(電子部品の構成)
一実施形態に係る電子部品について図面を参照しながら説明する。図1は、電子部品10,10a〜10gの外観斜視図である。図2は、一実施形態に係る電子部品10の積層体12の分解斜視図である。図3は、図1の電子部品10のA−A線における断面構造図である。以下、電子部品10の積層方向を上下方向と定義する。また、電子部品10を上側から見たときに、電子部品10に長辺に沿った方向を左右方向と定義し、電子部品10の短辺に沿った方向を前後方向と定義する。なお、上下方向、左右方向及び前後方向は、一例であり、電子部品10の使用時における上下方向、左右方向及び前後方向と一致していなくてもよい。
電子部品10は、図1及び図2に示すように、積層体12、外部電極14a,14b、インダクタL(図1には図示せず)及び引き出し導体層20a,20b(図1には図示せず)を備えている。
積層体12は、直方体状をなす焼成体である。積層体12は、絶縁体層16a〜16e,17a〜17g,16f〜16j(複数の絶縁体層の一例)がこの順に上側から下側へと積層された構造を有している。絶縁体層16a〜16j,17a〜17gは、上側から見たときに、長方形状を有しており、フェライトセラミックスを材料とする。絶縁体層16a〜16jの材料は、磁性体材料(例えば、Ni−Cu−Zn系フェライト)である。絶縁体層17a〜17gの材料は、非磁性体材料(例えば、Cu−Zn系フェライト)である。ただし、磁性体材料及び非磁性体材料はこれに限らない。これにより、積層体12は、図3に示すように、磁性を有する(すなわち、比透磁率が1より大きい)磁性領域R1,R2及び磁性を有さない(すなわち、比透磁率が1)非磁性領域R3を有している。すなわち、磁性領域R1は、絶縁体層16a〜16eにより形成されている。磁性領域R2は、絶縁体層16f〜16jにより形成されている。非磁性領域R3は、絶縁体層17a〜17gにより形成されている。このように、積層体12において、非磁性領域R3は、上下方向から磁性領域R1,R2に挟まれている。なお、非磁性領域R3は、磁性領域R1,R2よりも低い透磁率を有する低透磁率領域であってもよい。
外部電極14aは、積層体12の左面の全面を覆っており、上面、下面、前面及び後面に折り返されている。外部電極14bは、積層体12の右面の全面を覆っており、上面、下面、前面及び後面に折り返されている。外部電極14a,14bは、例えば、Agを主成分とする下地電極上にNiめっき及びSnめっきが施された構造を有する。
インダクタLは、図2に示すように、積層体12に内蔵されており、上側から見たときに、時計回り方向(所定方向の一例)に巻きながら上側から下側へと進行する弦巻形状(helix)を有している。インダクタLは、インダクタ導体層18a〜18d(複数のインダクタ導体層の一例)及びビアホール導体v1〜v3を含んでいる。インダクタ導体層18a〜18dはそれぞれ、絶縁体層17c〜17fの上面上に設けられている。これにより、インダクタ導体層18a〜18dは、上側から下側へとこの順に並んでいる。
インダクタ導体層18a〜18dは、互いに重なり合うことにより、上側から見たときに、長方形状の軌道Rを形成している。軌道Rは、前後方向に平行な2本の短辺及び左右方向に平行な2本の長辺を有する。そして、インダクタ導体層18a〜18dは、上側から見たときに、軌道Rの一部が切り欠かれた形状を有している。インダクタ導体層18aは、軌道Rの左側の短辺の前半分が切り欠かれている。インダクタ導体層18bは、軌道Rの前側の長辺の左端近傍が切り欠かれている。インダクタ導体層18cは、軌道Rの前側の長辺の中央近傍が切り欠かれている。インダクタ導体層18dは、軌道Rの前側の長辺の右端近傍が切り欠かれている。これにより、インダクタ導体層18a〜18dは、上側から見たときに、時計回り方向に巻く形状を有している。以下では、インダクタ導体層18a〜18dの時計回り方向の上流側の端部を上流端と呼び、インダクタ導体層18a〜18dの時計回り方向の下流側の端部を下流端と呼ぶ。
次に、インダクタ導体層18a〜18dの断面形状について図3を参照しながら説明する。以下では、インダクタ導体層の断面とは、インダクタ導体層が延びる方向(以下、延在方向)に直交する断面を意味する。また、線幅方向とは、インダクタ導体層を上側から見たときに、インダクタ導体層の延在方向に直交する方向である。
インダクタ導体層18a〜18dの断面形状において、インダクタ導体層18a〜18dの線幅方向の中央が最も大きな厚みとなっている。そして、インダクタ導体層18a〜18dの線幅方向の両端に近づくにしたがって厚みが小さくなっている。また、インダクタ導体層18a,18bの線幅方向の中央は、インダクタ導体層18a,18bの線幅方向の両端よりも上側に突出している。インダクタ導体層18c,18dの線幅方向の中央は、インダクタ導体層18c,18dの線幅方向の両端よりも下側に突出している。
ビアホール導体v1は、絶縁体層17cを上下方向に貫通しており、インダクタ導体層18aの下流端とインダクタ導体層18bの上流端とを接続している。ビアホール導体v2は、絶縁体層17dを上下方向に貫通しており、インダクタ導体層18bの下流端とインダクタ導体層18cの上流端とを接続している。ビアホール導体v3は、絶縁体層17eを上下方向に貫通しており、インダクタ導体層18cの下流端とインダクタ導体層18dの上流端とを接続している。これにより、インダクタ導体層18a〜18dがこの順に直列に接続されている。ビアホール導体v1〜v3は、絶縁体層17c〜17eを上下方向に貫通するビアホールにAgを主成分とする導電性ペーストが充填されて形成される。
引き出し導体層20aは、絶縁体層17cの上面上に設けられており、インダクタ導体層18aの上流端から左側に向かって延びている。引き出し導体層20aの左端は、絶縁体層17cの左側の短辺に接することにより、外部電極14aに接続されている。
引き出し導体層20bは、絶縁体層17fの上面上に設けられており、インダクタ導体層18dの下流端から右側に向かって延びている。引き出し導体層20bの右端は、絶縁体層17fの右側の短辺に接することにより、外部電極14bに接続されている。インダクタ導体層18a〜18d及び引き出し導体層20a,20bは、Agを主成分とする導電性ペーストが絶縁体層17c〜17fの上面上に塗布されて形成される。
ここで、インダクタ導体層18aと引き出し導体層20aとの境界、及び、インダクタ導体層18dと引き出し導体層20bとの境界について説明する。インダクタ導体層18a〜18dは、互いに重なり合うことにより、上側から見たときに、長方形状の軌道Rを形成している。従って、インダクタ導体層18a〜18dは、軌道R上に位置している部分である。一方、引き出し導体層20a,20bは、軌道Rとは重なっていない。従って、引き出し導体層20aとインダクタ導体層18aとの境界は、引き出し導体層20aが軌道Rに接している部分である。同様に、引き出し導体層20bとインダクタ導体層18dとの境界は、引き出し導体層20bが軌道Rに接している部分である。
ところで、電子部品10では、図3に示すように、インダクタ導体層18a〜18d(インダクタ導体層18aが第1のインダクタ導体層の一例、インダクタ導体層18dが第2のインダクタ導体層の一例、インダクタ導体層18b,18cが第3のインダクタ導体層の一例)の表面からインダクタ導体層18a〜18dの厚みの1/4の距離までの領域は、非磁性領域R3である。以下に、インダクタ導体層18aを例に挙げて説明する。図3に示すように、インダクタ導体層18a〜18dの表面からインダクタ導体層18a〜18dの厚みの1/4の距離までの領域を領域r1〜r4(図3では、領域r1,r2のみ図示)と定義する。
電子部品10では、インダクタ導体層18a〜18dはそれぞれ、絶縁体層17c〜17fの上面上に設けられている。従って、インダクタ導体層18a〜18dは、非磁性領域R3内に設けられている。そのため、インダクタ導体層18a〜18dの表面からインダクタ導体層18a〜18dの厚みの1/4の距離までの領域r1〜r4は、非磁性領域R3である。電子部品10では、更に、インダクタ導体層18a〜18dの表面からインダクタ導体層18a〜18dの厚みの1/3の距離までの領域は、非磁性領域R3である。更に、インダクタ導体層18a〜18dの表面からインダクタ導体層18a〜18dの厚みの1/2の距離までの領域は、非磁性領域R3である。更に、インダクタ導体層18a〜18dの表面からインダクタ導体層18a〜18dの厚みと等しい距離までの領域は、非磁性領域R3である。
