JP4709338B2 - 六方晶フェライト磁石粉末と六方晶フェライト焼結磁石の製造方法 - Google Patents
六方晶フェライト磁石粉末と六方晶フェライト焼結磁石の製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、六方晶マグネトプランバイト型フェライトを有する磁石粉末および焼結磁石の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
酸化物永久磁石材料には、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶系のSrフェライトまたはBaフェライトが主に用いられており、これらの焼結磁石やボンディッド磁石が製造されている。
【0003】
磁石特性のうち特に重要なものは、残留磁束密度(Br)および固有保磁力(HcJ)である。
【0004】
Brは、磁石の密度およびその配向度と、その結晶構造で決まる飽和磁化(4πIs)とで決定され、
Br=4πIs×配向度×密度
で表わされる。M型のSrフェライトやBaフェライトの4πIsは約4.65kGである。密度と配向度とは、最も高い値が得られる焼結磁石の場合でもそれぞれ98%程度が限界である。したがって、これらの磁石のBrは4.46kG程度が限界であり、4.5kG以上の高いBrを得ることは、従来、実質的に不可能であった。
【0005】
本発明者らは、特開平9−115715号公報において、M型フェライトに例えばLaとZnとを適量含有させることにより、4πIsを最高約200G高めることが可能であり、これによって4.5kG以上のBrが得られることを見出した。しかしこの場合、後述する異方性磁場(HA)が低下するため、4.5kG以上のBrと3.5kOe以上のHcJとを同時に得ることは困難であった。
【0006】
HcJは、異方性磁場{HA(=2K1/Is)}と単磁区粒子比率(fc)との積(HA×fc)に比例する。ここで、K1は結晶磁気異方性定数であり、Isと同様に結晶構造で決まる定数である。M型Baフェライトの場合、K1=3.3×106erg/cm3であり、M型Srフェライトの場合、K1=3.5×106erg/cm3である。このように、M型Srフェライトは最大のK1をもつことが知られているが、K1をこれ以上向上させることは困難であった。
【0007】
一方、フェライト粒子が単磁区状態となれば、磁化を反転させるためには異方性磁場に逆らって磁化を回転させる必要があるから、最大のHcJが期待される。フェライト粒子を単磁区粒子化するためには、フェライト粒子の大きさを下記の臨界径(dc)以下にすることが必要である。
【0008】
dc=2(k・Tc・K1/a)1/2/Is2
【0009】
ここで、kはボルツマン定数、Tcはキュリー温度、aは鉄イオン間距離である。M型Srフェライトの場合、dcは約1μmであるから、例えば焼結磁石を作製する場合は、焼結体の結晶粒径を1μm以下に制御することが必要になる。高いBrを得るための高密度化かつ高配向度と同時に、このように微細な結晶粒を実現することは従来困難であったが、本発明者らは特願平5−80042号において、新しい製造方法を提案し、従来にない高特性が得られることを示した。しかし、この方法においても、Brが4.4kGのときにはHcJが4.0kOe程度となり、4.4kG以上の高いBrを維持してかつ4.5kOe以上の高いHcJを同時に得ることは困難であった。
【0010】
また、焼結体の結晶粒径を1μm以下に制御するためには、焼結段階での粒成長を考慮すると、成形段階での粒子サイズを好ましくは0.5μm以下にする必要がある。このような微細な粒子を用いると、成形時間の増加や成形時のクラックの増加などにより、一般的に生産性が低下するという問題がある。このため、高特性化と高生産性とを両立させることは非常に困難であった。
【0011】
一方、高いHcJを得るためには、Al2O3やCr2O3の添加が有効であることが従来から知られていた。この場合、Al3+やCr3+はM型構造中の「上向き」スピンをもつFe3+を置換してHAを増加させると共に、粒成長を抑制する効果があるため、4.5kOe以上の高いHcJが得られる。しかし、Isが低下すると共に焼結密度も低下しやすくなるため、Brは著しく低下する。このため、HcJが4.5kOeとなる組成では最高でも4.2kG程度のBrしか得られなかった。
【0012】
ところで、従来の異方性M型フェライト焼結磁石のHcJの温度依存性は+13Oe/℃程度で、温度係数は+0.3〜+0.5%/℃程度の比較的大きな値であった。このため、低温側でHcJが大きく減少し、減磁する場合があった。この減磁を防ぐためには、室温におけるHcJを例えば5kOe程度の大きな値にする必要があるので、同時に高いBrを得ることは実質的に不可能であった。等方性M型フェライト粉末のHcJの温度依存性は異方性焼結磁石に比べると優れているが、それでも少なくとも+8Oe/℃程度で、温度係数は+0.15%/℃以上であり、温度特性をこれ以上改善することは困難であった。フェライト磁石は、耐環境性に優れ安価でもあることから、自動車の各部に用いられるモータなどに使用されることが多い。自動車は、寒冷あるいは酷暑の環境で使用されることがあり、モータにもこのような厳しい環境下での安定した動作が要求される。しかし、従来のフェライト磁石は、上述したように低温環境下での保磁力の劣化が著しく、問題があった。
【0013】
そこで、本発明者らは、特願平10−60682号、特願平9−273936号およびその国内優先権主張出願で、
Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種の元素であって、Srを必ず含むものをAとし、希土類元素(Yを含む)およびBiから選択される少なくとも1種の元素であってLaを必ず含むものをRとし、CoであるかCoおよびZnをMとしたとき、
A,R,FeおよびMそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、全金属元素量に対し、
A:1〜13原子%、
R:0.05〜10原子%、
Fe:80〜95原子%、
M:0.1〜5原子%
である六方晶マグネトプランバイト型フェライトを主相として有するフェライト磁石粉末焼結磁石を提案している。
【0014】
