元素Aを含む粉末、元素Rを含む粉末および元素Mを含む粉末としては、酸化物、または焼成により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等のいずれであってもよい。原料粉末の平均粒径は特に限定されないが、特に酸化鉄は微細粉末であることが好ましく、一次粒子の平均粒径が1μm以下、特に0.5μm以下であることが好ましい。また、元素Aは、ストック時の安定性が良好であることなどから、水酸化物、炭酸塩であることが好ましい。
【0033】
なお、上記の原料粉末の他、必要に応じてB2O3等や、他の化合物、例えばSi,Al,Ga,In,Li,Mg,Mn,Ni,Cr,Cu,Ti,Zr,Ge,Sn,V,Nb,Ta,Sb,As,W,Mo等を含む化合物を添加物あるいは不可避成分等の不純物として含有していてもよい。
【0034】
仮焼は、例えば1000〜1350℃で1秒間〜10時間、特に1秒間〜3時間程度行えばよい。仮焼は大気中で行ってもよいが、後述する酸素過剰雰囲気で行ってもよい。
【0035】
このようにして得られた仮焼体は、実質的にマグネトプランバイト型のフェライト構造をもち、その一次粒子の平均粒径は、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.1〜1μm、最も好ましくは0.1〜0.5μmである。平均粒径が大きすぎると、磁石粉末中の多磁区粒子の比率が高くなってHcJが低くなり、平均粒径が小さすぎると、熱擾乱によって磁性が低下したり、磁場中成形時の配向性や成形性が悪くなる。なお、平均粒径は走査型電子顕微鏡により測定すればよい。
【0036】
次いで、通常、仮焼体を粉砕ないし解砕して磁石粉末とする。そして、この磁石粉末を金属、樹脂、ゴム等のバインダ、例えば、NBRゴム、塩素化ポリエチレン、ナイロン12(ポリアミド樹脂)、ナイロン6(ポリアミド樹脂)などと混練し、磁場中または無磁場中で成形する。その後、必要に応じて硬化を行なってボンディッド磁石とする。
【0037】
また、磁石粉末をバインダと混練して塗料化し、これを樹脂等からなる基体に塗布し、必要に応じて硬化することにより磁性層を形成すれば、塗布型の磁気記録媒体とすることができる。
【0038】
本発明の焼結磁石は、上記仮焼体を必要に応じて粉砕した後、成形し、焼結することにより製造する。具体的には、以下の手順で製造することが好ましい。
【0039】
仮焼体粒子は一般に顆粒状なので、これを粉砕ないし解砕するために、まず、乾式粗粉砕を行うことが好ましい。乾式粗粉砕には、仮焼体粒子に結晶歪を導入して保磁力HcBを小さくする効果もある。保磁力の低下により粒子の凝集が抑制され、分散性が向上する。また、粒子の凝集を抑制することにより、配向度が向上する。粒子に導入された結晶歪は、後の焼結工程において解放され、保磁力が回復することによって永久磁石とすることができる。なお、乾式粗粉砕の際には、通常、SiO2と、焼成によりCaOとなるCaCO3とが添加される。SiO2およびCaCO3は、一部を仮焼前に添加してもよい。不純物および添加されたSiやCaは、大部分粒界や三重点部分に偏析するが、一部は粒内のフェライト部分(主相)にも取り込まれる。特にCaは、元素Aのサイトにはいる可能性が高い。
【0040】
乾式粗粉砕の後、仮焼体粒子と水とを含む粉砕用スラリーを調製し、これを用いて湿式粉砕を行うことが好ましい。
【0041】
湿式粉砕後、粉砕用スラリーを濃縮して成形用スラリーを調製する。濃縮は、遠心分離やフィルタープレス等によって行えばよい。
【0042】
成形は、乾式で行っても湿式で行ってもよいが、配向度を高くするためには、湿式成形を行うことが好ましい。
【0043】
湿式成形工程では、成形用スラリーを用いて磁場中成形を行う。成形圧力は0.1〜0.5ton/cm2程度、印加磁場の強度は5〜15kOe程度とすればよい。
【0044】
湿式成形では、非水系の分散媒を用いてもよく、水系の分散媒を用いてもよい。非水系の分散媒を用いる場合には、例えば特開平6−53064号公報に記載されているように、トルエンやキシレンのような有機溶媒に、例えばオレイン酸のような界面活性剤を添加して、分散媒とする。このような分散媒を用いることにより、分散しにくいサブミクロンサイズのフェライト粒子を用いた場合でも最高で98%程度の高い磁気的配向度を得ることが可能である。一方、水系の分散媒としては、水に各種界面活性剤を添加したものを用いればよい。