ここで、インダクタ導体層18a〜18dの厚みについて説明する。インダクタ導体層18a〜18dの厚みとは、インダクタ導体層18a〜18dの上下方向における厚みである。ただし、インダクタ導体層18a〜18dの厚みは、図3に示すように、線幅方向の位置において異なっている。そこで、インダクタ導体層18a〜18dの厚みとは、インダクタ導体層18a〜18dの延在方向に直交する断面におけるインダクタ導体層18a〜18dの厚みの最大値と定義する。電子部品10aでは、インダクタ導体層18a〜18dの厚みは、インダクタ導体層18a〜18dの線幅方向の中央における厚みである。
また、電子部品10では、インダクタLが非磁性領域R3内に収まっている。そのため、インダクタ導体層18a〜18dを囲んでいる非磁性領域は一つに繋がっている。
(電子部品の製造方法)
以下に、電子部品10の製造方法について図2を参照しながら説明する。
まず、絶縁体層16a〜16jとなるべきセラミックグリーンシートを準備する。具体的には、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニッケル(NiO)及び酸化銅(CuO)を所定の比率で秤量したそれぞれの材料を原材料としてボールミルに投入し、湿式調合を行う。得られた混合物を乾燥してから粉砕し、得られた粉末を800℃で1時間仮焼する。得られた仮焼粉末をボールミルにて湿式粉砕した後、乾燥してから解砕して、第1のフェライトセラミック粉末を得る。
第1のフェライトセラミック粉末に対して結合剤と可塑剤、湿潤材及び分散剤を加えてボールミルで混合を行い、その後、減圧により脱泡を行う。得られた第1のセラミックスラリーをドクターブレード法により、キャリアシート上にシート状に形成して乾燥させ、絶縁体層16a〜16jとなるべきセラミックグリーンシートを作製する。
次に、絶縁体層17a〜17gとなるべきセラミックグリーンシートを準備する。具体的には、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化銅(CuO)を所定の比率で秤量したそれぞれの材料を原材料としてボールミルに投入し、湿式調合を行う。得られた混合物を乾燥してから粉砕し、得られた粉末を800℃で1時間仮焼する。得られた仮焼粉末をボールミルにて湿式粉砕した後、乾燥してから解砕して、第2のフェライトセラミック粉末を得る。
第2のフェライトセラミック粉末に対して結合剤と可塑剤、湿潤材及び分散剤を加えてボールミルで混合を行い、その後、減圧により脱泡を行う。得られた第2のセラミックスラリーをドクターブレード法により、キャリアシート上にシート状に形成して乾燥させ、絶縁体層17a〜17gとなるべきセラミックグリーンシートを作製する。
次に、絶縁体層17c〜17eとなるべきセラミックグリーンシートのそれぞれに、ビアホール導体v1〜v3を形成する。具体的には、絶縁体層17c〜17eとなるべきセラミックグリーンシートにレーザビームを照射してビアホールを形成する。更に、ビアホールに対して、Ag,Pd,Cu,Auやこれらの合金などの導電性材料からなるペーストを印刷塗布などの方法により充填して、ビアホール導体v1〜v3を形成する。
次に、絶縁体層17c〜17fとなるべきセラミックグリーンシート上に、導電性材料からなるペーストをスクリーン印刷法やフォトリソグラフィ法などの方法で塗布することにより、インダクタ導体層18a〜18d及び引き出し導体層20a,20bを形成する。該導電性材料からなるペーストは、例えば、Agに、ワニス及び溶剤が加えられたものである。なお、インダクタ導体層18a〜18d及び引き出し導体層20a,20bを形成する工程とビアホールに対して導電性材料からなるペーストを充填する工程とを同じ工程において行ってもよい。
次に、絶縁体層16a〜16e,17a〜17g,16f〜16jとなるべきセラミックグリーンシートを上側から下側へとこの順に積層して未焼成のマザー積層体を得る。具体的には、絶縁体層16a〜16e,17a〜17g,16f〜16jとなるべきセラミックグリーンシートを1枚ずつ積層及び仮圧着する。圧着条件は、100トン以上120トン以下の圧力及び3秒間から30秒間程度の時間である。この後、未焼成のマザー積層体に対して、静水圧プレスにて本圧着を施す。
次に、マザー積層体をカット刃により所定寸法の積層体12にカットする。これにより未焼成の積層体12を得る。この未焼成の積層体12に脱バインダー処理及び焼成を行う。脱バインダー処理は、例えば、低酸素雰囲気中において500℃で2時間の条件で行う。焼成は、例えば、870℃以上900℃以下で2.5時間の条件で行う。
以上の工程により、焼成された積層体12が得られる。積層体12には、バレル加工を施して、面取りを行う。その後、Agを主成分とする導電性材料からなる電極ペーストを、積層体12の表面に塗布する。そして、塗布した電極ペーストを約800℃の温度で1時間の条件で焼き付ける。これにより、外部電極14a,14bとなるべき下地電極を形成する。
最後に、下地電極の表面に、Niめっき/Snめっきを施すことにより、外部電極14a,14bを形成する。以上の工程を経て、図1に示すような電子部品10が完成する。
(効果)
本実施形態に係る電子部品10によれば、インダクタLのインダクタンス値の製造ばらつきを低減できる。より詳細には、本願発明者は、以下に説明するように、特許文献1に記載の積層インダクタにおいて、コイルのインダクタンス値に製造ばらつきが発生することを発見した。特許文献1に記載の積層インダクタの製造工程では、複数の絶縁層を積層・圧着して未焼成の積層体を形成する。その後、未焼成の積層体を焼成する。積層体の焼成では、絶縁層及び導体パターンが収縮する。絶縁層の収縮率の方が導体パターンの収縮率よりも大きい。積層体内の各部において収縮率が異なると、焼成後の積層体内では残留応力が発生する。残留応力は、絶縁層の材料である磁性材料の透磁率を変化(低下)させる。そして、残留応力の大きさや分布は積層インダクタ毎にばらつくので、磁性材料の透磁率の変化量も積層インダクタ毎にばらつく。その結果、特許文献1に記載の積層インダクタでは、コイルのインダクタンス値に製造ばらつきが発生する。
そこで、本願発明者は、第1のコンピュータシミュレーションを行って、電子部品において残留応力が発生しやすい位置を特定した。第1のコンピュータシミュレーションでは、本願発明者は、電子部品に発生する残留応力をコンピュータにより演算した。演算に用いたソフトは、有限要素法シミュレータFemtet(登録商標)である。図4は、モデルに発生する残留応力の大きさを色で示した図である。演算に用いたモデルは、電子部品10において非磁性領域R3が磁性領域となった構造を有している。また、電子部品10が4層のインダクタ導体層18a〜18dを有しているのに対して、演算に用いたモデルは、10層のインダクタ導体層を有している。図4は、図1のA−A線における断面構造図に相当する。図4において、右側の色分けされた棒状のグラフは、色と応力との関係を示している。
図4に示すように、モデルでは、最も上側(積層方向の最も一方側の一例)に位置するインダクタ導体層(第1のインダクタの一例)の線幅方向の両端近傍において、非常に大きな残留応力が発生していることが分かる。同様に、最も下側(積層方向の最も他方側の一例)に位置するインダクタ導体層(第2のインダクタの一例)の線幅方向の両端近傍において、非常に大きな残留応力が発生していることが分かる。
電子部品において残留応力が相対的に大きい位置は、電子部品において焼成の影響を相対的に大きく受けている位置である。一方、電子部品において残留応力が相対的に小さい位置は、電子部品において焼成の影響を相対的に小さく受けている位置である。複数の電子部品を同時に焼成した場合、炉内の位置等によって焼成条件がばらつく。電子部品において焼成の影響を相対的に小さく受けている位置は、焼成条件がばらついても、焼成の影響に大きなばらつきが発生しにくい。すなわち、電子部品において焼成の影響を相対的に小さく受けている位置では、残留応力のばらつきが生じにくい。一方、電子部品において焼成の影響を相対的に大きく受けている位置は、焼成条件がばらつくと、焼成の影響に大きなばらつきが発生し易い。すなわち、電子部品において焼成の影響を相対的に大きく受けている位置では、残留応力のばらつきが生じ易い。その結果、最も上側に位置するインダクタ導体層及び最も下側に位置する線幅方向の両端付近において、残留応力のばらつきも大きくなりやすい。