この提案は、M型Srフェライトにおいて、少なくとも、LaとCoを共に最適量含有させるような組成とする。その結果、Isを低下させず、むしろIsを高めると同時にK1を高めることによりHAを増加させることができ、これにより高Brかつ高HcJを実現した。具体的には、上記提案の焼結磁石では、25℃程度の常温において、上記式IIIまたは上記式IVを満足する特性が容易に得られる。従来のSrフェライト焼結磁石では、4.4kGのBrと4.0kOeのHcJとが得られたことは報告されているが、HcJが4kOe以上であって、かつ上記式IIIを満足する特性のものは得られていない。すなわち、HcJを高くした場合にはBrが低くなってしまう。上記提案の焼結磁石において、CoとZnとを複合添加した場合、保磁力はCo単独添加よりも低くなり、4kOeを下回ることもあるが、残留磁束密度は著しく向上する。このとき、上記式IVを満足する磁気特性が得られる。従来、HcJが4kOe未満のSrフェライト焼結磁石において、上記式IVを満足するものは得られていない。
【0015】
また、粒径が1μmを超える比較的粗いフェライト粒子を焼結した場合でも、4kOe以上の高いHcJを有する焼結磁石を得ることができる。このため、粉砕時間や成形時間を短縮することができ、また、製品歩留まりの改善が可能となる。
【0016】
この組成は、特に焼結磁石に適用した場合にHcJ向上効果が大きいが、フェライト粉末(仮焼体粉末)をプラスチックやゴムなどのバインダと混合したボンディッド磁石としてもよい。
【0017】
そして、磁石粉末および焼結磁石はHcJの温度依存性が小さく、特に上記提案の磁石粉末ではHcJの温度依存性が著しく小さい。具体的には、上記提案の焼結磁石の−50〜50℃におけるHcJの温度係数(絶対値)は0.25%/℃以下であり、0.20%/℃以下とすることも容易にできる。また、磁石粉末の−50〜50℃におけるHcJの温度係数(絶対値)は0.1%/℃以下であり、0.05%/℃以下とすることも容易にでき、温度係数をゼロとすることも可能である。そして、このようにHcJの温度特性が良好であることから、−25℃において上記式Vを満足する良好な磁気特性が得られる。低温環境下におけるこのような高磁気特性は、従来のフェライト磁石では達成できなかったものである。
【0018】
ところで、Bull.Acad.Sci.USSR,phys.Ser.(English Transl.)vol.25,(1961)pp1405-1408(以下、文献1)には、
Ba1-xM3+ xFe12-xM2+ xO19
で表されるBaフェライトが記載されている。このBaフェライトにおいて、M3+はLa3+、Pr3+またはBi3+であり、M2+はCo2+またはNi2+である。文献1のBaフェライトは、粉体か焼結体か不明確であるが、LaおよびCoを含有する点では本発明のフェライトと類似している。文献1のFig.1には、LaおよびCoを含有するBaフェライトについてxの変化に伴う飽和磁化の変化が記載されているが、このFig.1ではxの増大にともなって飽和磁化が減少している。また、文献1には保磁力が数倍になったとの記載があるが、具体的数値の記載はない。
【0019】
さらに、文献1には焼成を高酸素分圧下で行うという記載は全くない。
【0020】
これに対し上記提案では、Srフェライト焼結磁石にLaとCoとをそれぞれ最適量含有させた組成を用いることにより、HcJの著しい向上と共に、Brの微増を実現し、かつ、HcJの温度依存性の著しい改善をも成し遂げたものである。また、上記提案は、Srフェライト磁石粉末にLaとCoとをそれぞれ最適量含有させることにより、HcJを増大させると共にその温度依存性を著しく減少させたものである。LaおよびCoの複合添加をSrフェライトに適用したときにこのような効果が得られることは、上記提案において初めて見出されたものである。上記提案において、大気中よりも高い酸素分圧下で焼成を行うことにより、一層優れた磁気特性が得られることは本発明において初めて見出されたものである。
【0021】
Indian Journal of Pure & Applied Physics Vol.8,July 1970,pp.412-415 (以下、文献2)には、
式 La3+Me2+Fe3+ 11O19
(Me2+=Cu2+、Cd2+、Zn2+、Ni2+、Co2+またはMg2+)
で表わされるフェライトが記載されている。このフェライトは、LaおよびCoを同時に含有する点では上記提案の磁石粉末および焼結磁石と同じである。しかし、文献2においてMe2+=Co2+の場合の飽和磁化σsは、室温で42cgs unit、0Kで50cgs unitという低い値である。これは、文献2記載のフェライトの組成が上記提案範囲を外れている(LaおよびCoの量が多すぎる)ためと考えられる。また、文献2には、焼成を高酸素分圧下で行うという記載は全くない。
【0022】
特開昭62−100417号公報(以下、文献3)には、
式 Mx(I)My(II)Mz(III)Fe12-(y+z)O19
で表される組成の等軸ヘキサフェライト顔料類が記載されている。上記式において、M(I)は、Sr、Ba、希土類金属等と、一価の陽イオンとの組み合わせであり、M(II)は、Fe(II)、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、CdまたはMgであり、M(III)はTi等である。文献3に記載されたヘキサフェライト顔料類は、希土類金属とCoとを同時に含みうる点では本発明の磁石粉末および焼結磁石と同じである。しかし、文献3には、LaとCoとを同時に添加した実施例は記載されておらず、これらの同時添加により飽和磁化および保磁力が共に向上する旨の記載もない。しかも、文献3の実施例のうちCoを添加したものでは、同時に元素M(III)としてTiが添加されている。元素M(III)、特にTiは、飽和磁化および保磁力を共に低下させる元素なので、文献3において上記提案の構成および効果が示唆されていないのは明らかである。また、文献3には、焼成を高酸素分圧下で行うという記載は全くない。
【0023】
特開昭62−119760号公報(以下、文献4)には、
マグネトプランバイト型のバリウムフェライトのBaの一部をLaで置換するとともに、Feの一部をCoで置換したことを特徴とする光磁気記録材料が記載されている。このBaフェライトにおいて、LaおよびCoを含有する点では上記提案のSrフェライトと類似しているようにも見える。しかし、文献4のフェライトは光記録材料であり、上記提案の磁石とは技術分野が異なる。また、文献4は(I)の組成式でBa,La,Coを必須とし、式(II)および(III)では、これに4価以上の金属イオン(特定されていない)が添加された場合が示されているのみである。これに対し、上記提案のフェライトは、Srを必須とするSrフェライトであり、これにLa,Coが適量添加される点で文献4の組成とは異なる。すなわち、上記提案のSrフェライトは、上記文献1で説明したように、Srフェライト焼結磁石にLaとCoとをそれぞれ最適量含有させた組成を用いることにより、HcJの著しい向上や、Brの微増を実現し、かつ、HcJの温度依存性の著しい改善等を可能としたものである。これは、LaおよびCoの複合添加をSrフェライトに適用したときにこのような効果が得られるもので、文献4とは異なる上記提案の組成において初めて実現されたものである。また、文献4には、焼成を高酸素分圧下で行うという記載は全くない。