【0045】
成形工程後、成形体を大気中または窒素中において100〜500℃の温度で熱処理して、添加した分散剤を十分に分解除去する。次いで焼結工程において、成形体を好ましくは1150〜1270℃、より好ましくは1160〜1240℃の温度で0.5〜3時間程度焼結して、異方性フェライト焼結磁石を得る。なお、焼結は大気中で行ってもよいが、酸素過剰雰囲気、すなわち、大気中よりも酸素分圧が高い雰囲気中で焼結することにより、保磁力を向上させることができる。酸素過剰雰囲気としては、酸素分圧が好ましくは0.22気圧以上、より好ましくは0.4気圧以上、さらに好ましくは1気圧以上である。酸素過剰雰囲気は、酸素だけで構成してもよく、他のガス(窒素など)を併用して構成してもよいが、好ましくは酸素だけで構成する。
【0046】
本発明の焼結磁石の平均結晶粒径は、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.5〜1.0μmであるが、本発明では平均結晶粒径が1μmを超えていても、十分に高い保磁力が得られる。結晶粒径は走査型電子顕微鏡によって測定することができる。なお、比抵抗は100Ωm 以上程度の値である。
【0047】
なお、前記成形体をクラッシャー等を用いて解砕し、ふるい等により平均粒径が100〜700μm程度となるように分級して磁場配向顆粒を得、これを乾式磁場成形した後、焼結することにより焼結磁石を得てもよい。
【0048】
本発明には、薄膜磁性層を有する磁気記録媒体も包含される。この薄膜磁性層は、本発明の磁石と同じ六方晶マグネトプランバイト型フェライト相を有する。添加元素および不純物等の含有量についても、本発明の磁石と同じである。
【0049】
薄膜磁性層の形成には、通常、スパッタリング法を利用することが好ましい。スパッタリング法を用いる場合、上記焼結磁石をターゲットとして用いてもよく、少なくとも2種の酸化物ターゲットを用いる多元スパッタリング法を利用してもよい。スパッタリング膜形成後、六方晶マグネトプランバイト構造を形成するために、通常、熱処理を施す。
【0050】
本発明のフェライト磁石を使用することにより、一般に次に述べるような効果が得られ、優れた応用製品を得ることができる。すなわち、HcJの温度特性に優れているため、従来はフェライト磁石の低温減磁(永久減磁)の危険のあった低温環境でも使用可能となり、特に寒冷地、上空域などで使用される製品の信頼性を著しく高めることができる。また、BrおよびHcJを高くすることが可能なので、従来のフェライト製品と同一形状であれば、磁石から発生する磁束密度を増やすことができるため、モータであれば高トルク化等を実現でき、スピーカーやヘッドホンであれば磁気回路の強化により、リニアリティーのよい音質が得られるなど応用製品の高性能化に寄与できる。また、従来と同じ機能でよいとすれば、磁石の大きさ(厚さ)を小さく(薄く)でき、小型軽量化(薄型化)に寄与できる。また、従来は界磁用の磁石を巻線式の電磁石としていたようなモータにおいても、これをフェライト磁石で置き換えることが可能となり、軽量化、生産工程の短縮、低価格化に寄与できる。
【0051】
本発明の磁石粉末を用いたボンディッド磁石、焼結磁石は、所定の形状に加工され、以下に示すような幅広い用途に使用される。
【0052】
例えば、フュエルポンプ用、パワーウィンドウ用、ABS用、ファン用、ワイパ用、パワーステアリング用、アクティブサスペンション用、スタータ用、ドアロック用、電動ミラー用等の自動車用モータ;FDDスピンドル用、VTRキャプスタン用、VTR回転ヘッド用、VTRリール用、VTRローディング用、VTRカメラキャプスタン用、VTRカメラ回転ヘッド用、VTRカメラズーム用、VTRカメラフォーカス用、ラジカセ等キャプスタン用、CD,LD,MDスピンドル用、CD,LD,MDローディング用、CD,LD光ピックアップ用等のOA、AV機器用モータ;エアコンコンプレッサー用、冷蔵庫コンプレッサー用、電動工具駆動用、扇風機用、電子レンジファン用、電子レンジプレート回転用、ミキサ駆動用、ドライヤーファン用、シェーバー駆動用、電動歯ブラシ用等の家電機器用モータ;ロボット軸、関節駆動用、ロボット主駆動用、工作機器テーブル駆動用、工作機器ベルト駆動用等のFA機器用モータ;その他、オートバイ用発電器、スピーカ・ヘッドホン用マグネット、マグネトロン管、MRI用磁場発生装置、CD−ROM用クランパ、ディストリビュータ用センサ、ABS用センサ、燃料・オイルレベルセンサ、マグネットラッチ等に好適に使用される。
