JP3844273B2 - 耐酸化性c/c複合材及びその製造方法 - Google Patents
耐酸化性c/c複合材及びその製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温酸化性雰囲気下において高度の耐酸化性を有し、特に低圧下において急速に高温加熱される苛酷な高温酸化性雰囲気中で、優れた耐酸化性能を備えるC/C複合材(炭素繊維強化炭素複合材)及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
C/C複合材は、軽量で卓越した比強度、比弾性率を有するうえに優れた耐熱性および化学的安定性を備えているため、航空宇宙用をはじめ多くの分野で構造材料として有用されている。しかし、C/C複合材を含め炭素材料は大気中において、500℃付近から酸化を受けて損耗するために物理的、化学的性質が低下する欠点があり、例えば高温大気中での使用は極短時間の場合を除き不可能であった。このため、従来からC/C複合材の表面に耐酸化性の被覆を施して改質化する試みがなされており、例えばSiC、Si3 N4 、ZrO2 、Al2 O3 等の耐熱セラミックス系物質によって被覆処理する方法が開発されている。このうち、被覆層の形成操作、性状特性など技術的、経済的の面からSiCの被膜形成が最も工業性に適合している。
【0003】
C/C複合基材の表面にSiCの被覆層を形成する方法として、気相反応により生成するSiCを直接沈着させるCVD法(化学的気相蒸着法)と、基材の炭素を反応源に利用してSiOガスと反応させることによりSiCに転化させるコンバージョン法が知られている。このうち、前者のCVD法を適用して形成したSiC被覆層は緻密なSiC被覆層を形成することができるが、基材との界面が明確に分離している関係で熱衝撃を与えると相互の熱膨張係数の差によってSiC被覆層が剥離したり、クラックが発生し易く、高温雰囲気下での充分な耐酸化性は望めない。これに対し、後者のコンバージョン法による場合にはC/C複合基材の炭素とSiOガスとが、2C+SiO→SiC+COの反応によりSiC1分子当たり1分子のCOが排出されるので容積変化が抑制され、C/C複合材に内部応力を発生することなく、C/C複合材の表層部が連続組織としてSiC被覆層を形成する傾斜機能組織となるため界面剥離を生じることがない。しかしながらCVD法に比較して組織の緻密性が劣る上、SiCに転化する反応時に被覆層に微小なクラックが発生する欠点がある。
【0004】
このような欠点を解決するために、C/C基材面にSiOガスを接触させてコンバージョン法によりSiC被覆層を形成する第1被覆工程と、次いでCVD法によりハロゲン化有機珪素化合物を還元熱分解してアモルファス質のSiCを析出沈着させる第2被覆工程とを順次に施す耐酸化処理法(特開平4−12078 号公報)、更にこれを改良して第2被覆工程でハロゲン化有機珪素化合物を基材組織に間欠的に充填して還元熱分解させるパルスCVI法によってSiCを析出沈着させる耐酸化処理法(特開平4−42878 号公報)等が提案されている。
【0005】
しかしながら、このような方法により形成した第2被覆層のSiCにも微小な亀裂が発生しており、より高度の耐酸化性能を付与するためにはこの亀裂を充填封止して、目詰めする必要が認められた。そこで、C/C基材面に傾斜機能を有する多結晶質のSiC被膜からなる第1被覆層、アモルファス質または微細多結晶質のSiC被膜からなる第2被覆層、およびB2 O3 −SiO2 ガラス被膜の第3被覆層が積層形成されてなる耐酸化性C/C複合材(特開平4−243989号公報)等が開発されている。
【0006】
更に、上記特開平4−243989号公報の発明を改良して、第2被覆層を、ハロゲン化有機珪素化合物と水素あるいはハロゲン化珪素と炭化水素および水素との混合ガスを用いてCVD法により1400〜1500℃の温度に加熱してSiCを析出被覆する第1段階操作と、不活性雰囲気に保持された加熱炉内で1600〜1900℃の温度に加熱処理する第2段階操作とを順次に施して被覆形成する耐酸化処理法が本出願人の1人から提案(特願平8−20438 号)されている。