【0024】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記特願平10−60682号、特願平9−273936号およびその国内優先権主張出願で提案した従来のM型フェライト磁石では達成不可能であった高い残留磁束密度と高い保磁力とを有するフェライト磁石の磁石特性をさらに高めることである。すなわち、保磁力、保磁力の温度特性、角形比をさらに高めることである。
【0025】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(8)のいずれかの構成により達成される。
(1) Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種の元素を含むものをAとし、
希土類元素(Yを含む)およびBiから選択される少なくとも1種の元素をRとし、
CoをMとしたとき、
A,R,FeおよびMそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、全金属元素量に対し、
A:1〜13原子%、
R:0.05〜10原子%、
Fe:80〜95原子%、
M:0.1〜7原子%
である六方晶フェライトを主相として有する六方晶フェライト磁石粉末を製造するにあたり、
焼成を酸素分圧0.4atm以上の雰囲気中で行う六方晶フェライト磁石粉末の製造方法。
(2) 前記六方晶フェライトは、
式I A1-xRx(Fe12-yMy)zO19
と表したとき、
0.04≦x≦0.9、
0.04≦y≦1.0、
0.8≦x/y≦5、
0.5≦z≦1.2
である上記(1)の六方晶フェライト磁石粉末の製造方法。
(3) 前記RにLaが必ず含まれる上記(1)又は(2)の六方晶フェライト磁石粉末の製造方法。
(4) 前記R中のLaの比率が40原子%以上である上記(3)の六方晶フェライト磁石粉末の製造方法。
【0026】
(5) Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種の元素を含むものをAとし、
希土類元素(Yを含む)およびBiから選択される少なくとも1種の元素をRとし、
CoをMとしたとき、
A,R,FeおよびMそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、全金属元素量に対し、
A:1〜13原子%、
R:0.05〜10原子%、
Fe:80〜95原子%、
M:0.1〜7原子%
である六方晶フェライトを主相として有する六方晶フェライト焼結磁石を製造するにあたり、
原料を混合、仮焼、粉砕、成形、本焼成する製造工程において、仮焼または本焼成の少なくとも一方を、
酸素分圧0.4atm以上の雰囲気中で行う六方晶フェライト焼結磁石の製造方法。
(6) 前記六方晶フェライトを、
式II A1-xRx(Fe12-yMy)zO19
と表したとき、
0.04≦x≦0.9、
0.04≦y≦1.0、
0.8≦x/y≦2、
0.5≦z≦1.2
である上記(5)の六方晶フェライト焼結磁石の製造方法。
(7) 前記RにLaが必ず含まれる上記(5)又は(6)の六方晶フェライト焼結磁石の製造方法。
(8) 前記R中のLaの比率が40原子%以上である上記(7)の六方晶フェライト焼結磁石の製造方法。
【0027】
【作用】
A−R−Fe−M系の六方晶フェライト磁石を製造する際に、酸素分圧を高めて焼成することにより、高い磁気特性が得られる。この原因は、明らかでないが、例えば、Fe2+の生成が抑制されることによることが考えられる。例えばSr2+ 1-xLa3+ xFe12-xCo2+ xO19の組成において、理想的には、鉄イオンは全てFe3+になるはずであるが、実際には、一部にFe2+が生成することが考えられる。酸素分圧を高めて焼成することにより、このFe2+生成が抑制され、理想に近づくことが考えられる。
【0028】
通常、焼結体の比抵抗は、Fe2+の生成量に強く依存する。本発明の方法により焼結体を作製すると、通常比抵抗が増加することから、上記のとおりFe2+の生成が抑制され、高い残留磁束密度と、より高い保磁力が得られ、保磁力の温度特性が向上すると考えられる。
【0029】
【発明の実施の形態】
本発明によって製造される磁石粉末は、
Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種の元素をAとし、希土類元素(Yを含む)およびBiから選択される少なくとも1種の元素をRとし、CoをMとしたとき、A,R,FeおよびMそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、全金属元素量に対し、
A:1〜13原子%、
R:0.05〜10原子%、
Fe:80〜95原子%、
M:0.1〜7原子%、特に0.1〜5原子%
である六方晶フェライトを主相として有する。
【0030】
また、好ましくは、
A:3〜11原子%、
R:0.2〜6原子%、
Fe:83〜94原子%、
M:0.3〜4原子%であり、
より好ましくは、
A:3〜9原子%、
R:0.5〜4原子%、
Fe:86〜93原子%、
M:0.5〜3原子%である。
【0031】
上記各構成元素において、Aは、Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種の元素である。この場合、SrおよびCa、特にSrを必ず含むことが好ましい。Aが小さすぎると、M型フェライトが生成しないか、α−Fe2O3 等の非磁性相が多くなる。Aが大きすぎるとM型フェライトが生成しないか、SrFeO3-x 等の非磁性相が多くなる。A中のSrおよびCa、特にSrの比率は、好ましくは51原子%以上、より好ましくは70原子%以上、さらに好ましくは100原子%である。A中のSrの比率が多くなると、飽和磁化向上と保磁力の著しい向上が得られる。
【0032】
Rは、希土類元素(Yを含む)およびBiから選択される少なくとも1種の元素である。Rとしては、La、Nd、Pr等が好ましい。特にRには、Laが必ず含まれることが好ましい。Rが小さすぎると、Mの固溶量が少なくなり、本発明の効果が減じてくる。Rが大きすぎると、オルソフェライト等の非磁性の異相が多くなる。R中においてLaの占める割合は、好ましくは40原子%以上、より好ましくは70原子%以上であり、飽和磁化向上のためにはRとしてLaだけを用いることが最も好ましい。これは、六方晶M型フェライトに対する固溶限界量を比較すると、Laが最も多いためである。したがって、R中のLaの割合が低すぎるとRの固溶量を多くすることができず、その結果、元素Mの固溶量も多くすることができなくなり、本発明の効果が小さくなってしまう。また、Biを併用すれば仮焼温度および焼結温度を低くすることができるので、生産上有利である。
