JP3713282B2 - 3−(2−置換−ビニル)−セファロスポリンのz異性体の選択的製造方法 - Google Patents

3−(2−置換−ビニル)−セファロスポリンのz異性体の選択的製造方法 Download PDF

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Description

技術分野
本発明は、2-(4-置換または非置換-チアゾール-5-イル)ビニル基を3位置換基として有するセファロスポリン抗生物質のZ異性体(シス異性体)、または該セファロスポリン抗生物質の合成用に中間体として利用できる7-アミノ-3-[2-(4-置換または非置換-チアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボン酸あるいはこれの保護誘導体のZ異性体(シス異性体)を選択的に且つ高収率で製造する新規な方法に関する。また、本発明は、7-[2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-アルコキシイミノアセトアミド]-3-[2-(4-置換または非置換-チアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボン酸または7-アミノ-3-[2-(4-置換または非置換-チアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボン酸あるいはこれらの保護誘導体の高純度のZ異性体(シス異性体)を効率よく且つ簡便に製造する新規な方法にも関する。
背景技術
特公平3-64503号(日本特許1698887号)、米国特許4,839,350号または欧州特許0175610号の明細書には、次式(A)
Figure 0003713282
で表される7-[2-メトキシイミノ-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)アセトアミド]-3-[2-(4-メチルチアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボン酸(シン異性体、シス異性体)が記載され、この化合物はセフジトレン(Cefditoren)と言われる優れたセファロスポリン抗生物質である。グラム陰性菌に対するセフジトレンの優れた抗菌活性は、セフジトレンの分子の3位ビニル基の炭素-炭素2重結合に対してセフェム環と4-メチルチアゾール-5-イル基がシス配位で結合しているZ配置をセフジトレン化合物が有することに関係している。
上記のセフジトレン化合物の4位カルボキシル基をピバロイルオキシメチル基でエステル化して導かれる7-[2-メトキシイミノ-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)アセトアミド]-3-[2-(4-メチルチアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステル(シン異性体、シス異性体)は、次式(B)
Figure 0003713282
で表され、セフジトレンピボキシル(Cefditoren pivoxyl)の一般名で知られるプロドラッグである(メルク・インデックス、12版、317頁参照)。一般に、3-(2-置換-ビニル)-セファロスポリン抗生物質においては、それのZ異性体(シス異性体)がE異性体(トランス異性体)よりも抗生物質の諸特性について優れていることが知られる。
セフジトレンを含めて、上記の3-(2-置換-ビニル)-セファロスポリン抗生物質またはこれの合成用中間体は、種々な方法で製造できる。これら抗生物質の利用できる製造法の一つに、Wittig反応を用いる方法がある。Wittig反応を用いる3-(2-置換-ビニル)-セファロスポリン抗生物質またはこれの合成用中間体の製造方法は、例えば特開平3-264590号又はこれの対応の米国特許5,233,035号または欧州特願公告0175610A2号;「Journal of Antibiotics」XLIII巻, 8号, 1047-1050頁(1990)、「Chem. Pharm. Bull.」39巻9号、2433-2436頁(1991)、およびPCT出願No.PCT/JP94/01618号の国際公開WO95/09171号(1995年4月6日公開)またはこれの対応の欧州特願公開第0734965A1号の明細書に記載される。これら従来方法におけるWittig反応工程によると、その反応生成物は、常にZ異性体とE異性体との混合物の形で得られている。
例えば、前出の「Journal of Antibiotics」XLIII巻, 8号, 1047-1050頁および「Chem. Pharm. Bull.」39巻9号、2433-2436頁には、7-[(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド]-3-(Z)-(4-メチルチアゾール-5-イル)ビニル)-3-セフェム-4-カルボン酸の合成に用いられる7-β-フェニルアセトアミド-3-[2-(4-メチルチアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボン酸4-メトキシベンジルエステルの製造方法が記載される。この方法においては、7-β-フェニルアセトアミド-3-クロロメチル-3-セフェム-4-カルボン酸のp-メトキシベンジルエステルをアセトン中で沃化ナトリウムで処理して対応の3-ヨードメチル誘導体を生成し、この誘導体をトリフェニルホスフィンで処理して、対応のトリフェニルホスホニウム・ヨーダイド誘導体を生成し、さらにジクロロメタン(すなわち塩化メチレン)と水とからなる不均質の反応媒質中で炭酸水素ナトリウムの存在下で前記のトリフェニルホスホニウム・ヨーダイド化合物に5-ホルミル-4-メチルチアゾールを室温でWittig反応により反応させる工程が行われ、これによって7-β-フェニルアセトアミド-3-[2-(4-メチルチアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボン酸4-メトキシベンジルエステルが生成される。
上記の方法は、次に示す反応式によって表わすことができる。
Figure 0003713282