【0007】
これらの発明によれば高温苛酷な酸化性雰囲気においても優れた耐酸化性能を発揮するが、更に詳細な耐酸化性のテストの結果、例えば宇宙往還機のノーズキャップ等の裏面側を想定して実施される高温、低圧下における耐酸化試験(低圧揮散試験)により検討した結果、緊急大気圏突入を想定した酸化条件下では1回のテストにより、特に第2被覆層の酸化消耗が大きく、耐酸化性能が充分でないことが判明した。
【0008】
また、米国特許第4471023号公報にはSiC被覆層上にガラス質としてNa2 SiO3 、無機フィラーとしてSiC粉末と繊維状SiC物質との混合物を使用し、これを混合してスラリ状にしたものを塗布して保護膜を形成する耐酸化処理法が開示されている。しかしながら、バインダーとして用いるNa2 SiO3 は蒸気圧が高いので、1000℃を越える高温、低圧下ではNa2 SiO3 ガラスが揮散してコーティング膜が剥離し、SiC被覆層の保護膜として機能しなくなる難点がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題点を解消し、約1600℃までの高温、低圧下において優れた耐酸化性能を備え、また熱サイクルが加わっても安定した被覆層を維持し得る耐酸化性C/C複合材と、その製造方法を提供することを目的として開発されたものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するための本発明による耐酸化性C/C複合材は、表面研磨処理されたC/C複合基材面に、傾斜機能組織の多結晶質SiC被膜からなる第1被覆層、微細多結晶質SiC被膜あるいはこれを加熱処理して得られる高結晶質SiC被膜からなる第2被覆層、B2 O3 −SiO2 ガラス質被膜からなる第3被覆層、及び繊維状SiCと粉末SiCとZrO2 −SiO2 ガラスとの複合被膜からなる第4被覆層、が積層形成されてなることを構成上の特徴とする。
【0011】
また本発明による耐酸化性C/C複合材の製造方法は、炭素繊維をマトリックス樹脂と共に複合成形し硬化及び焼成炭化して得られるC/C複合基材の表面を研磨処理した後、SiOガスと非酸化性雰囲気中1600〜2000℃の温度で接触させてコンバージョン法により傾斜機能組織の多結晶質SiC被膜を形成する第1被覆工程、CVD法により析出させた微細多結晶質SiC被膜あるいはこれを非酸化性雰囲気中で加熱処理して高結晶質SiC被膜を形成する第2被覆工程、B及びSiを含有する金属アルコキシドを加水分解して得られるB2 O3 −SiO2 ガラス前駆体溶液を含浸して乾燥したのち500〜1000℃の温度で熱処理してB2 O3 −SiO2 ガラス質被膜を形成する第3被覆工程、次いで繊維状SiCと粉末SiCとZrO2 −SiO2 ガラス前駆体溶液との混合スラリを塗布したのち熱処理して繊維状SiCと粉末SiCとZrO2 −SiO2 ガラスとの複合被膜を形成する第4被覆工程、とを順次に施すことを構成上の特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
C/C複合基材を構成する炭素繊維には、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、ピッチ系など各種原料から製造された平織、朱子織、綾織などの織布を一次元または多次元方向に配向した繊維体、フェルト、トウ等が使用され、マトリックス樹脂としてはフェノール系、フラン系など高炭化性の液状熱硬化性樹脂が用いられる。炭素繊維は、浸漬、塗布などの手段によりマトリックス樹脂で十分に濡らしたのち半硬化してプリプレグを形成し、ついで積層加圧成形する。成形体は加熱して樹脂成分を完全に硬化し、引き続き常法に従って焼成炭化または更に黒鉛化してC/C複合基材が作製される。また、必要によってはマトリックス樹脂の含浸、硬化、炭化の処理を反復して組織の緻密化を図ることもできる。