【0033】
元素Mが少なすぎると本発明の効果が得られず、Mが多すぎると、BrやHcJが逆に低下し本発明の効果が得られない。
【0034】
また、好ましくは本発明の六方晶マグネトプランバイト型(M型)フェライトは、
式I A1-xRx(Fe12-yMy)zO19
の主相を有するものと表したとき、
0.04≦x≦0.9、
0.04≦y≦1.0、特に0.04≦y≦0.5、
0.8≦x/y≦5、
0.5≦z≦1.2、特に0.7≦z≦1.2、
である。なお、式Iにおいて不純物は含まれていない。
【0035】
また、より好ましくは
0.04≦x≦0.5、
0.04≦y≦0.5、
0.8≦x/y≦5、
0.7≦z≦1.2
であり、さらに好ましくは
0.1≦x≦0.4、
0.1≦y≦0.4、
0.8≦z≦1.1
であり、特に好ましくは
0.9≦z≦1.05
である。
【0036】
上記式Iにおいて、xが小さすぎると、すなわち元素Rの量が少なすぎると、六方晶フェライトに対する元素Mの固溶量を多くできなくなってきて、飽和磁化向上効果および/または異方性磁場向上効果が不十分となってくる。xが大きすぎると六方晶フェライト中に元素Rが置換固溶できなくなってきて、例えば元素Rを含むオルソフェライトが生成して飽和磁化が低くなってくる。yが小さすぎると飽和磁化向上効果および/または異方性磁場向上効果が不十分となってくる。yが大きすぎると六方晶フェライト中に元素Mが置換固溶できなくなってくる。また、元素Mが置換固溶できる範囲であっても、異方性定数(K1)や異方性磁場(HA)の劣化が大きくなってくる。zが小さすぎるとSrおよび元素Rを含む非磁性相が増えるため、飽和磁化が低くなってくる。zが大きすぎるとα−Fe2O3相または元素Mを含む非磁性スピネルフェライト相が増えるため、飽和磁化が低くなってくる。
【0037】
上記式Iにおいて、x/yが小さすぎても大きすぎても元素Rと元素Mとの価数の平衡がとれなくなり、W型フェライト等の異相が生成しやすくなる。元素Mは2価であるから、元素Rが3価イオンである場合、理想的にはx/y=1である。なお、x/yが1超の領域で許容範囲が大きい理由は、yが小さくてもFe3+→Fe2+の還元によって価数の平衡がとれるためである。
【0038】
組成を表わす上記式Iにおいて、酸素(O)の原子数は19となっているが、これは、Rがすべて3価であって、かつx=y、z=1のときの化学量論組成比を示したものである。Rの種類やx、y、zの値によって、酸素の原子数は異なってくる。また、例えば焼成雰囲気が還元性雰囲気の場合は、酸素の欠損(ベイカンシー)ができる可能性がある。さらに、FeはM型フェライト中においては通常3価で存在するが、これが2価などに変化する可能性もある。また、Co等のMで示される元素も価数が変化する可能性があり、これらにより金属元素の対する酸素の比率は変化する。本明細書では、Rの種類やx、y、zの値によらず酸素の原子数を19と表示してあるが、実際の酸素の原子数は化学量論組成比から多少偏倚していてもよい。
【0039】
フェライトの組成は、蛍光X線定量分析などにより測定することができる。また、上記の主相の存在はX線回折や電子線回折などから確認される。
【0040】
磁石粉末には、B2O3が含まれていてもよい。B2O3を含むことにより仮焼温度および焼結温度を低くすることができるので、生産上有利である。B2O3の含有量は、磁石粉末全体の0.5wt%以下であることが好ましい。B2O3含有量が多すぎると、飽和磁化が低くなってしまう。
【0041】
磁石粉末中には、Na、KおよびRbの少なくとも1種が含まれていてもよい。これらをそれぞれNa2O、K2OおよびRb2Oに換算したとき、これらの含有量の合計は、磁石粉末全体の3wt%以下であることが好ましい。これらの含有量が多すぎると、飽和磁化が低くなってしまう。これらの元素をMIで表わしたとき、フェライト中においてMIは例えば
Sr1.3-2aRaMI a-0.3Fe11.7M0.3O19
の形で含有される。なお、この場合、0.3<a≦0.5であることが好ましい。aが大きすぎると、飽和磁化が低くなってしまう他、焼成時に元素MIが多量に蒸発してしまうという問題が生じる。
【0042】
また、これらの不純物の他、例えばSi,Al,Ga,In,Li,Mg,Mn,Ni,Cr,Cu,Ti,Zr,Ge,Sn,V,Nb,Ta,Sb,As,W,Mo等を酸化物の形で、それぞれ酸化シリコン1重量%以下、酸化アルミニウム5重量%以下、酸化ガリウム5重量%以下、酸化インジウム3重量%以下、酸化リチウム1重量%以下、酸化マグネシウム3重量%以下、酸化マンガン3重量%以下、酸化ニッケル3重量%以下、酸化クロム5重量%以下、酸化銅3重量%以下、酸化チタン3重量%以下、酸化ジルコニウム3重量%以下、酸化ゲルマニウム3重量%以下、酸化スズ3重量%以下、酸化バナジウム3重量%以下、酸化ニオブ3重量%以下、酸化タンタル3重量%以下、酸化アンチモン3重量%以下、酸化砒素3重量%以下、酸化タングステン3重量%以下、酸化モリブデン3重量%以下程度含有されていてもよい。
【0043】
本発明における磁石粉末は、1次粒子の平均粒径が1μmを超えていても、従来に比べ高い保磁力を得ることができる。1次粒子の平均粒径は、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.1〜1μmである。平均粒径が大きすぎると、磁石粉末中の多磁区粒子の比率が高くなってHcJが低くなり、平均粒径が小さすぎると、熱擾乱によって磁性が低下したり、磁場中成形時の配向性や成形性が悪くなる。
【0044】
磁石粉末は、通常、これをバインダで結合したボンディッド磁石に用いられる。バインダとしては、通常NBRゴム、塩素化ポリエチレン、ナイロン12(ポリアミド樹脂)、ナイロン6(ポリアミド樹脂)等が用いられる。
【0045】
上記組成の磁石粉末のキュリー温度は、通常、425〜460℃である。
【0046】
次に、本発明の磁石粉末を製造する方法を説明する。
【0047】