上記の方法においては、中間体として上記の式(F)の7-β-フェニルアセトアミド-3-[(トリフェニルホスホラニリデン)メチル]-3-セフェム-4-カルボン酸4-メトキシベンジルエステルが生成され、これが式(G)の5-ホルミル-4-メチルチアゾールとWittig反応により反応して式(H)の7-β-フェニルアセトアミド-3-[2-(4-メチルチアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボン酸4-メトキシベンジルエステルが生成される。この式(H)の反応生成物は、Z異性体(シス異性体)とE異性体(トランス異性体)との4.7:1の混合物の形で得られたと上記の文献に記載される。
この文献「Journal of Antibiotics」には、式(H)の化合物のZ異性体とE異性体とはカラムクロマトグラフィーによっても相互に分離するのが困難であると記載される。式(H)の化合物から7-フェニルアセチル基を脱保護により除去した後に、その遊離の7位に2-(2-トリチルアミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノ酢酸を縮合させ、得られた縮合生成物から脱保護し、さらに得られた脱保護生成物を非イオン性多孔質樹脂によるカラムクロマトグラフィーにかけ、さらに分別結晶法にかけることによって、目的生成物のZ異性体が単離できたことが上記の文献に記載される。従って、最終的に収得できた所望のZ異性体の収率はかなり低くならざるを得なかった。
また、特開平7-188250号またはこれの対応の米国特許5,616,703号または欧州特願公開658558A1号の明細書には、Wittig反応により製造された次式(J)
Figure 0003713282
〔式中、Rはシリル型の保護基または水素原子〕で表される7-アミノ-3-[2-(4-メチルチアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボン酸またはこれの誘導体よりなる反応生成物がZ異性体とE異性体の混合物であることが記載される。特開平7-188250号明細書には、7-アミノ-3-[2-(4-メチルチアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボン酸のZ/E混合物をアミン塩に転化し、さらに得られたアミン塩を再結晶法にかけることによってZ異性体を単離する方法が記載される。また、前記のZ/E混合物をクロマトグラフィーにかけることによって、活性の低いE異性体を可及的に除かれたZ異性体を収得できることが記載される。
さらに、前記のPCT国際特許WO95/09171号の明細書には、次式(K)
Figure 0003713282
〔式中、XはCHまたはNであり、R11はアミノ基または保護されたアミノ基であり、R12は水素原子またはヒドロキシイミノ保護基であり、R13は水素原子、塩形成カチオンまたはカルボキシル保護基であり、R16はアリール基、例えばフェニル基であり、Wはハロゲン原子である〕で表されるホスホニウム・ハライド化合物を炭酸水素ナトリウムのような塩基でアセトン、テトラヒドロフラン、塩化メチレンまたは水の中で室温で処理して次式(L)
Figure 0003713282
〔式中、R11、R12、R13およびR16は前記と同じ意味を持つ〕で表されるトリアリールホスホラニリデン化合物を生成する工程と、この式(L)の化合物を次式(G')
Figure 0003713282
〔式中、R14は水素原子であり、R15は水素原子、低級アルキル基、ハロ-低級アルキル基またはハロゲン原子である〕で表される4-置換または非置換-チアゾール-5-カルボアルデヒドと室温ないし冷却下の温度で塩化メチレン、塩化メチレン-水、テトラヒドロフランまたはジオキサン中でWittig反応により反応させて次式(N)
Figure 0003713282
〔式中、R11、R12、R13、R14およびR15は上記に定義したとおりである〕で表される3-ビニル-セフェム化合物を生成する工程とから成る方法が記載される。この従来方法においても、式(L)のホスホラニリデン化合物と式(G')のアルデヒド化合物とをWittig反応で反応させて得られた式(N)の3-ビニル-セフェム化合物よりなる反応生成物は、Z異性体(シス異性体)とE異性体(トランス異性体)との混合物であった。式(N)の3-ビニル-セフェム化合物の所望とされるZ異性体を単離、回収するためには、前記方法においてWittig反応工程で得られた反応液を先づ塩化ナトリウム水溶液で洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、さらに減圧下に濃縮し、得られた残渣をクロマトグラフィーにかけて精製してZ異性体をE異性体から分離することが必要であった。従て前記の従来方法においても、式(N)の3-ビニル-セフェム化合物の所望なZ異性体の実際上の収率は満足できるほど高い値ではなかった。また、上記の3-ビニル-セフェム化合物の製造のためにWittig反応を用いる従来法では、反応媒体に低級アルカノールを用いた前例は見出せなかった。
従って、前記の式(L)の化合物に対応する7-[2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-アルコキシイミノアセトアミド]-[3-(トリ置換-ホスホラニリデン)メチル]-3-セフェム-4-カルボン酸またはこれのエステル、あるいは7-アミノ-または7-N-保護アミノ-3-[(トリ置換-ホスホラニリデン)メチル]-3-セフェム-4-カルボン酸またはこれのエステルを式(G')の4-置換または非置換-チアゾール-5-カルボアルデヒドとWittig反応により反応させることから成る、3-[2-(4-置換または非置換-チアゾール-5-イル)ビニル基を有するセファロスポリン化合物を製造する方法を行う場合に、その3-(2-置換-ビニル)-セファロスポリン化合物の所望なZ異性体(シス異性体)を望ましくないE異性体(トランス異性体)より有意に多い割合で選択的に生成でき且つその所望なZ異性体を高収率で収得できることを可能にする3-(2-置換-ビニル)-セファロスポリン化合物の新しい製造法が求められた。
また、生成されたE異性体から前記の所望のZ異性体を分離するための別段の特別な精製工程を行う必要なしに、前記の所望なZ異性体をWittig反応の反応液から直接に高収率で且つ高純度で回収できるような、3-(2-置換-ビニル)-セファロスポリンの新しい製造法が求められていた。
発明の開示
すなわち、Wittig反応を用いる3-(2-置換-ビニル)-セファロスポリンの従来の製造方法は、E異性体の生成に比べてZ異性体の生成の選択性が良くないこと、およびE異性体からZ異性体を単離するのに余分で煩雑な操作を必要とすること、さらにZ異性体の実際上の収率が不満足に低いことの諸欠点があった。