【0053】
【実施例】
実施例1(Srフェライト焼結磁石:R−M置換率による比較)
原料としては、次のものを用いた。
【0054】
α−Fe2O3粉末(工業用:一次粒子径0.3μmで、不純物としてMn,Cr,Si,Clを含む)、
SrCO3粉末(工業用:一次粒子径2μmで、不純物としてBa,Caを含む)、
Co3Ox粉末(試薬:一次粒子径1〜5μmで、Co含有量71重量%)、
CeO2粉末(純度99.9%)
【0055】
上記原料を配合するに際しては、仮焼後および焼結後の組成が
Sr1-xCexCo2xFe12-2xO19
となるようにした。なお、組成は、蛍光X線定量分析法により測定した。xの値は0、0.05、0.1とした。また、金属元素の合計(Sr+Ce+Co+Fe)に対する各金属元素の構成比率は、x=0.05のとき
Sr: 7.3原子%、
Ce: 0.4原子%、
Fe:91.5原子%、
Co: 0.8原子%
であり、x=0.1のとき
Sr: 6.9原子%、
Ce: 0.8原子%、
Fe:90.8原子%、
Co: 1.5原子%
である。
【0056】
さらに、
SiO2粉末(一次粒子径0.01μm)および
CaCO3粉末(一次粒子径1μm)
を上記原料に対してそれぞれ0.4重量%および1.25重量%添加して混合した。得られた混合物を湿式アトライター(溶媒にはイオン交換水を使用)で2時間粉砕し、乾燥して整粒した後、空気中において1250℃で3時間仮焼して、顆粒状の仮焼体(磁石粉末)を得た。
【0057】
これらの仮焼体に、上記SiO2を0.4重量%および上記CaCO3を3重量%添加し、乾式ロッドミルにより20分間粉砕した。
【0058】
次いで、非水系溶媒としてキシレンを用い、界面活性剤としてオレイン酸を用いて、ボールミル中で仮焼体粉末を湿式粉砕した。オレイン酸は、仮焼体粉末に対して1.3重量%添加した。スラリー中の仮焼体粉末は、33重量%とした。粉砕は、40時間行った。
【0059】
以上の粉砕により仮焼体粉末に粉砕歪が導入され、仮焼体粉末のHcJは粉砕前の40〜60%まで減少した。なお、粉砕の際に、粉砕機からFe,Crが若干混入した。
【0060】
次に、スラリーを、仮焼体粉末の濃度が約85重量%になるように遠心分離器により調整した。このスラリーから溶媒を除去しつつ、約10kOeの高さ方向磁場中で直径30mm、高さ15mmの円柱状に成形した。成形圧力は0.4ton/cm2とした。
【0061】
次に、成形体を100〜300℃で熱処理してオレイン酸を十分に除去した後、空気中において、昇温速度を5℃/分間とし、1200〜1240℃に1時間保持することにより焼結を行い、焼結体を得た。得られた焼結体の上下面を加工した後、残留磁束密度(Br)、保磁力(HcJ、HcB)および最大エネルギー積[(BH)max]と、Ceの置換率(x)およびCoの置換率(2x)との関係を調べた。なお、磁気特性の測定は25℃において行った。以降の実施例においても、HcJの温度特性を測定する場合を除いては、すべて25℃で測定した。結果を、焼結温度と共に図1〜図2に示す。
【0062】
図1および図2から、CeおよびCoの含有量を本発明範囲内とし、かつ焼結温度を最適化することで、Br、HcJ、HcBおよび(BH)maxの低下が防げ、焼結温度によってはこれらの向上も可能であることがわかる。
【0063】
焼結温度を1200℃とした焼結体のキュリー温度(Tc)と置換率(x)との関係を図3に示す。図3から、CeおよびCoの添加によりTcが低温域に移動することがわかる。x=0.1のときには、2つのキュリー温度が観測された。X線回折の結果から、x=0.1の焼結体は、マグネトプランバイト相とスピネル相との混相であることがわかった。高温側のキュリー温度は518℃だったので、このスピネル相はCoスピネルから構成されていることになる。
【0064】