上記フェライトを有する磁石粉末は、原料粉末として、通常、酸化鉄粉末と、元素Aを含む粉末と、元素Rを含む粉末と、元素Mを含む粉末とを用い、これらの粉末の混合物を仮焼することにより製造する。元素Aを含む粉末、元素Rを含む粉末および元素Mを含む粉末としては、酸化物、または焼成により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等のいずれであってもよい。原料粉末の平均粒径は特に限定されないが、特に酸化鉄は微細粉末が好ましく、一次粒子の平均粒径が1μm以下、特に0.5μm以下であることが好ましい。また、元素Aはストック時の安定性等から水酸化物、炭酸塩であることが好ましい。
【0048】
なお、上記の原料粉末の他、必要に応じてB2O3等や、他の化合物、例えばSi,Al,Ga,In,Li,Mg,Mn,Ni,Cr,Cu,Ti,Zr,Ge,Sn,V,Nb,Ta,Sb,As,W,Mo等を含む化合物を添加物あるいは不可避成分等の不純物として含有していてもよい。
【0049】
仮焼は、酸素過剰雰囲気において例えば1000〜1350℃で1秒間〜10時間、特に1秒間〜3時間程度行えばよい。酸素過剰雰囲気は、酸素分圧0.4atm以上であり、特に0.6〜1atmである。
【0050】
このようにして得られた仮焼体は、実質的にマグネトプランバイト型のフェライト構造をもち、その一次粒子の平均粒径は、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.1〜1μm、最も好ましくは0.1〜0.5μmである。平均粒径は走査型電子顕微鏡により測定すればよい。
【0051】
次いで、通常、仮焼体を粉砕ないし解砕して磁石粉末とする。そして、この磁石粉末を樹脂、金属、ゴム等の各種バインダと混練し、磁場中または無磁場中で成形する。その後、必要に応じて硬化を行なってボンディッド磁石とする。
【0052】
また、磁石粉末をバインダと混練して塗料化し、これを樹脂等からなる基体に塗布し、必要に応じて硬化することにより磁性層を形成すれば、塗布型の磁気記録媒体とすることができる。
【0053】
本発明によって得られる焼結磁石は、上記の組成比率をもつ。次に、焼結磁石を製造する方法を説明する。
【0054】
上記と同様にして得られた仮焼体(ただし、仮焼時の雰囲気は必ずしも酸素過剰でなくてもよい)を粉砕した後、前記A,RおよびMそれぞれを含有する化合物の粉末の少なくとも1種または2種以上を混合し、成形し、酸素過剰雰囲気中で焼結することにより製造することが好ましい。これにより、本発明の効果が増大する。具体的には、以下の手順で製造することが好ましい。化合物の粉末の添加量は、仮焼体の1〜100体積%、より好ましくは5〜70体積%、特に10〜50体積%が好ましい。なお、仮焼時に酸素過剰雰囲気中で処理している場合には本焼成時に酸素過剰雰囲気としなくてもよいが、好ましくは本焼成時に酸素過剰雰囲気とする。
【0055】
前記化合物の添加時期は仮焼後、焼成前であれば特に規制されるものではないが、好ましくは次に説明する粉砕時に添加することが好ましい。添加される原料粉末の種類や量は任意であり、同じ原料を仮焼前後で分けて添加してもよい。ただし、全量の30%以上、特に50%以上は仮焼後に行う後工程で添加することが好ましい。なお、添加される化合物の平均粒径は、通常0.1〜2μm 程度とする。
【0056】
本発明では、酸化物磁性体粒子と、分散媒としての水と、分散剤とを含む成形用スラリーを用いて湿式成形を行うが、分散剤の効果をより高くするためには、湿式成形工程の前に湿式粉砕工程を設けることが好ましい。また、酸化物磁性体粒子として仮焼体粒子を用いる場合、仮焼体粒子は一般に顆粒状であるので、仮焼体粒子の粗粉砕ないし解砕のために、湿式粉砕工程の前に乾式粗粉砕工程を設けることが好ましい。なお、共沈法や水熱合成法などにより酸化物磁性体粒子を製造した場合には、通常、乾式粗粉砕工程は設けず、湿式粉砕工程も必須ではないが、配向度をより高くするためには湿式粉砕工程を設けることが好ましい。以下では、仮焼体粒子を酸化物磁性体粒子として用い、乾式粗粉砕工程および湿式粉砕工程を設ける場合について説明する。
【0057】
乾式粗粉砕工程では、通常、BET比表面積が2〜10倍程度となるまで粉砕する。粉砕後の平均粒径は、0.1〜1μm 程度、BET比表面積は4〜10m2/g程度であることが好ましく、粒径のCVは80%以下、特に10〜70%に維持することが好ましい。粉砕手段は特に限定されず、例えば乾式振動ミル、乾式アトライター(媒体攪拌型ミル)、乾式ボールミル等が使用できるが、特に乾式振動ミルを用いることが好ましい。粉砕時間は、粉砕手段に応じて適宜決定すればよい。なお、乾式粉砕工程時に、前記原料粉末の一部を添加することが好ましい。
【0058】
乾式粗粉砕には、仮焼体粒子に結晶歪を導入して保磁力HcBを小さくする効果もある。保磁力の低下により粒子の凝集が抑制され、分散性が向上する。また、軟磁性化することにより、配向度も向上する。軟磁性化された粒子は、後の焼結工程において本来の硬磁性に戻すことによって永久磁石とすることができる。
【0059】
なお、乾式粗粉砕の際には、通常、SiO2 と、焼成によりCaOとなるCaCO3 とが添加される。SiO2 およびCaCO3 は、一部を仮焼前に添加してもよく、その場合には特性向上が認められる。
【0060】
乾式粗粉砕の後、粉砕された粒子と水とを含む粉砕用スラリーを調製し、これを用いて湿式粉砕を行う。粉砕用スラリー中の仮焼体粒子の含有量は、10〜70重量%程度であることが好ましい。湿式粉砕に用いる粉砕手段は特に限定されないが、通常、ボールミル、アトライター、振動ミル等を用いることが好ましい。粉砕時間は、粉砕手段に応じて適宜決定すればよい。
【0061】
湿式粉砕後、粉砕用スラリーを濃縮して成形用スラリーを調製する。濃縮は、遠心分離などによって行えばよい。成形用スラリー中の仮焼体粒子の含有量は、60〜90重量%程度であることが好ましい。
【0062】
湿式成形工程では、成形用スラリーを用いて磁場中成形を行う。成形圧力は0.1〜0.5ton/cm2 程度、印加磁場は5〜15kOe 程度とすればよい。
【0063】
成型用のスラりーに非水系の分散媒を用いると、高配向度が得られ好ましいが、本発明では好ましくは水系分散媒に分散剤が添加された成形用スラリーを用いる。本発明で好ましく用いる分散剤は、水酸基およびカルボキシル基を有する有機化合物であるか、その中和塩であるか、そのラクトンであるか、ヒロドキシメチルカルボニル基を有する有機化合物であるか、酸として解離し得るエノール型水酸基を有する有機化合物であるか、その中和塩であることが好ましい。
【0064】
なお、非水系の分散媒を用いる場合には、例えば特開平6−53064号公報に記載されているように、トルエンやキシレンのような有機溶媒に、例えばオレイン酸のような界面活性剤を添加して、分散媒とする。このような分散媒を用いることにより、分散しにくいサブミクロンサイズのフェライト粒子を用いた場合でも最高で98%程度の高い磁気的配向度を得ることが可能である。