【0013】
このようにして作製したC/C複合基材の表面層には緻密で濡れ性の低い炭素質の薄層が存在するので、第2被覆層であるSiC被膜との密着性が低下する。そのため、C/C複合基材を研磨処理して表面層に存在する薄層を予め除去しておく。研磨処理は、例えば研磨紙やショットブラスト等により基材に損傷を与えないようにしながら表面層の一部を研磨して炭素質薄層を除去するもので、通常表面層を10〜100μm 程度研磨すればよい。
【0014】
研磨処理されたC/C複合基材の表層をSiC被膜に転化させる第1被覆層は、基材表層部の組織が内部から外面に向かうに従って次第にSiC化が進みSiC濃度が徐々に増える傾斜機能組織の多結晶質SiC被膜層からなり、C/C複合基材の表層部に一体的に強固に形成されている。第1被覆層の厚さは50〜100μm に設定することが好ましい。膜厚をこの範囲に設定することにより良好な傾斜機能組織を形成するとともに基材の強度低下を抑制することができ、熱サイクルや熱衝撃が加わってもC/C複合基材と第1被覆層との剥離やクラックの発生を効果的に防止することができる。
【0015】
第2被覆層は、微細多結晶質SiC被膜あるいはこれを加熱処理して得られる緻密でガス不透過性の高結晶質SiC被膜からなるもので、第1被覆層におけるSiC組織の微細なクラックや空隙を充填封止するとともに第1被覆層を保護するために機能する。また第2被覆層は、その上に積層形成する第3被覆層との接着性を強固にするために表面濡れ性が大きいこと、例えば接触角が35度以下であることが望ましい。なお接触角は液滴法により測定される。また、第2被覆層の膜厚は50〜200μm が好ましく、50μm を下回ると充填封止効果や保護効果が小さく、200μm を越えると熱膨張差に起因する熱応力が増大して加熱/冷却過程で被覆層の剥離が生じるためである。
【0016】
第3被覆層は、B2 O3 −SiO2 からなるガラス質被膜により構成され、第2被覆層に生じる微細クラックを充填、目詰めする。B2 O3 −SiO2 ガラス質被膜はガス遮断効果が大きく、第3被覆層により第2被覆層の全面がシールされて、高温酸化性雰囲気下において外気を遮断し、拡散侵入する酸素のバリアとして機能する。第3被覆層の好適な被覆量は0.5〜2.0mg/cm2で、被覆量が0.5mg/cm2未満では第2被覆層の微細クラックを充填、目詰めする効果が不足し、一方2.0mg/cm2を越えるとB2 O3 −SiO2 ガラスの一部がC/C複合基材内部に浸透して加熱時に残留揮発分の揮散に伴い基材内部において剥離が起こるためである。
【0017】
第3被覆層の上に積層形成される第4被覆層は、繊維状SiCと粉末SiCとZrO2 −SiO2 ガラスとの複合被膜から構成される。繊維状SiCとしては強度特性の高い、短繊維状のものが好ましく、例えばSiCウイスカーが好適に用いられる。バインダ−となるZrO2 −SiO2 ガラスは、耐熱性が高いことに加えて、加熱/冷却過程においてもガラス質の結晶化が生じ難いので、結晶化に伴う体積変化に起因する応力により生じる被覆層の剥離現象の発生を効果的に抑止することができる。このような複合被膜から構成される第4被覆層は各成分の複合効果により強度特性にも優れ、高温プラズマガス流に対しても保護膜として充分に機能する。なお、複合被膜中の繊維状SiCの割合は10〜30重量%であることが好ましく、その膜厚は10〜100μm が好適である。10μm を下回る膜厚では保護効果が少ないうえに最外層として耐酸化性能を発揮する寿命が短く、実用上望ましくない。また100μm を越える膜厚では剥離や脱落が生じ易くなるためである。この第4被覆層は劣化した場合、修復施工が可能であるので、例えば宇宙往還機のノーズキャップとして1回の大気圏突入時に劣化しても第4被覆層を修復することにより、繰り返しの使用が可能となる。
【0018】
