走査電子顕微鏡(SEM)を例にとって本発明の実施形態を説明する。ただし、本発明はSEM以外の電子ビーム装置にも適用可能である。また、2次電子検出器の信号強度として、2次電子検出器を用いて取得した画像の平均階調値を用いる例を説明するが、これに限られず、たとえば2次電子検出器から出力される電気信号などを用いてもよい。
図12にSEMの全体概略図を示す。電子源100から放出された電子ビーム(1次電子170)は電子銃101により加速され、第1コンデンサレンズ103、第2コンデンサレンズ105を通り、対物レンズ109によりステージ112上の試料台113に保持された試料114上に結像して、照射される。対物レンズ上磁路110aにはブースター電圧制御部141から正電圧が、試料114には試料台電圧制御部144から負電圧が印加可能に構成されており、静電レンズを形成し、いわゆる減速光学系を構成可能とされている。また、対物レンズ109の上磁路110aと下磁路110bからなる開口は、ステージ112側に向いており、セミインレンズ型と呼ばれるレンズ構造となっている。これにより分解能の高い電子ビームを形成することができる。対物レンズ制御部142は、対物レンズコイル111に流れる励磁電流を制御する。
試料114から放出される低エネルギーの2次電子171は対物レンズ磁場により上方に巻き上げられて対物レンズ上流にある2次電子検出器120により検出される。2次電子171は対物レンズ上流でExB素子121による偏向作用を受け、メッシュ電極122を通過して2次電子検出器120に到達する。ExB素子121は電場と磁場とを直交して発生させることの出来る電子光学素子であり、ExB素子制御部147により制御される。2次電子検出器120は正電圧で2次電子171を吸引するため、メッシュ電極122はその漏洩電場を遮断する役割を果たしている。メッシュ電極122の電位はメッシュ電極制御部146により制御される。2次電子検出系制御部145は、2次電子検出器120で検出された信号を増幅して装置制御演算装置150に送る。
一方、高エネルギーの反射電子172は対物レンズ磁路110a,110bと試料台113との間にある反射電子検出器125により検出される。反射電子検出器125は試料台113に向かってテーパ形状の孔が形成されており、そのテーパ面(孔の内壁)及び下面にて反射電子172を検出している。反射電子検出系制御部138は、反射電子検出器125に印加する電圧を制御するとともに、検出器で検出された信号を増幅して装置制御演算装置150に送る。
1次電子170は、第1走査偏向器106と第2走査偏向器108により試料上を2次元に走査され、結果として試料の2次元画像を得ることができる。2次元走査は一般的に横方向のライン走査を縦方向に開始位置を移動しながら行われる。この2次元画像の中心位置は、第1走査偏向器制御部137によって制御される第1走査偏向器106と第2走査偏向器制御部139によって制御される第2走査偏向器108により規定される。第1走査偏向器106及び第2走査偏向器108はいずれも静電偏向器である。2次元画像は装置制御演算装置150により形成され、表示装置152に表示される。なお、電子銃101は電子銃制御部131により、第1コンデンサレンズ103は第1コンデンサレンズ制御部133により、第2コンデンサレンズ105は第2コンデンサレンズ制御部135により、それぞれ制御される。電子銃101の後段には1次電子170のビーム軸を制御するための第1アライナー102が配置され、第1アライナー制御部132によって制御される。
また、装置全体を制御する装置制御演算装置150は、記憶装置151に記憶された制御データ等に基づいて電子光学系、検出系の制御部を統一的に制御する。2つの検出器120,125によって検出される検出信号は、装置制御演算装置150により画像化され、記憶装置151に記憶されたり、表示装置152に表示されたりして利用される。
図12の構成をもつSEMにおいて、反射電子検出器125に電圧を印加し、印加電圧を変えながら2次電子検出器120で検出される2次電子信号量を計測した結果、反射電子検出器125の電圧が負から正へ変化する際に2次電子信号量(信号強度)が急峻に変化することが見出された。反射電子検出器125が帯電していたとすれば、帯電電圧と印加電圧が打ち消しあった条件において2次電子信号量の急峻な変化が生じることになる。実施例1では、この現象を利用して反射電子検出器125の帯電を計測する。