【0065】
上記各有機化合物は、炭素数が3〜20、好ましくは4〜12であり、かつ、酸素原子と二重結合した炭素原子以外の炭素原子の50%以上に水酸基が結合しているものである。炭素数が2以下であると、本発明の効果が実現しない。また、炭素数が3以上であっても、酸素原子と二重結合した炭素原子以外の炭素原子への水酸基の結合比率が50%未満であれば、やはり本発明の効果は実現しない。なお、水酸基の結合比率は、上記有機化合物について限定されるものであり、分散剤そのものについて限定されるものではない。例えば、分散剤として、水酸基およびカルボキシル基を有する有機化合物(ヒドロキシカルボン酸)のラクトンを用いるとき、水酸基の結合比率の限定は、ラクトンではなくヒドロキシカルボン酸自体に適用される。
【0066】
上記有機化合物の基本骨格は、鎖式であっても環式であってもよく、また、飽和であっても不飽和結合を含んでいてもよい。
【0067】
分散剤としては、具体的にはヒドロキシカルボン酸またはその中和塩もしくはそのラクトンが好ましく、特に、グルコン酸(C=6;OH=5;COOH=1)またはその中和塩もしくはそのラクトン、ラクトビオン酸(C=12;OH=8;COOH=1)、酒石酸(C=4;OH=2;COOH=2)またはこれらの中和塩、グルコヘプトン酸γ−ラクトン(C=7;OH=5)が好ましい。そして、これらのうちでは、配向度向上効果が高く、しかも安価であることから、グルコン酸またはその中和塩もしくはそのラクトンが好ましい。
【0068】
ヒドロキシメチルカルボニル基を有する有機化合物としては、ソルボースが好ましい。
【0069】
酸として解離し得るエノール型水酸基を有する有機化合物としては、アスコルビン酸が好ましい。
【0070】
なお、本発明では、クエン酸またはその中和塩も分散剤として使用可能である。クエン酸は水酸基およびカルボキシル基を有するが、酸素原子と二重結合した炭素原子以外の炭素原子の50%以上に水酸基が結合しているという条件は満足しない。しかし、配向度向上効果は認められる。
【0071】
上記した好ましい分散剤の一部について、構造を以下に示す。
【0072】
【化1】
【0073】
磁場配向による配向度は、スラリーの上澄みのpHの影響を受ける。具体的には、pHが低すぎると配向度は低下し、これにより焼結後の残留磁束密度が影響を受ける。分散剤として水溶液中で酸としての性質を示す化合物、例えばヒドロキシカルボン酸などを用いた場合には、スラリーの上澄みのpHが低くなってしまう。したがって、例えば、分散剤と共に塩基性化合物を添加するなどして、スラリー上澄みのpHを調整することが好ましい。上記塩基性化合物としては、アンモニアや水酸化ナトリウムが好ましい。アンモニアは、アンモニア水として添加すればよい。なお、ヒドロキシカルボン酸のナトリウム塩を用いることにより、pH低下を防ぐこともできる。
【0074】
フェライト磁石のように副成分としてSiO2 およびCaCO3 を添加する場合、分散剤としてヒドロキシカルボン酸やそのラクトンを用いると、主として成形用スラリー調製の際にスラリーの上澄みと共にSiO2 およびCaCO3 が流出してしまい、HcJが低下するなど所望の性能が得られなくなる。また、上記塩基性化合物を添加するなどしてpHを高くしたときには、SiO2 およびCaCO3 の流出量がより多くなる。これに対し、ヒドロキシカルボン酸のカルシウム塩を分散剤として用いれば、SiO2 およびCaCO3 の流出が抑えられる。ただし、上記塩基性化合物を添加したり、分散剤としてナトリウム塩を用いたりした場合には、SiO2 およびCaCO3 を目標組成に対し過剰に添加すれば、磁石中のSiO2 量およびCaO量の不足を防ぐことができる。なお、アスコルビン酸を用いた場合には、SiO2 およびCaCO3 の流出はほとんど認められない。
【0075】
上記理由により、スラリー上澄みのpHは、好ましくは7以上、より好ましくは8〜11である。
【0076】
分散剤として用いる中和塩の種類は特に限定されず、カルシウム塩やナトリウム塩等のいずれであってもよいが、上記理由から、好ましくはカルシウム塩を用いる。分散剤にナトリウム塩を用いたり、アンモニア水を添加した場合には、副成分の流出のほか、成形体や焼結体にクラックが発生しやすくなるという問題が生じる。
【0077】
なお、分散剤は2種以上を併用してもよい。
【0078】
分散剤の添加量は、酸化物磁性体粒子である仮焼体粒子に対し、好ましくは0.05〜3.0重量%、より好ましくは0.10〜2.0重量%である。分散剤が少なすぎると配向度の向上が不十分となる。一方、分散剤が多すぎると、成形体や焼結体にクラックが発生しやすくなる。
【0079】
なお、分散剤が水溶液中でイオン化し得るもの、例えば酸や金属塩などであるときには、分散剤の添加量はイオン換算値とする。すなわち、水素イオンや金属イオンを除く有機成分に換算して添加量を求める。また、分散剤が水和物である場合には、結晶水を除外して添加量を求める。例えば、分散剤がグルコン酸カルシウム一水和物である場合の添加量は、グルコン酸イオンに換算して求める。
【0080】
また、分散剤がラクトンからなるとき、あるいはラクトンを含むときには、ラクトンがすべて開環してヒドロキシカルボン酸になるものとして、ヒドロキシカルボン酸イオン換算で添加量を求める。
【0081】
分散剤の添加時期は特に限定されず、乾式粗粉砕時に添加してもよく、湿式粉砕時の粉砕用スラリー調製の際に添加してもよく、一部を乾式粗粉砕の際に添加し、残部を湿式粉砕の際に添加してもよい。あるいは、湿式粉砕後に攪拌などによって添加してもよい。いずれの場合でも、成形用スラリー中に分散剤が存在することになるので、本発明の効果は実現する。ただし、粉砕時に、特に乾式粗粉砕時に添加するほうが、配向度向上効果は高くなる。乾式粗粉砕に用いる振動ミル等では、湿式粉砕に用いるボールミル等に比べて粒子に大きなエネルギーが与えられ、また、粒子の温度が上昇するため、化学反応が進行しやすい状態になると考えられる。したがって、乾式粗粉砕時に分散剤を添加すれば、粒子表面への分散剤の吸着量がより多くなり、この結果、より高い配向度が得られるものと考えられる。実際に、成形用スラリー中における分散剤の残留量(吸着量にほぼ等しいと考えられる)を測定すると、分散剤を乾式粗粉砕時に添加した場合のほうが、湿式粉砕時に添加した場合よりも添加量に対する残留量の比率が高くなる。なお、分散剤を複数回に分けて添加する場合には、合計添加量が前記した好ましい範囲となるように各回の添加量を設定すればよい。
【0082】