まず、本願発明者は、電子部品10内において具体的にどのような残留応力が発生しているのかを明確にするために、第2のコンピュータシミュレーションを行った。具体的には、本願発明者は、以下に説明する第1のモデルを作成して、電子部品に発生する残留応力をコンピュータにより演算した。第2のコンピュータシミュレーションでは、第1のコンピュータシミュレーションと同様に、有限要素法シミュレータFemtet(登録商標)を用いた。第1のモデルの構造は、第1のコンピュータシミュレーションで用いたモデルの構造と同様である。以下に、第1のモデルの詳細な条件を記載する。
積層体の左右方向の長さ:0.783mm
積層体の前後方向の幅 :0.783mm
積層体の上下方向の高さ:0.480mm
インダクタ導体層の線幅:0.094mm
インダクタ導体層の厚み:0.012mm
インダクタ導体層の線幅方向の端部から積層体の側面までの距離:0.108mm
上下方向に隣り合うインダクタ導体層間の距離:0.009mm
インダクタ導体層の層数:10層
インダクタLの巻き数:9.5周
最も上側に位置するインダクタ導体層から積層体の上面までの距離、及び、最も下側に位置するインダクタ導体層から積層体の下面までの距離:0.140mm
また、第1のモデルと電子部品10とでは、インダクタ導体層の層数が異なる。ただし、以下の説明では、第1のモデルにおける最も上側に位置するインダクタ導体層と電子部品10におけるインダクタ導体層18aとを対応させる。第1のモデルにおける最も下側に位置するインダクタ導体層と電子部品10におけるインダクタ導体層18dとを対応させる。
インダクタ導体層18a(最も上側に位置するインダクタ導体層)の線幅方向の端部を端部Pa,Pbとする。端部Paは、インダクタ導体層18aの右端である。端部Pbは、インダクタ導体層18aの左端である。また、インダクタ導体層18d(最も下側に位置するインダクタ導体層)の線幅方向の端部を端部Pc,Pdとする。端部Pcは、インダクタ導体層18dの右端である。端部Pdは、インダクタ導体層18dの左端である。
図5は、第1のモデルに発生する残留応力の大きさを色で示した図である。本願発明者は、図5における残留応力F1〜F4を測定した。残留応力F1は、端部Paから上側に距離Xだけ離れた点における残留応力である。残留応力F2は、端部Pbから上側に距離Xだけ離れた点における残留応力である。残留応力F3は、端部Paから右側に距離Xだけ離れた点における残留応力である。残留応力F4は、端部Pbから左側に距離Xだけ離れた点における残留応力である。表1は、第2のシミュレーションの結果を示した表である。
表1では、0μm〜15μmの範囲で、1μm刻みでXを変化させたときのシミュレーション結果を示した。X=0における残留応力F1,F3は、端部Paにおける残留応力を示す。また、X=0における残留応力F2,F4は、端部Pbにおける残留応力を示す。よって、64個のデータのうち、X=0の4つのデータに重複が発生している。したがって、表1では、端部Pa,Pb及びその周囲の62ヶ所の残留応力が示されている。
また、表1における変化率とは、各点における残留応力の減少率を示している。基準となる残留応力は、X=0とした端部Pa,Pbにおける残留応力である。また、変化率平均とは、F1〜F4変化率の平均値である。
表1によれば、端部Pa,Pbから離れるにしたがって、残留応力が小さくなっていることが分かる。そのため、端部Pa,Pb付近に非磁性領域を配置することが好ましい。そこで、本願発明者は、最も上側に位置するインダクタ導体層及び最も下側に位置するインダクタ導体層の周囲に存在する非磁性領域の厚みの好ましい値を求めるために、以下に説明する実験を行った。
そこで、電子部品10では、図3に示すように、インダクタ導体層18a,18dの表面からインダクタ導体層18a,18dの厚みの1/4の距離までの領域r1,r4は、非磁性領域R3の一部である。領域r1,r4は、残留応力のばらつきが大きくなりやすいインダクタ導体層18a,18dの線幅方向の両端付近を含んでいる。非磁性領域R3の比透磁率は1である。そのため、非磁性領域R3において残留応力が発生しても、非磁性領域R3の比透磁率は低下しない。故に、インダクタ導体層18a,18dの線幅方向の両端付近において、比透磁率の低下量のばらつきが抑制されるようになる。よって、電子部品10によれば、インダクタLのインダクタンス値の製造ばらつきを低減できる。
ところで、本願発明者は、以下の実験及びコンピュータシミュレーションを行って、インダクタ導体層18a,18dの表面からインダクタ導体層18a,18dの厚みの1/4の距離までの領域を非磁性領域とすることが好ましいことを見出した。以下に、実験及びコンピュータシミュレーションについて説明する。
まず、本願発明者は、非磁性領域の定義を明確にするために、以下に説明する第1の実験を行った。本願発明者は、電子部品10の第1のサンプルを作製した。本願発明者は、第1のサンプルの非磁性領域と磁性領域の境界部分において、SEM−EDXのマッピングを行い、以下に示す条件で、WDXによるNiの検出を行った。
前処理条件
フラットミリング(IM3000)/3kV/5min/60°処理後、Cコーティング処理
分析条件
FE−WDX(装置名:日本電子JXA−8500F)
加速電圧:15.0kV
照射電流:5×10-8A
ピクセル数(画素数):256×256
ピクセルサイズ:0.4(1000倍)
Dwell Time(1つの画素での取り込み時間):40ms
分析深さ:1μm〜2μm
測定可能元素:B〜U
図6は、Niの検出結果を示した画像である。図6において、色が薄い部分はNiの検出量が少ない部分であり、比透磁率が低いことを意味する。また、色が濃い部分はNiの検出量が多い部分であり、比透磁率が高いことを意味する。図6の画像では、磁性領域と非磁性領域とが隣り合っている。そして、焼成により、磁性領域内のNiが焼成によって非磁性領域に拡散している。これにより、磁性領域と非磁性領域との境界には拡散領域(図6のグレーの領域)が形成されている。
図7は、図6の画像におけるNiの検出率と図6の上下方向の位置との関係を示したグラフである。図7において、縦軸はNiの検出率を示し、横軸は図6の上下方向の位置を示している。Niの検出率は、図6におけるNiの検出量の最大値に対する各位置におけるNiの検出量の比の値である。本願発明者は、図7に示すように、Niの検出率が10%以下となる領域を非磁性領域と定義した。以下では、非磁性領域とは、Niの検出率が10%以下となる領域を意味する。
次に、本願発明者は、最も上側に位置するインダクタ導体層と磁性領域R1との距離D(図3参照)、及び、最も下側に位置するインダクタ導体層と磁性領域R2との距離D(図3参照)と、インダクタンス値及びインダクタンス値のばらつきとの関係を調べる第2の実験を行った。以下に、距離Dの定義について、図3を参照しながら説明する。
以下のサンプルと電子部品10とでは、インダクタ導体層の層数が異なる。ただし、以下の説明では、サンプルにおける最も上側に位置するインダクタ導体層と電子部品10におけるインダクタ導体層18aとを対応させる。サンプルにおける最も下側に位置するインダクタ導体層と電子部品10におけるインダクタ導体層18dとを対応させる。そして、最も上側に位置するインダクタ導体層と磁性領域R1との距離Dは、最も上側に位置するインダクタ導体層の端部Paから磁性領域R1までの距離とする。また、最も下側に位置するインダクタ導体層と磁性領域R2との距離Dは、最も下側に位置するインダクタ導体層の端部Pcから磁性領域R2までの距離とする。なお、最も上側に位置するインダクタ導体層と磁性領域R1との距離、及び、最も下側に位置するインダクタ導体層と磁性領域R2との距離は、互いに等しいので共に距離Dとした。
本願発明者は、電子部品10と同様の構成を有する第2のサンプル、第3のサンプル及び第4のサンプルを30個ずつ作製した。以下に、第2のサンプル、第3のサンプル及び第4のサンプルの条件を記載する。