図2は、反射電子検出器の帯電の計測を行い、あらかじめ設定した許容値を超える帯電が生じた場合にはエラーを表示してSEMのオペレータに警告を与えるフローチャートである。本フローチャートは装置制御演算装置150により実行される。
ステップS201では、反射電子検出器125へあらかじめ設定した電圧を印加する。
ステップS202では、2次電子検出器120を用いて試料の画像を取得し、画像の平均階調値を算出する。ここで、画像を取得する試料は、帯電しない、あるいは帯電が十分小さい試料とする。試料自体の帯電が2次電子検出器120で検出される2次電子信号量に影響を与えることを抑制するためである。例えば、シリコン(Si)や金属膜などの半導体や導体の試料を用いることが望ましい。また、検出画像を取得する視野にはパタンが含まれないことが望ましい。反射電子検出器125への印加電圧の変化により視野移動が生じ、視野にパタンが存在すると視野移動に起因して平均階調値が変化してしまうおそれがあるためである。視野移動などに起因する画像階調値の変化が十分小さければパタンを含んでもよい。本計測専用の試料や視野を用いることが理想的ではあるが、スループット向上のため、パタンの計測を行う視野で本フローを実施する場合もある。このような場合には、反射電子検出器125への印加電圧の変化による視野移動が十分小さくなるよう、あらかじめ電子光学系を調整しておくことが望ましい。
ステップS203では、2次電子信号量の変化点を求めるために必要なデータを取得したか判定する。必要なデータを取得するまで、反射電子検出器125に印加する設定電圧をあらかじめ設定した量だけ変化させ(ステップS204)、ステップS201、ステップS202を繰り返す。ステップS203での判定は、あらかじめ定めた回数に達したかどうかで判断してもよいし、階調値の変化が現れたかどうかで判断してもよいし、階調値があらかじめ定めた閾値を越えて変化したかどうかで判断してもよい。
なお、ステップS201からS204では、電圧設定、画像取得、階調値算出をこの順で繰り返す手順について説明したが、これらを並行して行ってもよいし、階調値算出を最後にまとめて実施するようにしてもよい。
ステップS205では、以上のステップで取得した反射電子検出器125への印加電圧と画像の平均階調値との関係から、反射電子検出器の帯電電圧を算出する。図3は、反射電子検出器125への印加電圧と2次電子による画像の平均階調値との関係301を示したものである。波形301の急峻な変化点から、反射電子検出器125の帯電を相殺する印加電圧302を求める。変化点は、波形301の微分が最大となる点として求めてもよいし、閾値階調値303となる点として求めてもよい。閾値階調値303は、あらかじめ定めた値を用いてもよいし、得られた波形301における最小階調値304と最大階調値305の平均としてもよい。なお、閾値階調値303としてあらかじめ定めた値を用いる場合には、計測階調値が1次電子の電流量(プローブ電流)に依存することを考慮して、プローブ電流で規格化するなどの補正を行う必要がある。このようにして求めた変化点の電圧302を正負反転することで、反射電子検出器125の帯電電圧が算出できる。
ステップS206では、算出した帯電電圧があらかじめ定めた許容範囲かどうかを判定し、許容範囲を外れた場合には、ステップS207に移行して表示装置152にエラーを表示し、許容範囲内であれば、そのまま終了する。
以上の方法により、反射電子検出器125の帯電を検出することができる。これにより、帯電に顕著な影響を受けたパタン計測結果を全体の結果から除外したり、SEMのメンテナンスを促して、さらなる帯電の影響や帯電の増大を防止したりすることができる。
図4は、計測した反射電子検出器125の帯電を補正するフローチャートである。
ステップS401では、実施例1のステップS201〜S205と同様の方法で、反射電子検出器125の帯電電圧を算出する。本フローチャートも装置制御演算装置150により実行される。
ステップS402では、ステップS401で計測した帯電を補正する。具体的には、帯電電圧を相殺する電圧、あるいはそれ以上の電圧を、反射電子検出器125に常時オフセット電圧として印加する。なお、オフセット電圧は帯電電圧を相殺する電圧を超えてもよいが、1次電子170の軌道への影響が無視できる程度の電圧とする必要がある。
また別の方法としては、帯電電圧と同じ電圧、あるいはそれ以下の電圧を試料台電圧制御部144により試料台113に常時オフセット電圧として印加させる。ただし、試料台113、すなわち試料114にオフセット電圧を印加する場合は、1次電子170のランディングエネルギーが変化し、また、2次電子171のエネルギーや軌道も変化するため、これらの変化を補正するための電子光学系の調整が必要になる。したがって、反射電子検出器125にオフセット電圧を印加する方法がより望ましい。