また、前記の従来方法を実施する場合、Wittig反応の工程は、反応媒質として殆んど専ら塩化メチレンまたは塩化メチレン-水を用い且つ反応温度として室温を用いて行われることが常套的な手法であった。
上記のような従来方法のもつ諸欠点のない3-(2-置換-ビニル)-セファロスポリンの新しい製造法を提供する目的で本発明者らは種々研究を行った。特に、Wittig反応で用いる反応媒質、反応温度およびその他の反応実施条件を鋭意検討した。その結果として、Wittig反応のための反応媒質として、塩素化炭化水素溶剤と低級アルカノールとを或る混合比率(容量)で混合してなる混合溶剤を用い且つ反応温度として5℃以下の温度、好ましくは0℃〜−50℃の温度を用いる時には、3-(2-置換-ビニル)-セファロスポリンの所望なZ異性体が望ましくないE異性体よりも有意に多い割合で反応液中に生成できること、すなわち所望のZ異性体の生成の選択性が改良されること、またZ異性体の収率が高いことが驚くべきことに知見された。これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
従って、第1の本発明においては、次の一般式(I)
Figure 0003713282
〔式中、R1は水素原子または1価のアミノ保護基を表すか、あるいは次式(II)
Figure 0003713282
(式中、R5は水素原子または1価のアミノ保護基であり且つR6は水素原子であり、もしくはR5とR6とは共同して1個の2価のアミノ保護基を示し、R7は炭素数1〜4のアルキル基である)で示される2-(2-N-保護または非保護-アミノチアゾール-4-イル)-2-アルコキシイミノアセチル基を表し、またR2は水素原子を表し、もしくはR1とR2とは共同して1個の2価のアミノ保護基を表し、さらにR3は水素原子、ピバロイルオキシメチル基またはカルボキシル保護基としてのエステル形成基を表し、そしてR4は炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基を示す〕で表される7-N-非置換または置換-アミノ-3-[(トリ置換-ホスホラニリデン)メチル]-3-セフェム-4-カルボン酸またはそのエステル、もしくは次の一般式(I')
Figure 0003713282
〔式中、R1、r2、R3およびR4は前記と同じ意味をもつ〕で表される化合物と、次式(III)
Figure 0003713282
〔式中、R8は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、トリフルオロメチル基またはクロロ基を示す〕で表される4-置換または非置換-チアゾール-5-カルボアルデヒドとを、塩素化炭化水素溶剤と低級アルカノールとの混合比率(容量)が1:3ないし1:0.25の範囲にある塩素化炭化水素溶剤と低級アルカノールとよりなる混合溶剤中で+5℃ないしマイナス50℃の温度で反応させることから成ることを特徴とする、次の一般式(IV)
Figure 0003713282
〔式中、R1、R2およびR3ならびにR8はそれぞれ前記と同じ意味をもつ〕で表される7-N-非置換または置換-アミノ-3-[2-(4-置換または非置換-チアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボン酸またはそのエステルのZ異性体の選択的な製造方法が提供される。
第1の本発明の方法は、3-(2-置換-ビニル)-セファロスポリンをWittig反応で製造する従来方法に比べて、反応媒質として特定の混合比率で混合された塩素化炭化水素溶剤と低級アルカノールとの混合溶剤を用いる点と反応温度として5℃以下の温度を用いる点とで相違するけれども、その他の反応の実施操作および条件では従来方法から大きな変更がない。それにも拘わらずに、本発明方法では式(IV)のセフェム化合物の所望のZ異性体を選択性よく且つ高収率で生成できることは全く予想外のことである。
第1の本発明方法で出発化合物として用いられる上記の一般式(I)の化合物は、次の一般式(V)
Figure 0003713282
〔式中、R1、R2、R3は前記と同じ意味であり、Wは塩素原子または臭素原子である〕の3-ハロメチル-3-セフェム化合物を、例えばアセトン、あるいは塩化メチレン又はクロロホルムと水とからなる反応媒質中で室温でヨウ化ナトリウムまたはヨウ化カリウムで処理して次の一般式(VI)
Figure 0003713282
〔式中、R1、R2、R3は前記と同じ意味である〕の3-ヨードメチル-3-セフェム化合物を生成する工程(i)と、式(VI)の化合物を、前記の工程(i)で用いたと同じ反応媒質中で室温で次式(VII)
P(R4)3 (VII)
〔式中、R4は炭素数1〜6のアルキル基、好ましくは直鎖アルキル基、あるいはアリール基、好ましくはフェニル基または(C1〜C4)アルキル置換フェニル基である〕のトリアルキルホスフィンまたはトリアリールホスフィンと反応させて次の一般式(VIII)
Figure 0003713282
〔式中、R1、R2、R3、R4は前記と同じ意味をもつ〕で表されるトリアルキル(又はアリール)ホスホニウム-メチル化合物を生成する工程(ii)と、式(VIII)のホスホニウム-メチル化合物を例えば塩化メチレンまたはクロロホルム-水とからなる反応媒質中で炭酸水素ナトリウムまたは水酸化ナトリウムの如き塩基の水溶液で室温でまたは氷冷下に反応させて前記の一般式(I)のトリアルキル(又はアリール)ホスホラニリデン化合物を生成する工程(iii)とから成る方法によって調製できる。出発化合物として一般式(I)の化合物に代えて、一般式(I')の化合物を使用できる。上記の工程(iii)で得られた反応液から一般式(I)の化合物を分離せずに、一般式(I)の化合物を含む該工程(iii)の反応液をそのまま用いて、ワンポット法で第1の本発明方法を行うのが簡便である。
出発化合物として用いられる一般式(I)または(I')の化合物において、R1および(または)R5が表し得る1価のアミノ保護基は、ペニシリンおよびセファロスポリン化合物の合成で慣用されるアミノ保護基であれば特に制限がない。
このような1価のアミノ保護基の例には、置換もしくは非置換のモノ(またはジ、あるいはトリ)フェニルアルキル基、例えばベンジル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、アルカノイル基、例えばホルミル基、アセチル基;低級アルコキシカルボニル基、例えばメトキシカルボニル基;芳香族アシル基、例えばベンゾイル基、トリル基;複素環カルボニル基、例えばチアゾリルカルボニル基、テトラゾリルカルボニル基;アリール又はアリールオキシ基で置換されたアルカノイル基、例えばフェニルアセチル基、フェノキシアセチル基;アラルキルオキシカルボニル基、例えばベンジルオキシカルボニル基;あるいは複素環で置換されたアルカノイル基、例えばイミダゾリルアセチル基、チアゾリルアセチル基などが挙げられる。特にフェニルアセチル基がアミノ保護基として好ましい。また、R1とR2とが、あるいはR5とR6とが共同して1個の2価のアミノ保護基を表す場合、2価のアミノ保護基の例には、置換または非置換のアルアルキリデン基、例えばベンジリデン基、サリチリデン基およびテトラヒドロピラニリデン基がある。