上記の第1被覆層から第4被覆層が一体的に積層形成した耐酸化性C/C複合材は、次の第1被覆工程から第4被覆工程を順次に施すことにより製造される。まず、常法により製造されたC/C複合基材の表層面に存在する炭素質薄層を除去するために研磨紙やショットブラスト等により研磨処理する。研磨処理は通常表層面を10〜100μm 程度除去することにより行われる。
【0019】
第1被覆工程は、SiO2 粉末とSiまたは炭素粉末の混合物を密閉加熱系に収納した系内に、C/C複合基材をセットして、加熱処理するコンバージョン法により行われる。加熱処理時にSiO2 はSiまたは炭素により還元されてSiOガスを発生し、発生したSiOガスはC/C複合基材の表層部から内部に浸透拡散しながら基材を構成する炭素と反応して、基材表層部を傾斜機能組織の多結晶質SiCに転化する。第1被覆工程の条件としては、SiO2 に対するSiまたは炭素の配合量を重量比で2:1に、加熱温度を1600から2000℃に、加熱系内を還元または中性の非酸化性雰囲気に保持した状態で行われる。なお、C/C複合基材の内部組織がSiC化されることによる強度低下を防止するために、第1被覆工程で形成するSiC被膜の膜厚は50〜100μm の範囲に設定することが望ましい。
【0020】
第2被覆工程は、第1被覆工程によりSiC被膜を形成したC/C複合基材にCVD法により微細多結晶質のSiC被膜を析出させ、あるいはこのSiC被膜を更に非酸化性雰囲気中で加熱処理して高結晶質SiC被膜を形成する工程である。CVD法による微細多結晶質SiC被膜は、ハロゲン化有機珪素化合物と水素との混合ガス、あるいはハロゲン化珪素と炭化水素及び水素との混合ガスを、CVD反応装置内で加熱されているC/C複合基材とガス状態で接触させることにより析出する。ハロゲン化有機珪素化合物としてはトリクロロメチルシラン(CH3SiCl3)が好適に用いられ、モル濃度は5〜10%に設定される。またハロゲン化珪素にはテトラクロルシラン、トリクロールメチルシラン等が、炭化水素にはメタン、エタン等が使用される。なお、CVD反応は常圧下に1400〜1500℃の温度範囲で行うことが好適で、この反応条件を設定制御することにより原子比が1:1の微細多結晶質SiCを析出させることができる。
【0021】
第1被覆層の上に析出した上記の微細多結晶質SiC被膜は、アルゴンガスや窒素ガス等の非酸化性雰囲気中で加熱処理することによりSiCの結晶化を促進して、高結晶質のSiC被膜に転化させることもできる。加熱処理は1600〜1900℃の温度範囲で行うことが好適であり、この熱処理によりSiC被膜に存在するSiC結晶の結晶欠陥や結晶不整が是正されて、緻密でガス不透過性の高結晶質SiC被膜を形成することができる。
【0022】
このようにして第2被覆工程で形成した第2被覆層は、その上に積層形成する第3被覆層との接着性を強固にするために表面濡れ性が大きく、例えば接触角が35度以下であることが好ましい。そのため、CVD反応によって析出したSiC被膜上に存在する撥水性の薄膜を研磨して除去したり、酸化性雰囲気中で500〜600℃の温度に加熱して表面を親水性の基に変換することもできる。
【0023】
第3被覆工程は、第2被覆工程の処理を施したC/C複合基材の第2被覆層の上に、B及びSiを含有する金属アルコキシドを加水分解して得られるB2 O3 −SiO2 ガラス前駆体溶液を含浸して乾燥したのち500〜1000℃の温度で熱処理してB2 O3 −SiO2 ガラス質被膜を形成する工程である。第3被覆工程で形成したB2 O3 −SiO2 ガラス質被膜は、C/C複合基材の第2被覆層に発生した微細なクラックを充填封止するとともに表面を被覆して高温酸化性雰囲気下において外気を遮断し、酸化性雰囲気中において拡散侵入する酸素のバリアとして機能するので、耐酸化性の向上を図ることが可能となる。
【0024】