以上の方法により、反射電子検出器125に帯電が生じた場合においても、2次電子検出への影響を抑制でき、信頼性の高いパタン計測が可能となる。
図5は、計測した反射電子検出器125の帯電を解消する、あるいは、減少させるフローチャートである。本フローチャートも装置制御演算装置150により実行される。
ステップS501では、実施例1のステップS201〜S205と同様の方法で、反射電子検出器125の帯電電圧を算出する。
ステップS502では、計測した帯電電圧が許容範囲内であるかを判定し、許容範囲を超えた場合には、ステップS503に移行する。
ステップS503では、反射電子検出器125に正帯電が生じるように光学条件を調整して試料114に向けて1次電子170を照射することで、反射電子検出器125の負帯電を解消、あるいは減少させる。
具体的な帯電解消方法の例を、図6を用いて説明する。反射電子検出器125に反射電子172が入射した結果、反射電子検出器125から3次電子601が放出される。反射電子1電子あたりの3次電子放出量は、反射電子172の加速電圧や反射電子検出器125のシンチレータの表面の材料に依存する。また、反射電子172の加速電圧は1次電子170の加速電圧に依存する。そこで、1次電子170の加速電圧を、反射電子検出器125へ入射する反射電子数より、反射電子172により反射電子検出器125から放出される3次電子数が多くなるように調整することにより、反射電子検出器125の正帯電を促進する、すなわち負帯電を減少させることができる。このとき、反射電子検出系制御部138により反射電子検出器125に印加する電圧603を負とする、及び/または試料台電圧制御部144により試料114に印加する電圧604を正とすることで、反射電子検出器125から放出される3次電子601が反射電子検出器125に再入射されることを抑制でき、反射電子検出器125の正帯電をさらに促進することができる。また、反射電子検出器125からグランド(接地電位)へ流出する電流を、反射電子検出系制御部138の電流計602により計測することで、反射電子検出器125の帯電の進行方向が正か負かを判別できるため、設定した光学条件が適切であったか判断することができる。
なお、この負帯電を解消する方法は、反射電子検出器125の正帯電を解消したい場合にも適用可能である。この場合、負帯電を解消する場合とは逆の条件、すなわち、反射電子検出器125へ入射する反射電子数より、反射電子により放出される3次電子数が少なくなる加速電圧条件を用いる。このとき同様に、反射電子検出器125に印加する電圧603を正とする、及び/または試料114に印加する電圧604を負とすることで、負帯電の解消を促進できる。
ステップS503の実行後、再びステップS501にて反射電子検出器125の帯電電圧計測を行い、許容範囲となるまで、この動作を繰り返す。
ステップS503における1次電子照射時間、つまり帯電解消動作時間は、あらかじめ定めた時間でもよいし、1次電子照射を行ったときの単位時間あたりの電圧変化をあらかじめ計測しておき、その結果とステップS501にて計測した帯電電圧とから、1次電子照射時間を求めてもよい。あるいは、ステップS501〜503のループを複数回繰り返す場合には、直前の帯電解消動作時の時間と帯電電圧変化量、および残留する帯電電圧から、ニュートン法により、次回の帯電解消動作時間を決定してもよい。
以上の方法により、反射電子検出器125に生じた帯電を解消、あるいは減少させることにより2次電子検出への影響を回避して、信頼性の高いパタン計測が可能となる。
図7Aは、反射電子検出器125の帯電の有無を簡易に検査するフローチャートである。本フローチャートも装置制御演算装置150により実行される。
ステップS701では、反射電子検出器125への印加電圧をあらかじめ設定した基準電圧Vrに設定する。基準電圧Vrは0Vとすることが望ましい。反射電子検出器125の帯電がないとすれば(電子光学系において減速光学系は適用しないものとする)、0Vの前後で2次電子検出量が急峻に変化するため感度よく帯電の有無を検知できるためである。ただし、試料114に電圧を印加する場合や、反射電子検出器125への印加電圧を安定的に0Vとすることが難しい場合などは、0V以外の電圧としてもよい。