実施例2(Baフェライト焼結磁石:R−M置換率による比較)
原料としてSrCO3粉末に替えてBaCO3粉末(工業用:一次粒子径2μm)を用い、組成が
Ba1-xCexCo2xFe12-2xO19
となるようにしたほかは実施例1と同じ方法および条件により焼結体を作製した。ただし、焼結温度は1240℃だけとした。得られた焼結体の上下面を加工した後、残留磁束密度(Br)、固有保磁力(HcJ)および最大エネルギー積[(BH)max]と、Ceの置換率(x)およびCoの置換率(2x)との関係を調べた。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1から、xを0.05としたときには、CeおよびCoを添加しない場合に比べ磁気特性の劣化はほとんど認められないことがわかる。なお、x=0.1で磁気特性がやや低下しているのは、異相が出現したためである。
【0067】
実施例3(焼結磁石:CeとCoとの複合添加による効果)
組成がSr0.95Ce0.05Co0.1Fe11.9O19である本発明のSrフェライト焼結磁石と、この焼結磁石からCeを除いた組成(SrCo0.1Fe11.9O19)をもつ比較例のSrフェライト焼結磁石とを、実施例1と同様にして作製した。これらの磁石の焼結温度は図4に示すものとした。また、これらのSrフェライト焼結磁石と同様にして、本発明のBaフェライト焼結磁石(Ba0.95Ce0.05Co0.1Fe11.9O19)と比較例のBaフェライト焼結磁石(BaCo0.1Fe11.9O19)とを作製した。これらの磁石の焼結温度は、図5に示すものとした。
【0068】
これらの焼結磁石について、残留磁束密度(Br)、固有保磁力(HcJ)および角形比(Hk/HcJ)を測定した。Srフェライト焼結磁石についての結果を図4に、Baフェライト焼結磁石についての結果を図5に、それぞれ示す。なお、Hkは、磁気ヒステリシスループの第2象限において磁束密度が残留磁束密度の90%になるときの外部磁界強度である。Hkが低いと高い最大エネルギー積が得られない。Hk/HcJは、磁石性能の指標となるものであり、磁気ヒステリシスループの第2象限における角張りの度合いを表わす。HcJが同等であってもHk/HcJが大きいほど磁石中のミクロ的な保磁力の分布がシャープとなるため、着磁が容易となり、かつ着磁ばらつきも少なくなり、また、最大エネルギー積が高くなる。そして、磁石使用時の外部からの減磁界や自己減磁界の変化に対する磁化の安定性が良好となり、磁石を含む磁気回路の性能が安定したものとなる。
【0069】
図4および図5から、Srフェライト焼結磁石およびBaフェライト焼結磁石にCoだけを添加した場合、CeとCoとを複合添加する場合に比べHcJが著しく低くなり、例えばSrフェライト焼結磁石では約2kOeもHcJが低くなってしまうことがわかる。実施例1および実施例2と合わせて考察すると、SrフェライトやBaフェライトにCoだけを添加したときに生じるHcJの著しい低下をCeが防ぎ、その結果、HcJの維持または向上が可能であることがわかる。
【0070】
実施例4(Srフェライト焼結磁石:焼結時の酸素分圧による比較)
実施例1と同様にして作製した成形体(x=0.05)を、酸素分圧[P(O2)]が0.05気圧、0.21気圧または1気圧の雰囲気中で焼結した。なお、酸素分圧が0.05気圧の場合および0.21気圧の場合には、窒素を併用して雰囲気圧力を1気圧とした。焼結温度は1240℃とした。酸素分圧が磁気特性に与える影響を示すグラフを、図6に示す。なお、磁石密度の違いによる磁気特性への影響を避けるために、酸素分圧の変更に応じて焼成温度を制御し、すべての焼結体の密度が同じとなるようにした。
【0071】
図6から、BrはP(O2)にほとんど影響されないが、HcJは影響されやすく、焼結時の酸素分圧を高くすることにより最大で1kOe程度向上することがわかる。すなわち、このように酸素分圧を高くして焼結することで、Brを低下させることなくHcJを向上させることが可能である。
【0072】
実施例5(Srフェライト磁石粉末:H cJ の温度特性)
組成が
Sr1-xCexCo2xFe12-2xO19
である磁石粉末(仮焼体)を、実施例1と同様にして製造した。
【0073】