ガラス前駆体溶液は、B(OC4 H9)3 、Si(OC2 H5)4 等の金属アルコキシドにアルコールを加えて攪拌混合した溶液中に水を滴下して加水分解するアルコキシド法により調製され、このガラス前駆体溶液を第2被覆層に塗布あるいは浸漬するなどの方法で含浸する。なお、含浸量は0.8〜2.3mg/cm2の範囲に設定することが好適である。含浸量が0.8mg/cm2未満では第2被覆層の微細クラックを充填、目詰めする効果が不足し、一方、2.3mg/cm2を越えるとB2 O3 −SiO2 ガラスの一部がC/C複合基材内部に浸透して加熱時に残留揮発分の揮散に伴い基材内部において剥離が生じ易くなるためである。
【0025】
第4被覆工程は、第3被覆工程の処理を施したC/C複合基材に繊維状SiCと粉末SiCとZrO2 −SiO2 ガラス前駆体溶液との混合スラリを含浸し、乾燥したのち熱処理して、繊維状SiCと粉末SiCとZrO2 −SiO2 ガラスとの複合被膜を形成する工程である。繊維状SiCは短繊維状のものが好ましく、特に比強度が高く複合効果の大きいSiCウイスカーが好適で、直径0.3〜1.5μm 、長さ5〜40μm 程度のものが、また併用する粉末SiCは直径0.5μm 程度のものが用いられる。ZrO2 −SiO2 ガラス前駆体溶液としてはZr及びSiの金属アルコキシドを加水分解して調製した溶液や市販のゾルを用いることもできる。
【0026】
混合スラリ中の各成分の組成比は、強度の高い複合被膜を形成するために、好ましくは、繊維状SiC10〜30重量%、粉末SiC10〜30重量%、ZrO2 −SiO2 ガラス前駆体溶液40〜80重量%の割合に設定する。これらの成分は混合スラリ中で均一に安定分散させるために、例えば繊維状SiCや粉末SiCを予めシランカップリング剤で表面処理すると複合効果を高める上で効果的である。
【0027】
混合スラリは塗布、浸漬などの適宜な手段でC/C複合基材に含浸して、乾燥したのち、200〜600℃の温度で熱処理することにより繊維状SiCと粉末SiCとZrO2 −SiO2 ガラスとからなる複合被膜が第3被覆層の上に形成される。このようにして形成された第4被覆層は、強度特性の優れた複合被膜からなり、高耐久性の保護被膜として機能する。
【0028】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明する。
【0029】
実施例1
(1)C/C複合基材の作製
ポリアクリロニトリル系高強度高弾性タイプの平織炭素繊維布に、フェノール樹脂初期縮合物をマトリックス樹脂として充分に塗布し、48時間風乾してプリプレグシートを得た。このプリプレグシート16枚を積層してモールドに入れ、温度100℃、圧力20Kg/cm2の条件で熱圧成形した。この成形体を170℃の温度に加熱してマトリックス樹脂を硬化した後、窒素雰囲気に保持された焼成炉内に移し5℃/hr の昇温速度で2000℃まで加熱し、5時間保持して焼成炭化した。このようにして、炭素繊維の体積含有率(Vf)が65%、嵩密度が1.65 g/cm3のC/C複合基材(試料サイズ縦横30mm、厚さ4mm)を作製した。次いで#500のエメリ−紙を用いて、このC/C複合基材の表面を研磨して表層面の炭素質薄層を約100μm 除去した。
【0030】
(2)第1被覆工程
SiO2 粉末とSi粉末を2:1(重量比)の割合で混合し、混合粉末を黒鉛坩堝に入れて上部にC/C複合基材をセットした。この黒鉛坩堝を電気炉内に移し、内部をアルゴンガスで充分に置換した後、50℃/hr の速度で1850℃まで昇温させ、1時間保持してC/C複合基材の表層部に傾斜機能組織を有する多結晶質SiC被膜(第1被覆層)を形成した。形成されたSiC被膜の厚さは約50μm で、その表面には幅数μm の微細なクラックが発生しているのが認められた。
【0031】
(3)第2被覆工程