各サンプルの積層体の左右方向の長さ:0.783mm
各サンプルの積層体の前後方向の幅 :0.783mm
各サンプルの積層体の上下方向の高さ:0.480mm
インダクタ導体層の線幅:0.094mm
インダクタ導体層の厚み:0.012mm
インダクタ導体層の線幅方向の端部から積層体の側面までの距離:0.108mm
上下方向に隣り合うインダクタ導体層間の距離:0.009mm
インダクタ導体層の層数:10層
インダクタLの巻き数:9.5周
最も上側に位置するインダクタ導体層から積層体の上面までの距離、及び、最も下側に位置するインダクタ導体層から積層体の下面までの距離:0.140mm
第2のサンプルでは、距離Dを0mmとした。すなわち、第2のサンプルでは、最も上側に位置するインダクタ導体層と磁性領域R1とが接していると共に、最も下側に位置するインダクタ導体層と磁性領域R2とが接している。第3のサンプルでは、距離Dを7.8μm(後述する表2では、8μmと表記)とした。第4のサンプルでは、距離Dを14.4μm(後述する表2では、15μmと表記)とした。そして、本願発明者は、各サンプルのインダクタンス値(30個の平均値)を測定すると共に、各サンプルのインダクタンス値のばらつきを計算した。インダクタンス値のばらつきは、30個のサンプルのインダクタンス値の標準偏差を30個のサンプルのインダクタンス値の平均値で割った値である。
図8は、第2のサンプル、第3のサンプル及び第4のサンプルのインダクタンス値及びインダクタンス値のばらつきを示したグラフである。図8に示すように、距離Dが大きくなるにしたがって、インダクタンス値が低くなることが分かる。ただし、図8に示すように、距離Dが大きくなるにしたがって、インダクタンス値のばらつきが小さくなることが分かる。従って、図8のグラフより、距離Dが大きくなるにしたがって、インダクタLのインダクタンス値の製造ばらつきを低減できることが分かる。第2の実験より、インダクタ導体層の近傍に磁性領域R1,R2を位置させないことによって、インダクタLのインダクタンス値の製造ばらつきを低減できることが分かる。
更に、本願発明者は、第2のサンプル、第3のサンプル及び第4のサンプルを用いて、以下の表2を作成した。表2は、第2のサンプル、第3のサンプル及び第4のサンプルのインダクタンス値、インダクタンス値の変化率及びインダクタンス値のばらつきを示した表である。本願発明者は、距離Dが1μm〜7μm,9μm〜14μmである電子部品のインダクタンス値、インダクタンス値の変化率及びインダクタンス値のばらつきを、第2のサンプル、第3のサンプル及び第4のサンプルのインダクタンス値、インダクタンス値の変化率及びインダクタンス値のばらつきから補間により算出した。
表2によれば、距離Dが大きくなるにしたがって、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを抑制できることが分かる。ただし、距離Dが15μmである第4のサンプルでは、距離Dが0μmである第1のサンプルに比べて、インダクタンス値が28%低下している。よって、インダクタLのインダクタンス値のばらつきの抑制とインダクタンス値の低下の抑制とを両立するためには、距離Dが15μm以下であることが好ましい。また、インダクタLのインダクタンス値のばらつきは、距離Dが13μm〜15μmでは、0.45%となり、下げ止まっている。したがって、距離Dは、13μm以下であることがより好ましい。
ところで、本願発明者は、インダクタ導体層の厚みを変化させて、第3のシミュレーションを行った。具体的には、本願発明者は、インダクタ導体層の厚みが6μm、18μmであるモデルを作成し、第3のコンピュータシミュレーションを行った。そして、比率Eと応力F1〜F4の平均値との関係を演算した。比率Eとは、インダクタ導体層の厚みに対する距離Dの比の値である。図9は、比率Eと応力F1〜F4の平均値との関係を示したグラフである。縦軸は応力をF1〜F4の平均値を示し、横軸は比率Eを示す。
図9によれば、比率Eと応力F1〜F4の平均値との関係は、インダクタ導体層の厚みが変化したとしても、大きく変化していないことが分かる。すなわち、応力F1〜F4の平均値は、比率Eに依存し、インダクタ導体層の厚みにあまり依存していないことが分かる。ここで、表2によれば、インダクタ導体層の厚みが12μmである場合には、距離Dが3μmであれば、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを十分に抑制できる。すなわち、比率Eが0.25(1/4)であれば、インダクタ導体層の厚みに関わらず、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを抑制できると言える。同様に、比率Eが0.33(1/3)であれば、インダクタ導体層の厚みに関わらず、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できると言える。更に、比率Eが0.5(1/2)であれば、インダクタ導体層の厚みに関わらず、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できると言える。更に、比率Eが1.0であれば、インダクタ導体層の厚みに関わらず、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できると言える。また、インダクタLのインダクタンス値のばらつきの抑制とインダクタンス値の低下の抑制とを両立するためには、比率Eが1.25(例えば、インダクタ導体層の厚みが12μmであり、距離Dが15μmである)以下であることが好ましい。更に、インダクタLのインダクタンス値のばらつきの抑制とインダクタンス値の低下の抑制とを両立するためには、比率Eが1.08(例えば、インダクタ導体層の厚みが12μmであり、距離Dが13μmである)以下であることがより好ましい。
また、電子部品10では、積層体12が磁性領域R1,R2を含んでいるので、インダクタLにおいて大きなインダクタンス値を得ることができる。
(第1の変形例ないし第3の変形例)
以下に、第1の変形例に係る電子部品10aについて図面を参照しながら説明する。図10は、図1の電子部品10aのA−A線における断面構造図である。電子部品10aの外観斜視図については図1を援用する。
電子部品10aは、非磁性領域R3の形状において電子部品10と相違する。電子部品10aでは、非磁性領域R3は、インダクタ導体層18a〜18dの周囲のみに存在している。そのため、電子部品10aでは、非磁性領域R3は、四角筒状をなしている。従って、上側から見たときに、インダクタLの中心軸近傍には、非磁性領域R3が存在しない。また、非磁性領域R3は、積層体12内に内蔵されており、積層体12の表面には露出していない。
以上のような電子部品10aは、印刷工法により作製される。電子部品10の絶縁体層16a〜16jを形成するための第1のセラミックスラリーのスクリーン印刷、及び、電子部品10の絶縁体層17a〜17gを形成するための第2のセラミックスラリーのスクリーン印刷を繰り返すことにより、電子部品10aを形成する。ただし、印刷工法による電子部品10aの作製は、一般的な工法により実現できるのでこれ以上の説明を省略する。
以上の様な電子部品10aにおいて、第2のコンピュータシミュレーションを行ったところ、電子部品10と同じ結果が得られた。よって、電子部品10aでは、電子部品10と同様に、比率Eが0.25(1/4)であれば、インダクタ導体層の厚みに関わらず、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを抑制できると言える。同様に、比率Eが0.33(1/3)であれば、インダクタ導体層の厚みに関わらず、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できると言える。更に、比率Eが0.5(1/2)であれば、インダクタ導体層の厚みに関わらず、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できると言える。更に、比率Eが1.0であれば、インダクタ導体層の厚みに関わらず、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できると言える。また、インダクタLのインダクタンス値のばらつきの抑制とインダクタンス値の低下の抑制とを両立するためには、比率Eが1.25以下であることが好ましい。更に、インダクタLのインダクタンス値のばらつきの抑制とインダクタンス値の低下の抑制とを両立するためには、比率Eが1.08以下であることがより好ましい。