これらの磁石粉末について、図7に示す温度範囲でI−Hヒステリシス曲線をVSMにより求めた。そして、このI−Hヒステリシス曲線により、HcJの温度依存性を調べた。HcJの温度依存性グラフを、図7に示す。この結果を用いて、−80℃から+80℃までの範囲で直線近似によりHcJの温度変化率△HcJ/△Tを求めた。結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2から、CeとCoとを複合添加することにより、Srフェライト磁石粉末のHcJの温度依存性が小さくなることがわかる。
【0076】
実施例6(Srフェライト焼結磁石:H cJ の温度特性)
組成が
Sr1-xCexCo2xFe12-2xO19
である焼結磁石を、実施例1と同様にして製造した。ただし、焼結温度は1200℃とし、また、直径5mm、高さ6.5mmの円柱状(高さ方向がc軸方向)となるように形状加工した。
【0077】
これらの焼結磁石について、実施例5と同様にしてHcJの温度依存性を調べた。結果を図8および表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
表3から、CeとCoとを複合添加することにより、Srフェライト焼結磁石のHcJの温度依存性が小さくなることがわかる。
【0080】
実施例7(Baフェライト磁石粉末:H cJ の温度特性)
組成を
Ba1-xCexCo2xFe12-2xO19
としたほかは実施例5と同様にして磁石粉末(仮焼体)を製造した。
【0081】
これらの磁石粉末について、実施例5と同様にしてHcJの温度依存性を調べた。結果を図9および表4に示す。
【0082】
【表4】
【0083】
表4から、CeとCoとを複合添加することにより、Baフェライト磁石粉末のHcJの温度依存性が小さくなることがわかる。
【0084】
実施例8(Baフェライト焼結磁石:H cJ の温度特性)
組成を
Ba1-xCexCo2xFe12-2xO19
としたほかは実施例6と同様にして焼結磁石を製造した。
【0085】
これらの焼結磁石について、実施例5と同様にしてHcJの温度依存性を調べた。結果を図10および表5に示す。
【0086】
【表5】
【0087】
表5から、CeとCoとを複合添加することにより、Baフェライト焼結磁石のHcJの温度依存性が著しく小さくなることがわかる。
【0088】
実施例9(焼結磁石)
組成が
Sr0.95Ce0.05Me0.1Fe11.9O19
(Me=Zn、Mg、Li+Fe、Ni、Co、Mn)となるように原料を配合したほかは実施例1と同様にして焼結体を作製した。ただし、焼結温度は1200℃とした。これらの焼結体について、磁気特性および密度を測定した。結果を表6に示す。
【0089】
【表6】
【0090】
表6から、CeとCoとの複合添加によるHcJ向上効果が明らかである。Me=Znである場合には、高Brが得られているが、HcJは低い。また、Zn以外の元素を添加した焼結体のすべてにおいて、HcJおよび(BH)maxがMe=Coのものよりも劣っている。
【0091】
実施例10(焼結磁石の応用)
焼結体の形状を、モータの界磁用磁石に用いるC型形状に変更したほかは実施例1と同様にして焼結磁石を得た。これらの焼結磁石をモータ中に組み込み定格条件で動作させたところ、CeおよびCoの添加によるHcJの温度特性改善および磁気特性改善に応じて、モータとしての特性の改善が認められた。
【0092】
なお、上記各実施例において、Ceの一部に替えてBiを添加したところ、Bi添加により仮焼温度を低くできることがわかった。すなわち、最良の特性が得られる仮焼温度が低温側に移動し、しかも、HcJはほとんど劣化しなかった。また、Ceの一部を他の希土類元素で置換した組成について仮焼体および焼結体を作製したところ、上記各実施例と同様にCoとの複合添加によりHcJの向上が認められた。また、SrまたはBaに替えてCaまたはPbを用いた場合でも、CeとCoとを複合添加することにより、HcJの温度特性改善が認められた。
【0093】
また、上記各実施例で作製したフェライト仮焼体を用いてボンディッド磁石を作製したところ、CeおよびCoの置換率に応じて上記各実施例と同様な結果が得られた。
【0096】
以上の実施例から、本発明の効果が明らかである。
【図面の簡単な説明】