成形工程後、成形体を大気中または窒素中において100〜500℃の温度で熱処理して、添加した分散剤を十分に分解除去する。次いで焼結工程において、成形体を例えば大気よりも高い酸素分圧の雰囲気(酸素過剰雰囲気)中で好ましくは1150〜1250℃、より好ましくは1160〜1220℃の温度で0.5〜3時間程度焼結して、フェライト磁石を得る。
【0083】
本発明の焼結磁石の平均結晶粒径は、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.5〜1.0μmであるが、本発明では平均結晶粒径が1μmを超えていても、十分に高い保磁力が得られる。結晶粒径は走査型電子顕微鏡によって測定することができる。なお、比抵抗は100Ωm 以上の値である。
【0084】
なお、前記成形体をクラッシャー等を用いて解砕し、ふるい等により平均粒径が100〜700μm程度となるように分級して磁場配向顆粒を得、これを乾式磁場成形した後、焼結することにより焼結磁石を得てもよい。
【0085】
本発明のフェライト磁石を使用することにより、一般に次に述べるような効果が得られ、優れた応用製品を得ることができる。すなわち、従来のフェライト製品と同一形状であれば、磁石から発生する磁束密度を増やすことができるため、モータであれば高トルク化等を実現でき、スピーカーやヘッドホーンであれば磁気回路の強化により、リニアリティーのよい音質が得られるなど応用製品の高性能化に寄与できる。また、従来と同じ機能でよいとすれば、磁石の大きさ(厚み)を小さく(薄く)でき、小型軽量化(薄型化)に寄与できる。また、従来は界磁用の磁石を巻線式の電磁石としていたようなモータにおいても、これをフェライト磁石で置き換えることが可能となり、軽量化、生産工程の短縮、低価格化に寄与できる。さらに、保磁力(HcJ)の温度特性に優れているため、従来はフェライト磁石の低温減磁(永久減磁)の危険のあった低温環境でも使用可能となり、特に寒冷地、上空域などで使用される製品の信頼性を著しく高めることができる。
【0086】
本発明の磁石粉末を用いたボンディッド磁石、焼結磁石は所定の形状に加工され、下記に示すような幅広い用途に使用される。
【0087】
例えば、フュエールポンプ用、パワーウインド用、ABS用、ファン用、ワイパ用、パワーステアリング用、アクティブサスペンション用、スタータ用、ドアロック用、電動ミラー用等の自動車用モータ;FDDスピンドル用、VTRキャプスタン用、VTR回転ヘッド用、VTRリール用、VTRローディング用、VTRカメラキャプスタン用、VTRカメラ回転ヘッド用、VTRカメラズーム用、VTRカメラフォーカス用、ラジカセ等キャプスタン用、CD,LD,MDスピンドル用、CD,LD,MDローディング用、CD,LD光ピックアップ用等のOA、AV機器用モータ;エアコンコンプレッサー用、冷蔵庫コンプレッサー用、電動工具駆動用、扇風機用、電子レンジファン用、電子レンジプレート回転用、ミキサ駆動用、ドライヤーファン用、シェーバー駆動用、電動歯ブラシ用等の家電機器用モータ;ロボット軸、関節駆動用、ロボット主駆動用、工作機器テーブル駆動用、工作機器ベルト駆動用等のFA機器用モータ;その他、オートバイ用発電器、スピーカ・ヘッドホン用マグネット、マグネトロン管、MRI用磁場発生装置、CD−ROM用クランパ、ディストリビュータ用センサ、ABS用センサ、燃料・オイルレベルセンサ、マグネットラッチ等に好適に使用される。
【0088】
【実施例】
実施例1
原料としては、次のものを用いた。
Fe2O3粉末(一次粒子径0.3μm:不純物としてMn,Cr,Si,Clを含む)、
SrCO3粉末(一次粒子径2μm:不純物としてBa,Caを含む)、
Co3O4粉末とCoO粉末との混合物(一次粒子径1〜5μm)、
La2O3粉末(純度99.9%)
【0089】
上記原料を、Sr1-xLaxFe12-xCoxO19の組成となるように配合した。さらに、
SiO2粉末(一次粒子径0.01μm)および
CaCO3粉末(一次粒子径1μm)
を上記原料に対してそれぞれ0.2重量%および0.15重量%添加して混合した。得られた混合物を湿式アトライターで2時間粉砕し、乾燥して整粒し、顆粒とした。
【0090】
この顆粒を、管状炉を用いて酸素分圧を変化させて(PO2=0.02,0.2,1atm)、1200℃×1時間と1300℃×1時間焼成した。雰囲気はO2とN2の流量の比率を変えることにより制御(トータルで約3リットル/分)した。表1に1200℃焼成の場合、表2に1300℃焼成の場合のフェライト粉末の磁気特性を示す。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
酸素分圧を増加することによりいずれの組成でもHcJは増加するが、従来の組成(La、Coなし)に比べて、LaおよびCoを0.3モル含有している組成の方が、増加の割合が大きいことがわかる。
【0094】
実施例2
実施例1の原料を、Sr0.7La0.3Fe11.7Co0.3O19の組成となるように配合した。さらに、
SiO2粉末(一次粒子径0.01μm)および
CaCO3粉末(一次粒子径1μm)
を上記原料に対してそれぞれ0.2重量%および0.15重量%添加して混合した。得られた混合物を湿式アトライターで2時間粉砕し、乾燥して整粒した後、空気中において1200℃で3時間仮焼して、顆粒状の仮焼体(磁石粉末)を得た。
【0095】
1200℃で仮焼して得られた仮焼体に対し、上記SiO2を0.4重量%および上記CaCO3を1.25重量%添加し、乾式ロッドミルにより、仮焼体の比表面積が7m2/gとなるまで粉砕を行なった。
【0096】
次いで、非水系溶媒としてキシレンを用い、界面活性剤としてオレイン酸を用いて、ボールミル中で仮焼体粉末を湿式粉砕した。オレイン酸は、仮焼体粉末に対して1.3重量%添加した。スラリー中の仮焼体粉末は、33重量%とした。粉砕は、比表面積が8〜9m2/gとなるまで行なった。
【0097】
次に、粉砕スラリーを遠心分離器によりスラリー中の仮焼体粉末の濃度が約85重量%になるように調整した。このスラリーから溶媒を除去しつつ、約13kGの高さ方向磁場中で直径30mm、高さ15mmの円柱状に成形した。成形圧力は0.4ton/cm2とした(サンプルA)。
【0098】
さらに、Sr0.8La0.2Fe11.8Co0.2O19の組成のサンプルBを以下のとおり作製した。
【0099】
出発原料としては次のものを用い、下記の仮焼後に添加する原料と合わせて上記組成となるよう混合した。
【0100】
Fe2O3粉末(一次粒子径0.3μm、不純物としてMn,Cr,Si,Clを含む)
SrCO3粉末(一次粒子径2μm、不純物としてBa,Caを含む)
【0101】
また添加物として、
SiO2粉末(一次粒子径0.01μm) 2.30g