さらに、一般式(I)または(I')の化合物において、R3がカルボキシル保護基としてのエステル形成基を表す場合、このエステル形成基はペニシリンおよびセファロスポリン化合物の合成に当って、それの3位または4位に使用されるカルボキシル保護基であれば特に制限がない。このエステル形成基の例は低級アルキル基、例えばメチル基、エチル基、t-ブチル基;低級アルケニル基、例えばビニル基、アリル基;低級アルコキシアルキル基、例えばメトキシメチル基、エトキシメチル基;低級アルキルチオアルキル基、例えばメチルチオメチル基、エチルチオメチル基;低級アルカノイルオキシアルキル基、例えばアセトキシメチル基、ブチリルオキシメチル基、置換もしくは非置換モノ(またはジ、トリ)フェニルアルキル基、例えばベンジル基、4-メトキシベンジル基、ベンズヒドリル基、トリチル基などである。特に4-メトキシベンジル基がカルボキシル保護基として好ましい。
また、R4は低級アルキル基またはアリール基を表す。低級アルキル基は炭素数1〜6のアルキル基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、n-またはt-ブチル基であるのがよい。特にn-ブチル基が好ましい。また、R4であるアリール基としては特にフェニル基が好ましい。
第1の本発明の方法において反応媒質として混合溶剤を構成する塩素化炭化水素系溶剤の例には、モノクロロ-、ジクロロ-またはトリクロロ-(C1〜C2)アルカンがあり、好ましくは塩化メチレン(すなわちジクロロメタン)またはクロロホルム、あるいはジクロロエタン、あるいはこれらの2種またはそれ以上の混合物である。
本発明方法で用いる混合溶剤の他方の成分は低級アルカノールである。この低級アルカノールは炭素数1〜6のアルカノールであり、好ましくはメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノールまたはt-ブタノール、あるいはこれらの2種またはそれ以上の混合物である。使用される混合溶剤としてクロロホルムとn-プロパノールとから成る混合物が特に好ましい。
本発明方法において、塩素化炭化水素系溶剤とアルカノール系溶剤の混合比率(容量)が1:3〜1:0.25の範囲の混合溶剤を用いる。好ましくは1:1〜1:0.28、より好ましくは1:0.5〜1:0.4の範囲の混合比率の混合溶剤を用いる。混合溶剤の混合比率が1:3〜1:0.25の範囲外であると、E異性体の生成量が増加し、逆にZ異性体の生成量が低下する。また用いる反応温度もZ異性体の生成量に大きく影響する。本発明方法においては、+5℃〜−50℃、特に0℃〜−50℃の範囲の反応温度で反応を行う。特に−10℃〜−30℃での範囲で反応を行うと、E異性体の生成量が格別に減少し、E異性体に比べてZ異性体の生成の割合が飛躍的に向上できる。
第1の本発明方法は、用いる混合溶剤中の塩素化炭化水素溶剤と低級アルカノールとの混合比率(容量)が1:1ないし1:0.28の範囲、より好ましくは1:0.5ないし1:0.4の範囲にあり、式(I)(またはI')の化合物と式(III)の化合物との反応を−10℃〜−30℃の範囲、好ましくは−18℃〜−23℃の範囲の温度で行うように実施されると、好適な結果が得られる。なおまた、混合比率(容量)が1:0.25ないし1:0.4の範囲で混合されたクロロホルムまたはジクロロメタンとn-プロパノールとから成る混合溶剤中で反応を−18℃〜−23℃の範囲の温度で行うように第1の本発明方法を実施すると、E異性体の生成量に比べてZ異性体の生成量が顕著に向上する結果が得られた。
第1の本発明方法は、用いる混合溶剤に式(I)または式(I')の出発化合物を溶解し、得られた溶液を所要の反応温度まで冷却し、その冷却された溶液に化学量論的な所要量またはそれより過剰量または大過剰量で式(III)のカルボアルデヒドを添加し、得られた反応混合物を、所要の低い反応温度に維持しながら攪拌して反応を12時間〜20時間行わせることによって簡便に実施できる。
反応の終了後には、必要に応じて、得られた反応液にピロ亜硫酸カリウム水溶液を加えて洗浄して、残留するアルデヒド化合物を除去する。また、式(III)のカルボアルデヒド化合物が式(I)の化合物中のアミノ基と反応してシッフ塩基を形成していた場合には、ジラール試薬のエタノール溶液を加えてシッフ塩基を分解することが好ましい。
これらの予備処理をされた反応液は、次いで塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、続いて減圧下または常圧下で溶剤の蒸発により濃縮する。得られた濃縮液または固体残渣にメタノール、酢酸エチルまたは酢酸ブチルを加えて、さらにある時間放置すると、所望のZ異性体が結晶化により析出できる。この際、少量または微量で存在するE異性体はZ異性体の結晶化に悪影響を与えない。従って、このように得られたZ異性体の結晶は、純度が高い。従って、E異性体を除去するために、再結晶やクロマトグラフィーの別段の精製操作を行うことが必要でない。
さらに、第1の本発明方法の一つの実施例として、1:0.4の比率(容量比)で混合された塩化メチレンとn-プロパノールとよりなる混合溶剤に、式(I)の化合物の一例として、7-フェニルアセトアミド-3-[(トリフェニルホスホラニリデン)メチル]-3-セフェム-4-カルボン酸4-メトキシベンジルエステルを溶解し、その溶液に4-メチルチアゾール-5-イル-5-カルボアルデヒドを加え、得られた反応混合物を−20℃±2℃の反応温度で14時間攪拌下に反応にかける実験を本発明者らは行った(後記の実施例3、参照)。反応の終了後に、得られた反応液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にかけて、反応液中に生成した7-フェニルアセトアミド-3-[2-(4-メチルチアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボン酸4-メトキシベンジルエステルのZ異性体とE異性体との量的比率を測定した。このHPLCによる測定条件は下記のとおりである。