【図1】Srフェライト焼結体についてCeおよびCoの置換率(x、2x)と磁気特性との関係を示すグラフである。
【図2】Srフェライト焼結体についてCeおよびCoの置換率(x、2x)と磁気特性との関係を示すグラフである。
【図3】Srフェライト焼結体についてCeおよびCoの置換率(x、2x)とキュリー温度との関係を示すグラフである。
【図4】Srフェライト焼結体について添加元素と磁気特性との関係を示すグラフである。
【図5】Baフェライト焼結体について添加元素と磁気特性との関係を示すグラフである。
【図6】Srフェライト焼結体について焼結時の酸素分圧P(O2)と磁気特性との関係を示すグラフである。
【図7】Srフェライト仮焼体のHcJの温度依存性を示すグラフである。
【図8】Srフェライト焼結体のHcJの温度依存性を示すグラフである。
【図9】Baフェライト仮焼体のHcJの温度依存性を示すグラフである。
【図10】Baフェライト焼結体のHcJの温度依存性を示すグラフである。
Claims (14)
- Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種の元素をAとし、希土類元素(Yを含む)およびBiから選択される少なくとも1種の元素であって Ceを必ず含むものをRとし、CoであるかCoおよびZnをMとしたとき、A,R,FeおよびMそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、全金属元素量に対 し、A:1〜13原子%、R:0.02〜5原子%、Fe:80〜95原子%、M:0.1〜5原子%である組成を有し、かつ六方晶マグネトプランバイト型 フェライトを主相として有する磁石粉末。
- 全金属元素量に対するCeの構成比率が0.02原子%以上である請求項1の磁石粉末。
- 組成を式I A1-xRx(Fe12-yMy)zO19と表したとき、0.008≦x≦0.5、0.04≦y≦0.5、0.2≦x/y≦5、0.7≦z≦1.2(x、yおよびzはモル比を表す)である請求項1または2の磁石粉末。
- 前記M中のCoの比率が10原子%以上である請求項1〜3のいずれかの磁石粉末。
- Sr,Ce,FeおよびCoを含有し、−80〜80℃における固有保磁力HcJの温度変化率△HcJ/△Tが0〜10Oe/℃である請求項1〜4のいずれかの磁石粉末。
- Ba,Ce,FeおよびCoを含有し、−80〜80℃における固有保磁力HcJの温度変化率△HcJ/△Tが0〜7Oe/℃である請求項1〜4のいずれかの磁石粉末。
- 請求項1〜6のいずれかの磁石粉末を含むボンディッド磁石。
- 請求項7のボンディッド磁石を有するモータ。
- Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種の元素をAとし、希土類元素(Yを含む)およびBiから選択される少なくとも1種の元素であってCeを必ず含むものをRとし、CoであるかCoおよびZnをMとしたとき、A,R,FeおよびMそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、全金属元素量に対 し、A:1〜13原子%、R:0.02〜5原子%、Fe:80〜95原子%、M:0.1〜5原子%である組成を有し、かつ六方晶マグネトプランバイト型フェライトを主相として有する焼結磁石。
- 全金属元素量に対するCeの構成比率が0.02原子%以上である請求項10の焼結磁石。
- 組成を、式I A1-xRx(Fe12-yMy)zO19と表したとき、0.008≦x≦0.5、0.04≦y≦0.5、0.2≦x/y≦5、0.7≦z≦1.2(x、yおよびzはモル比を表す)である請求項9または10の焼結磁石。
- Sr,Ce,FeおよびCoを含有し、−80〜80℃における固有保磁力HcJの温度変化率△HcJ/△Tが0〜12Oe/℃である請求項9〜11のいずれかの焼結磁石。
- Ba,Ce,FeおよびCoを含有し、−80〜80℃における固有保磁力HcJの温度変化率△HcJ/△Tが0〜8Oe/℃である9〜11のいずれかの焼結磁石。
- 請求項9〜13のいずれかの焼結磁石を有するモータ。
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