ステップS702では、試料の画像を取得し、画像の平均階調値を算出する。この場合も、試料の帯電が取得する画像に影響を与えないように、試料は帯電しない、あるいは帯電が十分小さい試料とする。
ステップS703では、画像の平均階調値があらかじめ定めた閾値Tth以上であるかを判定し、閾値Tth未満であれば反射電子検出器125に帯電が生じている可能性があると判断して、帯電計測を行うステップS704に移行する。
ステップS704では、実施例1のステップS201〜S205と同様の方法で、反射電子検出器125の帯電電圧を算出する。
ステップS705では、実施例2のステップS402と同様の方法で、反射電子検出器125の帯電を補正する。あるいは、実施例3のステップS503と同様の方法で、帯電を解消する動作を行ってもよい。その場合は、図5のフローチャートと同様、再度ステップS704に戻って反射電子検出器125の帯電を算出し、帯電が許容範囲となるまで帯電解消動作を繰り返してもよい。
反射電子検出器125が帯電していない場合(計測1)と反射電子検出器125が帯電している場合(計測2)での平均階調値の違いを図7Bに模式的に示す。計測1では、画像取得(ステップS702)により平均階調値T1が得られ、計測2では、画像取得(ステップS702)により平均階調値T2が得られたとする。図3に示したように、反射電子検出器125への印加電圧と取得画像の平均階調値とは所定の関係301を有しており、波形301−2は反射電子検出器125の帯電量に応じて波形301−1を平行移動した波形に相当する。このように、算出される平均階調値Tは、反射電子検出器125の帯電量に応じて低下する。したがって、閾値Tthを適切に設定しておくことにより、1回の画像取得により、反射電子検出器125の帯電判定が可能になる。
閾値Tthは、あらかじめ実施例1のステップS201〜S204を実施して、図7Bに示した反射電子検出器への印加電圧と2次電子による画像の平均階調値との関係を取得して設定することができる。これにより、反射電子検出器のわずかな帯電による2次電子検出信号の減少も検知可能な閾値設定が可能となる。あるいは、図7Aのフローチャートを類似した試料に対して繰り返し実施する場合には、ステップS702で得られた平均階調値を記録しておき、それまでの平均階調値の平均値に1以下の一定の係数を乗じた平均階調値を閾値値Tthとしてもよい。これにより、突発的に生じる反射電子検出器の帯電を検知することができる。
以上の方法により、1回の画像取得により、簡便に反射電子検出器125の帯電の有無を検査できるため、スループットの低下を最小限にしながら、反射電子検出器の帯電による2次電子検出への影響を回避して、信頼性の高いパタン計測が可能となる。
図8は、試料114に形成されたパタンを計測するフローチャートであり、反射電子検出器125の帯電を簡易的に検査、あるいは計測、あるいは補正、あるいは解消する工程を有している。本フローチャートも装置制御演算装置150により実行される。このフローチャートでは、パタンの計測を行うシーケンスにおいて、実施例1〜4の方法が適用可能であるタイミングで、それらを実施するように記述している。ただし、図8に含まれる反射電子検出器125の帯電を検査、補正等する全てのステップを必ずしも実施する必要はなく、求められるパタン計測の安定度、試料や光学条件を考慮した際の反射電子検出器帯電のリスク、スループットなどを総合的に考慮して、必要なステップを選択して実施すればよい。また、このフローチャートには、試料の回転ずれや位置ずれの補正シーケンスなどは明示していないが、パタンの計測に必要なステップは含まれるものとする。なお、パタン計測に限らず、例えばパタンを検査する工程にも同様に適用することが可能である。
ステップS801では、ステージ112を移動させる、あるいは1次電子170の照射位置を移動させることにより、光軸調整用の校正用試料115へ視野を移動させる。校正用試料115は試料台113上に搭載され、その表面に光軸調整用の校正パタンが形成されている。
ステップS802では、校正パタンの画像を用いて、光軸調整シーケンスを実施する。光軸調整を含む電子光学系の光学条件の調整が完了したときの反射電子検出器125への印加電圧を基準電圧Vr(実施例4を参照)とする。
ステップS803では、反射電子検出器125の帯電計測用の標準試料へ視野移動する。ここで、標準試料は、帯電しない、あるいは帯電が十分小さい試料とする。校正用試料115を標準試料として兼用することで、ステップS803は割愛できる。