次に、第2の変形例及び第3の変形例に係る電子部品10b,10cについて説明する。図11は、図1の電子部品10bのA−A線における断面構造図である。図12は、図1の電子部品10cのA−A線における断面構造図である。電子部品10b,10cの外観斜視図については図1を援用する。
図11に示すように、非磁性領域R3は、積層体12の前面、後面、右面及び左面から露出していてもよい。また、図12に示すように、非磁性領域R3は、積層体12を上下方向に貫通することによって、積層体12の上面及び下面から露出していてもよい。
(第4の変形例)
第4の変形例に係る電子部品10dについて図面を参照しながら説明する。図13は、電子部品10dの積層体12の分解斜視図である。図14は、図1の電子部品10dのA−A線における断面構造図である。電子部品10dの外観斜視図については図1を援用する。
電子部品10dは、積層体12が絶縁体層21a〜21dを更に含んでいる点において電子部品10と相違する。以下に、かかる相違点を中心に電子部品10dについて説明する。
絶縁体層21a〜21dはそれぞれ、絶縁体層17c〜17fの上面上に設けられており、絶縁体層17c〜17fと同じ材料(すなわち、非磁性材料)により作製されている。また、絶縁体層21aの上面とインダクタ導体層18aの上面とは一つの平面を形成している(すなわち、面一である)。絶縁体層21bの上面とインダクタ導体層18bの上面とは一つの平面を形成している(すなわち、面一である)。絶縁体層21cの上面とインダクタ導体層18cの上面とは一つの平面を形成している(すなわち、面一である)。絶縁体層21dの上面とインダクタ導体層18dの上面とは一つの平面を形成している(すなわち、面一である)。
電子部品10dの製造工程では、電子部品10の製造工程に対して、絶縁体層21a〜21dとなるべきセラミックグリーン層を形成する工程が追加される。以下に、絶縁体層21a〜21dとなるべきセラミックグリーン層を形成する工程について説明する。絶縁体層17c〜17fとなるべきセラミックグリーンシートのそれぞれの上にインダクタ導体層18a〜18d及び引き出し導体層20a,20bを形成する。その後、絶縁体層17c〜17fとなるべきセラミックグリーンシートのそれぞれの上に第2のセラミックスラリーを塗布して、絶縁体層21a〜21dとなるべきセラミックグリーン層を形成する。この後に行われる積層工程以降の工程は、電子部品10における積層工程以降の工程と同じであるので説明を省略する。
電子部品10では、インダクタ導体層18a〜18dが設けられている領域における積層体12の上下方向の厚みは、残余の領域における積層体12の上下方向の厚みよりも、インダクタ導体層18a〜18dの厚みの分だけ大きい。そのため、積層体12の圧着工程において、インダクタ導体層18a〜18dの断面形状が上側又は下側に突出するように変形する。
一方、電子部品10dでは、絶縁体層21a〜21dが設けられている。そのため、インダクタ導体層18a〜18dが設けられている領域における積層体12の上下方向の厚みは、残余の領域における積層体12の上下方向の厚みと実質的に等しい。よって、積層体12の圧着工程において、インダクタ導体層18a〜18dの断面形状が上側又は下側に突出するように変形しない。電子部品10dでは、インダクタ導体層18a〜18dは、上底及び下底を有する台形状の断面形状を有している。
以下では、インダクタ導体層18a(最も上側に位置するインダクタ導体層)の上底の端部を端部Pe,Pfとする。端部Peは、インダクタ導体層18aの上底の右端である。端部Pfは、インダクタ導体層18aの上底の左端である。そして、最も上側に位置するインダクタ導体層と磁性領域R1との距離Dは、最も上側に位置するインダクタ導体層の端部Peから磁性領域R1までの距離とする。
また、インダクタ導体層18d(最も下側に位置するインダクタ導体層)の下底の端部を端部Pg,Phとする。端部Pgは、インダクタ導体層18dの下底の右端である。端部Phは、インダクタ導体層18dの下底の左端である。そして、最も下側に位置するインダクタ導体層と磁性領域R2との距離Dは、最も下側に位置するインダクタ導体層の端部Pgから磁性領域R2までの距離とする。
本願発明者は、第2のコンピュータシミュレーションを行った。具体的には、本願発明者は、以下に説明する第2のモデルを作成して、電子部品に発生する残留応力をコンピュータにより演算した。第2のコンピュータシミュレーションでは、有限要素法シミュレータFemtet(登録商標)を用いた。第2のモデルの構造は、図14に示す電子部品10dの構造と同様である。以下に、第2のモデルの詳細な条件を記載する。
各モデルの積層体の左右方向の長さ:0.783mm
各モデルの積層体の前後方向の幅 :0.783mm
各モデルの積層体の上下方向の高さ:0.480mm
インダクタ導体層の上底の線幅:0.100mm
インダクタ導体層の下底の線幅:0.080mm
インダクタ導体層の厚み:0.020mm
インダクタ導体層の線幅方向の端部から積層体の側面までの距離:0.108mm
上下方向に隣り合うインダクタ導体層間の距離:0.009mm
インダクタ導体層の層数:10層
インダクタLの巻き数:9.5周
最も上側に位置するインダクタ導体層から積層体の上面までの距離、及び、最も下側に位置するインダクタ導体層から積層体の下面までの距離:0.100mm
また、第2のモデルと電子部品10dとでは、インダクタ導体層の層数が異なる。ただし、以下の説明では、第2のモデルにおける最も上側に位置するインダクタ導体層と電子部品10dにおけるインダクタ導体層18aとを対応させる。第2のモデルにおける最も下側に位置するインダクタ導体層と電子部品10dにおけるインダクタ導体層18dとを対応させる。
図15は、第2のモデルに発生する残留応力の大きさを色で示した図である。図15に示すように、モデルでは、最も上側に位置するインダクタ導体層の上底の両端(端部Pe,Pf)、及び、最も下側に位置するインダクタ導体層の下底の両端(端部Pg,Ph)において、非常に大きな残留応力が発生していることが分かる。
本願発明者は、残留応力F1,F5を算出した。残留応力F1は、端部Peから上側に距離Xだけ離れた点における残留応力である。残留応力F5は、端部Pgから下側に距離Xだけ離れた点における残留応力である。表3は、第2のシミュレーションの結果を示した表である。
表3によれば、比率Eが0.25(すなわち、距離Xが5μm)であれば、応力F1,F5の変化率の平均が46%低下していることが分かる。よって、比率Eが0.25(すなわち、距離Xが5μm)であれば、比透磁率のばらつきを抑制でき、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを抑制できる。
更に、比率Eが0.33(1/3)(すなわち、距離Xが6.5μm)であれば、応力F1,F5の変化率の平均が49.5%低下していることが分かる。よって、比率Eが0.33(1/3)(すなわち、距離Xが6.5μm)であれば、比透磁率のばらつきを更に抑制でき、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できる。
更に、比率Eが0.5(すなわち、距離Xが10μm)であれば、応力F1,F5の変化率の平均が57.5%低下していることが分かる。よって、比率Eが0.5(すなわち、距離Xが10μm)であれば、比透磁率のばらつきを更に抑制でき、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できる。
更に、比率Eが1.0(すなわち、距離Xが20μm)であれば、応力F1,F5の変化率の平均が68.5%低下していることが分かる。よって、比率Eが1.0(すなわち、距離Xが20μm)であれば、比透磁率のばらつきを更に抑制でき、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できる。