カラム:YMC A-312;直径6.0mm×高さ150mm
移動相:0.05Mリン酸緩衝液-アセトニトリル(1:1)
検出光波長:274nm
得られたクロマトグラムにおけるZ異性体の吸収ピーク下の面積(Z)とE異性体の吸収ピーク下の面積(E)との比率(Z:E)は45.4:1であると認められた。上記のZ異性体とE異性体との標準試料を別途調製してそれらのHPLCのデータを勘案して、上記の面積比率の数値(Z:E=45.4:1)から算定すると、反応液中に存在するZ異性体とE異性体との重量比は94.6:5.4であると認められた。
比較の目的で、上記の−20℃±2℃の反応温度に代えて反応温度を+25℃±2℃の範囲の温度に設定した以外は全く同様に実験を反復した。ここで得られた反応液を全く同じにHPLCで検査した。ここで得られたクロマトグラムにおけるZ異性体の吸収ピーク下の面積(Z)と、E異性体の吸収ピーク下の面積との比率(Z:E)の数値から算定すると、反応液中に存在するZ異性体の量に比べてE異性体の量は相当に大きいものであると認められる。
上記の実験は、一つの例証であるが、このことから第1の本発明の方法によると、Z異性体がE異性体よりも著るしく優先的に生成できることが判る。
なお、第1の本発明方法によって生成された一般式(IV)の3-ビニル-3-セフェム化合物が残留するアミノ保護基または(および)カルボキシル保護基を有する場合、保護基は常法で脱離できる。その脱保護反応からの反応液から、脱保護生成物を常法で回収した時にも、脱保護生成物の高純度なZ異性体を収得できる。
更に、本発明者らは研究を続行した。その結果、第1の本発明方法を実施するに当って、混合溶剤に用いる塩素化炭化水素として塩化メチレンまたはクロロホルムを選択し且つ低級アルカノールとしてn-プロパノールを選択し、さらにこれを1:1〜1:0.28の混合比(容量)で混合された混合溶剤中で式(I)の化合物と(式(III)の化合物との反応を特に−10℃〜−30℃の温度で行う場合には、得られた反応液中に生成された式(IV)の生成物のZ異性体がE異性体よりも著るしく多いことが認められた。そのような反応液を、下記のような後処理によりZ異性体を回収操作にかけると、高純度のZ異性体の結晶を高収率で収得できることが知見された。
従って、第2の本発明によると、次の一般式(I)
Figure 0003713282
〔式中、R1は水素原子または1価のアミノ保護基を表すか、あるいは次式(II)
Figure 0003713282
〔式中、R5は水素原子または1価のアミノ保護基であり且つR6は水素原子であり、もしくはR5とR6とは共同して1個の2価のアミノ保護基を示し、R7は炭素数1〜4のアルキル基である〕で示される2-(2-N-保護または非保護-アミノチアゾール-4-イル)-2-アルコキシイミノアセチル基を表し、またR2は水素原子を表し、もしくはR1とR2とは共同して1個の2価のアミノ保護基を表し、さらにR3は水素原子、ピバロイルオキシメチル基またはカルボキシル保護基としてのエステル形成基を表し、そしてR4は炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基を示す〕で表される7-N-非置換または置換-アミノ-3-[(トリ置換-ホスホラニリデン)メチル]-3-セフェム-4-カルボン酸またはそのエステル、もしくは次の一般式(I')
Figure 0003713282
〔式中、R1、R2、R3およびR4は前記と同じ意味をもつ〕で表される化合物と、次式(III)
Figure 0003713282
〔式中、R8は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、トリフルオロメチル基またはクロロ基を示す〕で表される4-置換または非置換-チアゾール-5-カルボアルデヒドとを、混合比率(容量)が1:1ないし1:0.28の範囲にある塩化メチレン、クロロホルムまたはジクロロエタンとn-プロパノールとよりなる混合溶剤中でマイナス10℃ないしマイナス30℃の温度で反応させこれにより次の一般式(IV)
Figure 0003713282
〔式中、R1、R2およびR3ならびにR8はそれぞれ前記と同じ意味をもつ〕で表される7-N-非置換または置換-アミノ-3-[2-(4-置換または非置換-チアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボン酸またはそのエステルのZ異性体を含有する反応溶液を収得し、この反応溶液をピロ亜硫酸カリ水溶液で洗い、その後に反応溶液を濃縮し、得られた濃縮液にメタノールまたは酢酸ブチル、あるいはこれらの2種の混合物を加えて、これにより式(IV)の化合物のZ異性体を結晶化することから成る、式(IV)の7-N-非置換または置換-アミノ-3-[2-(4-置換または非置換-チアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボン酸またはそのエステルの高純度なZ異性体の製造法が提供される。
第2の本発明の方法において、式(I)または(I')の出発化合物と式(III)のカルボアルデヒド化合物との反応は、第1の本発明方法における対応の反応と全く同じ要領で実施できる。また、第2の本発明方法においては、添加されたメタノールまたは酢酸ブチルからZ異性体を結晶化する工程中によって、Z異性体の結晶が得られ、この結晶中にはE異性体が極微量しか存在しない。このように得られたZ異性体の高純度の結晶は精製することを多くの場合に必要としない。
前記のことから判るように、本発明は、3-(2-置換-ビニル)-セファロスポリン抗生物質の製造に、また該セファロスポリン抗生物質の合成用の中間体の製造に特に有用である。
発明を実施するための最良の形態
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、後記の実施例においては、生成された式(IV)の化合物のZ異性体とE異性体との間の比率を評価するために、これら異性体を含む反応液またはその他の溶液をHPLCにかけて測定を行った。用いたHPLCの測定条件は、前記した測定条件と同じであり、次のとおりである。
カラム:YMC A-312、直径6.0mm×高さ150mm
移動相:0.05Mリン酸緩衝液-アセトニトリル(1:1、容量)
検出光波長:274nm
実施例1
(a)4-メトキシベンジル7-(4-アセチルアミノベンジリデンイミノ)-3-クロロメチル-3-セフェム-4-カルボキシレート(5g)、トリフェニルホスフィン(2.7g)及びヨウ化ナトリウム(1.5g)を、クロロホルム(30ml)と水(30ml)よりなる不均質な反応媒質に溶解した。