第1被覆工程の処理を施したC/C複合基材をCVD装置の反応管内にセットし、管内をアルゴンガスで充分に置換したのち高周波誘導加熱によりC/C複合基材の温度を1500℃に昇温した。次いで、トリクロロメチルシラン(CH3 SiCl3 )と水素ガスを混合し、トリクロロメチルシランのモル濃度を7.5%に制御してCVD装置に導入し、10時間保持して微細多結晶質のSiC被膜を析出沈着させた。析出したSiC被膜の厚さは100μm であり、第1被覆層と比較するとクラックの幅、数とも減少していた。次いで、アルゴンガス雰囲気に保持された電気炉に移して1800℃の温度に加熱処理した。この処理により微細多結晶質SiC被膜は高結晶質のSiC被膜に転化して、SiC被膜に存在するSiC結晶の結晶欠陥や結晶不整が是正され、緻密でガス不透過性の高結晶質SiC被膜(第2被覆層)を形成した。
【0032】
(3)第3被覆工程
Si(OC2 H5)4 とエタノールをモル比2:1になる割合で配合し、70℃の温度で還流攪拌を行った混合溶液中に、前記Si(OC2 H5)4 1モルに対し25モル量の水と0.2モル量のNH4 OHの混合水溶液を滴下し(pH;12.0) 、攪拌して約0.2μm の球状SiO2 微粒子が均一に分散するサスペンジョンを調製した。このサスペンジョンに前記の第2被覆工程の処理を施したC/C複合基材を浸漬し、15分間減圧含浸を行った。次いで、風乾後、前記サスペンジョンを塗布、風乾する操作を3回繰り返したのち、100℃の温度で乾燥してSiO2 微粒子からなる中間層を形成した。このC/C複合基材をB(OC2 H5)4 溶液中に投入して減圧含浸したのち一昼夜風乾して空気中の水分で加水分解し、100℃で乾燥後、更に500℃の温度で15分間熱処理してB2 O3 ガラス質の被膜を形成した。
【0033】
次に、Si(OC2 H5)4 とエタノールをモル比1:4.5になる量比で配合し、室温で還流攪拌を行った混合溶液中に、前記Si(OC2 H5)4 1モルに対し2.5モルの水と0.03モルのHClの混合水溶液を滴下しながら攪拌混合して(pH;3.0)、SiO2 ガラス前駆体溶液を調製した。このガラス前駆体溶液を前記のSiO2 微粒子/B2 O3 ガラス質被膜を形成したC/C複合基材に塗布して減圧処理したのち、風乾し、100℃で乾燥した。更にB(OC2 H5 )4 溶液を塗布して減圧処理し、一昼夜風乾して空気中の水分で加水分解した。次いで、100℃で乾燥後アルゴンガス雰囲気中800℃の温度で60分間熱処理してB2 O3 −SiO2 ガラス質被膜(第3被覆層)を形成した。なお、ガラス前駆体溶液の含浸量は、1.1mg/cm2、第3被覆層の被覆量は0.98mg/cm2であった。
【0034】
(4)第4被覆工程
直径1.0〜1.4μm 、長さ20〜30μm のSiCウイスカーと平均直径0.4μm のSiC粉末を1:1の重量比で混合した。この混合粉末とZrO2 −SiO2 混合ゾルとを重量比1:1の割合で配合し、充分に混合してSiCウイスカー、SiC粉末およびZrO2 −SiO2 ガラス前駆体溶液が1:1:2の重量比で配合された混合スラリを調製した。この混合スラリを、前記第3被覆工程までの処理を施したC/C複合基材面に塗布し、300℃の温度で熱処理した。このようにして、SiCウイスカーと粉末SiCとZrO2 −SiO2 との複合物からなる複合被膜(第4被覆層)を形成した。なお、膜厚は30μm であった。
【0035】
実施例2
実施例1における第4被覆工程のSiCウイスカーに代えて、長さ0.1〜0.7mmの炭化珪素短繊維を用い、第4被覆層の膜厚を50μm とした他は全て実施例1と同一の方法、条件により耐酸化性C/C複合材を製造した。
【0036】
比較例1
実施例1における第4被覆工程の混合スラリとしてZrO2 −SiO2 混合ゾルの代わりにSiO2 ゾルを用いた他は全て実施例1と同一の方法、条件により耐酸化性C/C複合材を製造した。
【0037】
比較例2
実施例1における第4被覆工程の処理を行わず、第4被覆層を形成しなかった他は全て実施例1と同一の方法、条件により第1被覆工程から第3被覆工程までの被膜形成を行って、耐酸化性C/C複合材を製造した。
【0038】
比較例3