CaCO3粉末(一次粒子径1μm) 1.72g
を用いた。
【0102】
上記出発原料および添加物を湿式アトライターで粉砕後、乾燥・整粒し、これを空気中において1250℃で3時間焼成し、顆粒状の仮焼体を得た。
【0103】
得られた仮焼体に対し、SiO2、CaCO3、炭酸ランタン〔La2(CO3)3・8H2O〕、酸化コバルト(Co3O4とCoOとの混合物)を、それぞれ出発原料と合わせて上記組成となるよう混合し、さらにグルコン酸カルシウムを0.6重量%添加し、バッチの振動ロッドミルにより20分間乾式粗粉砕した。このとき、粉砕による歪みが導入され、仮焼体粒子のHcJは、1.7kOeに低下していた。
【0104】
次いで、同様にして得られた粗粉砕材177gを採取し、これに原料として使用したのと同じ酸化鉄(α−Fe2O3)37.25g加え、分散媒として水を400cc加えて混合し、粉砕用スラリーを調整した。仮焼体の比表面積が7m2/gとなるまで粉砕を行なった。粉砕用スラリーの固形分濃度は34重量%であった。
【0105】
この湿式粉砕用スラリーを用いて、ボールミル中で湿式粉砕を40時間行った。湿式粉砕後の比表面積は、8.5m2/g (平均粒径0.5μm )であった。湿式粉砕後のスラリーの上澄み液のpHは、9.5であった。
【0106】
湿式粉砕後、粉砕用スラリーを遠心分離して、スラリー中の仮焼体粒子の濃度が78%となるように調整し、成形用スラリーとした。この成形用スラリーから水を除去しながら圧縮成形を行った。この成形は、圧縮方向に約13kOeの磁場を印加しながら行った。得られた成形体は、直径30mm、高さ18mmの円柱状であった。成形圧力は0.4ton/cm2とした。
【0107】
成形後のコアA、Bを、大気中で室温から100℃までを6時間,100℃から360℃までを40時間で脱脂した。焼成は管状炉を用い1200℃×1時間の条件で行った。雰囲気はO2とN2の流量の比率を変えることにより制御(トータルで約3〜4リットル/分)した。
【0108】
磁気特性の測定結果を表3、4に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
酸素分圧が増加するに従って、磁気特性は向上した。
【0112】
表5に焼結体のXRDによる相同定結果を示す。スピネル相が見られた酸素分圧PO2=10-6atmの場合を除いてはM単相であった。
【0113】
【表5】
【0114】
図1に、空気中(PO2=0.2atm)と酸素中(PO2=1atm)で焼成した焼結体のHcの温度変化を示す。酸素中(PO2=1atm)で焼成した場合には、HcJの値が大きくなると共に、温度変化率(25℃のときのHcJに対する比率)も小さくなっている。
【0115】
なお、1200℃、PO2=0.2atmと1atmで焼成したサンプルA、Bの比抵抗を表6に示す。
【0116】
【表6】
【0117】
表6から、PO2が高いと、比抵抗が向上することがわかる。これより、Fe2+の減少や、微細構造の変化が予想される。
【0118】
なお、上記各実施例で作製したSrフェライトにおいてLaの一部をBiで置換したところ、Bi添加により仮焼温度を低くできることがわかった。すなわち、最良の特性が得られる仮焼温度が低温側に移動し、しかも、保磁力はほとんど劣化しなかった。また、Laの一部を他の希土類元素で置換した組成について仮焼体および焼結体を作製したところ、上記各実施例と同様にHcJの向上が認められた。
【0119】
また、上記各実施例で作製したSrフェライト仮焼体を用いてボンディッド磁石を作製したところ、上記各実施例と同様な結果が得られた。
【0120】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、従来のM型フェライト磁石では達成不可能であった高い残留磁束密度と高い保磁力とを有するフェライト磁石の磁石特性をさらに高めることができ、保磁力、保磁力の温度特性、角形比をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】磁気特性の温度変化を示すグラフである。
Claims (8)
- Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種の元素を含むものをAとし、
希土類元素(Yを含む)およびBiから選択される少なくとも1種の元素をRとし、
CoをMとしたとき、
A,R,FeおよびMそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、全金属元素量に対し、A:1〜13原子%、
R:0.05〜10原子%、
Fe:80〜95原子%、
M:0.1〜7原子%
である六方晶フェライトを主相として有する六方晶フェライト磁石粉末を製造するにあたり、
焼成を酸素分圧0.4atm以上の雰囲気中で行う六方晶フェライト磁石粉末の製造方法。 - 前記六方晶フェライトは、
式I A1-xRx(Fe12-yMy)zO19
と表したとき、
0.04≦x≦0.9、
0.04≦y≦1.0、
0.8≦x/y≦5、
0.5≦z≦1.2
である請求項1の六方晶フェライト磁石粉末の製造方法。 - 前記RにLaが必ず含まれる請求項1又は2の六方晶フェライト磁石粉末の製造方法。
- 前記R中のLaの比率が40原子%以上である請求項3の六方晶フェライト磁石粉末の製造方法。
- Sr、Ba、CaおよびPbから選択される少なくとも1種の元素を含むものをAとし、
希土類元素(Yを含む)およびBiから選択される少なくとも1種の元素をRとし、
CoをMとしたとき、
A,R,FeおよびMそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、全金属元素量に対し、
A:1〜13原子%、
R:0.05〜10原子%、
Fe:80〜95原子%、
M:0.1〜7原子%
である六方晶フェライトを主相として有する六方晶フェライト焼結磁石を製造するにあたり、
原料を混合、仮焼、粉砕、成形、本焼成する製造工程において、仮焼または本焼成の少なくとも一方を、
酸素分圧0.4atm以上の雰囲気中で行う六方晶フェライト焼結磁石の製造方法。 - 前記六方晶フェライトを、
式II A1-xRx(Fe12-yMy)zO19
と表したとき、
0.04≦x≦0.9、
0.04≦y≦1.0、
0.8≦x/y≦2、
0.5≦z≦1.2
である請求項5の六方晶フェライト焼結磁石の製造方法。 - 前記RにLaが必ず含まれる請求項5又は6の六方晶フェライト焼結磁石の製造方法。
- 前記R中のLaの比率が40原子%以上である請求項7の六方晶フェライト焼結磁石の製造方法。
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