ステップS804では、実施例1のステップS201〜205と同様の方法で、反射電子検出器125の帯電電圧を算出する。なお、ステップS804にて帯電電圧を算出した後、実施例2のステップS402を実施して帯電を補正することが望ましい。この場合、基準電圧Vrについても、反射電子検出器125に印加したオフセット電圧を加える補正を行い、以降のステップでの基準電圧Vrとして、オフセット補正した基準電圧を用いる。あるいは実施例3のステップS502、S503、S501を繰り返し実施して、帯電電圧が許容範囲内になるまで、帯電を解消する動作を実施してもよい。
ステップS805では、計測対象である試料114の位置合わせパタンへ視野を移動する。位置合わせパタンは計測対象パタンを視野におさめるために設けられる、計測対象パタンまでの距離が既知であるパタンである。
ステップS806では、位置あわせ用パタンの画像を取得し、視野内の位置あわせ用パタンの位置から計測対象パタンまでの正確な距離を算出する。このとき、反射電子検出器125への印加電圧は、基準電圧Vrに設定されている。
ステップS807では、ステップS806で取得した位置あわせ用パタンの画像を用いて、実施例4のステップS702〜703と同様の方法で、反射電子検出器125の帯電の簡易検査を実施する。帯電ありと判定される場合には、ステップS808に進んで、実施例4のステップS704〜705と同様の方法で、反射電子検出器125の帯電を補正するとともに、基準電圧Vrについても、反射電子検出器125に印加したオフセット電圧を加える補正を行い、以降のステップでの基準電圧Vrとして、オフセット補正した基準電圧を用いる。その後、ステップS806に戻って、再度、位置あわせ用パタンの画像を取得し、位置あわせ用パタンの位置から計測対象パタンまでの正確な距離を算出し直す。
ステップS807で帯電なしと判定される場合には、ステップS809に進み、ステップS809では、位置あわせ用パタンから計測対象パタンへ視野移動する。この際の移動量は、ステップS806にて算出した正確の距離を用いる。これにより、計測対象パタンを視野内の所望の位置に再現性よく移動させることができる。
ステップS810では、反射電子検出器125への印加電圧を変えて焦点位置を変化させながら2次電子検出器120による画像を取得し、画像の鮮鋭度が最も高くなる条件に焦点を調整する(オートフォーカス)。焦点調整を反射電子検出器125への印加電圧を変えることで行うことにより、焦点調整のために反射電子検出器125への印加電圧を変えながら取得した画像を、次のステップS811にて反射電子検出器125の帯電電圧を算出するために用いることができる。2次電子検出器120の画像による焦点調整が、画像階調値の低下などのため難しい場合には、同時に取得した反射電子検出器125、あるいは他の検出器の画像を用いて焦点調整してもよい。しかし、それらの画像をもってしても、焦点調整が難しい場合には、対物レンズの電流やその他の電極の電圧を変えることによる焦点調整を行う必要がある。この場合には、ステップS811はスキップする(反射電子検出器125の帯電電圧の計測は行わない)。
ステップS811では、ステップ810で取得した焦点調整時の2次電子検出器120の画像、すなわち反射電子検出器125への印加電圧を変えながら取得した2次電子検出器120の画像を利用して、実施例1のステップS205と同様に、反射電子検出器125の帯電電圧を算出する。なお、帯電を計測した後、実施例2のステップS402を実施して帯電を補正することが望ましい。この場合、基準電圧Vrについても、反射電子検出器125に印加したオフセット電圧を加える補正を行い、以降のステップでの基準電圧Vrとして、オフセット補正した基準電圧を用いる。
ステップS812では、2次電子検出器120の画像を取得する。このときの反射電子検出器125への印加電圧は、基準電圧Vrとする。ステップS810のオートフォーカスで求められた最適な印加電圧と異なる電圧を反射電子検出器125に印加した場合、焦点ずれが生じる場合がある。他の方法で焦点調整を行った場合でも反射電子検出器125への印加電圧は、基準電圧Vrとすることで画像階調の低下などを生じる場合には、次のステップS813のパタン計測結果に影響を及ぼすおそれがあるので、反射電子検出器125への印加電圧は、画像階調の低下や焦点ずれが生じない条件に設定する必要がある。この場合には、ステップS814はスキップする(反射電子検出器125の帯電の簡易検査は行わない)。なお、ステップS812で、反射電子検出器125の画像を同時に取得してもよい。