また、比率Eが1.25(すなわち、距離Xが25μm)であれば、応力F1,F5の変化率の平均が71.5%低下していることが分かる。しかしながら、インダクタンス値が12%低下している。よって、インダクタLのインダクタンス値のばらつきの抑制とインダクタンス値の低下の抑制とを両立するためには、比率Eが1.25(すなわち、距離Xが25μm)以下であることが好ましい。
(第5の変形例)
第5の変形例に係る電子部品10eについて図面を参照しながら説明する。図16は、図1の電子部品10eのA−A線における断面構造図である。電子部品10eの外観斜視図については図1を援用する。
電子部品10eは、インダクタLがインダクタ導体層19a〜19dを更に含んでいる点において電子部品10と相違する。以下に、かかる相違点を中心に電子部品10eについて説明する。
インダクタ導体層19aは、上側から見たときに、インダクタ導体層18aと同じ形状を有しており、インダクタ導体層18a上にスクリーン印刷により形成されている。インダクタ導体層18a,19aは、一つのインダクタ導体層を構成している。また、インダクタ導体層18a,19aの線幅方向の両端は、図16に示すように、上下に2つに枝分かれした構造を有している。
インダクタ導体層19b〜19dの構造は、インダクタ導体層19aと同じであるので説明を省略する。
以下では、インダクタ導体層18a,19a(最も上側に位置するインダクタ導体層)の内のインダクタ導体層19aの線幅方向の端部を端部Pi,Pjとする。端部Piは、インダクタ導体層19aの右端である。端部Pjは、インダクタ導体層19aの左端である。そして、最も上側に位置するインダクタ導体層と磁性領域R1との距離Dは、最も上側に位置するインダクタ導体層の端部Piから磁性領域R1までの距離とする。
また、インダクタ導体層18d,19d(最も下側に位置するインダクタ導体層)の内のインダクタ導体層18dの線幅方向の端部を端部Pk,Plとする。端部Pkは、インダクタ導体層18dの右端である。端部Plは、インダクタ導体層18dの左端である。そして、最も下側に位置するインダクタ導体層と磁性領域R2との距離Dは、最も下側に位置するインダクタ導体層の端部Pkから磁性領域R2までの距離とする。
本願発明者は、第2のコンピュータシミュレーションを行った。具体的には、本願発明者は、以下に説明する第3のモデルを作成して、電子部品に発生する残留応力をコンピュータにより演算した。第2のコンピュータシミュレーションでは、有限要素法シミュレータFemtet(登録商標)を用いた。第3のモデルの構造は、図16に示す電子部品10dの構造と同様である。以下に、第3のモデルの詳細な条件を記載する。
積層体の左右方向の長さ:0.783mm
積層体の前後方向の幅 :0.783mm
積層体の上下方向の高さ:0.480mm
インダクタ導体層の線幅:0.080mm
上下に隣接する同じ形状を有する2層のインダクタ導体層の厚みの合計:0.0300mm
インダクタ導体層の線幅方向の端部から積層体の側面までの距離:0.108mm
上下方向に隣り合うインダクタ導体層間の距離:0.009mm
インダクタ導体層の層数:12層
インダクタLの巻き数:13.5周
最も上側に位置するインダクタ導体層から積層体の上面までの距離、及び、最も下側に位置するインダクタ導体層から積層体の下面までの距離:0.148mm
また、第3のモデルと電子部品10eとでは、インダクタ導体層の層数が異なる。ただし、以下の説明では、第3のモデルにおける最も上側に位置するインダクタ導体層と電子部品10eにおけるインダクタ導体層19aとを対応させる。第3のモデルにおける最も下側に位置するインダクタ導体層と電子部品10eにおけるインダクタ導体層18dとを対応させる。
図17は、第3のモデルに発生する残留応力の大きさを色で示した図である。図17に示すように、モデルでは、最も上側に位置するインダクタ導体層の線幅方向の両端(端部Pi,Pj)、及び、最も下側に位置するインダクタ導体層の線幅方向の両端(端部Pk,Pl)において、非常に大きな残留応力が発生していることが分かる。
本願発明者は、残留応力F1,F5を測定した。残留応力F1は、端部Plから上側に距離Xだけ離れた点における残留応力である。残留応力F5は、端部Pkから下側に距離Xだけ離れた点における残留応力である。表4は、第2のシミュレーションの結果を示した表である。
表4によれば、比率Eが0.25(すなわち、距離Xが7.5μm)であれば、応力F1,F5の変化率の平均が56.5%低下していることが分かる。よって、比率Eが0.25(すなわち、距離Xが7.5μm)であれば、比透磁率のばらつきを抑制でき、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを抑制できる。
更に、比率Eが0.33(1/3)(すなわち、距離Xが10μm)であれば、応力F1,F5の変化率の平均が63.5%低下していることが分かる。よって、比率Eが0.33(1/3)(すなわち、距離Xが10μm)であれば、比透磁率のばらつきを更に抑制でき、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できる。
更に、比率Eが0.5(すなわち、距離Xが15μm)であれば、応力F1,F5の変化率の平均が70.5%低下していることが分かる。よって、比率Eが0.5(すなわち、距離Xが15μm)であれば、比透磁率のばらつきを更に抑制でき、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できる。
更に、比率Eが1.0(すなわち、距離Xが20μm)であれば、応力F1,F5の変化率の平均が80%低下していることが分かる。よって、比率Eが1.0(すなわち、距離Xが20μm)であれば、比透磁率のばらつきを更に抑制でき、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できる。
また、比率Eが1.25(すなわち、距離Xが25μm)であれば、応力F1,F5の変化率の平均が83%低下していることが分かる。しかしながら、インダクタンス値が14%低下している。よって、インダクタLのインダクタンス値のばらつきの抑制とインダクタンス値の低下の抑制とを両立するためには、比率Eが1.25(すなわち、距離Xが25μm)以下であることが好ましい。
(第6の変形例)
第6の変形例に係る電子部品10fについて図面を参照しながら説明する。図18は、電子部品10fの積層体12の分解斜視図である。図19は、図1の電子部品10fのA−A線における断面構造図である。電子部品10fの外観斜視図については図1を援用する。
電子部品10fは、インダクタLがインダクタ導体層18'a,18’b及びビアホール導体v11を更に含んでいる点において電子部品10と相違する。以下に、かかる相違点を中心に電子部品10fについて説明する。
インダクタ導体層18’aは、絶縁体層17cの上面上に設けられており、上側から見たときに、時計回り方向に周回しながら外周側から内周側へと向かう渦巻形状(spiral)を有している。インダクタ導体層18’bは、絶縁体層17dの上面上に設けられており、上側から見たときに、時計回り方向に周回しながら内周側から外周側へと向かう渦巻形状(spiral)を有している。また、インダクタ導体層18'a,18’bは、矩形状の断面形状を有している。ビアホール導体v11は、絶縁体層17cを上下方向に貫通しており、インダクタ導体層18’aの内周側の端部とインダクタ導体層18'bの内周側の端部とを接続している。電子部品10fでは、インダクタ導体層18’a,18’bは、上下方向に延びる短辺を有する長方形状の断面形状を有している。
以下では、インダクタ導体層18’a(最も上側に位置するインダクタ導体層)における最外周の部分を最外周60aと呼ぶ。そして、最外周60aの上側の長辺の端部を端部Pm,Pnとする。端部Pmは、上側の長辺の右端(外側の端部)である。端部Pfは、上側の長辺の左端(内側の端部)である。そして、最も上側に位置するインダクタ導体層と磁性領域R1との距離Dは、最も上側に位置するインダクタ導体層の端部Pmから磁性領域R1までの距離とする。