得られた反応混合物を攪拌下に32±1℃の温度で2.5時間反応にかけた。生成された4-メトキシベンジル7-(4-アセチルアミノベンジリデンイミノ)-3-トリフェニルホスホニウムメチル-3-セフェム-4-カルボキシルート・ヨーダイドを含有するクロロホルム層を分離した。
分離された該クロロホルム層を、3±1℃に冷却後、冷いNaOH水溶液(NaOH 0.51gを水30mlに溶解)を加え、約3℃で30分反応させた。
(b)生成された4-メトキシベンジル7-(4-アセチルアミノベンジリデンイミノ)-3-[(トリフェニルホスホラニリデン)メチル]-3-セフェム-4-カルボキシレートを含むクロロホルム層を分離して硫酸マグネシウムで乾燥した。
乾燥されたクロロホルム層に適量のクロロホルムを加えて久の液量を54mlに調整した。こうして得られた前記3-(トリフェニルホスホラニリデン)メチル-セフェム化合物のクロロホルム溶液を−25℃±2℃に冷却し、さらに21.5mlのn-プロパノールを加えた。こうして得られた溶液中のクロロホルムとn-プロパノールの混合比率(容量)は1:0.4であった。
該溶液に9.3gの4-メチルチアゾール-5-カルボアルデヒドを加え、得られた反応混合物を−20℃±2℃の温度に冷却しながら攪拌下に14時間反応を行った。
得られた反応液を氷冷下にてピロ亜硫酸カリウム水溶液と塩化ナトリウム水溶液で洗浄して、その後、濃縮した。得られた濃縮液にメタノールを加え結晶化を行い、4-メトキシベンジル7-(4-アセチルアミノベンジリデンイミノ)-3-[2-(4-メチルチアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボキシレートの結晶2.51g(収率43.8%)を得た。この結晶を塩化メチレン−アセトニトリルに溶解し、その溶液を前記の測定条件でHPLCで分析したところ、Z異性体の吸収ピーク下の面積とE異性体の吸収ピーク下の面積との比が32.3:1であると認められた。この面積比の数値から評価すると、Z異性体に比べてE異性体の量は微量であると認められる。
本例で得られた上記の化合物の1H-NMRデータを下記に示す。
1H-NMR:δ値(CDCl3)
2.18(3H,d,J=7.0Hz)
2.41(3H,s)
2.24(1H,d,J=18.3Hz)
3.49(1H,d,J=18.3Hz)
3.78(3H,s)
5.10(1H,d,J=12.1Hz)
5.15(1H,d,J=12.1Hz)
5.23(1H,d,J=5.1Hz)
5.41(1H,d,J=5.1Hz)
6.30(1H,d,J=11.7Hz)
6.54(1H,d,J=11.7Hz)
6.79〜7.82(8H,m)
8.58(1H,s)
8.78(1H,s)
実施例2
(a)4-メトキシベンジル7-[(Z)-2-(2-トリチルアミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド]-3-クロロメチル-3-セフェム-4-カルボキシレート(2.6g)を原料として使用し、実施例1(a)と同様にトリフェニルホスフィンおよびヨウ化ナトリウムとの反応を行った。得られた反応生成物を実施例1(a)におけると同様に冷NaOH水溶液で処理した。
(b)生成された4-メトキシベンジル7-[(Z)-2-(2-トリチルアミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド]-3-[(トリフェニルホスホラニリデン)メチル]-3-セフェム-4-カルボキシレートを含むクロロホルム層が得られた。次いで、この3-(トリフェニルホスホラニリデン)メチル-3-セフェム化合物を、実施例1(b)におけると同様にクロロホルム-n-プロパノールの(1:0.4)混合溶剤中で-20℃±2℃の温度範囲で4-メチルチアゾール-5-カルボアルデヒドと14時間反応させた。
4-メトキシベンジル7-[(Z)-2-(2-トリチルアミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド]-3-[2-(4-メチルチアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボキシレートの結晶2.30g(収率80.8%)を得た。この得られた生成物を前記と同じ測定条件のHPLCにかけると、得られたクロマトグラムにおけるZ異性体の吸収ピーク下の面積とE異性体の吸収ピーク下の面積との比が21.3:1であると認められた。
1H-NMR:δ値(CDCl3)
2.42(3H,s)
2.24(1H,d,J=18.7Hz)
3.48(1H,d,J=18.7Hz)
3.80(3H,s)
4.07(3H,s)
5.09(1H,d,J=12.0Hz)
5.13(1H,d,J=12.0Hz)
5.98(1H,m)
6.29(1H,d,J=11.7Hz)
6.59(1H,d,J=11.7Hz)
6.81〜7.71(19H,m)
8.58(1H,s)
実施例3
4-メトキシベンジル7-フェニルアセトアミド-3-クロロメチル-3-セフェム-4-カルボキシレート(10.5g)を原料として使用し、実施例1(a)および(b)と同様にして反応と処理を行った。4-メトキシベンジル7-フェニルアセトアミド-3-[2-(4-メチルチアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボキシレートの結晶10.2g(収率90.9%)を得た。
この生成物を前記と同じ測定条件でHPLCにかけて分析すると、得られたクロマトグラムにおけるZ異性体の吸収ピーク下の面積とE異性体の吸収ピーク下の面積との比が45.4:1であると認められた。このことから、Z異性体とE異性体との重量比が17.4:1であると算定された。これを換算すると、94.6:5.4に相当する。得られた生成物中のZ異性体に比べてE異性体の割合が極めて小さいことが判る。
1H-NMR:δ値(CDCl3)
2.40(3H,s)
3.21(1H,d,J=18Hz)
3.46(1H,d,J=18Hz)
3.67(2H,d,J=3.5Hz)
3.81(3H,s)
5.06(1H,d,J=5Hz)
5.07(1H,d,J=5Hz)
5.15(1H,d,J=12Hz)
5.88(1H,dd,J=5Hz and 9Hz)
6.30(1H,d,J=12Hz)
6.56(1H,d,J=12Hz)
6.8〜7.4(9H,m)
8.60(1H,s)
実施例4