ステップS813では、ステップS812で取得した2次電子検出器120の画像、あるいは反射電子検出器125の画像にもとづいてパタンを計測する。
ステップS814では、ステップS812で取得した2次電子検出器120の画像を用いて、実施例4のステップS702〜703と同様の方法で、反射電子検出器125の帯電の簡易検査を実施する。反射電子検出器125に帯電が生じている可能性があると判断した場合には、実施例1のようにエラーを表示するか、あるいは実施例4のステップS704〜705と同様の方法で、反射電子検出器125の帯電を補正することが望ましい。反射電子検出器125の帯電を補正する場合には、基準電圧Vrについても、反射電子検出器125に印加したオフセット電圧を加える補正を行い、以降のステップでの基準電圧Vrとして、オフセット補正した基準電圧を用いる。
ステップS815では、全ての計測対象パタンの計測を完了したか判定し、完了するまでステップS805〜S814を繰り返す。
図8のフローチャートのなかで、反射電子検出器125の帯電の検査や解消等に係る必要十分なステップを選択して実施することで、スループットの低下を必要最低限にとどめつつ、あるいはスループットを低下させずに、反射電子検出器125に生じた帯電を検出、補正、あるいは解消することができ、信頼性の高いパタン計測が実現できる。
図9は、表面電位計測プローブを用いて反射電子検出器の帯電計測するフローチャートである。図10に、本実施例におけるステージ112の模式図を示す(ここでは試料台113は省略している)。ステージ112上には、表面電位計測プローブ1001と除電装置1002が配置されている。
ステップS901では、ステージ112を移動させて、表面電位計測プローブ1001を反射電子検出器125に対向させる。
ステップS902では、表面電位計測プローブ1001を用いて反射電子検出器125の表面電位、すなわち帯電電圧を計測する。
ステップS903では、ステップS902で計測した帯電電圧が許容範囲かどうかを判定し、許容範囲を超えた場合にはステップS904へ移行する。
ステップS904では、ステージ112を移動させて、除電装置1002を反射電子検出器125に対向させる。ここで、除電装置1002とは、紫外線照射装置やプラズマ発生装置、電子やイオンの発生装置など、対象の表面帯電を低減する装置である。
ステップS905では、除電装置1002を用いて、反射電子検出器125の帯電を除去する。
なお、本実施例のうち、帯電計測のみ(ステップS901〜902)を実施してもよいし、帯電計測を実施せずに定期的に帯電低減のみ(ステップS904〜905)を実施してもよい。
以上の方法は、ステージ112に保持される試料114を交換する際の、真空排気の待ち時間や、光学条件を変更する際の待ち時間など、1次電子を照射できない時間を利用して実施できる。このため、パタン計測の総合的なスループットを低下させずに、反射電子検出器125に生じた帯電を計測することができる。その結果、帯電に影響を受けたパタン計測結果を全体の結果から除外したり、メンテナンスを促して、さらなる帯電の影響や帯電の増大を防止したりすることができる。また、同様に、総合的なスループットを低下させずに、反射電子検出器125に生じた帯電を除去することができる。その結果、信頼性の高いパタン計測が可能となる。
また、本実施例6を実施例1〜5と組み合わせてもよい。たとえば、実施例1〜5における帯電電圧が許容範囲かどうかの判定を実施例6の方法(ステップS901〜S903)で行うことができる。あるいは、実施例3〜5における帯電の除去を実施例6の方法(ステップS904〜905)で行うことができる。
以上の実施例で説明した反射電子検出器125の帯電電圧の計測を定期的に実施することにより、帯電の変化をモニタすることができる。図11は、モニタ結果の表示の例である。このような表示を行うことで、反射電子検出器の帯電の進行度を把握することができ、2次電子検出に影響が生じる前に、たとえば反射電子検出器の交換やクリーニングなどの対策を実施することが可能となる。
また、反射電子検出器の帯電を引き起こす原因の推定にも活用できる。たとえば、特定の試料の計測前後で帯電電圧が大きく増加している場合には、その試料からのデガスが原因で反射電子検出器に有機物汚れが付着し、帯電が促進された可能性が示唆される。その結果、そのような試料の計測を回避したり、計測前の処理を見直したりすることで、反射電子検出器の帯電を予防することが可能となる。