実施例1における第3被覆工程を行わず、第3被覆層を第4被覆工程とした他は全て実施例1と同一の方法、条件により第1被覆工程、第2被覆工程および第4被覆工程による3層の被膜形成を行って、耐酸化性C/C複合材を製造した。
【0039】
このようにして被覆層が積層形成されたC/C複合材について、低圧揮散試験を行って耐エロージョン性を評価した。試験条件は低圧揮散試験装置内を1または1000パスカル(Pa)に減圧し、キセノンランプの光を集光してC/C複合材表面に照射して1450または1550℃の温度に加熱し、その状態で1100秒間照射を続けた。この操作を3回繰り返して行い、被覆層の膜厚減少量(μm)及びC/C複合材の重量減少量(mg)を測定した。また、試験後の外観及び切断した内部組織を観察して評価した。得られた結果についてC/C複合基材面に積層形成した被覆層を表1に、測定、評価結果を表2に示した。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
表1、2の結果から、本発明の第1被覆層から第4被覆層を積層形成した実施例1及び2の耐酸化性C/C複合材は、1Pa−1450℃あるいは1000Pa−1550℃という低圧、高温下において熱サイクルが加わっても、被覆層の損傷が少なく安定に維持され、優れた耐酸化性能を保持していることが判る。これに対して、比較例では被覆層の劣化や剥離などによりC/C複合材の損傷が進み、耐酸化性能が充分でないことが認められる。
【0043】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明の耐酸化性C/C複合材によれば、傾斜機能組織の多結晶質SiC被膜からなる第1被覆層、高結晶質SiC被膜からなる第2被覆層、B2 O3 −SiO2 ガラス質被膜からなる第3被覆層、繊維状SiCと粉末SiCとZrO2 −SiO2 ガラスとの複合被膜からなる第4被覆層、とが積層形成された高度の耐酸化性能を備えたC/C複合材を提供することが可能となる。特に、高温、低圧下において優れた耐エロージョン性を示し、高度の耐久性を有するので、苛酷な高温酸化性雰囲気に曝される宇宙往還機等の構造部材をはじめとして各種工業分野における構造部材として極めて有用である。また、その製造方法によれば、本発明の耐酸化性C/C複合材を容易かつ能率的に製造することが可能である。
Claims (2)
- 表面研磨処理されたC/C複合基材面に、傾斜機能組織の多結晶質SiC被膜からなる第1被覆層、微細多結晶質SiC被膜あるいはこれを加熱処理して得られる高結晶質SiC被膜からなる第2被覆層、B2 O3 −SiO2 ガラス質被膜からなる第3被覆層、及び繊維状SiCと粉末SiCとZrO2 −SiO2 ガラスとの複合被膜からなる第4被覆層、が積層形成されてなることを特徴とする耐酸化性C/C複合材。
- 炭素繊維をマトリックス樹脂と共に複合成形し、硬化及び焼成炭化して得られるC/C複合基材の表面を研磨処理した後、SiOガスと非酸化性雰囲気中1600〜2000℃の温度で接触させてコンバージョン法により傾斜機能組織の多結晶質SiC被膜を形成する第1被覆工程、CVD法により析出させた微細多結晶質SiC被膜あるいはこれを非酸化性雰囲気中で加熱処理して高結晶質SiC被膜を形成する第2被覆工程、B及びSiを含有する金属アルコキシドを加水分解して得られるB2 O3 −SiO2 ガラス前駆体溶液を含浸して乾燥したのち500〜1000℃の温度で熱処理してB2 O3 −SiO2 ガラス質被膜を形成する第3被覆工程、次いで繊維状SiCと粉末SiCとZrO2 −SiO2 ガラス前駆体溶液との混合スラリを塗布して乾燥したのち熱処理して繊維状SiCと粉末SiCとZrO2 −SiO2 ガラスとの複合被膜を形成する第4被覆工程、とを順次に施すことを特徴とする耐酸化性C/C複合材の製造方法。
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