t-ブチル7-フェニルアセトアミド-3-ブロムメチル-3-セフェム-4-カルボキシレート(2.8g)を原料として使用し、実施例1(a)および(b)と同様にして反応と処理を行った。t-ブチル7-フェニルアセトアミド-3-[2-(4-メチルチアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボキシレートの結晶0.54g(収率54.3%)を得た。
この生成物を前記と同じ測定条件下でHPLCにかけて分析すると、得られたクロマトグラムにおけるZ異性体の吸収ピーク下の面積とE異性体の吸収ピーク下の面積との比が29.4:1であると認められた。このことから、Z異性体とE異性体との重量比が11.5:1であると算定された。これを換算すると、92:8であることに相当する。得られた生成物中のZ異性体に比べてE異性体の割合が極めて小さいことが判る。
1H-NMR:δ値(CDCl3)
1.35(9H,s)
2.44(3H,s)
3.18(1H,d,J=18.3Hz)
3.44(1H,d,J=18.3Hz)
3.65(2H,d,J=2.6Hz)
5.05(1H,d,J=4.8Hz)
5.87(1H,m)
6.29(1H,d,J=11.7Hz)
6.61(1H,d,J=11.7Hz)
7.26〜7.71(5H,m)
8.61(1H,s)
実施例5
(a)4-メトキシベンジル7-アミノ-3-クロロメチル-3-セフェム-4-カルボキシレート(1.1g)、トリフェニルホスフィン(0.55g)、及びヨウ化ナトリウム(0.32g)をクロロホルム(6.5ml)と水(6.5ml)よりなる不均質な反応媒質に溶解した。この反応混合物を32℃±1℃で2時間反応にかけた。得られた反応生成物を含むクロロホルム層を分離した。3±1℃に冷却後、冷NaOH水溶液(NaOH 0.17gを水8.6mlに溶解する)を加え、3±1℃の温度で1時間15分反応を行った。
(b)生成された4-メトキシベンジル7-アミノ-3-[(トリフェニルホスホラニリデン)メチル]-3-セフェム-4-カルボキシレートを含むクロロホルム層を分離した。硫酸マグネシウムで乾燥した後、クロロホルムの適量を加えてクロロホルムの液量を12mlに調整した。得られた溶液を25℃±2℃に冷却し、さらに4.6mlのn-プロパノールを加え、さらに1.9gの4-メチルチアゾール-5-カルボアルデヒドを加えた。得られた反応混合物中のクロロホルムとn-プロパノールとの混合比は1:0.38(容量)であった。この反応混合物を-20℃±2℃に冷却し、-20℃±2℃の温度範囲で攪拌下に反応を行った。
反応終了後に反応液を氷冷下にてピロ亜硫酸カリウム水溶液で洗浄後、ジラール試薬T(0.67g)のエタノール(6.7ml)溶液を加え、22℃にて1時間反応した。得られた反応液を塩化ナトリウム水溶液で洗浄して濃縮した。濃縮液に酢酸ブチルを加えて結晶化を行った。4-メトキシベンジル7-アミノ-3-[2-(4-メチルチアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボキシレートの結晶0.50g(収率56.0%)を得た。
この生成物を前記と同じ測定条件下でHPLCにかけて分析すると、得られたクロマトグラムにおけるZ異性体の吸収ピーク下の面積とE異性体の吸収ピーク下の面積との比が31.9:1であると認められた。このことから、Z異性体とE異性体との重量比が13.3:1であると算定された。これを換算すると、93:7であることに相当する。得られた生成物中のZ異性体に比べてE異性体の割合が極めて小さいことが判る。
1H-NMR:δ値(DMSO-d6)
2.43(3H,s)
2.54(2H,s)
3.79(3H,s)
5.15(2H,d,J=4.3Hz)
5.22(1H,d,J=5.1Hz)
5.32(1H,d,J=5.1Hz)
6.58(1H,d,J=12.1Hz)
6.80(1H,d,J=12.1Hz)
9.59(1H,s)
実施例6〜25
(a)4-メトキシベンジル7-フェニルアセトアミド-3-クロロメチル-3-セフェム-4-カルボキシレート(6g)、トリフェニルホスフィン(3.4g)、及びヨウ化ナトリウム(1.94g)を、後記の表1に示した塩素化炭化水素系溶剤(36ml)と水(36ml)よりなる不均質な反応媒質に溶解し、32℃±1℃で1.5時間反応した。原料の消失を確認後、有機層を分離し、3±1℃に冷却した。冷却後、冷NaOH水溶液(NaOHを0.64gを水36mlに溶解する)を有機層に加え、3±1℃の温度で30分反応した。
(b)原料の消失を確認後、生成した4-メトキシベンジル7-フェニルアセトアミド-3-[(トリフェニルホスホラニリデン)メチル]-3-セフェム-4-カルボキシレートを含む有機層を分離して硫酸マグネシウムで乾燥した。有機層を表1に示された夫々の反応温度に冷却した。
冷却後、塩素化炭化水素系溶剤に対し表1に示された一定の比率(容積)でアルカノール溶剤を加えた。さらに、4-メチルチアゾール-5-カルボアルデヒド(11.8g)を加え、表1に示した反応温度で14時間反応した。反応終了後、反応液中の生成された4-メトキシベンジル7-フェニルアセトアミド-3-[2-(4-メチルチアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボキシレートのZ異性体とE異性体の比率を評価するために反応液をHPLCにかけた。HPLCによる測定条件は前記と同じである。
実施例6〜25に用いた反応条件と得られた結果は後記の表1(a)に要約して示す。なお、表中でBtOHはブタノールを、PrOHはプロパノールを、MeOHはメタノールを示す。
比較例1〜2
上記実施例6〜25と同様の要領で、4-メチルチアゾール-5-カルボアルデヒドとの反応を比較の目的で室温(25℃±2℃)で14時間行った。反応終了後、同様に反応液の中のZ異性体とE異性体の比率をHPLCにより測定した。
比較例1〜2の結果も表1(b)に示した。用いた混合溶剤および反応温度によって、得られた化合物中のZ:Eの比率が大幅に異なることが分かる。特に、−20±2℃という反応温度条件で反応を行う時には、HPLCの吸収ピーク下の面積比で見て、Z異性体がE異性体の20倍以上、場合によっては30倍以上の値を示す場合もある。これによって、本発明方法によると、選択的にZ異性体を製造できることがわかる。
Figure 0003713282
産業上の利用可能性
前記のことから明らかなように、本発明方法によれば、Wittig反応を用いる3-(2-置換ビニル)-セフェム化合物の製造に当って該セフェム化合物のZ異性体をE異性体より著るしく多い割合で優先的に且つ高収率で生成することができる。本発明方法は簡便に且つ効率よく実施できる。本発明方法から得られた目的生成物は、その中のZ異性体に比べE異性体の含量が極めて小さい。本発明方法は、抗菌剤として優れた3-(Z)-(2-置換ビニル)-セファロスポリン抗生物質、あるいはこれの合成用の中間体の製造に有用である。