また、インダクタ導体層18’b(最も下側に位置するインダクタ導体層)における最外周の部分を最外周60bと呼ぶ。そして、最外周60bの下側の長辺の端部を端部Po,Ppとする。端部Poは、下側の長辺の右端(外側の端部)である。端部Ppは、下側の長辺の左端(内側の端部)である。そして、最も下側に位置するインダクタ導体層と磁性領域R2との距離Dは、最も下側に位置するインダクタ導体層の端部Poから磁性領域R2までの距離とする。
本願発明者は、第2のコンピュータシミュレーションを行った。具体的には、本願発明者は、以下に説明する第4のモデルを作成して、電子部品に発生する残留応力をコンピュータにより演算した。第2のコンピュータシミュレーションでは、有限要素法シミュレータFemtet(登録商標)を用いた。第4のモデルの構造は、図18及び図19に示す電子部品10fの構造と同様である。以下に、第4のモデルの詳細な条件を記載する。
積層体の左右方向の長さ:0.400mm
積層体の前後方向の幅 :0.400mm
積層体の上下方向の高さ:0.480mm
インダクタ導体層の線幅:0.050mm
インダクタ導体層の厚み:0.030mm
インダクタ導体層の線幅方向の端部から積層体の側面までの距離:0.108mm
上下方向に隣り合うインダクタ導体層間の距離:0.009mm
インダクタ導体層の層数:2層
インダクタLの巻き数:7.5周
最も上側に位置するインダクタ導体層から積層体の上面までの距離、及び、最も下側に位置するインダクタ導体層から積層体の下面までの距離:0.089mm
図20は、第4のモデルに発生する残留応力の大きさを色で示した図である。図20に示すように、モデルでは、最も上側に位置するインダクタ導体層の端部Pm、及び、最も下側に位置するインダクタ導体層の端部Poにおいて、非常に大きな残留応力が発生していることが分かる。
本願発明者は、残留応力F1,F5を測定した。残留応力F1は、端部Pmから上側に距離Xだけ離れた点における残留応力である。残留応力F5は、端部Poから下側に距離Xだけ離れた点における残留応力である。表5は、第2のシミュレーションの結果を示した表である。
表5によれば、比率Eが0.25(すなわち、距離Xが7.5μm)であれば、応力F1,F5の変化率の平均が57%低下していることが分かる。よって、比率Eが0.25(すなわち、距離Xが7.5μm)であれば、比透磁率のばらつきを抑制でき、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを抑制できる。
更に、比率Eが0.33(1/3)(すなわち、距離Xが10μm)であれば、応力F1,F5の変化率の平均が62.5%低下していることが分かる。よって、比率Eが0.33(1/3)(すなわち、距離Xが10μm)であれば、比透磁率のばらつきを更に抑制でき、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できる。
更に、比率Eが0.5(すなわち、距離Xが15μm)であれば、応力F1,F5の変化率の平均が69%低下していることが分かる。よって、比率Eが0.5(すなわち、距離Xが15μm)であれば、比透磁率のばらつきを更に抑制でき、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できる。
更に、比率Eが1.0(すなわち、距離Xが30μm)であれば、応力F1,F5の変化率の平均が78.5%低下していることが分かる。よって、比率Eが1.0(すなわち、距離Xが30μm)であれば、比透磁率のばらつきを更に抑制でき、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できる。
また、比率Eが1.25(すなわち、距離Xが37.5μm)であれば、応力F1,F5の変化率の平均が81.5%低下していることが分かる。しかしながら、インダクタンス値が大きく低下する。よって、インダクタLのインダクタンス値のばらつきの抑制とインダクタンス値の低下の抑制とを両立するためには、比率Eが1.25(すなわち、距離Xが37.5μm)以下であることが好ましい。
(第7の変形例)
第7の変形例に係る電子部品10gについて図面を参照しながら説明する。図21は、電子部品10gの積層体12の分解斜視図である。図22は、図1の電子部品10gのB−B線における断面構造図である。電子部品10gの外観斜視図については図1を援用する。
電子部品10gは、インダクタLがインダクタ導体層50のみを含んでいる点において電子部品10と相違する。以下に、かかる相違点を中心に電子部品10gについて説明する。
インダクタLは、インダクタ導体層50のみを含んでおり、その他のインダクタ導体層を含んでいない。すなわち、インダクタLは、1つの導体層により構成されており、該導体層とは異なる層に設けられている導体層やビアホール導体層を含まない。インダクタ導体層50は、絶縁体層17cの上面上に設けられ、左右方向に延びる直線状の導体層である。インダクタ導体層50の左端は外部電極14aに接続され、インダクタ導体層50の右端は外部電極14bに接続される。電子部品10gでは、インダクタ導体層50は、線幅方向の両端に近づくにしたがって上下方向の厚みが薄くなる形状を有している。
以下では、インダクタ導体層50の線幅方向の端部を端部Pq,Prと呼ぶ。端部Pqは、インダクタ導体層50の前側の端部である。端部Prは、インダクタ導体層50の後ろ側の端部である。そして、インダクタ導体層50と磁性領域R1との距離Dは、インダクタ導体層50の端部Pqから磁性領域R1までの距離とする。インダクタ導体層50と磁性領域R2との距離Dは、インダクタ導体層50の端部Pqから磁性領域R2までの距離とする。
本願発明者は、第2のコンピュータシミュレーションを行った。具体的には、本願発明者は、以下に説明する第5のモデルを作成して、電子部品に発生する残留応力をコンピュータにより演算した。第2のコンピュータシミュレーションでは、有限要素法シミュレータFemtet(登録商標)を用いた。第5のモデルの構造は、図21及び図22に示す電子部品10gの構造と同様である。以下に、第5のモデルの詳細な条件を記載する。
積層体の左右方向の長さ:0.400mm
積層体の前後方向の幅:0.500mm
積層体の上下方向の高さ:0.460mm
インダクタ導体層の線幅:0.240mm
インダクタ導体層の厚み:0.050mm
インダクタ導体層の線幅方向の端部から積層体の側面までの距離:0.130mm
インダクタ導体層の層数:1層
最も上側に位置するインダクタ導体層から積層体の上面までの距離、及び、最も下側に位置するインダクタ導体層から積層体の下面までの距離:0.0885mm
図23は、第5のモデルに発生する残留応力の大きさを色で示した図である。本願発明者は、残留応力F1,F2,F6を測定した。残留応力F1は、端部Pqから上側に距離Xだけ離れた点における残留応力である。残留応力F2は、端部Pqから右側に距離Xだけ離れた点における残留応力である。残留応力F6は、端部Pqから下側に距離Xだけ離れた点における残留応力である。表6は、第2のシミュレーションの結果を示した表である。
表6によれば、比率Eが0.25(すなわち、距離Xが7.5μm)であれば、応力F1,F2,F6の変化率の平均が54%低下していることが分かる。よって、比率Eが0.25(すなわち、距離Xが7.5μm)であれば、比透磁率のばらつきを抑制でき、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを抑制できる。
更に、比率Eが0.33(1/3)(すなわち、距離Xが10μm)であれば、応力F1,F2,F6の変化率の平均が61%低下していることが分かる。よって、比率Eが0.33(1/3)(すなわち、距離Xが10μm)であれば、比透磁率のばらつきを更に抑制でき、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できる。
更に、比率Eが0.5(すなわち、距離Xが15μm)であれば、応力F1,F2,F6の変化率の平均が70.3%低下していることが分かる。よって、比率Eが0.5(すなわち、距離Xが15μm)であれば、比透磁率のばらつきを更に抑制でき、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できる。
更に、比率Eが1.0(すなわち、距離Xが30μm)であれば、応力F1,F2,F6の変化率の平均が81.3%低下していることが分かる。よって、比率Eが1.0(すなわち、距離Xが30μm)であれば、比透磁率のばらつきを更に抑制でき、インダクタLのインダクタンス値のばらつきを更に抑制できる。
また、比率Eが1.25(すなわち、距離Xが37.5μm)であれば、応力F1,F2,F6の変化率の平均が84.3%低下していることが分かる。しかしながら、インダクタンス値が大きく%低下する。よって、インダクタLのインダクタンス値のばらつきの抑制とインダクタンス値の低下の抑制とを両立するためには、比率Eが1.25(すなわち、距離Xが37.5μm)以下であることが好ましい。
(まとめ)
以上のように、電子部品10,10a〜10gでは、インダクタ導体層の断面形状が異なっている。そのため、大きな内部応力が発生する位置も僅かに異なっている。ただし、電子部品10,10a〜10gにおいて、大きな内部応力が発生する位置は、概ね、最も上側に位置するインダクタ導体層の線幅方向の端部近傍、及び、最も下側に位置するインダクタ導体層の線幅方向の端部近傍である。よって、最も上側に位置するインダクタ導体層の線幅方向の端部近傍、及び、最も下側に位置するインダクタ導体層の線幅方向の端部近傍が、非磁性領域R3となっていれば、インダクタLのインダクタンス値の製造ばらつきが抑制される。
ただし、電子部品10,10a〜10gでは、インダクタ導体層の断面形状が異なっている。そのため、最も上側に位置するインダクタ導体層の線幅方向の端部近傍、及び、最も下側に位置するインダクタ導体層の線幅方向の端部近傍の定義も、電子部品10,10a〜10g毎に異なってくる。そこで、電子部品10,10a〜10gにおいて、インダクタLのインダクタンス値の製造ばらつきを抑制するためには、最も上側に位置するインダクタ導体層の表面から該インダクタ導体層の厚みの1/4の距離までの領域は、非磁性領域R3であればよい。これにより、電子部品10,10a〜10gにおいて、最も上側に位置するインダクタ導体層の線幅方向の端部近傍が非磁性領域R3となる。
同じ理由により、電子部品10,10a〜10gにおいて、最も上側に位置するインダクタ導体層の表面から該インダクタ導体層の厚みの1/3の距離までの領域は、非磁性領域R3であることが好ましい。同様に、最も上側に位置するインダクタ導体層の表面から該インダクタ導体層の厚みの1/2の距離までの領域は、非磁性領域R3であることが好ましい。同様に、最も上側に位置するインダクタ導体層の表面から該インダクタ導体層の厚みと等しい距離までの領域は、非磁性領域R3であることが好ましい。
また、電子部品10,10a〜10gでは、インダクタLのインダクタンス値のばらつきの抑制とインダクタンス値の低下の抑制とを両立するために、比率Eが1.25以下であることが好ましいとした。これは、最も上側に位置するインダクタ導体層の表面から該インダクタ導体層の厚みの1.25倍の距離までの領域は、非磁性領域R3であり、かつ、最も上側に位置するインダクタ導体層の表面から該インダクタ導体層の厚みの1.25倍の距離だけ離れた位置は、非磁性領域R3と磁性領域R1との境界であることを意味する。
更に、インダクタLのインダクタンス値の製造ばらつきを抑制するためには、最も下側に位置するインダクタ導体層の表面から該インダクタ導体層の厚みの1/4の距離までの領域は、非磁性領域R3であればよい。これにより、電子部品10,10a〜10gにおいて、最も下側に位置するインダクタ導体層の線幅方向の端部近傍が非磁性領域R3となる。
同じ理由により、電子部品10,10a〜10gにおいて、最も下側に位置するインダクタ導体層の表面から該インダクタ導体層の厚みの1/3の距離までの領域は、非磁性領域R3であることが好ましい。同様に、最も下側に位置するインダクタ導体層の表面から該インダクタ導体層の厚みの1/2の距離までの領域は、非磁性領域R3であることが好ましい。同様に、最も下側に位置するインダクタ導体層の表面から該インダクタ導体層の厚みと等しい距離までの領域は、非磁性領域R3であることが好ましい。
また、電子部品10,10a〜10gでは、インダクタLのインダクタンス値のばらつきの抑制とインダクタンス値の低下の抑制とを両立するために、比率Eが1.25以下であることが好ましいとした。これは、最も下側に位置するインダクタ導体層の表面から該インダクタ導体層の厚みの1.25倍の距離までの領域は、非磁性領域R3であり、かつ、最も下側に位置するインダクタ導体層の表面から該インダクタ導体層の厚みの1.25倍の距離だけ離れた位置は、非磁性領域R3と磁性領域R2との境界であることを意味する。
(その他の実施形態)
本発明に係る電子部品は、前記電子部品10,10a〜10gに限らず、その要旨の範囲内において変更可能である。
なお、電子部品10,10a〜10gの構成を任意に組み合わせてもよい。
なお、螺旋形状とは、3次元の螺旋形状(弦巻(helix))及び2次元の螺旋形状(渦巻(spiral))の両方を含む意味である。また、螺旋形状は、複数の2次元の螺旋形状(渦巻(spiral))が接続された形状も含む。
また、インダクタLは、積層体12に設けられていればよく、積層体12の表面から露出していてもよい。
また、インダクタ導体層18a〜18dは、上側から見たときに重なり合っているが、ずれて重なっていなくてもよい。
なお、電子部品10,10a〜10fにおいて、インダクタ導体層18b,18cの表面からインダクタ導体層18b,18cの厚みの1/4の距離までの領域は、非磁性領域R3でなくてもよい。すなわち、インダクタ導体層18b,18cには、磁性領域が接していてもよい。
なお、電子部品10,10a〜10fでは、最も上側に位置するインダクタ導体層の表面から該インダクタ導体層の厚みの1/4の距離までの領域、及び、最も下側に位置するインダクタ導体層の表面から該インダクタ導体層の厚みの1/4の距離までの領域は、非磁性領域R3である。しかしながら、最も上側に位置するインダクタ導体層の表面から該インダクタ導体層の厚みの1/4の距離までの領域のみが、非磁性領域R3であってもよいし、最も下側に位置するインダクタ導体層の表面から該インダクタ導体層の厚みの1/4の距離までの領域のみが、非磁性領域R3であってもよい。
なお、電子部品10では、インダクタ導体層18aから積層体12の上面(積層方向の一方側の面)までの距離は、インダクタ導体層18aの線幅よりも大きい。ただし、インダクタ導体層18aから積層体12の上面までの距離は、インダクタ導体層18aの線幅以下であってもよい。
ただし、本願発明者は、以下に説明するコンピュータシミュレーションを行って、インダクタ導体層18aから積層体12の上面までの距離は、インダクタ導体層18aの線幅よりも大きいことが好ましいことを導き出した。より詳細には、第6のモデル及び第7のモデルを作成した。第6のモデルでは、インダクタ導体層18aから積層体12の上面までの距離は、インダクタ導体層18aの線幅よりも大きい。第7のモデルでは、インダクタ導体層18aから積層体12の上面までの距離は、インダクタ導体層18aの線幅よりも小さい。そして、本願発明者は、第6のモデル及び第7のモデルに発生する残留応力をコンピュータにより演算した。演算に用いたソフトは、有限要素法シミュレータFemtet(登録商標)である。図24は、第6のモデルに発生する残留応力の大きさを色で示した図である。図25は、第7のモデルに発生する残留応力の大きさを色で示した図である。図24及び図25は、図1のA−A線における断面構造図に相当する。図24及び図25において、色が薄い部分では大きな残留応力が発生しており、色が濃い部分では小さな残留応力が発生している。
図24及び図25に示すように、第6のモデルの方が第7のモデルよりも、インダクタ導体層18aの上側に発生する応力が低減されていることが分かる。これは、インダクタ導体層18aから積層体12の上面までの距離が大きくなると、積層体12内で発生した応力が分散されるためである。よって、インダクタ導体層18aから積層体12の上面までの距離は、インダクタ導体層18aの線幅よりも大きいことが好ましい。
なお、非磁性領域R3には、Bi又はSiが含まれていてもよい。これにより、非磁性領域R3が焼成されやすくなる。
なお、電子部品10gにおいて、インダクタ導体層18aは、直線状の形状を有していなくてもよく、例えば、上側から見たときに、周回する形状を有していてもよい。よって、インダクタ導体層18aは、上側から見たときに、渦巻状をなしていてもよい。