Claims (7)

  1. 次の一般式(I)
    Figure 0003713282
    〔式中、R1は水素原子または1価のアミノ保護基を表すか、あるいは次式(II)
    Figure 0003713282
    (式中、R5は水素原子または1価のアミノ保護基であり且つR6は水素原子であり、もしくはR5とR6とは共同して1個の2価のアミノ保護基を示し、R7は炭素数1〜4のアルキル基である)で示される2-(2-N-保護または非保護-アミノチアゾール-4-イル)-2-アルコキシイミノアセチル基を表し、またR2は水素原子を表し、もしくはR1とR2とは共同して1個の2価のアミノ保護基を表し、さらにR3は水素原子、ピバロイルオキシメチル基またはカルボキシル保護基としてのエステル形成基を表し、そしてR4は炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基を示す〕で表される7-N-非置換または置換-アミノ-3-[(トリ置換-ホスホラニリデン)メチル]-3-セフェム-4-カルボン酸またはそのエステル、もしくは次の一般式(I')
    Figure 0003713282
    〔式中、R1、R2、R3およびR4は前記と同じ意味をもつ]で表される化合物と、次式(III)
    Figure 0003713282
    (式中、R8は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、トリフルオロメチル基またはクロロ基を示す)で表される4-置換または非置換-チアゾール-5-カルボアルデヒドとを、塩素化炭化水素溶剤と低級アルカノールとの混合比率(容量)が1:3ないし1:0.25の範囲にある塩素化炭化水素溶剤と低級アルカノールとよりなる混合溶剤中で+5℃ないしマイナス50℃の温度で反応させることから成ることを特徴とする、次の一般式(IV)
    Figure 0003713282
    〔式中、R1、R2およびR3ならびにR8はそれぞれ前記と同じ意味をもつ〕で表される7-N-非置換または置換-アミノ-3-[2-(4-置換または非置換-チアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボン酸またはそのエステルのZ異性体の選択的な製造方法。
  2. 式(I)の化合物と式(III)の化合物との反応を0℃〜-50℃の温度で行う請求の範囲1に記載の方法。
  3. 用いる混合溶剤中の塩素化炭化水素溶剤と低級アルカノールとの混合比率(容量)が1:1ないし1:0.28の範囲、より好ましくは1:0.5ないし1:0.4の範囲にあり、式(I)の化合物と式(III)の化合物との反応を-10℃〜-30℃の範囲、好ましくは-18℃〜-23℃の範囲の温度で行う請求の範囲1に記載の方法。
  4. 塩素化炭化水素溶剤がモノクロロ-、ジクロロ-またはトリクロロ-(C1〜C2)アルカンであり、好ましくは塩化メチレン、クロロホルムまたはジクロロエタン、あるいはこれらの2種またはそれ以上の混合物である請求の範囲1に記載の方法。
  5. 低級アルカノールが炭素数1〜6のアルカノールであり、好ましくはメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノールまたはt-ブタノール、あるいはこれらの2種またはそれ以上の混合物である請求の範囲1に記載の方法。
  6. 混合比率(容量)が1:0.25ないし1:0.4の範囲で混合されたクロロホルムまたは塩化メチレンとn-プロパノールとから成る混合溶剤中で反応を-18℃〜-23℃の範囲の温度で行う請求の範囲1に記載の方法。
  7. 次の一般式(I)
    Figure 0003713282
    〔式中、R1は水素原子または1価のアミノ保護基を表すか、あるいは次式(II)
    Figure 0003713282
    (式中、R5は水素原子または1価のアミノ保護基であり且つR6は水素原子であり、もしくはR5とR6とは共同して1個の2価のアミノ保護基を示し、R7は炭素数1〜4のアルキル基である)で示される2-(2-N-保護または非保護-アミノチアゾール-4-イル)-2-アルコキシイミノアセチル基を表し、またR2は水素原子を表し、もしくはR1とR2とは共同して1個の2価のアミノ保護基を表し、さらにR3は水素原子、ピバロイルオキシメチル基またはカルボキシル保護基としてのエステル形成基を表し、そしてR4は炭素数1〜6のアルキル基またはアリール基を示す〕で表される7-N-非置換または置換-アミノ-3-[(トリ置換-ホスホラニリデン)メチル]-3-セフェム-4-カルボン酸またはそのエステル、もしくは次の一般式(I')
    Figure 0003713282
    〔式中、R1、R2、R3およびR4は前記と同じ意味をもつ]で表される化合物と、次式(III)
    Figure 0003713282
    (式中、R8は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、トリフルオロメチル基またはクロロ基を示す)で表される4-置換または非置換-チアゾール-5-カルボアルデヒドとを、混合比率(容量)が1:1ないし1:0.28の範囲にある塩化メチレン、クロロホルムまたはジクロロエタンとn-プロパノールとよりなる混合溶剤中で-10℃ないしマイナス30℃の温度で反応させ、これにより次の一般式(IV)
    Figure 0003713282
    〔式中、R1、R2およびR3ならびにR8はそれぞれ前記と同じ意味をもつ〕で表される7-N-非置換または置換-アミノ-3-[2-(4-置換または非置換-チアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボン酸またはそのエステルのZ異性体を含有する反応溶液を収得し、この反応溶液をピロ亜硫酸カリ水溶液で洗い、その後に反応溶液を濃縮し、得られた濃縮液にメタノールまたは酢酸ブチル、あるいはこれらの2種の混合物を加えて、これにより式(IV)の化合物のZ異性体を結晶化することから成る、式(IV)の7-N-非置換または置換-アミノ-3-[2-(4-置換または非置換-チアゾール-5-イル)ビニル]-3-セフェム-4-カルボン酸またはそのエステルの高純度なZ異性体の製造法。
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